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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】新規な抗CD3抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20230203BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230203BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230203BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230203BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20230203BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230203BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230203BHJP
   C07K 1/113 20060101ALN20230203BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28
A61K39/395 N
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K47/68
A61K47/60
C07K19/00
C12N15/13 ZNA
C07K1/113
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021132397
(22)【出願日】2021-08-16
(62)【分割の表示】P 2018522651の分割
【原出願日】2016-11-02
(65)【公開番号】P2021181487
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】62/374,693
(32)【優先日】2016-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/267,086
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/250,451
(32)【優先日】2015-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508048481
【氏名又は名称】アンブルックス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ambrx,Inc.
【住所又は居所原語表記】10975 North Torrey Pines Road,Suite 100,La Jolla,California 92037,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ハルン,ラシード
(72)【発明者】
【氏名】ティエン,フェン
(72)【発明者】
【氏名】ジムノプーロス,マルコ
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/020622(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/026894(WO,A1)
【文献】特表2014-517844(JP,A)
【文献】特表2007-525943(JP,A)
【文献】Angew.Chem.Int.Ed.,2013,Vol.52,p.12101-12104
【文献】Polymer,2015,Vol.66,p.A1-A10
【文献】PNAS,1995,Vol.92,p.9057-9061
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
C12N
C12P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)第1の抗原またはエピトープに対する第1結合部位と、
(ii)上記第1の抗原またはエピトープとは異なる第2の抗原またはエピトープに対する第2結合部位と、
を有している、二重特異的抗CD3結合分子であって、
上記第2結合部位は、
(a)配列番号3のアミノ酸配列を有しているVHドメインと、
(b)配列番号6のアミノ酸配列を有しているVLドメインと、
を有している、二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項2】
上記二重特異的抗CD3結合分子は、1つ以上の天然にコードされていないアミノ酸を有している、請求項1に記載の二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項3】
上記天然にコードされていないアミノ酸は、p-プロパルギロキシフェニルアラニンまたはp-アジド-L-フェニルアラニンである、請求項2に記載の二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項4】
上記天然にコードされていないアミノ酸は、水溶性ポリマーと連結している、請求項2または3に記載の二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項5】
上記水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール部分を含んでいる、請求項4に記載の二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項6】
上記二重特異的抗CD3結合分子は、1つ以上の翻訳後修飾を有している、請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項7】
上記二重特異的抗CD3結合分子は、リンカー、ポリマーまたは生物活性を有する分子と連結している、請求項1~6のいずれか1項に記載の二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項8】
上記生物活性を有する分子は葉酸である、請求項に記載の二重特異的抗CD3結合分子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異的抗CD3結合分子を含んでいる、治療用の薬学的組成物。
【請求項10】
薬学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤を含んでいる、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異的抗CD3結合分子を含んでいる、薬学的組成物。
【請求項12】
薬学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤を含んでいる、請求項11に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉酸と複合している抗CD3抗体およびその断片に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に産生される抗体(Ab)は、2つの同一の免疫グロブリン(Ig)重鎖、および2つの同一の免疫グロブリン軽鎖からなる四量体構造をしている。Abの重鎖および軽鎖は、異なるドメインからなる。それぞれの軽鎖は、1つの可変ドメイン(VL)および1つの定常ドメイン(CL)を有している。一方、それぞれの重鎖は、1つの可変ドメイン(VH)および3つまたは4つの定常ドメイン(CH)を有している。それぞれのドメイン(約110アミノ酸残基からなる)は、2つの逆平行βシートから形成されている、特徴的なβサンドイッチ構造に折り畳まれている(免疫グロブリンフォールド)。それぞれのVLドメインは3つの相補性決定領域(CDR1~3)を有しており、それぞれのVHドメインは最大で4つの相補性決定領域(CDR1~4)を有している。CDRとは、可変ドメインの一端でβストランドと連結している、ループ(またはターン)である。軽鎖および重鎖の可変領域はいずれも、通常は、抗原特異性の原因となっている(特異性に対する個々の鎖の寄与度は、同等であるとは限らないが)。抗体分子は、CDRループをランダム化することによって、多数の分子と結合するように進化してきた。
【0003】
Abの機能性部分構造は、タンパク質分解および組み換え法によって作製することができる。Abには、Fab断片、Fv断片およびFc部分が含まれている。Fab断片には、重鎖のVH-CH1ドメインおよび軽鎖のVL-CL1ドメインが含まれており、これらは1本の鎖間ジスルフィド結合で連結している。Fv断片には、VHドメインおよびVLドメインのみが含まれている。Fc部分には、抗体分子の抗原と結合しない領域が含まれている。いくつかの例では、1つのVHドメインでも、抗原に対する顕著な親和性を保持している(Ward et al., 1989, Nature 341, 554-546)。また、特定の単量体κ軽鎖は、その抗原と特異的に結合することも示されている(L. Masat et al., 1994, PNAS 91:893-896)。分離された軽鎖または重鎖も、ある程度の抗原結合活性を保持する場合があることが判明している(Ward et al., 1989, Nature 341, 554-546)。
【0004】
他の機能性部分構造には、一本鎖Fv(scFv)がある。scFVは、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域からなっており、これらはペプチドリンカーと共有結合している(S-z Hu et al., 1996, Cancer Research, 56, 3055-3061)。これらの小タンパク質(Mr:25,000)は、通常、1つのポリペプチドの状態で、抗原に対する特異性および親和性を保持している。そして、より大きい抗原特異的な分子のための、便利なビルディングブロックを提供することができる。scFvは循環半減期が短く、多くの場合、治療上の有用性は限られている。
【0005】
"minibody"と呼ばれる小型のタンパク質骨格は、IgのVHドメインの一部をテンプレートに用いて設計された(Pessi et al., 1993, Nature 362, 367-369)。インターロイキン6に対する親和性が高いminibodyが(解離定数(K):約10-7M)、VHのCDR1およびCDR2に対応するループをランダム化し、次いで変異体をファージディスプレイ法で選抜することによって発見されている(Martin et al., 1994, EMBO J. 13, 5303-5309)。
【0006】
ラクダの血清由来のIgG様物質を分析すると、通常、軽鎖可変ドメインを欠いている。このことは、抗体の充分な特異性および親和性が、VHドメイン(3つまたは4つのCDRループ)のみに由来しうることを示唆している。高い親和性を有する「ラクダ化」VHドメインが作製されている。また、CDR3のみをランダム化することにより、高い特異性を得ることができる。
【0007】
"minibody"の代替物に、"diabody"がある。diabodyは、二重特異性を有する2価の小型抗体断片であり、2箇所の抗原結合部位を有している。この断片には、重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL)が含まれており、これらは同じポリペプチド鎖上で連結されている(VH-VL)。diabodyの大きさは、Fab断片と同程度である。diabodyのリンカーは、同じ鎖上の2つのドメイン間で対合するには短すぎる。そのため各ドメインは、他の鎖上にある対応するドメインとの間で対合しなければならない。こうして、2箇所の抗原結合部位が作られる。これらの二量体抗体断片(または"diabody")は、2価であり、二重特異性を有している(P. Holliger et al., PNAS 90:6444-6448 (1993).を参照)。
【0008】
CDRペプチドおよびCDR有機模倣体が作製されている(Dougall et al., 1994, Trends Biotechnol. 12, 372-379)。CDRペプチドは、通常は環状である短いペプチドで、抗体のCDRループのアミノ酸配列に対応している。CDRループは、抗体-抗原相互作用の原因となるものである。CDRペプチドおよびCDR有機模倣体は、ある程度の結合親和性を保持していることが示されている(Smyth & von Itzstein, 1994, J. Am. Chem. Soc. 116, 2725-2733)。親和性を失わせることなく、マウスのCDRがヒトのIg骨格上に移植されている(Jones et al., 1986, Nature 321, 522-525; Riechmann et al., 1988)。
【0009】
体内では、巨大なライブラリの中から特定のAbが選択され増幅される(親和性成熟)。このプロセスは、コンビナトリアル・ライブラリ技術を用いれば、in vitroで再現できる。Ab断片をバクテリオファージ表面に上手く提示させることにより、大量のCDR変異体を創出し、スクリーニングすることが可能となる(McCafferty et al., 1990, Nature 348, 552-554; Barbas et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88,7978-7982; Winter et al., 1994, Annu. Rev. Imμnol. 12, 433-455)。この技術により作製されるFabおよびFv(ならびにその誘導体)が増加している。コンビナトリアル技術は、擬似Abと組み合わせることもできる。
【0010】
潜在的なタンパク質骨格となりうる数多くのタンパク質ドメインが、ファージのカプシドタンパク質と融合した状態で発現させられてきた。そのレヴューとしては[Clackson & Wells, Trends Biotechnol. 12:173-184 (1994)]を参照。これらのタンパク質ドメインのいくつかは、ランダムなペプチド配列を提示させるための骨格として、既に使用されている。この例としては、ウシ膵臓トリプシンインヒビター(Roberts et al., PNAS 89:2429-2433 (1992))、ヒト成長ホルモン(Lowman et al., Biochemistry 30:10832-10838 (1991)), Venturini et al., Protein Peptide Letters 1:70-75 (1994))、StreptococcusのIgG結合ドメイン(O'Neil et al., Techniques in Protein Chemistry V (Crabb, L,. ed.) pp. 517-524, Academic Press, San Diego (1994))が挙げられる。これらの骨格は、1つのランダム化されたループまたは領域を提示する。繊維状ファージM13上における提示のための骨格としては、テンダミスタットが用いられてきた(McConnell and Hoess, 1995, J. Mol. Biol. 250:460-470)。
【0011】
親水性ポリマーのポリエチレングリコール(略称PEG)を共有結合で付加する方法によって、(i)水溶性および生体利用性が向上し、(ii)血清半減期および治療上の半減期が増加し、(iii)免疫原性および生物活性が調節され、または(iv)多くの生物活性を有する分子(例えば、タンパク質、ペプチド、そして特に疎水性の分子)について、循環時間を延長させる。製薬、人工移植、ならびに、生体適合性、毒性の除去および免疫原性の除去が重要となるその他の用途において、PEGは広範に用いられてきた。PEGの所望の特性を最大限に引き出すためには、PEGポリマーまたは生物活性を有する分子に付加するポリマーの合計分子量および水和状態を、充分に高くしなければならない。このようにすれば、PEGポリマーの付加に関連する、一般的な利点を付与することができる(親分子の生物活性に悪影響を及ぼすことなく、水溶性を増加させたり、循環中の半減期を延長させたりすることなど)。
【0012】
よく、PEG誘導体は、反応性の化学機能部位(リシン残基、システイン残基およびヒスチジン残基、N末端、ならびに炭化水素部分など)を介して、と生物活性を有する分子と連結される。タンパク質および他の分子は、通常、限られた数の反応部位しかポリマーの付加に利用できない。通常、ポリマー付加修飾に最も好適な部位は、受容体の結合において重要な役割を果たしており、その分子の生物活性を保持するために必須である。結果的に、生物活性を有する分子の反応部位に対して無差別にポリマー鎖を付加すると、通常は、ポリマー修飾分子の生物活性が著しく低下するか、全く失われてしまう(R. Clark et al., (1996), J. Biol. Chem., 271:21969-21977)。標的分子に所望の利点を付与するために充分なポリマー分子量を有する複合体を形成させる従来のアプローチは、概して、分子に対して多数のポリマー鎖をランダム付加させることに関する物であった。それゆえ、親分子の生物活性を低減させるか、全く失ってしまうおそれが大きいアプローチであった。
【0013】
遺伝的にコードされていないアミノ酸を、タンパク質中に組み込むことができる。これによって、天然の機能性基(例えば、リシンのε-NH、システインのスルフヒドリル-SH、ヒスチジンのイミノ基など)に代わる種々の代替物を提供しうるような、化学機能性基を導入することができる。特定の化学機能性基は、通常の20種類のアミノ酸(遺伝子にコードされているアミノ酸)が有する機能性基に対しては不活性である一方で、手際よく効率的に反応して安定な結合を形成することが知られている。例えば、アジド基およびアセチレン基は、水性条件下かつ触媒量の銅の存在下で、Huisgen[3+2]環状付加反応を起こすことが当業者に知られている(例えば、Tornoe, et al., (2002) Org. Chem. 67:3057-3064; Rostovtsev, et al., (2002) Angew. Chem. Int. Ed. 41:2596-2599.を参照)。タンパク質構造中にアジド部分を導入することによって、例えば、タンパク質中のアミン基、スルフヒドリル基、カルボン酸基、ヒドロキシ基に対しては不活性である一方で、アセチレン部分と円滑かつ効率的に反応して環状付加生成物を形成するような、機能性基を組み込むことができる。重要なことには、アセチレン部分がない場合には、アジドは化学的に不活性なままであり、他のタンパク質側鎖の存在下かつ生理的条件下では反応しないのである。
【0014】
本発明は、特に、抗原結合性ポリペプチドおよびその断片(具体的には、ポリペプチド-小分子複合体)の、活性および産生に関する課題に取り組むものである。本発明はまた、生物学的特性または薬学的特性を向上させた(治療上の半減期の増加など)、抗原結合性ポリペプチドおよびポリペプチド-小分子複合体の産生に取り組むものである。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、抗CD3抗体、およびその葉酸との複合体を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の新規な抗CD3抗体は、1つ以上の天然にコードされていないアミノ酸を含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、完全な抗体重鎖を含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、完全な抗体軽鎖を含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、抗体軽鎖の可変領域を含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、抗体重鎖の可変領域を含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、抗体軽鎖のCDRを1つ以上含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、抗CD3抗体の抗体重鎖のCDRを1つ以上含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、軽鎖のCDRの1つ以上と、重鎖のCDRの1つ以上とを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、Fabを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、2つ以上のFab含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、scFvを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、2つ以上のscFvを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、minibodyを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は2つ以上のminibodyを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、diabodyを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、2つ以上のdiabodyを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、完全な軽鎖と完全な重鎖とを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、Fcドメインまたはその一部を1つ以上含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、上述の実施形態の任意の組み合わせを含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、任意の上述の実施形態のホモ二量体、ヘテロ二量体、ホモ多量体またはヘテロ多量体を含んでいる。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、結合対象に結合しているポリペプチドを含んでいる(ここで、上記結合対象は、抗原、ポリペプチド、核酸分子、ポリマー、または他の分子もしくは物質を含んでいる)。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、抗体以外の骨格分子または物質と結合している。
【0016】
いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、1つ以上の翻訳後修飾を有している。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、リンカー、ポリマーまたは生物活性を有する分子と連結している。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、二機能性ポリマー、二機能性リンカー、または1つ以上の追加の抗CD3抗体と連結している。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、抗CD3抗体ではないポリペプチドと連結している。いくつかの実施形態において、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗原結合性ポリペプチドは、1つ以上の追加の抗原結合性ポリペプチドと連結している(追加の抗原結合性ポリペプチドもまた、天然にコードされていないアミノ酸を有していてもよい)。いくつかの実施形態において、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗原結合性ポリペプチドは、1つ以上のポリペプチド-小分子複合体と連結している(ポリペプチド-小分子複合体もまた、天然にコードされていないアミノ酸を有していてもよい)。いくつかの実施形態において、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗CD3抗体は、1つ以上の追加の抗原結合性ポリペプチドと連結している(追加の抗原結合性ポリペプチドもまた、天然にコードされていないアミノ酸を有していてもよい)。
【0017】
いくつかの実施形態において、天然にコードされていないアミノ酸は、水溶性ポリマーと連結している。いくつかの実施形態において、水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール部分を含んでいる。いくつかの実施形態において、ポリエチレングリコール分子は、二機能性ポリマーである。いくつかの実施形態において、二機能性ポリマーは、第2のポリペプチドと連結している。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、抗原結合性ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、抗CD3抗体である。
【0018】
いくつかの実施形態において、抗CD3抗体におけるアミノ酸の置換は、天然に生じるアミノ酸によるものであってもよいし、天然に生じないアミノ酸によるものであってもよい。ただし、1つ以上の置換は、天然にコードされていないアミノ酸によるものである。
【0019】
いくつかの実施形態において、天然にコードされていないアミノ酸は、カルボニル基、アセチル基、アミノオキシ基、ヒドラジン基、ヒドラジド基、セミカルバジド基、アジド基またはアルキン基を有している。
【0020】
いくつかの実施形態において、ポリエチレングリコール分子の分子量は、約0.1kDa~約100kDaである。いくつかの実施形態において、ポリエチレングリコール分子の分子量は、0.1kDa~50kDaである。
【0021】
いくつかの実施形態において、ポリエチレングリコール分子は、分枝ポリマーである。いくつかの実施形態において、ポリエチレングリコール分枝ポリマーの各分枝の分子量は、1kDa~100kDa、または1kDa~50kDaである。
【0022】
本発明はまた、1つ以上の天然にコードされていないアミノ酸と結合しているリンカー、ポリマーまたは生物活性を有する分子を含んでいる、抗CD3抗体ポリペプチドを提供する(上記天然にコードされていないアミノ酸は、リボソームによって、上記ポリペプチドの事前に選択した位置に組み込まれる)。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】T細胞の標的細胞に対する攻撃と、抗CD3Fab-葉酸による傷害が投与量依存的であることを示す。図1(A)は、KB細胞(FR)、OV-90細胞(FR)およびCAKI-1細胞(FR)を、活性化ヒトPBMCの存在下にて抗CD3Fab-葉酸で処置した際の、T細胞媒介性細胞傷害が投与量依存的であることを示すグラフである(標的細胞:効果細胞=1:10)。抗CD3Fab-葉酸または非複合体化抗CD3Fabの濃度の増加系列の下で、37℃、5%COにて12~24時間、標的細胞とインキュベートした。製造元のプロトコルに則り(Cytotox 96 nonradioactive cytotoxicity assay, Promega)、溶解した細胞から放出されるLDHレベルを測定することによって、細胞傷害を定量化した。図1(B)は、葉酸を含まないRPMI-1640培地で維持されている、SKOV-3細胞を示している。この培地には、細胞を48ウェル細胞培養プレートに播種してプレートに付着させる前に、少なくとも3代にわたって10%FBSを添加した。また、細胞を付着させた後には、ヒトPBMCを添加した(標的細胞:効果細胞=1:10)。抗CD3Fabまたは抗CD3Fab-葉酸を葉酸を含まない培地で稀釈して、図に記載の濃度となるように加え、共培地を16時間インキュベートした。25倍の対物顕微鏡で画像を撮影した。
図2】抗CD3Fab-葉酸二重特異性薬剤のin vivoにおける効果を、メスのNOD-SCIDマウスを用いた異種移植モデルで評価した。動物を低葉酸食で飼育して、二重特異性薬剤の競合するおそれのある、循環血清中の葉酸レベルを低下させた。KB細胞(FR)またはA549細胞(FR)には、非活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:100)または活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:10)と混合した際に腫瘍形成能がみられ、この混合物をマウスに皮下注射した。ヒトPBMCと混合したKB細胞(標的細胞:効果細胞=1:10)をマウスに埋入した。その後上記マウスに、1.5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸またはPBSを静脈内注射した(腫瘍細胞の埋入と同じ日に開始し、10日間毎日続けた)。図2(A)は、この実験における腫瘍体積を示している。PBSで処置したマウスにおいては、腫瘍体積の急激な増加が見られた(約5日間で倍増する速度)。これとは対照的に、抗CD3Fab-葉酸で処置したマウスの腫瘍は、研究の間を通して、辛うじて検出できる程度であった。並行研究では、非活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:100)と混合したKB細胞をマウスに埋入した。そして、1.5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸またはPBSで静脈内処置した(腫瘍細胞の埋入と同じ日に開始し、10日間毎日続けた)。図2(B)に、標的細胞:効果細胞=1:100とした実験における腫瘍体積を示す。腫瘍が減少する速度は、抗CD3Fab-葉酸で処置したマウスの方が速かった。研究35日目以降、PBSで処置したマウスの腫瘍は、体積が徐々に増加していった。一方、抗CD3Fab-葉酸で処置したマウスの腫瘍は、辛うじて検出できる程度まで減少した。このことは、抗CD3Fab-葉酸複合体によれば、活性化T細胞の非存在下であっても、細胞傷害性T細胞の攻撃によって腫瘍が排除されることを示している。図2(C)は、両処置群のマウスについて、体重の変化をグラフに表したものである。図2(D)は、3種類の試験群のラットにおける、経時的な血清濃度を示している。この試験群とは、1mg/kgの抗CD3Fab-葉酸を注射した群;5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸を注入した群;および、1mg/kgの抗CD3Fabを注射した群である。一定間隔で血清を採取し、ELISAで分析した。抗CD3Fab-葉酸も、対応する非複合体化抗CD3Fab変異体も、いずれも、血清濃度は同じ速度で減少した(血清半減期:60分間)。
図3】FRおよびCD3に対する、葉酸複合体の結合を示す。図3(A)は、葉酸-CF488が、KB細胞(FR)に対しては結合するが、A549細胞(FR)に対しては結合しないことをグラフに表したものである(遊離葉酸との競合によって分析した)。複合体濃度の増加系列の下に、100nMの葉酸を含む培地と共に、4℃にて30分間細胞をインキュベートした。そして、細胞と結合している蛍光をフローサイトメトリーで分析した。図3(B)は、抗CD3Fab-CF488が、Jurkat細胞(CD3)に対しては結合するが、KB細胞(CD3)に対しては結合しないことをグラフに表したものである。複合体濃度の増加系列の下に、4℃にて30分間細胞をインキュベートした。結合はフローサイトメトリーで分析した。
図4】2種類の独立した細胞傷害アッセイによる、抗CD3Fab-葉酸複合体のT細胞媒介性傷害を示す。非活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:10)の存在下で抗CD3Fab-葉酸で処置したところ、KB細胞(FR)においては投与量依存的なT細胞媒介性細胞傷害が見られたのに対し、A549細胞(FR)では見られなかった。抗CD3Fab-葉酸の濃度の増加系列の下で、37℃、5%COにて12~24時間、標的細胞と共にインキュベートした。図4(A)では、細胞をDIOで標識付けし(細胞膜を緑色に染色)、ヨウ化プロピジウムを最終濃度が1μg/mLとなるように加えた。細胞傷害は、フローサイトメトリーによって測定した。図4 (B)は、PBMCを洗い流してから24時間後における、KB細胞のATP含有量をグラフに表したものである(Cell Titer Glo(Promega)を用いて測定した)。
図5】ヒト化SP34Fabおよび複合体に含まれる新規な配列(配列番号1~15)の、SKOV-3に対する結合を示す。葉酸を含まない媒体でアッセイした。
図6】ヒト化SP34Fabおよび複合体に含まれる新規な配列(配列番号1~15)の、SKOV-3に対する結合を示す。50nMのSFAを含む媒体でアッセイした。
図7】(a)は、キメラ化SP34-葉酸の投与によって誘導される、CD69の発現を示す。(b)は、図7(a)と同じ血清サンプルで処置したHPB-ALL細胞の生存を示す。
図8】ヒトPBMC中における細胞傷害の割合を示す、殺傷アッセイである。図6における、50nM SFAの条件を再現した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔定義〕
本発明は、本明細書で説明している具体的な方法、プロトコル、細胞株、構成および薬剤に限定されるものではなく、変更を施しうるものであることを理解されたい。また、本明細書で使用する術語は、具体的な実施形態を説明するためにのみ用いられるのであって、本発明の範囲を限定する意図はないことも理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いるとき、単数形("a," "an," "the")には、文脈上明らかに除外されない限り、複数の対象が包含される。したがって、例えば、「ポリペプチド-小分子複合体」または「抗CD3抗体」に対する言及は、このようなタンパク質の1つ以上にたいする言及であって、当業者に知られている均等物なども含まれている。
【0026】
別途定義されていない限り、本明細書において用いる技術用語および科学用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解される意味と同じ意味である。本明細書に記載の方法、装置および物質と類似または均等である任意ものを、本発明の実施または試験において使用することができる。しかし、好ましい方法、装置及び物質は、ここに記載されているものである。
【0027】
本明細書において言及する刊行物および特許は、参照により本明細書に組み込まれる。これは、説明および開示を目的とする(例えば、本発明との関連において用いられるかもしれない、当該刊行物に記載の構成および方法の)。本明細書で論じる刊行物は、単に、本出願の出願日以前における開示を提供するためのものである。本明細書における何らの記載も、先行発明または他の理由を根拠に、本発明者らが上述の開示に先行する資格を有していないことの自白と解釈すべきではない。
【0028】
用語「実質的に精製されている」とは、抗CD3抗体が、天然に産生される環境(つまり天然細胞)または宿主細胞(組み換えで産生された抗CD3抗体の場合)において、タンパク質が通常伴ったり、タンパク質と相互作用したりする成分を、実質的または本質的に含みえないことを表す。細胞性の物質を実質的に含みえない抗CD3抗体としては、例えば、混入しているタンパク質を乾燥重量で、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満含んでいるタンパク質の調製物が挙げられる。抗CD3抗体またはその変異体が組み換えによって宿主細胞から産生される場合は、このようなタンパク質が、細胞の乾燥重量の約30%以下、約25%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、または約1%以下存在してもよい。抗CD3抗体またはその変異体が組み換えによって宿主細胞から産生される場合は、培地中にこのようなタンパク質が、細胞の乾燥重量の約5g/L以下、約4g/L以下、約3g/L以下、約2g/L以下、約1g/L以下、約750mg/L以下、約500mg/L以下、約250mg/L以下、約100mg/L以下、約50mg/L以下、約10mg/L以下、または約1mg/L以下存在していてもよい。したがって、本発明の方法によって提供されるとき、「実質的に精製されている」抗CD3抗体の純度は、約30%以上、約35%以上、約40%以上、約45%以上、約50%以上、約55%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上であってもよい。具体的には、純度は約75%以上、約80%以上、約85%以上であってもよい。より具体的には、純度約90%以上、純度約95%以上、純度約99%以上、またはそれを超えていてもよい。ここで、純度は、適切な方法により決定する(SDS/PAGE分析、RP-HPLC、SECおよびキャピラリー電気泳動など)。
【0029】
「組み換え宿主細胞」または「宿主細胞」とは、外来性のポリヌクレオチドを含んでいる細胞を表す。外来性のポリヌクレオチドを挿入する方法は問わない(例えば、直接の取り込み、形質導入、f交配、または組み換え宿主細胞の作製に係る技術分野で公知の方法)。外来性ポリヌクレオチドは、組み込まれないベクター(例えばプラスミド)として維持してもよいし、そうではなく宿主ゲノムに組み込んでもよい。
【0030】
抗体とは、特定の抗原に対する結合特異性を示すタンパク質である。天然の抗体は、通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同一の軽鎖(L鎖)および2つの同一の重鎖(H鎖)から構成されている。各軽鎖は、1本の共有性ジスルフィド結合によって重鎖と連結している。重鎖間のジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのアイソタイプによって異なる。また、各重鎖および各軽鎖には、一定間隔で鎖間にジスルフィド架橋がある。各重鎖の一端には可変ドメイン(V)があり、いくつかの定常ドメインがそれに続く。各軽鎖の一端には可変ドメイン(V)があり、他端には定常ドメインがある。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと位置が揃っている。また、軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと位置が揃っている。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの間の境界面を形成すると考えられている。
【0031】
用語「可変」とは、抗体の中でも、可変ドメインの特定の部分の配列が著しく異なっていることを表す。この配列の差異は、それぞれの特定の抗体の、特定の抗原に対する結合特異性の原因となっている。しかし、この可変性は、抗体の可変ドメインの中に均等に分布しているわけではない。軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの両方に存在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの部分に、可変性が集中している。可変ドメインのより保存性が高い部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインには、いずれも、4つのFR領域が含まれている。その多くはβシート構造を取っており、3つまたは4つのCDRと連結している。CDRはループ構造を形成しており、場合によってはβシート構造の一部を形成している。各鎖のCDRは、FR領域によって近接した状態でまとまって位置している。そして、他の鎖のCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)を参照)。
【0032】
定常ドメインは、抗体の抗原に対する結合に直接は関わらないが、種々のエフェクター機能を示す。重鎖定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体または免疫グロブリンを異なるクラスに分類することができる。免疫グロブリンには5つの主要なクラスがあり(IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM)、そのうちいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)に分類することができる(例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4;IgA1およびIgA2)。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常領域を、それぞれ、α、δ、ε、γおよびμと呼ぶ。種々のヒト免疫グロブリンのクラスの中でも、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3およびヒトIgMだけが、補体を活性化させることが知られている。
【0033】
in vivoにおける抗体の親和性成熟は、主として体細胞超変異によって作られる親和性の高い抗体変異体を、抗原選択することによって進行する。また通常は、「レパートリー・シフト」も発生する。レパートリー・シフトでは、二次応答または三次応答の主要な生殖細胞遺伝子は、一次応答および二次応答のものとは異なっていることが判っている。
【0034】
免疫系の親和性成熟のプロセスは、in vitroで抗体遺伝子に変異を導入し、親和性選択で親和性が向上している変異体を単離するによって、再現することができる。このような変異体抗体を、繊維状バクテリオファージまたは微生物(酵母など)の表面に提示させることができる。そして、抗原に対する親和性によって抗体を選抜したり、抗原からの解離速度(off-rate)によって抗体を選抜したりすることができる(Hawkins et al. J. Mol. Biol. 226:889-896 (1992))。CDR walking mutagenesisによって、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)のヒトエンベロープ糖タンパク質gp120に結合するヒト抗体を親和性成熟させた事例がある(Barbas III et al. PNAS (USA) 91: 3809-3813 (1994); Yang et al. J. Mol. Biol. 254:392-403 (1995))。また、同様の手法で抗c-erbB-2一本鎖Fv断片を親和性成熟させた事例もある(Schier et al. J. Mol. Biol. 263: 551567 (1996))。抗体鎖シャッフリングおよびCDR変異導入によって、HIVの第3超可変ループに対する親和性の高いヒト抗体を親和性成熟させた事例がある(Thompson et al. J. Mol. Biol. 256:77-88 (1996))。[Balint and Larrick Gene 137:109-118 (1993)]には、コンピュータを使用したオリゴデオキシリボヌクレオチド特異的なscanning mutagenesisが開示されている。この手法では、改良型変異体を得るために、可変領域遺伝子のCDRの全体を同時にサーチする。initial limited mutagenesis strategyにより、αvβ3に特異的なヒト化抗体を親和性成熟させた事例もある。この手法では、6つのCDRの全ての位置に突然変異を導入して発現させ、スクリーニングにより親和性が最大の変異体が含まれるコンビナトリアル・ライブラリを得る(Wu et al. PNAS (USA) 95: 6037-6-42 (1998))。ファージに提示された抗体については、[Chiswell and McCafferty TIBTECH 10:80-84 (1992); Rader and Barbas III Current Opinion in Biotech. 8:503-508 (1997)]のレヴューがある。上述の文献のうち、親抗体よりも親和性が向上された変異抗体が報告されているいずれの例でも、変異抗体はCDRにアミノ酸の置換を有していた。
【0035】
本明細書において「親和性成熟」とは、抗体の抗原に対する親和性を向上させるプロセスを意味する。親和性成熟の方法としては、コンピュータによるスクリーニング法および実験的方法が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0036】
本明細書において「抗体」とは、抗体遺伝子の全部または一部によって実質的にコードされているポリペプチドの1つ以上を含んでいる、タンパク質を意味する。免疫グロブリン遺伝子としては、定常領域遺伝子であるκ、λ、α、γ(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)、δ、εおよびμ、ならびに無数にある免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。本明細書における抗体には、全長抗体および抗体断片が含まれる。また、任意の生物において天然に存在する抗体も、人工的に作製された抗体(例えば変異体)も含まれる。
【0037】
「抗体断片」とは、全長形態以外の任意の形態である抗体を意味する。本明細書における抗体断片には、(i)全長抗体の中に含まれる小部分である抗体と、(ii)人工的に作製された抗体と、が含まれる。抗体断片としては、これらには限定されないが、Fv、Fc、Fabおよび(Fab’)、一本鎖Fv(scFv)、diabody、triabody、tetrabody、二機能性ハイブリッド抗体、CDR1、CDR2、CDR3、CDRの組み合わせ、可変領域、フレームワーク領域、定常領域などが挙げられる(Maynard & Georgiou, 2000, Annu. Rev. Biomed. Eng. 2:339-76; Hudson, 1998, Curr. Opin. Biotechnol. 9:395-402)。
【0038】
本明細書において「コンピュータによるスクリーニング法」とは、タンパク質における1つ以上の変異を設計する、任意の方法を意味する。この方法では、可能なアミノ酸側鎖の置換同士による相互作用エネルギーの評価、および/または、可能なアミノ酸側鎖の置換とタンパク質の残りの部分との相互作用エネルギーの評価、にコンピュータを利用する。
【0039】
「Fc」とは、免疫グロブリンのCγ2ドメインおよびCγ3ドメイン(Cγ2およびCγ3)から構成される、抗体の部分を意味する。Fcは、Cγ2とCγ1(Cγ1)との間のN末端ヒンジに存在する、任意の残基を含んでいてもよい。「Fc」とは、単離された状態の上記領域を指してもよいし、抗体または抗体断片中にある上記領域を指してもよい。Fcには、Fcの任意の修飾形態も含まれる。例えば、天然の単量体、天然の二量体(ジスルフィド結合で連結されている)、修飾された二量体(ジスルフィド結合および/または非共有結合している)、および修飾された単量体(つまり誘導体)が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0040】
本明細書において「全長抗体」とは、抗体のH鎖および/またはL鎖の、天然の生物学的形態を構成する構造を意味する。多くの哺乳動物では(例えばヒトおよびマウス)、上記の形態は四量体であり、2本の免疫グロブリン鎖の組み合わせ2組(同一の組み合わせが2組)からなる。それぞれの組み合わせには、1本の軽鎖および1本の重鎖が含まれている。それぞれの軽鎖には、免疫グロブリンのVドメインおよびCドメインが含まれている。それぞれの重鎖には、免疫グロブリンのVドメイン、Cγ1ドメイン、Cγ2ドメインおよびCγ3ドメインが含まれている。それぞれの組み合わせの中で、軽鎖可変領域および重鎖可変領域(VおよびV)は、抗原に対する結合を共に担っている。定常領域(CL、Cγ1、Cγ2およびCγ3、とりわけCγ2およびCγ3)は、抗体のエフェクター機能を担っている。ある種の哺乳動物では(例えばラクダおよびラマ)、全長抗体は2本の重鎖のみからなっていてもよい。それぞれの重鎖には、免疫グロブリンのVドメイン、Cγ2ドメインおよびCγ3ドメインが含まれている。
【0041】
本明細書において「免疫グロブリン(Ig)」とは、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされているポリペプチドの1つ以上から構成される、タンパク質を意味する。免疫グロブリンとしては、抗体などが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。免疫グロブリンは、種々の構造上の形態をとってもよい。例えば、これらには限定されないが、全長抗体、抗体断片、免疫グロブリンの個々のドメイン(例えば、これらには限定されないが、V、Cγ1、Cγ2、Cγ3、VおよびC)が挙げられる。
【0042】
本明細書において「免疫グロブリン(Ig)のドメイン」とは、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされているポリペプチドから構成される、タンパク質ドメインを意味する。Igのドメインとしては、これらには限定されないが、V、Cγ1、Cγ2、Cγ3、VおよびCが挙げられる(図1に示す通り)。
【0043】
本明細書において用いる「変異タンパク質配列」とは、他の類似のタンパク質配列とはアミノ酸同一性が異なる残基を1つ以上有している、タンパク質配列を意味する。上記の「類似のタンパク質配列」は、天然の野生型タンパク質配列であってもよいし、野生型配列とは異なる変異型であってもよい。一般的に、元の配列を「親配列」と表現する。親配列は、野生型配列であっても変異型配列であってもよい。例えば、本発明の好ましい実施形態では、ヒト化親配列を利用して、これをコンピュータ解析することによって変異型を作製してもよい。
【0044】
本明細書において、抗体の「可変領域」とは、図1に示すように、免疫グロブリンのVドメイン、免疫グロブリンのVドメイン、または免疫グロブリンのVドメインおよびVドメインから構成される、1または複数のポリペプチドを意味する(変異体も含まれる)。「可変領域」は、単離された状態のこれらのポリペプチドを指してもよいし(Fv断片、scFv断片、より大型の抗体断片に含まれる当該領域として)、全長抗体(あるいは、抗体ではない骨格分子)に含まれる当該領域を指してもよい。
【0045】
本発明は、広汎な出所から得られる抗体に応用しうる。抗体は、任意の生物に由来する1または複数の抗体遺伝子によって、実質的にコードされうる。このような生物としては、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ラクダ、ラマ、ヒトコブラクダ、サルが挙げられ、具体的には哺乳動物であり、具体的にはヒトであり、具体的にはマウスおよびラットである(ただし、これらに限定されない)。一実施形態において、抗体は、完全ヒト抗体である。完全ヒト抗体は、例えば、患者または被験体からトランスジェニックマウスまたは他の動物を用いて得ることもできるし(Bruggemann & Taussig, 1997, Curr. Opin. Biotechnol. 8:455-458)、ヒト抗体ライブラリと選抜方法を組み合わせて得ることもできる(Griffiths & Duncan, 1998, Curr. Opin. Biotechnol. 9:102-108)。抗体は、任意の出所(人工的な出所および天然に生じる出所を含む)に由来していてよい。例えば、本発明は、人工抗体を利用してもよい。人工抗体としては、ラクダ化抗体およびヒト化抗体(Clark, 2000, Immunol. Today 21:397-402))、またはコンビナトリアル・ライブラリに由来する抗体が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。さらに、天然の抗体遺伝子の1つ以上によって実質的にコードされている抗体の人工変異体は、最適化抗体であってもよい。例えば、一実施形態において、最適化抗体は、親和性成熟によって特定された抗体である。
【0046】
本発明の抗CD3抗体に関して、用語「抗原特異的」または「特異的に結合する」とは、抗原を含む混合物を含有するサンプル中で、所定の抗原または所定の結合対象のエピトープの1つ以上と結合するが、他の分子を実質的に認識せず結合しないような抗CD3抗体を表す。
【0047】
本明細書において用いるとき、用語「二重特異的抗CD3抗体」または「多重特異的抗CD3抗体」とは、2つ以上の抗原結合部位または結合対象結合部位を有している抗CD3抗体を表す。ここで、第1の結合部位は第1の抗原またはエピトープに対する親和性を有しており、第2の結合部位は第2の抗原またはエピトープ(第1の抗原またはエピトープとは異なる)に対する結合親和性を有している。
【0048】
本明細書において用いるとき、用語「エピトープ」とは、抗CD3抗体によって認識される、抗原上の部位または結合対象上の部位を表す。抗原がポリペプチドを含んでいる場合、エピトープは、直線または立体的に形成されるアミノ酸の配列または形状でありうる。また、エピトープは、任意の種類の抗原上にある、抗CD3抗体が当該抗原に結合する任意の位置でもありうる。
【0049】
本明細書において用いるとき、「抗原結合性ポリペプチド」または「抗CD3抗体」には、特定の結合対象(抗原など)に対する特異的結合の生物活性を少なくとも有している、ポリペプチドおよびタンパク質が包含されねばならない。また、上記ポリペプチドおよびタンパク質の、抗CD3抗体アナログ、イソ型抗CD3抗体(isoforms)、抗CD3抗体模倣体(mimetics)、抗CD3抗体断片、ハイブリッド抗CD3抗体タンパク質、融合タンパク質、オリゴマーおよび多量体、ホモログ、グリコシル化変異体、ならびに突然変異タンパク質も、同様の生物活性の有無にかかわらず包含されねばならない。さらに、これらの物質の合成方法または作製方法も限定されない。このような合成または作製方法としては、組み換え(cDNA、ゲノムDNA、合成DNAまたは核酸の他の形態のいずれから作製されるかにかかわらない)、in vitroまたはin vivoでの核酸分子のマイクロインジェクションによる方法、合成法、トランスジェニック法、および遺伝子活性化法(gene activated methods)が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。抗CD3抗体の具体例としては、抗体分子、重鎖、軽鎖、可変領域、CDR、Fab、scFv、他の骨格を有する非抗体分子、リガンド、受容体、ペプチド、または抗原と結合する任意のアミノ酸配列が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0050】
用語「抗CD3抗体」または「抗原結合性ポリペプチド」とは、上述の抗CD3抗体に加えて、天然の抗体が有する生物活性の1つ以上を保持しているポリペプチドを表す。このような生物活性には、抗原に対する結合以外の活性も含まれる(ただし、これらに限定されない)。抗原に対する結合以外の活性としては、Fcと関連する1つ以上の任意の活性が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0051】
抗原結合性ポリペプチドとしては、薬学的に許容可能な塩およびプロドラッグがある。プロドラッグとしては、天然のヒト抗CD3抗体の、塩、多形体、水和物、溶媒和物、生物活性を有する断片、生物活性を有する変異体、および立体異性体がある。天然のヒト抗CD3抗体のアゴニスト変異体、模倣体およびアンタゴニスト変異体、ならびにそれらのポリペプチド融合体に対する塩、多形体なども、上記プロドラッグである。アミノ末端、カルボキシ末端またはその両方に追加のアミノ酸を有する融合体も、用語「抗原結合性ポリペプチド」に包含される。融合体の代表例としては、組み換え発現の結果として抗CD3抗体のN末端にメチオニンが連結している、メチオニル抗CD3抗体が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。また、精製目的のための融合体(例えば、これらには限定されないが、ポリヒスチジンまたは親和性エピトープ)、抗CD3抗体と他の生物活性を有する分子とを連結するための融合体、血清アルブミン結合ペプチドとの融合体、血清タンパク質(血清アルブミンなど)との融合体も挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0052】
用語「抗原」または「結合対象(binding partner)」とは、抗CD3抗体が示す結合活性の標的となる物質を表す。実質的には、任意の物質は、抗CD3抗体の抗原または結合対象でありうる。
【0053】
本発明の二重特異性抗体には、ヒト化SP34抗体または抗体断片である、抗CD3二重特異性抗体が含まれる。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の160位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の172位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の157位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の129位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を、重鎖の129位および軽鎖の172位に有している。
【0054】
いくつかの実施形態において、本発明には、重鎖の204位に天然にコードされていないアミノ酸を有しているヒト化SP34抗体が含まれる。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の210位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の191に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の187位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の133位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の114位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を重鎖の115位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の111位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の115位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の204位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の191位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の193位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、天然にコードされていないアミノ酸を軽鎖の186位に有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、上述のアミノ酸変異のうち2つを有している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、上述のアミノ酸変異のうち2つ以上を有している。
【0055】
本発明の二重特異性抗体には、ヒト化SP34抗体または抗体断片である、抗CD3二重特異性抗体が含まれている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の160位のThrが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の172位のLysが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の157位のLeuが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の129位のLysが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の129位のLysおよび軽鎖の172位のLysが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の129位のLysおよび軽鎖の157位のLeuが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の204位のAsnが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の210位のLysが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の191位のThrが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の187位のSerが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の133位のGlyが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の114位のAlaが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の115位のSerが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の111位のArgが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の115位のAlaが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の204位のLeuが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の191位のLysが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の193位のLysが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の186位のLysが天然にコードされていないアミノ酸に置換されている。
【0057】
本発明の二重特異性抗体には、葉酸と複合しているヒト化SP34抗体または抗体断片である、抗CD3Fab-葉酸二重特異性抗体が含まれる。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の160位のThrにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の172位のLysにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の157位のLeuにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の129位のLysにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の129位のLysおよび軽鎖の172位のLysにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の129位のLysおよび軽鎖の157位のLeuにおいて葉酸と複合している。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の204位のAsnにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の210位のLysにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の191位のThrにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の187位のSerにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の133位のGlyにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の114位のAlaにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、重鎖の115位のSerにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の111位のArgにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の115位のAlaにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の204位のLeuにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の191位のLysにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の193位のLysにおいて葉酸と複合している。本発明のいくつかの実施形態において、ヒト化SP34抗体は、軽鎖の186位のLysにおいて葉酸と複合している。
【0059】
種々の文献が、ポリマーとの複合体化またはグリコシル化によるポリペプチドの修飾について開示している。用語「抗CD3抗体」または「抗原結合性ポリペプチド」には、PEGなどのポリマーと複合しているポリペプチドであって、システイン、リシン、N末端もしくはC末端のアミノ酸、または他の残基の1つ以上が、追加で誘導体化されていてもよいポリペプチドが含まれる(ただし、これらに限定されない)。さらに、抗CD3抗体は、リンカー、ポリマーまたは生物活性を有する分子を有していてもよい。ここで、上記リンカー、ポリマーまたは生物活性を有する分子と複合しているアミノ酸は、本発明に係る非天然アミノ酸であってもよい。あるいは、公知の技術(リシンまたはシステインとのカップリングなど)を利用して、天然にコードされているアミノ酸と複合させてもよい。米国特許第4,904,584号は、リシンを低減させたPEG化ポリペプチドを開示している。上記PEG化ポリペプチドは、1つ以上のリシン残基が欠失しているか、他のアミノ酸残基に置換されている。国際公開第99/67291号は、タンパク質をPEGと複合体化させる方法を開示している。上記方法では、タンパク質の1つ以上のアミノ酸残基を欠失させ、タンパク質の複合体化に充分な条件下にて、当該タンパク質をPEGと接触させる。国際公開第99/03887は、成長ホルモンスーパーファミリーに属するポリペプチドの、PEG化変異体を開示している。上記PEG化変異体のシステイン残基は、上記ポリペプチドの特定の領域に位置する非必須アミノ酸残基に置換されている。国際公開第00/26354号は、アレルゲン性を低減させたグリコシル化ポリペプチド変異体の製造方法を開示している。上記ポリペプチド変異体は、対応する親ポリペプチドと比較して、1つ以上の追加のグリコシル化部位を有している。
【0060】
用語「抗原結合性ポリペプチド」には、グリコシル化抗CD3抗体も含まれる。グリコシル化抗CD3抗体とは、任意のアミノ酸の位置においてグリコシル化されたポリペプチドであって、当該ポリペプチドがN結合型グリコシル化またはO結合型グリコシル化したものなどである(ただし、これらに限定されない)。また、1個のヌクレオチド変異を有する変異体も、生物活性を有する抗CD3抗体変異体と考えられる。さらに、スプライシング変異体も抗原結合性ポリペプチドに含まれる。用語「抗原結合性ポリペプチド」には、1つ以上の任意の抗CD3抗体の、ヘテロ二量体、ホモ二量体、ヘテロ多量体またはホモ多量体も含まれる。あるいは、抗原結合性ポリペプチドには、任意の他のポリペプチド、タンパク質、炭化水素、ポリマー、小分子、リンカー、リガンド、または他の任意の種類の生物活性を有する分子と、化学的手段で連結している、または融合タンパク質として発現している物質も含まれる。同様に、例えば特定の欠失または他の修飾を有するポリペプチドアナログであって、生物活性が依然として維持されている物質も含まれる。
【0061】
いくつかの実施形態において、抗原結合性ポリペプチドは、抗CD3抗体の生物活性を調節する付加、置換または欠失をさらに有している。例えば、付加、置換または欠失により、抗CD3抗体の特性または活性の1つ以上を調節してもよい。このような調節の例としては、(i)抗原に対する親和性の調節、(ii)抗原の立体配置または他の二次構造、三次構造、四次構造の変化の調節(例えば変化量の増減であるが、これらには限定されない)、(iii)抗原の立体配置または他の二次構造、三次構造、四次構造の変化の安定化、(iv)抗原の立体配置または他の二次構造、三次構造、四次構造の変化の誘導、(v)循環半減期の調節、(vi)治療上の半減期の調節、(vii)ポリペプチドの安定性の調節、(viii)投与量の調節、(ix)放出または生体利用性の調節、(x)精製の促進、(xi)特定の投与経路の改善または変更、が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。同様に、抗原結合性ポリペプチドは、プロテアーゼ切断配列、反応性の基、抗体結合ドメイン(例えばFLAGまたはポリHisであるが、これらには限定されない)、または他の親和性配列(例えばFLAG、ポリHis、GSTなどであるが、これらには限定されない)、または結合分子(例えばビオチンであるが、これには限定されない)を有していてもよい。上記結合分子には、ポリペプチドの検出を容易にするもの(例えばGFPだが、これらには限定されない)、精製を容易にするもの、他の特質を改善するものがある。
【0062】
用語「抗原結合性ポリペプチド」には、連結されている抗CD3抗体のホモ二量体、ヘテロ二量体、ホモ多量体およびヘテロ多量体も含まれる。連結の様式としては、(i)天然にコードされていないアミノ酸の側鎖を介した直接の連結、(ii)同じまたは異なる天然にコードされていないアミノ酸の側鎖の間の連結、(iii)天然にコードされているアミノ酸の側鎖間の連結、(iv)融合による連結、または(v)がリンカーを介した間接的な連結、が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。リンカーの代表例としては、小型の有機化合物、様々な長さの水溶性ポリマー(様々な長さのポリエチレングリコール、ポリデキストランまたはポリペプチドなど)が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0063】
特定の抗原結合性ポリペプチド配列中の位置に対応しているアミノ酸の位置を、当該抗原結合性ポリペプチドの断片または関連する抗原結合性ポリペプチドなどにおいて容易に特定できることを、当業者ならば理解するであろう。例えば、配列アライメントプログラム(BLASTなど)を用いて、関連配列中の位置に対応しているタンパク質中の特定の位置を、整列させ特定することができる。
【0064】
用語「抗原結合性ポリペプチド」には、1つ以上のアミノ酸の置換、付加または欠失を有している、抗原結合性ポリペプチドも含まれる。本発明の抗原結合性ポリペプチドは、1つ以上の天然アミノ酸が1つ以上の非天然アミノ酸と複合体化している修飾を有していてもよい。天然の抗CD3抗体ポリペプチド中の種々のアミノ酸の位置における置換の代表例については、既に説明した。例えば、抗原結合性ポリペプチドの生物活性の1つ以上を調節する置換が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。具体的には、アゴニスト活性の向上、ポリペプチドの溶解性の向上、ポリペプチドのアンタゴニストへの変換などである(ただし、これらに限定されない)。これらの例も、用語「抗CD3抗体」に含まれる。
【0065】
「天然にコードされていないアミノ酸」とは、20種類の通常アミノ酸、またはピロリシンもしくはセレノシステインのうちの1種類ではないアミノ酸を表す。用語「天然にコードされていないアミノ酸」の同義語として用いられうる用語には、「非天然アミノ酸、非天然のアミノ酸("non-natural amino acid," "unnatural amino acid," "non-naturally-occurring amino acid")」、および上記の語にハイフンを付した、またはハイフンを付さない形態がある。用語「天然にコードされていないアミノ酸」には、天然にコードされているアミノ酸(20種類の通常アミノ酸またはピロリシンおよびセレノシステインなどであるが、これらには限定されない)の修飾(例えば翻訳後修飾)により生じるが、それ自体としては、通常、翻訳複合体によって伸長するポリペプチド鎖に組み込まれることがないアミノ酸も含まれる(ただし、これらに限定されない)。このような非天然のアミノ酸の例としては、N-アセチルグルコサミニル-L-セリン、N-アセチルグルコサミニル-L-トレオニンおよびO-ホスホチロシンが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0066】
「アミノ末端修飾基」とは、ポリペプチドのアミノ末端に付加させることのできる、任意の分子を表す。同様に、「カルボキシ末端修飾基」とは、ポリペプチドのカルボキシ末端に付加させることのできる、任意の分子を表す。末端修飾基としては、種々の水溶性ポリマー、ペプチドもしくはタンパク質(血清アルブミンなど)、またはペプチドの血清半減期を延長させる他の部分が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0067】
用語「機能性基」「活性部位」「活性化基」「脱離基」「反応部位」「化学反応基」および「化学反応部位」は、本技術分野および本明細書において、分子中の区別可能かつ定義可能な部分またはユニットを表すために用いられる。これらの用語は、化学の技術分野においては、概ね同じ意味を有している。また、本明細書においては、何らかの機能または活性を有したり、他の分子と反応したりする分子の部分を示すために用いる。
【0068】
本明細書において、用語「結合(linkage)」または「リンカー」とは、化学反応の結果として通常は形成され、通常は共有結合である、基または結合を表すために用いる。「加水分解に対して安定な結合」とは、当該結合が水中で実質的に安定であり、実用的なpH値において水と反応しないことを意味する(例えば、これらには限定されないが、生理的条件下において長期間(場合によってはいつまでも)反応しない)。「加水分解に対して不安定な結合」または「加水分解に対して分解性の結合」とは、当該結合が水中または水溶液中(例えば血液中)において分解性であることを意味する。「酵素に対して不安定な結合」または「酵素に対して分解性の結合」とは、当該結合が1種類以上の酵素によって分解されうることを意味する。本技術分野において知られているように、PEGおよび関連ポリマーは、(i)ポリマー骨格中、または(ii)ポリマー骨格と当該ポリマー分子の末端機能性基の1つ以上との間にあるリンカー基中に、分解性の結合を有していてもよい。例えば、PEGカルボン酸または活性化PEGカルボン酸と、生物活性を有する薬剤のアルコール基との反応によって形成されるエステル結合は、通常、生理的条件下において加水分解して、上記薬剤を放出する。他の加水分解に対して分解性の結合としては、(i)カーボネート結合、(ii)アミンとアルデヒドとの反応から生じるイミン結合、(iii)アルコールとリン酸基との反応により形成されるリン酸エステル結合、(iv)ヒドラジドとアルデヒドとの反応産物であるヒドラゾン結合、(v)アルデヒドとアルコールとの反応産物であるアセタール結合、(vi)蟻酸塩とアルコールとの反応産物であるオルトエステル結合、(vii)アミン基(例えば、PEGなどのポリマー末端にあるが、これには限定されない)と、ペプチドのカルボキシ基によって形成されるペプチド結合、(viii)ホスホラミダイト基(例えば、ポリマーの末端にあるが、これには限定されない)と、オリゴヌクレオチドの5’ヒドロキシル基とによって形成されるオリゴヌクレオチド結合、が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。本発明の抗原結合性ポリペプチドにおいては、分枝のあるリンカーを用いてもよい。
【0069】
本明細書において用いるとき、用語「生物活性を有する分子」「生物活性を有する部分」または「生物活性を有する薬剤」とは、生体システム、生体経路、生体分子、または生物(例えば、ウイルス、細菌、バクテリオファージ、トランスポゾン、プリオン、昆虫、真菌、植物、動物およびヒトであるが、これらには限定されない)に関連する相互作用の、何らかの物理的特性または生化学的特性に対して、何らかの影響を与えることができる任意の物質を意味する。具体的には、本明細書において用いるとき、「生物活性を有する分子」には、(i)ヒトまたは他の動物の疾患の診断、治療、緩和、処置または予防を目的とする任意の物質、あるいは、(ii)ヒトまたは動物の肉体的または精神的福祉を改善することを目的とする任意の物質、が含まれる(ただし、これらに限定されない)。生物活性を有する分子の例としては、ペプチド、タンパク質、酵素、小分子薬、強い薬(hard drugs)、弱い薬(soft drugs)、色素、脂質、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、毒素、細胞、ウイルス、リポソーム、微粒子およびミセルが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。本発明において好適に用いられる生物活性を有する薬剤の種類としては、薬物、プロドラッグ、放射性核種、造影剤、ポリマー、抗生物質、殺真菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、心血管作用薬、抗不安剤、ホルモン、成長因子、ステロイド剤、微生物由来の毒素などが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0070】
本発明の抗CD3抗体は、PEGなどの分子と複合して、in vivoにおける送達および薬物動態プロファイルを改善させてもよい。Leong et al.は、抗IL-8抗体のFab’断片を部位特異的にPEG化するによって、抗原結合活性をほとんど(または全く)失うことなく、非PEG化状態のものよりもクリアランス速度を低減させた旨を開示している(Leong, S.R. et al. (2001) Cytokine 16:106-119)。
【0071】
他にも、数多くの切断可能なリンカーが当業者に知られている(米国特許第4,618,492号、同第4,542,225号および同第4,625,014号を参照)。これらのリンカー基から薬剤が放出される機構としては、例えば、光に対して不安定な結合に対する光照射、および酸触媒による加水分解がある。例えば、米国特許第4,671,958号には、in vivoにおいて、患者の補体系のタンパク質分解酵素によって標的部位で切断されるリンカーを有している、免疫複合体の記載がある。リンカーの長さは、事前に決定されていてもよいし、抗CD3抗体とこれに連結している分子との間における所望の空間的位置関係に応じて選択してもよい。種々の放射性診断用化合物、放射性治療用化合物、薬物、毒素および他の薬剤を抗体に付加する方法について、数多くの報告がなされており、この視座に立つと、当業者ならば、所定の薬剤を抗CD3抗体または他のポリペプチドに付加する適切な方法を決定することができるであろう。
【0072】
「二機能性ポリマー」とは、2つの別々の機能性基を有しているポリマーを表す。この機能性基は、他の部分(例えばアミノ酸の側鎖があるが、これには限定されない)と特異的に反応して、共有結合または非共有結合を形成することができる。(i)特定の生物活性を有する成分が有する基と反応できる一方の機能性基と、(ii)第2の生物学的成分が有する基と反応できる他方の基と、を有している二機能性リンカーを、第1の生物活性を有する成分、二機能性リンカーおよび第2の生物活性を有する成分を含んでいる複合体の形成に使用してもよい。種々の化合物をペプチドに付加するための、多くの手法およびリンカー分子が知られている。例えば、欧州特許出願第188,256号、米国特許第4,671,958号、同第4,659,839号、同第4,414,148号、同第4,699,784号、同第4,680,338号、同第4,569,789号および同第4,589,071号を参照(参照により本明細書に組み込まれる)。「多機能性ポリマー」とは、2つ以上の別々の機能性基を有しているポリマーを表す。この機能性基は、他の部分(例えばアミノ酸の側鎖があるが、これには限定されない)と特異的に反応して、共有結合または非共有結合を形成することができる。二機能性ポリマーまたは多機能性ポリマーは、任意かつ所望の分子長または分子量であってもよい。また、抗CD3抗体に連結している分子間において、所望かつ特定の間隙または立体配置を与えるように選択してもよい。
【0073】
本明細書において用いるとき、用語「水溶性ポリマー」とは、水性溶媒に溶解させられる任意のポリマーを表す。水溶性ポリマーと抗CD3抗体との結合により、例えば以下のような変化が生じる(ただし、これらに限定されない):(i)修飾していないものと比較した際の、血清半減期の延長もしくは調節、または治療上の半減期の延長もしくは調節、(ii)免疫原性の調節、(iii)物理的な会合特性の調節(凝集および多量体形成など)、(iv)受容体への結合の改変、および受容体の二量化または多量化の改変。水溶性ポリマーは、それ自体として生物活性を有していてもよいし、有していなくてもよい。また、水溶性ポリマーを、抗CD3抗体に他の物質を付加するためのリンカーに利用してもよい。他の物質としては、1つ以上の抗CD3抗体、または1つ以上の生物活性を有する分子が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。好適なポリマーとしては、以下が挙げられる(ただし、これらに限定されない):ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-プロピオンアルデヒド、ポリエチレングリコールのモノC1~C10アルコキシ誘導体またはアリーロキシ誘導体(米国特許第5,252,714号に記載。参照により本明細書に組み込まれる)、モノメトキシ-ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸、ジビニルエーテル-マレイン酸無水物、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド、デキストラン、デキストラン誘導体(硫酸デキストランなど)、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(polyoxyethylated polyol)、ヘパリン、ヘパリン断片、多糖類、オリゴ糖類、グリカン、セルロースおよびセルロース誘導体(例えば、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースがあるが、これらには限定されない)、デンプンおよびデンプン誘導体、ポリペプチド、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアルキレングリコール共重合体およびその誘導体、ポリビニルエチルエーテル、α-β-ポリ[(2-ヒドロキシエチル)-DL-アスパラギン酸アミドなど、またはこれらの混合物。このような水溶性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコールおよび血清アルブミンが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0074】
本明細書において用いるとき、用語「ポリアルキレングリコール("polyアルキルene glycol," "poly(alkene glycol)")」とは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、およびこれらの誘導体を表す。用語「ポリアルキレングリコール」には、直鎖ポリマーも分枝ポリマーも含まれる。ポリアルキレングリコールの平均分子量は、0.1kDa~100kDaである。例えば、商業的製造業者のカタログ(Shearwater Corporationのカタログ"Polyethylene Glycol and Derivatives for Biomedical Applications" (2001)など)には、他の例示的実施形態がまとめられている。
【0075】
本明細書において用いるとき、用語「調節された血清半減期/血清半減期を調節する」とは、修飾した抗CD3抗体を修飾していないものと比較した際の、循環半減期における正または負の変化を意味する。血清半減期は、抗CD3抗体投与後の種々の時点において血液サンプルを採取し、各サンプル中の当該分子の濃度を決定することによって測定する。血清濃度と時間とは相関関係にあるので、血清半減期を計算することができる。約2倍以上の血清半減期の延長が望ましいが、例えば充分な投与計画を与えたり毒性効果を防止したりする場合には、より小さな血清半減期の延長も有用でありうる。いくつかの実施形態において、血清半減期の延長は、約3倍以上、約5倍以上または約10倍以上である。
【0076】
本明細書において用いるとき、用語「調節された治療上の半減期(therapeutic half-life)/治療上の半減期を調節する」とは、治療上有効な量の(i)抗CD3抗体、または(ii)修飾された生物活性を有する分子を有している抗CD3抗体を、修飾していないものと比較した際の、半減期における正または負の変化を意味する。治療上の半減期は、投与後種々の時点における、当該分子の薬物動態学的特性および/または薬力学的特性を測定することによって測定される。治療上の半減期を延長することにより、投与計画または総投与量に特定の利点が与えられたり、望ましくない効果を避けられたりすることが望ましい。いくつかの実施形態においては、効能を増強させたり、修飾された分子の標的に対する結合を強化または弱化させたり、修飾されていない分子の他のパラメータまたは作用機序における増加または減少によって、治療上の半減期が延長される。
【0077】
用語「単離/単離された」とは、核酸またはタンパク質に使用する場合、当該核酸またはタンパク質が天然の状態では伴っている他の細胞成分を、実質的に含んでいないことを意味する。これは、均質な状態でありうる。単離された物質は、乾燥状態であってもよいし、半乾燥状態であってもよいし、溶液状態であってもよい(例えば水溶液があるが、これには限定されない)。通常は、分析科学の技術(ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィなど)を用いて、純度および均質性を決定する。調製物中に存在する種類のうち趨勢を占めているタンパク質は、実質的に精製されている。具体的には、単離された遺伝子は、当該遺伝子の隣に位置しており、当該遺伝子のもの以外のタンパク質をコードしているオープンリーディングフレームからは分離されている。用語「精製/精製された」とは、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲル中で実質的に1本のバンドとして現れることを意味する。具体的には、「精製された」とは、核酸またはタンパク質の純度が85%以上、90%以上、95%以上、99%以上、またはそれを超えることを意味する。
【0078】
用語「核酸」とは、デオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシドまたはリボヌクレオチド、およびこれらの重合体を表す。「核酸」は、一本鎖の形態であっても二本鎖の形態であってもよい。具体的な限定がない限り、この用語には、天然ヌクレオチドの公知のアナログを含んでいる核酸も含まれる。このアナログは、比較対象の核酸と同等の結合特性を有しており、天然に生じるヌクレオチドと同様の様式で代謝される。別途具体的に限定されない限り、この用語は、オリゴヌクレオチドアナログ(PNA(ペプチド核酸)など)、アンチセンス技術に用いられるDNAアナログ(チオリン酸、アミドリン酸など)、も表す。別途記載のない限り、特定の核酸配列には、明示的に示されている配列に加えて、(i)保存的に改変された変異体(例えば、縮重しているコドンによる置換があるが、これには限定されない)、および(ii)相補的配列も、実質的には含まれる。具体的には、縮重しているコドンによる置換は、1つ以上の(または全ての)選択されたコドンの3番目の位置を、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換した配列を生成することによって行ってもよい(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985); and Cassol et al. (1992); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0079】
本明細書において、用語「ポリペプチド」「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基の重合体を表すために、互いに可換に使用される。つまり、ポリペプチドに関する記載は、ペプチドに関する記載およびタンパク質に関する記載に対しても、同様に適用される(逆もまた同様)。この用語は、天然に生じるアミノ酸重合体にも、1つ以上のアミノ酸残基が天然にコードされていないアミノ酸であるアミノ酸重合体にも適用できる。本明細書において用いるとき、この用語には、任意の長さのアミノ酸鎖が含まれる(例えば、アミノ酸残基が共有性ペプチド結合で連結されている全長タンパク質(すなわち抗原))。
【0080】
用語「アミノ酸」とは、天然に生じるアミノ酸および天然に生じないアミノ酸、さらに、これに加えて、天然に生じるアミノ酸と類似した様式で機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣体を表す。天然にコードされているアミノ酸とは、20種類の通常アミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリン)、ならびにピロリシンおよびセレノシステインである。「アミノ酸アナログ」とは、天然に生じるアミノ酸と同じ基本的な化学構造(すなわち、水素、カルボキシ基、アミノ基およびR基と結合しているα炭素)を有する化合物を表す(ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなど)。このようなアナログは、修飾されたR基を有しているか(ノルロイシンなど)、修飾されたペプチド骨格を有している。しかし、天然に生じるアミノ酸と同じ基本的な化学構造は保存されている。
【0081】
本明細書においては、一般的に知られている3文字の記号によってアミノ酸を表記してもよいし、IUPAC-IUB生化学命名委員会が推奨する1文字の記号によって表記してもよい。同様にヌクレオチドも、一般的に使用されている1文字の記号によって表記してもよい。
【0082】
「保存的に改変された変異体(conservatively modified variants)」は、アミノ酸配列および核酸配列のいずれにも適用される。特定の核酸配列について、「保存的に改変された変異体」とは、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードしている核酸を表す。核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合は、本質的に同一の配列を表す。遺伝暗号の縮重のため、任意の所与のタンパク質をコードしている、機能上同一の核酸が多数ある。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸のアラニンをコードしている。したがって、あるコドンによってアラニンが特定される場所ならばどこでも、コードされているポリペプチドを変化させることなく、当該コドンを任意の上記の対応するコドンと変更することができる。このような核酸の変異が「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。本明細書においては、ポリペプチドをコードしている全ての核酸配列によって、当該核酸の全ての可能なサイレント変異も記載されているものとする。核酸中の各コドンを改変して、機能上同一の分子を得られることを、当業者ならば理解するであろう(通常はメチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)。したがって、ポリペプチドをコードしている核酸のそれぞれのサイレント変異は、記載されている各配列に実質的に含まれる。
【0083】
アミノ酸配列について、核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列またはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加によって、コードされる配列における1個または小さな割合のアミノ酸が変更、追加または削除される場合、これも「保存的に改変された変異体」であることを当業者は理解するであろう(変化の結果、アミノ酸が化学的に類似しているアミノ酸に置換されるならば)。機能的に類似しているアミノ酸を与える、保存的置換の一覧は、本技術分野において周知である。さらに、このような保存的に改変された変異体には、本発明の多形変異体、種間ホモログおよびアレルも含まれる。
【0084】
下記の8群には、それぞれ、互いに保存的置換されるアミノ酸が記載されている:
(1)アラニン(A)、グリシン(G);
(2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
(3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
(4)アルギニン(R)、リシン(K);
(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
(7)セリン(S)、トレオニン(T);
(8)システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、[Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties (W H Freeman & Co.; 2nd edition (December 1993)]を参照)。
【0085】
本明細書において用いるとき、用語「被験体」とは、処置、観察または実験の対象となる動物を表し、好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0086】
本明細書において用いるとき、用語「有効量/有効な量」とは、(修飾された)非天然アミノ酸ポリペプチドの投与量によって、処置すべき疾患、状態または障害の症状の1つ以上が、ある程度軽減されることを表す。本明細書に記載の(修飾された)非天然アミノ酸ポリペプチドを含んでいる組成物は、予防処置、増強処置および/または治療処置のために投与することができる。
【0087】
用語「増強/増強する("enhance," "enhancing")」とは、所望の効果を、強さまたは持続期間のいずれかの点において、増加または延長させることを意味する。したがって、治療用薬剤の効果の増強に関しては、用語「増強/増強する」とは、あるシステムにおける他の治療用薬剤の効果を、強さまたは持続期間のいずれかの点において、増加または延長させる能力を表す。本明細書において用いるとき、「増強に有効な量」とは、所望のシステムにおける治療用薬剤の効果を増強するために充分な量を表す。患者に関して用いられる場合、このような使用に有効な量は、疾患、障害または状態の重篤度および経過、治療歴、当該患者の健康状態および薬物に対する反応、ならびに処置医の判断に依存する。
【0088】
本明細書において用いるとき、用語「修飾/修飾された」とは、ポリペプチドにおける翻訳後修飾の存在を表す。「(修飾された)」という用語の形式は、議論されているポリペプチドが、任意構成で修飾されていることを意味する。つまり、議論されているポリペプチドは、修飾されていてもよいし、修飾されていなくてもよい。
【0089】
用語「翻訳後修飾された」および「修飾された」とは、アミノ酸がポリペプチド鎖中に組み込まれた後に生じる、天然アミノ酸または非天然アミノ酸の任意の修飾を表す。この用語には、翻訳時におけるin vivoでの修飾、翻訳後におけるin vivoでの修飾、および翻訳後におけるin vitroでの修飾、が含まれる(ただし、以上は単なる例示である)。
【0090】
治療への応用においては、(修飾された)非天然アミノ酸ポリペプチドを含んでいる組成物を、疾患、状態または障害に既に苛まれている患者に対して、治療に充分な量(または、少なくとも部分的に疾患、障害または状態の症状を抑制する量)だけ投与する。このような量を、「治療上有効な量」と定義する。治療上有効な量は、疾患、障害または状態の重篤度および経過、治療歴、当該患者の健康状態および薬物に対する反応、ならびに処置医の判断に依存する。このような治療上有効な量を、通常の実験(例えば、用量漸増臨床試験)によって決定可能であると、本技術分野においては理解される。
【0091】
用語「処置」は、予防処置および/または治療処置のいずれもを表すために用いる。
【0092】
別途記載のない限り、本技術分野の範囲内にある質量分析、NMR、HPLC、タンパク質化学、生化学、組み換えDNA技術および薬学の常法が採用される。
【0093】
〔発明の詳細な説明〕
[序論]
本発明では、1つ以上の非天然アミノ酸を有している、抗CD3抗体分子を提供する。本発明の特定の実施形態において、1つ以上の非天然アミノ酸を有する抗CD3抗体は、1つ以上の翻訳後修飾を有している。一実施形態において、1つ以上の翻訳後修飾には、分子の付加が含まれている。このとき付加される分子としては、水溶性ポリマー、ポリエチレングリコール誘導体、薬物、第2のタンパク質またはポリペプチドもしくはポリペプチドアナログ、抗体または抗体断片、生物活性を有する薬剤、小分子、または上記の任意の組み合わせ、または他の任意の望ましい化合物または物質、が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。これらの分子は第2の反応基を有しており、第1の反応基を有している上記1つ以上の非天然アミノ酸と反応する。この反応は、特定の反応基に適していると当業者に知られている化学的方法による。例えば、第1の反応基はアルキニル部分であり(例えば、非天然アミノ酸であるp-プロパルギロキシフェニルアラニン(プロパルギル基は、時にアセチレン部分とも呼ばれる)中のものがあるが、これには限定されない)、第2の反応基はアジド部分である。この例では、[3+2]環状付加の化学的方法が利用される。他の例においては、第1の反応基はアジド部分であり(例えば、非天然アミノ酸のp-アジド-L-フェニルアラニン中のものがあるが、これには限定されない)、第2の反応基はアルキニル部分である。本発明の修飾された抗CD3抗体ポリペプチドの特定の実施形態では、1つ以上の翻訳後修飾にある糖部分において、1つ以上の翻訳後修飾を有している1つ以上の非天然アミノ酸(例えば、ケト機能性基を有する非天然アミノ酸が挙げられるが、これには限定されない)が使用されている。特定の実施形態において、翻訳後修飾は、真核細胞または非真核細胞中で、in vivoにてなされる。
【0094】
表1は、本発明の抗CD3抗体の、新規なヒト化可変重鎖配列、ヒト化可変軽鎖配列、ならびにヒト化可変重鎖配列およびヒト化可変軽鎖配列の一覧である。
【0095】
【表1】
【0096】
【0097】
抗原結合性ポリペプチドと小分子とは、リンカーで連結されていてもよいし、ポリマーで連結されていてもよいし、共有結合で連結されていてもよい。リンカー、ポリマーまたは小分子は、それ自体として、20種類の通常アミノ酸とは反応しない機能性基を有していてもよい。リンカーまたはポリマーは、二機能性であってもよい。リンカー、ポリマーまたは共有結合を介した抗原結合性ポリペプチドと生物活性を有する分子との連結に関係する1つ以上の結合は、所望の環境下において、不可逆であってもよいし、可逆であってもよいし、不安定であってもよい。リンカー、ポリマーまたは共有結合を介した抗原結合性ポリペプチドと分子との連結に関係している1つ以上の結合は、抗原結合性ポリペプチドまたは他の分子の放出を調節するものであってもよい。種々の小分子は、当業者によって、化学的手段で作製されたものでもよいし、天然の産物として単離されたものでもよいし、他の手段により作製されたものでもよい。
【0098】
[Rader et al. in Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Apr 29;100(9):5396-400]は、一般抗体(generic antibody)分子と反応させることによって、合成小分子にエフェクター機能を与え、血清半減期を延長させる方法を開示している(参照により本明細書に組み込まれる)。上記文献に開示されている複合体は、mAb 38C2(天然のアルドラーゼ酵素を模倣した触媒抗体)と、インテグリンを標的とするArg-Gly-Aspペプチド模倣体のジケトン誘導体との間を、抗体上の反応性リシン残基を介して可逆な共有結合で結合することよって創出された。ペプチド模倣体の半減期が延長されただけでなく、この複合体には、インテグリンαβおよびαβを発現している細胞表面を選択的に標的とするよう、標的の切り替えが認められた。
【0099】
本発明は、1つ以上の天然にコードされていないアミノ酸を有する抗原結合性ポリペプチド(または抗CD3抗体)に基づいた、方法および組成物を提供する。抗CD3抗体に1つ以上の天然にコードされていないアミノ酸を導入することにより、特定の化学反応に関係する複合体化の化学への応用が可能となった。このような化学反応は、例えば、1つ以上の天然にコードされていないアミノ酸との間には発生するが、通常生じる20種類のアミノ酸との間では発生しないものである(ただし、これらに限定されない)。いくつかの実施形態において、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗CD3抗体は、当該天然にコードされていないアミノ酸の側鎖を介して、水溶性ポリマー(ポリエチレングリコール(PEG)など)と連結されている。本発明は、タンパク質をPEG誘導体によって選択的に修飾するための、非常に効率的な方法を提供する。この方法は、遺伝子にコードされていないアミノ酸を選択的に組み込む方法と関係している。遺伝子にコードされていないアミノ酸としては、選択コドンに対応してタンパク質に通常組み込まれる20種類のアミノ酸には見られない機能性基または置換基(例えば、ケトン部分、アジド部分またはアセチレン部分であるが、これらには限定されない)を有するアミノ酸が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。そしてその結果、アミノ酸はPEG誘導体と適切に反応して修飾される。一度組み込まれると、次に、当業者に知られている適切な化学的方法によって、天然にコードされているアミノ酸にある特定の機能性基または置換基に対して、アミノ酸側鎖を修飾することができる。様々な種類の公知の化学的方法が、水溶性ポリマーをタンパク質に組み込むにあたって、本発明に好適に用いられる。このような方法としては、限定はされないが、それぞれアセチレン誘導体またはアジド誘導体(ただし、これらには限定されない)との間における、Huisgen[3+2]環状付加反応(例えば[Padwa, A. in Comprehensive Organic Synthesis, Vol. 4, (1991) Ed. Trost, B. M., Pergamon, Oxford, p. 1069-1109; Huisgen, R. in 1,3-Dipolar Cycloaddition Chemistry, (1984) Ed. Padwa, A., Wiley, New York, p. 1-176]を参照)が挙げられる。
【0100】
Huisgen[3+2]環状付加法は、求核性置換反応よりも環状付加に関係しているため、タンパク質を非常に高い選択性で修飾することができる。この反応は、触媒量のCu(I)塩を反応混合物に加えることによって、水性条件下、室温にて、優れた部位特異性(1,4>1,5)で発生させることができる(例えば、[Tornoe, et al., (2002) Org. Chem. 67:3057-3064; Rostovtsev, et al., (2002) Angew. Chem. Int. Ed. 41:2596-2599]および国際公開第03/101972号を参照)。[3+2]環状付加によって本発明のタンパク質に付加することができる分子としては、適切な機能性基または置換基(アジド誘導体またはアセチレン誘導体が挙げられるが、これらには限定されない)を有する、実質的にあらゆる分子が挙げられる。これらの分子を、アセチレン基を有する非天然アミノ酸(例えばp-プロパルギロキシフェニルアラニンであるが、これには限定されない)、またはアジド基を有する非天然アミノ酸(例えばp-アジド-フェニルアラニンであるが、これには限定されない)に、それぞれ付加することができる。
【0101】
Huisgen[3+2]環状付加の結果生じる5員環は、還元性環境下では一般的に不可逆であり、水性環境下でも加水分解に対して長期間安定している。それゆえ、厳しい水性環境下においても、広範な種類の物質の物理的特性および化学的特性を、本発明の活性化PEG誘導体により改変することができる。より重要なことには、アジド部分およびアセチレン部分は互いに特異的であるため(また、例えば、遺伝子にコードされている20種類の通常のアミノ酸のいずれとも反応しないため)、1つ以上の特異的な部位において、非常に高い選択性でタンパク質を修飾することができる。
【0102】
本発明はまた、1つ以上のアセチレン部分またはアジド部分を有しているPEG誘導体および関連する親水性ポリマーの、水溶性で加水分解に対して安定な誘導体を提供する。アセチレン部分を有しているPEGポリマー誘導体は、選択コドンに対応して選択的にタンパク質に導入されたアジド部分と、高い選択性でカップリングする。同様に、アジド部分を有しているPEGポリマー誘導体は、選択コドンに対応して選択的にタンパク質に導入されたアセチレン部分と、高い選択性でカップリングする。
【0103】
より具体的に、アジド部分としては、アルキルアジド、アリールアジド、およびこれらのアジドの誘導体が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。アルキルアジドおよびアリールアジドの誘導体は、アセチレンに特異的な反応性が保存されている限り、他の置換基を有していてもよい。アセチレン部分としては、アルキルアセチレンおよびアリールアセチレン、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。アルキルアセチレンおよびアリールアセチレンの誘導体は、アジドに特異的な反応性が保存されている限り、他の置換基を有していてもよい。
【0104】
したがって、抗CD3抗体には、標的分子または抗原に対する特異的な結合能を示す任意のポリペプチドが包含されることが意図される。任意の公知の抗体または抗体断片は、抗CD3抗体である。
【0105】
本発明の抗CD3抗体は、Fc領域またはFc様領域を含んでいてもよい。Fcドメインにより、エフェクター機能(補体または貪食細胞など)との連携が得られる。免疫グロブリンのFc部分は血漿半減期が長いのに対し、Fabは短命である(Capon, et al. (1989), Nature, 337:525-531)。治療用タンパク質と共に構築した場合、Fcドメインはより長い半減期を与えることができる。あるいは、Fc受容体に対する結合、タンパク質Aとの結合、補体結合、そして恐らくは胎盤通過などの機能を与えることができる。例えば、IgG1抗体のFc領域は、CD30-L(CD30受容体を発現しているホジキン病腫瘍細胞、未分化リンパ腫細胞、T細胞白血病細胞、および他の悪性細胞型と結合する分子)のN末端と融合されている(米国特許第5,480,981号)。抗炎症剤および拒絶反応抑制剤であるIL-10は、このサイトカインの短い循環半減期を延長させるために、ネズミFcγ2と融合されている(Zheng, X. et al. (1995), The Journal of Immunology, 154: 5590-5600)。また、研究によれば、ヒトIgG1のFcタンパク質と連結した腫瘍壊死因子受容体を用いて、敗血症性ショック患者(Fisher, C. et al., N. Engl. J. Med., 334: 1697-1702 (1996); Van Zee, K. et al., The Journal of Immunology, 156: 2221-2230 (1996))および関節リウマチ患者(Moreland, et al. (1997), N. Engl. J. Med., 337(3):141-147)を処置することも調査されている。また、Fcは、AIDS処置用の治療タンパク質を作製するために、CD4受容体と融合されている(Capon et al. (1989), Nature, 337:525-531)。さらに、インターロイキン2の短い半減期と全身性の毒性とを改善するために、インターロイキン2のN末端が、IgG1またはIgG3のFc部分と融合されている(Harvill et al. (1995), Immunotechnology, 1: 95-105)。
【0106】
抗体のFc領域は、単量体のポリペプチド単位から構成されていることがよく知られている。この単量体は、ジスルフィド結合または共有結合性の会合によって、二量体形態または多量体形態に連結することができる。天然のFc分子の単量体サブユニット間に存在する分子間ジスルフィド結合の本数は、抗体のクラス(例えば、IgG、IgA、IgE)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgA1、IgGA2)によって、1本~4本の開きがある。本明細書において用いるとき、用語「Fc」とは、Fc分子の単量体形態、二量体形態、多量体形態の総称である。Fc単量体は、ジスルフィド結合の形成による二量化を阻害するような特定の条件下でない限り、適当なCys残基が存在すれば自然に二量化することに留意されたい。仮に、通常はジスルフィド結合を形成するFc二量体中のCys残基が除去されたり、他の残基に置換されたりしていたとしても、単量体鎖は、通常、非共有結合性相互作用によって二量化する。本明細書において、用語「Fc」とは、以下の形態の全てを意味するために用いる:天然の単量体、天然の二量体(ジスルフィド結合で連結)、改変二量体(ジスルフィド結合および/または非共有結合で連結)、および改良単量体(すなわち誘導体)。
【0107】
例えば、残基を様々に置換させたり、天然にコードされていないアミノ酸を有する配列を作製したりすることよって、Fc部分の変異体、アナログまたは誘導体を構築してもよい。ポリペプチド変異体(またはアナログ)としては、1つ以上のアミノ酸残基がFcアミノ酸配列に追加された、挿入変異体が挙げられる。挿入は、タンパク質の一端または両端に挿入が位置していてもよいし、Fcアミノ酸配列の中間領域に位置していてもよい。一端または両端に追加の残基を有する挿入変異体には、例えば、融合タンパク質、およびアミノ酸タグまたはアミノ酸ラベルを有するタンパク質が含まれうる。例えば、Fc分子は、N末端にMetを任意構成で有していてもよい(とりわけ、細菌細胞(E. coliなど)中で、当該分子を組み換えにより発現させる場合には)。Fcの欠失変異体においては、Fcポリペプチド中の1つ以上のアミノ酸残基が除去されている。Fcポリペプチドの一端または両端に欠失が生じていてもよいし、Fcアミノ酸配列中の1つ以上残基が除去されていてもよい。したがって、欠失変異体には、Fcポリペプチド配列の全ての断片が含まれる。Fcの置換変異体においては、Fcポリペプチドの1つ以上のアミノ酸残基が除去され、別の残基に置換されている。一態様において、置換は本質的に保存的である。しかし、非保存的な置換もまた、本発明の範囲内にある。例えば、システイン残基を欠失させたり他のアミノ酸で置換したりして、Fc配列の一部または全部のジスルフィド架橋を阻害することができる。タンパク質が1つ以上のシステイン残基を有しているならば、当該システイン残基のそれぞれを除去してもよいし、あるいは当該システイン残基の1つ以上を他のアミノ酸(AlaもしくはSer、または天然にコードされていないアミノ酸など)で置換してもよい。他の例としては、以下の目的で、改変によりアミノ酸の置換を導入してもよい:(1)Fc受容体結合部位の除去、(2)補体(Clq)結合部位の除去、および/または(3)抗体依存-細胞媒介性細胞傷害(ADCC)部位の除去。このような部位は、本技術分野において公知である(例えば、IgG1のADCC部位については[Molecular Immunology, Vol. 29, No. 5, 633-639 (1992)]を参照)。また、本明細書において用いるとき、任意の公知の置換が「Fc」の範囲に含まれる。同様に、1つ以上のチロシン残基を、フェニルアラニン残基によって置換してもよい。さらに、他の変異体アミノ酸の挿入、(例えば1~25アミノ酸の)欠失、および/または置換も予期されており、本発明の範囲内に包含される。一般的には、保存的なアミノ酸の置換が好ましい。また、変異は、変異アミノ酸の形態を取ってもよい(ペプチド模倣体またはDアミノ酸など)。
【0108】
また、Fc配列を誘導体化してもよい。すなわち、アミノ酸残基の挿入、欠失または置換以外の修飾を施してもよい。修飾は本質的に共有結合性であることが好ましく、その例としては、ポリマー、脂質、他の有機部分および無機部分との間の化学結合が挙げられる。本発明の誘導体は、循環半減期を延長するように作製してもよい。あるいは、ポリペプチドの所望の細胞、組織または器官に対する標的能を向上させるように設計してもよい。完全なFc分子のサルベージ受容体結合ドメインを、本発明の化合物のFc部分として用いることもできる(国際公開第96/32478号("Altered Polypeptides with Increased Half-Life"の項目)に記載のように)。本明細書においてFcと称される、他の一連の分子群には、国際公開第97/34631号("Immunoglobulin-Like Domains with Increased Half-Lives"の項目)に記載のものがある。本段落で引用した2つのPCT出願公開は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0109】
一実施形態においては、非天然アミノ酸(p-プロパルギロキシフェニルアラニンなど)を有している抗CD3抗体の組成物が提供される。また、p-プロパルギロキシフェニルアラニンと、さらにタンパク質および/または細胞(ただし、これらに限定されない)とを含んでいる、種々の組成物も提供される。一態様において、非天然アミノ酸であるp-プロパルギロキシフェニルアラニンを含んでいる組成物は、直交なtRNAをさらに含んでいる。非天然アミノ酸は、直交なtRNAと結合していてもよい(例えば共有結合によってであるが、これには限定されない)。この結合の例としては、(i)アミノ-アシル結合を介した、直交なtRNAとの共有結合、(ii)直交なtRNAの末端にあるリボース糖の、3’OHまたは2’OHとの共有結合、などが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0110】
[抗CD3抗体の抗原または結合対象に対する、抗CD3抗体の活性および抗CD3抗体の親和性の測定]
抗CD3抗体の活性は、標準的なin vitroまたはin vivoのアッセイによって測定することができる。例えば、抗CD3抗体と結合する細胞または細胞株(例えば、天然の抗CD3抗体抗原または結合対象を含んでいる細胞、または、抗CD3抗体抗原または結合対象を組み換えにより産生する細胞であるが、これらには限定されない)を、抗CD3抗体の結合を評価するために用いることができる。非天然アミノ酸を有している、PEG化されていない抗原結合性ポリペプチドまたはPEG化抗原結合性ポリペプチドに関しては、抗CD3抗体の抗原または結合対象に対する当該抗CD3抗体の親和性を、公知の技術を用いて測定することができる(例えば、BIAcore(商標)biosensor(Pharmacia)など)。
【0111】
抗CD3抗体の作製にどのような方法を採用するかにかかわらず、当該抗CD3抗体は生物活性を評価するアッセイに課せられる。適切な場合には、トリチウム化チミジンアッセイを行って細胞分裂の程度を確認してもよい。しかし、他の生物学的アッセイを所望の活性を確認するために用いてもよい。例えば、抗原の生物活性(酵素活性、増殖活性または代謝活性など)の阻害能を測定する生物学的アッセイによっても、抗CD3抗体の活性が示される。他のin vitroアッセイを生物活性の確認に用いてもよい。一般的に、抗原の生物活性に対して適切であるときには、生物活性の試験は所望の結果に対する分析を与えるものでなくてはならない。この分析とは、例えば、(改変していない抗CD3抗体と比較した)生物活性の上昇もしくは減少、(改変していない抗CD3抗体と比較した)生物活性の変化、受容体との親和性分析、立体配置もしくは構造の変化、または、血清半減期の分析などである。
【0112】
アッセイの方法に関する上記の記載の集成は、過度の負担を強いるものではない。また、当業者ならば、所望の最終結果を試験するために有用な、他のアッセイをも認知しているであろう。
【0113】
[効能、in vivoにおける機能上の半減期、および薬物動態学的パラメータの測定]
本発明の重要な態様は、抗CD3抗体(抗CD3抗体と水溶性ポリマー部分との複合体化を伴うものも、伴わないものも含む)の構築によって獲得された、生物学的半減期の延長である。抗CD3抗体の血清濃度は急速に低下するため、複合体化もしくは非複合体化抗CD3抗体およびその変異体による処置に対する、生物学的応答の評価が重要となっていた。好ましくは、本発明の複合体化もしくは非複合体化抗CD3抗体およびその変異体は、静脈内投与の後でも血清半減期を延長させる。このため、例えばELISA法または一次スクリーニングアッセイによる測定が可能となる。in vivoにおける生物学的半減期の測定は、本明細書に記載の方法で行われる。
【0114】
天然にコードされていないアミノ酸を有している抗原結合性ポリペプチドの薬物動態学的パラメータは、通常のSprague-Dawleyラット(オス)によって評価できる(処置群あたりN=5動物)。動物に、1匹あたり25μgを静脈内に1回投与するか、1匹あたり50μgを皮下に1回投与する。そして、事前に決めてある時間経過に沿って、5~7個程度の血液サンプルを採取する。この時間経過は、水溶性ポリマーと複合しておらず、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗原結合性ポリペプチドの場合には、通常、約6時間に及ぶものである。一方、水溶性ポリマーと複合しており、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗原結合性ポリペプチドの場合には、通常、約4日間に及ぶものである。抗CD3抗体の薬物動態学的データは、いくつかの種においてよく研究されており、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗CD3抗体に関して得られたデータと直接比較することができる。
【0115】
本発明に係る抗CD3抗体の特異的な活性は、種々の公知のアッセイによって測定できる。本発明に係る抗CD3抗体突然変異タンパク質またはその断片の生物活性は、得られたものであっても精製されたものであっても、本明細書に記載もしくは援用されている方法、または当業者に知られた方法により試験することができる。
【0116】
[投与および薬学的組成物]
本発明のポリペプチドまたはタンパク質(1つ以上の非天然アミノ酸を有している抗CD3抗体、合成酵素、タンパク質などであるが、これらには限定されない)を、任意で、治療用途に採用してもよい(例えば、適切な薬物学的キャリアと組み合わせて採用するが、これには限定されない)。このような組成物は、例えば、治療上有効な量の化合物と、薬学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤とを含んでいる。このようなキャリアまたは賦形剤としては、生理食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノールおよび/またはこれらの組み合わせが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。製剤は、投与の形態に合うように成される。一般的に、タンパク質を投与する方法は本技術分野においてよく知られており、本発明のポリペプチドの投与にも適用することができる。
【0117】
本発明のポリペプチドの1種類以上を含んでいる治療用組成物を、任意で、適当な疾患のin vitroおよび/またはin vivo動物モデルの1つ以上において試験して、効能および組織中での代謝を確認してもよいし、投与量を評価してもよい。この試験は、本技術分野で周知の方法に従う。具体的には、投与量を、活性、安定性、または本明細書における非天然アミノ酸の天然アミノ酸ホモログに対する他の適切な尺度(すなわち比較アッセイ)によって最初に決定することができる(例えば、1つ以上の非天然アミノ酸を有するように改変した抗CD3抗体と、天然アミノ酸からなる抗CD3抗体との比較があるが、これには限定されない)。
【0118】
投与は、分子と血液または組織細胞とが最終的に接触するような導入に通常使用される、任意の経路によるものであってよい。本発明の非天然アミノ酸ポリペプチドは、任意構成で1種類以上の薬学的に許容可能なキャリアを伴って、任意の適切な様式により投与される。本発明に関するポリペプチドを、患者に対して投与する適切な方法が利用可能である。また、特定の経路は、通常、他の経路よりも即効性があり、より効果的な作用または反応をもたらすことができる(ただし、1種類以上の経路を、特定の組成物の投与に使用することができる)。
【0119】
薬学的に許容可能なキャリアは、投与する特定の組成物、および当該組成物の投与に用いる特定の方法によって、ある程度決定される。それゆえ、本発明の薬学的組成物の適切な製剤には、様々な種類がある。
【0120】
種々の経路によって、ポリペプチド組成物を投与することができる。このような経路としては、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、経皮投与、皮下投与、局所投与、舌下投与または直腸投与が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。(修飾または非修飾の)非天然アミノ酸ポリペプチドを含んでいる組成物を、リポソームを用いて投与することもできる。このような投与経路および適切な製剤は、当業者に周知である。
【0121】
非天然アミノ酸を有している抗CD3抗体を、それ単独でまたは他の適切な成分と組み合わせて、吸入により投与されるエアロゾル製剤とすることもできる(つまり、「噴霧」することができる)。エアロゾル製剤は、加圧可能な噴霧剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など)中に配置することができる。
【0122】
非経口投与(例えば、関節内経路(関節内へ)、静脈内経路、筋肉内経路、皮内経路、腹腔内経路および皮下経路など)に好適な製剤としては、水性または非水性の、等張無菌注入溶液が挙げられる。この注入溶液は、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を対象患者の血液と等張に保つ溶質、ならびに、水性および非水性の無菌懸濁液(懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、防腐剤を含有していてもよい)、を含んでいてもよい。包装された抗CD3抗体製剤は、封入容器内(アンプルおよびバイアルなど)において、1回投与量ずつが封入されていてもよいし、複数回投与分が封入されていてもよい。
【0123】
非経口投与および静脈内投与が、好適な投与方法である。とりわけ、天然アミノ酸ホモログによる治療において既に使用されている投与経路(例えば、EPO、GH、抗CD3抗体、G-CSF、GM-CSF、IFN、インターロイキン、抗体、および/または他の任意の薬学的に送達されるタンパク質において典型的に使用される経路であるが、これらには限定されない)は、その投与経路と共に使用されている剤型と併せて、本発明のポリペプチドにとって好適な投与経路および剤型を与える。
【0124】
本発明に関して、患者に投与する投与量は、当該患者に長期にわたって有利な治療反応を引き起こさせるのに充分な量である。あるいは、用途によっては、病原体による感染を防止する量、または他の適当な活性を阻害する量でもありうる(ただし、これらに限定されない)。投与量は、(i)具体的なベクターまたは製剤の効果、(ii)採用する非天然アミノ酸ポリペプチドの活性、安定性または血清半減期、(iii)患者の状態、(iv)処置する患者の体重または体表面積、に応じて決定される。また、1回量は、特定の患者の生活、体質、および、特定のベクター、製剤などの投与に伴う何らかの好ましくない副作用の程度、に応じて決定される。
【0125】
疾患(癌、遺伝性疾患、糖尿病、AIDSなどであるが、これらには限定されない)の処置または予防において、投与するベクターまたは製剤の有効な量を決定するにあたっては、循環血漿中のレベル、製剤の毒性、疾患の進行、および/または、(関係のある場合には)抗非天然アミノ酸ポリペプチド抗体の産生が、医師により評価される。
【0126】
例えば、70kgの患者に投与する投与量は、通常、現在使用されている治療用タンパク質の投与量と等価である範囲内であり、本組成物の変化した活性または血清半減期に合わせて調節する。本発明のベクターは、任意の公知の療法によって、状態の処置を補うことができる。このような公知の療法としては、抗体の投与、ワクチンの投与、および、細胞傷害性の物質、天然アミノ酸ポリペプチド、核酸、ヌクレオチドアナログ、生体応答調節薬などの投与、が挙げられる。
【0127】
本発明の製剤の投与にあたっては、当該製剤のLD-50もしくはED-50によって決定されるペースで投与するか、および/または、種々の濃度の非天然アミノ酸による何らかの副作用を観察することによって決定されるペースで投与する。後者の場合、この観察結果を、患者の体重および全体的な健康状態に適用してもよいが、これには限定されない。1回投与量で投与を完了させてもよいし、投与量を分割して投与を完了させてもよい。
【0128】
製剤を注入されている患者が、発熱、悪寒または筋肉痛を訴える場合は、適量のアスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェンまたは他の解熱鎮痛剤を投与する。注入に対して発熱、筋肉痛および悪寒などの反応を示す患者は、さらなる注入の30分前に、アスピリン、アセトアミノフェンまたはジフェンヒドラミンなど(ただし、これらに限定されない)のいずれかを前投薬する。解熱剤および抗ヒスタミン剤に対する速やかな反応が見られない、より重篤な悪寒および筋肉痛には、メペリジンを使用する。反応の重篤度によっては、細胞注入をのペースを緩めるか、または停止する。
【0129】
本発明のヒト抗原結合性ポリペプチドは、哺乳動物の被検体に直接投与することができる。投与は、抗CD3抗体の被検体への導入に通常使用される、任意の経路による。本発明の実施形態に係る抗CD3抗体組成物には、経口投与、直腸投与、局所投与、吸入投与(エアロゾルなどによるが、これには限定されない)、頬側投与(舌下投与を含むが、これには限定されない)、膣内投与、非経口投与(皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、関節内投与、胸腔内投与、腹腔内投与、脳内投与、動脈内投与または静脈内投与などがあるが、これらには限定されない)、局所投与(すなわち、皮膚表面および粘膜表面への投与であり、気道表面への投与も含む)、ならびに経皮投与に好適であるものが包含される。しかし、任意の所与の症例において、最適な経路は、処置しようとする状態の性質および重篤度によりけりである。投与は、局所的であってもよいし、全身的であってもよい。化合物の製剤は、密封容器内に(アンプルおよびバイアルなど)、1回投与量分だけ格納されていてもよいし、複数回投与量分が格納されていてもよい。本発明の抗CD3抗体は、薬学的に許容可能なキャリアと一緒に、1回投与量分の注入可能な形態の混合物として調製することができる(溶液、懸濁液またはエマルジョンなどであるが、これらには限定されない)。また、本発明の抗CD3抗体を、持続注入により投与してもよいし(例えば、浸透圧ポンプなどの小型ポンプを用いるが、これには限定されない)、1回のボーラス投与としてもよいし、徐放性のデポ剤として投与してもよい。
【0130】
投与に適した製剤としては、水性または非水性の溶液(無菌等張溶液)があり、これらには、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を等張に保つ溶質を含ませることができる。また、水性または非水性の無菌懸濁液も投与に適した製剤であり、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および防腐剤を含ませることができる。溶液および懸濁液は、無菌粉末、無菌顆粒、および上述した類の錠剤から調製することができる。
【0131】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能なキャリアを含んでいてもよい。薬薬学的に許容可能なキャリアは、投与する特定の組成物、および当該組成物の投与に用いる特定の方法によって、ある程度決定される。それゆえ、本発明の薬学的組成物の適切な製剤(任意構成として、薬学的に許容可能なキャリア、賦形剤または安定剤を含んでいる)には、様々な種類がある(例えば[Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. (1985)]を参照)。
【0132】
好適なキャリアとしては、以下が挙げられる:緩衝剤(リン酸塩、ホウ酸塩、HEPES、クエン酸塩および他の有機酸);酸化防止剤(アスコルビン酸など);低分子量のポリペプチド(約10残基未満);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなど);親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンなど);単糖類、二糖類および他の炭化水素(グルコース、マンノースまたはデキストリンなど);キレート剤(EDTAなど);2価金属イオン(亜鉛、コバルトまたは銅など);糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);塩を形成する対イオン(ナトリウムなど);および/または、非イオン性界面活性剤(Tween(商標)、Pluronics(商標)またはPEGなど)。
【0133】
本発明の抗CD3抗体(水溶性ポリマー(PEGなど)と連結している抗体も含む)は、持続的放出系として(あるいは部分的に持続的放出系として)投与することができる。持続的放出する組成物としては、半透性ポリマー基剤の成形加工品(フィルムまたはマイクロカプセルなどであるが、これらには限定されない)が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。持続的放出する基剤としては、以下のような生体適合性物質が挙げられる:ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(Langer et al., J. Biomed. Mater. Res., 15: 167-277 (1981); Langer, Chem. Tech., 12: 98-105 (1982));エチレン-酢酸ビニル(Langer et al., supra);または、ポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸(EP133,988);ポリラクチド(ポリ乳酸)(米国特許第3,773,919号、EP58,481);ポリグリコリド(グリコール酸の重合体);ポリラクチド-co-グリコリド無水物重合体(乳酸とグリコール酸との共重合体);L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタメートとの共重合体(U. Sidman et al., Biopolymers, 22, 547-556 (1983));ポリ(オルト)エステル;ポリペプチド;ヒアルロン酸;コラーゲン;コンドロイチン硫酸;カルボン酸;脂肪酸;リン脂質;多糖類;核酸;ポリアミノ酸;アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、イソロイシンなど);ポリヌクレオチド;ポリビニルプロピレン;ポリビニルピロリドン;およびシリコーン。また、持続的放出する組成物は、リポソームに封入された化合物をさらに含んでいてもよい。化合物を含んでいるリポソームは、それ自体として公知の方法により調製される。DE3,218,121、[Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82: 3688-3692 (1985)]、[Hwang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77: 4030-4034 (1980)]、EP52,322、EP36,676、EP88,046、EP143,949、EP142,641、日本国特許出願昭第83-118008号、米国特許第4,485,045号、同第4,544,545号、EP102,324を参照(援用した全ての刊行物および特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0134】
リポソームに封入された抗CD3抗体は、例えば以下の文献に記載の方法によって調製することができる:DE3,218,121、[Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82: 3688-3692 (1985)]、[Hwang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77: 4030-4034 (1980)]、EP52,322、EP36,676、EP88,046、EP143,949、EP142,641、日本国特許出願第83-118008号、米国特許第4,485,045号、同4,544,545号、EP102,324。リポソームの組成および大きさは周知であり、また、当業者はこれを容易に経験的に決定することもできる。リポソームに関するいくつかの例が、例えば、以下に記載されている:[Park JW, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1327-1331 (1995)]、[Lasic D and Papahadjopoulos D (eds): Medical Applications of Liposomes (1998)]、[Drummond DC, et al., Liposomal drug delivery systems for cancer therapy, in Teicher B (ed): Cancer Drug Discovery and Development (2002)]、[Park JW, et al., Clin. Cancer Res. 8:1172-1181 (2002)]、[Nielsen UB, et al., Biochim. Biophys. Acta 1591(1-3):109-118 (2002)、Mamot C, et al., Cancer Res. 63: 3154-3161 (2003)](援用した全ての刊行物および特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0135】
本発明に関して、患者に投与する投与量は、被検体に長期間にわたって有利な反応を引き起こすのに充分な量でなくてはならない。本発明の抗CD3抗体を非経口的に投与する場合の、投与量あたりの薬学的に有効な量の合計は、通常、約0.01μg/kg/日~約100μg/kg、または約0.05mg/kg~約1mg/kgである(患者の体重あたり)。しかし、投与量は治療上の判断に委ねられている。また、投与頻度も、治療上の判断に委ねられている。ヒトおける使用が認可されている市販の抗CD3抗体製品よりも、高頻度で投与してもよいし、低頻度で投与してもよい。本発明のPEG化抗原結合性ポリペプチドは、通常、上述の投与経路のいずれによっても投与することができる。
【0136】
[本発明の抗原結合性ポリペプチドの治療的使用]
本発明の抗CD3抗体ポリペプチドは、広範な種類の障害の処置に有用である。抗CD3抗体アゴニストまたはアンタゴニストの使用による効果を受けうる障害に苛まれているヒト患者に対して、種々の手段で投与した際に効果的な強さとなるように、抗CD3抗体を含んでいる薬学的組成物を製剤することができる。抗CD3抗体アゴニストまたはアンタゴニストによる効果としては、抗増殖、抗炎症、抗ウイルスなどが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。この効果は、状態または疾患そのものに対するものでもよいし、状態または疾患の一部に対するものでもよい。抗CD3抗体の平均量は変化しうる。とりわけ、適格な医師の推奨および処方に基づいて変化させるべきである。抗CD3抗体の正確な量は、処置する状態の正確な種類、処置する患者の状態、および組成物中の他の成分などの前提要因を満たすならば、選好の問題である。本発明はまた、治療上有効な量の他の有効成分(抗癌用化学治療薬など)の投与も提供する。当業者ならば、抗CD3抗体を用いる治療に基づいて、投与量を容易に決定することができる。
【実施例
【0137】
以下の実施例は説明のために供されているのであって、特許請求の範囲に係る発明を制限するものではない。
【0138】
〔実施例1〕
本実施例では、抗CD3抗体中に天然にコードされていないアミノ酸を組み込むにあたって、好適な部位を選択するための、数多くある可能な基準群のうちの1群について説明する。
【0139】
本実施例で示されるのは、天然にコードされていないアミノ酸を導入するために、抗原結合性ポリペプチド中の好適な部位を選択する方法である。2つの抗CD3抗体分子から構成される三次元構造、または、抗CD3抗体の二次構造、三次構造もしくは四次構造を利用して、1つ以上の天然にコードされていないアミノ酸を導入しうる好適な位置を決定する。
【0140】
以下の基準は、天然にコードされていないアミノ酸を導入するにあたって、抗CD3抗体の各々の位置を評価するために用いられる。
すなわち、残基は、
(a)抗CD3抗体の結合を三次元構造の構造解析に基づいて妨げてはならず、また、抗CD3抗体の二次構造、三次構造または四次構造に基づいて妨げてもならない;
(b)アラニンまたはホモログを用いたscanning mutagenesisによる影響を受けてはならない;
(c)表面に露出していなくてはならず、周囲の残基との間におけるvan der Waals相互作用または水素結合相互作用は最小限にとどめねばならない;
(d)抗CD3抗体の露出表面の1箇所以上であってもよい;
(e)第2の抗CD3抗体、または他の分子もしくはその断片の近位に位置する、1または複数の抗CD3抗体の部位であってもよい;
(f)抗CD3抗体変異体においては、欠失しているか、可変であるか、のいずれかでなければならない;
(g)天然にコードされていないアミノ酸と置換した結果、保存的に変化しうる;
(h)完全な構造の柔軟性または剛直性を望ましく変化させることによって、抗CD3抗体自体、または1つ以上の抗CD3抗体を含む二量体もしくは多量体の立体配置を調節してもよい;
(i)柔軟性の高い領域(highly flexible regions)または構造上固定された領域(structurally rigid regions)のいずれにあってもよい;
(j)相補性決定領域(CDR)にあってもよいし、なくてもよい。
【0141】
また、抗CD3抗体分子にCxプログラムでさらなる計算を実行し(Pintar et al. Bioinformatics, 18, pp 980)、タンパク質中の各原子について、突出の程度を評価する。その結果、いくつかの実施形態では、抗CD3抗体の1つ以上の部位が、天然にコードされていないアミノ酸で置換されている(ただし、これに限定されない)。
【0142】
〔実施例2〕
本実施例では、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗CD3抗体の、E. coliを用いたクローニングおよび発現について詳述する。
【0143】
直交なtRNA(O-tRNA)および直交なアミノアシルtRNA合成酵素(O-RS)を備えている導入翻訳系を用いて、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗CD3抗体を発現させる。上記O-RSは、天然にコードされていないアミノ酸とO-tRNAとを、優先的にアミノアシル化する。その次に、上記翻訳系によって、コードされている選択コドンに対応して、天然にコードされていないアミノ酸が抗CD3抗体に挿入される。
【0144】
改変抗CD3抗体遺伝子と、直交なアミノアシルtRNA合成酵素/tRNA対(所望の天然にコードされていないアミノ酸に対して特異的である)とを含んでいるプラスミドを用いてE. coliを形質転換することによって、抗CD3抗体に、部位特異的に天然にコードされていないアミノ酸を組み込むことができる。形質転換させたE. coliを、37℃にて、特定の天然にコードされていないアミノ酸を0.01~100mM含んでいる培地で培養することにより、高い正確性および効率で改変抗CD3抗体を発現させる。Hisタグを付加した天然にコードされていないアミノ酸を有している抗CD3抗体を、E. coli宿主細胞に産生させる。産生物は、封入体として得られるか、会合体として得られる。会合体は可溶化させ、変性環境下において(6M 塩酸グアニジン)、親和性により精製する。透析法によって、タンパク質を再度折り畳ませる(50mM TRIS-HCl(pH8.0)、40μM CuSOおよび2%(w/v)サルコシル中で、4℃にて一晩)。次に、得られた物質を、20mM TRIS-HCl(pH8.0)、100mM NaClおよび2mM CaCl中で透析し、その後Hisタグを除去する([Boissel et al., (1993) 268:15983-93]を参照)。抗CD3抗体の精製方法は周知であり、SDS-PAGE、ウェスタン・ブロット分析、またはエレクトロスプレーイオン化-イオントラップ質量分析などにより確認することができる。
【0145】
[発現/抑制]
(パラアセチルフェニルアラニン(pAcF)による抑制)
公知の標準的なプロトコルに則って、E. coliのアンバー変異を抑制した。要約すると、E. coliのペリプラズムにおいて抗体断片(scFvおよびFab)を抑制するために、次の操作を施した。まず、発現ベクターコンストラクト(M. jannaschii由来の直交なチロシルtRNA合成酵素(MjTyrRS)をコードしているプラスミド)により、E. coli宿主細胞を形質転換させた。一晩後、LB(Luria-Bertani)培地またはSuperbrothを入れたフラスコ内で、振盪しながら細菌培地を1:100に稀釈した。そして、37℃にて、ODが0.8程度となるまで培養した。FabおよびscFvの発現を誘導した。また、パラアセチルフェニルアラニン(pAcF)を最終濃度4mMとなるように加えて、アンバーコドンを抑制した。培地を25℃にて一晩インキュベートした。
【0146】
(aa9.2による抑制)
このアミノ酸に特異的である、M. jannaschii由来の直交なチロシルtRNA合成酵素を用いた以外は、pAcFと同様の方法によって、アンバー変異をpAcF誘導体(aa9. 2)によって抑制した。誘導の際に、aa9.2を4mM加えることによって抑制した。
【0147】
[タンパク質の抽出および精製]
遠心分離により細胞を回収し、100μg/mLのリゾチームを添加したペリプラズム放出バッファ(50mM NaPO、20% スクロース、1mM EDTA;pH8.0)中で再懸濁した。その後、氷上で30分間インキュベートした。遠心分離の後、上清中の抗体断片を、当該抗体断片のHisタグを利用してProBindビーズ(Invitrogen; Carlsbad, CA)上に固定した。ビーズを結合バッファでよく洗った後、結合している断片を0.5Mのイミダゾールでビーズから溶離させた。精製した断片は、保存バッファ(50mM HEPES、150mM NaCl、10% グリセロール、5% スクロース;pH7.8)中で透析した。細胞質中で発現しているscFv断片の小規模な分析のために、15mLの培地中にいるE. coliを遠心分離により回収した。その後、10μg/mLのDNAアーゼを添加した1mLの溶解バッファ(B-PER, Pierce Biotechnology; Rockford, IL)中で再懸濁した。混合物を37℃にて30分間インキュベートし、Protein Loadingバッファ(Invitrogen; Carlsbad, CA)で1×に稀釈して、SDS-PAGEにより分析した。
【0148】
〔実施例3〕
本実施例では、カルボニルを有するアミノ酸の導入について詳述する。そしてこれに引き続く、アミノオキシを有するPEGとの反応についても詳述する。
【0149】
本実施例では、天然にコードされていないケトンを有するアミノ酸が組み込まれている、抗原結合性ポリペプチドの作製方法を示す。このケトンを有するアミノ酸は、その後、アミノオキシを有するPEG(分子量:約5,000)と反応する。実施例1の基準によって特定される残基のそれぞれを個別に、下記の構造を有する天然にコードされていないアミノ酸で置換する。
【0150】
【化1】
【0151】
改変後、カルボニルを有するアミノ酸を有している抗CD3抗体変異体を、アミノオキシを有するPEG誘導体(構造は下記)と反応させる。
R-PEG(N)-O-(CH-O-NH
【0152】
式中、Rはメチルであり、nは3であり、Nの分子量は約5,000である。p-アセチルフェニルアラニンを有している抗CD3抗体を精製し、(i)25mMのMES(Sigma Chemical, St. Louis, MO;pH6.0)、(ii)25mMのHepes(Sigma Chemical, St. Louis, MO;pH7.0)、または(iii)10mMの酢酸ナトリウム(Sigma Chemical, St. Louis, MO;pH4.5)に溶解させる(濃度10mg/mL)。この溶液を、アミノオキシを有するPEGの10~100倍過剰量と反応させる。そして、そして、室温にて10~16時間攪拌する(Jencks, W. J. Am. Chem. Soc. 1959, 81, pp 475)。次に、PEG-抗CD3抗体を適当なバッファで稀釈して、直ちに精製して分析する。
【0153】
〔実施例4〕
アミド結合を介してPEGと連結しているヒドロキシルアミン基を有している、PEGとの複合体化。
【0154】
下記の構造を有しているPEG試薬を、実施例3に記載の方法によって、天然にコードされていないケトンを有するアミノ酸とカップリングさせる。
R-PEG(N)-O-(CH-NH-C(O)(CH-O-NH
【0155】
式中、Rはメチルであり、nは4であり、Nの分子量は約20,000である。反応、精製および分析の条件は、実施例3に記載の通りである。
【0156】
〔実施例5〕
本実施例では、抗CD3抗体中への、2種類の異なる天然にコードされていないアミノ酸の導入について詳述する。
【0157】
本実施例では、天然にコードされていないケトン機能を有するアミノ酸が2箇所に組み込まれている、抗原結合性ポリペプチドの作製方法を示す。組み込みの位置は実施例1に従って特定されており、Xは天然にコードされていないアミノ酸を表している。抑制コドンを核酸中の2箇所の異なる部位に導入する以外は、実施例1および2に記載の通りにして、抗原結合性ポリペプチドを作製する。
【0158】
〔実施例6〕
本実施例では、抗原結合性ポリペプチドと、ヒドラジドを有するPEGとの複合体化について詳述する。また、これに引き続くin situでの還元についても手術する。
【0159】
実施例2および3に記載の手順に従って、カルボニルを有するアミノ酸が組み込まれている抗原結合性ポリペプチドを作製する。改変後、ヒドラジドを有するPEG(構造は下記)を、抗CD3抗体と複合体化させる。
R-PEG(N)-O-(CH-NH-C(O)(CH-X-NH-NH
【0160】
式中、Rはメチルであり、nは2であり、Nの分子量は10,000であり、Xはカルボニル基(C=O)である。p-アセチルフェニルアラニンを有している抗CD3抗体を精製し、(i)25mMのMES(Sigma Chemical, St. Louis, MO;pH6.0)、(ii)25mMのHepes(Sigma Chemical, St. Louis, MO;pH7.0)、または(iii)10mMの酢酸ナトリウム(Sigma Chemical, St. Louis, MO;pH4.5)に溶解させる(濃度0.1~10mg/mL)。この溶液を、ヒドラジドを有しているPEGの1~100倍過剰量と反応させる。そして、1MのNaCNBHストック(Sigma Chemical, St. Louis, MO;最終濃度10~50mM;HO中に溶解)を加えて、対応するヒドラゾンをin situで還元する。反応は、遮光下、4℃~室温にて、18~24時間行わせる。1MのTris(Sigma Chemical, St. Louis, MO;pH約7.6;Trisの最終濃度50mMまたは適当なバッファで稀釈)を加えて反応を停止させ、直ちに精製する。
【0161】
〔実施例7〕
本実施例は、抗CD3抗体中への、アルキンを有しているアミノ酸の導入について詳述する。また、mPEG-アジドによる誘導体化についても詳述する。
【0162】
実施例1に従って特定される任意の残基を、下記の天然にコードされていないアミノ酸で置換する。
【0163】
【化2】
【0164】
プロパルギルチロシンを有している抗CD3抗体を精製して、PBバッファ(100mM リン酸ナトリウム、0.15M NaCl;pH8)中に溶解させる(濃度0.1~10mg/mL)。この反応混合物に、アジドを有しているPEGを10~1000倍過剰量加える。次に、反応混合物に、触媒量のCuSOおよび銅線を加える。混合物をインキュベートした後(例えば、室温もしくは37℃にて約4時間、または4℃にて一晩であるが、これには限定されない)、HOを加えて、混合物を透析膜で濾過する。実施例3に記載の手順と同様の手順によって(ただし、これに限定されない)、サンプルを分析することができる。
【0165】
本実施例におけるPEGの構造は、以下である。
R-PEG(N)-O-(CH-NH-C(O)(CH-N
【0166】
式中、Rはメチルであり、nは4であり、Nの分子量は10,000である。
【0167】
〔実施例8〕
本実施例では、抗CD3抗体中の疎水性大型アミノ酸の、プロパルギルチロシンによる置換について詳述する。
【0168】
抗CD3抗体の配列中に存在する、Phe残基、Trp残基またはTyr残基を、実施例7に記載の通りに、下記の天然にコードされていないアミノ酸で置換する。
【0169】
【化3】
【0170】
改変後、アルキンを有するアミノ酸を有している抗CD3抗体変異体に、PEGを付加する。このPEGの構造は以下であり、カップリングの手順は実施例7に記載のものに準じる。
Me-PEG(N)-O-(CH-N
【0171】
これによって、(i)天然に生じる疎水性大型アミノ酸とほぼ等価である、天然にコードされていないアミノ酸を有しており、(ii)ポリペプチド中の別々の部位においてPEG誘導体で修飾されている、抗CD3抗体変異体が作製される。
【0172】
〔実施例9〕
本実施例では、1つ以上のPEGリンカーによって隔てられている、抗CD3抗体のホモ二量体、ヘテロ二量体、ホモ多量体またはヘテロ多量体の作製について詳述する。
【0173】
実施例7により作製される、アルキンを有している抗CD3抗体変異体を、二機能性PEG誘導体(構造は下記)と反応させる。
-(CH-C(O)-NH-(CH-O-PEG(N)-O-(CH-NH-C(O)-(CH-N
【0174】
式中、nは4であり、PEGの平均分子量は5,000程度である。反応により、対応する抗CD3抗体のホモ二量体を作製する。この二量体では、2つの抗CD3抗体分子がPEGによって物理的に隔てられている。同様の手法により、抗原結合性ポリペプチドを1つ以上の他のポリペプチドとカップリングさせて、ヘテロ二量体、ホモ多量体またはヘテロ多量体を形成させることができる。カップリング、精製および分析は、実施例7および3と同様に行う。
【0175】
〔実施例10〕
本実施例では、天然にコードされていないアミノ酸を有している抗CD3抗体、およびPEG化抗CD3抗体の、in vitroおよびin vivoにおける活性の測定方法について説明する。
【0176】
[細胞結合アッセイ]
PBS/1% BSA(100μL)中で、細胞(3×10個)を1組ずつインキュベートする。インキュベーションは、(i)様々な濃度の標識付けしていない抗CD3抗体、抗CD3抗体またはネガティヴ・コントロール(体積:10μL)の存在下または非存在下、ならびに(ii)125I-抗CD3抗体(約100,000cpmまたは1ng)の存在下で、0℃にて90分間行う(総体積:120μL)。次に、細胞を再懸濁し、350μLのプラスチック製遠心チューブ中で氷冷したFCS(200μL)上に積層し、遠心分離する(1000g;1分間)。チューブの末端を切断してペレットを回収し、ペレットと上清とをそれぞれ別々にガンマカウンター(Packard)で測定する。
【0177】
特異的な結合(cpm)は、競合対象の非存在下における全結合(2組のうちの片方の平均)から、100倍過剰量の標識付けしていない抗CD3抗体存在下における結合(非特異的結合;cpm)を引いて決定する。使用する細胞型のそれぞれについて、非特異的結合を測定する。異なる日程で同じ125I-抗CD3抗体調製物を用いて実験を行い、試行結果は内部整合性を示していなくてはならない。結合は、標識付けしていない天然の抗CD3抗体または抗CD3抗体の投与量に依存して阻害されるが、ネガティヴ・コントロールによっては阻害されない。天然の125I-抗CD3抗体の結合に対する、抗CD3抗体の競合能からは、受容体はいずれの形態をも同程度に認識していることが示唆される。
【0178】
[PEG化抗CD3抗体のin vivoにおける検討]
PEG-抗CD3抗体、非修飾抗CD3抗体およびバッファ溶液を、マウスまたはラットに投与する。本発明のPEG化抗CD3抗体は、非修飾抗CD3抗体と比較して、活性が向上しており、半減期も延長されていることが示されると予期される。
【0179】
[複合体化抗CD3抗体、非複合体化抗CD3抗体およびその変異体の、in vivoにおける半減期の測定]
オスのSprague Dawleyラット(約7週齢)を使用する。投与日に、それぞれの動物の体重を測定する。それぞれ3匹ずつのラットに、体重1kgあたり100μgの非複合体化抗CD3抗体または複合体化抗CD3抗体サンプルを、尾静脈から静脈内注入する。注入から1分後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後および24時間後に、COにより麻酔した状態で、それぞれのラットから500μLの血液を採取する。血液サンプルを室温で1.5時間保存した後、遠心分離によって血清を分離する(4℃、18,000×gにて5分間)。血清サンプルは、分析の日まで-80℃で保存する。サンプルを氷上で解凍した後、抗CD3抗体in vitro活性アッセイによって、血清サンプル中の活性な抗CD3抗体の量を求める。
【0180】
〔実施例11〕
天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体の、ヒトにおける安全性および/または効果の臨床試験。
【0181】
[目的]
天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化組み換えヒト抗CD3抗体を皮下投与した際の、同じ標的抗原に対して特異的である市販品と比較した、安全性および薬物動態を比較する。市販品の例としては、Herceptin、Bexxar、Campath、CEA-Scan、Enbrel、Erbitux、Humira、Myoscint、Prostascint、Raptiva、Remicade、ReoPro、Rituxan、Siμlect、Synagis、Verluma、Xolair、Zenapax、ZevalinまたはAvastinがある(すべて登録商標)。
【0182】
[患者]
18人の健康な協力者を、本研究に参加させる(年齢20~40歳;体重60~90kg)。被験者は、血液学上または血清化学上の臨床的に重要な臨床検査異常値を示さず、尿の毒性スクリーニング、HIVスクリーニングおよびB型肝炎表面抗原のいずれもが陰性である。被験者は、以下の徴候を呈していてはならない:高血圧;あらゆる原発性血液疾患の病歴;重篤な肝疾患、腎疾患、心血管疾患、胃腸疾患、腎尿路生殖器疾患、代謝性疾患、神経疾患の病歴;貧血または発作障害の病歴;細菌もしくは哺乳動物由来の産物、PEGまたはヒト血清アルブミンに対する既知の感受性;カフェイン含有飲料の常習的かつ重度の消費;他のあらゆる臨床試験への参加、または試験開始前30日以内の輸血もしくは献血への参加;試験開始前3箇月以内の抗CD3抗体への曝露;試験開始前7日以内の疾病への罹患;試験前の健康診断、または試験開始前14日以内の臨床試験評価における重篤な異常。被検者全員について、安全性の評価が可能である。また、薬物動態分析のための血液は、スケジュールに沿って採取する。試験の全体が、施設内倫理委員会の承認および患者の同意の下に行われる。
【0183】
[試験デザイン]
本試験は健康な男性協力者を対象とする、フェーズI、一施設、オープンラベル、ランダム化、2期クロスオーバー試験である。18人の被検者を、2種類の処置シーケンス群の一方にランダムに割り振る(1群あたり9人の被検者)。抗CD3抗体を、2回に分割した投与期間で、上腿に皮下ボーラス注入により投与する。投与するのは、それぞれ等価な投与量の、天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体および選ばれた市販品である。市販品の投与量および投与頻度は、添付文書の指示に従う。市販品を使用する、追加の用量、投与頻度または他の所望のパラメータを、追加の被検者群を含めることによって、本試験に追加してもよい。各投与期間の間には、14日間のウォッシュアウト期間が挟まれている。2回の投与期間のそれぞれについて、投与の12時間以上前~投与後72時間の間、被験者を試験施設に拘束する。ただし、投与期間の間には拘束しない。PEG化抗CD3抗体についても、追加の用量、投与頻度または他のパラメータを試験するならば、さらなる被検者群を追加してもよい。抗CD3抗体の実験対象となる製剤は、天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体である。
【0184】
[血液サンプリング]
抗CD3抗体の投与前後に、静脈への直接穿刺によって一連の血液を採取する。血清中の抗CD3抗体濃度を検査するために、(i)投与前約30分、20分および10分において(3つのベースラインサンプル)、ならびに、(ii)投与後約30分、1時間、2時間、5時間、8時間、12時間、15時間、18時間、24時間、30時間、36時間、48時間、60時間および72時間において、静脈血サンプル(5mL)を採取する。それぞれの血清サンプルを2等分する。全ての血清サンプルを-20℃で保存する。血清サンプルは、ドライアイス中に入れて輸送する。空腹時の臨床検査試験(血液検査、血清化学検査および尿検査)を、1日目の初回投与直前、4日目の朝、16日目の投与直前、および19日目の朝に実施する。
【0185】
[生体分析の方法]
ラジオイムノアッセイ(RA)法またはELISAキット法により、血清中の抗CD3抗体濃度を決定する。
【0186】
[安全性の判定]
各投与(1日目および16日目)の直前、ならびに各投与の6時間後、24時間後、48時間後および72時間後に、バイタルサインを記録する。安全性の判定は、有害事象の発生および類型、ならびに臨床検査試験のベースラインからの変化に基づく。さらに、バイタルサイン(血圧を含む)の測定結果および健康診断結果の、試験前からの変化も評価する。
【0187】
[データ分析]
投与後の値のそれぞれから、ベースライン抗CD3抗体濃度の平均値を減じることによって、投与後の血清濃度の値を投与前のベースライン抗CD3抗体濃度で較正する。ベースライン抗CD3抗体濃度の平均値は、投与前30分、20分および10分に採取した3つのサンプルに由来する抗CD3抗体レベルの平均値から求める。投与前の血清中抗CD3抗体濃度がアッセイの定量レベルに満たない場合には、これを平均値の計算に含めない。薬物動態学的パラメータは、ベースライン抗CD3抗体濃度で較正した血清濃度データから決定する。Digital Equipment Corporation VAX 8600コンピュータシステムで最新バージョンのBIOAVLソフトウェアを用い、モデルに依存しない方法によって、薬物動態学的パラメータを計算する。以下の薬物動態学的パラメータを求める:ピーク血清濃度(Cmax);ピーク血清濃度に達した時間(tmax);線形台形則で計算した、時刻0~最後の血液サンプリング時(AUC0-72)における濃度-時間曲線下面積(AUC);消失速度定数から計算した、消失半減期(t1/2)。消失速度定数は、対数線形な濃度-時間プロットの末端線形領域における連続するデータ点を、線形回帰することによって推定する。それぞれの処置について、薬物動態学的パラメータの平均、標準偏差(SD)および変動係数(CV)を計算する。パラメータの平均値の割合(保存されている製剤/保存されていない製剤)を計算する。
【0188】
[安全性の結果]
有害事象の発生は、処置群の間で均等に分布している。ベースライン、試験前の臨床検査試験または血圧からの、臨床的に重要な変化は存在しない。また、試験前の健康診断結果およびバイタルサイン測定からの、特筆すべき変化も存在しない。2つの処置群の間で、安全性プロファイルは類似していなくてはならない。
【0189】
[薬物動態の結果]
18人の被検者全員について、同じ標的抗原に特異的な1種類以上の市販品を1回投与した後の血清中抗CD3抗体濃度の平均-時間のプロファイル(ベースライン抗CD3抗体レベルでの較正前)を、同じ時点において測定した天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体のものと比較した。全ての被検者の投与前ベースライン抗CD3抗体濃度は、正常な生理的範囲に収まっていなければならない。投与前のベースライン抗CD3抗体濃度の平均から得た血清データによって、薬物動態学的パラメータを決定する。その後、Cmaxおよびtmaxを決定する。選ばれた1または複数の臨床的比較対象のtmaxの平均は、天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体のtmaxよりも有意に短い。試験に供した市販の抗CD3抗体製品の消失半減期の値は、天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体の消失半減期と比較して有意に短い。
【0190】
本試験は健康な男性被検者に対して実施するものであるが、他の患者集団においても同様の吸収特性および安全性プロファイルが見込まれる(癌もしくは慢性腎不全を有する男性もしくは女性患者、小児腎不全の患者、術前自己貯血が計画されている患者、または待機的手術が予定されている患者など)。
【0191】
結論として、健康な男性被検者にとって、1回投与量の天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体の皮下投与は安全であり、耐えうるものである。有害事象の発生、臨床検査値、バイタルサインおよび健康診断結果の比較に基づくと、市販形態の抗CD3抗体と天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体とは、同等の安全性プロファイルを有する。天然にコードされていないアミノ酸を有しているPEG化抗CD3抗体は、患者および医療関係者に対して、多大な臨床上の便益を供与しうるものである。
【0192】
〔実施例12〕
FR細胞株およびFR細胞株を用いて、抗CD3Fab-葉酸複合体の親和性および特異性を評価した。葉酸を含まない培地中での培養後にフローサイトメトリー測定を行ったところ、上咽頭癌細胞株(KB)および卵巣癌細胞株(OV-90、SKOV-3)は、FRを過剰発現していた。FRを発現していない腎臓癌細胞株(CAKI-1)および肺胞基底上皮細胞腺癌(A549)を、ネガティヴ・コントロールとした。抗CD3Fab-葉酸複合体は、KB細胞(FR)に対して、葉酸と複合体化していない抗体と同等の親和性での結合能を有していた。このことは、抗CD3Fabとの複合体化によっては、葉酸受容体に対する結合がほとんど失われないことを示している。同様に、抗CD3Fab-葉酸は、Jurkat 細胞(CD3)に対して、抗CD3と同等の親和性で結合した。一方、A549細胞(FR)に対する結合は見られなかった。
【0193】
〔実施例13〕
次に、KB細胞およびOV-90細胞(FR)を用いたin vitro細胞傷害アッセイによって、抗CD3Fab-葉酸複合体の活性を検討した。CAKI-1細胞およびA549細胞(FR)を対照群とした。活性化ヒト末梢血単核細胞(PMBC)と共に細胞を培養し(標的細胞:効果細胞=1:10)、様々な濃度の抗CD3Fab-葉酸または抗CD3Fabのみで処置した。溶解した細胞から放出されるLDHレベルを測定し、さらにCellTiter-GloおよびFACSを利用した傷害アッセイを行って、細胞傷害を定量化した。PBMC存在下において、抗CD3Fab-葉酸複合体は、それぞれ10pMおよび100pMのEC50でKB細胞およびOV-90細胞を傷害した(図2A、附録図4)。しかし、CAKI-1細胞(図2A)およびA549細胞(附録図4)は、100nMの複合体によっても影響を受けなかった。抗CD3Fabのみによる処置では、検討した全ての細胞株において無視できる程度の傷害しか誘導されなかった(図2A)。さらに、SKOV-3細胞(図2B)またはKB細胞(附録図5)を、抗CD3Fab-葉酸複合体の存在下で、活性化PBMCと共に葉酸を含まない培地中で16時間インキュベートしたところ(標的細胞:効果細胞=1:10)、ロゼットが形成された。これは、T細胞による標的化について、さらなる証拠を提供するものである。これとは対照的に、抗CD3Fabは、T細胞による攻撃に影響を及ぼさず、PBMCの非存在下またはKB細胞における凝集は認められなかった(附録図5)。
【0194】
〔実施例14〕
次に、齧歯類において、抗CD3Fab-葉酸複合体および非複合体化抗CD3Fabの薬物動態を検討した。(i)1mg/kgもしくは5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸(PBS中)、または(ii)1mg/kgの非複合体化抗CD3Fabを、3匹のラットに静脈内注入により1回投与した。そして、一定間隔で採取した血清を、ELISAで分析した。抗CD3Fab-葉酸も、対応する非複合体化抗CD3Fab変異体も、いずれも同じ速度で血清濃度が減少した(血清半減期:60分間、図3D)。したがって、抗CD3Fab-葉酸は、非複合体化抗CD3Fabと同様の薬物動態であった。このことは、複合体のPKプロファイルが、葉酸による誘導体化の影響を受けていないを示している。
【0195】
〔実施例15〕
次に、抗CD3Fab-葉酸二重特異性薬剤のin vivoにおける効果を、メスのNOD-SCIDマウスを用いた異種移植モデルで評価した。動物を低葉酸食で飼育して、二重特異性薬剤の競合するおそれのある、循環血清中の葉酸レベルを低下させた。KB細胞(FR)またはA549細胞(FR)には、非活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:100)または活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:10)と混合した際に腫瘍形成能がみられ、この混合物をマウスに皮下注射した。したがって、ヒトPBMCと混合したKB細胞(標的細胞:効果細胞=1:10)をマウスに埋入した。その後、同じマウスに、1.5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸またはPBSを静脈内注射した(腫瘍細胞の埋入と同じ日に開始し、10日間毎日続けた)。この投与レジメンは、抗CD3Fab-葉酸複合体の薬物動態学的特性と、二重特異性抗体に関する以前の研究10に基づいて選択されたものであった。PBSで処置したマウスにおいては、腫瘍体積の急激な増加が見られた(約5日間で倍増する速度)。これとは対照的に、抗CD3Fab-葉酸で処置したマウスの腫瘍は、研究の間を通して、辛うじて検出できる程度であった(図3A)。並行研究では、非活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:100)と混合したKB細胞をマウスに埋入した。そして、1.5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸またはPBSで静脈内処置した(腫瘍細胞の埋入と同じ日に開始し、10日間毎日続けた)。両群のマウスとも、研究の最初の30日間、腫瘍体積が減少した。これは恐らく、注入部位におけるPBMCの高負荷に起因すると思われる。しかし、腫瘍の減少速度は、抗CD3Fab-葉酸で処置したマウスの方が速かった。研究35日目以降、PBSで処置したマウスの腫瘍は、体積が徐々に増加していった。一方、抗CD3Fab-葉酸で処置したマウスの腫瘍は、辛うじて検出できる程度まで減少した。このことは、抗CD3Fab-葉酸複合体によれば、活性化T細胞の非存在下であっても、細胞傷害性T細胞の攻撃によって腫瘍が排除されることを示している。FRを発現している腫瘍に関して、抗CD3Fab-葉酸複合体のin vivoにおける選択性を検討するために、A549細胞(FR)を非活性化ヒトPBMC(標的細胞:効果細胞=1:100)と混合して、マウスに埋入した。同様の方法でマウスを処置した(1.5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸を、10日間続けて静脈内投与)。その結果、処置から20日後において、PBSで処置した腫瘍との有意差は認められなかった。上記の全実験を通じて、抗CD3Fab-葉酸で処置したマウスにも、PBSで処置したマウスにも、体重の減少または明白な毒性は認められなかった(図3C、附録図6B)。さらに、抗CD3Fab-葉酸を注入したマウスおよび注入していないマウスの、組織病理学的な分析を行った。抗CD3Fab-葉酸またはPBSで処置したマウスの腎臓染色像には、T細胞の侵入は認められなかった。また、他の組織(脾臓、肺および肝臓など)に関しても、処置群と対照群との間で、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色像における明確な病理学的な差異も認められなかった。
【0196】
〔実施例16〕
標準的なペプチド合成装置を用いて、固相ペプチド合成(SPPS)を行った。ペプチドおよびペプチド複合体は全て、調製用逆相高速液体クロマトグラフィ(RP-HPLC)装置(Waters, xTerra C18 10μm; 19 x 250 mm)を用いて精製した。そして、分析用RP-HPLC(Waters, X-Bridge C18 5μm; 3.0 x 50 mm)および液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS)によって分析した。Varian 400 MHz NMR分光器を用いて、1Hのスペクトルを得た。サンプルは、DMSO-d6/D2O中を移動させた。1Hのシグナルは全て、残留溶媒またはDMSO(2.50ppm)をレファレンスとして、ppmで記録した。スピン結合定数(Hz)と共に、s:一重線、d:二重線、t:三重線、q:四重線、m:多重線または分解不能、b:幅広線と記載した。タンパク質の質量は、Ambrx質量分析施設(La Jolla, CA)で得た。
【0197】
〔実施例17〕
発現プラスミドの構築、E. coli細胞株W3110B60、タンパク質の産生。
【0198】
pET-20b (+)プラスミドおよびpET-24 (+)プラスミド(EMD4Biosciences)から、発現プラスミド(AXID)を構築した。改変M. jannaschiitRNA合成酵素(pAcPheに特異的)からなるアンバー抑制カセットを、AXIDのBamHIサイト内にクローニングした(タイプIIクローニング)。UCHT1 Version.2 Fab CD3配列は、先行文献によって得た1,2。この配列を、AXIDベクター内のphoAプロモーターの下流、オープンリーディングフレームの中にサブクローニングした。重鎖のリシン136(HC-Lys136)を、「TAG」のアンバーナンセンスコドンにQuickChangeした(Stratagene)。野生型E. coliのK-12 W3110細胞株(ATCC)を、下記の遺伝子型を有するように相同組み換えによって改変した:F- IN (rrnD-rrnE) λ- araB::g1 tetA fhuA::dhfr proSW375R::cat。W3110B60ゲノム中にある温度感受性の表現型proSは、この発現プラスミド中のproSの機能性コピーである、野生型のものによって補った。ベクターをW311B60細胞に形質転換させた。この細胞を、カナマイシン硫酸塩(50μg/mL)を補った合成培地(2.1L)中、37℃、pH7、480~1200rpmのカスケード制御にて、培養槽内で増殖させた。産生フェーズとするために、OD600=30となった時点でpHを6.8に変更し、合成培地を加えた。次に、水に溶解させたpAcPhe(100g/L)を、培養槽に加えた。溶存酸素は30%を維持するように設定し、攪拌は最初の条件のまま(480~1200rpm)とした。24時間後、細胞を回収し、UCHT1を細胞から抽出した。UCHT1の抽出は、TESバッファ(0.2M Tris(pH8.0)、0.5mM EDTA、0.5M スクロース)中、4:1(v/w)の割合で4℃にてインキュベートし、浸透圧ショックを与えることによって行った。抽出物を遠心分離によって清澄化させ(18000rpm、20分間、4℃)、0.22ミクロンのフィルタで濾過し、Protein Gカラム(GE healthcare)に装填した。カラムを5倍ベッド体積のPBS(pH7.4)で洗浄し、10倍ベッド体積の0.1M グリシン-HCl(pH3.0)でタンパク質を溶離させた。各画分は、10%の1M Tris-HCl(pH8)を入れたチューブ中に回収した。集めた画分を、カチオン交換によってさらに精製した(カラム:SP650S(Tosoh Bioscience)、バッファA:0.02M リン酸塩(pH6.0)、バッファB:0.02M リン酸塩(pH6.0)+0.5M NaCl)。その後、SDS-PAGEゲルおよび質量分析により分析した。
【0199】
〔実施例18〕
葉酸-N10(TFA)-Lysリンカー(1)の合成。
【0200】
【化4】
【0201】
H-Lys-(Boc)-2-ClTrt-Resin樹脂(Peptide international)から始める標準的な固相ペプチド合成によって、葉酸-Lysを合成した。要約すると、H-Lys-(Boc)-2-ClTrt-Resin樹脂(500mg、0.89mM)をDCM(5mL)で膨潤させた後、ジメチルホルムアミド(DMF、5mL)でさらに膨潤させた。Fmoc-L-Glu(OtBu)-OH(1.5等量)、HATU(1.5等量)およびDIPEA(4.0等量)を、DMF(3mL)に溶解させた溶液を加えた。アルゴンで2時間バブリングし、DMF(3×3mL)およびi-PrOH(3×3mL)で樹脂を洗浄した。Kaiserテストにより、カップリング効率を評価した。樹脂をDMF(3mL)中で膨潤させた後、プテロイル酸(1.5等量)、HATU(1.5等量)およびDIPEA(4.0等量)をDMF(3mL)に溶解させた溶液を加えた。アルゴンで2時間バブリングし、DMF(3×3mL)およびi-PrOH(3×3mL)で樹脂を洗浄した。Kaiserテストにより、カップリング効率を評価した。樹脂をDCM(3mL)中で膨潤させた後、アルゴン下で乾燥させた。トリフルオロ酢酸(TFA):HO:トリイソプロピルシラン(95.5:2.5:2.5)カクテルを用いて最終化合物を樹脂から直接切断し(3×5mL)、ジエチルエーテル(300mL)を入れた丸底フラスコ中にて、沈殿した粗生成物を得た。濾過および乾燥を経た後、調製用逆相(RP)-HPLCを用いて粗生成物を精製した(C18カラム、0%B~50%B(25分間)、バッファA:0.1TFA(水溶液)、バッファB:0.1TFA(アセトニトリル溶液)、λ=280nm)。ACNを真空下で除去し、精製された画分を乾燥凍結して、淡黄色固体の1を得た。
1H NMR (DMSO-d6/D2O): δ 1.18 (m, 2H, Pep-H); 1.45 (m, 1H, Pep-H); 1.54 (m, 3H, Pep-H); 1.81 (m, 1H, Pep-H); 1.95 (m, 1H, Pep-H); 2.11 (m, 2H, Pep-H); 2.88 (m, 2H, Pep-H); 3.94 (m, 1H, Lys-αH); 4.12 (m, 1H, Glu-αH); 4.46 (s, 2H, Pte-H); 6.61 (d, J = 8.5 Hz, 2H, Pte-Ar-H); 7.56 (d, J = 8.5 Hz, 2H, Pte-Ar-H); 8.60 (s, 1H, Pte-Ar-H)
LC-MS (M + H)+: calcd for C27H30F3N9O8= 665.6; found = 666.0 g/mol。
【0202】
〔実施例19〕
フタルイミド-PEG4-COOHの合成。
【0203】
【化5】
【0204】
トリフェニルホスフィン(TPP、216.7mg、0.826mmol)およびジエチルアゾジカルボキシラート(DEAD、143.9mg、0.826mmol)を無水THF(0.50mL)に溶解させた溶液に、0℃、アルゴン雰囲気下にて、無水THFに溶解させたBuOOC-PEG-OH(200.0mg、0.751mmol)を加えた。攪拌しながら15分間反応させた後、N-ヒドロキシフタルイミド(134.8mg、0.826mmol)の無水THF溶液を、10分間かけて加えた。反応混合物を、室温、アルゴン雰囲気下にて12時間攪拌した。真空下で溶媒を除去した後、粗生成物にTFA:トリイソプロピルシラン:水(95:2.5:2.5;5mL)を加えた。そして、室温にて1時間攪拌して、tert-ブチル基の保護を外した。最終生成物を、フラッシュクロマトグラフィで精製した(ヘキサン:EtOAc=1:1)。精製された画分を一纏めにし、その溶媒を真空下で蒸発させて、油状液体の最終産物を得た。
1HNMR (CDCl3): δ2.63 (m, 2H); 3.59~3.65 (m, 14H); 3.88 (m, 2H); 4.38 (m, 2H); 7.75 (m, 2H), 7.84 (m, 2H)
LC/MS (ESI) (m/z): (M + H )+calcd. for C19H25NO9, 411.4, found, 411.4 g/mol。
【0205】
〔実施例20〕
フタルイミド-PEG4-NHS(2)の合成。
【0206】
【化6】
【0207】
HOOC-PEG4-O-N-フタルイミド(50mg、0.122mmol)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、15.4mg、0.134mmol)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、1.5mg、0.0122mmol)を無水DCM(0.5mL)に溶解させた溶液に、アルゴン雰囲気下で、無水DCM(0.5mL)に溶解させたエチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、20.8mg、0.134mmol)を加えた。反応混合物を室温、アルゴン雰囲気下にて4時間攪拌した。その後、フラッシュクロマトグラフィによって精製して(ヘキサン:DCM=1:1)、NHS-PEG4-O-N-フタルイミドを得た。精製された画分を一纏めにし、その溶媒を真空下で蒸発させて、油状液体の最終産物を得た。
1HNMR: δ 2.90 (t, J=6.4, 2H); 2.75 (bs, 4H); 3.56~3.63 (m, 12H), 3.83~3.87 (m, 4H), 4.37 (t, J=4.5, 2H); 7.75 (m, 2H), 7.83 (m, 2H)
LC/MS (ESI) (m/z): (M + H)+calcd. for C23H28N2O11, 508.5, found, 509.0 g/mol。
【0208】
〔実施例21〕
葉酸-Lys-PEG4-フタルイミド(3)の合成。
【0209】
【化7】
【0210】
NHS-OC-PEG4-O-N-フタルイミド(21mg、0.041mmol)および葉酸-N10(TFA)-Lys(25mg、0.037mmol)を無水DMSO(300μL)に溶解させた溶液に、アルゴン雰囲気下で、DIPEA(101.4μL、0.601mmol)を加えた。反応混合物を室温にて2時間攪拌し続けて、反応の進行をLC/MSで追跡した。調製用RP-HPLCを用いて、最終産物を精製した(C18カラム、0%B~50%B(25分間)、バッファA:0.1TFA(水溶液)、バッファB:0.1TFA(アセトニトリル溶液)、λ=280nm)。ACNを真空下で除去した後、精製された画分を凍結乾燥して、淡黄色の固体を得た。
LC/MS (ESI) (m/z): (M + H )+calcd. for C46H53F3N10O16, 1058.9, found, 1059.0 g/mol。
【0211】
〔実施例22〕
葉酸-Lys-PEG4-アミノオキシリンカー(4)の合成。
【0212】
【化8】
【0213】
葉酸-N10(TFA)-Lys-PEG-フタルイミド(30mg、0.028mmol)をDMSO(1mL)に溶解させた溶液に、ヒドラジン(13μL、0.42mmol)を加えた。反応時のpHは、pH9.35に維持した。LC/MSにより、フタルイミド基およびTFA基の脱保護を監視した。調製用逆相HPLCを用いて、葉酸-Lys-PEG4-アミノオキシリンカーを精製した(C18カラム、0%B~50%B(25分間)、バッファA:0.1TFA(水溶液)、バッファB:0.1TFA(アセトニトリル溶液)λ=280nm)。ACNを真空下で除去した後、精製された画分を凍結乾燥して、黄色の固体を得た。
1H NMR (DMSO-d6/ D2O) δ 1.88 (m, 1H, Pep-H); 2.03 (m, 1H, Pep-H); 2.15 (t, J = 7.4, 2H); 2.28 (t, J = 6.4, 2H); 3.05 (m, 4H); 3.20-3.60 (m, xH ); 3.94 (m, 1H, Lys-αH); 4.23 (m, 1H, Glu-αH); 4.48 (s, 2H, Ptc-H); 6.64 (d, J = 8.8 Hz, 2H, Ptc-Ar-H); 7.64 (d, J = 8.8 Hz, 2H, Ptc-Ar-H); 8.63 (s, 1H, Pte-Ar-H)
LC/MS (ESI) (m/z): (M + H )+ calcd. for C36H52N10O13, 832.9 g/mol, found, 833.0 g/mol。
【0214】
〔実施例23〕
葉酸-抗CD3への複合体化。
【0215】
【化9】
【0216】
pAcPheを有している抗CD3Fab(10mg、0.21μmol)をPBS(pH7.4、1mL)に溶解させた溶液を、50mMの酢酸ナトリウム(pH4.0、900μL)とバッファ交換した。1Mの酢酸ヒドラジド(100μL)を加えた後、葉酸-Lys-PEG4-アミノオキシリンカー(1.7mg、2.10μmol)を反応混合物に加えて、28℃にて48時間、振盪しながら(50rpm)インキュベートした。RP-HPLC(Zorbax 300SB C3 column, 4.6x150mm; Agilent)によって、反応の進行を監視した。30%B~90%Bの線形勾配で、複合体を溶離させた(A:水および0.1%TFA、B:アセトニトリルおよび0.1%TFA)。Agilent 1100 seriesHPLCシステムおよびChemstationソフトウェアを利用して、葉酸-リンカーと複合体化したFabの割合を分析・定量した。反応は48時間以内に完了し、変換効率は95%超であった。カチオン交換カラム(SP 650S, Tosoh Biosciences)を用いて最終複合体を精製し、PBSとバッファ交換して、使用まで4℃で保存した。
Expected MS: 48539.64 Da, Observed MS: 48538.89 Da。
【0217】
〔実施例24〕
in vitroにおける効果の研究。
【0218】
アッセイに使用する前に、標的細胞であるKB細胞、OVCAR-3細胞、SKOV-3細胞およびOV-90細胞を、葉酸を含まないRPMI-1640(10%のFBS、100U/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンを添加)中で、5代以上継代して維持した。Jurkat細胞およびA549細胞は、RPMI-1640(10%のFBS、100U/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンを添加)中で維持した。全ての細胞は、5%二酸化炭素、95%湿度雰囲気下、37℃にて、単層で増殖させた。
【0219】
FRを発現させるために、いずれもR&D systems製の抗FR-PE抗体(青)およびIgG1アイソタイプ-PEコントロール(赤)と共に、4℃にて1時間、細胞をインキュベートした。結合は、フローサイトメトリーにより評価した。KB細胞またはA549細胞をT75フラスコに播種し、48時間にわたって単層を形成させた。トリプシンで分解した後、細胞を遠心チューブに移し(チューブ1本あたり1×10細胞)、遠心分離した。葉酸-FITC濃度が増加系列にある新しい培地に取り換え、4℃にて30分間インキュベートした。新しい培地(2×1.0mL)およびPBS(1×1.0mL)ですすいだ後、細胞をPBS(1.0mL)中に再懸濁した。そして、細胞に結合している蛍光を、フローサイトメーターによって分析した(1サンプルあたり30,000細胞)。KB細胞をT75フラスコ中で平板培養して、48時間にわたって単層を形成させた。トリプシンで分解した後、分離した細胞を遠心チューブに移し(チューブ1本あたり1×10細胞)、遠心分離した。それぞれのチューブ中の使用済みの培地を、新しい培地(0.5mL)で置き換えた。この新しい培地には、100nMのFA-FITCと、濃度が増加系列にある抗CD3Fab-葉酸(0.1nM~0.8nM)と、が含まれていた。4℃にて30分間インキュベートした後、細胞を培養培地(2×1.0mL)およびPBS(1×1.0mL)ですすいで、結合していない放射能を全て除去した。次に、細胞をPBS(0.5mL)中に再懸濁し、細胞と結合している蛍光をフローサイトメーターで計測した。
【0220】
Ficoll Hypaque Plus(GE Heathcare)勾配遠心分離機によって、バフィーコート(San Diego Blood Bank)からヒト末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。充分な細胞が単一のドナーから得られない場合は、複数のドナー由来のものを使用した。ただし、in vitroにおける使用でも、in vivoにおける使用でも、これらは互いに分けて(つまり、混合せずに)用いた。rhIL-2(100ng/mL)およびGMCSF(100ng/mL)の存在下で、aCD3/aCD28 supramagnetic beads(Life Technologies)によってPBMCを活性化させた。
【0221】
細胞傷害アッセイのために、Accutaseで標的細胞をフラスコから剥離させ、U底の96ウェルプレートに播種した。活性化PBMC(エフェクター細胞)または非活性化PBMC(エフェクター細胞)を加え、特定の(標的細胞:エフェクター細胞)比において、細胞を標的とさせた。抗CD3葉酸を完全培養培地で稀釈して共培地に加え、短時間遠心分離にかけた後、5%CO、37℃にて24時間、プレートをインキュベートした。LDHの放出による細胞傷害に関しては、Promega製のキットを用いて、製造者の説明書に則ってLDHを測定した。フローサイトメトリーによる細胞傷害に関しては、細胞をDIO(細胞膜を緑色に染色)で標識付けし、ヨウ化プロピジウムを最終濃度1μg/mLで加えた。ATP含有量による細胞傷害に関しては、24時間後にPBMCを洗い流し、Cell Titer Glo(Promega)を用いてKB細胞のATP含有量を測定した。
【0222】
〔実施例25〕
薬物動態研究。
【0223】
抗CD3Fab-葉酸および非複合体化CD3Fabを、Sprague-Dawleyラット(Charles River Laboratories)に投与した。投与は、静脈内への1回のボーラス注入であった。一定間隔で血液を採取し、ELISAによってラット血清中の抗CD3Fab-葉酸を定量した。時間vs.血清濃度を、複合体の薬物動態特性の指標とした。
【0224】
〔実施例26〕
in vivoにおける効果の研究。
【0225】
6~8週齢のメスのNOD-SCIDマウスを、TSRI animal facilitiesまたはThe Jackson Laboratoryから購入した。研究に先立ち、これらのマウスを、葉酸欠乏・γ線照射特別食(Teklad)で2週間以上飼育した。動物は1ケージ当たり5匹を飼育し、バリアシステム内で病原体を保有させず、棚に覆いを被せた状態においた。食餌およびオートクレーブ処理した水道水は、無制限に摂取させた。マウスのそれぞれの個体は、尾の付根のタトゥーまたは耳の穿孔によって区別した。動物に対する扱いは全て、The Scripps Research Institute Animal CareおよびAmbrx, Inc. Animal Care and Use Committeeの承認を受けている。また、動物の扱いはnational and international guidelines for the humane treatment of animalsに則った。
【0226】
腫瘍細胞(マウス1匹あたり5×10個のKB細胞)を、特定の(標的細胞:エフェクター細胞)比で、活性化PBMCまたは非活性化PMBCと混合した。この混合物を、左脇腹に200μL皮下注射して埋入した。1.5mg/kgの抗CD3Fab-葉酸またはPBSを、1日に1回(合計10回)静脈内注射して動物を処置した(黒矢印)。この処置は腫瘍細胞の埋入と同じ日に開始し、週末に対応させるため、時折2日間の投与停止期間を設けた。腫瘍の増殖は、週に2回、互いに垂直な2方向の長さを測定することによって監視した。腫瘍の体積は、次の式によって推定した:V=(L×W×W)/2 (式中、Vは体積、Wは最短径、Lは最長径である)。体重は、マウスを電子天秤に載せて測定した。群の平均腫瘍サイズが1,000mm程度に達するか、または投与開始から35日目に達したときの、いずれか早かった時点で実験を終了した。
【0227】
免疫組織化学分析に関して、イソフルランによって動物を致死させ、腫瘍および種々の器官を摘出し、ホルマリン-亜鉛中で一晩固定した。組織をパラフィンに包埋し、染色用の薄片を作製した。常法に則り、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色を施した。スライドは、Leicaスキャナでスキャニングした。
【0228】
本明細書に記載の実施例および実施形態は説明のみを目的としており、当業者にとっては、これらの実施例および実施形態を考慮に入れた多様な改変または変更が示唆されていることを理解されたい。そして、このような改変または変更も、本出願の趣旨および範囲に含まれ、添付の特許請求の範囲に含まれることも理解されたい。本明細書で援用した刊行物、特許および特許出願の全ては、その全体があらゆる目的において、参照により本明細書に組み込まれる。
【0229】
本発明は、以下のように構成することもできる。
<1>配列番号1~15のうち少なくとも1つを有している、抗CD3抗体。
<2>配列番号1~15のうち2つを有している、<1>に記載の抗CD3抗体。
<3>(i)第1結合ドメインおよび(ii)第2結合ドメインを有している、二重特異的に結合する分子であって、上記第2結合ドメインは、配列番号1~15からなる群より選択される、二重特異的に結合する分子。
<4>配列番号1~15の1つ以上に示されるアミノ酸配列を有している、細胞傷害活性を有しておりCD3に特異的に結合する構築物。
<5>(a)配列番号1~3からなる群より選択されるアミノ酸配列を有している、VHドメイン、および、(b)配列番号4~6からなる群より選択されるアミノ酸配列を有している、VLドメイン、を有する結合ドメインを有している、抗CD3抗体。
<6>上記抗体は、1つ以上の翻訳後修飾を有している、<1>~<5>のいずれかに記載の抗CD3抗体。
<7>上記抗体は、リンカー、ポリマーまたは生物活性を有する分子と連結している、<1>~<5>のいずれかに記載の抗CD3抗体。
<8>上記生物活性を有する分子は葉酸である、<7>に記載の抗CD3抗体。
<9>上記抗体は、二機能性ポリマー、二機能性リンカー、または、1つ以上の抗体ポリペプチドと連結している、<1>~<5>のいずれかに記載の抗CD3抗体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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