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特許7221053生体現象の時間的進行の判定方法ならびに関連する方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】生体現象の時間的進行の判定方法ならびに関連する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20230206BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018559267
(86)(22)【出願日】2017-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 IB2017052722
(87)【国際公開番号】W WO2017195126
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-02-25
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/052699
(32)【優先日】2016-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】516369608
【氏名又は名称】イセエム(アンスティテュ・デュ・セルヴォー・エ・ドゥ・ラ・ムワル・エピニエール)
【氏名又は名称原語表記】ICM(INSTITUT DU CERVEAU ET DE LA MOELLE EPINIERE)
(73)【特許権者】
【識別番号】513072237
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク
(73)【特許権者】
【識別番号】505026125
【氏名又は名称】インリア・インスティテュート・ナショナル・ドゥ・ルシェルチェ・アン・インフォマティック・エ・アン・アートマティック
【氏名又は名称原語表記】INRIA INSTITUT NATIONAL DE RECHERCHE EN INFORMATIQUE ET EN AUTOMATIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】デュルルマン,スタンレイ
(72)【発明者】
【氏名】スキラッティ,ジャン-バティスト
(72)【発明者】
【氏名】アラソンニエル,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】コリオ,オリヴィエ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0053447(US,A1)
【文献】国際公開第2015/006489(WO,A1)
【文献】特開2011-085601(JP,A)
【文献】特表2009-528059(JP,A)
【文献】特表2009-538631(JP,A)
【文献】特開2016-028584(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102609946(CN,A)
【文献】SCHIRATTI, J.-B. et al.,Mixed-effects model for the spatiotemporal analysis of longitudinal manifold-valued data,5th MICCAI Workshop on Mathematical Foundations of Computational Anatomy,2015年,hal-01245905,p.48-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
G01N 33/50
A61B 10/00 H
G16H 10/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行判定するための指標を提供する方法であって、生体現象が疾患または老化である判定方法であり、その方法は、
最初のデータを提供するステップであって、最初のデータが研究対象の被験体のための疾患または老化の進行のバイオマーカーである、ステップと、
数値モデル(NM)を提供するステップであって、数値モデル(NM)がリーマン多様体(RM)の関数であり、数値モデル(NM)がバイオマーカーの値に、生体現象の時間的進行軌道および多数の被験体の中での生体現象の進行軌道のばらつきを関連づけ、数値モデル(NM)が多数の被験体の異なる時点で取られたバイオマーカーに対して期待値最大化技術で確率近似を使用して得られる、ステップと、
最初のデータを同じリーマン多様体(RM)上の少なくとも1つの点に変換するステップと、
研究対象の被験体の生体現象の時間的進行を判定する指標を提供するために、変換するステップにおける少なくとも1つの点における数値モデル(NM)を使用するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
生体現象がその時間的進行が3年超に及ぶ生体現象のことである請求項1記載の方法。
【請求項3】
生体現象が神経変性疾患である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
最初のデータを提供するステップで、最初のデータが神経心理学的バイオマーカーである請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
研究対象の被験体が動物ある請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
研究対象の被験体が哺乳類である請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
研究対象の被験体が人間である請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
数値モデル(NM)を提供するステップで、期待値最大化技術での確率近似がモンテカルロマルコフ連鎖確率近似期待値最大化技術である請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
数値モデル(NM)を提供するステップで、被験体の数が100を上回るまたは等しい請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
数値モデル(NM)で、多数の被験体の中での生体現象の進行軌道のばらつきが多数のバイオマーカー値の時間の標準偏差として提供される請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
被験体が疾患を患う危険性があるということを予測するためのデータを提供する方法であり、その予測方法は少なくとも、
第一の時間的進行を得るために、生体現象が疾患である、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施するステップと、
被験体が疾患を患う危険性がある、ということを第一の時間的進行に基づいて予測するステップと、
を含む、方法。
【請求項12】
疾患の診断のためのデータを提供する方法であり、その診断方法は少なくとも、
第一の時間的進行を得るために、生体現象が疾患である、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施するステップと、及び
第一の時間的進行に基づいて疾患を診断するステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
病変を予防および/または治療するための治療標的を特定するためのデータを提供する方法であって、その方法は少なくとも、
第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っている被験体に関するデータである、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施するステップと、
第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていない被験体に関するデータである、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施するステップと、
第一および第二の時間的進行の比較に基づいて治療標的を選定するためのデータを提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
バイオマーカーの特定方法であり、そのバイオマーカーは病変の診断用バイオマーカー、病変の感受性バイオマーカー、病変の予後バイオマーカーまたは病変の治療に対する予測バイオマーカーであり、その方法は少なくとも、
第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っている被験体に関するデータである、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施するステップと、
第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていない被験体に関するデータである、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施するステップと、
第一および第二の時間的進行の比較に基づいてバイオマーカーを選定するステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
薬として有効な化合物をスクリーニングする方法であり、その化合物は病変を予防および/または治療するために既知の治療標的に対する効果を有し、その方法は少なくとも、 第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていて化合物を投与されている被験体に関するデータである、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施するステップと、
第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていて化合物を投与されていない被験体に関するデータである、請求項1~10のいずれか一項記載の研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施するステップと、
第一および第二の時間的進行の比較に基づいて化合物を選定するステップと、
を含む、方法。
【請求項16】
好適なコンピューター装置でコンピュータプログラムが実行された時に、請求項1~15のいずれか一項記載の方法のステップを実施するための指示を含むコンピュータプログラムエンコードされているコンピュータ読み取り可能な媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、生体現象の時間的進行の判定方法に関係する。本発明は、関連する予測方法、関連する診断方法、関連する治療標的の特定方法、関連するバイオマーカーの特定方法および関連するスクリーニング方法にも関する。本発明は、これらの方法のうち1つを実施するために適応された、コンピュータプログラム製品およびコンピュータ読み取り可能な媒体にも関係する。
【0002】
発明の背景
例えばパーキンソンまたはアルツハイマー病といった加齢に伴う脳疾患は、複雑な疾患であり、脳の代謝、構造および機能への複数の影響を有する。疾患の経過中におけるこれらの影響の順序およびタイミングを示す疾患進行のモデルは、依然としておおむね仮説上のままである。データ駆動型モデルの推定に基づく疾患進行のパターンの実験的証拠を示すことを期待して、近年、大規模なマルチモーダルデータベースが収集されてきた。必ずしも全被験体にわたって対応してはいない複数の時点での、何人かの被験体の反復測定値を含んでいる、という意味で、これらのデータベースは、縦断的である。現に、そのようなデータベースから疾患進行のモデルを学習するということは、大きい方法論的課題を引き起こす。
【0003】
主な困難は、所与の個体の年齢がこの個体の疾患進行の段階についての情報を示さない、という事実にある。アルツハイマー病の最初の臨床症状は、ある患者では40歳、別の患者では80歳で、現れることがある。疾患の期間も、数年から数十年まで患者間で異なることがある。それに、疾患の発現は、症状の発現に対応していない:最近の研究によると、症状に先立って疾患の無症状期がある可能性が高いが、それについては、ほとんど分かっていない。結果として、年齢による測定値の回帰に基づく統計モデルは、疾患進行をモデル化するには不適切である。
【0004】
発明の概要
本発明は、被験体から取られたデータに基づいて生体現象、特に神経変性疾患の、時間的進行を判定することを目指している。
【0005】
このために、本発明は、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法に関係し、その方法は、最初のデータが研究対象の被験体のためのバイオマーカーに関するデータであり、バイオマーカーが生体現象の進行に関する、最初のデータを提供するステップ、数値モデルがリーマン多様体の関数であり、数値モデルがバイオマーカーの値、生体現象の時間的進行軌道および多数の被験体の中での生体現象の進行軌道のばらつきに関するデータに関連し、数値モデルが多数の被験体の異なる時点で取られたバイオマーカーに関するデータに対して期待値最大化技術で確率近似を使用して得られる、数値モデルを提供するステップ、最初のデータを同じリーマン多様体上の少なくとも1つの点に変換するステップおよび研究対象の被験体の生体現象の時間的進行を判定するために数値モデルを使用するステップを含む。
【0006】
本発明は、被験体から取られたデータに基づいて生体現象の時間的進行を判定することを可能にする。
【0007】
被験体から取られたデータは、研究対象の被験体のバイオマーカーに関するデータであり、バイオマーカーは、生体現象の進行に関する。
【0008】
数値モデルを構築するのに使用されるデータとは異なる、被験体から取られたデータで方法を実施することを可能にする被験体から取られたデータには、制約がほとんどない。唯一の制約は、被験体から取られたデータおよび数値モデルを構築するのに使用されるデータが同じバイオマーカーに関している、ということである。
【0009】
変換ステップは、そのような自由を可能にする。
【0010】
加えて、縦断的多様体値データの混合効果モデルの定義および推定のための一般的な統計フレームワークを提案することによって、数値モデルは、興味深い結果を得ることを可能にする。幾何学のツールの使用は、扱うべきデータおよび問題についての仮定をほとんどしない方法を我々が導き出すことを可能にする。モデル化の選択は、結局、多様体上の計量の定義になる。この幾何モデル化は、一意的なやり方でデータの中に見られる差を空間的および時間的成分に分解するための鍵である、多様体上の平行な曲線の概念を我々が導入することも可能にする。モデルの非線形性のため、パラメータの推定は、観測された尤度の適切な最大化に基づくべきである。この問題点に取り組むために、期待値最大化アルゴリズムの確率バージョンが使用される。
【0011】
有利ではあるが必須ではない本発明のさらなる態様によると、生体現象の時間的進行の判定方法は、技術的に許容できる任意の組み合わせで取り入れられた、下記のフィーチャのうち1つまたはいくつかを具現化してもよい:
【0012】
-生体現象がその時間的進行が3年超に及ぶ生体現象である。
【0013】
-生体現象が神経変性疾患である。
【0014】
-最初のデータを提供するステップで、最初のデータが神経心理学的バイオマーカーに関するデータである。
【0015】
-研究対象の被験体が動物、好ましくは哺乳類、より好ましくは人間である。
【0016】
-数値モデルを提供するステップで、期待値最大化技術での確率近似がモンテカルロマルコフ連鎖確率近似期待値最大化技術である。
【0017】
-数値モデルを提供するステップで、被験体の数が100を上回るまたは等しい。
【0018】
-数値モデルで、多数の被験体の中での生体現象の進行軌道のばらつきに関するデータが多数のバイオマーカー値の時間の標準偏差として提供される。
【0019】
本発明は、被験体が疾患を患う危険性があることを予測する方法にも関係し、その予測方法は、少なくとも、第一の時間的進行を得るために、生体現象が疾患である、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施するステップおよび第一の時間的進行に基づいて被験体が疾患を患う危険性があることを予測するステップを含む。
【0020】
本発明は、疾患を診断する方法にも関係し、その診断方法は、少なくとも、第一の時間的進行を得るために、生体現象が疾患である、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施するステップおよび第一の時間的進行に基づいて疾患を診断するステップを含む。
【0021】
本発明は、病変を予防および/または治療するための治療標的の特定方法にも関係し、その方法は、第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っている被験体に関するデータである、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施し、第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていない被験体に関するデータである、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施し、第一および第二の時間的進行の比較に基づいて治療標的を選定する、というステップを含む。
【0022】
本発明は、バイオマーカーの特定方法にも関し、バイオマーカーが病変の診断用バイオマーカー、病変の感受性バイオマーカー、病変の予後バイオマーカーまたは病変の治療に対する予測バイオマーカーであり、その方法は、第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っている被験体に関するデータである、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施し、第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていない被験体に関するデータである、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施し、第一および第二の時間的進行の比較に基づいてバイオマーカーを選定する、というステップを含む。
【0023】
本発明は、薬として有効な化合物をスクリーニングする方法にも関し、化合物は、病変を予防および/または治療するために既知の治療標的に対する効果を有し、その方法は、第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていて化合物を投与されている被験体に関するデータである、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施し、第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていて化合物を投与されていない被験体に関するデータである、前に記述した研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施し、第一および第二の時間的進行の比較に基づいて化合物を選定する、というステップを含む。
【0024】
本発明は、好適なコンピューター装置でコンピュータプログラム製品が実行された時に、前に記述した方法のステップを実施するための指示を含むコンピュータプログラム製品にも関する。本発明は、前に記述したコンピュータプログラム製品がエンコードされているコンピュータ読み取り可能な媒体にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明は、本発明の目的を制限することなく、添付図に対応しておよび説明のための例として示されている下記の説明に基づいて、より良く理解される。添付図において:
図1図1は、その相互作用が生体現象の時間的進行の判定方法を実施することを可能にする、システムおよびコンピュータプログラム製品を概略的に示し;
図2図2は、生体現象の時間的進行の判定方法を実施する例のフローチャートを示し;
図3図3は、縦断的多様体値データの例を概略的に示し;
図4図4は、リーマン多様体の数値モデルの例を概略的に示し;
図5図5は、数値モデルのもう一つの例を得るためにリーマン多様体での計算を概略的に示す。
図6図6は、数値モデルのもう一つの例を得るためにリーマン多様体での計算を概略的に示す。
図7図7は、数値モデルのもう一つの例を得るためにリーマン多様体での計算を概略的に示す。
図8図8は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図9図9は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図10図10は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図11図11は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図12図12は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図13図13は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図14図14は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図15図15は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
図16図16は、図5~7の数値モデルを使用して得られた実験的結果を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
一部の態様の詳細な説明
システム10およびコンピュータプログラム製品12が図1に表されている。コンピュータプログラム製品12とシステム10との間の相互作用は、生体現象の時間的進行の判定方法を実施することを可能にする。
【0027】
システム10は、コンピュータである。本ケースでは、システム10は、ノートパソコンである。
【0028】
より一般的には、システム10は、計算システムのレジスタおよび/またはメモリ内の例えば電子といった物理的な量として表されたデータを計算システムのメモリ、レジスタまたは他のそのような情報ストレージ、伝送または表示デバイス内の物理的な量として同様に表された他のデータに操作および/または変換するために適応された、コンピュータもしくは計算システムまたは同様の電子計算機である。
【0029】
システム10は、プロセッサ14、キーボード22および表示ユニット24を含む。
【0030】
プロセッサ14は、データ処理ユニット16、メモリ18およびリーダー20を含む。リーダー20は、コンピュータ読み取り可能な媒体を読み取るように適応されている。
【0031】
コンピュータプログラム製品12は、コンピュータ読み取り可能な媒体を含む。
【0032】
コンピュータ読み取り可能な媒体は、プロセッサのリーダーで読み取ることができる媒体である。コンピュータ読み取り可能な媒体は、電子指示を保存するのに好適であり、コンピュータシステムバスに連結することができる媒体である。
【0033】
そのようなコンピュータ読み取り可能なストレージ媒体は、例として、ディスク、フロッピーディスク、光ディスク、CD-ROM、光磁気ディスク、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、電気的プログラム可能な読み取り専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能およびプログラム可能な読み取り専用メモリ(EEPROM)、磁気もしくは光カードまたは電子指示を保存するのに好適であり、コンピュータシステムバスに連結することができる、任意の他の種類の媒体である。
【0034】
コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能なストレージ媒体に保存される。コンピュータプログラムは、一つまたは複数の保存されたプログラム指示の数列を含む。
【0035】
コンピュータプログラムは、データ処理ユニット16にロード可能であり、コンピュータプログラムがデータ処理ユニット16によって実行されている時に生体現象の時間的進行の判定方法が実行されるように適応されている。
【0036】
これから、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法を実施する例を参照しながら、システム10の動作について記述する。
【0037】
研究対象の被験体は、動物である。
【0038】
好ましくは、研究対象の被験体が哺乳類である。
【0039】
より好ましくは、研究対象の被験体が人間である。
【0040】
例証のために、明細書の残りの部分では、研究対象の被験体が人間であると仮定する。
【0041】
最も一般的な定義では、生体現象とは、その時間的進行を定義することができる生体現象のことである。
【0042】
例として、疾患または老化は、その時間的進行を定義することができる例である。
【0043】
具体的な態様によると、生体現象とは、その時間的進行が3年超に及ぶ生体現象のことである。
【0044】
より具体的な態様によると、生体現象とは、その時間的進行が10年超に及ぶ生体現象のことである。
【0045】
加えて、生体現象の発現または生体現象の期間のうち、少なくとも1つが被験体によって異なる。
【0046】
そのような生体現象の典型的な例は、神経変性疾患である。
【0047】
神経変性疾患とは、主にヒトの脳のニューロンに影響を及ぼす一連の疾患のことを指し示す。
【0048】
アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、運動ニュ-ロン病、ハンチントン病、脊髄小脳失調および脊髄性筋萎縮症は、神経変性疾患の例である。
【0049】
例証のために、明細書の残りの部分では、生体現象がアルツハイマー病であると仮定する。
【0050】
判定方法は、4つのステップを含む:最初のデータを提供するステップS30、数値モデルを提供するステップS32、変換するステップS34および使用するステップS36。
【0051】
ステップS30では、最初のデータが提供される。
【0052】
最初のデータとは、研究対象の被験体のバイオマーカーに関するデータのことである。
【0053】
バイオマーカーは、生体現象の進行に関する。
【0054】
例として、最初のデータは、アルツハイマー病検知専用の認知テストを介して収集されたデータである。
【0055】
もう一つの態様によると、最初のデータは、医用画像によって得られたデータである。
【0056】
さらにもう一つの態様によると、最初のデータは、異なる手段によって収集されたデータの組み合わせである。一例として、最初のデータは、認知テストおよび医用画像によるデータを介して収集されたデータである。
【0057】
好ましくは、最初のデータは、同じ被験体でいくつかの時点で収集されたデータである。
【0058】
記述された具体的な例では、最初のデータは、例として、例えば記憶力または実行といった認知または運動機能を評価する、神経心理学的バイオマーカーに関するデータである。
【0059】
ステップS32では、NMというラベルを付けられた数値モデルが提供される。
【0060】
数値モデルNMは、RMと名付けられたリーマン多様体の関数である。
【0061】
数値モデルNM、バイオマーカーの値、生体現象の時間的進行軌道および多数の被験体の中での生体現象の進行軌道のばらつきに関するデータ関連づける。
【0062】
好ましい態様によると、多数の被験体の中での生体現象の進行軌道のばらつきに関するデータが多数のバイオマーカー値の時間の標準偏差として提供される。
【0063】
そのため、数値モデルNMは、統計モデルとして解釈できる。
【0064】
数値モデルNMは、多数の被験体の異なる時点で取られたバイオマーカーに関するデータに対して期待値最大化技術で確率近似を使用して得られる。
【0065】
これは、数値モデルNMが縦断的データに関係する、ということを意味する。
【0066】
図3は、縦断的データの具体的な例を例示する。
【0067】
各被験体で、異なる瞬間に彼らの脳の画像をいくつか撮影する。
【0068】
より正確には、被験体1では、2枚の画像I40およびI42が提供される。
【0069】
被験体2では、3枚の画像I44、I46およびI48が提供される。
【0070】
被験体3では、2枚の画像I50およびI52が提供される。
【0071】
画像I48およびI52(図3に矢印で概略的に例示)を除いて、画像は、異なる時点で撮影される。
【0072】
図3のケースは、純粋に説明のためのものであり、通例、縦断的データは、もっと多い。
【0073】
実のところ、好ましくは、被験体の数は、100を上回るまたは等しい。
【0074】
換言すると、データは、p人の個体の反復多変量測定値からなる。所与の個体では、測定値は、ti,l <・・・<ti,niの時点で得られる。i番目の個体のj回目の測定値は、
【数1】

で表される。明細書の残りの部分では、各観測値
【数2】

は、
【数4】

に埋め込まれていてリーマン計量
【数5】

を備えた、N次元のリーマン多様体
【数3】

上の点であると仮定する。
【0075】
一般的な時空間モデルは、その最大尤度の推定値を閉形式で得ることができない統計モデルのクラスに属する。この問題点は、期待値最大化技術で確率近似を使用することによって取り組まれる。
【0076】
好ましくは、期待値最大化技術での確率近似がモンテカルロマルコフ連鎖確率近似期待値最大化技術である。
【0077】
ステップS32で提供される数値モデルNMの例が図4に概略的に表されている。
【0078】
moy、CおよびCの3つの曲線を提供することによって、数値モデルNMを提供することができる。3つの曲線は、アルツハイマー病の時間的進行の3つの種類に対応している。これらの曲線は、平均疾患進行軌道(Cmoy)および多数の被験体のバイオマーカーの値におけるプラスまたはマイナス1標準偏差でのこの軌道のばらつき(CおよびC)を表すことができる。
【0079】
2つの曲線L1およびL2が図4に表されている。これらの曲線は、平均曲線Cmoyおよび第二の曲線Cとの間の時間的対応を示している。
【0080】
具体的な例として、図5~7に関して、アルツハイマー病に適している特定の数値モデルNMをどのようにして得るかをこれから例示する。
【0081】
【数6】

を測地線的に完全であると仮定されるリーマン計量
【数7】

を備えた次元Nのリーマン多様体とする。
【0082】
もしも
【数8】

の測地線が
【数9】

で定義され、この表記が一連の実数のためのものであれば、リーマン計量は、測地線的に完全である。測地線は、加速を有さない多様体γ:
【数10】

上に描かれた曲線である、ということが思い起こされる。
【0083】
リーマン計量
【数11】

は、
【数12】

上の一意のアフィン接続、すなわち、
【数13】

で表されるレヴィ・チヴィタ接続を定義する。γが
【数14】

の測地線を表すとする。
【数15】

に接線ベクトルξが与えられると、
【数16】

で表されるγ沿いのξの平行移動は、下記の方程式を満足させるγ沿いのベクトル場である、ということが思い起こされる:
【数17】

【数18】

とする。
【0084】
【数20】

での
【数19】

のリーマン指数は、
【数21】

で表される。
【0085】
【数22】

の場合、
【数23】

は、初期速度
【数26】


【数25】

から生じた
【数24】

での測地線の時間1での値を表す。
【0086】
N(N≧2)スカラーバイオマーカーの族の時間的進行を研究する。形式
【数27】

の縦断的データセットを考察する。この縦断的データセットは、反復時点でp人の個体を観測することによって得られる。ベクトル
【数28】

は、i番目の個体のj回目の観測値(1≦j≦n)を表す。yi,j,kで表される
【数29】

のk番目の座標は、時間ti,jでのk番目のバイオマーカーの測定値に対応している。
【0087】
各測定値yi,j,kは、測地線的に完全な1次元リーマン多様体(M,g)に属している、ということが仮定される。この状況では、観測値
【数30】

は、積多様体
【数31】

の点である、と考えることができる。バイオマーカーのこの族の平均進行は、
【数33】

で表される積計量を備えた多様体
【数32】

上の測地線軌道によってモデル化される。
【0088】
数値モデルNMは、1次元多様体の積である多様体上の観測値のために記述される。このフレームワークは、バイオマーカーの族の時間的進行を解析するのに特に好都合である。
【0089】
バイオマーカー同士の相対的な進行を判定するため、平均軌道は、測地線のパラメトリック族の中から選択される:
(t→(γ(t),γ(t+δ),...,γ(t+δN-1)))δ
ただし:
【数34】

および
・γは、Mの中の点p、TpMの中の時間tおよび速度vによってパラメータ化された、1次元多様体Mの測地線である。
この、測地線γのパラメータ化は、
γ(t)=pおよびγ(t)=v
となるような自然なパラメータ化である。
【0090】
このパラメータ化された測地線族の中から平均軌道を選択することによって、平均して、バイオマーカーは、同じ軌道をたどるが時間的にずれている、ということが仮定される。異なるバイオマーカーの進行間の遅れは、ベクトル
【数35】

によって測定される。パラメータδ(1≦i≦N-1)は、2つの連続したバイオマーカー間の相対的な遅れを測定する。最初のバイオマーカーの軌道が値pに時間tに到達する一方で、他の軌道は、同じ値pに時間tに対してずれた異なる時点で到達するので、パラメータtは、基準時間の役割を果たす。
【0091】
数値モデルNMは、階層モデルである:データ点は、被験体固有の進行の軌道からサンプリングされたものであると仮定される。これらの個体の軌道は、平均軌道γδから導き出される。i番目の固体の被験体固有の軌道は、計量
【数38】

で定義された内積のγδ(t)と直交する
【数37】

の非ゼロ接線ベクトル
【数36】

を考察することによって構成される。この接線ベクトル
【数39】

は、測定値の空間における個体の軌道を登録することを可能にする空間のずれである。接線ベクトル
【数40】

は、測地線γδ沿いに時間tから時間sまで平行移動を使用して移動させられる。この移動させられた接線ベクトルは、
【数41】

で表される。点γδ(s)で、
【数43】

のリーマン指数を取り入れることによって、
【数42】

での新しい点が得られる。この新しい点は、ηwi(γδ,s)で表される。sは、変動するので、この点は、曲線γδに対して「平行」であると考えられる曲線
【数44】

を描く(図5参照)。接線ベクトル
【数45】

上の直交条件は、平行線上の点
【数46】

が平均軌道上でよりもこの平行線上で同じペースで動く、ということを確実にする重要な仮説である。この仮説は、空間的成分と時間的成分との間の分解の一意性を確実にする。
【0092】
i番目の個体の軌道γは、平行線
【数47】

を再パラメータ化することによって得られ、写像Ψ(s)=α(s-t-τ)+tは、異なる個体進行軌道を時間的に登録することを可能にする被験体固有のアフィン再パラメータ化である。そのようなアフィン再パラメータ化は、一変量モデルの観点から、接線ベクトル
【数48】

を点pと関連するランダム効果として考えることができる、タイムワープに対応している。
【0093】
パラメータαは、i番目の個体が平均よりも速くまたは遅く進行しているかどうかをエンコードする加速係数であり、τは、平均に対するi番目の個体の進みまたは遅れを特徴付ける時間のずれであり、
【数49】

は、個体の軌道をたどるペースが一旦正規化したら、所与の段階における個体間の測定値のばらつきをエンコードする空間のずれである。これらの各パラメータは、ランダムで、観測されず、変数である、と仮定される。
【0094】
【数50】

は、積計量を備えているため、接線ベクトル
【数51】

の平行移動は、k番目(1≦k≦N)の成分が1次元多様体Mでの曲線s→γ(s+δk-1)沿いの接線ベクトル
【数52】

の平行移動に等しい、N次元のベクトルである。当然の結果として、下記のようになる:
【数53】
【0095】
接線ベクトル
【数54-1】


【数54】

のリーマン指数を取り入れるということは、結局ベクトルの各成分のMのリーマン指数を取り入れるということになる。もしも
【数55】

がMでのリーマン指数写像を表すのであれば、
【数56】

のk番目(1≦k≦N)の成分は、下記によって示される:
【数57】

縦断的データセット(yi,j,yi,j)(1≦i≦p,1≦j≦n)の場合、数値モデルNMは、下記を書き出す:
【数58】

とりわけ、k番目のバイオマーカーの場合、この数値モデルNMは、下記を書き出す:
【数59】

ただし:
・η付きのα=exp(η)は、確率分布
【数60】

に従うと仮定され、Nは、ゼロ平均および分散
【数61】

のガウス分布であり、
・τは、
【数62】

による確率分布に従うと仮定され、
【数62-1】

は、ガウス分布の分散であり、
・εi,jは、N(0,σ、I)による確率分布に従うと仮定され、σは、ガウス分布の分散、Iは、n次数の単位行列であり、
・接線ベクトルwは、N<N個の統計的に独立した成分の線形結合であると仮定される。これは、
【数63】

を書き出し、ただし、Aは、その列が
【数64】

のベクトルであるN×N個の行列の階数Nであり、
【数65】

は、パラメータ1/2のラプラス分布に従うN個の独立したソースのベクトルである。
【0096】
結果として、モデルの固定効果は、平均測地線のパラメータである:多様体上の点
【数66】

、時点tおよび速度
【数67】

。ランダム効果は、加速係数α、時間のずれτおよび空間のずれ
【数68】

である。ランダム効果
【数69】

は、隠れた変数として考えられる。観測されたデータ
【数70】

で、
【数70-1】

は、モデルの完全なデータを形成する。この状況で、期待値最大化(EM)アルゴリズムは、θと表されるモデルのパラメータの最大尤度の推定値を計算するのにとても効率的である。
【0097】
換言すると、数値モデルNMは、どうやら下記を書き出すベクトルパラメータ
【数71】

に左右されるようだ:
【数72】
【0098】
ただし、vec(A)は、行ベクトルに連結された行列Aの成分を表す。
【0099】
加えて、モデルのランダム効果は、
【数73】

によって記述される。
【0100】
期待値最大化(EM)アルゴリズムの確率バージョンは、数値モデルNMのベクトルパラメータ
【数74】

を推定するのに使用される。モデルの非線形性のため、EMアルゴリズムのEステップは、扱いにくい。EMアルゴリズムの確率バージョン、すなわちモンテカルロマルコフ連鎖確率近似期待値最大化(MCMC-SAEM)アルゴリズムが使用される。
【0101】
MCMC SAEMアルゴリズムの理論的収束を確実にするため、モデルのパラメータを、モデルが曲指数族に属することを確実にするために同等である、独立したガウスランダム変数の実現値として考える。
【0102】
この手法は、下記の仮説をもたらす。
・pは、
【数75】

による確率分布に従い、
【数75-1】

は、それぞれガウス分布の平均および分散であり、
・tは、確率分布
【数76】

に従い、
【数76-1】

は、それぞれガウス分布の平均および分散であり、
・vは、確率分布
【数77】

に従い、
【数77-1】

は、それぞれガウス分布の平均および分散であり、
・全てのkについて、δkは、確率分布
【数78】

に従い、
【数78-1】

は、それぞれガウス分布の平均および分散であり、
・行列Aは、
【数79】

として書き出し可能であると仮定され、ただし、全てのkについて、cは、
【数80】

による確率分布に従い、
【数80-1】

は、それぞれガウス分布の平均および分散であり、Aは、グラム・シュミット法を使用して得られたγ(t)と直交する
【数81】

の部分空間の正規直交基底である。この仮説のもとで、ランダム変数
【数81-1】

は、モデルの隠れた変数であると考えられる。行列Aに関する前の仮説は、Aの列上の直交条件を確実にする。直交条件は、平行な曲線ηwi(γ,.)上の点が平均軌道と同じペースで動くことを確実にするので、時間再パラメータ化関数のパラメータのみが被験体間の進行の動態の差の原因となる。この特性は、空間的成分と時間的成分との間の一意の分解、ひいてはモデルの特定可能性を確実にするのに極めて重要である。
【0103】
そのため、前の仮説のもとで、モデルのベクトルパラメータ
【数82】

は:
【数83】
【0104】
一方で、モデルの隠れた変数
【数84】

は:
【数85】
【0105】
ベクトルパラメータ
【数86】

および隠れた変数
【数87】

を得るために、収束まで、3つのサブステップ(シミュレーションの第一サブステップ、確率近似の第二サブステップおよび最大化の第三サブステップ)の間で、MCMC-SAEMが反復される。
【0106】
kが1よりも大きい整数であり、
【数88】

(それぞれ
【数89】

)がアルゴリズムの(k-1)回目の反復でのパラメータ(それぞれ隠れた変数)を表すとする。
【0107】
【数90】

回目の反復は、下記のように記述することができる。
【0108】
シミュレーションのサブステップで、その定常分布が観測値
【数91】

およびパラメータ
【数92】

の最新の推定値が分かっている隠れた変数の条件付き分布である、エルゴード的マルコフ連鎖の推移核からz(k)がサンプリングされる。このサンプリングは、ギブスサンプラースキーム内のメトロポリス・ヘイスティングス技術を使用して行われる。
【0109】
確率近似のサブステップで、下記のように十分統計量を計算することによって確率近似が行われる:
【数93】
【0110】
ただし、(εは、正のステップサイズの減少数列である。
【0111】
換言すると、確率近似サブステップは、下記のようにまとめられる完全対数尤度の対数
【数94】

上の確率近似からなる:
【数95】
【0112】
ただし、(εは、
【数96】

を満足させる]0,1]の中の正のステップサイズの減少数列である。
【0113】
最大化のサブステップで、十分統計量の確率近似から閉形式でパラメータの更新が得られる。
【0114】
例として、下記の式によって最大化ステップでパラメータ推定値が更新される。
【数97】
【0115】
要約すると、縦断的多様体値データ用の一般的な階層時空間モデルが開示されている。データは、個体の群の経時的反復測定値からなる。この数値モデルNMは、所与のリーマン多様体の測地線として考えられる群平均の進行の軌道を推定することを可能にする。個体の進行軌道は、平均軌道の平行なずれおよび時間再パラメータ化からなるランダム変動として得られる。これらの時空間変換は、軌道をたどる方向およびペースの変化を本出願人が特徴付けることを可能にする。モデルのパラメータは、期待値最大化(EM)アルゴリズムの確率近似、モンテカルロマルコフ連鎖確率近似EM(MCMC SAEM)アルゴリズムを使用して推定される。
【0116】
数値モデルNMで得られた実験的結果は、実験の項に例示されている。
【0117】
このようにして、提供するステップS32の終わりに、最初のデータおよび数値モデルNMの両方が得られる。
【0118】
変換するステップS34で、最初のデータが同じリーマン多様体RM上の少なくとも1つの点に変換される。
【0119】
使用するステップS36で、数値モデルNMを使用して、研究対象の被験体のアルツハイマー病の時間的進行が判定される。
【0120】
進行の軌道がリーマン多様体RM上の点として変換された最初のデータを通過またはできるだけ近くを通るように、NMのパラメータを適応させる(パーソナライズする)必要がある限り、これらのステップS34およびS36を実施するのは、困難である。
【0121】
例として、NMのばらつきのパラメータを使用して、例えば図4の例の曲線C1およびC2のように、時空間変換によって平均軌道から導き出されるリーマン多様体RM上に一連の軌道を作成することができる。リーマン多様体RMにおいて最初のデータに対応する点を使用して、これらの点との距離が最小になる曲線が選定される。
【0122】
もしも第一の曲線Cとの距離が最も小さいのであれば、研究対象の被験体のアルツハイマー病の予期される時間的進行が第一の曲線Cであると判定される。
【0123】
そのため、本発明は、被験体から取られたデータに基づいて生体現象の時間的進行を判定することを可能にする。
【0124】
本方法は、リーマン多様体RMおよびその計量が先験的に選択される限り良い多様性を提供し、我々が解剖学的、生理学的制約をモデルに導入することを可能にする。一般的な時空間モデルの定義は、他の選択を必要としない。本明細書において導入されるモデルは、多様体上の平行な曲線の概念に基づいている。モデルのランダム効果は、個体進行軌道を空間的および時間的に登録することを可能にする。
【0125】
本発明における、必要とされる他の選択の非存在は、モデルをデータに適合させざるを得ない先行技術とは異なる。換言すると、データに適合させるのに縮約モデル(仮説あり)が使用され、それは、一切の適合より前に、仮定が既知であることを意味する。それどころか、ステップS36でモデルがデータに適応され、得られたモデルは、仮説を判定することを可能にする。そのような状況で、ステップS34は、データが近似になるようにモデルのパラメータをリスケールするステップとして解釈することができる。このリスケールは、第二および第三の実験で特に解説されている。
【0126】
加えて、最初のデータに制約が課せられていない限り、提案された判定方法は、特に具現化が容易である、ということが強調されるべきである。
【0127】
取り組む問題の複雑さを考えると、実のところ、提供するデータに制約が課せられることが予期されたかもしれない。とりわけ、データを特定の時点で取る必要がない。具体的な例として、例えば疾患が始まった日といった特定の基準時間にデータを得る必要がない。
【0128】
さらに、時間的進行を判定するための本方法は、複数の用途に使用可能である。
【0129】
例として、そのような時間的進行の判定方法は、被験体が疾患を患う危険性がある、ということを予測する方法に使用される。
【0130】
予測方法は、第一の時間的進行を得るために、生体現象が疾患である、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施することを含む。予測方法は、被験体が疾患を患う危険性がある、ということを第一の時間的進行に基づいて予測することも含む。
【0131】
特定の態様によると、予測方法は、いつ被験体に特定の症状が起こると予期されるかをさらに提供する。
【0132】
もう一つの例によると、時間的進行の判定方法は、疾患を診断する方法に使用される。
【0133】
診断方法は、第一の時間的進行を得るために、生体現象が疾患である、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施することを含む。診断方法は、第一の時間的進行に基づいて疾患を診断するステップも含む。
【0134】
もう一つの例によると、時間的進行の判定方法は、病変を予防および/または治療するための治療標的の特定方法に使用される。
【0135】
治療標的の特定方法は、第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っている被験体に関するデータである、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施することを含む。
【0136】
治療標的の特定方法は、第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていない被験体に関するデータである、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある時間的進行の判定方法のステップを実施することも含む。
【0137】
治療標的の特定方法は、第一および第二の時間的進行の比較に基づいて治療標的を選定するステップも含む。
【0138】
そのような状況で、用語「治療標的」は、特定の種類の患者の選定を包含するものとして広く解釈すべきである。
【0139】
さらにもう一つの例によると、判定方法は、バイオマーカーの特定方法に使用される。
【0140】
バイオマーカーは、考察される具体的な例によって異なることがある。例として、バイオマーカーは、病変の診断用バイオマーカーである。変形態様では、バイオマーカーは、病変の感受性バイオマーカー、病変の予後バイオマーカーまたは病変の治療に対する予測バイオマーカーである。
【0141】
バイオマーカーの特定方法は、第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っている被験体に関するデータである、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施することを含む。
【0142】
バイオマーカーの特定方法は、第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていない被験体に関するデータである、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施することも含む。
【0143】
バイオマーカーの特定方法は、第一および第二の時間的進行の比較に基づいてバイオマーカーを選定するステップも含む。
【0144】
もう一つの例によると、判定方法は、薬として有効な化合物のスクリーニング方法に使用される。
【0145】
化合物は、病変を予防および/または緩和および/または治療するために、既知の治療標的に対する効果を有する。
【0146】
スクリーニング方法は、第一の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていて化合物を投与されている被験体に関するデータである、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施することを含む。
【0147】
スクリーニング方法は、第二の時間的進行を得るために、最初のデータが病変を患っていて化合物を投与されていない被験体に関するデータである、研究対象の被験体に影響を及ぼす可能性がある生体現象の時間的進行の判定方法のステップを実施することも含む。
【0148】
治療標的の特定方法は、第一および第二の時間的進行の比較に基づいて治療標的を選定するステップも含む。
【0149】
前に記述した各用途は、提案された時間的進行の判定方法の可能性を例示している。
【0150】
本明細書において上記で考察された態様および代替態様を組み合わせて、本発明のさらなる態様を作成することができる。
【0151】
実験の項:第一の実験
数値モデルNMを使用して、バイオマーカーの族の時間的進行を解析する。この進行モデルは、アルツハイマー病の経過中における、ここではバイオマーカーとして考察されている、いくつかの認知機能の進行性障害の規範的シナリオを推定する。推定された平均軌道は、疾患進行の規範的シナリオを提供する。ランダム効果は、異なる個体間での一連の認知障害の順序およびタイミングの変動に対する一意の洞察を提供する。
【0152】
考察されたデータ
アルツハイマー病脳画像診断先導的研究(ADNI)のADNI1、ADNIGOまたはADNI2コホートからの神経心理学的評価テスト「ADAS-Cog 13」が使用された。これらのテストは、インターネットアドレスhttps://ida.loni.usc.edu/で特に入手可能である。
【0153】
「ADAS-Cog 13」は、いくつかの認知機能の障害をテストすることを可能にする13の質問からなる。我々の解析の目的のため、これらの項目は、4つのカテゴリーに分類される:記憶力(項目1、4、7、8および9の5項目)、言語(項目2、5、10、11および12の5項目)、実行(項目3および6の2項目)および集中力(項目13の1項目)。
【0154】
248人の個体が研究に含まれた。これらの248人の個体は、最初の受診では軽度の認知障害と診断され、最後の受診より前に診断がアルツハイマー病に変化した。被験体一人当たり平均で6回の受診があり、連続した受診間の平均期間は、6~12ヶ月である。最小の受診回数は、3であり、最大の受診回数は、11だった。
【0155】
図8~12の実験の場合
第一のケースによると、各項目のスコアは、最大可能スコアで正規化された。その結果として、各個体の各データ点は、13の正規化されたスコアからなり、多様体
【数98】

上の点として見ることができる。
【0156】
【数99】

である場合、独立したソースNの数は、1~12の間の任意の整数であり得る。独立したソースの数の選択は、9+12×Nに等しい推定されるパラメータの数に影響を及ぼす。妥当な実行時間を維持するため、Nが1、2および3に等しい状態で、3つの実験が行われた。各実験では、異なる初期パラメータでMCMC-SAEMアルゴリズムが5回実行された。最も小さい残差ノイズ分散を返した実験のみが維持された。ソースの数を増やすことによって、実験間の残差ノイズを減らすことが可能になった:N=1の場合σ=0.02、N=2の場合σ=0.0162およびN=3の場合σ=0.0159。N=2およびN=3ソースでは残差ノイズがほぼ同様であったため、それほど複雑ではないモデルで得られた結果を記述する。結果として、2つの独立したソースで得られた結果を以下にさらに発展する。
【0157】
平均軌道γδ図8に示されており、各曲線は、ADAS-Cogテストの特定の1つの項目の時間的進行を表す。推定される固定効果は、p=0.74、t=79.88歳、v=0.047単位年当たりおよび歳:
【数100】
【0158】
これは、平均して、記憶力に関する項目(項目1、4、7、8、9)は、値p=0.74にそれぞれt、t-δ、t-δ、t0-δおよびt0-δ歳で到達し、それぞれ79.88、75.2、87.6、80.7および94.3歳に対応する、ということを意味する。集中力の項目は、同じ値にt-δ13=86.1歳で到達する。集中力の項目の進行の後に実行および言語の項目が続く。
【0159】
ランダム効果は、研究対象の母集団内のこの平均軌道のばらつきを示す。時間のずれの標準偏差は、στ=8.3歳に等しく、図8の疾患進行モデルが母集団の95%で多くて±8.3歳だけ時間的にずれている、いうことを意味している。これは、母集団内での疾患発現時の年齢のばらつきの原因となる。空間のずれの加速係数および2つの独立成分の分散の影響が図10に例示されている。
【0160】
図10の最初の列は、疾患進行のペースのばらつきを例示している(加速係数のみの影響を例示するため、時間のずれは、ゼロであると仮定する)。このばらつきを対数加速係数の分散ση=0.8でエンコードする。
【0161】
第一および第二の独立成分は、認知障害の相対的なタイミングのばらつきを例示している。
【0162】
第一の独立した方向は、一部の記憶力の項目および言語の項目が他のもの、特に記憶力の項目4(□)および項目7
【数100-1】

に対して時間的にずれている、ということを示している。記憶力の項目7
【数100-2】

および集中力の項目の順序は、空間のずれがw=-σsiである個体では逆になる。それらの個体の場合、実行の項目は、言語の項目2(*)、項目12(Δ)および項目5(□)の後で、のちほど低下する。
【0163】
第二の独立成分は、第一の独立成分よりも記憶力に関する項目で、とりわけ記憶力の項目9(Δ)および項目4(□)において、より大きいばらつきを示している。空間のずれがw=-σsiである個体の場合、平均的な個体よりも、特に言語の項目12(Δ)で、言語に関する項目がのちほど低下する可能性がある。
【0164】
各個人の推定された被験体固有のランダム効果は、MCMC-SAEMの最後の反復のサンプリングステップから得られ、図9にプロットされている。図9は、正の(それぞれ負の)時間のずれを有する(平均軌道よりも前方に、それぞれ後方に、漸進的に変化していく)個体は、後期に(それぞれ早期に)アルツハイマー病に転化した個体である、ということを示している。これは、個体の時間のずれが所与の個体がアルツハイマー病と診断された年齢にかなり対応している、ということを意味する。推定された対数加速係数と時間のずれとの間には、-0.4に等しい負の相関関係がある、ということも留意される。早期に発現した患者は、進行が速い人々である、という傾向がある。
【0165】
その被験体固有のアフィン再パラメータ化を通じて、平均的なシナリオの一般的なタイムラインに所与の個体の年齢が登録される。
【0166】
図11に、時間の経過に伴った絶対誤差の合計の漸進的変化が表されている。このケースでは、絶対誤差の合計は、
【数101】

であり、
【数102】

は、i番目の個体がアルツハイマー病に転化した年齢に対応している。図11で明白なように、絶対誤差の合計は、t=77.45歳で一意の最小値を示す。この年齢は、疾病進行の規範的シナリオのタイムラインにおける症状発現の年齢として理解することができる。
【0167】
図12は、アルツハイマー病転化年齢の歳での絶対誤差に関する個体数を示すヒストグラムに対応している。換言すると、図12のヒストグラムは、
【数103】

である絶対誤差の関数の中の個体数を示している。図12のヒストグラムの解析は、年齢
【数103-1】

が真の転化年齢の予測であることを示している:予測の誤差は、母集団の50%で5歳未満である。この予測は、元からノイズが多く再現性が限られている認知スコアを解析することによってこの予測が得られるため、一層注目に値する。
【0168】
図13~16の実験の場合
第二のケースによると、各カテゴリー内のスコアが足され、最大可能スコアで正規化される。その結果として、各データ点は、4つの正規化されたスコアからなり、多様体
【数104】

上の点として見ることができる。
【0169】
モデルは、N=1、2または3の独立したソースを適用された。各実験では、異なる初期パラメータ値でMCMC SAEMが5回実行された。最も小さい残差分散σ2を返した実験が維持された。反復の最大回数は、任意に5000回に設定され、バーンイン反復は、反復3000回に設定された。反復5000回の制限は、パラメータ推定値の数列の収束を観測するのに十分である。結果として、1つのソースよりも2つおよび3つのソースの方が残差分散を減らすことをより良く可能にする(ソース1つの場合σ=0.012、ソース2つの場合σ=0.08およびソース3つの場合σ=0.084)。一切の最適化スキームなしで、アルゴリズムがMATLAB(登録商標)に実装された。反復5000回は、約1日を要した。
【0170】
推定するパラメータの数は、9+3×Nに等しかった。そのため、ソースの数は、実行時間に劇的な影響を及ぼさなかった。シミュレーションは、アルゴリズムの中で最も計算コストが高い部分であった。メトロポリス・ヘイスティングスアルゴリズムの各実行では、提案分布が事前分布であった。
【0171】
明確さの問題のためおよび3つのソースで得られた結果が2つのソースでの結果と同様であったため、2つの独立したソースで得られた実験結果をさらに詳述する。
【0172】
疾患進行γδの平均モデルが図13にプロットされている。図13は、記憶力、言語、実行および集中力の年齢による漸進的変化を正規化した認知スコアに換算して示しているグラフである。表された4つの曲線は、推定された平均軌道に対応している。垂直線がt=72歳に描かれ、水平線がp=0.3に描かれている。
【0173】
図13を解析すると、推定された固定効果は、どうやらp=0.3、t=72歳、v=0.04単位年当たりおよびδ=[0;-15;-13;-5]歳であるようだ。これは、平均して、記憶力のスコア(第一の座標)が値pにt=72歳で到達し、後に同じ値にt+5=77歳で到達する集中力が続き、それから後に実行および言語がそれぞれ85および87歳の年齢で続く、ということを意味する。
【0174】
ランダム効果は、研究対象の母集団内のこの平均軌道のばらつきを示す。時間のずれの標準偏差は、στ=7.5歳に等しく、図13の疾患進行モデルが±7.5歳ずれていて疾患発現年齢のばらつきの原因となっている、ということを意味している。加速係数aおよび空間のずれの2つの独立成分AおよびAの分散の影響が図15に例示されている。
【0175】
図15は、平均軌道γδ(点線)と重なった疾患進行のばらつきを例示する一連の6つのグラフである。
【0176】
1列目には、γδ(exp(±ση)(t-t)+t)のプロットでの加速係数aの影響が表されている。加速係数aは、平均よりも7倍速い~7倍遅いの範囲の疾患進行のペースのばらつきを示す。
【0177】
2列目には、
【数105】

のプロットでの空間のずれの第一の独立成分の影響が例示されている。第一の独立成分Aは、認知障害の相関的なタイミングのばらつきを示す:1つの方向には、記憶力および集中力が大体同時に低下し、後に言語および実行が続く;他の方向には、記憶力の後に集中力が続き、それから言語および実行が大体重なっている。
【0178】
3列目には、
【数106】

のプロットでの空間のずれの第一の独立成分の影響が表されている。第二の独立成分Aは、記憶力および集中力のタイミングをほぼ固定された状態に維持し、実行および言語障害の相対的なタイミングの大きいばらつきを示す。それは、異なる個体では最後の2つの順序が逆になることがある、ということを示している。概して、これらの空間のずれの成分は、認知障害の発現がペアで起こる傾向がある、ということを示している:記憶力および集中力の後に言語および実行が続く。
【0179】
各個人のランダム効果の測定値は、アルゴリズムの最後の反復のシミュレーションステップから得られ、図16にプロットされている。図9と同様の手段で、図16は、推定された個体の時間のずれが個体がアルツハイマー病と診断された年齢にかなり対応している、ということを示している。これは、モデルによって推定された値pが診断(偶然起こった事実)を判定する良い閾値であり、より重要なことには、正規化された年齢が全個体にわたって同じ疾患進行の段階に対応するようにタイムワープが個体の軌道の動態を正確に登録している、ということを意味する。この事実は、正規化されたアルツハイマー病転化年齢が77歳に選ばれ、転化年齢の実際の分布と比べて分散が小さい、ということを示す図14によって裏付けられている。図14は、タイムワープ付きのアルツハイマー病転化年齢(グレーの棒)および正規化されたアルツハイマー病転化年齢(黒い棒)のヒストグラム図である。
【0180】
実験の項:第二の実験
データ
我々は、このモデルを使用して、ADNIデータベースからのMCIコンバーターの縦断的MRIから、アルツハイマー病の経過中における皮質萎縮の典型的な時空間パターンを強調した。この154人のMCIコンバーターは、787個の測定値に対応し、各被験体は、平均して5回観測された。一般的な固定グラフを入手するために、我々は、脳表面に均一に分配された領域に対応している1827個のノードで構成された同じ基礎グラフGに測定値マップを分配するため、FreeSurfer(http://surfer.nmr.mgh.harvard.eduで特に公に入手可能)で一般的なアトラス上に指標を並べた。これらの頂点の中から、本出願人は、伝播の空間的補間をエンコードする258個の制御ノードを選定した。使用された距離行列Dは、グラフG上の測地距離によって定義される。
【0181】
皮質厚測定値
本出願人は、次のパラグラフで定義するモデルの具体例を使用して、皮質厚の減少を特徴付けた。この1827次元のMCMC-SAEMの反復30.000回(~4時間)を複数回実行すると、データの90%がセグメント[1.5,3.6]に含まれた状態で0.27に等しいノイズ標準偏差σが導かれる。
【0182】
この伝播を表すため、本出願人は、5年間にわたる厚さの差を計算した。80~90歳の皮質厚の減少としての平均時空間伝播は、最も影響が及ぶ領域が内側側頭葉であり、後に側頭葉新皮質が続く、ということを示す。頭頂連合野および前頭葉も、重大な変化にさらされる。その反対に、感覚運動野および視覚野は、病変伝播にそれほど巻き込まれない。これらの結果は、脳の構造に対するアルツハイマー病の影響のこれまでの知識と極めて一致している。モデルは、関連する進行のペースと共に個体の時空間パターンを示すことができるので、疾患の伝播がより速いおよびより遅い個人それぞれに注意を向けている。このようにして、厚さの減少は、平均的なシナリオよりもそれぞれより多くおよびより少なく実質的である。
【0183】
モデルの具体例
たくさんの測定値が正の値(たとえば、皮質厚、体積比)に対応しているので、本出願人は、下記では、開区間M=]0,+∞[を∀p∈Mおよび∀(u,v)∈TM、g(u,v)=uv/pとなるようなリーマン計量gを備えた1次元リーマン多様体として考える。この計量および与えられたk∈{1,...,N}で、Mは、測地線的に完全なリーマン多様体であり、その測地線の形式は、
【数107】

で、t→p exp(v/p (t-t-δ))である。
【0184】
特定可能性の理由のため、我々は、ノード間でパラメータpを固定して共有パラメータpを導くことを選択する。前に導入した補間関数およびパラメータ
【数108】

が(δ,v)であるという事実を考えると、下記の定義が導かれる:
【数109】
【0185】
モデルは、
【数111】

であるような
【数110】

と書き直すことができる。
【0186】
議論および見解
一般的なネットワーク上に分配された縦断的脳画像診断データのおかげでメッシュのノードでの信号の群平均時空間伝播を評価することができる、混合効果モデルが提案されている。ネットワークエッジが信号の漸進的変化を記述する一方で、その頂点は、距離行列を介してノード間の距離をエンコードする。問題の高次元性は、制御ノードの導入によって取り組まれる:それらは、隣接するノードを通じての信号伝播の円滑さを確実にしながらより少ない数のパラメータを評価することを可能にする。それに、個体のパラメータは、パーソナライズされた伝播のパターンを平均的なシナリオの変動として特徴付ける。
【0187】
この非線形高次元モデルは、説得力のある結果を導くMCMC-SAEMアルゴリズムで評価される:我々は、例えば内側側頭葉または側頭葉新皮質といったかなりのニューロンの喪失による影響が及ぶ領域を強調することができた。
【0188】
皮質メッシュ上の測地距離をここでエンコードする距離行列を変化させて、構造的または機能的結合性情報を説明することができる。この場合、信号の変化は、隣接する場所間だけでなく、空間的には遠く離れているがコネクトームでは互いに近いノードでも、伝播する可能性がある。
【0189】
PETスキャンでのように、このモデルをマルチモーダルデータと共に使用して、神経変性疾患の数値モデルを導入することもできる。これらのモデルは、個体データに適合するようにカスタマイズ可能でありながら、母集団レベルで疾患の漸進的変化について最初に知らせることができ、このようにして疾患の段階または症状発現の時間が予測される。
【0190】
実験の項:第三の実験
実験では、本出願人は、ベースラインMRIから抽出された脳の構造の被験体固有の縦断的漸進的変化を予測し、アルツハイマー病データに対するその性能を評価する方法を提案する。大変形微分同相写像計測に関連して、微分同相写像群上の軌道として疾患進行がモデル化される。最初に本出願人は、この群に対する測地線回帰外挿の予測能力が限られていることを示す。形状多様体の中の平行な曲線の最近の概念に基づいて、本出願人は、前に学習した軌道を新しい被験体にパーソナライズして2つの平行にずれたパラダイムの相対的性能を調査する、第二の予測プロトコルを導入する。この設計は、ベースライン画像データのみを必要とする。最終的に、疾患動態をエンコードする係数が各被験体の縦断的認知測定値から得られ、外来受診を成功裏に予測することが実証されている我々の方法論に磨きをかけるために利用される。
【0191】
導入
例えばアルツハイマー病といった神経変性疾患の病変の一次発症は、認知低下の最初の症状よりもかなり前に起こると信じられている。微妙で緩やかな脳の構造変化は、疾患の経過に沿って、とりわけその体積が臨床試験において古典的なバイオマーカーである海馬領域で、発生および発展する。他の係数の中でもそれらの変形は、最終的には、標準化されたテストを通じて評価することができる認知機能の低下を招く。そのため、将来的な脳の構造変化を追跡および予測することができるということは、個体の疾患進行の段階を推定し、臨床試験で患者を選定し、治療効果を評価するための鍵である。
【0192】
このために、本出願人の取り組みは、MRIからセグメント化された脳の構造の将来的な形状を予測することに落ち着く。本出願人は、3つの構成要素に基づく方法論を提案する:被験体の過去から推定し;より長期間にわたって観測された基準被験体の進行を新しい被験体に移行し;認知評価から抽出された相対的な疾患動態に関する情報でこの移行に磨きをかける。例えば体積といった特定の特徴に我々自身を制限する代わりに、我々は、画像または形状空間の中のセグメント化された表面メッシュとして患者の各観測値を所与の時点で見ることを提案する。
【0193】
計算解剖学では、通例、形状空間は、微分同相写像の群の作用を介して定義される。このフレームワークの中で、このフローによって連続的に変形する形状が同じ被験体の経時的な反復観測値に最も良く適合するように、微分同相写像のフローを推定することができ、このようにして、被験体固有の形状変化の時空間軌道が導かれる。もしもフローが微分同相写像の群の中で最も短い通り道という意味で測地線であるならば、この問題は、測地線回帰と呼ばれ、線形回帰の概念のリーマン多様体の中の拡張と考えることができる。その時、いくつかの過去の観測値を与えられた形状の将来の漸進的変化を推測するためにそのような回帰を使用することは、心をそそられる。我々の知る限りでは、そのような方法の予測力は、まだ広範囲にわたって評価されていない。満足のいく結果は、広範囲な時間にわたる大量のデータ点が入手可能である時にのみ得られ、悪いものは、2~3の観測値のより興味深いユースケースシナリオの中に予期されるはずである、ということを本出願人は、実証する。
【0194】
そのような状況で、魅力的な次善策は、より長期間にわたって観測された別の患者から前もって取得した知識を移行することであろう。このアイデアは、異なる被験体の空間における形状変化の軌道を移動させるために、時空間マッチング方法の定義を必要とする。異なる被験体の画像時系列を登録するために、いくつかの技術が提案されている。それらは、同じ数の画像を有するためにまたは全時系列にわたって画像間の対応を有するために、しばしば時系列を必要とし、そのため予後の目的には適さない。ベースラインマッチングからの追跡画像の変形を推測するために、微分同相写像の群の中での平行移動が最近導入された。そのようなパラダイムは、大抵は仮説テストのために時空間軌道を同じ解剖学的空間に移動させるために使用されている。我々は、この概念に基づいて、将来の被験体軌道の継続を推測する。2つの主な方法論が出てきている:時系列をベースラインマッチングと平行に移動させることによってまたは本発明のようにベースラインマッチングを時系列と平行に移動させることによってのいずれかである。この項では、両方の方法を評価する。
【0195】
どのような場合でも、これらの手法は、ベースライン形状を基準時系列の中のものにマッチングさせることを必要とする。理想的には、我々は、同じ疾患段階に対応している観測値をマッチングさせるべきであるが、それは分かっていない。本出願人は、本発明の精神で、被験体の反復神経心理学的評価を使用して、患者の段階および進行のペースの推定値でそのような手法を補完することを提案する。これらの推定値を使用して、認知テストで観測された動態の差に応じて、基準被験体の形状変化の動態をテスト被験体に合わせることができる。
【0196】
方法
(yi,...,nを年齢(ti,...,nで得られた所与の被験体のセグメント化した表面メッシュの時系列とする。本出願人は、先行技術に記述された手順に従って、セグメント化されたメッシュに作用する周囲空間の微分同相写像の群を構築する。
【数112】

の微分同相写像のフローは、形式
【数113】

の時間的に変動するベクトル場を積分することによって作成される。
ただし:
Kは、ガウス核であり、
(c(t))i=1,...,Nは、変形の制御点であり、
(β(t))i=1,...,Nは、変形の運動量である。
【0197】
微分同相写像の空間には、変形のコストを測定するノルムが与えられる。下記では、微分同相写像の測地フロー、すなわち、単位元を所与の微分同相写像に接続している最小ノルムのフローのみを考察する。そのようなフローは、それらの初期の制御点および運動量(c,β)によって一意的にパラメータ化される。微分同相写像のフローの作用下で、初期テンプレート形状Tが連続的に変形して形状空間に軌道を描き、それを本出願人は、
【数114】

と言及する。同時に、表面メッシュには、点対応なしでメッシュ間のデータ付加項を測定することを可能にするバリフォールドノルム
【数115】

が与えられる。
【0198】
測地線回帰
線形回帰の精神で、
【数116】

が下記の汎関数を最小にするように、切片Tおよび傾き(c,β)を推定することによって形状空間で測地線回帰を行うことができる:
【数117】
【0199】
ただし、Rは、変形の運動エネルギーをペナライズする正規化項である。方程式(1)の解は、ソフトウェアDeformetrica(www.deformetrica.org)で具現化されているように、ネステロフ勾配下降法で推定され、制御点、運動量およびテンプレートに対する勾配が測地線沿いのデータ付加項の後退積分で計算される。この最適化問題を解決することで、微分同相写像の群の単位元で接空間にある脳の構造の進行が説明される。
【0200】
一旦最適条件が見つかると、本出願人は、さらなる年齢への測地線を推定し、脳の構造の将来的な漸進的変化の予測を試みることができる。
【0201】
形状の時空間軌道を移動させる2つの方法
【0202】
のちほど実証するように、被験体の長期間にわたるデータが入手可能である場合にのみ、測地線回帰外挿は、正確な予測を作り出すが、それは、早期予後の熱望と両立できない。
【0203】
基準測地線を与えられると、リーマン平行移動を使用して新しい軌道が作成される。最初に、微分同相写像の群の接空間の中のベクトルとして描くことができる、基準被験体と新しい被験体との間のベースラインマッチングが行われる。平行な軌道を得るために、2つのパラダイムが入手可能である。基準回帰をマッチングに沿って移動させ、それから撮影することは、先行技術において公知である。これによって、形状空間に、ベースライン形状から始まる測地線が作成される;この理由のため、この解決策は、測地線平行化と呼ばれる。一方で、本発明では、基準測地線沿いにマッチングベクトルを移動させ、それから基準測地線の全ての点からこの移動させたベクトルで軌道を構築することが提言されている。この手順は、指数平行化と呼ばれる。
【0204】
そのような高次元の状況では、平行移動の計算は、とても多くの場合、シルトの梯子スキームに依存する。しかしながら、本出願人のケースでは、リーマン対数の計算は、形状マッチング問題を解決することによってのみ計算することができ、扱いにくいアルゴリズムだけでなくスキームの非制御近似を招く。これらの平行にずらす方法を具現化するために、計算の複雑性を鋭敏に制御した、厳選されたヤコビ場による近くの点への移動の近似に依存するアルゴリズムが使用された。少ないコストでシルトの梯子と同じ収束率が得られる。
【0205】
認知スコア動態
前の項で記述したプロトコルは、主に2つの欠点を有する。第一に、基準軌道でのマッチング時間の選択は、任意である:ベースラインは、純粋に便宜上の選択であり、理想的には、マッチングは、疾患の同様の段階で行われるべきである。第二に、被験体の進行のペースを考慮に入れていない。本発明では、本出願人は、疾患進行追跡のために設計された標準化された認知テストであるADAS-Cogテストの結果から、被験体の動態パラメータを教師なしのやり方で学習することを可能にする統計モデルを提案する。より具体的には、各患者は、下記の時間再パラメータ化で、平均軌道との平行線をたどる、と考えられている:
y(t)=α(t-t-t)+t(2)
【0206】
それは、被験体の時間を正規化された期間にマッピングし、ただしα>0であり、tは、スカラーパラメータである。αの高い(それぞれ低い)値は、それ故にスコアの速い(それぞれ遅い)進行に対応している。これらの動態パラメータで、同じ手段で平行な軌道を再パラメータ化することによって形状の漸進的変化を調整することができる。
【0207】
結果
データ、前処理およびグローバルパラメータ
7回以上受診したMCIコンバーターのみの、全部で被験体N=74人、受診634回分が保存されているADNIデータベースから、MRIが抽出される。被験体は、4~9年(平均して5.9)の範囲の期間、多くて12回の受診で、観測される。
【0208】
634のMRIは、FreeSurferソフトウェアを使用してをセグメント化される。それから、抽出された脳マスクは、FSLソフトウェアを使用してColin 27 Average Brainにアフィン登録される。推定された変形は、最終的には、対になった尾状核、海馬および被殻の皮質下構造に適用される。
【0209】
前に述べたDeformetricaソフトウェアのおかげで、全ての微分同相動作、すなわち、マッチング、測地線回帰推定、撮影、指数平行化および測地線平行化が行われる。各構造のガウス核幅3mmおよび変形核幅5mmのバリフォールド距離が選択される。時間離散化分解能は、2ヶ月に設定される。
【0210】
測地線回帰外挿
方程式(2)の加速係数αは、各患者の進行速度をエンコードする。この係数を実際の観測ウィンドウで掛けると、疾患の時間に関して、絶対観測ウィンドウ長さの概念が与えられる。この項では、この指標による最初の22人の被験体のみを考察している:実のところ、彼らは、大規模な構造変化を特徴付けることが予期され、測地線回帰の手順がより正確になる。
【0211】
表1は、異なる学習データセットおよび外挿範囲で得られた結果を示す。
【0212】
2セットのメッシュ間の性能測定基準は、対応しているメッシュの交点の体積の合計を体積の全合計で割った、ダイス係数である。それには、0~1が含まれる:完全一致の場合は、1に、互いに素な構造の場合は、0に等しい。測地線回帰予測性能は、学習データセットの中の最後に観測された脳の構造からなる基準のものと比べられる。統計有意水準を得るために、観測されたダイス係数の分布は、同じである、という帰無仮説で、マンホイットニーテストが行われた。
【0213】
推定されたメッシュは、1つを除く全てのデータ点を使用して測地線回帰を行う場合にのみ満足のいくものであり、高いダイス指数を達成し、差こそ小さいものの基準のものをしのぎ、有意水準(p=0.25)に到達することができない。観測ウィンドウが狭くなると、予測の正確さが減少して基準のものよりも悪くなる。
【0214】
【表1】
【0215】
[回帰]タグは、回帰に基づく予測を、[基準]は、基準のものを示している。各行は、ますます大規模になる学習データセットに対応しており、患者は、拡大していく期間観測される。各列は、ベースラインからますます隔たっている予測された受診に対応している。有意水準[.05,.01,.001,.0001]。
【0216】
再パラメータ化されていない移動
前の項で回帰に基づく予測力を評価されている22人の被験体の中で、最もうまくいった2人がこの文書の残りの部分の基準として選択される。彼らの進行は、2つの異なる平行にずらす方法で、他の73人の被験体に移動させる。我々は、全部で288の予測時空間軌道を得る-無意味な理由のために、処理パイプラインのある段階で致命的に失敗したので、数回の受診が除外された。より詳しくは、基準および対象被験体の各ペアで、ベースライン対象形状が最初に基準に登録される。それから、基準測地線回帰が指数平行化または測地線的に平行化される。それから、予測性能が評価される:2つの移動モードでの、予測と実際の観測値との間のダイス指数が計算され、ベースラインメッシュと実際の観測値(予測パラダイムの非存在で入手可能な唯一の情報)との間のダイス指数と比べられる。
【0217】
表2の上の部分は、結果を示している。ダイス性能測定基準によると、大抵の場合、提案されたプロトコルによって得られたメッシュは、基準のものよりも品質が劣る。M12の予測では測地線平行化が指数平行化をわずかにしのぐけれども、2つの移動方法は、本質的に同様の予測をする。
【0218】
【表2】
【0219】
各セルで、最初の行は、指数平行化に基づく予測のダイス[指数]を、真ん中の行は、測地線平行化に基づくもの[測地]を、最後の行は、基準ダイス[基準]を示している。各列は、ベースラインからますます隔たっている予測された受診に対応している。有意水準[.05,.01,.001,.0001]。
【0220】
認知動態パラメータで磨きをかける
M12の予測を例外として、両方のプロトコルは、一貫性して基準をしのいでいる。M36、M48、M72およびM96の予測は、最も素晴らしいものであり、p値が常に1%よりも小さい。これは、認知スコアの漸進的変化のペースが脳の構造的変化のペースとかなり相関関係があり、そのため強化された追跡形状予測を可能にする、ということを示す。
【0221】
2つの平行にずらす方法論に関係して結論を出すことは、できず、M12の予測でたった一つの弱い有意結果が得られている。
【0222】
結論
本出願人は、測地線回帰外挿の定量的な研究を行い、その予測能力が限られていることを示した。それから、本出願人は、認知低下由来の時間再パラメータ化で時空間軌道を異なる被験体の空間に移動させる方法を提案し、その予後の見込みを実証した。その結果は、疾患モデル化において動態がどれだけ極めて重要であり、学習アルゴリズムを改善するためにクロスモダリティデータをどのように利用することができるか、ということを示している。平行な軌道の移動のために出てきた2つの主なパラダイムがこの予測タスクで等しくうまくいく、ということが示された。それでもなお、時間再パラメータ化の重要性を考えると、指数平行化は、縦断的データ用の生成統計モデルにおいてそのような再パラメータ化とより容易に組み合わせることができる、という方法論的効果を提供する。
【0223】
基準被験体の選択に対する提案されたプロトコルのロバスト性は、評価されていない。そのような選択は、平均疾患モデルを構成することによって避けることができる。このフレームワークは、個体の疾患進行の動態パラメータをより良く推定するために、結合画像および認知モデルを推定するのにも使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16