IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テックワン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図1
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図2
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図3
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図4
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図5
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図6
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図7
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図8
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図9
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図10
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図11
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図12
  • 特許-複合材および複合材製造方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】複合材および複合材製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20230206BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230206BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022565697
(86)(22)【出願日】2022-08-15
(86)【国際出願番号】 JP2022030910
【審査請求日】2022-11-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392017624
【氏名又は名称】テックワン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】北野 高広
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031516(WO,A1)
【文献】特開2011-192453(JP,A)
【文献】特開2017-10645(JP,A)
【文献】国際公開第2018/073916(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材であって、
前記複合材は、
樹脂の熱分解物と、SiOx(x≦1.2)と、Snとを有し、
前記SiOxの粒子表面が、前記樹脂熱分解物によって、覆われてなり、
前記Snの粒子が、前記SiOxの粒子内に、存在してなり、
Liを実質的に有していない
複合材。
【請求項2】
アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物が、前記樹脂熱分解物と前記SiOx(x≦1.2)との間に、存在してなる
請求項1の複合材。
【請求項3】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である
請求項1の複合材。
【請求項4】
前記樹脂がポリビニルアルコールである
請求項1の複合材。
【請求項5】
前記SiOxの粒子は平均直径が1~20μmである
請求項1の複合材。
【請求項6】
前記Snの粒子は平均直径が1~50nmである
請求項1の複合材。
【請求項7】
前記樹脂熱分解物は、前記SiOx100質量部に対して、5~20質量部であり、
前記Snの粒子は、前記SiOx100質量部に対して、1~10質量部である
請求項1の複合材。
【請求項8】
前記アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物は、前記SiOx100質量部に対して、対応するAl,Mgに換算した値で、2~20質量部である
請求項2の複合材。
【請求項9】
前記酸化物の層内部にはSiOy(0≦y<1,y<x)が存在している
請求項2の複合材。
【請求項10】
前記酸化物の層の厚さが10~1000nmである
請求項2の複合材。
【請求項11】
請求項1~請求項10いずれかの複合材が用いられて構成されてなる
負極。
【請求項12】
請求項11の負極を具備してなる
二次電池。
【請求項13】
SiOx(x≦1.2)粒子の表面が樹脂で被覆され、
前記樹脂被覆SiOx(x≦1.2)粒子とSn粒子とが混合され、
前記混合物が加熱される
複合材の製造方法。
【請求項14】
前記混合に際して、Al粒子およびMg粒子の群の中から選ばれる一種または二種以上が、更に、混合される
請求項13の複合材の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である
請求項13の複合材の製造方法。
【請求項16】
請求項13の複合材の製造方法であって、
この製造方法によって得られる複合材は、
樹脂の熱分解物と、SiOx(x≦1.2)と、Snとを有し、
前記SiOxの粒子表面が、前記樹脂熱分解物によって、覆われてなり、
前記Snの粒子が、前記SiOxの粒子内に、存在してなり、
Liを実質的に有していない。
【請求項17】
請求項14の複合材の製造方法であって、
この製造方法によって得られる複合材は、
樹脂の熱分解物と、SiOx(x≦1.2)と、Snと、アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物とを有し、
前記SiOxの粒子表面が、前記樹脂熱分解物によって、覆われてなり、
前記Snの粒子が、前記SiOxの粒子内に、存在してなり、
前記アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物が、前記樹脂熱分解物と前記SiOx(x≦1.2)との間に、存在してなり、
Liを実質的に有していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウムイオン電池の負極材に好適な複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の負極材として、SiO(一酸化ケイ素)とSnとを含むSi-Sn複合材が提案されている。
【0003】
例えば、WO2006/78269=JP2007-535459A(特許文献1)は、リチウム含有骨格内にナノ分散したケイ素および/またはスズを含む化合物を提案している。
【0004】
JP2014-107013A(特許文献2)は、Li-O-Si結合を有する組成式LiaSiOb(式中0<a<4、0<b<4)で表される化合物のマトリックス中に、炭素粉末、金属Si素粉末、Si合金粉末、SiOx(0<x<2)粉末、及びSn粉末からなる群から選択される粉末が分散されている複合材を提案している。
【0005】
これ等の発明は、何れも、Liを必須要素とした発明である。しかし、Liを含む複合材は空気中や水中で不安定である。従って、リチウムイオン電池の負極材としてLiを用いない材が望まれた。
【0006】
リチウムイオン電池の負極材としてLiを用いない材として下記の提案が有る。
【0007】
JP2003-192327A(特許文献3)は、SiO粉末を含む混合原料粉末を不活性ガスの存在下(もしくは減圧下)で1100~1600℃の温度で加熱してSiOxガスを発生させ、又、Si以外の金属(例えば、Al,B,Ca,K,Na,Li,Ge,Mg,Co,Sn)もしくは金属化合物又はそれらの混合物を加熱して金属蒸気ガスを発生させ、前記SiOxガスと前記金属蒸気ガスとの混合ガスを100~500℃に冷却した基体表面に析出させる金属元素ドープ酸化珪素粉末の製造方法を提案している。この提案の実施例1の金属元素ドープ酸化珪素粉末を用いて構成された負極を具備したリチウムイオン二次電池は、初回充電容量が920mAh/g、初回放電容量が850mAh/g、初回充放電時の効率が92.4%、10サイクル目の放電容量が780mAh/g、10サイクル後のサイクル保持率が91.7%である。実施例2の金属元素ドープ酸化珪素粉末を用いて構成された負極を具備したリチウムイオン二次電池は、初回充電容量が780mAh/g、初回放電容量が750mAh/g、初回充放電時の効率が96.2%、10サイクル目の放電容量が730mAh/g、10サイクル後のサイクル保持率が97.3%である。サイクル保持率の値は高い。しかし、初回充電容量の値が小さい。従って、特許文献3の技術には満足できない。
【0008】
WO2014/95811=JP2016-507859A(特許文献4)は、金属(M:Si)をベースとする粒子とSiOx(0<x<2)とを含んでなる再充電可能なリチウムイオン電池用活物質であって、前記SiOxが、非晶質ケイ素(Si)および結晶質二酸化ケイ素(SiO)の密接な混合物(intimate mixture)である活物質を提案している。特許文献4は、Si(M)の代わりに、Sn,Sb,Ni,Ti,In,Al,Feを提案している。しかし、具体的な実施例では、前記MはSiの場合しか開示していない。請求項10は前記MをSiに限定している。Siの代わりにSn,Sb,Ni,Ti,In,Al,Feが用いられても、同等な物性が得られた事を特許文献4は開示していない。特許文献4の実施例の活物質を用いて構成された負極を具備したリチウムイオン二次電池は、初回充電容量が2050~2350mAh/g、初回放電容量が1165~1724mAh/g、50サイクル後の放電容量が417~650mAh/g、50サイクル後の容量保持率が24~56%である。初回充電容量の値は高い。しかし、50サイクル後の容量保持率が低い。従って、特許文献4の技術には満足できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2006/78269
【文献】JP2014-107013A
【文献】JP2003-192327A
【文献】WO2014/95811
【非特許文献】
【0010】
【文献】Electrochemistry,90(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は前記問題点を解決する事である。
【0012】
例えば、放電容量が高く(初回の放電容量が、例えば1500mAh/g以上)、サイクル特性が高い(500サイクル後の容量維持率が、例えば80%以上)負極材を提供することである。
初回充・放電効率が高い(例えば、75%以上)負極材を提供することである。
空気中や水中でも安定していて、取り扱いが容易な負極材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
複合材であって、
前記複合材は、
樹脂の熱分解物と、SiOx(x≦1.2)と、Snとを有し、
前記SiOxの粒子表面が、前記樹脂熱分解物によって、覆われてなり、
前記Snの粒子が、前記SiOxの粒子内に、存在してなり、
Liを実質的に有していない
複合材を提案する。
【0014】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物が、前記樹脂熱分解物と前記SiOx(x≦1.2)との間に、存在してなる複合材を提案する。
【0015】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記樹脂が極性基を有する樹脂である複合材を提案する。
【0016】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記樹脂が熱可塑性樹脂である複合材を提案する。
【0017】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記樹脂がポリビニルアルコールである複合材を提案する。
【0018】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記Sn粒子のサイズが前記SiOx(x≦1.2)粒子のサイズよりも小さい複合材を提案する。
【0019】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記SiOxの粒子は平均直径が1~20μmである複合材を提案する。
【0020】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記Snの粒子は平均直径が1~50nmである複合材を提案する。
【0021】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記樹脂熱分解物は、前記SiOx100質量部に対して、5~20質量部であり、前記Snの粒子は、前記SiOx100質量部に対して、1~10質量部である複合材を提案する。
【0022】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物は、前記SiOx100質量部に対して、対応するAl,Mgに換算した値で、2~20質量部である複合材を提案する。
【0023】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記酸化物の層内部にはSiOy(0≦y<1,y<x)が存在している複合材を提案する。
【0024】
本発明は、前記複合材であって、好ましくは、前記酸化物の層の厚さが10~1000nmである複合材を提案する。
【0025】
本発明は前記複合材が用いられて構成されてなる負極を提案する。
【0026】
本発明は前記負極を具備してなる二次電池を提案する。
【0027】
本発明は、
SiOx(x≦1.2)粒子の表面が樹脂で被覆され、
前記樹脂被覆SiOx(x≦1.2)粒子とSn粒子とが混合され、
前記混合物が加熱される
複合材の製造方法を提案する。
【0028】
本発明は、前記複合材の製造方法であって、好ましくは、前記混合に際して、Al粒子およびMg粒子の群の中から選ばれる一種または二種以上が、更に、混合される複合材の製造方法を提案する。
【0029】
本発明は、前記複合材の製造方法であって、好ましくは、前記樹脂が極性基を有する樹脂である複合材の製造方法を提案する。
【0030】
本発明は、前記複合材の製造方法であって、好ましくは、前記樹脂が熱可塑性樹脂である複合材の製造方法を提案する。
【0031】
本発明は、前記複合材の製造方法であって、好ましくは、前記樹脂がポリビニルアルコールである複合材の製造方法を提案する。
【0032】
本発明は、前記複合材の製造方法であって、好ましくは、前記Sn粒子のサイズが前記SiOx(x≦1.2)粒子のサイズよりも小さい複合材の製造方法を提案する。
【0033】
本発明は、前記複合材の製造方法であって、好ましくは、前記製造方法によって得られる複合材は、樹脂の熱分解物とSiOx(x≦1.2)とSnとを有し、前記SiOxの粒子表面が前記樹脂熱分解物によって覆われてなり、前記Snの粒子が前記SiOxの粒子内に存在してなり、Liを実質的に有していない。
【0034】
本発明は、前記複合材の製造方法であって、好ましくは、前記製造方法によって得られる複合材は、樹脂の熱分解物とSiOx(x≦1.2)とSnと酸化物(アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物)とを有し、前記SiOxの粒子表面が前記樹脂熱分解物によって覆われてなり、前記Snの粒子が前記SiOxの粒子内に存在してなり、前記酸化物が前記樹脂熱分解物と前記SiOx(x≦1.2)との間に存在してなり、Liを実質的に有していない。
【発明の効果】
【0035】
本発明の複合材を用いて構成された負極を具備したリチウムイオン電池は優れていた。
放電容量が大きかった。初回の放電容量が、例えば1500mAh/g以上であった。
サイクル特性が高かった。500サイクル後の容量維持率が、例えば80%以上であった。
初回充・放電効率が高かった。例えば、75%以上であった。
空気中や水中でも安定していた。取り扱いが容易であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の複合材の模式図
図2】本発明の複合材の模式図
図3】本発明の複合材の模式図
図4】本発明の複合材の模式図
図5】実施例6の複合材のSTEM画像(環状暗視野像(ADF-STEM、10万倍)
図6】実施例6の複合材のSTEM画像(環状暗視野像(ADF-STEM、80万倍)
図7】実施例6の複合材のSTEM画像(環状暗視野像(SE-STEM)
図8】実施例6の複合材のEDXマッピング画像(Sn)
図9】実施例6の複合材のEDXマッピング画像(Si)
図10】実施例6の複合材のEDXマッピング画像(O)
図11】実施例6の複合材のEDXマッピング画像(Al)
図12】実施例6の複合材のEDXマッピング画像(C)
図13】実施例6の複合材のXRD測定結果
【発明を実施するための形態】
【0037】
第1の発明は複合材である。前記複合材は樹脂の熱分解物を有する。前記複合材はSiOx(x≦1.2)を有する。前記xは、好ましくは、1.1以下であった。前記xは、好ましくは、0.8以上であった。前記xは、好ましくは、0.9以上であった。前記SiOxは、好ましくは、SiOであった。前記SiOxは、基本的には、一酸化ケイ素の範疇に属するものであれば良い。前記SiOxはSiOではない。前記SiOxの粒子表面が、前記樹脂熱分解物によって、覆われている。前記「覆われている」は「全面的に覆われている」に限られない。一部分が覆われていなくても良い。前記複合材はSnを有する。前記Snの粒子が、前記SiOxの粒子内に、存在している。前記Snの粒子が、前記SiOxの粒子内に、分散している。前記Sn粒子は金属粒子である。前記Sn粒子は酸化物粒子ではない。前記Sn粒子(金属粒子)を前記SiOx粒子内に分散させていると、容量やサイクル特性が向上する理由は明確ではない。しかし、前記特性向上効果は、Snが、Liと反応する事、導電性を有する事、Sn粒子が前記SiOx粒子内に分散しているからであろうと発明者は考えた。前記Snの純度には格別な制約はない。但し、純度が99%以上のものが好ましかった。更に好ましくは99.5%以上であった。前記複合材はLiを実質的に有していない。前記「実質的に有していない」は「本発明の特長を損なわない程度」を意味する。
【0038】
前記複合材の模式図が図1又は図2に示される。図1,2中、1は樹脂熱分解物である。樹脂熱分解物1の主成分はCである。95%以上がCである。2はSiOx粒子である。3はSn粒子(金属粒子)である。図1の複合材は、前記Sn粒子3がSiOx粒子2内に均一に分散している複合材である。図2の複合材は、前記Sn粒子3がSiOx粒子2内の表面層に偏って分散している複合材である。図2タイプ(Sn粒子が表面層に偏って分散)の複合材の方が図1タイプの複合材より優れていた。その理由は次の通りであると発明者は考えている。図2タイプの複合材は、Sn粒子が表面層に偏在しているから、Liと反応し易い。
【0039】
前記SiOx粒子2内に分散している前記Sn粒子3の存在はX線回折(XRD)によって確認できる。走査透過電子顕微鏡(STEM)とエネルギー分散型X線分析(EDX)とを組み合わせた観察によっても確認できる。この観察方法によれば、Sn粒子の存在に限られず、粒径や粒子の存在位置をも確認できる。XRDは原子レベルの大きさのSn粒子を検出できない。
【0040】
前記複合材は、好ましくは、酸化物(アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物)を有する。前記酸化物は如何なる構造のものでも良い。例えば、Al,MgO,AlMgO等が挙げられる。前記酸化物は、前記樹脂熱分解物と前記SiOxとの間に、存在している。前記酸化物の層が有る複合材の模式図が図3に示される。図3中、1は樹脂熱分解物である。2はSiOx粒子である。3はSn粒子である。4は酸化物(アルミニウム酸化物およびマグネシウム酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の酸化物)層である。前記酸化物層4は、樹脂熱分解物1層の内側で、SiOx粒子2の外側に在る。
【0041】
前記酸化物層が詳しく説明される。前記酸化物(例えば、Al,MgO,AlMgO等)層4の内部にSiOy(0≦y<1,y<x)6が存在していた(図4参照)。図4中、1は樹脂熱分解物である。2はSiOx粒子である。4は前記酸化物層である。5は前記酸化物領域(相)である。前記前記酸化物領域(相)5は前記酸化物が繋がっている(連続している)。6は、前記酸化物連続領域(相)5によって囲まれて存在しているSiOyの領域(相)である。前記酸化物層4は、恰も、海の中に多くの島が存在している如きの構造であると例えられる。前記酸化物連続領域(相)5が海であり、SiOy6が島である。又は、酸化物(例えば、Al,MgO,AlMgO等)層4の中にSiOy6粒子が分散している構造であるとも例えられる。或いは、前記酸化物層4はハニカム構造であるとも例えられる。ハニカム構造の空隙部分がSiOy6である。前記6(SiOy)は、恰も、前記酸化物(例えば、Al,MgO,AlMgO等)連続領域5によって囲まれている構造であるとも例えられる。前記酸化物層4は、前記酸化物連続領域(相)5とSiOy領域(相)6との2相構造であるとも言える。前記6(SiOy:孤立領域)は、謂わば、独立相である。前記SiOyは、SiOに比べて、相対的に、Si量が多い(O量が少ない)。前記SiOxではなく前記SiOyであるのは、Al,Mgが酸化物になるに際して、前記SiOxからOを奪うからである。前記SiOxがAl,Mgで還元されるからである。前記SiOyである為、容量が高く、初回効率も高くなる。前記SiOyは、水と反応し易い。充放電に伴う体積変化が大きい。この為、前記SiOyの相が露出して存在していると、電極製造に際しての取り扱いが難しかった。サイクル特性が低下した。そこで、前記SiOyの領域(相)が酸化物(アルミニウム酸化物またはマグネシウム酸化物)で包まれる構造とした。前記酸化物は、水およびLiと反応しない。従って、取り扱いが容易である。初期効率の低下が起き難かった。SiOyの充放電による体積変化が緩和された。サイクル特性が向上した。前記樹脂熱分解物に接する面は前記酸化物の連続相である事が好ましかった。前記SiOyを内包する前記酸化物の層が前記SiOx粒子の全表面を覆っている事が好ましい。しかし、前記SiOx粒子の一部が前記酸化物の層で覆われてなくても良い。
【0042】
前記酸化物の領域の構造は走査透過電子顕微鏡(STEM)とエネルギー分散型X線分析(EDX)を組み合わせた観察によって確認できる。前記SiOyの構造をSi,OのEDXマッピング画像から判断できる。前記SiOyの領域におけるSi,OとSiO領域におけるSi,Oとの濃度が等しければ、前記SiOyはSiOである。前記SiOyの領域におけるSi濃度がSiO領域におけるSi濃度よりも高ければ、前記SiOyはSiOy(0≦y<1,y<x)と判断できる。
【0043】
前記樹脂は、好ましくは、極性基を有する樹脂であった。前記樹脂は、更に好ましくは、熱可塑性樹脂であった。前記樹脂は、特に好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)であった。その理由は次の通りであると発明者は考えた。PVAの熱分解物は導電性である。PVAの熱分解物は、黒鉛等に比べて、極性が高い。この為、電極を作製する際、水などの溶媒に分散し易かった。リチウムイオン電池作製時に、電解液の浸透が速かった。
【0044】
前記PVAは、好ましくは、4%水溶液の20℃における粘度が1~300mPa・sのものであった。更に好ましくは2~10mPa・sのものであった。鹸化度が75~90mol%のPVAが好ましかった。更に好ましくは80mol%以上のものであった。鹸化度はJIS K 6726に準じて求められた。例えば、推定鹸化度に応じて、1~3部の試料、水100部、フェノールフタレイン液3滴が加えられた。完全に溶解した。0.5mol/LのNaOH水溶液25mlmLが加えられ、撹拌後、2時間放置された。0.5mol/LのHCl水溶液25mlmLが加えられた。0.5mol/LのNaOH水溶液にて滴定が行われた。鹸化度(H)は、次の式(1)~(3)より、求められた。
式(1):X1={(a-b)×f×D×0.06005}/{S×(P/100)}×100
式(2):X2=(44.05×X1)/(60.05-0.42×X1)
式(3):H=100-X2
X1:残存酢酸基に相当する酢酸量(%)
X2:残存酢酸基(モル%)
H:鹸化度(モル%)
a:0.5mol/lNaOH溶液の使用量(mlmL)
b:空試験での0.5mol/lNaOH溶液の使用量(mlmL)
f:0.5mol/lNaOH溶液のファクター
D:規定液の濃度(0.1mol/l又は0.5mol/l)
S:試料採取量(g)
P:試料の純分(%)
【0045】
前記Sn粒子のサイズは、好ましくは、前記SiOx粒子のサイズよりも小さい。前記SiOxの粒子は、好ましくは、平均直径が1μm以上であった。更に好ましくは3μm以上であった。もっと好ましくは4μm以上であった。好ましくは20μm以下であった。更に好ましくは10μm以下であった。もっと好ましくは8μm以下であった。前記Snの粒子は、好ましくは、平均直径が1nm以上であった。更に好ましくは2nm以上であった。もっと好ましくは3nm以上であった。好ましくは50nm以下であった。更に好ましくは30nm以下であった。もっと好ましくは20nm以下であった。Sn粒子の粒径が小さ過ぎた場合は、容量向上やサイクル特性向上の効果が小さかった。混合に際しての取り扱いが大変であった。粒径が大き過ぎた場合は、サイクル特性が低下した。混合が大変であった。Sn粒子の粒径はバラツキが有っても良い。図1はSn粒子の粒径が均一な場合である。図2はSn粒子の粒径にバラツキが有る場合である。前記範囲外の粒径の粒子が存在していても、前記範囲内の粒径の粒子が多く存在しておれば良い。
【0046】
前記樹脂熱分解物は、前記SiOx100質量部に対して、好ましくは、5質量部以上であった。更に好ましくは7質量部以上であった。もっと好ましくは9質量部以上であった。好ましくは20質量部以下であった。更に好ましくは18質量部以下であった。もっと好ましくは15質量部以下であった。前記Snの粒子は、前記SiOx100質量部に対して、好ましくは、1質量部以上であった。更に好ましくは2質量部以上であった。もっと好ましくは3質量部以上であった。好ましくは10質量部以下であった。更に好ましくは7質量部以下であった。もっと好ましくは5質量部以下であった。
【0047】
前記酸化物は、前記SiOx100質量部に対して、対応するAl,Mgに換算した値で、好ましくは、2質量部以上であった。更に好ましくは3質量部以上であった。もっと好ましくは5質量部以上であった。更にもっと好ましくは10質量部以上であった。好ましくは20質量部以下であった。更に好ましくは18質量部以下であった。もっと好ましくは15質量部以下であった。前記酸化物は酸化物である。従って、酸化物の量で規定するのが本来である。しかし、ここでは、酸化物では無く、「対応するAl,Mgに換算した値」とした。酸化物がAlの場合は、前記値はAlに換算した値である。酸化物がMgOの場合は、前記値はMgに換算した値である。酸化物がAlMgOの場合は、AlMgに換算した値である。
【0048】
前記SiOx量が少なくなり過ぎると、容量が下がる傾向が有った。前記SiOx量が多くなり過ぎると、相対的に、樹脂熱分解物およびSnの量が少なくなり、導電性が下がる傾向が有った。サイクル特性が下がる傾向が有った。前記Sn粒子の量が少なくなり過ぎると、本発明の特長が奏されなかった。前記Sn粒子の量が多くなり過ぎると、容量が下がる傾向があった。前記酸化物の量が多くなり過ぎると、容量が下がる傾向があった。
【0049】
前記酸化物層4の厚さL1(樹脂の熱分解物層1とSiOx層2との間の厚さ)は、好ましくは、10nm以上であった。更に好ましくは20nm以上であった。もっと好ましくは30nm以上であった。好ましくは1000nm以下であった。更に好ましくは200nm以下であった。もっと好ましくは100nm以下であった。前記酸化物層の厚さが薄過ぎた場合には、前記構造が維持され難かったからである。前記酸化物層の厚さが厚過ぎた場合には、体積変化を抑制でき難かったからである。
【0050】
前記酸化物領域(相)5の厚さL2,L3(L2,L3<L1:図4から判る通り、前記酸化物領域(相)5の厚さL2の厚さ方向と前記厚さL1の厚さ方向とは同じ方向である。前記酸化物領域(相)5の厚さL3の厚さ方向と前記厚さL1の厚さ方向とは異なる方向である。前記酸化物領域(相)5の厚さの方向と前記酸化物層4の厚さの方向とが異なる場合、例えば厚さL3は前記酸化物領域(相)5の幅とも謂える。)は、好ましくは、5nm以上であった。更に好ましくは10nm以上であった。好ましくは、100nm以下であった。更に好ましくは50nm以下であった。前記酸化物領域(相)5の厚さが薄過ぎた場合には、体積変化を抑制することが難しかった。前記酸化物領域(相)5の厚さが厚過ぎた場合には、リチウムイオンの移動速度が低下した。
【0051】
第2の発明は複合材の製造方法である。前記方法はSiOx(x≦1.2)粒子の表面が樹脂で被覆される工程(第1工程)を具備する。前記方法は前記樹脂被覆SiOx(x≦1.2)粒子とSn粒子とが混合される工程(第2工程)を具備する。前記方法は前記混合物が加熱される工程(第3工程)を具備する。
【0052】
前記SiOx粒子の表面を樹脂で被覆する方法は如何なる方法であっても良い。例えば、樹脂溶液(例えば、水溶液)とSiOxとを混合し、スプレードライ法(或いは、静電噴霧法、又はゲル固化法など)で溶液を取り除く方法が挙げられる。量産性の観点からはスプレードライ法の採用が好ましい。
【0053】
前記方法は、好ましくは、前記混合に際して、Al粒子およびMg粒子(何れも金属粒子)の群の中から選ばれる一種または二種以上が、更に、混合される。Al-Mg合金の粒子はAl粒子かMg粒子と見做される。合金の場合は、Al/Mg=30/70~70/30(wt%)が好ましい。更に好ましくは、40/60~50/50(wt%)である。Al粒子とMg粒子との混合物もAl粒子かMg粒子と見做される。前記Al,Mgの純度に格別な制約はない。但し、純度が99%以上のものが好ましかった。更に好ましくは99.5%以上のものであった。前記Al,Mg粒子の大きさに格別な制約はなかった。但し、小さ過ぎた場合や大き過ぎた場合は、混合が大変であった。前記Al,Mg粒子は、好ましくは、1μm以上であった。更に好ましくは10μm以上であった。好ましくは200μm以下であった。更に好ましくは50μm以下であった。前記混合は、全ての物質が同時に添加されて混合されても良く、時間差を持って添加されて混合されても良い。例えば、Sn粒子が添加された後でAl(又はMg)粒子が添加されても良い。逆であっても良い。前記混合方法は公知の方法が採用される。勿論、新しい方法が採用されても良い。湿式法や乾式法が挙げられる。量産性の観点からは乾式法の採用が好ましかった。乾式法としては、メディア法とメディアレス法とが挙げられる。Snは機械的圧力で変形し易い。従って、メディアレス法が好ましい。具体的には、容器回転型や撹拌型が挙げられる。機械強度の低い容器回転型が好ましい。具体的には、V型混合器、W型混合器、ドラム型混合器が挙げられる。
【0054】
前記方法は前記第2工程と第3工程を有する。これによって、SiOx(x≦1.2)粒子表面から内部にSn粒子が徐々に移行する。Sn粒子(金属粒子)が偏在する。このような形態の構造物は化学気相成長法(特許文献3参照)やメカノミリング法では得られ難かった。前記第2工程の前に前記第1工程が有るので、前記樹脂酸化物に接して前記酸化物層が存在し、前記酸化物層に接する側のSiOx粒子はSiOy(0≦y<1.2,y<x)となる。
【0055】
前記第3工程における加熱温度は、好ましくは、500℃以上であった。更に好ましくは800℃以上であった。好ましくは1200℃以下であった。更に好ましくは1100℃以下であった。温度が低過ぎた場合は、熱分解が進み難かった。温度が高過ぎた場合は、SiOの不均一化が進行した。サイクル特性が低下した。加熱方法に格別な制約は無い。ガス炉、電気炉、高周波誘導加熱炉など公知の方法を採用できる。温度制御の容易な電気炉は好ましかった。加熱時の雰囲気に格別な制約は無い。但し、不活性ガス雰囲気が好ましかった。不活性ガスとしてはN,Ar,He等が挙げられる。
【0056】
前記第3工程の後、必要に応じて、解砕工程、分級工程などが採用される。
【0057】
前記方法は、例えば前記複合材の製造方法である。従って、前記樹脂、前記SiOx、前記Sn、前記Al、前記Mgの配合量や大きさ等の特徴に関しては、前記複合材の個所での説明が援用される。但し、ここで非常に興味深い事は、添加するSnの大きさは前記SiOxの大きさより大きくても差し支え無かった事である。すなわち、前記SiOxよりも大きなSn粒子が用いられても、得られた複合材におけるSn粒子はSiOxよりも小さかったことである。本発明者は、前記Sn粒子が溶けてSiOx内に入り込み、SnがSiと結合しつつ内部拡散しているからではないかと想像している。
【0058】
此処で非常に興味深い事は次の事である。添加されたSn,Al,Mgは金属粒子である。上記製法で得られた複合材におけるSn粒子は金属粒子であった。前記Sn粒子はSiOx内部に存在していた。前記複合材におけるAl,Mgは酸化物になっていた。前記酸化物はSiOx表面に存在していた。
【0059】
第3の発明は負極である。前記負極は前記複合材が用いられて構成されてなる。
【0060】
第4の発明は二次電池である。前記二次電池は前記負極を具備する。
【0061】
前記複合材は、電気素子(電子素子も電気素子の中に含まれる)の部材に用いられる。例えば、リチウムイオン電池の負極の活物質に用いられる。リチウムイオンキャパシタの負極の活物質に用いられる。
本発明の複合材がリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタに利用される場合、例えば特許6142332号明細書、特許6229245号明細書、特許6283800号明細書、特許6283801号明細書に記載の技術思想が援用できる。本発明の複合材から電極が構成される詳細な説明は、前記特許明細書の説明が援用できるので、省略される。
【0062】
以下、具体的な実施例が挙げられる。但し、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例や応用例も本発明に含まれる。
【0063】
[実施例1]
(複合材の作製)
PVA(鹸化度88mol%)の20%水溶液(4%水溶液の粘度が3mPa・s(20℃))200gと、SiO粒子(平均直径5μm)60gとが混合された。この混合物がスプレードライヤーにて乾燥された。PVA被覆SiOが得られた。このPVA被覆SiO粒子とSn粒子(平均直径8μm、純度99.9%)1.8gとが混合された。この混合物が、1000℃で、3時間に亘って、焼成(不活性ガス雰囲気下)された。複合材が得られた。
(コインセルの作製)
前記複合材/アセチレンブラック/カルボキシメチルセルロース/スチレンブタジエンゴム/水=90/6/2/2/200(質量比)になるように混合された。混練が行われた。この混錬物が銅箔上に塗工(固形分の厚さが4mg/cm)された。100℃で5分間の乾燥が行われた。ロールプレス(圧は1.5MPa)が行われた。負極が得られた。
得られた負極と、リチウム箔と、電解液(LiPF6 in EC/DMC/DEC=1:1:1 (v/v/v) 1.0 M)と、セパレータとが用いられ、コインセルが作製された。
充放電装置が用いられた。上限電圧1500mV、下限電圧10mV、充電:CCCV0.1C、放電:CV0.1Cの条件で、上記コインセルの充放電が1回行われた。充電容量、放電容量が求められた。初回充・放電効率=放電容量/充電容量×100(%)とした。結果が表-1に示される。
(パウチセルの作製)
前記複合材/人造黒鉛/カルボキシメチルセルロース/スチレンブタジエンゴム/水=12/86/1/1/180(質量比)になるように混合された。混練が行われた。この混錬物が銅箔上に塗工(固形分の厚さが4mg/cm)された。100℃で5分間の乾燥が行われた。ロールプレス(圧は1.5MPa)が行われた。負極が得られた。
得られた負極と、Mn,Ni,CoのLi混合金属酸化物からなる正極と、電解液(LiPF6 in EC/DMC/DEC=1:1:1 (v/v/v) 1.0 M)と、セパレータとが用いられ、パウチセルが作製された。
充放電装置が用いられた。上限電圧4200mV、下限電圧3000mV、充電:CCCV0.1C、放電:CV0.1Cの条件で、上記パウチセルの充放電が500回行われた。放電容量が測定された。容量維持率=500回目の放電容量/1回目の放電容量×100(%)とした。結果が表-1に示される。
(炭素含有量の測定)
高周波誘導加熱炉方式の炭素・硫黄分析装置が用いられた。前記複合材の炭素含有量が測定された。その他の成分が配合比で案分されて組成比とされた。結果が表-1に示される。
(スズ粒子、酸化物層の構造の確認)
前記複合材の薄膜切片が作製された。STEM(加速電圧200kV)で観察が行われた。EDX装置にて各元素のマッピングが行われた。
Snのマッピングにて、Sn粒子(金属粒子:直径1~50nm)が確認できた場合は「Sn粒子有」で表-1に示される。それ以外の場合は「Sn粒子無」で表-1に示される。
STEM画像とSi,Al,Mgのマッピングにて、PVA熱分解物とSiO粒子との間に、酸化物層(厚さ10nm~1000nm。Al(又は、MgO)の中にSiOy(0≦y<1)が存在しいている構造(図4参照))が確認できた場合は「2相構造有」、それ以外の場合は「2相構造無」と記される。結果が表-1に示される。
本実施例1の複合材の組成は次の通りであった。SiO=84wt%,C=13wt%,Sn=3wt%
【0064】
[実施例2]
実施例1の(複合材の作製)で用いられたSn粒子の量が1.8gから0.6gに変更された以外は、実施例1に準じて行われた。
本実施例2の複合材の組成は次の通りであった。SiO=85wt%,C=14wt%,Sn=1wt%
【0065】
[実施例3]
実施例1の(複合材の作製)で用いられたSn粒子の量が1.8gから3gに変更された以外は、実施例1に準じて行われた。
本実施例3の複合材の組成は次の通りであった。SiO=83wt%,C=13wt%,Sn=4wt%
【0066】
[実施例4]
実施例1の(複合材の作製)で用いられたSn粒子の量が1.8gから6gに変更された以外は、実施例1に準じて行われた。
本実施例4の複合材の組成は次の通りであった。SiO=80wt%,C=12wt%,Sn=8wt%
【0067】
[実施例5]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子1.8gの他にも、Al粒子(平均直径40μm、純度99.9%)1.8gが混合され、実施例1に準じて行われた。
本実施例5の複合材の組成は次の通りであった。SiO=84wt%,C=12wt%,Sn=2wt%,Al=2wt%
本実施例の複合材における組成分はSiO1-x,C,Sn,AlOxである。AlOxのOはSiOのO由来である。O全体としては増減がない。従って、本実施例の複合材におけるOは、便宜上、SiOに含まれているとした。つまり、本来ならば、AlOxの割合が記載されるべきであろうが、使用されたAl粒子の量から、Al=2wt%と計算された。実施例6~10にあっても同様である。
【0068】
[実施例6]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子1.8gの他にも、Al粒子(平均直径40μm、純度99.9%)9gが混合され、実施例1に準じて行われた。
STEM画像(環状暗視野像(ADF-STEM、10万倍(図5)、80万倍(図6))、二次電子像(SE-STEM)(図7))、Sn(図8)、Si(図9)、O(図10)、Al(図11)、C(図12)のマッピング画像が示される。
ADF-STEM(10万倍)とSnのマッピング画像から、本実施例の複合材にはSn粒子(金属粒子)が存在し、ADF-STEM(80万倍)の画像から、Sn粒子の直径は直径1~50nmであることが確認された。直径10μm以上の粒子が2個観察される領域において、直径10μm未満の粒子が2個以上観察された。Sn粒子はSiO粒子の表面部分に偏在していることが確認された。
前記複合材は10~1000nm厚のAl(AlOx)層を有する事、かつ、前記Al(AlOx)が図4タイプの構造である事が、SE-STEMの画像より、確認された。
Si,O,Al,Cのマッピング画像から、前記Al(AlOx)層はPVA熱分解物層とSiO粒子との間に存在することが確認された。前記アルミナ層に内在するSiOyのyは1未満の値である事が確認された。前記SiOyの厚みは7~15nmであった。
本実施例で得られた複合材がXRDによって測定された。この結果が図13に示される。この結果と非特許文献1記載のXRDの結果(Figure2)とを比較すると、本実施例の複合材には金属状態のSn(金属Sn粒子)が存在し、非特許文献1の複合材には金属状態のSnが存在しないことが確認された。
本実施例6の複合材の組成は次の通りであった。SiO=77wt%,C=10wt%,Sn=2wt%,Al=11wt%
【0069】
[実施例7]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子1.8gの他にも、Al粒子(平均直径40μm、純度99.9%)12gが混合され、実施例1に準じて行われた。
本実施例7の複合材の組成は次の通りであった。SiO=74wt%,C=9wt%,Sn=2wt%,Al=15wt%
【0070】
[実施例8]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子1.8gの他にも、Mg粒子(平均直径100μm、純度99.7%)1.8gが混合され、実施例1に準じて行われた。
本実施例8の複合材の組成は次の通りであった。SiO=83wt%,C=11wt%,Sn=3wt%,Mg=3wt%
【0071】
[実施例9]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子1.8gの他にも、Mg粒子(平均直径100μm、純度99.7%)6gが混合され、実施例1に準じて行われた。
本実施例9の複合材の組成は次の通りであった。SiO=79wt%,C=11wt%,Sn=2wt%,Mg=8wt%
【0072】
[実施例10]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子1.8gの他にも、Mg粒子(平均直径100μm、純度99.7%)12gが混合され、実施例1に準じて行われた。
本実施例10の複合材の組成は次の通りであった。SiO=74wt%,C=9wt%,Sn=2wt%,Mg=15wt%
【0073】
[参考例1]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子が用いられなかった以外は、実施例1に準じて行われた。
本参考例1の複合材の組成は次の通りであった。SiO=91wt%,C=9wt%,Sn=0wt%
【0074】
[参考例2]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子の代わりに、Ti粒子(平均直径20μm、純度99.9%)1.8gが用いられた以外は、実施例1に準じて行われた。
本参考例2の複合材の組成は次の通りであった。SiO=84wt%,C=13wt%,Sn=0wt%,Ti=3wt%
【0075】
[参考例3]
実施例1の(複合材の作製)に際して、Sn粒子の代わりに、Zn粒子(平均直径8μm、純度99.5%)1.8gが用いられた以外は、実施例1に準じて行われた。
本参考例3の複合材の組成は次の通りであった。SiO=86wt%,C=13wt%,Sn=0wt%,Zn=1wt%
【0076】
[参考例4]
SiO粒子(平均直径5μm)60gとSn粒子(平均直径8μm、純度99.9%)1.8gとが混合された。この混合物が、1000℃で、3時間に亘って、焼成(不活性ガス雰囲気下)された。複合材が得られた。
本参考例4の複合材の組成は次の通りであった。SiO=97wt%,C=0wt%,Sn=3wt%
この複合材が用いられ、実施例1に準じて行われた。
[参考例5]
実施例6の(複合材の作製)に際して、Sn粒子が用いられなかった以外は、実施例6に準じて行われた。
本参考例5の複合材の組成は次の通りであった。SiO=78wt%,C=10wt%,Sn=0wt%,Al=12wt%
【0077】
表-1
初回容量 初回効率 容量維持率 Sn粒子 2相構造
実施例1 1610 72 86 有 無
実施例2 1580 72 87 有 無
実施例3 1630 73 85 有 無
実施例4 1750 73 83 有 無
実施例5 1650 75 88 有 有
実施例6 1680 80 86 有 有
実施例7 1580 83 84 有 有
実施例8 1660 76 90 有 有
実施例9 1710 81 88 有 有
実施例10 1650 85 83 有 有
参考例1 1540 70 71 無 無
参考例2 1320 51 55 無 無
参考例3 1430 65 60 無 無
参考例4 1100 63 32 有 無
参考例5 1520 79 46 無 無
*初回容量:mAh/g
*初回効率:%
*容量維持率:%
*参考例5の「2相構造無」は「明確な2相構造が認められなかった」である。
【0078】
表-1より次の事が判る。本発明の複合材は参考例の複合材に比べて、容量、サイクル特性共に向上している。すなわち、Sn粒子の有無によって、容量、サイクル特性が大きく異なっている。Sn粒子の代わりにTi粒子やZn粒子が用いられても効果は無かった。又、Sn粒子が用いられていても、表面に樹脂熱分解層が無かった場合(参考例4)には、やはり、本発明の特長が奏されていない。すなわち、前記複合材は樹脂の熱分解物とSiOx(x≦1.2)とSnとを有し、前記SiOxの粒子表面が前記樹脂熱分解物によって覆われてなり、前記Snの粒子が前記SiOxの粒子内に存在している要件の全てが満たされている事が大事であった。
【0079】
酸化物(Al,MgO等)層が前記樹脂熱分解物と前記SiOxとの間に存在してなる実施例5~10の場合は、前記酸化物層が無い実施例1~4の場合に比べて、初回効率が高かった。尚、初回効率は1%向上するだけでも大きな向上である。
【符号の説明】
【0080】
1 樹脂熱分解物
2 SiOx粒子
3 Sn粒子
4 酸化物層
5 酸化物連続相
6 SiOy独立相

【要約】
取り扱いが容易で、放電容量が高く、サイクル特性が高く、初回効率が高い負極材に用いられる複合材を提供することである。複合材であって、前記複合材は樹脂の熱分解物とSiOx(x≦1.2)とSnとを有し、前記SiOxの粒子表面が前記樹脂熱分解物によって覆われてなり、前記Snの粒子が前記SiOxの粒子内に存在してなり、Liを実質的に有していない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13