(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】スパージャー及び培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/08 20060101AFI20230203BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
C12M1/08
C12M1/04
(21)【出願番号】P 2018566783
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2017045282
(87)【国際公開番号】W WO2018146943
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017022951
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 貴史
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】大川 博志
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-008264(JP,A)
【文献】特開平10-201467(JP,A)
【文献】特開2011-256150(JP,A)
【文献】特表2015-524792(JP,A)
【文献】奥村大成、他,マイクロバブルの培養への適用,日揮技術ジャーナル,2011年,Vol. 01, No. 01,pp. 1-6
【文献】谷野孝徳、他,マイクロバブルを用いた水中放電プラズマによる界面活性剤の分解,静電気学会誌,2010年,Vol. 34, No. 1,pp. 31-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被培養物
及び培養液を収容可能な培養容器と、
前記培養容器内に設けられるスパージャーと、
前記スパージャーに取り付けられる気体供給管と
を備え、
前記スパージャーは、少なくとも一部が多孔質体により構成されるスパージャー本体と、前記気体供給管が接続される気体供給管接続部とを備え、
前記気体供給管接続部は、前記スパージャー本体に形成されてなる、前記気体供給管を挿入可能な有底孔部により構成され、
前記有底孔部の開口を上方に向けた状態において、前記スパージャー本体の少なくとも下半分が前記多孔質体により構成され、
前記有底孔部の底面は、前記有底孔部の開口を上方に向けて位置させた状態において、前記スパージャー本体の中心よりも下方に位置し、
前記気体供給管は、前記気体供給管の一端部を前記有底孔部の前記底面に当接させるように前記有底孔部に挿入されており、
前記スパージャー本体から前記培養容器の底部に向かって気泡を吐出させるように前記スパージャー
が前記培養容器の底部に前記多孔質体を対向さ
せて前記培養容器内に設けられること
で、前記培養容器の底部から上方に向かう前記培養液の流れを生じさせ、前記培養容器全体において前記培養液を対流させることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
前記スパージャー本体の全体が前記多孔質体により構成されることを特徴とする請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記多孔質体の平均細孔径が20~50μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記多孔質体は、20~50μmの細孔径分布の細孔を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の培養装置。
【請求項5】
前記スパージャー本体は、略球状であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の培養装置。
【請求項6】
前記スパージャー本体の直径は、10~20mmであることを特徴とする請求項5に記載の培養装置。
【請求項7】
前記気体供給管を通じて前記スパージャーに供給される気体の流量が、300~700mL/minであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の培養装置。
【請求項8】
前記培養容器の底部は、略半球形状であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパージャー及びそれを用いた培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物、細胞等の被培養物を好気的に培養するための装置として、当該細胞等を播種した培養液を収容する培養槽と、培養槽内の培養液にエアーを通気するためのスパージャーと、培養槽内の培養液を攪拌する攪拌翼とを有する培養装置が知られている(特許文献1等)。
【0003】
このような培養装置においては、培養槽内の攪拌翼を機械的に動かすことにより培養液を攪拌し、培養液と細胞等との接触機会を増加させたり、細胞の分散を促したりしている。しかし、細胞等の培養中に細胞等と攪拌翼とが接触することで、細胞等を傷つけてしまうおそれがある。特に、間葉系幹細胞のように細胞膜を有さず、せん断力に対して極めて弱い細胞等は、攪拌翼との接触によって大きなダメージを受けてしまい、効率的に培養することができないという問題がある。
【0004】
このような課題を解決するために、従来、攪拌翼を使用することなく培養液に通気されるガスにより培養液を攪拌する培養装置として、一対の培養筒の下部を屈曲筒で連結してU字状に形成される培養槽と、左右の培養筒の下部に接続され、培養液にガスを交互に供給するガス吹込手段と、左右の培養筒の上部に接続され、培養筒内に供給されたガスを交互に排出する排気手段とを備えるものが提案されている(特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-142546号公報
【文献】特開2012-115232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されている培養装置においては、左右の培養筒のそれぞれに交互にガスが供給されることで、U字状の培養槽内において培養液を左右に移動させることができるものの、培養液と細胞等との接触機会の増加や細胞の分散促進という観点から十分な攪拌効果が得られないという問題がある。
【0007】
十分な攪拌効果を得るためにガス供給量を増大させると、培養液の液はね等が生じ、排気手段に設けられているフィルタ等に培養液が接してしまうことで、フィルタ等の汚染、目詰まり等が生じるおそれや、逆流により培養液が汚染されるおそれがある。
【0008】
上記課題に鑑みて、本発明は、培養液へのガスの供給により十分な攪拌効果が得られ、かつ培養液の液はね等を生じさせることのないスパージャー及びそれを用いた培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、被培養物及び培養液を収容可能な培養容器と、前記培養容器内に設けられるスパージャーと、前記スパージャーに取り付けられる気体供給管とを備え、前記スパージャーは、少なくとも一部が多孔質体により構成されるスパージャー本体と、前記気体供給管が接続される気体供給管接続部とを備え、前記気体供給管接続部は、前記スパージャー本体に形成されてなる、前記気体供給管を挿入可能な有底孔部により構成され、前記有底孔部の開口を上方に向けた状態において、前記スパージャー本体の少なくとも下半分が前記多孔質体により構成され、前記有底孔部の底面は、前記有底孔部の開口を上方に向けて位置させた状態において、前記スパージャー本体の中心よりも下方に位置し、前記気体供給管は、前記気体供給管の一端部を前記有底孔部の前記底面に当接させるように前記有底孔部に挿入されており、前記スパージャー本体から前記培養容器の底部に向かって気泡を吐出させるように前記スパージャーが前記培養容器の底部に前記多孔質体を対向させて前記培養容器内に設けられることで、前記培養容器の底部から上方に向かう前記培養液の流れを生じさせ、前記培養容器全体において前記培養液を対流させることを特徴とする培養装置を提供する。
【0010】
上記発明において、前記スパージャー本体の全体が前記多孔質体により構成されるのが好ましく、前記多孔質体の平均細孔径が20~50μmであるのが好ましく、前記多孔質体は、20~50μmの細孔径分布の細孔を有するのが好ましい。
【0011】
上記発明において、前記スパージャー本体は、略球状であるのが好ましく、前記スパージャー本体の直径は、10~20mmであるのが好ましい。
【0013】
上記発明において、前記気体供給管を通じて前記スパージャーに供給される気体の流量が、300~700mL/minであるのが好ましく、前記培養容器の底部は、略半球形状であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、培養液へのガスの供給により十分な攪拌効果が得られ、かつ培養液の液はね等を生じさせることのないスパージャー及びそれを用いた培養装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る培養装置の概略構成を示す側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態における培養装置の概略構成を示す側面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の一実施形態におけるキャップの概略構成を示す斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の一実施形態におけるキャップの概略構成を示す上面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態におけるスパージャーの概略構成を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態におけるスパージャーの概略構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る培養装置における作用効果を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る培養装置の概略構成を示す側面図であり、
図2は、本実施形態における培養装置の概略構成を示す側面図であり、
図3Aは、本実施形態におけるキャップの概略構成を示す斜視図であり、
図3Bは、当該キャップの概略構成を示す上面図であり、
図4は、本実施形態におけるスパージャーの概略構成を示す斜視図であり、
図5は、本実施形態におけるスパージャーの概略構成を示す断面図であり、
図6は、本実施形態に係る培養装置における作用効果を説明するための側面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る培養装置1は、被培養物を収容可能な培養容器2と、培養容器2内に設けられるスパージャー3と、スパージャー3に取り付けられる気体供給管4とを備える。なお、気体供給管4には気体供給部(図示せず)が接続され、気体供給管4及びスパージャー3を介して気体供給部から培養液に気体(空気)を気泡状で供給することができる。
【0018】
本実施形態に係る培養装置1において培養され得る被培養物としては、例えば、動物細胞、植物体、植物組織、植物細胞、藻類、真菌、酵母、好気性細菌等が挙げられる。また、被培養物とともに培養容器2内に収容され得る培養液8(
図6参照)は、被培養物に適したものが用いられ、例えば、ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地、ロスウェルパークメモリアルインスティテュート(RPMI)1640培地、ムラシゲスクーグ(MS)培地、ガンボーグB5培地、ルリアベルターニ(LB)培地、YPD Broth(Yeast Extract-Peptone-Dextrose)培地、PD Broth(Potato Dextrose)培地等が挙げられる。
【0019】
培養容器2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂材料や、ガラス等により構成され得る。培養容器2の容量は、例えば500mL~200Lであり、好ましくは1L~20Lである。
【0020】
図2に示すように、培養容器2は、口部21と、口部21に連続する首部22と、首部22に連続する肩部23と、肩部23の下端に連続する胴部24と、胴部24の下端に連続する底部25とを備える。口部21は、略円筒状であり、口部21の開口端側の外側面には、キャップ5(
図3参照)を取り付けるためのねじ山が形成されている。これにより、培養容器2に被培養物及び培養液8(
図6参照)を収容した後に、口部21にキャップ5を取り付けることで、培養容器2を密封することができる。
【0021】
肩部23は、首部22との連続部から培養容器2の外側に向かって湾曲し、胴部24に向かって徐々に拡径する湾曲構造により構成されている。底部25は、培養容器2の外側に向かって凸状の湾曲形状、すなわち略半球形状(いわゆる丸底)を有する。培養容器2の底部25が丸底であることで、培養容器2内で沈降する被培養物をスパージャー3の下方に集めることができるため、スパージャー3から吐出される気体(空気)により培養液8を攪拌することで、被培養物を効率的に分散させることができる。
【0022】
キャップ5は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂材料やアルミニウム等の金属材料により構成され得る。キャップ5の直径(外径)は、培養容器2の口部21の大きさに応じて適宜設定され得るものではあるが、例えば、28~52mm程度であり、好ましくは28~38mm程度である。
【0023】
図3A及び
図3Bに示すように、キャップ5の天面51には、気体供給管4(
図1参照)を挿通可能な第1孔部52と、培養容器2内に培養液を導入するための培養液導入管6(
図1参照)を挿通可能な第2孔部53と、培養容器2内から排気するための排気管7(
図1参照)を挿通可能な第3孔部54とが形成されている。キャップ5の天面51の内側には、少なくとも第3孔部54を覆うように排気フィルタ55が設けられている。キャップ5の内側面には、培養容器2の口部21に螺合可能なねじ山が形成されている。
【0024】
図4及び5に示すように、培養容器2内に設けられるスパージャー3は、略球状のスパージャー本体31と、スパージャー本体31の径方向に沿って形成されてなり、気体供給管4(
図1参照)の一端部が挿入される有底孔部32とを有する。スパージャー3の有底孔部32の開口33を上方に向けた状態において、スパージャー本体31の少なくとも下半分が多孔質体により構成されていればよく、スパージャー本体31の全体が多孔質体により構成されていてもよい。スパージャー本体31の少なくとも下半分又は全体が多孔質体により構成されていることで、有底孔部32に挿入される気体供給管4を介して、気体(空気)を気泡状で培養容器2内に導入することができるとともに、スパージャー本体31から培養容器2の底部25に向かって気泡が吐出される。培養容器2の底部25に向かって気泡が吐出されることで、培養容器2の底部から上方に向かう培養液8(
図6参照)の流れが生じ、培養容器2全体において培養液8が対流するため、スパージャー3からの気体(空気)の供給により培養容器2内における培養液8の攪拌が可能となる。
【0025】
スパージャー本体31を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレン、フッ素樹脂等の樹脂材料やアルミナ、SiC等のセラミック材料等が挙げられる。
【0026】
スパージャー本体31の有底孔部32の開口33を上方に向けた状態において当該スパージャー本体31の少なくとも下半分又は全体を構成する多孔質体は、平均細孔径20~50μmの細孔を有するのが好ましく、平均細孔径20~30μmの細孔を有するのが特に好ましい。多孔質体の細孔の平均細孔径が20μm未満であると、培養液の液面において液はねが生じるおそれがあり、50μmを超えると、培養容器2内における培養液の攪拌効果が不十分となるおそれがある。
【0027】
スパージャー本体31の少なくとも下半分又は全体を構成する多孔質体の細孔は、所定の細孔径分布の範囲においてランダムな細孔径を有するのが好ましく、20~50μmの細孔径分布の範囲においてランダムな細孔径を有するのがより好ましい。多孔質体における細孔が、所定の細孔径分布の範囲、特に20~50μmの細孔径分布の範囲においてランダムな細孔径を有することで、培養容器2内における培養液の攪拌効果を向上させ得る。なお、多孔質体における平均細孔径及び細孔径分布は、レーザー顕微鏡(例えば、VK-X200(キーエンス社製))により測定され得る。
【0028】
有底孔部32は、気体供給管4が接続される気体供給管接続部としての役割を果たすものであり、気体供給管4の一端部を挿入可能な内径であって、挿入された気体供給管4が容易に抜けることのない程度の内径を有する。有底孔部32の底面34は、有底孔部32の開口33を上方に向けて位置させた状態において、スパージャー本体31の中心Cよりも下方に位置する。有底孔部32の底面34がスパージャー本体31の中心Cよりも下方に位置することで、気体供給管4の一端部を底面34に当接させるようにして気体供給管4を有底孔部32に挿入すれば、気体供給管4の一端部をスパージャー本体31の中心よりも下方に位置させることができる。その結果、スパージャー本体31の下方から培養容器2の底部25に向けて気体(空気)を吐出させることができる。なお、スパージャー本体31の中心Cとは、スパージャー本体31を球状としたときの重心を意味するものとする。
【0029】
有底孔部32の底面34とスパージャー本体31の中心Cとの間の長さD(スパージャー本体31の径方向における長さ)は、スパージャー本体31の直径に対して10~40%程度に設定され得る。
【0030】
有底孔部32の内径は、気体供給管4を挿入可能であって、気体供給管4が容易に抜けない程度に適宜設定され得るものであり、例えば、6~8mm程度に設定され得る。
【0031】
スパージャー本体31の大きさは、特に限定されるものではなく、培養容器2の容量(大きさ)等に応じて適宜設定され得るものであるが、培養容器2の容量が500mL~5000mL程度である場合、スパージャー本体31の直径は10~20mm程度であるのが好ましい。スパージャー本体31の直径が10~20mm程度であれば、スパージャー本体31から吐出される気体(気泡)により、培養液8を十分に攪拌することができる。
【0032】
培養容器2内におけるスパージャー3の位置は、特に限定されるものではない。例えば、培養容器2の底部25からスパージャー3の下端までの距離Tは、スパージャー3から培養容器2の底部25に向かって吐出される気体(空気)により底部25に滞留する被培養物を培養液8内で分散させ得る程度の距離であればよい。当該距離Tは、5mm以下程度であるのが好ましく、0~3mm程度であるのがより好ましい。当該距離Tが5mmを超えると、スパージャー3から吐出される気泡により生じる対流によって、被培養物が攪拌されずに培養容器2の底部25に滞留してしまうおそれがある。
【0033】
なお、本実施形態におけるスパージャー3は、スパージャー本体31の形状に則したキャビティーを有する上金型及び下金型を用い、キャビティー内に所定の粒径の樹脂粒子を充填し、加熱して隣接する樹脂粒子同士を部分的に融着させることで作製され得る。所定の細孔径分布を有する多孔質体により構成されるスパージャー3は、所定の粒径分布を有する樹脂粒子を用いて、上記と同様にして作製され得る。下側半分が多孔質体により構成されるスパージャー3は、上記のようにして作製されたスパージャー本体31の上側半分にエポキシ樹脂等の樹脂材料を塗布し、上側半分の細孔を当該樹脂材料にて埋めることで作製され得る。
【0034】
上述した構成を有する培養装置1において、培養容器2内に被培養物と培養液とを収容し、気体供給部(図示せず)から気体供給管4を介して培養液に気体(空気)を供給する。気体供給管4を通った気体(空気)は、スパージャー本体31の多孔質体の細孔を通じて気泡状になって吐出される。このとき、スパージャー本体31の有底孔部32の底面34が当該スパージャー本体31の中心よりも下方(培養容器2の底部25側)に位置することで、気体供給管4の一端部はスパージャー本体31の中心よりも下方に位置することになる。
【0035】
気体供給管4を通った気体(空気)は、スパージャー本体31の多孔質体から吐出されるが、気体供給管4の一端部(すなわち、気体の吐出口)がスパージャー本体31の中心Cよりも上方に位置すると、スパージャー本体31(多孔質体)から吐出される気体(空気)は、スパージャー本体31から上方に向かってしまう。しかしながら、本実施形態のように、スパージャー本体31の中心Cよりも下方に位置することで、スパージャー本体31から吐出される気体(空気)は、培養容器2の底部に向かうようにスパージャー本体31から気体(空気)が吐出され(矢印A)、スパージャー本体31と培養容器2の底部25との間から上方に向かうような培養液の流れ(矢印B)を生じさせる(
図6参照)。この流れ(矢印B)により、被培養物を培養容器2の底部25に滞留させることなく培養液8を攪拌することができる。
【0036】
気体供給管4を介して培養液に供給される気体(空気)の流量は、300~700mL/min程度に設定されるのが好ましく、400~500mL/min程度に設定されるのがより好ましい。当該気体(空気)の流量が300mL/min未満であると、被培養物の少なくとも一部が培養容器2の底部25に滞留してしまうおそれがあり、700mL/minを超えると、培養液の液面において液はねが生じてしまい、排気フィルタ55の汚染を生じさせるおそれがある。
【0037】
上述したように、本実施形態におけるスパージャー3及び培養装置1によれば、培養液への気体(空気)の供給量を多くせずに、十分な攪拌効果が得られるため、培養液の液はね等を生じさせることがなく、排気フィルタ55が汚染するのを抑制することができる。
【0038】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕
直径が10mm、平均細孔径が20μmの多孔質体により構成され、内径6mmの有底孔部32を有するスパージャー3と、気体供給管4と、内容量3000mLの培養容器2と、キャップ5とを準備し、
図1に示す構造の培養装置1を組み立てた。
【0041】
〔実施例2〕
スパージャー3が直径15mmの多孔質体により構成される以外は、実施例1と同様にして気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0042】
〔実施例3〕
スパージャー3が直径20mmの多孔質体により構成される以外は、実施例1と同様にして気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0043】
〔実施例4〕
スパージャー3が直径25mmの多孔質体により構成される以外は、実施例1と同様にして気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0044】
〔実施例5〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の上側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該上側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例1と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0045】
〔実施例6〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の上側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該上側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例2と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0046】
〔実施例7〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の上側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該上側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例3と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0047】
〔実施例8〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の上側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該上側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例4と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0048】
〔実施例9〕
スパージャー3が平均細孔径50μmの多孔質体により構成される以外は、実施例6と同様にして気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0049】
〔実施例10〕
スパージャー3が平均細孔径50μmの多孔質体により構成される以外は、実施例7と同様にして気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0050】
〔実施例11〕
スパージャー3が細孔径分布20~50μmの範囲でランダムな細孔径の細孔を有する多孔質体により構成される以外は、実施例2と同様にして気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0051】
〔実施例12〕
スパージャー3が細孔径分布20~50μmの範囲でランダムな細孔径の細孔を有する多孔質体により構成される以外は、実施例3と同様にして気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0052】
〔比較例1〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の下側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該下側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例1と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0053】
〔比較例2〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の下側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該下側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例2と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0054】
〔比較例3〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の下側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該下側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例3と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0055】
〔比較例4〕
有底孔部32の開口を上方に向けた状態におけるスパージャー本体31の下側半分の表面にエポキシ樹脂を塗布し、当該下側半分の細孔を当該エポキシ樹脂にて埋めた以外は、実施例4と同様にしてスパージャー3、気体供給管4、培養容器2及びキャップ5を準備し、培養装置1を組み立てた。
【0056】
〔試験例1〕
実施例3の培養装置1において、気体供給管4の一端部が有底孔部32の開口近傍に位置するように気体供給管4をスパージャー3に接続した場合、気体供給管4の一端部がスパージャー本体31の中心Cよりも上側に位置するように気体供給管4をスパージャー3に接続した場合、気体供給管4の一端部がスパージャー本体31の中心よりも下側に位置するように気体供給管4をスパージャー3に接続した場合の3つの態様について、攪拌効率を評価する試験を行った。
【0057】
当該試験において、培養容器2内に培養液8としてグルコース溶液を2500mL収容するとともに、被培養物の代わりとして直径3mmのナイロン樹脂製のビーズを100個投入した。そして、気体の流量を600mL/minに設定し、通気開始から5分後において培養容器2内で浮遊・攪拌しているビーズの個数をカウントし、攪拌率(=浮遊ビーズの個数/投入ビーズの個数×100(%))を求め、表1に示す指標に基づいて攪拌効率を評価した。結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
表2に示すように、気体供給管4の一端部をスパージャー本体31の中心Cよりも下側に位置させることで、スパージャー3から吐出される気泡により十分な攪拌効果が得られることが確認された。
【0061】
〔試験例2〕
実施例1~4の培養装置1において、気体供給管4の一端部がスパージャー本体31の中心よりも下側に位置するように気体供給管4をスパージャー3に接続し、試験例1と同様にして攪拌効率を評価する試験を行った。なお、試験例2において、気体の流量を300~900mL/minの範囲で変動させ、各流量における攪拌効率を評価した。結果を表3に示す。
【0062】
【0063】
表3に示すように、スパージャー3の直径が小さいほど、より優れた攪拌効果が得られることが確認された。また、気体流量が800mL/min以上になると、攪拌効果は優れるものの、培養液の液面において液はねが生じていることが確認された。したがって、気体流量を300~700mL/minに設定することで、液はねを生じさせることなく、培養液を十分に攪拌し得ることが確認された。
【0064】
〔試験例3〕
実施例1~12及び比較例1~4の培養装置1において、気体供給管4の一端部がスパージャー本体31の中心よりも下側に位置するように気体供給管4をスパージャー3に接続し、試験例1と同様にして攪拌効率を評価する試験を行った。なお、試験例3において、気体の流量を300~700mL/minの範囲で変動させ、各流量における攪拌効率を評価した。結果を表4に示す。
【0065】
【0066】
表4に示すように、スパージャー本体の上側半分が多孔質体により構成される比較例1~4においては、攪拌効果が不十分であり、スパージャー本体の下側半分又は全体が多孔質体により構成される実施例1~12においては、スパージャーから吐出される気泡によって十分な攪拌効果が得られることが確認された。
【0067】
また、実施例1~8の結果から、スパージャー本体の全体が多孔質体により構成される実施例1~4よりも、スパージャー本体の下側半分が多孔質体により構成される実施例5~8の方が攪拌効果に優れることが確認された。
【0068】
さらに、多孔質体の平均細孔径が相対的に大きい実施例9及び実施例10よりも、多孔質体の平均細孔径が相対的に小さい実施例6及び実施例7の方が、攪拌効果に優れることが確認された。
【0069】
さらにまた、スパージャー本体の全体が多孔質体により構成される実施例11及び実施例12であっても、多孔質体の細孔が、所定の細孔径分布の範囲でランダムな細孔径を有することで、培養容器内の培養液に乱流を生じさせることができるため、攪拌効果に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1…培養装置
2…培養容器
3…スパージャー
31…スパージャー本体
32…有底孔部
4…気体供給管
5…キャップ