(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】リン含有化合物、それらのエポキシ樹脂、およびそれらの積層複合構造体
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6574 20060101AFI20230203BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20230203BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20230203BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230203BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230203BHJP
【FI】
C07F9/6574 A CSP
C08G59/40
B32B15/092
B32B27/18 B
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021068399
(22)【出願日】2021-04-14
【審査請求日】2021-04-15
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595009383
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANG CHUN PLASTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7F., No.301, Songkiang Rd., Zhongshan Dist Taipei City,Taiwan 104
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】杜安邦
(72)【発明者】
【氏名】王炳傑
(72)【発明者】
【氏名】陳嘉祈
(72)【発明者】
【氏名】高俊雄
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088600(JP,A)
【文献】台湾特許公告第000643881(TW,B)
【文献】特開2013-040270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/02- 9/6596
C08G 59/00- 59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
のリン含有化合物であって、
Xは、6~30個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基、または1~8個の炭素原子を有する二価直鎖もしくは分岐型アルキレン基であり、
R
Aは、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル基、ナフチル基、および6~10個の炭素原子を有する芳香族フェノール基からなる群から選択され、
wの平均値は1~9であり、
R
1、R
2、R
3、およびR
4は、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択され、
R
5は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基、およびAr
3からなる群から選択され、
A
r1およびA
r2は、
【化2】
からなる群から独立に選択され、
ここで、Ar
3は、
【化3】
からなる群から選択され、
ここで、R
6およびR
7は、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択され、
mおよびnは、独立に0~3の整数であり、かつ、m+nは5未満であり、
R
8は共有結合であるか、または-CH
2-、-(CH
3)
2C-、-CO-、-SO
2-、および-O-からなる群から選択され、
R
9は共有結合であるか、または-(CH
2)
p-であり、ここで、pは、1~20の整数であり、かつ、
zは1である、ことを特徴とする、
リン含有化合物。
【請求項2】
R
1、R
2、R
3、およびR
4は水素原子であり、R
5はメチルであり、かつA
r1およびA
r2は二価フェニレン基であることを特徴とする、請求項1に記載のリン含有化合物。
【請求項3】
Xは6~10個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリン含有化合物。
【請求項4】
Xは6~8個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基であることを特徴とする、請求項3に記載のリン含有化合物。
【請求項5】
Xは二価非置換芳香族炭化水素基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリン含有化合物。
【請求項6】
R
Aは、フェノール基、o-クレゾール基、m-クレゾール基、p-クレゾール基、および1-ナフトール基からなる群から選択される芳香族フェノール基であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリン含有化合物。
【請求項7】
R
Aは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリン含有化合物。
【請求項8】
R
Aは、1または2個の炭素原子を有するアルキル基であることを特徴とする、請求項7に記載のリン含有化合物。
【請求項9】
R
Aは非置換アルキル基であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリン含有化合物。
【請求項10】
R
1、R
2、R
3、およびR
4は水素原子であり、R
5はメチルであり、A
r1およびA
r2は二価フェニレン基であり、Xは二価非置換芳香族炭化水素基であり、かつ、R
Aは1個の炭素原子を有するアルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載のリン含有化合物。
【請求項11】
(a)エポキシ樹脂、および、
(b)請求項1乃至10のいずれか一項に記載のリン含有化合物、を含む、
エポキシ硬化樹脂。
【請求項12】
エポキシ硬化樹脂のガラス転移温度は170℃を超えることを特徴とする、請求項11に記載のエポキシ硬化樹脂。
【請求項13】
前記ガラス転移温度は200℃以上であることを特徴とする、請求項12に記載のエポキシ硬化樹脂。
【請求項14】
エポキシ硬化樹脂の誘電率は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に3.02以下であることを特徴とする、請求項11乃至13のいずれか一項に記載のエポキシ硬化樹脂。
【請求項15】
エポキシ硬化樹脂の誘電正接は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.014以下であることを特徴とする、請求項11乃至14のいずれか一項に記載のエポキシ硬化樹脂。
【請求項16】
(a)ガラス繊維織物、
(b)エポキシ樹脂、
(c)銅箔、および
(d)請求項1乃至10のいずれか一項に記載のリン含有化合物、を含む、
積層複合構造体
であって、
前記積層複合構造体は、エポキシ硬化樹脂を含浸させた前記ガラス繊維織物(a)を有する繊維織物を前記銅箔(c)と積層することによって得られ、
前記エポキシ硬化樹脂は、前記エポキシ樹脂(b)と前記リン含有化合物(d)とを含むことを特徴とする、積層複合構造体。
【請求項17】
R
Aは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であり、R
1、R
2、R
3、およびR
4は水素原子であり、R
5はメチルであり、かつA
r1およびA
r2は二価フェニレン基であることを特徴とする、請求項16に記載の積層複合構造体。
【請求項18】
積層複合構造体の誘電率は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に4.6以下であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の積層複合構造体。
【請求項19】
積層複合構造体の誘電正接は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.015以下であることを特徴とする、請求項16乃至18のいずれか一項に記載の積層複合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リン含有化合物、それらのエポキシ樹脂、およびそれらの積層複合構造体を対象とする。
【背景技術】
【0002】
良好な溶媒耐性、優れた機械的強度、および電気絶縁性などのために、エポキシ樹脂は広く使用されている。例えば、エポキシ樹脂は、塗料、電気絶縁材、プリント積層基板および電子回路実装材、建設・建築材、接着剤、およびナビゲーション技術に適用される場合が多い。しかしながら、エポキシ樹脂は、熱抵抗が不十分な場合があり、燃えやすいため、エポキシ樹脂の使用にかなりの制限を課し得る。
【0003】
高性能のネットワーク信号通信機器の開発によって、高速伝送のための多数の信号を処理するために、オペレーション信号は高速かつ高周波数伝送に向かっている。上記の目的を達成するために、信号通信装置のプリント基板の材料は、信号の高周波数伝達の必要を満たすために良好な誘電能(低誘電率および低誘電正接)を有し、また、プリント基板の信頼性を満たすために良好な熱抵抗性および被削性を有する必要がある。
【0004】
以上より、電子技術の開発に伴い、工業界はエポキシ樹脂の難燃性および熱抵抗を改善しようとした。エポキシ樹脂の難燃性を改善するために利用可能な技術は複数あり、そのうち最も一般的なものは、エポキシ樹脂に難燃剤を導入するものである。この方法では多くの場合、ハロゲン含有難燃剤が使用される。ハロゲンは難燃には有効であるが、腐食性かつ毒性のハロゲン化水素ガスを発生し得る。さらに、エポキシ樹脂のハロゲン化の使用は環境問題につながる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の態様は、リン含有化合物、それらのエポキシ樹脂、およびそれらの積層複合構造体に関する。本開示のさらなる態様は、そのようなリン含有化合物およびエポキシ樹脂を生産するための方法に関する。リン含有化合物は、難燃剤リン含有樹脂、例えばエポキシ樹脂を形成するとともにそのような樹脂の硬化剤とするために、使用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様によれば、以下に示される式(I)で表される構造を有するリン含有化合物が提供される。
【0007】
【0008】
式中、Xは、6~30個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基または1~8個の炭素原子を有する二価直鎖もしくは分岐型アルキレン基である。
【0009】
RAは、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル基、ナフチル基、および6~10個の炭素原子を有する芳香族フェノール基からなる群から選択される。
【0010】
wの平均値は1~9である。
【0011】
R1、R2、R3、およびR4は、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択される。
【0012】
R5は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基、およびAr3からなる群から選択される。
【0013】
Ar1およびAr2は、以下からなる群から独立に選択される。
【0014】
【0015】
ここで、Ar3は、以下からなる群から選択される。
【0016】
【0017】
ここで、R6およびR7は、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択される。
【0018】
mおよびnは、独立に0~3の整数であり、かつ、m+nは5未満である。
【0019】
R8は共有結合であるか、または-CH2-、-(CH3)2C-、-CO-、-SO2-、および-O-からなる群から選択される。
【0020】
R9は共有結合であるか、または-(CH2)p-であり、ここで、pは、1~20の整数であり、かつ、zは1である。
【0021】
X基は、6~30個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基、1~8個の炭素原子を有する二価直鎖もしくは分岐型アルキレン基、または2~8個の炭素原子を有する二価直鎖もしくは分岐型アルケニレン基であり得る。いくつかの場合では、X基は、6~10個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基である。さらなる場合では、X基は、6~8個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素である。X基は、二価非置換芳香族炭化水素基であり得る。
【0022】
RA基は、フェノール基、o-クレゾール基、m-クレゾール基、p-クレゾール基、または1-ナフトール基などの芳香族フェノール基であり得る。あるいは、RA基は、1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり得る。例えば、RAのアルキル基は、2個の炭素原子または1個の炭素原子を有し得る。それに加えてまたはその代わりに、RA基は非置換アルキル基であり得る。
【0023】
いくつかの場合では、式(I)のリン含有化合物は、R1、R2、R3、およびR4が水素原子であり、R5がメチルであり、かつ、Ar1およびAr2が二価フェニレン基である構造を有する。例えば、式(I)のリン含有化合物は、以下の構造(Ia)を含み得る。
【0024】
【0025】
少なくとも1つの場合において、式(I)のリン含有化合物は、R1、R2、R3、およびR4が水素原子であり、R5がメチルであり、Ar1およびAr2が二価フェニレン基であり、Xが二価非置換芳香族炭化水素基であり、RAが1個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0026】
本開示のさらなる態様によれば、エポキシ樹脂および式(I)のリン含有化合物を含むエポキシ硬化樹脂が提供される。エポキシ硬化樹脂は好ましくは、170℃を超えるガラス転移温度を有する。例えば、エポキシ硬化樹脂のガラス転移温度は、180℃以上、190℃以上、200℃以上であり得る。それに加えてまたはその代わりに、本開示のリン含有化合物で硬化したエポキシ樹脂は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に3.02以下の誘電率を有し得る。エポキシ硬化樹脂はまたはあるいは10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.014以下の誘電正接を有し得る。また、エポキシ硬化樹脂は、5GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に3.15以下、または3.14以下の誘電率を有し得る。あるいは、エポキシ硬化樹脂は、5GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.010以下、または0.009以下の誘電正接を有し得る。
【0027】
本開示のさらに別の態様によれば、(a)ガラス繊維織物、(b)エポキシ樹脂、(c)銅箔、および(d)式(I)のリン含有化合物を含む積層複合構造体が提供される。積層複合構造体は、R1、R2、R3、およびR4が水素原子であり、R5がメチルであり、かつ、Ar1およびAr2が二価フェニレン基である式(I)のリン含有化合物を含有するエポキシ硬化樹脂を含み得る。少なくとも1つの場合において、積層複合構造体は、R1、R2、R3、およびR4が水素原子であり、R5がメチルであり、Ar1およびAr2が二価フェニレン基であり、Xが二価非置換芳香族炭化水素基であり、RAが1個の炭素原子を有するアルキル基であるリン含有化合物を含有するエポキシ硬化樹脂を含む。
【0028】
積層複合構造体は好ましくは、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に4.6以下、4.5以下、4.4以下、または4.3以下の誘電率を有する。それに加えてまたはその代わりに、積層複合構造体は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.015以下、0.014以下、0.013以下、0.012以下、0.010以下、または0.009以下の誘電正接を有し得る。さらに、積層複合構造体は、1MHzでIPC-TM-650-2.5.5.9に従って測定した場合に4.4以下、4.3以下、4.2以下、または4.1以下の誘電率を有し得る。それに加えてまたはその代わりに、積層複合構造体は、1MHzでIPC-TM-650-2.5.5.9に従って測定した場合に0.012以下、0.011以下、0.010以下、または0.009以下の誘電正接を有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示の複数の態様は、リン含有化合物、それらのエポキシ樹脂、およびそれらの積層複合構造体に関する。本発明者らは、6-(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル)ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィニン-6-オキシド(以下、DMPと呼ぶ)の末端ヒドロキシル基をアシルオキシ基(-O-(C=O)-R)で置換することにより、エポキシ樹脂の構造体を形成する際に末端ヒドロキシル基によって生じる低い誘電能の問題が改善でき、従って、これによりエポキシ樹脂の硬化にリン含有化合物を使用した場合に硬化エポキシ樹脂の特性が改善できることを発見した。特定の理論に縛られるものではないが、本発明者らは、ヒドロキシル基は硬化樹脂内で強い極性を生み出すと思われるので、このようなヒドロキシル基を有する硬化剤よりも、本開示のリン含有化合物(すなわち、末端ヒドロキシル基をアシルオキシ基で置換する硬化剤)は水の吸収が低減され、誘電性が改善されたと考えている。
【0030】
より具体的には、本発明者らは、DMPならびに特定のジカルボン酸および無水物から生産されたものなどの特定のリン含有化合物で硬化したエポキシ樹脂は、高レベルの難燃性も維持しつつ改善された誘電性および熱抵抗を示すことを発見した。難燃性レベルの維持および/または改善を伴う誘電性および熱特性の改善は予期されなかった。
【0031】
本開示の第1の態様によれば、以下に示される式(I)で表される構造を有するリン化合物が提供される。
【0032】
【0033】
ここで、Xは、6~30個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基、または1~8個の炭素原子を有する二価直鎖もしくは分岐型アルキレン基である。
【0034】
RAは、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル基、ナフチル基、および6~10個の炭素原子を有する芳香族フェノール基からなる群から選択される。
【0035】
wは1~9の整数である。
【0036】
R1、R2、R3、およびR4は、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択される。
【0037】
R5は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基、およびAr3からなる群から選択される。
【0038】
Ar1およびAr2は、以下からなる群から独立に選択される。
【0039】
【0040】
ここで、Ar3は、以下からなる群から選択される。
【0041】
【0042】
ここで、R6およびR7は、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択される。
【0043】
mおよびnは、独立に0~3の整数であり、かつ、m+nは5未満である。
【0044】
R8は共有結合であるか、または-CH2-、-(CH3)2C-、-CO-、-SO2-、および-O-からなる群から選択される。
【0045】
R9は共有結合であるか、または-(CH2)p-であり、ここで、pは、1~20の整数であり、かつ、zは1である。
【0046】
X基は一般に、6~30個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基または1~8個の炭素原子を有する二価直鎖または分岐型アルキレン基である。好ましくは、X基は、6~20個の炭素原子、例えば、6~18個の炭素原子、6~16個の炭素原子、6~14個の炭素原子、6~12個の炭素原子、または6~10個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基である。いくつかの場合では、X基は、6~8個の炭素原子を有する二価芳香族炭化水素基である。あるいは、X基は、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはその間のいずれかの範囲の炭素原子を有する二価直鎖または分岐型アルキレン基であり得る。
X基は好ましくは二価非置換芳香族炭化水素基であるが、X基は、様々な場合で二価置換芳香族基であってもよい。いくつかの場合で、X基は、イソフタル酸、テレフタル酸、二安息香酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン酸、エチレンビス(p-安息香酸)、1,4-テトラメチレンビス(p-オキシ安息香酸)、エチレンビス(パラオキシ安息香酸)、1,3-トリメチレンビス(p-オキシ安息香酸)、二塩化イソフタロイル、二塩化テトラフタロイル、二塩化マロニル、またはそれらの誘導体に相当する構造を有し得る。例えば、X基は、以上の酸または塩化物のうち1つと以下にさらに述べるようなさらなる化合物と反応させて本開示のリン含有化合物を形成させることにより形成され得る。
【0047】
一般に、RA基は、フェノール基、o-クレゾール基、m-クレゾール基、p-クレゾール基、または1-ナフトール基などの芳香族フェノール基である。RAの芳香族フェノール基は、6~10個の炭素原子、例えば、6~9個の炭素原子、6~8個の炭素原子、または6~7個の炭素原子を有し得る。いくつかの場合では、RA基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基であり得る。例えば、RA基は、1~6個の炭素原子、1~4個の炭素原子、1~3個の炭素原子などを含むアルキル基であり得る。好ましい例では、RAのアルキル基は、2個の炭素原子または1個の炭素原子を有する。それに加えてまたはその代わりに、RA基は、置換型または非置換型である芳香族基またはアルキル基であり得る。
【0048】
R1、R2、R3、およびR4は一般に、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択される。R1、R2、R3、およびR4基はそれぞれ独立に異なる構造を有するように選択され得るが、いくつかの場合では、R1、R2、R3、およびR4は、これらの基のうち2つ、これらの基のうち3つ、またはこれらの基の全てが同じ構造を有するように選択されてもよい。R1、R2、R3、およびR4は、水素原子、1~10個の炭素原子を有する非置換アルキル基、1~10個の炭素原子を有する置換アルキル基、1~10個の炭素原子を有する非置換アルコキシ基、1~10個の炭素原子を有する置換アルコキシ基、3~10個の炭素原子を有する非置換シクロアルキル基、および3~10個の炭素原子を有する置換シクロアルキル基からなる群から独立に選択され得る。例えば、R1、R2、R3、およびR4は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基から選択され得る。
R1、R2、R3、およびR4は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する置換または非置換アルコキシ基から選択され得る。それに加えてまたはその代わりに、R1、R2、R3、およびR4は、置換型または非置換型である3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基から選択され得る。いくつかの場合では、R1、R2、R3、およびR4のシクロアルキル基は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、R1、R2、R3、およびR4は、水素原子、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、およびtert-ブチルからなる群から独立に選択される。いくつかの実施形態では、R1、R2、R3、およびR4は水素原子である。
【0049】
R5は一般に、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ基、3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基、およびAr3からなる群から選択される。R5は、置換型または非置換型である1~10個の炭素原子を有するアルキル基から選択され得る。例えば、R5は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基から選択され得る。
R5は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する置換または非置換アルコキシ基から選択され得る。それに加えてまたはその代わりに、R5は、置換型または非置換型である3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基から選択され得る。いくつかの場合では、R5の3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基は10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子もしくはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を含むか、またはR5は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子もしくはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する置換もしくは非置換シクロアルキル基であり得る。R5はまた、以下に示すようなAr3の構造を有する基から選択されてもよい。
【0050】
【0051】
一般に、Ar1およびAr2基は、以下の構造から独立に選択される。
【0052】
【0053】
Ar1およびAr2は異なる構造を有する基であり得るが、いくつかの場合では、Ar1およびAr2は同じ構造を有する基である。R6およびR7は、水素原子、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ、および3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から独立に選択される。しかしながら、いくつかの場合では、R6およびR7基は同じであり得る。
R6およびR7は、1~10個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基から選択され得る。例えば、R6およびR7は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基から選択され得る。R6およびR7は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する置換または非置換アルコキシ基からそれぞれ独立に選択され得る。R6およびR7は、置換型または非置換型である3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基から独立に選択され得る。いくつかの場合では、R6およびR7の3~10個の炭素原子を有するシクロアルキル基は、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を含む。
【0054】
R8は共有結合であるか、または-CH2-、-(CH3)2C-、-CO-、-SO2-、および
-O-からなる群から選択される。具体的には、R8が共有結合である場合には、それは結合を表し、いずれの置換基も含まない。
【0055】
R9は共有結合であるか、または-(CH2)p-であり、ここで、pは、1~20の整数である。言い換えれば、R9は、1~20個の炭素原子を有する二価非置換アルキル基である。例えば、R9は、20個の炭素原子、19個の炭素原子、18個の炭素原子、17個の炭素原子、16個の炭素原子、15個の炭素原子、14個の炭素原子、13個の炭素原子、12個の炭素原子、11個の炭素原子、10個の炭素原子、9個の炭素原子、8個の炭素原子、7個の炭素原子、6個の炭素原子、5個の炭素原子、4個の炭素原子、3個の炭素原子、2個の炭素原子、1個の炭素原子、またはそれらから形成されるいずれかの範囲の炭素原子を有する非置換アルキル基から選択され得る。具体的には、R9が共有結合である場合には、それは結合を表し、いずれの置換基も含まない。
【0056】
mおよびnは、独立に0~3の整数であり、かつ、m+nは5未満である。例えば、mは0、1、2または3であり得、nは0、1、2または3であり得る。mとnの合計は5以下、4以下、または3以下であり得る。
【0057】
繰り返し単位の値(「w」)は一般に、1~9の整数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、または9である。好ましくは、w値は2~9の範囲である。本発明者らは、w値が10以上である場合には、リン含有化合物は、硬化中に沈澱する傾向があり、エポキシ樹脂の加工性が不十分となることを発見した。硬化中の沈澱を軽減するために、付加的溶媒(例えば、メチルエチルケトン、「MEK」)を使用してもよい。しかしながら、付加的溶媒の使用はまたエポキシ樹脂の粘度の低下ももたらす。よって、w値が10以上である場合には、エポキシ樹脂の特性は、沈澱の問題および/または不十分な加工性の結果として限定され得る。しかしながら意外にも、本発明者らは、w値が2~9の範囲である場合に、エポキシ樹脂の加工性が有意に改善され、沈澱も生じにくいことを発見した。
【0058】
リン含有化合物はエポキシド基および/またはオキシラン基を実質的に不含または不含であり得る。いくつかの場合では、リン含有化合物は、ヒドロキシル基を実質的に含まないかまたは含まない。
【0059】
少なくとも1つの実施形態では、式(I)のリン含有化合物は、R1、R2、R3、およびR4が水素原子であり、R5がメチルであり、かつ、Ar1およびAr2が二価フェニレン基である構造を有し、従って、式(I)のリン含有化合物は、以下に示される構造(Ia)を有する。
【0060】
【0061】
少なくとも1つの他の実施形態では、リン含有化合物は、以下に示される式(II)の構造を有する。
【0062】
【0063】
本教示の別の態様によれば、リン含有化合物を生産するための方法が提供される。この方法は一般に、6-(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル)ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィニン-6-オキシド(「DMP」)化合物を酸無水物および酸または塩化物と反応させることを含む。酸無水物は、1~6個の炭素原子の炭素鎖を有する酸無水物から選択され得る。例えば、酸無水物は、無水酢酸、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、安息香酸無水物、無水トリフルオロ酢酸、および/または3a-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-イソベンゾフラン-1,3-ジオンであり得る。好ましくは、酸無水物は無水酢酸である。
【0064】
酸はジカルボン酸であり得る。それに加えてまたはその代わりに、酸は、イソフタル酸、テレフタル酸、二安息香酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン酸、エチレンビス(p-安息香酸)、1,4-テトラメチレンビス(p-オキシ安息香酸)、エチレンビス(パラオキシ安息香酸)、1,3-トリメチレンビス(p-オキシ安息香酸)、それらの塩、それらの誘導体、およびそれらの組合せから選択でき、塩化物は二塩化イソフタロイル、二塩化テトラフタロイル、二塩化マロニル、それらの塩、それらの誘導体、およびそれらの組合せから選択され得る。少なくとも1つの場合において、この方法は、DMPを無水酢酸およびイソフタル酸を反応させて式(I)のリン含有化合物を生産することを含む。
【0065】
DMPおよびジカルボン酸および/または塩化物は、DMPとジカルボン酸および/または塩化物のモル比が2:1~10:8.9の混合物であり得る。例えば、DMPとジカルボン酸および/または塩化物のモル比は1.9:1~10:8.9、1.8:1~10:8.9、1.7:1~10:8.9、1.6:1~10:8.9、または1.5:1~10:8.9であり得る。好ましくは、DMPおよびジカルボン酸および/または塩化物は、上記にさらに述べるように、本開示のリン含有化合物2~9の繰り返し単位の値(「w」)を有するような量で混合され得る。
【0066】
DMP化合物、酸無水物、および/または酸および/または塩化物を含む混合物は加熱してDMP化合物、酸無水物および/または酸の間の反応を促進してもよい。例えば、混合物の温度は、30℃以上、例えば、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、または140℃以上に上昇してもよい。温度はこの上昇させた温度で1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、または7時間以上維持してもよい。
【0067】
この方法は、酢酸または蒸留による他の副生成物を除去することを含み得る。当業者ならば、本明細書の開示に基づき蒸留により酢酸を除去するための方法および好適な装置を容易に決定することができる。この方法は蒸留による酢酸の除去を含み得るが、酢酸を除去するための他の手段も本開示の範囲を逸脱することなく使用可能である。
【0068】
式(I)の化合物は、少なくとも1.5%のリン含量を有し得る。様々な実施形態において、式(I)の化合物は、少なくとも2.3%、少なくとも2.5%、少なくとも3.0%、少なくとも4.0%、少なくとも5.0%、または5.0%を超えるリン含量を有し得る。具体的には、リン含量は、1.5%~4.5%、1.5%~4.0%、1.5%~3.5%、1.5%~3.0%、2.0%~4.5%、2.0%~4.0%、2.0%~3.5%または2.0%~3.0%であり得る。
【0069】
本開示のさらなる態様によれば、本明細書に開示されるリン含有化合物で硬化したエポキシ樹脂が提供される。エポキシと式(I)のリン含有化合物の理想的な当量比は好ましくは、1:1~1:3である。いくつかの場合では、エポキシと式(I)のリン含有化合物の理想的な当量比は、1:1~1:2.8、1:1~1:2.6、1:1~1:2.4、1:1~1:2.2、1:1~1:2、1:1~1:1.8、1:1~1:1.6、または1:1~1:1.5であり得る。エポキシ樹脂中の硬化剤は全て式(I)のリン含有化合物であってもよいが、いくつかの場合では、前記量の硬化剤は、付加的な硬化剤を含む。
【0070】
硬化エポキシ樹脂は好ましくは、170℃を超えるガラス転移温度を有する。例えば、硬化エポキシ樹脂のガラス転移温度は、172℃以上、174℃以上、176℃以上、178℃以上、180℃以上、182℃以上、184℃以上、186℃以上、188℃以上、190℃以上、192℃以上、194℃以上、196℃以上、198℃以上、または200℃以上であり得る。具体的には、ガラス転移温度は、170℃~220℃、170℃~210℃、170℃~205℃、175℃~220℃、175℃~210℃、175℃~205℃、180℃~220℃、180℃~210℃または180℃~205℃であり得る。
【0071】
それに加えてまたはその代わりに、本開示のリン含有化合物で硬化したエポキシ樹脂は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に4.6以下の誘電率を有し得る。例えば、硬化エポキシ樹脂の誘電率は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に4.6以下、4.5以下、4.4以下、4.35以下、または4.3以下であり得る。いくつかの場合では、リン含有化合物で硬化したエポキシ樹脂は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に3.4以下、3.3以下、3.2以下、3.1以下、または3.05以下、3.02以下、3.0以下、2.9以下、2.8以下、または2.7以下の誘電率を有し得る。具体的には、誘電率は、2.7~3.4、2.7~3.3、2.7~3.2、2.7~3.1、2.7~3.05、2.7~3.02、2.9~3.4、2.9~3.3、2.9~3.2、2.9~3.1、2.9~3.05、2.9~3.02、3.0~3.4、3.0~3.3または3.0~3.2であり得る。
本開示のリン含有化合物で硬化したエポキシ樹脂はその上にまたはその代わりに、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.015以下の誘電正接を有し得る。例えば、硬化エポキシ樹脂は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.015以下、0.014以下、0.013以下、0.012以下、0.011以下、0.0109以下、0.0105以下、0.0100以下、または0.0097以下の誘電正接を有し得る。具体的には、誘電正接は、0.009~0.015、0.010~0.015、0.011~0.015または0.012~0.015であり得る。
【0072】
本開示のさらに別の態様によれば、硬化エポキシ樹脂に含浸させたガラス繊維織物を含む積層複合構造体が提供され、この硬化エポキシ樹脂は式(I)のリン含有化合物を含有する。積層複合構造体は、ガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させ、そのエポキシ樹脂を本開示のリン含有化合物および所望により1以上の付加的硬化剤で硬化させることによって生産できる。硬化エポキシを含浸させた繊維織物は、銅箔、基板、回路部品、または他の導電性材料などの基質に適用され得る。エポキシを含浸させた繊維織物および基質構造は、積層して積層複合構造体を形成してもよい。
【0073】
いくつかの場合では、積層複合構造体は、R1、R2、R3、およびR4が水素原子であり、R5がメチルであり、かつ、Ar1およびAr2が二価フェニレン基である式(I)のリン含有化合物を含有する硬化エポキシ樹脂を有する。少なくとも1つの場合において、積層複合構造体は、以下に示される式(II)のリン含有化合物を含有する硬化エポキシ樹脂を含む。
【0074】
【0075】
本明細書に開示されるリン化合物で硬化したエポキシ樹脂を含む積層複合構造体は、好ましくは、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に4.6以下の誘電率を有する。例えば、積層複合構造体の誘電率は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に4.4以下、4.35以下、または4.3以下であり得る。具体的には、誘電率は、4.0~4.6、4.1~4.6、4.2~4.6、4.35~4.6または4.5~4.6であり得る。
【0076】
本明細書に開示されるリン化合物で硬化したエポキシ樹脂を含む積層複合構造体はまた、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.015以下の誘電正接も有し得る。例えば、積層複合構造体は、10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に0.014以下、0.011以下、0.0109以下、0.0105以下、0.0100以下、0.0097以下の誘電正接を有し得る。具体的には、誘電正接は、0.0080~0.015、0.0090~0.015、0.0080~0.014、0.0090~0.014、0.0080~0.013、0.0085~0.013、0.0080~0.011または0.0090~0.011であり得る。
【実施例】
【0077】
以下の限定されない例は、主として本発明の態様によって達成される利益および利点を明らかにする目的で示される。
【0078】
実施例1
DMP1の合成
【0079】
【0080】
DMP1は、以下の実施例で使用するために以下の手順に従って調製した。具体的には、予め室温で3000mlの三つ口フラスコ反応器内で、216.2グラム(「g」)(1モル)の9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(「DOPO」)、470.5g(5モル)のフェノール、136.2g(1モル)の4’-ヒドロキシアセトフェノン、および8.65g(DOPOの重量に基づき4重量%)のp-トルエンスルホン酸を混合し、撹拌した。上記反応物を130℃で6時間継続的に撹拌して混合物を形成した後、この混合物の温度を室温に冷却した。冷却混合物を分離して粗生成物を得、これをエタノールで洗浄した後に濾過し、乾燥させた。リン含有ビスフェノール生成物A1(「DMP1」)を白色粉末の形態で得た。DMP1の構造は上記に示される。
【0081】
上記リン含有ビスフェノール生成物A1の収率は85%であり、融点は306℃であった。元素分析によれば、炭素、水素、および酸素元素の測定値はそれぞれ72.48%、4.65%、および14.90%であった(Cの理論値は72.89%、Hは4.65%、Oは14.94%であった)。
【0082】
DMP2の合成
【0083】
【0084】
DMP2は、室温、250mlの三つ口フラスコ反応器内で、10.81g(0.05モル)のDOPO、36g(0.25モル)の2-ナフトール、6.81g(0.05モル)の4’-ヒドロキシアセトフェノン、および0.432g(DOPOの重量に基づき4重量%)のp-トルエンスルホン酸を混合および撹拌することにより調製した。これらの反応物を130℃で24時間継続的に撹拌して混合物を形成した後、この混合物の温度を室温に冷却した。冷却混合物から粗生成物を分離し、エタノールを用いて洗浄した後、濾過し、乾燥させて白色粉末を得た。この白色粉末は、上記に示されるリン含有ビスフェノール生成物A2(「DMP2」)であった。
【0085】
上記リン含有ビスフェノール生成物A2の収率は85%であり、融点は317℃であった。元素分析によれば、炭素、水素、および酸素元素の測定値はそれぞれ75.54%、4.58%、および13.56%であった(Cの理論値は75.31%、Hは4.85%、Oは13.38%であった)。
【0086】
DMP3の合成
【0087】
【0088】
DMP3は、室温、250mlの三つ口フラスコ反応器内で、10.81g(0.05モル)のDOPO、36g(0.25モル)の2-ナフトール、9.01g(0.05モル)の6-アセチル-2-ナフトール、および0.432g(DOPOの重量に基づいて4重量%)のp-トルエンスルホン酸を混合および撹拌することにより調製した。これらの反応物を130℃で24時間継続的に撹拌して混合物を形成した後、この混合物の温度を室温に冷却した。冷却混合物から粗生成物を分離し、エタノールで洗浄した後、濾過し、乾燥させて白色粉末を得た。この白色粉末は、上記に示されるリン含有ビスフェノール生成物A3(「DMP3」)であった。
【0089】
上記リン含有ビスフェノール生成物A3の収率は80%であり、融点は338℃であった。元素分析によれば、炭素、水素、および酸素元素の測定値はそれぞれ77.69%、4.17%、および12.25%であった(Cの理論値は77.26%、Hは4.76%、Oは12.11%であった)。
【0090】
実施例2
(エステル置換リン硬化剤(「DIA」)の合成)
2つの例示的エステル置換リン硬化剤(実施例DIA1および実施例DIA2)を、本発明の態様に従い、実施例1から得られたDMP1を用いて調製した。
【0091】
実施例DIA1
実施例DIA1は、実施例1から得られた285.5gのDMP1(0.66モル)を156.5gの無水酢酸(1.53モル)および55.4gのイソフタル酸(IPA)(0.33モル)と反応させることにより調製した。反応中、温度は140℃に上昇させ、2.5時間保持した。次に、10トルで30分間真空を適用しつつ、温度を250℃に上昇させて酢酸を留去し、これは無水酢酸の反応生成物であった。窒素を250℃で排気して実施例DIA1、すなわち、エステル置換リン含有ビスフェノール化合物を得た。蒸留により除去された酢酸の量は133.47グラムであり、これは理論量の95%であった。上述の実施例DIA1のガラス転移温度は128℃であり、FT-IR分析は、1742.7cm-1に明らかなC=O吸収を示した。
【0092】
実施例DIA2
実施例DIA2は、214.21gのDMP1(0.5モル)を117.4gの無水酢酸(1.15モル)および73.93gのイソフタル酸(0.445モル)と反応させることにより調製した。反応中、温度は140℃に上昇させ、2.5時間保持した。次に、10トルで30分間真空を適用しつつ、温度を250℃に上昇させて酢酸を留去した。窒素を250℃で排気して実施例DIA2を得た。蒸留により除去された酢酸の量は122.27グラムであり、これは理論量の95%であった。実施例DIA2のガラス転移温度は170℃であり、FT-IR分析は、1742.7cm-1に明らかなC=O吸収を示した。
【0093】
比較例DIA1
エステル置換リン硬化剤の比較例(比較例DIA1)は、実施例1から得られたDMP1から調製した。具体的には、214.21gのDMP1(0.5モル)を117.4gの無水酢酸(1.15モル)および74.76gのイソフタル酸(0.45モル)と反応させた。反応中、温度は140℃に上昇させ、2.5時間保持した。次に、酢酸を留去するために温度を250℃に上昇させて、10トルの真空を30分間適用した。窒素を250℃で排気して比較例DIA1を得た。蒸留により除去された酢酸の量は122.85グラムであり、これは理論量の95%であった。比較例DIA1のガラス転移温度は179℃であり、FT-IR分析は、1742.7cm-1に明らかなC=O吸収を示した。
【0094】
表1は、実施例DIA1および2の関連の特徴のいくつかを比較例DIA1と比較したものである。
【0095】
【0096】
加工性は、40重量%のMEKに個々のDIAを溶解させ、次いで溶媒が還流する(80℃ BP)まで撹拌および加熱し、その後、室温に冷却し、一晩静置することにより決定した。沈澱が見られなかった場合に「v」値とした。底部に沈澱が見られた場合に「x」値とした。繰り返し単位(「w」)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて分子量を分析し、繰り返し単位の分子量で割って繰り返し単位値を得ることにより決定した。
【0097】
実施例3
(積層複合構造体の作製)
エポキシ含浸ガラス繊維織物は、ガラス繊維織物(GF-7628)にエポキシ樹脂を含浸させ、それを実施例DIA1および/またはPF8110M60で硬化させることによって生産した。メタノールに溶解させた2-メチルイミダゾール(「2MI」)10%を、エポキシ樹脂を硬化させるための触媒として使用した。PF8110M60は、Chang Chun Plastic Co.,Ltd.、台湾、R.O.C.により製造された硬化剤であり、製品番号PF8110M60として流通している。PF8110M60は、100~110g/当量の活性水素当量を有するフェノール樹脂である。BNE200Aは、Chang Chun Plastic Co.,Ltd.、台湾、R.O.Cにより製造されたエポキシ樹脂である。BEP330Aは、 Chang Chun Plastic Co.,Ltd.、台湾、R.O.Cにより製造されたエポキシ樹脂である。
【0098】
以下に示す表2は、実施例A~Dおよび比較例Eの各エポキシ含浸ガラス繊維織物に使用したエポキシ樹脂および硬化剤を示す。
【0099】
【0100】
硬化エポキシ含浸ガラス繊維織物を160℃で乾燥させてプリプレグを形成した。各プリプレグの小片を銅箔シートで覆い、厚さ2mmの複合構造体を形成した。この複合構造体は、2枚の銅箔シートがプリプレグの各側に隣接し、従って、プリプレグがその2枚の銅箔シートの間に配置された単層プリプレグを備えていた。この複合構造体を25kg/cm2の圧力下、210℃で積層した。得られた積層複合構造体は、リン含有エポキシ樹脂およびガラス繊維織物を含有していた。
【0101】
これらの積層複合構造体を評価し、それらの特性を以下の表3に示す。
【0102】
【0103】
2枚の銅箔シートから形成された積層複合体にエッチングを施し、IPC-TM-650-2.5.5.13に従って誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。ガラス転移温度(Tg)は、IPC-TM-650-2.4.25に従い、示差走査熱量測定(DSC)(スキャン速度:20℃/分)およびプリプレグから10mgの樹脂組成物を回収することによって作製した試験片を用いて測定した。一般に、DMP構造を有するエポキシ組成物は150℃より高いガラス転移温度を有することが望ましい。積層複合構造体実施例Dの硬化エポキシ樹脂が200℃より高いガラス転移温度を示したことは特に驚くことであった。
【0104】
実施例4
(積層複合構造体の作製)
エポキシ含浸ガラス繊維織物(実施例Fおよび比較例G)は、ガラス繊維織物(GF-7628)をエポキシ樹脂に含浸させ、それを実施例DIA1およびPF8110M60で硬化させることによって生産した。上述のように、PF8110M60は、Chang Chun Plastic Co.,Ltd.、台湾、R.O.C.により製造された硬化剤である。BNE200Aは、Chang Chun Plastic Co.,Ltd.、台湾、R.O.C.により製造されたエポキシ樹脂である。BE504EMは、Chang Chun Plastic Co.,Ltd.、台湾、R.O.C.により製造されたエポキシである。
【0105】
リン含量は硬化エポキシ樹脂に関して決定した。具体的には、種々の濃度のリン酸二水素カリウム溶液セットから420nmにおけるUV-Vis吸収の標準曲線を作成した。硫酸および過硫酸カリウムをエポキシ樹脂サンプルに加えた。100℃で、60分間行った消化過程の後、消化したサンプル溶液をモリブドバナジン酸試薬で処理してバナドモリブドリン酸を形成した。これらのサンプルを420nmにおけUV-Vis吸収によって測定した。リン含量は、標準曲線から質量%として決定した。
【0106】
以下に示す表4は、各エポキシ含浸ガラス繊維織物に使用したエポキシ樹脂および硬化剤を示す。
【0107】
【0108】
硬化エポキシ含浸ガラス繊維織物を160℃で乾燥させてプリプレグを形成した。5枚のプリプレグを積層し、35μmの銅箔シートを、その5枚のプリプレグの積層体の上と下に置いた。この構造を25kg/cm2の圧力下、210℃で積層した。積層した複合構造体は、リン含有エポキシ樹脂およびガラス繊維織物を含有していた。
【0109】
実施例Fおよび比較例Gの積層複合構造体を評価し、それらの特性を表5にまとめる。
【0110】
【0111】
2枚の銅箔シートから形成された積層複合体にエッチングを施し、1MHzでIPC-TM-650-2.5.5.9に従って誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。難燃性はUL94に従って測定した。評価V0は、テストバーに10秒間で2回火炎を適用した後にフレーミングドリップなく10秒以内に燃焼が停止することを意味する。ガラス転移温度(Tg)は、IPC-TM-650-2.4.25に従い、示差走査熱量測定(DSC)(スキャン速度:20℃/分)およびプリプレグから10mgの樹脂組成物を回収することによって作製した試験片を用いて測定した。分解温度(「Td」)(5%の重量損失)は、IPC-TM-650-2.3.40に従い、熱重量分析計(TGA)を用いてスキャン速度10℃/分で測定した。上記で耐熱性と呼んだ熱安定性(「S-288」)は、JIS-C-6481に従って測定した。具体的には、積層物を288℃のはんだ炉に浸漬し、層間剥離までの時間を測定した。
【0112】
表4および5の結果によれば、実施例Fおよび比較例Gは同等のリン含量であり、実施例Fおよび比較例Gは両方とも優れた難燃性を有する。さらに、比較例Gと比較して、実施例Fは低い誘電率および誘電正接、ならびに高いガラス転移温度および分解温度を有する。すなわち、実施例Fは、より良好な誘電能および耐熱を有する。
【0113】
実施例5
(硬化エポキシ樹脂の作製)
エポキシ樹脂を実施例DIA1を用いて硬化させた。BNE200Aは、Chang Chun Plastic Co.,Ltd.、台湾、R.O.C.により製造されたエポキシ樹脂である。メタノールに溶解させた2-メチルイミダゾール(「2MI」)10%を、エポキシ樹脂を硬化させるための触媒として使用した。実施例Hの硬化エポキシ樹脂を210℃で2時間硬化させた。
【0114】
実施例Hの硬化エポキシ樹脂を、種々の特徴を決定するために評価した。誘電率(Dk)および誘電正接(Df)は、5GHzおよび10GHzでIPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した。エポキシ樹脂の組成ならびに硬化エポキシ樹脂の誘電率および誘電正接を表6にまとめる。
【0115】
【0116】
表6の結果によれば、実施例Hは、IPC-TM-650-2.5.5.13に従って測定した場合に、5GHzでも10GHzでも良好な誘電能を有する。
【0117】
以上の説明において本発明の多くの特徴および利点が本発明の構造および特徴の詳細とともに示したが、本開示は例示に過ぎない。本発明の原理の範囲内の部品の詳細、特に、形状、大きさ、および配置において、添付の特許請求の範囲が表す用語の広義の一般的な意味により示される最大限まで変更がなされ得る。