(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】スプリットサイクル内燃エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 75/18 20060101AFI20230203BHJP
F02D 19/12 20060101ALI20230203BHJP
F02B 47/04 20060101ALI20230203BHJP
F02B 33/10 20060101ALI20230203BHJP
F02B 33/18 20060101ALI20230203BHJP
F02B 33/22 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
F02B75/18 P
F02B75/18 C
F02D19/12 A
F02D19/12 Z
F02B47/04
F02B33/10
F02B33/18
F02B33/22
(21)【出願番号】P 2019553188
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 GB2018050642
(87)【国際公開番号】W WO2018178624
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-25
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504189391
【氏名又は名称】リカルド ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー アトキンズ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート モーガン
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-115024(JP,A)
【文献】特表2013-536916(JP,A)
【文献】特表2012-511664(JP,A)
【文献】特開2007-270622(JP,A)
【文献】特開2007-247438(JP,A)
【文献】特表2010-519462(JP,A)
【文献】特開2016-000997(JP,A)
【文献】特表平07-507370(JP,A)
【文献】特開平08-261004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/18
F02B 47/02 , 47/04
F02D 19/12
F02B 33/06
F02D 21/06
F02M 25/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容し、前記燃焼シリンダに圧縮流体を供給するように構成され、第1液体冷却剤槽と第2液体冷却剤槽とに接続される圧縮シリンダと、
スプリットサイクル内燃エンジン
を制御するための少なくとも1つのパラメータの指標を受信し、前記少なくとも1つのパラメータの前記指標に基づいて、前記第1液体冷却剤槽からの第1液体冷却剤と、前記第2液体冷却剤槽からの第2液体冷却剤と、のうち少なくとも一方の前記圧縮シリンダへの供給を制御し、それにより前記少なくとも一方の前記液体冷却剤が圧縮ストロークの間に気化して気相になり、かつ、前記圧縮ストロークに起因する温度上昇が前記液体冷却剤による熱吸収により制限されるように構成される制御部と、
を有してなる、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項2】
前記第1液体冷却剤は、
冷却処理を経て液相に圧縮された液体冷却剤、
を含み、
前記第2液体冷却剤は、
水、
を含む、
請求項1記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項3】
前記第1液体冷却剤は、
液体窒素、
を含む、
請求項2記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項4】
前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤とのうち少なくとも一方の供給の制御は、
前記少なくとも1つのパラメータの前記指標に基づく、前記圧縮ピストンの位置に対する前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との少なくとも一方の供給のタイミングの制御と、
前記少なくとも1つのパラメータの前記指標に基づく、前記第2液体冷却剤に対する前記第1液体冷却剤の供給比の制御と、
のうち少なくとも1つを含む、
請求項1乃至3のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との両方の前記圧縮シリンダへの供給を制御するように構成される、
請求項1乃至4のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項6】
前記燃焼シリンダは、前記燃焼シリンダ内での燃焼処理用の燃料を供給する第3液体槽にさらに接続される、
請求項1乃至5のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記スプリットサイクル内燃エンジンに関連する前記少なくとも1つのパラメータの前記指標に基づいて、前記燃焼シリンダへの前記燃料の供給を制御するように構成される、
請求項6記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記燃焼シリンダから放出される排気の温度に基づいて、前記燃焼シリンダへの前記燃料の供給を制御するように構成される、
請求項7記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記燃焼シリンダの目下の動作毎分回転数(RPM)に基づいて、前記燃焼シリンダへの前記燃料の供給を制御するように構成される、
請求項6乃至8のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項10】
前記制御部は、要求信号を受信して、前記受信した要求信号に基づいて、前記燃焼シリンダへの燃料の供給を制御するように構成される、
請求項6乃至9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つのパラメータは、
水分飽和度レベル、
を含み、
前記制御部は、前記水分飽和度レベルが水分飽和度の閾値に達することに応じて、前記第2液体冷却剤に対する前記第1液体冷却剤の前記圧縮シリンダへの供給割合を増やすように構成される、
請求項2または請求項2に従属するいずれかの請求項に記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記水分飽和度レベルが選択された水分飽和度の閾値より低いことに応じて、前記第1液体冷却剤に対する前記第2液体冷却剤の前記圧縮シリンダへの供給割合を増やすように構成される、
請求項11記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つのパラメータは、
前記圧縮シリンダ内の温度、
を含み、
前記制御部は、前記圧縮シリンダ内の前記温度が選択された温度の閾値より低いことを示す指標に応じて、前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との前記圧縮シリンダへの供給を減らすように構成される、
請求項1乃至12のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項14】
前記少なくとも1つのパラメータは、
前記圧縮シリンダ内の圧力、
を含み、
前記制御部は、前記圧縮シリンダ内の前記圧力が選択された圧力の閾値より低いことを示す指標に応じて、前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との前記圧縮シリンダへの供給を減らすように構成される、
請求項1乃至13のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つのパラメータは、
酸素飽和度レベル、
を含み、
前記制御部は、前記酸素飽和度レベルが選択された酸素飽和度の閾値より低いことを示す指標に応じて、前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との前記圧縮シリンダへの供給を減らすように構成される、
請求項1乃至14のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項16】
前記圧縮シリンダは、
空気の吸気口、
を含み、
前記制御部は、前記少なくとも1つのパラメータの指標に基づいて、前記第1液体冷却剤および/または前記第2液体冷却剤の割合に対する空気の割合を制御するために、前記吸気口の動作を制御するように構成される、
請求項1乃至15のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項17】
前記圧縮シリンダは、
排気口、
を含み、
前記燃焼シリンダは、
前記排気口から圧縮流体を受けるレキュペレータを介して前記圧縮シリンダの前記排気口に接続される吸気口、
を含み、
前記レキュペレータは、前記燃焼シリンダに供給された前記圧縮流体の温度を制御するように構成され、
前記少なくとも1つのパラメータは、
前記レキュペレータ内の前記流体の温度と、圧力と、酸素濃度と、のうち少なくとも1つ、
を含む、
請求項1乃至16のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項18】
前記燃焼シリンダは、第3液体冷却剤槽に接続され、
前記制御部は、前記少なくとも1つのパラメータの指標に基づいて、前記スプリットサイクル内燃エンジンへの第3液体冷却剤の供給を制御するように構成される、
請求項1乃至17のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項19】
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダであって、前記燃焼シリンダ内での燃焼処理用の燃料を供給する燃料槽に接続される燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容して、前記燃焼シリンダに圧縮流体を供給するように構成される圧縮シリンダであって、第1液体冷却剤槽から第1液体冷却剤を受けると共に、第2液体冷却剤槽から第2液体冷却剤を受けるように構成される圧縮シリンダと、
を含み、
前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤とのうち少なくとも一方は、
冷却処理を経て液相に圧縮された液体冷却剤、
を含む、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン装置。
【請求項20】
スプリットサイクル内燃エンジン装置の動作方法であって、
前記スプリットサイクル内燃エンジン
を制御するための少なくとも1つのパラメータの指標を受信する工程と、
前記受信した指標に基づいて、前記スプリットサイクル内燃エンジンの圧縮シリンダ内に噴射する第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との量を決定する工程と、
前記決定に基づいて、前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤とのうち少なくとも一方の前記圧縮シリンダへの供給を制御して、圧縮ストロークの間に前記少なくとも一方の液体冷却剤が気化して気相になり、前記圧縮ストロークにより生じる温度上昇が前記液体冷却剤による熱吸収によって制限されるようにする工程と、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項21】
前記第1液体冷却剤は、
冷却処理を経て液相に圧縮された液体冷却剤、
を含み、
前記第2液体冷却剤は、
水、
を含む、
請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記第1液体冷却剤は、
液体窒素、
を含む、
請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤とのうち少なくとも一方の供給の制御は、
前記少なくとも1つのパラメータの前記指標に基づく、前記圧縮シリンダに収容された圧縮ピストンの位置に対する前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤とのうち少なくとも一方の供給のタイミングの制御と、
前記少なくとも1つのパラメータの前記指標に基づく、前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との供給比の制御と、
を含む、
請求項20乃至22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との両方の前記圧縮シリンダへの供給を制御することを含む、
請求項20乃至23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
燃焼プロセス用の燃料の前記スプリットサイクル内燃エンジンの燃焼シリンダへの供給を制御することをさらに含む、
請求項20乃至24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記スプリットサイクル内燃エンジンに関連する少なくとも1つのパラメータの指標に基づいて、前記燃焼シリンダへの前記燃料の供給を制御することを含む、
請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記燃焼シリンダから放出される排気の温度に基づいて、前記燃焼シリンダへの前記燃料の供給を制御することを含む、
請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記燃焼シリンダの目下の動作RPMに基づいて、前記燃焼シリンダへの燃料の供給を制御することを含む、
請求項25乃至27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
要求信号を受信して、前記受信された要求信号に基づいて、前記燃焼シリンダへの燃料の供給を制御することを含む、
請求項25乃至28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つのパラメータは、
水分飽和度レベル、
を含み、
前記方法は、
前記水分飽和度レベルが水分飽和度の閾値に達したことに応じて、前記圧縮シリンダに供給される前記第1液体冷却剤の前記第2液体冷却剤に対する割合を増やすこと、
を含む、
請求項20または請求項20に従属するいずれかの請求項記載の方法。
【請求項31】
前記水分飽和度レベルが選択された水分飽和度の閾値より低いことに応じて、前記圧縮シリンダに供給される前記第2液体冷却剤の前記第1液体冷却剤に対する割合を増やすことを含む、
請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つのパラメータは、
前記圧縮シリンダ内の温度、
を含み、
前記方法は、
前記圧縮シリンダ内の前記温度が選択された温度の閾値より低いことを示す指標に応じて、前記圧縮シリンダへの前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との供給を減らすこと、
を含む、
請求項20乃至31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つのパラメータは、
前記圧縮シリンダ内の圧力、
を含み、
前記方法は、
前記圧縮シリンダ内の前記圧力が選択された圧力の閾値より低いことを示す指標に応じて、前記圧縮シリンダへの前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との供給を減らすこと、
を含む、
請求項20乃至32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つのパラメータは、
酸素飽和度レベル、
を含み、
前記方法は、
前記酸素飽和度レベルの指標が選択された酸素飽和度の閾値より低いことを示すことに応じて、前記圧縮シリンダへの前記第1液体冷却剤と前記第2液体冷却剤との供給を減らすこと、
を含む、
請求項20乃至33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記圧縮シリンダは、
空気の吸気口、
を含み、
前記方法は、
前記少なくとも1つのパラメータの指標に基づいて、前記第1液体冷却剤および/または前記第2液体冷却剤の割合に対する空気の割合を制御するために、前記空気の吸気口の動作を制御すること、
を含む、
請求項20乃至34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記圧縮シリンダは、
排気口、
を含み、
前記燃焼シリンダは、
前記排気口から圧縮流体を受けるレキュペレータを介して前記圧縮シリンダの前記排気口に接続される、
吸気口、
を含み、
前記方法は、
前記燃焼シリンダに供給された前記圧縮流体の温度を制御するために、前記レキュペレータを動作させること、
を含み、
前記少なくとも1つのパラメータは、
前記レキュペレータ内の流体の温度と、圧力と、酸素濃度と、のうち少なくとも1つ、
を含む、
請求項
25乃至29および請求項25に従属する場合の請求項32乃至35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つのパラメータの指標に基づいて、前記エンジンに第3液体冷却剤を供給することをさらに含む、
請求項20乃至36のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリットサイクル内燃エンジンの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルやオットーサイクルを用いた従来の内燃エンジンは、通常、同一シリンダ内で圧縮と燃焼/膨張との両方を行う。一方、スプリットサイクル内燃エンジンは、別々のシリンダ内で圧縮段と燃焼/膨張段とを行う。このようなエンジンでは、空気が圧縮された状態で、流体は、圧縮シリンダ内に噴射され得る。これは、圧縮ストロークの間に生成された熱の一部が吸収されて、圧縮が少なくとも準等温と見なされ得るようになるという効果が得られる。
【0003】
WO 2010/067080 A1は、液体窒素が冷却剤として機能するために、液体窒素を圧縮シリンダ内に噴射するように構成される、スプリットサイクル往復ピストン式エンジンを開示している。
【発明の概要】
【0004】
本発明の各態様は、独立請求項に示され、任意選択の特徴は、従属請求項に示される。本発明の態様は、互いに関連付けて提供され得て、ある態様の特徴を別の態様に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明の各実施形態を、以下の添付の図面を参照しながら、例示として説明する。
【
図1】スプリットサイクル内燃エンジン装置の一例の模式図である。
【
図2】スプリットサイクル内燃エンジン装置の一例の模式図である。
【
図3】
図1,2のエンジンでの使用に適した使用方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図1,2のエンジンでの使用に適した噴射装置の模式図である。
【
図5】
図1,2のエンジンでの使用に適したフィルタシステムの模式図である。
【
図6a】
図1,2のエンジンに使用される液体冷却剤槽の一例の模式図である。
【
図6b】
図1,2のエンジンに使用される液体冷却剤槽の一例の模式図である。
【
図7】
図1,2のスプリットサイクルエンジン装置に使用される、
図6a,6bにより説明および図示される液体冷却槽の別の構成を示す図である。
【
図8】例えば、
図1,2のスプリットサイクルエンジン装置などの、スプリットサイクルエンジン装置の圧縮シリンダ内に液体冷却剤の一例として水と液体窒素とを導入することによる、仕事量と量との変化の仕方を示すグラフである。
【
図9】空気対液体窒素比0.1と空気対水比0.2との場合の圧縮シリンダ10に入る空気の供給温度の変化による影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1は、異なる2種類の液体冷却剤を使用するように構成されるスプリットサイクル内燃エンジン装置100を示す。2種類の液体冷却剤は、異なる熱特性を有するもので、かつ、この2種類の液体冷却剤の組合せを用いることでエンジン性能の向上が得られるように選択される。少なくとも一方の液体冷却剤は、冷却処理を経て液相に圧縮されている。このスプリットサイクル内燃エンジンは、制御部を備える。同制御部は、動作時に、圧縮ストロークの間に液体冷却剤が気相へと蒸発し、圧縮ストロークにより生じる温度上昇が冷却剤による熱吸収によって制限されるように、少なくとも1つのエンジンパラメータの指標を受信し、同指標を用いて少なくとも一方の液体冷却剤のスプリットサイクルエンジンの圧縮シリンダへの液体状態での供給(例えば、直接噴射による供給)を制御する。そのため、制御部は、例えば、エンジンについての要求に基づいて選択可能な冷却剤の組合せを供給するように構成される。例えば、少なくとも一方の液体冷却剤は、液体冷却剤の相変化(例えば、液体冷却剤が気化する際の気化潜熱)が、圧縮ストロークにより生じる温度上昇を制限するように選択される。これにより1回の圧縮ストロークにおける空気量が増して、エンジン効率を高めることができる。エンジン効率の向上には明らかな環境上の利点がある
【0007】
図1は、圧縮シリンダ10と燃焼シリンダ20とを備えたスプリットサイクル内燃エンジン装置100を示す。圧縮シリンダ10は、連結ロッド52を介してクランクシャフト70の一部で各クランクに接続された圧縮ピストン12を備える。燃焼シリンダ20は、連結ロッド54を介してクランクシャフト70の一部で各クランクに接続された燃焼ピストン22を備える。圧縮シリンダ10は、レキュペレータ30を介して燃焼シリンダ20に接続される。圧縮シリンダ10は、エンジンの外側から空気を受ける吸気口8と、レキュペレータ30に接続された排気口9と、を備える。排気口9は、圧縮空気が圧縮シリンダ10に逆流できないように、逆流防止弁を備える。燃焼シリンダ20は、レキュペレータ30に接続された吸気口18と、排気ガスを燃焼シリンダ20から排気管95に送る排気口19と、を備える。これらの連結部は、レキュペレータ30を介した圧縮シリンダ10と燃焼シリンダ20との間の空気の流路を形成する。
【0008】
スプリットサイクル内燃エンジン装置100は、さらに、第1液体冷却剤槽40と、第2液体冷却剤槽50と、制御部60と、燃料槽80と、を備える。第1液体冷却剤槽40は、第1噴射装置14を介して圧縮シリンダ10に接続され、それにより第1液体流路が画定される。第2液体冷却剤槽50は、第2噴射装置16を介して圧縮シリンダ10に接続され、それにより第2液体流路が画定される。燃料槽80は、第3噴射装置82を介して燃焼シリンダ20に接続され、それにより燃料槽80と燃焼シリンダ20との間に流体流路が画定される。
【0009】
スプリットサイクル内燃エンジン装置100は、制御部60に接続された複数のセンサ(黒点で表示)を備える。しかし、当然のことながら、図示のセンサは単に一例であり、数や設置個所が異なるセンサでもよいことが理解されよう。例えば、吸気口8が温度センサを備えてもよい。センサは、有線または無線で制御部60に接続され得る。
図1に示される例では、圧縮シリンダ10内に圧縮センサ11がある。例えば、このセンサは、吸気口8、もしくは噴射装置12,14のいずれかまたは両方に近接して搭載される。
図1に例示されるスプリットサイクル内燃エンジン装置100は、さらに、燃焼シリンダ20内に燃焼センサ21と、レキュペレータ30内にレキュペレータセンサ31と、を備える。さらに、スプリットサイクル内燃エンジン装置100は、クランクシャフト70に搭載されたクランクセンサ71と、燃焼シリンダ20の排気口19の下流に位置した排気センサ91と、を備える。いくつかの例では、第1液体冷却剤槽40と、第2液体冷却剤槽50とは、例えば、第1液体冷却剤槽40と、第2液体冷却剤槽50とに含まれた液体の量(質量など)を測定するセンサをそれぞれ備える。
【0010】
制御部60は、これらセンサと、第1噴射装置14と、第2噴射装置16と、のうち少なくとも一つに接続されている。
図1に示される例では、制御部60は、第1噴射装置14と第2噴射装置16との両方と、第3噴射装置82と、に接続されている。
【0011】
センサは、スプリットサイクル内燃エンジン装置100に関連する少なくとも1つのパラメータの指標となる少なくとも1つの信号を制御部60に送るように構成される。例えば、
図1に示される例では、圧縮センサ11は、圧縮シリンダ10に関連する少なくとも1つのパラメータを計測するように構成される。燃焼センサ21は、燃焼シリンダ20に関連する少なくとも1つのパラメータを計測するように構成される。レキュペレータセンサ31は、レキュペレータ30に関連する少なくとも1つのパラメータを計測するように構成される。さらに、クランクセンサ71は、エンジンのRPMを計測するように構成される。排気センサ91は、燃焼シリンダ20の排気口19から排出される排気ガスに関する少なくとも1つのパラメータを計測するように構成される。
【0012】
スプリットサイクル内燃エンジン装置100は、空気が圧縮シリンダ10の吸気口8から圧縮シリンダ10に吸引されるように構成される。圧縮ピストン12はこの空気を圧縮し、その圧縮段階の間に液体冷却剤が圧縮シリンダ10内に加えられる。レキュペレータ30は、排気口9から圧縮空気を受け、その圧縮空気を吸気口18から燃焼シリンダ20内に送る。スプリットサイクル内燃エンジン装置100は、さらに、第3噴射装置82を介して燃料槽80からの燃料を燃焼シリンダ20内の圧縮空気に添加して、燃料と圧縮空気との混合気を(例えば、不図示の点火源の動作により)燃焼させ、クランクシャフト70の回転を介して有効な仕事を抽出する。
【0013】
燃料槽80は、制御部60に接続され、制御部60が燃焼シリンダ20内への燃料の供給を制御する。いくつかの例では、制御部60は、スプリットサイクル内燃エンジン装置100の少なくとも1つのパラメータの指標に基づいて、噴射される燃料の量を決定するように構成される。例えば、制御部60は、排気センサ91から受信した信号を介して少なくとも1つのパラメータの指標を取得する。
【0014】
各センサは制御部60にそれぞれ信号を送り、制御部60は受信した信号に基づいて、第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との少なくとも一方の供給の制御を決定するように構成される。制御部60は、圧縮ピストン12の圧縮ストロークの間に液体冷却剤が気相へと蒸発し、圧縮ストロークにより生じる温度上昇が液体冷却剤による熱吸収によって制限されるように、第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との少なくとも一方の供給それぞれを制御する。例えば、制御部60は、第1噴射装置14と第2噴射装置16とが、例えば、クランクセンサ71により計測されたクランク角により定まる、圧縮シリンダ10内の圧縮ピストン12の位置に基づいて、圧縮シリンダ10内に液体を投入するように制御する。いくつかの例では、これに加えて、または、これに代えて、制御部60は、少なくとも一方の液体冷却剤の圧縮シリンダ10への供給を制御するために、各液体冷却剤槽40,50内の1つ以上のポンプを作動させるように構成される。
【0015】
制御部60と噴射装置14,16とは、低圧(例えば、10MPa未満、5MPa未満、4.6MPa未満、1.3MPa未満、0.3MPa未満など)で液体冷却剤を圧縮シリンダ10内に直接噴射するように構成される。これにより、液体冷却剤を圧縮シリンダ10内に圧入する専用のクライオポンプを必要としないという利点がもたらされる。液体冷却剤は、液相の状態、かつサイズが大きく分布した液滴噴霧形式で直接圧縮シリンダ10内に噴射されることができる。液滴のサイズ分布が大きいことは、圧縮ピストン12の圧縮ストロークの間に液体冷却剤が蒸発して気相になる温度および/または時間の範囲が広がるため、熱力学的に好ましい。
【0016】
第1液体冷却剤は、冷却処理を経て液相に圧縮された液体冷却剤でもよい。例えば、第1液体冷却剤は、液体窒素(LN2)などの低温液体でもよい。第2液体冷却剤は、水でもよい。しかし、当然のことながら、例えば、空気、酸素、アルゴンなどの冷凍処理を経て液化させたガスなどのその他の非酸化性で非燃焼性の各種液化ガスが第1液体冷却剤および/または第2液体冷却剤として使用可能であることが理解されよう。燃料は、ガソリン、水素、液化天然ガス、圧縮天然ガスなどの点火源(例えば、点火源は、燃焼シリンダ内のスパークプラグでもよい)を要する燃料でもよい。あるいは、燃料は例えば、ディーゼルなどの圧縮点火式燃料などの点火源を要さないものでもよい。
【0017】
制御部60は、少なくともひとつの液体冷却剤の供給要件を決定し、その供給要件を満たすように噴射装置を制御するように構成される。供給要件は、冷却剤源が維持されるために、例えば、スプリットサイクル内燃エンジン装置100の目下の動作条件(負荷や動作温度など)、または槽14,16のそれぞれにおける液体冷却剤の量に基づいている。制御部60は、スプリットサイクル内燃エンジン装置100に関連する少なくとも1つのパラメータの指標の受信し、それに応じて供給要件を決定するように構成される。例えば、制御部60は、少なくとも1つのルックアップテーブル(LUT)を備え、センサからの少なくとも1つのデータ値を含む受信信号に基づくと共に、ルックアップテーブル内の当該受信データ値との比較に基づいて供給要件を決定するように構成されてもよい。指標の受信は、複数のセンサのうち、1つ以上のセンサからの信号などの帰還信号を受信する形式でもよい。種々のエンジンパラメータが制御部60により監視されることは、本開示に照らして明らかである。上記パラメータは、液体冷却剤の温度、圧力、飽和度などの、圧縮シリンダ10に関するパラメータを含んでもよく、これらはスプリットサイクル内燃エンジン装置100全体における複数の箇所で測定される。
【0018】
いくつかの例では、圧縮センサ11は、圧縮シリンダ20内の圧力および/または温度を測定するように構成される。燃焼センサ21は、燃焼シリンダ10内の圧力および/または温度を測定するように構成される。レキュペレータセンサ31は、レキュペレータ内の酸素濃度レベルと、水分飽和度レベルと、圧力と、温度と、を測定するように構成される。また、クランクセンサ71は、クランクシャフト70のRPMを測定するように構成される。排気センサ91は、排気ガスの圧力および/または温度、および/または排気ガスの組成(例えば、排気ガス中の二酸化炭素、二酸化窒素、または他のガスや微粒子などの濃度)を測定するように構成される。その他にも、制御部60には、圧縮シリンダ10および/または燃焼シリンダ20の目下の動作毎分回転数(RPM)などの、複数の情報が入力される。また、制御部60は、目下のエンジンに対する要求レベルを示す要求信号や、液体冷却剤および/または燃料の使用法に影響を及ぼすその他の各種指標を受信する。
【0019】
動作時には、圧縮ピストン12が下死点(BDC)に達するまで、クランクシャフト70の回転による圧縮シリンダ10内での圧縮ピストン12の下降運動を介して、空気が圧縮シリンダ10の吸気口8から圧縮シリンダ10内に吸引される。クランクシャフト70が回転し続け、圧縮ピストンをBDCから上死点(TDC)に向けて押し戻す。圧縮ピストン12がTDCに向かって移動すると、圧縮ピストン12は、吸引された空気を圧縮する。制御部60は、スプリットサイクル内燃エンジン装置100内のセンサからスプリットサイクル内燃エンジン装置100の少なくとも1つのパラメータの指標を受信し、それに応じて、噴射装置14,16からの液体噴霧の形で、液相で圧縮シリンダ10内に噴射することにより、圧縮段階の間に少なくともひとつの液体冷却剤の供給を制御する。圧縮ピストン12がTDCに向かって移動を続けると、噴射された液体冷却剤は蒸発して気相になり、気化潜熱は少なくとも部分的に、圧縮シリンダ10内の空気の圧縮に起因する該空気の温度上昇を制限する。
【0020】
次いでレキュペレータ30は、圧縮シリンダ10から排気口9を介して圧縮流体(蒸発した液体冷却剤からなる流体)を受け、吸気口18を通して燃焼シリンダ20内にその圧縮流体を送る。このプロセスにおいて、レキュペレータ30は、圧縮空気を所望の温度に加熱し、例えば、燃焼シリンダ10内の燃焼プロセスを促進する。次いで制御部60は、燃料を燃焼シリンダ20内の圧縮空気に供給するように第3噴射装置82を作動させ、クランクシャフト70の回転を介して有効な仕事を抽出するために、燃料と圧縮空気との混合気および気化した液体冷却剤(例えば、不図示のスパークプラグなどの点火源の作動による気化)を燃焼させる。
【0021】
以下に述べる数種の例において、制御部60は、スプリットサイクル内燃エンジン装置100の少なくとも1つのパラメータの指標を受信し、該それに応じて、少なくともひとつの液体冷却剤の圧縮シリンダ10への供給を制御する。
【0022】
第1例では、第1冷却剤は冷却処理を経て液化された液体窒素などの液体であり、第2冷却剤は水であり、少なくとも1つのパラメータは水分飽和度レベルである。水分飽和度レベルは、吸気口8を通じて圧縮シリンダ10内に入る空気の温度と圧力との測定値に基づいて検出される。圧縮シリンダ10内の空気の圧力と温度を用いることで、圧縮シリンダ10に含まれた空気のモル数が決定される場合がある。なお、当然のことながら、上記空気の量は、センサ71により計測されるクランク角により決定される圧縮ピストン12の位置に応じた既知の量である。ドルトンの分圧の法則を適用すると、添加された媒体の圧力は、モル濃度に比例する。したがって、制御部60は、水が沸騰するか否かを(例えば、制御部60内のルックアップテーブルに保存された、圧力に依存する水の沸騰温度の既知の値に基づいて)決定することができると共に、噴射装置16を介して圧縮シリンダ10内に噴射された水の量を(例えば、流量計を用いて)測定することにより、水分飽和度レベルを決定することができる。
【0023】
制御部60は、圧縮シリンダ10中の水分飽和度の決定に応じて、液体冷却剤の噴射量を決定し、水分飽和度レベルに基づいて液体窒素および/または水のいずれかを噴射するように噴射装置14,16を作動させるように構成されてもよい。例えば、制御部60は、水分飽和度が閾値レベルに達するまで、冷却剤として水のみを使用する。この閾値レベルを超えると、第2液体冷却剤(液体窒素)のみが圧縮シリンダ10内に噴射されてもよく、水は噴射されなくてもよい。これに加えて、または、これに代えて、制御部60は、所望の水分飽和度に達するために、水と液体窒素との組合せを使用するように構成されてもよい。例えば、制御部60は、水分飽和度レベルに基づいて、圧縮シリンダ10内に噴射される2種類の液体冷却剤の比率を調整するように構成されてもよい。
【0024】
制御部60は、水分飽和度の閾値を規定する保存データを、例えば、ルックアップテーブルの形で備えてもよい。この閾値は、複数の方法で規定可能である。しかしながら、燃焼シリンダ20内の水分として液体水分は含まず、水蒸気の形の水分のみ含むなど、燃焼シリンダ20内の液体水分の量を減らすことが好ましい。これに応じて、水分飽和度の閾値は、100%絶対湿度未満と決定され得る。
【0025】
制御部60は、酸素量や、温度や、圧力などの他のエンジンパラメータがエンジンの機能や水の沸点に影響を与えるため、これらのパラメータに基づいて閾値を決定するように構成されてもよい。
【0026】
第2例では、制御部60は、圧縮センサ11からの信号を通じて受け取った指標に基づいて、圧縮シリンダ10内の温度を判定するように構成されてもよい。制御部60は、圧縮センサ11から受信した指標に基づいて、圧縮シリンダ10内の温度が閾値より低いと判定すると、それに応じて第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との両方の圧縮シリンダ10への供給量を減らすように構成される。このような状況は、スプリットサイクル内燃エンジン装置100が起動された直後で比較的低温である場合に生じ得る。逆に、制御部60は、例えば、エンジンがウォームアップして、および/または高負荷要求下にあって、または高RPMで回転していて、該温度が閾値より高いと判断すると、それに応じて第1液体冷却剤および/または第2液体冷却剤の圧縮シリンダ10への供給を増やすように構成される。
【0027】
いくつかの例では、制御部60は、目下の温度値と閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、判定するように構成される。例えば、制御部60は、目下の温度値と閾値との比較結果に基づいて、第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との少なくともひとつの供給を(例えば、質量比で)制御するための判定をするように構成される。例えば、制御部60は、閾値との差が増えるにしたがって供給される液体冷却剤の量(例えば、質量)が多く(または少なく)なるように、第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との少なくともひとつの供給を閾値との差に応じて制御するように構成される。
【0028】
第1液体冷却剤および/または第2液体冷却剤の供給が変化する度合いは、圧縮シリンダ10内の温度(例えば、圧縮センサ11により測定される温度)と閾値温度(例えば、制御部60内に保存された閾値温度)との温度差に比例する。圧縮シリンダへの液体冷却剤の供給を増やす必要があるとの判定に応じて、制御部60は、(水分)飽和度が閾値に達するまで、該液体冷却剤(例えば、水)のうちひとつのみを液体冷却剤として使用してもよい。同様の手法は、圧縮シリンダ10内の圧力などの、他のエンジンパラメータに適用されてもよい。
【0029】
第3例では、制御部60は、レキュペレータセンサ31からの信号を通じて受け取ったパラメータの指標に基づいて、レキュペレータ30内の酸素飽和度を決定してもよい。制御部60は、酸素飽和度が閾値を超えた場合に、より多くの液体冷却剤が圧縮シリンダ10内に噴射されるように構成される。液体冷却剤の噴射は、前述の手法にしたがって行われ得る。
【0030】
第4例では、制御部60は、スプリットサイクル内燃エンジン装置100に対する要求に基づいて、少なくともひとつの液体冷却剤の供給を制御するように構成される。例えば、制御部60は、エンジンからの所望の出力(例えば、所望のトルク、RPM、エネルギ出力など)を示す信号を受信する。この例では、第1液体冷却剤は液体窒素などの冷却処理を経て液化された液体であり、第2液体冷却剤は水である。制御部60は、要求が大きい場合(エンジンが高温で回転している場合)は、第1液体冷却剤が第2液体冷却剤よりも多量に圧縮シリンダ10内に噴射され、要求が小さい場合(エンジンが低温で回転している場合)は、第2液体冷却剤が第1液体冷却剤よりも多量に噴射されるように、第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との供給を制御する。以上のように、圧縮シリンダ10内の圧縮空気の温度をより精密に制御して燃焼効率を高めることでスプリットサイクル内燃エンジン装置100の効率を高めることができる。
【0031】
いくつかの例では、噴射装置14,16,82もセンサとして機能して、スプリットサイクル内燃エンジン装置100に関連した少なくとも1つのパラメータの指標となる信号を制御部60に送信するように構成されてもよい。噴射装置14,16,82は、例えば、噴射装置の温度、噴射装置の構成部品(噴射装置に液体を噴射させるように動作可能な誘導コイルなど)の抵抗、および/または噴射装置14,16,82を介して噴射される液体の量(例えば、質量)を示す測定値の少なくとも1つを示す信号を送信するように構成される。これら噴射装置は、液体冷却剤を直接噴射および/またはコモンレール噴射により噴射するように構成されてもよいが、低温になることもあり得るため、少なくとも1つの噴射装置14,16,82は、圧電式駆動素子を含まず、例えば、100ケルビン未満の低温で動作するように構成されてもよい。
【0032】
いくつかの例では、制御部60は、ある液体冷却剤の供給速度を別の液体冷却剤を基準として決定および制御するように構成される。例えば、制御部60は、圧縮シリンダ10内に噴射される冷却剤の割合を制御するために、複数の開制御ループまたは閉制御ループを備えてもよい。これらのフィードバックループは、排気ガスの温度と、エンジンの負荷と、所望のレベルの差温と、流体密度との測定手段を含む。例えば、制御部60は、比例・積分・微分(PID)コントローラである。
図1に示される例では、制御部60は、第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との比を制御する。あるいは、制御部60は、一方の冷却剤を主に使用し、閾値に達したときなどの、所定の状況でのみ他方の冷却剤を使用するように構成されてもよい。この制御は、一方の冷却剤が不足しかけているときなどに、その冷却剤源を保つことに役立つ。上記の例においては、制御部60は、一方の冷却剤の噴射量をある選択された値に保持し、制御部60が圧縮シリンダ10に加える液体冷却剤の量を増やす必要があると判定すると、それに応じて、閾値条件に達するまで、同じ液体冷却剤槽からのみ液体冷却剤を加えるように構成される。閾値に達すると、制御部60は、他方の槽からのみ液体冷却剤が加えられるように、槽を切り替えるように構成されてもよい。
【0033】
いくつかの例では、噴射装置14,16による液滴のスプレ噴射は、圧縮ストローク時の安定した熱吸収と、シリンダ10内の空気と液体冷却剤とのスムーズな熱伝達と、を行うために、(例えば、制御部60により)サイズ分布のある液滴が供給されるように制御される。またいくつかの例では、この制御が液滴サイズ分布を(例えば、制御部60により)決定することを含む。この液滴サイズ分布は、圧縮ストロークにおいて熱吸収を、例えば、圧縮ストロークの一部または全体(例えば、BDCからTDCまで)にもたらす。冷却処理を経て液化された液体冷却剤の場合、液体冷却剤は、低温の状態で低圧で噴射される。この低温と低圧との組合せは、エンジン温度が高い場合でも、液体冷却剤が液相で圧縮シリンダ10内に噴射されることを意味する。
【0034】
いくつかの例では、液体冷却剤は、液流の形で圧縮シリンダ10内に噴射される。またいくつかの例では、制御部60は、液体冷却剤による熱吸収が液体冷却剤とシリンダ10内の周囲空気との瞬間的温度差と同等になるよう、少なくとも一方の液体冷却剤の供給速度を制御するように構成される。
【0035】
いくつかの例では、吸気口8は、圧縮シリンダ10に入る空気が充填されているように、ターボチャージャまたは任意の他の強制誘導装置に接続されるように構成されてもよい。またある例では、吸気口8は、これに加えて、または、これに代えて、充填された空気を冷却するために、インタークーラに接続されてもよい。このように空気を充填して冷却することもまた、吸気口8を介して圧縮シリンダ10に入る空気の圧力と温度との測定値がより正確に判定され得ることを意味する。
【0036】
いくつかの例では、スプリットサイクル内燃エンジン装置100は、第3液体冷却剤槽と、第3液体冷却剤槽に接続され、圧縮シリンダ10やレキュペレータ30などのスプリットサイクル内燃エンジン装置100の一部に第3液体冷却剤を噴射するように構成される別の液体冷却剤噴射装置と、を備える。第3液体冷却剤は、第1液体冷却剤および第2液体冷却剤と異なる冷却剤であってもよく、例えば、冷却処理を経て液化されて液相にされた、非酸化性かつ非燃焼性のガスであってもよい。
【0037】
いくつかの例では、レキュペレータ30は、液体冷却剤槽に接続された噴射装置を備える。例えば、レキュペレータ30は第2液体冷却剤槽に接続された噴射装置も備えてもよく、制御部60は圧縮シリンダ10から燃焼シリンダ20に流れる圧縮流体の温度を、例えば、レキュペレータセンサ31を介して監視するように構成されてもよい。制御部60は、吸気口18を介して燃焼シリンダ20に入るガスの温度を選択された範囲内に調整するために、一定量の液体冷却剤が必要か否かを判定する。選択範囲は、効率的な燃焼が得られるように選択されて、制御部60のメモリに保存される。例えば、スプリットサイクル内燃エンジン装置100が激しく回転している場合は、例えば、大きな要求がエンジンに課されたため、圧縮シリンダ10内への第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との噴射が、圧縮シリンダ10から燃焼シリンダ20に向かう圧縮空気の温度を選択範囲内に保つ上で十分でない場合がある。そのため、制御部60は、圧縮空気をさらに冷却して空気温度が選択範囲内になるように、レキュペレータ30内への液体冷却剤の供給を噴射装置の動作を通じて制御する。
【0038】
いくつかの例では、制御部60は、スプリットサイクル内燃エンジン装置100の燃焼効率を高めるために、または、例えば、大きな要求がスプリットサイクル内燃エンジン装置100に課された場合に、液体空気を圧縮シリンダ10に供給する。
【0039】
図2は、スプリットサイクル内燃エンジン装置の他の例であるスプリットサイクル内燃エンジン装置200を示す。
図1と同一または類似の部分については同一の符号が使用されている。
【0040】
図2のスプリットサイクル内燃エンジン装置200は、第2液体冷却剤槽50がレキュペレータ30に接続されている点が
図1のスプリットサイクル内燃エンジン装置100と異なる。制御部60は、第2液体冷却剤がレキュペレータ30と圧縮シリンダ10との内部に噴射されるように、第2液体冷却剤槽50からの液体冷却剤の供給を制御するように構成される。また、クランクシャフト70は、圧縮ピストン12と燃焼ピストン22とが異なるRPMで動作するように構成されるギア機構75も含む。
【0041】
さらに、スプリットサイクル内燃エンジン装置200は、排気ガスが燃焼シリンダ20に入る圧縮空気と熱交換関係になるように、燃焼シリンダ20からの排気が排気口19を通過した後レキュペレータ30を通って帰還されるように構成される。このようにして、エンジンがより効率的な動作温度で動作するように、圧縮シリンダ10から燃焼シリンダ20に向かうガスの温度が制御されてもよい。
【0042】
さらに、レキュペレータ30は、第2液体冷却剤の一部が排気から抜き取られて第2液体冷却剤槽50に戻されるように、圧縮部を備える。次いで、排気は、レキュペレータ30から排気管95を介して周囲環境に放出される。
図2に示される例では、スプリットサイクル内燃エンジン装置200は、制御部60に接続される放出センサ92をさらに備える。放出センサ92は、例えば、レキュペレータ30の下流の排気流路に位置する。放出センサ92は、排気管95を通って出ていくガスおよび/または微粒子の濃度を計測し、これらパラメータのいずれかの指標を含む信号を制御部60に送るように構成されてもよい。
【0043】
図1のスプリットサイクル内燃エンジン装置100とのさらなる相違点は、連結ロッド52,54を介してそれぞれ2つのピストン12,22が取り付けられるクランクシャフト70の2つの部分が、一体接続されておらず同一速度では回転しないことである。その代わりに、これら2つの部分はギア機構75を介して接続されている。ギア機構75は、例えば、変速比が選択的に変化するトランスミッションシステムやギアボックスなどである。これに加えて、または、これに代えて、ギア機構75は、切断クラッチなどのクラッチを含むんでもよい。
【0044】
図2のスプリットサイクル内燃エンジン装置200の動作は、
図1のスプリットサイクル内燃エンジン装置100における前述の動作とほぼ同様であるが、スプリットサイクル内燃エンジン装置200の未だ説明していない部分の動作について
図2を参照して説明する。
【0045】
レキュペレータ30内の圧縮部は、燃焼シリンダ20からの排気を冷却するように構成される。例えば、第2液体冷却剤が水である場合、この水は冷却されて圧縮され、第2液体冷却剤槽50に戻される。これにより第2液体冷却剤槽50の小型化が可能になる。このことは、無制限に水が利用できないため水循環を採用している自動車でエンジンを使う場合に好適である。排気からの余剰の熱は、圧縮シリンダ10から放出されて燃焼シリンダ20に入る圧縮空気と熱交換関係にある熱交換器などの、レキュペレータ内の空気の加熱機構を形成するために使用されてもよい。例えば、制御部60は、圧縮シリンダ10から燃焼シリンダ20に向かう圧縮空気が選択範囲内に入るように、レキュペレータ30の動作を制御するように構成されてもよい。例えば、制御部60は、圧縮空気の温度が選択された閾値より低い場合(例えば、スプリットサイクル内燃エンジン装置200が低温で回転している場合や、始動直後である場合)、圧縮空気を加熱し、選択された閾値より高い場合(例えば、高い要求がスプリットサイクル内燃エンジン装置200に課せられた場合)は、圧縮空気を冷却する。制御部60は、第2液体冷却剤槽50からの第2液体冷却剤の供給を、例えば、レキュペレータ30の噴射装置の動作を通じて制御することにより、レキュペレータ30内の空気を冷却してもよい。
【0046】
いくつかの例では、スプリットサイクル内燃エンジン装置200は、燃焼シリンダ20の排気ガスからエネルギを抽出することによりエンジン効率を高める、ターボチャージャまたは他の適当な装置をさらに含んでもよい。
【0047】
いくつかの例では、スプリットサイクル内燃エンジン装置200は、スプリットサイクル内燃エンジン装置200に供給される空気の圧力または密度を高める、スーパーチャージャまたは他の適当な装置をさらに含んでもよい。スーパーチャージャへのエネルギは、クランクシャフト、電池、または任意の他の適当な手段により供給される。
【0048】
いくつかの例では、スプリットサイクル内燃エンジン装置100,200が公知のブレイトン/ジュール/トムソン型の液体窒素発生装置を備えてもよい。この液体窒素発生装置はロータリコンプレッサを備え、このロータリコンプレッサのシャフトはタービンエキスパンダと可変比トランスミッションシステムの出力部とに接続される。可変比トランスミッションシステムの入力部は、クランクシャフト70に接続される。この液体窒素発生装置は、2つの熱交換器と扇形アフタークーラとも含む。使用時には、空気がコンプレッサにより吸気口を通して液体窒素発生装置内に吸引され、圧縮、膨張を経て熱交換器を通過した後、液体窒素が生成されて第1液体冷却剤槽40に送られる。
【0049】
図3を参照して冷却剤の使用量を決定する方法を説明する。
【0050】
図3において、ステップ1000でプロセスが始まる。ステップ1002,1004で、エンジンへの要求とエンジンのRPMとがそれぞれ判定され、それによりステップ1010で、制御部60が、燃料槽80から燃焼シリンダ20内に噴射される燃料の必要量を算出する。ステップ1012で、制御部60は、例えば、圧縮センサ11とレキュペレータセンサ31から受信した信号に基づいて、圧縮シリンダ10から燃焼シリンダ20に供給される圧縮空気の測定された諸状態を使用し、それによりステップ1020で、所望の燃焼効果を得るために必要な酸素量を決定する。ステップ1030で、冷却剤の最大量が決定される。この例では、第1冷却剤は液体窒素であり、第2冷却剤は水である。
【0051】
ステップ1040で、制御部60は、受信したセンサ信号に基づくデータ値を保存されたルックアップテーブルと比較することにより、酸素レベルが閾値より高いか否かを、いずれかのセンサからの指標に基づいて判定する。酸素レベルが閾値より高いと判定されると、本方法はステップ1050に進み、ステップ1050で、制御部60は、水分飽和度が閾値に達したか否かを判定する。一方、酸素レベルが閾値より低い場合は、本方法はステップ1045に進み、ステップ1045で、制御部60は、圧縮シリンダに加えられる水と液体窒素との量を減らす。
【0052】
制御部60は、例えば、エンジンの熱力学的性質に基づく所望の燃焼に必要な既知の酸素量を含むルックアップテーブルを用いて、燃料負荷に基づく酸素の必要量を決定するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、2つ以上の酸素源が存在し得て、例えば、空気中の酸素と、液体冷却剤として圧縮シリンダ10内に噴射される液体酸素または液体空気の形の酸素と、である。したがって、制御部60は、エンジン内の酸素レベルを判定するように構成され、酸素レベルが選択範囲内に確実に保たれるように、圧縮シリンダ10内に噴射される液体冷却剤の量を調整する。
【0053】
制御部60は、いずれかのセンサを用いて酸素レベルを判定するように構成されてもよい。ラムダメータ(酸素センサ)が、例えば、レキュペレータ30内の酸素濃度の測定に使用されてもよい。過度に低い酸素レベルは、排気管内のススの蓄積や燃焼シリンダ内のスリップを引き起こすため、酸素レベルが低くなり過ぎないようにすることが好ましい。
【0054】
ステップ1050で、例えば、いずれかのセンサからの指標に基づいて、水分飽和度レベルが制御部60により判定される。水分飽和度レベルが選択された水分飽和度の閾値に達している場合、本方法は、次いでステップ1060に進み、ステップ1060で、制御部60は圧縮シリンダ10内に噴射される液体窒素の量を増やす。この工程で、制御部60は、水分飽和度レベルが閾値より低くなるまで、圧縮シリンダ10内にそれ以上水を噴射しなくてもよい。ステップ1050で、水分飽和度レベルが閾値より低い場合、本方法は、次いでステップ1055に進み、ステップ1055で、制御部60は圧縮シリンダ10内に噴射される水の量を増やす。この工程で、制御部60は、水分飽和度が閾値に達するまで、圧縮シリンダ10内に液体窒素を噴射しなくてもよい。
【0055】
ステップ1045,1055,1060のいずれの後も、本方法は、ステップ1070に進む。ステップ1062で、排気ガスの熱が、例えば、排気センサ91または放出センサ92のいずれかを用いて測定され、ステップ1070で、その情報がステップ1062から引き出される。ステップ1070で、制御部60は、レキュペレータ30内の温度、圧力、酸素量のうち、少なくとも1つを測定する。例えば、この測定は、レキュペレータセンサ31を用いて行われる。ステップ1070で、温度と、圧力と、酸素飽和度と、水分飽和度との一連の測定が開始され、制御部60がこれらの測定パラメータに基づく信号を受信し、それに応じて冷却剤の供給を調整する。
【0056】
ステップ1080で、制御部60は、いずれかのセンサから得た温度測定値に基づいて、圧縮シリンダ10内の温度が閾値より高いか否かを判定する。この温度が十分に高い(例えば、閾値より高い)場合は、本方法はステップ1090に進み、ステップ1090で、制御部60は、圧縮シリンダ20内の圧力が閾値より高いか否かを判定する。この圧力が十分に高い(例えば、閾値より高い)場合は、前述のとおり本方法は、ステップ1040に進む。ステップ1080,1090,1040のいずれの場合も、閾値に達していないと、本方法はステップ1045に進み、ステップ1045で制御部60は両方の冷却剤の供給量を減らす。
【0057】
図4は、前述のスプリットサイクル内燃エンジン装置100,200などの、スプリットサイクルエンジンの圧縮シリンダ10内に液体冷却剤を噴射する液体冷却剤噴射装置150を示す。装置150は、前述の制御部60などの制御部であって、スプリットサイクル内燃エンジン装置100,200に関連する少なくとも1つのパラメータの指標に基づいて第1液体冷却剤と第2液体冷却剤との少なくとも一方の供給を制御するように構成され得る制御部により、操作される。
【0058】
図4に示される冷却剤噴射装置150は、フィルタ110と第1液体冷却剤噴射装置14とを介して、スプリットサイクルエンジンの圧縮シリンダ10に接続された第1液体冷却剤槽40を備える。第1液体冷却剤槽40は、フィルタ110を通って第1液体冷却剤噴射装置14まで伸びた液体冷却剤流路と流体連通している。第1液体冷却剤噴射装置14は、圧縮シリンダ10と直接に接続される。
【0059】
第1液体冷却剤槽40は、液体冷却剤流路を通じてフィルタ110に液体冷却剤を供給するように動作可能である。フィルタ110は、液体冷却剤から固形混入物を除去して、ろ過された液体冷却剤が第1液体冷却剤噴射装置14に流れることを可能にするように動作可能である。第1液体冷却剤噴射装置14は、圧縮シリンダ10内への液体冷却剤の噴射を制御するように動作可能である。
【0060】
一例として、
図4のシステムの動作を説明する。第1液体冷却剤槽40は、液体空気や、水や、冷却処理を経て液相に圧縮されたその他の液体などの、液体冷却剤を貯蔵する。この例では、液体冷却剤は、液体窒素である。
【0061】
図6a,6bに示されるように、第1液体冷却剤槽40は、第1液体冷却剤槽40内の圧力を高めることができるドライバを含み、このドライバにより、液体窒素が液体冷却剤流路に沿って圧送される。ドライバは、第1液体冷却剤槽40と液体冷却剤流路118との間に圧力差を生み出すことができる、加熱部29および/またはポンプ31を備える。例えば、加熱部29は、制御部60からの制御信号に応答して、第1液体冷却剤槽40の一部を加熱するように動作可能である。これにより、第1液体冷却剤槽40内に圧力差が生じて、液体窒素の一部が圧縮シリンダ10に向かって流される。加熱部29は、排気管を通してエンジンからの熱を再利用してもよく、または加熱を行うために、電位差が印加される抵抗器を備えてもよい。いくつかの例では、第1液体冷却剤槽40は、第1液体冷却剤槽40の過加圧を防ぐために、圧力解放弁をさらに備える。この圧力解放弁は、第1液体冷却剤槽40の圧力が選択された閾値を超えた場合に、加熱部により生じた窒素ガスが放出することを可能にする。この閾値は、例えば、液体冷却剤噴射システム150の上方の動作圧力に基づいて、例えば、制御部60により決定される。また、第1液体冷却剤槽40内に加熱部29を備えることは、第1液体冷却剤槽40内の圧力が大気圧より低くなることを防ぎ得る。大気圧より低くなると、外気が第1液体冷却剤槽40内に吸引されて、氷結し、望ましくない氷の結晶が生じる恐れがあるため、好ましくない。
【0062】
図6a,6bを参照して上述した方法と装置とを用いて、第1液体冷却剤槽40内に圧力差が生じると、この圧力差起因して、液体窒素は圧縮シリンダ10に向かって流れる。液体冷却剤の流路は、液体窒素から固形混入物を取り除くフィルタ110を通過する。
【0063】
このフィルタリング工程は、摩耗により液体冷却剤噴射装置14を損傷する恐れのある、水や二酸化炭素の結晶などの窒素ガス中の不純物を顕著に除去することに役立つ。
【0064】
フィルタ110を通過した後、液体窒素は、圧力差により、液体冷却剤流路に沿って液体冷却剤噴射装置14まで流れ続ける。液体冷却剤噴射装置14は、制御部60からの制御信号により動作して、所定の量の液体窒素を圧縮シリンダ10内に噴射するように動作可能である。この液体窒素の供給は、
図1-3との関連で前述された、受信されたパラメータに基づいて制御部60により制御されてもよい。
【0065】
図5は、液体冷却剤流路から固形混入物を取り除くフィルタ装置110の一例を示す。フィルタ装置110は、例えば、
図4に関連して前述された冷却剤噴射装置150に使用される。フィルタ110は、それぞれの端部が吸入路118と排出路119とに並列接続される2つの液体冷却剤流路120,130を備える。フィルタ110は、2つの部分113,115を備え、一方のフィルタ部分113は吸入路118と排出路119との間の第1液体冷却剤流路120に沿って位置し、他方のフィルタ部分115は吸入路118と排出路119との間の第2液体冷却剤流路130に沿って位置する。
図5に示される例では、さらに、フィルタ部分113,115の各片側に1つずつ2つのダイバータ111、112が備わり、これらダイバータ111,112は吸入路118と2つの流路120,130との継ぎ目、および排出路119と2つの流路120,130との継ぎ目にそれぞれ位置する。さらに、
図5に示される例では、フィルタ部分113,115にそれぞれ接続された2つの加熱要素114,116が備わっている。加熱要素114,116とダイバータ111,112とは、制御部60に接続される。この制御部60は、
図1-4に関連して前述した制御部60と同一である。
【0066】
ダイバータ111,112は、液体冷却剤を液体冷却剤流路に沿って流れさせるように動作可能であり、制御部60により制御される。これらのダイバータは、液体冷却剤流路を変更してフィルタ部分113,115を交替させるバルブでもよい。制御部60は、選択されたルーチン(例えば、制御部60に保存されたルーチンなど)に従って、ダイバータ111,112を動作させ、フィルタ部分113,115を交替させる前に各フィルタ部分113,115が選択された時間間隔で液体冷却剤流路内に位置することを可能にする。これにより、例えば、液体冷却剤は、選択された第1時間間隔で第1液体流路120を通って流れ、次いで、選択された第2時間間隔で第2液体流路130を通って流れる。
【0067】
あるいは、制御部60は、液体冷却剤流の性質の判定に使用可能なセンサデータを含む信号を受信する。例えば、フィルタ装置110は、液体冷却剤流路120,130沿いに位置する圧力センサ、吸入路118および排出路119内のセンサ、および/または第1液体冷却剤槽40内のセンサと、フィルタ装置の排液路119に接続された噴射装置の入力部におけるセンサと、を含む。
【0068】
例えば、制御部60は、フィルタ部分113,115に閉塞が起きているか否かを判定し、その判定に応じて、ダイバータ111,112と、加熱要素114,116と、を動作させるように構成されてもよい。例えば、フィルタの入力部118と噴射装置の入力部との圧力差が選択された閾値を超えている場合は、第1フィルタ部分113内の固形混入物が飽和量に近く、液体冷却剤流路120内に顕著な閉塞が生じていることを示す。そのため、制御部60は、閉塞状態が存在すると判定し、ダイバータ111,112を制御して液体を第1液体流路120から迂回させて、第2フィルタ部分115を経て第2液体流路130のみを通すようにする。第1液体流路120と第1フィルタ部分113とを通過する液体冷却剤は存在しないため、第1フィルタ部分113は、周囲温度により(かつ、冷たい液体冷却剤が内部を流れていないため)自然に温度が上昇するか、または、例えば、融解および/または気化により固形混入物を除去するために、加熱要素114を制御する制御部60により加熱される。固形混入物が除去されると、ダイバータ111,112は、一度に液体流路120,130の両方または一方のみを通して液体冷却剤を戻すように作動する。
【0069】
さらなるオプションとして、フィルタ部分113,115の温度の検出が含まれてもよい。フィルタが混入物で「目詰まり」すると、フィルタ部分113,115の局所温度が高まる場合があり、目詰まり状態になる。この状態は、熱電対などの温度センサにより検出され、センサ信号を介して制御部60に報告されることができる。制御部60は、この受信したセンサ信号に基づいて、フィルタ部分113,115を交替させる必要があると判定する。
【0070】
いくつかの例では、制御部60は、フィルタ部分113,115の温度上昇を起こすために、フィルタ110を通る液体冷却剤の流量を下げるように構成されてもよい。
【0071】
図5の実施形態では、フィルタ部分113,115は、固形混入物を捕獲するが、液体冷却剤は通過させることが可能な銅メッシュである。銅メッシュは、導電性であるため有用であり、加熱部114,116が液体冷却剤流路の外側に設置され得る誘導コイルとしても所望の加熱効果を得ることを可能にする。フィルタ部分113,115が交替すると、非稼働のフィルタ部分は、「目詰まり」して、大量の固形混入物を溜め込む恐れがある。加熱部114,116により、銅メッシュが加熱されることで固形混入物を気化または融解させることができる。気化または融解した混入物は、圧力解放弁を用いてフィルタ110から放出され得る。
【0072】
固形混入物を除去する加熱処理の利用に加えて、フィルタは、例えば、各液体冷却剤流路120,130内にUベンド管を含んでもよい。これにより、水などの完全には気化しない液体が、蓄積して液体冷却剤流により運ばれることから抑制され、スプリットサイクル内燃エンジン装置100,200が損傷を受ける恐れが軽減される。Uベンド管は、バルブをさらに含んでもよい。このバルブは、例えば、制御部60の動作またはユーザにより選択された間隔で、Uベンド管を排水できるように構成される。
【0073】
別の実施形態では、前述の加熱手段とは異なる加熱手段が使用され得る。この手段では、フィルタ部分113,115を加熱するために、スプリットサイクルエンジン100,200の排気ガスから回収した熱を使用することが含まれてもよい。これには追加の加熱システムを要しないという利点があり、また回収熱を利用するため、より効率的である。周辺装置の発熱次第で、フィルタ部分113,115は、能動的加熱装置を要することなく簡単に周囲温度まで加温することができ、フィルタ110から固形混入物を取り除くにはこれで十分である。
【0074】
加熱手段に加えて、フィルタ部分113,115の材料が変更されてもよい。例えば、上記例における銅に代えて、フィルタ部分113,115をアルミニウムメッシュからなるものとしてもよく、この場合も誘導加熱により加熱されることができる。カーボンファイバなどの他の材料も使用可能である。
【0075】
図7は、
図1,2のスプリットサイクルエンジン装置に使用される、
図6a,6bにより説明および図示された液体冷却剤槽の別の構成を示す。液体冷却剤槽40,50は、例えば、冷凍処理を経て液相に圧縮された冷凍剤(例えば、液体窒素)などの液体冷却剤703を封入するように構成される断熱タンク701を含む。
図6a,6bに関連して前述したドライバなどのように、ドライバ29は、タンク701内に圧力差を生み出すように、タンク701の底に配置される。図示される例におけるドライバ29は、電流が流れるとき、ある一定の抵抗加熱を液体冷却剤にもたらすように構成される抵抗要素である。タンク701は、図面と関連して前述のとおり、フィルタ110と噴射装置14とを通る断熱ライン718を介して、
図1,2のエンジンなどのスプリットサイクルエンジン100の圧縮シリンダ10に接続される。
【0076】
断熱ライン718は、タンク内の液体冷却剤のレベルが低い場合でも液体冷却剤を抜き取ることができるように、タンク701の壁を貫通してタンク701の底に向かって下方に延在する。当然のことながら、断熱ライン718は、タンク701の内部では断熱される必要はないことが理解されよう。断熱ライン718は、バルブ705と、タンク701の充填用のガス帰還弁707と、を介してタンク701に接続される。タンク701は、タンク701内の圧力が危険レベルに達しないように、さらに2つの圧力解放弁709を有する。図示される例では、フィルタ装置110もまた2つの圧力解放弁711を有する。例えば、圧力解放弁709,711の一方は装置の標準動作圧に設定され、他方は標準動作圧より高いが最大安全動作圧よりは低い圧力に設定される。
【0077】
ある例では、
図7に示されるとおり、断熱ライン718は、例えば、バルブ705に近接した独立供給ライン722に接続されている。しかしながら、別の例では、断熱ライン718が供給ラインとして機能することもあることが理解されよう。
図7に示される例では、オプションのスプレバー720が断熱ライン718とタンク内の供給ライン722とに接続される。スプレバー720は、液体冷却剤(例えば、前述のレキュペレータ30から回収した回収液体冷却剤)をタンク701に保存された液体冷却剤703上にスプレ状に供給し、保存された液体冷却剤703を冷却する。
【0078】
図7に示されるタンク701は、トラップされた液体冷却剤が全く存在しないため、第1液体冷却剤槽40内の圧力が大気圧より低くならないように構成される。ある例では、例えば、ライン718上に2つのバルブが並列に配置され、一方が氷結した場合にトラップされた液体冷却剤が全く存在せず、かつ第1液体冷却剤槽40内の圧力が増えないようになっている。また、タンク701は、熱のリークパスの発生数を減らすようにされると共に、タンク701の底付近から液体冷却剤を取り出すように構成される。
【0079】
図8は、スプリットサイクルエンジン装置(例えば、前述のスプリットサイクルエンジン装置)の圧縮シリンダ内での(液体冷却剤の一例としての)水と液体窒素との導入に伴う仕事量と量との変化の仕方を示すグラフである。ポイントAでは、LN2も水も添加されない。Y軸上の開始点の交わりは、2つのグループからなる。Aの上方は、コンプレッサのストローク毎に圧縮されたパーセント量であり、液体窒素(LN2)の量が水の増加を示す各ラインに比例して増加する。いずれの場合も、圧縮シリンダ内に流入される空気の量は、一定である。
【0080】
Aの下方のグラフは、上記と同様の水とLN2の量との増加を表しているが、比仕事量がどのように変化するかを示す。特定されたポイントは、1回のストローク当たりの圧縮量は150%に達するが、液体窒素も水も添加されない場合はこのために必要な比仕事量は約65-70%でしかないポイントである。このポイントは、圧縮シリンダをエンジンから完全に切り離して、従来の6気筒エンジンと等量の比仕事量を生み出しつつ摩擦とポンプ損失とを低減する6気筒エンジンにとって重要なポイントになる。
【0081】
注目すべきは、上記ポイントでO2モル濃度が標準空気の65%に減少されている(標準条件下)ことである。負荷ポイントに応じて、燃料負荷の増大を助長するために、LN2の代わりに液体空気の使用か、または液体酸素の添加のいずれか行われることが望ましい。通常、過剰の酸素が存在するが、エンジンへの要求が大である場合に、酸素の添加量をより増やす必要があることもある。
【0082】
いくつかの実施形態では、圧縮シリンダ10内に吸引される空気は、先ず、中間冷却される。これにより空気の密度が増えるが、圧縮シリンダ10内の空気がより冷たくなるため(燃焼には非効率であるため)、熱損失が結果的に生じる。エンジンは、空気が圧縮シリンダ10に入る前に、流入空気が液体冷却剤の一方(例えば、水)と熱交換関係になり、圧縮シリンダ10内への噴射前に空気が冷却されて水が温められるように構成される。
【0083】
図9は、圧縮シリンダ内に吸引される空気の供給温度と、液体冷却剤として圧縮シリンダ内に噴射される水の供給温度と、を変えることによる影響を示す。
図9では、流入空気は、圧縮シリンダ10内に吸引される前に、冷却され、それにより水が温められる。より冷たい空気を供給することにより、空気密度が増して、圧縮シリンダ10内に送給される空気の量を増加させ得る。空気の量が増すことは酸素の量が増すことであり、燃焼にとって望ましい。
図9は、より冷たい空気、または、より高密度の空気を用いたときに、1回のストロークでより大きいパーセント量の作動流体が得られることを示す。
【0084】
圧縮シリンダ10内に供給する空気の量を増やすこと、および/または水を予備加温することの効果は、圧縮シリンダ10内の水の沸点を上昇させることである。これにより気化する前の水の熱吸収を増やすことが可能となる。
【0085】
図面全体を参照して、模式的機能ブロック図は、本明細書に記載されるシステムと装置との機能を示すために使用されていることが理解されよう。しかしながら、これらの機能は、前述のとおりに分割されていなくてもよく、また、前述の構造および後述の特許請求の範囲の構造以外のいかなる特定のハードウェアの構造を意味するものでもない。各図に示される1つ以上の要素の機能は、さらに2次分割可能、および/または本明細書の装置全体に分散可能である。ある実施形態では、各図に示される1つ以上の要素の機能は、1つの機能ユニットに統合されてもよい。
【0086】
2種または3種の液体冷却剤の使用を参照して説明したが、これは限定的なものとは見なされず、より多くの液体冷却剤が使用可能であることは本開示に照らして明らかである。さらに、これら液体冷却剤は、圧縮シリンダ10内に同時に噴射される前に事前混合されてもよく、別々に噴射されてもよい。制御部60は、要求内容とエンジンの熱力学的変数とに基づいて、冷却剤の混合物を判定する。例えば、制御部60は、圧縮シリンダ10に加えられる酸素の量を増やす必要があると判定すると、酸素を含有した冷却剤と他の冷却剤とを選択された割合(酸素の要求量が満たされる割合)で事前混合させる。
【0087】
冷却剤の事前混合を可能にするために、制御部60で制御可能な、液体冷却剤槽間の接続部が備えられてもよい。あるいは、噴射装置は2つの流体吸入路を含んでもよく、制御部60は、混合物中の冷却剤の選択された割合を満たすように、噴射装置内への各流体の流れを制御してもよい。したがって、冷却剤は、噴射前に選択比で混合物と事前混合されてもよい。この混合物の選択比は、制御部60により決定および制御可能である。
【0088】
いくつかの例では、1つ以上のメモリ素子は、本明細書に記載される操作を実行するために使用されるデータおよび/またはプログラム命令を格納することができる。本開示の実施形態は、プロセッサをプログラミングし、本明細書に記載および/または請求される方法の任意の1つ以上を実施し、および/または本明細書に記載および/または請求されるデータ処理装置を提供するように操作可能なプログラム命令を含む、有形の非一時的記憶媒体を提供する。
【0089】
本明細書で概説した諸機能と装置とは、論理ゲートのアセンブリなどの固定論理や、プロセッサにより実行されるソフトウェアおよび/またはコンピュータプログラム命令などのプログラマブルロジックを用いて実行されてもよい。他の種類のプログラマブルロジックは、プログラマブルプロセッサ、プログラマブルデジタル論理(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM))、電気的消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)、特定用途向け集積回路(ASIC)、または、任意の他の種類のデジタルロジック、ソフトウェア、コード、電子的命令、フラッシュメモリ、光ディスク、CD-ROM、DVD ROM、磁気カードまたは光カード、電子的命令の格納に適した他の種類の機械可読媒体、または、これらの任意の適当な組合せを含む。
【0090】
図面に示される実施形態は、単なる例示であり、本明細書に記載され、特許請求の範囲に示されたとおり、一般化されてもよく、除去されてもよく、または、交換されてもよい特徴を含むことが、前述の説明から理解されよう。本開示の観点で、本明細書に記載される装置と方法との他の例と変形例とは、当業者には明らかであろう。