(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20230203BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20230203BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20230203BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230203BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L27/06
C08L51/00
B32B27/36
B32B27/30 101
(21)【出願番号】P 2020500342
(86)(22)【出願日】2019-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2019001453
(87)【国際公開番号】W WO2019159600
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018025551
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 弘
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-043154(JP,A)
【文献】特開2010-106597(JP,A)
【文献】特開平09-136336(JP,A)
【文献】特開平10-278208(JP,A)
【文献】特開2017-205874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物であって、
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~100質量%;および
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~0質量%
からなり、ここで上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部;ならびに
(C)コアシェルゴム1~100質量部
を含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物であって、
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~99質量%;および
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~1質量%
からなり、ここで上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部;ならびに
(C)コアシェルゴム1~100質量部
を含み、
更に上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、
(D)ポリエステル系可塑剤1~250質量部
を含む、樹脂組成物。
【請求項3】
上記成分(D)ポリエステル系可塑剤の質量平均分子量が3100以上である、請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されたフィルム。
【請求項6】
表層側から順に、
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜、および
基材として請求項5に記載のフィルムの層を有する積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。更には、本発明は、耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物から形成された成形体またはフィルム、特に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜に好適なフィルム基材に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線により短時間で重合・硬化して、耐擦傷性などの諸特性に優れる塗膜を形成することができる。そのため、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料は、化粧シート、加飾フィルム、及びガラス飛散防止フィルムなどに多用されている。一方、活性エネルギー線、特に電子線はエネルギーが高いため、塗膜を形成するためのフィルム基材が黄色に変色するというという不都合があった。そこで、活性エネルギー線、特に電子線によりフィルム基材が黄色に変色するという不都合を解消する技術として、例えば、特許文献1~4などの提案がなされている。しかし、本発明者がこれらを追試したところ、十分に満足のできるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-068524号公報
【文献】特開2016-069598号公報
【文献】特開2016-182819号公報
【文献】特開2017-177496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐黄変性に優れた(活性エネルギー線、特に電子線により黄色に変色するという不都合が抑制された)熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
本発明の更なる課題は、好ましくは、耐黄変性、透明性に優れ、可塑剤の移行によるトラブルが抑制された熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の塗料により上記課題を達成できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明の諸態様は以下のとおりである。
[1].
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物であって、
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~100質量%;および
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~0質量%
からなり、ここで上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部;ならびに
(C)コアシェルゴム1~100質量部
を含む、熱可塑性樹脂組成物。
[2].
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物であって、
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~99質量%;および
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~1質量%
からなり、ここで上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部;ならびに
(C)コアシェルゴム1~100質量部
を含み、
更に上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、
(D)ポリエステル系可塑剤1~250質量部
を含む、樹脂組成物。
[3].
上記成分(D)ポリエステル系可塑剤の質量平均分子量が3100以上である、上記[2]項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4].
上記[1]~[3]項の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成された成形体。
[5].
上記[1]~[3]項の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されたフィルム。
[6].
表層側から順に、
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜、および
基材として上記[5]項に記載のフィルムの層を有する積層フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐黄変性に優れる。本発明の好ましい態様の熱可塑性樹脂組成物は、耐黄変性、透明性に優れ、可塑剤の移行によるトラブルが抑制されている。そのため、本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成された成形体は、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成される塗膜の基材として好適に用いることができる。さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物のフィルムは、その少なくとも一方の表面の上に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用いて塗膜を形成するためのフィルム基材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で用いた下記成分(D-1)の微分分子量分布曲線である。
【
図2】本発明のフィルムを用いた化粧シートの一例を示す断面の概念図である。
【
図3】後述の実施例における(vi)移行性1試験のD評価の場合の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「樹脂」の用語は、2以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。
【0010】
数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。更に数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。
【0011】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0012】
1.熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂;及び、(C)コアシェルゴムを含む。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましい態様の1つにおいて、(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂;(B)ポリ塩化ビニル系樹脂;及び、(C)コアシェルゴムを含む。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましい態様の他の1つにおいて、(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂;(B)ポリ塩化ビニル系樹脂;(C)コアシェルゴム;及び、(D)ポリエステル系可塑剤を含む。
【0013】
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂
上記成分(A)の非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂は、高い透明性、光沢性を有し、エンボス加工性や耐衝撃性に優れるという特長を有する。また上記成分(B)~(D)との混和性に優れている。上記成分(A)は、好ましくは非晶性ポリエステル系樹脂である。上記成分(A)は、より好ましくは非晶性芳香族ポリエステル系樹脂である。
【0014】
本明細書では、示差走査熱量計を使用し、320℃で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で-50℃まで冷却し、-50℃で5分間保持した後、20℃/分の昇温速度で320℃まで加熱するというプログラムで測定される最後の昇温過程の曲線(セカンド融解曲線)における融解熱量が、5J/g以下のポリエステルを非結晶性;5J/gを超えて通常60J/g以下、好ましくは40J/g以下、より好ましくは20J/g以下、更に好ましくは15J/g以下、最も好ましくは12J/g以下のポリエステルを低結晶性と定義する。示差走査熱量計としては、例えば、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用することができる。
【0015】
上記非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂としては、非晶性又は低結晶性を有する限りは特に限定されないが、例えば、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸などの多価カルボン酸と、脂肪族多価オール、芳香族多価オールなどの多価オールとの共重合体を挙げることができる。
【0016】
本明細書では、多価カルボン酸に由来する構成単位として、芳香族多価カルボン酸に由来する構成単位を主として含む(多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上含む)ポリエステルを芳香族ポリエステルと定義する。
【0017】
上記芳香族多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;及び、これらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。上記脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、及びエイコサンジカルボン酸などの鎖状の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、及びノルボルナンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;及び、これらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。上記多価カルボン酸としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0018】
上記脂肪族多価オールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4,-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、及びスピログリコール(3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの脂肪族ジオール;及び、これらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。
上記芳香族多価オールとしては、例えば、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族多価オール;及び、これらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。上記多価オールとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0019】
上記非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂としては、例えば、それぞれ、多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、および多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、(1)テレフタル酸に由来する構成単位90~100モル%、ならびに(2)エチレングリコールに由来する構成単位60~80モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位20~40モル%、およびジエチレングリコールに由来する構成単位0~10モル%を含むグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG);(1)テレフタル酸に由来する構成単位90~100モル%、ならびに(2)エチレングリコールに由来する構成単位20~60モル%、典型的には32~42モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位40~80モル%、典型的には58~68モル%、およびジエチレングリコールに由来する構成単位0~10モル%を含むグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PCTG);(1)テレフタル酸に由来する構成単位50~99モル%、およびイソフタル酸に由来する構成単位1~50モル%、ならびに(2)1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位90~100モル%を含む酸変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCTA);(1)テレフタル酸に由来する構成単位90~100モル%、およびイソフタル酸に由来する構成単位0~10モル%、ならびに(2)1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位50~90モル%、および2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールに由来する構成単位10~50モル%を含む共重合体;(1)テレフタル酸に由来する構成単位60~90モル%、およびイソフタル酸に由来する構成単位10~40モル%、ならびに(2)エチレングリコールに由来する構成単位70~96モル%、ネオペンチルグリコールに由来する構成単位4~30モル%、ジエチレングリコールに由来する構成単位1モル%未満、およびビスフェノールAに由来する構成単位1モル%未満を含む酸変性及びグリコール変性ポリエチレンテレフタレートなどを挙げることができる。
【0020】
上記非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0021】
上記非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、耐黄変性、及び上記成分(B)との混和性の観点から、通常50~140℃、好ましくは60~120℃、より好ましくは70~110℃、更に好ましくは75~105℃であってよい。
【0022】
本明細書においてガラス転移温度は、JIS K7121-1987に従い、示差走査熱量計を使用し、250℃で3分間保持し、10℃/分で20℃まで冷却し、20℃で3分間保持し、10℃/分で250℃まで昇温するプログラムで測定される最後の昇温過程の曲線から算出した中間点ガラス転移温度である。示差走査熱量計としては、例えば、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用することができる。
【0023】
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂
上記成分(B)として用い得るポリ塩化ビニル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体);塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの塩化ビニル系共重合体;後塩素化ビニル共重合体等のポリ塩化ビニルや塩化ビニル系共重合体を改質(塩素化等)したものなどを挙げることができる。更には塩素化ポリエチレン等の、化学構造がポリ塩化ビニルと類似する塩素化ポリオレフィンを用いてもよい。これらの中で、耐黄変性の観点から、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体)が好ましい。上記成分(B)のポリ塩化ビニル系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中における上記成分(A)の非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)のポリ塩化ビニル系樹脂との配合割合は、(上記成分(B)が用いられる場合)上記成分(A)と上記成分(B)との和を100質量%として、耐黄変性の観点から、上記成分(A)が通常1質量%以上(上記成分(B)99質量%以下)、好ましくは20質量%以上(上記成分(B)80質量%以下)、より好ましくは40質量%以上(上記成分(B)60質量%以下)、更に好ましくは60質量%以上(上記成分(B)40質量%以下)、最も好ましくは80~100質量%(上記成分(B)20~0質量%以下)であってよい。一方、上記成分(A)の非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)のポリ塩化ビニル系樹脂との配合割合は、樹脂組成物のカレンダーロール圧延製膜性の観点から、上記成分(A)が通常99質量%以下(上記成分(B)1質量%以上)、好ましくは90質量%以下(上記成分(B)10質量%以上)、より好ましくは70質量%以下(上記成分(B)30質量%以上)、更に好ましくは50質量%以下(上記成分(B)50質量%以上)、最も好ましくは1~30質量%(上記成分(B)99~70質量%以下)であってよい。
【0025】
(C)コアシェルゴム
上記成分(C)のコアシェルゴムは、樹脂組成物のカレンダーロール圧延製膜性を良好にする働きをする。
【0026】
上記成分(C)のコアシェルゴムとしては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/スチレン・ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/スチレン・ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/エチレン・プロピレンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、及びメタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などを挙げることができる。これらの中で、耐黄変性、耐候性の観点から、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、及びメタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などの、(メタ)アクリル酸エステルゴムに(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、スチレンなどがグラフト共重合されたアクリル系コアシェルゴムが好ましい。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を意味する。上記成分(C)のコアシェルゴムとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0027】
上記成分(C)のコアシェルゴムの配合量は、上記成分(A)と上記成分(B)との和を100質量部として、耐候性、及びカレンダーロール圧延製膜性の観点から、通常1質量部以上、好ましくは4質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であってよい。一方、上記成分(C)のコアシェルゴムの配合量は、透明性の観点から、通常100質量部以下、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下であってよい。
一態様において、上記成分(C)のコアシェルゴムの配合量は、上記成分(A)と上記成分(B)との和を100質量部として、通常1質量部以上100質量部以下、好ましくは、1質量部以上60質量部以下、1質量部以上40質量部以下、1質量部以上20質量部以下、4質量部以上100質量部以下、4質量部以上60質量部以下、4質量部以上40質量部以下、4質量部以上20質量部以下、7質量部以上100質量部以下、7質量部以上60質量部以下、7質量部以上40質量部以下、7質量部以上20質量部以下、10質量部以上100質量部以下、10質量部以上60質量部以下、10質量部以上40質量部以下、または10質量部以上20質量部以下であってよい。
【0028】
(D)ポリエステル系可塑剤
上記成分(D)のポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-へキサンジオール、1,6-へキサンジオール、及びネオペンチルグリコールなどの1種又は2種以上の混合物を用い、多価カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸などの1種又は2種以上の混合物を用い、所望により一価アルコール、モノカルボン酸などをストッパーに使用して得られたポリエステル系可塑剤を挙げることができる。上記成分(D)のポリエステル系可塑剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0029】
上記成分(D)のポリエステル系可塑剤のゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略すことがある。)により測定した微分分子量分布曲線(以下、「GPC曲線」と略すことがある。)から求めたポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)は、可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点、及び耐黄変性の観点から、通常3100以上、好ましくは3500千以上、より好ましくは4000以上、更に好ましくは4500以上、最も好ましくは5000以上であってよい。可塑剤の移行によるトラブルを抑止する観点からは、質量平均分子量は大きいほど好ましい。一方、可塑剤の可塑化効率の観点から、質量平均分子量は通常10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは1万以下であってよい。
一態様において、上記成分(D)のポリエステル系可塑剤の質量平均分子量は、通常3100以上10万以下、好ましくは、3100以上5万以下、3100以上1万以下、3500千以上10万以下、好ましくは、3500以上5万以下、3500以上1万以下、4000千以上10万以下、好ましくは、4000以上5万以下、4000以上1万以下、4500千以上10万以下、好ましくは、4500以上5万以下、4500以上1万以下、5000千以上10万以下、好ましくは、5000以上5万以下、または5000以上1万以下であってよい。
【0030】
GPCの測定は、システムとして東ソー株式会社の高速液体クロマトグラフィーシステム「HLC-8320」(商品名)(デガッサー、送液ポンプ、オートサンプラー、カラムオーブン及びRI(示差屈折率)検出器を含むシステム)を使用し;GPCカラムとしてShodex社のGPCカラム「KF-806L」(商品名)を2本、「KF-802」(商品名)及び「KF-801」(商品名)各1本の合計4本を、上流側からKF-806L、KF-806L、KF-802、及びKF-801の順に連結して使用し;和光純薬工業株式会社の高速液体クロマトグラフ用テトラヒドロフラン(安定剤不含)を移動相として;流速1.0ミリリットル/分、カラム温度40℃、試料濃度1ミリグラム/ミリリットル、及び試料注入量100マイクロリットルの条件で行うことができる。各保持容量における溶出量は、測定試料の屈折率の分子量依存性が無いと看做してRI検出器の検出量から求めることができる。また保持容量からポリスチレン換算分子量への較正曲線は、アジレントテクノロジー(Agilent Technology)株式会社の標準ポリスチレン「EasiCal PS-1」(商品名)(Plain Aの分子量6375000、573000、117000、31500、3480;Plain Bの分子量2517000、270600、71800、10750、705)を使用して作成することができる。解析プログラムは、東ソー株式会社の「TOSOH HLC-8320GPC EcoSEC」(商品名)を使用することができる。なお、GPCの理論及び測定の実際については、共立出版株式会社の「サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー、著者:森定雄、初版第1刷1991年12月10日」などの参考書を参照することができる。
なお、後述の実施例で用いたポリエステル系可塑剤の質量平均分子量も、この方法で得ることができる。
【0031】
図1に実施例で用いた下記成分(D-1)の微分分子量分布曲線を示す。分子量650、860、1100、及び1400にオリゴマー成分のピークトップ、分子量5500に主要成分のピークトップを有し、全体の質量平均分子量は5200、数平均分子量は2300である。
【0032】
上記成分(D)のポリエステル系可塑剤の配合量は、上記成分(B)100質量部に対して、耐ブロッキング性、及び可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点から、通常250質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、より更に好ましくは45質量部以下、最も好ましくは35質量部以下であってよい。一方、上記成分(D)のポリエステル系可塑剤の配合量の下限は、耐黄変性、耐候性、及びカレンダーロール圧延製膜性の観点から、通常1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、最も好ましくは20質量部以上であってよい。
一態様において、上記成分(D)のポリエステル系可塑剤の配合量は、上記成分(B)100質量部に対して、通常1質量部以上250質量部以下、好ましくは、1質量部以上150質量部以下、1質量部以上100質量部以下、1質量部以上60質量部以下、1質量部以上45質量部以下、1質量部以上35質量部以下、5質量部以上250質量部以下、5質量部以上150質量部以下、5質量部以上100質量部以下、5質量部以上60質量部以下、5質量部以上45質量部以下、5質量部以上35質量部以下、10質量部以上250質量部以下、10質量部以上150質量部以下、10質量部以上100質量部以下、10質量部以上60質量部以下、10質量部以上45質量部以下、10質量部以上35質量部以下、15質量部以上250質量部以下、15質量部以上150質量部以下、15質量部以上100質量部以下、15質量部以上60質量部以下、15質量部以上45質量部以下、15質量部以上35質量部以下、20質量部以上250質量部以下、20質量部以上150質量部以下、20質量部以上100質量部以下、20質量部以上60質量部以下、20質量部以上45質量部以下、または20質量部以上35質量部以下であってよい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、更に熱安定剤を含ませることが好ましい。上記熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、有機スズ化合物系、バリウム・亜鉛系、カルシウム・亜鉛系、及び鉛系の熱安定剤などを挙げることができる。これらの中で、耐黄変性の観点から、有機スズ化合物系の熱安定剤が好ましい。上記有機スズ化合物としては、例えば、ジオクチル錫メルカプト、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫バーサテート、及びジオクチル錫ステアレートなどのジオクチル錫系化合物;及び、ジメチル錫メルカプトなどのジメチル錫系化合物等を挙げることができる。上記熱安定剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。上記熱安定剤の配合量は、上記成分(B)100質量部に対して、耐黄変性の観点から、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であってよい。一方、上記安定剤のブリードアウトを抑制する観点から、通常10質量部以下、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下であってよい。
一態様において、上記熱安定剤の配合量は、上記成分(B)100質量部に対して、通常0.1質量部以上10質量部以下、好ましくは、0.1質量部以上7質量部以下、0.1質量部以上5質量部以下、0.5質量部以上10質量部以下、0.5質量部以上7質量部以下、0.5質量部以上5質量部以下、1質量部以上10質量部以下、1質量部以上7質量部以下、または1質量部以上5質量部以下であってよい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、所望により、本発明の目的に反しない限度において、上記成分(A)~(D)以外のその他の成分を更に含ませることができる。上記その他の成分としては、例えば、上記成分(A)~(C)以外の熱可塑性樹脂;上記成分(D)以外の可塑剤;酸化防止剤、耐候性安定剤、着色剤、滑剤、加工助剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、及び界面活性剤等の添加剤などを挙げることができる。
【0035】
上記成分(A)~(C)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体などを挙げることができる。
【0036】
上記成分(D)以外の可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、イタコン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤、エポキシ系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、テトラヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、イソソルバイドジエステル系可塑剤、ホスフェート系可塑剤、アゼライン酸系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニルテトラカルボン酸エステル系可塑剤、及び塩素系可塑剤などを挙げることができる。
【0037】
上記その他の成分としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0038】
上記その他の成分の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(A)、上記成分(B)、及び上記成分(C)の合計100質量部に対して、通常10質量部程度以下、あるいは0.01~10質量部程度であってよい。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、任意の溶融混練機を使用して、上記成分(A)、上記成分(C)、及び所望に応じて用いる任意成分を、同時に又は任意の順に上記溶融混練機に投入し、溶融混練することにより得ることができる。
【0040】
上記溶融混練機としては、加圧ニーダーやミキサーなどのバッチ混練機;一軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び異方向回転二軸押出機等の押出混練機;カレンダーロール混練機などを挙げることができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0041】
得られた組成物は、任意の方法でペレット化した後、任意の方法で任意の成形品に成形することができる。上記ペレット化はホットカット、ストランドカット、及びアンダーウォーターカットなどの方法により行うことができる。
【0042】
2.成形体
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成された成形体である。ここでの「成形体」に関する「熱可塑性樹脂組成物から形成された」なる表現は、その成形体の原料の一部または全部として当該熱可塑性樹脂組成物が用いられたことを指す。これは、本発明の熱可塑性樹脂組成物の硬化物を一部に含むか、またはこの硬化物を全部とする成形体と換言される。その形状は、特に限定されず、任意に設計され得る。
本発明の成形体は、通常は、成形体の表面の一部又は全部の上に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用いて塗膜を形成することが予定されている成形体である。本発明の成形体の塗膜形成箇所は、通常は、本発明の熱可塑性樹脂組成物により構成されている。
このような成形体としては、その形状や構成は特に限定されないが、例えば、表皮材として本発明の熱可塑性樹脂組成物を用い、芯材として任意の熱可塑性樹脂を用い、共押出成形して得られる複合成形体;本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成されたフィルムと任意の熱可塑性樹脂から形成されたフィルム、シート、又は板との積層体;該積層体を、真空成形、圧空成形、及びプレス成形などの熱成形により賦形して得られる複合成形体;及び、本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成されたフィルムを表皮材として金型内にインサートした後、任意の熱可塑性樹脂を芯材として射出する方法(フィルムインサート成形)で得られる複合成形体などを挙げることができる。
【0043】
3.フィルム
本発明のフィルムは、本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成されたフィルムである。本発明のフィルムは、フィルムの片面又は両面の上に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用いて塗膜を形成するためのフィルム基材として好適に用いることができる。
【0044】
本発明のフィルムは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用い、任意のフィルム製膜装置を使用して製膜することにより得ることができる。上記フィルム製膜装置としては、例えば、カレンダーロール圧延加工機、及び引巻取装置を備えるカレンダーロール圧延製膜装置;ならびに、押出機、Tダイ、及び引巻取装置を備えるTダイ製膜装置などを挙げることができる。
【0045】
上記カレンダーロール圧延加工機としては、例えば、直立型3本ロール、直立型4本ロール、L型4本ロール、逆L型4本ロール、及びZ型ロールなどを挙げることができる。上記押出機としては、例えば、一軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び異方向回転二軸押出機などを挙げることができる。上記Tダイとしては、例えば、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、及びコートハンガーダイなどを挙げることができる。
【0046】
本発明のフィルムは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用い、好ましくはカレンダーロール圧延製膜装置を使用して製膜することにより得ることができる。より好ましくはカレンダーロール圧延製膜装置を使用し、ロール温度160℃~200℃の条件で製膜することにより得ることができる。
【0047】
本発明のフィルムの厚みは、特に制限されないが、取扱性の観点から、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。一方、本発明のフィルムを含む物品の薄型化の要求に応える観点から、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下であってよい。
一態様において、当該フィルムの厚みは、通常20μm以上1000μm以下、好ましくは、20μm以上500μm以下、20μm以上200μm以下、50μm以上1000μm以下、50μm以上500μm以下、または50μm以上200μm以下であってよい。
【0048】
本発明の積層フィルムは、本発明のフィルム(本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム、典型的には本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムや本発明の非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂組成物からなるフィルム)の層を1層以上含む積層フィルムである。本発明の積層フィルムは、通常は、表層側から順に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用いて形成された塗膜、及び本発明のフィルムの層を有する。
【0049】
本発明の積層フィルムとしては、例えば、表層側から順に活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用いて形成された塗膜、及び本発明のフィルムの層を有する積層フィルムを挙げることができる。このような態様の積層フィルムにあっては、本発明のフィルムは透明なものであってもよく、不透明なものであってもよく、着色されたものであってもよい。本明細書において、「表層側」とは実使用状態において通常視認される面の側を意味する。「実使用状態」とは、例えば、化粧シートの場合には、化粧シートが各種物品の表面の化粧、加飾に用いられた状態をいう。
【0050】
本発明の積層フィルムとしては、例えば、表層側から順に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用い形成された塗膜、本発明のフィルムの層、印刷層、及び着色樹脂フィルムの層を有する積層フィルムを挙げることができる。このような態様の積層フィルムは化粧シート、加飾フィルムとして、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、モバイルフォン、及びパソコンなどの家電製品;飾り棚、収納箪笥、食器戸棚、及び机などの家具;あるいは床、壁、及び浴室などの建築部材の加飾化粧に好適に用いることができる。このような態様の積層フィルムにあっては、本発明のフィルムは透明なものが好ましい。
【0051】
本発明のフィルムの全光線透過率(JIS K7105:2011の5.5.2測定法Aに従い測定)は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上であってよい。全光線透過率は高いほど好ましい。全光線透過率は、JIS K7105:2011の5.5.2測定法Aに従い、例えば、日本分光株式会社の分光光度計「V-570」(商品名)を使用して測定することができる。
【0052】
上記積層フィルムにおける印刷層は、高い意匠性を付与するために設けるものであり、任意の模様を任意のインキと任意の印刷機を使用して印刷することにより形成することができる。
【0053】
上記印刷層は、直接又はアンカーコートを介して、上記着色樹脂フィルムの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、施すことができる。模様としては、ヘアライン等の金属調模様、木目模様、大理石等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、寄木模様、及びパッチワークなどを挙げることができる。
印刷インキとしては、バインダーに顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、及び硬化剤等を適宜混合したものを使用することができる。上記バインダーとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル・アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、及び酢酸セルロース系樹脂などの樹脂、及びこれらの樹脂組成物を使用することができる。また金属調の意匠を施すため、アルミニウム、錫、チタン、インジウム及びこれらの酸化物などを、直接又はアンカーコートを介して、上記着色樹脂フィルムの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、公知の方法により蒸着してもよい。
【0054】
上記積層フィルムにおける着色樹脂フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂;セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、及びアセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、及びスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどの含弗素系樹脂;その他、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンなどを挙げることができる。これらのフィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。また、上記着色樹脂フィルムは、これらの1種以上を2層以上積層した積層フィルムシートを包含する。
【0055】
図2は、本発明のフィルムを用いた化粧シートの一例を示す断面の概念図である。表層側から順に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用いて形成された塗膜1、透明な本発明のフィルムの層2、印刷層3、着色された熱可塑性樹脂フィルムの層4を有している。着色された熱可塑性樹脂フィルムの層4の印刷層3との貼合面とは反対側の面の上に、直接又はアンカーコートを介して粘着剤層又は接着剤層を形成してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
測定方法
(i)全光線透過率
JIS K7105:2011の5.5.2測定法Aに従い、日本分光株式会社の分光光度計「V-570」(商品名)を使用して、全光線透過率を測定した。
【0058】
(ii)耐黄変性
JIS Z8722:2009に従い、コニカミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d」(商品名)を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分を含む条件で、XYZ座標を測定し、これを換算することにより、処理前のL*a*b*座標を求めた。続いて、コバルト60を線源とするγ線の50KGyの照射を行った。照射後サンプルを恒温恒湿の条件下(温度23℃、相対湿度50%)で3日間静置した。これは、サンプルの着色黄変は照射後もしばらくは徐々に進行するので、色を安定化させるためである。上述の方法に従い、処理後のL*a*b*座標を求めた。処理前のL*a*b*座標と処理後のL*a*b*座標から、上記分光測色計内蔵の計算方法(ΔE*ab(CIE1976))を使用して色差(ΔE)を算出し、これによって耐黄変性を評価した。なお、L*a*b*座標については、コニカミノルタジャパン株式会社のホームページ(下記アドレス)などを参照することができる。
http://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/part1/07.html
【0059】
(iii)耐熱性
コバルト60を線源とするγ線の50KGyの照射を行い、照射後サンプルを恒温恒湿の条件下(温度23℃、相対湿度50%)で3日間静置した後、JIS Z8722:2009に従い、コニカミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d」(商品名)を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分を含む条件で、XYZ座標を測定し、これを換算することにより、熱処理前のL*a*b*座標を求めた。続いて、温度70℃(湿度制御は行わなかった)のギヤオーブン内で7日間処理し、更に恒温恒湿の条件下(温度23℃、相対湿度50%)で3日間静置した後、上述の方法に従い、熱処理後のL*a*b*座標を求めた。熱処理前のL*a*b*座標と熱処理後のL*a*b*座標から、上記分光測色計内蔵の計算方法(ΔE*ab(CIE1976))を使用して色差(ΔE)を算出し、これによって耐熱性を評価した。
【0060】
(iv)冷熱サイクル
コバルト60を線源とするγ線の50KGyの照射を行い、照射後サンプルを恒温恒湿の条件下(温度23℃、相対湿度50%)で3日間静置した。その後、JIS Z8722:2009に従い、コニカミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d」(商品名)を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分を含む条件で、XYZ座標を測定し、これを換算することにより、冷熱サイクル処理前のL*a*b*座標を求めた。続いて、温度50℃、相対湿度80%で2日間、温度10℃(湿度制御は行わなかった)で1日間、温度50℃、相対湿度80%で1日間処理するプログラムで冷熱サイクル処理を行い、更に恒温恒湿の条件下(温度23℃、50%相対湿度)で3日間静置した後、上述の方法に従い、冷熱サイクル後のL*a*b*座標を求めた。冷熱サイクル前のL*a*b*座標と冷熱サイクル後のL*a*b*座標から、上記分光測色計内蔵の計算方法(ΔE*ab(CIE1976))を使用して色差(ΔE)を算出し、これによって冷熱変化に対する耐性を評価した。
【0061】
(v)耐候性
コバルト60を線源とするγ線の50KGyの照射を行い、照射後サンプルを恒温恒湿の条件下(23℃、50%相対湿度)で3日間静置した。その後、JIS Z8722:2009に従い、コニカミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d」(商品名)を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分を含む条件で、XYZ座標を測定し、これを換算することにより、処理前のL*a*b*座標を求めた。続いて、JIS B7753:2007に規定されるスガ試験機株式会社のサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(SWOM)「サンシャインウェザーメーターS300」(商品名)を使用し、放射照度225W/m2(ガラス製フィルタの仕様は上記規格の表2の種類A、放射照度の区分は上記規格の表3の通常形)、120分毎に18分間の水噴霧、雰囲気温度43℃、ブラックパネル温度63℃、及び相対湿度50±5%の条件で2000時間処理し、更に恒温恒湿の条件下(温度23℃、50%相対湿度)で3日間静置した後、上述の方法に従い、処理後のL*a*b*座標を求めた。処理前のL*a*b*座標と処理後のL*a*b*座標から、上記分光測色計内蔵の計算方法(ΔE*ab(CIE1976))を使用して色差(ΔE)を算出し、これによって耐候性を評価した。
【0062】
(vi)移行性1
デンカ株式会社のABS樹脂「デンカABS GR‐2000」(商品名)100質量部とカーボンブラックのマスターバッチ(ABS樹脂ベース、カーボン50質量%)2質量部との混合物を用い、射出成型法により、1辺15cmの正方形、厚み2mmの樹脂板を得た。次に該樹脂板の面の中央にサンプル(フィルムをマシン方向8cm、横方向6cmの長方形に裁断したもの)を、更にサンプルの面の上にステンレス板(縦8cm、横6cmの長方形、厚み2mm)を、上から見たときサンプルとステンレス板とが略一致するように重ねた。続いて、ステンレス板の面の中央に1kgの錘を載せ、温度70℃(湿度制御は行わなかった)のギヤオーブン内で7日間処理を行った。処理後の上記樹脂板のサンプルとの接触箇所等を目視観察し、以下の基準で評価した。
図3は、D評価の場合の一例を示す写真である。
A:接触箇所に変化は全く認められなかった。
B:接触箇所と非接触箇所を比較すると僅かな変色が認められた。しかし光沢感を失った部分はなかった。
C:接触箇所は変色し、かつ光沢感を失った部分を生じた。
D:接触箇所は著しく変色し、かつ広範囲に光沢感を失った。霜降り状になった。
【0063】
(vii)移行性2
ABS樹脂の代わりに東洋スチレン株式会社のポリスチレン「トーヨースチロールHI H450」(商品名)を用いたこと以外は、上記(vi)と同様に移行性の評価を行った。
【0064】
使用した原材料
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂
(A-1)イーストマン ケミカル カンパニーの非晶性芳香族ポリエステル系樹脂「KODAR PETG GS1」(商品名):(1)テレフタル酸に由来する構成単位100モル%、ならびに(2)エチレングリコールに由来する構成単位66モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位31モル%、およびジエチレングリコールに由来する構成単位3モル%を含むグリコール変性ポリエチレンテレフタレート、ガラス転移温度81℃、融解熱量0J/g(DSCセカンド融解曲線に明瞭な融解ピークなし)。
(A-2)イーストマン ケミカル カンパニーの低結晶性芳香族ポリエステル系樹脂「EASTER PCTG 5445」(商品名):(1)テレフタル酸に由来する構成単位100モル%、ならびに(2)エチレングリコールに由来する構成単位35モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位63モル%、およびジエチレングリコールに由来する構成単位2モル%を含むグリコール変性ポリエチレンテレフタレート、ガラス転移温度85℃、DSCセカンド融解曲線における融解熱量11J/g。
【0065】
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂
(B-1)重合度800のポリ塩化ビニル単独重合体。
【0066】
(C)コアシェルゴム
(C-1)三菱ケミカル株式会社のコアシェルゴム(メタクリル酸メチル・スチレン/アクリル酸エチルゴムグラフト共重合体)「メタブレンW-300A」(商品名)
【0067】
(D)ポリエステル系可塑剤
(D-1)株式会社ADEKAのポリエステル系可塑剤「アデカサイザーPN-280」(商品名)。質量平均分子量(Mw)5200。
(D-2)株式会社ADEKAのポリエステル系可塑剤「アデカサイザーPN-446」(商品名)。質量平均分子量(Mw)5300。
(D-3)DIC株式会社のポリエステル系可塑剤「ポリサイザーW-4010」(商品名)。質量平均分子量(Mw)10000。
【0068】
(D’-1)株式会社ADEKAのポリエステル系可塑剤「アデカサイザーPN-7160」(商品名)。質量平均分子量(Mw)1200。
(D’-2)フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)。
【0069】
(E)任意成分
(E-1)株式会社ADEKAのジオクチル錫メルカプト系安定剤「アデカスタブ465」(商品名)。
(E-2)株式会社ADEKAの滑剤「アデカスタブLS-16」(商品名)。
(E-3)三菱ケミカル株式会社のアクリル系加工助剤「P-530A」(商品名)。
【0070】
例1~12
表1に示す配合(質量部)の諸成分を、同方向回転二軸押出機を使用し、ダイス出口樹脂温度160℃の条件で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。次に日本ロール製造株式会社の逆L型4本カレンダーロール圧延加工機と引巻取装置を備える製膜装置を使用し、第1ロール温度180℃、第2ロール温度180℃、第3ロール185℃、第4ロール180℃、及び引巻取速度60m/分の条件で、厚み80μmのフィルムを製膜した。このフィルムに対して上記試験(i)~(vii)を行った。結果を表1又は2に示す。なお、表中括弧内の数値は、上記成分(B)100質量部に対する配合量(質量部)である。
【0071】
【0072】
【0073】
これらの結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐黄変性、透明性に優れていることが分かった。また、本発明の好ましい熱可塑性樹脂組成物は、可塑剤の移行によるトラブルが抑制されていることが分かった。また、これらの熱可塑性樹脂組成物は、γ線照射後に行った耐熱性、冷熱サイクル、及び耐候性の試験結果も良好であった。
【符号の説明】
【0074】
1:活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料を用いて形成された塗膜
2:透明な本発明のフィルムの層
3:印刷層
4:着色された熱可塑性樹脂フィルムの層