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特許7220721不飽和結合を有する硫黄含有フルオロカーボン化合物を含むドライエッチングガス組成物及びそれを用いたドライエッチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】不飽和結合を有する硫黄含有フルオロカーボン化合物を含むドライエッチングガス組成物及びそれを用いたドライエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020552614
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019041824
(87)【国際公開番号】W WO2020085468
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2018202091
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】清水 久志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 惟人
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-013351(JP,A)
【文献】特表2016-529740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0148167(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2001-0010568(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含む堆積物または膜をエッチングするための、一般式(1):CxFySz(式中、x、y及びzは、2≦x≦5、y≦2x、1≦z≦2)で表され、不飽和結合を有している硫黄含有フルオロカーボン化合物を含むドライエッチングガス組成物。
【請求項2】
前記硫黄含有フルオロカーボン化合物が2,2,3,4,5,5-ヘキサフルオロ-2,5-ジヒドロチオフェン(CS)及びトリフルオロビニルトリフルオロメチルチオエーテル(CS)から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項3】
硫黄含有フルオロカーボン化合物を1~100vol%の量で含む、請求項1又は2に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項4】
前記硫黄含有フルオロカーボン化合物に加えて、O、O、CO、CO、NO、NO、SO及びSOからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸素含有化合物を含む、請求項1~3の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項5】
前記硫黄含有フルオロカーボン化合物に加えて、N、He、Ar、Ne及びXeからなる群から選ばれる少なくとも1種の不活性ガスを含む、請求項1~4の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングを行い、ケイ素を含む堆積物または膜をエッチングする工程を有するドライエッチング方法。
【請求項7】
前記ケイ素を含む堆積物または膜が、酸素及び/又は窒素を含む堆積物または膜である、請求項6に記載のドライエッチング方法。
【請求項8】
マスク材料に対して前記ケイ素を含む堆積物または膜を選択的にエッチングする工程を有する、請求項6または7に記載のドライエッチング方法。
【請求項9】
(a1)炭素を含むシリコン系膜、(a2)単結晶シリコン膜、(a3)アモルファスシリコン膜、(a4)多結晶シリコン膜(ポリシリコン膜)、(a5)シリコン酸窒化膜、(a6)アモルファスカーボン膜及び/又は(a7)フォトレジスト膜と、(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)シリコン窒化膜との積層構造体を、請求項1~5の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングすることによって、前記積層構造体中の(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)シリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程を含むドライエッチング方法。
【請求項10】
請求項9に記載のドライエッチング方法において、前記積層構造体が(b1)シリコン酸化膜及び(b2)シリコン窒化膜を含み、(b2)シリコン窒化膜に対して(b1)シリコン酸化膜のエッチングを選択的に行うドライエッチング方法。
【請求項11】
(a1)炭素を含むシリコン系膜、(a2)単結晶シリコン膜、(a3)アモルファスシリコン膜、(a4)シリコン窒化膜、(a5)シリコン酸窒化膜、(a6)アモルファスカーボン膜及び/又は(a7)フォトレジスト膜と、(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)多結晶シリコン膜(ポリシリコン膜)との積層構造体を、請求項1~5の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングすることによって、前記積層構造体中の(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)多結晶シリコン膜(ポリシリコン膜)を選択的にエッチングする工程を含むドライエッチング方法。
【請求項12】
請求項6~11の何れか1項に記載のドライエッチング方法において、Sを含むイオン又は活性種が生成するように請求項1~5の何れか1項に記載のエッチングガス組成物をプラズマ化してエッチングを行うドライエッチング方法。
【請求項13】
請求項6~11の何れか1項に記載のドライエッチング方法において、(b1)シリコン酸化膜及び(b2)シリコン窒化膜を同時にエッチング可能なプラズマ条件下で請求項1~5の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物によるエッチングを行うドライエッチング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄含有フルオロカーボン化合物を含むドライエッチングガス組成物及びそれを用いたドライエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の微細化や3D化に伴い、エッチング工程に対する要求は年々厳しくなってきている。特に、メモリ用途に代表されるSiOエッチングやSiOとSiNの積層構造体の一括エッチング、SiOとポリシリコン(poly-Si)の積層構造体の一括エッチングでは、スループット改善に向けた高速エッチング、対マスク高選択比、良好な加工形状(ネッキングやボーイングの抑制、垂直形状等)などのエッチング特性が要求される。
【0003】
不飽和結合を有している硫黄含有フルオロカーボン化合物を含むドライエッチングガス組成物について、特許文献1には、硫黄含有不飽和化合物(パーフルオロプロピレンスルフィド(CS))を用いたドライエッチング方法が記載されているが、特許文献1は、酸化ケイ素と窒化ケイ素とのエッチング除去の比率を特徴とする用途(SiO/SiN選択エッチング用途)に関し、酸化ケイ素及び窒化ケイ素をアモルファスカーボン層(ACL)に対して選択的にエッチングすることを特徴とする用途や、酸化ケイ素及び多結晶シリコンをアモルファスカーボン層(ACL)に対して選択的にエッチングすることを特徴とする用途について記載がない。特許文献2には、特定の硫黄含有化合物を用いたドライエッチング方法が記載されているが、いずれの硫黄含有化合物も飽和化合物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国特許10-0574923号(韓国出願公開10-2001-0010568号)
【文献】国際公開2015/0365381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、硫黄含有不飽和化合物を含む、シリコン系膜の積層構造体のエッチング用途に有用な新規なエッチングガス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のものが提供される。
[1]
一般式(1):CxFySz(式中、x、y及びzは、2≦x≦5、y≦2x、1≦z≦2)で表され、不飽和結合を有している硫黄含有フルオロカーボン化合物を含むドライエッチングガス組成物。
[2]
前記硫黄含有フルオロカーボン化合物が2,2,3,4,5,5-ヘキサフルオロ-2,5-ジヒドロチオフェン(CS)及びトリフルオロビニルトリフルオロメチルチオエーテル(CS)から選ばれる少なくとも一種である[1]に記載のドライエッチングガス組成物。
[3]
硫黄含有フルオロカーボン化合物を1~100vol%の量で含む、[1]又は[2]に記載のドライエッチングガス組成物。
[4]
前記硫黄含有フルオロカーボン化合物に加えて、O、O、CO、CO、NO、NO、SO及びSOからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸素含有化合物を含む、[1]~[3]の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物。
[5]
前記硫黄含有フルオロカーボン化合物に加えて、N、He、Ar、Ne及びXeからなる群から選ばれる少なくとも1種の不活性ガスを含む、[1]~[4]の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物。
[6]
[1]~[5]の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングを行い、ケイ素を含む堆積物または膜をエッチングする工程を有するドライエッチング方法。
[7]
前記ケイ素を含む堆積物または膜が、酸素及び/又は窒素を含む堆積物または膜である、[6]に記載のドライエッチング方法。
[8]
マスク材料に対して前記ケイ素を含む堆積物または膜を選択的にエッチングする工程を有する、[6]または[7]に記載のドライエッチング方法。
[9]
(a1)炭素を含むシリコン系膜、(a2)単結晶シリコン膜、(a3)アモルファスシリコン膜、(a4)多結晶シリコン膜(ポリシリコン膜)、(a5)シリコン酸窒化膜、(a6)アモルファスカーボン膜及び/又は(a7)フォトレジスト膜と、(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)シリコン窒化膜との積層構造体を、[1]~[5]の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングすることによって、前記積層構造体中の(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)シリコン窒化膜を選択的にエッチングする工程を含むドライエッチング方法。
[10]
[9]に記載のドライエッチング方法において、前記積層構造体が(b1)シリコン酸化膜及び(b2)シリコン窒化膜を含み、(b2)シリコン窒化膜に対して(b1)シリコン酸化膜のエッチングを選択的に行うドライエッチング方法。
[11]
(a1)炭素を含むシリコン系膜、(a2)単結晶シリコン膜、(a3)アモルファスシリコン膜、(a4)シリコン窒化膜、(a5)シリコン酸窒化膜、(a6)アモルファスカーボン膜及び/又は(a7)フォトレジスト膜と、(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)多結晶シリコン膜(ポリシリコン膜)との積層構造体を、[1]~[5]の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングすることによって、前記積層構造体中の(b1)シリコン酸化膜及び/又は(b2)多結晶シリコン膜(ポリシリコン膜)を選択的にエッチングする工程を含むドライエッチング方法。
[12]
[6]~[11]の何れか1項に記載のドライエッチング方法において、Sを含むイオン又は活性種が生成するように[1]~[5]の何れか1項に記載のエッチングガス組成物をプラズマ化してエッチングを行うドライエッチング方法。
[13]
[6]~[11]の何れか1項に記載のドライエッチング方法において、(b1)シリコン酸化膜及び(b2)シリコン窒化膜を同時にエッチング可能なプラズマ条件下で[1]~[5]の何れか1項に記載のドライエッチングガス組成物によるエッチングを行うドライエッチング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸化ケイ素及び窒化ケイ素を含む材料とアモルファスカーボン層(ACL)とのエッチング除去の比率が高いエッチングガス組成物が提供される。従って、本発明のエッチングガス組成物を使用することによって、アモルファスカーボン層をマスクとして酸化ケイ素及び窒化ケイ素を含む材料を正確にエッチングする方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】エッチング試験(1)の結果を示す図である。
図2】エッチング試験(1)の結果をACLのエッチングレートを基準として棒グラフとして示す図である。
図3】デポ膜評価試験の結果を示す図である。
図4】デポ膜評価試験で形成されたデポ膜の組成を示す図である。
図5】エッチング試験(2)の結果を示す図である。
図6】エッチング試験(2)の結果をACLのエッチングレートを基準として棒グラフとして示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明におけるドライエッチングガス組成物及びそれを用いたドライエッチング方法について詳細に説明する。本発明の範囲は以下に説明する範囲に拘束されることなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で変更することが可能である。
【0010】
本発明におけるドライエッチングガス組成物には、下記一般式(1)に示される不飽和結合を有している硫黄含有フルオロカーボン化合物を含む混合ガス、もしくはガス単体が包含される。
一般式(1):CxFySz
(式中、x、y及びzは、2≦x≦5、y≦2x、1≦z≦2)
【0011】
一般式(1)において、ドライエッチングガスの取り扱い易さの観点からx=2~4 、y=4~8、z=1を満たすものを用いることが好ましい。好適な化合物としては、例えば、
【化1】
2,2,3,4,5,5-ヘキサフルオロ-2,5-ジヒドロチオフェン(CS)、
【化2】
トリフルオロビニルトリフルオロメチルチオエーテル(CS)、
【化3】
1,1,2,3,4,5-ヘキサフルオロ-1,1-ジヒドロチオフェン(CS)、
【化4】
2,3-ビス(トリフルオロメチル)チイレン(CS)、
【化5】
3,3,3-トリフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-1-プロペン-1-チオン(CS)、
【化6】
2,2,3,3,4,5-ヘキサフルオロ-2,3-ジヒドロチオフェン(CS)、
【化7】
2,2,3,4,4-ペンタフルオロ-3-ブテンチオイルフルオリド(CS)、
【化8】
2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-プロパンチオイルフルオリド(CS)、
【化9】
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパンチオン(CS)、
【化10】
1,3,3,3-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-1-プロペン-1-スルフェニルフルオリド(CS)、
【化11】
1,1,1,3,3,4,4,4-オクタフルオロ-2-ブタンチオン(CS)、
【化12】
2,3,4,5-テトラフルオロチオフェン(CS)、
などが挙げられる。
【0012】
本発明におけるドライエッチングガス組成物では、一般式(1)に示される硫黄含有フルオロカーボン化合物の純度は95.0vol%~100.0vol%のものを使用することが好ましい。純度が99vol%以上のものを用いることがより好ましく、99.9vol%以上のものを用いることがさらに好ましい。含まれる不純物成分としてはN、O、CO、HO、HF、HCl、SO、CH等が挙げられるが、これらの不純物成分のうち、HO、HF、HCl、SOなどはガスを流通する経路を腐食する可能性が高いため、精製によって可能な限り除去することが好ましい。
【0013】
本発明におけるドライエッチングガス組成物では、一般式(1)に示される硫黄含有フルオロカーボン化合物をそのほかのフルオロカーボン(FC)ガスやヒドロフルオロカーボン(HFC)ガスと混合して使用することで、一般式(1)に示される化合物を混合しない場合に比べて、より非エッチング対象材料に対するエッチング対象材料の選択比を上げることが可能である。また、非エッチング対象材料によってパターニングされた構造をエッチングする場合においては、垂直加工精度も向上する。
【0014】
上記のような非エッチング対象材料によってパターニングされた構造において、エッチング対象材料がSiOなどの酸素を含むSi系材料の場合、一般式(1)に示される化合物を、CF、CHF、C、C、C、C、Cなどのエッチングガスと混合して用いることが、選択的なエッチング、垂直加工精度の良いエッチングには好ましい。特に、選択性の高さが要求されるような場合においては、Cの数の多いC、C、Cとの混合が好ましい。
【0015】
非エッチング対象材料によってパターニングされた構造において、エッチング対象材料がSiNなどの窒素を含むSi系材料の場合、一般式(1)に示されるガス化合物を、CHF、CH、CHFなどのHFCガスと混合してプラズマエッチングに用いることが、選択的なエッチング、垂直加工精度の良いエッチングには好ましい。特に、選択性の高さが要求されるような場合においては、Cの数が2以上のHFCガスを用いることも有効である。
【0016】
本発明におけるドライエッチングガス組成物では、一般式(1)に示される化合物が含まれる組成物に対して、O、O、CO、CO、NO、NO、SO及びSOからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸素含有化合物を添加することで、過剰なデポジション(堆積物)を抑制する、エッチング対象物のエッチングレートを向上させる、非エッチング対象材料に対するエッチング対象物の選択性を向上させるといった効果が得られる。
【0017】
本発明におけるドライエッチングガス組成物では、一般式(1)に示される化合物が含まれる組成物に対して、N、He、Ar、Ne及びXeからなる群から選ばれる少なくとも1種の不活性ガスを添加することができる。このうちHe、Ar、Xeを用いることが好ましい。
【0018】
本発明の方法で使用するエッチングガス組成物の例としては、以下のものが挙げられる。
(a)一般式(1)に示される化合物は、純度90vol%以上で実施することが出来、純度99vol%以上で実施することが好ましく、純度99.999vol%以上で実施することが特に好ましい。
(b)エッチングに用いられるドライエッチング組成物において、一般式(1)に示される化合物は、1~100vol%であることが好ましい。
(c)エッチングに用いられるドライエッチング組成物において、一般式(1)に示される化合物以外に、O、O、CO、CO、NO、NO、SO及びSOからなる酸素原子を含む化合物群から選択される少なくとも一つが含まれることが好ましく、特にOを用いることが好ましい。酸素原子を含む化合物の割合は、一般式(1)に示される化合物と酸素原子を含む化合物の総量に対して、5~80%であることが好ましく、10~65%であることが特に好ましい。
(d)エッチングに用いられるドライエッチング組成物において、一般式(1)に示される化合物と、上記酸素原子を含む化合物群に加えて/又はそれに代えて希ガスまたはNからなる不活性ガス群から選択される少なくとも一つが含まれることが好ましく、特にArを用いることが好ましい。エッチングガス組成物に含まれる不活性ガスの割合は、1~80vol%であることが好ましく、50~75vol%であることが特に好ましい。
【0019】
本発明におけるドライエッチングに用いるドライエッチング装置は、当該技術分野に用いられているものを特に制限なく利用できる。例えば、ヘリコン波方式、高周波誘導方式、並行平板タイプ方式、マグネトロン方式及びマイクロ波方式等の装置などが使用可能である。
【0020】
本発明におけるドライエッチング方法は、微細なSi系材料のパターンウエハの垂直加工を行うものであるため、エッチング装置は、イオンアシストエッチングに適した、低ガス圧力条件を再現できる真空容器を備えた装置である必要がある。低圧力条件においては、プラズマ中の粒子の直進性が上がり、基板に照射されるイオンも他の粒子に阻害されることなく基板に到達するため、基板に対して垂直に入射するイオンが増え、垂直加工には有利である。本発明におけるドライエッチング方法においては、エッチング時の真空容器内の圧力は100Torr~0.1mTorrに調節されていることが好ましく、100mTorr~0.1mTorrに調節されていることがさらに好ましい。
【0021】
本発明におけるドライエッチング方法においては、一般式(1)に示される化合物を気体としてエッチング装置の真空容器に導入することが好ましい。そのため、本発明におけるドライエッチング方法に用いるエッチング装置には一般式(1)に示される化合物を気体として導入し、さらに、その導入量を調節するための機構を備えていることが好ましい。また、この機構についは、本発明におけるプラズマエッチング方法が、一般式(1)に示されるガス化合物以外にも前述した別のガス化合物、例えば、O、Arなど、目的に応じて複数用いることが有効であるため、ガス導入、導入量を調節する機構も4つ以上備えていることが好ましい。
【実施例
【0022】
本実施例(エッチング試験(1)及び(2)、デポ膜評価試験)ではプラズマエッチング装置としてSAMCO社製平行平板タイプの容量結合プラズマエッチング装置を用いた。デポ膜の組成は、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)により決定した。
【0023】
シリコン酸化膜(SiOm)(mは自然数を表す。)としては、プラズマCVDによってシリコンウエハ上にSiO膜を1000nm堆積したものを使用した。シリコン窒化膜(SiN)としては、熱CVDによってシリコンウエハ上にSiN膜を300nm堆積したものを使用した。アモルファスカーボン膜(ACL)としては、プラズマCVDによってシリコンウエハ上にACLを400nm堆積したものを使用した。
ガスの流量は、温度(0℃)、圧力(1atm)を標準状態とするsccm(standard cc/min)で表現した。
【0024】
エッチング時のサンプル膜厚は光干渉式膜厚測定器で測定した。エッチング条件は下記表1と表3に示す。ガスのエッチングレートは、以下の式で算出した。
【数1】
【0025】
A/B選択比は、以下の式で算出した。
A/B選択比 = A膜のエッチングレート(nm/min) ÷ B膜のエッチングレート(nm/min)
【0026】
堆積膜(以下、「デポ膜」という。)の形成はベアシリコンウエハ上に行った。デポ膜の膜厚は走査型電子顕微鏡で測定した。デポ膜形成及びスパッタの条件は下記表2に示す。デポ膜形成速度とスパッタ速度は、以下の式で算出した。
【数2】
【数3】
【0027】
[エッチング試験(1)]
シリコンウエハ上にそれぞれSiO、SiN又はACLを堆積した異なる3つのサンプルを用いて表1に示す条件でエッチング試験を行った。エッチングガスには、比較例として硫黄を含まないパーフルオロシクロブテン(1,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1-シクロブテン(C)と、本発明の実施例として硫黄を含む2,2,3,4,5,5-ヘキサフルオロ-2,5-ジヒドロチオフェン(CS)を用いた。
【表1】
【0028】
試験結果を図1に示す。Arは常に40sccm(50%)流し、エッチングガスの量及び酸素(O)の量を変化させた。エッチングガスの量が20sccm、酸素の量が20sccmの場合に図1のグラフのO比が50%となり、この成分比から測定を始め、エッチングガスの量が14sccm、酸素の量が26sccmの図1のグラフのO比が65%となるエッチングガスの濃度まで増加させた。
【0029】
ACLは炭素から構成されるので、実施例及び比較例のいずれにおいてもOの濃度が増加するに従ってエッチングレートが増大した。一方、実施例のエッチングガス(CS)はO比の増加とともにSiOのエッチングレートが急激に増加しO比が55%(エッチングガスの量が18sccm、酸素の量が22sccm)の時点でSiOのエッチングレートが最大(ほぼ70nm/min)となるが、比較例ではO比の増加とともにエッチングレートがゆるやかに増加しO比が65%(エッチングガスの量が14sccm、酸素の量が26sccm)でほぼ最大(ほぼ70nm/min)となることがわかった。また、実施例のエッチングガス(CS)はO比の増加とともにSiNのエッチングレートがゆるやかに増加しO比が65%でほぼ最大(ほぼ55nm/min)となるが、比較例ではO比の増加とともにSiNのエッチングレートがさらにゆるやかに増加し、比較例ではO比が65%でもSiNのエッチングレートは40nm/min未満であることがわかった。
【0030】
実施例と比較例とで得られた結果について、ACLのエッチングレートを基準にSiOとSiNのエッチングレートを評価した。その結果を図2に示す。図2からわかるように、比較例では、O比が55%の比較的低い酸素濃度のとき(エッチングガスの量が18sccm、酸素の量が22sccm)にはSiOのエッチングレートのみが高く、SiOをSiN及びACLに対して選択的にエッチングできる一方、本発明の実施例では、O比が55%の比較的低い酸素濃度のとき(エッチングガスの量が18sccm、酸素の量が22sccm)にはSiOのエッチングレートがさらに高く、そしてSiNのエッチングレートも高いので、SiOとSiNの両方をACLよりも高いエッチングレートでエッチングできることが分かった。また、O比が65%を超える場合には、実施例と比較例との間にエッチングレートの差がなくなることもわかった。
【0031】
以上の結果から、硫黄を含むエッチングガスを使用する本発明の実施例と、硫黄を含まないエッチングガスを使用する比較例の間にはエッチングの挙動に顕著な相違があることがわかった。本発明の新規なエッチング挙動を利用することによって、高速エッチングと対マスク材料高選択性の両立を行うことができることがわかった。本実施例は比較例に対して有意な差をもってSiO及び/又はSiNをACLに対して選択的にエッチングすることができる。また、本発明のエッチングガスと従来のエッチングガスとを併用することによって、SiOとSiNのエッチングレートの差分を変動することができ、より精密なエッチングが可能となる。
【0032】
[デポ膜評価試験]
エッチングガスで対象をエッチングすることと、エッチングガスの分解物が堆積することは、競争関係にあり、エッチングの際には他方でそのような堆積物が形成される。比較例として硫黄を含まないパーフルオロシクロブテン(1,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1-シクロブテン(C)と、本発明の実施例として硫黄を含む2,2,3,4,5,5-ヘキサフルオロ-2,5-ジヒドロチオフェン(CS)を用いて、以下の表2に示す条件でエッチングガスの堆積物を形成し、Arスパッタによって堆積物の除去処理の容易性を評価した。
【0033】
【表2】
【0034】
デポ膜評価試験の結果を図3及び図4に示す。デポジションレート及びスパッタレートのいずれもが、比較例よりも本発明の実施例の方が低かったが、スパッタレート(SR)とデポジションレート(DR)との比(SR/DR)は本発明の実施例の方が低かったので、本発明の実施例の方が堆積し易くスパッタされにくいことがわかった。このような本発明の特徴は、図4に示す堆積膜の組成において硫黄が検出されていることから、硫黄含有膜に起因すると考えられる。この試験結果から、本発明のエッチングガスは、SiO、SiNなどのシリコンウエハ上の堆積層をエッチングする一方で、除去されにくい堆積膜を形成することができることがわかった。このような本発明の新規な挙動は、例えば、エッチング時の側壁保護やマスク材料の保護などに有用である。
【0035】
[エッチング試験(2)]
シリコンウエハ上にそれぞれSiO、SiN又はACLを堆積した異なる3つのサンプルを用いて表3に示す条件でエッチング試験を行った。エッチングガスには、比較例として硫黄を含まないパーフルオロプロペン(1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロペン(C)と、本発明の実施例として硫黄を含むトリフルオロビニルトリフルオロメチルチオエーテル(CS)を用いた。
【表3】
【0036】
試験結果を図5に示す。Arは常に50sccmの量で流し、エッチングガスは常に20sccmの量で流し、酸素(O)の量(sccm)を変化させた。酸素の量がエッチングガス(x)と酸素(y)の合計(x+y)に対して20%を超えるあたりからACLのエッチングが始まった。
【0037】
実施例のエッチングガス(CS)はO比の増加とともにSiOのエッチングレートが急激に増加しO比が25%付近でSiOのエッチングレートが最大(ほぼ70nm/min)となるが、比較例(C)ではO比が増加してもSiOのエッチングレートがほとんど増加せずO比が20%を超えるあたりから急激に増加した。また、実施例のエッチングガス(CS)はO比の増加とともにSiNのエッチングレートがゆるやかに増加しO比が30%を超えるあたりでほぼ最大(ほぼ55nm/min)となるが、比較例ではO比が増加してもSiNのエッチングレートがほとんど増加せずO比が20%を超えるあたりから急激に増加した。
【0038】
実施例と比較例とで得られた結果について、ACLのエッチングレートを基準にSiOとSiNのエッチングレートを評価した。その結果を図6に示す。図6からわかるように、比較例では、O比が20%以下の比較的低い酸素濃度のときにはSiO、SiN、ACLのいずれのエッチングレートも低いのに対して、本発明の実施例では、O比が20%以下の比較的低い酸素濃度のときにはSiO、SiNのいずれのエッチングレートも非常に高いので、SiOとSiNの両方をACLよりも高いエッチングレートでエッチングできることが分かった。また、O比が30%を超える場合には、実施例と比較例との間にエッチングレートの差がなくなることもわかった。
【0039】
以上の結果から、エッチング試験(2)においても、エッチング試験(1)と同様に硫黄を含むエッチングガスを使用する本発明の実施例と、硫黄を含まないエッチングガスを使用する比較例の間にはエッチングの挙動に顕著な相違があることがわかった。即ち、本発明の新規なエッチング挙動を利用することによって、高速エッチングと対マスク材料高選択性の両立を行うことができることがわかった。本実施例は比較例に対して有意な差をもってSiO及び/又はSiNをACLに対して選択的にエッチングすることができる。また、本発明のエッチングガスと従来のエッチングガスとを併用することによって、SiOとSiNのエッチングレートの差分を変動することができ、より精密なエッチングが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6