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特許7220642固体電池、セパレータ、電極および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】固体電池、セパレータ、電極および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 35/10 20060101AFI20230203BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20230203BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230203BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230203BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230203BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230203BHJP
【FI】
C01B35/10 Z
C03C10/02
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B13/00 Z
H01M10/0562
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019173287
(22)【出願日】2019-09-24
(62)【分割の表示】P 2018551909の分割
【原出願日】2016-12-21
(65)【公開番号】P2020002009
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2019-09-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】62/315,760
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/270,269
(32)【優先日】2015-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/398,030
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514221780
【氏名又は名称】ジョンソン・アイピー・ホールディング・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラズボーン・アランゾ・アリー
(72)【発明者】
【氏名】エイドリアン・エム・グラント
(72)【発明者】
【氏名】デヴォン・ライマン
(72)【発明者】
【氏名】ロニー・ジー・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】ディヴィッド・ケテマ・ジョンソン
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】山崎 慎一
【審判官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-138741(JP,A)
【文献】特開昭62-008452(JP,A)
【文献】国際公開第2015/104538(WO,A1)
【文献】特表2015-534243(JP,A)
【文献】CHEN, K. et al.,Journal of Power Sources,2013年11月05日,Vol.249,pp.306-310,<DOI:10.1016/j.jpowsour.2013.10.113>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B35/10
C03C10/02
H01B1/06
H01B1/08
H01B13/00
H01M10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトホウ酸リチウムでドープされた炭酸リチウム又は炭酸リチウムでドープされたオルトホウ酸リチウムを含む、非晶質またはガラスセラミックリチウムイオン伝導性無機電解質。
【請求項2】
電解質が、オルトホウ酸リチウムでドープされた炭酸リチウムを含む、請求項1に記載の非晶質またはガラスセラミック電解質。
【請求項3】
電解質が、炭酸リチウムでドープされたオルトホウ酸リチウムを含む、請求項1に記載の非晶質またはガラスセラミック電解質。
【請求項4】
電解質が、オルトホウ酸リチウムでドープされた炭酸リチウムと、フッ化リチウム、二酸化ケイ素、フッ素、硫黄、ケイ素およびゲルマニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーパントとを含む、請求項1に記載の非晶質またはガラスセラミック電解質。
【請求項5】
電解質が、炭酸リチウムでドープされたオルトホウ酸リチウムと、フッ化リチウム、二酸化ケイ素、フッ素、硫黄、ケイ素およびゲルマニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーパントとを含む、請求項1に記載の非晶質またはガラスセラミック電解質。
【請求項6】
電解質が、化学式Li9.3BO12.5を有する、請求項2に記載の非晶質またはガラスセラミック電解質。
【請求項7】
オルトホウ酸リチウムでドープされた炭酸リチウム又は炭酸リチウムでドープされたオルトホウ酸リチウムを含む非晶質またはガラスセラミックリチウムイオン伝導性無機電解質の製造方法であって、前記電解質の前駆体の粉末のコーティング層を基材上に形成するステップと、粉末を液化するためにコーティングされた基材を加熱するステップと、非晶質またはガラスセラミック電解質を形成するために粉末の融点より低い温度でコーティングされた基材を急冷するステップとを含む、非晶質またはガラスセラミック無機電解質の製造方法。
【請求項8】
非晶質またはガラスセラミックリチウムイオン伝導性電解質が、前記前駆体の粉末のリチウムイオン伝導性と比較して少なくとも3倍高いリチウムイオン伝導性を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電解質が、炭酸リチウムでドープされたオルトホウ酸リチウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記電解質が、オルトホウ酸リチウムでドープされた炭酸リチウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
非晶質またはガラスセラミックリチウムイオン伝導性電解質が、前記前駆体の粉末のリチウムイオン伝導性と比較して少なくとも5倍高いリチウムイオン伝導性を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
コーティング層を形成するステップは、前記前駆体の粉末と溶媒とを含むスラリーを調製するステップと、スラリーを基材上に堆積させるステップと、基材上に粉末のコーティング層を形成するために溶媒を蒸発させるステップとを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記電解質が、オルトホウ酸リチウムでドープされた炭酸リチウムと、フッ化リチウム、二酸化ケイ素、フッ素、硫黄、ケイ素およびゲルマニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーパントとを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記電解質が、炭酸リチウムでドープされたオルトホウ酸リチウムと、フッ化リチウム、二酸化ケイ素、フッ素、硫黄、ケイ素およびゲルマニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーパントとを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
ホウ素および炭素の少なくとも1つを含むドープされた金属酸化物を含む、非晶質またはガラスセラミックリチウムイオン伝導性無機電解質であって、前記電解質がLiSOでドープされたLiCO-LiBOである、電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2015年12月21日に出願された米国仮出願第62/270,269号、2016年3月31日に出願された米国仮出願第62/315,760号および2016年9月22日に出願された米国仮出願第62/398,030号の優先権を主張するものであり、それらの開示はその全体が参照によりここに組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
固体リチウム電池は、1970年代にデュラセルによって開発され、1980年代に市販されたが、もはや製造されていない。これらのセルは、リチウム金属アノード、ヨウ化リチウムとAlとの分散相電解質と、カソードとしての金属塩とを含んでいた。Li/LiI(Al)/金属塩構造は真の固体電池であったが、これらの電池は再充電することができなかった。
【0003】
不動態化反応および液体電解質および固体高分子電解質などの有機電解質材料の間に形成される不安定な界面に起因して、無機固体電解質材料を用いた再充電可能な固体リチウム系電池を開発することは長い間の目標であった。1990年代初頭には、オークリッジ国立研究所で第2タイプの全固体電池が開発された。これらのセルは、カソードおよび電解質のためのRFスパッタリングおよびLi金属アノードのための真空蒸着を含む真空蒸着技術を用いてセラミック基材上に堆積された、カソード、無機電解質およびアノード材料の薄膜からなるものだった。電池の全厚さは、典型的には10μm未満であった。カソードは4μm未満の厚さを有し、固体電解質は約2μmの厚さであり(カソードとアノードとの電気的絶縁を提供するのに十分である)、かつLiアノードの厚さは約2μmであった。物理的気相成長法によって強い化学結合(各層の内部およびセルの層間の両方)が提供されたため、これらの電池の輸送特性は優れていた。固体電解質LiPONの伝導率は2×10-6S/cm-1程度に過ぎないが(従来のデュラセル電池で使用されているLiI(Al)固体電解質と比べて50倍低い)、薄い2μm層のインピーダンスは非常に小さく、非常に高い出力特性を可能にする。しかしながら、この技術に基づく電池は、製造するのが非常に高価であり、非常に小さく、容量が非常に小さい。
【0004】
固体電池は、長い貯蔵寿命、長期間の安定した出力特性、ガス発生が無いこと、広い動作温度範囲(純リチウムアノードについて-40℃から170℃、活性複合アノードを用いて最大300℃および300℃超)、および高い体積エネルギー密度(最大2000Wh/L)を含む魅力的な特性を有する可能性に起因して、大きな注目を集めている。固体電池は、低ドレインまたは開回路条件下で長寿命を必要とする用途に特に適している。
【0005】
現在、液体電解質を使用するLiイオン電池ケミストリは、最もよく知られた性能を提供し、すべての電池ケミストリの中で最も広く使用されている。リチウムイオンセルは、薄い(10μm以下)Al箔集電体上にキャストされた厚い(100μm以下)多孔質複合カソードからなる。複合カソードは、典型的には、その高い容量および良好なサイクル寿命を理由として、活物質としてのLiCoOと、層全体にわたって導電性を提供するカーボンブラックとの両方を含む。多くの活性カソード材料が、電池性能を改善するために研究されてきている。これらの材料のいくつかはセルに実装されており、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物などがある。薄いポリマーセパレータは、カソードと炭素系アノードとの間の電気的絶縁を提供する。アノードは充電サイクル中にLiをインターカレートする。セルは液体電解質中に浸漬され、充放電中にカソードとアノードとの間でLiイオンを輸送するために非常に高い伝導性を提供する。セパレータおよび複合カソードおよびアノードはすべて多孔質であるため、液体電解質は構造体に吸収されて構造体を充填し、LiCoO活物質との優れた表面接触を提供し、最小限のインピーダンスでセル全体にわたってLiイオンを速やかに輸送することを可能にする。
【0006】
液体電解質自体は、典型的にはエチレンカーボネートおよび他の線状カーボネート、例えばジメチルカーボネートを含む溶媒混合物中のLi塩(例えば、LiPF)からなる。エネルギー密度およびサイクル寿命の改善にもかかわらず、液体電解質を含む電池にはいくつかの根本的な問題が残っている。例えば、液体電解質は、一般に揮発性であり、高い充電速度、高い放電速度および/または内部短絡状態の下で、圧力の蓄積、爆発および火災を起こし得る。さらに、高速での充電は、アノードの表面上で樹枝状のリチウムの成長を引き起こす可能性がある。得られたデンドライトは、セパレータを貫通して延び、セル中で内部短絡を起こし得る。さらに、電池の自己放電および効率は、液体電解質による副反応およびカソードの腐食によって制限される。さらに、過電圧または短絡状態に起因してセルが過熱し、別の潜在的な火災または爆発の危険を引き起こす場合、液体電解質もまた危険を生じる。
【0007】
液体電解質を使用するリチウム系電池の安全性および信頼性の問題に対処し、高エネルギー密度を達成するために、高容量のリチウムインターカレーション化合物を使用する固体電池が開発されている。このような全固体電池を構成する従来の試みは、界面を横切る効果的なリチウムイオン輸送を容易にするために、材料を一緒に結合する必要性によって制限されていた。この結合工程は、800℃以上などの高温での焼結によって試みられてきた。しかしながら、カソード材料と電解質材料とは、このような焼結温度で互いに反応して、高インピーダンス界面および効果がない電池をもたらす可能性がある。
【0008】
高温焼結に伴う寄生反応の問題を回避するために、全ての固体電池は低温ゾルゲル法を用いて開発されてきた。これらの全固体電池は、活性電池カソード材料(例えば、LiNiMnCoO、LiCoO、LiMn、LiTi12など)、導電性材料(例えば、カーボンブラック)およびリチウムイオン伝導性ガラス電解質材料(例えば、液状の有機前駆体からインサイチュ形成され得るLi3xLa2/3-xTiO(x=0.11)(LLTO)またはLiLaZr12(LLZO))を含む複合カソードからなる。ゲル化し、その後低温で硬化させると、前駆体は固体リチウムイオン伝導性ガラス電解質に変換される。
【0009】
低温ゾルゲル法を用いて固体電池を構成する場合、リチウム活物質、導電性物質および液体ゾルゲル前駆体を混合して均質な混合物またはペーストを形成することによってカソードを形成することができる。カソードは、カソード構成要素の混合物を含有する厚いペレットまたは薄いキャスト結果物として形成することができる。カソードは、ゾルゲル前駆体溶液をゲル化および硬化させることによって形成されるイオン伝導性ガラス電解質マトリックスによって一緒に保持される。ゲル化した前駆体の硬化温度は300℃の範囲であり、その結果寄生反応を回避する。
【0010】
しかしながら、バインダーとしてのガラス電解質を製造するためのゾルゲル法を用いた電池電極の構築は、前駆体の適切なゲル化、乾燥および硬化を必要とする。LLTOおよびLLZOの前駆体のゲル化は、吸湿プロセスである。水分は、カソード材料が全体にわたって適切にゲル化するように、高密度に充填されたカソード粉末材料によって形成された曲がりくねった経路を通ってカソード構造内部に拡散しなければならない。ゲル化後の前駆体の乾燥は、溶媒およびアルコールが、曲がりくねって圧縮された電極粉末構造体内部のゲル化された電解質を通って拡散しなければならないため、時間がかかる場合がある。
【0011】
デュラセルによって開発された前述の全固体一次電池は、最大1000Wh/Lの非常に高いエネルギー密度を示し、安全性、安定性および低い自己放電という観点から優れた性能を示した。しかしながら、圧縮粉末構造および厚い電解質分離層の必要性に起因して、セルインピーダンスは非常に高く、電池の放電速度を著しく制限していた。このタイプのセルは、電解質中のヨウ化物イオンが約3ボルト超で酸化されることに起因して、電気化学的窓が3ボルト未満に制限されるため、用途もまた限られる。さらに、このセルの安定した充電式タイプが開発されることはなかった。
【0012】
上記で詳述したオークリッジ国立研究所によって開発された全固体薄膜電池は、Liイオン技術に関連する多くの問題に対処するが、限界もある。電池を製造するために必要な真空蒸着装置は非常に高価であり、蒸着速度は遅く、製造コストが非常に高くなる。また、薄膜の使用によりもたらされる高いエネルギー密度および電力密度を利用するためには、電池層自体と比較してはるかに薄くて軽い基材上に膜を堆積させ、電池層が不活性基材およびパッケージング部品と比較して、電池の体積および重量のかなりの部分を占めるようにする必要がある。理想的には、単に厚い電池電極層を使用して、それによって電池の体積に対する基材の割合を抑えることが考えられる。しかしながら、電極の厚さを数マイクロメートルを超えて増加させることは現実的ではない。厚い電極層と組み合わされた低いリチウム拡散速度は、充放電速度が低く実用的ではない電池をもたらす。したがって、膜は非常に薄い基材(10μm未満)上に堆積されなければならず、または複数の電池が単一の基材上に構築されなければならず、これは、堆積の後に必要とされるカソード材料の高温アニーリングの間、電極との間に低い界面インピーダンスが維持されるという問題につながる。
【0013】
10-3S/cmの範囲の伝導率を有する金属酸化物電解質が製造されている。しかしながら、全固体電池における固体電解質としてのそのような材料の使用は、電解質と活性カソード材料との間に結合を形成するために使用される高温焼結プロセスから生じる高い界面インピーダンスに起因して一部制限されていた。材料間のリチウムイオン伝導を可能にするために結合が必要であるが、焼結中の原子間移動は、非常に高い界面インピーダンスと、その結果として生じるセルの非常に限定された機能性とをもたらす。
【0014】
仮に、固体電池が、電解質と活物質粉末との均質な混合物によって製造され、低温処理を用いて一緒に結合されて低界面インピーダンスをもたらしたとしても、充放電出力特性の向上およびより厚いカソードの全容量への接近は、非常に限られたままであった。図1は、先行技術の手法を用いて構成された、カソード集電体8、カソード6、電解質セパレータ4、およびアノード層2を含む、固体セルの様々な層を示す。拡大図において、固体電解質粒子12は、カソード活物質10内部に埋め込まれて示されている。
【0015】
カソード6は、浸透を実現するのに十分な固体電解質材料12を有するように構成され、イオン電導連続性を実現するために互いに接触した粒子ネットワークが存在するようにする。カソードの標準的な製造手順は、電解質粒子が比較的均質に分布されるまで、構成カソード粉末材料を混合することである。比較的均質であるがランダムな分布は、電池セルの製造中に維持され、図1に示す構成は従来技術による完成した電池を表す。これは、固体電池、特に比較的厚いカソードを有する電池を構成する際に直面するいくつかの課題を示している。ランダム混合処理に起因して、電解質材料、粒子および粒子群のある割合は、粒子14によって示されるように、カソード活物質によって自然に取り囲まれ、それによって電解質ネットワークから隔離される。これらの隔離された粒子は、セパレータからカソードへのリチウムイオン輸送に関与することができない。例えば、電解質層4を通って伝導されるリチウムイオン22を考える。リチウムイオン22は、電解質粒子24を通る伝導経路を進み続ける。リチウムイオン22は電子18または20を受け取り、活物質10に移行する。電子を受け取ると、完全なリチウム状態26に戻り、拡散によってカソード材料10内にインターカレートする。一度完全なリチウム状態になると、原子は電解質粒子25に入ることができず、電子28を放出し、平行経路28を介してその電子を伝導させ、30においてリチウムとして再構成され、カソード内部に深く伝導する。リチウムとして活性カソード材料にインターカレートされると、カソード内部のその輸送は拡散によって行われ、これはほとんどの用途にとっては遅すぎる。
【0016】
他の問題は、15で表されるような、電解質粒子が互いに接続する限定された断面積である。限定された界面のこれらの領域は、伝導性の難所のようなものである。粒子間の接触面積が小さいことに起因して、それらがインピーダンス増加の原因となる傾向がある。
【0017】
さらに他の問題は、粒子16のネットワークにより生じる。理想的には、リチウムイオン17はネットワークに入り、一連の相互接続された粒子を通って伝導され、位置19で活物質10にインターカレートされる。これは曲がりくねった経路であり、イオンが19においてインターカレートされるために、電荷場の方向とは反対の方向に伝導されなくてはならないという事実によればより悪いものである。リチウムイオンが正電荷であることを考えると、これが起こるかどうか分からない。
【0018】
正味の影響として、伝導性電解質および活性粒子のランダム分布を有するカソードを有する固体電池は、限定された性能を示す。したがって、内在電極の構造内部に高出力特性およびリチウムの効果的な輸送を提供する固体セル構造および製造方法に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、カソード、セパレータおよびアノードを含む固体電池に関し、カソードおよびアノードの少なくとも一方が、焼結された電気化学的に活性な材料と、高い伝導率を有する第1の無機固体粒子状電解質と、第1の低融点固体無機電解質とを含み、第1の無機固体粒子状電解質が、約100nmから約100マイクロメートルの粒子直径を有し、第1の低融点固体無機電解質が、ホウ素および炭素の少なくとも1つを含むドープされた金属酸化物を含む。
【0020】
本発明はさらに、ホウ素および炭素の少なくとも1つを含むドープされた金属酸化物を含む非晶質またはガラスセラミックのリチウムイオン伝導性無機電解質に関する。
【0021】
さらに、本発明は、炭素およびホウ素の少なくとも1つを含むドープされた金属酸化物を含む非晶質またはガラスセラミック無機電解質の製造方法に関し、該製造方法は、基材上にドープされた金属酸化物の粉末のコーティング層を形成するステップと、粉末を液化させるためにコーティングされた基材を加熱するステップと、非晶質またはガラスセラミック電解質を形成するために粉末の融点より低い温度でコーティングされた基材を急冷するステップとを含む。
【0022】
本発明の上記の概要ならびに以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読めばよりよく理解されるであろう。本発明を例示する目的のために、図面には現在好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、示されている正確な構成および手段に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】複合カソードを有する従来技術の固体セルの概略図である。
図2】本発明の一実施形態による集電体基材上にキャストされたカソードの概略図である。
図3】本発明のさらなる実施形態による、固体カソードの表面にわたって分布された電解質の大きな粒子を示す。
図4】本発明のさらなる実施形態による複合固体カソードの概略図であり、固体電解質によって一緒に結合された活性カソード材料の粒子を含有するカソードの表面に、大きな粒子の電解質が埋め込まれている。
図5】本発明のさらなる実施形態による、カソード表面に埋め込まれた大きな電解質粒子を有する複合カソードの上の電解質セパレータコーティングを示す。
図6】本発明の他の実施形態による、カソード表面に埋め込まれた大きな電解質粒子を有する複合カソードの断面図および拡大図を示す概略図である。
図7】本発明のさらなる実施形態による、カソード表面に埋め込まれた大きな電解質粒子を有する複合カソードの断面および拡大された三次元図を示す概略図である。
図8a】本発明の一実施形態による高伝導性固体電解質の電気化学インピーダンス分光法(EIS)スペクトルである。
図8b】本発明の一実施形態による高伝導性固体電解質の電気化学インピーダンス分光法(EIS)スペクトルである。
図9】本発明のさらなる実施形態による、ホットプレスされ溶融されたホウ素ドープ炭酸リチウムペレット(LiBO:LiCO)および溶融されたLiFドープLiBO:LiCOの電気化学インピーダンス分光法(EIS)スペクトルである。
図10】本発明の一実施形態によるカソードに埋め込まれた大きな固体電解質粒子を持たないセルの充放電サイクルデータのグラフである。
図11】カソードに埋め込まれた大きな固体電解質粒子を有するセルおよび有さないセルの電気化学インピーダンス分光法(EIS)スペクトルである。
図12】本発明の一実施形態によるカソードに埋め込まれた大きな固体電解質粒子を有するセルの充放電サイクルデータのグラフである。
図13】LiBO-LiCO焼結助剤を含むおよび含まない固体電解質(ナノサイズおよび/または大きな粒子サイズ)を有するNCMを使用するカソードを備えたセルの充放電サイクルデータのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、部分的には、他の構成要素の厚さに対して厚いリチウム活性電極を有する全固体電池セルに関する。セルは高い「C」出力特性を示し、「C」レートは放電電流を電池のアンペア時容量で割ったものとして定義される。したがって、本発明は、電極活物質と無機固体電解質材料との不均質な混合物を提供することによって、固体電池電極内のリチウムイオン輸送を改善するための当該技術における必要性に対処する。無機固体電解質は、好ましくは、電極内部にかなりの距離延びている比較的大きな粒子として構成され、曲がりくねっていないイオン伝導経路を提供する。粒子は電極表面まで延び、イオン伝導の連続性のために電解質セパレータ層に結合される。このような構成は、曲がりくねった伝導経路の減少、伝導が難しい箇所の除去、および電解質を通る電極深部へのイオンの移動を促進または動機付けるための実効電圧場勾配の必要性に対処する。本発明はさらに、カソード内部に延びる連続電解質のコスト効率のよい構造を提供する。所望の構造は、電解質および活物質の特徴を含む未焼結セラミック材料の3D印刷によって、またはより好ましくは、目的の特徴および粒径分布を有する未焼結セラミックテープのスラリーキャストによって構築することができる。
【0025】
より具体的には、本発明は、固体一次電池、固体充電式(二次)電池、およびそれらの部品に関する。本発明による固体電池は、リチウム活物質と、比較的高い融点を有する無機リチウムイオン伝導性電解質と、任意に焼結助剤および/またはバインダーとしての低融点無機電解質材料とを含む複合電極を有する。複合電極はまた、電子伝導性の添加剤物質を含むことができる。本開示の目的のために、用語「無機」は、金属酸化物系ガラスまたはセラミック材料である物質を含むと理解され得る。これらの材料は、好ましくは炭素を含むが水素は含まない。各電池構成要素は、以下により詳細に説明される。
【0026】
〔固体電解質-電極複合体〕
本発明の実施形態による固体電解質・電極複合体は、本明細書では「無機複合電極」または単に「複合電極」とも呼ばれ、複合カソードおよび複合アノードの両方を包含する。本開示の目的のために、特に明記しない限り、用語「アノード」、「カソード」および「電極」は互換的に使用される。
【0027】
本発明による複合電極は、焼結された電気化学的活物質と、比較的高い融点および高いリチウムイオン伝導率を有する無機固体粒子状電解質とを含む。好ましい一実施形態では、複合電極は、比較的低い融点を有する無機固体電解質をさらに含む。
【0028】
好ましくは、活物質は複合電極中に約50から90体積%の量で存在する。複合電極中の電解質材料の総量は、好ましくは、全電極体積に対して約50から10体積%である。存在する場合、低融点電解質の割合は、電極の全体積に対して、焼結助剤として使用される場合は最大約10体積%、バインダーとして使用される場合は5から50体積%であることが好ましい。
【0029】
複合電極が活物質および高融点電解質のみを含有する場合、好ましい実施形態では、構成要素は、電極の深さに対して曲がりくねっていない電解質伝導路を提供する構造化された形状で焼結される。言い換えれば、焼結は、以下でより詳細に説明するように、粒子が一緒になり、電解質粒子が電極内に埋め込まれるように、十分に加熱するステップを含む。したがって、全てではないにしても、ほとんどの電極構成要素が大粒子に接近可能である。
【0030】
用語「焼結」は、高温処理を指すのではなく、むしろ粒子を液化せずに互いに融合させる処理である。焼結は、電極が多孔性のままであるが、良好な電子伝導経路の形成をもたらすように、750℃から900℃の間など、比較的低い温度で行われる。この比較的低温の焼結処理は、リチウム活性材料とリチウム電解質材料との間の高い界面インピーダンスをもたらす可能性がある寄生反応および原子の拡散および移動などの、高温焼結に関連する問題を回避する。
【0031】
好ましい実施形態では、複合カソードは、第2の比較的低融点の無機固体電解質を含み、これについては以下でより詳細に説明する。約300℃から850℃、より好ましくは約400℃から約700℃で溶融するこの電解質は、一般に比較的低いイオン伝導度を有する。この第2の電解質は、焼結後に電極の細孔を充填するために溶融状態で焼結電極に含まれる。溶融物の冷却および固化により、活性電極材料とイオン伝導性電解質との間の改善されたイオン伝導性カップリングを提供し、さらにバインダーとして作用し、カソード構造体の機械的完全性を改善する。
【0032】
第2の低融点固体無機電解質は、電極活物質とリチウムイオン伝導性電解質とを一緒に焼結するのを助けるために、焼結助剤として複合電極に含まれていてもよい。焼結助剤は、粒子を一緒に融合させるのに必要な温度を低下させる。固体電解質および電極活物質の焼結は、好ましくは、電極の深部に曲がりくねっていない電解質伝導経路を提供する構造化された形状をもたらす。
【0033】
低融点焼結助剤の添加により、焼結助剤を含まない場合よりも低い温度(約750℃から約950℃)、例えば400℃から700℃の間でカソードを形成し、良好な電子伝導経路を形成することができる。この方法では、より高密度のカソード構造が実現される。すなわち、活物質は、低融点電解質の割合がより低い状態で、キャストされ、カレンダー加工され、低融点温度電解質の溶融がカソード構造の初期結合を提供すると同時に、より少ない空隙構造を残す。第2の電解質を焼結助剤として使用することに加えて、前述のように、焼結後に電極の細孔を充填するために溶融状態で焼結電極に挿入することもできる。したがって、第2の電解質は、2つの異なる役割または機能を果たすために、製造工程中2つの異なる点で複合電極に含まれてもよい。
【0034】
複合電極中の各タイプの電解質は、異なる機能を果たす。具体的には、電極内部に分散されたイオン伝導性が高い電解質成分は、電極の構造全体にわたってリチウムイオンを伝導させるために低インピーダンスを提供し、したがって高い充電および放電出力特性を有するセルを提供する。低融点電解質は、主に成分粒子間に薄い界面層を形成して電極の全体的なイオンインピーダンスを最小にし、結合温度を低下させ、初期結合に使用する場合の望ましくない寄生反応を防ぎ、続いて含浸の際にバインダーとして作用する。低融点電解質はまた、上記のような焼結助剤としても作用する。
【0035】
したがって、2つの電解質の異なる機能的役割は、比較的厚い低インピーダンス電極の構築を可能にする。電極がウェハまたはペレットのような独立した構造を有する場合には、集電体(アルミニウム、ニッケル、銅または同様の金属)をスパッタリング、蒸着またはホットプレスして電気的コンタクトを提供するコーティングとして複合電極上に設けることができる。場合により、電極は金属箔上に堆積されてもよいし、金属箔に結合されてもよい。本発明による複合電極は、約70から97%の高い充填密度を示す。本発明による複合電極は、好ましい実施形態では非晶質またはガラスセラミックである。
【0036】
〔電気化学的に活性な材料〕
電気化学的に活性な物質は、好ましくは無機物であり、より好ましくは、非限定的に、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)、リチウムチタン酸化物(LTO)、リチウムニッケル酸化物(LNO)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、またはリチウムマンガン酸化物(LMO)などのリチウム系物質であり、NCMが最も好ましい。当該技術分野で知られている、または開発される他のリチウム系の電気化学的に活性な材料も、本発明の範囲内である。電気化学的に活性な物質の粒径は、電池の用途に応じて、好ましくは約5μm未満、より好ましくは約1μm未満である。所与の電極に含めるために選択された活物質は、所望の動作電圧および容量、および複合電極の意図された機能が完成電池セルのカソードまたはアノードの何れであるかに基づいて選択することができる。適切な電気化学的に活性な物質が市販されている。
【0037】
〔低融点電解質〕
比較的低い融点(融解温度とも呼ばれる)の無機固体電解質成分は、好ましくは約300℃から850℃(673から973K)、より好ましくは約400℃から約700℃の融解温度を有する。低融点固体無機電解質は、好ましくは、ホウ素および炭素の少なくとも1つを含むドープされた金属酸化物を含み、最も好ましい金属酸化物は酸化リチウムである。金属酸化物は、非限定的に、ケイ素、フッ素、ゲルマニウム、または硫黄などの元素で、またはフッ化リチウム、二酸化ケイ素、メタホウ酸リチウム、またはオルトホウ酸リチウムなどの化合物でドープすることができる。電解質がドーパントを含む場合、好ましくは約0.1から約20原子%、より好ましくは約1から約20原子%、さらにより好ましくは約5から約15原子%、最も好ましくは約8から約12原子%の量で含まれる。
【0038】
適切な低融点電解質としては、例えば、メタホウ酸リチウム、オルトホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、バルク形態のLiPON、フッ化リチウムをドープしたメタホウ酸リチウム、ケイ素をドープした四ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウムをドープした炭酸リチウム(LiBO-LiCO)、オルトホウ酸リチウムをドープした炭酸リチウム(LiBO-LiCO)、炭酸リチウムをドープしたオルトホウ酸リチウム(LiCO-LiBO)、二酸化ケイ素をドープしたLiBO-LiCO(SiO-LiBO-LiCO)およびフッ化リチウムをドープしたLiBO-LiCO(LiF-LiBO-LiCO)がある。最も好ましい低融点電解質として、700℃の融解温度を有するLiCO-LiBO(本明細書では「LBCO」と呼ぶ)およびLiBO-LiCO(本明細書では「LCBO」と呼ぶ)がある。ホウ素および/または炭素を含有するドープされた金属酸化物、例えばオルトホウ酸リチウムをドープした炭酸リチウムおよび炭酸リチウムをドープしたオルトホウ酸リチウムなど、を含む非晶質またはガラスセラミックリチウムイオン伝導性無機電解質は、本発明の好ましい実施形態であり、化学式Li9.3BO12.5を有する電解質が挙げられる。
【0039】
他の好ましい材料には、LCBFO(フッ素でドープされたLCBO)、LCBSO(硫黄でドープされたLCBO)、LBCSiO(ケイ素でドープされたLCBO)、LBCSiFO(フッ素でドープされたLBCSiO)およびLBCGeO(ゲルマニウムでドープされたLCBO)、ならびにLBCSO(硫黄でドープされたLBCO)、LCBSiO(ケイ素でドープされたLBCO)、LCBSiFO (フッ素でドープされたLCBSiO)およびLCBGeO(ゲルマニウムでドープされたLBCO)がある。適切な低融点電解質は、市販されているか、または既知の方法によって調製することができる。
【0040】
好ましい実施形態において、無機固体電解質は一般式NN’N’’N’’’N’’’’を有する。この式中、Nは周期表第IA族から選ばれる少なくとも1つの元素、好ましくはLiを表し、N’は周期表第IVA族から選ばれる少なくとも1つの元素、好ましくは炭素を表し、N’’は、周期表第IIIA族の少なくとも1つの元素、好ましくはホウ素を表し、N’’’は、周期表第VIA族の少なくとも1つの元素、好ましくは酸素を表し、N’’’’は、周期表第IA-VIIA族および遷移金属から選択される少なくとも1つのドーパントを表し、好ましくはケイ素、硫黄、ゲルマニウムまたはフッ素である。
【0041】
この式において、v、w、x、yおよびzは、整数および分数または小数の様々な組み合わせを含むゼロまたは正の数である。好ましい実施形態では、N、N’、N’’、N’’’およびN’’’’は、それぞれ、リチウム、炭素、ホウ素、酸素およびケイ素を表す。第2の好ましい実施形態では、N、N’、N’’、およびN’’’は、それぞれリチウム、炭素、ホウ素、酸素およびケイ素を表し、z=0である。好ましい実施形態では、電解質は、炭素および/またはホウ素ならびに酸素を含み、v、z、x、y、およびzの何れもゼロではない。
【0042】
有用な伝導率および好ましい溶融温度特性を示す典型的なリチウムイオン伝導性電解質を表1および2に示すが、本発明で使用することができる低融点電解質は列記したものに限定されない。金属酸化物の融点は、概して、対応するガラス転移温度よりも約200から300℃高いことに留意されたい。さらに、表1の物質の式において、化合物は、酸素を除いて、物質中の含有量が減少する順に列挙されている。すなわち、LCBOがホウ素よりも多くの炭素を含むのに対して、LBCOは炭素よりも多くのホウ素を含む。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
例示的な電解質は、低いイオン伝導度を有することができるが、それらの融点が低いことにより、該電解質は、リチウム活性電池材料および他のより速いリチウムイオン伝導材料との、有効な結合および低イオンインピーダンス界面の形成に適している。したがって、このような低融点材料は、溶融状態にまたはほぼ溶融状態に加熱され、現在まで、高性能の全固体電池の現実の作製を制限してきた問題である、高温焼結に典型的に伴う原子間移動の問題を伴わずに、リチウム活物質と接触することができる。したがって、このような電解質は、電極に含まれて、活物質および電極の他の成分のための結合剤または焼結助剤として役立つ。すなわち、低融点電解質は、融解時に粉末粒子間を流れ、良好な接触を確立する接着剤として働く。固化すると、低融点電解質は、粒子を一緒に接続する働きをする。
【0046】
高イオン電導性電解質
電気化学的に活性な材料および任意の低融点電解質に加えて、複合電極は、カソードの本体を通る速いイオン輸送を促進するために、高イオン伝導性固体粒子無機電解質を含む。既に説明したように、典型的な低融点電解質は高いイオン伝導度を持たない。
【0047】
「高イオン伝導度」という用語は、約5×10-5S/cmより大きい伝導率を指すと理解してよい。例示的な高イオン伝導性固体電解質としては、LLTO(リチウムランタンチタン酸化物(Li3xLa2/3-xTiO(x=0.11))、LLZO(リチウムランタンジルコニウム酸化物(ガーネット、LiLaZr12))、LLBO(リチウムランタンビスマス酸化物)、または高いリチウムイオン伝導性を示す同様の固体金属酸化物系電解質がある。リチウムランタンジルコニウム酸化物が好ましい。複合電極に含まれる高イオン伝導性電解質は、典型的には高い融点を有し、高い融点とは約800℃(1073K)よりも高い融点を指すと理解されてよい。
【0048】
高融点電解質は、マイクロメートルからナノメートルの範囲、より好ましくはマイクロメートルの範囲の直径を有する大きな粒子の形態で存在する。より好ましくは、粒子は、約100ナノメートルから約1ミリメートルの直径を有し、さらにより好ましくは約100ナノメートルから約100マイクロメートル、さらにより好ましくは約1から約100マイクロメートル、さらにより好ましくは約20から約50マイクロメートル、最も好ましくは約30から約50マイクロメートルの直径を有する。大きな粒子を使用すると、電極中のできるだけ多くの活物質が高融点電解質と接触することができる。
【0049】
溶融してリフローする低融点電解質とは異なり、高融点電解質は電極内に個別の粒子として残る。粒子の形状は限定されず、円筒状、球状その他の形状であってもよい。円筒形状は、電極材料が大きな電解質粒子と接触する表面積がより大きくなるので好ましい。粒子直径が電解質層のかなりの部分、例えば約60から80%を占めることが好ましい。例えば、50μmの電極層は、約40μmの粒子直径を有する電解質を含むことが好ましい。このような関係を使用して、電解質粒子は、使用されるキャスト工程に起因して、典型的には、セパレータに接触する電極の上面のすぐ上に延在し、電極からセパレータへイオン伝導性を提供する。一実施形態では、カソードおよびアノードはセパレータの両側に配置され、カソードおよび/またはアノードに含まれる粒子状電解質粒子はセパレータ内に延在する。
【0050】
追加の電極構成要素
複合電極は、必要に応じて、電子の伝導を高めるために、約5質量%までの量の電子伝導性材料を含有してよい。用語「電子的に」または「電気的に」は、概して、イオンではなく電子の伝導を指す。例示的な電子伝導性材料には、非限定的に、酸化コバルト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、銀、酸化亜鉛アルミニウム、ドープされた酸化ケイ素、アルミニウムドープ酸化亜鉛などがある。この成分は、存在する場合、電極全体の電子の輸送に関して低いインピーダンスを提供して高い出力特性を可能にする。
【0051】
複合電極の調製
複合電極は、独立したウェハまたはペレットとして構成されてよく、またはカソード集電体として機能し得る金属箔などの基材に適用される薄いコーティングとして製造されてもよい。本開示の目的のために、「ウェハ」および「ペレット」という用語は、限定を意味するものではなく、任意の所望の形状または形態を指すことができる。
【0052】
所望の電極構造体は、リチウム活物質と電解質材料が互いに対して所定のパターンで堆積される三次元(3D)印刷などの追加の製造工程を用いて形成することができる。これらの例に限定されるものではないが、所望のパターニングは、エアロゾルジェットスプレー、パターン化スラリー印刷または多層パターニングキャスティングおよびテープキャスティングを含む、既存の適切な3D印刷法を用いて実施することができる。
【0053】
スラリーを用いる方法では、スラリーは、カソード電極材料を溶媒および場合により有機ポリマーバインダーと混合することによって形成される。適切なバインダーは当該技術分野において知られており、典型的には、好ましくはポリビニルブチラール(PVB)およびポリビニルアルコール(PVA)などの低分子量ポリマーである。溶媒は、好ましくはエタノールおよびキシレンなどの、ポリマーが可溶性である任意の溶媒であってよい。次いで、得られたスラリー(複合カソード材料、溶媒、および場合によりバインダーを含む)を、ドクターブレード法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、印刷法、またはその等価物を用いて、ポリエステルシート材料などの非粘着性基材上にキャストする。次いで、コーティングを溶媒の蒸発により乾燥させる。溶媒は加熱により蒸発させることができる。得られたテープ形態のキャスト結果物をキャスティング表面から取り外すことができる。
【0054】
図2は、ドクターブレードを用いてスラリーをキャストする従来の手法を用いて塗布することができるカソード層42で被覆されたキャスティング表面8を示している。スラリーは、活性電極材料および高伝導性固体電解質を含有し、前述のように電子伝導性添加剤および/または低融点電解質材料を含むこともできる。スラリーを形成するために、好ましくは粉末形態の成分を溶媒中で一緒に混合して、好ましくはポリマーバインダーを含まない均質な分布を形成する。次いで、得られた混合物をキャスティング面上にドクターブレードキャストする。この段階で、キャスト結果物はキャスティング表面からまだ取り外されていないことが好ましい。
【0055】
図3は、本発明の一実施形態による固体電池を構成するためのキャスティングシーケンスにおける次のステップを示す。第2のスラリーは、高伝導性電解質の大きな電解質粉末粒子を溶媒および好ましくはポリビニルブチラール(PVB)またはポリビニルアルコール(PVA)などの低分子量ポリマーバインダーと一緒に混合することによって製造される。溶媒は、ポリマーが可溶性である任意の溶媒、例えば好ましくはキシレンであってよい。成分は混合されて、混合物全体にわたって大きな電解質粒子の均質な分布を形成する。次いで、得られた混合物を、前もってキャストされたカソード材料42の上にドクターブレードキャストする。この第2のキャスト結果物のバインダーおよび溶媒は、第1のキャスト層に拡散する。溶媒が蒸発するにつれて、バインダーは2つの層を一緒に結合する。図3に示すように、この工程により、大きな電解質粒子40が比較的均質に配置され、元々のカソードキャスト結果物42の表面に結合される。
【0056】
溶媒の蒸発後、得られたテープをキャスティング表面から持ち上げる。次いで、大きな電解質粒子を第1のキャスト結果物の表面に圧入する。プレス加工は、好ましくは、ロールプレスを用いてテープをカレンダー加工することによって実施される。この工程により、図4に示す外観を有するカソードが得られ、そこでは大きな電解質粒子44がカソードキャスト結果物に埋め込まれ、表面に露出される。代替的な方法では、大きな電解質粒子が最初にキャスティングされ、続いて最上層としてバインダーを有する活性電極材料がキャストされる。このようにして、大きな電解質粒子は、溶剤が蒸発すると、完成カソード未焼結テープの底面に露出され、テープがキャスティング面から持ち上げられる。得られたテープは、その後前述のようにカレンダー加工される。
【0057】
低融点電解質は、存在する場合には、コーティングされた集電体構成をも可能にし、これにより、電極成分スラリーを、アルミニウムなどの低温金属集電体上に直接にスピン、スプレー、ドクターブレードキャスト、印刷などすることができる。しかしながら、低温電解質バインダー/焼結助剤を用いずにスラリーを製造することも、本発明の範囲内である。スラリーは、金属箔によって支持されているため、ポリマーバインダーなしで作製することもでき、ポリマーバインダーを除くことにより、より高密度の電極を構成することができることが分かった。
【0058】
低融点電解質バインダー/焼結助剤なしに電極を作製する一実施形態において、電極がロールカレンダ加工され、その後前述したように、400℃から700℃の間の温度で低融点電解質により含浸される。
【0059】
スラリーが低融点電解質を含有する実施形態において、カレンダー処理され、電解質をリフローして連続性を形成するために400℃から700℃の間の温度で金属担体表面上の適所で焼結される。場合によっては、以下に記載するように、電極を低融点電解質で含浸して、細孔をさらに充填し、すべての活物質への接近を可能にしてもよい。本発明の実施形態による電極は、好ましくは、約3μmから1mmの厚さを有する。
【0060】
溶融急冷法を使用して、電極または複合電極を集電体または他の基材上に直接形成することも、本発明の範囲内である。そのような電極は、先ず、低融点電解質を粉末形態で、または電解質粉末と溶媒とのスラリーを用いて基材表面上に堆積させることによって形成される。溶媒は蒸発し、基材の上に電解質粉末の均質な分布(コーティング層)を残し、次いでこれを溶融または軟化させて液相にする(液化する)。次いで、基材および溶融電解質を、好ましくは室温で、例えばローラーを用いて急冷して、約3μmから1mmの範囲の厚さで基材の上に高密度で欠陥のない電極を形成する。基材を持たない自立型電極材料(例えば、電極ペレット)を調製し、次に急冷工程を実施することも、本発明の範囲内である。
【0061】
急冷された電解質は、既知の材料と比較してより高い伝導率および高い密度を有する電極(または複合電極)として非晶質またはガラスセラミック材料の何れかを形成するという利点を有する。室温急冷は好ましいが、材料の融点未満の他の温度で急冷を行うことも本発明の範囲内である。したがって、溶融急冷は、材料を、鋭く明確なXRD(X線回折)ピークを有する結晶質から、ガラスセラミック(幅広いXRDピーク)または非晶質(XRDピークなし)に変化させる。
【0062】
〔カソードの含浸〕
一実施形態では、焼結多孔質電極に、高イオン伝導性電解質粒子間の連続経路を形成するバインダーとして作用する、前述したような低融点電解質を含浸させることによって、複合電極が調製される。これにより、カソード活物質へのより深くかつより迅速な接近が可能になる。そのような電極を形成するために、既に形成された電極の上に低融点電解質とイソプロパノールなどの溶媒とのスラリーをキャストする。キャスト結果物から溶媒を蒸発させると、低融点電解質の乾燥粉末コーティングがカソード表面に残る。次に、カソードをオーブンなどで400から700℃に加熱して、低融点電解質をリフローさせ、毛管力下で電極に移動させる。その後、冷却して、電極の深さ全体にわたって連続的な経路を有する固体電解質を形成する。この実施形態の好ましい電解質は、700℃の融点を有するLiBO-LiCOである。
【0063】
電極が集電体上にコーティングされる場合、含浸プロセスは先に説明したものと同じである。この実施形態の含浸のための好ましい電解質は、600℃という低い融点によりカソードを安価なアルミニウム箔上に被覆することができるため、LiF-LiBO-LiCOである。
【0064】
〔セパレータ〕
本発明による固体電池は、好ましい実施形態ではセパレータをさらに含み、最も好ましくはアモルファスまたはガラスセラミックセパレータを含む。図5は、カソード42の表面に適用されたセパレータコーティング48を示し、これはマグネトロンスパッタ蒸着によって付与することができる。リチウムリン酸窒化物(LiPON)は、スパッタ蒸着によって薄膜形態で適用するための好ましい電解質材料である。セパレータの厚さは、好ましくは約3μmから50μmである。
【0065】
他の方法は、粉末電解質材料を用いてセパレータを形成することである。この方法では、LAGP、LATPまたは好ましくはLLZO(好ましくはナノ粉末形態)などの高融点高イオン伝導性材料を、低融点電解質などの焼結助剤を用いてまたは用いずに、溶媒とおよび任意に有機ポリマーバインダーと混合し、電極スラリーに関して前述したようにセパレータスラリーを形成する。高融点材料は、好ましくは粒子形態であり、好ましくは電極に関して前述したように約100nmから1mmの粒子直径を有する。
【0066】
好ましい低融点電解質は、電極に含まれる電解質に関して前述したような炭素および/またはホウ素を含むドープされた金属酸化物を含み、上記の記載は、セパレータに含まれる低融点電解質にも適用可能である。最も好ましい焼結助剤電解質は、その低い融点(700℃)および高い伝導率に起因して、LiBO-LiCOである。
【0067】
適切なバインダーは当技術分野において知られており、好ましくはポリビニルブチラール(PVB)およびポリビニルアルコール(PVA)などの低分子量ポリマーを典型的に含有する。溶媒は、好ましくはエタノールおよびキシレンなどの、ポリマーが可溶性である任意の溶媒であってもよい。ポリマーバインダーを使用しない場合、様々な溶媒が使用可能である。イソプロピルアルコールは、ポリマーバインダーを使用しない場合に最も好ましい。
【0068】
次に、得られたセパレータスラリーは、焼結助剤に応じて、400から850℃の間の温度で、ドクターブレード法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、印刷法などを用いて、予備焼結してもしなくてもよい電極の表面上にコーティングされる。次いで、コーティングを溶媒の蒸発により乾燥させる。キャリアガスを用いたエアロゾルスプレー法またはドライパウダースプレー法もまた、所望のコーティング層を塗布するのに適した方法である。層状電極/セパレータ構造の構築は、前述のように、焼結助剤に応じて、400から850℃の間の温度でオーブン中で焼結することによって完了する。
【0069】
LLZOを含有するスラリーおよび場合により焼結助剤電解質は、別法として、別個のキャスティング表面上にコーティングし、その後「未焼結」テープとして取り外すことができる。その後、得られたセパレータテープは、前述したような、予め形成されたカソードテープと積層することができる。セパレータは、大きな電解質粒子が露出したカソード面に積層される。カソードおよびセパレータのテープは、互いに積層され、次いで、一対の圧縮ローラーを通過することによってカレンダー加工され、その後、所望のカソード寸法の個々のディスクまたはプリズム状のウェハに切断される。続いて、切り抜き部を約400℃に加熱して、バインダー材料を焼失させるかまたは蒸発させる。最後に、切り抜き部をオーブンに入れ、前述の温度で焼結する。
【0070】
あるいは、元々のLLZO粉末をホットプレスによって高密度化して、欠陥のない100%高密度LLZOシートを形成することができる。このシートは、非限定的に、前述したような低融点電解質材料などの結合剤を用いて、焼結され含浸されたカソードに結合されてよい。
【0071】
あるいは、セパレータは、先に説明したような溶融急冷法を用いて電極上に直接形成されてもよい。そのようなセパレータは、先ず、電極表面に粉末状の低融点電解質を堆積させたり、電解質粉末と溶媒のスラリーを用いたりして形成される。溶媒は蒸発し、電極の上に電解質粉末が均質に分布し、次いでこれを溶融または軟化させて液相にする(液化する)。次いで、電極および溶融電解質を、好ましくは室温で、例えばローラーを用いて急冷して、約1μmから50μmの範囲の厚さの電極の上に高密度で欠陥のないセパレータを形成する。急冷された電解質は、既知の材料と比較してより高い伝導率および高い密度を有するセパレータとして非晶質またはガラスセラミック材料の何れかを形成するという利点を有する。室温急冷は好ましいが、材料の融点未満の他の温度で急冷を行うことも本発明の範囲内である。したがって、溶融急冷は、材料を、鋭く明確なXRDピークを有する結晶質から、ガラスセラミック(幅広いXRDピーク)または非晶質(XRDピークなし)に変化させる。
【0072】
融点から融点より十分低い温度まで材料を溶融急冷するこのような方法は、イオン伝導率が増大した非晶質またはガラスセラミック材料をもたらすことが分かった。溶融急冷法は、好ましくは、300rpmから3000rpm、より好ましくは約700rpmの速度でローラーを用いてロール急冷することにより行われる。表1に示すように、ガラスセラミックを形成するために溶融急冷されたときのベースLCBO材料は、材料の既知の結晶性の場合と比較して約4倍の伝導率の増加を示した。さらに、表1に示すように、他の材料もまた、溶融急冷されたときに1桁程度高い伝導率の有意な増加を示した。このように、溶融急冷法は、得られるアモルファスまたはガラスセラミックドープ金属酸化物の伝導率を、溶融急冷前のドープ金属酸化物粉末の伝導率に対して、少なくとも約3倍、さらには少なくとも約5倍まで増加させる。
【0073】
表1は、硫黄でドープされたベースLCBOが、伝導率の増加および600℃までの融点の低下を示したことをさらに示す。この低い融点により、急冷されたときに材料のガラス形成が一層容易になり、電池部品との反応性が低い順に加工性が改善される。同様に、溶融急冷されたフッ素ドープLBCSiOは、伝導率が僅かだけ低下するとともに融点が著しく低下し(800℃から660℃)、これら高温における寄生反応が少ないことに起因して、材料とカソード内で使用される活物質とをより相溶性にする。
【0074】
一実施形態では、電極中の低融点電解質はLCBOであり、セパレータ中の低融点電解質は、フッ化リチウムドープLCBO、LiBFO、であり、この融点は600℃であり、ドープされていない材料よりも100℃低い。LCBOとLiBFOとの間のこの融点の差により、電極の内部にイオン伝導を促進し、LiBFOのコーティングをセパレータとしての電極の表面に適用する低融点プロセスの影響を受けない電極を構成することが可能となる。すなわち、セパレータ内の電解質を溶融させるのに必要な温度が低いため、電極内の電解質は影響を受けない(溶融しない)ままである。
【0075】
さらなる実施形態では、焼結されたセパレータコーティングとは対照的に、電極の表面に適用される電解質粉末は、第2の低融点電解質材料であってもよい。セパレータを焼結する代わりに、コーティングされた電極をコーティングの融点まで加熱して液膜を生成する。セパレータフィルムが、液体が冷却され、再凝固するにつれて形成される。この実施例では、低融点電解質は、溶融状態のままスピンコーティング法を用いて塗布することもできる。この電解質は、前述した低融点電解質のいずれかであってもよく、最も好ましくはLiBO-LiCOである。
【0076】
〔固体電池〕
本発明による一次または二次固体電池は、前述のような複合電極、対向電極、およびセパレータを含む。例えば、複合電極が複合カソードである場合、従来のアノード、例えばリチウム金属、リチウム合金、またはリチウム合金前駆体を使用することができる。セパレータは前述のようなものであってよく、金属アノードは、スパッタリングまたは熱蒸着などの真空下での物理蒸着または気相蒸着によってセパレータ上に付与されてよい。あるいは、電解質のカソードと反対側の表面に銅などの金属箔またはコーティングを施してリチウムフリーセルを形成することによってセルを完成させることができる。この場合、リチウムは、最初の充電時に箔と電解質との間にめっきされてアノードを形成する。
【0077】
前述したように、アノードは複合電極であってもよい。一実施形態では、アノードは、電解質でコーティングされたカソード上にキャストされ、その結果、電池は、リチウムイオンセル構成を有し、その構成において、リチウムの反応ポテンシャルが低いLiイオンインターカレーション化合物、例えばリチウムチタン酸化物(LTO)などを用いて第1の複合電極が形成される。複合セパレータは、前述したように、低融点ガラス電解質バインダーおよびフィラー材料を用いて形成される。第2の複合電極は、第1の電極に用いられる材料よりも高い反応ポテンシャルを有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)などのリチウムインターカレーション材料を用いて形成される。第1の複合電極材料は、アノードとして使用されてよく、第2の複合電極は、カソードとして使用されてよい。アノード、セパレータおよびカソード材料は、アノードとカソードとの間に配置されたセパレータを有するモノリシック構造を形成するように積み重ねられる。積層された構成要素は、400℃から700℃の範囲の温度で熱処理することができる。続いて、アノード、電解質およびカソードの多層構造体は、構造物を一緒に焼結させるのに十分な温度、または低融点のバインダー電解質の場合には、電解質をリフローさせ、複合電極とセパレータと一緒に結合するのに十分な温度に加熱される。
【0078】
好ましくは、セパレータ層の融点は、カソードに用いられる低融点バインダー電解質の融点よりも低い。熱処理は、スタック内の全ての層を一緒に結合するようにセパレータに使用される低融点電解質のみを溶融させる。
【0079】
図6は、本発明の一実施形態による電池の断面図を示す。電解質粒子54は、セパレータ層46をカソード42内に延在させる。計算47は、セパレータの増加した表面積の影響の幾何学的印象を表す。各粒子は異なり、ランダムな形状をしているが、解析上の便宜のために球形として近似している。粒子の上部は、セパレータの一部として埋め込まれている。さらなる便宜のために、リチウムイオン52がカソード活物質内外に効果的に拡散することができる深さは15μmであり、リチウムが効果的に拡散できる深さ43までの大きな電解質粒子の中心からの距離は45μmであると仮定する。その結果、半径41の平均電解質粒径が30μm、活物質厚さが75μmの場合、粒子当りの活性カソード材料の正味の接近可能な体積は268,606μmと近似することができ、カソードの上面でセパレータ界面により切り取られた体積が差し引かれる。これは、電解質との平坦な界面を介してカソード内部に15μm拡散することで接近可能な121,500μmよりも著しく大きい。
【0080】
図7は、電解質粒子を取り囲む構造の三次元描写を示す。包囲する立方体体積に粒子が完全に接近できると仮定すると、接近されるカソード材料の正味体積は615,903μmであり、セパレータで置き換えられた活物質の体積が差し引かれ、カソード表面上のセパレータ界面によって切り取られる体積が差し引かれる。
【0081】
本発明は、以下の非限定的な実施例において以下にさらに説明される。
【0082】
〔実施例1:固体電解質の調製および分析〕
高伝導電解質、LLZO(リチウムランタンジルコニウム酸化物(ガーネット、LiLaZr12))を以下のようにして調製した。3.8gのLiOH、10gのLa、6gのZrO、0.27gのAlおよび1.12gのTaOをTHF中で粉砕した。全ての成分は、商用供給源から得た。得られた混合物を真空下で乾燥し、次いで715℃で1時間および900℃で3時間加熱した。得られた粉末をカーバー(Carver)プレスで加圧してペレットを形成し、続いて酸素中で1200℃で焼結した。このようにして、焼結ペレットを炉から取り出し、粉末に粉砕して所望のLLZOを得た。
【0083】
LLZOインピーダンス測定値を図8aおよび図8bに示す。図8aのグラフは全測定スペクトルを表し、図8bのグラフは高周波数部分に焦点を当てている。これらのデータに基づいて、LLZOの推定されるイオン伝導度は5×10-4S/cmである。大きなLLZO粒子は、LLZO粉末を1200℃でホットプレスして焼結し、高密度構造を形成することによって得られる。次いで、高密度ペレットを粒子に粉砕し、様々な範囲のふるいを用いて25μmから45μmの間の粒子を得るために分離した。
【0084】
融点が700℃である、Li9.3BO12.5の組成を有する低融点電解質LiBO:LiCO、すなわちオルトホウ酸リチウムをドープした炭酸リチウムを、以下のような固相反応によって製造した。LiBOは、24.1gのLiを14.7gの四ホウ酸リチウムと混合することによって生成された。これらは両方ともシグマアルドリッチ社から入手した。この粉末を35mlのTHF中で8時間粉砕した。得られた粉末をホットプレート上で80℃で3時間、次いで真空オーブン中で120℃で22時間乾燥させた。このようにして乾燥した粉末を管状炉に入れ、流動酸素下で580℃で10時間加熱して、所望のオルトホウ酸リチウム粉末の前駆体を形成した。
【0085】
LiBO:LiCOを形成するために、オルトホウ酸リチウム前駆体粉末および炭酸リチウム(アルファエイサー社製品番号554-13-2)を1:2.76重量%の比率で混合し、次に700℃でホットプレスして、高密度複合電解質を形成した。混合物をホットプレスして複合電解質を形成する代わりに、混合物をその融点まで加熱して均質な溶融混合物を形成することができる。冷却後、得られた材料を3μm未満の粒径を有する粉末に粉砕した。
【0086】
あるいは、LiBO:LiCOの融点を低下させるために、フッ化リチウム(LiF)を1:1:2.76重量%(LiF:LiBO:LiCO)でドープすることができる。次いで前駆体を均質な混合物に溶融して冷却して複合電解質を形成する。
【0087】
最終粉末に粉砕する前に、ペレットについて伝導率測定を行った。白金をペレットの両面にスパッタリングして電気的コンタクトを得た。インピーダンス測定は、Solartron 1260機器を使用して行った。ホットプレスし溶融したホウ素ドープ炭酸リチウムペレット(LiBO:LiCO)および溶融LiFドープLiBO:LiCOのインピーダンススペクトルを図9に示す。グラフは、全測定スペクトルを示す。インピーダンスデータに基づいて、ホットプレスされたLiBO:LiCO、溶融されたLiBO:LiCO、溶融されたLiFドープLiBO:LiCOペレットのイオン伝導率は、それぞれ室温において、1.1×10-6S/cm、9.5×10-7S/cmおよび6.0×10-7S/cmであると評価された。
【0088】
〔実施例2:低融点電解質と共にNCMカソードを用いたセルの調製〕
4g(61%)のNCM活性カソード材料粉末と、(実施例1で調製した)2.4g(36重量%)のナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)のLLZO電解質と、0.2g(3重量%)のポリマーバインダー(PVB)とを、1.5mlのエタノールおよび1.5mlのキシレン溶媒と共に高エネルギー粉砕することにより、混合物を調製した。次いで、この混合物を非粘着性のポリエステルシート材料上にキャストし、乾燥させた。複数のキャスト結果物を作製し、続いて一緒にカレンダー加工して、各層が約50μmの厚さを有する単一の多層シートを形成した。ディスクをシートから打ち抜いた後、バインダーを除去するために400℃で3時間加熱し、次いで850℃で30分間加熱して、多孔質焼結カソードディスクを得た。
【0089】
焼結後、低融点電解質のスラリーをカソードディスクの一方の表面上にキャストした。スラリーは、0.2gのLiBO:LiCO(実施例1で調製)を2gのイソプロパノール溶媒(IPA)と混合することによって形成された。キャスト結果物から溶媒を蒸発させると、カソード表面上にLiBO:LiCOの乾燥粉末コーティングが残った。次に、カソードを700℃のオーブンの中に置き、LiBO:LiCOをリフローさせ、毛細管力でカソード内に移動させた。
【0090】
次に、固体電解質が浸透したカソードを、スパッタ蒸着によってLiPON(Kurt Lesker社から市販されている)で被覆してセパレータを形成した。セルは、LiPONの表面上にリチウムシード層を蒸着させてアノードを形成することによって完成した。
【0091】
セルの試験を行い、得られた充放電サイクルデータおよびインピーダンススペクトルをそれぞれ図10および図11に示す。図10の充放電サイクルデータは、セルの放電容量が400μAhであることを示している。セルは、室温でC/100で試験される。図11の対応するEISスペクトルは、大きなLLZO粒子を持たないセルのインピーダンスが約2200オームであることを示している。
【0092】
〔実施例3:NCMカソード、低融点電解質および高表面積セパレータ界面を有するセルの調製〕
4g(61%)のNCM活性カソード材料粉末と、(実施例1で調製した)(36重量%)2.4gのナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)のLLZO電解質と、0.2g(3重量%)のポリマーバインダー(PVB)とを、1.5mlのエタノールおよび1.5mlのキシレン溶媒と共に高エネルギー粉砕することにより、混合物を調製した。この混合物を非粘着性のポリエステルシート材料上にキャストし、乾燥させた。キャスト結果物の複数の層は、より均一な粒子分布のために単一のシートに一緒にカレンダー加工され、各層はカレンダー加工の前に約100μmの厚さであった。
【0093】
LLZOセパレータは、約25nmのナノLLZO粉末を、25μmから45μmの大粒子LLZO粉末と、2g/2g(50/50wt%)の比で、0.28g(7重量%)ポリマーバインダー(PVB)と、1.6mlのエタノールおよび1.6mlのキシレン溶媒と共に混合することによって調製した。得られたスラリーを前述のように非粘着性の表面にドクターブレードキャスティングして、乾燥させた。得られたフィルムをキャスティング表面から取り外し、多層カソードシートと対にして一緒にカレンダー成形した。キャスト結果物のカレンダー加工にはスチールローラーを使用した。カレンダリング工程は、電解質層を高密度化して、その中の粒子を互いにより近付ける。同様に、下方のカソード層のカソード中のNCM粒子は、互いにより接近して押し付けられ、それによってカソードの粒子密度が増加する。カソードの最終的な厚さは80μmであり、その結果、大きなLLZO電解質粒子が表面からカソードの深部まで有意な距離延在する。セパレータ中の大きな粒子の直径はセパレータの厚さよりも大きいので、より大きい粒子はカソード層内に突き出てしまい、その結果界面の粗さが増し、カソード内部への曲がりくねった伝導経路が少なくなる。
【0094】
シートからディスクを打ち抜き、400℃で加熱してバインダーを除去した後、850℃で1時間焼結して、セパレータ材料の大きな粒子が埋め込まれ、かつその表面に露出した多孔質の焼結カソードディスクを得た。
【0095】
焼結後、低融点電解質のスラリーをカソードディスクの一方の表面上にキャストした。スラリーは、0.2gのLiBO:LiCO(実施例1)を2gのイソプロパノール溶媒と混合することによって形成された。キャスト結果物から溶媒を蒸発させると、カソード表面上にLiBO:LiCOの乾燥粉末コーティングが残った。次に、カソードを700℃のオーブンの中に配置してLiBO:LiCOをリフローさせ、毛細管力でカソード内部に移動させた。
【0096】
続いて、RFマグネトロンスパッタリングによって薄いペレットの平滑な面上に約2.5マイクロメートルの厚さを有するLiPONセパレータ材料を蒸着させた。電解質コーティングは、カソードの表面に埋め込まれた露出した大きなLLZO粒子と直接接触する。最後に、Li金属アノードを、LiPON上に真空中の熱蒸着によって堆積させた。得られたセルを試験し、Solartronを使用してインピーダンススペクトルを実行し、Maccor電池サイクラーを使用して充放電サイクルデータを取得して図11および12に示すデータを得た。図11は、大きなLLZO粒子がカソードに埋め込まれ、LiPONセパレータと密接に接触するセルが、大きな粒子を含まないセルよりも低いインピーダンスを有することを示している(約1000オーム低い)。図12は、大きなLLZO粒子を有するセルの充放電容量も、大きなLLZO粒子を含まないセルに対して大幅に向上したことを示している。活物質含有量に基づく両セルの理論容量はほぼ同じである。セルは室温で同じCレート(C/100)で試験された。
【0097】
〔実施例4:LiBO:LiCO焼結助剤を含むおよび含まないLLZO電解質(ナノサイズおよび/または大粒径)を有するNCMを用いたカソードの調製〕
(a)ナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)のLLZO電解質のみを用いたNCMを用いたカソードの調製
4g(49%)のNCM活性カソード材料粉末と、(49重量%)4gのナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)のLLZO電解質と、0.2g(2重量%)のポリマーバインダー(PVB)とを、4gのエタノールおよび4gのキシレン溶媒と共に高エネルギー粉砕することにより、混合物を調製した。
【0098】
(b)ナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)および大きな(25μmから45μmの平均粒径)LLZO電解質を有するNCMを用いたカソードの調製
4g(52%)のNCM活性カソード材料粉末と、(46重量%)3.5gのナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)のLLZO電解質と、0.2g(2重量%)のポリマーバインダー(PVB)とを、4gのエタノールおよび4gのキシレン溶媒と共に高エネルギー粉砕することにより、混合物を調製した。
【0099】
(c)NCM、ナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)、大きな(25μmから45μmの平均粒径)LLZO電解質および焼結助剤として低融点電解質を用いたカソードの調製
4g(50%)のNCM活性カソード材料粉末と、(44重量%)3.5gのナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)のLLZO電解質と、(3重量%)0.25gのLiBO:LiCO焼結助剤と、0.2g(3重量%)のポリマーバインダー(PVB)とを、4gのエタノールおよび4gのキシレン溶媒と共に高エネルギー粉砕することにより、混合物を調製した。
【0100】
カソード混合物a、bおよびcをそれぞれ非粘着性ポリエステルシート材料上にキャストし、乾燥させた。未焼結テープの形態のキャスト結果物を層中の基材スタックから取り外し、一緒にカレンダー加工して、各シートが約30μmの厚さである単一の多層シートを形成した。ディスクをシートから打ち抜き、次いでバインダーを除去するために400℃で3時間加熱した。続いて実施例aおよびbのカソードサンプルを850℃で30分間焼結し、一方で実施例4cのサンプルを700℃で30分間焼結して、多孔質の焼結カソードディスクを得た。実施例4cのLiBO-LiCO焼結助剤により、バインダーを含まない実施例4aおよびbの焼結温度よりも150℃低い700℃で、カソードを十分に焼結させることができる。焼結温度が低いことにより、NCM活性材料とLLZO電解質との間の寄生反応が減少し、電荷移動が改善される。
【0101】
焼結後、低融点電解質のスラリーを各カソードディスクの一方の表面上にキャストした。スラリーは、0.2gのLiBO:LiCOを2gのイソプロパノール溶媒と混合することによって形成された。キャスト結果物から溶媒を蒸発させると、カソード表面上にLiBO:LiCOの乾燥粉末コーティングが残った。次に、カソードを700℃のオーブンの中に配置してLiBO:LiCOをリフローさせ、毛細管力でカソード内に移動させた。
【0102】
次に、固体電解質が浸透したカソードを、スパッタ蒸着によってLiPONで被覆してセパレータを形成した。セルは、LiPONの表面上にリチウムシード層を蒸着させてアノードを形成することによって完成した。
【0103】
図13は、実施例4a、4bおよび4cからのC/15のCレートでの室温サイクルにおけるセルの充電および放電容量を示す。図示したように、ナノサイズのLLZOのみを有するカソード(実施例4a)は、0.20mAh/cmの放電容量を示したが、ナノサイズおよび大粒子サイズのLLZOを有するカソードは、平均電圧および放電容量において著しい改善、約140%の増加(0.48mAh/cm)を示した。焼結助剤LiBO-LiCOをナノサイズおよび大粒子LLZOに添加すると、平均電圧および放電容量のさらなる向上(0.60mAh/cmまで25%の増加)が得られた。
【0104】
〔実施例5:溶融急冷によるセパレータの調製〕
4g(61%)のNCM活性カソード材料粉末と、(36重量%)2.4gのナノサイズ(0.3μm未満の平均粒径)のLLZO電解質と、0.2g(3重量%)のポリマーバインダー(PVB)とを、1.5mlのエタノールおよび1.5mlのキシレン溶媒と共に高エネルギー粉砕することにより、混合物を調製した。この混合物を非粘着性のポリエステルシート材料上にキャストし、乾燥させた。複数のキャスト結果物を作製し、続いて一緒にカレンダー加工して、各層が約50μmの厚さを有する単一の多層シートを形成した。ディスクをシートから打ち抜き、バインダーを除去するために400℃で3時間加熱し、次いで850℃で30分間加熱して多孔質焼結カソードディスクを得た。
【0105】
カソードディスクを焼結した後、0.1gのLiBO:LiCO:LiSO乾燥粉末をイソプロピルアルコールに懸濁し、続いて多孔質カソードディスクの上に配置した。次に、カソードを620℃のオーブンの中に配置し、LiBO:LiCO:LiSOを溶融させ、カソードの空隙が充填されるまで毛細管力でカソード内に移動させ、過剰な溶融材料をカソードディスクの表面に残した。過剰な溶融LiBO:LiCO:LiSOをその表面に有する充填されたカソードディスクを、次に室温でローラーを用いてカレンダー加工し、電解質をカソードの表面および内部で急冷し、カソード表面にガラスセパレータを形成し、ガラスセパレータはまたカソードの厚さ全体にわたって延在する。
【0106】
当業者であれば、本発明の広い概念から逸脱することなく、上述の実施形態に変更を加えることができることが理解されるだろう。したがって、本発明は開示された特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲内の変更を包含することが意図されることが理解される。
【符号の説明】
【0107】
2 アノード層
4 電解質セパレータ
6 カソード
8 カソード集電体
10 カソード活物質
12 固体電解質粒子
14 粒子
18、20 電子
22 リチウムイオン
24、25 電解質粒子
28 電子
40、44 電解質粒子
42 カソードキャスト結果物
48 セパレータコーティング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
図13