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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】経口組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20230206BHJP
   A23K 20/142 20160101ALI20230206BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20230206BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
A61K31/198
A23K20/142
A23L33/17
A61P27/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2015191996
(22)【出願日】2015-09-29
(65)【公開番号】P2017066072
(43)【公開日】2017-04-06
【審査請求日】2018-08-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】石井 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】森 麻美
(72)【発明者】
【氏名】森田 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】森下 幸治
(72)【発明者】
【氏名】神村 彩子
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】渕野 留香
【審判官】前田 佳与子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-522146(JP,A)
【文献】国際公開第2005/105126(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0159029(US,A1)
【文献】ファルマシア、2014年、50巻、3号、217~221頁
【文献】新しい眼科,2010年,27巻,2号,151-157頁
【文献】Immun.,Endoc.&Metab.Agents in Med. Chem.,2013,13,214-220
【文献】Coll.Antropol.,2001,Vol.25,Suppl.No.1,p.145-148
【文献】PNAS,2005,102,38,13681-13686
【文献】FEBS Letters,2001,508,438-442
【文献】Oxid.Med.Cell.Longev.,2014,ArticleID463264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44,A61P27/00-27/16, A23L33/00-33/29, A23K 20/142
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
JMEDPlus/JST7580/JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトルリンまたはその塩を有効成分として含有する、白内障に起因する眼のかすみの予防または抑制用組成物(但し、農水産物またはその加工品の態様であるものを除く。)
【請求項2】
食品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
医薬品である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シトルリンまたはその塩を有効成分として含有し、生体内においてより高い水晶体の保護効果を介して水晶体の混濁を予防または抑制することにより、水晶体の混濁に起因する症状、詳しくは眼のかすみを予防または抑制する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医学的技術の進歩により、白内障は手術により治療が行われる疾患となっている。しかし、白内障の所見は、50歳代頃から年齢とともに漸次増加を認め、80代で67~83%に達し、緑内障や糖尿病性網膜症等とあわせ未だ生涯における視力低下要因の上位となっている。
【0003】
白内障は水晶体構成タンパク質の凝集によってその透明性が不可逆的に失われ、視覚が妨げられている状態である。これら加齢に伴う水晶体ストレスの要因としては、活性酸素種(ROS)による酸化ストレスの関与のほか、遺伝的要因の関わりも報告されている。即ち、老化に伴う酸化ストレスの増大や紫外線などの外界からの刺激により、水晶体タンパク質の変性が進行することに伴って、視覚機能が障害され、人々のQOL(Quality of Life;生活の質)を著しく低下させる(非特許文献1、2)。
【0004】
現在、白内障の根治法は、混濁した水晶体を摘出し眼内レンズを挿入する外科的治療以外にない。白内障の薬物療法で使われる薬としては点眼薬が一般的であるが、点眼薬の投与は、白内障による水晶体の混濁を可逆的に透明な状態に戻したり、水晶体の濁りによる視力の低下を改善する効果はなく、進行を少しでも遅らせることと手術までの期間を延ばすことを期待して行われる(非特許文献1、2)。
このような現状に鑑み、容易に摂取可能な高い水晶体保護作用を有する経口剤が提供できれば、人々の視機能を健常に保ち、人々のQOLを向上させることができる。
【0005】
L-シトルリンは、生体内でタンパク質の合成原料としては使われず、遊離の状態で存在するアミノ酸の一種である。体内ではL-アルギニン前駆体として、また、血管拡張作用を有する一酸化窒素(NO)の供給に関わるNOサイクルの構成因子として、血管機能の維持において重要な役割を果たしている。これまでにL-シトルリンの投与により、血管拡張因子であるNO産生を介した抗動脈硬化作用、血流促進効果、血管内皮機能改善効果、および網膜細動脈の拡張作用が報告されており(非特許文献3、4、5)、L-シトルリンは、NO産生を介して主に心血管系に作用する機能性素材として用いられている。また、欧州では、抗疲労用の医薬品として、L-シトルリン-リンゴ酸塩の形態で用いられている。さらに、L-シトルリンが筋タンパク質代謝改善作用を有するとの報告もある(非特許文献6)。
【0006】
しかしながら、これまでアミノ酸であるL-シトルリンが、摂取後、水晶体組織に到達し、水晶体タンパク質の酸化変性を抑制し、白内障の進展を遅延させることは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本白内障学会誌,(2014) 26,13-19.
【文献】日本白内障学会誌,(2014) 26,5-12.
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, (2005) 102, 13681-13686.
【文献】Immunology, Endocrine & Metabolic Agents in Medicinal Chemistry, (2013) 13, 214-220.
【文献】Journal of Pharmacological Sciences, (2015) 127, 419-423.
【文献】American Journal of Physiology - Endocrinology and Metabolism, (2006) 291, 582-586.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、白内障の進展に関連する症状の予防または抑制、または、水晶体の老化に伴う自覚症状、例えば水晶体の混濁による視野のかすみ、ぼやけの状態の予防または抑制を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく従来、水晶体への作用が未知であったアミノ酸の作用を誠意検討した結果、L-シトルリンの投与が、水晶体の混濁の進行を効果的に遅らせる作用を有することを見出し、さらにL-シトルリンは、経口投与による水晶体内への移行性に非常に優れ、高い水晶体混濁抑制効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1]シトルリンまたはその塩を有効成分として含有する、眼のかすみの予防または抑制用組成物。
[2]眼のかすみが、水晶体の混濁に起因する眼のかすみである、[1]に記載の組成物。
[3]水晶体の混濁に起因する眼のかすみが、白内障に起因する眼のかすみである、[2]に記載の組成物。
[4]農水産物またはその加工品の態様であるものを除く、[1]または[2]に記載の組成物。
[5]食品である、[1]、[2]および[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]飼料である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]医薬品である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]眼のかすみを予防または抑制させるための方法であって、眼のかすみを予防または抑制することを意図する対象動物に、当該対象動物の眼のかすみを予防または抑制させるために必要な量のL-シトルリンまたはその塩を摂取させる工程を含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、これまで薬物療法が困難であると考えられてきた加齢や糖尿病による白内障の進展に関連する症状を本発明の組成物を経口摂取することにより予防または抑制することができる。
また、本発明によれば、水晶体の老化による白内障に伴う自覚症状、例えば水晶体の混濁による視野のかすみ、ぼやけの状態を本発明の組成物を日常的に摂取することにより予防または抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、白内障進展モデルにおける白内障スコア(平均±標準誤差)を示す。横軸はWistar系雄性ラットにストレプトゾトシン(65mg/kg)を静脈内投与し5%グルコース水を飲水として与えて糖尿病を発症させた日からの経過(週)を示す。図中、対照(Control)群、糖尿病(DM)群、DM群をL-シトルリンで処置したDM+Cit群(0.5、1または2g/kg体重/day)を示す。
図2図2は、白内障進展モデルにおける水晶体中心部の混濁面積比(平均±標準誤差)を示す。横軸はWistar系雄性ラットにストレプトゾトシン(65mg/kg)を静脈内投与し5%グルコース水を飲水として与えて糖尿病を発症させた日からの経過(週)を示す。図中、対照(Control)群、糖尿病(DM)群、DM群をL-シトルリンで処置したDM+Cit群(0.5、1または2g/kg体重/day)を示す。
図3図3は、白内障進展モデルにおける糖尿病発症9週目の水晶体中のL-シトルリン濃度(平均±標準誤差)を示す。図中、対照(Control)群、糖尿病(DM)群、DM群をL-シトルリンで処置したDM+Cit群(0.5、1または2g/kg体重/day)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、L-シトルリンまたはその塩を有効成分として含有する、眼のかすみの予防または抑制用組成物(以下において「本発明の組成物」と略することもある)に関する。
【0014】
本発明において、「眼のかすみ」とは、視界の全体または一部がかすんだりぼやけたりすることをいう。
「眼のかすみ」の原因として、水晶体の混濁、目の酷使、目の乾燥、角膜の損傷や疾患などが挙げられる。
「水晶体の混濁」とは、無血管組織で透明な水晶体が白色、黄色または褐色に濁っている状態をいう。
「眼のかすみ」の原因となる疾患としては、白内障、ドライアイ、緑内障、ぶどう膜炎、老眼(加齢によるピント機能調節機能の低下)、黄斑変性症、糖尿病性網膜症等が挙げられる。
本発明の組成物は、水晶体の混濁に起因する眼のかすみに好ましく使用され、白内障に起因する眼のかすみに対し好ましく使用される。
白内障の原因となる疾患としては、糖尿病、アトピー性皮膚炎、風疹、目のけが、ぶどう膜炎、放射線、ステロイドなどの薬剤等が挙げられる。また加齢によっても白内障はほぼ普遍的に生じ得る。なかでも糖尿病、加齢に起因する白内障に本発明の組成物は好ましく使用される。
「眼のかすみ」の予防とは、眼のかすみが起こらないように前もって防ぐことをいう。また「眼のかすみ」の抑制とは正常な視界を保つことを意味し、「眼のかすみ」の改善や治療も包含する概念である。
【0015】
またL-シトルリンまたはその塩を有効成分として含有する組成物は、水晶体の混濁に起因する症状を予防または抑制することもできる。
水晶体の混濁に起因する症状としては、眼のかすみ(視界の悪さ、霧視)、眼精疲労、羞明(光を眩しく感じる)、視力低下、二重に見える(単眼複視)、昼盲、飛蚊症等が挙げられる。なかでも本発明の組成物は、眼のかすみに好適に使用される。
「水晶体の混濁」に起因する症状の予防とは、当該症状が起こらないように前もって防ぐことをいう。また「水晶体の混濁」に起因する症状の抑制とは当該症状の発生や進行を遅延、改善も包含する概念であり、正常な視界を保つことを意味する。
またL-シトルリンまたはその塩を有効成分として含有する組成物は白内障を予防又は抑制することができる。
白内障の予防とは、白内障が起こらないように前もって防ぐことをいう。また白内障を抑制するとは、白内障の発症や進行を遅延、治療、改善も包含する概念である。
【0016】
本発明の組成物に用いられるシトルリンとしては、L-シトルリン、D-シトルリンおよびDL-シトルリンが挙げられるが、L-シトルリンが好ましい。シトルリンは、化学的に合成する方法、発酵生産する方法等により取得することができる。また、シトルリンは、市販品を購入することにより取得することもできる。シトルリンを化学的に合成する方法としては、例えば、J. Biol. Chem., 122, 477 (1938)、J. Org. Chem., 6, 410 (1941)に記載の方法が挙げられる。
【0017】
L-シトルリンを発酵生産する方法としては、例えば、特開昭53-075387号公報、特開昭63-068091号公報に記載の方法が挙げられる。また、L-シトルリン、D-シトルリンおよびDL-シトルリンは、市販品を用いることもできる。
【0018】
L-シトルリンの塩としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。
【0019】
酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α-ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。
有機アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
有機アミン付加塩としては、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペリジン塩等が挙げられる。
アミノ酸付加塩としては、グリシン塩、フェニルアラニン塩、リジン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等が挙げられる。
【0020】
上記のL-シトルリンの塩のうち、本発明の目的には、クエン酸塩、リンゴ酸塩が好ましく用いられるが、他の塩を用いてもよく、また2以上の塩を適宜組み合わせて用いてもよい。
なお、上記したL-シトルリンの塩は、自体公知の方法に従って製造して用いることができるが、市販品を用いることもできる。
【0021】
本発明の組成物は、液状、乳状、ゲル状、カプセル状、粉末状、顆粒状、タブレット状等、製剤学の技術分野において一般的な剤形で提供することができる。
【0022】
本発明の組成物におけるL-シトルリンの含有量は、組成物の剤形等によっても異なるが、遊離型のL-シトルリンに換算した量にして通常は0.1重量%~100重量%であり、好ましくは0.5重量%~80重量%であり、より好ましくは1重量%~70重量%である。
【0023】
本発明の組成物においては、農水産物またはその加工品の態様であるものは除かれる。農水産物とは、農業による生産物である農産物、および、海洋、河川、湖沼などから採取される魚介、海藻等の水性生物のうち、食品または食材となるものである水産物をいい、その加工品とは、前記農水産物を利用して製造される食品または食材をいう。
従って、本発明において、「農水産物またはその加工品の態様であるものを除く」とは、日頃の一般的な食事において摂食される食品または食材の態様である組成物は除かれるという趣旨である。
【0024】
本発明の組成物は、眼のかすみの予防または抑制用の医薬品(以下において「本発明の医薬品」ということもある)として提供することができる。
本発明の医薬品は、有効成分としてL-シトルリンまたはその塩を含み、さらに、任意の他の治療のための有効成分を含有してもよい。
本発明の医薬品は、有効成分を担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0025】
本発明の医薬品の投与形態は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与または、例えば静脈内、腹腔内もしくは皮下投与等の非経口投与を挙げることができるが、簡便に投与できることから、経口投与が好ましい。
投与する剤形としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・煎剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤等の経口剤、注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤が挙げられるが、経口剤が好適に用いられる。
【0026】
経口剤として製剤化する際には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、香味剤等の一般的な添加剤を用いることができる。
【0027】
例えば錠剤、散剤および顆粒剤等の経口投与に好適な製剤は、乳糖、白糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、ゼラチン、澱粉のり液等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤などを添加して製剤化することができる。
【0028】
非経口投与に好適な製剤、例えば点眼剤は、薬学的に許容し得る等張化剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤などを、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
等張化剤としては、プロピレングリコール、グリセリン、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。可溶化剤としては、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよびグルコン酸クロルヘキシジンなどの逆性石鹸類、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、パラヒドロキシ安息香酸ブチル等のパラベン類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコールおよびベンジルアルコールなどのアルコール類、デヒドロ酢酸ナトリウムが例示できる。
安定化剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの薬学的に許容される塩、トコフェロールおよびその誘導体、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
注射剤としては、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩溶液とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて調製することができる。
また、これら非経口剤においても、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、香味剤、賦形剤、崩壊剤、潤沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1種以上の添加剤を添加することができる。
【0029】
本発明の医薬品におけるL-シトルリンの含有量は、医薬品の剤形等によっても異なるが、遊離型のL-シトルリンに換算した量にして通常0.1重量%~100重量%であり、好ましくは0.5重量%~80重量%であり、より好ましくは1重量%~70重量%である。
【0030】
本発明の医薬品のヒトに対する投与量および投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度等により異なるが、通常、成人(体重60kg)1日当り、L-シトルリン(遊離型のシトルリンに換算した量)として、経口で400mg~10g、好ましくは400mg~5g、より好ましくは、400mg~3g、さらに好ましくは、500mg~2g、最も好ましくは800mg~2gとなるように1日1回ないし数回投与する。点眼剤等の投与量は上記経口投与量を基準に換算した量を1回から複数回投与する。
【0031】
なお、本発明の医薬品のヒトに対する経口投与量については、L-シトルリンをげっ歯類に経口投与した際の血中シトルリン濃度(Kobayashi et al., Pharmacognosy Research, 6(4) 2014)、およびL-シトルリンをヒトに経口投与した際の血中シトルリン濃度(Moinard et al., British Journal of Nutrition, 99(4) 2008)との関係から導くことができる。すなわち、げっ歯類に対する体重1kgあたり1日約1gのL-シトルリンの経口投与は、ヒトに対しては、成人1日あたり約0.8gのL-シトルリンの経口投与に相当する。後述の実施例で示すとおり、ラットの体重1kgあたり1日0.5gのL-シトルリンを9週間経口投与することにより、白内障の進行が抑制されたことから、ヒトにおいて眼のかすみを予防または抑制させるためには、成人1日あたり約0.4gのL-シトルリンの経口投与が必要と算出される。
投与期間は、特に限定されないが、通常は1日~1年間、好ましくは2週間~6ヶ月間、最も好ましくは9週間~3か月である。
【0032】
また、本発明の組成物は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物(以下において「非ヒト動物」という)に対しても使用することができる。
非ヒト動物としては、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類等、ヒト以外の動物を挙げることができる。
【0033】
従って、本発明の医薬品は、非ヒト動物の眼のかすみの予防または抑制用の医薬品としても提供することができる。
非ヒト動物に投与する場合の本発明の医薬品の投与量は、動物の種類、年齢、症状の性質もしくは重篤度等により異なるが、通常、体重1kgにつき1日当たり、L-シトルリン(遊離型のシトルリンに換算した量)として10mg~5g、好ましくは100mg~2gとなるように、1日1回ないし数回投与する。
【0034】
投与期間は、特に限定されないが、通常は1日~1年間、好ましくは2週間~3ヶ月間である。
【0035】
本発明の組成物はまた、眼のかすみの予防または抑制用の食品(以下において「本発明の食品」ということもある)として提供することができる。なお、本発明の食品には、食品添加剤も含まれる。
【0036】
本発明の食品の一態様である食品添加剤(以下において「本発明の食品添加剤」ということもある)は、本発明の医薬品製剤と同様な方法により製造することができる。
本発明の食品添加剤は、例えば粉末、顆粒、ペレット、錠剤、各種液剤の形態に加工、製造され得る。
【0037】
本発明の食品は、例えばジュース類、清涼飲料水、茶類、乳酸菌飲料、発酵乳、冷菓、バター、チーズ、ヨーグルト、加工乳、脱脂乳等の乳製品、ハム、ソーセージ、ハンバーグ等の畜肉製品、蒲鉾、竹輪、さつま揚げ等の魚肉練り製品、だし巻き、卵豆腐等の卵製品、クッキー、ゼリー、チューインガム、キャンディー、スナック菓子等の菓子類、パン類、麺類、漬物類、燻製品、干物、佃煮、塩蔵品、スープ類、調味料等、いずれの形態のものであってもよく、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルトパウチ食品であってもよい。
【0038】
また、本発明の食品は、例えば粉末状、シート状、カプセル状、タブレット状、ゼリー状等の形態のものであってもよい。
さらに本発明の食品は、かすみ眼予防・抑制用の特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示飲食品等の保健機能食品、病者用食品、高齢者用食品等の特別用途食品、健康補助食品等として提供することができる。
【0039】
本発明の食品および本発明の食品添加剤には、一般に食品に用いられる添加物、例えば食品添加物表示ハンドブック(日本食品添加物協会)に記載されている甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。
【0040】
本発明の食品は、食品中にL-シトルリンを添加し、あるいはそれらを上記の食品添加剤の形態で添加する以外は、一般的な食品の製造方法を用いることにより、加工、製造することができる。
また、本発明の食品が顆粒状等の固形状食品である場合、例えば流動層造粒、攪拌造粒、押し出し造粒、転動造粒、気流造粒、圧縮成形造粒、解砕造粒、噴霧造粒、噴射造粒等の造粒方法、パンコーティング、流動層コーティング、ドライコーティング等のコーティング方法、パフドライ、過剰水蒸気法、フォームマット方法、マイクロ波加熱方法等の膨化方法、押出造粒機やエキストルーダー等の押出方法等を用いて製造することもできる。
【0041】
本発明の食品中へのL-シトルリンの添加量は、食品の種類、当該食品の摂取により期待される効果等に応じて適宜決定されるが、L-シトルリン(遊離型のL-シトルリンに換算した量)として、通常は0.1重量%~100重量%、好ましくは0.5重量%~80重量%含有するように添加される。
また、本発明の食品添加剤におけるL-シトルリンの含有量は、本発明の食品添加剤が食品に添加された際に、該食品中のL-シトルリンの含有量が上記した範囲となるように設定される。
【0042】
本発明の食品の摂取量、摂取回数および摂取期間は、本発明の医薬品におけるヒトについての投与量等と同様である。
【0043】
本発明の食品を、保健機能食品、特別用途食品、健康補助食品などとして提供する場合には、上記した本発明の食品の摂取量から算出される1回あたりの摂取量を、1食摂取量単位で包装または充填された形態の食品中に含むことが好ましい。ここで、「1食摂取量単位で包装または充填された形態の食品」とは、1回に摂取すべき量の食品が、1個の袋や箱、ビン等の容器に包装または充填されていることをいう。
【0044】
本発明の組成物はまた、眼のかすみの予防または抑制用の飼料(以下において「本発明の飼料」ということもある)として提供することができる。なお、本発明の飼料には、飼料添加剤も含まれる。
【0045】
本発明の飼料の一態様である飼料添加剤(以下において「本発明の飼料添加剤」ということもある)は、本発明の食品添加剤と同様に、本発明の医薬品の製造方法に準じて製造することができる。本発明の飼料添加剤は、必要に応じて他の飼料添加物を混合または溶解し、例えば粉末、顆粒、ペレット、錠剤、各種液剤の形態に加工、製造される。
【0046】
本発明の飼料は、非ヒト動物用の飼料にL-シトルリン、あるいはL-シトルリンを含有する飼料添加剤を添加して、一般的な飼料の製造方法を用いることにより、加工、製造することができる。
非ヒト動物用の飼料としては、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類または魚類等の非ヒト動物用の飼料であればいずれでもよく、例えば、イヌ、ネコ、ハムスター等のペット用飼料、ウシ、ブタ等の家畜用飼料、ニワトリ、七面鳥等の家禽用飼料、マグロ、タイ、ハマチ等の養殖魚用飼料等が挙げられる。
【0047】
本発明において用い得る非動物用飼料としては、穀物類、糟糠類、植物性油かす類、動物性飼料、その他の飼料、精製品等が挙げられる。
【0048】
穀物類としては、例えばマイロ、小麦、大麦、えん麦、らい麦、玄米、そば、あわ、きび、ひえ、とうもろこし、大豆等が挙げられる。
糟糠類としては、例えば米ぬか、脱脂米ぬか、ふすま、小麦胚芽、麦ぬか、トウモロコシぬか、トウモロコシ胚芽等が挙げられる。
植物性油かす類としては、例えば大豆油かす、あまに油かす、綿実油かす、落花生油かす、サフラワー油かす、やし油かす、パーム油かす、ごま油かす、ひまわり油かす、なたね油かす、カポック油かす、からし油かす等が挙げられる。
動物性飼料としては、例えば魚粉(北洋ミール、輸入ミール、ホールミール、沿岸ミール等)、フィッシュソルブル、肉粉、肉骨粉、血粉、分解毛、骨粉、家畜用処理副産物、フェザーミール、蚕よう、脱脂粉乳、乾燥ホエー等が挙げられる。
その他の飼料としては、植物茎葉類(アルファルファ、ヘイキューブ、アルファルファリーフミール、ニセアカシア粉末等)、トウモロコシ加工工業副産物(コーングルテンミール、コーングルテンフィード、コーンステープリカー等)、でんぷん加工品(でんぷん等)、砂糖、発酵工業産物(酵母、ビールかす、麦芽根、アルコールかす、しょう油かす等)、農産製造副産物(柑橘加工かす、豆腐かす、コーヒーかす、ココアかす等)、キャッサバ、そら豆、グアミール、海藻、オキアミ、スピルリナ、クロレラ、鉱物等が挙げられる。
精製品としては、タンパク質(カゼイン、アルブミン等)、アミノ酸、糖質(蔗糖、グルコース等)、ミネラル、ビタミン等が挙げられる。
【0049】
また、本発明の飼料は、例えば流動層造粒、攪拌造粒、押し出し造粒、転動造粒、気流造粒、圧縮成形造粒、解砕造粒、噴霧造粒、噴射造粒等の造粒方法、パンコーティング、流動層コーティング、ドライコーティング等のコーティング方法、パフドライ、過剰水蒸気法、フォームマット方法、マイクロ波加熱方法等の膨化方法、押出造粒機やエキストルーダー等の押出方法等を用いて、顆粒状等の固形状の飼料として製造することもできる。
【0050】
本発明の飼料中へのL-シトルリンの添加量は、飼料の種類、当該飼料の摂取により期待される効果等に応じて適宜決定されるが、L-シトルリン(遊離型のシトルリンに換算した量)として、通常は0.1重量%~100重量%、好ましくは0.5重量%~80重量%含有するように添加される。
また、本発明の飼料添加剤におけるL-シトルリンの含有量は、本発明の飼料添加剤が飼料に添加された際に、該飼料中のL-シトルリンの含有量が上記した範囲となるように設定される。
【0051】
本発明の飼料の摂取量、摂取回数および摂取期間は、医薬品製剤における非ヒト動物についての投与量等と同様である。
【0052】
上記した本発明の医薬品、食品および飼料等の組成物は、優れた眼のかすみの予防または抑制効果を奏する。
従って、本発明の組成物は、眼を酷使する職業のヒトや、加齢に伴って目のかすみを訴える高齢者に、好ましく用いられる。なお、本発明において、「高齢者」とは、一般的に60歳以上のヒトをいう。
また、本発明の組成物は、白内障の予想されるペットなどにも、好ましく用いられる。
【0053】
本発明はまた、ヒトおよび非ヒト動物の眼のかすみの予防または抑制方法(以下において「本発明の方法」ということもある)を提供する。
本発明の方法は、眼のかすみを予防または抑制することを意図する対象動物に、当該対象動物の眼のかすみを予防または抑制させるために必要な量のL-シトルリンまたはその塩を摂取させる工程を含む。
【0054】
対象動物には、ヒトおよび非ヒト動物が含まれる。
ヒトの場合、本発明の方法は、眼のかすみを感じる対象であれば特に限定されないが、眼を酷使する職業のヒトや高齢者に好適に適用される。
また、非ヒト動物の場合は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ等の食肉用に飼育される哺乳動物、アルパカ、ウマ、ラバ、ラクダ、ロバ等の労働用に飼育される哺乳動物等の家畜、アヒル、ニワトリ、ガチョウ、七面鳥、ウズラ等の食肉用に飼育される家禽、マグロ、タイ、ハマチ等の養殖魚等に好適に適用される。
【0055】
本発明の方法において、L-シトルリンまたはその塩は、上記した本発明の医薬品、食品または飼料の形態で、対象動物に摂取させる。
L-シトルリンまたはその塩の摂取量は、対象動物の種類、年齢、症状または状態等に応じて決定されるが、本発明の医薬品において、ヒトおよび非ヒト動物について、上記した投与量と同様の量を、上記した回数および期間にて摂取させることができる。
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の実施範囲はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0057】
6週齢のWistar系雄性ラットにストレプトゾトシン(65mg/kg)を静脈内投与して糖尿病を発症させ、5%グルコース水を飲水として与えることで超高血糖モデルラットを作製し、これを白内障進展モデルとした。実験はストレプトゾトシンの溶媒を尾静脈内投与した対照(Control)群(n=7)、ストレプトゾトシン(65mg/kg)を尾静脈内投与後に飲水として5%グルコース水を与える糖尿病(DM)群(n=9)、そして、DM群を3用量のL-シトルリン(0.5,1または2g/kg体重/day)で処置したDM+Cit群(各群n=5ずつ)とし、L-シトルリンは飲水に混ぜて9週間経口投与した。水晶体像の変化は、DM群で過熟白内障が形成される9週後まで、経時的に小動物用水晶体無影照明観察装置を用いて観察した。続いて、水晶体混濁分類法による白内障スコアおよび画像解析による水晶体中心部の混濁度の定量を行い、白内障の発症および進行を評価した。さらに、9週目における水晶体中のL-シトルリン濃度を定量した。
【0058】
白内障スコアは、以下の6段階に分類した基準をもとに各水晶体像から決定し、各群の平均値で表した。
スコア0:混濁なし
スコア1:水晶体辺縁部が混濁
スコア2:水晶体辺縁部および中央部(皮質)が混濁
スコア3:水晶体皮質に広範囲の混濁が拡散
スコア4:核白内障
スコア5:過熟白内障
【0059】
その結果、DM群では、まず初めに水晶体辺縁部に混濁が発症し、糖尿病発症3週目になると混濁は中心部でも観察されるようになった。その後、水晶体の混濁範囲が広がるとともに、その程度が徐々に強くなり、9週目では水晶体全体が強く混濁する所見が認められた。
白内障スコアとして定量すると、DM+Cit群では糖尿病群と比べ、4週目以降で白内障の進行抑制がみられ、8~9週目にかけては有意な白内障の進行抑制が認められた(図1)。
また、水晶体中心部混濁度の定量結果において、白内障スコアと同様にDM+Cit群では、糖尿病群と比較して極めて強く水晶体混濁の進行を有意に抑制することが明らかとなった(図2)。
糖尿病発症9週目の水晶体中のL-シトルリン濃度は、全ての投与量でControl群、およびDM群に対し、有意な増大が認められた(図3)。
【0060】
このことから、L-シトルリンを白内障の発症初期から進展過程で投与することにより、水晶体内のL-シトルリン濃度を増加させ、水晶体の混濁を効果的に抑制することが初めて明らかとなり、本発明である優れた白内障の予防または抑制剤となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、白内障やそれに起因する眼のかすみ、または、水晶体の老化に伴う自覚症状、例えば水晶体の混濁による視野のかすみ、ぼやけの状態の予防または抑制に経口で有効な組成物を提供することができる。
図1
図2
図3