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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/07 20060101AFI20230206BHJP
【FI】
B60N2/07
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019109771
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020199970
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】598106326
【氏名又は名称】トヨタ車体精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】白木 晋
(72)【発明者】
【氏名】平松 稔大
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-2130(JP,A)
【文献】特開2017-202736(JP,A)
【文献】特開2010-36609(JP,A)
【文献】特開2013-23039(JP,A)
【文献】特開平10-100752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付け可能なロアレールと、
シートに取り付け可能であり、前記ロアレールに対してスライド可能に係合しているアッパレールと、
前記アッパレールに取り付けられており、前記ロアレールと前記アッパレールの間の隙間を調節する調節機構と、
を備えており、
前記調節機構は、
前記ロアレールの長手方向に沿って先細り形状を有している第1楔と第2楔を有しており、
前記第1楔は前記ロアレールの短手方向において中心よりも一端側で前記ロアレールと前記アッパレールの間に挟まれており、
前記第2楔は前記短手方向において前記中心よりも他端側で前記ロアレールと前記アッパレールの間に挟まれており、
前記第1楔と前記第2楔は、それぞれ独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態で前記長手方向に移動可能に前記アッパレールに支持されている、
シートスライド装置。
【請求項2】
前記第1楔と前記第2楔は、前記アッパレールが楔の先細り方向の逆方向へ移動するときの前記ロアレールに対する前記アッパレールの摺動抵抗を、前記先細り方向へ移動するときの摺動抵抗よりも大きくする、請求項1に記載のシートスライド装置。
【請求項3】
前記調節機構は、
前記ロアレールの長手方向に沿って先細り形状を有している第3楔を有しており、
前記第3楔は、先細りの方向が前記第1楔と同じ方向を向いており、前記短手方向において前記中心よりも前記一端側で前記ロアレールと前記アッパレールの間に挟まれており、
前記第3楔は、前記第1楔及び前記第2楔とは独立して楔の先細り方向に付勢された状態で前記長手方向に移動可能に支持されている、請求項1または2に記載のシートスライド装置。
【請求項4】
前記第3楔は、前記アッパレールが楔の先細り方向の逆方向へ移動するときの前記ロアレールに対する前記アッパレールの摺動抵抗を、前記先細り方向へ移動するときの摺動抵抗よりも大きくする、請求項3に記載のシートスライド装置。
【請求項5】
前記調節機構は、
複数の前記第3楔を備えており、
複数の前記第3楔は、前記短手方向において前記中心の両側に分散配置されており、
それぞれの前記第3楔は、他の楔とは独立して楔の先細り方向に付勢された状態で前記長手方向に移動可能に支持されている、請求項3または4に記載のシートスライド装置。
【請求項6】
前記調節機構は、前記アッパレールに対して前記長手方向に移動するスライダを備えており、
前記第1楔と前記第2楔のそれぞれは、前記スライダに支持されており、
前記スライダは、前記第1楔と前記第2楔を前記アッパレールと前記ロアレールに密着させる位置から、前記第1楔と前記第2楔を前記アッパレールと前記ロアレールの間に遊嵌させる位置まで移動可能である、請求項1または2に記載のシートスライド装置。
【請求項7】
前記スライダは、
前記アッパレールを前記ロアレールに対してロックしたりロック解除したりするロックレバーに連動しており、
前記アッパレールがロック状態のときには前記第1楔と前記第2楔を前記アッパレールと前記ロアレールに密着する状態に保持し、前記ロック解除状態のときには前記先細り方向の逆方向に移動して前記第1楔と前記第2楔を前記アッパレールと前記ロアレールの間に遊嵌する状態に保持する、請求項6に記載のシートスライド装置。
【請求項8】
前記スライダは、ユーザが操作する操作レバーに連動して、前記第1楔と前記第2楔を前記アッパレールと前記ロアレールに密着させる位置から、前記第1楔と前記第2楔を前記アッパレールと前記ロアレールの間に遊嵌させる位置まで移動する、請求項6に記載のシートスライド装置。
【請求項9】
前記調節機構は、
前記ロアレールの長手方向に沿って先細り形状を有している第3楔を有しており、
前記第3楔は、先細りの方向が前記第1楔と同じ方向を向いており、前記短手方向において前記中心よりも前記一端側で前記ロアレールと前記アッパレールの間に挟まれており、
前記第3楔は、前記第1楔及び前記第2楔とは独立して楔の先細り方向に付勢された状態で前記長手方向に移動可能に前記スライダに支持されている、請求項6から8のいずれか1項に記載のシートスライド装置。
【請求項10】
前記第3楔は、前記アッパレールが楔の先細り方向の逆方向へ移動するときの前記ロアレールに対する前記アッパレールの摺動抵抗を、前記先細り方向へ移動するときの摺動抵抗よりも大きくする、請求項9に記載のシートスライド装置。
【請求項11】
前記調節機構は、
複数の前記第3楔を備えており、
複数の前記第3楔のそれぞれは、先細りの方向が前記第1楔と同じ方向を向いており、
複数の前記第3楔は、前記短手方向において前記中心の両側に分散配置されており、他の楔とは独立して楔の先細り方向に付勢された状態で前記長手方向に移動可能に前記スライダに支持されている、請求項9または10に記載のシートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、自動車のシートを車体に対して移動させるシートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体に対してシートをスライドさせるシートスライド装置が知られている。シートスライド装置は、車体に取り付け可能なロアレールと、シートに取り付け可能であり、ロアレールに対してスライド可能に係合しているアッパレールを備えている。特許文献1のシートスライド装置は、アッパレールをロアレールの長手方向の一方側へ移動させるときの摺動抵抗と、反対方向へ移動させるときの摺動抵抗を異ならしめる機構(調節機構)を備えている。特許文献1のシートスライド装置は、アッパレール(シート)を車両後方側へ移動させるときの摺動抵抗を小さく、車両前方側へ移動させるときの摺動抵抗を相対的に大きくすることができる。車両後方側へ移動させるときの摺動抵抗を相対的に小さくすることで、後方へはシートを楽に動かすことができる。一方、車両前方側へ移動させるときの摺動抵抗を相対的に大きくすることで、シートが勢いよく前方へ移動して乗員が前のめりになることを防ぐ。
【0003】
特許文献1のシートスライド装置では、ロアレールとアッパレールの間に、長手方向(ロアレールの長手方向)に沿って先細りになっている楔が挟まれている。楔はアッパレールに支持されている。アッパレールを楔の先細りの方向へ移動させるときには、ロアレールは相対的に楔の太い側へ移動し、楔は太い側へ押される。このときは、楔とロアレールの接触面圧が小さくなり、摺動抵抗が小さくなる。一方、アッパレールを楔の太い方向へ移動させるときには、ロアレールは相対的に楔の先細りの方向へ移動し、楔は先細りの方向へ押される。このときは、楔とロアレールの接触面圧が大きくなり、摺動抵抗が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-2130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシートスライド装置では、ロアレールの長手方向からみてアッパレールの左右両側に楔が備えられている。一対の楔は1個の支持部材に固定されている。一方、製造公差などにより、アッパレールとロアレールの間の隙間は左右でばらつきが生じることがある。隙間の大きさが左右でばらつくと、一対の楔の一方はアッパレールとロアレールの間にきつく挟まり、他方は緩く挟まってしまう。アッパレールがロアレールに対してロックされているときには、一対の楔の両方がアッパレールとロアレールの間にしっかりと密着していることが好ましいが、特許文献1のシートスライド装置では、ロック状態のときに一方の楔とロアレール(あるいはアッパレール)との間に隙間が生じてしまうおそれがある。楔とロアレール(あるいはアッパレール)の間の隙間(アッパレールのロック時の隙間)はアッパレール(シート)のがたつきの一因となってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するシートスライド装置は、車体に取り付け可能なロアレールと、シートに取り付け可能であり、ロアレールに対してスライド可能に係合しているアッパレールと、アッパレールに取り付けられている調節機構を備えている。調節機構は、ロアレールとアッパレールの間の隙間を調節する機構である。
【0007】
調節機構は、ロアレールの長手方向に沿って先細り形状を有している第1楔と第2楔を有している。第1楔はロアレールの短手方向において中心よりも一端側(例えば右側)でロアレールとアッパレールの間に挟まれている。第2楔は、ロアレールの短手方向において中心よりも他端側(例えば左側)でロアレールとアッパレールの間に挟まれている。第1楔と第2楔は、それぞれ独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態で長手方向に移動可能にアッパレールに支持されている。
【0008】
本明細書が開示するシートスライド装置では、左右の楔がそれぞれ独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢されている。従って楔とロアレール(あるいはアッパレール)との間に隙間があれば、付勢力によって隙間がなくなるまで楔が移動する。左右の楔のそれぞれが必ずアッパレールとロアレールに密着するのでガタつきがなくなる。
【0009】
第1楔と第2楔は、アッパレールが楔の先細り方向の逆方向へ移動するときのロアレールに対するアッパレールの摺動抵抗を、先細り方向へ移動するときの摺動抵抗よりも大きくする。以下では、説明の便宜上、ロアレールの長手方向をレール長手方向と称し、短手方向をレール短手方向と称する場合がある。
【0010】
本明細書が開示するシートスライド装置は、レール長手方向に沿って先細り形状を有している第3楔を有していてもよい。第3楔も、第1楔と同じ構造を有している。本明細書が開示するシートスライド装置は、複数の第3楔を備えていてもよい。複数の第3楔は、レール短手方向においてレールの両側に分散配置されており、それぞれの第3楔は他の楔とは独立して楔の先細り方向に付勢された状態でレール長手方向に移動可能に支持されている。
【0011】
本明細書が開示するシートスライド装置の調節機構は、アッパレールに対して前記長手方向に移動するスライダを備えているとよい。スライダは、第1楔と第2楔(及び第3楔)を支持している。スライダは、第1楔と第2楔(及び第3楔)をアッパレールとロアレールに密着させる位置から、アッパレールとロアレールの間に遊嵌させる位置まで移動可能である。第1楔と第2楔(及び第3楔)がアッパレールとロアレールの間に遊嵌すると、アッパレールの摺動抵抗が小さくなる。
【0012】
スライダは、アッパレールをロックしたり解除したりするロックレバーに連動して移動してもよい。その場合、スライダは、アッパレールがロック状態のときには第1楔と第2楔(及び第3楔)をアッパレールとロアレールに密着する状態に保持する。スライダは、ロック解除状態のときには先細り方向の逆方向に移動して第1楔と第2楔(及び第3楔)をアッパレールとロアレールの間に遊嵌する状態に保持する。
【0013】
ロック解除状態のときには第1楔と第2楔(及び第3楔)は遊嵌状態になり、アッパレールを動かすことが可能となる。このとき、アッパレールを楔の先細りの方向へ移動させるときには、ロアレールは相対的に楔の太い側へ移動するので摺動抵抗が小さくなる。アッパレールを楔の太い方向へ移動させるときには、ロアレールは相対的に楔の先細りの方向へ移動するので摺動抵抗が大きくなる。スライダは、ロック状態のときには第1楔と第2楔(及び第3楔)がアッパレールとロアレールの両方に密着してがたつきを抑える。
【0014】
あるいは、スライダは、ユーザが操作する操作レバーに連動して、第1楔と第2楔(及び第3楔)を密着状態と遊嵌状態を切り替えるようにしてもよい。
【0015】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例のシートスライド装置の側面図である。
図2】ロアレールとアッパレールを分離した斜視図である。
図3】シートスライド装置の側面図である。
図4】調節機構の斜視図である。
図5】調節機構の分解斜視図である。
図6】シートスライド装置の断面図である。
図7図6のVII-VII線に沿った断面図である。
図8】第2変形例のシートスライド装置の平面図である。
図9】第3変形例のシートスライド装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して実施例のシートスライド装置2を説明する。図1に、自動車に取り付けられたシートスライド装置2の側面図を示す。シートスライド装置2は、ロアレール10とアッパレール20で構成されている。ロアレール10は長尺である。アッパレール20は、ロアレール10に対してその長手方向(レール長手方向)に移動可能(スライド可能)に取り付けられている。ロアレール10は車体のフロアパネル90に固定される。アッパレール20は、シート80のシートクッション81の下部に取り付けられる。アッパレール20は、不図示のフレームを介してシートクッション81の下部に取り付けられる。シートスライド装置2は、シートクッション81の下部の左右に夫々取り付けられる。図中の座標系のX方向がレール長手方向に相当する。Y方向がレール短手方向に相当する。図中の座標系の+Z方向が上方を示す。各座標軸とシートスライド装置2の各部との位置関係は、全ての図で同じである。
【0018】
不図示のフレームから前方へ解除レバー83が延びている。アッパレール20は通常はロアレール10に対してロック(固定)されている。ユーザが解除レバー83を操作すると、アッパレール20のロックが解除され、アッパレール20(シート80)がロアレール10に対してスライド可能となる。
【0019】
シート80のシートバック82の側面には操作レバー84が設けられている。ユーザが操作レバー84を操作すると、シートバック82が前方へ折りたたまれる。
【0020】
図2に、アッパレール20をロアレール10から分離した斜視図を示す。まず、ロアレール10の形状を説明する。ロアレール10は、フロアパネル90に設けられたレール溝に収められる。ロアレール10は、車体(フロアパネル90)に取り付けられる底板3と、一対の外側板4と、一対の上板5と、一対の内側板6を備えている。一対の外側板4は、レール短手方向(図中のY方向)で底板3の両端の夫々から上方に向かって延びている。一対の上板5は、夫々の外側板4の上端からレール短手方向の中央へ向けて横方向に延びている。一対の内側板6は、夫々の上板5の内側端から下方へ延びている。一対の内側板6は、互いに対向している。一対の内側板6の間で、ロアレール10は上方に向けて開口している。ロアレール10は、上面がレール長手方向に沿って細長く開口している。
【0021】
アッパレール20について説明する。アッパレール20は、本体下部22がロアレール10の内部に位置しており、ロアレール10の開口を通じて本体上部21がロアレール10よりも上方へ突き出ている。図2は、アッパレール20をロアレール10から分離した図であるので、本体下部22もロアレール10から離脱していることに留意されたい。
【0022】
アッパレール20の本体下部22は、レール長手方向からみてU字形状に湾曲している1対の側板24で構成されており、側板24が、ロアレール10の外側板4と内側板6の間の空間に位置する。アッパレール20の1対の側板24の夫々に、ローラ23が支持されている。ローラ23も、ロアレール10の外側板4と内側板6の間の空間に位置する。ローラ23は、ロアレール10の底板3に当接する。アッパレール20の移動に伴ってローラ23が回転し、アッパレール20が円滑に移動する。
【0023】
アッパレール20の本体下部22のレール長手方向の中央にはロックピン25がレール短手方向に突出している。詳しい説明は省略するが、ロックピン25は、ロックレバー26の上端が図中の座標系の-X方向に引かれると、本体下部22の内側へ後退する。ロックレバー26の上端にはワイヤ27の一端が取り付けられている。ワイヤ27の他端は乗員が操作する解除レバー83(図1参照)につながっている。
【0024】
ロックピン25がロアレール10のロック孔7に係合することで、アッパレール20がロアレール10に対して固定される。乗員が解除レバー83(図1参照)を操作すると、ワイヤ27を介してロックレバー26の上端が後方(-X方向)へ引かれ、ロックピン25が本体下部22の内側へ後退し、ロック孔7との係合が解除される。ロックピン25の係合が解除されると、アッパレール20がロアレール10に対して移動可能となる。
【0025】
アッパレール20には、調節機構30が取り付けられている。まず、調節機構30の概要を説明する。調節機構30は、4個の楔31a-31dを備えている。図2では楔31b、31dのみが見えており、楔31a、31cは反対側に位置するので見えていない。楔31b、31dは、アッパレール20のU字形状の側板24の上に位置している。詳しくは後述するが、側板24の外側の上端には傾斜溝241が設けられており、楔31b、31dは、傾斜溝241に収まっている。楔31b(31d)は、支持腕32b(32d)に支持されており、支持腕32b(32d)は、図2では見えてないスライダ33(図4に図示)に支持されている。スライダ33は、一対の側板24の内側に配置されている。詳しくは後述するが、スライダ33は、ロックレバー26に連動してレール長手方向(X方向)に移動可能になっている。
【0026】
図3に、シートスライド装置2の側面図を示す。図3は、手前側の側板24の一部を省略しており、ロックレバー26とスライダ33が見えるようにしてある。また、図3では、ロアレール10は仮想線で描いてある。
【0027】
スライダ33の長手方向のほぼ中央には係合孔331が設けられており、その係合孔331にロックレバー26の下端261が係合する。ロックレバー26は、バネ28によって付勢されており、ロアレール10の側板24に設けられたストッパ242に押し付けられている。先に述べたように、乗員が解除レバー83(図1参照)を動かすと、ワイヤ27がーX方向に引かれ、ロックレバー26が時計方向に回転する(矢印A)。このとき、ロックレバー26の下端261は左方向に移動し、スライダ33を左方向へ動かす(矢印B)。スライダ33とともに、楔31b、31dも左方向へ移動する。詳しくは後述するが、図3において、楔31bの奥側には楔31aが位置しており、楔31dの奥側には楔31cが位置している。楔31a、31cもスライダ33に支持されており、スライダ33が左方向へ動くと4個の楔31a-31dが左方向へ動く。
【0028】
図4に調節機構30の全体の斜視図を示し、図5に調節機構30の分解斜視図を示す。図6に、図中の座標系のYZ面に平行な平面でシートスライド装置2をカットした断面図を示す。図6は、楔31a、31bを通る平面でシートスライド装置2をカットした断面図である。
【0029】
図5に示すように、調節機構30は、スライダ33、楔31a-31d、支持腕32a-32d、4個のコイルバネ35で構成される。スライダ33の長手方向のほぼ中央に、先に述べた係合孔331が設けられている。
【0030】
図4には、楔31aの拡大図も示してある。楔31aは、図中の座標系の-X方向に向かって先細りになっている。すなわち、楔31aは、レール長手方向に沿って先細りになっている。なお、4個の楔31a-31dは、全て同じ構造を有しており、同じ方向、すなわち、-X方向に向かって先細りになっている。楔31aと楔31bは、レール短手方向(Y方向)の中心線に対して鏡像の関係に配置されている。楔31cと楔31dも同様にレール短手方向の中心線に対して鏡像の関係に配置されている。
【0031】
楔31aの下面315のレール短手方向(Y方向)の両側には、ガイド312、313が下方へ向けて突出している。先に述べたように、楔31aは、アッパレール20の側板24の傾斜溝241に収まる。楔31aは、一対のガイド312、313がアッパレール20の側板24を挟み込むように、側板24の傾斜溝241の上に配置されている。一対のガイド312、313が側板24を挟み込むことで、楔31aは側板24の上から外れない。
【0032】
楔31a、31bは、レール長手方向で同位置に配置されている。図5に示すように、楔31a、31bは、レール短手方向でロアレール10の中心を挟んで両側に配置されている。楔31aは、レール短手方向でロアレール10の中心よりも一端側(-Y側)でロアレール10の上板5とアッパレール20の側板24の間に挟まれている。楔31bは、レール短手方向でロアレール10の中心よりも他端側(+Y側)でロアレール10の上板5とアッパレール20の側板24の間に挟まれている。
【0033】
楔31aは、支持腕32aの先端に固定されており、楔31bは支持腕32aの先端に固定されている。支持腕32aの基部321と支持腕32bの基部321は、形状がやや異なっている。図5に示すように、支持腕32bの基部321の上に支持腕32aの基部321が重ねられ、両方の基部321は、スライダ33の孔332に嵌合される。それぞれの基部321の上側の側方にはツメ323が設けられており、2個の基部321が孔332に嵌合すると、それぞれの基部321のツメ323が孔332の両側の縁333に係止される。
【0034】
支持腕32a、32bの基部321の前面から+X方向に向けてロッド322が延びており、ロッド322にコイルバネ35が嵌合する。コイルバネ35は、圧縮された状態でスライダ33の孔332に入れられる。コイルバネ35の弾性力により、支持腕32a、32bは、スライダ33の後板334に押し付けられた状態で保持される。
【0035】
楔31cは、支持腕32cの先端に固定されており、楔31dは支持腕32dの先端に固定されている。支持腕32cの基部321と支持腕32dの基部321は、形状がやや異なっている。図5に示すように、支持腕32dの基部321の上に支持腕32cの基部321が重ねられ、両方の基部321は、スライダ33の孔335に嵌合される。それぞれの基部321の上側の側方にはツメ323が設けられており、2個の基部321が孔335に嵌合すると、それぞれの基部321のツメ323が孔335の両側の縁336に係止される。
【0036】
支持腕32c、32dの基部321の前面から+X方向に向けてロッド322が延びており、ロッド322にコイルバネ35が嵌合する。コイルバネ35は、圧縮された状態でスライダ33の孔335に入れられる。コイルバネ35の弾性力により、支持腕32c、32dは、スライダ33の後板337に押し付けられた状態で保持される。
【0037】
図中の座標系のーX方向は、楔31a-31dの先細り方向に対応する。4個の楔31a-31dは、4個のコイルバネ35により、それぞれが独立して、先細り方向へ向けて付勢された状態でレール長手方向に移動可能にスライダ33(すなわちアッパレール20)に支持されている。
【0038】
図5に示すように、楔31aの後方(-X方向)に楔31cが位置しており、楔31bの後方に楔31dが位置している。従って、楔31c、31dは、楔31a、31bと同様に、一方は、ロアレール10のレール短手方向の中心よりも一端側でロアレール10の上板5とアッパレール20の側板24の間に挟まれており、他方は、レール短手方向の他端側でロアレール10の上板5とアッパレール20の側板24の間に挟まれている。楔31a、31bは、レール長手方向でアッパレール20の中央よりも前側に位置しており、楔31c、31dは中央よりも後側に位置している。4個の楔31a-31dは、上方(Z軸)からみてアッパレール20の四隅に位置しており、それぞれがアッパレール20とロアレール10に挟まれている。4個の楔31a-31dがアッパレール20の四隅に配置されることで、アッパレール20はロアレール10に対して安定する。
【0039】
上記したように、楔31a-31dは、図中の座標系のーX方向に向かって先細りになっているとともに、コイルバネ35により、先細りの方向に付勢された状態でスライダ33に支持されている。図7に、図6のVII-VII線に沿った断面図を示す。図7は、楔31aの周辺の構造を示している、楔31b-31dのそれぞれの周辺も同じ構造である。
【0040】
先に述べたように、アッパレール20の側板24には、傾斜溝241が設けられている。楔31aは、傾斜溝241に収まっており、アッパレール20の側板24とロアレール10の上板5に挟まれている。傾斜溝241の底面は、楔31aの下面315と平行である。すなわち、アッパレール20とロアレール10の間に先細りの隙間が形成されており、その隙間に楔31aが配置されている。図7では、理解を助けるために、傾斜溝241の底面の傾斜(楔31aの先細りの傾斜)を強調して描いてある。一方、上板5の下面5aと楔31aの上面314と平行である。
【0041】
アッパレール20とロアレール10の間の隙間は、製造公差等によりばらつくことがある。1個のシートスライド装置であっても、場所によってアッパレール20とロアレール10の間の隙間(先細り形状の隙間)の大きさが異なる場合がある。図7(A)は、アッパレール20の側板24の上面とロアレール10の上板5の下面5aの隙間がd1のときの図であり、図7(B)は、アッパレール20とロアレール10の隙間がd2(>d1)のときの図である。楔31aはコイルバネ35によって先細り方向(-X方向)に付勢されているので、隙間がd1であってもd2であっても楔31aはアッパレール20とロアレール10の間で双方に密着する。
【0042】
楔31a-31dは、それぞれが独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態でレール長手方向に移動可能にアッパレール20に支持されている。それゆえ、楔31a-31dのそれぞれの位置でアッパレール20とロアレール10の隙間の大きさが相違していても、楔31a-31dの全てがアッパレール20とロアレール10の双方に密着する。それゆえ、アッパレール20がロアレール10に対してロックされているときにアッパレール20がガタつくことはない。
【0043】
図7(C)は、ロックレバー26が図3の時計方向に回転し、ロックが解除されるとともにスライダ33が左方向へ移動したときの状態を示している。スライダ33が左方向(楔の先細り方向の逆方向)へ移動すると、スライダ33の後板334(337)が支持腕32a、32b(32c、32d)を楔の先細り方向の逆方向へ押し、楔31a-31dがアッパレール20とロアレール10の間で遊嵌する位置まで移動させる。
【0044】
楔31a(31b-31d)が遊嵌するまで先細り方向の逆方向へ移動すると、楔31a(31b-31d)とアッパレール20の側板24の傾斜溝241との間に微小隙間Gが生じる。従ってアッパレール20がロアレール10に対して移動可能になる。
【0045】
このとき、アッパレール20を楔の先細り方向(-X方向)へ移動させるときには、ロアレール10は楔の太い側(先細り方向の逆方向)へ相対的に移動する。このとき、ロアレール10と楔31aの間の摩擦により、楔31aは、微小隙間Gが大きくなる方向にずれる。従ってロアレール10と楔31a(31b-31d)の接触面圧が小さくなり、ロアレール10と楔31a(31b-31d)との間の摺動抵抗は小さくなる。逆に、アッパレール20を楔の先細り方向の逆方向(+X方向)へ移動させるときには、ロアレール10は楔の先細り方向へ相対的に移動する。このとき、ロアレール10と楔31aの間の摩擦により、楔31aは微小隙間Gが小さくなる方向にずれる。従ってロアレール10と楔31a(31b-31d)の接触面圧が大きくなり、ロアレール10と楔31a(31b-31d)との間の摺動抵抗は逆方向に移動する場合と比較して大きくなる。
【0046】
楔31b-31dも、楔31aと同様に機能する。以上説明したように、シートスライド装置2は、アッパレール20とロアレール10に挟まれる4個の楔31a-31dを備えており、4個の楔31a-31dは、それぞれ独立して楔の先細り方向に付勢されている。アッパレール20がロアレール10に対してロックした状態においては、4個の楔31a-31dのそれぞれが付勢力によってアッパレール20とロアレール10の間に密着状態となる。それゆえ、アッパレール20はロアレール10に対してがたつかない。
【0047】
楔31a-31dは、先細り方向へ付勢された状態でスライダ33に支持されている。スライダ33は、アッパレール20をロアレール10に対してロックしたりロック解除したりするロックレバー26に連動して移動する。スライダ33は、アッパレール20がロック状態のときには楔31a-31dをアッパレール20とロアレール10に密着する状態に保持する。スライダ33は、ロック解除状態のときには先細り方向の逆方向に移動して楔31a-31dをアッパレール20とロアレール10の間に遊嵌する状態に保持する。
【0048】
(変形例)実施例のシートスライド装置2において、ロックレバー26は、アッパレール20をロアレール10に対してロックしたりロック解除したりする。そのような構造に対して、第1変形例のシートスライド装置では、スライダ33は、ロックとロック解除に関わらないレバーに連動してもよい。そのようなレバーは、ユーザが操作する操作レバー84に連動して、楔31a-31dをアッパレール20とロアレール10に密着する状態から、楔31a-31dをアッパレール20とロアレール10の間に遊嵌する状態に切り替えるものであってもよい。
【0049】
実施例の楔31aが第1楔の一例に相当し、楔31bが第2楔の一例に相当する。楔31a(第1楔)はレール短手方向において中心よりも一端側(右側)でロアレール10とアッパレール20の間に挟まれている。楔31b(第2楔)は、レール短手方向において中心よりも他端側(左側)でロアレール10とアッパレール20の間に挟まれている。楔31a、31b(第1楔と第2楔)は、それぞれ独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態でレール長手方向に移動可能にアッパレール10(スライダ33)に支持されている。
【0050】
実施例の楔31c、31dが、第3楔の一例に相当する。2個の楔31c、31dは、楔31aと同じ構造を有している。2個の楔31c、31dは、レール短手方向で中央の両側に分散配置されている。
【0051】
本明細書が開示するシートスライド装置は、第3楔を備えていなくともよい。あるいは、本明細書が開示するシートスライド装置は、1個の第3楔を備えていてもよい。図8に、第2変形例のシートスライド装置2aの平面図を示す。シートスライド装置2aは、3個の楔31a(第1楔)、31b(第2楔)、31c(第3楔)を備えている。図8では、アッパレール20は仮想線で描いてある。また、楔31a-31cは、ロアレール10の上板で隠れているため、破線で示してある。図8は、楔31a-31cの配置を示す模式図であり、ロック機構やローラなどは図示を省略してある。
【0052】
楔31a、31bは、実施例のシートスライド装置2の楔31a、31bと同じ構造を有している。すなわち、楔31a、31bは、ロアレール10の長手方向に沿って先細り形状を有している。楔31a(第1楔)は、ロアレール10のレール短手方向(Y方向)において中心よりも一端側でロアレール10とアッパレール20の間に挟まれている。楔31b(第2楔)は、レール短手方向において中心よりも他端側でロアレール10とアッパレール20の間に挟まれている。楔31a、31bは、それぞれ独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態でレール長手方向に移動可能にアッパレール20に支持されている。シートスライド装置2aは、1個の第3楔(楔31c)を備えている。楔31cは、楔31a(第1楔)と同じ側でロアレール10とアッパレール20の間に挟まれている。楔31cも、独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態でレール長手方向に移動可能にアッパレール20に支持されている。楔31cの支持構造は、実施例の楔31cの支持構造と同様である。
【0053】
本明細書が開示するシートスライド装置は、複数の第3楔を備えていてもよい。図9に、第3変形例のシートスライド装置2bの平面図を示す。シートスライド装置2bは、6個の楔31a-31fを備えている。楔31a、31bがそれぞれ第1楔、第2楔に対応し、楔31c-31fが第3楔に対応する。図9では、アッパレール20は仮想線で描いてある。また、楔31a-31fは、ロアレール10の上板で隠れているため、破線で示してある。図9は、楔31a-31fの配置を示す模式図であり、ロック機構やローラなどは図示を省略してある。
【0054】
楔31a、31bは、実施例のシートスライド装置2の楔31a、31bと同じ構造を有している。すなわち、楔31a、31bは、ロアレール10の長手方向に沿って先細り形状を有している。楔31a(第1楔)は、ロアレール10のレール短手方向(Y方向)において中心よりも一端側でロアレール10とアッパレール20の間に挟まれている。楔31b(第2楔)は、レール短手方向において中心よりも他端側でロアレール10とアッパレール20の間に挟まれている。楔31a、31bは、それぞれ独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態でレール長手方向に移動可能にアッパレール20に支持されている。シートスライド装置2bは、複数個の第3楔(楔31c-31f)を備えている。楔31c-31fは、レール短手方向で中心の両側に分散配置されている。それぞれの楔31c-31fは、独立して、楔の先細り方向へ向けて付勢された状態でレール長手方向に移動可能にアッパレール20に支持されている。楔31c-31fの支持構造は、実施例の楔31cの支持構造と同様である。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0056】
2、2a、2b:シートスライド装置 10:ロアレール 20:アッパレール 23:ローラ 24:側板 25:ロックツメ 26:ロックレバー 30:調節機構 31a-31f:楔 32a-32d:支持腕 33:スライダ 35:コイルバネ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9