(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】ワーク保持装置
(51)【国際特許分類】
F16C 32/06 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
F16C32/06 A
(21)【出願番号】P 2018236619
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 琢哉
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-132466(JP,A)
【文献】特開2000-145777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の側面を非接触状態で支持し軸部材と相対的に移動する静圧気体軸受ユニットと、該静圧気体軸受ユニットを包囲するハウジングとを備えたワーク保持装置であって、
前記静圧気体軸受ユニットが、前記軸部材と対向配置して前記軸部材との間隙に気体を噴出する気体噴出部材と、該気体噴出部材と外部給気源とを連通させる継手部材とを有し、
前記静圧気体軸受ユニットと前記ハウジングとの間に弾性支持体が設けられ
、
該弾性支持体が、前記静圧気体軸受ユニットの周方向に沿って複数設けられていることを特徴とするワーク保持装置。
【請求項2】
前記弾性支持体の支持剛性が、前記静圧気体軸受ユニットの軸受剛性より小さいことを特徴とする請求項1に記載のワーク保持装置。
【請求項3】
前記軸部材の軸方向に沿う前記弾性支持体の長さが、前記軸部材の軸方向に沿う前記静圧気体軸受ユニットの長さより短いことを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載のワーク保持装置。
【請求項4】
前記ハウジングが、貫通孔を有しており、
前記静圧気体軸受ユニットの継手部材と前記外部給気源とを連通する管部材が、前記貫通孔に遊挿されていることを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれか1項に記載のワーク保持装置。
【請求項5】
前記静圧気体軸受ユニットの気体噴出部材が、多孔質材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項
4のいずれか1項に記載のワーク保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材の側面を非接触状態で支持し軸部材と相対的に移動する静圧気体軸受ユニットと、静圧気体軸受ユニットを包囲するハウジングとを備えたワーク保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを保持するワーク保持装置に用いるエアスライド装置として、固定されたガイドと、このガイド上に滑走する移動体とを備えたエアスライド装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このエアスライド装置は、移動体からガイドへ加圧空気を噴出することで移動体とガイドとの間に空気膜を発生させ、この空気膜により移動体をガイドから浮上させて、非接触状態で移動体の移動方向を案内する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、特許文献1に記載されているようなエアスライド装置において、移動体を数Hz程度で往復動させると、往復動の周波数が高すぎて、移動体とガイドとの間にある空気膜だけでは、ガイドに対する移動体の偏心や偏角を許容できない恐れがある。
【0006】
また、加圧空気を噴出する移動体に対してガイドを移動させた場合であっても、前述したようなガイドに対して移動体を移動させる場合と同様に、移動体に対するガイドの偏心や偏角を許容できない恐れがある。
【0007】
移動体とガイドとの間に許容できないような、すなわち、移動体とガイドとの間に形成される空気膜ではカバーできないような偏心や偏角があると、移動体とガイドとが接触してしまい、移動体とガイドとの間の相対的な直線移動が十分に実現できなくなる恐れがある。
【0008】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、軸部材との間に相対的な高速往復動が発生したとしても、軸部材との間で相対的な直線運動を安定して実現するワーク保持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、軸部材の側面を非接触状態で支持し軸部材と相対的に移動する静圧気体軸受ユニットと、該静圧気体軸受ユニットを包囲するハウジングとを備えたワーク保持装置であって、前記静圧気体軸受ユニットが、前記軸部材と対向配置して前記軸部材との間隙に気体を噴出する気体噴出部材と、該気体噴出部材と外部給気源とを連通させる継手部材とを有し、前記静圧気体軸受ユニットと前記ハウジングとの間に弾性支持体が設けられ、該弾性支持体が、前記静圧気体軸受ユニットの周方向に沿って複数設けられていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたワーク保持装置の構成に加えて、前記弾性支持体の支持剛性が、前記静圧気体軸受ユニットの軸受剛性より小さいことにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたワーク保持装置の構成に加えて、前記軸部材の軸方向に沿う前記弾性支持体の長さが、前記軸部材の軸方向に沿う前記静圧気体軸受ユニットの長さより短いことにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載されたワーク保持装置の構成に加えて、前記ハウジングが、貫通孔を有しており、前記静圧気体軸受ユニットの継手部材と前記外部給気源とを連通する管部材が、前記貫通孔に遊挿されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載されたワーク保持装置の構成に加えて、前記静圧気体軸受ユニットの気体噴出部材が、多孔質材料で形成されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のワーク保持装置は、静圧気体軸受ユニットを備えていることにより、軸部材の側面を非接触状態で支持できるとともに、以下のような本発明に特有の効果を奏することができる。
【0015】
請求項1に係る発明のワーク保持装置によれば、弾性支持体が、ハウジングと静圧気体軸受ユニットとの間に設けられていることにより、軸部材を固定して、ワーク保持装置を動かす場合においては、静圧気体軸受ユニットに対してハウジングを偏角または偏心させるような力やモーメントがワークからハウジングに加わったとしても、弾性支持体の変形によってハウジングに加わった力やモーメントによる運動エネルギーが弾性支持体に吸収されるため、ワーク保持装置がワークを保持した状態で軸部材に対して高速で往復動したとしても、軸部材と静圧気体軸受ユニットとの間の軸受隙間を変動させるような力やモーメントのハウジングから静圧気体軸受ユニットへの伝達を緩和し、ワークの安定した直線移動を実現することができる。
換言すれば、弾性支持体が静圧気体軸受ユニットとハウジングとの間の偏心または偏角の少なくとも1つを吸収するため、軸部材と静圧気体軸受ユニットとの間の軸受隙間が変動しにくくなり、軸部材との間に相対的な高速往復動が発生したとしても、軸部材との間で相対的な直線運動を安定して実現することができる。
さらに、弾性支持体が、静圧気体軸受ユニットの周方向に沿って複数設けられていることにより、弾性支持体が、静圧気体軸受ユニットの周方向に沿って分散された配置状態となるため、弾性支持体どうしの配置間隔や弾性支持体の配置数が任意に変更可能となり、その結果、弾性支持体全体としての支持剛性を容易に調整することができる。
【0016】
請求項2に係る発明のワーク保持装置によれば、請求項1に係る発明のワーク保持装置が奏する効果に加えて、弾性支持体の支持剛性が、静圧気体軸受ユニットの軸受剛性より小さいことにより、軸部材を固定して、ワーク保持装置を動かす場合において、ワークによる慣性力や慣性モーメントがワーク保持装置に負荷されたとしても、静圧気体軸受ユニットと軸部材との間の軸受隙間が変動すると共に弾性支持体が変形するため、静圧気体軸受ユニットと軸部材との間の軸受隙間の変動を最小限に抑えることができる。
【0017】
請求項3に係る発明のワーク保持装置によれば、請求項1または請求項2に係る発明のワーク保持装置が奏する効果に加えて、軸部材の軸方向に沿う弾性支持体の長さが、軸部材の軸方向に沿う静圧気体軸受ユニットの長さより短いことにより、弾性支持体全体としての支持剛性が下がり、弾性支持体の変位の自由度が大きくなるため、より大きな偏角を吸収することができる。
【0018】
請求項4に係る発明のワーク保持装置によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに係る発明のワーク保持装置が奏する効果に加えて、静圧気体軸受ユニットの継手部材と外部給気源とを連通する管部材が、貫通孔に遊挿されていることにより、静圧気体軸受ユニットが軸部材に対して偏心または偏角したとしても、静圧気体軸受ユニットに接続された管部材がハウジングに当接しにくくなっているため、継手部材とハウジングとの接触を回避することが可能となり、静圧気体軸受ユニットの軸部材に対する偏心または偏角の伝達を緩和することができる。
【0019】
請求項5に係る発明のワーク保持装置によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに係る発明のワーク保持装置が奏する効果に加えて、静圧気体軸受ユニットの気体噴出部材が、多孔質材料で形成されていることにより、軸受面全体から気体を噴出して、軸受面全体で軸部材を支持可能となるため、静圧気体軸受ユニットの剛性や負荷容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施例であるエアスライド装置の斜視図。
【
図3A】
図1に示すエアスライド装置に回転モーメントが働いた状態を示すエアスライド装置の断面図。
【
図3B】
図1に示すエアスライド装置に荷重が働いた状態を示すエアスライド装置の正面図。
【
図4】本発明の第2実施例であるエアスライド装置の正面図。
【
図5】本発明の第3実施例であるワーク保持装置の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、軸部材の側面を非接触状態で支持し軸部材と相対的に移動する静圧気体軸受ユニットと、この静圧気体軸受ユニットを包囲するハウジングとを備えたワーク保持装置であって、静圧気体軸受ユニットが、軸部材と対向配置して軸部材との間隙に気体を噴出する気体噴出部材と、この気体噴出部材と外部給気源とを連通させる継手部材とを有し、静圧気体軸受ユニットとハウジングとの間に弾性支持体が設けられ、この弾性支持体が、静圧気体軸受ユニットの周方向に沿って複数設けられていることにより、軸部材に対して高速で往復動したとしても、軸部材との間に相対的な高速往復動が発生したとしても、軸部材との間で相対的な直線運動を安定して実現するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0022】
例えば、静圧気体軸受ユニットの気体噴出部材の形式は、自成絞り、オリフィス絞り、多孔質絞りなど、いかなるものであってもよい。
【0023】
例えば、軸部材の断面形状は、円形であってもよいし、矩形であってもよい。
【0024】
例えば、本発明のワーク保持装置で用いられるワークは、移動する部材に設けられていれば、軸部材に設けられていてもよいし、ハウジングに設けられていてもよい。
【実施例1】
【0025】
以下、
図1乃至
図3Bに基づいて、本発明のワーク保持装置の第1実施例であるエアスライド装置100を説明する。
【0026】
<1.本発明の第1実施例であるエアスライド装置100の構造>
まず、
図1乃至
図2Bに基づいて、本発明の第1実施例であるエアスライド装置100の構造を説明する。
図1は本発明の第1実施例であるエアスライド装置の斜視図であり、
図2Aは
図1に示すエアスライド装置の正面図であり、
図2Bは
図2AのII-II断面図である。
【0027】
本発明の第1実施例であるエアスライド装置100は、
図1等に示すように、円形断面を有する固定軸(軸部材)Sの半径方向の荷重を受ける軸受ユニット(静圧気体軸受ユニット)110と、この軸受ユニット110を包囲するハウジング120と、軸受ユニット110とハウジング120との間に設けられる弾性支持体130とを備えている。
【0028】
また、エアスライド装置100には、
図1等に示すように、外部給気源(図示せず)と連通するチューブ(管部材)Tが遊挿されている。
これにより、エアスライド装置100は、チューブTから圧縮空気を得て、固定軸Sとの間で空気膜を生成可能となっている。
そして、エアスライド装置100と固定軸Sとの間に空気膜を生成することで、エアスライド装置100と固定軸Sとの間は非接触状態となり、エアスライド装置100は固定軸S上を軸方向に滑らかに移動自在となる。
以下、エアスライド装置100の移動可能方向を「前後方向」とし、前後方向および鉛直方向(上下方向)と直交する方向を「左右方向」とする。
【0029】
さらに、エアスライド装置100はハウジング120の下方に移動対象物(ワーク)Wを保持しており、エアスライド装置100はこの移動対象物Wの直線移動を案内している。
また、この移動対象物Wには、移動対象物Wを移動させるアクチュエーター(図示せず)が取り付けられており、アクチュエーターの駆動によって、移動対象物Wを介してエアスライド装置100が固定軸Sに対して直線移動する。
【0030】
<1.1.軸受ユニット>
軸受ユニット110は、固定軸Sの半径方向の荷重を受けるため、ジャーナル軸受ユニットとなっている。
そして、軸受ユニット110は、気体を噴出可能な円筒状の多孔質金属部材(気体噴出部材)111と、この多孔質金属部材111に積層配置して多孔質金属部材111を保持する円筒状のバックメタル部材112と、このバックメタル部材112に取り付けて多孔質金属部材111と外部給気源とを連通させる継手部材113とを有している。
【0031】
多孔質金属部材111は、軸受ユニット110が固定軸Sに挿通された場合に、この固定軸Sと対向配置される。
また、この多孔質金属部材111の短手方向の面である端面111a(
図2B参照)には、気体の噴出を防ぐために封孔処理が成されている。
【0032】
バックメタル部材112は、多孔質金属部材111と焼結にて接合されており、多孔質金属部材111と一体になっている。
なお、バックメタル部材112の厚みは多孔質金属部材111の厚みより大きくなっており、バックメタル部材112は多孔質金属部材111を補強する部材として機能する。
【0033】
また、バックメタル部材112は、段付き貫通孔112aが設けられており、大径側の1段目には雌ネジが形成されている。
【0034】
継手部材113は、一端がバックメタル部材112の段付き貫通孔112aの雌ネジに螺合される雄ネジとなっており、他端がチューブTと接続されるチューブ継手113aとなっている(
図1参照)。
【0035】
<1.2.ハウジング>
ハウジング120は、
図2A等に示すように、半円筒状の上側ハウジング121と、同じく半円筒状の下側ハウジング122を有している。
この上側ハウジング121と下側ハウジング122とは、複数のボルトにより締結されている。
そして、ハウジング120の内半径Rhは、軸受ユニット110の外半径Rbより大きくなっている。
【0036】
上側ハウジング121の頂部には、貫通孔121aが形成されている。
この貫通孔121aは、
図2B等に示すように、軸受ユニット110をハウジング120に組み付けた際に、軸受ユニット110の継手部材113のチューブ継手113aが挿通される。
したがって、貫通孔121aの直径Dは、
図2Bに示すように、チューブ継手113aに接続されるチューブTの直径φtより大きく、軸受ユニット110の継手部材113の直径φfよりも大きい。
【0037】
下側ハウジング122の底部には、移動対象物Wを保持する平坦面122aが形成されている。
移動対象物Wの平坦面122aへの装着は、ボルト締結や係合で行われる。
【0038】
<1.3.弾性支持体>
弾性支持体130は、JIS K 2207で規定される針入度が5~250程度のゲル状素材で作製されており、一般的なOリングよりも柔らかくなっている。
本実施例では、弾性支持体130の具体的な素材として、シリコーン系のゲルが使用されるが、ゲルはウレタン系、アクリル系等であってもよい。
具体的には、シリコーン系では株式会社タイカのアルファーゲル(登録商標)や、ウレタン系では株式会社エクシールのゲルタックシートや、アクリル系では積水化成品工業株式会社のテクノゲル(登録商標)Gグレード等が挙げられる。
また、弾性支持体130の支持剛性(単位長さ分変形させるために必要な力)は、軸受ユニット110の軸受剛性(所定の軸受隙間において、軸受が支持している部材を単位長さ動かすために必要な力)より小さくなっている。
【0039】
さらに、弾性支持体130の厚みは、ハウジング120に加わった力などに対する軸受ユニット110への影響を緩和する、いわゆる軸受ユニット110の「逃げ」として機能するために、1mm以上10mm以下、より好ましくは5mm以下であることが好ましい。
【0040】
この弾性支持体130は、
図2Aに示すように、軸受ユニット110の周方向に沿って等間隔に3枚設けられている。
また、弾性支持体130の幅(固定軸Sの軸方向に沿う長さ)Weは、軸受ユニット110の幅(固定軸Sの軸方向に沿う長さ)Wbより短い。
【0041】
<1.4.弾性支持体による運動エネルギーの吸収>
次に、
図3Aおよび
図3Bに基づいて、上述のように構成されたエアスライド装置100が移動対象物Wを保持した状態でエアスライド装置100を固定軸S上で数Hzの振動数で往復動させたときに、移動対象物Wの慣性力や慣性モーメントがハウジング120に加わった際のエアスライド装置100の挙動について説明する。
図3Aは
図1に示すエアスライド装置に回転モーメントが働いた状態を示すエアスライド装置の断面図であり、
図3Bは
図1に示すエアスライド装置に荷重が働いた状態を示すエアスライド装置の正面図である。
【0042】
<1.4.1.エアスライド装置に回転モーメントが働いた場合>
まず、
図3Aに基づいて、エアスライド装置100に回転モーメントが働いた場合について説明する。
【0043】
移動対象物Wの慣性力や慣性モーメントがハウジング120に働いて、エアスライド装置100に対してP方向の回転モーメントが働いたとする。
このとき、弾性支持体130の支持剛性が軸受ユニット110の軸受剛性より小さくなっていることから、まず弾性支持体130が変形して、
図3Aのようなハウジング120が鉛直方向からP方向にθだけ偏角する。
【0044】
この状態において、弾性支持体130は自身の弾性により元の形状に戻ろうとするため、ハウジング120(および軸受ユニット110)には復元モーメントRmが働く。
ここで、弾性支持体130の支持剛性が軸受ユニット110の軸受剛性より小さくなっている、すなわち、軸受ユニット110の軸受剛性が弾性支持体130の支持剛性より大きくなっていることから、弾性支持体130による復元モーメントRmによって軸受ユニット110はほぼ動かず、ハウジング120だけが回転移動し、軸受ユニット110とハウジング120とは
図2Aのような位置関係に復元される。
【0045】
すなわち、エアスライド装置100に回転モーメントが働いたとしても、弾性支持体130が回転モーメントによる運動エネルギーを吸収することで、軸受ユニット110とハウジング120との位置関係が保たれる。
なお、偏角の方向として、左右方向を軸にして回転させる「ピッチ」方向、前後方向を軸にして回転させる「ロール」方向、上下方向を軸にして回転させる「ヨー」方向があり得るが、本実施例のエアスライド装置100は、固定軸Sの断面が円形であるため、「ピッチ」方向および「ヨー」方向にのみ偏角するが、いずれの方向に対しても同様に動作するため、ここでは「ピッチ」方向の偏角についてのみ説明した。
【0046】
<1.4.2.エアスライド装置に荷重が働いた場合>
次に、
図3Bに基づいて、エアスライド装置100に荷重が働いた場合について説明する。
【0047】
移動対象物Wの慣性力や慣性モーメントがハウジング120に働いて、エアスライド装置100に対してQ方向の荷重が働いたとする。
このとき、弾性支持体130の支持剛性が軸受ユニット110の軸受剛性より小さくなっていることから、まず弾性支持体130が変形して、
図3Bのようなハウジング120がδだけ上向きに移動する。
なお、
図3Bに示すO1はQ方向に荷重が加わる前のハウジング120の中心であり、O2は移動後のハウジング120の中心である。
【0048】
この状態において、弾性支持体130は自身の弾性により元の形状に戻ろうとするため、ハウジング120(および軸受ユニット110)には復元力Rfが働く。
ここで、前述のように、軸受ユニット110の軸受剛性が弾性支持体130の支持剛性より大きくなっていることから、弾性支持体130による復元力Rfによって軸受ユニット110は動かず、ハウジング120だけが並行移動し、軸受ユニット110とハウジング120とは
図2Aのような位置関係に復元される。
【0049】
すなわち、エアスライド装置100に荷重が働いたとしても、弾性支持体130が荷重による運動エネルギーを吸収することで、軸受ユニット110とハウジング120との位置関係が保たれる。
なお、偏心方向として、左右方向、前後方向、上下方向の3方向があり得るが、本実施例のエアスライド装置100は、左右方向および上下方向のいずれの方向に対しても同様に動作するため、ここでは上下方向の偏心についてのみ説明した。
【0050】
<1.5.本実施例の作用効果>
上述した本実施例であるエアスライド装置100は、固定軸Sの側面方向の荷重を受ける軸受ユニット110と、この軸受ユニット110を包囲すると共に移動対象物Wを保持するハウジング120とを備え、移動対象物Wを固定軸Sに対して直線移動自在に保持するエアスライド装置であって、軸受ユニット110が、固定軸Sと対向配置して固定軸Sとの間隙に気体を噴出する気体噴出部材である多孔質金属部材111と、この多孔質金属部材111と外部給気源とを連通させる継手部材113とを有し、ハウジング120と軸受ユニット110との間の偏心または偏角の少なくとも1つを吸収する弾性支持体130が、軸受ユニット110とハウジング120との間に設けられていることにより、軸受ユニット110に対してハウジング120を偏角または偏心させるような力やモーメントがワークである移動対象物Wからハウジング120に加わったとしても、弾性支持体130の変形によってハウジング120に加わった力やモーメントによる運動エネルギーが弾性支持体130に吸収されるため、エアスライド装置100が移動対象物Wを保持した状態で軸部材である固定軸Sに対して高速で往復動したとしても、固定軸Sと軸受ユニット110との間の軸受隙間を変動させるような力やモーメントのハウジング120から軸受ユニット110への伝達を緩和し、移動対象物Wの安定した直線移動を実現することができる。
換言すれば、弾性支持体130がハウジング120と軸受ユニット110との間の偏心または偏角の少なくとも1つを吸収するため、固定軸Sと軸受ユニット110との間の軸受隙間が変動しにくくなり、固定軸Sとの間に相対的な高速往復動が発生したとしても、固定軸Sとの間で相対的な直線運動を安定して実現することができる。
すなわち、アクチュエーターにより移動対象物Wを移動させる際に、アクチュエーターの作動方向(すなわち、移動対象物Wの移動方向)と固定軸Sの伸びる方向とが偏心または偏角していても、弾性支持体130がこの偏心または偏角を吸収するため、移動対象物Wの安定した直線移動を実現することができる。
【0051】
また、移動対象物Wによる慣性力や慣性モーメントがエアスライド装置100に負荷されたとしても、軸受ユニット110と固定軸Sとの間の軸受隙間が変動すると共に弾性支持体130が変形するため、軸受ユニット110と固定軸Sとの間の軸受隙間の変動を最小限に抑えることができる。
【0052】
また、弾性支持体130が、軸受ユニット110の周方向に沿って分散された配置状態となるため、弾性支持体130どうしの配置間隔や弾性支持体130の配置数が任意に変更可能となり、その結果、弾性支持体130全体としての支持剛性を容易に調整することができる。
【0053】
また、弾性支持体130全体としての支持剛性が下がり、弾性支持体の変位の自由度が大きくなるため、より大きな偏角を吸収することができる。
【0054】
また、軸受ユニット110が固定軸Sに対して偏心または偏角したとしても、軸受ユニット110に接続された管部材であるチューブTがハウジング120に当接しにくくなっているため、継手部材113とハウジング120との接触を回避することが可能となり、軸受ユニット110の固定軸Sに対する偏心または偏角の伝達を緩和することができる。
【0055】
また、軸受面全体から気体を噴出して、軸受面全体で固定軸Sを支持可能となるため、軸受ユニット110の剛性や負荷容量を高めることができる。
【実施例2】
【0056】
次に、本発明の第2実施例である
図4を用いて、本発明のワーク保持装置の第2実施例であるエアスライド装置200について説明する。
第2実施例のエアスライド装置200は、第1実施例のエアスライド装置100における軸受ユニット110の形状を変更したものであり、多くの要素について第1実施例のエアスライド装置100と共通するので、共通する事項については詳しい説明を省略し、下2桁が共通する200番台の符号を付すのみとする。
【0057】
図4に示すように、軸受ユニット210は、継手部材213がバックメタル部材212に埋め込まれている。
したがって、ハウジング220の貫通孔221aには、チューブ継手213aに接続されたチューブTのみが挿通された状態となっている。
この状態であっても、ハウジング220の貫通孔221aの直径Dが、チューブTの直径φtよりも大きいため、第1実施例と同様の機能を奏することが可能となっている。
【実施例3】
【0058】
次に、本発明の第3実施例である
図5を用いて、本発明の第3実施例であるワーク保持装置300について説明する。
図5は、本発明の第3実施例であるワーク保持装置の斜視図である。
第3実施例のワーク保持装置300は、第1実施例から運動するものを変更したものであり、多くの要素について第1実施例のワーク保持装置100と共通するので、共通する事項については詳しい説明を省略し、下2桁が共通する300番台の符号を付すのみとする。
【0059】
図5に示すように、第3実施例では、ワーク保持装置300を固定して、軸部材Sを直線運動させる。
このとき、軸部材Sを数Hzで往復動させたとしても、軸受ユニット310とハウジング320との間に設けられた弾性支持体(図示せず)により、ワーク保持装置300と軸部材Sとの間に形成される軸受隙間を所定の範囲内に保つことができる。
【0060】
<変形例>
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。
【0061】
例えば、上述した実施例において、ハウジングは上側ハウジングおよび下側ハウジングの2部材をボルトで締結することで一体となっているが、ハウジングが一部材であってもよい。
【0062】
例えば、上述した実施例において、移動対象物の平坦面への装着は、ボルト締結や係合で行われていたが、これに限定されるものではない。
【0063】
例えば、本発明の多孔質金属部材は、気体をその表面から噴出できるものであれば、材質や空孔率は如何なるものであってもよい。
また、多孔質金属部材の軸受面以外に封止処理を行ってもよく、この場合はバックメタル部材を省いて、継手部材を直接多孔質金属部材に取り付けてもよい。
【0064】
例えば、本発明の継手部材が取り付けられるバックメタル部材の位置は、バックメタル部材の周側面であっても、端面(短手方向の面)であってもよい。
【0065】
例えば、上述した実施例において、弾性支持体を軸受ユニットに周方向に沿って3枚取り付けていたが、弾性支持体の枚数は1枚、もしくは固定軸の軸方向に沿って2枚以上でもよく、枚数や配置箇所は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0066】
100、 200 ・・・ エアスライド装置(ワーク保持装置)
300 ・・・ ワーク保持装置
110、 210、310 ・・・ 軸受ユニット(静圧気体軸受ユニット)
111、 211 ・・・ 多孔質金属部材(気体噴出部材)
111a ・・・ 端面
112、 212 ・・・ バックメタル部材
112a ・・・ 段付き貫通孔
113、 213 ・・・ 継手部材
113a ・・・ チューブ継手
120、 220、320 ・・・ ハウジング
121、 321 ・・・ 上側ハウジング
121a、221a ・・・ 貫通孔
122、 322 ・・・ 下側ハウジング
122a ・・・ 平坦面
130、 230 ・・・ 弾性支持体
S ・・・ 固定軸(軸部材)
T ・・・ チューブ(管部材)
W ・・・ 移動対象物(ワーク)
Wb ・・・ 軸受幅
We ・・・ 弾性支持体幅
Rh ・・・ ハウジング内半径
Rb ・・・ 軸受外半径
D ・・・ 貫通孔直径
φf ・・・ 継手部材直径
φt ・・・ チューブ直径
P ・・・ 回転方向
θ ・・・ 偏角量
Rm ・・・ 復元モーメント
Q ・・・ 荷重方向
δ ・・・ 偏心量
O1 ・・・ ハウジングの中心
O2 ・・・ 移動後のハウジングの中心
Rf ・・・ 復元力