(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】グルカミン誘導体、グルカミン誘導体からなる金属吸着剤、グルカミン誘導体からなる金属吸着剤を備える金属抽出装置、金属抽出キット
(51)【国際特許分類】
C07C 229/12 20060101AFI20230206BHJP
B01D 11/04 20060101ALI20230206BHJP
C02F 1/26 20230101ALI20230206BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20230206BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20230206BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C07C229/12 CSP
B01D11/04 B
C02F1/26 C
C22B3/24 101
C22B3/26
C22B3/02
(21)【出願番号】P 2019037364
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018040662
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】濱田 崇
(72)【発明者】
【氏名】保科 宏行
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 典明
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】ポーランド国特許発明第210896(PL,B1)
【文献】ポーランド国特許発明第207345(PL,B1)
【文献】ポーランド国特許発明第207346(PL,B1)
【文献】特表2014-534955(JP,A)
【文献】米国特許第02789976(US,A)
【文献】特開昭62-121689(JP,A)
【文献】米国特許第04254087(US,A)
【文献】英国特許出願公開第02150133(GB,A)
【文献】特開平02-288863(JP,A)
【文献】特開昭63-227727(JP,A)
【文献】特開昭63-183135(JP,A)
【文献】特開昭61-195933(JP,A)
【文献】特開昭59-100230(JP,A)
【文献】特開2003-119032(JP,A)
【文献】特開平01-042322(JP,A)
【文献】特開2002-173665(JP,A)
【文献】REGISTRY(STN)[online],Entered STN: 2012年8月12日,検索日:2022年5月24日,CAS登録番号1389441-59-1
【文献】Shkrob, Ilya A. et al.,Magnetic Extraction, Detection, and Isotope Analysis of Metal Ions Using Surface Modified Microspheres for Lab-on-a-Chip Applications,Separation Science and Technology,2010年,45(2),pp. 186-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D11/04
C02F1/26
C22B3/24ー3/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されることを特徴とする、グルカミン誘導体。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、メチル基、及び、エチル基から選択される1種を表し、R
2は炭素数
18の分岐アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記グルカミン誘導体において、R
1がメチル基であることを特徴とする、請求項1に記載のグルカミン誘導体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のグルカミン誘導体を含むことを特徴とする、金属吸着剤。
【請求項4】
請求項
3に記載の金属吸着剤と金属が溶解した液とを接触させる工程を含むことを特徴とする、金属抽出方法。
【請求項5】
前記金属抽出方法が、金属溶解水溶液と、前記金属吸着剤と、有機溶媒とを用いた液液抽出工程を含む方法であることを特徴とする、請求項
4に記載の金属抽出方法。
【請求項6】
請求項
3に記載の金属吸着剤を備えてなることを特徴とする、金属抽出装置。
【請求項7】
請求項
3に記載の金属吸着剤と、前記金属吸着剤を溶解する有機溶媒とを備えてなることを特徴とする、金属抽出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカミン誘導体、及び、前記グルカミン誘導体を含む金属吸着剤に関する。更に、本発明は、グルカミン誘導体を含有する金属吸着剤を用いた金属抽出方法、グルカミン誘導体を含有する金属吸着剤を備える金属抽出装置、金属抽出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レアメタルなどの金属資源はその需要の高まりから、使用済みの製品をリサイクルする技術や仕組みの構築、更には、回収や製錬工程で極力ロスを少なくする技術開発が精力的に行われている。
レアメタルなどの金属資源を回収する技術としては、吸着剤を用いて回収する吸着法が工業的に適しており、環境水中の水の浄化、都市鉱山からのレアメタル回収や油中からの核燃料物質の抽出など効率的に金属を回収できる吸着剤が必要とされている。
【0003】
金属の回収に適した吸着材としては、金属吸着能を有するN-メチルグルカミンを高分子樹脂などに固定化した固体吸着剤が知られているが(非特許文献1~3)、水及び有機溶媒に不溶であるため、固液抽出法でしか金属を回収できないといった問題があった。
【0004】
水に可溶なN-メチルグルカミン誘導体として、長鎖アルキル基を有するN-メチルグルカミン誘導体が知られており、水処理もしくは木材防腐用ホウ素固定剤に用いられることが記載されている(特許文献1)。
【0005】
更に、N-メチルグルカミンに、炭素数12のアルキル基をマイケル付加したグルカミン誘導体についても知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2014-534955号公報
【文献】国際公開第2003/068377号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bruno F. Urbano, “Water-insoluble polymer-clay nanocomposite ion exchange resin based on N-methyl-D-glucamine ligand groups for arsenic removal”, Reactive & Functional Polymers. 2012, 72, p.642-649.
【文献】Xi Zhang, “A spherical N-methyl-D-glucamine-based hybrid adsorbent for highly efficient adsorption of boric acid from water”, Separation and Purification Technology. 2017, 172, p.43-50.
【文献】Kohsuke Ikeda, “Removal of boron using nylon-based chelating fibers”, Industrial & Engineering Chemistry Research. 2011, 50, p.5727-5732.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属が溶解した液から金属吸着剤により金属を回収する技術では、金属と金属吸着剤との接触効率を向上させるという観点から、金属吸着剤を含む液体を抽出液とし、金属が溶解した液とを接触させる処理方法、いわゆる液液抽出法による処理方法が望ましい。液液抽出による処理方法を行う場合、金属吸着剤は、水又は有機溶媒の一方にのみ可溶である、あるいは、水又は有機溶媒の一方に不溶でありその性状が液状である、という性質が求められる。しかしながら、従来のN-メチルグルカミン誘導体、あるいは、該N-メチルグルカミン誘導体を固定した固体吸着剤は、水、有機溶媒の両方に不溶な固体化合物であるか、その両方に溶解するものであった。
【0009】
そこで、本発明の課題は、水又は有機溶媒の一方にのみ可溶である、あるいは、水又は有機溶媒の一方に不溶でありその性状が液状である、グルカミン誘導体であって、液液抽出法に利用可能なグルカミン誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、炭素数9以上の分岐鎖を有するアルキル基を置換基として有するグルカミン誘導体が、水に不溶であり有機溶媒に可溶である、あるいは、水に不溶であり液状である、化合物であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のグルカミン誘導体である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明のグルカミン誘導体は、下記式(1)で表されるグルカミン誘導体であることを特徴とする。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、メチル基、及び、エチル基から選択される1種を表し、R
2は炭素数9以上の分岐アルキル基を表す。)
【0012】
このグルカミン誘導体は、水に不溶な液状化合物であるという特性を有する。そのため、このグルカミン誘導体を抽出液体とし、金属が溶解した液から金属を液液抽出法により回収することができる。液液抽出法は、混合することによって、例えば水と有機溶媒または液状化合物の界面の接触効率を高めることができるため、固液抽出法より吸着作用に優れるという効果がある。また、抽出時間も短縮化できるなどの効果もある。
また、このグルカミン誘導体は、水に不溶であり、有機溶媒に可溶である、という特性を有する。この特性によると、このグルカミン誘導体を有機溶媒中に溶解して抽出溶媒とすることができるため、抽出溶媒を低粘度化することが可能となる。低粘度化することにより、金属が溶解した水と混合性能が向上するという効果を奏する。
さらに、このグルカミン誘導体は、金属が溶解した油に対して可溶であることから、油中に溶解することにより、油中の金属を捕捉することが可能である。よって、金属が溶解した油から金属を除去する処理に利用することができる。
【0013】
また、本発明のグルカミン誘導体の一実施態様としては、R1がメチル基であることを特徴とする。
この特徴によれば、吸着能に優れるという本発明の効果をより一層発揮することができる。
【0014】
また、本発明のグルカミン誘導体の一実施態様としては、R2が炭素数24以下の分岐アルキル基であることを特徴とする。
この特徴によれば、吸着能に優れるという本発明の効果をより一層発揮することができる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の金属吸着剤は、上記の本発明のグルカミン誘導体を含むことを特徴とする。
この特徴によれば、水に不溶であり有機溶媒に可溶である、あるいは、水に不溶な液状のグルカミン誘導体を用いていることから、液液抽出法に使用可能な金属吸着剤を提供することができる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の金属抽出方法は、上記の本発明の金属吸着剤と、金属が溶解した液とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
この特徴によれば、金属が溶解した液から金属を効率的に吸着、抽出することができる。
【0017】
本発明の金属抽出方法の一実施態様としては、金属溶解水溶液と、前記金属吸着剤と、有機溶媒とを用いた液液抽出工程を含むことを特徴とする。
この特徴によれば、金属が溶解した水溶液と、本発明の金属吸着剤との界面の接触効率を高めることができるため、金属が溶解した水溶液から金属を、短時間で効率的に抽出、回収することができる。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の金属抽出装置は、前記金属吸着剤を備えることを特徴とする。
この特徴によれば、金属が溶解した液から金属を効率的に吸着、抽出することができる金属抽出装置を提供することができる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明の金属抽出キットは、前記金属吸着剤と、前記金属吸着剤を溶解する有機溶媒とを備えることを特徴とする。
この特徴によれば、金属が溶解した液から金属を簡易的に吸着、抽出することができるキットを提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水又は有機溶媒の一方にのみ可溶である、あるいは、水又は有機溶媒の一方に不溶でありその性状が液状である、グルカミン誘導体であって、液液抽出法に利用可能なグルカミン誘導体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[グルカミン誘導体]
本発明のグルカミン誘導体は、下記式(1)で表されるグルカミンの窒素に対して、アルキル基等が付加された化合物である。
【化2】
(式中、R
1は、水素原子、メチル基、及び、エチル基を表し、R
2は炭素数9以上の分岐アルキル基を表す。)
【0022】
R1は、水素原子、メチル基、及び、エチル基を表し、好ましくはメチル基である。R1がメチル基であると、グルカミン誘導体が金属と錯形成しやすくなるため、金属吸着能が向上する。
【0023】
R2の炭素数9以上の分岐アルキル基としては、特に限定されないが、下限値としては、好ましくは炭素数9以上、より好ましくは炭素数12以上、特に好ましくは炭素数16以上である。上限値としては、有機溶媒に溶解可能な限り特に限定されないが、好ましくは30以下、より好ましくは24以下、特に好ましくは18以下である。
R2の分岐アルキル基の炭素数が小さすぎると有機溶媒に溶解するが、水にも溶解してしまう。また、R2の分岐アルキル基の炭素数が大きすぎると、単位重量当たりのグルカミン誘導体に吸着される金属吸着量が小さくなる。
また、R2が炭素数9以上の分岐アルキル基であることで、水に不溶であり、有機溶媒に可溶な液状のグルカミン誘導体を得ることができる。
【0024】
炭素数9以上の分岐アルキル基としては、具体的には、例えば、2,3-ジメチルヘプチル基、2,4-ジメチルヘプチル基、2,5-ジメチルヘプチル基、3,3-ジメチルヘプチル基、3,4-ジメチルヘプチル基、3,5-ジメチルヘプチル基、2-メチルオクチル基、2,6-ジメチルオクチル基、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプチル基、4-メチルドデシル基、3,7-ジメチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3,3-ジメチルオクチル基、3,5-ジメチルオクチル基、4,4-ジメチルオクチル基、3,5-トリメチルヘキシル基、2-ヘキシルオクチル基、2-ブチルオクチル基、2-メチルノニル基、3-メチルノニル基、4-メチルノニル基、5-メチルノニル基、4-エチル-2-メチルヘプチル基、イソノニル基、イソデシル基、7-メチルペンチル基、2-ヘキシルデシル基、イソステアリル基、3-ヘキシルウンデシル基、3-オクチルトリデシル基、3-デシルペンタデシル基等が挙げられ、好ましくは、イソステアリル基である。
【0025】
本発明のグルカミン誘導体を溶解することができる有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン等の直鎖または分岐型の炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、シクロオクタン等の環式炭化水素系溶媒、オクタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ヘキサクロロエタン等のハロゲン系溶媒、メチルエチルケトン、フェニルメチルケトン、等の溶媒が挙げられる。その中でも金属吸着能を高めるには、直鎖や分岐型の炭化水素であるヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカンなどの直鎖もしくはイソオクタンなどの分岐型の炭化水素溶媒が好ましい。
【0026】
水に不溶とは、室温下(25℃)、サンプル瓶に、本発明のグルカミン誘導体と水(蒸留水)を加えて、蓋をして激しく振とうさせた後に静置させた状態において、目視により、水が白濁している、または残存物を確認できる状態をいう。定量的には、水に対する溶解度が10g/L未満、好ましくは5g/L未満、より好ましくは1g/L未満であることをいう。
【0027】
有機溶媒に可溶とは、室温下(25℃)、サンプル瓶に、本発明のグルカミン誘導体とイソオクタンを加えて、蓋をして激しく振とうさせた後に静置させた状態において、目視により、イソオクタンが白濁していない、または残存物が確認できない状態をいう。定量的には、イソオクタンに対する溶解度が、1g/L以上、好ましくは5g/L以上、より好ましくは10g/L以上であることをいう。
【0028】
液状化合物とは、室温(25℃)、常圧において、粉末状でない粘性の状態である化合物のことをいう。液状化合物の粘度については特に限定されないが、25℃での粘度が0.1~100mPa・sが好ましく、1~50mPa・sがより好ましく、10~20mPa・sが特に好ましい。液状化合物の粘度が上記範囲であると、金属が溶解した液との界面での接触効率を高くすることができる。
前記粘度の測定方法は、Brookfield回転粘度計(英弘世紀精機株式会社製)やTV25/35粘度計(東機産業株式会社製)、超音波卓上粘度計FCV-100(富士工業株式会社製)を用いて測定することができる。
【0029】
本発明のグルカミン誘導体は、グルカミンのN位に分岐型アルキル基を有するアクリロイル基を導入することにより得ることができる。
グルカミンのN位に分岐型アルキル基を有するアクリロイル基を導入する方法としては、例えば、下記式で示すように、N-メチルグルカミンに対して、分岐型アルキル基を有するアクリル化合物をマイケル付加反応させることで得ることができる。
【化3】
(式中、R
2は炭素数9以上の分岐アルキル基を表す。)
【0030】
前記反応において、反応溶媒は特に限定されないが、グルカミン及び分岐型アルキル基を有するアクリル化合物が溶解する溶媒が好ましい。前記溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、ジオキサン、等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール等のアルコール系溶媒、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、フェニルメチルケトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水等の溶媒等が挙げられる。なお、溶媒は、1種類に限られず、2種類以上を組み合わせてもよい。
また、反応溶媒として、生成物が不溶な溶媒を用いると、後の精製操作が簡単になる。
【0031】
前記反応における溶媒の使用量は、グルカミン及び分岐型アルキル基を有するアクリル化合物の濃度が、通常0.01mol/L以上となる量、好ましくは0.1mol/L以上となる量、より好ましくは1mol/L以上となる量である。上記の濃度であると、効率良くグルカミン誘導体を製造し易くなる。
【0032】
反応温度は、通常-80℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃である。
反応時間は、通常48時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、特に好ましくは8時間以下である。
反応温度が、上記範囲内であると、効率良くグルカミン誘導体を製造し易くなる。
【0033】
前記反応で得られたグルカミン誘導体は、常法により単離精製することができる。例えば、反応終了後の溶液について、デカンテーション、分液、ろ過、乾燥等の操作を行うことで精製をすることができる。
【0034】
本発明のグルカミン誘導体は、金属吸着能を有していることを特徴とする。
吸着対象金属は、本発明のグルカミン誘導体に特異的(選択的)に結合可能な金属に限定されず、非特異的に結合可能な金属であってもよい。本発明の金属吸着剤の吸着対象金属としては、例えば、ホウ素、ヒ素、セレン、ベリリウム、金、銀、銅、白金、亜鉛、パラジウム、コバルト、クロム、ニッケル、マンガン、セシウム、ウラン、プルトニウム、チタン、ジルコニウムなどが挙げられる。
【0035】
本発明のグルカミン誘導体を、金属が溶解した液と接触させることにより、グルカミン誘導体の水酸基部分が液中の金属と結合(吸着)することができる。金属が結合(吸着)したグルカミン誘導体から、金属を抽出することで、回収することができる。また、本発明のグルカミン誘導体は、ホウ素を含む金属と特異的(選択的)に結合することができるので、回収対象金属としては上記に例示したものが好ましいが、ホウ素がより好ましい。
【0036】
[グルカミン誘導体を用いた金属抽出方法]
本発明の金属抽出方法は、本発明のグルカミン誘導体を金属吸着剤として用い、該金属吸着剤と、金属が溶解した液(以下、「被処理液」という。)とを接触させる工程を含むことを特徴とする。ここで、被処理液は、特に制限されず、金属が溶解した水、金属が溶解した油、金属が溶解した有機溶媒等が挙げられる。
【0037】
金属抽出方法としては、本発明のグルカミン誘導体と被処理液とが接触する方法であれば特に制限されず、例えば、液状のグルカミン誘導体又はグルカミン誘導体を含有する液体を抽出液として使用する液液抽出法や、グルカミン誘導体を固体化した吸着剤を使用する固液抽出法などが挙げられる。液液抽出法は、混合することによって、例えば水と有機溶媒または液状化合物の界面の接触効率を高めることができるため、固液抽出法より吸着作用に優れるという効果がある。また、抽出時間も短縮化できるなどの効果もある。
【0038】
(液液抽出法)
本発明における液液抽出法とは、金属が溶解した被処理液から、前記グルカミン誘導体を介して、抽出液に金属を移動、分離させる方法である。例えば、被処理液に、液状のグルカミン誘導体又はグルカミン誘導体を含有する液体などの抽出液を加えて攪拌等を行うことにより、液液界面の面積を増大し、効率的に金属を抽出液に移動、分離させることができる。この場合、被処理液と抽出液は、共に混ざり合わない液体である必要がある。
ここで、本発明のグルカミン誘導体は、水に不溶であり、有機溶媒に溶解する性質を有しているため、液液抽出法を用いる場合には、被処理液としては、水などの有機溶媒と混ざり合わない液体が用いられる。
【0039】
抽出液は、液状のグルカミン誘導体をそのまま使用してもよいし、液状のグルカミン誘導体を有機溶媒に溶解して使用してもよい。液状のグルカミン誘導体を抽出液としてそのまま使用する場合、高濃度のグルカミン誘導体からなる抽出液となるため、抽出性能に優れた抽出液となる。また、液状のグルカミン誘導体を有機溶媒に溶解して抽出溶媒として使用する場合、抽出液の粘度を低下することができるため、混合の際に、分散性に優れるという効果がある。
抽出液の粘度は特に限定されないが、混合の際の分散性等を考慮して、0.1~100mPa・sが好ましく、1~50mPa・sがより好ましく、10~20mPa・sが特に好ましい。抽出液の粘度が上記範囲であると、金属が溶解した液との界面での接触効率を高くすることができる。
【0040】
グルカミン誘導体を溶解するための有機溶媒としては、水と分離可能であれば特に制限されず、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン等の直鎖または分岐型の炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、シクロオクタン等の環式炭化水素系溶媒、オクタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ヘキサクロロエタン等のハロゲン系溶媒、メチルエチルケトン、フェニルメチルケトン、等の溶媒が挙げられる。また、本発明のグルカミン誘導体は有機溶媒以外にも、食用油や鉱物油等に溶解することもできる。その中でも金属吸着能を高めるには、直鎖や分岐型の炭化水素であるヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカンなどの直鎖もしくはイソオクタンなどの分岐型の炭化水素溶媒が好ましい。
【0041】
本発明における液液抽出法の抽出温度としては、特に限定されないが、好ましくは0℃以上100℃未満であり、より好ましくは20℃以上40℃以下であり、特に好ましくは25℃以上30℃以下である。
また、抽出液のpHは特に限定されないが、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~10であり、更に好ましくは4~8である、特に好ましくは4~6である。
【0042】
前記液液抽出方法で抽出した金属は単離、回収することが可能である。例えば、金属を抽出した抽出液を乾燥又は燃焼することにより、金属を単離、回収する方法や、金属を抽出した抽出液にエタノールなどの極性の高い有機溶媒を溶解してグルカミン誘導体を析出させることにより金属を単離、回収する方法や、金属を抽出した抽出液と水を混合して、水に金属を再溶解させることにより金属を単離、回収する方法などが挙げられる。水としては、好ましくは酸性または塩基性の水溶液であり、より好ましくは硝酸水溶液である。
【0043】
(固液抽出法)
本発明における固液抽出法とは、金属が溶解した被処理液を、固体状のグルカミン誘導体と直接接触させることで、グルカミン誘導体に金属を吸着させて、前記被処理液から金属を分離、抽出させる方法である。被処理液を固体のグルカミン誘導体と接触させる方法としては、被処理液に固体のグルカミン誘導体を添加して接触させてもよく、また、固体のグルカミン誘導体が固定されたカラム等に被処理液を通過させて接触させる方法でもよい。
【0044】
なお、本発明のグルカミン誘導体が液状化合物である場合には、固体化させることにより、前記固液抽出法に用いることができる。固体化の方法としては、例えば、ゼオライトや活性炭に担持させる方法や、高融点油脂と混合して固体化する方法等がある。グルカミン誘導体を固体化すると、ハンドリング性が向上するという効果もある。
【0045】
固体状のグルタミン誘導体の形状は特に制限されず、例えば、板状、ブロック状、フレーク状、粉末状などの形状が例示される。被処理液との接触効率を高めるという観点から、粉末状であることが好ましい。
【0046】
(その他の抽出法)
その他の抽出法として、金属が溶解した油、金属が溶解した有機溶媒等の被処理液に対して、本発明のグルカミン誘導体を溶解させることにより、被処理液中の金属をグルカミン誘導体で捕捉してもよい。捕捉された金属の分離方法としては、特に制限されないが、例えば、グルカミン誘導体を溶解した被処理液にエタノールなどの極性の高い有機溶媒を溶解して金属と共にグルカミン誘導体を析出させることにより金属を分離する方法などが挙げられる。
【0047】
[金属吸着剤]
本発明の金属吸着剤は、上記のグルカミン誘導体を含有することを特徴とする。
本発明の金属吸着剤は、上記のグルカミン誘導体のみからなるものでもよいが、上記のグルカミン誘導体以外のものを含んでもよい。グルカミン誘導体以外のものとしては、例えば、金属吸着能を有するクラウンエーテルやカリックスアレーン等が挙げられる。また、上記のグルカミン誘導体が適当な担体に担持された形態の金属吸着剤であってもよい。担体の材質は、グルカミン誘導体を担持可能なものであれば特に限定されず、例えば、木材、紙、樹脂等が挙げられる。また、担体の形状も特に限定されず、例えば、平板状、球状、糸状等が挙げられる。
【0048】
[金属吸着装置]
本発明における金属吸着装置とは、前記グルカミン誘導体を含む金属吸着剤を備えてなることを特徴とする装置である。
本発明における金属吸着装置は、河川の浄水装置やレアメタル等の回収等に用いることができる。
また、前記金属吸着装置に金属が吸着したことを検出できるセンサ等を組み合わせることで、水質測定装置等に応用することも可能である。
【0049】
[金属吸着キット]
本発明における金属吸着キットとは、前記グルカミン誘導体を含む金属吸着剤と、前記金属吸着剤を溶解する有機溶媒とを備えてなることを特徴とするキットである。
本発明の金属吸着キットは、記グルカミン誘導体を含む金属吸着剤と、前記金属吸着剤を溶解する有機溶媒とを備えてなることから、簡易的な溶液の溶解金属調査等に用いることができる。
本発明における金属吸着キットとしては、本発明のグルカミン誘導体を含む金属吸着剤と、金属吸着能を有するその他の金属吸着剤とを含んでいてもよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0051】
<合成例1>(炭素数18の分岐型アルキル基含有グルカミン誘導体)
30mLフラスコにN-メチルグルカミン1.1723g(6mmol)をはかり取り、1,4-ジオキサン4mLと水1mLを加え、懸濁させた。アクリル酸ステアリル(新中村化学工業株式会社:S-1800A)1.6240g(5mmol)を加えた後、50℃に加熱して5時間撹拌した。反応溶媒を室温に戻した後、水50mLに加えて粘性物を沈殿させた。デカンテーションにより粘性物を単離し、水でよく洗浄した後、減圧乾燥することで粘度の高い粘性物を得た。
収率: 98%
【0052】
<比較合成例1>(炭素数6の直鎖アルキル基含有グルカミン誘導体)
30mLフラスコにN-メチルグルカミン1.1711g(6mmol)をはかり取り、1,4-ジオキサン4mLと水1mLを加え、懸濁させた。アクリル酸ヘキシル0.879mL(5mmol)を加えた後、50℃に加熱して5時間撹拌した。溶媒を減圧下で留去してジクロロメタン30mLに溶解させ、水10mLで洗浄した後、有機層を減圧下で留去し、減圧乾燥することで白色固体を得た。
収率: 86%
【0053】
<比較合成例2>(炭素数8の直鎖アルキル基含有グルカミン誘導体)
30mLフラスコにN-メチルグルカミン1.1721g(6mmol)をはかり取り、1,4-ジオキサン4mLと水1mLを加え、懸濁させた。アクリル酸オクチル1.044mL(5mmol)を加えた後、50℃に加熱して5時間撹拌した。溶媒を減圧下で留去してジクロロメタン30mLに溶解させ、水10mLで洗浄した後、有機層を減圧下で留去し、減圧乾燥することで白色固体を得た。
収率: 66%
【0054】
<比較合成例3>(炭素数12の直鎖アルキル基含有グルカミン誘導体)
30mLフラスコにN-メチルグルカミン1.1714g(6mmol)をはかり取り、1,4-ジオキサン4mLと水1mLを加え、懸濁させた。アクリル酸ドデシル1.374mL(5mmol)を加えた後、50℃に加熱して5時間撹拌した。反応溶媒を室温に戻した後、水100mLに加えて沈殿させた。沈殿物をろ過、水でよく洗浄した後、減圧乾燥することで白色固体を得た。
収率: 91%
【0055】
<比較合成例4>(炭素数16の直鎖アルキル基含有グルカミン誘導体)
30mLフラスコにN-メチルグルカミン1.1713g(6mmol)をはかり取り、1,4-ジオキサン4mLと水1mLを加え、懸濁させた。アクリル酸ヘキサデシル1.4825g(5mmol)を加えた後、50℃に加熱して5時間撹拌した。反応溶媒を室温に戻した後、水100mLに加えて沈殿させた。沈殿物をろ過、水でよく洗浄した後、減圧乾燥することで白色固体を得た。
収率: 78%
【0056】
<比較合成例5>(炭素数18の直鎖アルキル基含有グルカミン誘導体)
30mLフラスコにN-メチルグルカミン1.1708g(6mmol)をはかり取り、1,4-ジオキサン4mLと水1mLを加え、懸濁させた。アクリル酸オクタデシル1.6220g(5mmol)を加えた後、50℃に加熱して5時間撹拌した。反応溶媒を室温に戻した後、水100mLに加えて沈殿させた。沈殿物をろ過、水でよく洗浄した後、減圧乾燥することで白色固体を得た。
収率: 94%
【0057】
(グルカミン誘導体の溶解性調査1(定性評価))
上記で合成した各種グルカミン誘導体に対して、水(蒸留水)及び有機溶媒(イソオクタン)に対する溶解性の評価を行った。室温下(25℃)において、直径3.5cmのサンプル瓶に、それぞれ濃度が20mmol/Lとなるように加え、蓋をして激しく振とうさせた。振とう後、静置させて目視に溶解性を確認した結果を表1に示す。ここで、溶解しているとは、目視において、溶液が白濁していない、または残存物が確認できない状態をいう。
【0058】
【0059】
表1の結果から、直鎖アルキル基を有するグルカミン誘導体は水、及び、有機溶媒に可溶なもの、水にも有機溶媒にも不溶なものが得られた。一方、分岐のアルキル基を有する本発明のグルカミン誘導体は、水には不溶であり、有機溶媒に可溶であることがわかった。
【0060】
(グルカミン誘導体の溶解性調査2(定量評価))
合成例1のグルカミン誘導体に対して、各種有機溶媒(オクタン、デカン、ドデカン、イソオクタン)に対する溶解性の評価を行った。室温下(25℃)において、直径3.5cmのサンプル瓶に各種濃度となるように加え、蓋をして激しく振とうさせた。振とう後、静置させて目視にて、溶液の状態を確認した結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
表2をみると、本発明のグルカミン誘導体は、オクタン、デカン、ドデカン、イソオクタン、オクタノールに対して、溶解性を示すことがわかった。
【0063】
(ホウ素吸着実験1)
サンプル瓶に10ppmのホウ素水溶液20mlを加え、合成例1のグルカミン誘導体0.1mol(52.0mg)を加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。上澄みのホウ素濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定し、下記式を用いてホウ素の吸着率を算出した(実施例1-1)。また、ホウ素水溶液の濃度を20ppmとして、同様の評価を行い、ホウ素の吸着率を算出した(実施例1-2)。
また、比較例として、比較合成例1~5のグルカミン誘導体についても同様の評価を行った(比較例1-1~1-6)。結果を表2に示す。
表3等において、例えば、meqはグルカミン誘導体1g当たりのホウ素の吸着に関する官能基量であって、1meq(mmol/g)であれば、グルカミン誘導体1gで1mmolのホウ素を吸着することができる官能基量を有しているという意味である。
【0064】
(吸着率の測定方法)
吸着前後におけるホウ素(金属)濃度は、スペクトロ社製ICP発光分光分析装置 SPECTRO ARCOSを用いて測定した後、下記の式からホウ素の吸着率を算出した。C0はホウ素(金属)吸着実験前のホウ素(金属)水溶液中のホウ素(金属)濃度(10ppm又は20ppm)であり、Cはグルカミン誘導体によるホウ素(金属)吸着後の上澄み液のホウ素(金属)濃度である。
【数1】
【0065】
【0066】
表3の結果より、ホウ素吸着実験において、比較合成例1~5のグルカミン誘導体に比べて、合成例1のグルカミン誘導体は高いホウ素吸着率を示した。合成例1のグルカミン誘導体は粘性物であることから、比較合成例1~5の固形状のグルカミン誘導体に比べて被処理水との接触効率に優れており、高い金属吸着能を示すことがわかった。
【0067】
(ホウ素吸着実験2)
サンプル瓶に合成例1のグルカミン誘導体208mg(0.4mmol)をはかり取り、有機溶媒としてオクタン20mLを加え、溶解させた。100ppmのホウ素水溶液20mLを加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。水層のホウ素濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定することで、ホウ素の吸着率を算出した(実施例2-1)。また、上記オクタンに変えて各種溶媒にて同様の実験を行い、各種溶媒におけるホウ素吸着率を算出した(実施例2-2~2-6)。使用したICP発光分光分析装置およびホウ素吸着率の算出式は、上記ホウ素吸着実験1と同様である。結果を表4に示す。
【0068】
【0069】
表4の結果より、本発明のグルカミン誘導体は様々な有機溶媒を用いた液液抽出法を適用できることがわかった。この結果より、被処理液の濃度にあわせて有機溶媒を適宜選択することができ、幅広い粘度の液に対して適用できることがわかった。また、実施例2-1~2-4と、実施例2-5~2-6を比較すると、有機溶媒としてアルコール系溶媒に比べて炭化水素溶媒を用いた場合に、より優れた抽出性能を示すことがわかった。
【0070】
(ホウ素溶離実験)
ホウ素を吸着した本発明のグルカミン誘導体から、ホウ素溶離の可否を調べた。
上記実施例2-4及び2-5で使用した有機層の溶液に同量の1M硝酸水溶液を加え、24時間撹拌した後、静置した。水層を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定することで、本発明のグルカミン誘導体からのホウ素の溶離率を算出した。結果を表5に示す。
【0071】
(溶離率の測定方法)
溶離前後におけるホウ素濃度を測定した後、下記の式からホウ素の溶離率を算出した。Cは実施例2-4及び2-5で使用したグルカミン誘導体によるホウ素吸着後の有機層のホウ素濃度であり、C1は1M硝酸水溶液に溶離した水溶液中のホウ素濃度である。
【数2】
【0072】
【0073】
表5の結果より、本発明のグルカミン誘導体は、ホウ素を吸着した後、水溶液と接触させることによりホウ素を溶離できることがわかった。特に、有機溶媒としてイソオクタン、水溶液として1M硝酸水溶液を利用することで、高い溶離率を示すことがわかった。
【0074】
(ホウ素吸着実験3)
サンプル瓶に合成例1のグルカミン誘導体52mg(0.1mmol)をはかり取り、有機溶媒としてイソオクタン20mLを加え、溶解させた。25ppmのホウ素水溶液20mLを加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。水層のホウ素濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定することで、ホウ素の吸着率を算出した(実施例3-1)。また、同様の実験において、吸着剤の濃度及びホウ素濃度を変化させて、各種条件におけるホウ素吸着率を算出した(実施例3-2~3-10)。使用したICP発光分光分析装置およびホウ素吸着率の算出式は、上記ホウ素吸着実験1と同様である。結果を表6に示す。
【0075】
【0076】
表6の結果より、本発明のグルカミン誘導体は、幅広い濃度範囲における被処理液に対して吸着能を発揮できることがわかった。
【0077】
(金属吸着実験1)
サンプル瓶に10ppmのチタン、10ppmのジルコニウム混合水溶液20mlを加え、合成例1のグルカミン誘導体0.1mol(52.0mg)を加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。上澄みのチタンとジルコニウム濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定し、上記ホウ素吸着率の算出式と同様の式を用いてチタンとジルコニウムの吸着率を算出した(実施例4-1~4-2)。結果を表7に示す。
【0078】
サンプル瓶に10ppmの銅水溶液20mlを加え、合成例1のグルカミン誘導体0.1mol(52.0mg)を加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。上澄みの銅濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定し、上記ホウ素吸着率の算出式と同様の式を用いて銅の吸着率を算出した(実施例4-3)。結果を表7に示す。
【0079】
サンプル瓶に10ppmのベリリウム水溶液20mlを加え、合成例1のグルカミン誘導体0.1mol(52.0mg)を加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。上澄みのベリリウム濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定し、上記ホウ素吸着率の算出式と同様の式を用いてベリリウムの吸着率を算出した(実施例4-4)。結果を表7に示す。
【0080】
サンプル瓶に10ppmの三価もしくは五価のヒ素水溶液20mlを加え、合成例1のグルカミン誘導体0.1mol(52.0mg)を加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。上澄みのヒ素濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定し、上記ホウ素吸着率の算出式と同様の式を用いてヒ素の吸着率を算出した(実施例4-5~4-6)。結果を表7に示す。
【0081】
【0082】
表7の結果より、本発明のグルカミン誘導体は、チタン、ジルコニウム、銅、ベリリウム、ヒ素に対して吸着できることがわかった。
特に、チタン及びジルコニウムに対して、高い吸着率を示すことがわかった。
【0083】
(金属吸着実験2)
サンプル瓶に合成例1のグルカミン誘導体208mg(0.4mmol)をはかり取り、有機溶媒としてイソオクタン20mLを加え、溶解させた。100ppmの三価もしくは五価のヒ素水溶液20mLを加え、室温で24時間撹拌した後、静置した。水層のヒ素濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)を用いて測定することで、ヒ素の吸着率を算出した(実施例5-1~5-2)。ヒ素吸着率の算出式は、上記ホウ素吸着実験1と同様である。結果を表8に示す。
【0084】
【0085】
表8の結果より、本発明のグルカミン誘導体は、ヒ素に対しても吸着能を有することがわかった。また、五価のヒ素に比べて、三価のヒ素に対してより優れた吸着能を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のグルカミン誘導体は、水又は有機溶媒の一方にのみ可溶である、あるいは、水又は有機溶媒の一方に不溶でありその性状が液状であることから、液液抽出法に利用可能である。
【0087】
本発明の金属吸着剤は、被処理液中の溶解した金属を吸着することができるため、水の浄化、放射性金属の回収やレアメタルの回収等に応用することができる。
更に、本発明の金属吸着装置や金属吸着キットは、河川等の浄水装置やレアメタル等の回収等に応用することができる。