(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】誤差補正装置、距離測定装置
(51)【国際特許分類】
G01C 3/06 20060101AFI20230206BHJP
【FI】
G01C3/06 120Q
(21)【出願番号】P 2018214829
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】菊地 亨
(72)【発明者】
【氏名】米田 哲治
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-184333(JP,A)
【文献】特開2016-142534(JP,A)
【文献】特開平10-293179(JP,A)
【文献】特表2009-541760(JP,A)
【文献】特開平06-118173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/06
G01S 7/4865
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に向けて放射されたパルス光が前記対象物により反射された反射光を受光し、該反射光の検出タイミングと、前記パルス光の放射タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を測定する距離測定装置による測定距離の誤差を補正する誤差補正装置であって、
前記距離測定装置により検出された前記反射光のパルス幅を取得する
とともに、前記パルス光の一部が前記距離測定装置内において検出された基準光のパルス幅を取得するパルス幅取得部と、
予め定められた常温における基準光のパルス幅と前記取得された基準光のパルス幅との差に基づいて、前記反射光のパルス幅を補正するパルス幅補正部と、
予め定められた反射光のパルス幅と補正値とが対応付けられた補正情報を参照し、該補正情報において前記
補正された反射光のパルス幅に対応付けられた補正値を取得する補正値取得部と、
前記取得された補正値に基づいて前記測定距離を補正する距離補正部と
を備える誤差補正装置。
【請求項2】
前記補正情報は、複数の距離範囲のそれぞれについて反射光のパルス幅と補正値とを対応付け、
前記誤差補正装置は、前記測定距離が前記複数の距離範囲のいずれに属するかを判定する距離判定部を更に備え、
前記補正値取得部は、前記測定距離が属する距離範囲について前記取得された反射光のパルス幅と対応付けられた補正値を取得することを特徴とする請求項1に記載の誤差補正装置。
【請求項3】
前記パルス幅補正部は、前記常温における基準光のパルス幅と前記取得された基準光のパルス幅との差に所定の係数を乗じた値を前記反射光のパルス幅から減じることにより、前記反射光のパルス幅を補正することを特徴とする請求項
1または請求項2に記載の誤差補正装置。
【請求項4】
パルス光を対象物に向けて出射する光源と、
前記対象物により反射された反射光を受光する受光素子と、
前記パルス光の放射タイミングと、
該パルス光の一部である基準光のパルス幅と、前記反射光の受光タイミングと、前記反射光のパルス幅とを検出する検出部と、
前記放射タイミングと前記受光タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を測定距離として算出する演算部と
、
予め定められた常温における基準光のパルス幅と前記検出された基準光のパルス幅との差に基づいて、前記反射光のパルス幅を補正するパルス幅補正部と、
予め定められた反射光のパルス幅と補正値とが対応付けられた補正情報を参照し、該補正情報において前記
補正された反射光のパルス幅に対応付けられた補正値を取得する補正値取得部と、
前記取得された補正値に基づいて前記測定距離を補正する距離補正部と
を備える距離測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、TOF(Time Of Flight)方式により対象物までの距離を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物へ投光されてから、対象物からの反射光を受光するまでの時間に基づいて対象物までの距離を測定する技術として、TOF方式が知られている。
【0003】
また、関連する技術として、光出力のパワーおよびパルス幅の両方が段階的に大きくなるように設定された複数の発光モードを有する発光部と、発光部から送信された光信号の反射光を受光する回路のゲインおよび帯域の両方が段階的に大きくなるように設定された複数の受光モードを有する受光部と、発光モードと受光モードとを組み合わせることで設定された複数の動作モードで、発光部および受光部を繰り返し動作させ、動作モードのそれぞれで得られる受光信号から抽出した非飽和のピーク波形を用いて、光信号を反射した物体との距離を求める測距処理部とを備える距離測定装置、が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射光のパワーは対象物の反射率によって減衰する。また、パルスの立ち上がり、立ち下がりのタイミングは、反射光のパワーが予め設定された閾値を上回った時点、閾値を下回った時点として検出される。そのため、従来のTOF方式の距離測定装置においては、反射光のパルス幅が対象物の反射率に起因して変動し、この変動によって測定距離に誤差が生じる、という問題がある。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、TOF方式による測定距離の誤差を低減することができる誤差補正装置、距離測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本実施形態に係る誤差補正装置は、対象物に向けて放射されたパルス光が前記対象物により反射された反射光を受光し、該反射光の検出タイミングと、前記パルス光の放射タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を測定する距離測定装置による測定距離の誤差を補正する誤差補正装置であって、前記距離測定装置により検出された前記反射光のパルス幅を取得するパルス幅取得部と、予め定められた反射光のパルス幅と補正値とが対応付けられた補正情報を参照し、該補正情報において前記取得された反射光のパルス幅に対応付けられた補正値を取得する補正値取得部と、前記取得された補正値に基づいて前記測定距離を補正する距離補正部とを備える。
【0008】
また、本実施形態に係る距離測定装置は、パルス光を対象物に向けて出射する光源と、前記対象物により反射された反射光を受光する受光素子と、前記パルス光の放射タイミングと、前記反射光の受光タイミングと、前記反射光のパルス幅とを検出する検出部と、前記放射タイミングと前記受光タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を測定距離として算出する演算部と、前記検出されたパルス幅をパルス幅取得部と、予め定められた反射光のパルス幅と補正値とが対応付けられた補正情報を参照し、該補正情報において前記検出された反射光のパルス幅に対応付けられた補正値を取得する補正値取得部と、前記取得された補正値に基づいて前記測定距離を補正する距離補正部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、TOF方式による測定距離の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る距離測定システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】誤差補正装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】誤差補正装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】誤差補正装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】反射光のパルス幅に対応する補正値を示すグラフである。
【
図7】補正がなされない場合の距離誤差を示すグラフである。
【
図8】補正がなされた場合の距離誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
(全体構成及び距離測定装置の構成)
本実施形態に係る距離測定システム及び距離測定装置の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る距離測定システムの構成を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、距離測定システムは、対象物Tまでの距離を測定する距離測定装置1と距離測定装置1による測定距離の誤差を補正する誤差補正装置2とを備える。
【0014】
距離測定装置1は、光源11、分岐カプラ12、投光部13、受光部14、合流カプラ15、受光素子16、検出部17、演算部18を備える。光源11は、パルス光を放射する発光体であり、本実施形態においてはレーザである。分岐カプラ12は、光源11、投光部13、合流カプラ15のそれぞれと光ファイバにより接続される。合流カプラ15は、分岐カプラ12、受光部14、受光素子16のそれぞれと光ファイバにより接続される。
【0015】
分岐カプラ12は、光源11から伝送されたパルス光を2つに分岐させ、一方のパルス光は投光部13に伝送され、他方のパルス光は基準光として合流カプラ15に伝送される。投光部13は、分岐カプラ12より伝送されたパルス光を出射光として距離測定装置1の外部へ出射する。この出射光は、距離測定装置1からの距離を測定する対象である対象物Tに向けて出射される。受光部14は、投光部13により出射された出射光が対象物Tにより反射された反射光として受光されるように形成され、受光した反射光を合流カプラ15へ伝送する。合流カプラ15は、分岐カプラ12から伝送された基準光と、受光部14から伝送された反射光とを合流させ、受光素子16へ伝送する。
【0016】
受光素子16は、合流カプラ15により伝送されたパルス光を受光してその強度を検出するセンサである。検出部17は、予め所定の強度に設定された閾値によって、受光素子16により検出された基準光及び反射光のそれぞれにおけるパルスの立ち上がり、立ち下がりのタイミングを検出する。演算部18は、検出部17より検出されたパルスの立ち上がり、立ち下がり、またはこれらの中間のタイミングに基づいて、受光素子16において基準光が受光されたタイミングと反射光が受光されたタイミングとの時間差を算出し、この時間差の半分に光速を掛けることにより対象物Tまでの距離を算出する。
【0017】
このようなTOF方式の距離測定装置1においては、対象物Tの反射率や対象物Tまでの距離による反射光のパワーの減衰、更には、環境温度の変動による光源11の投光パワーや受光素子16の感度の変動に起因して、測定距離に距離誤差が生じ得る。
【0018】
(誤差補正装置の構成)
誤差補正装置2のハードウェア構成及び機能構成について説明する。
図2は、誤差補正装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3は、誤差補正装置の機能構成を示すブロック図である。
【0019】
誤差補正装置2は、ハードウェアとして、
図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)21、RAM(Random Access Memory)22、記憶装置23、外部I/F(Interface)24を備える。
【0020】
CPU21及びRAM22は協働して後述する各種機能を実行し、記憶装置23は各種機能により実行される処理に用いられる各種データを記憶する。外部I/F24は、外部装置としての距離測定装置1とのデータの入出力を行う。なお、記憶装置23には、近距離範囲、中距離範囲、長距離範囲のそれぞれについて、反射光のパルス幅と、測定距離における距離誤差を補正する補正値とを対応付けた補正情報が記憶される。
【0021】
また、誤差補正装置2は、機能として、
図3に示すように、パルス幅取得部201、パルス幅補正部202、距離取得部203、距離判定部204、補正値取得部205、距離補正部206を備える。
【0022】
パルス幅取得部201は、基準光及び反射光それぞれの立ち上がり、立下りのタイミングを、基準光及び反射光それぞれのパルス幅として距離測定装置1から取得する。パルス幅補正部202は、パルス幅取得部201により取得された反射光のパルス幅を補正する。距離取得部203は、演算部18により算出された測定距離を距離測定装置1から取得する。距離判定部204は、距離取得部203により取得された測定距離について、予め設定された複数の距離範囲のうち、いずれの距離範囲に属するかを判定する。補正値取得部205は、距離判定部204により判定された測定距離が属する距離範囲と、パルス幅補正部202により補正された反射光のパルス幅とに基づいて、記憶装置23に記憶された補正値を取得する。距離補正部206は、補正値取得部205により取得された補正値により距離取得部203により取得された測定距離を補正する。
【0023】
(誤差補正装置の動作)
誤差補正装置の動作について説明する。
図4は、誤差補正装置の動作を示すフローチャートである。
【0024】
図4に示すように、まず、距離取得部203が、距離測定装置1から測定距離を取得し(S101)、パルス幅取得部201が、距離測定装置1から基準光、反射光それぞれのパルス幅を取得し(S102)、パルス幅補正部202が、パルス幅取得部201により取得された反射光のパルス幅を補正する(S103)。
【0025】
ここで、パルス幅補正部202による反射光のパルス幅の補正は、補正後の反射光のパルス幅をWbc、パルス幅取得部201により取得された反射光のパルス幅をWb、パルス幅取得部201により取得された基準光のパルス幅をWa、常温における基準光のパルス幅をWar、予め設定された係数をCとした場合、補正後の反射光のパルス幅を、Wbc=Wb-C(Wa-War)の式により算出することによりなされる。
【0026】
この基準光のパルス幅の変動に基づく反射光のパルス幅の補正を行えば、環境温度の変化によって生じる、光源11の投光パワーの変動や受光素子16の感度の変動に起因する測定距離の誤差を低減することができる。
【0027】
次に、距離判定部204は、距離取得部203により取得された測定距離が、予め設定された第1距離未満である近距離範囲内にあるか否かを判定する(S104)。
【0028】
測定距離が近距離範囲内にない場合(S104,NO)、距離判定部204は、距離取得部203により取得された測定距離が、予め第1距離よりも大きく設定された第2距離以上である遠距離範囲内にあるか否かを判定する(S105)。
【0029】
測定距離が遠距離範囲内にない場合(S105,NO)、即ち、測定距離が、第1距離以上且つ第2距離未満である中距離範囲内にある場合、補正値取得部205が、補正情報において、中距離範囲について、補正された反射光のパルス幅と対応付けられた補正値を取得し(S106)、距離補正部206が、この補正値に基づいて測定距離を補正する(S107)。ここで、測定距離の補正は、距離取得部203により取得された測定距離を、補正値取得部205により取得された補正値により減算することによってなされる。
【0030】
一方、測定距離が遠距離範囲内にある場合(S105,YES)、補正値取得部205が、補正情報において、遠距離範囲について、補正された反射光のパルス幅と対応付けられた補正値を取得し(S108)、距離補正部206が、この補正値に基づいて測定距離を補正する(S107)。
【0031】
また、ステップS104において、測定距離が近距離範囲内にある場合(S104,YES)、補正値取得部205が、補正情報において、近距離範囲について、補正された反射光のパルス幅と対応付けられた補正値を取得し(S109)、距離補正部206が、この補正値に基づいて測定距離を補正する(S107)。
【0032】
(補正情報)
補正情報について説明する。
図5は、収録された距離誤差を示すグラフである。
図6は、反射光のパルス幅に対応する補正値を示すグラフである。
【0033】
上述したように、補正情報は、近距離範囲、中距離範囲、遠距離範囲のそれぞれについて、別個に、反射光のパルス幅と補正値とが対応付けられるものであり、予め記憶装置23に記憶される。
【0034】
この補正情報は、事前に収録される収録データに基づいて作成される。収録データは、対象物Tとの距離を既知として、この距離が、近距離範囲に属する所定の近距離である場合、遠距離範囲に属する所定の遠距離である場合のそれぞれについて、対象物Tの反射率を変化させながら収録される。
図5に示すように、個々の収録データは、測定距離の距離誤差とこれに対応する反射光のパルス幅とを含み、距離誤差、反射光のパルス幅のそれぞれを軸にとる2軸上にプロットされる。
【0035】
次に、近距離の場合、遠距離の場合のそれぞれについて、
図6に示すような、プロットされた複数の収録データから近似曲線を求めたグラフが作成され、このグラフに基づいて近距離範囲、遠距離範囲のそれぞれについて、反射光のパルス幅と補正値とを対応付けた補正情報が作成される。また、中距離範囲については、近距離範囲の補正情報と、遠距離範囲の補正情報とを線形補間することにより作成される。
【0036】
(誤差補正装置による効果)
誤差補正装置による効果について説明する。
図7は、補正がなされない場合の距離誤差を示すグラフである。
図8は、補正がなされた場合の距離誤差を示すグラフである。
【0037】
誤差補正装置2によれば、
図7に示すような測定距離における距離誤差を、
図8に示すように低減させることができる。また、
図7においては、反射率や測定距離が距離誤差に影響を及ぼしているのに対し、補正によって、反射率や測定距離の影響が低減されることが
図8からわかる。
【0038】
なお、本実施形態において、誤差補正装置2を距離測定装置1とは異なる装置として説明したが、距離測定装置1の一機能として提供されても良い。また、誤差補正装置2は、測定距離の誤差に係る情報を、必ずしも直接に距離測定装置1から取得する必要なく、例えば、測定距離の誤差に係る情報が記録されたデータベースから取得するようにしても良い。また、補正情報についても、外部のデータベースから取得するようにしても良い。
【0039】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
2 誤差補正装置
201 パルス幅取得部
205 補正値取得部
206 距離補正部