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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】アクチュエータ及び排気バルブ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/02 20060101AFI20230206BHJP
   F01N 13/08 20100101ALI20230206BHJP
【FI】
H02K7/02
F01N13/08 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019163099
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021044868
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000107295
【氏名又は名称】ジェコー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】泉 彦志
(72)【発明者】
【氏名】有木 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】三代川 太気
(72)【発明者】
【氏名】宗吉 裕大
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 知樹
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-531955(JP,A)
【文献】実開平03-083459(JP,U)
【文献】特開平10-201169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/02
F01N 13/08
F02D 9/10
H02K 7/116
F16H 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体の内部から外部へ突出して設けられる出力軸と、
前記筐体内に設けられるモータと、
前記モータと前記出力軸との間を連結する減速機構と、
前記モータの本体から突出する駆動軸の共振周波数を変更して共鳴音発生を抑制する共振周波数変更部と、
を備え、
前記減速機構は、前記駆動軸の先端に設けられるウォームと、前記出力軸と一体回転するウォームホイールとが噛み合って構成されるウォームギヤを含み、
前記共振周波数変更部は、前記駆動軸の前記ウォームと前記モータの前記本体との間に固設されるイナーシャ増加用の錘であり、
前記錘は、前記駆動軸と同心円状の円柱形状に形成され、前記円柱形状のうち前記駆動軸の先端側の外径が徐々に小さくなるよう傾斜面が設けられる形状であり、
前記モータの前記駆動軸と前記ウォームホイールの回転軸とが直交するよう配置され、
前記錘が前記駆動軸の前記本体側の基端に配置され、前記ウォームが前記駆動軸の先端側に前記錘に隣接して配置され、
前記錘の前記傾斜面が前記ウォームホイールと対向する位置に配置される、
アクチュエータ。
【請求項2】
前記錘は、前記駆動軸の共振周波数を2.7%ずらすよう形成される、
請求項に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアクチュエータと、
前記出力軸に連結され、内燃機関の排気通路に設けられる排気バルブと、
を備える排気バルブ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アクチュエータ及び排気バルブ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気通路に設けられている排気バルブを開閉することで排気経路の切り替えを行うことができる排気バルブ駆動装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-115617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気バルブ駆動装置において排気バルブを駆動するためのアクチュエータは、排気通路の周囲に設置されるため、エンジンルームのスペースの都合上できるだけ小型化するのが好ましい。アクチュエータの小型化のためには、アクチュエータの駆動源として内蔵されるモータを小型化する必要がある。モータを小型化した場合、アクチュエータの出力トルクを小型化前のものと同様に維持するには、モータとアクチュエータの出力軸との間の減速比を相対的に大きくする必要がある。例えば減速機構がウォームギヤの場合、ウォームホイールが相対的に大きくなるため、モータの駆動軸に設けられるウォームとの噛み合い位置がモータ本体から離れ、これにより駆動軸を長くする必要がある。しかし、駆動軸はモータ小型化によって細くなるため、駆動軸を長くするとウォームとウォームホイールとの噛み合いによって駆動軸が共振をして、共鳴音が発生する場合がある。
【0005】
本開示は、共鳴音発生を抑制できるアクチュエータ及び排気バルブ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るアクチュエータは、筐体と、前記筐体の内部から外部へ突出して設けられる出力軸と、前記筐体内に設けられるモータと、前記モータと前記出力軸との間を連結する減速機構と、前記モータの本体から突出する駆動軸の共振周波数を変更して共鳴音発生を抑制する共振周波数変更部と、を備え、前記減速機構は、前記駆動軸の先端に設けられるウォームと、前記出力軸と一体回転するウォームホイールとが噛み合って構成されるウォームギヤを含み、前記共振周波数変更部は、前記駆動軸の前記ウォームと前記モータの前記本体との間に固設されるイナーシャ増加用の錘であり、前記錘は、前記駆動軸と同心円状の円柱形状に形成され、前記円柱形状のうち前記駆動軸の先端側の外径が徐々に小さくなるよう傾斜面が設けられる形状であり、前記モータの前記駆動軸と前記ウォームホイールの回転軸とが直交するよう配置され、前記錘が前記駆動軸の前記本体側の基端に配置され、前記ウォームが前記駆動軸の先端側に前記錘に隣接して配置され、前記錘の前記傾斜面が前記ウォームホイールと対向する位置に配置される。


【0007】
同様に、本発明の実施形態の一観点に係る排気バルブ駆動装置は、上記のアクチュエータと、前記出力軸に連結され、内燃機関の排気通路に設けられる排気バルブと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、共鳴音発生を抑制できるアクチュエータ及び排気バルブ駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】排気バルブ駆動装置の斜視図である。
図2図1中のアクチュエータの分解斜視図である。
図3】モータの分解斜視図である。
図4】アクチュエータの内部配置を示す平面図である。
図5】共鳴音発生シミュレーションの条件を説明する模式図である。
図6】シミュレーション結果の周波数解析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
なお、以下の説明において、x方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。x方向及びy方向は典型的には水平方向であり、z方向は典型的には鉛直方向である。また、以下では説明の便宜上、z正方向側を上側、z負方向側を下側とも表現する場合がある。
【0012】
まず図1を参照して、本実施形態に係るアクチュエータ1が適用される排気バルブ駆動装置100について説明する。図1は、排気バルブ駆動装置100の斜視図である。図1では、排気バルブ駆動装置100の内部構造を見やすくするため、紙面手前側の筐体の一部を除外し、除外部分との境界を断面で示している。
【0013】
排気バルブ駆動装置100は、エンジン(内燃機関)の排気通路110に設けられている排気バルブ101を開閉することで、複数ある排気管を切り替えたり、集合管の場合には集合方式を切り替える等の排気経路の切り替えを行う装置である。これにより、例えば自動車の排気効率や新気の充填効率を向上することや、マフラーの排気音を調整することができる。
【0014】
図1に示すように、排気バルブ駆動装置100は、排気バルブ101と、排気バルブ101に接続される回転軸102と、回転軸102を回動させるアクチュエータ1と、を備える。排気バルブ101の回転軸102と、アクチュエータ1の出力軸3とは、例えば図1に示すような一対の連結部材103によって連結されており、これによりアクチュエータ1の出力軸3の回転が排気バルブ101に伝達されるよう構成されている。
【0015】
なお、図1では排気バルブ駆動装置100がエンジンの排気通路110の上側(z正方向側)に配置され、回転軸102と出力軸3とがz方向を軸線方向とする構成が例示されているが、排気バルブ駆動装置100の配置はこれに限られない。
【0016】
図1に加えて図2を参照して、アクチュエータ1の構成を説明する。図2は、図1中のアクチュエータ1の分解斜視図である。図2図1と同様に、アクチュエータ1の内部構造を見やすくするため、紙面手前側の筐体の一部を除外し、除外部分との境界を断面で示している。
【0017】
アクチュエータ1は、モータ4の駆動力を減速機構5を介して出力軸3に伝達して出力軸3を回転させることによって、出力軸3から駆動力を被駆動部(本実施形態では排気バルブ101)に出力する。図1図2に示すように、アクチュエータ1は、筐体2と、出力軸3と、モータ4(駆動源)と、減速機構5と、回転計側部6とを備える。
【0018】
筐体2は、出力軸3の軸線方向(z方向)に対向配置される上ケース21と下ケース22とで構成される。図1図2の例では、上ケース21がz正方向側に配置され、下ケース22がz負方向側に配置されている。上ケース21及び下ケース22は、例えば樹脂材料で形成される。上ケース21と下ケース22とは、防水のためにガスケットなどを介して接合され、モータ4や減速機構5、出力軸3の一部などを内部に収納する。
【0019】
減速機構5は、モータ4と出力軸3との間を連結して動力伝達を行う。本実施形態では、減速機構5は、モータ4の駆動軸42に設けられるウォーム51(ねじ歯車)と、出力軸3に一体的に設けられるウォームホイール52(はす歯歯車)と、がそれぞれの回転軸の方向が直交するよう噛み合って構成されるウォームギヤである。図1図2の例では、モータ4は駆動軸がx方向に延在するよう配置され、これによりウォーム51はx方向を回転軸として回転する。
【0020】
ウォームホイール52は、回転中心が出力軸3の軸心であり、出力軸3の径方向外側に同心円状に形成されている。つまりウォームホイール52はz方向を回転軸として回転する。ウォームホイール52と出力軸3とは、例えば、金属材料で形成されるウォームホイール52が、樹脂材料で形成される出力軸3とインサート成形により一体に形成されている。
【0021】
このような減速機構5によって、モータ4が回転駆動すると、ウォーム51からウォームホイール52へモータ4の駆動力が伝達され、出力軸3が回転する。
【0022】
上ケース21の内壁には軸受23が設けられ、出力軸3のz正方向側の一端31が支持されている。一方、下ケース22には開口24が設けられ、この開口24から出力軸3のz負方向側の他端32が筐体2の外部へ露出されている。この出力軸3の他端32には、上述の連結部材103が接続されている。
【0023】
モータ4は、上ケース21と下ケース22との間に設けられ、上ケース21と下ケース22とで挟持されている。モータ4の駆動軸の端部には、ウォームホイール52と噛み合うウォーム51が設けられている。モータ4は、外部に設けられているコントローラ(例えば車両のECUなど)により制御されて回転駆動し、ウォーム51に噛み合うウォームホイール52と出力軸3とを回転させる。
【0024】
回転計側部6は、出力軸3の回転量を計測する。回転量とは、回転数、回転角度、及び回転速度の少なくとも1つが含まれる。回転計側部6は、出力軸3と一体回転するよう設けられる磁石61と、磁石61の回転軌道の外側にて磁石61と対向配置されるホールIC(ホール素子)62とを有する。磁石61は出力軸3の回転方向に沿ってN極とS極とが交互に配置されて構成される。ホールIC62は、磁束密度(磁石61によりICに印加された磁界)の極性変化を検知し、出力電圧が変化する交番検知型のホールICである。回転計側部6は、ホールIC62の検出値に基づき出力軸3の回転量を計測することができる。なお、ホールIC62の数は図2に示す1個の構成に限らず、2個以上でもよい。この場合、各ICは円筒状の周壁25に沿って配置される。
【0025】
ホールIC62の足部は、図2に示すように、同じく基板63に接続されている端子64と電気的に接続されている。これらの3本の端子64は、筐体2から外部に突出して設置されている。これらの端子64に車載のECUなどの制御装置が電気的に接続することで、ホールIC62の計測値を取得して、出力軸3の回転量を導出できる。また、この制御装置は、出力軸3の回転量に基づき、排気バルブ101を所望の開度にすべくモータ4の駆動を制御することができる。
【0026】
図3図4も参照して、モータ4の構成について説明する。図3は、モータ4の分解斜視図である。図4は、アクチュエータ1の内部配置を示す平面図である。図3図4は、共に図1図2の下方(z負方向)側から視た図である。
【0027】
図3図4に示すように、モータ4は、モータ本体43と、このモータ本体43から一方向(本実施形態ではx方向)突出する駆動軸42と、を有し、モータ4駆動時には駆動軸42が回転して駆動力を出力する。上述のように、駆動軸42の先端には減速機構5(ウォームギヤ)のウォーム51が駆動軸42と一体回転するよう駆動軸42に固定されている。
【0028】
そして特に本実施形態では、モータ4の駆動軸42において、ウォーム51とモータ本体43との間に、イナーシャ増加用の錘41が設けられている。錘41は、駆動軸42と同心円状に形成され、例えば円柱形状や、図3図4に示すように、円柱形状のうち駆動軸42の先端側の外径が徐々に小さくなるよう傾斜面41aが設けられる形状をとることができる。この傾斜面41aは、例えば円錐台の周面と同様の形状である。このように傾斜面41aを設けることによって、図4に示すようにウォームホイール52を配置するスペースを確保でき、モータ本体43側に近づけて配置できるので、駆動軸42やウォーム51を短縮化でき、さらなるアクチュエータ1の小型化を図れる。
【0029】
ところで、アクチュエータ1は、排気バルブ駆動装置100において排気バルブ101を駆動するために適用される場合、例えば図1に示したように排気通路110の周囲に設置される。このため、アクチュエータ1は、エンジンルームのスペースの都合上できるだけ小型化するのが好ましい。アクチュエータ1の小型化のためには、アクチュエータ1の駆動源として内蔵されるモータ4を小型化する必要がある。モータ4を小型化した場合、アクチュエータ1の出力トルクを小型化前のものと同様に維持するには、モータ4と、アクチュエータ1の出力軸3との間の減速比を相対的に大きくする必要がある。本実施形態のようい減速機構5がウォームギヤの場合、ウォームホイール52が相対的に大きくなるため、モータ4の駆動軸42に設けられるウォーム51との噛み合い位置がモータ本体43から離れ、これにより駆動軸42を長くする必要がある。しかし、駆動軸42はモータ小型化によって細くなるため、駆動軸42を長くするとウォーム51とウォームホイール52との噛み合いによって駆動軸42が共振をして、共鳴音が発生する場合がある。
【0030】
ここで、アクチュエータ1の動作時に共鳴音(キー音)が発生するメカニズムを説明する。
(1)まず排気バルブ駆動装置100において排気バルブ101を全開より閉じ側に駆動する場合、排気バルブ101の戻しバネの力がアクチュエータ1の駆動方向と同一になるため、減速機構5のギヤ(ウォームホイール52)の噛合い部に負荷が殆ど加わらない状況が発生する。
(2)減速機構5のギヤの噛合い部分に負荷が加わらない状態、または軽い負荷状態の場合、モータ4の駆動軸42が振動することができる。
(3)減速機構5のウォーム51とウォームホイール52の噛合い部は、ウォーム51の回転によりウォームホイール52のギヤの歯面を擦りながら駆動されている。
(4)ウォーム51とウォームホイール52の噛合い部は、金属同士の摺動であり噛合い部分の圧力が軽いとスティックスリップ現象により、モータ4の駆動軸42が加振される。
(5)スティックスリップ現象の加振周波数と、モータ4の駆動軸42の共振周波数が一致すると、駆動軸42が共鳴してキー音が発生する。
【0031】
上記の発生メカニズムを考慮すると、モータ4の駆動軸42の共振周波数を意図的にずらすことによって共鳴音発生を抑制できると考えられる。共振周波数は駆動軸42のイナーシャを変更することによって変更することができる。そこで本実施形態では、モータ4の駆動軸42に、イナーシャ増加用の錘41を設けることによって、共振周波数を意図的にずらし、この結果共鳴音発生を抑制できるよう構成されている。
【0032】
錘41の材料は、例えば黄銅である。錘41の重量が増えるほどイナーシャも増加するので、筐体2の内部空間の制約を満たす範囲内で、錘41の重量は重くなるほどよい。錘41の重量の目安としては、駆動軸42の共振周波数を少なくとも2.7%ずらすことができる重さであるのが好ましい。錘41の重量は、駆動軸42の共振周波数を3.9%ずらすことができる重さであるのがさらに好ましく、駆動軸42の共振周波数を6.4%ずらすことができる重さであるのがより好ましい。なお、上記の共振周波数のズレ量は、例えば錘41の直径など、重さ以外の要素によって調整してもよい。
【0033】
図5図6を参照して、錘41の有無に応じた共鳴音発生のシミュレーション結果を説明する。図5は、共鳴音発生シミュレーションの条件を説明する模式図である。図6は、シミュレーション結果の周波数解析を示す図である。
【0034】
図5に示すように、モータ本体43とウォーム51との間に錘41を設けない構成(錘なし)と、錘41を設ける構成、さらに錘41を設ける場合には重さを三段階に変化させた場合(錘A、B、C)で、固有振動数を確認した。錘41を設ける構成の場合には、図5に点線で示すモータ本体43とウォーム51との間の位置に錘41を配置した。シミュレーション条件としては、モータ本体43のベアリングから駆動軸42が外部に突出する位置A(図5中の二点鎖線で示す位置)を駆動軸42の固定端として設定し、また、駆動軸42の先端とウォーム51の内壁との接触位置Bを駆動軸42の支持端として設定した。つまり、境界条件を固定―単純支持とした。
【0035】
一般に固有振動数fは以下の(1)式で算出できる。
【数1】
ここで、Lは、シャフト先端の位置Bからベアリングの位置Aまでの距離であり、シミュレーションではL=20mmとした。Aは駆動軸42の断面積であり、ここでは駆動軸42の径d=3mmとしたのでA=2.25πである。ρは質量密度であり、ここでは駆動軸42の材質をSUS420とし、質量密度を7750kg/mとし、ウォーム51の材質をSUS303とし、質量密度を7939kg/mとした。Eはヤング率であり、駆動軸42のヤング率を200000Mpaとし、ウォーム51のヤング率を193000MPaとした。Iは断面二次モーメントであり、ここでは円断面なのでI=πd/64である。kは、境界条件と振動モードによって決まる無次元の定数であり、境界条件が固定―単純支持の場合、k=3.927である。また、駆動軸42のポアソン比を0.27、ウォーム51のポアソン比を0.29とした。
【0036】
シミュレーションで算出した固有振動数を表1に示す
【表1】
【0037】
表1に示すように、錘41を設けることによって固有振動数が錘なしの場合から有意差をもって変化しており、これによりキー音発生が無くなっていることがわかる。また、錘A、錘B、錘Cの順で錘41の重量が増えるほど、または、錘41の径が増えるほど、固有振動数の変化量が増えて、より確実にキー音発生を防止できる、つまりキー音抑制のための安全率が増えていることがわかる。
【0038】
図6は、表1の錘なしの場合と、錘Bの場合に生じる騒音の周波数分析結果を比較して示している。図の横軸は周波数(kHz)を示し、縦軸は各周波数の騒音レベル(dB)を示す。グラフN1は暗騒音、グラフN2は錘なし、グラフN3は錘Bの周波数特性をそれぞれ示す。
【0039】
錘なしの場合、グラフN2に点線円の領域で示すように、固有振動数(2.1187kHZ)の整数倍にピークがあり、モータシャフトの共振による共鳴音が発生している。一方錘ありの場合、グラフN3に示すように、錘なしの場合のピークがなくなっており、共振による共鳴音が発生していないことがわかる。したがって、表1、図6に示すシミュレーション結果から、モータ4の駆動軸42にイナーシャ増加用の錘41を設けると共鳴音発生を低減できることが示された。
【0040】
また、本実施形態では、モータ4の駆動軸42にイナーシャ増加用の錘41を設けることによって応答性(時定数)を改善できる。以下でこの効果について説明する。
【0041】
まず、アクチュエータ1を小型化した場合の応答性の変化を考える。従来の相対的に大きいアクチュエータをアクチュエータAとし、小型化したアクチュエータをアクチュエータBとして、以下では符号A,Bで区別する。
【0042】
小型化したアクチュエータBでは、モータ4も小型化し、駆動軸42も細くなるので、モータ4の応答性は従来のアクチュエータAとは異なる挙動となる。小型化アクチュエータBの応答性を、従来の大型アクチュエータAの応答性と合わせるため、モータ4の機械的(回転数)時定数を合わせることができるイナーシャ目標値Jdを求める。
【0043】
一般にモータの機械的時定数Tは、下記の(2)式で表される。
=J×Ra/(Kt×Ke) ・・・(2)
ここで、Jはモータのイナーシャであり、Raは巻線抵抗、Ktはトルク定数、Keは誘起電圧定数である。
【0044】
アクチュエータAの機械的時定数TMAは、(2)式を用いて次のように算出できる。
MA=4.26×10-6[kg・m2]×1.32[Ω]/
(2.19×10-6[V/rpm]×60/2π×0.02[Nm/A])=0.014[sec]
【0045】
一方、アクチュエータBの機械的時定数TMBは、(2)式を用いて次のように算出できる。
MB=1.21×10-6[kg・m2]×1.45[Ω]/
(1.56×10-6[V/rpm]×60/2π×0.01429[Nm/A])=0.008[sec]
【0046】
つまり、TMB/TMA=0.008/0.014=0.571となり、アクチュエータBの機械的時定数TMBは、アクチュエータAの機械的時定数TMAに対して42.9%早い。アクチュエータBの機械的時定数TMBをアクチュエータAの機械的時定数TMAに合わせるために、イナーシャでの調整を検討する。イナーシャ目標値Jdは、機械的時定数をTMAにできればよいので、下記の(3)式で表される。
Jd=TMA×Kt×Ke/Ra ・・・(3)
【0047】
(3)式を上記の(2)式の計算と同様のパラメータを用いれば、イナーシャ目標値Jdは次のように算出できる。
Jd=0.014[sec]×1.56×10-6[kg・m2]×60/2π×0.01429[Nm/A]/1.45[Ω]
=2.057×10-6[kg・m2]
【0048】
本実施形態では、錘41によってモータ4のイナーシャを目標値Jdに近づけて、アクチュエータBの機械的時定数TMBをアクチュエータAの機械的時定数TMAに近づける。ここで、図3図4などに示した形状の錘41を用いて、本体側の最大径が13mm、軸方向の長さが7.15mmとして、材料を黄銅とした場合、錘41のイナーシャJwは、例えばJw=0.109×10-6[kg・m2]となる。このとき、アクチュエータBの錘41を除いたイナーシャをJB=1.21×10-6[kg・m2]とすると、アクチュエータBのイナーシャはJB+Jw=1.319×10-6[kg・m2]となる。したがって、錘41を設けた場合のアクチュエータBの機械的時定数TMBWは、次のように算出できる。
MBW=1.319×10-6[kg・m2]×1.45[Ω]/
(1.56×10-6[kg・m2]×60/2π×0.01429[Nm/A])
=0.00898[sec]
【0049】
したがって、TMBW/TMA=0.00898/0.014=0.64となり、アクチュエータBの機械的時定数TMBWは、アクチュエータAの機械的時定数TMAに対して36%早い。すなわち、錘41が無い場合と比較して6.9%改善する。
【0050】
従来、アクチュエータの小型化のためにモータを小型化すると、モータの応答性が変化するため、モータを制御するドライバー回路の応答性制御定数を変更する必要がある。ドライバー回路を変更すると、プログラム修正費用がかかり、全体として大きなコストアップとなってしまう。
【0051】
これに対して本実施形態では、モータ4を小型化すると回転子の慣性モーメントが小さくなり応答性が早くなってしまうため、モータ4の駆動軸42に錘41を付けることによって、慣性モーメントを増加させて応答性を調整することができる。具体的には上述のとおり、錘41が無い構成と比較して応答性が6.9%改善した。これにより、ドライバー回路の応答性制御定数の許容範囲内に応答性が収まり、定数変更無く対応が可能となる。この結果、本実施形態の排気バルブ駆動装置100は、アクチュエータ1小型化のためにモータ4を小型化した場合でも、従来のドライバー回路を変更せず、アクチュエータ1の組み換えだけで済ませることが可能となり、アクチュエータ小型化のためのコストを低減できる。
【0052】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 アクチュエータ
2 筐体
3 出力軸
4 モータ(駆動源)
41 錘
42 駆動軸
43 モータ本体
5 減速機構
51 ウォーム
52 ウォームホイール
6 回転計側部
100 排気バルブ駆動装置
101 排気バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6