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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】電界通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 13/00 20060101AFI20230206BHJP
   H04B 5/02 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
H04B13/00
H04B5/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021530027
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2020025606
(87)【国際公開番号】W WO2021002341
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019122753
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517146655
【氏名又は名称】株式会社ネクスティエレクトロニクス
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【弁理士】
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】品川 満
(72)【発明者】
【氏名】浜村 行平
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 尚弘
【審査官】浦口 幸宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-213062(JP,A)
【文献】特開2014-157406(JP,A)
【文献】特開2006-324774(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057045(WO,A1)
【文献】特開2011-130335(JP,A)
【文献】特開2019-153924(JP,A)
【文献】特開2020-049982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 13/00
H04B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界による通信を行う電界通信システムであって、
電界を伝達可能な物質で構成される通信媒体であって部品と本体とを備える通信媒体と、
前記通信媒体側に配置され、前記通信媒体に結合容量を介して接続された第1電極と、大地グランドに結合容量を介して接続された第2電極との間の電位差に応じた電界を発生する送信機であって、前記送信機の信号側に前記第1電極、グランド側に前記第2電極が接続されている、第1送信機であって、前記部品に接触する第1送信機と、
前記本体に接触る第1受信機と、
前記第1送信機から伝達された電界に基づいて生成される信号の大きさが閾値未満である場合に、前記部品が、前記本体から外れていることを検知する処理部と、
を備え、前記第1送信機と前記第1受信機は、前記通信媒体を介して電界による通信を行う、電界通信システム。
【請求項2】
請求項に記載の電界通信システムであって、前記第1受信機は、
大地グランドに結合容量を介して接続される第3電極と、
前記通信媒体側に配置されている第4電極と、
受信回路であって、前記受信回路の信号側に前記第3電極が、前記受信回路のグランド側に前記第4電極が接続されている、受信回路と
を備え、前記受信回路は、前記送信機から伝達された電界により生じた、前記第3電極と前記第4電極との間の電位差に対応する信号を出力する
電界通信システム。
【請求項3】
請求項に記載の電界通信システムであって、前記第1受信機は、前記大地グランドと、前記通信媒体の間に接触して配置されており、前記第1受信機は、
前記通信媒体側に配置され、前記通信媒体に容量結合を介して接続される第3電極と、
前記大地グランド側に配置され、前記大地グランドに容量結合を介して接続される第4電極と
を備える電界通信システム。
【請求項4】
請求項または請求項に記載の電界通信システムであって、前記第1送信機は、大地グランドと、前記通信媒体の間に接触して配置されており、
前記第1送信機の前記第2電極は、前記大地グランド側に配置されている、電界通信システム。
【請求項5】
請求項から請求項のいずれか1項に記載の電界通信システムであって、さらに
前記第1送信機が接触している前記通信媒体の前記部品の状態又は前記部品の周辺環境を検知するセンサを備え、
前記第1送信機は、前記センサからの出力信号に対応する信号を、前記第1電極と前記第2電極間において時間変化する電圧として出力する、電界通信システム。
【請求項6】
請求項に記載の電界通信システムであって、
前記センサは、前記部品の動きを検知するセンサであり、
前記処理部は、さらに前記センサが検知した前記部品の動きに基づいて、前記部品の稼働時間を算出する、電界通信システム。
【請求項7】
請求項に記載の電界通信システムであって、
前記センサは、前記部品の周辺環境を検知するセンサであり、
前記処理部は、さらに前記センサが検知した前記部品の周辺環境に基づいて、前記部品が適正な稼働環境に置かれているかを検知する、電界通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電界の変化を利用して通信するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーショベル等の様々な作業装置を使用して作業するにあたり、アームの先端に装着した着脱可能な部品等の状態を、通信ネットワークを介して監視し、この作業装置の稼働状況を適切に管理することが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
無線ネットワークを介してセンサからの信号を収集する場合、センサが取り付けられた部品等と、この部品等の状況を監視する本体側の監視装置とが離れていてもセンサからの信号を受信できるため、部品の着脱を検知することができない。また、無線ネットワークが到達可能な範囲内で、複数の作業装置が動作する場合、監視装置は、この範囲内の作業装置に関連する全てのセンサからの信号を収集する。この結果、通信したい相手であるアームの先端に装着した部品に取り付けられたセンサと、それ以外の部品に取り付けられたセンサからの信号を、信号の大きさそのものからは確実に区別することができない。
【0004】
また、有線ネットワークを介してセンサからの信号を収集する場合には、部品の着脱を確実に検知することは可能である。しかしながら、センサからの信号を通信するためのケーブルや、ケーブルを部品等と接合するコネクタを設ける必要がある。このケーブルやコネクタは、作業装置の動作中に破損しやすく、ケーブルやコネクタが破損してしまうとセンサからの信号を収集できなくなる。
【0005】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、作業装置を構成する金属等に誘導される電界を用いて、電界通信を行うシステム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、本開示の一態様は、電界による通信を行う電界通信システムであって、電界を伝達可能な物質で構成される通信媒体と、前記通信媒体側に配置され、前記通信媒体に結合容量を介して接続された第1電極と、大地グランドに結合容量を介して接続された第2電極との間の電位差に応じた電界を発生する送信機であって、前記送信機の信号側に前記第1電極、グランド側に前記第2電極が接続されている、第1送信機と、前記通信媒体に接触して配置される第1受信機と、を備え、前記第1送信機と前記第1受信機は、前記通信媒体を介して電界による通信を行う、電界通信システムである。
【0007】
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本開示の一実施形態に係る電界通信システムの概略図である。
図1B】本開示の一実施形態にかかる電界通信システムの全体構成図である。
図1C】本開示の一実施形態にかかる電界通信システムの全体構成図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る電界通信システムの概略図である。
図3】本開示の第1実施形態による電界通信システムの構成例を示す図である。
図4A図3に示す電界通信システムにおける送信機信号電極における電圧の時間変化を例示する。
図4B図3に示す電界通信システムにおける受信機グランド電極における電圧、及び大地グランドに対するバッテリグランドの電圧の時間変化を例示する。
図4C図3に示す電界通信システムにおける受信機信号電極における電圧の時間変化を例示する。
図4D図3に示す電界通信システムにおける受信機グランド電極における電圧と、受信機信号電極における電圧の時間変化を例示する。
図4E図3に示す電界通信システムにおける受信回路に入力される電圧の時間変化を例示する。
図5】本開示の第2実施形態に係る電界通信システムの概略図である。
図6】本開示の第2実施形態による電界通信システムの構成例を示す図である。
図7A図6に示す電界通信システムにおける送信機信号電極における電圧の時間変化を例示する。
図7B図6に示す電界通信システムにおける受信機グランド電極、及び大地グランドに対するバッテリグランドの電圧における電圧の時間変化を例示する。
図7C図6に示す電界通信システムにおける受信機信号電極における電圧の時間変化を例示する。
図7D図6に示す電界通信システムにおける受信機グランド電極における電圧と、受信機信号電極における電圧の時間変化を例示する。
図7E図6に示す電界通信システムにおける受信回路に入力される電圧の時間変化を例示する。
図8図6に示す電界通信システムの等価回路の例である。
図9】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である。
図10A】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(受信機信号電極を通信媒体側に配置)。
図10B】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(受信機グランド電極を通信媒体側に配置)。
図11】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である。
図12A】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(受信機信号電極を通信媒体側に配置)。
図12B】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(受信機信号電極を通信媒体側に配置し、受信機グランド電極を通信媒体と導通)。
図12C】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(受信機グランド電極を通信媒体側に配置し、かつ通信媒体と導通)。
図13A図12Aの構成においてシミュレーションした結果得られた信号の波形を例示する。
図13B図12Bの構成においてシミュレーションした結果得られた信号の波形を例示する。
図13C図12Cの構成においてシミュレーションした結果得られた信号の波形を例示する。
図14】本開示の第3実施形態に係る電界通信システムの概略図である。
図15A】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(受信機、送信機共に通信媒体上に配置)。
図15B】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(送信機を通信媒体上に、受信機を通信媒体と大地グランドとの間に配置)。
図15C】本開示の一実施形態における実験構成を概略的に示す図である(送信機を通信媒体と大地グランドとの間に、受信機を通信媒体上に配置)。
図15D】本開示の位置実施形態における実験構成を概略的に示す図である(送信機、受信機共に通信媒体と大地グランドとの間に設置)
図16】本開示の一実施形態に係る電界通信システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。本開示の一実施形態は、以下のような構成を備える。
【0010】
(項目1) 項目1によれば、電界による通信を行う電界通信システムであって、
電界を伝達可能な物質で構成される通信媒体と、
前記通信媒体側に配置され、前記通信媒体に結合容量を介して接続された第1電極と、大地グランドに結合容量を介して接続された第2電極との間の電位差に応じた電界を発生する送信機であって、前記送信機の信号側に前記第1電極、グランド側に前記第2電極が接続されている、第1送信機と、
前記通信媒体に接触して配置される第1受信機と、
を備え、前記第1送信機と前記第1受信機は、前記通信媒体を介して電界による通信を行う、電界通信システムが提供される。
【0011】
(項目2) 項目2によれば、項目1に記載の電界通信システムであって、
前記通信媒体は、
前記第1送信機に接触している部品と、
前記第1受信機に接触している本体と、
を備えており、前記電界通信システムはさらに、
前記第1送信機から伝達された電界に基づいて生成される信号の大きさが閾値未満である場合に、前記部品が、前記本体から外れていることを検知する処理部
を備える、電界通信システムが提供される。
【0012】
(項目3) 項目3によれば、項目2に記載の電界通信システムであって、前記第1受信機は、
大地グランドに結合容量を介して接続される第3電極と、
前記通信媒体側に配置されている第4電極と、
受信回路であって、前記受信回路の信号側に前記第3電極が、前記受信回路のグランド側に前記第4電極が接続されている、受信回路と
を備え、前記受信回路は、前記送信機から伝達された電界により生じた、前記第3電極と前記第4電極との間の電位差に対応する信号を出力する
電界通信システムが提供される。
【0013】
(項目4) 項目4によれば、項目2に記載の電界通信システムであって、前記第1受信機は、前記大地グランドと、前記通信媒体の間に接触して配置されており、前記第1受信機は、
前記通信媒体側に配置され、前記通信媒体に容量結合を介して接続される第3電極と、
前記大地グランド側に配置され、前記大地グランドに容量結合を介して接続される第4電極と
を備える電界通信システムが提供される。
【0014】
(項目5) 項目5によれば、項目2または項目4に記載の電界通信システムであって、前記第1送信機は、大地グランドと、前記通信媒体の間に接触して配置されており、
前記第1送信機の前記第2電極は、前記大地グランド側に配置されている、電界通信システムが提供される。
【0015】
(項目6) 項目6によれば、項目3から項目5のいずれか1つの項目に記載の電界通信システムであって、さらに
前記第1送信機が接触している前記通信媒体の前記部品の状態又は前記部品の周辺環境を検知するセンサを備え、
前記第1送信機は、前記センサからの出力信号に対応する信号を、前記第1電極と前記第2電極間において時間変化する電圧として出力する、電界通信システが提供される。
【0016】
(項目7) 項目7によれば、項目6に記載の電界通信システムであって、
前記センサは、前記部品の動きを検知するセンサであり、
前記処理部は、さらに前記センサが検知した前記部品の動きに基づいて、前記部品の稼働時間を算出する、電界通信システムが提供される。
【0017】
(項目8) 項目8によれば、項目6に記載の電界通信システムであって、
前記センサは、前記第1部分の周辺環境を検知するセンサであり、
前記処理部は、さらに前記センサが検知した前記部品の周辺環境に基づいて、前記部品が適正な稼働環境に置かれているかを検知する、電界通信システムが提供される。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。しかし、本開示の実施形態は、必ずしもこのような態様に限定されない。本開示の実施形態が、特許請求の範囲において規定される範囲に含まれる様々な態様を取り得ることは、当業者にとって明らかであろう。
【0019】
図1Aは本開示の一実施形態にかかる電界通信システム100Aの全体構成図である。電界通信システム100Aは、本体136と、この本体136に着脱可能な部品132(図1Aではアタッチメント132(1)及び履帯132(2)。以下、部品132と総称することがある。)を備える様々な作業装置、例えばパワーショベルや、ロボットアーム等に適用可能なシステムである。電界通信システム100Aは、部品側装置110(図1Aでは110(1)及び110(2))と、本体側装置120と、電界を伝達する通信媒体130とで主に構成される。電界通信システム100Aは、部品132に設けられた部品側装置110と、本体136に設けられた本体側装置120との間で、通信媒体130に誘導される電界efを通じて通信を行う。以下、電界通信システム100Aが、パワーショベルに適用された場合を例に、図1Aを参照して、本開示に係る電界通信システム100A構造について概説する。図1Aに例示するパワーショベルは、部品132である着脱可能なアタッチメント132(1)と、本体136である作業者が乗るキャビンと、接続部134であるアーム134(1)で主に構成される。
【0020】
部品132は、本体側装置120と通信する部品側装置110が物理的に接触している部分を含む。部品132は、例えば、部品周辺の環境(例えば湿度、温度)や、部品自体の状態(温度、加速度、オン/オフ等)を検知される必要があるものである。パワーショベルにおいて部品132は、作業装置の先端に取り付けられるアタッチメント132(1)や、本体136により制御される被制御装置であるパワーショベルの履帯132(2)や、各種フィルタ、例えばエンジンフィルタやオイルフィルタを含む。部品132は、接続部134を介して本体136と着脱可能に構成される。部品132は、定期交換部品や、消耗品でもよい。なお本開示において、2つの要素が「物理的に接触する」とは、2つの要素間で電界が伝達できる程度に接触していることを指し、実際には接触する2つの要素間に誘電体が存在することがある。一例として、パワーショベルの部品132であるアタッチメントと、部品側装置110との間に誘電体である部品側装置110のプラスチック等で構成された筐体壁が存在してもよい。
【0021】
接続部134(図1Aではアーム134(1)及び基礎部分134(2)。以下、接続部134と総称することがある。)は、部品132と、本体136との間に接続される部材であり、一方が部品132に、他方が本体136に物理的に接触している。接続部134は、例えば、部品132がパワーショベルのアタッチメント132(1)の場合、パワーショベルのアーム134(1)であり、部品132がパワーショベルの履帯132(2)の場合、パワーショベルの基礎部分134(2)である。上述したように、部品132と、接続部134とは物理的に接触していればよく、パワーショベルの部品132であるアタッチメントと、接続部134であるアームとの間に、例えば誘電体である潤滑油が存在していてもよい。
【0022】
本体136は、部品側装置110と通信する本体側装置120が、物理的に接触している部分を含む。本体136は、例えばパワーショベルを操作する作業者が乗るキャビンである。
【0023】
通信媒体130は、部品132と、部品132と本体136とを接続する接続部134と、本体136のうち、電界が伝達される物質、例えば導電体や誘電体で構成される部分である。一例として、通信媒体130は、金属に代表される導電体(例えば、鉄、アルミ、銅等)で構成される。例えばパワーショベルの本体136は、パワーショベルのフレーム、窓、作業者のシートなどで構成されるが、このうち金属等の電界が伝達される物質で構成されるフレームが通信媒体130となる。通信媒体130の各部(部品132、接続部134、本体136)はそれぞれ異なる種類の電界を伝達可能な物質で構成されてもよいし、同じ種類の電界を伝達可能な物質で構成されてもよい。また、図1Aに示す部品132、接続部134、本体136は、それぞれ1以上の要素で構成することができる。本開示によると、部品側装置110と部品132、部品132と接続部134、接続部134と本体136、本体136と本体側装置120とが、それぞれ物理的に接触することで電界通信のためのネットワークが構築される。このため、各部が物理的に接触していない場合、本体側装置120と部品側装置110との間では通信は確立されない。したがって、たとえ狭い範囲内で複数の作業装置等が動作をしていても、物理的に接触していない相手と通信することはない。なお、通信媒体130を構成する部品132、接続部134、本体136は、様々な形状をとることができる。
【0024】
電界通信システム100は、上記の部品側装置110、本体側装置120、通信媒体130(部品132、接続部134、本体136)に加えて、さらにセンサ140(図1Aでは2つのセンサ140(1)、140(2))、処理部150、外部通信装置160を備えることができる。これらについては図1Bを参照して詳細に説明する。
【0025】
なお、図1Aに示すように、1つの本体136に対し、複数の部品132(図1Aではアタッチメント132(1)と、履帯132(2))、複数の部品側装置110(図1Aでは2つの部品側装置110(1)、110(2))、複数のセンサ140(図1Aでは2つのセンサ140(1)、140(2))を設けてもよい。各部品側装置110(図1Aの110(1)、110(2))に個別の識別番号を付与し、各部品側装置110と、部品132、及びセンサ140の対応関係を、予め設定しておく。これにより、本体側装置120は、各部品側装置110に対応する部品132とセンサ140、例えば部品側装置110(1)に対応するセンサ140(1)と部品132(1)を区別して通信することができる。
【0026】
図1Bは、本開示の一実施形態にかかる電界通信システム100Bの全体構成図である。電界通信システム100Bは、図1Aに示した電界通信システム100Aと同様に、部品側装置110と、本体側装置120と、電界を伝達する通信媒体130とで主に構成される。図1Bの電界通信システム100Bは、さらに部品側装置110が送信機210aを、本体側装置120が受信機220bを備える点で、図1Aに示した電界通信システム100Aとは異なる。また、図1Bは、通信媒体130を伝達する電界efを例示する。電界efは、部品132と、接続部134と、本体136のうち電界を伝達可能な物質、例えば金属で構成された部分を通信媒体130として伝達する。
【0027】
部品側装置110は、本体側装置120の受信機220bへ信号を送信する送信機210aを備える。部品側の送信機210aは、一例として、各送信機210aに割り当てられた識別信号や、センサ140から受信した出力信号を受信機220bへ送信する。部品側の各送信機210aに割り当てられた個別の識別番号により、各送信機210aを一意に識別できる。
【0028】
本体側装置120は、部品側装置110の送信機210aからの信号を受信し、送信機210aとは離れた位置に配置される受信機220bを備える。電界通信の際には受信機220bは、送信機210aが発生した電界内に配置されればよい。
【0029】
本開示によると、受信機220bを送信機210aが発生した電界内に配置し、受信機220bと送信機210aを通信媒体130と接触させることで、作業装置の電界を伝達可能な物質、例えば金属で構成される部分を通信媒体130として通信ネットワーク等を確立する。このため、ケーブル等を含む有線設備や、アンテナ等を含む無線設備を設ける必要がない。有線設備が不要となる結果、重いケーブルが不要になり、例えばパワーショベルの作業時間当たりの燃費の向上を図ることができ、また、作業の際に邪魔なケーブルが不要になることで、作業の効率化を図ることができる。
【0030】
さらに、本開示によると、送信機210aから送信された信号の大きさを受信機220b側で検知することで、部品132の着脱を監視するための装置を別途設けることなく、部品132等の着脱状態を検出することができる。一例として、受信機220bが受信する信号の大きさが閾値未満の場合、部品132が接続部134から外れていると判断することができる。
【0031】
図1Bに戻り、センサ140,処理部150、外部通信装置160について説明する。センサ140は、部品132の状態を示す様々な物理量を検知するセンサであり、例えば部品の動きを検知するセンサ(振動センサ、速度センサ、加速度センサ、角速度センサ等)や、部品132の環境を測定するセンサ(部品132の温度を測定する温度センサ、部品132周辺環境の湿度を測定する湿度センサ)、あるいはこれらの組み合わせを含む。センサ140は、部品132の状態を検知すると、この状態を示す出力信号を、部品側装置110へ送信する。なお、1つの部品132に複数のセンサ140(例えば、温度センサ、湿度センサ、気圧センサの3つのセンサ)を配置してもよい。これら複数のセンサからの出力信号を、各センサ140に割り当てられた識別番等と共に、部品側装置110へ送信する。部品側装置110は、各センサの識別番号と、複数のセンサからの出力信号を、通信媒体130を介して本体側装置120へ伝達する。
【0032】
処理部150は、主たる構成要素として、プロセッサ(不図示)と、メモリ(不図示)とを備える。処理部150は、本体側装置120から取得したデータをプロセッサが適宜処理し、処理したデータをメモリに格納する。処理部150はさらに、メモリに格納されたデータ等を、外部通信装置160や本体側装置120へ出力することができる。なお、この図示例では、処理部150は、本体側装置120の上に配置されているが、これに限られるものではなく、本体側装置120と、外部通信装置160とに通信可能に接続されていればよい。
【0033】
処理部150は、部品132が、接続部134から外れたか否かを検知することができる。処理部150は、本体側装置120の受信機220bが受信した、部品側装置110の送信機210aから伝達された電界に基づいて生じる電位差により生成される信号の大きさが閾値未満、あるいは略ゼロである場合に、部品が接続部134から外れていると判断する。
【0034】
さらに、処理部150は、本体側装置120から取得した各種センサ140からのデータと、部品側の送信機210aに割り当てられた識別番号とを用いて、本体136に接続した状態での各部品132の状況、例えば稼働時間を算出することができる。
【0035】
より具体的には、処理部150は、本体136に装着されている部品132の送信機210aに割り当てられた識別信号を取得するとともに、部品132の動きを検知するセンサ140からの出力信号を取得する。処理部150は、センサ140から取得した出力信号が閾値以上である時間を積算し、この積算時間から部品132が装着された状態での、部品の稼働時間を算出することができる。これにより、処理部150は、稼働時間が規定時間を超過した場合に、部品132のメンテナンスあるいは、部品132の交換を促す警報音を発したり、表示を行ったりして、部品132を制御している作業者等に通知することができる。
【0036】
また、処理部150は、部品132の周辺環境を検知するセンサ140(例えば温度センサや湿度センサ)からの出力信号、及び送信機210aの識別信号に基づいて、各部品132が本体136に装着された状態での稼働環境を把握することができる。これにより、処理部150は、適正な稼働環境(例えば、適正な温度、適正な湿度)で部品132による作業がなされているかを判断、監視することができる。処理部150は、部品による作業の稼働環境が適正ではない場合、作業者等に、部品132が適正な稼働環境に置かれていないことを警報音や、表示で通知することができる。
【0037】
外部通信装置160は、処理部150にて取得した各部品の稼働状況等を、外部のコンピュータ(不図示)にインターネット等のネットワークを介して送信する装置である。外部管理者は、外部のコンピュータが外部通信装置160から受信した情報に基づいて、各部品132の稼働状況を一括して管理することができる。このため、外部管理者は、作業装置が動作している現場へ赴いて作業装置を定期的に点検等することなく、交換部品の発注等を適切なタイミングで行うことができる。なお、この図示例では、外部通信装置160は処理部150の上に配置されているが、これに限られるものではなく、処理部150と、外部のコンピュータ(不図示)と通信可能に接続されていればよい。
【0038】
本開示によると、センサ140から取得した部品132の状態を示す様々な物理量に基づいて、処理部150が部品の稼働状況を求め、作業者に通知し、あるいは外部通信装置160が外部管理者へ通知することができる。このため、作業者や、外部管理者は、本体136に接触した状態での部品132の稼働状況を把握することができ、部品132の適切な管理を行うことができる。その結果、部品の異常摩耗や過負荷に伴う不具合を減らすことができ、作業の安全性を高め、作業の効率化を図ることができる。
【0039】
なお、部品132と、接続部134と、本体136との組み合わせは様々な種類の作業装置に適用できる。電界通信システム100Bは、上述したパワーショベル(図1A)の他に、他の建機(ブルドーザ、クレーン車、ロードローラ等)や、車、電車、ロボットアーム、工具、医療機器(メス、鉗子等)などにも適用できる。
【0040】
例えば、本開示の電界通信システム100Bが車に適用される場合、部品132はタイヤのホイールやドア等、接続部134は車体を構成するフレーム等、本体136は車体のコントローラである。なお、この例では、部品132と、接続部134と、本体136は別体で構成しているが、部品132と接続部134が一体で構成されてもよく、この場合一つの部品132’と本体136とが物理的に接触する。例えば、本開示の電界通信システム100が車に適用される場合、部品132’は車のドア、本体136は車のコントローラとしてもよい。部品132’に、パワーウィンドウのスイッチのセンサ140と、該センサ140からの信号を送信する送信機210aとを設ける。本体136に、該コントローラに送信機から210aの信号を受信する受信機220bを設ける。これによりパワーウィンドウの上げ下げ指示をセンサ140で検知すると、電界通信によりセンサ140からの出力信号を車のコントローラへ送信することができる。あるいは、部品132と、接続部134と、本体136とが一体となった一つの本体136’上に、部品側装置110と、本体側装置120とを配置してもよい。
【0041】
また、例えば、本開示の電界通信システム100がロボットアームに適用される場合、部品132はロボットアームの先端に取り付けられるロボットハンドなどの先端ツール、接続部134はロボットアーム、本体136がロボットアームの台座である。
【0042】
さらに、例えば、本開示の電界通信システム100が電動工具に適用される場合、部品132は、工具のアーム先端に取り付けられたアタッチメント、接続部134は工具のアームであり、本体136は工具の本体である。
【0043】
図1Cは、本開示の一実施形態にかかる電界通信システム100Cの全体構成図である。電界通信システム100Cは、部品側装置110が、送信機210aに加えて受信機220aを、本体側装置120が、受信機220bに加えて送信機210bを備える点で、図1Bに示した電界通信システム100Bと異なる。以下では図1Bにおいて既に説明した構成について説明を省略する。
【0044】
部品側装置110の受信機220aは本体側装置120の送信機210bから信号を受信する。部品側の受信機220aは、一例として、送信機210bから送信された部品132を制御する信号、例えばセンサ140に対するセンサ情報の送信要求信号を受信する。
【0045】
本体側装置120の送信機210bは、部品側装置110の受信機220aへ信号を送信する。なお、図1Bや、図1Cに示す電界通信システム100B、100Cは例示であって、電界通信システムの構成はこれに限られない。一例として、電界通信システム100は、受信機220aを備える部品側装置110と、送信機210bを備える本体側装置120で構成されてもよい。
【0046】
<第1実施形態>
図2は、電界通信システム100C(図1C)の第1実施形態に係る構成を示す概略図である。以下、図2を参照して、第1実施形態に係る電界通信システム200の通信原理を概略的に説明する。図2に示す電界通信システム200は、部品側装置110(図1C)の送信機210a(図1C)と、本体側装置120(図1C)の受信機220b(図1C)との通信、あるいは、部品側装置110の受信機220a(図1C)と、本体側装置120の送信機210b(図1C)との間の通信を、通信媒体130を介して電界通信するシステムである。以下では、部品側装置の送信機210a、本体側装置の送信機210bを単に送信機210と総称し、部品側装置の受信機220aと本体側装置の受信機220bを単に受信機220と総称することがある。
【0047】
送信機210は第1電極212と、第1電極212に平行に配置される第2電極214と、これら各電極に接続され、これら電極の間に設けられた電界通信用の送信回路216とで主に構成される。第1電極212は、送信回路216の信号側に接続され、第2電極214は、送信回路216のグランド側に接続される。本開示において、送信回路216の信号側に接続された電極を信号電極、送信回路216のグランド側に接続された電極をグランド電極と称する。第1電極212と、第2電極214と、送信回路216とは絶縁体で構成した1つの筐体内に具備される。第1電極212は、通信媒体130側の、筐体内の一方の内表面に配置され、第2電極214は、筐体内の他方の内側面に配置される。第2電極214の第1電極212に対向する面と反対側の面は、送信機210周辺の空間を向いている。第1電極212と、第2電極214は、好ましくはほぼ同一の大きさや形状を有しており、それぞれ電界通信のための十分な面積の平面体の形状を有する。第1電極212と、第2電極214は、例えば矩形である。
【0048】
受信機220は第3電極222と、第3電極222と平行に配置される第4電極224と、それら各電極に接続され、これら電極の間に設けられた電界通信用の受信回路226とで主に構成される。第3電極222は、受信回路226の信号側に接続され、第4電極224は、受信回路226のグランド側に接続される。本開示において、受信回路226の信号側に接続された電極を信号電極、受信回路226のグランド側に接続された電極をグランド電極と称する。第3電極222と、第4電極224と受信回路226とは絶縁体で構成した1つの筐体内に具備される。第3電極222は、通信媒体130側の、筐体内の一方の内表面に配置されている。第4電極224は、筐体内の他方の内表面に配置され、第4電極224の第3電極222に対向する面と反対側の面は、受信機220周辺の空間を向いている。第3電極222と、第4電極224は、好ましくはほぼ同一の大きさや形状を有しており、それぞれ電界通信のための十分な面積の平面体の形状を有する。第3電極222と、第4電極224は、例えば矩形である。
【0049】
送信機210(送信回路216)は、センサ140(図1Aから図1C)からの出力信号等を、受信機220側に送信したい電気信号へ変調し、この電気信号を、第1電極212及び第2電極214間において時間変化する電圧として出力する。例えば、送信機210は、センサ140(図1C)から取得した信号を、アナログ/デジタル(A/D)変換し、この変換されたデジタル信号を、第1電極212と、第2電極214との間において時間変化する電圧(例えばASK変調信号)として出力する。すると、第1電極212及び第2電極214の間に電位差が生じ電界が発生する。この電界が、通信媒体130を介して受信機220に伝達される。受信機220は、送信機210が発生した電界内に配置されており、この発生した電界により受信機220の第3電極222と第4電極224との間に電位差が生じると、受信回路226これを検知して、復調することで、送信機210から送信されたデータを得ることができる。
【0050】
送信機210は、内部に、送信回路216を動作させるための電力を供給するための内部電源218を備えてもよい。内部電源218は、例えば、部品132の振動によるエネルギで電力を発電する振動発電機や、太陽光で発電するソーラー発電機、バッテリである。バッテリは、例えば、本体側装置120から伝達された電界により蓄電するバッテリでもよい。本開示の電界通信システム200によると、電界を伝達することにより、送信機210と、受信機220との間でデータの送受信を行うのではなく、データの送受信に代えて、電力の送受を行うことができる。これにより、一例として、本体側装置120の送信機210b(図1C)から部品側装置110の受信機220a(図1C)に電力を送ることで、部品側装置110のバッテリ等の電源が不要となる。また部品側装置110の内部電源が2次電池等の場合は、電界を伝達することにより、この2次電池の充電が可能となる。なお、受信機220も、送信機210と同様に、内部電源228を備えてもよい。
【0051】
図3は、本開示の一実施形態による図2に示す電界通信システム200の構成例を示す図である。図3に示す電界通信システム300は、図2に示す電界通信システム200と同様に、送信機210と、受信機220と、通信媒体130とを備える。
【0052】
送信機210は、第1電極212と、第2電極214を備える。第1電極212は、通信媒体130と結合容量を介して接続され、第2電極214は大地グランド302、及び通信媒体130と結合容量を介して接続される。C1は、第2電極214と大地グランド302との間の静電容量、C2は第1電極212と第2電極214との間の静電容量、C3は第2電極214と通信媒体130との間の静電容量、C4は、第1電極212と通信媒体130との間の静電容量である。例えば、通信媒体130を構成する部品132(図1C)が、通信媒体130を構成する接続部134(図1C)から外れると、静電容量C4が小さくなり、送信機210と通信媒体130との電気的な結合が弱くなる。このため、送信機210と受信機220との間の電界が伝達されにくく、あるいは伝達されなくなる。
【0053】
受信機220は、第3電極222と第4電極224と、受信回路226とを備える。第3電極222は、受信機220に接触する通信媒体130と結合容量を介して接続され、第4電極224は、大地グランド302、及び通信媒体130と結合容量を介して接続される。また、第4電極224は、受信回路226のバッテリグランドと結合し、その結果、通信媒体130と導通している。C5は通信媒体130の大地グランド302に対する静電容量、C6は第4電極224と通信媒体130との間の静電容量、C7は第3電極222と第4電極との間の静電容量、C8は第2電極214と第4電極224との間の静電容量、C9は第4電極224と大地グランド302との間の静電容量、C10は第3電極222と通信媒体130との間の静電容量である。受信回路226の信号側に第3電極222が接続され、受信回路226のグランド側に第4電極224が接続される。受信機220の第4電極224を、大地グランド302を介して静電結合し、及び送信機210の第2電極214を、大地グランド302を介して静電結合し、大地グランド302を帰還伝送路として利用する。
【0054】
通信媒体130は、受信回路226のバッテリグランドと接続されており、抵抗RとインダクタンスLの集中定数で表すことができる。
【0055】
図4Aから図4Eは、図3に示す電界通信システム300に示す各点(P1、P2、P3、P4、P5)における電圧の時間変化を例示するグラフである。図4Aは、送信機210の第1電極212(送信側信号電極、P1)における電圧、図4Bは、受信機220の第4電極224(受信側グランド電極、P2)における電圧と、大地グランド302に対するバッテリグランド(P3)における電圧、図4Cは、受信機220の第3電極222(受信側信号電極、P4)における電圧をそれぞれ示す。図4Dは、P2における電圧と、P4における電圧の両方を示した図である。図4Eは、P5、すなわち受信回路226における受信信号の電圧の時間変化を示し、これは図4Dに示すP2の電圧と、P4の電圧の電位差に相当する。
【0056】
図3に示すように、電界通信システム300では、受信回路226の第4電極224と通信媒体130とが受信回路226を経由して導通(240)される。これにより、第3電極222と、第4電極との電位差が減少する。図4Bに示す受信機220のグランド電極(第4電極224)における電位P2と、図4Cに示す受信機220の信号電極(第3電極222)における電位P4とは、同相でかつ振幅が同程度になる。したがって、図4Eに示すように、受信機信号電極(第3電極222)における電位P4と受信機グランド電極(第4電極224)における電位P2との間の電位差は生じるものの、その電位差は大きくはない。
【0057】
<第2実施形態>
図5は、本開示の第2実施形態に係る構成を示す概略図である。図5に示す電界通信システム500は、図2に示す電界通信システム200と、受信機220’の構成が異なる点を除いて同じである。
【0058】
図5に示す送信機210は、図2において説明した送信機210と同様に構成されるからここでは説明を省略する。図5に示す受信機220’は、第3電極222と、第3電極222と平行に配置される第4電極224と、それら各電極に接続され、これら電極の間に設けられた電界通信用の受信回路226とで主に構成される。第3電極222は、受信回路226の信号側に接続され、第4電極224は、受信回路226のグランド側に接続される。第3電極222と、第4電極224と、受信回路226とは、絶縁体で構成した1つの筐体内に具備される。第3電極222は、筐体内の一方の内表面に配置されており、第3電極222の第4電極に対抗する面と反対側の面は、受信機220’周辺の空間を向いている。第4電極224は、通信媒体130側の筐体内の内表面に配置される。第4電極224は、受信回路226のバッテリグランドと結合し、その結果、通信媒体130と導通している。あるいは、第4電極224は導体(導線や、金属のネジ等)を介して通信媒体130と直接導通(240)してもよい。
【0059】
図6は、本開示の一実施形態による図5に示す電界通信システム500の構成例を示す図である。図6に示す電界通信システム600の送信機210と、受信機220’と、通信媒体130は、それぞれ、図5に示す電界通信システム500の、送信機210と、受信機220’と、通信媒体130とに対応する。
【0060】
図6に示す送信機210は、図3において既に説明した送信機210と同様に構成されるから説明を省略する。図6に示す受信機220’は、第3電極222と第4電極224と、受信回路226とを備える。第3電極222は、受信機220に接触する通信媒体130、及び大地グランド302と結合容量を介して接続される。第4電極224は、通信媒体130と導通している。C6’は第3電極222と通信媒体130との間の静電容量、C7は第3電極222と第4電極との間の静電容量、C8’は第2電極214と第3電極222との間の静電容量、C9’は第3電極222と大地グランド302との間の静電容量である。受信機220の第3電極222を、大地グランド302を介して静電結合し、及び送信機210の第2電極214を、大地グランド302を介して静電結合し、大地グランド302を帰還伝送路として利用する。
【0061】
本実施形態における電界通信システム600の特徴の一つは、第4電極224を通信媒体130側に配置することである。第4電極224を通信媒体130側に配置することで、図7Aから図7Eを参照して以下に説明するように、受信機220側の第4電極224(グランド電極)と第3電極222(信号電極)との間の電位差を大きくし、受信回路226に入力する信号の振幅を大きくすることができる。
【0062】
図7Aから図7Eは、図6に示す電界通信システム600に示す各点(P1、P2、P3、P4、P5)における電圧の時間変化を例示するグラフである。図7Aは、送信機210の第1電極212(送信機信号電極、P1)における電圧、図7Bは、受信機220の第4電極224(受信側グランド電極、P2)における電圧、及び大地グランド302に対するバッテリグランド(P3)の電圧、図7Cは、受信機220の第3電極222(受信側信号電極、P4)における電圧をそれぞれ示す。図7Dは、P2における電圧と、P4における電圧の両方を示した図である。図4Eは、受信回路226(P5)における受信信号の電圧の時間変化を示し、これは図7Dに示すP2における電圧と、P4における電圧の電位差に相当する。
【0063】
図7Cに示す第3電極222(受信機信号電極、P4)における電圧は、図4Cに示す第3電極222(受信機信号電極、P4)における電圧よりも振幅が小さい。これは、図3に示す構成よりも図6の構成では第3電極222が、通信媒体130から遠いため、通信媒体130と第3電極222との間の容量結合が小さくなり、第3電極222(受信機信号電極)に入る信号の振幅が小さくなるためである。従って、図7Eに示すように、第4電極224(受信機グランド電極)を通信媒体130に導通したときの、受信機グランド電極における電圧と、受信機信号電極における電圧の電位差は、図4Eに示す電位差よりも大きくなる。その結果、受信回路226に入力する信号を大きくできる。
【0064】
図8は、図6に示す電界通信システム600の等価回路の例である。図8における信号源802及び静電容量C2は、図6の送信機210に対応する。図8に例示する受信回路226は、シングルエンド出力アンプであり、第4電極224は、受信回路226のグランド側に接続されている。なお、受信回路226は、差動アンプであってもよい。
【0065】
本開示の電界通信システム800の特徴の一つは、図6に関する説明で上述したように、第4電極224を通信媒体130側に配置することである。このように構成することで、第4電極224と第3電極222との間の電位差が大きくなり、受信回路226に入力される信号を大きくすることができる。第1実施形態に係る構成と、第2実施形態に対応する構成を実際に構築し、両者で受信機220から出力される信号の大きさを実験により比較した。以下、図9及び図10を参照して実験の構成を、図11を参照して実験結果について説明する。
【0066】
図9は、本開示の一実施形態における実験構成900を概略的に示す図である。実験構成900の受信機220は、第3電極222、第4電極224、受信回路226、電気/光変換器910を備える。本実験では、スペクトルアナライザ(SPA)930を用いて、送信機210から受信機220、220’(以下、受信機220、220’を受信機220と総称することがある。)へ伝達され、受信機220から出力される信号を計測した。電気/光変換器(E/O)910、光/電気変換器(O/E)920は、受信回路226と、SPA930との間の高周波干渉を防ぐためのものであり、絶縁体である筐体の中に配置されている。
【0067】
図10A及び図10Bは、それぞれ図9に示す実験構成の断面図である。図10Aは第3電極222(受信機信号電極)を通信媒体130側に配置しており、図3に示す第1実施形態に係るシステム300に対応する。図10Bは第4電極224(受信機グランド電極)を通信媒体130と導通し、かつ通信媒体130側に配置しており、図6に示す第2実施形態に係るシステム600に対応する。実験では、図10Aの構成、図10Bの構成のそれぞれにおいて、スペクトルアナライザ930を用いて受信機220、220’側における出力信号のグラフを得た。得られた出力信号のグラフから、出力信号強度を解析した結果、受信機220側における出力信号強度は、図10Aの構成では-61.17dBm、図10Bの構成では-41.76dBmとなり、図10Bの構成の方が、受信機側で得られる信号レベルが高くなった。
【0068】
図11は、本開示の一実施形態における実験構成1100を概略的に示した図である。実験構成1100の送信機210は第1電極212、第2電極214を備え、受信機220(220’)は、第3電極222、第4電極224を備える。本実験では、各電極(第1電極212、第2電極214、第3電極222、第4電極224)にそれぞれオシロスコープ1102の信号線を接続して、受信機220の第3電極222、及び第4電極224において受信される出力電圧波形の時間変化を観測した。、
【0069】
図12A図12B、及び図12Cは、いずれも図11に示す実験構成1100に対応する構成の簡略図である。図12A及び図12Bでは第3電極222(受信機信号電極)を通信媒体130側に配置しており、図3に示す第1実施形態に係るシステム300に対応する。なお、図12Bの受信機220は、第4電極224(受信機グランド電極)が通信媒体130に導通している点で図12Aに示す受信機220と異なる。図12Bの受信機220の構成は、図12Aの受信機220’’の構成よりも実運用での構成に近い。すなわち、本開示の構成をパワーショベルに適用した場合には、受信回路226のバッテリグランドと、通信媒体130であるパワーショベルのフレーム部分が、受信回路226を経由して導通されており、結果として第4電極224が通信媒体130と導通する。図12Cは第4電極224(受信機グランド電極)を通信媒体130側に配置し、かつ通信媒体130と導通して配置しており、図6に示す第2実施形態に係るシステム600に対応する。
【0070】
図13A図12Aの構成、図13B図12Bの構成、図13C図12Cの構成をシミュレーションした結果得られた、出力信号の波形の一部をそれぞれ示す。図13A図13B図13Cに示すグラフにおいて、濃色は第4電極224(受信機グランド電極、P2)における電位の時間変化、薄色は第3電極222(受信機信号電極、P4)における電位における時間変化を示す。
【0071】
シミュレーション結果によると、図13Bに示す第3電極222における電位と第4電極224における電位との差の方が、図13Aに示す第3電極222における電位と第4電極224における電位との差よりも小さい。これは、図12Bの構成では、第4電極224が通信媒体130と導通することで、第4電極224(グランド電極)における電圧が大きくなり、第3電極222と、第4電極との電位差が減少するためである。
【0072】
また、シミュレーション結果によると、図13Cに示す第3電極222における電圧と第4電極224における電圧の電位差の方が、図13Bに示す、第3電極222における電圧と第4電極224における電圧の電位差よりも大きい。これは、図12Cに示すように、第4電極224を通信媒体側に配置し、第3電極222を通信媒体130側から離れて配置することで、通信媒体130と第3電極222との間の容量結合が小さくなり、第3電極222における電圧の振幅が小さくなった結果、第4電極224との電位差が大きくなるためである。
【0073】
本開示によると、図12Cに示すように、第4電極224を通信媒体130側に配置することで、図12A図12Bに示すように第3電極222を通信媒体130側に配置する構成よりも、第4電極224における電位P2と第3電極222における電位P4との間の電位差を大きくし、送信機210と受信機220との間の通信効率を高めることができる。
【0074】
<第3実施形態>
図14は、本開示の一実施形態による電界通信システム1400の構成例を示す図である。電界通信システム1400は、図3に示す電界通信システム300と同様に、送信機210と、受信機220と、通信媒体130とを備えるものの、送信機210と、受信機220とを配置する位置が異なる。すなわち、図14において、送信機210と、受信機220とは、通信媒体130と、大地グランド302との間に配置される。図14に示す電界通信システム1400は、図3において説明した電界通信システム300と等価回路は変わらず、このため図3において既に説明した構成と同等の構成については、説明を省略する。
【0075】
上述したように、送信機210と、受信機220とは、通信媒体130と大地グランド302との間に物理的に接触して配置される。このため、第2電極214(送信機グランド電極)と大地グランド302との間の距離が短くなり、第2電極214と大地グランド302との間の静電容量C1が大きくなる。また、第4電極224(受信機グランド電極)と大地グランド302との間の距離が短くなり、第4電極224と大地グランド302との間の静電容量C9が大きくなる。静電容量C1、C9が大きくなるとそれぞれインピーダンスX1、X9(不図示)が減少し、これらのインピーダンスにかかる電圧が下がる。分圧の法則により、相対的に他の静電容量、例えば第3電極222と第4電極との間の静電容量C7にかかる電圧が高くなる。これにより、受信機220側で得られる信号強度が高くなり、電圧利得が改善する。以下、図15Aから図15Dに示すように、送信機210と受信機220との配置位置を様々に変更して、受信機220で得られる信号強度がどのように変化するかを計測した。
【0076】
図15Aから図15Dは、それぞれ図9に示す実験構成に対応する簡略図である。図15Aから図15Dは、送信機210と受信機220を、通信媒体上、あるいは通信媒体130と大地グランド302との間にそれぞれ物理的に接触して配置したものである。図15Aに示す構成は、図3に示す電界通信システム300の構成に対応し、図15Dに示す構成は、図14に示す電界通信システム1400の構成に対応する。
【0077】
図15Aでは、送信機210、受信機220の両方が通信媒体130に物理的に接触して通信媒体130上に配置されている。より詳細には、送信機210の第1電極212、受信機220の第3電極222は、通信媒体130側に配置される。図15Aに示す構成において、受信機220にて得られる信号の利得は、-106.635dBであった。
【0078】
図15Bでは、送信機210が通信媒体130に接触して通信媒体130上に物理的に接触して配置され、受信機220が、通信媒体130と大地グランド302との間に配置される。受信機220の一方の側面は、通信媒体130に物理的に接触して配置されている。より詳細には、送信機210の第1電極212と、受信機220の第3電極222は、通信媒体130側に配置され、通信媒体130に容量結合を介して接続される。受信機220の第4電極224は、大地グランド302側に配置され、大地グランド302に容量結合を介して接続される。本構成によると、第4電極224と大地グランド302との間の静電容量C9(図14)が大きくなる。静電容量C9が増えるとインピーダンスX9(不図示)が減少し、これらのインピーダンスにかかる電圧が下がる。分圧の法則により、相対的に第3電極222と第4電極との間の静電容量にかかる電圧が、図15Aの構成において測定される第3電極222と第4電極との間の静電容量C7にかかる電圧よりも高くなる。したがって、図15Bに示す構成において、受信機220から出力される信号の利得は、-98.3545dBであり、図15Aの構成において得られる信号の利得よりも高い。
【0079】
図15Cは、送信機210が通信媒体130と大地グランド302との間に物理的に接触して配置され、受信機220が通信媒体130に接触して通信媒体130上に物理的に接触して配置されていることを示す。送信機210の一方の側面は、通信媒体130に、物理的に接触して配置されている。より詳細には、送信機210の第1電極212は、通信媒体130側に配置され、通信媒体130に容量結合を介して接続される。送信機210の第2電極214は、大地グランド302側に配置され、大地グランド302に容量結合を介して接続される。本構成によると、第3電極222と第4電極との間の静電容量C7にかかる電圧が、図15Aの構成において測定される第3電極222と第4電極との間の静電容量C7にかかる電圧よりも高くなる。したがって、図15Cに示す構成において、受信機220から出力される信号の利得は、-99.1745dBであり、図15Aの構成において得られる信号の利得よりも高い。
【0080】
図15Dは、送信機210、受信機220共に通信媒体130と大地グランド302との間にそれぞれ接触して配置していることを示す。すなわち、送信機210の第1電極212、受信機220の第3電極222は通信媒体130側に配置され、送信機210の第2電極214、受信機220の第4電極224は、大地グランド302側に配置される。本構成によると、第3電極222と第4電極との間の静電容量C7にかかる電圧は、図15B図15Cの構成において測定される第3電極222と第4電極との間の静電容量C7にかかる電圧よりも高くなる。したがって、図15Dに示す構成において、受信機220から出力される信号の利得は、-89.1645dBであり、図15B図15Cの構成において得られる信号の利得よりも高い。
【0081】
本開示によると、図15B図15Cに示すように、送信機210と、受信機220のいずれかを、通信媒体130と大地グランド302との間に配置することで、図15Aに示す構成よりも、受信機220で高い利得が得られる。さらに、図15Dに示すように、送信機210、受信機220の両方を、通信媒体130と大地グランド302との間に配置することで、図15B図15Cに示す構成よりも、受信機220でさらに高い利得が得られる。例えば、図15Aに示す構成で測定した利得は-106.635dBであるのに対し、図15Dに示す構成で測定した利得は-89.1645dBであり、その差は約17.5dBであった。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、実施形態および変形例の任意の組み合わせが可能であり、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【0083】
例えば、図16は、本開示の一実施形態に係る電界通信システム1600の概略図である。部品側装置110は、送信機210aに加えて受信機220a’を、本体側装置120は、受信機220b’に加えて送信機210bを備える。電界通信システム1200の送信機210a、受信機220b’は、それぞれ図5に説明した送信機210、受信機220’に対応するからここでは説明を省略する。
【0084】
本体側装置120は通信媒体130に物理的に接触する。本体側装置120の送信機210bは、第5電極312と、第6電極314と、送信回路316を備える。送信回路316の信号側に第5電極312(信号電極)、グランド側に第6電極314(グランド電極)が接続される。送信回路316は、通信媒体に結合容量を介して接続された第5電極312(信号電極)と、大地グランド302及び通信媒体130と結合容量を介して接続された第6電極314(グランド電極)との間の電位差に応じた電界を発生する。
【0085】
部品側装置110は通信媒体130に物理的に接触する。部品側装置110の受信機220a’は、第7電極322と、第8電極324と、受信回路326を備える。受信回路326の信号側に第7電極322(信号電極)、グランド側に第8電極324(グランド電極)が接続される。受信回路326は、通信媒体130及び大地グランド302と結合容量を介して接続された第7電極と、通信媒体130と導通している第8電極との間に生じた電位差を検知して、送信機から送信されたデータを得る。本体側装置120の送信機210bと、部品側装置110の受信機220a’は、通信媒体130を介して電界による通信を行う。
【符号の説明】
【0086】
ef…電界
100A、100B、100C、200、300、500、600、1200…電界通信システム
110…部品側装置
120…本体側装置
130…通信媒体
132…部品
134…接続部
136…本体
140…センサ
150…処理部
160…外部通信装置
210…送信機
212…第1電極(送信機信号電極)
214…第2電極(送信機グランド電極)
216…送信回路
220、220’、220’’…受信機
222…第3電極(受信機信号電極)
224…第4電極(受信機グランド電極)
226…受信回路
240…導通
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図16