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特許7220482腸オルガノイド培養のための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】腸オルガノイド培養のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230203BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20230203BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/074
C12N1/00 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020517266
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2018006057
(87)【国際公開番号】W WO2018221918
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】10-2017-0065782
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519427985
【氏名又は名称】オルガノイドサイエンシーズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ORGANOIDSCIENCES, LTD.
【住所又は居所原語表記】302, CHA UNIVERSITY INCUBATING CENTER, YATAP‐RO 26, BUNGDANG‐GU, GYEONGGI‐DO 13522, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ヨオ,ジョン‐マン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ソオ‐ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ミョン‐オク
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532961(JP,A)
【文献】特表2015-519085(JP,A)
【文献】特表2016-510999(JP,A)
【文献】国際公開第2016/040895(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1の化合物を含むオルガノイド培養用組成物。
[化1]
【請求項2】
オルガノイドは、成体幹細胞から由来したことを特徴とする請求項1に記載のオルガノイド培養用組成物。
【請求項3】
オルガノイドは、小腸オルガノイドであることを特徴とする請求項1に記載のオルガノイド培養用組成物。
【請求項4】
前記化合物の濃度は、前記オルガノイド培養用組成物中25~50μMであることを特徴とする請求項1に記載のオルガノイド培養用組成物。
【請求項5】
前記オルガノイド培養用組成物は、上皮成長因子(EGF)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される1つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のオルガノイド培養用組成物。
【請求項6】
細胞を下記化学式1の化合物が含有された組成物で培養する段階を含むオルガノイドの培養方法。
[化1]
【請求項7】
前記細胞は、幹細胞、幹細胞の集団、単離した組織断片であることを特徴とする請求項6に記載のオルガノイドの培養方法。
【請求項8】
前記幹細胞は、成体幹細胞であることを特徴とする請求項7に記載のオルガノイドの培養方法。
【請求項9】
前記化合物の濃度は、前記組成物中25~50μMであることを特徴とする請求項6に記載のオルガノイドの培養方法。
【請求項10】
前記組成物は、上皮成長因子(EGF)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される1つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載のオルガノイドの培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノイド培養組成物及びこれを用いたオルガノイド培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、特有の分化能力(multi-potency)と自己再生(self-renewal)特徴により、不治の病の治療や病気のモデリング、組織または器官の移植など多様に活用することができるため、高い関心を集めている。しかし、最近、幹細胞を適切な3次元試験管環境で培養した場合、生体内の器官と類似した構造が形成されるという事実が明らかになった。このような生体内の器官と類似した構造は、オルガノイドと称される。
【0003】
オルガノイド製作技術では、理論的にほとんどすべての種類の臓器を幹細胞のみで製作することができるため、様々な病気に利用可能であると期待されている。オルガノイドは、2次元で作った細胞組織よりも新薬の安全性と効能を試験するのに、より効果的であり、毀損したり正しく発達できなかった臓器にオルガノイドを移植して状態を改善するのに活用することができると考えられる。これにより、最近の再生医学の観点においても、オルガノイド関連の研究がさらに活発になる傾向にあり、様々な分野でオルガノイドを広く利用することができると期待されている。
【0004】
しかし、オルガノイドの維持・培養技術は、まだ確立されていない初期の研究段階水準であって、培養時の添加物質や効果的な培養方法については、様々な研究を行う必要がある。オルガノイドの体外培養のための培養液には、R-スポンジン(R-spondin)の添加が必須である。しかし、R-スポンジンは、タンパク質の一種であって、分離及び精製が難しく、培養液に添加した時の一貫した安全性を維持することが難しい。それだけでなく、R-スポンジンは、100μg当たり300万ウォンに達する高価な物質であるため、治療剤として用いるためのオルガノイドの大量培養時の経済性が低下するという短所がある。したがって、臨床に適用するためのオルガノイドを培養するために、安価で安全性の高いR-スポンジンの代替物質が切望されているのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、オルガノイド培養用組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、オルガノイドを培養する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一様態は、下記化学式1の化合物を含むオルガノイド培養用組成物を提供する。
【0007】
[化1]
【0008】
用語「オルガノイド(Organoid)」とは、幹細胞や臓器の起源細胞から分離した細胞を、3D培養法によって再び凝集・組換えて作られた細胞集合体を意味するものであって、サスペンション細胞培養物から形成されたオルガノイドまたは細胞クラスターを含むことができる。前記オルガノイドは、小型類似臓器、臓器類似体、類似臓器とも称することができる。前記オルガノイドは、具体的に器官または組織を構成する様々な種類の細胞のうちの1つ以上の細胞種類を含み、組織または器官の形態と機能を再現することができなければならない。
【0009】
用語「オルガノイド培養」は、オルガノイドを生成したり、維持させることができるすべての行為を含む。例えば、幹細胞または特定組織から分離した細胞を、特定機能を持つ組織や器官細胞に分化させるもので有り得、及び/またはオルガノイドを生存、成長または増殖させるもので有り得る。
【0010】
本発明の組成物が使用されることができるオルガノイドは、例えば、多分化性幹細胞から由来したオルガノイド(PSC-derived Organiod)、または成体幹細胞から由来したオルガノイド(adSC-derived Organoid)で有り得る。前記多分化性幹細胞は、胚性幹細胞または逆分化幹細胞で有り得る。好ましくは、前記オルガノイドは成体幹細胞から由来したオルガノイドで有り得、より好ましくは、小腸クリプトに位置した幹細胞から由来したオルガノイドで有り得る。
【0011】
前記オルガノイドは例えば、胃オルガノイド、小腸オルガノイド、結腸オルガノイド、肝臓オルガノイド、甲状腺オルガノイド、肺オルガノイド、または脳オルガノイドなどで有り得る。好ましくは、前記オルガノイドは小腸オルガノイドで有り得る。一実施例において、本発明の組成物で培養された小腸オルガノイドが、小腸上皮細胞の機能をよく維持していることを確認した。
【0012】
本発明の培養組成物は、下記化学式1の化合物を含むことを特徴とする。
【0013】
[化1]
【0014】
前記化学式1の化合物は、従来のオルガノイド培養に必須的に含まれるWnt信号の活性化物質を代替することができる。幹細胞が正常な役割を行うためには、Wnt信号が重要であり、これによってオルガノイド培養にWnt信号の活性化物質の添加が必須的に要求される。現在、オルガノイドを培養するためにWnt信号の活性化物質として、Wnt3aまたはR-スポンジンが使用されており、オルガノイド培養で前記化学式1の化合物がこのようなWnt3aまたはR-スポンジンを代替できるということを確認した。具体的には一実施例において、R-スポンジンの代わりに前記化学式1の化合物を含有した培地でオルガノイドを培養したとき、R-スポンジンが含まれた培地で培養されたオルガノイドの形態的特性、成長効率、及びマーカーの発現量が類似していた。したがって、前記組成物は、Wnt3aまたはR-スポンジンを含まないことができ、または一般的にオルガノイド培養に使用していたWnt3aまたはR-スポンジンの通常濃度よりも少ない量を含むことができる。
【0015】
前記組成物に含まれる前記化学式1の化合物の濃度は、例えば、総組成物の体積基準5~200μM、6.25~200μM、6.25~100μM、10~100μM、10~75μM、20~75μM、25~75μM、20~50μM、または25~50μMの濃度で含むことができる。好ましくは、前記化学式1の化合物の濃度は、20~75μM、25~75μM、20~50μM、または25~50μMであることができ、より好ましくは、25~75μM、または25~50μMであることができる。また最も好ましくは、前記化学式1の化合物の濃度は、50μMであることができる。
【0016】
前記組成物は、オルガノイドを培養するための基本培地に前記化学式1の化合物を含むもので有り得る。用語「培地(culture media)」とは、インビトロで細胞の成長及び生存を支持できるようにする培地を意味し、細胞の培養に適切なこの分野で使用される通常の培地をすべて含む。培養細胞の種類に応じて、培地と培養条件を選択することができる。このような細胞培養基本培地として、例えば、DMEM(Dulbeco's Modified Eagle's Medium)、MEM(Minimal essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI1640、F-10、F-12、(Minimal essential Medium)、GMEM(Glasgow’s Minimal essential Medium)、Iscove's Modified Dulbecco's Mediumなどを使用することができ、必要に応じて、ペニシリン-ストレプトマイシンのような抗生剤、または補充剤などがさらに添加されたもので有り得る。
【0017】
本発明の組成物は、幹細胞の信号伝達またはオルガノイド形成に必要な成分をさらに含むことができる。具体的には前記組成物は、上皮成長因子(EGF:epidermal growth factor)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される1つ以上をさらに含むことができる。前記CHIR99021は、下記化学式2の化合物であって、6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル(CAS番号252917-06-9)を指す。
【0018】
[化2]
【0019】
本発明の他の様態は、細胞を下記化学式1の化合物が含まれた組成物で培養する段階を含む、オルガノイドを培養する方法を提供する。
【0020】
[化1]
【0021】
本発明に係るオルガノイドを培養する方法において、一様態のオルガノイド培養組成物に使用された用語と同一の用語は、特に言及がない限り、それぞれ前記組成物で言及したものと同一である。
【0022】
本発明のオルガノイド培養方法は、細胞を前記化学式1の化合物と接触させる段階及び前記細胞を培養する段階を含むことができる。前記細胞は、幹細胞、幹細胞の集団、幹細胞から分化した細胞、または単離した組織断片であることができる。好ましくは、前記細胞は、成体幹細胞であることができ、より好ましくは小腸クリプトに含まれるか、または由来した細胞であることができる。
【0023】
前記組成物に含まれる前記化学式1の化合物の濃度は、例えば、総組成物の体積基準5~200μM、6.25~200μM、6.25~100μM、10~100μM、10~75μM、20~75μM、25~75μM、20~50μM、または25~50μMの濃度で含むことができる。好ましくは、前記化学式1の化合物の濃度は、20~75μM、25~75μM、20~50μM、または25~50μMであることができ、より好ましくは、25~75μM、または25~50μMであることができる。また、最も好ましくは、前記化学式1の化合物の濃度は、50μMであることができる。
【0024】
本発明の組成物は、幹細胞の信号伝達またはオルガノイド形成に必要な成分をさらに含むことができる。具体的には前記組成物は、上皮成長因子(EGF:epidermal growth factor)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される1つ以上をさらに含むことができる。前記CHIR99021は、下記化学式2の化合物であって、6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル(CAS番号252917-06-9)を指す。
【0025】
[化2]
【0026】
前記培養方法において、前記組成物は、Wnt3aまたはR-スポンジンを含まないことができ、または一般的にオルガノイド培養に使用されるWnt3aまたはR-スポンジンの通常濃度よりも少ない量を含むことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のオルガノイド培養用組成物及び培養方法によると、既存の培養液に必須的に添加されるタンパク質成分を代替できる化合物を含有しており、オルガノイド培養時に一貫した安全性を維持することができ、安価な費用で培養が可能である。これにより、治療剤開発に用いるためのオルガノイドの大量培養に本発明を活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1a】化合物スクリーニング時に使用した96-ウェルプレート105個のうちの1つの全体ウェルの写真図である。最も左側列の6欄は陽性対照群、最も右側列の6欄は陰性対照群、真中の10個列全体は実験群で使用した。
図1b】全体の小腸オルガノイド数(Viability factor)とバディングしている小腸オルガノイド数(budding factor)を用いて2次候補物質を選定した結果を示した図である。
図1c】スクリーニング結果により有意であると判断された化合物が含まれた培養溶液で培養した小腸オルガノイドの光学顕微鏡写真図である。
図2a】マウス小腸クリプトにRS-246204を処理して4日間培養した光学顕微鏡写真図であって、ENRは陽性対照群(R-スポンジン含む)、ENは陰性対照群、EN+RS-346304は実験群である。
図2b】RS-246204濃度に応じた小腸オルガノイド生存率を確認するためのWST分析結果を示したグラフである。Y軸はWST活性値を百分率に変換した値であり、陰性対照群を100%に設定した。
図2c】RS-246204の濃度に応じた小腸オルガノイドの成長後の形態別数を示したグラフである。Y軸はウェル内に存在するオルガノイド数である。「Budding organoids」はバディングしたオルガノイドを意味し、「non-budding organoids」はバディングしなかったが生存しているオルガノイドを意味する。「Total viable organoids」は、budding organoids数およびnon-budding organoids数の合計を意味する。
図2d】日付別オルガノイド周りの長さを測定し、平均値を示したグラフである。グラフでDIVはDay in vitroを意味し、Y軸はオルガノイド周りの平均の百分率値であり、DIV-1を100%に設定した。
図2e】ENRとEN+RS246204条件において、それぞれ培養した小腸オルガノイドを初代培養した後、継代培養した光学顕微鏡写真図である。
図3a】ENRとEN+RS246204条件において、それぞれ培養した小腸オルガノイドから抽出したRNAを用いて、RT-PCRを行った後の電気泳動結果の写真図である。
図3b】ENRとEN+RS246204条件において、それぞれ培養した小腸オルガノイドから抽出したRNAを用いたqRT-PCRの結果を示したグラフである。
図3c】ENRとEN+RS246204条件において、4日間培養した小腸オルガノイドを免疫蛍光染色した写真図である。ヘキスト(Hoechst:青色)は核を示し、Alexa594(赤色)はそれぞれの抗体に対する蛍光を示す。
図4】ENRとEN+RS246204条件において、4日間小腸オルガノイドを培養した後、フォルスコリン(forskolin)刺激を誘導した光学顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施例によって、より詳細に説明する。しかし、この実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0030】
〔実施例1〕
マウス小腸クリプト分離
小腸オルガノイドの製造及び培養実験に使用するために、マウスから小腸クリプトを分離した。具体的には、体重20~25gの5-7週齢のC57Bl/6マウスを頚椎脱臼によって致死させた後、小腸を分離した。小腸を近位端部(proximal end)から遠位端部(distal end)まで縦方向に切開し、約5mm長さの切片となるように横方向に切断した。得られた小腸の切片を氷冷却させたダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco's Phosphate-Buffered Saline,DPBS)で上層液が十分に清澄するまで洗浄した。以後、ジェントル細胞分離試薬(Gentle Cell Dissociation Reagent)(StemCell Technologies,Cambridge,MA)で処理し、細胞濾過器(cell strainer)で濾過してクリプト(crypts)を分離した。
【0031】
〔実施例2〕
オルガノイド増殖測定を用いた化合物ライブラリのスクリーニング
韓国化合物銀行の代表ライブラリに含まれた8364種の化合物について、オルガノイド培養でR-スポンジンを代替できる化合物をスクリーニングした。
【0032】
実施例1で分離した、7週齢C57Bl/6マウスの小腸から由来した小腸クリプトをマトリゲルに混合して、96-ウェルプレートの各ウェルに入れた。96-ウェルプレート1つ当たり実験群80個ウェルを用いて、陽性対照群と陰性対照群に各3個ウェル、0.5%のDMSOが含まれた陽性対照群と陰性対照群に各3個ウェルを用いた。陰性対照群は、R-スポンジン及び化合物のいずれも含有していないEN培養溶液(組成:Advanced DMEM/F-12、Hepesバッファー溶液、GLUTAMAX-I SUPPLEMENT、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、N-アセチル-L-システイン、B-27 Serum-Free Supplement、N-2 Supplement、非-動物性(Animal-Free)組換えミュリンEGF、組換えミュリンノギン、CHIR99021、チアゾビビン)を用いて、陽性対照群は、EN培養溶液に10%のR-スポンジンを含有させた(10%のR-スポンジンを含有したEN培養溶液をENR培養溶液と称する)。実験群は、EN培養溶液に50μM濃度で、互いに異なる8364種の化合物をそれぞれ添加した。スクリーニングに使用された化合物は、マトリゲルとクリプトの重合が完了した即時処理しており、クリプト分離直後から4日間交換なしで適用された。4日間37℃の加湿インキュベーター(5%CO)で維持した後、培養されたオルガノイドを観察し、分析のために光学顕微鏡写真を撮影した(図1a)。
【0033】
撮影した光学顕微鏡写真を用いて生きているオルガノイドの個数、バディング(budding)しているオルガノイドの個数、各オルガノイドの周囲を測定した。個数測定には、Image Jソフトウェアのcell counterプラグインを使用し、周囲測定には、Dixi eXcopeソフトウェアの自由曲線ツールを用いた。測定した数値に基づいて順位を定めて、2次スクリーニングに使用する295個の候補化合物を選定した。2次スクリーニング候補化合物295個を1次スクリーニングと同一の方式で再実験した。1次と2次スクリーニングの結果をまとめて順位を算出して、21個の3次スクリーニング候補物質を選定した。同一の方式で21個の候補物質について3次スクリーニングを行った後、3回の結果をすべてまとめて最終的に7個の候補化合物を選定した(図1b)。
【0034】
最終7個の候補化合物のうち、以下の化学式1の化合物(化合物ライブラリ番号:STK611777)が候補物質の中で最高の小腸オルガノイド成長効果が見られ、オルガノイドを成長させて維持する能力がR-スポンジンと最も類似していることを数値データと肉眼で確認した(図1c)。
【0035】
[化1]
【0036】
前記化合物を「RS-246204」と命名した。
【0037】
〔実施例2〕
RS-246204の小腸オルガノイド培養効果の確認
2.1.化合物濃度に応じた培養効果
RS-246024の小腸オルガノイド培養効果を確認するために、まずRS-246204の最適濃度を確認した。RS-246024を最終濃度6.25μM、12.5μM、25μM、50μM、100μM、200μMになるように、それぞれ小腸クリプトの培養溶液に添加した後、4日間培養器でインキュベーションした。4日後、肉眼で観察した結果、25μMと50μMのRS-246024が含まれた培養溶液で培養した小腸オルガノイドが、ENR培養溶液の小腸オルガノイドと類似した形態と成長を示すことを確認した(図2a)。
【0038】
2.2.WST分析
より正確な確認のために同一の濃度でRS-246204を処理し、4日後各ウェルに10μLのWSTを添加した。WSTは、テトラゾリウム塩として脱水素酵素(Dehydrogenase)と反応してホルマザンを生成し、培養溶液がオレンジ色を帯びる。脱水素酵素は、生きている細胞にのみ存在する酵素であるため、WSTの処理時の細胞の生存率を確認できるようにする。WST添加3時間後、培養溶液のみを取って450nmで吸光度を測定した。陰性対照群であるEN培養溶液を100%に設定して、生存率を算出した結果、RS-246204が25μM、50μM含まれた培養溶液が陽性対照群であるENR培養溶液と類似したオルガノイド生存率を示した(図2b)。
【0039】
その結果、分離したクリプトを用いて小腸オルガノイドを培養したとき、R-スポンジンをRS-246024に代替した培養溶液で培養した小腸オルガノイドは、既存のR-スポンジン含みの培養溶液で培養した小腸オルガノイドと類似した形態に成長することを確認した(図1a)。
【0040】
2.3.バディング特性及び外形分析
小腸オルガノイドの最大の形態的特性は、バディング(budding)しながら成長することである。RS-246204が添加された培養溶液(以下、RS-246204培養溶液)で培養した小腸オルガノイドのバディング比率がENR培養溶液と類似しているかを確認するために、4日間培養したウェル内の全体オルガノイド数、バディングしているオルガノイド数、バディングしていないオルガノイド数を数えた。RS-246204が50μM含まれた培養溶液で培養したオルガノイドは、バディングしているものとバディングしていないものの比率が、約1:1でENR培養溶液で培養したものの比率と類似していた(図2c)。50μMより低い濃度では、バディングしていないオルガノイドの比率が増加しており、50μMより高い濃度では、オルガノイドが殆ど死滅することを確認した。
【0041】
RS-246204培養溶液で培養した小腸オルガノイドの成長効率に差があるかを確認するために、それぞれの培養溶液で培養する小腸オルガノイドの光学顕微鏡写真を、毎日撮影した。培養培地条件別、日付別に個別にオルガノイドの周囲を測定して百分率に換算した結果、成長効率だけでなく、日付による周囲の増加比率も類似していることを確認した(図2d)。
【0042】
2.4.継代培養確認
ENR培養溶液で培養した小腸オルガノイド継代培養と同一の方式によって、RS-246204培養溶液で培養した小腸オルガノイドの継代培養が可能であることを確認し、継代培養後も成長と維持が可能であることを観察することができた(図2e)。一方、R-スポンジンまたはRS-246204が含まれていない培養溶液で培養したクリプトは、小腸オルガノイドに培養は不可能であった。
【0043】
〔実施例3〕
RS-246204によって培養された小腸オルガノイドの発現遺伝子分析
3.1.RT-PCR分析
RS-246204で培養時、小腸オルガノイドの特異的系統マーカーを発現しているかを確認するために、RNA分析を行った。ENRとRS-246204培養溶液で4日間それぞれ培養された小腸オルガノイドを収去してRNAを抽出し、cDNAに合成してRT-PCRを行った。腸幹細胞(intestinal stem cells)、ゴブレット細胞(goblet cells)、パネート細胞(paneth cells)、腸内分泌細胞(enteroendocrine cells)及び腸細胞(enterocyte)に対するマーカーとして、それぞれLgr5、muc-1とmuc-2、ディフェンシン-5(defensin-5)、クロモグラニンA(ChgA)、ビリン(villin)に対するRNAプライマーを用いてRT-PCRを行った。その結果、RS-246204によって培養された小腸オルガノイドでこれらのすべての細胞が存在することを確認し、またLgr5シグナリングの下流(downstream)に位置する遺伝子であるオルファクトメジン4(Olfactomedin-4)(Olfm4)とCD44も発現していることを確認した(図3a)。
【0044】
さらに定量的な分析のために、qRT-PCR分析を行った。AccuPower 2X Greenstar qPCR MasterMix(Bioneer)とThermal Cycler Dice(R) Real Time System III(Takara,Japan)を用い、95℃で10秒(denaturation)、57℃で15秒(annealing)、及び72℃で20秒(extension)の反応を行った。RNAプライマーは、RT-PCR試験で使用したもののうち、Muc1を除き、腸細胞(enterocyte)マーカーをビリンからIntestinal Alkaline Phosphatase(IAP)に変更し、残りは同一の配列を用いた。qRT-PCR結果は、発現するマーカーの相対的な量がENRとRS-246204培養溶液間の差がほとんどないことを示した(図3b)。
【0045】
3.2.免疫蛍光分析
追加的にENRとRS-246204培養溶液で培養された小腸オルガノイドに対して免疫蛍光染色を行って、Muc-2、リゾチームと増殖細胞(proliferating cells)マーカーであるKi67の発現を確認した(図3c)。
【0046】
〔実施例4〕
STK611777によって培養された小腸オルガノイドの機能維持確認
RS-246204培養溶液を使用して培養した小腸オルガノイドが小腸上皮細胞の機能を維持しているか確認するために、CFTR作用剤(agonist)であるフォルスコリン(Forskolin)分析を行った。フォルスコリンは、イオンチャンネルを開放するように刺激して、水分の排出を促進する化合物である。小腸オルガノイドの場合、フォルスコリン刺激時、内腔に水分が集まってサイズが大きい球形に形態が変わって上皮細胞機能の維持を確認することができる。RS-246204培養溶液及びENR培養溶液のそれぞれで4日間培養した後、5μM濃度のフォルスコリンが添加された培養溶液に交換した。交換直後から1時間の間、10分間隔で光学顕微鏡写真撮影を行った。光学顕微鏡写真に基づいてDixi eXcope(Korea)プログラムの自由曲線ツールを用いて、時間別にそれぞれのオルガノイド周囲を測定して周囲変化を分析した。
【0047】
その結果、RS-246204培養溶液で培養した小腸オルガノイドは、上皮細胞としての機能を実行していることを確認し、ENR培養培地で培養したものと類似した周囲の変化を示した(図4)。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図3a
図3b
図3c
図4