(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】老化度判定システム及び老化度判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/21 20060101AFI20230206BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
G01N21/21 Z
G01N21/17 A
(21)【出願番号】P 2019083171
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中山 沙希
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148566(JP,A)
【文献】特開2006-275691(JP,A)
【文献】特開2008-145226(JP,A)
【文献】特開2018-021792(JP,A)
【文献】吉田 咲,外2名,マイクロ波加熱によって炊飯された米飯のX線回折を用いた老化評価,日本食品工学会誌,2010年,Vol.11, No.2,pp.85-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の老化度を判定するシステムであって、
前記デンプン系食品に偏光光を照射する光学手段と、
前記偏光光が照射された前記デンプン系食品の偏光画像を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影した偏光画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記偏光画像データを基に輝度に関するヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段と、
前記デンプン系食品の老化度と、前記デンプン系食品に偏光光を照射して撮影された偏光画像データを基に作成された輝度に関するヒストグラムの平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報との、予め定められた相関関係を記憶する記憶部と、
前記ヒストグラム作成手段で作成した前記ヒストグラムから得られる
平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報
と、前記記憶部に記憶された前記相関関係とを基に、前記デンプン系食品の老化度を判定する老化度判定手段とを備える老化度判定システム。
【請求項2】
前記光学手段は、光を照射可能な光源と、偏光軸の交差角が調整可能な2つの偏光体とを備え、前記光源から照射された光が前記2つの偏光体のうちの一方の偏光体を通って偏光光として前記デンプン系食品に照射され、前記デンプン系食品に照射された偏光光が他方の偏光体を通して前記撮影手段に導かれるように構成されており、
前記交差角は、3°~180°の範囲内で調整される請求項
1に記載の老化度判定システム。
【請求項3】
デンプン質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の老化度を判定する方法であって、
前記デンプン系食品に偏光光を照射する偏光光照射工程と、
前記偏光光が照射された前記デンプン系食品の偏光画像を撮影する撮影工程と、
前記撮影工程で撮影した偏光画像データを取得する画像データ取得工程と、
前記偏光画像データを基に輝度に関するヒストグラムを作成するヒストグラム作成工程と、
前記ヒストグラム作成工程で作成した前記ヒストグラムから得られる
平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報
と、前記デンプン系食品の老化度と前記デンプン系食品に偏光光を照射して撮影された偏光画像データを基に作成された輝度に関するヒストグラムの平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報との予め定められた相関関係とを基に、前記デンプン系食品の老化度を判定する老化度判定工程と、を実行する老化度判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプン質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の老化度を判定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米飯加工や酒造などといった米を原料とする食品加工分野において、米の老化は製品の品質を決める重要な要因である。例えば、弁当やおにぎりなどの米飯加工食品の製造過程において、炊飯した米(炊飯米)を冷却後に成形するが、炊飯米は冷却過程において老化することで、テクスチャーの悪化(例えば、硬くなる、凝集性が低下するといった変化)が起こり、これにより、成形時の加工性が悪化したり、加工食品の食味が低下したりするという問題があり、また、炊飯米の老化度合を把握することは、加工食品の保管や流通過程における品質を管理する上で重要である。一方、酒造過程においては、原料となる酒米を蒸した米(蒸米)の老化度合が発酵工程での微生物による分解に影響を与えるため、蒸米の老化度合を把握することが酒の品質管理を行う上で重要である。
【0003】
従来から、炊飯米や蒸米(デンプン質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の一例)の老化度を判定する技術としては、例えば、特許文献1~4に記載された技術が提案されている。
【0004】
具体的に、特許文献1記載の技術では、米の老化性と、米の尿素崩壊性及びアルカリ崩壊性とが相関関係にあることに着目し、尿素水溶液やアルカリ水溶液中に評価対象米を浸して評価対象米のこれらの水溶液中での崩壊性を評価し、これら尿素崩壊性やアルカリ崩壊性を指標として、米の老化性を評価している。
【0005】
また、特許文献2記載の技術では、米類をアルカリ溶液や尿素溶液などの糊化溶液に浸漬し、溶液中の溶出デンプン量をヨウ素デンプン呈色反応によって検出して、検出した溶出デンプン量と米類の老化性との相関関係に基づき米類の老化性を評価している。
【0006】
一方、特許文献3には、米や小麦などのデンプン質含有穀物を水の存在下で加熱調理してある食品にX線を照射して、所定の回折角の回折X線の強度に基づいてデンプン質含有食品の老化度を判定する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献4記載の技術は、穀類試料の糊化特性値(糊化開始温度や粘度など)を測定し、測定した糊化特性値を用いて解析を行い、その解析結果から穀類試料の老化性を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-57278号公報
【文献】特開2017-161399号公報
【文献】特開2016-70860号公報
【文献】特開2005-221344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や特許文献2記載の技術では、米の老化性を評価するに際して、各種溶液を用いる必要があり、また、評価対象を各種溶液に所定時間浸漬させる必要があるため、薬剤の使用が避けられず、短時間で老化性を評価することも難しいという欠点がある。
【0010】
また、特許文献3記載の技術では、X線回折装置を用いて評価対象にX線を照射する必要があるため、高価な機器の使用が避けられない。
【0011】
更に、特許文献4記載の技術では、粘度などの糊化特性値を解析した結果から間接的に老化性を評価しているに過ぎず、評価精度の向上という観点からみて改善の余地がある。
【0012】
このように、上記特許文献1~4記載の技術によれば、水の存在下で加熱された米(デンプン系食品)の老化度合を評価することができるが、各特許文献記載の技術は、高価な機器を用いることなくデンプン系食品の老化度合を簡便且つ容易に評価可能な手法としては依然として改善の余地がある。
【0013】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、デンプン質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の老化度を簡便且つ容易に判定できる老化度判定システム及び老化度判定方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る老化度判定システムの特徴構成は、デンプン質
含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の老化度を判定するシステムであって
、
前記デンプン系食品に偏光光を照射する光学手段と、
前記偏光光が照射された前記デンプン系食品の偏光画像を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影した偏光画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記偏光画像データを基に輝度に関するヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段
と、
前記デンプン系食品の老化度と、前記デンプン系食品に偏光光を照射して撮影された偏光画像データを基に作成された輝度に関するヒストグラムの平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報との、予め定められた相関関係を記憶する記憶部と、
前記ヒストグラム作成手段で作成した前記ヒストグラムから得られる平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報と、前記記憶部に記憶された前記相関関係とを基に、前記デンプン系食品の老化度を判定する老化度判定手段と、を備える点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、デンプン系食品に関する偏光画像データを取得でき、この取得した偏光画像データを処理して輝度に関するヒストグラムを作成する。
【0016】
ここで、米などのデンプン質含有食材に含まれるアミロースやアミロペクチンなどのデンプンは、例えば、生米の状態では結晶構造を有しているため、生米の偏光画像には、この結晶構造に由来した特有の偏光十字が輝度の高い部分として現れる。これに対して、炊飯直後や蒸し直後の米においては、結晶構造中に水が入り込んで結晶構造が崩壊しているため、これらの偏光画像には偏光十字が現れない。しかしながら、炊飯米や蒸米(言い換えれば、デンプン系食品)においては、時間の経過によって結晶構造中に入り込んだ水が徐々に外部に放出されて、崩壊していた結晶構造が徐々に戻る(所謂老化する)ことで、これらの偏光画像には偏光十字が輝度の高い部分として現れる。
【0017】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、偏光画像データを処理して作成した輝度に関するヒストグラムから、デンプン系食品の老化度に関係する老化度判定情報を得られることを見出し、この老化度判定情報を基にしてデンプン系食品の老化度を判定できるという知見を得て本発明を完成させた。
【0018】
即ち、上記特徴構成では、老化度判定手段によって、上記作成したヒストグラムから得られる老化度判定情報を基に、デンプン系食品の老化度を判定することができる。
【0019】
このように、本発明においては、従来のように、薬剤や高価な機器を必要とせず、デンプン系食品に対して煩雑な処理を行う必要もなく、比較的簡便且つ容易にデンプン系食品の老化度を判定できる。
【0021】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、上記ヒストグラムから得られる老化度判定情報として、平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度が有用であり、これらのうち少なくとも1つを老化度判定情報として利用することで、デンプン系食品の老化度を判定できることを見出した。
【0022】
即ち、上記特徴構成によれば、平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つを老化度判定情報とし、この老化度判定情報を基にして、デンプン系食品の老化度を判定できる。
【0023】
また、本発明に係る老化度判定システムの更なる特徴構成は、前記光学手段は、光を照射可能な光源と、偏光軸の交差角が調整可能な2つの偏光体とを備え、前記光源から照射された光が前記2つの偏光体のうちの一方の偏光体を通って偏光光として前記デンプン系食品に照射され、前記デンプン系食品に照射された偏光光が他方の偏光体を通して前記撮影手段に導かれるように構成されており、
前記交差角は、3°~180°の範囲内で調整される点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、2つの偏光体の交差角を3°~180°の範囲内に調整することで、偏光画像データを処理して作成したヒストグラムから老化度の判定に利用可能な有意な老化度判定情報を得ることができる。尚、本願発明者は、交差角を3°~180°の範囲内に調整した場合に、デンプン系食品の偏光画像データを処理して作成したヒストグラムから得られる老化度判定情報を基に、デンプン系食品の老化度を判定できることを実験的に確認している。
【0025】
また、上記目的を達成するための本発明に係る老化度判定方法の特徴構成は、デンプン
質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の老化度を判定する方法であって、
前記デンプン系食品に偏光光を照射する偏光光照射工程と、
前記偏光光が照射された前記デンプン系食品の偏光画像を撮影する撮影工程と、
前記撮影工程で撮影した偏光画像データを取得する画像データ取得工程と、
前記偏光画像データを基に輝度に関するヒストグラムを作成するヒストグラム作成工程
と、
前記ヒストグラム作成工程で作成した前記ヒストグラムから得られる平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報と、前記デンプン系食品の老化度と前記デンプン系食品に偏光光を照射して撮影された偏光画像データを基に作成された輝度に関するヒストグラムの平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つの老化度判定情報との予め定められた相関関係とを基に、前記デンプン系食品の老化度を判定する老化度判定工程と、を実行する点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、デンプン系食品に関する偏光画像データを取得し、この取得し
た偏光画像データを処理して輝度に関するヒストグラムを作成し、この作成したヒストグ
ラムから得られる老化度判定情報を基にして、デンプン系食品の老化度を判定できる。
上記特徴構成によれば、平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択される少なくとも1つを老化度判定情報とし、この老化度判定情報を基にして、デンプン系食品の老化度を判定できる。
【0027】
このように、本発明に係る老化度判定方法においては、薬剤や高価な機器を必要とせず、デンプン系食品に対して煩雑な処理を行う必要もなく、比較的簡便且つ容易にデンプン系食品の老化度を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係る老化度判定システムの概略構成を示す図である。
【
図3】調理米に関するDSC測定の結果を示すグラフである。
【
図4】調理米に関するXRD測定の結果を示すグラフである。
【
図5】調理米に関するテクスチャー測定の結果を示すグラフである。
【
図6】調理米に関する熱量と老化度判定情報としての平均値、中央値及び最頻値との関係を示すグラフである。
【
図7】調理米に関する熱量と老化度判定情報としての尖度及び歪度との関係を示すグラフである。
【
図8】調理米に関するX線強度と老化度判定情報としての平均値、中央値及び最頻値との関係を示すグラフである。
【
図9】調理米に関するX線強度と老化度判定情報としての尖度及び歪度との関係を示すグラフである。
【
図10】調理米に関する付着性と老化度判定情報としての平均値、中央値及び最頻値との関係を示すグラフである。
【
図11】調理米に関する付着性と老化度判定情報としての尖度及び歪度との関係を示すグラフである。
【
図12】パスタ(オイルあり)に関する保管期間と老化度判定情報としての平均値、中央値及び最頻値との関係を示すグラフである。
【
図13】パスタ(オイルなし)に関する保管期間と老化度判定情報としての平均値、中央値及び最頻値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る老化度判定システム及び老化度判定方法について説明する。
【0030】
図1及び
図2は、本実施形態に係る老化度判定システム1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、老化度判定システム1は、デンプン質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品Rに偏光光を照射する光学装置2(光学手段)と、偏光光が照射されたデンプン系食品Rの偏光画像を撮影する撮影装置6(撮影手段)と、後述する各種機能部で構成される制御装置10とを備えている。また、制御装置10は、
図2に示すように、撮影装置6で撮影した偏光画像データを取得する画像データ取得部11(画像データ取得手段)と、偏光画像データを基に輝度に関するヒストグラムを作成するヒストグラム作成部13(ヒストグラム作成手段)と、ヒストグラム作成部13で作成したヒストグラムから得られる老化度判定情報を基に、デンプン系食品Rの老化度を判定する老化度判定部15(老化度判定手段)とを備えるとともに、画像データ取得部11で取得した偏光画像データを処理する画像処理部12や、ヒストグラム作成部13で作成したヒストグラムを基に老化度判定情報を取得する老化度判定情報取得部14、取り扱う各種情報等を記憶する記憶部16を備えている。
【0031】
尚、老化度判定システム1の判定対象であるデンプン系食品としては、デンプン質を含有する食材(米や小麦、芋類など)が水の存在下で加熱されて作られる調理米や麺類、その他の食品が挙げられる。
【0032】
本実施形態において、光学装置2は、遮光ボックスB内の下部に配置されたライト3(光源)と、ライト3の上方に配置された第一偏光板4(一方の偏光体)と、遮光ボックスBの上方に配置された第二偏光板5(他方の偏光体)とからなる。また、第一偏光板4及び第二偏光板5は、各偏光軸の角度が調整可能に構成されており、本実施形態においては、第一偏光板4の偏光軸と第二偏光板5の偏光軸との交差角が3°~180°の範囲内となるように、第一偏光板4及び/又は第二偏光板5の偏光軸の角度を調整する。
【0033】
撮影装置6は、第二偏光板5の上方且つ遮光ボックスBの上部に形成された開口部B1と対向する位置に配置されている。
【0034】
したがって、本実施形態においては、老化度の判定対象であるデンプン系食品を開口部B1の下方に位置するように第一偏光板4上に配置した状態で、ライト3から上方に向けて光を照射することにより、照射した光が第一偏光板4を通って偏光光としてデンプン系食品Rに照射され、デンプン系食品Rに照射された偏光光が開口部B1及び第二偏光板5を通って撮影装置6に導かれ、デンプン系食品Rの偏光画像が撮影される。即ち、本実施形態においては、偏光光をデンプン系食品Rに照射し、その透過光を観察している。尚、
図1においては、デンプン系食品の一つである炊飯米を第一偏光板4上に配置した状態を示した。
【0035】
図2に示すように、制御装置10は、画像データ取得部11、画像処理部12、ヒストグラム作成部13、老化度判定情報取得部14、老化度判定部15及び記憶部16を備えている。
【0036】
画像データ取得部11は、撮影装置6によって撮影されたデンプン系食品Rの偏光画像データを取得する機能部である。具体的に、本実施形態においては、撮影装置6から送信される偏光画像データに係る信号を受信して、デンプン系食品Rの偏光画像データを取得する。尚、画像データ取得部11が取得した偏光画像データは、記憶部16に適宜記憶しておくこともできる。
【0037】
画像処理部12は、画像データ取得部11で取得した偏光画像データを処理する機能部である。具体的に、本実施形態における画像処理部12は、ヒストグラム作成部13でのヒストグラムの作成に先立って、画像データ取得部11が取得した偏光画像データにおいて、デンプン系食品Rのみを含む領域の偏光食品画像データを抽出する処理と、抽出した偏光食品画像データを、明領域を255、暗領域を0とする256階調の画像データ(グレースケール化画像データ)に変換する処理とを行う。尚、画像処理部12における上記各処理は、例えば、デンプン系食品Rが炊飯米や蒸米などの調理米である場合、一粒の調理米のみを含む領域のグレースケール化画像データを得られるように行われたり、二粒以上(例えば、四粒)の調理米のみを含む領域のグレースケール化画像データを得られるように行われたりするものである。
【0038】
ヒストグラム作成部13は、偏光画像データを基に輝度に関するヒストグラムを作成する機能部である。具体的に、本実施形態におけるヒストグラム作成部13は、画像処理部12において偏光画像データを基に得られたグレースケール化画像データ中の階調値の分布を輝度に関するヒストグラムとして作成する。
【0039】
老化度判定情報取得部14は、ヒストグラム作成部13で作成したヒストグラムを基に老化度判定情報を取得する機能部である。具体的に、本実施形態においては、ヒストグラムの平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度を算出し、これらを老化度判定情報として取得する。
【0040】
老化度判定部15は、ヒストグラム作成部13で作成したヒストグラムから得られる老化度判定情報を基に、デンプン系食品Rの老化度を判定する機能部である。具体的に、本実施形態の老化度判定部15は、老化度判定情報取得部14が取得した平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから少なくとも1つを選択して、この選択した老化度判定情報に対応する、予め定めた老化度判定情報と老化度との相関関係や重みづけ係数などを基に、デンプン系食品Rの老化度を判定する。より具体的に言うと、例えば、ヒストグラムを作成する際の元になった偏光画像データが交差角を30°に調整した状態で撮影したものであり、ヒストグラムの平均値を老化度判定情報として選択した場合には、この選択した平均値と、交差角が30°である場合の予め定めた平均値と老化度との相関関係とを基にデンプン系食品Rの老化度を判定し、平均値及び尖度を老化度判定情報として選択した場合には、これら選択した平均値及び尖度と、予め定めた平均値と老化度との相関関係、予め定めた尖度と老化度との相関関係、これらの相関関係に関する重みづけ係数を基にしてデンプン系食品Rの老化度を判定する。
【0041】
記憶部16は、取り扱う各種情報等を記憶する機能部であり、本実施形態においては、予め定めた老化度判定情報と老化度との相関関係や、重みづけ係数、各機能部で取得した情報、作成したヒストグラムなどを記憶できるようになっている。
【0042】
次に、以上のような構成を備えた老化度判定システム1を用いて、デンプン系食品Rの老化度を判定する方法について説明する。
【0043】
まず、遮光ボックスB内の第一偏光板4上に載置したシャーレの中に老化度を判定したいデンプン系食品Rを入れ、ついで、第一偏光板4の偏光軸と第二偏光板5の偏光軸との交差角が3°~180°の任意の角度となるように各偏光板4,5の位置を調整する。尚、以下においては、交差角が30°となるように各偏光板4,5の位置を調整した場合を一例として説明する。
【0044】
次に、ライト3からの光の照射を開始して、第一偏光板4を通った偏光光をデンプン系食品Rに照射し(偏光光照射工程)、デンプン系食品Rに偏光光を照射した状態で、撮影装置6によりデンプン系食品Rの偏光画像を撮影する(撮影工程)。
【0045】
ついで、撮影装置6により撮影されたデンプン系食品Rの偏光画像が画像データ取得部11により取得され(画像データ取得工程)、画像処理部12において、取得された偏光画像データからデンプン系食品Rのみを含む領域の偏光食品画像データが抽出され、抽出された偏光食品画像データがグレースケール化画像データに変換される(画像変換工程)。その後、ヒストグラム作成部13において、偏光画像データの処理により得られたグレースケール化画像データ中の階調値の分布図(輝度に関するヒストグラム)が作成される(ヒストグラム作成工程)。
【0046】
次に、老化度判定情報取得部14において、ヒストグラム作成工程において作成されたヒストグラムを基に、平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度が算出される(老化度判定情報取得工程)。その後、老化度判定部15において、老化度判定情報取得工程で取得された平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちの少なくとも1つの老化度判定情報と、交差角が30°である場合の予め定めた各老化度判定情報と老化度との相関関係や各相関関係に関する重みづけ係数とを基にして、デンプン系食品Rの老化度を判定する(老化度判定工程)。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る老化度判定システム及び老化度判定方法によれば、デンプン系食品の偏光画像を撮影し、偏光画像データを基に作成したヒストグラムから得られる老化度判定情報を基に老化度を判定することができるため、薬剤や高価な機器、デンプン系食品に対する煩雑な処理等を必要とすることなく、比較的簡便且つ容易にデンプン系食品の老化度を判定できる。
【0048】
以下、実験例について説明する。まず、デンプン系食品の一つである調理米に関して行った実験について説明する。
【0049】
〔サンプルの調製〕
90%精米した米を水に浸漬させて1時間吸水させた後、電気炊飯器の酢飯モードで炊飯し、1合につき合わせ酢37mlとなるように酢合わせし、その後、室温にて1.5時間放置した米をサンプル1とした。
また、放置後の米を1貫約20gとなるようにしゃりを形成し、プラスチック容器内に10貫入れた状態で10℃の冷蔵庫で保管し、保管開始から1日経過したものをサンプル2、2日経過したものをサンプル3、3日経過したものをサンプル4、4日経過したものをサンプル5とした。
これらサンプルについて、DSC測定、XRD測定、テクスチャー測定を行った。また、各サンプルの偏光画像を撮影し、偏光画像データを基に作成したヒストグラムから老化度判定情報としての平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度を算出して、算出した老化度判定情報と、DSC測定、XRD測定及びテクスチャー測定の結果との関係を検証した。
【0050】
〔DSC測定〕
サンプル1,2,4及び5について、DSC測定を行った。測定には、ネッチ・ジャパン株式会社製のDSC3500Sirusを使用するとともに、精製水で煮沸処理したアルミニウム製の容器を使用した。また、温度プログラムやパージガス等は下記表1に示す条件で行った。
デンプンの糊化温度である40℃~60℃の範囲に生じたピークの面積を老化により失われた熱量とした。また、各サンプルについて別途測定した含水率を用いて、乾燥重量あたり熱量に換算した。尚、各サンプルについてそれぞれ2回ずつ測定を行った。
【0051】
【0052】
〔DSC測定の結果〕
図3は、各サンプルに関する老化により失われた熱量をまとめたグラフであり、各サンプルの熱量の値は、2回測定したときの平均値である。尚、
図3中の「day0」がサンプル1、「day1」がサンプル2、「day3」がサンプル4、「day4」がサンプル5の結果である。
同図から分かるように、保管日数が増えるほど、老化によって失われた熱量が増加していることが分かり、日数の経過によって米の老化が進行していることを確認できた。
【0053】
〔XRD測定〕
サンプル1,2,3及び5について、XRD測定を行った。測定には、株式会社リガク製のSmartLabを使用し、X線管球にはCuKαを使用し、管電圧を45kV、管電流を200mAとした。また、検出器はSCとした。
回折角2θが5.5°に生じたピークを老化のピークとし、そのピーク強度を算出した。尚、各サンプルについてそれぞれ2回ずつ測定を行った。
【0054】
〔XRD測定の結果〕
図4は、各サンプルに関する回折角2θ=5.5°におけるピーク強度をまとめたグラフであり、各サンプルのピーク強度の値は、2回測定したときの平均値である。尚、
図4中の「day0」がサンプル1、「day1」がサンプル2、「day2」がサンプル3、「day4」がサンプル5の結果である。
同図から分かるように、保管開始からの日数が長いほど老化に特有のピークが増加しており、日数の経過によって米の老化が進行していることを確認できた。
【0055】
〔テクスチャー測定〕
サンプル1~5について、株式会社山電製のクリープメーター(RE2-33005B)を用いてテクスチャー測定を行った。テクスチャー測定では、専用の金属容器にサンプルを約16g入れ、先端が平坦で直径が15mmであるプランジャー(プランジャーL15)を用いて、かたさ、凝集性、付着性を測定した。尚、測定は各サンプルについて5回ずつ行い、平均値を算出した。尚、「かたさ」とは、一定の変形をさせるために必要な力であり、「凝集性」とは、食品を形作っている内部結合力であり、「付着性」とは、食品と当該食品に接している他のものを引き離すのに必要な力である。
【0056】
〔テクスチャー測定の結果〕
保管開始からの日数が長くなるにつれて、かたさは硬くなる傾向にあり、凝集性及び付着性は低くなる傾向にあることが確認でき、日数が経過することで、米の老化が進行していることを確認できた。尚、
図5には、テクスチャー測定の結果の一つとして、各サンプルについての付着性をまとめたグラフを示した。
図5中の「day0」がサンプル1、「day1」がサンプル2、「day2」がサンプル3、「day3」がサンプル4、「day4」がサンプル5の結果である。
【0057】
〔老化度判定情報の算出〕
上記実施形態に係る老化度判定システムを使用して、2つの偏光板の偏光軸の交差角が30°である場合、50°である場合、170°である場合のそれぞれについて、各サンプルの偏光画像を撮影し、得られた偏光画像データを処理してヒストグラムを作成し、平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度を算出した。
【0058】
〔各サンプルの老化度判定情報と各測定結果との関係の検証〕
図6~
図11は、各サンプルについて算出した老化度判定情報(平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度)と、DSC測定、XRD測定及びテクスチャー測定の結果との関係を示すグラフであり、
図6は平均値、中央値及び最頻値とDSC測定の結果たる熱量との関係、
図7は尖度及び歪度と上記熱量との関係、
図8は平均値、中央値及び最頻値とXRD測定たるX線強度との関係、
図9は尖度及び歪度と上記X線強度との関係、
図10は平均値、中央値及び最頻値とテクスチャー測定の結果たる付着性との関係、
図11は尖度及び歪度と上記付着性との関係を示すグラフである。尚、各図において、平均値、中央値及び最頻値は、2つの偏光板の偏光軸の交差角を30°に調整して偏光画像を撮影した場合の値であり、尖度は交差角を50°、歪度は交差角を170°に調整して偏光画像を撮影した場合の値である。
【0059】
図6及び
図7に示すように、ヒストグラムから算出した老化度判定情報と熱量との間に一定程度の相関があり、特に、平均値、中央値、尖度及び歪度と、熱量との間には高い相関がある。このように、DSC測定の測定結果と老化度判定情報との間に一定の相関があることから、上記老化度判定情報を用いて老化度を判定できることが確認できた。
【0060】
また、
図8及び
図9に示すように、ヒストグラムから算出した各老化度判定情報とX線強度との間にそれぞれ一定程度の相関がある。このように、XRD測定の測定結果と老化度判定情報との間に相関があることから、老化度判定情報を用いて老化度を判定できることも確認できた。
【0061】
更に、
図10及び
図11に示すように、ヒストグラムから算出した各老化度判定情報と、付着性との間に一定程度の相関がある。このように、テクスチャー測定の測定結果と老化度判定情報との間に相関があることから、老化度判定情報を用いて老化度を判定できることも確認できた。
【0062】
以上のように、ヒストグラムから算出した各老化度判定情報と、各種測定の測定結果との間に一定程度の相関があることから、老化度判定情報を基に調理米の老化度を判定できることが実験的に確認できた。
【0063】
次に、デンプン系食品の一つであるパスタに関して行った実験について説明する。
【0064】
〔サンプルの調製〕
水1Lを沸騰させた後、食塩5g、乾燥パスタ100gを入れて12分間茹で、その後、湯切りを行い、室温で2分間放置して粗熱をとった。しかる後、湯切り後の重量に対して2%のオイルを添加し、これをサンプル6とした。また、粗熱をとった後、オイルを添加していないものをサンプル7とした。作成した各サンプルは、10℃の冷蔵庫内で保管し、測定時に冷蔵庫から取り出して分析に供した。
【0065】
〔老化度判定情報の算出〕
上記実施形態に係る老化度判定システムを使用して、サンプル調製直後、保管開始から1日経過した時点、2日経過した時点、3日経過した時点の4回のタイミングで、2つの偏光板の偏光軸の交差角が90°である場合の各サンプルの偏光画像を撮影し、得られた偏光画像データを処理してヒストグラムを作成し、平均値、中央値及び最頻値を算出した。
【0066】
〔各サンプルの老化度判定情報に関する時間の経過に伴う変化〕
図12は、サンプル6に関する老化度判定情報(平均値、中央値及び最頻値)と保管期間との関係を示すグラフであり、
図13は、サンプル7に関する老化度判定情報(平均値、中央値及び最頻値)と保管期間との関係を示すグラフである。
【0067】
小麦を主原料とするパスタにおいても、小麦に含まれるデンプンの結晶構造が時間の経過とともに変化するが、
図12及び
図13に示すように、このデンプンの結晶構造の変化がヒストグラムから算出した老化度判定情報の変化として現れており、各サンプルともに、老化度判定情報と保管期間との間に一定程度の相関がある。このことから、小麦を主原料とするパスタについても、上記老化度判定情報を用いて老化度を判定できることが確認できた。
【0068】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態においては、2つの偏光板の偏光軸の交差角を3°~180°の範囲内で調整するものとしたが、これに限られるものではなく、有意な老化度判定情報を得るという観点からすれば、2つの偏光板の偏光軸の交差角を30°~170°の範囲内で調整することが好ましい。
【0069】
〔2〕上記実施形態では、偏光光をデンプン系食品に照射し、その透過光を観察するようにしているが、これに限られるものではなく、偏光光をデンプン系食品に照射し、偏光光が照射されたデンプン系食品からの反射光が撮影装置に導かれるように構成し、デンプン系食品の偏光画像を撮影する、即ち、反射光を観察するようにしても良い。
【0070】
〔3〕上記実施形態では、撮影装置で撮影した偏光画像データから偏光食品画像データを抽出し、抽出した偏光食品画像データをグレースケール化画像データに変換するようにしているが、これに限られるものではない。偏光画像データをグレースケール化した後に、デンプン系食品のみを含む領域の画像データを抽出するようにしても良く、輝度に関するヒストグラムの作成が可能となるように、必要に応じて、偏光画像データに対して適宜処理を行えばよい。
【0071】
〔4〕上記実施形態においては、老化度判定情報として、平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちから選択する少なくとも1つを使用する態様を示したが、老化度判定情報は、輝度に関するヒストグラムから得られる情報であれば、特に限定されるものではなく、上記平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度以外の情報であっても良い。また、老化度判定情報として、平均値、中央値、最頻値、尖度及び歪度のうちの2つや3つを選択して、選択した複数の老化度判定情報を総合的に勘案して老化度を判定するようにしても良い。
【0072】
〔5〕上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、デンプン質含有食材が水の存在下で加熱されたデンプン系食品の老化度を簡便且つ容易に判定できる老化度判定システム及び老化度判定方法に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 老化度判定システム
2 光学装置(光学手段)
3 ライト(光源)
4 第一偏光板(一方の偏光体)
5 第二偏光板(他方の偏光体)
6 撮影装置(撮影手段)
11 画像データ取得部(画像データ取得手段)
13 ヒストグラム作成部(ヒストグラム作成手段)
15 老化度判定部(老化度判定手段)