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特許7220529イヤモールドの製造方法及び軟骨伝導補聴器の製造方法
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  • 特許-イヤモールドの製造方法及び軟骨伝導補聴器の製造方法 図1
  • 特許-イヤモールドの製造方法及び軟骨伝導補聴器の製造方法 図2
  • 特許-イヤモールドの製造方法及び軟骨伝導補聴器の製造方法 図3
  • 特許-イヤモールドの製造方法及び軟骨伝導補聴器の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】イヤモールドの製造方法及び軟骨伝導補聴器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20230203BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
H04R25/00 F
H04R1/00 317
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018132389
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020010285
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【弁理士】
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】西村 忠己
(72)【発明者】
【氏名】中市 真理子
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 敬介
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-103000(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0343900(US,A1)
【文献】特開2008-154296(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051050(WO,A1)
【文献】特開2016-134843(JP,A)
【文献】特開2016-063276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 25/00
H04R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号に応じた振動を発生する振動部を内蔵し、使用者の耳に装着されるイヤモールドの製造方法であって、
前記使用者の耳を撮影して3次元断層画像データを抽出する工程と、
前記3次元断層画像データに画像処理を施して前記使用者の耳の3次元輪郭データを生成する工程と、
前記3次元断層画像データ及び前記3次元輪郭データを用いて、前記イヤモールド及び前記振動部の設計情報を決定し、前記設計情報を反映した前記イヤモールドの全体形状を含む3次元製造データを生成する工程と、
前記3次元製造データに基づき前記イヤモールドを造形する工程と、
を含み、
前記3次元輪郭データの生成に際し、前記3次元断層画像データに含まれる耳漏、耳垢等の耳に付着した不要物を除去する画像処理を施す、
ことを特徴とするイヤモールドの製造方法。
【請求項2】
前記3次元断層画像データは、CT(Computed Tomography)又はMRI(Magnetic Resonance Imaging)を用いて抽出した3次元医用画像データであることを特徴とする請求項1に記載のイヤモールドの製造方法。
【請求項3】
前記設計情報は、前記使用者の耳における前記イヤモールドの装着位置を含むことを特徴とする請求項1に記載のイヤモールドの製造方法。
【請求項4】
前記設計情報は、前記イヤモールドにおける前記振動部の取付位置を含むことを特徴とする請求項1に記載のイヤモールドの製造方法。
【請求項5】
前記設計情報は、前記振動部と電気的に接続されるワイヤ部のワイヤ引出位置を含むことを特徴とする請求項1に記載のイヤモールドの製造方法。
【請求項6】
前記3次元輪郭データを生成する際の画像処理及び前記不要を除去する画像処理を、人工知能を用いた画像認識技術により自動的に実行することを特徴とする請求項に記載のイヤモールドの製造方法。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載のイヤモールドを具備する軟骨伝導補聴器の製造方法であって、
補聴器本体と、前記補聴器本体からの電気信号を前記イヤモールドに伝送する配線を収納するワイヤ部と、前記イヤモールドとを一体的に組み立てる工程と、
をさらに含むことを特徴とする軟骨伝導補聴器の製造方法。
【請求項8】
前記3次元輪郭データを用いて、前記ワイヤ部の長さ及び曲げ方を含むワイヤ部設計情報を決定し、前記ワイヤ部設計情報に基づいて前記ワイヤ部を形成することを特徴とする請求項に記載の軟骨伝導補聴器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号に応じた振動を耳軟骨に伝達させるように構成された軟骨伝導補聴器に関し、特に軟骨伝導補聴器を構成するイヤモールドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通常の補聴器が使えない外耳道閉鎖症などの難聴者を対象として、耳軟骨に振動を与えて軟骨伝導の経路を利用する軟骨伝導補聴器が利用されている。一般に軟骨伝導補聴器は、補聴器本体と、振動子を含む振動部を内蔵するイヤモールドと、補聴器本体とイヤモールドとの間を電気的に接続する配線を含むワイヤ部とを備えて構成されている。イヤモールドは使用者の外耳道に装着され、その内部には、耳軟骨に振動を与える振動子を含む振動部が取り付けられている(例えば、特許文献1、2参照)。この種の軟骨伝導補聴器を構成するイヤモールドは、例えば、使用者の耳型を採取した上で、採取した耳型を3次元スキャナでスキャンすることで3次元画像データを生成し、その3次元画像データを用いて作業を行い、最終的に3次元プリンタにて光造形等を行うことにより作製される(例えば、特許文献3参照)。軟骨伝導補聴器の製造工程では、補聴器本体及びワイヤ部が、前述のように作製したイヤモールドと一体的に組み立てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-134843号公報
【文献】特開2016-063276号公報
【文献】特表平5-505924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の軟骨伝導補聴器の主な使用者である前述の外耳道閉鎖症などの難聴者は、耳の形状に異常を伴う場合があり、例えば、耳介、耳甲介、外耳道などの部位の凹凸が大きい点が特徴的である。よって、これらの各部位を、例えばシリコン製の耳型で一度に採取する場合、凹凸が大きいことから、耳型を離型する際に使用者に過度の負担がかかり危険である。また、耳型をスキャンする3次元スキャナは、凹凸により光が当たらない窪んだ箇所のデータを取得できないため使用に適していない。以上から、使用者の耳介、耳甲介、外耳道などの部位を耳型で一度に採取することは困難であり、部分的な耳型を採取して3次元画像データを生成してから、手作業によりイヤモールドの製造データを生成し、最終的にイヤモールドを光造形等により作製する手順とならざるを得ない。このような一連の作業はかなりの時間を要し、非効率であるという課題があった。
【0005】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、使用者の耳型の採取が不要で、煩雑な作業を行うことなく効率的に作製でき、高い精度で使用者の耳の形状に最適化することができるイヤモールド及びそれを含む軟骨伝導補聴器の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、電気信号に応じた振動を発生する振動部を内蔵し、使用者の耳に装着されるイヤモールドの製造方法であって、前記使用者の耳を撮影して3次元断層画像データを抽出する工程と、前記3次元断層画像データに画像処理を施して前記使用者の耳の3次元輪郭データを生成する工程と、前記3次元断層画像データ及び前記3次元輪郭データを用いて、前記イヤモールド及び前記振動部の設計情報を決定し、前記設計情報を反映した前記イヤモールドの全体形状を含む3次元製造データを生成する工程と、前記3次元製造データに基づき前記イヤモールドを造形する工程と、を含み、前記3次元輪郭データの生成に際し、前記3次元断層画像データに含まれる耳漏、耳垢等の耳に付着した不要物を除去する画像処理を施すことを特徴とする。
【0007】
本発明のイヤモールドの製造方法によれば、使用者の耳を撮影した3次元断層画像データを用いることで、最初の段階で使用者の耳型の採取が不要となり、衛生的かつ安全である。そして、3次元断層画像データに基づき、3次元輪郭データを生成し、かつイヤモールド及び振動部の設計情報を決定した上で、最終的に得られた3次元製造データに基づきイヤモールドを造形するので、従来の作業を十分に簡略化できイヤモールドの製造工程の効率化が可能であるとともに、高い精度でイヤモールドの形状等を個々の使用者に最適化することができる。
【0008】
本発明の3次元断層画像データとしては、X線を利用したCT(Computed Tomography)又は各磁気共鳴現象を利用したMRI(Magnetic Resonance Imaging)を用いて抽出した3次元医用画像データを用いることができる。このような3次元医用画像データを利用すれば、使用者の耳の表面領域と内部組織の状態を判別でき、各組織の構成や硬さなども勘案した上で前述の設計情報を適切に決定することが可能となる。
【0009】
本発明において、イヤモールド及び振動部の設計情報には多様な情報が含まれる。例えば、使用者の耳におけるイヤモールドの装着位置や、イヤモールドにおける振動部の取付位置や、振動部と電気的に接続されるワイヤ部のワイヤ引出位置などをそれぞれ設計情報に含めることができる。このような設計情報を反映してイヤモールドの全体形状を決定することにより、高い精度で使用者の耳に最適化したイヤモールドを作製することができる。
【0010】
本発明の3次元輪郭データを生成する際、3次元断層画像データに含まれる耳漏、耳垢等の耳に付着した不要物を除去する画像処理を施す。これにより、耳漏、耳垢等の不要物を含まない正確な3次元輪郭データを生成することができる。この場合の画像処理と、前述の3次元輪郭データを生成する際の画像処理は、例えば、人工知能(以下、「AI」という)を用いた画像認識技術により自動的に実行することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明は、前記イヤモールドを具備する軟骨伝導補聴器の製造方法であって、補聴器本体と、前記補聴器本体からの電気信号を前記イヤモールドに伝送する配線を収納するワイヤ部と、前記イヤモールドとを一体的に組み立てる工程とをさらに含むことを特徴としている。本発明に係る軟骨伝導補聴器は、例えば、通常の補聴器が使えない外耳道閉鎖症などの難聴者に対し、耳型の採取及び離型時に過度の負担がかかることなく、安全かつ効率的に軟骨伝導補聴器を製造することができる。
【0012】
本発明に係る軟骨伝導補聴器を製造する際、ワイヤ部の長さ及び曲げ方を含むワイヤ部設計情報を決定し、ワイヤ部設計情報に基づいて前記ワイヤ部を形成してもよい。これにより、使用者の耳の3次元形状を正確に判別しつつ、最適な引き回しで耳に配置可能なワイヤ部を具備する軟骨伝導補聴器を実現可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、CTやMRIを用いて使用者の耳の全体を撮影して抽出した3次元断層画像データを用いて3次元輪郭データを生成し、それによりイヤモールドの全体形状を含む3次元製造データを生成するので、耳型の採取が不要となって使用者にとって安全かつ衛生的であるとともに、複雑な耳の形状を持つ外耳道閉鎖症などの難聴者にとって耳型の採取及び離型時にかかる負担が軽減される。また、耳の表面領域と内部組織の状態を的確に判別できるので、イヤモールド及び振動部の設計情報やワイヤ部の引き回し等を決定する際の作業を減らし、高い精度で効率的にイヤモールド及びそれを具備する軟骨伝導補聴器を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の軟骨伝導補聴器1の全体的な構造を示す斜視図である。
図2図1の軟骨伝導補聴器1を耳に装着した状態における模式的な断面構造を示す図である。
図3】本実施形態の軟骨伝導補聴器1に関し、主にイヤモールド12の作製を中心として概略の製造工程を示すフローチャートである。
図4図3のステップS13における主要な設計パラメータを決定する処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用したイヤモールド及び軟骨伝導補聴器のそれぞれの作製方法の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明の技術思想を具体化した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0016】
以下、本発明を適用した一実施形態に係る軟骨伝導補聴器の基本構造について説明する。図1は、本実施形態の軟骨伝導補聴器1の全体構造を示す斜視図であり、図2は、図1の軟骨伝導補聴器1を耳に装着した状態における模式的な断面構造を示す図である。図1に示すように、本実施形態の軟骨伝導補聴器1は、補聴器本体10と、ワイヤ部11と、イヤモールド12とを備えて構成される。
【0017】
図1において、補聴器本体10は、耳介20(図2)の後部に装着可能な形状を有する筐体の内部に、外部の音を電気信号に変換するマイクロホンや、このマイクロホンから出力される電気信号に補聴処理などの信号処理を施すDSP(Digital Signal Processor)等の信号処理部などを内蔵している。補聴器本体10の表面には、軟骨伝導補聴器1を操作する操作部10aや、電池を収納する電池ホルダ(不図示)などが設けられている。また、ワイヤ部11は、内部に電気信号を伝送する配線が収納されており、配線の外側が柔軟性を有する合成樹脂などの材料により被覆されている。ワイヤ部11は、一端が補聴器本体10に接続されるとともに、他端がイヤモールド12に内蔵される振動部13(図2)に設定された後述のワイヤ引出位置P1(図2)に接続されている。
【0018】
図1に示すように、イヤモールド12は、後述する手法に従って形成された樹脂等の材料からなり、外耳道21及びその開口の周辺の形状に適合する外形を有する。イヤモールド12に内蔵される振動部13は、ワイヤ部11寄りの所定の取付位置に取り付けられており、ワイヤ部11から伝送された電気信号に応じた振動を発生する振動子を具備している。振動部13に含まれる振動子は、外耳道21内の所定方向に向けて振動を発生するように後述の取付方向が調整されている。振動部13としては、電磁型や動電型の電気機械変換器を用いることができる。
【0019】
軟骨伝導補聴器1の特徴は、音の伝導経路として軟骨伝導経路を利用する点である。そのため、図2に示すように、イヤモールド12を外耳道21に挿入した状態で、イヤモールド12の表面領域が耳軟骨22に対向する配置になる。これにより、振動部13が発生した振動がイヤモールド12の表面領域から耳軟骨22に伝達される結果、その振動を使用者が音として認識することができる。
【0020】
次に、本実施形態の軟骨伝導補聴器1の製造工程について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、本実施形態の軟骨伝導補聴器1に関し、主にイヤモールド12の作製を中心として概略の製造工程を説明するフローチャートである。まず、軟骨伝導補聴器1を使用する使用者の耳を対象として、断層撮影法を用いて撮影した3次元医用画像データ(本発明の3次元断層画像データ)を抽出する(ステップS10)。ステップS10で適用可能な断層撮影法としては、例えば、X線を利用したCT(Computed Tomography)や、核磁気共鳴現象を利用したMRI(Magnetic Resonance Imaging)を挙げることができる。ステップS10で抽出した3次元医用画像データにより、使用者の耳介20、耳甲介、外耳道21などの部位を含む耳全体の内部構造や外形形状が判別可能である。
【0021】
続いて、ステップS10で抽出した3次元医用画像データに対して画像処理を施し、耳漏や耳垢等の不要物を除去する(ステップS11)。すなわち、ステップS10で抽出した3次元医用画像データの外形形状には、耳に付着した耳漏や耳垢も含まれるが、これら不要物が除去された状態の耳の組織の輪郭を判別する必要があるためである。そして、不要物が除去された3次元医用画像データを、使用者の耳の内部組織を含まない表面領域のみの形態に変換し、3次元輪郭データを生成する(ステップS12)。ステップS11及びS12の処理については、例えば、AIを用いた画像認識技術を利用可能であるが、詳しくは後述する。
【0022】
次に、ステップS12で生成した3次元輪郭データを用いて、軟骨伝導補聴器1を構成するイヤモールド12及びそれに内蔵される振動部13に関する種々の設計パラメータ(本発明の設計情報)を決定する(ステップS13)。ここで、図4のフローチャートを参照して、ステップS13における主要な設計パラメータを決定する処理を具体的に説明する。
【0023】
図4においては、前述のステップS13の具体的な処理としてステップS20~S23を示している。まず、ステップS10で生成した3次元医用画像データ及びステップS12で生成した3次元輪郭データを用いて、使用者の耳におけるイヤモールド12の装着位置を決定する(ステップS20)。ステップS20の決定は、3次元医用画像データに基づく耳介20、外耳道21、中耳、内耳などの各組織の構成や硬さなど勘案し、軟骨伝導による使用者の聴取が最適となるように行われる。また、外耳道内において振動を付加する位置及び振動の方向を勘案し、イヤモールド12における振動部13の取付位置を決定する(ステップS21)。同様に、イヤモールド12に対するワイヤ部11のワイヤ引出位置P1(図2)を決定する(ステップS22)。そして、ステップS20、S21、S22で決定された各設計パラメータを考慮して、イヤモールド12の全体形状を決定する(ステップS23)。
【0024】
次に図3に戻って、ステップS13(ステップS20~S23)で決定した各設計パラメータに基づき、3次元プリンタ等の造形手段において必要となる3次元製造データを生成する(ステップS14)。なお、ステップS14の処理についても、例えば、AIを用いた画像認識技術を利用可能である。続いて、ステップS14で生成した3次元製造データに基づき、3次元プリンタを用いた光造形等によりイヤモールド12を作製する(ステップS15)。なお、ステップS15で3次元プリンタを用いる際、光造形以外の他の造形方式を採用してもよい。また、3次元プリンタ以外には、例えば、NC工作機械などの装置を用いてイヤモールド12を作製してもよい。
【0025】
一方、ワイヤ部11の設計パラメータに関しては、3次元輪郭データ(ステップS12)とステップS23で決定したイヤモールド12の全体形状とから、ワイヤ部11の長さ及び曲げ方を決定する(ステップS16)。すなわち、3次元輪郭データにより使用者の耳の3次元形状を正確に判別できるので、耳にワイヤ部11を最適な引き回しで配置できるような所望の長さ及び曲げ方を定めるものである。
【0026】
最後に、ステップS15で作製したイヤモールド12とそれに内蔵される振動部13と、所定の補聴器本体10と、ステップS16で決定した長さ及び曲げ方のワイヤ部11とを一体化することで、特定の使用者を対象とした軟骨伝導補聴器1を組立てる(ステップS17)。イヤモールド12は前述のように3次元プリンタにより作製できるが、補聴器本体10とワイヤ部11については、通常、工場等で製造される。なお、ステップS17の組立て作業は、ロボットを用いて自動化することができる。
【0027】
ここで、図3のステップS11~S13、S16の各処理に関してAIを用いて自動化する場合の具体例について説明する。具体的には、ステップS11~S13、S16に対応するディープラーニング等の機械学習に用いる教師データを用意する。具体的な教師データの例としては、耳漏や耳垢の実例データ、骨、耳軟骨22、皮膚等の各組織の構成データや各部の硬さの推定データ、軟骨伝導が効率的な振動を与える位置及び方向を特定するデータ、耳介20や外耳道21などの輪郭の実例データ、3次元輪郭データに対応付けられた3次元製造データのサンプルなどを挙げることができる。このような教師データを大量に用いて機械学習を繰り返し行うことで、最終的に高精度な設計パラメータを決定することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のイヤモールド12及びそれを含む軟骨伝導補聴器1を上記の手法で作製することにより、従来の手法に比べて、信頼性及び効率性を格段に高めることができる。具体的には、使用者の耳型の採取に代わり、耳全体を撮影した3次元医用画像データ(3次元断層画像データ)を用いるので、衛生的であって耳型採取時の事故も防止することができる。特に、耳の各部位の凹凸が大きい外耳道閉鎖症などの難聴者は、耳型を離型するときの負担が軽減できるとともに、従来のように3次元スキャナを用いる際に光が当たらない箇所でデータ取得できない事態を防止することができる。また、3次元医用画像データから3次元輪郭データを経て3次元製造データを生成するまでに必要な作業の多くを自動化することで、作業量を大幅に低減してイヤモールド12及びそれを含む軟骨伝導補聴器1を効率的に作製することができる。
【0029】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明に係る軟骨伝導補聴器1は上述の実施形態で開示した構造には限られず、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。例えば、本実施形態においては、イヤモールド12を具備する軟骨伝導補聴器1に本発明を適用する場合を説明したが、前述の製造方法を適用したイヤモールド12を具備していれば、他の種類の補聴器やそれ以外の機器に対しても本発明の適用が可能である。また、その他の点についても上記実施形態により本発明の内容が限定されるものではなく、本発明の作用効果を得られる限り、上記実施形態に開示した内容には限定されることなく適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…軟骨伝導補聴器
10…補聴器本体
11…ワイヤ部
12…イヤモールド
13…振動部
20…耳介
21…外耳道
22…耳軟骨
図1
図2
図3
図4