(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】微小粒子、NK細胞活性化剤、NK細胞の培養方法、活性化NK細胞の製造方法およびNK細胞の活性化方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230206BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230206BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230206BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P37/04
A61P43/00 107
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2022155607
(22)【出願日】2022-09-28
【審査請求日】2022-09-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】317018480
【氏名又は名称】パナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230113697
【氏名又は名称】菅原 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥嗣
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-045325(JP,A)
【文献】特開2019-156739(JP,A)
【文献】特開2022-031602(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108715832(CN,A)
【文献】特表2018-531979(JP,A)
【文献】Int. J. Mol. Sci. (2021) vol.22, issue 8, 3851, p.1-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
C12N 5/0783
A61P 43/00
A61P 37/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含む、NK細胞活性化剤であって、
前記微小粒子がNK細胞活性化に関連するmiRNAを含み、
前記微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する、
NK細胞活性化剤。
【請求項2】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の
NK細胞活性化剤。
【請求項3】
グランザイムBの発現促進剤である、請求項1
または2に記載の
NK細胞活性化剤。
【請求項4】
SHIP1の発現制御剤であり、
前記微小粒子がSHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとしてhsa-miR-155-5pを含む、請求項1
または2に記載の
NK細胞活性化剤。
【請求項5】
前記微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清から精製されて単離された微小粒子である、請求項1
または2に記載の
NK細胞活性化剤。
【請求項6】
前記微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清から前記微小粒子を除いた成分を含まない、請求項5に記載の
NK細胞活性化剤。
【請求項7】
前記微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、hsa-miR-155-5pを含む、請求項1
または2に記載の
NK細胞活性化剤。
【請求項8】
有効量の請求項1
または2に記載のNK細胞活性化剤を含むNK細胞活性化用培地で、NK細胞を培養する、NK細胞の培養方法。
【請求項9】
有効量の請求項1
または2に記載のNK細胞活性化剤を、NK細胞を含む組成物に投与することを含む、活性化NK細胞の製造方法。
【請求項10】
有効量の請求項1
または2に記載のNK細胞活性化剤を、
ヒト以外の動物に投与することを含む、NK細胞の活性化方法。
【請求項11】
NK細胞1個あたりの前記微小粒子の個数を50個以上とする、請求項
10に記載のNK細胞の活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子、NK細胞活性化剤、NK細胞の培養方法、活性化NK細胞の製造方法およびNK細胞の活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NK(ナチュラルキラー)細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞を発見して破壊する働きがあり、インフルエンザなどの感染症予防、癌予防の決め手として注目されている。
【0003】
NK細胞の活性(破壊能力)は加齢とともに低下し、高齢になるほどガン発生率が高くなるのは、NK細胞の活性化の衰えに関連しているとされている。また、NK細胞は自律神経に影響を受けるため、ストレスを受けて交感神経が優位になるとNK細胞の活性(破壊能力)は激減する。このように、健康を維持するためには、NK細胞の活性化が不可欠である。
【0004】
近年、NK細胞活性化を促進する物質の探索が進んできている。
【0005】
例えば、特許文献1には、NK細胞の数を増加させるための方法であって、少なくとも1つのNK細胞を、エクソソーム膜に存在する1種又は2種以上の刺激性ペプチドを含む少なくとも1つのNK-刺激エクソソームと接触させることを含み、該エクソソームは、エクソソーム分泌細胞の細胞外産物である、方法が記載されている。
【0006】
一方、マイクロRNA(miRNA)の研究が進み、NK細胞に関連するmiRNAの機能や対象遺伝子がわかってきている(非特許文献1および2参照)。
非特許文献1には、miR-155の発現が、NK細胞でIFN-γを強く誘導する刺激(IL-12、IL-18、CD16の活性化など)によって調節されることが記載されている。また、miR-155が、5’-イノシトールホスファターゼ(SHIP1)のダウンレギュレーションを少なくとも部分的に介して、ヒトNK細胞におけるIFN-γ産生の正の調節因子として機能することが記載されている。
【0007】
非特許文献2には、NK細胞におけるmiR-155の過剰発現に起因するNK細胞の生存、拡大、活性化、および腫瘍制御の強化は、部分的には、イノシトールホスファターゼSHIP1の発現の減少とERKおよびAKTキナーゼの活性化の増加によって説明できることが記載されている。また、miR-155の調節は、NK細胞の活性化にとって重要であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Blood (2012) 119 (15): 3478-3485
【文献】Blood (2013) 121 (16): 3126-3134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、miRNAについて記載がなかった。
非特許文献1および2には、miR-155という特定のmiRNAのNK細胞における機能や対象遺伝子などが記載されているものの、このmiRNAを投与する手段として間葉系幹細胞に由来するエクソソームは明記されていなかった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる、新規な微小粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定のマイクロRNAを含む微小粒子が、NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できることを見出した。
【0013】
具体的に、本発明および本発明の好ましい構成は、以下のとおりである。
【0014】
[1] NK細胞活性化に関連するmiRNAを含み、
歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する、微小粒子。
[2] 微小粒子がエクソソームである、[1]に記載の微小粒子。
[3] グランザイムBの発現促進剤である、[1]または[2]に記載の微小粒子。
[4] SHIP1の発現制御剤であり、
微小粒子がSHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとしてhsa-miR-155-5pを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の微小粒子。
[5] 微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清から精製されて単離された微小粒子である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の微小粒子。
[6] 微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清から微小粒子を除いた成分を含まない、[5]に記載の微小粒子。
[7] 微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、hsa-miR-155-5pを含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の微小粒子。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の微小粒子を含む、NK細胞活性化剤。
[9] 有効量の[1]~[7]のいずれか1つに記載の微小粒子または有効量の[8]に記載のNK細胞活性化剤を含むNK細胞活性化用培地で、NK細胞を培養する、NK細胞の培養方法。
[10] 有効量の[1]~[7]のいずれか1つに記載の微小粒子、あるいは有効量の[8]に記載のNK細胞活性化剤を、NK細胞を含む組成物に投与することを含む、活性化NK細胞の製造方法。
[11] 有効量の[1]~[7]のいずれか1つに記載の微小粒子、あるいは有効量の[8]に記載のNK細胞活性化剤を、対象に投与することを含む、NK細胞の活性化方法。
[12] 対象がヒト以外の動物である、[11]に記載のNK細胞の活性化方法。
[13] NK細胞1個あたりの微小粒子の個数を50個以上とする、[11]または[12]に記載のNK細胞の活性化方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる、新規な微小粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、NK細胞活性化後のmiR-155の誘導と、IFN-γ産生の調節におけるその役割をモデル化した模式図である。
【
図2】
図2は、NK細胞活性化の評価のために、各種の間葉系幹細胞に由来するエクソソームについて、NK細胞あたりのエクソソームの処理数を変えた場合における、グランザイムBの発現量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
[微小粒子]
本発明の微小粒子は、NK細胞活性化に関連するmiRNAを含み、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する。
本発明の微小粒子は、NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる。その結果、本発明の微小粒子は、NK細胞を活性化できる。
以下、本発明の微小粒子の好ましい態様を説明する。
【0019】
<NK細胞活性化>
NK細胞は、リンパ球の一種であり、ヒトなどでは血液中に存在するリンパ球の10~30%を占める。NK細胞は、生まれながらにしてヒトなどの動物に備わっている免疫細胞であり、NK細胞は自然免疫に寄与する。
【0020】
NK細胞は、平常時には、ウイルス感染細胞やがん細胞を発見して破壊する働きがある。ここで、NK細胞は活性化型レセプターと抑制型レセプターを備える。NK細胞が正常細胞と出会うと抑制型レセプターからのシグナルが優勢となり、正常細胞を攻撃することはない。ただし、NK細胞は異常な細胞をキャッチすることができる様々な受容体をもっているため、特定の抗原がなくても異常な細胞をキャッチし、即時に除去することができる。
【0021】
NK細胞は、緊急時には活性化され、後天性の免疫細胞(樹状細胞、T細胞、B細胞)の活性を誘導してウイルス感染細胞などを攻撃するなど、免疫反応と炎症反応を調節できる。具体的には、NK細胞が、ウイルス感染細胞やがん細胞を発見すると活性化型レセプターからのシグナルが入って活性化し、ウイルス感染細胞やがん細胞を攻撃する。活性化したNK細胞は、パーフォリン(標的細胞の細胞膜に孔を開けるタンパク質)、グランザイム(標的細胞に細胞死を誘導する一群のセリンプロテアーゼ)などの細胞傷害因子を合成し、細胞の外に分泌して異常な細胞を破壊する。そして、IFN-γやTNF-アルファなどの様々なサイトカインやケモカインを分泌して樹状細胞と直接作用し、後天性の免疫細胞を調節して活性化させる。
【0022】
グランザイムはヒトでは5種類、マウスでは10種類存在する。ヒトでは、グランザイムの中でもグランザイムBが最も豊富に存在する。すなわち、グランザイムBは、NK細胞と細胞傷害性T細胞の顆粒に最も一般的に存在するセリンプロテアーゼである。グランザイムBはこれらの細胞からパーフォリンとともに分泌され、標的細胞のアポトーシスを媒介する。グランザイムBの副次的機能は多岐にわたる。グランザイムBはサイトカインの放出を刺激することで炎症の誘導に関与しており、また細胞外マトリックスのリモデリングにも関与している。グランザイムBレベルの上昇は、多数の自己免疫疾患、いくつかの皮膚疾患、そして1型糖尿病への関与が示唆されている。
【0023】
NK細胞の活性は、生活習慣によって変わる。例えば、食事や暮らし方によってNK細胞の活性を高められる。一方、疲労やストレス、不規則な生活、運動不足などの要因でNK細胞の活性が下がる。
【0024】
本明細書では、NK細胞の活性を、グランザイムBの発現量を基準にして定量的に判定する。グランザイムBの発現量は、公知の方法で測定することができ、商業的に入手できるキットで測定してもよい。例えば、SensoLyte 520 Granzyme B Activity Assay Kit, Fluorimetric(ANASPEC社製)(SensoLyteは登録商標)を用いることができる。
グランザイムBの一般的な濃度(血漿中など)は20~40pg/mlである。本発明の微小粒子は、NK細胞活性化によりグランザイムBの発現量を41pg/ml以上にでき、50pg/ml以上にできることが好ましく、60pg/ml以上にできることがより好ましく、70pg/ml以上にできることが特に好ましい。
このように、本発明の微小粒子は、グランザイムBの発現促進剤であることが好ましい。
【0025】
<微小粒子の詳細>
本発明の微小粒子は、NK細胞活性化に関連するmiRNAを含み、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する。以下、歯髄由来幹細胞および脂肪由来幹細胞をまとめて、「歯髄由来幹細胞等」ともいう。
本発明の微小粒子の有効成分であるmiRNAは、微小粒子に含まれる。
本発明の微小粒子は、例えば、歯髄由来幹細胞等の間葉系幹細胞からの分泌、出芽または分散などにより、歯髄由来幹細胞等から導き出され、細胞培養培地に浸出、放出または脱落するものである。微小粒子は、歯髄由来幹細胞等の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清に含まれる(由来する)微粒子であり、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子であることがより好ましい。ただし、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子は、必ずしも歯髄由来幹細胞等の培養上清から取得する必要がない。例えば、歯髄由来幹細胞の内部の微小粒子を任意の方法で単離したものであっても、歯髄由来幹細胞の培養上清から単離できる微小粒子と同じものであれば、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子と言える。
歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子は、培養上清に含まれた状態で用いてもよく、または培養上清から精製した状態で用いてもよい。微小粒子が培養上清から精製された微小粒子であることが好ましい。
【0026】
本発明では、微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清から精製されて単離された微小粒子であることがより好ましい。微小粒子または微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清から微小粒子を除いた成分を含まないことが特に好ましい。
【0027】
微小粒子の由来は、公知の方法で判別することができる。例えば、微小粒子は、J Stem Cell Res Ther (2018) 8:2に記載の方法で、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞などのいずれの幹細胞に由来するか判別することができる。具体的には、微小粒子のmiRNAパターンに基づいて、それぞれの微小粒子の由来を判別することができる。
【0028】
(miRNA)
本発明では、微小粒子がNK細胞活性化に関連するmiRNAを含む。
本発明において、miRNA(MicroRNAs)は、例えば21~25塩基(ヌクレオチド)のRNA分子である。miRNAは、標的遺伝子(target;ターゲット)mRNAの分解または解読段階における抑制により遺伝子発現を調節できる。
本発明において、miRNAとは、例えば、一本鎖(一量体)でもよいし、二本鎖(二量体)であってもよい。また、本発明において、miRNAは、Dicer等のリボヌクレアーゼにより切断された成熟型miRNAが好ましい。
【0029】
なお、hsa-miR-155-5pなどの本明細書に記載のmiRNAの配列は公知のデータベース(例えば、miRBase database)にアクセッション番号と関連づけられて登録されており、当業者であれば配列を一義的に定めることができる。例えば、hsa-miR-155-5pのアクセッション番号はMIMAT0000646であり、miRBase databaseに配列が登録されている。以下、各miRNAのアクセッション番号は省略する。
ただし、本明細書におけるmiRNAは、hsa-miR-155-5pなどの成熟型miRNAに対して1~5個程度の塩基が異なるバリアントも含む。また、本明細書における各miRNAは、各miRNA(例えばhsa-miR-155-5p)の塩基配列と同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、それらの相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。「同一性」とは、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。アライメントは、例えば、BLAST等の任意のアルゴリズムの利用により行うことができる。同一性は、例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または約99%である。同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列において、点変異、欠失および/または付加を有してもよい。前記点変異等の塩基数は、例えば、1~5個、1~3個、1~2個、または1個である。また、相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。ストリンジェントな条件としては、特に限定されないが、例えば、特開2017-184642号公報の[0028]に記載の条件を挙げることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0030】
本発明では、微小粒子が、miR-155を含むことが好ましく、その中でもhsa-miR-155-5pを含むことが好ましい。さらに、微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度でhsa-miR-155-5pを含むことが好ましい。以下、微小粒子が含むmiRNAの好ましい態様を説明する。
【0031】
Blood (2012) 119 (15): 3478-3485によれば、初代ヒトNK細胞をIL-12およびIL-18、またはIL-12およびCD16クラスタリングで刺激するとmiR-155が相乗的に誘導される。NK細胞でmiR-155を過剰発現させるとIL-12とIL18またはCD16での刺激によるIFN-γの誘導を増強する。NK細胞でmiR-155のノックダウンまたはその破壊をすると、モノカインやCD16の刺激でIFN-γ誘導を抑制する。
図1は、NK細胞活性化後のmiR-155の誘導と、IFN-γ産生の調節におけるその役割をモデル化した模式図である。miR-155の発現は、IL18単独、CD16活性化単独、IL-12単独で静止NK細胞の活性化後に誘導される。ただし、IL-12とIL-18またはCD16活性化の組み合わせは、相乗的にmiR-155を誘導する。この相乗効果は、IL-12によるIL-18Rの誘導に依存する。一方、CD16とIL-12によるmiR-155の相乗誘導は、CD16下流の細胞内シグナルの増強に起因する(破線矢印)。miR-155はSHIP1を標的とし、それによってSHIP1発現が低下し、PI3K経路の長期活性化とその後のIFN-γの生産増強を促進する。
【0032】
Blood (2013) 121 (16): 3126-3134によれば、miR-155 トランスジーン(tg)マウスは、NK細胞数の増加、NK細胞生存率の向上、過剰な未熟CD11blowCD27high NK細胞、および活性化表現型が認められる。miR-155 tg NK細胞は、in vivoで、拡大、インターフェロンg産生、AKTおよびERK活性化、およびリンパ腫の殺傷が促進される。
そして、NK細胞におけるmiR-155の過剰発現は、末端分化の本質的なブロックにも関わらず、NK細胞の拡大とエフェクター機能をポジティブに制御する。
miR-155オリゴヌクレオチドの直接投与によってNK細胞のmiR-155を選択的に増強すれば、難治性のがんや感染症に対するNK細胞の活性化が改善され、IL-2やIL-12のようなNK細胞活性化サイトカインの全身投与で患者がさらされる毒性を回避することが可能かもしれない。
【0033】
SHIP1は、5’-イノシトールホスファターゼ、SRC相同性2ドメイン含有イノシトール-5-ホスファターゼ1ともいわれる。
SHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNA(hsa-miR-155、hsa-miR-155-5pなどが知られている)はNK細胞活性化剤として有効である。
【0034】
本発明では、微小粒子が、SHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことが好ましく、SHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとしてhsa-miR-155-5pを含むことがより好ましい。
本発明の微小粒子において、微小粒子がSHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む場合、好ましくはSHIP1の発現に関する遺伝子の発現制御剤として機能する。すなわち、本発明の微小粒子は、SHIP1の発現制御剤であることが好ましい。
【0035】
微小粒子はSHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAのうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、8.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、12.0以上含むことが特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、hsa-miR-155-5pを8.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、12.0以上含むことが特に好ましい。
【0036】
本発明の微小粒子は、臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-miR-155-5pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の微小粒子がPTX3の発現抑制剤である場合、任意の細胞内におけるPTX3の遺伝子の発現を通常の(未処理の細胞の場合の)0.8倍以下に抑制できることが好ましく、0.6倍以下に抑制できることがより好ましく、0.4倍以下に抑制できることが特に好ましい。
【0038】
(miRNAの種類)
ここで、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子には、約2600種類のsmall RNAが含まれる。
例えば、歯髄由来幹細胞では、このうちの約1800種類がmiRNAである。これらのmiRNAのうち、含有量が多いmiRNAは180~200種類である。歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子における含有量が多いmiRNAは、NK細胞活性化に加えて、脳神経疾患などの治療に関連するマイクロRNAが多い点が特徴であり、従来知られておらず、本発明者が新たに見出した知見である。この特徴は、その他の間葉系幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAの種類とは大きく異なる。例えば、骨髄由来幹細胞の微小粒子や、脂肪由来幹細胞の微小粒子や臍帯由来幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAには、脳神経疾患の治療に関連するマイクロRNAはほとんど含まれない。
【0039】
(微小粒子の種類)
微小粒子は、エクソソーム(exosome)、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクトソーム(Ectosome)およびエキソベシクル(exovesicle)、またはマイクロベシクル(microvesicle)からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、エクソソームであることがより好ましい。
微小粒子の直径は、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
また、微小粒子の表面には、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンという分子が存在することが望ましく、それはCD9単独、CD63単独、CD81単独でもよく、あるいはそれらの2つないしは3つのどの組み合わせでも良い。
以下、微小粒子として、エクソソームを用いる場合の好ましい態様を説明することがあるが、本発明に用いられる微小粒子はエクソソームに限定されない。
【0040】
エクソソームは、原形質膜との多胞体の融合時に細胞から放出される細胞外小胞であることが好ましい。
エクソソームの表面は、歯髄由来幹細胞の細胞膜由来の脂質およびタンパク質を含むことが好ましい。
エクソソームの内部には、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)およびタンパク質など歯髄由来幹細胞の細胞内の物質を含むことが好ましい。
エクソソームは、ある細胞から別の細胞への遺伝情報の輸送による、細胞と細胞とのコミュニケーションのために使用されることが知られている。エクソソームは、容易に追跡可能であり、特異的な領域に標的化され得る。
【0041】
(微小粒子の含有量)
微小粒子組成物における、微小粒子の含有量は特に制限はない。微小粒子組成物は、微小粒子を0.5×108個以上含むことが好ましく、1.0×108個以上含むことがより好ましく、2.0×108個以上含むことが特に好ましく、2.5×108個以上含むことがより特に好ましく、1.0×109個以上含むことがさらにより特に好ましい。
また、微小粒子組成物における、微小粒子の含有濃度は特に制限はない。微小粒子組成物は、微小粒子を1.0×108個/mL以上含むことが好ましく、2.0×108個/mL以上含むことがより好ましく、4.0×108個/mL以上含むことが特に好ましく、5.0×108個/mL以上含むことがより特に好ましく、2.0×109個/mL以上含むことがさらにより特に好ましい。
本発明の微小粒子の好ましい態様は、微小粒子をこのように多量または高濃度で含むことにより、NK細胞活性化に用いられるmiRNAの量を高く維持できる。
【0042】
<その他の成分>
微小粒子組成物は、微小粒子の他に、投与する対象の動物の種類や目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、栄養成分、抗生物質、サイトカイン、保護剤、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などを挙げられる。
栄養成分としては、例えば、脂肪酸等、ビタミン等を挙げることができる。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等が挙げられる。
担体としては、薬学的に許容可能な担体として公知の材料を挙げることができる。
微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞等の培養上清それ自体または微小粒子それ自体であってもよく、薬学的に許容可能な担体や賦形剤などをさらに含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物の目的は、投与対象への微小粒子の投与を促進することである。
【0043】
薬学的に許容可能な担体は、投与対象に対して顕著な刺激性を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性および特性を抑止しない担体(希釈剤を含む)であることが好ましい。担体の例は、プロピレングリコール;(生理)食塩水;エマルション;緩衝液;培地、例えばDMEMまたはRPMIなど;フリーラジカルを除去する成分を含有する低温保存培地である。
【0044】
微小粒子組成物は、従来公知の、活性化NK細胞を含む組成物の有効成分を含んでいてもよい。当業者であれば用途や投与対象などにあわせて適切に変更することができる。
【0045】
一方、微小粒子組成物は、所定の物質を含まないことが好ましい。
例えば、微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞等を含まないことが好ましい。
また、微小粒子組成物は、MCP-1を含まないことが好ましい。ただし、MCP-1以外のサイトカインを含んでいてもよい。その他のサイトカインとしては、特開2018-023343号公報の[0014]~[0020]に記載のもの等が挙げられる。
また、微小粒子組成物は、シグレック9を含まないことが好ましい。ただし、シグレック9以外のその他のシアル酸結合免疫グロブリン様レクチンを含んでいてもよい。
なお、微小粒子組成物は、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)を実質的に含まないことが好ましい。また、微小粒子組成物は、Knockout serum replacement(KSR)などの従来の血清代替物を実質的に含まないことが好ましい。
微小粒子組成物は、上記したその他の成分の含有量(固形分量)がいずれも1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
<微小粒子の製造方法>
微小粒子の製造方法は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清を調製し、続けて歯髄由来幹細胞等の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の微小粒子を調製してもよい。あるいは、商業的に購入して入手した歯髄由来幹細胞等の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の微小粒子を調製してもよい。さらには、廃棄処理されていた歯髄由来幹細胞等の培養上清を含む組成物を譲り受けて(またはその組成物を適宜精製して)、そこから微小粒子を精製して、本発明の微小粒子を調製してもよい。
【0047】
(歯髄由来幹細胞等の培養上清の調製方法)
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清を実質的に含まないことが好ましい。例えば、歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
歯髄由来幹細胞等は、ヒト由来であっても、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物としては、後述する本発明の微小粒子を投与する対象の動物(生物種)と同様のものを挙げることができ、哺乳動物が好ましい。
【0049】
培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞としては、特に制限はない。脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth)や、その他の方法で入手される乳歯歯髄幹細胞や、永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells;DPSC)を用いることができる。ヒト乳歯歯髄幹細胞やヒト永久歯歯髄幹細胞の他、ブタ乳歯歯髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の歯髄由来幹細胞を用いることができる。
歯髄由来幹細胞は、エクソソームに加え、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)-1および-3、TGF-α、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカインを産生し得る。また、その他の多くの生理活性物質を産生し得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞が、多くのタンパク質が含まれる歯髄由来幹細胞であることが特に好ましく、乳歯歯髄幹細胞を用いることが好ましい。すなわち、本発明では、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を用いることが好ましい。
【0050】
本発明に用いられる脂肪由来幹細胞としては、特に制限はない。脂肪由来幹細胞として、任意の脂肪組織に含まれる体性幹細胞を用いることができる。ヒト脂肪由来幹細胞の他、ブタ脂肪幹細胞などのヒト以外の動物由来の脂肪由来幹細胞を用いることができる。脂肪由来幹細胞としては、例えば、国際公開WO2018/038180号の[0023]~[0041]に記載の方法で調製された脂肪由来幹細胞を用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。また、特開2018-531979号公報の[0022]および[0172]~[0187]に記載の方法で調製された脂肪由来幹細胞を用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0051】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞等は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
特に本発明では、歯髄由来幹細胞等の不死化幹細胞を用いることができる。実質的に無限増殖が可能な不死化幹細胞を用いることで、幹細胞の培養上清中に含まれる生体因子の量と組成を、長期間にわたって安定させることができる。歯髄由来幹細胞等の不死化幹細胞としては、特に制限はない。不死化幹細胞は、癌化していない不死化幹細胞であることが好ましい。歯髄由来幹細胞等の不死化幹細胞は、歯髄由来幹細胞等に、以下の低分子化合物(阻害剤)を単独または組み合わせて添加して培養することにより、調製することができる。
TGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-[(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-[(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(シグマアルドリッチ社)などが挙げられる。好ましくはA-83-01が挙げられる。
ROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axonmedchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y-27632、H-1152(以上、富士フイルム和光純薬株式会社)などが挙げられる。好ましくはY-27632が挙げられる。
GSK3阻害薬としては、GSK-3(Glycogen synthase kinase 3,グリコーゲン合成酵素3)を阻害するものであれば特に限定されることはなく、A 1070722、BIO、BIO-acetoxime(以上、TOCRIS社)などが挙げられる。
MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase-ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY86-9766)、SL327、U0126-EtOH(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ株式会社)などが挙げられる。
【0052】
本発明の微小粒子を再生医療に用いる場合、再生医療等安全性確保法の要請から、歯髄由来幹細胞等またはこれらの不死化幹細胞の培養上清や、それに由来する微小粒子を含む組成物は、歯髄由来幹細胞等以外のその他の体性幹細胞を含有しない態様とする。微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞等以外の間葉系幹細胞やその他の体性幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。
間葉系幹細胞以外のその他の体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。(間葉系幹細胞以外の)骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。
微小粒子組成物は、体性幹細胞以外の幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。体性幹細胞以外の幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)が含まれる。
【0053】
歯髄由来幹細胞等またはこの不死化幹細胞の培養上清の調製方法としては特に制限はなく、従来の方法を用いることができる。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、歯髄由来幹細胞等を培養して得られる培養液である。例えば歯髄由来幹細胞の培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0054】
歯髄由来幹細胞の培養上清を得るための歯髄由来幹細胞は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、または接着性細胞として選別可能である。脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。
脂肪由来幹細胞の場合には、脂肪組織から採取した脂肪細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。
【0055】
なお、「歯髄由来幹細胞等の培養上清」は、歯髄由来幹細胞等を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液であることが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞等の培養上清は、その一態様では全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まないことが好ましい。当該態様の組成物はこの特徴によって、歯髄由来幹細胞等自体は当然のこと、歯髄由来幹細胞等を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、歯髄由来幹細胞等を含まず、歯髄由来幹細胞等の培養上清のみで構成された組成物である。
本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞および大人歯髄由来幹細胞の両方の培養上清を含んでいてもよい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清を有効成分として含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物であることがより特に好ましい。
【0056】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞等の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。なお、基本培地としてはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
但し、血清を含まない「歯髄由来幹細胞等の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後または最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄由来幹細胞等を培養することによって、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を調製することができる。1回または複数回の継代培養を行うことにし、最後または最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。
【0057】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞等の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。歯髄由来幹細胞等の培養上清の調製方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離および選抜工程を適宜調整する以外は、後述する細胞培養方法と同様とすればよい。歯髄由来幹細胞等の種類に応じた歯髄由来幹細胞等の単離および選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
また、歯髄由来幹細胞等の培養には、エクソソームなどの微小粒子を多量に生産させるために、特別な条件を適用してもよい。特別な条件として、例えば、低温条件、低酸素条件、微重力条件など、何らかの刺激物と共培養する条件などを挙げることができる。
【0058】
本発明でエクソソームなどの微小粒子の調製に用いる歯髄由来幹細胞等の培養上清は、歯髄由来幹細胞等の培養上清の他にその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分を実質的に含まないことが好ましい。
ただし、エクソソームの調製に使用する各種類の添加剤を、歯髄由来幹細胞等の培養上清に添加してから保存しておいてもよい。
【0059】
(微小粒子の調製)
歯髄由来幹細胞等の培養上清から、微小粒子を精製して、微小粒子を調製することができる。
【0060】
微小粒子の精製は、歯髄由来幹細胞等の培養上清から微小粒子を含む画分の分離であることが好ましく、微小粒子の単離であることがより好ましい。
微小粒子は、微小粒子の特性に基づいて非会合成分から分離されることにより、単離され得る。例えば、微小粒子は、分子量、サイズ、形態、組成または生物学的活性に基づいて単離され得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞等の培養上清を遠心処理して得られた、微小粒子を多く含む特定の画分(例えば沈殿物)を分取することにより、微小粒子を精製することができる。所定の画分以外の画分の不要成分(不溶成分)は除去してもよい。微小粒子組成物からの、溶媒および分散媒、ならびに不要成分の除去は完全な除去でなくてもよい。遠心処理の条件を例示すると、100~20000gで、1~30分間である。
本発明では、歯髄由来幹細胞等の培養上清またはその遠心処理物を、ろ過処理することにより、微小粒子を精製することができる。ろ過処理によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のろ過膜を使用すれば、不要成分の除去と滅菌処理を同時に行うことができる。ろ過処理に使用するろ過膜の材質、孔径などは特に限定されない。公知の方法で、適切な分子量またはサイズカットオフのろ過膜でろ過をすることができる。ろ過膜の孔径はエクソソームを分取しやすい観点から、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
本発明では、歯髄由来幹細胞等の培養上清またはその遠心処理物あるいはそれらのろ過処理物を、ラムクロマトグラフィーなど、さらなる分離手段を用いて分離することができる。例えば様々なカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用できる。カラムは、サイズ排除カラムまたは結合カラムを使用できる。
各処理段階におけるそれぞれの画分中で、微小粒子(またはその活性)を追跡するために、微小粒子の1つ以上の特性または生物学的活性を使用できる。例えば、微小粒子を追跡するために、光散乱、屈折率、動的光散乱またはUV-可視光検出器を使用できる。または、それぞれの画分中の活性を追跡するために、特定の酵素活性などを使用できる。
微小粒子の精製方法として、特表2019-524824号公報の[0034]~[0064]に記載の方法を用いてもよく、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0061】
微小粒子組成物の最終的な形態は、特に制限はない。例えば、微小粒子組成物は、微小粒子を溶媒または分散媒とともに容器に充填してなる形態;微小粒子をゲルとともにゲル化して容器に充填してなる形態;微小粒子を凍結および/または乾燥して固形化して製剤化または容器に充填してなる形態などが挙げられる。容器としては、例えば凍結保存に適したチューブ、遠沈管、バッグなどが挙げられる。凍結温度は、例えば-20℃~-196℃とすることができる。
【0062】
本発明の微小粒子は、従来のNK細胞活性化剤として用いることができる組成物と比較して、大量生産しやすい、従来は産業廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞等の培養上清が、ヒト歯髄由来幹細胞等の培養上清である場合は、本発明の微小粒子をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞等の培養上清が、NK細胞活性化を希望する健常者または患者からの歯髄由来幹細胞等の培養上清である場合は、本発明の微小粒子をその患者に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の微小粒子が、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する場合、修復医療の用途にも用いられる。特に歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、歯髄由来幹細胞等の培養上清またはそれに由来する微小粒子を用いた組成物により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の微小粒子を用いた場合は細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、本発明の微小粒子は一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
【0063】
[NK細胞活性化剤]
本発明のNK細胞活性化剤は、本発明の微小粒子を含む。
本発明のNK細胞活性化剤は、本発明の微小粒子のみからなるものでもよく、本発明の微小粒子以外の成分を含んでいてもよい。
本発明のNK細胞活性化剤の好ましい態様の一つは、本発明の微小粒子を含む歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清のみからなる、NK細胞活性化剤である。
ただし、NK細胞活性化剤には、不可避の微量成分(好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下)が含まれることを許容する。
【0064】
[NK細胞の培養方法]
本発明のNK細胞の培養方法は、有効量の本発明の微小粒子または有効量の本発明のNK細胞活性化剤を含むNK細胞活性化用培地で、NK細胞を培養する。
NK細胞活性化用培地に用いられる培地としては特に制限はなく、公知のものを用いることができ、商業的に入手できる製品を用いてもよい。例えば、X-VIVO 15無血清リンパ球培地、X-VIVO 20無血清リンパ球培地(いずれもロンザ株式会社製。X-VIVOは商標登録)などを用いることができる。
NK細胞としては特に制限はなく、公知のものを用いることができ、商業的に入手できる製品を用いてもよい。例えば、ヒト末梢血、単核細胞画分より単離されたNK細胞(ロンザ株式会社製)などを用いることができる。また、NK細胞として、ヒトなどの動物の末梢血などから取得したものを用いてもよい。
NK細胞を培養する条件としては特に制限はなく、公知の条件を用いることができる。例えば、培養温度は35~40℃とすることができ、36~38℃であることが好ましい。培養時間は1時間~30日間とすることができ、12時間~20日間であることが好ましく、1日間~10日間であることがより好ましい。
【0065】
NK細胞を培養する場合の本発明の微小粒子または本発明のNK細胞活性化剤の有効量は特に制限はなく、微小粒子の由来によって適宜調整することができる。本発明では、NK細胞1個あたりの微小粒子の個数を5個以上とすることが好ましく、50個以上とすることがより好ましく、100個以上とすることが特に好ましく、500個以上とすることがより特に好ましい。特に、脂肪由来幹細胞に由来するエクソソームを用いる場合は、NK細胞1個あたりの微小粒子の個数を、500個以上とすることが特に好ましく、800個以上とすることがより好ましく、1000個以上とすることが特に好ましい。
【0066】
[活性化NK細胞の製造方法]
本発明の活性化NK細胞の製造方法は、有効量の本発明の微小粒子、あるいは有効量の本発明のNK細胞活性化剤を、NK細胞を含む組成物に投与することを含む。
本発明の活性化NK細胞の製造方法の好ましい態様は、本発明のNK細胞の好ましい態様と同様である。
製造された活性化NK細胞の用途は特に制限はない。例えば、活性化NK細胞の試験または研究のために用いてもよく、(高度)活性化NK細胞療法などに用いてもよい。
【0067】
[NK細胞の活性化方法]
本発明のNK細胞の活性化方法は、有効量の本発明の微小粒子あるいは有効量の本発明のNK細胞活性化剤を、対象に投与することを含む。
【0068】
本発明の微小粒子またはNK細胞活性化剤を、対象に投与する工程は特に制限はない。
投与方法は、口腔、鼻腔または気道への噴霧または吸引、点滴、局所投与、点鼻薬などを挙げることができ、侵襲が少ないことが好ましい。局所投与の方法としては、注射が好ましい。また、皮膚表面に電圧(電気パルス)をかけることにより細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、通常のケアでは届かない真皮層まで有効成分を浸透させられるエレクトロポレーションも好ましい。局所投与する場合、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与などを挙げることができ、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与または腹腔内投与であることがより好ましい。
また、種々の製剤化技法を用い、微小粒子またはNK細胞活性化剤のインビボ分布を変えることができる。インビボ分布を変える多数の方法が当業者に既知である。そのような方法の例には、たとえば、タンパク質、脂質(たとえば、リポソーム)、炭水化物または合成ポリマーのような物質で構成される小胞におけるエクソソームの保護が挙げられる。
対象に投与された本発明の微小粒子またはNK細胞活性化剤は対象の体内を循環し、所定の組織に到達してもよい。NK細胞は腸に多く存在することが知られていることから、微小粒子またはNK細胞活性化剤が腸に到達することが好ましい。
投与回数および投与間隔は、特に制限はない。投与回数は1週間当たり1回以上とすることができ、5回以上であることが好ましく、6回以上であることがより好ましく、7回以上であることが特に好ましい。投与間隔は、1時間~1週間であることが好ましく、半日間~1週間であることがより好ましく、1日(毎日1回)であることが特に好ましい。ただし、投与対象の生物種や投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
本発明の微小粒子またはNK細胞活性化剤は、微小粒子またはNK細胞活性化剤を治療有効期間にわたって1週間に1回以上、対象に投与する用途であることが好ましい。投与対象がヒトである場合は、1週間当たりの投与回数は多い方が好ましく、治療有効期間にわたって1週間に5回以上投与することが好ましく、毎日投与することが好ましい。
2.0×109~2.0×109個/mlの濃度の歯髄由来幹細胞等の培養上清を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり0.1~5mlであることが好ましく、0.3~3mlであることがより好ましく、0.5~1mlであることがより特に好ましい。
0.1×108個/μgの濃度の微小粒子を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり1~50μgであることが好ましく、3~30μgであることがより好ましく、5~25μgであることがより特に好ましい。
その他の動物への体重当たりの投与量の好ましい範囲は、モデルマウスへの体重(約25g)当たりの投与量から比例関係を用いて計算することができる。ただし、投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
【0069】
本発明では、対象のNK細胞1個あたりの微小粒子の個数を、対象のNK細胞の濃度から計算して微小粒子またはNK細胞活性化剤の投与量を決定してもよい。NK細胞の活性化方法におけるNK細胞1個あたりの微小粒子の個数の好ましい態様は、NK細胞の培養方法におけるNK細胞1個あたりの微小粒子の個数の好ましい態様と同様である。例えば、本発明では、NK細胞1個あたりの微小粒子の個数を50個以上とすることが好ましい。
【0070】
本発明の微小粒子またはNK細胞活性化剤を投与する対象の動物(生物種)は、特に制限はない。本発明の微小粒子を投与する対象の動物は、哺乳動物、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)であることが好ましい。哺乳動物としては、ヒトであっても、非ヒト哺乳動物であってもよい。ヒトであることが特に好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターであることがより好ましい。
本発明の微小粒子またはNK細胞活性化剤を投与する対象の動物は、ヒト以外の動物であることが、好ましい態様の一つである。
【0071】
本発明の微小粒子またはNK細胞活性化剤は、従来公知のNK細胞活性化剤と併用してもよい。具体的には、例えば従来公知の免疫抑制剤、生物学的製剤(IFN-γ増強剤など)、IL-2、IL-12、IL-18、CD16クラスタリングなどと併用してもよい。
【0072】
<微小粒子の使用>
本発明は、対象の生体内のNK細胞の活性化をするための、有効量の本発明の微小粒子あるいは有効量の本発明のNK細胞活性化剤の使用であってもよい。すなわち、本発明は、対象の生体内のNK細胞の活性化をするための本発明の微小粒子の使用であって、微小粒子がNK細胞活性化に関連するmiRNAを含み、微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する、使用であってもよい。
また、本発明は、対象の生体内のNK細胞のグランザイムBの発現促進をするための本発明の微小粒子の使用であってもよい。
また、本発明は、対象の生体内のNK細胞のSHIP1の発現制御をするための本発明の微小粒子の使用であってもよい。
【実施例】
【0073】
以下に実施例と比較例または参考例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0074】
[実施例1]
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製>
DMEM/HamF12混合培地の代わりにDMEM培地を用い、その他は特許第6296622号の実施例6に記載の方法に準じて、ヒト乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製して、培養上清を分取した。初代培養ではウシ胎仔血清(FBS)を添加して培養し、継代培養では初代培養液を用いて培養した継代培養液の上清をFBSが含まれないように分取し、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。なお、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地であり、F12はハムF12培地である。
【0075】
<エクソソームの調製>
得られた歯髄由来幹細胞の培養上清から、歯髄由来幹細胞のエクソソームを以下の方法で精製した。
乳歯歯髄幹細胞の培養上清(100mL)を0.22マイクロメーターのポアサイズのフィルターで濾過したのち、その溶液を、60分間、4℃で100000×gで遠心分離した。上清をデカントし、エクソソーム濃縮ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。再懸濁サンプルを、60分間100000×gで遠心分離した。再度ペレットを濃縮サンプルとして遠心チューブの底から回収した(およそ100μl)。タンパク濃度は、マイクロBSAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)によって決定した。エクソソームを含む組成物(濃縮溶液)は、-80℃で保管した。
歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームを含む組成物を、実施例1の微小粒子組成物サンプルとした。
【0076】
実施例1の微小粒子組成物に含まれる微小粒子の平均粒径、濃度を評価した。
実施例1の微小粒子組成物に含まれる微小粒子の平均粒径は50~150nmであった。
実施例1の微小粒子組成物は1.0×109個/ml以上の高濃度エクソソーム溶液であり、具体的には2.3×109個/mlの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られた実施例1の微小粒子組成物の成分を公知の方法で分析した。その結果、実施例1の微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞の幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP-1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、実施例1の微小粒子組成物の有効成分であることがわかった。
【0077】
<試験例1>エクソソームで発現するマイクロRNA
実施例1の微小粒子組成物に含まれるsmall RNAを次世代シーケンシング(NGS)解析により解析した。NGS解析により、実施例1の微小粒子組成物(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)に含まれるmiRNAが1787個同定された。得られた結果を下記表1に示す。
【0078】
【0079】
<試験例2>NK細胞活性化に関連するマイクロRNAの探索
疾患に関わるマイクロRNAを探索した。疾患に関連するmiRNAの抽出はIMOTA(Interactive Multi-Omics-Tissue Atlas)を用いた。IMOTAは、各組織や細胞におけるmiRNAやmRNA、タンパク質の相互作用や発現量について調べることができる対話型のマルチオミクスアトラスである(Nucleic Acids Research, Volume 46, Issue D1, 4 January 2018, Pages D770-D775, "IMOTA: an interactive multi-omics tissue atlas for the analysis of human miRNA-target interactions")。ここでは、NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子を制御するマイクロRNAが含まれているかを探索した。この試験例2では、NK細胞活性化に関わるタンパク質として、SHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを探索した。
【0080】
その結果、本発明の微小粒子には、SHIP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとして、hsa-miR-155-5pが含まれることがわかった。hsa-miR-155-5pの発現量は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、12.17であった。これは、表1に示した実施例1の微小粒子組成物(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)に含まれるmiRNA総数である1787個のマイクロRNAのうち44番目であった。
そのため、本発明の微小粒子は、hsa-miR-155-5pを多量に含むことから、SHIP1の発現制御剤として用いられることがわかった。
なお、表1の1787個のmiRNAのうち、リードカウント数のLog2Ratioの最小値(検出限界)は3.32であった。また、表1の1787個のmiRNAのうち、リードカウント数のLog2Ratioが4以上のmiRNAは1204個であり、これが6以上のmiRNAは375個であり、これが8以上のmiRNAは178個であり、これが10以上のmiRNAは90個であり、これが12以上のmiRNAは48個であり、これが14以上のmiRNAは15個であった。
【0081】
以上より、本発明の微小粒子は、NK細胞活性化に関連するmiRNA(hsa-miR-155-5p)を高濃度で含むことがわかった。そのため、本発明の微小粒子は、NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる。その結果、本発明の微小粒子は、NK細胞活性化に有用であることがわかった。
【0082】
<試験例3>NK細胞活性化の評価
間葉系幹細胞に由来するエクソソームによるNK細胞活性化の評価を、NK細胞由来のグランザイムBの測定をすることで実施した。
NK細胞として、ヒト末梢血、単核細胞画分より単離されたNK細胞(ロンザ株式会社製。細胞数5x106個)を用いた。培地として、X-VIVO 15無血清リンパ球培地(ロンザ株式会社製)を用いた。
T75のフラスコを用いて10mlの培地で培養を行う系において、NK細胞を培地に播種し、さらに実施例1の微小粒子組成物を1個のNK細胞あたりエクソソーム数(エクソソーム処理数)が10個となるように添加し、NK細胞の培養を行った。実施例1の微小粒子組成物に含まれるエクソソーム数は2.3×109であったため、実施例1の微小粒子組成物の添加量は培地に対して約0.5体積%(10mlの培地に対して約0.05ml)であった。
活性化のための培養条件は、ロンザ株式会社を参考に一般的な条件とし、37℃、5日間とした(特開2014-030375号公報の0059~0071なども参考)。
【0083】
それぞれで培養したNK細胞に対して、SensoLyte 520 Granzyme B Activity Assay Kit, Fluorimetric(ANASPEC社製)を用いて、キットに付属の説明書のプロトコルにしたがってグランザイムBの発現量を測定した。得られた結果を
図2に示した(SHED-Exoの左カラム)。
【0084】
[実施例2および3]
試験例3において、実施例1の微小粒子組成物を1個のNK細胞あたりエクソソーム数(エクソソーム処理数)が100個または1000個となるように添加し、実施例2または3のNK細胞の培養を行った以外は実施例1と同様にして、グランザイムBの発現量を測定した。得られた結果を
図2に示した(SHED-Exoの中央カラムおよび右カラム)。
なお、実施例2では実施例1の微小粒子組成物の添加量は培地に対して約5体積%(10mlの培地に対して約0.5ml)であり、実施例3では実施例1の微小粒子組成物の添加量は培地に対して約50体積%(10mlの培地に対して約5ml)であった。
【0085】
[実施例4]
<脂肪由来幹細胞の培養上清の調製>
乳歯歯髄幹細胞の代わりに、ヒト脂肪由来幹細胞を用いた以外は実施例1に準じて、脂肪由来幹細胞の培養上清を調製した。脂肪由来幹細胞の培養上清は、脂肪由来幹細胞の培養上清に由来するエクソソーム(AT-MSC-Exo)を含む。
【0086】
<NK細胞活性化の評価>
試験例3において、実施例1の微小粒子組成物の代わりに脂肪由来幹細胞の培養上清を1個のNK細胞あたりエクソソーム数(エクソソーム処理数)が1000個となるように添加し、実施例4のNK細胞の培養を行った以外は実施例1~3とそれぞれ同様にして、グランザイムBの発現量を測定した。得られた結果を
図2に示した(AT-MSC-Exo)。
【0087】
[比較例1~3]
コントロールとして、試験例3において、実施例1の微小粒子組成物の代わりにリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))を実施例1~3と同じ添加量となるように添加し、比較例1~3のNK細胞の培養を行った以外は実施例1~3とそれぞれ同様にして、グランザイムBの発現量を測定した。得られた結果を
図2に示した(Control PBS)。
【0088】
[比較例4~6]
<骨髄由来幹細胞の培養上清の調製>
乳歯歯髄幹細胞の代わりに、ヒト骨髄由来幹細胞を用いた以外は実施例1に準じて、骨髄由来幹細胞の培養上清を調製した。骨髄由来幹細胞の培養上清は、骨髄由来幹細胞の培養上清に由来するエクソソーム(BM-MSC-Exo)を含む。
【0089】
<NK細胞活性化の評価>
試験例3において、実施例1の微小粒子組成物の代わりに骨髄由来幹細胞の培養上清を1個のNK細胞あたりエクソソーム数(エクソソーム処理数)が10個、100個または1000個となるように添加し、比較例4~6のNK細胞の培養を行った以外は実施例1~3とそれぞれ同様にして、グランザイムBの発現量を測定した。得られた結果を
図2に示した(BM-MSC-EXO)。
【0090】
図2より、実施例1~3の歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子および実施例4の脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子は、NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御でき、NK細胞を活性化できることがわかった。特に、これらの微小粒子は、グランザイムBの発現促進剤であることがわかった。
特に、実施例2および3では、NK細胞1個あたりの歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子の個数を100個以上とすることにより、顕著にNK細胞を活性化できることがわかった。
一方、比較例1~3より、PBSの添加量を変化させた場合はグランザイムBの発現は変化せず、NK細胞活性化は変化しないことがわかった。比較例4~6の歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子は、グランザイムBの発現をあまり促進できず、すなわちNK細胞活性化をあまりできないことがわかった。
【要約】
【課題】NK細胞活性化に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる、新規な微小粒子の提供。
【解決手段】NK細胞活性化に関連するmiRNAを含み、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する、微小粒子;NK細胞活性化剤;NK細胞の培養方法;活性化NK細胞の製造方法;NK細胞の活性化方法。
【選択図】
図2