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特許7221079エポキシ樹脂組成物、絶縁性成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、絶縁性成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20230206BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230206BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230206BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C08G59/20
C08L63/00 Z
C08K3/36
C08L83/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019033537
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020138998
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】514105011
【氏名又は名称】株式会社東光高岳
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】大竹 美佳
(72)【発明者】
【氏名】山下 太郎
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-030299(JP,A)
【文献】特開平05-214215(JP,A)
【文献】特開2018-065892(JP,A)
【文献】特開2014-028928(JP,A)
【文献】特開2014-028923(JP,A)
【文献】特開2006-152086(JP,A)
【文献】特開2006-152088(JP,A)
【文献】特開2008-133442(JP,A)
【文献】特開2008-026609(JP,A)
【文献】特開2009-099333(JP,A)
【文献】特開2008-037924(JP,A)
【文献】特開2008-127577(JP,A)
【文献】特開2013-087191(JP,A)
【文献】特開平02-038417(JP,A)
【文献】エポキシ樹脂硬化剤について,日本接着学会誌,2017年,Vol.53 No.4,p.122-128
【文献】エポキシ樹脂の硬化剤,高分子,1959年,Vol.8 No.11,p.615-619
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00 - 59/72
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化亜麻仁油、酸無水物から成る硬化剤、3級アミン化合物から成る硬化促進剤、溶融石英から成る充填剤、及びポリシルセスキオキサンを含有し、
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で配合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で配合されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記3級アミンが、ベンジルジメチルアミンである請求項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
90~110℃における粘度が6.0Pa・s以下である請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ化亜麻仁油と溶融石英を混合する工程A、酸無水物から成る硬化剤とポリシルセスキオキサンを混合する工程B、前記工程Aで得られたエポキシ混合物と、前記工程Bで得られた混合物、及び3級アミン化合物から成る硬化促進剤を混合する工程C、及び該工程Cで得られたエポキシ樹脂組成物を90~110℃で20~55時間加熱硬化させるエポキシ樹脂成形体の製造方法であって、
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で混合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で混合されることを特徴とするエポキシ樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物から成り、曲げ強度が75MPa以上であり、溶融石英を除いた樹脂組成物成分中のエポキシ化亜麻仁油の重量比率であるバイオマス比率が40重量%以上であることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用機器に使用可能なエポキシ樹脂組成物に関するものであり、より詳細には、植物由来エポキシ樹脂を使用し、環境負荷を低減可能であると共に、樹脂組成物の流動性に優れ、耐クラック性に優れた大型の絶縁性成形体を成形可能なエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用機器は長期にわたって高い信頼性が要求され、この電力用機器に使用可能な絶縁性組成物として、従来よりエポキシ樹脂組成物が使用されている(特許文献1等)。かかるエポキシ樹脂組成物から成る絶縁性組成物は優れた機械的特性及び耐熱性を備え、変成器や各種電力用機器の絶縁媒体として広く使用されている。
近年の地球温暖化に際して、電力用機器に関してもCOの排出抑制や石油資源の使用量節減が求められており、エポキシ樹脂を用いた電力用機器においても植物由来材料であるエポキシ化植物油を主剤として用いることが提案されている。
例えば、下記特許文献2には、エポキシ化大豆油を主剤とする絶縁性高分子材料組成物が記載されており、また下記特許文献3には、エポキシ樹脂、石炭灰、硬化剤を混合して成る絶縁材料を加熱硬化して得られ、高電圧機器の絶縁媒体に用いられる高電圧機器用絶縁性組成物が提案されており、エポキシ樹脂としてエポキシ化亜麻仁油を使用できることが記載されている。
【0003】
上記特許文献2及び3においては、主剤となるエポキシ樹脂として、植物由来のエポキシ化植物油を用いることにより、環境性が改善されていると共に、優れた絶縁性能を発現している。しかしながら、特許文献2において提案される成形物は、高温での硬化が必要であることからコイル等の内蔵物を有する成形体への適用が困難であり、また特許文献3において提案される成形体では、成形体表面に高電圧が印加されるような製品に適用することが困難であり、成形物の用途が限定的になるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、本発明者等は、エポキシ化亜麻仁油、ノボラック型フェノール樹脂から成る硬化剤、3級アミン化合物から成る硬化促進剤、及び溶融石英を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物を提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-246913号公報
【文献】特許第4862543号
【文献】特許第5110689号
【文献】特許第6385970号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献4に記載されたエポキシ樹脂組成物は、従来の石油由来のエポキシ樹脂と同等の成形条件で硬化可能であり、成形終了時の耐クラック性、及び成形体としたときの耐サーマルショック性にも優れているが、本発明者等が更に鋭意研究を行った結果、以下の点で、更に改良すべきことが判明した。すなわち、上記エポキシ樹脂組成物は比較的流動性が低いものであることから、大型の成形体の成形を行う場合には、樹脂組成物を均一に供給することが難しく、内蔵品としてボビンに巻きついた(巻線)等のように細かい凹凸や空隙を有する部品を備えた成形体を成形する際には、樹脂組成物が小さな空隙部分にまで均一に行き渡ることが困難であった。このような問題を解決するために、樹脂組成物の流動性を調整すべく充填剤量を調整したり、或いは樹脂組成物の温度を上げる等した場合には、耐クラック性が低下するおそれがある。
【0007】
従って本発明の目的は、植物由来のエポキシ樹脂を使用し、環境性に優れていると共に、従来のエポキシ樹脂と同等の成形条件で硬化可能であり、成形体の大きさや、内蔵品の種類や大きさにかかわらず成形体を成形可能な流動性を有し、成形終了時の耐クラック性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、優れた機械的特性及び耐熱性を有すると共に、耐サーマルショック性にも優れた絶縁性成形体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、エポキシ化亜麻仁油、酸無水物から成る硬化剤、3級アミン化合物から成る硬化促進剤、溶融石英から成る充填剤、及びポリシルセスキオキサンを含有し、
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で配合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で配合されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物が提供される。
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、
.前記3級アミンが、ベンジルジメチルアミンであること、
.90~110℃における粘度が6.0Pa・s以下であること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、エポキシ化亜麻仁油と溶融石英を混合する工程A、酸無水物から成る硬化剤とポリシルセスキオキサンを混合する工程B、前記工程Aで得られたエポキシ混合物と、前記工程Bで得られた混合物、及び3級アミン化合物から成る硬化促進剤を混合する工程C、及び該工程Cで得られたエポキシ樹脂組成物を90~110℃で20~55時間加熱硬化させるエポキシ樹脂成形体の製造方法であって、
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で混合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で混合されることを特徴とするエポキシ樹脂成形体の製造方法が提供される。
【0010】
本発明によれば更に、上記エポキシ樹脂組成物から成り、曲げ強度が75MPa以上であり、溶融石英を除いた樹脂組成物成分中のエポキシ化亜麻仁油の重量比率であるバイオマス比率が40重量%以上であることを特徴とする成形体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、主剤として植物由来のエポキシ化亜麻仁油を使用した環境負荷を低減可能なエポキシ樹脂組成物において、硬化剤として酸無水物を使用することにより、樹脂組成物の流動性を改良しながら、3級アミン化合物との組み合わせにより、得られる成形体の機械的強度や耐熱性を向上することができる。
また本発明のエポキシ樹脂組成物においては、更にポリシルセスキオキサンを配合することにより、従来の電力用機器に使用されていた石油由来のエポキシ樹脂組成物と同程度の温度及び時間で硬化しても、硬化後のクラックの発生を抑制することができ、耐クラック性に優れている。また、コイル等の内蔵物の耐熱特性に応じた温度条件で成形可能であることから、種々の電力用機器に対応することができる。
更に本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法においては、ポリシルセスキオキサンの凝集を生じることなく混合可能であり、上述した特性を有するエポキシ樹脂組成物を効率よく調製することが可能であり、エポキシ樹脂組成物全体のバイオマス比率が向上されている。
【0012】
更にまた本発明においては、充填剤として、線膨張係数が低い溶融石英を用いることにより、上記硬化剤及びポリシルセスキオキサンの使用と相俟って、耐サーマルショック性、すなわち急激な温度変化に対してもクラックを発生することがない性質を向上することができ、成形物表面に高電圧が印加されるような電力用機器においても表面抵抗や耐アーク性が低下することもない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(エポキシ樹脂組成物)
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ化亜麻仁油、酸無水物から成る硬化剤、3級アミン化合物から成る硬化促進剤、溶融石英から成る充填剤、及びポリシルセスキオキサンを含有することが重要な特徴である。
また本発明のエポキシ樹脂組成物は、流動性に優れており、90~110℃における粘度が6.0Pa・s以下に調整されている。
【0014】
[エポキシ化亜麻仁油]
本発明で用いるエポキシ化亜麻仁油は、従来可塑剤等に用いられていた市販のものを使用することができ、これに限定されないが、エポキシ当量が175~185g/eqの範囲にあるものを好適に用いることができる。
【0015】
[酸無水物]
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、硬化剤として酸無水物系硬化剤を用いることが重要な特徴である。すなわち、前述したとおり、フェノール系硬化剤を用いた場合には樹脂組成物の流動性が低いことから、細かな内蔵品を備える成形体を成形する際に樹脂組成物を細部まで効率よく行き渡らせることが困難であったが、酸無水物系硬化剤によれば、樹脂組成物の流動性を改良することが可能となる。このような酸無水物系硬化剤としては、酸無水物又は該酸無水物の変性物を使用することができる。
【0016】
酸無水物としては、これに限定されないが、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、トリアルキルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、ヘット酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物、1-メチル-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物等を例示することができ、また酸無水物の変性物としては、上述した酸無水物をエチレングリコール、プロプレングリコール等のグリコールで変性したものを例示することができる。
【0017】
本発明においては上記の中でも特に、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物や、ヘキサヒドロフタル酸無水物を好適に使用することができる。
酸無水物の配合量は、用いるエポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する酸無水物当量から決定することができ、エポキシ基と酸無水物基の比が0.9~1.1、特に0.95~1.05の範囲にあることが好ましく、これにより充分な硬化特性を得ることができ、電力用機器に要求される機械的強度及び耐熱性を得ることが可能になる。
【0018】
[硬化促進剤]
本発明においては、硬化促進剤として、3級アミン化合物を用いる。これによりエポキシ化亜麻仁油のエポキシ基と酸無水物系硬化剤との反応を促進させ、成形時間を低減させることが可能になる。
このような3級アミン化合物としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等を例示することができるが、本発明においては、特にベンジルジメチルアミンを好適に用いることができる。
3級アミン系硬化促進剤の配合量は、成形プロセス条件にもよるが、例えばベンジルジメチルアミンを使用する場合、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、0.5~2重量部、特に0.5~1.0重量部の量で配合することが好適である。3級アミン系硬化促進剤の配合量が上記範囲にあることにより、電力用機器に要求される機械的強度及び耐熱性を得ることが可能になる。
【0019】
[充填剤]
本発明においては、充填剤として溶融石英を用いる。
溶融石英の平均粒径は、これに限定されないが、10~30μmの範囲にあることが望ましい。また溶融石英は、シラン処理が施されていてもよい。
溶融石英は、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、450~500重量部、特に475~500重量部の量で配合することが、線膨張率を好適な範囲に維持し、成形体の耐クラック性を向上することができる。
【0020】
[ポリシルセスキオキサン]
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、ポリシルセスキオキサンを含有することが重要な特徴である。ポリシルセスキオキサンは、下記化学式(1)で示される構成単位を有するポリシロキサンであり、分子内に「Si-O―Si」結合が示す無機の特性(例えば、高い硬度)及び有機官能基「R」が示す有機の特性(例えば、エポキシ樹脂に対する優れた相溶性や分散性等)を兼ね備え、エポキシ樹脂の加工性や機械的性質を保ちながらポリマー鎖の動きをコントロールすることが可能である。本発明においては、かかるポリシルセスキオキサンを配合することにより、硬化剤として酸無水物を用いることと相俟って、樹脂組成物の流動性及び耐クラック性を改良することができる。
【0021】
[化1]
[(RSiO3/2)]・・・(1)
上記式(1)中、nは、1以上の整数を示し、「R」は、炭素数1~12個(以下、「C1~C12」とも記載する)のアルキル基、C2~C12のアルケニル基、C2~C12のアルキニル基、C6以上のシクロアルキル基およびC6以上のアリール基等の1価の有機酸である。
また、「R」は、ポリシルセスキオキサンを構成する上記式(1)で示されるユニット間で同一であってもよく、また、異なっていてもよい。かかるポリシルセスキオキサンは、例えば、C1~C12のアルキル基を有するアルコキシシランを加水分解縮合物として得られるものである。
具体的なアルコキシシランとしては、C1~C3のアルコキシ基を有するシラン、すなわち、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトシキシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0022】
ポリシルセスキオキサンは、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して11重量部以上且つ40重量部未満の量で用いることが好ましく、20~30重量部の範囲の量で用いることが特に好ましい。上記範囲よりもポリシルセスキオキサンの量が少ないと、ポリシルセスキオキサンを配合することにより得られる効果を十分に得ることができず、その一方上記範囲よりも多いと上記範囲にある場合に比して、樹脂組成物の流動性に劣るようになると共に、成形体の曲げ強度が低下するおそれがある。
【0023】
(エポキシ樹脂成形体及びその製造方法)
本発明において、上述したエポキシ樹脂組成物が有する優れた特性を損なうことなく、成形体を製造するには下記の工程により製造することが望ましい。
すなわち、エポキシ化亜麻仁油と溶融石英を混合する工程A、酸無水物から成る硬化剤とポリシルセスキオキサンを混合する工程B、前記工程Aで得られたエポキシ混合物と、前記工程Bで得られた混合物、及び3級アミン化合物から成る硬化促進剤を混合する工程C、及び該工程Cで得られたエポキシ樹脂組成物を90~110℃で20~55時間加熱硬化させることが重要である。
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、上記工程Bで酸無水物系硬化剤とポリシルセスキオキサンを予め混合してから、上記工程Aで溶融石英と混合されたエポキシ化亜麻仁油に配合することが重要であり、これにより、樹脂組成物の粘度を低減し、所望の流動性を確保することが可能になる。
【0024】
上記工程A~Cを経て調製された本発明のエポキシ樹脂組成物は、前述したとおり、90~110℃における粘度が6.0Pa・s以下に調整されており、優れた流動性を有している。そのため、巻線等の内蔵品を備えた成形品であっても、樹脂組成物が小さな空隙部分にまで効率よく均一に行き渡ることから、均一な成形体を成形することが可能になる。
本発明においては、上述したエポキシ樹脂組成物を、90~110℃の温度、好適には95~105℃の温度で、20~55時間、好適には45~55時間加熱した後、徐冷する。最も好適には100℃で49時間加熱した後徐冷し、徐冷時間を含めて合計63時間加熱する。これにより、クラックの発生のない絶縁性成形体を効率よく成形することができる。
このように本発明のエポキシ樹脂組成物においては、植物由来でないエポキシ樹脂を用いた場合と同程度の温度と時間で硬化させることが可能であり、これによりクラックの発生がない成形体を成形できると共に、成形後の急激な温度変化に対してもクラックを発生し難い、耐サーマルショック性を具備する成形体を成形することが可能になる。
【0025】
上記成形条件で成形された本発明の成形体(硬化物)は、ガラス転移温度(JIS K 7121準拠)が65℃以上、曲げ強度(JIS K 7171準拠)が75MPa以上の範囲にあり、電力用機器に好適に用いることができる。
また本発明の成形体は、溶融石英を除いた樹脂組成物中のエポキシ化亜麻仁油の重量比率であるバイオマス比率が40重量%以上であり、環境負荷が低減されている。
【実施例
【0026】
本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
(実施例1、比較例1~5)
表1に示す材料を用いて、表2(実施例及び比較例)に示す組成のエポキシ樹脂組成物を調製した。
外径50mm、高さ15mmの円筒状の型を用い、型中心にM24スプリングワッシャを配置した後、調製されたエポキシ樹脂組成物を充填し、表2に示す成形条件で、円筒状成形体を成形した。
【0027】
(各種物性値の測定)
得られた成形体について、ガラス転移温度、曲げ強度を、上述したJIS規格に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0028】
(バイオマス比率)
充填剤を除いた樹脂成分において、植物由来成分の重量比率を算出した。結果を表2に示す。
【0029】
(耐クラック性の評価方法)
成形終了時にクラックの発生の有無を目視により確認した。結果を表2に示す。
【0030】
(耐サーマルショック性の評価方法)
成形終了時にクラックを発生していない成形体について、以下の試験方法により耐サーマルショック性の評価を行った。
熱槽溶媒として水、冷槽溶媒としてエタノールを用い、表3に示す温度の熱槽及び冷槽を準備し、成形体(n=5)を入れたカゴを、熱槽と冷槽に交互に表3に示す順序で10分間浸漬した。尚、浸漬中の溶媒温度は規定温度±3℃以内に保持した。成形体が熱槽と冷槽とを移動する時間は1分間とし、その間にクラックの有無を確認した。結果を表2に示す。
尚、表2における耐サーマルショック性(耐クラック性)の評価の表記は、現行石油由来エポキシ樹脂を使用した比較例5(100℃から0℃の冷槽に浸漬された際にクラックが発生)を基準として、以下のように表記した。
○:基準と同等
×:基準より劣る(成形終了時にクラックが発生)
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
(考察)
実施例1の成形体は、石油由来のエポキシ樹脂と比較して機械的強度に劣る植物由来のエポキシ化亜麻仁油を用いていながら、比較例5の石油由来のエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物から成る成形体と同程度の流動性、耐クラック性及び耐サーマルショック性を有していることがわかる。
エポキシ化亜麻仁油を用いた場合でも、添加剤としてポリシルセスキオサンを用いていない場合(比較例1)、或いはポリシルセスキオサンの配合量が少ない場合(比較例2)には、満足する成形体が得られていないことが明らかである。また成形終了時にクラックを発生しない成形条件とするために、ポリシルセスキオサンの配合量が多い場合(比較例3)には流動性に劣ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐クラック性を損なうことなく、樹脂組成物の流動性が改善されていることから、成形品の大きさや、内蔵品の種類や大きさにかかわらず、成形可能であり、種々の電力用機器に使用することができる。また環境負荷が低減された植物由来のエポキシ樹脂を用いていながら、石油由来のエポキシ樹脂と同程度の温度と時間で硬化させることが可能であり、効率よく成形可能である。
更にこのエポキシ樹脂組成物を硬化して成る成形体は、耐熱性及び機械的強度に優れると共に、耐サーマルショック性にも優れており、長期にわたって優れた特性を維持でき、電力用機器に有効に使用できる。