IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ストラタテック コーポレーションの特許一覧

<>
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図1
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図2
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図3
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図4
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図5
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図6
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図7
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図8
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図9
  • 特許-生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230203BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20230203BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230203BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20230203BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/36
A61L27/38 110
A61L27/60
A61P17/02
【請求項の数】 38
(21)【出願番号】P 2019154515
(22)【出願日】2019-08-27
(62)【分割の表示】P 2016501891の分割
【原出願日】2014-03-13
(65)【公開番号】P2019195344
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2019-09-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】61/779,661
(32)【優先日】2013-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507295048
【氏名又は名称】ストラタテック コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アレン-ホフマン,ビー.リン
(72)【発明者】
【氏名】パーンスティル,ジョン シー.
(72)【発明者】
【氏名】グラッツ,ケネス アール.
(72)【発明者】
【氏名】カマー,アレン アール.
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】飯室 里美
【審判官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-501298(JP,A)
【文献】特表2004-520828(JP,A)
【文献】特表2012-508064(JP,A)
【文献】特表2011-502538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育可能性を実質的に失うことなく、凍結保存された皮膚同等物を温める方法であって、
凍結防止剤溶液中で処理し、過剰な凍結防止剤溶液から分離後、さらなる凍結防止剤の非存在下において包装し、凍結して保存する、包装および凍結保存された生育可能な皮膚同等物を提供する工程であって、皮膚同等物は器官培養されたものである、工程
前記凍結保存された皮膚同等物を室温において解凍する工程であって、前記凍結保存された皮膚同等物を包装内で任意に解凍する、工程;
前記解凍した凍結保存された皮膚同等物を、(i)40℃において2時間まで、または、(ii)20~25℃において15分~4時間まで、拡散媒介物と接触させる工程;
を含み、
前記拡散媒介物は組織適合性溶液を含み、
前記拡散媒介物は吸収媒体、膜、及び透析バッグから成る群より選択され、
前記組織適合性溶液は、pH7.0~7.4になるように緩衝剤によって調製され、約37℃に予熱されている、方法。
【請求項2】
前記凍結保存された皮膚同等物は密封可能な封入体中に包装されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凍結保存された皮膚同等物は、密封可能な封入体中に包装された培養容器の中に提供されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記拡散媒介物が、吸収媒体、膜および透析バッグからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記拡散媒介物が、発泡体パッド、ガーゼパッドおよびセルロースパッドからなる群より選択される吸収媒体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記組織適合性溶液が、DMEM、Ham’s F-10、Ham’s F-12、DMEM/F-12、Medium 199、MEMおよびRPMIからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記緩衝剤がHEPES、Tris、MOPSおよびTrizmaからなる群より選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記組織適合性溶液がDMEM/F-12であり、前記緩衝剤がHEPESである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
解凍開始から、凍結保存された皮膚同等物と組織適合性溶液を含む拡散媒介物との接触までの経過時間が15分以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
解凍開始から、凍結保存された皮膚同等物と組織適合性溶液を含む拡散媒介物との接触までの経過時間が10分以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記解凍した凍結保存された皮膚同等物を、前記拡散媒介物と少なくとも15分間接触させる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記凍結保存された皮膚同等物は、密封可能な封入体中に包装された培養容器の中に提供され、
前記凍結保存された皮膚同等物は、前記培養容器中、任意で前記密封可能な封入体中で解凍され、
前記拡散媒介物が膜であり、
前記解凍した凍結保存された皮膚同等物を、20~25℃において4時間まで、拡散媒介物と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記凍結保存された皮膚同等物は、密封可能な封入体中に包装された培養容器の中に提供され、
前記凍結保存された皮膚同等物は、前記培養容器中、任意で前記密封可能な封入体中で解凍され、
前記拡散媒介物が、発泡体パッド、ガーゼパッドおよびセルロースパッドからなる群より選択される吸収媒体であり、
前記解凍した凍結保存された皮膚同等物を、20~25℃において4時間まで、前記拡散媒介物と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記器官培養された皮膚同等物がNIKS細胞を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記NIKS細胞が、外因性ポリペプチドをコードする外因性核酸配列を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
包装および凍結保存された生育可能な皮膚同等物と、拡散媒介物と、組織適合性溶液と、を含
請求項1に記載の方法に使用するための、キット。
【請求項17】
前記凍結保存された生育可能な皮膚同等物が密封可能な封入体中に包装されている、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記凍結保存された生育可能な皮膚同等物が、密封可能な封入体中に包装された培養容器の中に提供されている、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
培養容器をさらに含む、請求項16または17に記載のキット。
【請求項20】
第2の培養容器をさらに含む、請求項18に記載のキット。
【請求項21】
前記凍結保存された生育可能な皮膚同等物がNIKS細胞を含む、請求項16~20のいずれか1項に記載のキット。
【請求項22】
前記NIKS細胞が、外因性ポリペプチドをコードする外因性核酸配列を含む、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
請求項1の包装および凍結保存された生育可能な皮膚同等物を提供する工程が、以下の工程である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法:
1工程で、器官培養された皮膚同等物を、凍結防止剤溶液中で処理する処理工程であって、前記凍結防止剤溶液は平衡手順中交換せず、前記器官培養された皮膚同等物は繊維芽細胞を含む真皮層上に層状化された扁平上皮を含み、前記凍結防止剤は体積基準で溶液の約21~70%で含まれる溶液で提供し、前記凍結防止剤はグリセロールである、処理工程;
過剰な凍結防止剤溶液から前記処理した器官培養された皮膚同等物を分離し、さらなる凍結防止剤の非存在下において前記処理した器官培養された皮膚同等物を包装して、包装された皮膚同等物を提供する包装工程であって、前記包装工程は、好ましくは、無菌バッグに前記凍結保存された皮膚同等物を封入し、第2のバッグに前記無菌バッグを封入する封入工程をさらに含む、包装工程;および、
前記包装された器官培養された皮膚同等物を凍結し、解凍後に生育可能性を保持する凍結保存された皮膚同等物を提供する凍結工程。
【請求項24】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約21~45%の量のグリセロールを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約37.5~62.5%の量のグリセロールを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約32.5%の量のグリセロールを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約37.5%の量のグリセロールを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約50%の量のグリセロールを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記凍結工程が約-80℃における凍結を含む、請求項23~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記凍結工程が、約-50℃~-100℃の温度への直接曝露を含む、請求項23~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1の包装および凍結保存された生育可能な皮膚同等物を提供する工程が、以下の工程である、請求項16~22のいずれか1項に記載のキット:
1工程で、器官培養された皮膚同等物を、凍結防止剤溶液中で処理する処理工程であって、前記凍結防止剤溶液は平衡手順中交換せず、前記器官培養された皮膚同等物は繊維芽細胞を含む真皮層上に層状化された扁平上皮を含み、前記凍結防止剤は体積基準で溶液の約21~70%で含まれている溶液で提供し、前記凍結防止剤はグリセロールである、処理工程;
過剰な凍結防止剤溶液から前記処理した器官培養された皮膚同等物を分離し、さらなる凍結防止剤の非存在下において前記処理した器官培養された皮膚同等物を包装して、包装された皮膚同等物を提供する包装工程であって、前記包装工程は、好ましくは、無菌バッグに前記凍結保存された皮膚同等物を封入し、第2のバッグに前記無菌バッグを封入する封入工程をさらに含む、包装工程;および、
前記包装された器官培養された皮膚同等物を凍結し、解凍後に生育可能性を保持する凍結保存された皮膚同等物を提供する凍結工程。
【請求項32】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約21~45%の量のグリセロールを含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約37.5~62.5%の量のグリセロールを含む、請求項31に記載のキット。
【請求項34】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約32.5%の量のグリセロールを含む、請求項31に記載のキット。
【請求項35】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約37.5%の量のグリセロールを含む、請求項31に記載のキット。
【請求項36】
前記凍結防止剤溶液が、体積基準で凍結防止剤溶液の約50%の量のグリセロールを含む、請求項31に記載のキット。
【請求項37】
前記凍結工程が約-80℃における凍結を含む、請求項31~36のいずれか1項に記載のキット。
【請求項38】
前記凍結工程が、約-50℃~-100℃の温度への直接曝露を含む、請求項31~36のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学(TE)の新興分野では、今後10年において、器官の疾患及び機能不全の治療を著しく進歩させる準備が整っている。2001年において、米国(U.S.)及び欧州市場のために承認された細胞に基づく治療法が23あり、そのうちの9つは、皮膚代用物または皮膚移植片であり、100を超える製品が開発中であった(De Bree,Genomics-based Drug Data Report and Regenerative Therapy (1) 2:77-96 (2001))。10年後に、人工組織は、創傷治療産業内の個別の産業セクターとして現れ、再生医学の最も有望な細胞に基づく治療プラットホームの1つとなっている。創傷治療の世界市場は、2012年に168億ドルであると推定され、約6%の平均年間成長率で成長してきた(Kalorama Information、2012年4月)。この市場の大半は、成熟し高度に競争的であり、かつ、基礎的及び先進的な創傷治療、創傷閉鎖、及び抗感染剤を目標としている製品を含む従来のセクターから成っている。このことにより、競争者は、市場全体の約15%を占めているより革新的で活発な創傷治療セクターにおいて高度に差別化された製品を開発することに益々関心を高めている。陰圧創傷治療の売上高は依然として優位であるが、米国の生物学的製剤市場における人工組織及び他の製品の2010年の売上高は、4億4800万ドルまで成長し、2015年までには、18.8%の複合年間成長率によって10億5800万ドルまで増加すると予測されている(BioMedGPS-SmarTRAK market analysis,2012)。
【0003】
人工組織及び器官の画期的かつ経済的に重要な用途の多くは、ヒトの保健分野に存在するが、前記産業のすべての潜在的経済力の実現には、ほど遠い。現時点では、全世界で、2つの組織工学の会社だけが、皮膚創傷治癒に主眼を置いた細胞に基づく皮膚代用物製品を商業化することができており、1億ドルを上回る年間売上高を達成している。
【0004】
医療従事者、保健医療提供者、及び関連する他の購入者(second party payers)による人工組織の採用に対する主な障害は、人工組織を有効かつ効率的に保存及び保管する手段がないことである。生細胞及び組織製品の特性が、長期保存の開発を妨げている。現在の人工組織は、生育可能性及び機能を維持するために、注意深く管理された状況下でしばしば保管かつ発送されなければならない。典型的には、人工組織製品は、製造に数週間または数ヶ月間かかるが、製造から数時間または数日間以内に使用しなければならない。結果として、TEの会社は、最大の能力で製造設備を継続的に運転し、廃棄しなければならない売れ残った製品の費用を吸収しなければならない。既にコストが掛かる製造プロセスに加えて、これらの在庫による損失は、価格を非現実的な水準に押し上げている。具体例の1つとして、APLIGRAFは、製造に約4週間を要し、わずか15日間しか使用できず、使用まで20~23℃に維持する必要がある。他の例として、EPICELは、携帯型培養器に入れられて、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるGenzyme Biosurgeryの製造施設から使用現場まで看護師によって運ばれ、到着後すぐに使用される。このような制約は、便利かつ対費用効果が高い製品の開発にとっては重要な課題である。
【0005】
保存問題の解決策として凍結保存が探求されてきたが、氷の形成、冷害、及び浸透圧の不均衡を介して組織損傷を誘発することが知られている。APLIGRAFに加えて、他に唯一承認されている、生きている皮膚同等物であるORCELは、凍結製品として評価中であるが、使用前に-100℃未満の低い温度に維持する必要があるという欠点を有している。これは、輸送の間の危険物の使用、ならびに高価かつ危険であり、地方の診療所及び野戦病院では入手が難しい保存用液体窒素の使用を含む、特殊な製品配達条件及び保存条件を要する。
【0006】
したがって、当該技術分野で必要とされるものは、使用に利用可能な条件下で保存するための生育可能な人工組織及び細胞を凍結保存する改良された方法である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一般的に、生育可能なヒト皮膚代用物の凍結保存のためのシステム及び方法に関する。
【0008】
いくつかの実施形態では、本発明は:1工程で、器官培養された皮膚同等物を、凍結防止剤中で処理すること;前記の器官培養された皮膚同等物を包装して、包装された皮膚同等物を提供すること;及び前記の器官培養された皮膚同等物を凍結させて、包装された凍結保存皮膚同等物を提供すること、を含む器官培養された皮膚同等物を凍結保存して生育可能な組織を維持する方法を提供する。いくつかの実施形態では、温度にしたがって、凍結防止剤は、体積基準で、溶液の約20%もしくは21%~約70%、更に好ましくは溶液の20%もしくは21%~約45%、または溶液の37.5%~62.5%、または最も好ましくは溶液の約25%~40%もしくは42.5%~57.5%を含む溶液で提供する。いくつかの実施形態では、凍結防止剤による処理は、約2℃~8℃で行い、他の実施形態では、前記処理工程は、室温で、例えば約15℃~30℃で行う。いくつかの実施形態では、凍結防止剤はグリセロールである。いくつかの実施形態では、凍結は、実質的に過剰な凍結防止剤の非存在下で、器官培養された皮膚同等物を凍結させることを更に含む。いくつかの実施形態では、凍結は約-80℃での凍結を更に含む。いくつかの実施形態では、凍結は約-50℃~-100℃の温度に直接曝露することを更に含む。いくつかの実施形態では、包装は、無菌バッグ中に凍結保存された皮膚同等物を封入し、そしてその無菌バッグを第2のバッグ中に封入することを更に含む。いくつかの実施形態では、器官培養された皮膚同等物は、NIKS細胞を含む。いくつかの実施形態では、NIKS細胞は、外因性ポリペプチドをコードする外因性核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、皮膚同等物は、解凍後に生育可能性を保持している。いくつかの実施形態では、皮膚同等物は、MTTアッセイによって測定した基準皮膚同等物の少なくとも50%のA550を有する。
【0009】
いくつかの実施形態では、本方法は、前記凍結保存された皮膚同等物を解凍し、前記解凍された皮膚同等物をそれを必要とする患者に適用することを更に含み、ここで前記解凍された皮膚同等物は、前記患者に前記適用を実施する前に、すすがない。いくつかの実施形態では、本発明は:凍結保存された皮膚同等物を温めること;及び拡散による凍結防止剤溶液の除去を可能にする組織適合性溶液を含む拡散媒介物と、凍結保存された皮膚同等物とを接触させること、を含む対象に適用する前に凍結保存された皮膚同等物を解凍する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記温めることは、使用現場で室温に曝露することを含む。いくつかの実施形態では、拡散媒介物は、吸収媒体、膜、及び透析バッグから成る群より選択される。いくつかの実施形態では、吸収媒体は、Telfaパッド、発泡体パッド、ガーゼパッド、及び組織適合性媒体を含むセルロースパッドから成る群より選択される。いくつかの実施形態では、組織適合性溶液は緩衝液である。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、上記のようにして製造された、包装された凍結保存皮膚同等物を提供すること;前記パッケージから凍結保存された皮膚同等物を無菌的に移動させること;前記の凍結保存された皮膚同等物を温めること;拡散によって凍結防止剤溶液の除去を可能にする組織適合性溶液(tissue compatible solution)を含む吸収媒体と、凍結保存された皮膚同等物とを接触させること;及び凍結保存された皮膚同等物を対象に適用すること、を含む前記対象を治療する方法を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、凍結防止剤と平衡させた凍結保存皮膚同等物を提供する。その皮膚同等物は、皮膚同等物の外面上に過剰な凍結防止剤を実質的に有していない。いくつかの実施形態では、本発明は、吸収媒体上に配置された前記皮膚同等物を含むシステムを提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明は、上記の包装された凍結保存皮膚同等物を提供すること;及び皮膚同等物が創傷と接触するような条件下で皮膚同等物を創傷に適用すること、を含む方法を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、凍結保存された皮膚代用物、吸収媒体、及び組織適合性溶液を含むキットを提供する。いくつかの実施形態では、凍結保存された皮膚代用物は、密封可能な封入体の中に包装される。いくつかの実施形態では、凍結保存された皮膚代用物は、バッグ中に包装された培養容器で提供される。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明は:画定された上下の位置の間で移動可能な細胞培養基材を含む培養皿を提供すること、細胞培養基材の上に皮膚同等物を形成すること(ここで、前記細胞培養基材は上の位置にある)、更に加工するために下の位置まで前記細胞培養基材を下げること、を含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、更なる加工は、皮膚同等物を、凍結防止剤溶液で処理することを含む。いくつかの実施形態では、更なる加工は、培養皿で皮膚同等物を凍結させることを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明は:培養皿において上下の位置の間で移動可能なインサートを含む培養皿を提供すること(前記インサートは多孔質膜から形成される底平面を有する)、前記インサート中の多孔質膜上に線維芽細胞を含む真皮同等物を形成すること(ここで、前記インサートは培養皿において上の位置に配置される)、前記線維芽細胞を培養して真皮同等物を形成すること、ケラチノサイト細胞を真皮同等物に適用すること、前記ケラチノサイトが重層上皮を含む皮膚同等物を形成するような条件下で、培地で前記ケラチノサイトを培養すること、前記培地を除去すること、前記インサートを下の位置まで下げること、前記皮膚同等物を凍結防止剤溶液で処理すること、及び前記培養皿で前記皮膚同等物を凍結させること、を含む凍結保存された皮膚同等物を製造する方法を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明は、前記方法によって作製された凍結保存皮膚同等物によってそれを必要としている患者を治療する方法を提供する。前記方法は、前記の凍結保存された皮膚同等物を解凍すること;及び前記の解凍された皮膚同等物を、それを必要としている前記患者に適用すること(ただし、前記解凍された皮膚同等物は前記患者に前記適用を実施する前にすすがない)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。前記組織は、速度制御冷凍庫(CRF)を使用して、または超低温冷凍庫(-80℃に設定)における受動冷凍によって、凍結保存され、そして最高3ヵ月間保管し、次いで解凍し、1時間及び1日で分析した。生育可能性は、各時点で、各44cmの組織から得た3つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。
図2】シミュレーションした受動組織凍結から得られた温度プロフィールである。温度プローブは、上部にTranswellインサートを有する3つの100mm x 20mm皿の底部に固定した。その皿に蓋をし、次いで、それを、内部Whirl-Pakパウチと外部Mylarパウチの内側に包装し、-80℃に設定された超低温冷凍庫の中に入れた。その包装した組織を、底部、中間、及び上部にある金属ラックの中に置いた。
図3】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。組織は、CRFを使用して凍結保存し、次いで1~6ヵ月間、-80℃または-50℃に設定した超低温冷凍庫に保管し、次いで解凍して、1時間及び1日で分析した。生育可能性は、各時点で、各44cmの組織から得た3つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。
図4】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。2つの独立したロットからの組織を、凍結保存し、次いで、1ヵ月を超える間、-80℃に設定した超低温冷凍庫に保管した。各ロットからの2つの組織をドライアイスの容器に48時間入れ、各ロットからの2つの対照組織を超低温冷凍庫に入れたままにしておいた。ドライアイスへの曝露終了後に、すべての組織を解凍し、15分及び1日で分析した。生育可能性は、各時点で、各44cmの組織から得た4つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。
図5】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。組織を、無菌セルロースパッド中に浸漬された段階的な一連のグリセロール濃度に曝露しながら、段階的に温度降下(室温から2~8℃へ、そして-20℃へ)させた後、CRFを使用して凍結保存した。すべての組織を、室温で、16.3%のグリセロールに最初に曝露した。次に、すべての組織を2~8℃に切り替え、2つの組織を32.5%のグリセロールに移した。最後に、すべての組織を-20℃に切り替え、1つの組織を65%のグリセロールに移した。組織を気相LN2中に6日間保管した。生育可能性は、解凍後1時間及び1日で、各44cmの組織から得た3つの0.5cmのパンチに関して、MTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。
図6】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。組織は、-80℃に設定した超低温冷凍庫で受動冷凍することによって65%のグリセロール中で凍結保存し、次いで-80℃で6週間保管した。組織を、解凍し、そして100mlの規定溶液を含む、上昇ステンレス鋼製リフター(raised stainless steel lifter)上の2つのセルロースフィルターパッドから成る収容チャンバ中に置き、規定温度で1時間保った。組織を1時間後及び1日後に分析した。生育可能性は、各時点で、各44cmの組織から得た3つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。
図7】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。組織を65%のグリセロール中で凍結保存し、次いで気相LN中に2週間保管した。1つの組織を解凍して直接セルロースパッドの無いグロースチャンバ中に入れ、もう一方の組織を、100mlの成長培地を含む、上昇ステンレス鋼製リフター上の2つのセルロースフィルターパッドから成る収容チャンバ中に置いた。解凍した組織を37℃で1時間保持した。組織を1時間後及び1日後に分析した。生育可能性は、各時点で、各44cmの組織から得た三つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。
図8】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。1つのロットからの組織を、凍結保存し、次いで、-80℃に設定した超低温冷凍庫に1週間保管した。組織を、10分間解凍し、そして37℃または室温のいずれかまで温めた40mlの緩衝栄養液で浸漬したTelfaパッドまたはWhatmanパッドを含む収容チャンバ内に置いた(解凍条件につきn=2の組織)。その組織を、15~20分間、収容チャンバ内に置き、次いでグロースチャンバ内で1日再培養した。その組織を、解凍1日後に分析した。生育可能性は、各44cmの組織から得た4つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。生育可能性の規格は、赤い破線によって示してある。
図9】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。実施例2に記載してあるように、3つの独立ロットからの組織を、2~8℃において50%のグリセロールで処理し、凍結保存した。凍結保存組織は、最高12ヵ月、約-80℃で超低温冷凍庫中に保管した。0、2、3、5及び12ヵ月の保管後、各ロットからの2つの組織を室温で解凍し、培地飽和Telfaパッド上に15分間保持した。次いで、組織を戻し、90mlの成長培地を含む上昇ステンレス鋼製リフターを有する培養皿で一晩培養した。生育可能性は、各時点で、各44cmの組織から得た4つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。
図10】MTTアッセイを使用した解凍組織の生育可能性試験のグラフである。1つのロットからの組織を、凍結前にリストした条件で、規定のグリセロール濃度(32.5%または50%)で処理し、次いで-80℃に設定した超低温冷凍庫中に9日間保管した。その組織を10分間解凍し、40mlの緩衝栄養液で浸漬したTelfaスタックに15~20分間置き、次いでグロースチャンバ中で1日再培養した。その組織を、解凍1日後に分析した。生育可能性は、各44cmの組織から得た4つの0.5cmのパンチに関するMTTアッセイによって測定した(平均+/-1標準偏差)。生育可能性の規格は、赤い破線によって示してある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
本明細書で使用する場合、「皮膚同等物」、「ヒト皮膚同等物」、「ヒト皮膚代用物」、及び「器官培養物」という用語は、層状化して扁平上皮になっている、インビトロにおいて(in vitro)誘導されるケラチノサイトの培養物を指すために、交換可能に使用される。典型的には、皮膚同等物は、器官培養によって製造され、ケラチノサイト層に加えて真皮層を含む。
【0019】
本明細書で使用する場合、「無菌の」という用語は、検出可能な細菌汚染または真菌汚染が実質的にまたは完全に存在しない皮膚同等物を指している。
【0020】
本明細書で使用する場合、「NIKS細胞」という用語は、細胞株ATCC CRL-1219として沈着された細胞の特徴を有する細胞を指している。NIKSは、近二倍体の不死化ケラチノサイトを表している。
【0021】
本明細書で使用される「生育可能な」という用語は、皮膚同等物について使用されるとき、凍結保存後の皮膚同等物における細胞の生育可能性を指している。好ましい実施形態では、「生育可能な」皮膚は、MTTアッセイで測定すると、対照の非凍結保存組織の少なくとも50%、60%、70%、80%もしくは90%のA550を有するか、または類似の生育可能性アッセイの読出し値の少なくとも50%、60%、70%、80%もしくは90%のA550を有する。
【0022】
詳細な説明
本発明は、一般的に、ヒト皮膚代用物を凍結保存するためのシステム及び方法に関する。特に、本発明は、使用する場所、例えば病院、手術室または熱傷ユニットで、長期間保管できるように、生育可能なヒト皮膚同等物を凍結保存する方法に関するものである。本明細書で開示される方法は、保存プロセスの効率を、そして保存皮膚同等物の利用を新たに増加させ、凍結防止剤における1工程平衡、凍結保存前の無菌包装における皮膚同等物の包装、及びすすぐこと無く患者に対して(例えば、移植手技で)直接適用するための凍結保存組織を使用する能力を含む。いくつかの実施形態では、本発明は、患者の治療で使用するための直ちに使用できる凍結保存皮膚同等物を提供し、好ましい実施形態では、移植手技用で使用するための直ちに使用できる凍結保存皮膚同等物を提供する。凍結保存皮膚同等物は、使用する場所で長期間保管するように設計される。いくつかの実施形態では、凍結保存同等物を遺伝子操作して、広域スペクトルのヒト宿主防御ペプチドを、例えばβ-デフェンシン-3(hBD-3)またはカテリシジン(hCAP18/LL-37)、またはプロ血管形成因子を、創傷床に送達する。
【0023】
これまでは、死体皮膚を、回収し、凍結保存剤として10%~20%のグリセロールで処理することによって凍結保存していた。Kagan et al.,Clin Lab Med 25 (2005) 587-605を参照されたい。驚くべきことに、ヒト皮膚同等物を凍結保存するためにグリセロール濃度を増加させる必要があることが分かっている。
【0024】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は凍結保存された皮膚同等物を提供する。いくつかの実施形態では、皮膚同等物を遺伝子操作して、外因性抗菌ポリペプチドまたはプロ血管形成因子を発現及び提供してきた。本発明は、任意の特定の抗菌ポリペプチドの使用に限定されない。好ましい実施形態では、抗菌ポリペプチドは、ヒトβ-デフェンシン-1、ヒトβ-デフェンシン-2、ヒトβ-デフェンシン-3、またはカテリシジン(hCAP-18/LL37)または変異体である。いくつかの好ましい実施形態では、抗菌ポリペプチドまたはプロ血管形成因子をコードする核酸構築体またはベクターをケラチノサイト(例えば、NIKS細胞)に導入し、そのトランスフェクトされたケラチノサイトを使用して器官培養技法によって皮膚同等物を作製する。外因性ポリペプチドならびに追加の野生型及び変異型の抗菌ポリペプチド(variant antimicrobial polypeptide)を発現する皮膚同等物の製造のための好ましい実施形態は、U.S.Pat.No.7,674,291;7,807,148;7,915,042;7,988,959;及び8,092,531に見出すことができ、前記特許のそれぞれは、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0025】
いくつかの実施形態では、凍結保存された皮膚同等物は、解凍後に創傷に適用され、適所に留置される。他の実施形態では、凍結保存された皮膚同等物は、創傷に一時的に適用される。いくつかの実施形態では、凍結保存された皮膚同等物は取り除かれて、追加の凍結保存されたヒト皮膚同等物に置き換えられる。
【0026】
A)器官培養によって製造される皮膚同等物
本発明は、扁平上皮に分化可能である任意の特定の細胞供給源の使用に限定されない。実際に、本発明は、扁平上皮に分化することができる種々の細胞株及び供給源(初代ケラチノサイト及び不死化ケラチノサイトが挙げられる)の使用を意図している。細胞の供給源としては、ヒト及び死体ドナーから生体採取されたケラチノサイト及び真皮繊維芽細胞(Auger et al.,In Vitro Cell.Dev.Biol.- Animal 36:96-103;U.S.Pat.No.5,968,546及び5,693,332,前記文献のそれぞれは参照により本明細書に組み込まれる)、新生児包皮(Asbill et al.,Pharm.Research 17(9):1092-97 (2000);Meana et al.,Burns 24:621-30 (1998);U.S.Pat.No.4,485,096;6,039,760;及び5,536,656,前記文献のそれぞれは参照により本明細書に組み込まれる)、及び不死化ケラチノサイト細胞株、例えばNM1細胞(Baden,In Vitro Cell.Dev.Biol.23(3):205-213 (1987)),HaCaT細胞(Boucamp et al.,J.cell.Boil.106:761-771 (1988));及びNIKS細胞(細胞株BC-1-Ep/SL;参照により本明細書に組み込まれるU.S.Pat.No.5,989,837;ATCC CRL-12191)が挙げられる。言及した細胞株のそれぞれは、所望のタンパク質(1種または複数種)を発現または共発現することができる細胞株を製造するために、培養または遺伝子組換えすることができる。特に好ましい実施形態では、NIKS細胞が使用される。新規のNIKSヒトケラチノサイト細胞株の発見は、非ウイルスベクターを使用してヒトケラチノサイトを遺伝子操作する機会を提供する。NIKS細胞の特有の利点は、それらが、遺伝的に均一であり、病原体が無いヒトケラチノサイトの定常的な供給源であることである。このため、それらは、現在利用可能な皮膚同等物を超える向上した特性を有するヒト皮膚同等物を提供するために、遺伝子工学及びゲノム遺伝子発現方法を適用するのに有用である。ウィスコンシン大学で同定され、特性が調べられているNIKS細胞は、非腫瘍原性であり、安定な核型を示し、そして単層培養及び器官培養のいずれにおいても正常な増殖及び分化を示す。NIKS細胞は、培養において完全に層状化された皮膚同等物を形成する。これらの培養物は、これまでに調べられているすべての基準によって、初代ヒトケラチノサイトから形成された器官培養物から区別することができない。しかしながら、初代細胞とは異なり、NIKS細胞は、単層培養において長期の寿命を示す。これは、細胞を遺伝的に操作し、新規の有用な特性を有する新規な細胞のクローンを単離する機会を提供する(Allen-Hoffmann et al.,J.Invest.Dermatol.,114(3): 444-455 (2000))。
【0027】
NIKS細胞は、外見上正常な男児から単離されたヒト新生児包皮ケラチノサイトのBC-1-Ep株から生じた。初期の継代において、BC-1-Ep細胞は、培養された正常ヒトケラチノサイトにおいて非典型的である形態学的特性または増殖特性を示さなかった。培養されたBC-1-Ep細胞は、層状化、ならびにプログラムされた細胞死の特徴を示した。複製の寿命を測定するために、BC-1-Ep細胞を、標準的なケラチノサイト成長培地において、100mm培養皿当たり3×10個の細胞密度において、老化するまで培養し続け、1週間の間隔で継代した(約1:25に分裂)。15継代目まで、集団内のほとんどのケラチノサイトは、大きくて平坦な細胞を示している多くの未成熟コロニーの存在によって判断されるような老化を呈した。しかしながら、16継代目において、小さい細胞サイズを示しているケラチノサイトが認められた。17継代目まで、小さいサイズのケラチノサイトのみが培養物中に存在し、大きくて老化したケラチノサイトは認められなかった。この危機的と思われる時期を生き延びた得られた小さいケラチノサイトの集団は、形態的に均一な外観を示し、細胞間接着及び扁平な外観の細胞の生成を含む、典型的なケラチノサイトの特徴を示すケラチノサイトのコロニーを形成した。老化時期を生き延びたケラチノサイトを、100mm培養皿当たり3×10個の細胞密度で培養し続けた。典型的には、培養物は7日以内に約8×10個の細胞密度に達した。この細胞増殖の安定した速度は、少なくとも59継代目まで維持され、細胞が不死に達したことを証明している。老化している元の集団から出現したケラチノサイトは、現在ではNIKSと呼ばれている。NIKS細胞株は、HIV-1、HIV-2、EBV、CMV、HTLV-1、HTLV-2、HBV、HCV、B-19パルボウイルス、HPV-16、SV40、HHV-6、HHV-7、HPV-18、及びHPV-31のプロウイルスDNA配列の存在について、PCRまたはサザン分析のいずれかを使用してスクリーニングされている。これらのウイルスのいずれも検出されなかった。
【0028】
3継代目における親株BC-1-Ep細胞及び31継代目ならびに54継代目におけるNIKS細胞について、染色体分析を行った。親株BC-1-Ep細胞は、XYを含めて46本の正常な染色体組を有する。31継代目において、すべてのNIKS細胞は、第8染色体長腕の余分な同腕染色体を有する47本の染色体を含んでいた。大きな染色体異常または標識染色体は他に検出されなかった。NIKS細胞の核型は少なくとも54継代目におけるまで一定であることが示された。
【0029】
NIKS細胞株及びBC-1-Epケラチノサイトに関するDNA指紋は、分析された12個のすべての遺伝子座において同一であり、NIKS細胞が親株BC-1-Ep集団から生じたことを証明している。NIKS細胞株が親株BC-1-EpのDNA指紋を偶然に有する確率は、4×10-16である。ヒトケラチノサイトの3種の供給源であるED-1-Ep、SCC4及びSCC13yからのDNA指紋は、BC-1-Epのパターンとは異なっている。このデータは、他のヒトED-1-Ep、SCC4、及びSCC13yから単離されたケラチノサイトが、BC-1-Ep細胞または互いに対して類縁関係に無いことも示している。NIKSのDNA指紋のデータは、NIKS細胞株を同定する明確な手法を提供する。
【0030】
p53機能の喪失は、培養細胞における増殖能力の向上及び不死化頻度の増加と関連している。NIKS細胞におけるp53の配列は、発表されているp53配列(GenBankアクセッション番号:M14695)と同一である。ヒトの場合、p53は、コドン72のアミノ酸によって区別される2種類の主要な多型として存在している。NIKS細胞におけるp53の対立遺伝子は、両方とも野生型であり、コドン72にアルギニンをコードする配列CGCを有する。もう一方の一般的な型のp53は、この位置にプロリンを有する。NIKS細胞におけるp53の全配列は、BC-1-Ep前駆細胞と同一である。NIKS細胞ではRbも野生型であることが明らかになっている。
【0031】
足場非依存的な増殖は、インビボでの腫瘍形成能と高度に相関している。この理由から、寒天またはメチルセルロースを含む培地中でのNIKS細胞の足場非依存的な増殖特性を調べた。寒天またはメチルセルロースを含む培地中での4週間後も、NIKS細胞は単細胞であり続けた。NIKS細胞の増殖の遅い変異体を検出するために、そのアッセイを合計8週間にわたって継続した。NIKS細胞の増殖の遅い変異体は、全く観察されなかった。
【0032】
親BC-1-Epケラチノサイト及び不死化NIKSケラチノサイト細胞株の腫瘍形成能を判定するために、胸腺欠損ヌードマウスの側腹部に細胞を注入した。ヒト扁平上皮癌細胞株SCC4を、これらの動物における腫瘍形成に関する陽性対照として使用した。試料の注射は、動物の一方の側腹部にSCC4細胞を入れ、反対側の側腹部に親株のBC-1-EpケラチノサイトまたはNIKS細胞を入れるように設計した。この注入方式によって、腫瘍形成における動物間の差異を排除し、マウスが腫瘍形成性細胞の激しい増殖を助けることが確認された。親BC-1-Epケラチノサイト(6継代目)もNIKSケラチノサイト(35継代目)も、胸腺欠損ヌードマウスにおいて腫瘍を形成しなかった。
【0033】
NIKS細胞を、液内培養及び器官培養の両方における分化能について分析した。器官培養の技法は、実施例に詳細が記載されている。特に好ましい実施形態では、本発明の器官培養された皮膚同等物は、コラーゲンまたは類似の物質ならびに繊維芽細胞から形成された真皮同等物を含む。ケラチノサイト、例えば、NIKS細胞、またはNIKS細胞と患者由来細胞の組み合わせが真皮同等物に接種され、器官培養プロセスの後に、扁平分化を特徴とする表皮層を形成する。
【0034】
液内培養における細胞に関しては、扁平分化のマーカーとして角化膜の形成をモニターした。培養されたヒトケラチノサイトにおいて、角化膜構築の初期段階では、インボルクリン、シスタチン-α、及び他のタンパク質から成る未熟構造の形成が起こり、それは成熟角化膜の最内側3分の1に相当する。接着性BC-1-Ep細胞またはNIKS細胞株に由来するケラチノサイトの2%未満が角化膜を形成する。この所見は、活発に増殖している、集密に達する以前のケラチノサイトは、5%未満の角化膜を形成することを証明した以前の研究と一致する。分化させるために誘導されたときにNIKS細胞株が角化膜を形成し得るか否かを判定するために、細胞を接着培養物から取り出し、メチルセルロースを使用して半固体にした培地中で24時間にわたって浮遊させた。ケラチノサイトの細胞間接着及び細胞-基層接着の喪失によって、終末分化の多くの態様(ケラチンの示差的発現及び角化膜の形成が挙げられる)は、インビトロで誘発することができる。NIKSケラチノサイトは親ケラチノサイトと同程度、通常はより多くの角化膜を形成した。これらの所見は、この細胞型に特異的な分化構造の形成を開始させる能力をNIKSケラチノサイトが失っていないことを証明している。
【0035】
NIKSケラチノサイトが扁平分化を起こし得ることを確認するために、細胞を器官培養で培養した。プラスチック基層上で増殖させかつ培地中に浸漬させたケラチノサイト培養物は、複製するが、分化は限定的であった。詳しくは、ヒトケラチノサイトは集密化して、3層以上のケラチノサイトから成るシートを生成する限定的な重層化を起こす。光学顕微鏡及び電子顕微鏡によれば、液内培養で形成される多層シートの構造と完全なヒト皮膚の構造との間には、大きな差がある。これに対して、器官培養技法では、ケラチノサイトがインビボに類似した条件下で増殖及び分化を行うことが可能である。詳しくは、細胞は、原繊維のコラーゲン基質内に包埋された真皮繊維芽細胞から成る生理学的基層に接着する。器官培養物は、空気-培地の界面で維持される。このように、上方のシート内の細胞は空気に曝露されるのに対して、増殖中の基底細胞は、コラーゲンゲルを介した拡散によって供給される栄養分の勾配に接した状態に保たれる。これらの条件下で、正しい組織構造が形成される。正常に分化している表皮のいくつかの特徴が認められる。親細胞及びNIKS細胞株の両方において、立方基底細胞の単層が、表皮と真皮同等物との接合部に存在する。円形の形態、及び核の細胞質に対する高い比率は、ケラチノサイト集団が活動的に分裂していることを表す。正常なヒトの上皮では、基底細胞が分裂すると、それらは、組織の分化している層中へと上方に移動する娘細胞を生み出す。娘細胞はサイズを増大させ、平坦になり、扁平になる。最終的には、これらの細胞は、脱核し、角化した角質構造を形成する。この正常な分化プロセスは、親細胞及びNIKS細胞の両方の上層において認められる。平坦な扁平細胞の出現は、上の上皮層において明らかであり、層状化が器官培養において起こったことを証明している。器官培養物の最上部分では、脱核した扁平細胞が培養物の上部から剥落する。現在のところ、器官培養で増殖させた親ケラチノサイトとNIKSケラチノサイト細胞株との間に、光学顕微鏡のレベルにおいて、分化における組織学的な差は観察されていない。
【0036】
親株(5継代目)及びNIKS(38継代目)の器官培養物のより詳細な特徴を観察し、かつ組織学的観察を確認するために、電子顕微鏡を使用して試料を分析した。親細胞及び不死化NIKSヒトケラチノサイト細胞株を15日間の器官培養を行った後に回収し、重層化の程度を示すために基底層に対して直角に切片化した。親細胞及びNIKS細胞株の両方は、器官培養において広範な層状化を起こし、正常ヒト表皮に特徴的な構造を形成する。大量のデスモソームが、親細胞及びNIKS細胞株の器官培養において形成される。また、親細胞及び細胞株の両方の基底ケラチノサイト層における基底層及び随伴性のヘミデスモソームの形成も認められた。
【0037】
ヘミデスモソームは、ケラチノサイトの基底層への接着を増強する特殊な構造であり、組織の完全性及び強度の維持に役立つ。これらの構造の存在は、親細胞またはNIKS細胞が多孔性支持体に対して直接付着した領域において特に明らかであった。これらの所見は、線維芽細胞を含む多孔性支持体上で培養したヒト包皮ケラチノサイトを使用して以前に得られた超微細構造の所見と一致する。光学顕微鏡レベル及び電子顕微鏡レベルの両方の分析は、器官培養におけるNIKS細胞株が層状化し、分化し、そして正常なヒトの上皮に見出されるデスモソーム、基底層、及びヘミデスモソームのような構造を形成し得ることを証明している。
【0038】
B)凍結保存
本発明は、凍結保存された生育可能な皮膚同等物を提供する。凍結保存された皮膚同等物は、約-50℃、-60℃、-70℃、-80℃以下で、1、2、3、4、5または6ヵ月を超え、最大12または24カ月までの長期間、生育可能性を実質的に失うこと無く、好ましく保管できる。
【0039】
好ましい実施形態では、製品包装より前の凍結保存プロセスのすべての工程は、クラス10,000のクリーンルームで、クラス100の安全キャビネット内で、無菌的に行う。いくつかの実施形態では、前記の凍結保存プロセスは、凍結防止剤溶液中で器官培養された皮膚同等物を処理することを含む。本発明のある実施形態は、任意の特定の凍結防止剤の使用に限定されない。いくつかの好ましい実施形態では、凍結防止剤はグリセロールである。前記凍結防止剤は、凍結防止剤溶液中の異なる濃度で提供してもよい。いくつかの実施形態では、凍結防止剤は、温度に応じて、体積基準で溶液の約20%もしくは21%~約70%、更に好ましくは、体積基準で溶液の約20%もしくは21%~約45%、または体積基準で37.5%~62.5%、または、最も好ましくは、体積基準で溶液の約25%~40%、または、体積基準で溶液の42.5%~57.5%含む溶液で提供する。いくつかの実施形態では、凍結防止剤溶液は、好ましくは、約32.5%v/vまたは約50%v/vの凍結防止剤(例えば、グリセロール)を含む。いくつかの実施形態では、凍結防止剤は、基本培地溶液で提供される。適当な基本培地溶液としては、DMEM、Ham’s F-10、Ham’s F-12、DMEM/F-12、Medium 199、MEM及びRPMIが挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態では、前記基本培地は溶液体積の残りを形成する。いくつかの実施形態では、凍結防止剤溶液は緩衝される。適当な緩衝剤としては、HEPES、Tris、MOPS、及びTrizma緩衝剤が挙げられるが、それらに限定されない。緩衝剤は、pH7.0~7.4の緩衝系を提供する量で含有されてよい。いくつかの好ましい実施形態では、凍結防止剤溶液を、約5mM~15mMのHEPESで、最も好ましくは約10mMのHEPESで、約7.0~7.4のpHまで緩衝する。
【0040】
いくつかの特に好ましい実施形態では、凍結防止剤溶液による処理は、1工程で実行される。「1工程」とは、当業で一般的であるような平衡手順中に、凍結防止剤溶液が交換されないことを意味している。例えば、その処理工程は、各工程で凍結防止剤の濃度を上昇させると共にいくつかの培地を変える段階的平衡手順(stepwise equilibration procedure)とは対照的に、規定濃度の凍結防止剤を有する凍結防止剤溶液を使用して行う。いくつかの実施形態では、処理工程は、換算温度で行われる。いくつかの好ましい実施形態では、処理工程は約2℃~8℃で行い、他の実施形態では、前記処理工程は、室温で、例えば約15℃~30℃で行う。いくつかの実施形態では、皮膚同等物を、約10~60分間、好ましくは約20~30分間、凍結防止剤溶液中で培養する。
【0041】
いくつかの実施形態では、皮膚同等物は、凍結防止剤で処理された後凍結される。いくつかの実施形態では、過剰な凍結防止剤溶液は、例えば溶液を吸引するかまたは処理した皮膚同等物を新鮮な容器へと移すことによって、凍結前に皮膚同等物から除去される。したがって、いくつかの実施形態では、処理した皮膚同等物を、約-50℃~-100℃、最も好ましくは約-80℃の温度に曝露することによって、凍結させる。いくつかの好ましい実施形態では、処理した皮膚同等物を、バッグ、または培養皿のような他の容器の中に単に置き、次いで、凍結ユニット、例えば低温の凍結ユニット(例えば-80℃の冷凍庫)の中に配置する。対照的に、凍結ユニット内の温度を制御することよって、または、温度の低下速度を制御できる容器内に凍結させる組織を配置することによって、凍結速度を制御することは当業において一般的である。いくつかの実施形態では、処理した皮膚同等物を、凍結させるために無菌の培養容器に配置する。用語「培養容器」は、細胞または組織を培養するために通常使用されるタイプの任意の容器を指しており、適当な材料、例えば組織培養プラスチック、ポリスチレン、ポリマー、プラスチック、ガラスなどから作られる円形の、矩形の、及び正方形の皿を含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、凍結保存された皮膚同等物は、長期保管のために包装される。いくつかの好ましい実施形態では、皮膚同等物は、上記のようなバッグまたは培養容器の中に配置される。いくつかの実施形態では、バッグまたは培養容器を、封入し、好ましくは無菌バッグ(例えば、プラスチックまたはポリマーのバッグ)中にヒートシールして一次包装を提供する。次いで、一次包装を、第2のバッグ、例えば第2のプラスチック、箔、またはMylarバッグの中に封入する。本発明の凍結保存された組織は、低温で、すなわち約-50℃~約-100℃、好ましくは約-80℃で保管するのが好適である。皮膚同等物は、好ましくは、実質的に生育可能性を失うことなく、約1、2、3、4、5または6ヵ月、及び最大12または24ヵ月まで保管してもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、本発明は、前記凍結保存された皮膚同等物を温めることを含む、対象に適用する前に凍結保存された皮膚同等物を解凍し、拡散によって前記凍結防止剤溶液の除去を可能にする組織適合性溶液を含む吸収媒体と、前記凍結保存された皮膚同等物とを接触させる方法を提供する。いくつかの実施形態では、適当なバッグまたは培養容器における凍結保存された皮膚同等物を、ベンチまたはテーブルの上に単に配置し、そして解凍させる。当業において一般的である制御された条件下での解凍は、必要ではない。いくつかの実施形態では、凍結保存された皮膚同等物を、吸収媒体に配置して、前記皮膚同等物から、解凍された凍結防止剤溶液を除去する。本発明は、特定の吸収媒体の使用に限定されない。適当な吸収媒体としては、Telfaパッド、セルロースパッド(例えばWhatman 1003-090濾過パッド及びPall 70010濾過パッド)、ガーゼパッド、及び発泡体パッド(例えばCovidien 55544親水性発泡体パッド)が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの好ましい実施形態では、吸収媒体はTelfaパッドである。いくつかの実施形態では、吸収媒体は組織適合性溶液を含む。いくつかの実施形態では、組織適合性溶液は緩衝液である。適当な組織適合性溶液としては、DMEM、Ham’s F-10、Ham’s F-12、DMEM/F-12、Medium 199、MEM及びRPMIが挙げられるが、それらに限定されない。適当な緩衝剤としては、HEPES、Tris、MOPS、及びTrizma緩衝剤が挙げられるが、それらに限定されない。緩衝剤は、pH7.0~7.4の緩衝系を提供する量で含有されてよい。
【0044】
更なる実施形態では、本発明は、凍結保存された皮膚代用物を含むキットを、好ましくは上記したようなパッケージで提供する。いくつかの実施形態では、キットは、吸収媒体及び組織適合性溶液を更に含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明は、器官培養された皮膚同等物を形成し、同じ培養容器で前記皮膚同等物を凍結させるための方法を提供する。いくつかの実施形態では、培養容器は、培養皿で上下の位置の間で移動可能なインサートを含む。インサートは、好ましくは多孔質膜である底面を含む。使用中、培養容器は適当な培地で満たされ、真皮同等物は多孔質膜上で形成される。次いで、真皮同等物に、適当な培地の存在下で、ケラチノサイト(例えば、NIKS細胞)を接種する。適当な時間に、気体界面を、培養容器中の培地のレベルを低下させることによって作り出し、層状化された皮膚同等物が形成されるまで、培養を続けた。次いで、培地を培養容器から取り出し、インサートを下の位置まで降ろす。処理のために凍結防止剤溶液を加え、次いで取り除き、そして培養容器を凍結ユニットに移す。
【0046】
C)治療用途
本発明の凍結保存された皮膚同等物は治療的に使用できるものと考えられる。いくつかの実施形態では、凍結保存された皮膚代用物は、創傷閉鎖及び熱傷に対する治療用途で使用される。熱傷に対する治療及び創傷閉鎖のための自己移植及び同種異系移植の利用については、Myers et al.,A.J.Surg.170(1):75-83 (1
995)及びU.S.Pat.No.5,693,332;5,658,331;及び6,039,760に記載されており、前記文献のそれぞれは参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、皮膚同等物は、DERMAGRAFTまたはINTEGRAのような真皮代用物と共に使用してもよい。したがって、本発明は、創傷(創傷としては熱傷によって生じた潰瘍または創傷が挙げられる)閉鎖の方法であって、皮膚同等物と、創傷を受けている患者とを提供すること、並びに創傷が閉鎖されるような状況下において皮膚同等物で患者を治療することを含む方法を提供する。
【0047】
いくつかの実施形態では、皮膚同等物を使用して慢性の皮膚創傷を治療する。慢性の皮膚創傷(例えば静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍)は、深刻な問題である。そのような創傷の治療には、しばしば、1年をはるかに超える治療が必要になる。治療の選択肢としては、現在のところ、包帯法及び壊死組織除去法(壊死している組織を除去するための化学物質または手術の利用)、及び/または感染症の場合には抗生物質が挙げられる。これらの治療の選択肢は、長期間を要し、高いレベルの患者の同意を要する。したがって、慢性創傷を治療する際の医師による治療の成功を増やすことができかつ創傷治癒の速度を速めることができる治療法により、この分野において対処されてこなかったニーズが満たされるであろう。したがって、本発明は、凍結保存された皮膚同等物による皮膚創傷の治療を意図している。いくつかの実施形態において、皮膚同等物は、典型的には、創傷に対して適用される。他の実施形態では、凍結保存された皮膚同等物は、部分層創傷に対する適用のために使用される。他の実施形態では、凍結保存された皮膚同等物を使用して全層創傷を治療する。他の実施形態では、凍結保存された皮膚同等物は、数多くのタイプの内部創傷(消化管の内側を覆う粘膜の内部創傷、潰瘍性大腸炎、及び癌治療によって引き起こされる可能性のある粘膜の炎症が挙げられるが、それらに限定されない)を治療するために使用される。更に他の実施形態では、宿主防御ペプチドまたはプロ血管形成因子を発現する皮膚同等物は、一時的または永久的な創傷被覆物として使用される。
【0048】
なお更なる実施形態では、細胞を遺伝子操作して追加の治療剤を対象に提供する。本発明は、任意の特定の治療剤の送達に限定されない。実際に、種々の治療剤を対象に送達できることが意図され、前記治療剤としては、酵素、ペプチド、ペプチドホルモン、他のタンパク質、リボソームRNA、リボザイム、小型干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、及びアンチセンスRNAが挙げられるが、それらに限定されない。好ましい実施形態では、前記薬剤は、宿主防御ペプチド、例えばヒトβ-デフェンシン1、ヒトβ-デフェンシン2、もしくはヒトβ-デフェンシン3、またはカテリシジンであるか、または他のタンパク質、例えばVEGF及びHIF-1αであり、例えばU.S.Pat.No.7,674,291;7,807,148;7,915,042;7,988,959;及び8,092,531を参照されたい;前記特許のそれぞれは参照により本明細書に完全に組み込まれる。これらの治療剤は、遺伝的欠損を修正する目的が挙げられるが、これに限定されない種々の目的のために、送達され得る。いくつかの特有な好ましい実施形態では、遺伝的な先天性代謝異常(例えば、アミノ酸尿)の患者を解毒させる目的で治療剤は送達され、皮膚同等物は野生型の組織として機能する。治療剤の送達は欠損を修正すると考えられる。いくつかの実施形態では、細胞は、治療剤(例えばインスリン、凝固第IX因子、エリスロポエチンなど)をコードするDNA構築体によってトランスフェクトされ、トランスフェクトされた細胞から調製された皮膚同等物は、対象に投与される。次いで、治療剤は、移植片から患者の血流または他の組織に送達される。好ましい実施形態では、治療剤をコードする核酸は、適当なプロモーターに作動可能に連結される。本発明は、任意の特定のプロモーターの使用に限定されない。実際に、種々のプロモーターの使用が意図され、例えば、誘導的、構成的、組織特異的、及びケラチノサイト特異的プロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態では、治療剤をコードする核酸は、ケラチノサイト中に直接的に(すなわち、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈殿、またはリポソームトランスフェクションによって)導入される。他の好ましい実施形態では、治療剤をコードする核酸は、ベクターとして供給され、ベクターは当該技術分野で公知の方法によってケラチノサイト中に導入される。いくつかの実施形態では、ベクターは、複製するプラスミドのようなエピソーム性ベクターである。他の実施形態では、ベクターはケラチノサイトのゲノム中に組み込まれる。組み込みベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、非複製プラスミドベクター、及びトランスポゾンベクターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0049】
実験
以下の実施例は、本発明のある好ましい実施形態及び態様を証明しかつ更に説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を制限するものと解釈すべきではない。
【0050】
以下の実験の開示においては、以下の略語を適用する:eq(当量);M(モル濃度);mM(ミリモル濃度);μM(マイクロモル濃度);N(規定);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lまたはL(リットル);mlまたはmL(ミリリットル);μlまたはμL(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);C(摂氏);U(ユニット)、mU(ミリユニット);min.(分);sec.(秒);%(パーセント);kb(キロベース);bp(塩基対);PCR(ポリメラーゼ連鎖反応);BSA(ウシ血清アルブミン);CFU(コロニー形成単位);kGy(キログレイ);PVDF(ポリフッ化ビニリデン);BCA(ビシンコニン酸);SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)。
【0051】
実施例1
StrataGraft(登録商標)皮膚組織は、正常ヒト皮膚の構造的及び生物学的特性の多くを再生させる、生きている全層の同種異系ヒト皮膚代用物である。StrataGraft(登録商標)皮膚組織は、NIKS(登録商標)細胞(病原体が無いヒトケラチノサイト前駆細胞の定常的でかつ特徴の明確な供給源である)に由来する生育可能な完全に重層化した表皮層と、コラーゲンに富むマトリックスに包埋された正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDF)を含む真皮層との両方を含む。StrataGraft(登録商標)皮膚組織は、ヒト皮膚移植片と同様にかみ合わせることができ、ステープルで留めることができ、そして縫合することができる優れた引張り強度及び取扱適性を有する。また、StrataGraft(登録商標)は、完全なヒト皮膚に匹敵するバリア機能を示し、そして創傷床の前処置及び組織再生のために生物活性分子を送達することができる。StrataGraft皮膚組織の物理的及び生物学的特徴により、StrataGraftは種々の皮膚創傷の治療にとって理想的である。
【0052】
StrataGraft(登録商標)皮膚組織のための製造プロセスは、3つの連続した細胞及び組織の培養プロセスを含む。製造プロセスのステージIでは、NIKSケラチノサイトは単層細胞培養で増大させる。ステージIにおけるNIKSケラチノサイト培養と同時に、NHDFを、単層培養で増大させ、精製されたI型コラーゲン及び培地と組み合わせ、そして、ゲル化させて、細胞化された真皮同等物(DE)を形成させる。あるいは、NHDFを、Transwellインサート内に接種し、増殖かつ分泌させ、そして細胞外マトリックス分子を集合させて単純な真皮同等物を構築することができる。ステージIIでは、NIKSケラチノサイトをDEの表面上に接種し、浸漬状態下で2日間培養してDE表面の完全な上皮形成を促進する。次いで、ステージIIIにおいて、その組織を気液界面まで上げ、そこで、その組織を、制御された低湿度環境に18日間維持して、組織の成熟を促進する。皮膚同等物は一般的にU.S.Pat.No.7,674,291;7,807,148;7,915,042;7,988,959;及び8,092,531に記載されているように調製される;前記特許のそれぞれは参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0053】
実施例2
本実施例では、ヒト皮膚同等物のための改善された凍結保存方法を説明する。製造プロセスは、上記した現在の方法と変わらない。ロットのすべての組織を、新鮮な培地と一緒に供給し、凍結保存前に一晩培養する。凍結保存前に、各ロットのすべての組織からの培地サンプルを、無菌性について試験する。各ロットの残留組織を、以下の通りに凍結保存する。
【0054】
【表1】
【0055】
凍結保存プロセスの説明
最終製品の包装工程前に、凍結保存プロセスのすべての工程を、クラス10,000のクリーンルームにおいて、クラス100の安全キャビネットで無菌的に行う。
工程1-安全キャビネット内でステンレス鋼製冷間処理表面上で2~8℃まで20mlの凍結防止剤溶液を含む100mmの培養皿を予冷する。冷間処理表面の温度を、水中に沈められた冷凍ゲルパックとの接触によって、数時間2~8℃に維持する。
工程2-StrataGraft(登録商標)組織を含むTranswellsを、予冷した凍結防止剤溶液を含む各培養皿中に移す。冷間処理表面上の凍結防止剤中で組織を20~30分間培養する。
工程3-処理したStrataGraft(登録商標)組織を、培養皿の底に組織が存在するように最終製品ラベルを含む新しい無菌の100mm培養皿に移し、そして冷間処理表面へと組織を戻す。過剰な凍結防止剤を皮膚同等物から排出させて、処理された皮膚同等物を提供する。前記処理された皮膚同等物は、皮膚同等物の外面上に実質的に過剰な凍結防止剤を有していない。
工程4-透明で無菌のバッグ内に100mm培養皿をヒートシールする。一次包装を、二次のMylarバッグに入れ、ヒートシールし、包装された組織を、すべての組織が包装されるまで、低温保存容器に移す。
工程5-包装されたStrataGraft(登録商標)組織を有する低温保存容器をクリーンルームから取り出し、超低温冷凍庫(-75℃~-80℃)に組織を移す。その組織を前記冷凍庫内の予冷ラック内に置き、その包装された組織の上下に無制限に気流を流して均一で迅速な冷却を確保する。凍結プロセスの間、一晩、組織を静置する。
組織は、ロット発送試験の結果が出るまで-70~-90℃の隔離保管庫に入れる。凍結保存されたStrataGraft(登録商標)皮膚組織の各ロットからの代表的な組織を、StrataGraft(登録商標)組織のロット発送試験のために歴史的に使用されてきた品質管理SOPのパネルを使用して、試験する。
【0056】
Stratatechは、StrataGraft(登録商標)皮膚組織の特性を決定するために使用されるロット発送アッセイのパネルを確立し、認定してきた。これらのロット発送アッセイのサブセットを使用して、保管条件に対する変更がStrataGraft(登録商標)皮膚組織の重要な生物学的及び構造的特徴(例えばバリア機能、生育可能性、及び組織学的外見)に関して有し得る影響をモニターし評価してきた。StrataGraft(登録商標)組織の組織学的外観の一過性の軽微な変化は凍結保存後に一般的に観察されるが、組織学的構造は、数日間、器官培養に再導入された後に、正規化される。このことは、StrataGraft(登録商標)の基底層における生細胞が、凍結保存後に、上皮層を増殖させかつ再生させ得ることを示唆している。凍結防止剤濃度、培養時間、培養温度、凍結速度、及び保管条件を系統的に評価することによって、Stratatechは、定常的でかつ規定品質を有するStrataGraft(登録商標)皮膚組織の長期保管を可能にし、StrataGraft(登録商標)皮膚組織を規定する規格を満たす凍結保存プロセスを確認することができる。
【0057】
StrataGraft凍結保存プロセスの開発中に、以下のパラメーターを系統的に評価した。
・凍結防止剤組成物
・予備凍結の凍結防止剤培養温度
・予備凍結の凍結防止剤培養時間
・凍結防止剤培養中に必要とされる工程数
・凍結速度
・最終製品包装
・保管温度
・発送状態
・解凍温度及び解凍時間
・解凍後の凍結防止剤拡散媒介物
・解凍後の培養溶液
・解凍後の培養温度
・解凍後の培養時間
予想されるように、これらの各パラメーターの多くは相互作用して凍結保存組織の特性に影響を及ぼす。例えば、凍結防止剤培養時間及び温度も考慮せずに、凍結防止剤濃度を最適化することはできない。同様に、解凍後の培養温度は、解凍後の培養時間の許容範囲に影響を及ぼす。凍結保存プロセスの開発中に、個々のパラメーターのそれぞれに関する許容可能な値の範囲を確認し使用して、凍結防止剤の配合、予備凍結の培養時間、予備凍結の培養温度、凍結速度、及び保管条件の最終的な組み合わせを規定する。StrataGraft(登録商標)皮膚組織の凍結保存及び保管のために開発された凍結保存プロセスの運転パラメーターは、上記してある。
【0058】
グリセロール(グリセリン)は、StrataGraft(登録商標)組織のための最も望ましい凍結防止剤であると確認した。凍結防止剤配合物で使用されるグリセロールは、使用のためにリリースする前に、内毒素に関する追加の試験を受ける合成USPグレードの材料である。グリセロールに加えて、凍結防止剤溶液は、周囲大気条件下においてpH7.0~7.4を維持するために、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)及び10mMのHEPESを含む。DMEMを、凍結保存溶液のための基剤として選択した。なぜならば、既に、StrataGraft(登録商標)皮膚組織を調製するために使用される培地の成分であるからである。HEPESは、CO環境外で凍結保存溶液のpHを維持する特徴の明確な緩衝剤である。
【0059】
凍結防止剤溶液で使用するための適当なグリセロール濃度を決定するために一連の研究を行った。試験されるグリセロール濃度は、16.25%~65%であった。場合によっては、グリセロールの濃度は、グリセロール濃度が増加していく一連の溶液中で培養することによって、2工程または3工程で徐々に増強された。StrataGraft(登録商標)組織を凍結保存するフィージビリティを証明するための初期の研究は、3工程プロセスを使用した。前記プロセスでは、各グリセロール溶液において、15~20分間の培養によって、グリセロール濃度は、16.25%まで、次いで32.5%まで、そして最後に65%まで順次に増強され、一方、各培養工程で温度を徐々に低下させた(室温で16.25%のグリセロール培養、2~8℃で32.5%、及び-20℃で65%)。最後に、組織を、速度制御冷凍庫において、-15℃/分で-140℃まで冷凍した。凍結保存組織は、超低温冷凍庫(-80℃)へ移し、そこで、分析のために解凍するまで維持した。この3工程プロセスを使用して、凍結保存された保管中に、StrataGraft(登録商標)組織の生育可能性及び組織学的構造を維持することができるだろうが、異なる温度で行われる異なる溶液による多重工程を有する複雑さは、エラーの可能性をもたらし、かつ、商業化のために要求されるだろうプロセスのスケールアップを受け入れない。
【0060】
3工程法によって凍結保存された組織を分析すると、凍結防止剤の解凍及び希釈後に、組織は、凍結保存されなかった組織に匹敵する生育可能性(MTTをそのホルマザン生成物へと変換する組織の生細胞の能力によって評価される)、組織学的構造、及びバリア機能を示したことが明らかになった。解凍後9日間の器官培養への再導入後に高いレベルの生育可能性を維持した組織は、解凍直後に検出された代謝活性が単に残留していた酵素活性ではなかったことを証明している。
【0061】
これらの初期の研究中に、凍結保存組織におけるグリセロール濃度は、解凍後に、グリセロール濃度が減少していく一連の溶液中で組織を培養することによって、または、グリセロールの拡散を減速させるために組織の真下にフィルターパッドを有する培地レザバー中に組織を配置することによって、低下され得るだろうことを見出した。これらの結果に基づいて、次の研究では、グリセロール拡散を減速させるために、パッドを有する培地において解凍組織を培養する1工程法を主に用いた。図7を参照されたい。
【0062】
3工程法を使用してStrataGraft(登録商標)皮膚組織を凍結保存することのフィージビリティを証明した後、我々は、単純化を前記凍結保存法と比較するベンチマークとして3工程法を使用した。これらの研究は、同じ最終グリセロール濃度(65%)に達するように要求される工程数を減らすこと、または、初期研究で使用されるグリセロール濃度に比べて低い最終グリセロール濃度を評価することを調べた。これらの研究に基づいて、32.5%の低さのグリセロール濃度を使用して、凍結保存された保管中に、StrataGraft(登録商標)組織の生育可能性及び組織学的構造を再現的に維持できることが確認された。対照的に、凍結防止剤溶液中16.25%の最終グリセロール濃度は、凍結組織における生育可能性の維持を支援しなかった。図5を参照されたい。グリセロール濃度の範囲を評価することによって、50%グリセロールを含む凍結防止剤溶液は、StrataGraft(登録商標)皮膚組織の凍結保存を再現的に支援し、また、効率的な凍結保存も支援する幾分低いグリセロール濃度(例えば32.5%)を超える誤差限界を提供することが確認された。
【0063】
予備凍結の凍結防止剤培養温度、培養時間、及び培養工程数
凍結防止剤溶液におけるグリセロールの濃度に加えて、凍結保存前に、凍結防止剤によるStrataGraft(登録商標)組織の処理に影響を及ぼす3つの他の因子は:1)予備凍結の凍結防止剤培養時間、2)組織が凍結防止剤で処理される温度、及び3)最終グリセロール濃度に達するのに必要とされる工程の数、である。上記のように、3工程プロセスによる初期のフィージビリティスタディは、各工程で、15~20分間、連続的に低い温度でグリセロール濃度を増加させて、溶液中で組織を順次に培養することを含む。上記のように、異なる温度で行われる異なる溶液による多重工程を有する複雑性を回避して、エラーの可能性を減し、プロセススケールアップを容易にするためには、より単純な凍結保存プロセスが好ましい。この目的に向かって、予備凍結の凍結防止剤平衡相中における凍結防止剤濃度の段階的増加及び温度の段階的低下の必要性が評価された。
【0064】
異なる凍結防止剤濃度の評価に関連して行われる一連の研究では、わずか15分間に、また60分間もの長い間に、2~8℃において、1工程で、32.5、50、または65%のグリセロールを含む凍結防止剤溶液で処理されるStrataGraft(登録商標)組織はすべて、生育可能性または表皮構造の最小の損失で凍結保存に耐えることが可能であると確認された。組織性能の低下は60分までの凍結防止剤処理時間では観察されなかったが、凍結前に凍結防止剤に対して長時間曝露するときのあらゆる潜在的副作用を最小化するために、比較的短いグリセロール処理時間(20~30分)を選択した。
【0065】
凍結速度
上記のように、初期のフィージビリティスタディは、凍結防止剤と平衡させた後、-15℃/分の速度で組織を凍結させるために、速度制御冷凍庫を利用した。しかしながら、速度制御冷凍庫の使用は、かなりの追加の経費を必要とし、プロセスのスケールアップのためには受け入れられない。歴史的に、ヒト細胞の凍結保存は、速度制御冷凍庫を用いずに、約-1℃/分のより穏やかな速度で達成されてきた。これは、冷却速度を約-1℃/分まで減速するように設計された絶縁された箱または容器の中で超低温冷凍庫中に細胞のバイアルを配置することによって、通常達成される。
【0066】
プロセス開発研究は、速度制御冷凍庫を使用せずにStrataGraft(登録商標)組織を凍結保存できるか否かを確認するように設計した。これらの研究により、凍結防止剤で処理した後に、超低温冷凍庫(約-80℃)へと直接移動させることによって凍結された組織は、速度制御冷凍庫で凍結された組織と同様に機能することが証明された。図1を参照されたい。
【0067】
温度モニタリング研究を行って、凍結保存プロセス中の組織の温度を追跡した。内部無菌バッグ及び外部Mylarバッグで包装後に、StrataGraft(登録商標)組織を、超低温冷凍庫内の予冷ラックに移す。各組織を、凍結プロセス中に無制限の気流を流すために組織の上下に十分な余地を有する、冷凍庫ラック内の分離スロットに配置する。上記のように包装され、そしてこの構成における冷凍庫ラック中に装填された培養皿内に配置された温度モニタリングプローブを使用し、温度を最初の15分以内に急速に約-50℃まで低下させ、更に30分で約-65℃まで冷却し、そして3時間後に約-80℃の最終温度にする。冷凍庫ラックの一番上、中間、及び一番下の位置に置かれた組織間の温度プロフィールに有意差は無い。図2を参照されたい。
【0068】
最終製品の包装
初期の研究では、組織は、凍結防止剤と一緒に培養した後に、凍結防止剤溶液の層と接触させて凍結させた。このように凍結保存された組織は良好な解凍後特性を示したが、凍結防止剤のこの層と接触させて凍結させた組織の迅速解凍は、35~39℃の水浴中での数分間の培養を必要とし、そしてそれは、手術室で実行及び標準化するのは困難であるだろう。続いて、凍結防止剤溶液との接触は、凍結防止剤で組織が処理された後には必要ないことが確認された。これにより、組織を凍結防止剤によって処理した後、空で無菌の100mmの培養皿へ移し、凍結防止剤溶液の層と接触させて組織を凍結させるのではなく、空の培養皿の底と接触させて組織を凍結させるという最終製品構成の開発が可能になった。
【0069】
凍結保存組織の無菌性を維持するために、凍結防止剤で処理した組織を含む100mm培養皿を、無菌のポリエチレンサンプルバッグ内に無菌的に包装し、ヒートシールする。次いで、内袋を、穿刺耐性で食品用グレードの金属化されたポリエステル/ポリエチレンバッグ内に入れてヒートシールし、光及び水分から包装された組織を保護し、そしてドライアイスを用いた発送中にCO蒸気に対するバリアを提供する。後述する安定性及び比較性研究は、この構成で包装され凍結保存された組織を利用した。
【0070】
保存温度
生育可能な皮膚同等物の凍結保存によって、熱傷センターは、迅速な介入処置を必要とする熱傷及び他の徴候にとって治療的なこの細胞に基づく再生医学を即座に利用できるようになる。最も望ましいのは、主要な熱傷センターが、その都度配達を予定する必要も無く、使用のために製品の在庫を維持することができることであろう。初期のフィージビリティスタディでは、凍結保存組織を、気相式窒素冷凍庫(vapor-phase nitrogen freezer)内で-196℃で保管した。熱傷センターは典型的には液体窒素貯蔵能力を有していないので、超低温冷凍庫(-60℃~-90℃)内で組織を少なくとも6ヵ月間保管できる凍結保存手順が開発されており、そしてそれは、大部分の病院及び外傷センターで血液及び組織のバンクにおいて直ぐに利用できる。これらの実験結果は、-50℃で保管された組織は数週間中に生育可能性の有意な損失を示す一方、-80℃で保管された組織は、窒素蒸気中に保管されていた組織に匹敵する生育可能性レベルを維持することを証明した。図3を参照されたい。これらの結果は、凍結保存組織のいくつかの独立ロットで得られ、この所見の再現性を確認した。以下の凍結保存組織の安定性の項で説明してあるように、-80℃で6ヶ月間保管された組織の分析は、保管中に、表皮構造への生育可能性または変化に関する有意な損失を示さなかった。
【0071】
発送状態
凍結保存StrataGraft(登録商標)皮膚組織は、FedExまたはUPSのような商業的な宅配便業者を介して翌朝に配達するために、ドライアイスを使用して臨床現場に発送される。発送容器(Freezetherm FT29、Laminar Medica)は、発送時に起こり得る受渡しの遅延を考慮して、最高35℃の周囲温度で、少なくとも72時間、<-75℃に凍結保存組織を維持するのに十分なドライアイスを保持している認定されているドライアイス付き発送ボックスである。実験データは、48時間を超える時間、ドライアイス付き発送容器における凍結保存組織の保管は、組織生育可能性または組織学的構造に関してなんらの検出可能な有害作用を有しないことを示している。図4を参照されたい。臨床現場での受領後、利用するまで、凍結保存StrataGraft(登録商標)組織を、超低温冷凍庫(例えば、-60℃~-90℃)に保管する。
【0072】
凍結保存組織の術前調製
臨床で使用する前に、凍結保存StrataGraft(登録商標)組織を解凍し、培地で飽和させたパッド上で短時間培養して、残留している凍結防止剤を除去する。その組織のジオメトリーに起因して解凍相は急速である。組織の解凍後、その組織を含むTranswellインサートを、無菌野へ無菌的に移し、培地で飽和させた吸収パッドを含む無菌皿に配置する。後述するように、解凍後培養相のタイミングは、臨床使用中に合理的に予期され得る遅延に合わせるのに十分に柔軟である。
【0073】
解凍温度及び解凍時間
上記した最終製品の包装の項で説明しているように、凍結防止剤溶液の層を用いずに培養皿において組織を凍結保存すると、パッケージをベンチまたはテーブルの上に単に置くだけで、周囲温度で組織を急速に解凍することができる。22℃~40℃の温度において様々な時間で組織を解凍しても同様な解凍後特性を示すことを実験データは証明しているので、解凍温度及び解凍時間を正確に制御する必要はない。
【0074】
解凍後の培養溶液
緩衝された解凍後培養溶液は、非緩衝溶液に比べてより良好に機能する。単純な非緩衝塩溶液(乳酸加リンゲル液または通常生理食塩溶液)中で培養された組織は、培地ベースの溶液中培養された組織と同様に、生存しない。HEPESで緩衝されたStratatech’s SM01培地(StrataLifeシリーズ)または市販のDMEM/F12培地が好ましい。図6を参照されたい。
【0075】
解凍後の培養温度
初期の開発研究では、緩衝培地は、37℃及び室温の両方で、解凍後培養の後に、組織の生育可能性を支援できることを見出した。しかしながら、温かい解凍後培養温度(37℃)は、最適以下の培養溶液のためのより低い温度(20~25℃)に比べて、より良好に作用する。図6を参照されたい。15~30分にわたって室温までゆっくり冷える37℃の培地を含むパッド上での解凍後培養の開始も十分に機能する。解凍後最初の数分間ではより高い温度が最も重要であると考えられる。
【0076】
後の開発研究では、解凍組織の特性を支援する能力において、室温にのみ予熱された緩衝培地溶液は、37℃に温められた培地と同等であることが証明された。これは、TelfaパッドまたはWhatmanパッドのいずれかで保持された組織には当てはまった。図8を参照されたい。
【0077】
解凍後の培養時間
組織は、20~25℃で15分~4時間、40℃で最大2時間、培地で飽和されたパッド上に置くことができるが、組織の生育可能性に関する有意な効果は認められなかった。
【0078】
安定性研究
凍結保存組織の安定性
上記研究の多くは、数日間または数週間だけ凍結状態で保管された組織を分析したが、凍結保存された細胞及び組織に対する損傷の大部分は、凍結及び解凍段階で起こり、細胞の生育可能性の損失は、低い温度での長期保管中には比較的殆ど起こらないことが広く認められている。長期保管の結果は、凍結保存StrataGraft(登録商標)皮膚組織が、超低温での少なくとも12ヵ月の保管後に、高いレベルの生育可能性と組織学的構造を維持していることを示している。上記の凍結保存プロセスを使用して製造及び凍結保存された組織に関する分析は、このプロセスで凍結保存された組織は、超低温で少なくとも12ヵ月間の保存中に、重要な生物学的、構造的、及び物理的な特性を維持していることを示している。図9を参照されたい。
【0079】
実施例3
この実施例では、室温で32.5%または50%のグリセロールを含む凍結保存溶液を用いる予備凍結処理工程を利用するヒト皮膚同等物のための改善された凍結保存方法を説明する。前記製造プロセスは、既に説明した現在の方法と変わらない。製造プロセス終了後、組織を処理し、以下のように凍結保存する。
【0080】
【表2】
【0081】
凍結保存プロセスの説明
最終製品の包装工程前に、凍結保存プロセスのすべての工程を、クラス10,000のクリーンルームにおいて、クラス100の安全キャビネット内で無菌的に行う。
工程1-20mlの凍結防止剤溶液を100mm培養皿に分注する。
工程2-StrataGraft(登録商標)組織を含むTranswellsを、凍結防止剤溶液を含む各培養皿の中に移す。凍結防止剤中で組織を15~45分培養する。
工程3-処理したStrataGraft(登録商標)組織を、培養皿の底に組織が存在するように、最終製品ラベルを含む新しい無菌の100mm培養皿に移す。過剰な凍結防止剤を皮膚同等物から排出させて、処理された皮膚同等物を提供する。前記処理された皮膚同等物は、皮膚同等物の外面上に実質的に過剰な凍結防止剤を有していない。
工程4-透明で無菌のバッグ内に100mm培養皿をヒートシールする。一次包装を二次Mylarバッグ内に配置し、ヒートシールする。
工程5-包装されたStrataGraft(登録商標)組織をクリーンルームから取り出し、超低温冷凍庫(-75℃~-80℃)に組織を移す。その組織を前記冷凍庫内の予冷ラック内に置き、その包装された組織の上下に無制限に気流を流して均一で迅速な冷却を確保する。凍結プロセスの間、一晩、組織を静置する。
凍結保存組織を、室温で10分間解凍し、室温まで温められた40mlのHEPES緩衝培地で飽和させたTelfaパッドを含む収容チャンバへ移し、15~20分間、室温で保持した。その組織を、90mlのSM01媒体を含む培養皿へ移し、一晩再培養した。一晩、再培養した後、生育可能性に関して組織を分析した。室温で、15~45分間、32.5%のグリセロールで前処理された組織は、許容可能な解凍後生育可能性を有していた。室温で、15分間、50%のグリセロールで処理された組織も、許容可能な生育可能性を有しているが;室温で、45分間、50%のグリセロールで処理された組織の生育可能性は許容できないものであった。図10を参照されたい。
【0082】
実施例4
MTTアッセイを好ましくは以下の通りに実行する。試料を、8mmの生検パンチを使用して皮膚組織から切除する。試料を、37℃/5%COに予熱された24ウェルプレート内の0.3mlのMTT Assay Medium(Ham’s F-12中1mg/mlのMTT試薬)へ移す。試料を37℃/5%のCOで85~95分間培養する。試料を吸い取って2mlのイソプロパノールへ移す。その試料を徹底的に混合して紫のホルマザン生成物を完全に抽出する。各抽出物から3つずつ得られる200μlを96ウェルプレートに等分し、ブランクとしてイソプロパノールを使用する。吸光度(550nm)は分光光度計で測定する。
【0083】
上記の明細書で言及したすべての刊行物及び特許は、引例によって本明細書に組み込まれる。本発明の範囲及び趣旨からの逸脱がない、説明した本発明の方法及びシステムに関する様々な改良及び変更は、当業者には明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して説明してきたが、特許請求される発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことは理解しておく必要がある。実際に、組織培養、分子生物学、生化学、または関連分野の当業者にとって明らかな、本発明を実行するための説明した様式の様々な改良は、以下の特許請求の範囲内であることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10