(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】放射線線量計
(51)【国際特許分類】
G01T 1/02 20060101AFI20230206BHJP
【FI】
G01T1/02 A
(21)【出願番号】P 2019055791
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2018211008
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】林 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聡汰
(72)【発明者】
【氏名】冨田 恵美
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-178192(JP,A)
【文献】特表2018-517897(JP,A)
【文献】特開2014-071088(JP,A)
【文献】特開平07-134181(JP,A)
【文献】特開昭55-142263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上面側に放射線検出素材を積層した積層体からなる素子であり、
前記積層体は中央部側に切抜き部を形成して
あり、
前記切抜き部に、基材の下側に放射線検出素材を積層した反転型の積層部材を配置してあることを特徴とする放射線線量計。
【請求項2】
前記切抜き部の形状は略円形状であることを特徴とする請求項
1記載の放射線線量計。
【請求項3】
前記積層体は外形が略円形状であることを特徴とする請求項
2記載の放射線線量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線による被ばく線量を測定及び管理するための個人被ばく線量計や、環境の放射線測定に用いられる環境放射線線量計等の放射線線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線の線量計としては、ガラス線量計(RPLD:Radio Photo Luminescence Dosimeter),熱ルミネセンス線量計(TLD:Thermo Luminescence Dosimeter),光刺激ルミネセンス線量計(OSLD:Optically Stimulated Luminescence Dosimeter)等が提案されている。
【0003】
ガラス線量計は、銀活性化リン酸塩ガラスに放射線を照射し、その後に紫外線で刺激すると、照射された放射線量に比例した蛍光が発する性質を利用したものである。
熱ルミネセンス線量計は、硫酸カルシウム等の結晶の蛍光物質(TL素子)に熱を加えると、吸収された放射線量に比例して発光する性質を利用したものである。
これらに対して、光刺激ルミネセンス線量計は、放射線や紫外線を照射すると発生する蛍光が短時間に減衰するが、その後に光を当てると新たな強い蛍光を発する性質(光刺激ルミネセンス:OSL)を利用したものであり、例えばOSL素子として利用されている炭素添加α酸化アルミニウムは、高い硬度と物理的安定性に優れ、熱によるフェーディングが小さい特徴を有している。
【0004】
これまでに、TL素子やOSL素子としては、例えば
図9に示すように円盤型のディスク形状をしており、OSL素子で説明すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂からなる基材111に、炭素添加α酸化アルミニウム(α-Al
2O
3:C)等の放射線検出素材を担持させていた。
本発明者らの調査によれば、
図5に示すように素子の表面に直交するように照射された放射線(X線)の実効エネルギーに対して、素子を横方向から透過する際の実効エネルギーがビームハードニング効果(線質硬化現象)により高くなることで、放射線検出素材に対する感度が変化し、結果としてエネルギー特性に差を生じさせることが明らかになった。
【0005】
特許文献1には、OSLセンサを備えた放射線線量計が開示されているが、同公報に記載されているOSL素子も円盤型のディスク形状となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、受動型の放射線線量計において、従来の円盤型のディスク形状の放射線線量計と同等の検出効率を確保しつつ、放射線の照射角度依存性が改善された放射線線量計の提供を目的とする。
また、放射線の照射角度依存性の改善効果が高い簡易的な構造の放射線線量計の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る放射線線量計は、基材の上面側に放射線検出素材を積層した積層体からなる素子であり、前記積層体は中央部側に切抜き部を形成してあることを特徴とする。
ここで基材は、放射線の検出に用いる蛍光物質(放射線検出素材)を保持するための基材をいい、ガラス又は各種樹脂製のシート材が使用されている。
基材の上面側に放射線検出素材を積層することで、放射線の線量計素子となる。
積層体の中央部側に切抜き部を設けることで、斜めあるいは横方向から照射される放射線のビームハードニング効果を抑える趣旨である。
例えば、円盤型のディスク形状の積層体の中央部側に切抜き部を設けることができる。
このような現象は、線量計の原理に関係なく認められることから、本発明に係る素子はガラス線量計用の素子,TL素子,OSL素子のいずれであってもよい。
【0009】
ここで、中央部側の切抜き部に、基材の下面側に放射線検出素材を積層した反転型の積層部材(必要に応じて上面側に放射線検出素材を積層したものと区別するために反転積層部材と表現する。)を配置してもよい。
上面側及び下面側と表現したのは、放射線検出素材層が相互に反転使用されていることを示す趣旨である。
外形や切抜き部の形状に制限がない。
これまでに市販されている線量計に合せて使用しやすい観点からは、素子の外形は略円形状であるのが好ましく、切抜き部の形状が略円形状であってよい。
ここで略円形状と表現したのは、外形に多少の凹凸を有するものや、楕円形状も含まれる趣旨である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に用いられる素子(積層体)は、中央部に切抜き部を形成したので、放射線の照射角にずれがあっても、その影響を小さく抑えることができるので、放射線量を正しく測定することが可能となる。
ここで、この切抜き部に放射線検出素材の積層面を反転させた反転積層部材を嵌合配置することで、切抜き部による検出効率の低下を解消することができる。
これにより、本発明の第1の目的である放射線の照射角度依存性を改善しつつ、検出効率を円盤型のディスク形状と同等にすることができる。
また、本発明に係る線量計は、例えば個人被ばく線量計に用いることもでき、その被ばく管理の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1:本発明をOSL素子に適用した例を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図を示す。
【
図3】(a),(b)は市販されている線量計に適用した例を示す。
【
図4】実施例1と従来品の放射線の角度依存性の評価結果を示す。
【
図6】実施例2として実施例1の切抜き部に切抜いた積層体を反転させて嵌合した例を示す。
【
図7】放射線量の角度依存性を比較したグラフを示す。
【
図8】放射角度90°における検出効率を比較したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る線量計に用いられる素子の構造例を、以下添付した図面に基づいて説明する。
実施例1は、円環形状の積層体からなる素子10の例を示し、
図1(a)に平面図、(b)に斜視図を示す。
PET等の樹脂製の基材11の表面に、炭素添加α酸化アルミニウム等の放射線検出素材12を塗布することで、担持させている。
必要に応じて、薄い保護膜13を形成する。
素子10は、中央部側に貫通した切抜き部14を形成することで、円環形状になっている。
この放射線検出素材12の担持方法に制限はない。
【0013】
このような素子10は、
図2に示すようにシート材Sを円盤状S
1に打ち抜き、さらに中央部を円孔に打ち抜くことで、切抜き部14を形成することができる。
本実施例に係る素子10は、
図3(a),(b)に示すように市販されている線量計の素子10として使用できる。
(a)はケース体1に装着可能にした例であり、(b)はフィルタを組み込んだスライドケース体2に複数の素子10を装着する例である。
【0014】
図4は、本発明に係る円環状の素子(A)と、従来の円盤状の素子(B)との放線量の角度依存性を比較評価したグラフを示す。
評価に用いた素子は、いずれも外形D=5mm,厚み0.2mmのシート材であり、本発明に係る素子は、内側を内径d=3mmの円孔に切り抜いたものである。
図4に示したグラフは、素子の表面に直交する方向に放射線を照射した照射角度を0°として、素子の横方向から照射した場合を90°として相対的な検出応答を示したものである。
グラフ中に示した点線は、シミュレーション結果であり、0°のときの検出応答を1として、角度依存性を数値化したものである。
グラフ中に「●」,「○」で示した値は、実験データである。
実施例1「A」と従来品「B」を比較すると、素子の表面と平行な横方向から照射した90°での応答の低下が本発明の方が小さく、照射角度に対する依存性が従来品より優れていることが分かる。
【0015】
図6は実施例2として、実施例1と同様に切抜いた円形の積層体を上下に反転させて反転型の積層部材(反転積層部材)にして、この切抜き部に挿入した例であり、その断面図を
図6(c)に示す。
反転型の積層部材の外径はd=3mm、素子全体の外径は5mmであり、厚み0.2mmのシート材を用いて作成してある。
なお、基材11の厚みに対して放射線検出素材の厚みは同等又はそれ以下となっている。
よって、
図6(c)に示した断面図から分かるように、相対的に円環部は上部側に放射線検出素材を有し、反転させた円盤状の反転積層部材は、下部側にこの放射線検出素材を有する。
なお、どちら側を上にして使用してもよい。
このようにした素子の角度依存性を比較したのが、
図7に示したグラフである。
また、
図8に放射角90°における検出効率を比較したグラフを示す。
図7のグラフは、点線がシミュレーション結果で●印が実験データを示す。
実施例2は、円環状の実施例1と同様に角度依存性が改善されているとともに、
図8に示すように照射角度90°においても検出効率は、従来品レベルまで改善されていた。
【符号の説明】
【0016】
10 素子
11 基材
12 放射線検出素材
13 保護膜
14 切抜き部