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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】焼結歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 15/14 20060101AFI20230206BHJP
   B22F 5/08 20060101ALI20230206BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20230206BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20230206BHJP
   B23F 19/10 20060101ALI20230206BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230206BHJP
【FI】
B23P15/14
B22F5/08
B22F3/24 E
F16H55/17 Z
B23F19/10
C22C38/00 304
C22C38/00 301Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018214494
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020082203
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】嶋内 一誠
(72)【発明者】
【氏名】上野 友之
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-159400(JP,A)
【文献】登録実用新案第3151149(JP,U)
【文献】特開2016-027643(JP,A)
【文献】特開昭61-261402(JP,A)
【文献】特開昭55-122804(JP,A)
【文献】実開昭51-163196(JP,U)
【文献】実開昭62-123820(JP,U)
【文献】特開2017-159401(JP,A)
【文献】特開2017-186625(JP,A)
【文献】特開2017-226043(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259360(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0236548(US,A1)
【文献】特開昭63-256237(JP,A)
【文献】登録実用新案第3155682(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
B23B 1/00-25/06
B23F 1/00-23/12
B23P 5/00-17/06
C22C 35/00-45/10
F16H 51/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯を備える歯車形状の圧粉成形体を用意する工程と、
前記各歯のエッジを面取りする工程と、
面取りされた前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記各歯のエッジの面取りは、
前記歯車の軸回りに回転する前記圧粉成形体に対して、前記各歯について、前記圧粉成形体の回転方向の前方に位置する歯底エッジ、歯面エッジ、歯先エッジを順に連続して切削工具で切削する処理を含み、
前記圧粉成形体を一方向に回転させて前記切削する処理を行った後、前記圧粉成形体を逆方向に回転させて前記切削する処理を行い、
前記切削工具は、切削時に回転不可に支持されると共に、弾性材によって前記エッジ側に付勢される、
焼結歯車の製造方法。
【請求項2】
前記圧粉成形体の平均相対密度が93%以上である請求項1に記載の焼結歯車の製造方法。
【請求項3】
前記圧粉成形体を構成する粉末は、鉄粉及び非鉄元素粉、鉄基合金粉及び非鉄元素粉、又は鉄基合金粉を含む請求項1又は請求項に記載の焼結歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の歯車として、焼結体からなるもの(例、特許文献1)や溶製材からなるもの(例、特許文献2~4)がある。特許文献1は、焼結体からなる歯車(以下、焼結歯車と呼ぶ)として、焼結前の圧粉成形体に切削加工を施して歯を形成した後に焼結することを開示する(明細書[0059],[0060])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-186625号公報
【文献】特開2017-159400号公報
【文献】特開2017-159401号公報
【文献】特開2017-226043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼結歯車に対して、生産性の更なる向上が望まれている。
焼結歯車は、丸棒等の溶製材を切り出して歯車を製造する方法(特許文献2~4)に比較して、量産性に優れる。更に、特許文献1に記載されるように焼結前の圧粉成形体に歯を形成すれば、焼結後の焼結材に歯を形成する場合に比較して、切削加工を行い易い。この点で、焼結歯車の生産性を向上できる。
【0005】
しかし、以下に説明するように、各歯のエッジが面取りされた焼結歯車を生産性よく製造することに関して、改善の余地がある。
【0006】
ここで、歯車の各歯のエッジが鋭利なままであると、例えば焼結後に浸炭処理を施した場合に局所的に過度な浸炭がなされたり、歯車の使用時にエッジが欠けたりする恐れがある。そのため、各歯のエッジを面取りすることが望まれる。しかし、例えば焼結工程と浸炭工程との間に面取り工程を含むと、熱処理炉や面取り装置といった製造装置に対して、素材の入替を繰り返すことになる。詳しくは、焼結後に熱処理炉から素材を取出し、取出した素材を面取り装置に順次配置して、面取りを行う。面取り後、面取り装置から熱処理炉に素材を再配置して浸炭処理を行う。このような素材の入替は、生産性の低下を招く一要因といえる。
【0007】
そこで、本開示は、生産性に優れる焼結歯車の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の焼結歯車の製造方法は、
複数の歯を備える歯車形状の圧粉成形体を用意する工程と、
前記各歯のエッジを面取りする工程と、
面取りされた前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記各歯のエッジの面取りは、
前記歯車の軸回りに回転する前記圧粉成形体に対して、前記エッジを切削工具で切削することで行い、
前記切削工具は、切削時に回転不可に支持されると共に、弾性材によって前記エッジ側に付勢される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の焼結歯車の製造方法は、焼結歯車の生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、焼結歯車の一例を示す概略斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aに示す焼結歯車において、破線で囲まれる部分Bを拡大して示す部分斜視図である。
図2A図2Aは、複数の歯を備える歯車形状の圧粉成形体において、歯先近くを拡大して示す部分斜視図である。
図2B図2Bは、歯車形状の圧粉成形体であって、各歯のエッジに面取り加工が施されたものにおいて、歯先近くを拡大して示す部分斜視図である。
図3図3は、面取り量の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、焼結歯車の生産性を向上するために、焼結前の圧粉成形体に対して、各歯のエッジを面取りすることを検討した。
【0012】
従来、溶製材で製造された歯車に対して、各歯のエッジの面取りには、フレージング加工、各歯に対してバイトを高速で進退させる切削加工、エンドミル等の回転工具を用いた倣い加工が利用されている。フレージング加工では、エッジを押し潰すという塑性変形によって上記歯のエッジを無くす。バイトを高速で進退させる切削加工では、バイトを、バイトのシャンク部の軸方向に沿って進退させる駆動機構によって支持する。そして、歯車の軸回りに歯車を回転させつつ、バイトを各歯に向かって高速で進出させることで切刃を上記歯のエッジに接触させ、面取りする。バイトが退く間に歯車を回転させて、次の歯のエッジを面取り可能にする。倣い加工では、上記歯のエッジに沿って上記回転工具が追従するように上記回転工具を動かすことで上記歯のエッジを面取りする。
【0013】
上述の倣い加工では、加工時間が長くなり易い。上記回転工具を歯車形状に追従させるためには、送り速度を速くできないからである。また、焼結前の圧粉成形体に上記倣い加工を適用する際には、加工速度を溶製材の場合よりも遅くする必要がある。焼結前の圧粉成形体は、溶製材に比較して機械的強度に劣る。そのため、上記回転工具が圧粉成形体に衝突することで、圧粉成形体に欠けが生じるからである。更に、上述の回転工具を追従させるための数値制御の設定時間も長くなり易い。歯車の設定形状が同じであっても、公差の範囲で形状誤差が生じる。従って、歯車ごとに追従条件を設定する必要があるからである。これらのことから、圧粉成形体に上記倣い加工を適用することは、設定時間を含めた加工サイクル時間が比較的長く(例、3分以上)、量産に不向きである。なお、加工サイクル時間は、一つの歯車について、歯のエッジの面取りが完了する時間である。
【0014】
一方、上述のフレージング加工や上述のバイトによる切削加工は、通常、加工サイクル時間が比較的短く(例、30秒以下)、量産に適する。しかし、上述のフレージング加工や上述のバイトを高速で進退させる切削加工を焼結前の圧粉成形体に施せば、圧粉成形体に欠けが生じる。上述のように圧粉成形体は、溶製材に比較して機械的強度に劣る。そのため、フレージング加工の加工工具による押圧や高速で進出するバイトとの衝突によって、圧粉成形体に欠けが生じる。その結果、適切に面取りを行うことが難しい。
【0015】
以上を踏まえて、焼結前の圧粉成形体に対して、各歯のエッジの面取りを適切に行える切削条件を見出し、本開示の焼結歯車の製造方法を完成するに至った。
以下、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本開示の実施形態に係る焼結歯車の製造方法は、
複数の歯を備える歯車形状の圧粉成形体を用意する工程と、
前記各歯のエッジを面取りする工程と、
面取りされた前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記各歯のエッジの面取りは、
前記歯車の軸回りに回転する前記圧粉成形体に対して、前記エッジを切削工具で切削することで行い、
前記切削工具は、切削時に回転不可に支持されると共に、弾性材によって前記エッジ側に付勢される。
【0017】
ここでの各歯のエッジとは、歯車の端面(側面)と歯底面とがつくる稜線、歯車の端面と歯面とがつくる稜線、歯車の端面と歯先面とがつくる稜線が挙げられる。
【0018】
本開示の焼結歯車の製造方法は、以下の理由により、焼結歯車の生産性に優れる。
(a)面取りに用いる切削工具を、切削時に回転させず、弾性材によって歯のエッジ側に付勢した状態で支持する。そのため、切削工具の切刃は、弾性材の弾性変形の範囲で歯のエッジに対して進退できる。このように支持した切削工具を回転する圧粉成形体に対して接触させることで、切削工具の切刃は各歯のエッジに自動的に追従する。圧粉成形体の回転速度をある程度速めても、圧粉成形体に欠け等が生じたり、局所的に削り過ぎたりすることを防止し易い。そのため、上記回転速度を速めても、各歯のエッジを適切に面取りできる。加工速度を速められることで、加工サイクル時間を短縮できる(後述の試験例参照)。加工サイクル時間の短縮によって、焼結歯車の生産性を向上できる。
(b)焼結後に浸炭処理を行う場合に、代表的には焼結工程と浸炭工程とを連続して行える。そのため、熱処理炉への素材の入替を不要にできる。入替時間の省略によって、製造時間を短縮できる。
【0019】
(c)焼結前の圧粉成形体に施される切削加工は、圧粉成形体を構成する粉末粒子を分離して削り落とすような加工といえる。そのため、切削時に素材の塑性変形に起因するバリが実質的に生じない。従って、バリの除去作業も不要である。バリの除去時間の省略によって、製造時間を短縮できる。なお、溶製材や焼結材に切削加工を施すと、切削時に素材の塑性変形に起因するバリが生じる。バリが生じた場合、除去作業が必要である。
(d)面取りに伴う加工屑は、代表的には粉末状である。そのため、エアブロー等を用いて加工屑の除去を容易に、かつ短時間で行える。また、エアブローであれば、加工屑の除去時に圧粉成形体を損傷し難い。損傷による不良品の発生を低減できる点で、焼結歯車の生産性を向上できる。
(e)焼結前の圧粉成形体の切削抵抗が溶製材や焼結材に比較して低いことで、切削工具の寿命を長くできる。そのため、切削工具の交換頻度を低くできる。焼結歯車を量産する場合、切削工具の交換時間を短縮できる点で、製造時間を短縮できる。
【0020】
(2)本開示の焼結歯車の製造方法の一例として、
前記エッジの面取りは、
前記各歯について、前記圧粉成形体の回転方向の前方に位置する歯底エッジ、歯面エッジ、歯先エッジを順に連続して切削する処理を含む形態が挙げられる。
【0021】
上記形態は、各歯の歯底エッジ、歯面エッジ、歯先エッジの面取りを連続して行わず、それぞれ分けて行う場合に比較して、面取り時間を短縮できる。この点で、上記形態は、焼結歯車の生産性により優れる。
【0022】
(3)本開示の焼結歯車の製造方法の一例として、
前記エッジの面取りは、
前記圧粉成形体を一方向に回転させて前記切削する処理を行った後、前記圧粉成形体を逆方向に回転させて前記切削する処理を行う形態が挙げられる。
【0023】
圧粉成形体が一方向に回転した際、各歯のエッジにおける回転方向の前方に位置する領域を第一の領域とし、後方に位置する領域を第二の領域とする。上記形態は、各歯のエッジにおける第一の領域を順に面取りした後に、圧粉成形体を逆回転させて第二の領域を順に面取りする。即ち、上記形態は、圧粉成形体の回転方向を正逆反転するという簡単な操作で、第一の領域の面取りと第二の領域の面取りとを連続して行う。第一の領域の面取りと第二の領域の面取りとの間で、圧粉成形体の配置を変更しなくてよい。この点で上記形態は、面取り加工時の作業性に優れて、焼結歯車の生産性をより高め易い。また、第一の領域の面取りと第二の領域の面取りとで歯先エッジや歯底エッジが重複して切削されても、歯先エッジ及びその近傍や歯底エッジ及びその近傍にバリが実質的に生じない。被削材が焼結前の圧粉成形体であるからである。バリの除去工程が不要であることからも、上記形態は、焼結歯車の生産性をより高め易い。なお、歯先エッジや歯底エッジに生じた加工屑は、上述のようにエアブロー等で容易に除去できる。
【0024】
(4)本開示の焼結歯車の製造方法の一例として、
前記圧粉成形体の平均相対密度が93%以上である形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、被削材である圧粉成形体の相対密度が93%以上と高い。このような緻密な圧粉成形体は、機械的強度に優れており、面取り加工時に欠けや亀裂等が生じ難い。即ち、面取り加工を良好に行えて、不良品の発生を低減できる。歩留りが高いことからも、上記形態は、焼結歯車の生産性をより高め易い。
【0026】
(5)本開示の焼結歯車の製造方法の一例として、
前記圧粉成形体を構成する粉末は、鉄粉及び非鉄元素粉、鉄基合金粉及び非鉄元素粉、又は鉄基合金粉を含む形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、鉄基合金からなる焼結歯車を製造できる。鉄基合金は、機械的強度、剛性、耐摩耗性に優れる。従って、上記形態は、機械的特性に優れる焼結歯車を製造できる。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0029】
[焼結歯車]
〈概要〉
主に図1を参照して、焼結歯車1を説明する。
図1Aに示す焼結歯車1は、はす歯外歯車である。焼結歯車1は、貫通孔2hを有する円筒状であり、外周面に複数の歯2を備える。焼結歯車1の軸方向(貫通孔2hの軸方向)の両側に位置する各端面(側面)2eは、平坦な平面である。貫通孔2hは、両端面2eの中央部を抜けるように設けられる。図1に示す歯車形状は例示であり、適宜変更できる。その他の形状として、平歯車、かさ歯車、ねじ歯車といった円筒状の歯車、ラックやヘリカルラックといった棒状歯車等が挙げられる。円筒状の歯車は、内歯車でもよい。
【0030】
図1Bに拡大して示すように、焼結歯車1に備えられる各歯2は、主として、歯底面20、歯面21、歯先面22によって構成される。歯底面20は、隣り合う歯2の間に設けられる空間(歯溝)の底を構成する面である。歯先面22は、先端側の領域を構成する面である。歯底面20及び歯先面22は、焼結歯車1の軸と同軸に回転する面である。歯面21は、歯底面20と歯先面22との間の面である。歯面21には、焼結歯車1に噛み合う別の歯車(図示せず)の歯面が接触する。図1A図1Bの歯面21は、平面を例示するが、インボリュート曲面でもよい。
【0031】
更に、焼結歯車1は、各歯2における端面2eとの境界近くに面取り箇所3を備える。面取り箇所3は、焼結歯車1の製造過程で、各歯2を構成する各面(歯底面20、歯面21、歯先面22)と端面2eとの稜線であるエッジ4(図2A)が面取りされることで形成される。なお、図1Aでは、面取り箇所3を省略する。
【0032】
〈組成〉
焼結歯車1の主たる構成材料は、金属である。上記金属は、鉄基合金が好ましい。ここでの鉄基合金とは、Fe(鉄)を80質量%以上、好ましくは90質量%以上含む合金とする。このような鉄基合金は、機械的強度、剛性、耐摩耗性等に優れる。そのため、上記鉄基合金からなる焼結歯車1は、機械的特性に優れる。
【0033】
鉄基合金の具体的な組成として、例えば、Cu(銅),Ni(ニッケル),Sn(錫),Cr(クロム),Mo(モリブデン),Mn(マンガン)及びC(カーボン)からなる群より選択される少なくとも1種の非鉄元素を含有し、残部がFe(鉄)及び不可避不純物からなるものが挙げられる。Cを含む鉄基合金の代表例として鋼(炭素鋼、合金鋼)が挙げられる。合金鋼、特にNi,Mo,Mnを含む合金鋼は機械的強度に優れて好ましい。
【0034】
Cu,Ni,Sn,Cr,Mo,Mn等の非鉄金属元素の含有量は、合計で0.5質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。更に、上記含有量は、合計で1.0質量%以上3.0質量%以下としてもよい。
【0035】
Cの含有量は、0.2質量%以上2.0質量%以下が挙げられる。更に、Cの含有量は0.4質量%以上1.0質量以下としてもよい。
【0036】
所望の組成の焼結歯車1となるように、原料粉末の組成を調整するとよい。
【0037】
〈相対密度〉
焼結歯車1は、その全体の平均相対密度が高く、緻密であることが好ましい。機械的強度や剛性、耐摩耗性に優れるからである。例えば、上記全体の平均相対密度は93%以上が挙げられる。上記全体の平均相対密度が93%以上であれば、気孔が非常に少なく緻密であり、機械的特性に優れる。上記全体の平均相対密度は、95%以上、更に96%以上、97%以上が好ましい。このような緻密な焼結歯車1は、例えば、製造過程で緻密な圧粉成形体を利用することで製造できる。
【0038】
焼結歯車1の全体の平均相対密度は、以下のように求める。
焼結歯車1の歯2及び歯2以外の領域について、以下の三つの位置で断面をとり、各断面を画像解析し、この処理像を用いる。上記三つの位置とは、焼結歯車1の軸方向の中央近傍、一方の端面2e近傍、及び他方の端面2e近傍である。端面2e近傍とは、例えば焼結歯車1の端面2eから3mm以内の位置が挙げられる。上記断面は、上記軸方向に交差する平面、代表的には直交する平面で切断して採取する。
【0039】
より具体的な手順は以下の通りである。
(1)各断面において複数の観察視野の画像を採取する。例えば、各断面において500μm×600μm=300000μmの面積を有する観察視野の画像を10個以上取得する。各観察視野の画像は、断面を例えば周方向や長手方向に均等に分割し、各分割領域から取得することが好ましい。
(2)取得した各観察視野の画像を二値化処理する。二値化処理像において、観察視野に占める金属粒子の面積割合を求める。この面積割合を観察視野の相対密度と見做す。
(3)各観察視野の相対密度を求めて平均する。この平均値を焼結歯車1の全体の平均相対密度とする。
【0040】
なお、焼結歯車1の製造過程において、圧粉成形体を成形するときの加圧方向は、代表的には貫通孔2hの軸方向に平行な方向が挙げられる。この場合、焼結歯車1の軸方向は、上述の加圧方向に実質的に等しい。
【0041】
焼結歯車1は、気孔の含有を許容する。しかし、上述のように気孔が少ないことが好ましい。上述の全体の平均相対密度が高いほど、気孔が少ないといえる。
【0042】
〈面取り形状〉
焼結歯車1の面取り箇所3は、歯底面取り部30と、歯面面取り部31と、歯先面取り部32とを備える。歯底面取り部30は、端面2eと歯底面20との境界近くに設けられる。歯面面取り部31は、端面2eと歯面21との境界近くに設けられる。歯先面取り部32は、端面2eと歯先面22との境界近くに設けられる。
【0043】
面取り箇所3の構成面の少なくとも一部は、平面を含むことが挙げられる。図1Bでは、面取り箇所3の構成面である歯底面取り部30、歯面面取り部31、及び歯先面取り部32がいずれも平面である場合を例示する。平面を含む面取り箇所3は、例えば製造過程で各歯2のエッジ4(図2A)を切削工具で切除することで形成できる。
【0044】
歯底面取り部30と歯面面取り部31との間の角部、歯面面取り部31と歯先面取り部32との間の角部は、曲面26(図1(B))を含むことが挙げられる。上記角部が曲面26を含む面取り箇所3は、例えば製造過程で歯底エッジ40から歯面エッジ41に連続的に切削したり、歯面エッジ41から歯先エッジ42に連続的に切削したりすることで形成できる(エッジ4については図2A参照)。
【0045】
なお、図1Bの実線は、上記角部が隣り合う面取り部を構成する平面(例、歯底面取り部30の構成面と歯面面取り部31の構成面と)を繋ぐ稜線25を含む場合を例示する。図1Bの二点鎖線(図1Bの紙面右側に位置する歯2参照)は、上記角部が曲面26を含む場合を仮想的に示す。
【0046】
〈面取り量〉
図3を参照して、面取り量L1~L3を説明する。
図3は、焼結歯車1に備えられる歯2において、歯先面取り部32の近傍を焼結歯車1の軸方向に平行な平面で切断した状態を模式的に示す部分断面図である。以下の説明は、歯先面取り部32を例に挙げて行う。なお、歯先面取り部32の面取り量L1~L3に関する事項は、歯底面取り部30、歯面面取り部31についても同様に適用できる。
【0047】
面取り箇所3における面取り量L1とは、面取り箇所3の構成面(図3では歯先面取り部32の構成面)において、沿面方向に沿った長さである。面取り量L2とは、面取り箇所3において、歯2の構成面(図3では歯先面22)に沿った長さである。面取り量L3とは、面取り箇所3において、端面2eに沿った長さである。
【0048】
詳しくは、面取り量L1とは、以下の交点P1と交点P2との間の距離である。面取り量L2とは、以下の交点P1と交点P3との間の距離である。面取り量L3とは、以下の交点P2と交点P3との間の距離である。
交点P1は、歯2の構成面(歯先面22)を延長した仮想面(図3では仮想面220)と面取り箇所3の構成面を延長した仮想面(図3では仮想面320)との交点である。
交点P2は、端面2eを延長した仮想面20eと上述の面取り箇所3の仮想面320との交点である。
交点P3は、上述の仮想面220と仮想面20eとの交点である。
【0049】
面取り量L1~L3は、焼結歯車1の各歯2の大きさに応じて適宜選択できる。また、面取り量L2,L3のうち、小さい値を基準としたときの大きい値の比(以下、面取り比と呼ぶ)を1超としてもよい。図3では、面取り比は、面取り量L2に対する面取り量L3の比、即ちL3/L2である。更に上記面取り比を1.5以上、2以上、3以上としてもよい。基準値にもよるが、上記面取り比が大きいほど、面取り量L3が大きくなり易い。面取り量L3が大きいほど、端面2eと各歯2の構成面との境界近くの領域が欠け難い焼結歯車1にできる。製造過程で焼結前の圧粉成形体10を面取りして、面取り箇所3を形成する場合、面取り量L2,L3の比を1超にし易い。圧粉成形体10は、焼結後の焼結材に比較して切削抵抗が小さく、切削長さを長くし易いからである。面取り量L2,L3が実質的に等しくてもよい。即ち、上記面取り比を1としてもよい。
【0050】
〈表面性状〉
焼結歯車1は、製造過程で焼結前の圧粉成形体10を面取りして、面取り箇所3を形成する場合、面取り箇所3の表面は比較的荒れている。面取りによって、圧粉成形体10を構成する粉末粒子が削り落とされることで、面取り後の加工面は、上記粉末粒子の大きさに基づく凹凸が生じ易い。このような荒れた加工面を有する圧粉成形体10を焼結することで、上記凹凸に起因して焼結歯車1の面取り箇所3の表面も荒れ易い。
【0051】
[焼結歯車の製造方法]
〈概要〉
図2を適宜参照して、実施形態の焼結歯車の製造方法を説明する。
上述の焼結歯車1は、例えば、以下の実施形態の焼結歯車の製造方法によって製造することが挙げられる。実施形態の焼結体の製造方法は、下記の各工程を備える。
工程S1:複数の歯2を備える歯車形状の圧粉成形体10を用意する。
工程S2:各歯2のエッジ4を面取りする。
工程S3:面取りされた圧粉成形体10(以下、加工体11と呼ぶ)を焼結する。
各歯2のエッジ4の面取りは、歯車の軸回りに回転する圧粉成形体10に対して、エッジ4を切削工具(図示せず)で切削することで行う。切削工具は、切削時に回転不可に支持される。かつ、切削工具は、弾性材によって歯2のエッジ4側に付勢される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0052】
〈工程S1〉
この工程では、歯車形状の圧粉成形体10を用意する。歯車形状の圧粉成形体10は、例えば、所定の形状の圧粉成形体にホブ加工等の歯切り加工を施して製造することが挙げられる。この場合、歯切り加工前の圧粉成形体を円筒状等の単純な形状にできる。そのため、歯切り加工前の圧粉成形体を形状精度よく、かつ寸法精度よく成形し易い。圧粉成形体の製造性に優れる点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。又は、歯車形状の圧粉成形体10を金型によって成形してもよい。
【0053】
《圧粉成形体の作製》
圧粉成形体は、金属粉末を主体とする集合体である。詳しくは、圧粉成形体は、金属粉末の各粉末粒子が塑性変形することで互いに噛み合って一塊の状態を維持する。このような圧粉成形体は、金属粉末を主体とする原料粉末を所定の形状の金型に充填し、圧縮成形することで製造できる。圧粉成形体の製造には、一軸加圧のプレス装置といった公知のプレス装置を利用できる。上記プレス装置は、代表的には、貫通孔を有するダイと、貫通孔の上下の開口部に配置される上パンチ及び下パンチとを備える。筒状の圧粉成形体を製造する場合にはコアロッドを用いてもよい。
【0054】
≪原料粉末≫
原料粉末の主成分である金属粉末の含有量は、例えば、原料粉末を100質量%として、90質量%以上とすることが挙げられる。上記金属粉末の含有量は95質量%以上、更に98質量%以上としてもよい。原料粉末における金属粉末の含有割合が高いほど、緻密な圧粉成形体を得易い。なお、ここでの金属粉末は、後述する鉄基合金に利用される非鉄元素粉であって非金属元素からなる粉末を含む。
【0055】
原料粉末の組成は、焼結歯車1の組成に応じて調整すればよい。例えば、鉄基合金からなる焼結歯車1を製造する場合、圧粉成形体を構成する粉末は、鉄粉及び非鉄元素粉、鉄基合金粉及び非鉄元素粉、又は鉄基合金粉を含むことが挙げられる。この場合、上述のように機械的特性に優れる焼結歯車1を製造できる。鉄基合金の詳細は、上述した焼結歯車の〈組成〉の項を参照するとよい。
【0056】
ここでの鉄粉は、純鉄からなる粉末である。純鉄は、代表的には、Fe及び不純物からなるものが挙げられる。純鉄における不純物の含有量は、例えば合計で1質量%以下が挙げられる。純鉄におけるCの含有量は0.02質量%以下である。非鉄元素粉は、Fe以外の金属元素からなる粉末、又は非金属元素からなる粉末である。Fe以外の金属元素は、上述のCu,Ni,Sn,Cr,Mo,Mn等が挙げられる。非金属元素は、C等が挙げられる。例えば、鉄粉と非鉄元素粉とを用いる場合、原料粉末の段階では鉄基合金ではないが、焼結によって合金化することで、鉄基合金からなる焼結歯車1を製造できる。所望の組成の鉄基合金が得られるように、鉄粉又は鉄基合金粉(以下、鉄系粉末と呼ぶ)と非鉄元素粉との配合量を調整するとよい。鉄系粉末と非鉄元素粉との配合割合(質量%)は、例えば鉄系粉末:非鉄元素粉が99以上:1以下が挙げられる。更に、鉄系粉末:非鉄元素粉を99.3以上:0.7以下、更に99.5以上:0.5以下としてもよい。
【0057】
鉄基合金粉は、鉄基合金からなる粉末である。鉄基合金粉を用いる場合、原料粉末に含まれる金属粉末の組成と、焼結後の焼結歯車1の組成とは実質的に等しい。
【0058】
上述の鉄粉、非鉄金属元素からなる粉末、鉄基合金粉は、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、カルボニル法、還元法等によって製造できる。市販の粉末を用いてもよい。
【0059】
上述の鉄粉、鉄基合金粉の平均粒径は、例えば10μm以上200μm以下が挙げられる。上記平均粒径が10μm以上200μm以下であれば、粉末を取り扱い易く、加圧成形し易い。また、上記平均粒径が10μm以上であれば、原料粉末が良好な流動性を有して、原料粉末を金型に充填し易い。上記平均粒径が200μm以下であれば、焼結性に優れ、緻密な焼結歯車1を得易い。上記平均粒径がより小さければ、上述の表面荒れを小さくし易い。成形性、緻密性、表面性状の向上等を望む場合には、上記平均粒径を40μm以上150μm以下としてもよい。複数種の粉末を用いる場合、各粉末の平均粒径は等しくてもよいし、異なってもよい。ここでの平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)とする。
【0060】
緻密な圧粉成形体(例、後述する全体の平均相対密度が93%以上)を製造する場合には、上述のように原料粉末における金属粉末の含有割合が高いほど好ましい。そのため、原料粉末は、例えば実質的に金属粉末のみとしてもよい。又は、緻密な圧粉成形体が得られる範囲で潤滑剤及び有機バインダーの少なくとも一方を含んでもよい。潤滑剤を含むと、金型の焼き付き等を防止できる。潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%として、0.2質量%以下が好ましい。有機バインダーを含むと、成形時に圧粉成形体の欠けや亀裂の発生を抑制し易い。潤滑剤や有機バインダーは公知のものが利用できる(特許文献1の明細書[0040],[0041]参照)。
【0061】
≪成形条件≫
圧粉成形体を成形する金型は、所定の形状、大きさの圧粉成形体を成形可能なものを適宜選択するとよい。
【0062】
成形時の加圧圧力は、例えば600MPa以上が挙げられる。上記加圧圧力が600MPa以上であれば、圧粉成形体を緻密にし易い。上記加圧圧力が高いほど圧粉成形体を緻密化し易い。そのため、上記加圧圧力は、1000MPa以上、更に1500MPa以上が好ましい。上記加圧圧力の上限は特に設けないが、3000MPa以下であれば金型の破損等を防止し易い。
【0063】
金型の内周面(上述のダイの内周面やパンチの押圧面)に潤滑剤を塗布することが好ましい。金型に潤滑剤を塗布することで、原料粉末に上述の潤滑剤を含まない場合でも、金型の焼き付き等を防止できつつ、原料粉末における金属粉末の含有割合を高められる。この潤滑剤には公知のものが利用できる(特許文献1の明細書[0044]参照)。
【0064】
≪圧粉成形体の相対密度≫
圧粉成形体の全体の平均相対密度は93%以上であることが好ましい。上記全体の平均相対密度が93%以上という緻密な圧粉成形体は、機械的強度に優れる。そのため、後述する面取り加工時、更に歯切り加工やその他の切削加工を行う場合にはこれらの切削加工時に、圧粉成形体に欠けや亀裂等が生じ難い。つまり、面取り加工等の切削加工を適切に行えて、不良品の発生を低減できる。歩留りの向上によって、焼結歯車1の生産性を向上できる。また、緻密な圧粉成形体を用いることで、緻密な焼結歯車1を製造できる。緻密な焼結歯車1は、上述のように機械的特性に優れて好ましい。
【0065】
圧粉成形体の全体の平均相対密度が高いほど、機械的強度に優れて好ましい。従って、上記全体の平均相対密度は、95%以上、更に96%以上、97%以上が好ましい。上記全体の平均相対密度を高めるには、原料粉末における金属粉末の含有割合を高めたり、成形圧力を大きくしたり、金属粉末を微粗混合にしたり、粒径が大きい粉末を用いたりすることが挙げられる。
【0066】
圧粉成形体の全体の平均相対密度は、基本的には、上述の焼結歯車1の全体の平均相対密度と同様にして求める。圧粉成形体から採取する断面の位置は、成形時の加圧方向の中央近傍、一方の端面2e近傍、及び他方の端面2eの近傍が挙げられる。歯車形状の圧粉成形体10については、歯2及び歯2以外の領域について、上述の三つの位置で断面を採取するとよい。上記断面は、上記加圧方向に交差する平面、代表的には直交する平面で切断して採取する。その他、焼結歯車1における全体の平均相対密度の求め方を参照すればよく、詳細な説明は省略する。
【0067】
≪歯切り加工≫
歯切り加工を行って歯車形状の圧粉成形体10を製造する場合、歯切り加工には公知の歯切り工具を利用できる。代表的な歯切り工具は、ホブ、ブローチ、ピニオンカッタ等が挙げられる。マシニングセンタを用いて歯切り加工を行ってもよい。
【0068】
歯切り加工に供する前に、以下の溶液を圧粉成形体の表面に塗布してもよい。又は以下の溶液に圧粉成形体の表面を浸漬してもよい。上記溶液は、有機バインダーを溶かした揮発性溶液、可塑性溶液等が挙げられる。圧粉成形体の表面に上記溶液が塗布される又は浸漬されることで、歯切り加工時に圧粉成形体の表層の欠けや亀裂を抑制できる。場合によっては、次の面取り加工時にも欠けや亀裂を抑制できることが期待される。そのため、上記溶剤の塗布又は上記溶剤への浸漬は、欠けや亀裂による不良品の低減に寄与して、歩留りを高められる。上記溶剤の塗布又は上記溶剤への浸漬は、面取り加工前や、歯切り加工及び面取り加工以外の切削加工前に行ってもよい。
【0069】
上述の歯切り加工の他、後述の面取り加工前の圧粉成形体に対して、その他の切削加工を施してもよい。この切削加工は、転削加工、旋削加工のいずれでもよい。複数種の加工を自動的に行えるマシニングセンタを用いてもよい。具体的な加工として、例えば穴あけ加工等が挙げられる。
【0070】
なお、上述の歯切り加工、後述の面取り加工、その他の切削加工による加工量は、焼結後の焼結材の寸法を測定し、この実測値をフィードバックさせて調整してもよい。実測値に即して上記加工量を調整することで、焼結後の焼結材の寸法と設定寸法との差を小さくし易い。その結果、焼結後の仕上げ加工等の加工時間を短縮し易い。この点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0071】
上述の歯切り加工、後述の面取り加工、その他の切削加工によって生じた加工屑は、原料粉末に再利用するとよい。ここで、圧粉成形体を被削材とする場合、切削加工によって生じる加工屑は、主として、圧粉成形体を構成する粉末粒子が分離されてできた粉末状のものである。このような加工屑は、再溶解及び再固化することなく、そのままの状態で原料粉末に再利用できる。粉末粒子が固まった粒塊がある場合には、粒塊を適宜解砕してもよい。また、切削時に欠けや亀裂が生じた圧粉成形体も、適宜解砕して粉末化すれば、原料粉末に再利用できる。このように圧粉成形体を被削材とする場合には、焼結材を被削材とする場合に比較して、加工屑や不良品を再利用し易い。この点は、材料コストの低減に寄与する。また、加工屑が粉末状であるため、エアブロー等を利用して圧粉成形体から加工屑を容易に除去できる。更に、エアブローで加工屑を除去すれば、加工屑の除去時に圧粉成形体を損傷し難い。損傷による不良品の発生を低減でき、歩留りを高め易い点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0072】
〈工程S2〉
この工程では、歯車形状の圧粉成形体10(図2A)に備えられる各歯2のエッジ4に対して切削加工によって面取りして、加工体11(図2B)を作製する。各歯2のエッジ4は、代表的には、歯底エッジ40、一対の歯面エッジ41(41R,41L)、歯先エッジ42を有する。歯底エッジ40は、圧粉成形体10の端面2eと歯底面20とがつくる稜線である。各歯面エッジ41は、上記端面2eと各歯面21とがつくる稜線である。歯先エッジ42は、上記端面2eと歯先面22とがつくる稜線である。
【0073】
《加工体》
加工体11は、上述の焼結歯車1の形状に概ね等しい。この例の加工体11は、上述の焼結歯車1と同様にはす歯外歯車であり、一対の端面2eと、外周側に設けられる複数の歯2とを備える。また、この加工体11は、各歯2の構成面(歯底面20、歯面21、歯先面22)と端面2eとの境界近くに面取り箇所3を備える。面取り箇所3は、歯底面取り部30と、歯面面取り部31と、歯先面取り部32とを備える。
【0074】
加工体11の全体の平均相対密度は、面取り前の圧粉成形体10の全体の平均相対密度を実質的に維持する。加工体11の全体の平均相対密度が93%以上と緻密であれば、上述のように焼結後も緻密な焼結歯車1にできる。また、加工体11がこのように緻密であれば、焼結時の収縮が均一的になり易い。そのため、加工体11の形状及び寸法と焼結歯車1の形状及び寸法との差を小さくし易い。その結果、焼結後の仕上げ加工等の加工時間を短縮し易い。この点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0075】
《面取り条件》
エッジ4の面取り条件は、焼結後の焼結材と比較して脆弱である圧粉成形体10に、欠けや亀裂等が生じない条件が望まれる。このような条件として、以下を満たすことが挙げられる。
(1)歯車形状の圧粉成形体10を歯車の軸回りに回転させた状態で、各歯2のエッジ4を切削工具で切削する。
(2)切削工具を、切削時に回転不可に支持する。
(3)切削工具を、弾性材によって圧粉成形体10のエッジ4側に付勢した状態で支持する。
【0076】
上述の切削工具を特定の支持状態とすることで、以下の作用効果を奏する。
(1-1)各歯2のエッジ4を切削するため、各歯2のエッジ4を押し潰して塑性変形させる場合に比較して、圧粉成形体10に欠け等の不良が生じ難い。
【0077】
(2-1)切削工具を回転不可に支持し、ワークを回転させる。ワークの回転速度(回転数)は例えば200rpm以下と小さくできる。そのため、ワークの回転機構として、容量が大きな駆動機構(例、モータ)が不要である。この点で、面取り装置に関するコストを低減できる。
【0078】
(3-1)切削工具は、弾性材(例、圧縮コイルばね)によって圧粉成形体10のエッジ4側に付勢されることで、弾性材の弾性変形の範囲で変位可能である。そのため、歯底エッジ40から歯面エッジ41を経て歯先エッジ42に至るエッジ4の凹凸に沿って切削工具を追従させられる。また、圧粉成形体10を歯車の軸回りに回転させると、歯2のエッジ4に当接する切削工具の切刃は、歯2に押圧されるものの、上述の付勢力によって変位することでエッジ4に接した状態を維持できる。その結果、上記切刃は、圧粉成形体10の回転に伴って歯2のエッジ4に沿って変位しながら、エッジ4を切削できる。即ち、上記切刃は、圧粉成形体10の回転に伴う歯2の移動に自動的に追従して、エッジ4を面取りできる。
【0079】
切削工具の切刃を歯2Aのエッジ4、例えば歯底エッジ40に接して配置した状態を例に挙げて、面取り動作を詳しく説明する。この配置状態で、圧粉成形体10が図2(A)の黒矢印の方向(時計回り)に回転すると、上記切刃は、代表的には歯2Aの歯底エッジ40から歯面エッジ41Rを経て歯先エッジ42に至って切削できる。圧粉成形体10が更に回転すると、上記切刃は、歯2Aの歯先エッジ42から離れる。しかし、圧粉成形体10の回転に伴って、上記切刃は、歯2Aに対して回転方向の後方に隣り合う歯2Bとの間の歯底エッジ40に配置され、歯2Bのエッジ4を切削する。従って、各歯2のエッジ4を順に切削できる。
【0080】
また、切削工具を弾性材の弾性変形の範囲で変位させる。そのため、圧粉成形体の回転速度をある程度速めても、歯2のエッジ4に欠け等が生じたり、局所的に削り過ぎたりすることを防止できる。そのため、各歯2のエッジ4を良好に面取りできつつ、回転速度を速められる。結果として面取り時の加工速度を速められる。加工速度の高速化の点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。更に、弾性材によって切削工具を変位可能に支持すれば、各歯2のエッジ4に沿って追従させるための切削工具の駆動機構(例、モータ)も不要である。
【0081】
≪切削工具≫
上述の条件を満たす切削装置として、例えば、特許文献2~4に記載の装置を利用できる。この装置は、切刃を有する切削ツール(切削工具の一例)と、切削ツールを保持するホルダと、ワークである歯車をその軸回りに回転可能に保持する治具とを備える。切削ツールは、シャフト部と、シャフト部の先端に設けられた切刃とを備える棒状体である。切刃は、主として歯面エッジ41を切削する第一切刃と、主として歯底エッジ40を切削する第二切刃とを連続して備える。ホルダは、シャフト部の軸回りの回転不可にシャフト部を支持する。また、ホルダは、圧縮コイルばね(弾性材の一例)によって、シャフト部の軸方向に沿って切刃を歯車側に付勢した状態で支持する。
【0082】
特許文献2,3の装置に備えられる切削ツールは、シャフト部の軸を中心として対称形状である。シャフト部の先端はT字状である。T字の縦棒がシャフトの軸に対応し、縦棒の先端から左右に延びる各横片に切刃を備える。また、この装置に備えられるホルダは、切削ツールを、歯車の回転軸に対して一定の角度に傾けた状態で支持する。
【0083】
特許文献4の装置に備えられる切削ツールの先端部は、円錐状である。円錐の頂点近くがC字状に湾曲しており、この湾曲箇所を切刃とする。
【0084】
≪面取り方法≫
各歯2のエッジ4の面取りは、例えば、歯車形状の圧粉成形体10の一方の端面2e側のエッジ4について面取りした後、他方の端面2e側のエッジ4について面取りすることが挙げられる。また、各端面2e側のエッジ4の面取りは、例えば、各歯2のエッジ4において、歯底エッジ40、歯面エッジ41、歯先エッジ42の面取りをそれぞれ分けて行ってもよいが、連続して行うと、面取り時間を短縮し易い。面取り時間の短縮は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。
【0085】
ここで、圧粉成形体10が一方向、例えば図2Aの黒矢印の方向に回転した際、各歯2のエッジ4における回転方向の前方に位置する領域を第一の領域4Rとし、回転方向の後方に位置する領域を第二の領域4Lとする。図2Aでは、二点鎖線のハッチングを付して、歯2Aについて第一の領域4Rを仮想的に示す。また、二点鎖線のクロスハッチングを付して、第二の領域4Lを仮想的に示す。なお、図2Aでは両領域4R,4Lの境界を模式的に直線で示す。
【0086】
圧粉成形体10が一方向、例えば図2Aの黒矢印の方向(時計回り)に回転する場合に、各歯2の第一の領域4Rの面取りを連続して行えば、効率的である。同様に、圧粉成形体10が逆方向(反時計回り)に回転する場合に、各歯2の第二の領域4Lの面取りを連続して行えば、効率的である。このような面取り方法の一例として、各歯2のエッジ4の面取りは、各歯2について、圧粉成形体10の回転方向の前方に位置する歯底エッジ40、歯面エッジ41、歯先エッジ42を順に連続して切削する処理(以下、連続処理と呼ぶことがある)を含むことが挙げられる。この面取り方法では、例えば圧粉成形体10が一方向(ここでは時計回り)に回転すれば、例えば歯2Aの歯底エッジ40、歯面エッジ41R、歯先エッジ42を順に面取りした後に、歯2Aに隣り合う別の歯2Bの歯底エッジ40、歯面エッジ41R、歯先エッジ42を順に面取りできる。
【0087】
更に、上述の第一の領域4Rの面取りと、第二の領域4Lの面取りとを連続して行うと、より効率的である。このような面取り方法の一例として、各歯2のエッジ4の面取りは、圧粉成形体10を一方向に回転させて上述の連続処理を行った後、圧粉成形体10を逆方向に回転させて上記連続処理を行うことが挙げられる。
【0088】
上述の面取り方法では、例えば各歯2のエッジ4における第一の領域4Rの面取りから、第二の領域4Lの面取りに移行する際に、圧粉成形体10の回転方向を正逆反転させることで、両領域4R,4Lの面取りを連続して行う。そのため、第一の領域4Rの面取りと第二の領域4Lの面取りとの間で圧粉成形体10の配置の変更が不要である。圧粉成形体10の付替時間を省略できる点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。上述の面取り方法では、例えば圧粉成形体10を一方向に回転させた状態では、歯底エッジ40、歯面エッジ41R、歯先エッジ42を順に切削し、逆方向に回転させた状態では、歯底エッジ40、歯面エッジ41L、歯先エッジ42を順に切削するとよい。
【0089】
各歯2のエッジ4における第一の領域4Rの面取りは、圧粉成形体10を一方向に一回転すれば行える。また、各歯2のエッジ4における第二の領域4Lの面取りは、圧粉成形体10を逆方向に一回転すれば行える。各回転方向の回転回数は一回でもよいが、複数回とすると、各歯2のエッジ4をより確実に面取りできる。回転回数を複数回とする場合、一方向の回転を複数回行ってから、逆方向の回転を複数回行うと、回転方向の変更回数が1回でよい。その結果、回転方向の変更に伴う時間を短くし易い。この点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。なお、回転回数が多過ぎると、面取り時間の増大を招く。そのため、一つの方向の回転回数は3回以下程度(正逆回転で合計6回以下)が好ましい。
【0090】
上述の面取り方法では、上述の第一の領域4Rの面取りと第二の領域4Lの面取りとにおいて、歯先エッジ42や歯底エッジ40を重複して切削することを許容する。被削材が圧粉成形体10であるため、重複して切削しても、歯先エッジ42及びその近傍や歯底エッジ40及びその近傍にバリが実質的に生じない。従って、歯先エッジ42や歯底エッジ40の重複切削に伴うバリの除去工程を削減できる。このように工程数を低減できる点は、焼結歯車1の生産性の向上に寄与する。なお、上述の重複切削によって、歯先エッジ42や歯底エッジ40に加工屑が生じ得る。この加工屑は、上述のように粉末状であるため、エアブロー等で容易に除去できる。更に、エアブローを利用すれば、加工屑の除去時に面取り後の加工面の損傷も防止できる。
【0091】
≪切削条件≫
切削工具の構成材料は、例えば、超硬合金等が挙げられる。
面取り加工の切削条件は、例えば、ワークの回転速度が10rpm以上200rpm以下、更に150rpm以下、切込み速度が0.1mm/rev.以上2.5mm/rev.以下が挙げられる。
【0092】
《その他の面取り加工》
歯車形状の圧粉成形体10において、各歯2のエッジ4以外の箇所についても、面取りしてもよい。例えば、圧粉成形体10の貫通孔2hの内周エッジ4h(図1A参照)を面取りすることが挙げられる。内周エッジ4hの面取り加工は、各歯2のエッジ4の面取り工程で同時に行ってもよいし、エッジ4の面取り工程の前又は後に行ってもよい。
【0093】
〈工程S3〉
この工程では、面取りされた圧粉成形体10(加工体11)を焼結する。加工体11を焼結することで、各歯2に面取り箇所3を備える焼結歯車1が得られる。
【0094】
加工体11の焼結条件は、原料粉末の組成に応じて適宜調整するとよい。公知の焼結条件を参照できる。例えば、鉄基合金からなる焼結歯車1を製造する場合には、以下の焼結条件が挙げられる。
焼結温度は、1000℃以上1400℃以下が挙げられる。更に、焼結温度を1100℃以上1300℃以下としてもよい。
焼結時間は、10分以上150分以下が挙げられる。更に、焼結時間を15分以上60分以下としてもよい。
【0095】
〈その他の工程〉
その他の工程として、例えば、焼結後の焼結材に浸炭処理を施す工程、浸炭処理後に仕上げ加工を行う工程等が挙げられる。浸炭処理の条件や仕上げ加工の条件等は公知の条件を参照できる。
【0096】
〈主要な効果〉
実施形態の焼結歯車の製造方法は、焼結歯車1を生産性よく製造できる。主な理由は以下の通りである。
(a)面取りに用いる切削工具を上述の特定の支持状態とする。そのため、切削工具の切刃は、回転する圧粉成形体10の各歯2のエッジ4に自動的に追従できる。更に、圧粉成形体10の回転速度をある程度速めても、圧粉成形体10に欠け等が生じ難く、各歯2のエッジ4を良好に面取りできる。加工速度を速められることで、加工サイクル時間を短くできる(後述の試験例1参照)。いわば、高速の倣い加工を行える。
(b)焼結後に浸炭処理を行う場合に、代表的には焼結工程と浸炭工程とを連続して行える。そのため、熱処理炉への素材の入替、素材の再配列等を不要にできる。この入替時間を省略できることで、製造時間を短くできる。
【0097】
(c)バリが実質的に生じない。従って、バリの除去時間を不要にできる。
(d)加工屑が主として粉末状であるため、エアブロー等によって容易に除去できる。従って、加工屑の除去時間を短くし易い。
(e)被削材である圧粉成形体10の切削抵抗が溶製材や焼結材に比較して低いことで、切削工具を長寿命にし易い。そのため、大量の焼結歯車1を連続して製造する場合には、切削工具の交換頻度を低くできる。従って、連続生産時における切削工具の交換時間を短くし易い。
(f)焼結前の圧粉成形体10は焼結材よりも切削加工性に優れる。そのため、歯切り加工等の加工速度も速められる。従って、切削時の加工時間を短くし易い。
上述の面取りを含めた切削加工の被削材を焼結前の圧粉成形体10とすれば、焼結歯車1をより生産性よく製造できる。
【0098】
[試験例1]
以下の焼結歯車を作製し、各歯のエッジを面取りするときの加工サイクル時間を調べた。
【0099】
ここでは、焼結歯車として、鉄基合金からなるはす歯外歯車を作製した。歯車の仕様は以下の通りである。
〈焼結歯車〉
外径:φ45mm、内径:φ20mm、厚さ20mm
モジュール:1.4
ねじれ角:15.8°
密度:7.71g/cm
全体の平均相対密度:99.5%
【0100】
上記焼結歯車は、以下のように作製した。
原料粉末として、鉄系粉末とカーボン粉末との混合粉末を用意した。鉄系粉末の組成は、Fe-1.9Ni-0.2Mn-0.55Mo(添加元素の含有量:質量%)である。鉄系粉末の平均粒径は42μmである。カーボン粉末の平均粒径は8μmである。鉄系粉末とカーボン粉末との配合割合(質量比)は99.6:0.4である。上記混合粉末を用いて、一軸プレス装置によって、円筒状の圧粉成形体を作製した。成形圧力は、2000MPaである。圧粉成形体の密度は7.71g/cmである。また、圧粉成形体の全体の平均相対密度は99.5%であり、93%以上である。なお、焼結歯車の全体の平均相対密度、及び圧粉成形体の全体の平均密度は、上述の〈相対密度〉の項で説明したように、三つの位置で断面をとり、各断面から10個以上の観察視野をとり、各観察視野を画像解析し、この処理像を用いて求める。各観察視野の大きさは、500μm×600μm=300000μmとする。詳細は、上述の〈相対密度〉の項を参照するとよい。
【0101】
上述の円筒状の圧粉成形体に歯切り加工を施して、歯車形状の圧粉成形体を作製した。歯切り加工には、公知のホブ盤を利用した。この歯切り加工によって、圧粉成形体に欠けや亀裂等が生じなかった。なお、加工屑は、粉末状であった。
【0102】
上述の歯車形状の圧粉成形体について、各歯のエッジを面取りした。この面取りは、以下のように行った。上記圧粉成形体を歯車の軸回りに回転させる。この回転する圧粉成形体のエッジを切削工具で切削する。切削工具は、切削時に回転不可に支持する。かつ、切削工具は、弾性材によって、上記圧粉成形体の歯のエッジ側に付勢するように支持する。切削工具は、超硬合金からなるものを用いた。
【0103】
この試験では、上記圧粉成形体の一方の端面について各歯のエッジの面取りを行った後、他方の端面について各歯のエッジの面取りを行った。各端面についての面取りは、圧粉成形体を一方向に回転させて、以下の連続処理を行った後に、圧粉成形体を逆方向に回転させて連続処理を行った。上記連続処理とは、各歯について圧粉成形体の回転方向の前方に位置する歯底エッジ、歯面エッジ、歯先エッジを順に連続して切削する処理である。ここでは、一方向の回転を2回連続して行った後、逆方向の回転を2回連続して行った。また、圧粉成形体の回転速度は、100rpmとした。切込み速度は、1.0mm/rev.とした。
【0104】
以上のようにして、上記圧粉成形体の両端面についての面取りを行った。この両端面の面取りの開始から終了までの時間を加工サイクル時間として測定した。上記加工サイクル時間には、一方の端面についての面取りから他方の端面についての面取りを行う際に圧粉成形体の表裏を代えて、装置に付け替える時間を含む。
【0105】
試験の結果、加工サイクル時間は20秒であり、非常に短かった。この試験では、歯底エッジ、歯面エッジ、歯先エッジを順に連続して面取りしたことからも、加工サイクル時間を短くできたと考えられる。また、面取り加工によって、圧粉成形体に欠けや亀裂等が生じなかった。詳しくは、圧粉成形体の各歯において、面取り後の加工面、歯底面、歯面、及び歯先面における上記加工面の近傍のいずれも、欠けや亀裂等が生じなかった。面取り後の圧粉成形体について、各面取り部の面取り量L3(図3参照)を測定した。その結果、歯底面取り部の面取り量L3は0.2mm、歯面面取り部の面取り量L3は0.3mm、歯先面取り部の面取り量L3は0.5mmであった。
【0106】
面取りした圧粉成形体を焼結した。焼結条件は、焼結温度:1150℃、焼結時間:20分である。焼結後に得られた焼結歯車は、各歯のエッジ近くに面取り箇所を有していた。焼結歯車の面取り箇所は、上述の圧粉成形体における面取り箇所を実質的に維持していた。
【0107】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1において、焼結歯車(原料粉末)の組成、焼結歯車の仕様、各歯のエッジの面取り条件等を適宜変更できる。
【符号の説明】
【0108】
1 焼結歯車
10 圧粉成形体、11 加工体
2,2A,2B 歯、2e 端面、2h 貫通孔
20 歯底面、21 歯面、22 歯先面、220,320,20e 仮想面
25 稜線、26 曲面
3 面取り箇所、30 歯底面取り部、31 歯面面取り部、32 歯先面取り部
4 エッジ、40 歯底エッジ、41,41R,41L 歯面エッジ、42 歯先エッジ
4h 内周エッジ、4R 第一の領域、4L 第二の領域
図1A
図1B
図2A
図2B
図3