(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】PC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
(21)【出願番号】P 2020103705
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591211917
【氏名又は名称】川田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛文
(72)【発明者】
【氏名】今村 忠毅
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
(72)【発明者】
【氏名】野田 一成
(72)【発明者】
【氏名】松平 拓人
(72)【発明者】
【氏名】荒木 茂
(72)【発明者】
【氏名】細居 清剛
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-17333(JP,A)
【文献】特開平10-299253(JP,A)
【文献】特開平9-217493(JP,A)
【文献】実公昭47-42926(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E01D 1/00
B28B 23/04
E04C 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプから油圧ジャッキにオイルを供給することにより前記油圧ジャッキを作動させて、PC鋼材の左右両端から前記PC鋼材を軸方向に左右両側から緊張させるPC鋼材の自動緊張システムであって、
前記ポンプにより前記オイルを供給して前記油圧ジャッキのストロークを伸長させて緊張モードとして、油圧が予め定められた設定油圧に到達すると前記油圧ジャッキを中立モードへ切り替えて油圧および前記油圧ジャッキのストロークを保持することを、前記設定油圧を順次高めて繰り返すための制御手段と、
前記中立モードにおける前記PC鋼材の両端における緊張状態を検出して、前記PC鋼材について緊張状態の左右差を検出するための検出手段とを含み、
前記制御手段は、前記設定油圧を順に高めた次の設定油圧に到達させる際に、前記検出手段により検出された左右差に基づいて、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせる手段を含むことを特徴とする、PC鋼材の自動緊張システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える際に、前記左右差に基づいて、前記PC鋼材の左右両端にそれぞれ設けられた前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替えるタイミングを左右で異ならせることを特徴とする、請求項1に記載のPC鋼材の自動緊張システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える際に、前記左右差に基づいて、前記PC鋼材の左右両端にそれぞれ設けられた前記油圧ジャッキに前記ポンプから供給するオイル量を左右で異ならせることを特徴とする、請求項1に記載のPC鋼材の自動緊張システム。
【請求項4】
前記PC鋼材の左右両端にそれぞれ設けられるポンプは、低吐出ポンプと高吐出ポンプとそれらの吐出ポンプから前記油圧ジャッキへの供給を切り替える切替弁とを含み、
前記制御手段は、前記緊張モードにおいて、前記切替弁を切り替えることにより前記低吐出ポンプおよび前記高吐出ポンプのいずれかから前記油圧ジャッキへオイルを供給する、請求項1~請求項3のいずれかに記載のPC鋼材の自動緊張システム。
【請求項5】
前記検出手段は、前記中立モードにおける前記PC鋼材の両端における緊張状態を検出する際に、前記油圧が予め定められた設定油圧に到達した後において予め定められた確定条件を満足すると、前記PC鋼材について緊張状態を検出する、請求項1~請求項4のいずれかに記載のPC鋼材の自動緊張システム。
【請求項6】
前記確定条件は、前記油圧が予め定められた設定油圧に到達した後に予め定められた時間が経過したことである、請求項5に記載のPC鋼材の自動緊張システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記確定条件を満足する前に、前記油圧について予め定められた再緊張条件を満足すると、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替えて再緊張する、請求項5または請求項6に記載のPC鋼材の自動緊張システム。
【請求項8】
前記再緊張条件は、前記中立モードにおいて、前記油圧が前記設定油圧から予め定められた油圧以下になることである、請求項7に記載のPC鋼材の自動緊張システム。
【請求項9】
ポンプから油圧ジャッキにオイルを供給することにより前記油圧ジャッキを作動させて、PC鋼材の左右両端から前記PC鋼材を軸方向に左右両側から緊張させるPC鋼材の自動緊張方法であって、
前記ポンプにより前記オイルを供給して前記油圧ジャッキのストロークを伸長させて緊張モードとして、油圧が予め定められた設定油圧に到達すると前記油圧ジャッキを中立モードへ切り替えて油圧および前記油圧ジャッキのストロークを保持することを、前記設定油圧を順次高めて繰り返す制御ステップと、
前記中立モードにおける前記PC鋼材の両端における緊張状態を検出して、前記PC鋼材について緊張状態の左右差を検出するための検出ステップとを含み、
前記制御ステップは、前記設定油圧を順に高めた次の設定油圧に到達させる際に、前記検出ステップにより検出された左右差に基づいて、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせて、左右の緊張差を予め定められた範囲内に収めることを特徴とする、PC鋼材の自動緊張方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築分野におけるコンクリート製の梁、桁またはその他の建築部材等において好適に使用されるプレストレストコンクリート部材に圧縮力(プレストレス)をポストテンション方式で付与するPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法に関し、特に、PC鋼材をその両端から両引きしてPC鋼材を緊張させる場合において左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与することのできる技術に関する。
【0002】
なお、本発明において、PC鋼材(PC用鋼材と記載する場合がある)には、PC鋼線、PC鋼棒およびPC鋼より線(PC鋼撚線)ならびに外表面が(エポキシ等の)樹脂で被覆(コーティング)されたPC鋼材を含み、それらの異形タイプも含む。また、以下において、PC鋼線をその摩擦力により保持(定着)する定着具(グリップ)は、オス側のくさび(楔体、楔、クサビ、ウェッジ、オスコーン等と記載する場合があり、後述する特許文献1においてはグリップと記載されている)とメス側のスリーブ(メスコーン等と記載する場合がある)とが組み合わせられて緊張状態のPC鋼材を定着する。
【背景技術】
【0003】
従来から、硬化後のコンクリート部材にプレストレスを導入するポストテンション方式のPC鋼材の緊張管理方法が知られている。ポストテンション方式では、シースを介してPC鋼材を予め配置しておき、コンクリートを打設する。打設したコンクリートが硬化した後、油圧ジャッキを用いてPC鋼材を牽引(緊張)することによりPC鋼材に引張応力である緊張力を加え、PC鋼材を緊張させた状態で定着具によりコンクリートに定着させる。これにより、コンクリート部材に圧縮応力であるプレストレスを与え、引張強度を向上させることができる。PC鋼材の緊張管理方法においては、PC鋼材の緊張力(後述のように緊張力は油圧ポンプ出口側のオイルの圧力で管理)と伸び量とをそれぞれ計測(検出や検知と同義)しながら行われる。
【0004】
このようなPC鋼材の緊張管理方法においては、油圧ポンプにより油圧ホースを介して油圧ジャッキにオイル(作動油と区別しない)を供給することにより、油圧ジャッキを作動させる。PC鋼材に加わる緊張力の計測は、計測が容易であるため、ポンプの吐出口に設けた圧力センサによって行われる。しかしながら、緊張力を増加させるためオイルの供給を行っている際には、ポンプの吐出口におけるオイルの圧力と緊張力との間には圧力差が生じる。そこで、緊張の途中段階においてPC鋼材に加わる緊張力を正確に計測するため、計測作業の度に油圧ジャッキへのオイルの供給を一時的に中断する中立状態を保つ必要がある。このため、緊張作業に時間がかかり、作業効率の向上を図ることが難しかった。
【0005】
このような問題点に鑑みて、特開2016-017333号公報(特許文献1)は、作業効率の向上を図ることが可能なPC鋼材の緊張管理システムを開示する。この特許文献1に開示されたPC鋼材の緊張管理システムは、ポンプにより油圧ジャッキにオイルを供給することにより前記油圧ジャッキを作動させてPC鋼材を軸方向に緊張させるPC鋼材の緊張管理システムであって、前記ポンプによる前記オイルの供給が行われているときの供給中圧力が所定圧力となったときに、前記ポンプによる前記オイルの供給が中断された後の中断後圧力を示す情報を入力する中断後情報入力部と、前記所定圧力と前記中断後情報入力部によって入力される情報によって示される中断後圧力との圧力差を算出する圧力差算出部と、前記圧力差算出部によって算出される圧力差に基づき、前記PC鋼材に加わる緊張力を算出するための補正量を決定する補正量決定部と、前記供給中圧力を示す情報を入力する供給中情報入力部と、前記補正量決定部によって決定される補正量を用い、前記供給中情報入力部によって入力される情報によって示される供給中圧力から、前記PC鋼材に加わる緊張力を算出する緊張力算出部と、前記緊張力算出部によって算出される緊張力を示す情報を出力する出力部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示されたPC鋼材の緊張管理システムを含み従来のPC鋼材のポストテンション方式ではPC鋼材の左右両端に油圧ジャッキ(以下において単にジャッキと記載する場合がある)、油圧ポンプ(以下において単にポンプと記載する場合がある)および油圧ホースならびに制御機器を配置して、左右両側のジャッキによりPC鋼材を両側から牽引(緊張)することによりPC鋼材に引張応力である緊張力を加える場合がある。このような両引きにおいては、PC鋼材に付与される緊張力に左右で差が発生する場合がある。これを考慮しないで、ポストテンション方式でPC鋼材に緊張力を付与すると所定の位置(左右方向の位置)に正確なプレストレスを導入することができない場合が発生し得る。
【0008】
すなわち、PC鋼材の緊張管理システムを用いて左右両側の2台のジャッキでPC鋼材の左右両側から緊張作業を開始した際に、作業者の操作タイミングによる左右のズレ、ジャッキの個体差によって、ジャッキからPC鋼材へ緊張力が伝わるスピードが異なり、PC鋼材の伸び量に左右差が発生して左右方向の所定の位置に正確なプレストレスが導入することができない。
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたPC鋼材の緊張管理システムにおいては、このような左右差については言及も示唆もされていない。わずかに、特許文献1には、「このようにPC鋼材を軸方向の両側から牽引(両引き)してもよいし、PC鋼材の片側から牽引(片引き)してもよい。」(特許文献1の第0026段落)、および、「PLCは、緊張作業が両引きで行われる場合は、圧力センサによるオイルの圧力の測定データおよび変位センサによる変位の測定データを全てパソコンに転送する。なお、圧力センサによるオイルの圧力の測定データは、原理的には同じとなるはずである。したがって、PC鋼材の緊張管理には、いずれかの測定データが用いられる。また、変位の測定データについては、変位センサによる変位の測定データを足し合わせたものが用いられる。」(特許文献1の第0047段落)、と開示されているに過ぎない。そのため、特許文献1に開示された技術を適用しても、PC鋼材の伸び量に左右差が発生して左右方向の所定の位置に正確なプレストレスが導入することができない場合があることに変わりはない。
【0010】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、プレストレストコンクリート部材に圧縮力(プレストレス)をポストテンション方式で付与する場合において、PC鋼材を両端から両引きしてPC鋼材を緊張させるときに左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与することのできるPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法は、以下の技術的手段を備える。
すなわち、本発明のある局面に係るPC鋼材の自動緊張システムは、ポンプから油圧ジャッキにオイルを供給することにより前記油圧ジャッキを作動させて、PC鋼材の左右両端から前記PC鋼材を軸方向に左右両側から緊張させるPC鋼材の自動緊張システムであって、前記ポンプにより前記オイルを供給して前記油圧ジャッキのストロークを伸長させて緊張モードとして、油圧が予め定められた設定油圧に到達すると前記油圧ジャッキを中立モードへ切り替えて油圧および前記油圧ジャッキのストロークを保持することを、前記設定油圧を順次高めて繰り返すための制御手段と、前記中立モードにおける前記PC鋼材の両端における緊張状態を検出して、前記PC鋼材について緊張状態の左右差を検出するための検出手段とを含み、前記制御手段は、前記設定油圧を順に高めた次の設定油圧に到達させる際に、前記検出手段により検出された左右差に基づいて、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせる手段を含むことを特徴とする。ここで、このPC鋼材の自動緊張システムにおける検出手段は、(1)中立モードにおけるPC鋼材の両端における緊張状態(一例としてPC鋼材の基準位置からの伸び量)を自動的に検出してPC鋼材について緊張状態の左右差を自動計算することにより検出する手段であっても、(2)中立モードにおけるPC鋼材の両端における緊張状態(同じく一例としてPC鋼材の基準位置からの伸び量)を自動的に検出してPC鋼材の両端における緊張状態をたとえばモニタに表示させてPC鋼材について緊張状態の左右差をモニタに表示された内容に基づいて作業者が確認・判断して検出する手段であっても、構わない。
【0012】
好ましくは、前記制御手段は、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える際に、前記左右差に基づいて、前記PC鋼材の左右両端にそれぞれ設けられた前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替えるタイミングを左右で異ならせるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記制御手段は、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える際に、前記左右差に基づいて、前記PC鋼材の左右両端にそれぞれ設けられた前記油圧ジャッキに前記ポンプから供給するオイル量を左右で異ならせるように構成することができる。
【0013】
さらに好ましくは、前記PC鋼材の左右両端にそれぞれ設けられるポンプは、低吐出ポンプと高吐出ポンプとそれらの吐出ポンプから前記油圧ジャッキへの供給を切り替える切替弁とを含み、前記制御手段は、前記緊張モードにおいて、前記切替弁を切り替えることにより前記低吐出ポンプおよび前記高吐出ポンプのいずれかから前記油圧ジャッキへオイルを供給するように構成することができる。
さらに好ましくは、前記検出手段は、前記中立モードにおける前記PC鋼材の両端における緊張状態を検出する際に、前記油圧が予め定められた設定油圧に到達した後において予め定められた確定条件を満足すると、前記PC鋼材について緊張状態を検出するように構成することができる。
【0014】
さらに好ましくは、前記確定条件は、前記油圧が予め定められた設定油圧に到達した後に予め定められた時間が経過したことであるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記制御手段は、前記確定条件を満足する前に、前記油圧について予め定められた再緊張条件を満足すると、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替えて再緊張するように構成することができる。
さらに好ましくは、前記再緊張条件は、前記中立モードにおいて、前記油圧が前記設定油圧から予め定められた油圧以下になるように構成することができる。
【0015】
また、本発明の別の局面に係るPC鋼材の自動緊張方法は、ポンプから油圧ジャッキにオイルを供給することにより前記油圧ジャッキを作動させて、PC鋼材の左右両端から前記PC鋼材を軸方向に左右両側から緊張させるPC鋼材の自動緊張方法であって、前記ポンプにより前記オイルを供給して前記油圧ジャッキのストロークを伸長させて緊張モードとして、油圧が予め定められた設定油圧に到達すると前記油圧ジャッキを中立モードへ切り替えて油圧および前記油圧ジャッキのストロークを保持することを、前記設定油圧を順次高めて繰り返す制御ステップと、前記中立モードにおける前記PC鋼材の両端における緊張状態を検出して、前記PC鋼材について緊張状態の左右差を検出するための検出ステップとを含み、前記制御ステップは、前記設定油圧を順に高めた次の設定油圧に到達させる際に、前記検出ステップにより検出された左右差に基づいて、前記油圧ジャッキを前記中立モードから前記緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせて、左右の緊張差を予め定められた範囲内に収めることを特徴とする。この場合において、PC鋼材が左右対称ケーブルである場合にはこの「左右の緊張差を予め定められた範囲内」とは左右の緊張差(伸び量の差)ができる限り存在しないこと(0に近いこと)が好ましいことを意味し、PC鋼材が左右非対称ケーブルである場合にはこの「左右の緊張差を予め定められた範囲内」とは左右の緊張差(伸び量の差)ができる限り設計値に近いこと(設計値との差が0に近いこと)が好ましいことを意味することになる。ここで、このPC鋼材の自動緊張方法における検出ステップは、(1)中立モードにおけるPC鋼材の両端における緊張状態を自動的に検出してPC鋼材について緊張状態(一例としてPC鋼材の基準位置からの伸び量)の左右差を自動計算することにより検出するステップであっても、(2)中立モードにおけるPC鋼材の両端における緊張状態(同じく一例としてPC鋼材の基準位置からの伸び量)を自動的に検出してPC鋼材の両端における緊張状態をたとえばモニタに表示させてPC鋼材について緊張状態の左右差をモニタに表示された内容に基づいて作業者が確認・判断して検出するステップであっても、構わない。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法によると、プレストレストコンクリート部材に圧縮力(プレストレス)をポストテンション方式で付与する場合において、PC鋼材を両端から両引きしてPC鋼材を緊張させるときに左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る自動緊張システムが適用されて圧縮力(プレストレス)が付与されるコンクリート部材の一例としての橋桁部材(PC箱桁橋20)の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る自動緊張システムのシステム構成図である。
【
図3】
図2に示す自動緊張システムにおいて実行される自動緊張制御のフローチャート(環境変数設定処理)である。
【
図4】
図2に示す自動緊張システムにおいて実行される自動緊張制御のフローチャート(自動緊張処理:その1)である。
【
図5】
図2に示す自動緊張システムにおいて実行される自動緊張制御のフローチャート(自動緊張処理:その2)である。
【
図6】
図2に示す自動緊張システムにおいて実行される自動緊張制御のフローチャート(自動緊張処理:その3)である。
【
図7】
図2に示す自動緊張システムにおいて実行される自動緊張制御のフローチャート(自動緊張処理:その4)である。
【
図8】
図2に示す自動緊張システムにおいてタブレットパソコンPCに表示される画面例(その1)である。
【
図9】
図2に示す自動緊張システムにおいてタブレットパソコンPCに表示される画面例(その2)である。
【
図10】
図2に示す自動緊張システムにおいて実行される自動緊張動作を説明するための図(その1)である。
【
図11】
図2に示す自動緊張システムにおいて実行される自動緊張動作を説明するための図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明の実施の形態に係る、PC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法について図を参照して詳しく説明する。なお、図を参照した説明においては、同一の構成には同一の符号を付しており、重複する説明は繰り返さない。さらに、本発明はPC鋼材を両端から両引きしてPC鋼材を緊張させる場合において左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与することのできる技術に関するものであって、システム構成を示す
図2において、PC鋼材における一方端側をA側(
図2における左側)、他方端側をB側(
図2における右側)として、左右対称に配置される構成については、符号の一位の桁に「A」または「B」を付している。ここで、図においては符号の一位の桁に「A」または「B」が付されているにも関わらず以下の文章において「A」および「B」が付されていない構成は、「A」または「B」が付された左右の構成に共通する説明である。さらに、本発明における「圧力」とは、ジャッキ(油圧ジャッキと区別しない)を作動させるオイル(作動油)の圧力のみを意味するために、本発明の説明においては「油圧」と「圧力」とが同義であることから、これらを区別して用いていない場合がある。
【0019】
[自動緊張システムが適用される対象物]
まず、
図1を参照して、本実施の形態に係るPC鋼材の自動緊張システムが適用されてPC鋼材の自動緊張方法が実行されて、ポストテンション方式で圧縮力(プレストレス)が付与されるコンクリート部材の一例としての橋桁部材(PC箱桁橋20)の構成について説明する。
【0020】
図1にその簡単な斜視図を示すPC箱桁橋20は、その言葉の通りに、橋の形が箱の形(箱形40)をした橋梁であって、車は橋の上(舗装路面)を通り、箱形40の中の空洞SPは橋の点検時などに作業者が入れるようになっている。さらに詳しくは、このPC箱桁橋20は、下床板41と、この下床板41に平行でかつ下床板41より幅広の上床板42と、2本以上(ここでは2本)のウェブ43と、を備えている。ウェブ43は、下床板41の幅方向両端部から垂直に立ち上がり(垂直に立ち上がる場合に限定されるものではない)、上床板42を支えている。このような構造を備えるため、曲げモーメントによる大きな圧縮力に抵抗できる特性、PC鋼材を有効に配置できる特性、また、ねじり剛性が大きいなどの断面特性を利用して、連続桁橋、ラーメン橋などの長大橋や曲線橋に数多く採用されている。
【0021】
このPC箱桁橋20には、下床板41、上床板42およびウェブ43の内部に、いわゆる内ケーブルとして、多数のPC鋼材30が配置されている。上床板42の厚さは、たとえば、数十cmである。
このPC箱桁橋20において、幅方向に沿って配置されたPC鋼材30は、いわゆる横締めPC鋼材31であって、長さ方向に沿って配置されたPC鋼材30は、いわゆる縦締めPC鋼材32である。これらのPC鋼材30がそれぞれ緊張されることにより、PC箱桁橋20にプレストレスが導入されて、引張強度が向上する。
【0022】
上床板42を構成するコンクリート部材の内部には、筒状のシース(
図1および
図2においてシースは図示していない)を介してPC鋼材30が配置されている。このようなプレストレストコンクリート部材(PC部材)は、たとえば、シースを介してPC鋼材30を予め配置しておき、コンクリートを打設することによって製造された後(コンクリートが硬化した後)に、ポストテンション方式でPC鋼材に緊張力(コンクリートに圧縮力)が付与される。ここで、PC鋼材30は、複数本ずつまとまった状態とされたPC鋼より線(ストランド)であっても構わない。
【0023】
[自動緊張システムのシステム構成]
図2を参照して、本実施の形態に係る自動緊張システムのシステム構成について説明する。
この自動緊張システムは、PC鋼材300がその内部にあるコンクリート部材200を中央にして、左右対称に、センサユニット(より詳しくは圧力センサ110および変位センサ112)と、油圧ジャッキ100と、油圧ホース(油圧回路や油圧ラインと区別しない)と、油圧回路におけるバルブユニット(より詳しくは電磁弁120、切替弁122および逃し弁(リリーフ弁)124)と、ポンプユニット(より詳しくは低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)と、センサユニットおよび油圧回路におけるバルブユニットと後述する制御装置140とを接続する制御配線(制御ラインと区別しない)とを含んで構成されている。PC鋼材300のA側の一端およびB側の他端には、油圧ジャッキ100がPC鋼材300の軸方向に対向し、コンクリート部材200を挟み込むようにして設けられている。なお、左右に各配置されるポンプユニットは、低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132の2台(左右で合計4台)であっても、低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132のいずれかの1台(左右で合計2台)であっても、(吐出量を問わない左右で同じ仕様の)吐出ポンプ1台であっても(左右で合計2台)、3台以上(左右で合計6台以上)であっても構わない。ここで、この自動緊張システムは左右対称の構成を備えるために、たとえば、センサユニット(圧力センサ110、変位センサ112)、バルブユニット(電磁弁120、切替弁122、逃し弁124)、ポンプユニット(低吐出ポンプ130、高吐出ポンプ132)およびジャッキ100ならびに制御装置140等は、基本的に同じ仕様のもので構成されている。
【0024】
センサユニットは入力ポートを介して制御装置140に接続されるとともに、バルブユニットは出力ポートを介して制御装置140に接続されている。制御装置140は無線ユニットを介して、A側の制御装置140AとB側の制御装置140Bとが互いに無線接続されているとともに、これらの制御装置140は無線ユニットを介して、この自動緊張システムの全体を制御するタブレットパソコン150にさらに無線接続されている。なお、制御装置140Aと制御装置140Bとタブレットパソコン150とは、無線ではなく有線で接続されていても構わないし、タブレットパソコン150はタブレットでない(たとえばノート型の)パソコン等であっても構わない。
【0025】
また、限定されるものではないが、ポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)はこの自動緊張システムによる自動緊張処理が開始されると、この自動緊張処理が終了するまで作動し続けており、ジャッキ100側にオイルを送り込まない場合(緊張用の油圧回路(以下において単に緊張回路と記載する場合がある)にも戻し用の油圧回路(以下において単に戻し回路と記載する場合がある)にもオイルを送り込まない場合)には、電磁弁120を閉状態、切替弁122をポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)と逃し弁124とを連通状態、および、逃し弁124を作動状態として(ポンプユニットから吐出され続けるオイルを逃し弁124へ流す状態へ単に切替弁122を切り替える場合を含む)、ポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)の吐出口から吐出したオイルは逃し弁124を経由して再度ポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)の吸込口へ戻される。
【0026】
制御装置140は、たとえばPLC(Programmable Logic Controller)と呼ばれ、この自動緊張システムにおいては、制御装置140の入力ポートを介してセンサユニット(より詳しくは圧力センサ110および変位センサ112)から制御装置140へ入力された検出値および制御装置140に予め設定されたプログラムならびにタブレットパソコン150と制御装置140との通信内容(特にタブレットパソコン150からの指令信号)に基づいて、制御装置140の出力ポートを介してバルブユニット(より詳しくは電磁弁120、切替弁122および逃し弁124)へ制御信号を出力してこれらのバルブユニットを制御することにより(作動し続けているポンプユニットを介して結果的に)ジャッキ100を(後述する5つの自動制御モードを切り替えて)制御する。
【0027】
さらに詳しくは、圧力センサ110からポンプユニット側の油圧(検出油圧)、および、変位センサ112からPC鋼材300の伸び量が、制御装置140の入力ポートを介して左右のセンサユニットから左右の制御装置140へそれぞれ入力される。なお、変位センサ112から制御装置400へ入力されたPC鋼材300の伸び量については、PC鋼材300の基準位置(初期荷重付与後に伸び量をリセットしたゼロ点補正後のオフセット位置)からのPC鋼材300の伸び量(検出伸び量)がこの自動緊張システムにおけるPC鋼材300の伸び量として自動緊張方法に用いられる。このようにゼロ点補正(オフセット補正)する理由は、オフセット位置までは、検出油圧と検出伸び量との間の線形性が成立しないので、自動緊張方法における検出値として採用されるべきではないためである。
【0028】
ここで、限定されるものではないが、圧力センサ110は、液体(ここではオイル、作動油)の圧力(油圧)を感圧素子で計測して電気信号に変換する(たとえば制御装置140内に実装されている)圧力変換器であって、変位センサ112は、パルス式変位センサ、巻き込み式変位センサ、デジタルノギス等を用いることが可能であるが本実施の形態においてはパルス式変位センサを採用している。
【0029】
次に、限定されるものではないが(以下に記載する全ての機能のうちの一部の機能を備えない場合を含むことも意味する)、バルブユニットの構成について詳しく説明する。電磁弁120は、ポンプユニットから(切替弁122を介して)供給されたオイルを、緊張回路と戻し回路とを切り替えていずれかの油圧回路へ流す。この場合において、この電磁弁120は緊張回路へオイルを流す場合には、その弁開度を調整することを含めて開閉動作を実行する。
【0030】
すなわち、この電磁弁120は、
・(a)全閉状態(ジャッキ100にオイルを流さない、このとき切替弁122はポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)から逃し弁124側へオイルを流すように切り替えられている)、
・(b)緊張全開状態(ジャッキ100の緊張回路へオイルを全開で流す)、
・(c)緊張絞り開状態(ジャッキ100の緊張回路へオイルをその流量を絞って流す)、
・(d)戻し全開状態(ジャッキ100の戻し回路へオイルをポンプユニット側から全開で流す、または、ジャッキ100の戻し回路からオイルを全開でポンプユニット側へ戻す)
の4つの状態を制御装置140による切替制御が実現できるものであれば、その構造は限定されるものではなく、2以上の弁の組合せでも構わない。
【0031】
切替弁122は、
・(e)低吐出ポンプ130と電磁弁120とを連通状態にする(高吐出ポンプ132から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)、
・(f)高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態にする(低吐出ポンプ130から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)、
・(g)低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態にしない(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)、
・(h)低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態にしないで、かつ、ジャッキ100の戻し回路からオイルが逃し弁124へ流れる(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132から吐出されたオイルも逃し弁124へ流れる)、
の4つの状態を制御装置140による切替制御が実現できるものであれば、その構造は限定されるものではなく、2以上の弁の組合せでも構わない。
【0032】
逃し弁124は、制御装置140が作動(ポンプユニット側へ戻る油圧回路を開く)/停止(ポンプユニット側へ戻る回路を閉じる)を制御するものであっても構わないし、設定油圧を設定しておくとその設定油圧を超えるとポンプユニット側へ戻る回路が自動的に開くリリーフ弁等であっても構わない。
【0033】
[油圧ジャッキの自動制御モード]
ここで、この油圧ジャッキ100は、自動制御モードとして、(1)中立モード、(2)緊張モード、(3)定着モード、(4)圧抜きモードおよび(5)戻しモード、を備えた、PC鋼材緊張用の公知の油圧ジャッキであればよく、その内部構造はたとえば特許文献1にジャッキ5Aまたはジャッキ5Bとして開示されたものであるために、このジャッキについての詳細な説明はここでは繰り返さない。ただし、特許文献1に開示された技術においてはポンプのパンドルレバーをオペレータが操作することにより、ジャッキの状態(加圧状態、減圧状態および中立状態)を切り替えているが、本発明においてはオペレータのレバー操作等によりジャッキの状態が切り替えられるのではなく、バルブユニットの状態が自動的に切り替えられてジャッキの状態が自動的に切り替えられる点で、本発明と特許文献1に開示された技術とは大きく異なる。
【0034】
油圧ジャッキ100のこれら5つの自動制御モードについて説明する。なお、この自動制御モードの図内における丸数字は、文章内におけるかっこ付き数字に対応する。
(1)中立モードとは、ジャッキ100が現状油圧を維持してジャッキ100のストローク(伸び量)を維持する自動制御モードである。
このとき、制御装置140は、
・電磁弁120を上述した(a)全閉状態に、
・切替弁122を上述した(g)低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態にしない(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)状態に、
・逃し弁124を作動状態に、
それぞれ設定する。
【0035】
(2)緊張モードとは、ジャッキ100の緊張回路へオイルを供給してジャッキ100のストローク(伸び量)を伸ばす自動制御モードである。
このとき、制御装置140は、
・電磁弁120を上述した(b)緊張全開状態(ジャッキ100の緊張回路へオイルを全開で流す)または(c)緊張絞り開状態(ジャッキ100の緊張回路へオイルをその流量を絞って流す)に、
・切替弁122を上述した(e)低吐出ポンプ130と電磁弁120とを連通状態に(高吐出ポンプ132から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)、または、(f)高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態に(低吐出ポンプ130から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)、
・逃し弁124を作動状態に、
それぞれ設定する。なお、この緊張動作を完了させて、ジャッキ100が(2)緊張モードから(1)中立モードへ移行する制御については後述する。
【0036】
(3)定着モードとは、最終緊張力に対応する油圧50MPa~60MPa(後述するように本実施の形態においては56.5MPaと仮定している)をジャッキ100に上述した(2)緊張モードで付与した後に緊張状態(ジャッキ100への緊張回路への油圧が抜けていない状態)で、ジャッキ100の戻し回路へオイルを予め定められた定着用の油圧(たとえば最終緊張力に対応する油圧50~60MPaに対して定着用の油圧は40MPa)で供給してジャッキ100内部のオスコーンをメスコーンに食い込ませてPC鋼材300を定着させる自動制御モードである。
【0037】
このとき、制御装置140は、
・電磁弁120を上述した(d)戻し全開状態(ジャッキ100の戻し回路へオイルを全開で流す)に、
・切替弁122を上述した(e)低吐出ポンプ130と電磁弁120とを連通状態にする(高吐出ポンプ132から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)、または、(f)高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態にする(低吐出ポンプ130から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)状態に、
・逃し弁124を作動状態に、
それぞれ設定する。なお、この定着動作の完了は、制御装置140が上述したようにバルブユニットを切り替えた後から予め定められた時間が経過したと判断することにより定着動作が完了したと(オスコーンがメスコーン側へ移動されたと)判断することができる。また、このような完了判断の後にはジャッキ100は(1)中立モードへ移行する。
【0038】
(4)圧抜きモードとは、上述した(3)定着モードでの定着動作の後に、ジャッキ100の緊張回路に溜まっていた作動油を緊張回路からポンプユニット側(のタンク)へ抜いて(油圧を解放するだけ)、ジャッキ100の油圧を初期荷重に対応する5MPaまで減少させる(後述するようにセット量を検出するための)自動制御モードである。
このとき、制御装置140は、
・電磁弁120を上述した
(b)緊張全開状態(ジャッキ100の緊張回路へオイルを全開で流すが実際には(ポンプユニットからの供給されるオイルは逃し弁124を経由してポンプユニットのタンクへ戻るために緊張回路にはポンプユニットからの油圧がかからない)緊張モードの逆でジャッキ100の緊張回路からオイルが電磁弁120側へ戻ってくる)に、
・切替弁122を上述した(g)低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態にしない(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)で、かつ、ジャッキ100の緊張回路からオイルが逃し弁124へ流れる(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132から吐出されたオイルも緊張回路から解放されたオイルも逃し弁124へ流れポンプユニットのタンクへ戻る)状態に、
・逃し弁124を作動状態に、
それぞれ設定する。なお、この圧抜き動作の完了は、制御装置140へ圧力センサ110から入力される検出油圧に基づいて判断したり、制御装置140が上述したようにバルブユニットを切り替えた後から予め定められた時間が経過したと判断したりすることにより圧抜き動作が完了したと判断することができる。また、このような完了判断の後にはジャッキ100は(1)中立モードへ移行する。
【0039】
(5)戻しモードとは、上述した(4)圧抜きモードでの圧抜き動作の後に、ジャッキ100の戻し回路へオイルを供給してジャッキ100のストロークの伸び量をゼロに戻す自動制御モードである。
このとき、制御装置140は、
・電磁弁120を上述した(d)戻し全開状態(ジャッキ100の戻し回路へオイルを全開で流す)に、
・切替弁122を上述した(e)低吐出ポンプ130と電磁弁120とを連通状態にする(高吐出ポンプ132から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)、または、(f)高吐出ポンプ132と電磁弁120とを連通状態にする(低吐出ポンプ130から吐出されたオイルは逃し弁124へ流れる)状態に、
・逃し弁124を作動状態に、
それぞれ設定する。なお、この戻し動作の完了は、制御装置140へ圧力センサ110から入力される検出油圧に基づいて判断したり、制御装置140が上述したようにバルブユニットを切り替えた後から予め定められた時間が経過したと判断したりすることにより戻し動作が完了したと判断した制御装置140からの戻し完了通知を受信したタブレットパソコン150が判断する。また、このような完了判断の後にはジャッキ100は(1)中立モードへ移行する。
【0040】
[自動緊張システムの概要]
以下において、この自動緊張システム、および、このシステムが実行する自動緊張方法についての概要を説明する。
この自動緊張システムは、上述したように、ポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)から油圧ジャッキ100にオイルを供給することにより油圧ジャッキ100を作動させて、PC鋼材300の左右両端からこのPC鋼材300を軸方向に左右両側から緊張させる。この場合において、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して(またはいずれか単独であって制御主体は限定されない、以下において繰り返さないで「共働して」と記載)ポンプにより油圧ジャッキ100へオイルを供給して油圧ジャッキ100のストロークを伸長させて(2)緊張モードとして、油圧が予め定められた設定油圧に到達すると油圧ジャッキ100を(1)中立モードへ切り替えて油圧および油圧ジャッキ100のストロークを保持することを、この設定油圧を順次高めて(たとえば10MPa(初期荷重に対応する規定油圧5MPaの次の設定油圧としての10MPa)から55MPa(最終荷重56.5MPaに対応する手前の油圧としての55MPa)までの範囲を5MPa毎に)繰り返す(後述するS220~S390)。そして、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して、(1)中立モードにおけるPC鋼材300の両端における緊張状態(伸び量)を検出して、PC鋼材300について緊張状態の左右差を検出する。この左右差の検出にあたっては、中立モードにおけるPC鋼材の両端における緊張状態(一例としてPC鋼材の基準位置からの伸び量)を自動的に検出してPC鋼材について緊張状態の左右差を自動計算することにより検出するようにしても、中立モードにおけるPC鋼材の両端における緊張状態(同じく一例としてPC鋼材の基準位置からの伸び量)を自動的に検出してPC鋼材の両端における緊張状態をたとえばモニタに表示させてPC鋼材について緊張状態の左右差をモニタに表示された内容に基づいて作業者が確認・判断して検出するようにしても、構わない。さらに、この場合において、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して、設定油圧を順に高めた次の設定油圧(15MPaから20MPaへ設定油圧を上昇させる)に到達させる際に、検出された左右差に基づいて、PC鋼材300の左右方向に対称に配置された油圧ジャッキ100を(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせる(後述するS340~S370)。
【0041】
ここで、油圧ジャッキ100を(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせる一例としては、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して、油圧ジャッキ100を(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替える際に、検出した左右差に基づいて、PC鋼材300の左右両端にそれぞれ設けられた油圧ジャッキ100(油圧ジャッキ100Aおよび油圧ジャッキ100B)を、(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えるタイミングを左右のジャッキ100で異ならせることが挙げられる。より詳しくは、左右のうちでPC鋼材300の伸び量の小さい側のジャッキ100よりも伸び量の大きい側のジャッキ100を遅らせて(伸び量の大きい側の緊張開始を遅らせて)(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替える(後述するS360)。
【0042】
また、油圧ジャッキ100を(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせる一例としては、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して、油圧ジャッキ100(油圧ジャッキ100Aおよび油圧ジャッキ100B)を、(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替える際に、検出した左右差に基づいて、PC鋼材300の左右両端にそれぞれ設けられた油圧ジャッキ100にポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)から供給するオイル量を左右で異ならせることが挙げられる。より詳しくは、左右のうちでPC鋼材300の伸び量の小さい側のジャッキ100へのオイルの供給量よりも伸び量の大きい側のジャッキ100へのオイルの供給量を減らして(伸び量の大きい側の電磁弁を絞って)(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替える(後述するS370)。
【0043】
なお、このようにオイルの供給量を左右で異ならせる場合において、(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えるタイミングを遅らせる制御を併用することも好ましい。
また、PC鋼材300の左右両端にそれぞれ設けられるポンプユニットは、低吐出ポンプ130と高吐出ポンプ132とそれらの吐出ポンプから油圧ジャッキ100への供給を切り替える切替弁122とを含むように構成して、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して、(2)緊張モードにおいて、切替弁122を切り替えることにより低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132のいずれかから油圧ジャッキ100へオイルを供給することも好ましい(後述するS240~S260)。
【0044】
また、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して、(1)中立モードにおけるPC鋼材300の左右両端における緊張状態を検出する際に、油圧が予め定められた設定油圧に到達した後において予め定められた確定条件を満足すると、PC鋼材300について緊張状態を検出する(緊張状態を確定させる)ことも好ましい(後述するS320にてYESでS330)。
【0045】
ここで、確定条件として、油圧が予め定められた設定油圧に到達した後に予め定められた時間が経過したことに設定することも好ましい(後述するS320)。
また、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して、上述した確定条件を満足する前に、油圧について予め定められた再緊張条件を満足すると、油圧ジャッキ100を(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えて再緊張することも好ましい(後述するS310にてYESでS220)。
ここで、再緊張条件として、(1)中立モードにおいて、油圧が設定油圧から予め定められた油圧以下になったことに設定することも好ましい(後述するS310にてYESでS220)。
【0046】
[自動緊張システムの制御フローチャート]
上述した、この自動緊張システムが実行する自動緊張方法について概要をさらに詳細に、
図3~
図7に示すフローチャートを参照して説明する。これらのフローチャートにおいては、単純な不等号(<および>)で記載されている場合であっても等号付き不等号(≦または≧)の概念を含む場合があり、等号付き不等号(≦および≧)で記載されている場合であっても単純な不等号(<または>)の概念を含む場合があるものとする。
【0047】
これらのフローチャートにより表されている制御は、上述したように、制御装置140およびタブレットパソコン150は共働して実行されるものであっても、または、いずれか単独で実行されるものであっても、どちらでも構わない。すなわち、
図2に示すシステム構成は一例に過ぎない。以下のフローチャートの説明においては、制御装置140およびタブレットパソコン150が共働する場合であっても、いずれか単独で実行されるものであっても構わない(制御主体は限定されない)ために、制御部(本実施の形態においては制御装置140およびタブレットパソコン150の少なくともいずれか)がフローチャートにより表されるプログラムを実行するものとして説明する。
【0048】
図3を参照して、自動緊張システムが実行する自動緊張方法における環境変数設定処理についてのフローチャートを説明する。限定されるものではないが、この環境変数設定処理についてのフローチャートは、タブレットパソコン150で実行される場合が多い。そして、確定された環境変数はタブレットパソコン150から制御装置140へ送信される。制御装置140は、その環境変数に基づいて、センサユニット(ここでは一例ではあるが圧力センサ110および変位センサ112)から制御装置140へ入力された検出値および制御装置140に予め設定されたプログラムに基づいて、制御装置140の出力ポートを介してバルブユニット(ここでは一例ではあるが電磁弁120、切替弁122および逃し弁124)へ制御信号を出力してこれらのバルブユニットを制御することによりジャッキ100の5つの自動制御モードを切り替えるように制御して、PC鋼材300を両端から両引きしてPC鋼材300を緊張させる場合において左右の緊張差を低減させて圧縮力をコンクリート部材200に可能な限り左右均等に付与することのできる自動緊張方法を(
図4~
図7に示すフローチャートを制御装置140が実行して)実現する。
【0049】
図3に示すように、ステップ(以下単にSと記載する)100にて、制御部(ここではタブレットパソコン150の中央演算装置であることが多いが以下において略す)は、ポンプユニットの切替制御(低吐出ポンプ130と高吐出ポンプ132との切替制御)を実行するか否かを判断する。この判断は、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された選択画面を見た作業者が入力した内容に基づいて行われる。S100にて、ポンプユニットの切替制御を実行すると判断されると(S100にてYES)、処理はS110へ移される。もしそうでないと判断されると(S100にてNO)、処理はS120へ移される。
【0050】
S110にて、制御部は、高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130への切替油圧Pを設定する。このとき、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された入力画面を見た作業者が入力した内容に基づいて切替油圧Pが設定される。たとえば、この切替油圧Pとして48MPaと設定される。その後、処理はS120へ移される。なお、この切替油圧Pは目標油圧毎に変化させて設定するようにしても構わない。
【0051】
S120にて、制御部は、PC鋼材300の伸び量に左右差が発生した時の緊張調整処理が緊張開始タイミングであるのか電磁弁120の開度であるのかを判断する。この判断は、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された選択画面を見た作業者が入力した内容に基づいて行われる。緊張調整処理が緊張開始タイミングであると判断されると(S120にて緊張開始タイミング)、処理はS130へ移される。緊張調整処理が電磁弁120の開度であると判断されると(S120にて電磁弁開度)、処理はS140へ移される。
【0052】
S130にて、制御部は、伸び量が大きい側の緊張開始遅延時間T(1)を設定する。このとき、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された入力画面を見た作業者が入力した内容に基づいて緊張開始遅延時間T(1)が設定される。その後、処理はS150へ移される。なお、このとき緊張開始遅延時間T(1)=0が入力された場合には、PC鋼材300の伸び量に左右差が発生した時であっても緊張調整処理が実行されないことになる。また、この緊張開始遅延時間T(1)は目標油圧毎に変化させて設定するようにしても構わない。
【0053】
S140にて、制御部は、伸び量が大きい側の電磁弁120の開度α%を設定する。このとき、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された入力画面を見た作業者が入力した内容に基づいて電磁弁開度α%が設定される。その後、処理はS150へ移される。なお、このとき電磁弁開度α%=100%が入力された場合には、PC鋼材300の伸び量に左右差が発生した時であっても緊張調整処理が実行されないことになる。また、この電磁弁開度α%は目標油圧毎に変化させて設定するようにしても構わない。
【0054】
なお、S130にてオイルの供給量を左右で異ならせる(S140にて電磁弁開度α%として100%未満が設定される)場合において、ジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えるタイミングを遅らせる制御(S130にて緊張開始遅延時間T(1)として0(ゼロ)以外が設定される)を併用するようにしても構わない(α%<100%かつT(1)≠0)。
【0055】
S150にて、制御部は、緊張調整処理(伸び量が大きい側の緊張開始を遅延させたり伸び量が大きい側の電磁弁開度を絞ったりする)を実行する判定しきい値ΔLを設定する。すなわち、PC鋼材300の左右の伸びの差がΔL以上であると緊張調整処理(伸び量が大きい側の緊張開始を遅延させたり伸び量が大きい側の電磁弁開度を絞ったりする)を実行することになる。このとき、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された入力画面を見た作業者が入力した内容に基づいて判定しきい値ΔLが設定される。なお、この判定しきい値ΔLは目標油圧毎に変化させて設定するようにしても構わない。
【0056】
S160にて、制御部は、(1)中立モードにおけるデータ確定遅延時間T(2)を設定する。このとき、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された入力画面を見た作業者が入力した内容に基づいてデータ確定遅延時間T(2)が設定される。なお、このデータ確定遅延時間T(2)は目標油圧毎に変化させて設定するようにしても構わない。
【0057】
S170にて、制御部は、(1)中立モードにおいて油圧が低下した場合に再緊張する低下圧ΔPを設定する。油圧が設定油圧から予め定められた油圧(低下圧ΔP)以下になると再緊張される((1)中立モードから(2)緊張モードへ移行する)。たとえば、設定油圧が30MPaで低下圧ΔPが0.5MPaであるとすると、油圧が29.5MPa以下になると再緊張されることになる。このとき、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された入力画面を見た作業者が入力した内容に基づいて低下圧ΔPが設定される。なお、この低下圧ΔPは目標油圧毎に変化させて設定するようにしても構わない。また、低下圧ΔP=0であっても構わず、この場合には設定油圧が30MPaに対して検出油圧が30.0MPa以下になると再緊張されることになる。
【0058】
S180にて、制御部は、設定した環境変数に修正がないか否かを判断する。この判断は、たとえばタブレットパソコン150の画面に表示された確認画面を見た作業者が入力した内容に基づいて行われる。環境変数に変更がないと判断されると(S180にてYES)、処理はS190へ移される。もしそうでないと判断されると(S180にてNO)、処理はS100へ戻される。なお、処理をS100へ戻すのではなく、修正が必要な環境変数の設定ステップへ処理を戻すようにしても構わない。
【0059】
さらに、本実施の形態においては、高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130への切替油圧P、緊張開始遅延時間T(1)、電磁弁開度α%、左右差発生のしきい値ΔL、データ確定遅延時間T(2)および再緊張する低下圧ΔP)以外の環境変数については説明していないが、説明したこれらの環境変数以外の環境変数が(当然であるが)存在しており、説明した以外の環境変数は本発明との関連が低いために説明していないに過ぎない。
S190にて、制御部は、設定した環境変数を記憶するとともに、制御装置140へ設定した環境変数を送信する。その後、この環境変数設定処理は終了する。
【0060】
図4~
図7を参照して、自動緊張システムが実行する自動緊張方法における自動緊張処理についてのフローチャートを説明する。限定されるものではないが、この自動緊張処理についてのフローチャートは、タブレットパソコン150から送信された環境変数に基づいて制御装置140が実行する場合が多い。すなわち、
図3のフローチャートの説明に前もって上述したように、制御装置140は、その環境変数に基づいて、センサユニット(ここでも一例ではあるが圧力センサ110および変位センサ112)から制御装置140へ入力された検出値および制御装置140に予め設定されたプログラムに基づいて、制御装置140の出力ポートを介してバルブユニット(ここでも一例ではあるが電磁弁120、切替弁122および逃し弁124)へ制御信号を出力してこれらのバルブユニットを制御することによりジャッキ100の5つの自動制御モードを切り替えるように制御して、PC鋼材300を両端から両引きしてPC鋼材300を緊張させる場合において左右の緊張差を低減させて圧縮力をコンクリート部材200に可能な限り左右均等に付与することのできる自動緊張方法を(
図4~
図7に示すフローチャートを制御装置140が実行して)実現する。なお、この自動緊張処理の開始前において、ポンプユニットは低吐出ポンプ130も高吐出ポンプ132も作動を開始しており、また、この自動緊張処理の開始時におけるジャッキ100の自動制御モードは(1)中立モードであるとする。
【0061】
図4~
図7に示すように、S200にて、制御部(ここでは制御装置140(PLC)の中央演算装置であることが多いが以下において略す)は、初期荷重(初期荷重に対応する規定油圧)を付与させる。たとえば、制御部は、ジャッキの自動制御モードを(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えて(切り替わるようにバルブユニットを制御するものであるが以下においてジャッキ100の自動制御モードの切り替えがバルブユニットの制御により実現されることを略す)、初期荷重に対応する規定油圧(たとえば5MPa)の油圧(圧力センサ110による検出油圧)になるように制御する。
【0062】
S210にて、制御部は、たとえば、初期荷重に対応する規定油圧5MPaの油圧である状態が予め定められた時間が経過したこと等により(ジャッキ100の自動制御モードを(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えて)伸び量(変位センサ112による検出伸び量)を検出して、その検出した左右両側(A側およびB側)の伸び量をリセットしてゼロ点補正する(オフセット補正する)。
S220にて、制御部は、ジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えて、PC鋼材300を(目標緊張力に対応する)目標油圧まで緊張する。このとき、たとえば、10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に目標油圧が設定される。
【0063】
S230にて、制御部は、(2)緊張モードの状態のままで、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量を、A側およびB側においてそれぞれ検出する。
S240にて、制御部は、切替油圧Pが設定されていて、検出油圧が切替油圧P以上で、かつ、高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130への切り替えられていないか(ポンプ切替制御が完了しているか)否かを判断する。切替油圧Pが設定されていて、検出油圧が切替油圧P以上で、かつ、高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130へまだ切り替えられていないと判断されると(S240にてYES)、処理はS260へ移される。もしそうでないと判断されると(S240にてNO)、処理はS250へ移される。
【0064】
S250にて、制御部は、切替弁122を高吐出ポンプ132と電磁弁120とが連通状態であるように切り替えたりその状態を維持したりする。その後、処理はS270へ移される。
S260にて、制御部は、切替弁122を低吐出ポンプ130と電磁弁120とが連通状態であるように切り替えたりその状態を維持したりする。その後、処理はS270へ移される。
S270にて、制御部は、S230と同様にして、(2)緊張モードの状態のままで、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量を、A側およびB側においてそれぞれ検出する。
【0065】
S280にて、制御部は、検出油圧が目標油圧(10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に設定された油圧)以上であるか否かを判断する。検出油圧がこのときに設定されている目標油圧以上であると判断されると(S280にてYES)、処理はS290へ移される。もしそうでないと判断されると(S280にてNO)、処理はS220へ戻されて、(2)緊張モードの状態で油圧がさらに上昇される。
S290にて、制御部は、ジャッキ100の自動制御モードを(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えて、この(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間のカウントを開始する。
S300にて、制御部は、(1)中立モードの状態で、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量を、A側およびB側においてそれぞれ検出する。
【0066】
S310にて、制御部は、検出油圧が{目標油圧(10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に設定された油圧)-低下圧ΔP}以下であるか否かを判断する。検出油圧が{目標油圧(10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に設定された油圧)-低下圧ΔP}以下である(油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)が経過するまでに目標油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまった)と判断されると(S310にてYES)、処理はS220へ戻されて、ジャッキの自動制御モードが(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えられて、油圧が再度上昇されて再緊張される。もしそうでないと判断されると(S310にてNO)、処理は
図5のS320へ移される。
【0067】
S320にて、制御部は、S290にてジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間がデータ確定遅延時間T(2)以上であるか否かを判断する。経過時間がデータ確定遅延時間T(2)以上であると判断されると(S320にてYES)、処理はS330へ移される。もしそうでないと判断されると(S320にてNO)、処理は
図4のS300へ戻されて、ジャッキ100の自動制御モードが(1)中立モードの状態が維持されて、油圧および伸び量が検出されることを繰り返す。
【0068】
S330にて、制御部は、(1)中立モードの状態で、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量を、A側およびB側においてそれぞれ確定する。なお、PC鋼材300の全体としての伸び量は、A側において確定させた伸び量とB側において確定させた伸び量との和となる。
ここで、S310とS320との順番を入れ替えて、S290にてジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間がデータ確定遅延時間T(2)を経過した後において、検出油圧が{目標油圧(10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に設定された油圧)-低下圧ΔP}以下である(油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)が経過した後において目標油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまった)と判断して再緊張するようにしても構わない。ここで、ΔP=0であっても構わない。
【0069】
S340にて、制御部は、左右(A側およびB側)の伸び量の差が左右差発生のしきい値ΔL以上であるか否かを判断する。左右の伸び量の差がしきい値ΔL以上である(緊張調整処理(伸び量が大きい側の緊張開始を遅延させたり伸び量が大きい側の電磁弁開度を絞ったりする)が必要)と判断されると(S340にてYES)、処理はS350へ移される。もしそうでないと判断されると(緊張調整処理が不要判断されると(S340にてNO)、処理はS380へ移される。
【0070】
S350にて、制御部は、PC鋼材300の伸び量に左右差が発生した時の緊張調整処理が緊張開始タイミングであるのか電磁弁120の開度であるのかを判断する。この判断は、タブレットパソコン150から制御装置140が、0(ゼロ)ではない緊張開始遅延時間T(1)を受信していたり、100%未満の電磁弁開度α%を受信していたりすると、制御部は、緊張調整処理が緊張開始タイミング、および、電磁弁120の開度のいずれかであると判断する。緊張調整処理が緊張開始タイミングであると判断されると(たとえばα%=100%かつT(1)≠0でS350にて緊張開始タイミングと判断されると)、処理はS360へ移される。緊張調整処理が電磁弁120の開度であると判断されると(たとえばα%<100%かつT(1)=0でS350にて電磁弁開度と判断されると)、処理はS370へ移される。なお、上述したように、たとえばα%≠100%かつT(1)≠0であって、緊張調整処理として緊張開始タイミングおよび電磁弁開度を併用することも可能である。
【0071】
S360にて、制御部は、次の目標油圧で緊張するときの緊張開始タイミングを、伸び量が小さい側よりも伸び量が大きい側を緊張開始遅延時間T(1)だけ遅延させることを設定する。この緊張開始遅延時間T(1)はS390にてNOで戻されるS220にて反映される。その後、処理は、S380へ移される。
S370にて、制御部は、次の目標油圧で緊張するときの電磁弁120の開度を、伸び量が小さい側100%、かつ、伸び量が大きい側α%(<100%)と設定する。この電磁弁開度α%はS390にてNOで戻されるS220にて反映される。その後、処理は、S380へ移される。
S380にて、制御部は、次の目標緊張力(次の目標油圧)を設定する。このとき、次の目標油圧として、現目標油圧にたとえば5MPaが加算されて設定される。
【0072】
S390にて、制御部は、次の目標油圧が最終目標圧(たとえば56.5MPa)の1つ手前の油圧(55MPa)よりも高いか否かを判断する。次の目標油圧が最終目標圧(ここでは56.5MPa)の1つ手前の油圧(55MPa)よりも高いと判断されると(次の目標油圧が最終目標圧であると判断されると)(S390にてYES)、処理は
図6のS400へ移される。もしそうでないと判断されると(S390にてNO)、処理は
図4のS220へ戻されて、次の目標油圧(ここでは10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に設定された油圧)になるまでPC鋼材300が緊張される。この場合において、PC鋼材300の伸び量に左右差が発生している場合には、伸び量が大きい側の緊張開始タイミングが遅延させられたり、伸び量が大きい側の電磁弁開度が絞られたりする緊張調整処理が反映される。
【0073】
S400にて、制御部は、次の緊張が最終緊張であるために、PC鋼材300の種類(ユーザ毎に設定されたスペック等を含む)に基づいて、最終緊張力(に対応する最終油圧)を算出する。たとえば、このとき、設計緊張圧力(最終緊張力)が56.5MPaであった場合、基本的には、その(最終緊張力に対応する)最終油圧まで緊張を実行するために、最終緊張力に対応する最終油圧(56.5MPa)が設定される。その後、処理はS420へ移される(S410は欠番)。
S420にて、制御部は、S220と同様にして、ジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えて、PC鋼材300を(最終緊張力に対応する)最終油圧まで緊張する。このとき、たとえば最終油圧として設定された56.5MPaまで、PC鋼材300が緊張される。
【0074】
S430にて、制御部は、S230と同様にして、(2)緊張モードの状態のままで、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量を、A側およびB側においてそれぞれ検出する。その後、処理はS480へ移される(S440~S470は欠番)。
S480にて、制御部は、S280と同様にして、検出油圧が最終油圧(たとえば設計緊張圧力である56.5MPa)以上であるか否かを判断する。検出油圧が最終油圧以上であると判断されると(S480にてYES)、処理はS490へ移される。もしそうでないと判断されると(S480にてNO)、処理はS420へ戻されて、(2)緊張モードの状態で油圧がさらに上昇される。
S490にて、制御部は、S290と同様にして、ジャッキ100の自動制御モードを(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えて、この(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間のカウントを開始する。
【0075】
S500にて、制御部は、S300と同様にして、(1)中立モードの状態で、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量を、A側およびB側においてそれぞれ検出する。
S510にて、制御部は、S310と同様にして、検出油圧が{最終油圧(56.5MPa)-低下圧ΔP}以下であるか否かを判断する。検出油圧が{最終油圧(56.5MPa)-低下圧ΔP}以下である(油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)が経過するまでに最終油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまった)と判断されると(S510にてYES)、処理はS420へ戻されて、ジャッキの自動制御モードが(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えられて、油圧が再度上昇されて再緊張される。もしそうでないと判断されると(S510にてNO)、処理は
図7のS520へ移される。
【0076】
S520にて、制御部は、S320と同様にして、S490にてジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間がデータ確定遅延時間T(2)以上であるか否かを判断する。経過時間がデータ確定遅延時間T(2)以上であると判断されると(S520にてYES)、処理はS520へ移される。もしそうでないと判断されると(S520にてNO)、処理は
図6のS500へ戻されて、ジャッキ100の自動制御モードが(1)中立モードの状態が維持されて、油圧および伸び量が検出されることを繰り返す。
S530にて、制御部は、S330と同様にして、(1)中立モードの状態で、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量を、A側およびB側においてそれぞれ最終油圧および最終伸び量として確定する。なお、PC鋼材300の全体としての最終伸び量は、A側において確定させた最終伸び量とB側において確定させた最終伸び量との和となる。
【0077】
ここで、S310とS320と同様に、S510とS520との順番を入れ替えて、S490にてジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間がデータ確定遅延時間T(2)を経過してから、検出油圧が{最終油圧(56.5MPa)-低下圧ΔP}以下である(油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)が経過した後において最終油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまった)と判断して再緊張するようにしても構わない。
ここまでが、初期荷重に対応する規定油圧(たとえば5MPa)から最終荷重(または最終伸び量)に対応する最終油圧(たとえば56.5MPa)までの5MPa毎に繰り返される自動緊張処理である。
【0078】
S530にて、制御部は、ジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードから(3)定着モードへ切り替えて、ジャッキ100内部のオスコーンをメスコーンに食い込ませてPC鋼材300を定着させる。定着完了判断の後に、ジャッキ100の自動制御モードは、(3)定着モードから(1)中立モードへ移行する。
S540にて、制御部は、ジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードから(4)圧抜きモードへ切り替えて、ジャッキ100の油圧を初期荷重に対応する規定油圧(5MPa)まで減少させる。圧抜き完了判断の後に、ジャッキ100の自動制御モードは、(4)圧抜きモードから(1)中立モードへ移行する。
S550にて、制御部は、変位センサ112からの検出伸び量に基づいて、セット量を算出する。
【0079】
S560にて、制御部は、緊張済みのPC鋼材300をジャッキ100から開放できるように、この自動制御システムを制御する。このとき、たとえば、作業者による作業を伴う場合には、安全確保のために作動禁止フラグ(このフラグがオンにされると自動緊張システムは一切動作しない)をオンとして不要に動作しないように制御される。
S570にて、制御部は、ジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードから(5)戻しモードへ切り替えて、ジャッキ100のストロークの伸び量をゼロに戻す。戻し完了判断の後に、ジャッキ100の自動制御モードは、(5)戻しモードから(1)中立モードへ移行する。
その後、作業者により、作動し続けたポンプユニット(低吐出ポンプ130および高吐出ポンプ132)の作動が(作業者により)終了される。
【0080】
[自動緊張システムの(制御フローチャートに基づく)動作]
以上のような構造(
図2)およびフローチャート(
図3~
図7)に基づく、本実施の形態に係る自動緊張システムの動作(すなわち、自動緊張システムを用いた自動緊張方法)を、
図2、
図4~
図7に加えて
図8~
図11を参照して説明する。ここで、本発明の容易な理解のために、
図10(A)、
図10(B)および
図10(C)における縦軸および横軸のスケールならびに
図10(A)における油圧の時間変化、
図10(B)における目標油圧に到達する前後における油圧の時間変化、
図10(C)における再緊張低下圧ΔPの絶対値(図では5MPaと大きく示している)については現実のものと異なり、さらに、
図10(A)と
図10(B)と
図10(C)とで縦軸および横軸のスケールを一致させていない。
【0081】
なお、環境変数設定処理は自動緊張処理の前に、自動緊張処理に必要な環境変数を設定する処理であるために、以下における動作の説明においては、
図9(A)および
図9(B)にタブレットパソコン150の画面例を示すに留めて、
図3のフローチャートに沿った環境変数設定処理の動作は説明しない。すなわち、以下の自動緊張システムの動作においては、環境変数設定処理の動作が完了して、ポンプユニットは低吐出ポンプ130も高吐出ポンプ132も作動を開始しており、ジャッキ100の自動制御モードは(1)中立モードである時点から説明する。
【0082】
自動緊張動作が開始されると、ジャッキ100の自動制御モードが、(1)中立モードから(2)緊張モードへ移行されて、初期荷重に対応する規定油圧(たとえば5MPa)がPC鋼材300に対して付与される(S200)。
このような初期荷重に対応する規定油圧5MPaの油圧である状態(圧力センサ110による検出油圧が規定油圧5MPaの油圧である状態)が予め定められた時間が経過したこと等により、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードから(1)中立モードへ移行されて、伸び量(変位センサ112による検出伸び量)が検出される。そして、この検出した左右両側(A側およびB側)のそれぞれの伸び量がリセットされてゼロ点補正(オフセット補正)される(S210)。
【0083】
このときを含めて自動緊張処理中は、タブレットパソコン150の画面には
図8に示すような管理画面(横軸:伸び量、縦軸:圧力)が表示され、付与した圧力に対する伸び量が表示されている。この
図8に示す管理画面において、S210にて伸び量がリセットされてゼロ点補正される(オフセット補正される)ことにより、付与した圧力に対する伸び量は縦軸と横軸との交点(原点)を通る線として管理される。なお、
図8において原点を通っている2本の点線は伸び量の適切な範囲(管理範囲)を示すものであって、検出した伸び量と付与した圧力との関係(特に最終緊張力に対する最終伸び量)がこの管理範囲に収まるようにPC鋼材300が緊張される。なお、この
図8に管理画面に示されるPC鋼材300は、56.5MPaに対応する緊張力を付与した場合の伸び量が55.0mmである設計値を備え、この設計値に収束することが好ましい。
【0084】
ゼロ点補正された(S210)後に、ジャッキ100の自動制御モードが(1)中立モードから(2)緊張モードへ切り替えられて、PC鋼材300に(目標緊張力である10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に対応する)目標油圧が付与される(PC鋼材300が目標圧力まで緊張される)(S220)。ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードの状態のままで、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量が、A側およびB側においてそれぞれ検出される(S230)。
【0085】
切替油圧Pが設定されていて、検出油圧が切替油圧P以上で、かつ、高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130へまだ切り替えられていない場合には(S240にてYES)、切替弁122が低吐出ポンプ130と電磁弁120とが連通状態であるように切り替えられる(S260)、なお、既に高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130へ切り替えられている場合にはその状態が維持される(S260)。また、切替油圧Pが設定されていなかったり、切替油圧Pが設定されていても検出油圧が切替油圧P未満であったりする場合には(S240にてNO)、切替弁122が高吐出ポンプ132と電磁弁120とが連通状態であるように切り替えられたりその状態が維持されたりする(S250)。
【0086】
たとえば、目標油圧を(45MPaから)50MPaまで上昇させる場合において、切替油圧Pが48MPaと設定されていると、検出油圧が48MPa以上であることが検出されると(S240にてYES)、高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130へ切り替えられる(S260)。
より具体的には、PC鋼材300の緊張力に対応する圧力の時間変化を示す
図10(A)に示すように、目標圧力(45MPaから)50MPaへ上昇させる場合に検出油圧が切替油圧Pである48MPa以上になると、高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130へ切り替えられる。
【0087】
このように、この自動緊張システムにおいては、低吐出量ポンプ130と高吐出量ポンプ132とを併用して、自動緊張処理の動作中に任意に(ここでは検出油圧により判断)ポンプを切り替えるようにしている。これにより、目標圧力の数MPa手前(任意に設定可能)まで高吐出量ポンプ132により自動緊張動作を(油圧を迅速に上昇させて)実行して、その後は目標圧力まで低吐出量ポンプ130により自動緊張動作を(油圧を正確に上昇させて)実行することにより、精度よくかつ迅速に目標圧力まで自動緊張させることができる。
【0088】
なお、このようなポンプ切替制御には、たとえば、10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に対応する目標油圧に対して、油圧上昇幅の5MPaのうちの最初の4MPa分を高吐出ポンプ132により自動緊張動作を迅速に実行して、その後の目標圧力までの1MPa分の低吐出量ポンプ130により自動緊張動作を正確に実行することを含むものである。
このようなポンプ切替動作を経ながら(必要に応じて高吐出ポンプ132から低吐出ポンプ130へ切り替えながら)、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードの状態のままで、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量が、A側およびB側においてそれぞれ検出される(S230)。
【0089】
この検出油圧が目標油圧(10MPa以上55MPa以下の5MPa毎に設定された油圧であってここでは
図10(A)、
図10(B)および
図10(C)に対応する50MPaとする)以上であるか否かが判断されて、検出油圧が目標油圧である50MPa以上であると(S280にてYES)、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えられて、この(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間のカウントが開始される(S290)。このように(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間のカウントが開始され続けている期間にもジャッキ100の自動制御モードが(1)中立モードの状態で、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量が、A側およびB側においてそれぞれ検出される(S300)。
【0090】
そして、このように(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間がカウントされて、このカウント値が油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)(たとえば
図9(B)に示すように3000msec)を経過するまでに、目標油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまうことがなかった(S320にてYESになるまでにS310にてYESになることがなかった)場合には、この(1)中立モードの状態で、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量が、A側およびB側においてそれぞれ確定される(S330)。そして、PC鋼材300の全体としての伸び量としてA側において確定させた伸び量とB側において確定させた伸び量との和として算出されて、
図8に示す管理図にプロットされる。
【0091】
たとえば、目標油圧を(45MPaから)50MPaまで上昇させる場合において、データ確定遅延時間T(2)が3000msecと設定されていると、(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間がカウントされて、このカウント値(ここでは3000msec)が油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)を経過するまでに、目標油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまう)ことがなかったら、検出した油圧および伸び量が確定される(S300)。
【0092】
より具体的には、
図10(B)に示すように、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードの場合において検出油圧が目標緊張力に対応する目標油圧(ここでは50MPa)に到達すると、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えられて経過時間がカウントされ始めて、このカウント値が油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)(ここでは3000msec)を経過するまでに、目標油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまうことがなかったら、検出した油圧および伸び量が確定される(S300)。
【0093】
このように、この自動緊張システムにおいては、ジャッキ100の自動制御モードが(1)中立モードの場合において、検出した油圧および伸び量のデータ確定を任意に(ここでは目標油圧に到達してジャッキ100の自動制御モードが(1)中立モードへ切り替えられてからのデータ確定遅延時間T(2)を任意に)設定している。これにより、油圧がオーバーシュートしたとしても、このようなデータ確定遅延時間T(2)を用いることにより油圧を安定して検出することができるとともに、次に説明するように、データ確定までに目標圧力を下回った際には自動再緊張されるために目標圧力を下回った状態でデータが確定されることを回避できて、精度高く自動緊張動作を実現させることができる。
【0094】
ここで、
図10(B)に示すように、データ確定遅延時間T(2)のカウント開始タイミングは、検出圧力≧目標圧力を満足した時(上述した通り)、検出圧力≧目標圧力+超過油圧Δp(このΔpは切替油圧ΔPとは異なる)を満足した時、検出圧力が目標圧力に到達してからさらに超過時間Δt秒経過した時等々のいずれであっても、さらに別のタイミングであっても構わない。さらに、目標油圧毎に、データ確定遅延時間T(2)、超過油圧Δpおよび超過時間Δtを設定することも可能である。
【0095】
次に、検出油圧が目標油圧である50MPa以上であると(S280にてYES)、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えられて、この(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間のカウントが開始され(S290)、圧力センサ110から入力された検出油圧および変位センサ112から入力された検出伸び量がA側およびB側においてそれぞれ検出されている場合(S300)において、検出油圧が低下した場合の再緊張動作について説明する。すなわち、このように(1)中立モードへ切り替えてからの経過時間がカウントされて、このカウント値が油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)(ここでは3000msec)を経過するまでに、目標油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまった(S320にてYESになるまでにS310にてYESになった)場合には、A側およびB側においてデータ(油圧および伸び量)がそれぞれ確定される(S330)前に、PC鋼材300が再緊張される。より詳しくは(限定されるものではないが)S310にてYESでS220~S300を繰り返し動作して、PC鋼材300が再緊張される。
【0096】
より具体的には、
図10(C)に示すように、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードの場合において検出油圧が目標緊張力に対応する目標油圧(ここでは50MPa)に到達すると、ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えられて経過時間がカウントされ始めて、このカウント値が油圧を確定させるまでのデータ確定遅延時間T(2)(ここでは3000msec)を経過するまでに、目標油圧から低下圧ΔP以上に油圧が低下してしまうとPC鋼材300が再緊張されて、その後に、検出した油圧および伸び量が確定される(S300)。
【0097】
このように、この自動緊張システムにおいては、検出油圧が目標油圧以上になってから(ジャッキ100の自動制御モードが(2)緊張モードから(1)中立モードへ切り替えられてから)のデータ確定遅延時間T(2)内において、目標油圧よりも低下圧ΔP以上に検出油圧が低下してしまうと、PC鋼材300が再緊張される。これにより、データ確定までに目標圧力を下回った際には自動的に再緊張されて、目標圧力を下回った状態でデータが確定されることを回避できるために、精度高く自動緊張動作を実現させることができる。
【0098】
なお、
図10(C)において、低下圧ΔP=0である場合には、データ確定遅延時間T(2)(ここでは3000msec)を経過するまでに、目標油圧未満に検出油圧が低下してしまうと(検出油圧<50MPaになると)PC鋼材300が直ちに再緊張されることになる。
また、このようにデータ確定までに油圧が低下した場合にPC鋼材300を自動的に再緊張できる自動緊張処理を実現できるものであれば、図示したフローチャートに限定されるものではない。
【0099】
さらに次に、上述のように再緊張する(データ確定までに目標油圧以下になった)か再緊張しない(データ確定までに目標油圧以下にならなかった)のいずれであっても、目標油圧におけるデータ(油圧および伸び量)が(ここでは50MPaに対するデータとする)確定された後において、伸び量の左右差が発生した場合に次の目標油圧(ここでは55MPa)まで油圧を上昇させる場合の動作について説明する。
【0100】
確定された伸び量が左右でΔL以上異なる、すなわち、A側で確定したPC鋼材300の伸び量とB側で確定したPC鋼材300の伸び量の差が、左右差発生のしきい値ΔL以上である場合には、緊張調整動作(伸び量が大きい側の緊張開始を遅延させたり伸び量が大きい側の電磁弁開度を絞ったりする)が動作される。この緊張調整処理の動作について説明する。すなわち、データ(油圧および伸び量)が確定した後にA側で確定したPC鋼材300の伸び量とB側で確定したPC鋼材300の伸び量の差が左右差発生のしきい値ΔL以上であると(S340にてYES)、緊張調整処理として緊張開始タイミングが選択されている場合には(S350にて緊張開始タイミング)伸び量が小さい側よりも伸び量が大きい側についての緊張開始タイミングを緊張開始遅延時間T(1)だけ遅延させるように設定されたり、緊張調整処理として電磁弁開度が選択されている場合には(S350にて電磁弁開度)伸び量が小さい側についての電磁弁120の開度を100%で伸び量が大きい側についての電磁弁120の開度をα%(<100%)に絞って設定されたりする。なお、このように設定されたこれらの緊張開始遅延時間T(1)および/または電磁弁開度は、次の目標油圧(たとえば55MPa以下)が最終油圧(たとえば56.5MPa)よりも高くなくてS390にてNOで戻されるS220にて反映されることは、上述した通りである。
【0101】
より具体的には、
図11(A)に示すように、左右両側から同時にPC鋼材300を緊張した結果、
図11(B)に示すように、PC鋼材300におけるB側の伸び量が大きくPC鋼材300におけるA側の伸び量が小さく、それらの伸び量の差が左右差発生のしきい値ΔL以上であると(プレストレス導入位置がB側へずれた)(S340にてYES)、次の目標油圧まで緊張を開始する際(ジャッキ100の自動制御モードを(1)中立モードから(2)緊張モードへ移行させる際)において、左右で緊張態様を異ならせている。
【0102】
このように、たとえば、
図11(B)に示すように、伸び量が大きいB側を伸び量が小さいA側よりも緊張開始遅延時間T(1)だけ緊張開始タイミングを遅延させたり、伸び量が大きいB側における電磁弁開度を伸び量が小さいA側における電磁弁開度100%よりも小さいα%(<100%)に絞ったりする。このように緊張調整動作を実行すると、
図11(C)に示すように、左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与することができる。これにより、自動緊張動作において、ジャッキ100の自動緊張モードを(1)中立モードから(2)緊張モードへ移行させる際において(次の目標油圧までPC鋼材300を緊張させる際において)、伸び量が大きい側の緊張開始タイミングを伸びの小さい側よりも任意に遅延させることができる。このようにして、伸び量が大きい(伸びが先行している)側のジャッキ100が(2)緊張モードで作動するタイミングを遅らせることにより伸び量が小さい(伸びが後続している)側のジャッキ100が先に(2)緊張モードで作動して、後から作動する(伸び量が大きな側の)ジャッキ100よりも伸び量が大きく発生するため、左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与(所定の正確な位置にプレストレスを導入)することができる。また、これにより、自動緊張動作において、ジャッキ100の自動緊張モードを(1)中立モードから(2)緊張モードへ移行させる際において(次の目標油圧までPC鋼材300を緊張させる際において)、伸び量が大きい側のポンプユニットからジャッキ100へのオイルの量を伸びの小さい側のポンプユニットからジャッキ100へのオイルの量よりも任意に少なくさせることができる。このようにして、伸び量が大きい(伸びが先行している)側のジャッキ100が(2)緊張モードで作動する際のポンプユニットからジャッキ100へのオイルの量を異ならせることにより伸び量が小さい(伸びが後続している)側のジャッキ100が先に(2)緊張モードで作動して、後から作動する(伸び量が大きな側の)ジャッキ100よりも伸び量が大きく発生するため、左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与(所定の正確な位置にプレストレスを導入)することができる。
【0103】
以上のようにして、本実施の形態に係る自動緊張システムおよび自動緊張方法によると、プレストレストコンクリート部材に圧縮力(プレストレス)をポストテンション方式で付与する場合に、PC鋼材を両端から両引きしてPC鋼材を緊張させる際に左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与することができる。
【0104】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。たとえば、上述した実施の形態においては一例としてPC鋼材の左右両端から軸方向に左右両側から緊張させるPC鋼材は左右対称ケーブルであってプレストレスの導入位置がコンクリート部材(躯体)の左右中心であるPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法について説明したが、本発明に係るPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法はこのような左右対称ケーブルに限定されて適用されるものではなく、左右非対称ケーブルに適用されても構わない。このような左右非対称ケーブルに本発明を適用する場合、プレストレスの導入位置がコンクリート部材(躯体)の左右中心からずれており(左右中心位置から右側または左側に寄った位置がプレストレスの導入位置になり)、左右のPC鋼材の伸び量(緊張量)に設計上(元々から)差が設定されている。本発明に係るPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法をこのような左右非対称ケーブルに適用する場合には、中立モードにおけるPC鋼材についての緊張状態の左右差を検出して、設定油圧を順に高めた次の設定油圧に到達させる際に、検出された左右差に基づいて油圧ジャッキを中立モードから緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせる点については左右対称ケーブルであっても左右非対称ケーブルであっても同じであるが、左右非対称ケーブルの場合には、伸び量(緊張量)について設計上の左右差が各設定油圧および/または最終油圧で実現できるように、油圧ジャッキを中立モードから緊張モードへ切り替える態様を左右で異ならせることになる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、プレストレストコンクリート部材に圧縮力(プレストレス)をポストテンション方式で付与するPC鋼材の自動緊張システムおよびPC鋼材の自動緊張方法に好ましく、PC鋼材を両端から両引きしてPC鋼材を緊張させる場合において左右の緊張差を低減させて、圧縮力をコンクリート部材に可能な限り左右均等に付与することができる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0106】
20 PC箱桁橋
100 ジャッキ(油圧ジャッキ)
110 圧力センサ
112 変位センサ
120 電磁弁
122 切替弁
124 逃し弁
130 低吐出ポンプ
132 高吐出ポンプ
140 制御装置(PLC)
150 タブレットパソコン
200 コンクリート桁
300 PC鋼材