(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】藻類培養システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230206BHJP
C12M 1/36 20060101ALI20230206BHJP
C12N 1/12 20060101ALN20230206BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12M1/36
C12N1/12 A
(21)【出願番号】P 2019003591
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 大司
(72)【発明者】
【氏名】圷 武夫
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 祐二
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-284962(JP,A)
【文献】特開平09-154592(JP,A)
【文献】特開昭61-070979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0184021(US,A1)
【文献】特開平05-284958(JP,A)
【文献】実開平05-043900(JP,U)
【文献】特開平05-076343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12P
C12N 1/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水性または汽水性の藻類を含む培養液を内部に収容可能な培養槽と、
前記培養槽に収容された前記培養液のpHを計測するpH計測装置と、
前記培養液のpHを調整するpH調整装置と、
前記pH計測装置で計測された前記培養液のpHに基づいて、少なくとも所定時間にわたって前記培養液のpHがアルカリ性に維持されるように、前記pH調整装置を制御する制御装置と、
海水を水源として採取される海水または汽水域の河川を水源として採取される汽水を前記培養槽に供給する水供給部と、
を備え、
前記培養液は、海水または汽水域の河川水をベースとし、
前記藻類は、pH10以上10.5以下の環境下で生息できる種類であり、
前記制御装置は、少なくとも所定時間にわたって前記培養液がpH8.5以上10以下に維持されるように、前記pH調整装置を制御し、
前記所定時間よりも短い第2の所定時間にわたって、前記培養液がpH10以上10.5以下となるようにpH調整装置を制御し、
前記第2の所定時間は、60分以上120分以下であることを特徴とする藻類培養システム。
【請求項2】
前記pH調整装置は、前記培養槽内に光を照射する光源装置を含むことを特徴とする請求項1に記載の藻類培養システム。
【請求項3】
前記pH調整装置は、前記培養槽に収容された前記培養液に、少なくともアルカリ物質を含むpH調整物質を供給する供給装置を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の藻類培養システム。
【請求項4】
前記藻類の種培養システムに適用されることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の藻類培養システム。
【請求項5】
前記藻類の本培養システムに適用されることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の藻類培養システム。
【請求項6】
前記藻類の種培養システムおよび本培養システムの双方に適用されることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の藻類培養システム。
【請求項7】
前記藻類の回収時に、前記培養液の一部を次回の培養に利用する培養システムに適用されることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の藻類培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、藻類(特に微細藻類)は、その高い増殖特性や細胞から取り出すことの出来る有用物を利用することについて、食糧やエネルギー等の各種の分野において多くの期待が寄せられており、藻類を培養するための種々の技術が知られている。例えば、特許文献1には、地上にコンクリート等で培養槽を形成し、培養槽内に藻類および培養液を入れ、パドルにより培養液を循環させながら藻類の培養を行う藻類培養装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
藻類培養に関する技術は、発展途上であり、特に培養工程におけるコストダウンが課題となる。例えば、藻類の培養においては、培養液(培地)のベースとなる水が多量に必要となる。そのため、水道水等の有価の水を用いるよりも、海水や河川水といった自然界に存在する水を用いることが望ましい。しかしながら、自然界の水には、大量の微生物が含まれている。そのため、自然界の水を水源として用いた場合、微生物が増殖し、いわゆるコンタミネーションが発生する。
【0005】
コンタミネーションの発生は、藻類の培養を様々な要因で阻害する。例えば、動物性プランクトンなどによる食害に加えて、栄養塩欠乏等の環境変化を招く。その結果、微生物や藻類が分泌する粘着物によって、微生物および藻類の凝集が発生し、藻類の栄養塩の取り込み、光合成時の二酸化炭素の取り込みに影響が生じる。また、凝集物が培養槽の壁面に付着し、藻類の収穫や培養槽の洗浄において障害となる。
【0006】
コンタミネーションの発生を抑制するためには、培養システムごとに培養槽の洗浄および消毒が必要となる。さらに、藻類回収時の培養液の一部を再利用する培養工程を採用することが難しくなり、種培養工程と本培養工程とを分割して複数段階での培養を行う必要がある。このように、培養槽の洗浄および消毒、複数段階の培養により、培養工程で必要となる手順が増加し、製造コスト削減の障害となっている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、自然界の水源を利用した藻類の培養において、コンタミネーションの発生を抑制し、効率的に藻類を培養することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、海水性または汽水性の藻類を含む培養液を内部に収容可能な培養槽と、前記培養槽に収容された前記培養液のpHを計測するpH計測装置と、前記培養液のpHを調整するpH調整装置と、前記pH計測装置で計測された前記培養液のpHに基づいて、少なくとも所定時間にわたって前記培養液のpHがアルカリ性に維持されるように、前記pH調整装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成により、pH計測装置により培養液のpHを監視しながら、計測されたpHに基づいて、少なくとも所定時間にわたってpH調整装置によって培養液のpHをアルカリ性に維持することができる。その結果、培養の対象となる藻類を除き、アルカリ性の環境下では生存が難しい微生物が培養液中で増殖することを抑制することができる。したがって、本発明によれば、自然界の水源を利用した藻類の培養において、コンタミネーションの発生を抑制し、効率的に藻類を培養することができる。
【0010】
また、前記pH調整装置は、前記培養槽内に光を照射する光源装置を含むことが好ましい。この構成により、培養槽内に収容される培養液に光を照射することで、藻類に光合成を行わせて培養液中の二酸化炭素を消費させ、培養液をアルカリ性に維持することが可能となる。
【0011】
また、前記pH調整装置は、前記培養槽に収容された前記培養液に、少なくともアルカリ物質を含むpH調整物質を供給する供給装置を含むことが好ましい。この構成により、少なくともアルカリ物質を含むpH調整物質を培養液に供給して、培養液をアルカリ性に維持することが可能となる。
【0012】
また、前記制御装置は、少なくとも所定時間にわたって前記培養液がpH8.5以上10以下に維持されるように、前記pH調整装置を制御することが好ましい。この構成により、一般的な自然界の水源におけるpHよりも高いpH8.5以上に培養液を維持することで、培養の対象となる藻類を除き、微生物の増殖をより良好に抑制することができる。
【0013】
また、前記藻類は、pH10以上10.5以下の環境下で生息できる種類であり、前記制御装置は、前記所定時間よりも短い第2の所定時間にわたって、培養液QがpH10以上10.5以下となるようにpH調整装置を制御することが好ましい。この構成により、一時的に培養液をpH10以上とすることで、藻類の増殖を良好に促進し、微生物の増殖を極めて良好に抑制することができる。
【0014】
また、前記培養液は、海水または汽水域の河川水をベースとすることが好ましい。この構成により、水道水等の有価の水を用いることなく培養液(培地)を生成することができるため、藻類培養システムを安価に運用することができる。
【0015】
また、本発明にかかる藻類培養システムは、前記藻類の種培養システムに適用されることが好ましい。この構成により、種培養において微生物の増殖をできる限り抑制した培養液に含まれる藻類を用いて本培養を行うことができ、本培養においても微生物の増殖を抑制することが優位となる。したがって、本培養システムに比べて小規模な種培養システムに藻類培養システムを適用し、培養システム全体の製造コスト、運用コストを低減させながら、本培養においてもコンタミネーションの発生を抑制することが優位となる。
【0016】
また、本発明にかかる藻類培養システムは、前記藻類の本培養システムに適用されることが好ましい。この構成により、大規模培養である本培養工程においてコンタミネーションの発生をより抑制し易くなり、藻類の培養を効率的に行うことができる。
【0017】
また、本発明にかかる藻類培養システムは、前記藻類の種培養システムおよび本培養システムの双方に適用されることが好ましい。この構成により、種培養工程および本培養工程の双方で微生物の増殖を抑制して、コンタミネーションを極めて良好に抑制しながら、藻類の培養を効率的に行うことができる。
【0018】
また、本発明にかかる藻類培養システムは、前記藻類の回収時に、前記培養液の一部を次回の培養に利用する培養システムに適用されることが好ましい。この構成により、種培養工程と本培養工程とを別の培養システムで行う必要がないため、工程および設備の集約を図りつつ、種培養工程および本培養工程の双方でコンタミネーションの発生を抑制し、藻類を効率的に培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる藻類培養システムの適用例を示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる藻類培養システムの構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる藻類培養システムの他の適用例を示す説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかる藻類培養システムの他の適用例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかる藻類培養システムの他の適用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる藻類培養システムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、実施形態にかかる藻類培養システムの適用例を示す説明図である。実施形態にかかる藻類培養システム100は、例えばバイオ燃料の抽出等の目的で、藻類M(
図2参照)を培養する装置である。藻類培養システム100は、本培養工程において必要となる細胞数を得られるように培養を行う種培養工程に用いられる培養システムに適用される。藻類培養システム100は、実施形態では、フォトバイオリアクター型(以下、PBR型と称する)の培養システムである。藻類培養システム100で培養された藻類Mは、より大規模な培養が可能な培養システムを用いる本培養工程へと供給される。なお、本培養工程における培養システムとしては、レースウェイ型、プール型または藻類培養システム100よりも大型のPBR型の培養システムを用いる。
【0022】
藻類培養システム100において培養の対象となる藻類Mは、海水において生息できる海水性の微細藻類または汽水において生息できる汽水性の藻類、特に微細藻類である。また、藻類Mは、中性からアルカリ性の領域のpH環境下で生息できる藻類である。より詳細には、藻類Mは、pH8.0以上の環境下で生息できる藻類であり、より好ましくはpH8.5以上、さらに好ましくはpH9以上の環境下で生息できる藻類である。藻類Mは、例えば、珪藻である。
【0023】
実施形態にかかる藻類培養システム100の構成について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、実施形態にかかる藻類培養システムの構成を模式的に示す説明図である。藻類培養システム100は、例えば屋外等、太陽光の照射を十分に受けることが可能な場所に設置される。藻類培養システム100は、
図2に示すように、培養槽10と、pH計測装置20と、pH調整物質供給装置30と、光源装置40と、制御装置50とを備えている。実施形態において、pH調整物質供給装置30と光源装置40とは、培養液QのpH(水素イオン指数)を調整するpH調整装置である。
【0024】
培養槽10は、培養液Qを収容可能な槽本体11と、藻類供給部12と、培養液供給部13と、ガス供給部14とを備える。なお、培養槽10は、その他に、培養液Qの液面レベルを計測するレベル計、培養液Qの温度を調整する温度調整部、槽本体11の洗浄時に培養液Qを排出する排出部等を備えてもよい。なお、培養槽10は、チューブ式やパネル式の槽であってもよい。
【0025】
槽本体11は、藻類Mを含む培養液Qを内部に収容する。槽本体11は、例えば金属または樹脂により形成される。槽本体11は、例えば矩形の槽状であるが、これに限定されず、他の形状であってもよい。槽本体11は、上部が開口されて内部が大気開放された状態であってもよいし、上部が蓋部材により塞がれて密閉された状態であってもよい。ただし、上部を蓋部材で塞ぐ場合、蓋部材は、藻類Mが光合成を行う波長の光を透過する素材で形成される。したがって、槽本体11中の培養液Qには、
図2において白抜き矢印で示すように、太陽光が供給される。槽本体11は、太陽光を取り込みやすくするために、蓋部材に限らず、側面部分が光を透過する素材で形成されてもよい。また、槽本体11は、底面が光を反射させる素材で形成されてもよい。
【0026】
藻類供給部12は、藻類Mを培養槽10へと供給する。培養液供給部13は、水供給部131と、栄養塩供給部132とを有する。水供給部131は、培養液Qのベースとなる水として、海を水源として採取される海水または汽水域の河川を水源として採取される河川水(汽水)を槽本体11に供給する。すなわち、槽本体11内に収容される培養液Q(培地)は、海水または汽水域の河川水をベースとする。栄養塩供給部132は、藻類Mの生長を促進する窒素、リン等のミネラルといった栄養塩を供給する。栄養塩供給部132から供給される栄養源としては、例えば廃棄物、残材、下水等を利用するものであってもよい。なお、培養液供給部13は、栄養塩を含んだベースとなる水(海水、汽水域の河川水)を外部で生成し、培養液Qとして槽本体11に供給するものであってもよい。
【0027】
ガス供給部14は、槽本体11の底部近傍に配置される。ガス供給部14は、槽本体11に収容される培養液Q中に気体をバブル状に供給する。実施形態において、気体は、大気である。供給された大気中に含まれる二酸化炭素は、培養液Q中の藻類Mの光合成で消費される。供給された大気中に含まれる酸素は、培養液Q中の藻類Mの呼吸で消費される。なお、ガス供給部14は、二酸化炭素および酸素のいずれか一方を選択して、培養液Q中にバブル状に供給するものであってもよい。また、ガス供給部14は、培養液Q中に大気をバブル状に供給することで、培養液Q中に上昇流を形成して培養液Qを撹拌させ、藻類Mの沈降を抑制すると共に、栄養塩およびガス成分を均一化させる。培養液Qの撹拌は、藻類培養システム100がPBR型よりも大型のレースウェイ型の培養システムである場合、例えば回転するパドルや、ポンプによって行われてもよい。
【0028】
pH計測装置20は、槽本体11に収容された培養液QのpHを計測するセンサである。上述したように、ガス供給部14によって培養液Qが撹拌されるため、pH計測装置20による培養液QのpH計測は、任意の箇所で行うことが可能である。例えば、pH計測の精度を高めるために、ガス供給部14から供給されるバブルの浮上点、または、パドルにより撹拌を行う位置から最も遠い液面直下の底部を計測してもよい。また、水供給部131からの水の供給点、栄養塩供給部132からの栄養塩の供給点といった培養液QのpHに影響を与える位置の近傍を計測してもよい。また、培養液Qの全体の濃度分布が把握できるように、複数のpH計測装置20を設置してもよい。pH計測装置20は、培養液QのpHを常時、あるいは所定間隔ごとに計測し、計測したpHを制御装置50へと出力する。
【0029】
pH調整物質供給装置30は、槽本体11に収容された培養液Q中にpH調整物質を供給する。pH調整物質は、強アルカリ物質および強酸物質を含む。強アルカリ物質としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いる。強酸物質としては、例えば、塩酸(HCL)を用いる。強アルカリ物質および強酸物質は、培養液QのpHを調整でき、かつ、藻類Mの生長を阻害しないものであれば、他の物質であってもよい。pH調整物質供給装置30は、液体状の強アルカリ物質および強酸物質を槽本体11の培養液Qへと滴下して供給する。pH調整物質供給装置30は、図示しないバルブの開度を調整することにより強アルカリ物質および強酸物質の供給量を調整する。pH調整物質供給装置30からの強アルカリ物質および強酸物質の供給量の調整は、制御装置50により制御される。
【0030】
光源装置40は、培養槽10内に光を照射する人口照明である。すなわち、光源装置40は、槽本体11に収容された培養液Q中に光を照射する。光源装置40は、制御装置50により制御される。光源装置40は、藻類Mの光合成に必要な太陽光を得ることができない夜間に、培養液Q中の藻類Mに光を供給することを目的として設けられる。なお、光源装置40は、曇天時等、昼間であっても光合成に必要な光を十分に得ることが難しいときに使用されてもよい。光源装置40から照射される光は、その波長が藻類Mの光合成に適した範囲のものとされる。また、光源装置40から照射される光の強度は、藻類Mの光合成により吸収される二酸化炭素の吸収量と、藻類Mの呼吸により排出される二酸化炭素の排出量とが釣り合う光補償点以上の強度であればよい。光源装置40は、培養液Q中に万遍なく光を照射することができれば、培養液Qの液面より上部に配置されてもよいし、防水機能を備えるものであれば培養液Qの液面より下側(培養液Q中)に配置されてもよい。光源装置40は、培養液Q中に光を万遍なく照射するように、槽本体11の中央において培養液Q中に配置され、放射状に光を照射するものであることが好ましい。また、光源装置40は、培養液Q中に光を万遍なく照射するように、光を拡散させる機能を有することが好ましい。光源装置40は、複数設けられてもよい。
【0031】
制御装置50は、藻類培養システム100全体を制御する。制御装置50は、藻類供給部12および培養液供給部13を制御して、槽本体11への藻類Mの供給および培養液Qに含まれる水、栄養塩の供給を調整する。また、制御装置50は、藻類Mの受光、非受光の状態に応じて、ガス供給部14を制御して、培養液Q中へのバルブ状の大気の供給量を調整し、藻類Mの光合成で必要な二酸化炭素の量、藻類Mの呼吸で必要な酸素の量を調整しつつ、培養液Qを撹拌させる。また、制御装置50には、pH計測装置20で計測された培養液QのpHが入力される。
【0032】
ここで、藻類Mの培養においては、培養液Q(培地)のベースとなる水が必要となる。培養には大量の水を要するため、水道水等の有価の水を用いるよりも、海水や河川水といった自然界に存在する水を用いることが望ましい。しかしながら、自然界の水には、大量の微生物が含まれている。そのため、自然界の水を水源として用いた場合、微生物が増殖し、いわゆるコンタミネーションの発生により、藻類の培養を阻害してしまう可能性がある。
【0033】
コンタミネーションの発生を抑制するには、培養液QのpHを高めればよい。つまり、自然界の水中で生息する微生物が生息しづらくなる程度までpHを高めてアルカリ性の環境下とすれば、微生物の増殖を抑制することができる。しかしながら、培養槽10に収容された培養液QのpHは、種々の要因によって変動する。例えば、昼間においては、培養液Q中の藻類Mが太陽光によって光合成を行うことで、培養液Q中の二酸化炭素が消費され、培養液QのpHは低下しづらい傾向にある。一方、夜間においては、藻類Mに太陽光が供給されず、藻類Mの呼吸によって培養液Q中の二酸化炭素が増加し、培養液QのpHは低下しやすい傾向にある。
【0034】
そこで、制御装置50は、pH計測装置20で計測された培養液QのpHに基づいて、少なくとも所定時間にわたって培養液QのpHがアルカリ性に維持されるように、pH調整物質供給装置30および光源装置40を制御する。より詳細には、制御装置50は、少なくとも所定時間にわたって培養液QがpH8.5以上10以下(より好ましくはpH9.0以上10以下)に維持されるように、pH調整物質供給装置30および光源装置40を制御する。制御装置50は、少なくとも所定時間にわたって培養液QがpH8.0以上10以下に維持されるように、pH調整物質供給装置30および光源装置40を制御してもよい。所定時間は、培養液Q中の二酸化炭素増加等によるpHの低下を引き起こす培養槽10への太陽光の供給が減少する時間に基づいて設定される。所定時間は、例えば、春分の日における日の入り前30分から日の出後30分までの13時間である。培養液Qは、常にpH8.5以上10以下に維持されることが、より好ましい。培養液QをpH8.5以上に維持することで、培養液Q中の藻類M以外の微生物を死滅、あるいは、少なくとも増殖を良好に抑制することができる。培養液Qは、pH9.0以上10以下に維持されることが、より好ましい。また、培養液QがpH10以上の状態で長時間維持されると、藻類培養システム100の各種装置の個々でエロージョン等の不具合が予見される。また、培養液QがpH10以上では、アルカリ物質の析出が生じ、それ以上にpHが上昇しない可能性がある。そのため、培養液Qは、pH10以下に維持される。
【0035】
pH調整装置としてのpH調整物質供給装置30および光源装置40の具体的な制御の一例について説明する。制御装置50は、昼間において、pH計測装置20で計測された培養液QのpHに基づいて、培養液QのpHを上昇させる必要があると判断した場合(例えば培養液QがpH8.5近傍になった場合またはpH8.5未満となった場合)、pH調整物質供給装置30からアルカリ物質を槽本体11の培養液Qに供給させる。なお、実施形態では、昼間において、太陽光により藻類Mが光合成を行うことができるように培養槽10が構成されている。そのため、夜間に比べて、昼間に培養液QのpHが低下する程度は小さく、アルカリ物質の供給量を削減することができる。一方、制御装置50は、昼間において、pH計測装置20で計測された培養液QのpHに基づいて、培養液QのpHを低下させる必要があると判断した場合、pH調整物質供給装置30から強酸物質を槽本体11の培養液Qに供給させる。これにより、昼間において培養液QをpH8.5以上10以下に維持することができる。
【0036】
制御装置50は、夜間において、pH計測装置20で計測された培養液QのpHに基づいて、培養液QのpHを上昇させる必要があると判断した場合、光源装置40から培養液Q中に光を照射させる。それにより、培養液Q中の藻類Mが光合成を行い、二酸化炭素が消費されることによって培養液QのpHが上昇する。光源装置40から培養液Q中に光を照射させた上で、さらに培養液QのpHを上昇させる必要がある場合、制御装置50は、pH調整物質供給装置30から培養液Qへとアルカリ物質を供給させる。これにより、培養液QのpHを上昇させて、培養液QをpH8.5以上10以下に維持することができる。このように、夜間においては、まず光源装置40を用いて培養液QのpHの調整を行うことで、pH調整物質供給装置30からのアルカリ物質の供給量を削減し、運用コストの低減を図ることができる。なお、pH調整物質供給装置30からのアルカリ物質の供給を光源装置40からの光の照射よりも先に行ってもよいし、双方を同時に行ってもよい。
【0037】
一方、制御装置50は、夜間において、pH計測装置20で計測された培養液QのpHに基づいて、培養液QのpHを低下させる必要があると判断した場合(例えば培養液QがpH10近傍になった場合またはpH10より大きくなった場合)、光源装置40からの培養液Q中への光の照射を行わないようにする。それにより、培養液Q中の藻類Mが光合成を行わず、呼吸により二酸化炭素が増加することで、培養液QのpHが低下する傾向となる。光源装置40からの光の照射を行わない状態で、さらに培養液QのpHを低下させる必要がある場合、制御装置50は、pH調整物質供給装置30から培養液Qへと強酸物質を供給させる。これにより、培養液QのpHを低下させて、培養液QをpH8.5以上10以下に維持することができる。
【0038】
以上説明したように、実施形態にかかる藻類培養システム100は、海水性または汽水性の藻類Mを含む培養液Qを内部に収容可能な培養槽10と、培養槽10に収容された培養液QのpHを計測するpH計測装置20と、培養液QのpHを調整するpH調整物質供給装置30および光源装置40(pH調整装置)と、pH計測装置20で計測された培養液QのpHに基づいて、少なくとも所定時間にわたって培養液QのpHがアルカリ性に維持されるように、pH調整物質供給装置30および光源装置40を制御する制御装置50と、を備える。
【0039】
この構成により、pH計測装置20により培養液QのpHを監視しながら、計測されたpHに基づいて、少なくとも所定時間にわたってpH調整物質供給装置30および光源装置40によって培養液QのpHをアルカリ性に維持することができる。その結果、培養の対象となる藻類Mを除き、アルカリ性の環境下では生存が難しい微生物が培養液中で増殖することを抑制することができる。それにより、コンタミネーションによる食害の発生、栄養塩欠乏等の環境変化の発生を抑制することができる。また、微生物および藻類Mの凝集を抑制し、藻類Mの栄養塩の取り込み、光合成時の二酸化炭素の取り込みに影響が生じることを抑制することができる。さらに、凝集物が壁面に付着することを抑制し、藻類Mの収穫や培養槽10の洗浄を効率的に行うことができる。また、培養槽10の洗浄および消毒の回数を削減することが可能となる。したがって、実施形態にかかる藻類培養システム100によれば、自然界の水源を利用した藻類Mの培養において、コンタミネーションの発生を抑制し、効率的に藻類Mを培養することができる。
【0040】
また、pH調整装置は、培養槽10内に光を照射する光源装置40を含む。この構成により、培養液Qに光を照射することで、藻類Mに光合成を行わせて培養液Q中の二酸化炭素を消費させ、培養液Qをアルカリ性に維持することが可能となる。
【0041】
なお、実施形態では、藻類Mの光合成に必要な光を得ることができない夜間に、培養液Q中の藻類Mに光を供給することを目的として、光源装置40を設けるものとした。ただし、槽本体11を密閉型かつ太陽光を透過させない構成とし、昼間および夜間の双方において、光源装置40から培養液Q中の藻類Mに光を供給するものとしてもよい。それにより、光源装置40から藻類Mに対して、光合成に適した範囲の波長の光を安定的に供給することができる。
【0042】
また、pH調整装置は、培養槽10に収容された培養液Qに、少なくともアルカリ物質を含むpH調整物質を供給するpH調整物質供給装置30を含む。この構成により、少なくともアルカリ物質を含むpH調整物質を培養液Qに供給して、培養液Qをアルカリ性に維持することが可能となる。
【0043】
また、制御装置50は、培養液QがpH8.5以上10以下に維持されるように、pH調整物質供給装置30および光源装置40を制御する。この構成により、一般的な自然界の水源におけるpHよりも高いpH8.5以上に培養液を維持することで、培養の対象となる藻類Mを除き、微生物の増殖をより良好に抑制することができる。
【0044】
ただし、藻類MがpH10以上の環境下で生息可能な種類である場合には、培養液Qを上記所定時間よりも短い第2の所定時間にわたって、一時的にpH10以上pH10.5以下としてもよい。すなわち、制御装置50は、一時的に培養液QがpH10以上pH10.5以下となるように、pH調整装置を制御してもよい。第2の所定時間は、例えば60分以上120分以下の時間であり、培養液Qを第2の所定時間にわたってpH10以上に維持することで、藻類Mの増殖促進は維持しつつ、藻類Mを除く微生物の増殖を極めて良好に抑制することができる。培養液QをpH10以上としても、短時間であれば、藻類培養システム100の各種装置の不具合の発生を抑制することができる。なお、この場合の培養液QのpHの上限(ここではpH10.5)は、藻類Mが生息可能な値であればよい。また、このように第2の所定時間にわたって培養液QをpH10以上としてもよいが、培養液Qは常にpH8.5以上10以下に維持されることが、より好ましい。
【0045】
また、培養液Qは、海水または汽水域の河川水をベースとする。この構成により、水道水等の有価の水を用いることなく培養液Q(培地)を生成することができるため、藻類培養システム100を安価に運用することができる。
【0046】
また、実施形態にかかる藻類培養システム100は、藻類Mの種培養システムに適用される。この構成により、種培養において微生物の増殖をできる限り抑制した培養液Qに含まれる藻類Mを用いて本培養を行うことができ、本培養においても微生物の増殖を抑制することが優位となる。したがって、本培養システムに比べて小規模な種培養システムに藻類培養システム100を適用し、培養システム全体の製造コスト、運用コストを低減させながら、本培養においてもコンタミネーションの発生を抑制することが優位となる。
【0047】
ただし、藻類培養システム100は、他の培養システムに適用されてもよい。
図3から
図5は、実施形態にかかる藻類培養システムの他の適用例を示す説明図である。
【0048】
図3に示す例では、実施形態にかかる藻類培養システム100は、藻類Mの本培養システムに適用される。この場合、種培養工程では、例えばインキュベータといった藻類Mの純粋培養が可能な培養装置を用いる。また、藻類培養システム100は、PBR型よりも大型の培養システムとして、レースウェイ型またはプール型の培養システムであることが好ましい。なお、レースウェイ型の培養システムは、プール型の培養システムに比べて、さらに大型であることが一般的であることから、光源装置40からの光を万遍なく培養液Qに供給する観点から、プール型がより好ましい。藻類培養システム100は、PBR型の培養システムであってもよい。この構成により、
図1に示す適用例に比べて、大規模培養である本培養工程においてコンタミネーションの発生をより抑制し易くなり、藻類Mの培養を効率的に行うことができる。
【0049】
図4に示す例では、実施形態にかかる藻類培養システム100は、藻類Mの種培養および本培養の双方に適用される。この場合、種培養工程に適用される藻類培養システム100は、PBR型の培養システムである。また、本培養工程に適用される藻類培養システム100は、PBR型よりも大型の培養システムとして、プール型またはレースウェイ型の培養システムであることが好ましい。上述したように、光源装置40からの光を万遍なく培養液Qに供給する観点から、プール型がより好ましい。本培養工程に適用される藻類培養システム100は、PBR型の培養システムであってもよい。この構成により、種培養工程および本培養工程の双方で微生物の増殖を抑制して、コンタミネーションを極めて良好に抑制しながら、藻類Mの培養を効率的に行うことができる。
【0050】
図5に示す例では、実施形態にかかる藻類培養システム100は、藻類Mの回収時に、培養液Qの一部を次回の培養に利用する培養システムに適用される。すなわち、藻類培養システム100は、培養した藻類Mを回収するとき、藻類Mを含む培養液Qの一部を培養槽10に残留させておき、水および栄養塩を追加して再び藻類Mの培養を行う。したがって、
図5に示す例では、種培養工程と本培養工程とを分割することなく、同一の藻類培養システム100で複数回にわたって連続的に藻類Mの培養および回収を行うことができる。この場合、藻類培養システム100は、PBR型、レースウェイ型およびプール型のいずれの培養システムであってもよい。この構成により、種培養工程と本培養工程とを別の培養システムで行う必要がないため、工程および設備の集約を図りつつ、種培養工程および本培養工程の双方でコンタミネーションの発生を抑制し、藻類Mを効率的に培養することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 培養槽
11 槽本体
12 藻類供給部
13 培養液供給部
131 水供給部
132 栄養塩供給部
14 ガス供給部
20 pH計測装置
30 pH調整物質供給装置
40 光源装置
50 制御装置
100 藻類培養システム
M 藻類
Q 培養液