(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
A61M25/09 550
A61M25/09 516
(21)【出願番号】P 2019076686
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111523
【氏名又は名称】高橋 良文
(72)【発明者】
【氏名】江尾 和也
(72)【発明者】
【氏名】柘 賢太
【審査官】田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0306353(US,A1)
【文献】特開2018-008031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤであって、
コアシャフトと、
前記コアシャフトの外周を取り囲むように配置されたコイル体と、
前記コアシャフトの先端と前記コイル体の先端とを接合する接合部と、
前記接合部に隣接して配置された収容部と、
前記収容部に収容されたダイラタント流体と、
を備え
、
前記収容部は、半透膜により形成され、前記コイル体の全体を収容する袋体である、ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項
1に記載のガイドワイヤであって、
前記コアシャフトは、
前記コイル体に対して基端側に位置する第1の部分と、
前記第1の部分に対して基端側に位置し、前記第1の部分より径の大きい第2の部分と、
を有し、
前記ガイドワイヤは、さらに、前記コアシャフトの前記第1の部分の外周を取り囲むように配置されたリング状の固定部材であって、前記第1の部分との間で前記袋体の基端を挟持することによって前記袋体を封止する、固定部材を備える、ガイドワイヤ。
【請求項3】
ガイドワイヤであって、
コアシャフトと、
前記コアシャフトの外周を取り囲むように配置されたコイル体と、
前記コアシャフトの先端と前記コイル体の先端とを接合する接合部と、
前記接合部に隣接して配置された収容部と、
前記収容部に収容されたダイラタント流体と、
を備え、
前記収容部は、半透膜により形成され、前記コアシャフトと前記コイル体との間の、前記ガイドワイヤの先端側の一部の領域に配置された袋体である、ガイドワイヤ。
【請求項4】
ガイドワイヤであって、
コアシャフトと、
前記コアシャフトの外周を取り囲むように配置されたコイル体と、
前記コアシャフトの先端と前記コイル体の先端とを接合する接合部と、
前記接合部に隣接して配置された収容部と、
前記収容部に収容されたダイラタント流体と、
前記コイル体の外周を被覆する親水性被膜と、
前記コアシャフトと前記コイル体との間における、前記接合部から離間した位置に配置された半透膜と、を備え、
前記収容部は、前記接合部と前記親水性被膜と前記半透膜とにより区画された領域である、ガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、血管等に挿入されるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
血管等における狭窄部や閉塞部(以下、「病変部」という。)を治療または検査する方法として、カテーテルを用いた方法が広く行われている。一般に、カテーテルを血管等における病変部に案内するために、ガイドワイヤが用いられる。ガイドワイヤは、コアシャフトと、コアシャフトの外周を取り囲むように配置されたコイル体と、コアシャフトの先端とコイル体の先端とを接合する接合部(先端チップ)とを備えている。
【0003】
従来、コイル体の内側空間に放射線不透過性金属の粉末を導入したガイドワイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血管等における病変部の硬さは様々であり、病変部の穿通のためにガイドワイヤの先端部に求められる剛性は、病変部の硬さに応じて異なる。従来のガイドワイヤでは、先端部の剛性を変化させることができないため、1本のガイドワイヤで幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができない、という課題がある。例えば、特許文献1に開示されたガイドワイヤのように、コイル体の内側空間に放射線不透過性金属の粉末を導入しても、ガイドワイヤの先端部の剛性を変化させることはできず、幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができない。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示されるガイドワイヤは、コアシャフトと、前記コアシャフトの外周を取り囲むように配置されたコイル体と、前記コアシャフトの先端と前記コイル体の先端とを接合する接合部と、前記接合部に隣接して配置された収容部と、前記収容部に収容されたダイラタント流体と、を備える。
【0009】
ダイラタント流体は、比較的速いせん断刺激を受けると硬質化する流体であり、せん断刺激の速度が大きいほど硬質化する度合いも大きい。本ガイドワイヤでは、接合部に隣接する位置にダイラタント流体が存在するため、ガイドワイヤの突き込み操作の速度を調整してダイラタント流体に作用するせん断刺激の速度を調整することにより、ガイドワイヤの先端部の剛性を自在に変化させることができる。従って、本ガイドワイヤによれば、幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0010】
(2)上記ガイドワイヤにおいて、前記収容部は、半透膜により形成され、前記コイル体の全体を収容する袋体である構成としてもよい。本ガイドワイヤによれば、先端部におけるダイラタント流体が存在する部分の長さを長くすることができるため、比較的長い(奥行きのある)病変部についても、幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0011】
(3)上記ガイドワイヤにおいて、前記コアシャフトは、前記コイル体に対して基端側に位置する第1の部分と、前記第1の部分に対して基端側に位置し、前記第1の部分より径の大きい第2の部分と、を有し、前記ガイドワイヤは、さらに、前記コアシャフトの前記第1の部分の外周を取り囲むように配置されたリング状の固定部材であって、前記第1の部分との間で前記袋体の基端を挟持することによって前記袋体を封止する、固定部材を備える構成としてもよい。本ガイドワイヤによれば、コアシャフトの第1の部分に、袋体の基端を封止するリング状の固定部材が配置されており、コアシャフトの第1の部分の基端側に径の大きい第2の部分が存在しているため、固定部材が基端側に位置ずれすることを抑制することができ、固定部材の位置ずれに伴う上述したガイドワイヤの先端部の剛性変化機能の低下等を防止することができる。また、本ガイドワイヤによれば、コアシャフトの第1の部分には固定部材が配置され、第1の部分の基端側にはより大径の第2の部分が位置するため、ダイラタント流体が存在する部分と、該部分に対して基端側に位置する部分(コアシャフトの第1の部分、第2の部分)との間の剛性ギャップを小さくして折れ曲がりの発生を抑制することができ、病変部をより確実に穿通することができるガイドワイヤを実現することができる。
【0012】
(4)上記ガイドワイヤにおいて、前記収容部は、半透膜により形成され、前記コアシャフトと前記コイル体との間の、前記ガイドワイヤの先端側の一部の領域に配置された袋体である構成としてもよい。本ガイドワイヤによれば、ダイラタント流体を収容する袋体の存在に起因するガイドワイヤの性能(例えば、柔軟性)への影響を最小化しつつ、ガイドワイヤの先端部の剛性を自在に変化させることによって幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0013】
(5)上記ガイドワイヤにおいて、さらに、前記コイル体の外周を被覆する親水性被膜と、前記コアシャフトと前記コイル体との間における、前記接合部から離間した位置に配置された半透膜と、を備え、前記収容部は、前記接合部と前記親水性被膜と前記半透膜とにより区画された領域である構成としてもよい。本ガイドワイヤによれば、親水性被膜の存在によって公知の目的に応じたガイドワイヤの摺動性を得つつ、親水性被膜を利用してダイラタント流体を収容することができ、ダイラタント流体の収容に伴うガイドワイヤの構成の複雑化を回避することができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガイドワイヤやその製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図
【
図2】第1実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図
【
図3】第2実施形態におけるガイドワイヤ100aの構成を概略的に示す説明図
【
図4】第3実施形態におけるガイドワイヤ100bの構成を概略的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1実施形態:
A-1.ガイドワイヤ100の基本構成:
図1および
図2は、第1実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図である。
図1には、ガイドワイヤ100の側断面(YZ断面)の構成が示されており、
図2には、
図1のII-IIの位置におけるガイドワイヤ100の断面(XY断面)の構成が示されている。
図1において、Z軸正方向側が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。なお、
図1では、ガイドワイヤ100が全体としてZ軸方向に略平行な直線状となった状態を示しているが、ガイドワイヤ100は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。
【0017】
ガイドワイヤ100は、血管等における病変部(狭窄部や閉塞部)にカテーテルを案内するために、血管等に挿入される医療用デバイスである。ガイドワイヤ100は、コアシャフト10と、コイル体20と、先端側接合部31と、基端側接合部32とを備えている。
【0018】
コアシャフト10は、先端側が細径であり基端側が太径である棒状の部材である。より具体的には、コアシャフト10は、円形断面の棒状の細径部11と、細径部11に対して基端側に位置し、細径部11より径の大きい円形断面の棒状の太径部13と、細径部11と太径部13との間に位置し、細径部11との境界位置から太径部13との境界位置に向けて径が徐々に大きくなるテーパ部12とから構成されている。なお、
図1では、太径部13の一部分の図示を省略している。
【0019】
コアシャフト10は、例えば、金属材料、より具体的には、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン等により構成されている。
【0020】
コイル体20は、素線を螺旋状に巻回することにより中空円筒状に形成したコイル状の部材である。コイル体20は、コアシャフト10の先端部(本実施形態では、細径部11における先端側の一部)の外周を取り囲むように配置されている。本実施形態では、コイル体20は、1本の素線が疎巻きされた構成である。
【0021】
コイル体20は、例えば、金属材料、より具体的には、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、またはコバルト合金といった放射線透過性合金や、金、白金、タングステン、またはこれらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)といった放射線不透過性合金により構成されている。コイル体20が放射線不透過性の材料で形成されていると、手技者は、放射線透視画像下でコイル体20の位置を把握することができる。
【0022】
先端側接合部31は、コアシャフト10の先端18とコイル体20の先端21とを接合する部材である。すなわち、コアシャフト10の先端18とコイル体20の先端21とが、先端側接合部31の内部に埋め込まれるようにして固着されている。先端側接合部31の先端側の外周面は、滑らかな面(例えば、略半球面)となっている。先端側接合部31は、特許請求の範囲における接合部に相当する。
【0023】
先端側接合部31は、例えば、ロウ材(アルミニウム合金ロウ、銀ロウ、金ロウ等)、金属ハンダ(Ag-Sn合金、Au-Sn合金等)、接着剤(エポキシ系接着剤等)等により構成されている。
【0024】
基端側接合部32は、コアシャフト10(の細径部11)とコイル体20の基端22とを接合する部材である。すなわち、コアシャフト10とコイル体20の基端22とが、基端側接合部32の内部に埋め込まれるようにして固着されている。
【0025】
基端側接合部32は、先端側接合部31と同様に、例えば、ロウ材(アルミニウム合金ロウ、銀ロウ、金ロウ等)、金属ハンダ(Ag-Sn合金、Au-Sn合金等)、接着剤(エポキシ系接着剤等)等により構成されている。
【0026】
なお、ガイドワイヤ100の一部または全部が、公知のコーティング剤によりコートされていてもよい。
【0027】
A-2.ガイドワイヤ100の詳細構成:
次に、本実施形態のガイドワイヤ100の詳細構成について説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態のガイドワイヤ100は、袋体51を備える。袋体51は、コイル体20の全体を収容するような袋状の部材である。より具体的には、袋体51は、コイル体20の全体と、コアシャフト10の細径部11における先端側の一部分と、先端側接合部31および基端側接合部32とを収容するように配置されている。袋体51は、このような構成であるため、中空円筒状のコイル体20に囲まれた内側空間ISの内、先端側接合部31(の基端側の表面)に面する部分を含む少なくとも一部の空間を収容するように構成されていると言える。また、袋体51(または袋体51の内部空間)は、先端側接合部31に隣接している。袋体51は、半透膜(例えば、セロファン膜)により構成されている。袋体51は、特許請求の範囲における収容部に相当する。
【0028】
また、ガイドワイヤ100は、袋体51を封止する固定部材52を備える。固定部材52は、コアシャフト10におけるコイル体20に対して基端側に位置する一部分(以下、「特定部分11A」という。)の外周を取り囲むように配置されたリング状の部材である。本実施形態では、特定部分11Aは、コアシャフト10の細径部11の内、基端側接合部32とテーパ部12とに挟まれた部分である。固定部材52は、コアシャフト10の特定部分11Aとの間で袋体51の基端を挟持することによって、袋体51を封止している。なお、固定部材52は、例えば、金属により構成されており、コアシャフト10の特定部分11Aに対してかしめ固定されている。本実施形態では、コアシャフト10の特定部分11Aが基端側接合部32とテーパ部12とに挟まれた部分であるため、特定部分11Aに配置された(かしめ固定された)固定部材52は、基端側接合部32とテーパ部12とに挟まれてZ軸方向への移動が規制された状態となっている。コアシャフト10の特定部分11Aは、特許請求の範囲における第1の部分に相当し、コアシャフト10のテーパ部12、または、テーパ部12および太径部13は、特許請求の範囲における第2の部分に相当する。
【0029】
袋体51内の空間には、ダイラタント流体55が封入されている。ダイラタント流体55は、比較的速いせん断刺激を受けると硬質化する流体である。ダイラタント流体55としては、例えば、無機材料(例えば、Ni-Ti合金)や高分子材料等からなるダイラタンシー特性を有する微細粉末と、液体(例えば、水)との混合物を用いることができる。なお、ダイラタント流体55を構成する微細粉末は、袋体51の構成材料である半透膜を通過しない粒径(例えば、1~10μm程度)のものであり、ダイラタント流体55を構成する液体は、該半透膜を通過するものである。なお、袋体51内にダイラタンシー特性を有する微細粉末を封入しておき、ガイドワイヤ100が血管中に挿入されることにより血液中の水が半透膜である袋体51内に浸透し、袋体51内にダイラタント流体55が充填されるのであってもよい。
【0030】
なお、本実施形態のガイドワイヤ100は、例えば、以下のように製造することができる。まず、コアシャフト10とコイル体20とを準備し、コアシャフト10の細径部11の一部分がコイル体20の内側空間ISに挿入された状態で、公知の方法により、コアシャフト10とコイル体20とを接合する先端側接合部31および基端側接合部32を形成する。次に、袋体51を準備し、袋体51内に、コイル体20の全体と、コアシャフト10の細径部11における先端側の一部分と、先端側接合部31および基端側接合部32とが収容された状態で、袋体51内にダイラタント流体55を充填し、固定部材52をコアシャフト10の特定部分11Aに例えばかしめ固定することによって、袋体51の基端を封止する。これにより、袋体51内にダイラタント流体55が封入された状態となる。主として以上の方法により、上述した構成のガイドワイヤ100を製造することができる。
【0031】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のガイドワイヤ100は、コアシャフト10と、コアシャフト10の外周を取り囲むように配置されたコイル体20と、コアシャフト10の先端18とコイル体20の先端21とを接合する先端側接合部31とを備える。さらに、本実施形態のガイドワイヤ100は、先端側接合部31に隣接して配置された収容部としての袋体51を備える。袋体51には、ダイラタント流体55が封入されている。ここで、ダイラタント流体は、比較的速いせん断刺激を受けると硬質化する流体であり、せん断刺激の速度が大きいほど硬質化する度合いも大きい。本実施形態のガイドワイヤ100では、先端側接合部31に隣接する位置にダイラタント流体55が存在するため、ガイドワイヤ100の突き込み操作の速度を調整してダイラタント流体55に作用するせん断刺激の速度を調整することにより、ガイドワイヤ100の先端部の剛性を自在に変化させることができる。例えば、ガイドワイヤ100の突き込み操作の速度を比較的速くすることにより、ガイドワイヤ100の先端部の剛性を比較的高くすることができ、反対に、ガイドワイヤ100の突き込み操作の速度を比較的遅くすることにより、ガイドワイヤ100の先端部の剛性を比較的低くすることができる。従って、本実施形態のガイドワイヤ100によれば、幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0032】
また、本実施形態のガイドワイヤ100では、袋体51は、半透膜により形成され、コイル体20の全体を収容するように構成されている。そのため、本実施形態のガイドワイヤ100によれば、先端部におけるダイラタント流体55が存在する部分の長さを長くすることができ、比較的長い(奥行きのある)病変部についても、幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0033】
また、本実施形態のガイドワイヤ100では、コアシャフト10は、コイル体20に対して基端側に位置する特定部分11Aと、特定部分11Aに対して基端側に位置し、特定部分11Aより径の大きいテーパ部12(および太径部13)とを有する。また、本実施形態のガイドワイヤ100は、さらに、固定部材52を備える。固定部材52は、コアシャフト10の特定部分11Aの外周を取り囲むように配置されたリング状の部材であって、特定部分11Aとの間で袋体51の基端を挟持することによって袋体51を封止する。このように、本実施形態のガイドワイヤ100によれば、コアシャフト10の特定部分11Aに、袋体51の基端を封止するリング状の固定部材52が配置されており、コアシャフト10の特定部分11Aの基端側に径の大きいテーパ部12(および太径部13)が存在しているため、固定部材52が基端側に位置ずれすることを抑制することができ、固定部材52の位置ずれに伴う上述したガイドワイヤ100の先端部の剛性変化機能の低下等を防止することができる。また、本実施形態のガイドワイヤ100によれば、コアシャフト10の特定部分11Aには固定部材52が配置され、特定部分11Aの基端側には径の大きいテーパ部12(および太径部13)が位置するため、ダイラタント流体55が存在する部分と、該部分に対して基端側に位置する部分(コアシャフト10の特定部分11A、テーパ部12(および太径部13))との間の剛性ギャップを小さくして折れ曲がりの発生を抑制することができ、病変部をより確実に穿通することができるガイドワイヤ100を実現することができる。
【0034】
B.第2実施形態:
図3は、第2実施形態におけるガイドワイヤ100aの構成を概略的に示す説明図である。
図2には、ガイドワイヤ100aの側断面(YZ断面)の構成が示されている。以下では、第2実施形態のガイドワイヤ100aの構成の内、上述した第1実施形態のガイドワイヤ100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0035】
図3に示すように、第2実施形態のガイドワイヤ100aは、ダイラタント流体55が封入された収容部としての袋体51の構成が、第1実施形態のガイドワイヤ100と異なっている。すなわち、第2実施形態のガイドワイヤ100aでは、袋体51は、コアシャフト10とコイル体20との間の、ガイドワイヤ100aの先端側の一部の領域に配置されている。すなわち、袋体51は、中空円筒状のコイル体20に囲まれた内側空間ISに配置されており、該内側空間ISの一部のみ(先端側接合部31に面する部分を含む一部の空間のみ)を収容するように構成されている。
【0036】
なお、第2実施形態のガイドワイヤ100aでは、第1実施形態のガイドワイヤ100と同様に、コアシャフト10と、コアシャフト10の外周を取り囲むリング状の固定部材52とが袋体51の基端を挟持することによって、袋体51の基端を封止している。また、第2実施形態のガイドワイヤ100aでは、コアシャフト10と、コアシャフト10の外周を取り囲むリング状の第2の固定部材53とが袋体51の先端を挟持することによって、袋体51の先端を封止している。袋体51内には、ダイラタント流体55が封入されている。なお、第2実施形態のガイドワイヤ100aでは、袋体51の基端と基端側接合部32の先端との間に空間が存在している。
【0037】
以上説明したように、第2実施形態のガイドワイヤ100aは、第1実施形態のガイドワイヤ100と同様に、先端側接合部31に隣接して配置された収容部としての袋体51を備える。袋体51には、ダイラタント流体55が封入されている。そのため、第2実施形態のガイドワイヤ100aでは、先端側接合部31に隣接する位置にダイラタント流体55が存在するため、ガイドワイヤ100aの突き込み操作の速度を調整してダイラタント流体55に作用するせん断刺激の速度を調整することにより、ガイドワイヤ100aの先端部の剛性を自在に変化させることができる。従って、第2実施形態のガイドワイヤ100aによれば、幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0038】
また、第2実施形態のガイドワイヤ100aでは、収容部としての袋体51は、半透膜により形成されており、コアシャフト10とコイル体20との間の、ガイドワイヤ100aの先端側の一部の領域に配置されている。そのため、第2実施形態のガイドワイヤ100aでは、袋体51がコアシャフト10とコイル体20との間の全体に配置された構成と比較して、ダイラタント流体55を収容する袋体51の存在に起因するガイドワイヤ100aの性能(例えば、柔軟性)への影響を最小化しつつ、ガイドワイヤ100aの先端部の剛性を自在に変化させることによって幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0039】
C.第3実施形態:
図4は、第3実施形態におけるガイドワイヤ100bの構成を概略的に示す説明図である。
図4には、ガイドワイヤ100bの側断面(YZ断面)の構成が示されている。以下では、第3実施形態のガイドワイヤ100bの構成の内、上述した第1実施形態のガイドワイヤ100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0040】
図4に示すように、第3実施形態のガイドワイヤ100bは、コアシャフト10と、コアシャフト10の外周を取り囲むように配置されたコイル体20と、コアシャフト10とコイル体20とを接合する先端側接合部31と基端側接合部32とを備える。また、第3実施形態のガイドワイヤ100bでは、コイル体20の外周が、親水性被膜62により被覆されている。親水性被膜62は、公知の樹脂材料により構成されている。なお、本実施形態では、親水性被膜62は、ガイドワイヤ100bの全体を被覆している。また、第3実施形態のガイドワイヤ100bでは、コアシャフト10とコイル体20との間における、先端側接合部31から基端側に離間した位置に、半透膜61が配置されている。半透膜61は、コイル体20の内側空間ISを、先端側の第1領域ISaと、基端側の第2領域ISbとに区画している。すなわち、第1領域ISaは、先端側接合部31と親水性被膜62と半透膜61とにより区画された領域であり、第2領域ISbは、基端側接合部32と親水性被膜62と半透膜61とにより区画された領域である。第1領域ISaは、特許請求の範囲における収容部に相当する。
【0041】
コイル体20の内側空間ISの内、先端側接合部31に隣接する第1領域ISaには、第1のダイラタント流体65が充填されている。また、コイル体20の内側空間ISの内、半透膜61より基端側に位置する第2領域ISbには、第1領域ISaに封入された第1のダイラタント流体65よりも薄い濃度の第2のダイラタント流体66が充填されている。なお、本実施形態では、親水性被膜62は、第1のダイラタント流体65および第2のダイラタント流体66に対して不透過性を示す材料により構成されている。また、半透膜61は、第1のダイラタント流体65および第2のダイラタント流体66中の微細粉末に対しては不透過性を示し、水等の液体に対しては透過性を示す材料により構成されている。
【0042】
第3実施形態のガイドワイヤ100bにおいては、第1領域ISaに充填された第1のダイラタント流体65は、ガイドワイヤ100bの病変部への突き込みによる比較的早いせん断刺激を受けると硬質化して液体が分離される。第1領域ISaにおいて分離された液体は、半透膜61を介して第2領域ISbに浸透する。
【0043】
以上説明したように、第3実施形態のガイドワイヤ100bは、第1実施形態のガイドワイヤ100と同様に、先端側接合部31に隣接して配置された収容部としての第1領域ISaに、第1のダイラタント流体65が封入されている。そのため、第3実施形態のガイドワイヤ100bでは、先端側接合部31に隣接する位置に第1のダイラタント流体65が存在するため、ガイドワイヤ100bの突き込み操作の速度を調整して第1のダイラタント流体65に作用するせん断刺激の速度を調整することにより、ガイドワイヤ100bの先端部の剛性を自在に変化させることができる。従って、第3実施形態のガイドワイヤ100bによれば、幅広い硬度帯の病変部の穿通を実現することができる。
【0044】
また、第3実施形態のガイドワイヤ100bは、コイル体20の外周を被覆する親水性被膜62と、コアシャフト10とコイル体20との間における、先端側接合部31から離間した位置に配置された半透膜61とを備え、先端側接合部31と親水性被膜62と半透膜61とにより区画された収容部としての第1領域ISaに第1のダイラタント流体65が収容されている。そのため、第3実施形態のガイドワイヤ100bによれば、親水性被膜62の存在によって公知の目的に応じたガイドワイヤ100bの摺動性を得つつ、親水性被膜62を利用して第1のダイラタント流体65を収容することができ、第1のダイラタント流体65の収容に伴うガイドワイヤ100bの構成の複雑化を回避することができる。
【0045】
D.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0046】
上記実施形態におけるガイドワイヤ100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、コイル体20は素線が疎巻きされた構成であるが、コイル体20は素線が密巻きされた構成であってもよい。また、上記実施形態では、コイル体20は、1本の素線を螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成された構成であるが、コイル体20は、複数の素線を螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成した構成であってもよいし、複数の素線を撚って形成した1本の撚線を螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成した構成であってもよいし、複数の素線を撚って形成した撚線を複数本、螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成した構成であってもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、コアシャフト10が、細径部11とテーパ部12と太径部13とから構成されているが、コアシャフト10は、これら3つの部分の内の少なくとも1つを有さないとしてもよいし、該3つの部分の他に他の部分を有するとしてもよい。また、コアシャフト10の一部分と他の一部分との構成材料が互いに異なっていてもよい。
【0048】
また、上記第1実施形態では、コアシャフト10において固定部材52に囲まれた部分(特定部分11A)は、基端側接合部32とテーパ部12とに挟まれているが、特定部分11Aと基端側接合部32との間や、特定部分11Aとテーパ部12との間に、他の部分(固定部材52に囲まれていない部分)があってもよい。
【0049】
また、上記第2実施形態では、袋体51の基端と基端側接合部32の先端との間に空間が存在しているが、袋体51の基端と基端側接合部32の先端とが接しており、中空円筒状のコイル体20に囲まれた内側空間ISの略全体にわたってダイラタント流体55が存在しているとしてもよい。
【0050】
また、上記第3実施形態では、ガイドワイヤ100bの全体が親水性被膜62により被覆されているが、少なくともコイル体20の外周が親水性被膜62により被覆されていればよく、ガイドワイヤ100bの一部が親水性被膜62により被覆されていなくてもよい。
【0051】
また、上記実施形態における各部材の材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。また、上記実施形態におけるガイドワイヤ100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0052】
10:コアシャフト 11:細径部 11A:特定部分 12:テーパ部 13:太径部 18:先端 20:コイル体 21:先端 22:基端 31:先端側接合部 32:基端側接合部 51:袋体 52:固定部材 53:第2の固定部材 55:ダイラタント流体 61:半透膜 62:親水性被膜 65:第1のダイラタント流体 66:第2のダイラタント流体 100:ガイドワイヤ IS:内側空間 ISa:第1領域 ISb:第2領域