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  • 特許-アボカドの収穫後の後処理方法 図1
  • 特許-アボカドの収穫後の後処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】アボカドの収穫後の後処理方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/16 20060101AFI20230206BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230206BHJP
【FI】
A23B7/16
A23L19/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018088549
(22)【出願日】2018-05-02
(65)【公開番号】P2019193596
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2019-12-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】500580253
【氏名又は名称】株式会社ヨークベニマル
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴 木 宏 和
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】植前 充司
【審判官】平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-514066(JP,A)
【文献】特表平6-506116(JP,A)
【文献】特開2010-268689(JP,A)
【文献】特開2006-26566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B7/16
A23L19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産地で所定の大きさに生育したアボカドを収穫、洗浄、撰果し、この撰果されたアボカドを前記産地から加工場まで輸送し、この輸送されたアボカドを加工場で追熟加工した後、消費者に提供されるアボカドの取引形態において、
前記産地での撰果直後に、へた部分が十分に被覆され且つアボカドの全表皮のうちの2~15%が覆われるように、へた部分を中心に直径2~3cmの円を描くように5%プルラン水溶液を刷毛で塗布し、自然乾燥する軸止め処理を行うことを特徴とするアボカドの収穫後の後処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アボカドを収穫、洗浄、撰果し、この撰果されたアボカドを産地から加工場まで輸送し、この輸送されたアボカドを加工場で追熟加工した後、消費者に提供されるアボカドの取引形態におけるアボカドの収穫後の後処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アボカドは、森のバターともいわれ、不飽和脂肪酸やビタミンA、B、D、E、カルシウム、リン酸などのミネラルを含み、栄養価に優れ健康と美容に好適な野菜として、国内市場で広く販売されている。
このようなアボカドは、中央アメリカ原産で主にメキシコで栽培されている熱帯果樹であり、成熟期に呼吸量とエチレン生成量の急速な増加を示す典型的なクライマクテリック型果実のため、通常、産地において未成熟状態で収穫し、消費地に輸送してから加温による追熟加工を行い、十分な熟成状態にしてから店頭に並べられる。
【0003】
このようなアボカドの追熟加工は、果皮色、果実の弾力性などを指標に条件を定めているが、追熟加工後に果肉内が褐色に変色した過熟品が生成してしまうことがあり、このような過熟品は商品とはならないため、追熟加工後の歩留まりが低下してしまうという問題を抱えていた。
過熟によりアボカド果肉が変色してしまうのは、アボカドに含まれるポリフェノール類とポリフェノールオキシダーゼが空気中の酸素と反応し、ポリフェノール類が急速に酸化されて起こる酵素的褐変現象であり、ポリフェノールオキシダーゼによってカテキン類が酸化されてメラニン色素を生成することに起因するものである。
【0004】
このような褐変現象を呈する果実の保存性の向上については、果実表面に半透過性の可食性組成物をコーティングして保存性を高める方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、アボカドのような追熟加工を要する果実において、追熟加工前に果実表面全体に半透過性の可食性組成物をコーティングする方法は、果皮のコーティングにより果実の呼吸が抑制されるため、追熟加工がスムーズに進行させられないことや、果肉内に熟成むらができる問題が発生するため、追熟加工における歩留まりの改善に用いることができなかった。
また、アボカドは、厚い果皮で覆われており外観からでは果肉内部の褐変状況がわからないため、追熟加工後の選別により過熟品をすべて除くということが難しく、販売後に購入者からクレームが来るといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2590396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、アボカドの追熟加工における歩留まりを向上させるアボカドの収穫後の後処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様によるアボカドの収穫後の後処理方法は、産地で所定の大きさに生育したアボカドを収穫、洗浄、撰果し、この撰果されたアボカドを前記産地から加工場まで輸送し、この輸送されたアボカドを加工場で追熟加工した後、消費者に提供されるアボカドの取引形態において、前記アボカドの追熟加工前に、アボカドのへた部分を増粘多糖類の塗布膜で覆う軸止め処理を行うことを特徴とする。
【0008】
前記アボカドのへた部分を覆う増粘多糖類の塗布膜の大きさは、アボカドの全表皮のうちの2~20%であることが好ましい。
前記アボカドの軸止め処理は、前記産地から加工場までの輸送前に行うことが好ましい。
また、前記アボカドの軸止め処理は、前記産地から加工場までの輸送後に行ってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアボカドの収穫後の後処理方法によれば、追熟加工前に、アボカドのへた部分を増粘多糖類の塗布膜で覆う軸止め処理を行うことにより、追熟加工時の過熟品の発生を抑止することができ、追熟加工における歩留まりを大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アボカドの収穫から出荷までの従来のフローを説明するための概略フロー図である。
図2】本発明の一実施形態によるアボカドの収穫後の後処理のフローを説明するための概略フロー図である。
図3】本発明の他の実施形態によるアボカドの収穫後の後処理のフローを説明するための概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のアボカドの収穫後の後処理を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明は、産地で所定の大きさに生育したアボカドを収穫、洗浄、撰果し、この撰果されたアボカドを前記産地から加工場まで輸送し、この輸送されたアボカドを加工場で追熟加工した後、消費者に提供されるアボカドの取引形態において、アボカドの追熟加工前に、アボカドのへた部分を増粘多糖類の塗布膜で覆う軸止め処理を行うことを特徴とするアボカドの収穫後の後処理方法に関するものである。
【0012】
本発明のアボカドの収穫後の後処理方法における軸止め処理とは、果実と果軸の接合部分であるへた(果梗)部分に薬剤を塗布して被膜を形成させる処理のことをいう。
追熟加工したアボカドの経日による過熟状況を観察すると、果肉内部の褐変は、へた部分から果肉内部の維管束に沿って発生し、熟成度が増すごとに維管束の周辺から褐変部分が拡大していることがわかる。これは、ヘタ部分に維管束の導管が繋がっており、導管から酸素が供給されることにより維管束及びその周辺が他の部分よりも成熟が早くなること、維管束及び維管束鞘にはポリフェノールオキシダーゼ酵素が多く含まれているため褐変速度が速くなることによるものと推測される。
本発明における軸止め処理は、果実内の維管束と外部を繋ぐへた部分を増粘多糖類の塗布膜で覆うことにより、維管束の導管からの酸素供給を抑制し、果実内の成熟の均一化を図ることを目的としている。
【0013】
図1は、アボカドの収穫から出荷までの従来のフローを説明するための概略フロー図である。以下にアボカドの収穫から出荷に至る取引形態について図1を参照して説明する。
アボカドは、主にメキシコで栽培されるが、収穫から出荷まで長時間を要するため、アボカドの収穫は通常やや未成熟の段階で行われる。収穫したアボカドは、集荷後果実表面を洗浄し、傷付いたものや基準外の形状、サイズのものを排除する撰果を行う。撰果後箱詰して消費地の加工場に輸送するが、輸送に際しては通常4.5℃~5.5℃に冷蔵して行う。
消費地の加工場に送られたアボカドは、加工場で冷蔵保管され、出荷前に追熟加工される。追熟加工の条件は、アボカドの熟度や出荷時期等により適宜定められるが、通常、18℃~20℃の温度で行われる。
収穫されたアボカドは、最適な熟度で販売するために輸送及び保管中に冷蔵して自然追熟を遅らせ、通常、店頭に並べてから2~3日で食べごろとなるように出荷前に追熟加工される。追熟加工されたアボカドは、色目、軟化度、頭抜け、外皮状況等の基準で選別され出荷される。
【0014】
アボカドの追熟加工は、通常、収穫時期や産地からの入荷時期をそろえて行うことにより、追熟加工後の選別における歩留まりを高めている。しかしながら、アボカド果肉内の局部的な褐変は、このような方法では防止することができない。
本願発明の追熟加工前のアボカドの軸止め処理は、果肉全体が出荷に最適な熟度になったときに、酸化が進みやすいへた部分の周囲及び維管束周辺が過熟状態となってしまうのを防止するものである。
【0015】
本願発明のアボカドの軸止め処理は、アボカドのへた部分を増粘多糖類の塗布膜で覆うものである。
増粘多糖類は、加工食品等に用いられる水に溶解すると粘性やゲル化状態を呈する水溶性高分子の総称であり、例えば、プルラン、アラビアガム、大豆多糖類、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、ペクチンなどが挙げられる。
増粘多糖類は、食品用途に用いられるものであるためアボカドのへた部分に塗布して果肉内部に浸透しても安全性に問題はなく、高粘性の水溶性高分子であるためへた部分に繋がる維管束の導管からの果肉内への浸透もほとんどない。
増粘多糖類の中では、粘性、被膜形成性の点からプルランが特に好ましい。
【0016】
増粘多糖類は、水に溶解してアボカドのへた部分に塗布する。増粘多糖類の水への溶解方法は、撹拌機付き溶解槽での溶解等公知の方法で行うことができ、溶解濃度、溶液粘度も、塗膜形成可能な濃度、粘度であれば、特に制限されるものではない。
増粘多糖類の塗布膜の形成方法は、特に制限されるものではなく、刷毛塗り法、ディップ法、スプレー法等で塗布し自然乾燥させる等の公知の方法で行うことができる。
【0017】
増粘多糖類の塗布膜の形成範囲は、アボカドのへた部分を完全に覆うように塗布することが好ましいため、へた部分よりやや広い範囲で塗布膜を形成させることが好ましく、アボカドの全表皮のうちの2~20%であることが好ましく、より好ましくは2~15%である。へた部分よりやや広い範囲で塗布膜を形成させることにより、維管束の導管部を確実に覆うことができる。
また、塗布膜の形成範囲が広すぎる場合には、アボカド果実表面の呼吸を阻害するため均一な熟成が行われないので好ましくない。
【0018】
本願発明の軸止め処理は、果肉全体が適度な熟度になったときに、酸化が進みやすいへた部分の周囲及び維管束周辺が過熟状態となってしまうのを防止するものである。
従って、アボカドの軸止め処理は、収穫後産地から加工場までの輸送前に行うことが望ましい。図2は、本発明の一実施形態によるアボカドの収穫後の後処理のフローを説明するための概略フロー図である。
図2に示すように、本実施形態の軸止め処理は、傷付いたものや基準外の形状、サイズのものを排除する撰果の後に行うことが好ましい。撰果後に軸止め処理を行うことにより、追熟加工時のみならず輸送及び保管中の自然追熟時にもへた部分の周囲及び維管束周辺の過熟を抑えることができる。
【0019】
また、産地における軸止め処理が困難であれば、加工場への輸送後に軸止め処理を行ってもよい。図3は、本発明の他の実施形態によるアボカドの収穫後の後処理のフローを説明するための概略フロー図である。
図3に示す実施形態の軸止め処理は、加工場での保管後、追熟加工前に行っている。追熟加工前に軸止め処理を行うことにより、追熟後の過熟品の発生を抑えることができ、追熟時の歩留まりを向上させることができる。
【実施例
【0020】
(軸止め処理)
メキシコで収穫されたアボカドについて、産地での撰果直後に軸止め処理を実施して軸止め処理品A(35玉×20ケース)を得た。軸止め処理は、へた部分が十分に被覆されるように、へた部分を中心に直径2~3cm程度の円を描くように5%プルラン水溶液を刷毛で塗布し、自然乾燥させることで行った。
また、前述のメキシコで収穫されたアボカドについて、日本の加工場において前述の軸止め処理品Aで行ったと同様の軸止め処理を追熟加工前に実施して軸止め処理品B(35玉×20ケース)を得た。
軸止め処理品A、Bについて、軸止め未処理品とともに収穫から約1ヶ月後に日本の加工場にて追熟加工を実施した。
【0021】
(内部褐変評価)
軸止め処理品A、B及び軸止め処理未実施品について、追熟加工後の経過日数2日、4日、6日、10日に各50個ずつ果実を切開して果実内部の褐変の様子を調べた。
【表1】
【0022】
軸止め処理品及び軸止め処理未実施品の追熟加工後の褐変評価の結果は、軸止め処理品が10日経過後においても内部褐変は微小であり、著しい効果を発揮することが分かった。
尚、追熟加工後6日経過及び10日経過のアボカド果肉の軟化は、商品としては使えないレベルにまで進んでいた。
図1
図2
図3