(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック膜及び関連するその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/15 20190101AFI20230206BHJP
G02F 1/1524 20190101ALI20230206BHJP
C09K 9/00 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
G02F1/15 505
G02F1/15 503
G02F1/1524
C09K9/00 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019171113
(22)【出願日】2019-09-20
(62)【分割の表示】P 2016530077の分割
【原出願日】2014-07-25
【審査請求日】2019-10-21
(32)【優先日】2013-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518032041
【氏名又は名称】イー-ビジョン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】トラコフカ‐ブローチ,アニータ
(72)【発明者】
【氏名】サン,イン
(72)【発明者】
【氏名】ココナスキ,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】モンティコーネ,ピエル,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】シュネーベルガー,ニクラウス
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-209677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0162744(US,A1)
【文献】特開2012-137747(JP,A)
【文献】特開2004-093687(JP,A)
【文献】米国特許第04447133(US,A)
【文献】特開2002-170557(JP,A)
【文献】国際公開第2004/053196(WO,A1)
【文献】特開2007-108750(JP,A)
【文献】特表2002-513175(JP,A)
【文献】特開2003-270670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズブランク又は半形成レンズブランクと、
前記レンズブランク又は前記半形成レンズブランクの上に堆積された第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層と、を備え、
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、
ナノスケールの厚さのナノ層と
、前記ナノ層から延びる少なくとも一つのナノ構造と
、を有
しており、
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、様々な厚さを有している、
エレクトロクロミックデバイス。
【請求項2】
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層の上の第1のイオン伝導層を更に備える、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項3】
基板の上に堆積された第2の固体ナノ構造エレクトロクロミック層と、
前記第2の固体ナノ構造エレクトロクロミック層の上の第2のイオン伝導層と、
を更に備え、
前記基板と前記レンズブランク又は前記半形成レンズブランクとが組み立てられて前記エレクトロクロミックデバイスが形成され、
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層及び前記第2の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、互いに向き合うように組み立てられる、請求項
2に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項4】
前記レンズブランク又は前記半形成レンズブランクの後処理は、異なる形状への前記レンズブランク又は前記半形成レンズブランクのエッジングを含む、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項5】
前記レンズブランク又は前記半形成レンズブランクの後処理は、処方箋に応じた前記レンズブランク又は前記半形成レンズブランクの表面仕上げを含む、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項6】
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、透過状態にあるときに可視光の少なくとも75%を透過させるように構成される、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項7】
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、30秒未満の動的応答時間を有する、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項8】
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、可視スペクトル範囲において50cm2/C超の着色効率を有する、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項9】
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、4ボルト以下の作動電圧を有する、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項10】
前記第1の固体ナノ構造エレクトロクロミック層は、酸化タングステン(WO
X)を有し、
Xは、2.7~2.9である、請求項
1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本明細書に開示する実施形態は、エレクトロクロミック膜及び方法及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] エレクトロクロミック(EC:electro-chromic)膜積層体は、表面の光学透過特性を変化させることが望ましい場合に、表面に塗布されることがある。例えば積層体を眼科用レンズに塗布して、レンズを通る有害な紫外線光の透過を低減することができる。概してエレクトロクロミック膜積層体は、少なくとも1つのイオン伝導層に接触した少なくとも1つのエレクトロクロミック層を備えている。電圧を印加すると、異なる層間でイオン及び電子が移動し、これによって積層体の光学特性が変化する。電圧をオフにすると、積層体の光学特性は変更されていない状態に戻る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
[0003] 様々なEC技術の分野において多くの調査研究が進行中であるにもかかわらず、既存の眼科用レンズブランク、半製品ブランク(SFB:semi-finished blank)、その他の制御可能な可変透過性能を必要とする表面上に容易に塗布することができるコンパクトで機械的に頑強な固体エレクトロクロミック膜積層体が今なお求められている。また、そのようなEC積層体が低電圧で動作すること、従って、大型で重量があり外見上も容認できない電池が不要であることが望ましい場合がある。更に、可変透過EC積層体は、現在利用可能な光互変性レンズ及び他のスイッチング技術に比べ、申し分のないダイナミックレンジで高速応答でなければならない。更に、そのような頑強なEC積層体は、他のいずれかの大面積の透過性表面に塗布される可能性がある。それらは、限定ではないが、建築用の窓、ガラス屋根、自動車のフロントガラス、並びに、エネルギ節約及び他の目的のため制御可能な透過性を必要とする他の用途を含む。
【0004】
[0004] また、EC膜積層体は、塗布される表面に対する全ての後処理ステップに耐えなければならない。例えば眼科用SFBに塗布された場合は、異なるレンズ処方箋のための表面仕上げ、異なるレンズ形状へのエッジング、及び溝切りのステップに耐えなければならない。これは、電解液を利用する非固体ECデバイスには当てはまらない。更に、固体EC膜積層体を単一の基板上に堆積することができれば、限定ではないが例えば眼科用レンズ、オートバイのヘルメット、窓のような最終製品の「かさの大きさ(bulkiness)」を低減するために極めて有用である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[0005] 一実施形態において、方法は、表面法線を有する基板の表面を、第1の方向に進むエレクトロクロミック材料のフラックスに露呈させることによって、表面の上にエレクトロクロミック材料を堆積して、ナノ構造エレクトロクロミック層を形成することを備える。第1の方向と表面法線との間の入射角は、少なくとも1度であると共に最大でも89度である。
【0006】
[0006] 一実施形態では、入射角は少なくとも1度であると共に10度未満である。一実施形態では、入射角は少なくとも10度であると共に80度未満である。一実施形態では、入射角は少なくとも80度であると共に最大でも89度である。
【0007】
[0007] 一実施形態において、この方法は、エレクトロクロミック材料を堆積している間にフラックスに対して表面を回転させることを備える。一実施形態では、エレクトロクロミック材料を堆積している間にフラックスに対して表面は回転させない。
【0008】
[0008] 一実施形態では、この方法は、エレクトロクロミック材料を堆積した後にナノ構造層の上に第1のイオン伝導層を堆積することと、第1のイオン伝導層を堆積した後に第1のイオン伝導層の上に第2のイオン伝導層を堆積してエレクトロクロミック光学デバイスを形成することと、を更に備える。
【0009】
[0009] 一実施形態では、エレクトロクロミック材料は2つのエレクトロクロミック材料を含み、堆積するステップは表面の上に2つのエレクトロクロミック材料を共堆積することを備える。
【0010】
[0010] 一実施形態では、エレクトロクロミック材料は本質的に単一のエレクトロクロミック材料から成る。
【0011】
[0011] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は少なくとも1つのコラム構造を含む。
【0012】
[0012] 一実施形態では、少なくとも1つのコラム構造と表面の法線とが、入射角より小さい角度を形成する。
【0013】
[0013] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は、1ナノメートルから500ナノメートルの範囲のフィーチャサイズを有する。
【0014】
[0014] 一実施形態では、エレクトロクロミック材料は、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。一実施形態では、エレクトロクロミック材料は酸化タングステンである。
【0015】
[0015] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層の形成は、(1)表面を第1の方向に進むエレクトロクロミック材料のフラックスに露呈させること、及び(2)ゾルゲル、ディップコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、アニーリング、及び焼結の少なくとも1つ、の組み合わせによって達成される。
【0016】
[0016] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は50m2/gより大きい比表面積を有する。一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は50cm2/Cより大きい着色効率を有する。一実施形態では、エレクトロクロミック層は、酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0017】
[0017] 一実施形態では、エレクトロクロミック層は2つの異なるエレクトロクロミック材料の混合物を含む。
【0018】
[0018] 一実施形態では、方法は、第1の表面法線を有する第1の基板の表面を、第1の方向に進む第1のエレクトロクロミック材料の第1のフラックスに露呈させることによって、表面の上にエレクトロクロミック材料を堆積して、第1のナノ構造エレクトロクロミック層を形成することを備える。第1の方向と第1の法線との間の入射角は、少なくとも1度であると共に最大でも89度である。この方法は、第2の表面法線を有する第2の基板の表面を、第2の方向に進む第2のエレクトロクロミック材料の第2のフラックスに露呈させることによって、表面の上に第2のエレクトロクロミック材料を堆積して、第2のナノ構造エレクトロクロミック層を形成することを更に備える。第2の方向と第2の法線との間の入射角は少なくとも1度であると共に最大でも89度である。この方法は、第1のナノ構造層の上に第1のイオン伝導層を堆積することと、第2のナノ構造層の上に第2のイオン伝導層を堆積することと、第1のイオン伝導層及び第2のイオン伝導層が接触してエレクトロクロミック光学システムを形成するように、第1の基板及び第2の基板を組み立てることと、を更に備える。
【0019】
[0019] 一実施形態では、第1及び第2のナノ構造層は同一の材料組成を有する。一実施形態では、第1及び第2のナノ構造層は異なる材料組成を有する。
【0020】
[0020] 一実施形態では、方法は、電気泳動又は電着を用いて基板の表面の上にエレクトロクロミック材料を堆積してナノ構造エレクトロクロミック層を形成することを備える。
【0021】
[0021] 一実施形態では、堆積は電気泳動によって行われる。一実施形態では、堆積は電着によって行われる。
【0022】
[0022] 一実施形態では、この方法は、エレクトロクロミック材料を堆積する前に表面上に前駆物質材料を堆積することと、エレクトロクロミック材料を堆積した後に表面から前駆物質材料を除去することと、を更に備える。
【0023】
[0023] 一実施形態では、前駆物質材料はポリスチレンを含む。
【0024】
[0024] 一実施形態では、堆積するステップは2つのエレクトロクロミック材料を共堆積することを備え、ナノ構造エレクトロクロミック層は2つのエレクトロクロミック材料の混合物を含む。
【0025】
[0025] 一実施形態では、エレクトロクロミック材料は本質的に単一のエレクトロクロミック材料から成る。
【0026】
[0026] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は少なくとも1つのコラム構造を含む。
【0027】
[0027] 一実施形態では、少なくとも1つのコラム構造と表面の法線とは相互に平行でない。
【0028】
[0028] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は、1ナノメートルから500ナノメートルの範囲のフィーチャサイズを有する。
【0029】
[0029] 一実施形態では、エレクトロクロミック材料は、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。一実施形態では、エレクトロクロミック材料は酸化タングステンである。
【0030】
[0030] 一実施形態では、この方法は、ゾルゲル、ディップコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、アニーリング、及び焼結の少なくとも1つを更に備える。
【0031】
[0031] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は50m2/gより大きい比表面積を有する。一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層は50cm2/Cより大きい着色効率を有する。一実施形態では、エレクトロクロミック層は、酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0032】
[0032] 一実施形態では、エレクトロクロミック材料は2つの異なるエレクトロクロミック材料の混合物を含む。
【0033】
[0033] 一実施形態では、ナノ構造エレクトロクロミック層の形成は、(1)電気泳動又は電着を用いて表面の上にエレクトロクロミック材料を堆積すること、及び(2)ゾルゲル、ディップコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、アニーリング、及び焼結の少なくとも1つ、の組み合わせによって達成される。
【0034】
[0034] 一実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは、基板と、この基板の上に配置されたナノ構造エレクトロクロミック層と、を備える。エレクトロクロミック層は少なくとも2つの化合物の混合物を含み、双方の化合物は、セラミック、金属、及びポリマーから成る群から選択される。
【0035】
[0035] 一実施形態では、第1の化合物は第2の化合物とは異なる。
【0036】
[0036] 一実施形態では、方法は、基板の第1の表面を前駆物質材料に露呈させることによって第1の表面の上に前駆物質材料の単層を堆積するステップと、第1の表面を蒸気反応物に露呈させるステップと、を順番に実行することを備える。前駆物質材料の単層は、蒸気反応物に露呈された場合に反応を生じて第1の表面上にナノ層を形成する。
【0037】
[0037] 一実施形態では、ナノ層は均一な厚さを備える。一実施形態では、ナノ層は少なくとも1つのナノ構造を備える。一実施形態では、ナノ構造は、1ナノメートルから500ナノメートルの範囲の少なくとも1つのフィーチャサイズを有する。
【0038】
[0038] 一実施形態では、ナノ層はエレクトロクロミック材料から成る。一実施形態では、エレクトロクロミック材料は酸化タングステンである。一実施形態では、エレクトロクロミック材料は、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。一実施形態では、エレクトロクロミック材料は2つの異なるエレクトロクロミック材料の混合物を含む。
【0039】
[0039] 一実施形態では、ナノ層の形成は、(1)第1の表面を前駆物質材料に露呈させること及び第1の表面を蒸気反応物に露呈させることによって第1の表面の上に前駆物質材料の単層を堆積すること、及び(2)ゾルゲル、ディップコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、アニーリング、及び焼結の少なくとも1つ、の組み合わせによって達成される。
【0040】
[0040] 一実施形態では、ナノ層は50m2/gより大きい比表面積を有する。一実施形態では、ナノ層は50cm2/Cより大きい着色効率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1A】[0041] 一実施形態に従った視斜角堆積の概略図を示す。
【
図1B】[0042]
図1Aに示すエレクトロクロミックフラックスのクローズアップを示す。
【
図2A】[0044] 傾斜堆積(angle deposition)の核形成ステップを示す。
【
図2B】[0044] 一実施形態に従った傾斜堆積中のコラム成長を示す。
【
図3A】[0045] GLADにより得られた例示的なナノ構造層のSEM画像を示す。
【
図3B】[0045] GLADにより得られた例示的なナノ構造層のSEM画像を示す。
【
図4】[0046] 一実施形態に従った電気泳動堆積及び電着の概略図を示す。
【
図5A】[0047] Ni(OH)
2粉末の電気泳動堆積の概略図を示す。
【
図5B】[0048] 無孔NiOの電気泳動堆積の概略図を示す。
【
図6A】[0049] 原子層堆積の概略図を示す。
【
図6B】[0049] 原子層堆積の概略図を示す。
【
図6C】[0049] 原子層堆積の概略図を示す。
【
図6D】[0049] 原子層堆積の概略図を示す。
【
図7A】[0050] 単一のエレクトロクロミック材料によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図7B】[0051] 同一の方法を用いて調製した2つの材料によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図7C】[0052] ナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8A】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8B】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8C】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8D】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8E】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8F】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8G】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8H】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8I】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8J】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8K】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図8L】[0053] コラム構造によるナノ構造エレクトロクロミック層を示す。
【
図9】[0054] エレクトロクロミック層を用いたエレクトロクロミック膜を示す。
【
図10A】[0055] ナノ構造フィーチャの実施形態を示す。
【
図10B】[0055] ナノ構造フィーチャの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
[0056] 全固体ECデバイスの性能上の主な問題は、応答が遅いことである。しかしながら、固体EC層が比表面積の大きいナノ構造から成るように製造されると、隣接するイオン伝導層及び/又はイオン伝導電解質からのイオンがEC層内の活性部位に「容易に近付ける」ので、EC積層体は迅速な着色及び脱色(bleaching)応答を示すと共に高いCEを示す。
【0043】
[0057] 本明細書に開示する実施形態は、EC膜積層体及びEC膜積層体内の層又は膜を作成する方法に関する。更に、本明細書に開示する実施形態は、高速応答及び高い色効率(CE)を有する膜積層体に組み込み可能なナノ構造EC層に関する。それらは純粋に無機又は有機又はハイブリッドの性質のものとすることができる。更に、EC層は単一の材料又は多数の材料から成る場合がある。また、本明細書に開示する実施形態は、バルク膜をパターニング及びエッチングする従来の手順に比べて高速かつ安価なナノスケール構造薄膜の製造方法であるナノ構造膜作成方法を含むナノ層膜作成方法にも関する。
【0044】
[0058] これによって得られるEC膜積層体は、バルクEC結晶膜又はアモルファス膜に比べ、外部印加電圧のもとで著しく高速の応答及び向上した着色効率(CE:coloration efficiency)を示す。これらの固体エレクトロクロミック(EC)膜積層体は、レンズブランク又はSFB又は他の制御可能な可変透過特性を必要とする表面上に追加するか又は直接堆積することができる。
【0045】
[0059] 以下の記載では、本発明の様々な態様及び実施形態について述べる。いずれの特定の実施形態も本発明の範囲を規定することは意図していない。実施形態は、少なくとも本発明の範囲内に含まれる様々な装置、組成、及び方法の非限定的な例を与えるに過ぎない。記載は、当業者の観点から読まれるものであり、従って当業者に周知の情報は必ずしも含まれるわけではない。
【0046】
[0060] 更に、特定の実施形態についての前述の記載は、本発明の一般的な性質を充分に明らかにするので、他の者は、当技術分野内の知識を適用することによって、必要以上の実験を行うことなく、また本発明の一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を様々な用途のために容易に変更及び/又は適合させることができる。従って、そのような適合及び変更は、本明細書に提示する教示及び指導に基づいて、開示する実施形態の均等物の意味及び範囲内にあることが意図される。本明細書における用語又は表現は限定でなく記述の目的のためのものであるので、本明細書の用語又は表現が当業者によって教示及び指導に照らし合わせて解釈されることは理解されよう。
【0047】
[0061] 本明細書において用いる場合、「備える(comprise)」、「備える(comprises)」、又は「備えている(comprising)」という言葉は、開集合(open set)を示唆するので、明示的に述べたものに加えて他の要素も存在する可能性がある。本明細書において用いる場合、「本質的に~から成る(consisting essentially of~)」という言葉は、閉集合(closed set)を示唆する。しかしながら閉集合は、閉集合の基本的な特徴に実質的に影響を与えない不純物(impurities)及び他の相違を含み得る。
【0048】
[0062] 本明細書において用いる場合、冠詞「a」、「an」、及び「the」は、明示的にかつ明白に否定されない限り、複数の指示対象を含む。
【0049】
[0063] 本明細書において用いる場合、接続詞「or(又は)」は分離的集合(disjunctive set)を示唆しない。このため、「A又はBが存在する」という語句は以下の状況の各々を含む。(a)Aが存在し、Bが存在しない。(b)Aが存在せず、Bが存在する。(c)A及びBの双方が存在する。従って、「or(又は)」という言葉は、明示的に示されない限り、二者択一の状況を示唆するものではない。
【0050】
[0064]
図9は、一実施形態に従った例示的なEC膜積層体1000を有する例示的なECデバイスを示す。本明細書において用いる場合、EC膜積層体とはEC特性を示す多層構造のことを指す。EC特性は、電位が印加されると可逆的に色が変わるか、又は印加電位の大きさが変わると可逆的に色が変わることを意味する。いくつかの実施形態では、EC膜積層体は、この積層体に電位が印加されていない場合に透明な構造である。透明とは、可視光の75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97%、又は少なくとも99%を透過させることを意味する。いくつかの実施形態では、EC膜積層体は、電位が印加されると可視光の少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%を遮光する構造である。いくつかの実施形態では、遮光は可視光電磁スペクトル全体を通して実質的に均一であるが、他の実施形態では均一ではない。
【0051】
[0065] EC膜積層体1000は、EC層又は膜2000A及び2000B、イオン伝導中間層3000A及び3000B、イオン伝導層4000A及び4000B、並びに電極5000A及び5000Bを備えている。EC膜積層体1000は2枚の基板6000Aと6000Bとの間に配置して示すが、EC膜積層体1000を一方の基板6000Aだけの上に配置することも可能である。第1の層が第2の層の「上に配置されている」又は「上に堆積されている」と記載する場合、第1の層の方が基板から遠くに配置又は堆積されている。更に、第1の層が第2の層に「接触している」と明記しない限り、第1及び第2の層間に他の層が存在することがある。例えばEC層は基板6000の「上に配置されている」と記載され得るが、これらの間に様々な他の層が存在する場合がある。本明細書で検討する連続した層は相互に重ねられていると記載するが、これは単一の基板を基準としており、デバイスが2枚以上の基板を含み得るか否かには無関係である。連続した層が配置されている基板は、記載及び/又は図面から明らかとなろう。1枚の基板又は層の上に配置された層は、必ずしもその基板又は層の上に堆積されているとは限らない。第1の層が第2の層の上に堆積されている場合、第2の層は第1の層が堆積される前に存在している必要がある。
【0052】
[0066] 本明細書において用いる場合、「膜」及び「層」は交換可能な場合がある。
【0053】
[0067] いくつかの実施形態では、基板6000は「光学基板」である。本明細書において用いる場合、「光学基板」という言葉は、レンズもしくはレンズブランク(半形成レンズブランクを含む)としての使用に適した、又はレンズもしくはレンズブランクに形成するのに適した、いずれかの基板を指す。一般に光学基板は透明材料である。これは、可視光の少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97%、又は少なくとも99%を透過させることを意味する。光学基板としての使用に適した材料である限り、本発明はいかなる特定の材料にも限定されない。適切な材料は、限定ではないが、ガラス、石英、又はポリカーボネート等のポリマー材料を含む。材料は、光学用途での使用に適したいずれかの屈折率を有し得る。基板は、本発明が対象とする分野において周知の他のコーティング又は膜も含むことがある。
【0054】
[0068] いくつかの実施形態において、光学基板はレンズであり、例えば眼鏡に用いられるレンズである。本明細書において用いる場合、「レンズ」は、光を集束又は発散させるいずれかのデバイス又はデバイスの一部である(すなわちレンズは光を焦点に集めることができる)。レンズは、屈折型又は回折型又はそれらの組み合わせであり得る。レンズは、一面又は両面において、凸状、凹状、又は平面であり得る。レンズは、球形、円筒形、プリズム形、又はそれらの組み合わせであり得る。レンズは、光学ガラス、プラスチック、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス及び樹脂の複合物、又は異なる光学グレードの樹脂もしくはプラスチックの複合物で作成することができる。デバイスの屈折力がゼロであっても(度のない又は屈折力なしとして知られる)、光学業界内ではこれをレンズと呼ぶ場合があることに注意しなければならない。こういった場合、レンズを「度のないレンズ」と呼ぶことができる。レンズは従来型又は非従来型のいずれかとすればよい。従来型レンズは、近視、遠視、老眼、及び正乱視等の低次収差を含む目の従来型の誤差を補正する。非従来型レンズは、目の層(ocular layer)の不規則性又は異常によって生じ得る高次収差を含む眼の非従来型の誤差を補正する。レンズは、単焦点レンズ又は、累進屈折力レンズもしくは2焦点もしくは3焦点レンズ等の多焦点レンズとすることができる。
【0055】
[0069] 他の実施形態では、基板6000は眼科用基板ではない。これらの基板は、内部を光が進んでから目に達するいずれかの基板を含む。非限定的な例には、自動車のフロントガラス、建築用の窓等が含まれる。更に、これらの基板は、眼科用基板に貼られるガラス基板を含み得る。本明細書において用いる場合、「ガラス」とは、アモルファス無機固体透明材料のことを指す。これは一般的にシリコン酸化物を多量に含み、更に、限定ではないがカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、及びナトリウムの酸化物を含む他の金属酸化物を少量含み得る。他の酸化物及びドーパントも存在する場合がある。これらの基板は、眼科用基板と同様に、本発明が対象とする分野において周知の他のコーティング及び膜も含むことがある。
【0056】
[0070] 1つのイオン伝導層4000及び2つのイオン伝導中間層3000を示すが、EC膜積層体1000は、これより多いか又は少ない数の層を含むことがある。例えばEC膜積層体1000は、2つの伝導層を含むと共に中間層を含まないか、又は1つのイオン伝導層を含むと共に中間層を含まない場合がある。更に、イオン伝導中間層3000を特定の外形及び深さで示すが、本明細書において開示する実施形態はこの外形及び深さに限定されない。これについては、引用により全体が本願にも含まれる出願第14/332,180号にもっと詳しく記載されている。
【0057】
[0071] 本明細書に開示するEC膜積層体は、塗布される表面に対する全ての後処理ステップに耐えなければならない。例えば眼科用SFBに塗布された場合は、異なるレンズ処方箋のための表面仕上げ、異なるレンズ形状へのエッジング、及び溝切りのステップに耐えなければならない。これは、電解液を利用する非固体ECデバイスには当てはまらない。
【0058】
[0072] 本明細書に開示するEC膜積層体は、バルクEC結晶又はアモルファス膜を含むEC膜積層体に比べ、外部印加電圧に対して著しく応答が速い。また、着色効率(CE)も向上している。一実施形態では、EC膜積層体2000は、動的応答が30秒未満であり、可視スペクトル範囲におけるCEが50cm2/C超の高さである。本明細書で用いる場合、可視スペクトル範囲は400nmから700nmである。これらの利点は、4ボルト以下の電圧のような低電圧のもとでも得られる。
【0059】
[0073] EC膜積層体の応答時間及びCEは多くのファクターに依存する。ファクターには、限定ではないがEC層の比表面積が含まれる。比表面積が大きくなると、EC層上の活性部位が増えて、隣接するイオン伝導層及び/又はイオン伝導電解質が「容易に近付ける」ので、応答時間及びCEが向上し得る。従って、EC膜の応答性を特徴付ける1つの方法は、EC層の比表面積を用いる。
【0060】
[0074] 比表面積は、合計表面積に関連しており、単位質量当たりの固体材料、膜、又はコーティングの合計表面積として定義することができる。このパラメータを測定する1つの方法は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)理論によるものであり、これは固体材料、膜、又はコーティング上の気体分子の物理吸収に基づいている。他のものを開示しない限り、本明細書に開示する比表面積はこの方法によって求められる。一実施形態では、本明細書に開示するEC層は50m2/gより大きい比表面積を有する。
【0061】
[0075] いくつかの実施形態では、EC層の比表面積を増大する1つの方法はナノ構造を用いることである。
図2B、
図3A~
図3B、
図5A~
図5B、及び
図8は、本開示によって想定される様々なナノ構造EC層の例示的な概略を示す。
【0062】
[0076] 「ナノ構造」という言葉は、ナノサイズのフィーチャを有することを意味し得る。ナノサイズのフィーチャは、1ナノメートルから500ナノメートルまでの少なくとも1つの寸法を含む。ナノサイズのフィーチャは、限定ではないが、ナノ細孔、ナノ球体、ナノ粒子、ナノロッド、ナノプレートレット、並びにナノリッジ、ナノ溝、及びナノコラム等のナノサイズ表面フィーチャを含む。いくつかの実施形態では、ナノサイズのフィーチャはナノ微粒子を含み得る。フィーチャの「サイズ」を求める1つの方法は、フィーチャを横切らない2つの平行な面間の最小距離を考えることである。例えば
図10Aにおいて、ナノ構造のフィーチャサイズは1003でなく1001である。いくつかの実施形態では、「最小距離」は、フィーチャが製造されている表面の面に平行な方向で測定される。すなわち、最小距離は厚さでなく幅又は長さである。例えば
図10Bにおいて、フィーチャのサイズは1003でなく1001である。
【0063】
[0077]
図8A~
図8Lは、表面300上に堆積されたナノコラム構造600を有する例示的なナノ構造EC層の概略を示す。
図3A及び
図3Bも、ナノコラム構造を有する例示的なナノ構造EC層を示す。表面300は好ましくは電極の表面であるが、EC膜積層体で一般に見られるいずれかの層の表面であればよく、イオン伝導層の表面や中間イオン伝導層の表面が含まれる。更に、先に開示したものと同様の基板6000の表面であってもよい。これらのコラム構造は、上述のように求めることができるフィーチャサイズを有する。例えば
図8Dのフィーチャサイズは1001である。
【0064】
[0078]
図8C~
図8E及び
図8Hに見られるように、コラム構造は、長さに沿って可変の幅又は直径を有する構造を含む。更に、コラム構造600は、長さに沿って直線状であることも直線状でないこともある。例えば
図8G及び
図8I~
図8Lに示すように、いくつかのものは長さに沿って屈曲又は湾曲を有する場合がある。更に、いくつかの実施形態では、
図8Fに見られる構造のように長さに沿って延出する突起を有する場合があり、これにはフラクタル状構造が含まれる。
図8Aは直線状コラム構造(又は柱)を示す。
図8Bは傾斜コラム構造を示す。
図8Iはらせん形を有するコラム構造を示す。
図8Jは波形コラム構造を示す。
図8Kはジグザグ形コラム構造を示す。
図8Lは変動幅を有するジグザグ形コラム構造を示す。いくつかの実施形態では、表面積の大きいコラム構造が好ましい。表面積が大きくなると、イオン交換のための活性部位数を増やすことができるからである。これらのコラムは、
図8Fに示す構造のように、長さに沿って突起又はフラクタル状構造を有するか、又は長さに沿って可変直径を有する直線状とすることができる。しかしながら他の実施形態では、これらの構造により得られる表面積の増大は必要でなく、
図8Aに示すもののような直線状の「平滑な」コラムを用いてもよい。
【0065】
[0079] コラム構造は、概ね直線状の構造と屈曲及び湾曲を有する構造との双方を含み得るので、コラム構造は2つのタイプの「長さ」を有する場合がある。一方の長さは近似的な長さである。近似的な長さは、コラムの基部を起点として基部から最も遠いコラムのポイントまでの直線で測定すればよい。コラムの基部は、構造が表面に合流する場所である。測定は、表面300からのコラムの全体的な延出方向と同じ方向で行われる。例えば、
図8Aに示すもののようなコラム構造は近似的な長さ602aを有する。同様に、
図8Iに示すもののようなコラム構造は近似的な長さ602iを有する。コラム600iは長さに沿って屈曲のあるジグザグ構成を有し得るが、表面300からの全体的な延出方向は垂直である。別の例として、
図8bに示すもののようなコラム構造は近似的な長さ602bを有する。表面300からのコラム600bの全体的な延出方向は、ある角度に傾斜している。
【0066】
[0080] 一方、コラム構造の実際の長さは直線で測定されるのでなく、構造の屈曲及び湾曲に沿っている。このため、屈曲も湾曲も存在しないコラム構造では、
図8A及び
図8Bにおけるように、近似的な長さは実際の長さと概ね同一である。湾曲を有するコラム構造では、
図8I及び
図8Gにおけるように、近似的な長さはコラム構造の実際の長さより短いことが多い。
【0067】
[0081] コラム構造の幅は、コラムが最も広くなるポイントで測定することができる。測定は、コラムの実際の長さと交差する想像上の線に垂直な方向で行われる。例えば
図8Fのコラム構造は幅601fを有する。構造が「コラム状」であるか否かを判定するため、近似的な長さを幅と比較する。いくつかの実施形態では、コラム構造600は、幅よりも長さの方が大きい構造である。
【0068】
[0082] 好適な実施形態におけるEC層は、
図3A~
図3Bに示すもののように、2つ以上のタイプのコラム構造から成る。しかしながら他の実施形態におけるEC層は、
図8A~
図8Lに示すもののように、それぞれ同様のコラム構造から成ることができる。
【0069】
[0083] EC層は、コラム構造の他に、
図5Bに見られるようなナノ細孔、又は
図5Aに見られるようなナノロッド等の様々な他のタイプのナノ構造フィーチャであり得る。更にEC層は、例えばコラム構造とナノ細孔との混合物等、異なる種類のナノ構造の混合物を有する場合もある。
【0070】
[0084] いくつかの実施形態において、上述のEC層及び膜は、傾斜堆積を用いて作成することができる。他の実施形態では、それらは電気泳動又は電着を用いて作成可能である。更に別のいくつかの実施形態では、それらは原子層堆積を用いて作成することができる。これらの方法は、バルク膜のパターニング及びエッチングに比べ、高速かつ高効率のこれらの膜の製造方法を提供するものであり、以下で説明する。これらの実施形態は個別の方法として記載するが、1つ以上の方法を組み合わせて上述のEC層を作成することも可能である。
【0071】
傾斜堆積
[0085] いくつかの実施形態では、傾斜堆積を用いてEC層2000を作成することができる。傾斜堆積は、斜角堆積(OAD:oblique-angle deposition)及び視斜角堆積(GLAD:glancing-angle deposition)を含み得る。一般に、OAD及びGLADは蒸着又はスパッタリングとして定義される。
【0072】
[0086]
図1は、GLAD及びOADの概略を示す。これらの堆積技法により、表面300の上にEC材料200を堆積する。EC材料の堆積は、ソース100により与えられるEC材料200のフラックス201に表面300を露呈させることで行われる。いくつかの実施形態では、ソース100はマグネトロンとすることができる。
【0073】
[0087] いくつかの実施形態におけるEC材料は、限定ではないが、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される。好適な実施形態では、EC材料は酸化タングステンを含む。これらの材料は、酸化状態に応じてエレクトロクロミック性である場合もそうでない場合もある。しかしながら当業者は、これらの材料の酸化状態を操作することでこれらの酸化物をエレクトロクロミック性とすることができる。例えば酸化タングステンは、化学量論酸化WO3状態においてエレクトロクロミック性でない場合がある。しかしながら、その酸化状態を低減させることでこれを操作することができる。このように、例えばWOX(Xは2.6である)をエレクトロクロミック性とすることができる。いくつかの実施形態において、EC材料200は、同時に共堆積される2つ以上のEC材料を含み得る。他の実施形態では、EC材料は本質的に単一のエレクトロクロミック材料から成る。
【0074】
[0088] 表面300は、ユーザにより制御可能な缶302によって適正位置に保持することができる。表面300は、この表面300の面に対して垂直な表面法線301を有する。これを
図1、
図1A、
図1Bに示す。フラックス201がソース100から出て表面300へと進む際、これは第1の方向202に進む。
【0075】
[0089]
図1Aは、フラックス201及び第1の方向202のクローズアップである。いくつかの実施形態では、フラックス201の進行方向は単一の直線状円柱形として表すことができる。これは、フラックス201のあらゆる部分が同一方向に進むので方向的な外れが存在しないことを意味する。しかしながら他の実施形態では、
図1Aに示すように、フラックス201は1つの主要方向で表面300へと進み得るが、フラックスの一部は方向的な外れ203A~203Bに進む。従って、本明細書で用いる場合、「第1の方向」202はフラックスが進む平均的な方向である。例えば
図1Aにおいて、第1の方向202は、203A及び203Bを含むフラックスの全進行方向の平均として考えられる。
【0076】
[0090] フラックス201が表面300上に堆積すると、フラックス202は表面法線301と入射角を形成する。本明細書で用いる場合、「入射角」は、フラックスの第1の方向と、入射点すなわちフラックスが表面に当たる点における表面法線と、が形成する角度である。
図1Bは入射角の概略図を示す。
【0077】
[0091] 入射角は、少なくとも1度であると共に最大でも89度である。入射角は、少なくとも1度であると共に10度未満、少なくとも10度であると共に80度未満、更に、好ましくは少なくとも80度であると共に最大でも89度とすればよい。入射角が1度から80度未満である場合、この技法を斜角堆積(OAD)と称することができる。入射角が80度から89度未満である場合、この技法を視射角堆積(GLAD)と称することができる。
【0078】
[0092] OAD及びGLADの特徴は、
図8Aから
図8Lに見られるようなコラム構造600が形成されることである。コラム構造の始まりは特定の核形成ステップであり、その後、いわゆる原子スケール弾道シャドーイング(ballistic shadowing)及び限定表面拡散によって大きく影響される異方性コラム成長が生じる。OAD又はGLADにおいて、表面300は堆積中に弾道シャドーイングが行われる。弾道シャドーイングは、フラックスが表面のシャドーイング領域に直接達するのを防ぐ。これを
図2Aから
図2Bに示す。
【0079】
[0093]
図2Aは、堆積の開始時における初期核形成段階を示す。このEC層成長の初期核形成段階によってランダムに表面を粗くする。核204が形成されると、急速にシャドーイング効果がEC層成長における決定的なファクターとなる。
図2Bは、初期核形成段階後の堆積の進行を示す。表面300のシャドーイング領域303内よりも核204の上に、多量の材料200が堆積されている。この不均衡は成長が進むにつれて大きくなる。核204の上部のみがフラックス201を受けるので、核204はやがて、入射フラックスの方向に傾斜したコラムへと変化し得る。これを
図2Bに示す。
【0080】
[0094] 入射角は、シャドーイング効果の大きさに寄与し得る。例えば入射角が80度より大きいと、高いシャドーイング効果を得ることができる。一実施形態では、この高いシャドーイング効果の結果、フラックスのソースの方向に傾斜したコラム構造を生成することができる。これを
図2Bに示す。これらの実施形態では、コラム構造は表面法線301と角度700を形成することができる。このため、この実施形態においてコラム構造は表面法線301と平行ではない。本明細書で用いる場合、平行とは、相互に少なくとも5度それていることを含み得る。この角度は入射角400より小さい場合がある。この角度は、コラム構造の回転軸が表面法線と形成する角度である。入射角が小さくなると、シャドーイング効果も小さくなり得る。当業者は、本開示の利点を用いて、コラム構造の所望の角度を形成するように入射角を操作することができる。
【0081】
[0095] 更に、いくつかの実施形態では、フラックスに対して表面300を回転させることで、
図8Cから
図8Lに見られるもののように、らせん及びジグザグ等の様々な形態を生成及び「設計」することができる。本明細書で用いる場合、「フラックスに対して」とは、表面又はフラックスのソースの一方を他方に対して回転させることを意味する。このため、
図1に示すように表面を角度500だけ回転させながらソースを静止状態に維持するか、ソースを回転させながら表面を静止状態に維持するか、又は表面及びソースの双方を回転させる場合がある。他の実施形態では、フラックスに対して表面300を回転させない。回転の程度は、低速の連続回転、高速の連続回転、及び離散的な回転(不連続回転としても知られる)を含み得る。
【0082】
[0096]
図3Aは、フラックスに対する低速表面回転を行って85度の入射角で堆積したWO
XEC層のSEM画像を示す。1つのコラム構造は幅601が480nmであり、高さ602が4.7μmである。
図3Bは、別の例示的なEC層のSEM画像を示す。用いた材料はWO
Xであり、入射角81.4度で、フラックスに対して低速表面回転を行った。これによって得られたコラム構造を見ることができる。1つの構造は幅601が380nmであり、高さが2.6μmである。
【0083】
[0097] 図示するナノ構造はコラム状であるが、OAD及びGLADを用いて上述したような他のタイプのナノ構造を生成することも可能である。
【0084】
[0098] 概して、最終ナノ構造は、限定ではないが入射角、基板回転の有無、回転のタイプ、堆積中の基板表面温度、堆積速度、堆積出力、及び堆積するEC材料を含む多くのファクターの複雑な相互作用である。例えば、入射角が大きくなるとシャドーイング効果が大きくなる。基板回転を行うと、生成されるコラムの表面上の構造数が多くなり、及び/又はジグザグ構造とすることができる。基板温度は、堆積される粒子の拡散に影響する。温度が高くなると、室温で基板上に堆積を行う場合に比べ、堆積粒子の拡散が顕著になると共に構造が不規則となることが予想される。EC材料の性質は、基板上の粒子拡散に影響を与える(拡散定数は各材料の固有の特性である)。堆積速度を上げると、「より粗い」ナノ構造を製造することができる。堆積の出力及び速度を調節することで、例えばコラム、針、又は粒子のようなナノ構造のタイプも制御することができる。これには、初期堆積パラメータだけでなく、堆積過程での初期パラメータの変更も含まれる。例えば堆積プロセス中に堆積速度を変更すると、得られる構造は、実際の長さに沿って異なる幅を有し得る。別の例として、基板を回転させながら堆積を開始し、堆積プロセス中に回転を停止した場合、得られる構造は下部が薄く上部が幅広になり得る。
図8C、
図8E、
図8G、
図8H、及び
図8Lに示す構造は、堆積プロセス中にこれらのパラメータを変更した結果として得られる。いくつかの実施形態では、堆積プロセスの終了間近にパラメータ変更を行った場合、構造は「キャッピング層」を有することが知られている。コラム構造にこれらの「キャッピング層」が存在することは、堆積中に初期パラメータの変更が行われた可能性があることを示している。当業者は、本開示の利点を用い、これらのパラメータをうまく利用することで本明細書に開示するEC層を作成することができる。
【0085】
[0099] 表面300上にEC層を堆積した後、EC層及び表面300に更に別のステップを実行して、EC層を更に処理することができる。
【0086】
[0100] 一実施形態では、ナノ構造EC層の上に第1のイオン伝導層を堆積することができる。更に、第1のイオン伝導層を堆積した後、この第1のイオン伝導層の上に第2のイオン伝導層を堆積することができる。この堆積によってEC膜積層体が形成され、これを組み込んでECデバイスを生成することができる。
【0087】
[0101] いくつかの実施形態では、上述のような傾斜堆積を用いて、エレクトロクロミック層を有する2つの表面を形成することができる。次いで、第1のナノ構造EC層の上に第1のイオン伝導層を堆積する。次いで、第2のナノ構造層の上に第2のイオン伝導層を堆積する。次いで、第1のイオン伝導層及び第2のイオン伝導層が向き合うように第1及び第2の層を組み立てて、
図9に示すようなエレクトロクロミックシステムを形成する。
【0088】
[0102] 一実施形態では、この方法を、ゾルゲル、ディップコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、アニーリング、及び焼結等の他の方法と組み合わせてナノ構造層を生成することも可能である。いくつかの実施形態では、これらの他の方法は、GLAD又はOADによるエレクトロクロミック材料の堆積後に実行される後処理ステップとしてもよい。
【0089】
電気泳動又は電着
[0103] いくつかの実施形態では、上述したようなEC層2000を、上述のような異なるタイプのナノ構造と共に、電気泳動又は電着によって作成することができる。電気泳動及び電着は双方とも、印加電界を用いて表面300の上にEC材料200を堆積することを含む。材料は液体を通って、通常は電極表面である適切な表面へとマイグレートする。
【0090】
[0104] 表1は2つの技法の比較であり、
図4は双方の技法の概略を示す。
【0091】
【0092】
[0105] 電気泳動は電気泳動堆積(EPD)と称される場合がある。これは、溶剤中の荷電粒子が電源800により与えられた印加電界のもとでマイグレートし、電極801(伝導表面としても知られる)の表面上に堆積する技法である。これは、ナノ構造層を生成するために実行可能な技法であり、大量生産のために容易にスケールアップすることができる。
【0093】
[0106]
図5AはEPDの概略を示す。
図5Aに見られるように、荷電粒子205は印加電界のもとでアノード801Aの表面へとマイグレートし、アノード801Aに堆積してナノ構造EC層を形成する。
図5Aは、堆積されるとNiOとなるEC材料としてNi(OH)
2を示すが、当技術分野において既知の他のEC材料も使用可能である。
【0094】
[0107] いくつかの実施形態では、EC材料は、限定ではないが酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される。好適な実施形態では、EC材料は酸化タングステンを含む。これらの材料は、酸化状態又は前駆物質として導入される状態に応じて、エレクトロクロミック性である場合もそうでない場合もある。しかしながら当業者は、これらの材料の酸化状態を操作することでこれらの酸化物をエレクトロクロミック性とすることができる。例えば酸化タングステンは、化学量論酸化WO3状態においてエレクトロクロミック性でない場合がある。しかしながら、その酸化状態を低減させることでこれを操作することができる。このように、例えばWOX(Xは2.6である)をエレクトロクロミック性とすることができる。いくつかの実施形態において、用いられるEC材料は、共堆積される2つのEC材料を含み得る。他の実施形態では、EC材料は本質的に単一のエレクトロクロミック材料から成る。
【0095】
[0108]
図5Aは特定のタイプのナノ構造を示すが、これは一実施形態に過ぎず、EPDを用いて上述のようなナノ構造のいずれも生成することができる。EPDから得られる最終ナノ構造は、限定ではないが、堆積の時間及び速度、粒子サイズ、溶液のpH、溶剤の性質、表面の伝導性、印加電圧、及び懸濁液濃度を含む多くのファクターの複雑な相互作用である。一実施形態では、堆積の厚さは、堆積時間、電圧、又は電流密度を変更することにより制御可能である。別の実施形態では、堆積の均一性は印加電界によって制御可能である。例えば、これらのパラメータのいくつかが最終ナノ構造に及ぼす影響は以下の通りである。堆積速度を上げると、「粗い」構造すなわち表面積の大きい構造が可能となる。堆積時間は、むろん最終EC層の厚さに影響を及ぼす。印加電圧を高くすると、結果として堆積速度が上がり、このため構造が粗くなる。粒子サイズ及び(もしあれば)粒子サイズ分布は、堆積速度と共に、最終ナノ構造及びEC層の多孔率に影響を与える。
【0096】
[0109] 当業者は、本開示の利点を用い、これらのファクターを操作することで所望のナノ構造層を得ることができる。
【0097】
[0110] 電解堆積又は電気めっきとも称される電着(ELD)は、ナノ構造層を製造するためのもう1つの簡単で高速かつ安価な方法である。一実施形態では、これを用いて1つのEC材料でEC層を生成することができる。
【0098】
[0111] 別の実施形態では、これを用いて2つ以上のEC材料でEC層を作成することができる。1つの堆積材料を用いると製造コストが簡略化されるので、状況によっては単一の材料が好ましいことがある。他の状況では2つ以上の材料が好ましい場合がある。これは、単一のEC材料では実現し得ない複数の特性の混合及び全体としての層の特徴の達成が可能となるからである。例えばELDを用いて、セラミック材料、金属、及びポリマーの群から選択された2つ以上の材料を共堆積することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの異なるタイプの材料を共堆積する。これらのナノハイブリッド層は、1つの材料及び/又は他の方法では達成されないことがあるのに比べ、有利な特性を示す。
【0099】
[0112]
図5BにELDの概略を示す。この場合、ELDを用いてナノ細孔を有するECナノ構造層を生成する。
図5Bでは、最初にステップ901において前駆物質材料1000を堆積する。一実施形態では、この前駆物質材料はポリスチレンとすればよい。他の例示的かつ非限定的な材料は、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、及びポリエチレンを含む。前駆物質材料を堆積した後、ステップ902において、例えばニッケルオキシ-ヒドロキシルのようなエレクトロクロミック材料200を堆積する。次いでステップ903において前駆物質材料を除去する。この結果、開放ナノ細孔210を有するナノ構造EC層が得られる。
図5Bはポリスチレン球体の単層である前駆物質を示すが、他の材料も本開示の範囲内である。当業者は、本開示の利点を用い、これらのファクターを操作することで所望のナノ構造層を実現することができる。
図5Bは特定のタイプのナノ構造を示すが、これは単なる一実施形態であり、ELDを用いて上述したようなナノ構造のいずれも生成することができる。
【0100】
[0113] 概して、得られるナノ構造は、限定ではないが、堆積の時間及び速度、粒子サイズ、溶液のpH、溶剤の性質、表面の伝導性、印加電圧、及び懸濁液濃度を含む異なるファクターの複雑な相互作用である。例えば、堆積の均一性は印加電界によって制御可能である。別の例として、堆積の厚さは、堆積時間、電圧、又は電流密度を変更することにより制御可能である。更に別の例として、ELDのON及びOFF時間を変更して、固有の組成及びナノ構造を含む本明細書に開示したナノ構造層を生成することができる。これは、パルスピーク電流密度等の基本的なパラメータを変更することによって達成可能であり、パルス電着と称されるELDの一種において実行され得る。例えば、これらのパラメータのいくつかが最終ナノ構造に及ぼす影響は以下の通りである。堆積速度を上げると、「粗い」構造すなわち表面積の大きい構造が可能となる。堆積時間は、むろん最終EC層の厚さに影響を及ぼす。印加電圧を高くすると、結果として堆積速度が上がり、このため構造が粗くなる。粒子サイズ及び(もしあれば)粒子サイズ分布は、堆積速度と共に、最終ナノ構造及びEC層の多孔率に影響を与える。
【0101】
[0114] 一実施形態では、ELD及びEPDを、ゾルゲル、ディップコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、アニーリング、及び焼結等の他の方法と組み合わせてナノ構造層を生成することも可能である。いくつかの実施形態では、これらの他の方法は、ELD又はEPDによるエレクトロクロミック材料の堆積後に実行される後処理ステップとしてもよい。
【0102】
原子層堆積
[0115] 別の実施形態では、EC層2000及び周囲のイオン伝導層は、原子層堆積(ALD)を用いて作成することができる。
【0103】
[0116] ALDとは、表面をその開始材料に交互に露呈することによって層の成長を行う方法である。ALDは大気圧以下で実行することができる。化学気相成長(CVD)と比較すると、ALD及びCVDは双方とも化学(分子)前駆物質を用いるが、これらの技法の相違は、前者が自己限定的な化学反応を用いて堆積する膜の厚さ及び組成を極めて精密に制御することである。この点で、ALDは、CVDの長所(分子前駆物質及び大気圧以下の圧力の使用)及び分子線エピタキシの長所(MBE=1原子ずつの成長及び膜厚の高度な制御)を利用し、それらを単一の方法に組み合わせたものと見なすことができる。
【0104】
[0117]
図6A~
図6DにALDの概略を示す。
図6Aでは、第1の表面を過剰な第1の気体前駆物質分子(例えば元素の揮発性化合物)露呈することによって、前駆物質材料の単層が表面上に堆積されている。このステップの間、前駆物質材料の1つのみの単層(第1の反応物としても知られる)が表面上に化学吸着されるように、温度及びガス流が調節される。いくつかの実施形態では、次いで、表面上で気相であるか又は物理吸着されている過剰な反応物を、不活性ガスのパルスによってチャンバからパージする。他の実施形態ではパージは行わない。次いで表面を蒸気反応物(第2の反応物としても知られる)に露呈する。
図6Cにおいて、第2の反応物は化学吸着し、表面上の第1の反応物と交換反応が起こっている。この結果、固体分子ナノ層及び気体側生成物が形成される。
図6Dに示すように、この生成物は不活性ガスパージによって除去することができる。
【0105】
[0118] ALDを用いて、比較的良好な厚さ制御で表面上にナノ層を形成することができる。いくつかの実施形態では、このナノ層はナノ構造を含まず、堆積表面全体で均一な厚さを有する。一実施形態において、この均一な厚さは1nm未満から数nm厚さまでの範囲であり得る。ALDは均一な厚さの層を形成する際に有用であり得るので、これと上述したもの等の別の方法を併用することで、ナノ構造の高い不規則性のフィーチャを有する、EC層上に堆積された中間コンフォーム層(conformed layer)を形成することができる。ALDによって堆積されたこのような層は、
図9に示すようなイオン伝導層3000を含み得る。
【0106】
[0119] いくつかの実施形態では、ALDを用いて、EC層3000のためのナノ構造を含むナノ層を形成することができる。これらのEC層は、上述したものと同様のナノ構造を含み得る。このため、ALDで用いる材料は、EC材料についての他の方法に関連して記載したものと同様であるか、又は異なる材料であり得る。異なる材料は、イオン伝導層に用いられる典型的な材料等であり、限定ではないが金属、金属酸化物、及びポリマーを含む。
【0107】
[0120] 一実施形態では、この方法を、ゾルゲル、ディップコーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、アニーリング、及び焼結等の他の方法と組み合わせてナノ層を生成することも可能である。いくつかの実施形態では、これらの他の方法は、ALDによるナノ層材料の堆積後に実行される後処理ステップとしてもよい。
【0108】
[0121] これらの3つの方法を3つの別個の実施形態として記載したが、本明細書に開示したEC層及びEC膜は、記載した技法の2つ以上の組み合わせを用いて製造可能であることは認められよう。例えば
図7A~
図7Cは、異なるナノ構造EC層の概略を示す。
図7Aは、単一のEC材料200Aから成るEC層2000を示す。
図7Bは、同一の技法で調製された2つの異なる材料200A及び200Bから成るEC層を示す。例えば材料は、同一の遷移、カソード又はアノード着色を行えばよく、無機酸化物、PEDOT、ビオロゲン、又はPBを選択することができる。
図7Cは、2つの異なる技法で調製された2つの材料200A及び200B(点線)から成るEC層を示す。一実施形態では、これらの材料は同一の遷移、カソード又はアノード着色を行えばよい。また、
図7Cは、2つの異なる技法で堆積された1つの材料から成るEC層も示す(2つの200A、一方は点線で表す)。一実施形態では、
図7Cにおける同一の材料は、WO
3及びWOx(xは2.7~2.9である)等、化学量論が変化する場合もあるし変化しない場合もある。
【0109】
[0122] 4つの方法の1つのみに関していくつかの概念を本明細書に記載し、エレクトロクロミックデバイスについてこれらの実施形態を説明したが、これらの概念がナノ構造層及びナノ層を必要とする他のタイプのデバイスにも適用可能であることは、当業者には容易に理解されよう。
【0110】
[0123] 前述の特定の実施形態についての前述の記載は、本発明の一般的な性質を充分に明らかにするので、他の者は、当業者の知識を適用することによって、必要以上の実験を行うことなく、また本発明の一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を様々な用途のために容易に変更及び/又は適合させることができる。従って、そのような適合及び変形は、本明細書に提示する教示及び指導に基づいて、開示する実施形態の均等物の意味及び範囲内にあることが意図される。本明細書における用語又は表現は限定でなく記述の目的のためのものであるので、本明細書の用語又は表現が当業者によって教示及び指導に照らし合わせて解釈されることは理解されよう。
【0111】
[0124] 本発明の範囲は、上述の例示的な実施形態のいずれによっても限定されず、以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物によってのみ規定されるものとする。