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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】鉄道車両用の連結器
(51)【国際特許分類】
   B61G 3/30 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
B61G3/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018191235
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020059372
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 良徳
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】谷本 基弘
(72)【発明者】
【氏名】水澤 貴人
(72)【発明者】
【氏名】砂澤 作司
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】実公昭46-034175(JP,Y1)
【文献】実開昭48-007907(JP,U)
【文献】実開昭58-087662(JP,U)
【文献】米国特許第05954211(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61G 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に設けられ、当該鉄道車両を他の鉄道車両と連結する連結器であって、
前記他の鉄道車両に対向する連結面と、前記連結面から突出し、錠室を有する案内部と、を含む連結器体と、
前記連結面を挟んで前記案内部の反対側に配置される連結錠レバーと、
その一部が前記錠室内に収容され、前記連結器の水平断面視で半円状をなす連結錠であって、前記鉄道車両同士の連結状態において前記連結面に対して傾斜する平坦面と、前記連結錠レバーが接続される円弧面と、を含む前記連結錠と、
を備え、
前記連結錠は、前記鉄道車両同士が分割される際、前記連結錠レバーから荷重が負荷されることにより、前記錠室の壁面に押し付けられて前記他の鉄道車両側に回転し、
前記壁面のうち、前記連結状態において前記連結錠の先端部が対向する位置から前記他の鉄道車両側の領域には、回転する前記連結錠の前記先端部が接触しない凹部が形成されている、連結器。
【請求項2】
請求項1に記載の連結器であって、さらに、
前記連結錠レバーが接続され、前記鉄道車両同士が分割される際に伸張して、前記連結錠レバーを介して前記連結錠を前記壁面に押し付けるアクチュエータ、
を備える、連結器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の連結器であって、
前記凹部は、前記案内部の水平断面視で、前記連結状態における前記平坦面の延長線と前記壁面との交点よりも前記連結面側の位置から形成されている、連結器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の連結器であって、
前記凹部は、前記案内部の水平断面視で円弧状の底部を有する、連結器。
【請求項5】
請求項4に記載の連結器であって、
前記壁面は、
前記案内部の水平断面視で円弧状をなすとともに70mmの曲率半径を有し、前記鉄道車両同士が分割される際に前記円弧面が摺動する摺動部、
を含み、
前記底部は、前記摺動部の前記曲率半径よりも0.6mm大きい曲率半径を有し、
前記凹部は、前記案内部の水平断面視で、前記連結面から前記底部の曲率中心回りに43°以上44°以下の角度位置から90°の角度位置までの範囲にわたって形成される、連結器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用の連結器に関し、より詳細には、鉄道車両に設けられ、当該鉄道車両を他の鉄道車両に連結する連結器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両同士の連結には、連結器が使用されている。連結器の一種として、一方の鉄道車両に設けられた連結器の連結面と、他方の鉄道車両に設けられた連結器の連結面とが密着する密着連結器が知られている。例えば、特許文献1には、錠室(鍵室)と、断面半円状の連結錠(鍵)と、連結錠と一体形成された連結錠レバー(解放レバー)と、連結錠レバーを付勢する戻しばねと、を備える密着連結器が開示されている。
【0003】
特許文献1において、鉄道車両の連結に際し、連結器同士が接近すると、各連結器では、戻しばねの付勢力に抗して連結錠レバー及び連結錠が回転し、連結錠の平坦面が略0°の角度に位置づけられる。これらの平坦面は、連結器同士の接近に伴って相対摺動し、連結器の連結面同士が密着した時点でその全面が接触する。その後、戻しばねの付勢力によって連結錠レバー及び連結錠が逆回転し、各連結器の連結錠が相手方の連結器の錠室と噛み合って、連結器同士が連結状態となる。
【0004】
特許文献1において、鉄道車両を分割する際には、各連結器の連結錠レバーを操作して、平坦面が略0°となる方向に連結錠を回転させる。これにより、各連結器の連結錠が相手方の連結器の錠室から抜けられる状態となるため、連結状態にあった鉄道車両を分割することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-234824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉄道車両が分割される際、特許文献1のような密着連結器では、断面半円状の連結錠が錠室の壁面に押し付けられながら回転する。このとき、断面半円状の連結錠の先端部が錠室の壁面に存在する微小な凸部に接触し、当該凸部を引きずることにより、連結錠の表面及び/又は錠室の壁面にかじりきずが発生することがある。このかじりきずの程度が大きくなると、連結錠が固渋してその分割動作中に動かなくなり、分割不良が発生する。
【0007】
本開示は、連結錠の表面及び/又は錠室の壁面におけるかじりきずの発生を低減することができる鉄道車両用の連結器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る連結器は、鉄道車両に設けられる。連結器は、当該鉄道車両を他の鉄道車両と連結する。連結器は、連結器体と、連結錠レバーと、連結錠と、を備える。連結器体は、連結面と、案内部と、を含む。連結面は、他の鉄道車両に対向する。案内部は、連結面から突出する。案内部は、錠室を有する。連結錠レバーは、連結面を挟んで案内部の反対側に配置される。連結錠の一部は、錠室内に収容される。連結錠は、水平断面視で半円状をなす。連結錠は、平坦面と、円弧面と、を含む。平坦面は、鉄道車両同士の連結状態において連結面に対して傾斜する。円弧面には、連結錠レバーが接続される。連結錠には、鉄道車両同士が分割される際、連結錠レバーから荷重が負荷される。これにより、連結錠は、錠室の壁面に押し付けられて他の鉄道車両側に回転する。壁面のうち、連結状態において連結錠の先端部が対向する位置から他の鉄道車両側の領域には、凹部が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る鉄道車両用の連結器によれば、連結錠の表面及び/又は錠室の壁面におけるかじりきずの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る鉄道車両用連結器の平面図である。
図2図2は、図1に示す連結器の内部構造を示す図である。
図3図3は、図2に示す連結器の錠室付近を拡大して示す図である。
図4A図4Aは、鉄道車両同士を分割するときの連結器の一連の動作を説明するための図であり、鉄道車両同士が連結状態にあるときの連結器を示す図である。
図4B図4Bは、鉄道車両同士を分割するときの連結器の一連の動作を説明するための図であり、分割準備が完了した状態の連結器を示す図である。
図4C図4Cは、鉄道車両同士を分割するときの連結器の一連の動作を説明するための図であり、分割途中における連結器を示す図である。
図4D図4Dは、鉄道車両同士を分割するときの連結器の一連の動作を説明するための図であり、分割完了時の連結器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る連結器は、鉄道車両に設けられる。連結器は、当該鉄道車両を他の鉄道車両と連結する。連結器は、連結器体と、連結錠レバーと、連結錠と、を備える。連結器体は、連結面と、案内部と、を含む。連結面は、他の鉄道車両に対向する。案内部は、連結面から突出する。案内部は、錠室を有する。連結錠レバーは、連結面を挟んで案内部の反対側に配置される。連結錠の一部は、錠室内に収容される。連結錠は、水平断面視で半円状をなす。連結錠は、平坦面と、円弧面と、を含む。平坦面は、鉄道車両同士の連結状態において連結面に対して傾斜する。円弧面には、連結錠レバーが接続される。連結錠には、鉄道車両同士が分割される際、連結錠レバーから荷重が負荷される。これにより、連結錠は、錠室の壁面に押し付けられて他の鉄道車両側に回転する。壁面のうち、連結状態において連結錠の先端部が対向する位置から他の鉄道車両側の領域には、凹部が形成されている(第1の構成)。
【0012】
第1の構成に係る連結器が設けられた鉄道車両が他の鉄道車両から分割される際、連結錠は、連結錠レバーからの負荷により、連結相手である他の鉄道車両側に回転する。このとき、連結錠が錠室の壁面に押し付けられるが、当該壁面のうち連結錠の先端部以降の領域には凹部が設けられているため、連結錠の先端部が錠室の壁面に接触しない。よって、錠室の壁面に微小な凸部が存在したとしても、連結錠の先端部がこの凸部を引きずることがなく、連結錠の表面及び/又は錠室の壁面におけるかじりきずの発生を低減することができる。
【0013】
上記連結器は、さらに、アクチュエータを備えることが好ましい。アクチュエータには、連結錠レバーが接続される。アクチュエータは、鉄道車両同士が分割される際に伸張して、連結錠レバーを介して連結錠を壁面に押し付ける(第2の構成)。
【0014】
凹部は、案内部の水平断面視で、連結状態における平坦面の延長線と壁面との交点よりも連結面側の位置から形成されていることが好ましい(第3の構成)。
【0015】
第3の構成によれば、錠室の壁面の凹部は、連結錠の平坦面よりも連結面側から形成される。これにより、平坦面と円弧面との接続部である連結錠の先端部が、錠室の壁面に接触するのをより確実に防止することができ、かじりきずの発生をさらに低減することができる。
【0016】
凹部は、案内部の水平断面視で円弧状の底部を有することが好ましい(第4の構成)。
【0017】
錠室の壁面において、凹部の底部は、連結相手である他の鉄道車両における連結器の連結錠を支持する部分である。このため、凹部の底部は、第4の構成のように、他の鉄道車両における連結器の連結錠に対応して円弧状をなすことが好ましい。これにより、錠室内での連結錠のガタつきを抑制することができ、互いに連結される鉄道車両において快適な乗り心地を提供することができる。
【0018】
壁面は、鉄道車両同士が分割される際に円弧面が摺動する摺動部を含むことができる。摺動部は、案内部の水平断面視で円弧状をなすとともに70mmの曲率半径を有することが好ましい。この場合、底部は、摺動部の曲率半径よりも0.6mm大きい曲率半径を有することができる。凹部は、案内部の水平断面視で、連結面から底部の曲率中心回りに43°以上44°以下の角度位置から90°の角度位置までの範囲にわたって形成されることが好ましい(第5の構成)。
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0020】
[連結器の構成]
図1及び図2は、実施形態に係る鉄道車両用の連結器10を模式的に示す図である。連結器10は、鉄道車両(図示略)に設けられ、当該鉄道車両を他の鉄道車両(図示略)と連結する。以下、説明の便宜上、連結器10が設けられる鉄道車両を本車両、本車両の連結相手である他の鉄道車両を相手車両という。図1は、本車両に取り付けられた状態の連結器10を上方から見た図(平面図)である。図2は、図1に示す連結器10の内部構造を示す図である。
【0021】
図1を参照して、連結器10は、いわゆる密着連結器である。連結器10は、連結器体11と、連結錠12と、連結錠レバー13と、アクチュエータ14と、を備える。
【0022】
図2を参照して、連結器体11は、本体部111と、案内部112と、案内挿入部113と、を含む。図2では、案内部112の水平断面が示されている。水平断面とは、連結器10が本車両に取り付けられた状態において、連結器10の中心軸Xを含む水平面で切断した面をいう。
【0023】
本体部111は、連結面1110を有する。連結面1110は、相手車両に対向する。連結面1110は、連結器10が本車両に取り付けられた状態において、相手車両側を向く鉛直面である。
【0024】
案内部112は、連結面1110から相手車両側に突出する。案内部112は、概略円錐状又は概略多角錐状をなす。案内部112の隣には、案内挿入部113が設けられている。案内挿入部113は、連結面1110から本車両側に窪む穴部である。案内挿入部113は、特に限定されるものではないが、例えば、案内部112の形状に対応する形状を有する。
【0025】
案内部112は、錠室1120を有する。錠室1120は、案内部112において、案内挿入部113側の側面に形成されている。錠室1120の詳細な構成については後述する。
【0026】
連結錠12は、その水平断面視で実質的に半円状をなす。連結錠12は、連結器体11内において、本体部111及び案内部112に跨って配置されている。連結錠12の一部は、錠室1120内に収容される。連結錠12は、回転軸Y周りに回転可能に構成されている。
【0027】
連結錠12は、平坦面121と、円弧面122と、を含む。
【0028】
鉄道車両同士の連結状態において、平坦面121は、連結器体11の連結面1110に対して傾斜する。平坦面121は、錠室1120内から本体部111内に向かって延びている。連結器10の水平断面視で、平坦面121(連結錠12)の中心点Oは、連結器10の中心軸Xと連結面1110との交点上に位置する。回転軸Yは、中心点Oを通り鉛直方向に延びる軸である。
【0029】
円弧面122は、平坦面121とともに、連結錠12の半円状の外形を形成する。円弧面122は、平坦面121の両端部と接続される。連結錠12において、平坦面121と円弧面122との接続部には、R面取り加工が施されていることが好ましい。平坦面121と円弧面122との両接続部のうち、錠室1120内に配置される方の接続部を、連結錠12の先端部123という。
【0030】
連結錠レバー13は、連結面1110を挟み、案内部112の反対側に配置されている。連結錠レバー13は、連結錠12の円弧面122に接続される。連結錠レバー13は、円弧面122から本体部111の外側まで延びている。連結錠レバー13は、連結錠12と一体的に形成することができる。
【0031】
アクチュエータ14は、連結錠レバー13を動作させるため、連結錠レバー13に接続されている。アクチュエータ14は、伸縮動作が可能な直動アクチュエータである。本実施形態におけるアクチュエータ14は、エアシリンダである。ただし、アクチュエータ14として、油圧、電動又は磁気アクチュエータ等を使用することもできる。なお、連結器10は、アクチュエータ14を備えていなくてもよい。すなわち、アクチュエータ14の代わりに、人力で連結錠レバー13を動作させることもできる。
【0032】
以下、図3を参照して、錠室1120の構成を詳細に説明する。図3は、図2に示す連結器10の錠室1120付近を拡大して示す図である。
【0033】
錠室1120は、案内部112の水平断面視で、概略1/4円状の空間である。錠室1120の壁面1120aは、摺動部1120bと、凹部1120cと、を含む。摺動部1120b及び凹部1120cは、連結面1110から相手車両側に向かって、この順で配置されている。
【0034】
摺動部1120bは、連結錠12が回転軸Y周りに回転したとき、円弧面122が摺動する部分である。摺動部1120bは、連結器10の水平断面視で、円弧面122に対応する円弧状をなす。すなわち、連結器10の水平断面視で、摺動部1120b及び円弧面122は、いずれも、連結錠12の中心点Oを曲率中心とする円弧状をなす。摺動部1120bの曲率半径は、連結錠12の曲率半径と実質的に等しい。
【0035】
凹部1120cは、底部1120dと、寸法変化部1120eと、を有する。
【0036】
底部1120dは、案内部112の水平断面視で円弧状をなす。底部1120dは、摺動部1120bと同様、連結錠12の中心点Oを曲率中心とする円弧状をなす。ただし、底部1120dの曲率半径Rdは、摺動部1120bの曲率半径Rbよりも大きい。底部1120dの曲率半径Rdと摺動部1120bの曲率半径Rbとの差は、連結器10の各部の寸法等にもよるが、例えば0.1mm~2mmとすることができる。摺動部1120bの曲率半径Rbが実質的に70mmである場合、底部1120dの曲率半径Rdは、摺動部1120bの曲率半径Rbよりも略0.6mm大きいことが好ましい。ただし、ここでの曲率半径Rb,Rdは、設計値であり、実製品における製造上の誤差等は許容されるものとする。また、曲率半径Rb,Rd等の寸法は、本実施形態における例示に限定されるものではない。
【0037】
寸法変化部1120eは、摺動部1120bから底部1120dに向かい、錠室1120の壁面1120aの寸法(曲率半径)を変化させるための傾斜面である。寸法変化部1120eは、摺動部1120bと底部1120dとを滑らかに接続する。
【0038】
凹部1120cは、錠室1120の壁面1120aのうち、鉄道車両同士の連結状態で連結錠12の先端部123が対向する位置から相手車両側の領域全体にわたって形成されている。壁面1120aに先端部123が対向する位置、すなわち、壁面1120aにおける凹部1120cの開始位置は、連結器10の水平断面視で、連結面1110からの中心点O周りの角度θで表すことができる。凹部1120cの開始位置は、例えば、θ=40°~50°の角度位置である。凹部1120cの終了位置も、連結面1110からの中心点O周りの角度θで表すことができる。凹部1120cの終了位置は、概ねθ=90°の角度位置である。
【0039】
凹部1120cは、連結器10の水平断面視で、平坦面121の延長線と壁面1120aとの交点よりも連結面1110側の角度位置から形成されていることが好ましい。連結面1110から上記交点までの中心点O周りの角度αは、概ね47°である。よって、凹部1120cは、θ<47°の角度位置から形成されていることが好ましい。
【0040】
平坦面121と円弧面122との接続部にR面取り加工が施され、先端部123が円弧状である場合、凹部1120cは、先端部123の連結面1110側のRエンドに対応する角度位置か、当該Rエンドよりも連結面1110側の角度位置から形成されることが好ましい。連結面1110から上記Rエンドに対応する位置までの中心点O周りの角度は、概ね44°である。よって、凹部1120cは、θ≦44°の角度位置から形成されることがより好ましい。さらに好ましくは、凹部1120cは、43°≦θ≦44°の角度位置から形成される。凹部1120cは、θ≦43°の角度位置から形成されていてもよい。
【0041】
このように、凹部1120cは、好ましくはθ<47°の角度位置からθ=略90°の角度位置までの範囲、より好ましくはθ≦44°の角度位置からθ=略90°の角度位置までの範囲、さらに好ましくは43°≦θ≦44°の角度位置からθ=略90°の角度位置までの範囲にわたって形成される。ただし、角度θは、設計値であり、実製品における製造上の誤差等は許容されるものとする。
【0042】
[連結器の分割動作]
次に、鉄道車両同士を分割するときの連結器10の一連の動作について、図4A図4Dを参照しつつ説明する。図4A図4Dでは、本車両に設けられている連結器10と、相手車両に設けられている連結器20とを示す。連結器20は、連結器10と同一の構成を有する。図4Aは、鉄道車両同士が連結状態にあるときの連結器10,20を示す図である。図4Bは、分割準備が完了した状態の連結器10,20を示す図である。図4Cは、分割途中における連結器10,20を示す図である。図4Dは、分割完了時の連結器10,20を示す図である。
【0043】
図4Aを参照して、連結状態では、連結器10の案内部112が連結器20の案内挿入部213に挿入され、連結器20の案内部212が連結器10の案内挿入部113に挿入されている。このとき、連結器10の連結錠12は、その一部が自身の錠室1120内に配置されているとともに、別の一部が、連結器20の錠室2120内に配置されている。一方、連結器20の連結錠22も、その一部が自身の錠室2120内に配置されているとともに、別の一部が、連結器10の錠室1120内に配置されている。また、連結器10,20の連結面1110,2110は、互いに密着している。
【0044】
鉄道車両同士が分割される際には、連結器10のアクチュエータ14、及び連結器20のアクチュエータ24が、それぞれ、連結錠レバー13,23を介し、連結錠12,22を錠室1120,2120の壁面1120a,2120aに押し付ける。すなわち、アクチュエータ14,24の各々に空気が供給されることにより、アクチュエータ14,24が伸長して、連結錠レバー13,23から連結錠12,22に伸長方向Aの荷重が負荷される。
【0045】
伸長方向Aの荷重を受けた連結錠12は、錠室1120の壁面1120aに押し付けられる。より詳細には、連結錠12の円弧面122が摺動部1120b(図3)に押し付けられる。これにより、連結錠12が摺動部1120bに沿い、回転方向Bに回転し始める。連結錠12の回転に伴い、連結器20の錠室2120内にあった連結錠12の一部が錠室2120から抜けていく。
【0046】
上述したように、連結錠12は、その回転に際し、錠室1120の壁面1120aに押し付けられる。ただし、壁面1120aには、連結錠12の先端部123に対向する位置から凹部1120c(図3)が形成されているため、連結錠12の先端部123(図3)は、実質的に壁面1120aに接触しない。凹部1120cは、壁面1120aにおいて、回転開始時における連結錠12の先端部123の位置以降、回転方向B側の領域全体にわたって設けられている。このため、連結錠12が回転方向Bに回転している間、先端部123は、錠室1120の壁面1120aには接触しない。
【0047】
同様に、伸長方向Aの荷重を受けた連結錠22も、回転方向Bに回転する。連結錠22の回転に伴い、連結器10の錠室1120内にあった連結錠22の一部が錠室1120から抜けていく。連結錠22の回転中、錠室2120の壁面2120aに円弧面222が押し付けられ、壁面2120aの摺動部上を摺動する。ただし、連結錠22の先端部は、壁面2120aに設けられた凹部により、連結錠22の回転中、壁面2120aに接触しない。
【0048】
連結錠12,22は、図4Bに示すように、平坦面121,221が中心軸Xと合致するまで回転する。平坦面121,221が中心軸Xに合致した時点で、連結錠12,22の各々が錠室2120,1120から完全に抜き出され、分割準備完了となる。
【0049】
分割準備が完了したら、本車両及び相手車両のうち、一方の鉄道車両を他方の鉄道車両から離れる方向(分割方向)に移動させる。これに伴い、図4Cに示すように、連結器10,20が離間して、全面接触していた連結錠12,22の平坦面121,221がずれていく。
【0050】
図4Dを参照して、平坦面121,221が完全に非接触となるまで鉄道車両を移動し、連結器10,20が切り離されると、アクチュエータ14,24内の空気が排出され、アクチュエータ14,24が収縮する。連結錠12,22は、連結錠レバー13,23に接続されている戻しばね(図示略)により、回転方向B(図4A)と逆の回転方向Cに回転する。これにより、鉄道車両同士の分割が完了する。
【0051】
[実施形態の効果]
本実施形態に係る連結器10では、分割動作の際、連結錠12が錠室1120の壁面1120aに押し付けられ、回転方向Bに回転する。ただし、壁面1120aには、連結錠12の先端部123に対向する位置から凹部1120cが形成されているため、連結錠12の先端部123は、実質的に壁面1120aに接触しない。よって、壁面1120aに微小な凸部が存在したとしても、連結錠12の先端部123がこの凸部を引きずることがなく、連結錠12の表面及び/又は錠室1120の壁面1120aにおけるかじりきずの発生を低減することができる。
【0052】
本実施形態において、凹部1120cは、好ましくは、連結器10(案内部112)の水平断面視で、平坦面121の延長線と壁面1120aとの交点よりも連結面1110側の位置から形成される。これにより、壁面1120aに対する連結錠12の先端部123の接触をより確実に防止することができ、かじりきずの発生をさらに低減することができる。
【0053】
連結状態では、相手車両における連結器20の連結錠22の一部は、本車両における連結器10の錠室1120内に配置されている。より詳細には、連結錠22の円弧面222の一部は、錠室1120の壁面1120aに設けられた凹部1120cの底部1120dに対向する。すなわち、底部1120dは、連結状態において、相手車両の連結器20の連結錠22を支持する部分である。このため、本実施形態において、底部1120dは、連結錠22の円弧面222に対応して、連結器10(案内部112)の水平断面視で円弧状をなす。これにより、錠室1120内における連結錠22のガタつきを抑制することができ、互いに連結される鉄道車両において、快適な乗り心地を提供することができる。
【0054】
ただし、凹部1120cの形状は、本実施形態で説明した形状に限定されるものではない。すなわち、凹部1120cの底部1120dの形状は、連結器10の水平断面視で円弧状でなくてもよい。
【0055】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例
【0056】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
図1図3に示す構造を有する連結器において、凹部1120cの最適な形成開始位置(角度θ)につき、机上検討を行った。
【0058】
机上検討では、凹部1120cを形成し始める位置(摺動部1120bと寸法変化部1120eとの境界)の角度θを変更しながら、連結面間の隙間の大きさ、及び錠室のかじりきず長さの変化を確認した。連結面間の隙間とは、連結状態の連結器同士において、連結錠と錠室との寸法差により、引張条件下で発生する連結面間の隙間である。かじりきず長さとは、連結錠が回転したとき、連結錠の先端部が錠室の壁面と接触して動作する長さである。具体的には、かじりきず長さとは、先端部123の連結面1110側のRエンドから、摺動部1120bと寸法変化部1120eとの境界までの長さであり、当該境界がRエンドよりも連結面1110側にある場合を負、連結面1110の反対側にある場合を正とする。
【0059】
机上検討では、摺動部1120bの曲率半径Rbを70mm、凹部1120c(底部1120d)の曲率半径Rdを70.6mmの場合の確認を行った。確認結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1において、θ=90°とは、凹部1120cが設けられていない従来の連結器であることを意味する。θ=90°の場合、かじりきず長さが43.8mmであり、連結錠が回転したとき、連結錠の先端部が錠室の壁面と長く接触する。このため、連結錠の表面や錠室の壁面にかじりきずが発生する可能性が高い。
【0062】
一方、凹部1120cが設けられた連結器(θ=40°~45°)のうち、θ≦44°のものでは、かじりきず長さが0未満となる。このため、θ≦44°とすれば、連結錠12が回転したとき、連結錠12の先端部123が錠室1120の壁面1120aが接触せず、かじりきずが発生しない。θ=45°であっても、かじりきず長さが0に近く、連結錠12が回転したとき、先端部123が壁面1120aにほとんど接触しないため、かじりきずが発生する可能性は小さい。よって、錠室1120の壁面1120aに凹部1120cを設けることで、かじりきずの発生を低減することができる。
【0063】
表1に示すように、連結面間の隙間は、角度θが40°~42°で1.2mm、角度θが43°~45°で1.1mmとなる。すなわち、θ≧43°であれば、連結面間の隙間が比較的小さく、連結器のガタつきが小さくなるといえる。連結面間の隙間及びかじりきず長さの双方を考慮すると、角度θは、43°以上44°以下とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
10:連結器
11:連結器体
1110:連結面
112:案内部
1120:錠室
1120a:壁面
1120b:摺動部
1120c:凹部
12:連結錠
121:平坦面
122:円弧面
123:先端部
13:連結錠レバー
14:アクチュエータ
Rb,Rd:曲率半径
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D