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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20230206BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019176994
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021053839
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】市岡 義和
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-35704(JP,A)
【文献】特開2001-162912(JP,A)
【文献】特開2007-264238(JP,A)
【文献】特開2008-188841(JP,A)
【文献】特開2010-58503(JP,A)
【文献】特開2016-185673(JP,A)
【文献】特開2019-136949(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/132517(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 29/00-29/70
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体に印刷を行う印刷装置において、
印刷媒体を搬送方向に搬送する搬送手段と、
搬送方向に離間して配置され、印刷媒体に印刷を行う複数個の印刷ヘッドと、
前記複数個の印刷ヘッドのうち、搬送方向における印刷の基準位置となる基準印刷ヘッドにより、搬送方向と直交する主走査方向に長辺を有する第1の線分を、搬送方向における所定長さにわたって一定間隔で形成された第1の線分群と、前記複数個の印刷ヘッドのうち、前記基準印刷ヘッドから搬送方向に離間して配置された対象印刷ヘッドにより、主走査方向に長辺を有する第2の線分を、搬送方向における前記第1の線分同士の中心、または、搬送方向における前記第1の線分の中心にて前記所定長さ内に形成された第2の線分群と、を主走査方向における印刷媒体の中央部に印刷された中央部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における一方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に広げて形成された一方側周辺部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における他方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に狭めて形成された他方側周辺部チャートとを形成されてなるズレ量検出用チャートを、前記印刷媒体に形成するズレ量検出用チャート形成手段と、
前記印刷媒体に印刷された前記ズレ量検出用チャートを撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影された前記ズレ量検出用チャートにより、前記所定長さ内での主走査方向における濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、前記ズレ量検出用チャートにおける絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量に基づいて補正値を算出する算出手段と、
前記補正値で前記基準印刷ヘッドに対する前記対象印刷ヘッドによる印刷タイミングを補正する補正手段と、
を備えていることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記算出手段は、前記補正値をズレ量が発生する度数に基づいて決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記算出手段は、補正後のズレ量の総和が最も小さくなるように前記補正値を決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の印刷装置において、
前記ズレ量検出用チャートについて、前記所定長さにおける濃度ピーク位置の周波数対強度を抽出する抽出手段と、
前記周波数のピーク位置を含む情報を出力する出力手段と、
をさらに備えていることを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置において、
前記所定長さは、予め測定したズレ量の時間的変動の一周期に相当することを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
印刷媒体に印刷を行う印刷方法において、
搬送方向に離間して配置され、印刷媒体に印刷を行う複数個の印刷ヘッドのうち、搬送方向における印刷の基準位置となる基準印刷ヘッドにより、搬送方向と直交する主走査方向に長辺を有する第1の線分を、搬送方向における所定長さにわたって一定間隔で形成された第1の線分群と、前記複数個の印刷ヘッドのうち、前記基準印刷ヘッドから搬送方向に離間して配置された対象印刷ヘッドにより、主走査方向に長辺を有する第2の線分を、搬送方向における前記第1の線分同士の中心、または、搬送方向における前記第1の線分の中心にて前記所定長さ内に形成された第2の線分群と、を主走査方向における印刷媒体の中央部に印刷された中央部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における一方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に広げて形成された一方側周辺部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における他方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に狭めて形成された他方側周辺部チャートとを形成されてなるズレ量検出用チャートを、前記印刷媒体に形成するズレ量検出用チャート形成過程と、
前記印刷媒体に印刷された前記ズレ量検出用チャートを撮影する撮影過程と、
前記撮影過程で撮影された前記ズレ量検出用チャートにより、前記所定長さ内での主走査方向における濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、前記ズレ量検出用チャートにおける絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量に基づいて補正値を算出する補正値算出過程と、
前記補正値で前記基準印刷ヘッドに対する前記対象印刷ヘッドによる印刷タイミングを補正する補正過程と、
を備えていることを特徴とする印刷方法。
【請求項7】
請求項6に記載の印刷方法において、
前記補正値算出過程は、前記補正値をズレ量が発生する度数に基づいて決定することを特徴とする印刷方法。
【請求項8】
請求項6に記載の印刷方法において、
前記補正値算出過程は、補正後のズレ量の総和が最も小さくなるように前記補正値を決定することを特徴とする印刷方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の印刷方法において、
前記ズレ量検出用チャートについて、前記所定長さにおける濃度ピーク位置の周波数対強度を抽出する抽出過程と、
前記周波数のピーク位置を含む情報を出力する出力過程と、
を備えていることを特徴とする印刷方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかに記載の印刷方法において、
前記所定長さは、予め測定したズレ量の時間的変動の一周期に相当することを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷媒体の搬送方向に離間して配置された複数個の印刷ヘッドにより印刷を行う印刷装置及び印刷方法に係り、特に、印刷品質に関わる画像のズレ(見当ズレとも呼ばれる)であるズレ量を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、連続紙の搬送方向に離間して配置された4個の印刷ヘッドと、印刷ヘッドで撮影された連続紙を撮影する撮影部と、連続紙の搬送方向に連続紙を搬送させつつ各印刷ヘッドを操作して、基準となる印刷ヘッドによって形成され、搬送方向に所定間隔で形成された複数本の第1の線分と、基準となる印刷ヘッドとは異なる印刷ヘッドによって形成され、複数本の第1の線分の領域に形成されるとともに、搬送方向の上流側及び下流側に向かって間隔が変えられて形成された複数本の第2の線分とにより、基準となる印刷ヘッドと対象となる印刷ヘッドとの間における印刷タイミングのズレ量に応じて濃度ピークの位置が反映されたズレ量検出用チャートを連続紙に印刷させる印刷制御部と、ズレ量検出用チャートを撮影部で撮影し、ズレ量検出用チャートの濃度ピークの位置に基づいてズレ量を求め、そのズレ量で印刷ヘッド間における印刷タイミングを補正する補正部と、を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-69625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、印刷装置は、各種の駆動部や可動部などを備えており、各種の駆動部や可動部などの要因によって連続紙の搬送速度や印刷タイミングなどに関して時間的な変動が生じるのが一般的である。そのため、ある時点におけるズレ量が反映されたズレ量検出用チャートだけで補正したとしても、正確にズレを補正することができず、印刷品質を向上できないことがあるという問題がある。例えば、ズレ量が時間的にある変動幅を有する場合であって、その変動幅における最大のズレ量がズレ量検出用チャートから求められた場合には、そのズレ量で補正しても過剰な補正となるので、印刷品質の向上が期待できない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、時間的な変動がズレ量に生じる場合であっても、過剰な補正を防止することにより、印刷品質を向上できる印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、印刷媒体に印刷を行う印刷装置において、印刷媒体を搬送方向に搬送する搬送手段と、搬送方向に離間して配置され、印刷媒体に印刷を行う複数個の印刷ヘッドと、前記複数個の印刷ヘッドのうち、搬送方向における印刷の基準位置となる基準印刷ヘッドにより、搬送方向と直交する主走査方向に長辺を有する第1の線分を、搬送方向における所定長さにわたって一定間隔で形成された第1の線分群と、前記複数個の印刷ヘッドのうち、前記基準印刷ヘッドから搬送方向に離間して配置された対象印刷ヘッドにより、主走査方向に長辺を有する第2の線分を、搬送方向における前記第1の線分同士の中心、または、搬送方向における前記第1の線分の中心にて前記所定長さ内に形成された第2の線分群と、を主走査方向における印刷媒体の中央部に印刷された中央部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における一方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に広げて形成された一方側周辺部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における他方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に狭めて形成された他方側周辺部チャートとを形成されてなるズレ量検出用チャートを、前記印刷媒体に形成するズレ量検出用チャート形成手段と、前記印刷媒体に印刷された前記ズレ量検出用チャートを撮影する撮影手段と、前記撮影手段で撮影された前記ズレ量検出用チャートにより、前記所定長さ内での主走査方向における濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、前記ズレ量検出用チャートにおける絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量に基づいて補正値を算出する算出手段と、前記補正値で前記基準印刷ヘッドに対する前記対象印刷ヘッドによる印刷タイミングを補正する補正手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0007】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、搬送手段で搬送されている印刷媒体に対してズレ量検出用チャートをズレ量検出用チャート形成手段で形成し、撮影手段でズレ量検出用チャートを撮影する。ズレ量検出用チャートは、印刷タイミングにズレが生じなければ、濃度ピーク位置が中央部チャートに存在する。印刷タイミングにずれが生じると、ズレ量検出用チャートにおける所定長さ内において、中央部チャートに存在する濃度ピーク位置が一方側周辺部チャートや他方側周辺部チャートにズレ量に応じて反映される。その結果、ズレ量の変動が濃度ピーク位置の軌跡としてズレ量検出用チャートに印刷される。算出手段は、撮影手段で撮影されたズレ量検出用チャートから濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量に基づいて補正値を算出し、補正手段がこの補正値により印刷タイミングを補正する。したがって、所定長さ内においてズレ量に時間的な変動が生じる場合であっても、絶対値で最大のズレ量より小さいズレ量を補正値とするので、過剰な補正が行われることが防止でき、印刷品質を向上できる。
【0008】
また、本発明において、前記算出手段は、前記補正値をズレ量が発生する度数に基づいて決定することが好ましい(請求項2)。
【0009】
ズレ量が発生する度数に基づき補正値を決定するので、ノイズの影響を受けにくくできる。したがって、外れ値が存在しても過剰な補正となることを防止でき、より適切な補正値を算出できる。
【0010】
また、本発明において、前記算出手段は、補正後のズレ量の総和が最も小さくなるように前記補正値を決定することが好ましい(請求項3)。
【0011】
補正後のズレ量の総和が最も小さくなるものを選ぶので、過剰な補正を抑制できる。
【0012】
また、本発明において、前記ズレ量検出用チャートについて、前記所定長さにおける濃度ピーク位置の周波数対強度を抽出する抽出手段と、前記周波数のピーク位置を含む情報を出力する出力手段と、をさらに備えていることが好ましい(請求項4)。
【0013】
印刷装置では、ズレ量に時間的変動を生じさせる要因として複数のものがある。例えば、駆動ローラの偏芯や、搬送ローラが備えたベアリングの転動体が通過する数などの要因で時間的変動が生じる。しかも、濃度ピーク位置の周波数対強度における周波数のピーク位置と、各要因との間には比較的強い相関関係があるので、抽出手段で周波数対強度を抽出し、出力手段で周波数のピーク位置を含む情報を出力させることにより、ズレ量の時間的変動の要因をある程度推測できる。これにより、ズレ量の時間的変動を抑制する等の対策を効率的に行うことができ、より印刷品質を向上できる。
【0014】
また、本発明において、前記所定長さは、予め測定したズレ量の時間的変動の一周期に相当することが好ましい(請求項5)。
【0015】
一般的に印刷装置の個体ごとにズレ量の時間的変動の大きさやその周期が異なる。そこで、予めズレ量の時間的変動の一周期を測定しておき、その周期に相当する所定長さにわたりズレ量検出用チャートを印刷媒体に形成することにより、適切に補正値を求めることができる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、印刷媒体に印刷を行う印刷方法において、搬送方向に離間して配置され、印刷媒体に印刷を行う複数個の印刷ヘッドのうち、搬送方向における印刷の基準位置となる基準印刷ヘッドにより、搬送方向と直交する主走査方向に長辺を有する第1の線分を、搬送方向における所定長さにわたって一定間隔で形成された第1の線分群と、前記複数個の印刷ヘッドのうち、前記基準印刷ヘッドから搬送方向に離間して配置された対象印刷ヘッドにより、主走査方向に長辺を有する第2の線分を、搬送方向における前記第1の線分同士の中央、または、搬送方向における前記第1の線分の中央にて前記所定長さ内に形成された第2の線分群と、を主走査方向における印刷媒体の中央部に印刷された中央部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における一方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に広げて形成された一方側周辺部チャートと、前記中央部チャートから主走査方向における他方側に離間して、前記中央部チャートにおける前記第1の線分と前記第2の線分の搬送方向における間隔を主走査方向の端部に向かうにつれて徐々に狭めて形成された他方側周辺部チャートとを形成されてなるズレ量検出用チャートを、前記印刷媒体に形成するズレ量検出用チャート形成過程と、前記印刷媒体に印刷された前記ズレ量検出用チャートを撮影する撮影過程と、前記撮影過程で撮影された前記ズレ量検出用チャートにより、前記所定長さ内での主走査方向における濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、前記ズレ量検出用チャートにおける絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量に基づいて補正値を算出する補正値算出過程と、前記補正値で前記基準印刷ヘッドに対する前記対象印刷ヘッドによる印刷タイミングを補正する補正過程と、を備えていることを特徴とするものである。
【0017】
[作用・効果]請求項6に記載の発明によれば、ズレ量検出用チャート形成過程において、印刷媒体に対してズレ量検出用チャートを形成し、撮影過程においてズレ量検出用チャートを撮影する。ズレ量検出用チャートは、印刷タイミングにズレが生じなければ、濃度ピーク位置が中央部チャートに存在する。印刷タイミングにずれが生じると、ズレ量検出用チャートにおける所定長さ内において、中央部チャートに存在する濃度ピーク位置が一方側周辺部チャートや他方側周辺部チャートにズレ量に応じて反映される。その結果、ズレ量の変動が濃度ピーク位置の軌跡としてズレ量検出用チャートに印刷される。補正値算出過程において、撮影過程で撮影されたズレ量検出用チャートから濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量に基づいて補正値を算出し、補正過程において、この補正値により印刷タイミングを補正する。したがって、所定長さ内においてズレ量に時間的な変動が生じる場合であっても、絶対値で最大のズレ量より小さいズレ量を補正値とするので、過剰な補正が行われることが防止でき、印刷品質を向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る印刷装置によれば、搬送手段で搬送されている印刷媒体に対してズレ量検出用チャートをズレ量検出用チャート形成手段で形成し、撮影手段でズレ量検出用チャートを撮影する。ズレ量検出用チャートは、印刷タイミングにズレが生じなければ、濃度ピーク位置が中央部チャートに存在する。印刷タイミングにずれが生じると、ズレ量検出用チャートにおける所定長さ内において、中央部チャートに存在する濃度ピーク位置が一方側周辺部チャートや他方側周辺部チャートにズレ量に応じて反映される。その結果、ズレ量の変動が濃度ピーク位置の軌跡としてズレ量検出用チャートに印刷される。算出手段は、撮影手段で撮影されたズレ量検出用チャートから濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量に基づいて補正値を算出し、補正手段がこの補正値により印刷タイミングを補正する。したがって、所定長さ内においてズレ量に時間的な変動が生じる場合であっても、絶対値で最大のズレ量より小さいズレ量を補正値とするので、過剰な補正が行われることが防止でき、印刷品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図である。
図2】各印刷ヘッドと連続紙との平面視における位置関係を示す模式図である。
図3】ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び一方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
図4】ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び一方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
図5】ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び一方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
図6】ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び他方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
図7】ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び他方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
図8】ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び他方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
図9】理想的な条件が継続する状態の下で連続紙に印刷が行われた場合におけるズレ量検出用チャートを示す模式図
図10】ズレ量が時間的変動を伴っている場合の一例を示すズレ量検出用チャートの模式図である。
図11図6のズレ量検出用チャートにおける濃度ピーク位置の変化を示すグラフである。
図12図11のグラフについての濃度ピーク位置の度数分布図である。
図13図11のグラフについての周波数対強度を示すグラフである。
図14】実施例における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図15】変形例に係るズレ量検出用チャートの中央部チャート及び一方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
図16図15において連続紙の搬送速度に時間的変動が生じていない場合におけるズレ量検出用チャートを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図であり、図2は、各印刷ヘッドと連続紙との平面視における位置関係を示す模式図である。
【0021】
本実施例に係るインクジェット印刷システムは、給紙部1と、インクジェット印刷装置3と、排紙部5とを備えている。
【0022】
給紙部1は、長尺の連続紙WPをロール状にして水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置3に対して搬送方向Xに連続紙WPを巻き出して供給する。排紙部5は、インクジェット印刷装置3で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部1はインクジェット印刷装置3の上流側に配置され、排紙部5はインクジェット印刷装置5の下流側に配置されている。
【0023】
インクジェット印刷装置3は、給紙部1からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ7を上流側に備えている。駆動ローラ7の下流側には、搬送方向Xに沿って複数個の搬送ローラ9が配置されている。駆動ローラ7によって給紙部1から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ9に沿って下流の排紙部5に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ9と排紙部5との間には、駆動ローラ11が配置されている。駆動ローラ11は、搬送ローラ9の上を搬送されている連続紙WPを搬送方向Xに搬送して排紙部5に向かって送り出す。
【0024】
なお、上述した連続紙WPが本発明における「印刷媒体」に相当し、駆動ローラ9,11及び搬送ローラ9が本発明における「搬送手段」に相当し、インクジェット印刷装置3が本発明における「印刷装置」に相当する。
【0025】
インクジェット印刷装置3は、駆動ローラ7と駆動ローラ11との間に、印刷ユニット13と、乾燥部15と、撮影部17とを上流側からその順に備えている。
【0026】
乾燥部15は、印刷ユニット13によって連続紙WPに印刷された部分の乾燥を行う。撮影部17は、印刷ユニット13によって製品として印刷された部分に汚れや抜け等がないかを検査したり、製品としての印刷とは異なる、後述するズレ量検出用チャートを撮影してズレ量検査用チャートに相当する画像データを取得したりする。
【0027】
印刷ユニット13は、インク滴を吐出する複数個の印刷ヘッド19を、搬送方向Xにおいて互いに既知の距離だけ離間した状態で配置されて構成されている。本実施例では、印刷ヘッド19を4個備えている構成を例にとって説明する。ここでは、各印刷ヘッド19を、上流側から順に、印刷ヘッド19aと、印刷ヘッド19bと、印刷ヘッド19cと、印刷ヘッド19dとする。
【0028】
以下の説明においては、各印刷ヘッド19を区別する必要がある場合は、数字符号19に続いてアルファベット符号(aなど)を負荷するが、区別する必要がない場合には、符号19のみとする。各印刷ヘッド19は、複数個のヘッドモジュールHMを、搬送方向Xと直交する主走査方向Yに直線状に配置して構成されている。ここでは、各印刷ヘッド19が例えば5個のヘッドモジュールHMを備えているものとする。各ヘッドモジュールHMは、それぞれインク滴を吐出する複数個のノズル21を連続紙WPに対向する面に備えている。各ヘッドモジュールHMが備える複数個のノズル21は、主走査方向Yに列をなして形成されており、複数個のノズル21で各ヘッドモジュールHMが一体的に構成されている。ここでは、5個のヘッドモジュールHMを個別に識別する必要がある場合には、平面視で図2の左側から順にヘッドモジュールHMa、HMb、HMc、HMd、HMeとする。
【0029】
上述した4個の印刷ヘッド19a~19dは、例えば、少なくとも2色のインク滴を吐出し、連続紙WPに多色印刷が可能に構成されている。ここでは、例えば、印刷ヘッド19aがブラック(K)インクを吐出し、印刷ヘッド19bがシアン(C)インクを吐出し、印刷ヘッド19cがマゼンタ(M)インクを吐出し、印刷ヘッド19dがイエロー(Y)インクを吐出する。
【0030】
なお、上述した4個の印刷ヘッド19が本発明における「複数個の印刷ヘッド」に相当する。
【0031】
インクジェット印刷装置3は、制御部25と、画像処理部27と、分析部29と、表示部31とを備えている。
【0032】
制御部25は、図示しないCPUやメモリを備え、データ処理部33と、駆動基板35などで構成されている。駆動基板35は、例えば、印刷ヘッド19a~19dごとであって、各印刷ヘッド19のヘッドモジュールHMa~HMeごとに備えられている。駆動基板35は、与えられた信号に応じて、ノズル21からのインク滴の吐出タイミングや吐出量などを制御する。
【0033】
制御部25は、例えば、図示しないホストコンピュータなどから印刷データを受け取って印刷物の作成を制御する。具体的には、データ処理部33は、受け取った印刷データを、印刷ユニット13及び駆動基板35の仕様に応じて処理する。この処理は、例えば、濃度調整や網点化処理などが含まれる。また、制御部25は、データ処理部33による処理済みデータに応じて各駆動基板35に信号を出力する際に、画像処理部27が備える補正値記憶部37の補正値を読み出し、インク滴の吐出タイミングを調整して印刷タイミングを補正する。また、制御部25は、印刷データとして、後述するズレ量検出用チャートをホストコンピュータなどの外部から受信し、データ処理部33で処理されたズレ量検出用チャートの処理済みデータに基づいて各駆動基板35に信号を出力したり、後述するズレ量検出用チャートを予め記憶しておき、データ処理部33で処理されたズレ量検出用チャートの処理済みデータに基づいて各駆動基板35に信号を出力したりする。制御部25は、駆動ローラ7,11の回転なども制御する。
【0034】
画像処理部27は、撮影部17で撮影された、後述するズレ量検出用チャートに相当する画像データを画像処理する。さらに、画像処理部27は、所定長さLN内での主走査方向Yにおける最も濃いまたは最も薄い濃度ピーク位置の変動軌跡を求め、その変動軌跡に基づいて、ズレ量検出用チャートにおける濃度ピーク位置の絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量を算出する。このズレ量には、ズレがない±0のズレ量も含む。そして、画像処理部27は、その算出されたズレ量を補正値記憶部37に補正値として記憶する。
【0035】
上記の所定長さLNは、例えば、当該インクジェット印刷システムにおいてズレ量の時間的変動の一周期であることが好ましい。所定長さLNは、インクジェット印刷システムの個体差が存在するので、予めシステムごとに測定した、ズレ量に変動が生じている時間に基づいて決定するのが好ましい。なお、ズレ量の時間的変動に明確な周期性がない場合には、例えば、製品となる印刷物の最大の印刷長さを所定長さLNとしてもよい。
【0036】
分析部29は、画像処理部27が求めた所定長さLN内での主走査方向Yにおける濃度ピーク位置の変動軌跡を分析し、周波数対強度を抽出する。分析部29は、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)を用いて周波数対強度を抽出することが好ましい。これにより周波数対強度の抽出を効率的に行うことができる。
【0037】
表示部31は、分析部29が抽出した周波数対強度に基づいて、周波数のピーク位置を含む情報を表示する。表示部31は、例えば、液晶表示パネルや、有機ELパネルなどであり、周波数対強度のグラフを表示できるものであれば、どのような表示手段であってもよい。
【0038】
なお、上述した制御部25が本発明における「ズレ量検出用チャート形成手段」及び「補正手段」に相当し、撮影部17が本発明における「撮影手段」に相当し、画像処理部27が本発明における「算出手段」に相当し、分析部29が本発明における「抽出手段」に相当し、表示部31が本発明における「表示手段」に相当する。
【0039】
ここで、図2に加え、さらに図3図8を参照して、ズレ量検出用チャートについて説明する。なお、図3図5は、ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び一方側周辺部チャートの一部を示す模式図であり、図6図8は、ズレ量検出用チャートの中央部チャート及び他方側周辺部チャートの一部を示す模式図である。
【0040】
図2に示すように、ズレ量検出用チャートTCは、主走査方向Yにおける中央部に中央部チャートCCが形成されている。主走査方向Yにおける中央部チャートCCの一方側である左側には、一方側周辺部チャートPCLが形成され、主走査方向Yにおける中央部チャートCCの他方側である右側には、他方側周辺部チャートPCRが形成されている。この例では、図3に示すように、一方側周辺部チャートPCLが2本(第1一方側周辺部チャートPCL1,第2一方側周辺部チャートPCL2)形成される。また、図6に示すように、他方側周辺部チャートPCRが2本(第1他方側周辺部チャートPCR1,第2他方側周辺部チャートPCR2)形成されている。ズレ量検出用チャートTCは、搬送方向Xにおいて所定長さLNにわたって形成されている。
【0041】
中央部チャートCCは、第1の線分L1を複数本形成されてなる第1の線分群L1gと、第2の線分L2を複数本形成されてなる第2の線分群L2gと、を備えている。第1の線分群L1gは、印刷の基準となる印刷ヘッド19、例えば、印刷ヘッド19aによって形成され、第2の線分群L2gは、基準となる印刷ヘッド19aとは異なる印刷ヘッド19bによって印刷される。
【0042】
具体的には、中央部チャートCCの第1の線分群L1gは、主走査方向Yに長辺を有し、搬送方向Xに短辺を有する第1の線分L1が搬送方向Xに所定の一定間隔で形成されている。また、中央部チャートCCは、第1の線分L1より長い長辺を有し、第1の線分L1の短辺より若干短い短辺を有する第2の線分L2が搬送方向Xにおける第1の線分L1同士の中心に配置されて形成されている。
【0043】
なお、上述した印刷ヘッド19aが本発明における「基準印刷ヘッド」に相当し、印刷ヘッド19bが本発明における「対象印刷ヘッド」に相当する。
【0044】
第1一方側周辺部チャートPCL1,第2一方側周辺部チャートPCL2は、主走査方向Yにおいて中央部チャートCCから左方向に離間するとともに、互いに主走査方向Yにおいて離間して形成されている。第1一方側周辺部チャートPCL1,第2一方側周辺部チャートPCL2は、中央部チャートCCの第1の線分群L1gと搬送方向Xにおける同じ位置に第1の線分群L1gを形成されている。さらに、第1一方側周辺部チャートPCL1,第2一方側周辺部チャートPCL2は、第2の線分群L2gを形成されているが、その形成されている位置が第1一方側周辺部チャートPCL1と第2一方側周辺部チャートPCL2とでは相違している。つまり、中央部チャートCCに近い第1一方側周辺部チャートPCL1は、第2の線分L2が、中央部チャートCCにおける第1の線分L1と第2の線分L2との間隔よりも、搬送方向Xの下流側に第1の線分L1から広く形成されている。また、中央部チャートCCから遠い第2一方側周辺部チャートPCL2は、第2の線分L2が、第1一方側周辺部チャートPCL1における第1の線分L1と第2の線分L2との間隔よりも、搬送方向Xの下流側に第1の線分L1から広く形成されている。換言すると、一方側周辺部チャートPCLは、中央部チャートCCから主走査方向Yの一方側の端部に向かうにつれて、第1の線分L1と、その下流側の第2の線分L2との間隔が徐々に広げて形成されている。
【0045】
また、第1他方側周辺部チャートPCR1,第2他方側周辺部チャートPCR2は、主走査方向Yにおいて中央部チャートCCから右方向に離間するとともに、互いに主走査方向Yにおいて離間して形成されている。第1他方側周辺部チャートPCR1,第2他方側周辺部チャートPCR2は、第1の線分L1に対して搬送方向Xにおける下流側に位置する第2の線分L2の第1の線分L1に対する間隔が、第1一方側周辺部チャートPCL1,第2一方側周辺部チャートPCL2とは異なり、狭められている点において相違する。
【0046】
すなわち、中央部チャートCCに近い第1他方側周辺部チャートPCR1は、第2の線分L2が、中央部チャートCCにおける第1の線分L1と第2の線分L2との間隔よりも、搬送方向Xの下流側に第1の線分L1から狭く形成されている。また、中央部チャートCCから遠い第2一方側周辺部チャートPCR2は、第2の線分L2が、第1他方側周辺部チャートPCR1における第1の線分L1と第2の線分L2との間隔よりも、搬送方向Xの下流側に第1の線分L1から狭く形成されている。
【0047】
換言すると、他方側周辺部チャートPCRは、中央部チャートCCから主走査方向Yの他端側の端部に向かうにつれて、第1の線分L1と、その下流側の第2の線分L2との間隔が徐々に狭めて形成されている。
【0048】
次に、ズレ量検出用チャートTCの構成について図4および図5を用いて詳細に説明する。図4は、中央部チャートCC、第1一方側周辺部チャートPCL1および第2一方側周辺部チャートPCL2を示し、特に第1の線分群L1gを詳細に説明するための図である。
【0049】
中央部チャートCCの第1の線分群L1gは、複数の第1の線分L1からなる。これらの第1の線分L1はK色のインクを吐出する印刷ヘッド19aの中の主走査方向中央に位置するヘッドモジュールHMcによって形成される。中央部チャートCCの複数の第1の線分L1は均一な中心線間隔d1を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。
【0050】
第1一方側周辺部チャートPCL1の第1の線分群L1gは、複数の第1の線分L1からなる。これらの第1の線分L1はK色のインクを吐出する印刷ヘッド19aの中のヘッドモジュールHMbを前記ヘッドモジュールHMcと同じタイミングで駆動することにより形成される。第1一方側周辺部チャートPCL1の複数の第1の線分L1は均一な中心線間隔d1を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。
【0051】
第2一方側周辺部チャートPCL2の第1の線分群L1gは複数の第1の線分L1からなる。これらの第1の線分L1はK色のインクを吐出する印刷ヘッド19aの中のヘッドモジュールHMaを前記ヘッドモジュールHMcおよびHMbと同じタイミングで駆動することにより形成される。第2一方側周辺部チャートPCL2の複数の第1の線分L1は均一な中心線間隔d1を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。
【0052】
図5は、中央部チャートCC、第1一方側周辺部チャートPCL1および第2一方側周辺部チャートPCL2を示し、特に第2の線分群L2gを詳細に説明するための図である。
【0053】
中央部チャートCCの第2の線分群L2gは複数の第2の線分L2からなる。これらの第2の線分L1はC色のインクを吐出する印刷ヘッド19cの中の主走査方向中央に位置するヘッドモジュールHMcにより形成される。中央部チャートCCの複数の第2の線分L2は均一な中心線間隔d2を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。なお、第2の線分群L2gの中心線間隔d2は、前記した第1の線分群L1gの中心線間隔d1と同一長さである。
【0054】
第1一方側周辺部チャートPCL1の第2の線分群L2gは複数の第2の線分L2からなる。これら複数の第2の線分L2はC色のインクを吐出する印刷ヘッド19cの中のヘッドモジュールHMbにより形成される。第1一方側周辺部チャートPCL1の複数の第2の線分L2は均一な中心線間隔d2を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。但し、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMbは、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMcよりも前倒し時間t1だけ前倒しで駆動され始める。この結果、第1一方側周辺部チャートPCL1の第2の線分群L2gは中央部チャートCCの第2の線分群L2gよりも距離Δd1だけ搬送方向Xの下流側にずれて形成される。
【0055】
第2一方側周辺部チャートPCL2の第2の線分群L2gは複数の第2の線分L2からなる。これら複数の第2の線分L2はC色のインクを吐出する印刷ヘッド19cの中のヘッドモジュールHMaにより形成される。第2一方側周辺部チャートPCL2の複数の第2の線分L2は均一な中心線間隔d2を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。但し、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMaは、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMbよりも前倒し時間t2だけ前倒しで駆動され始める。この結果、第2一方側周辺部チャートPCL2の第2の線分群L2gは第1一方側周辺部チャートPCL1の第2の線分群L2gよりも距離Δd2だけ搬送方向Xの下流側にずれて形成される。
【0056】
なお、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMcに対するヘッドモジュールHMbの前倒し時間t1は、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMbに対するヘッドモジュールHMaの前倒し時間t2と、同一である。従って、前記した距離Δd1と距離Δd2とは同一長さである。
【0057】
連続紙WPの搬送速度が設計通りであり、かつ、印刷ヘッド19aに対する印刷ヘッド19bの吐出タイミングのズレ時間が設計通りの場合(以下、「理想条件の場合」、という。)、中央部チャートCCの各第1の線分L1は隣接する一対の第2の線分L2のちょうど中央に位置する。
【0058】
理想条件の下では、第1一方側周辺部チャートPCL1の各第2の線分L2は主走査方向Yに隣接する第2の線分L2の中央位置よりも距離Δd1だけ搬送方向Xの下流側にずれて形成され、第2一方側周辺部チャートPCL2の各第2の線分L2は主走査方向Yに隣接する第2の線分L2の中央位置よりもさらに距離Δd2だけ搬送方向Xの下流側にずれて形成される。
【0059】
次に、ズレ量検出用チャートTCの構成について図7および図8を用いて詳細に説明する。
【0060】
図7は、中央部チャートCC、第1他方側周辺部チャートPCR1および第2他方側周辺部チャートPCR2を示し、特に第1の線分群L1gを詳細に説明するための図である。
【0061】
中央部チャートCCの第1の線分群L1gを構成する複数の第1の線分L1は、前述した通り、搬送方向Xについて同一の中心線間隔d1を空けて互いに離隔する。
【0062】
第1他方側周辺部チャートPCR1の第1の線分群L1gは複数の第1の線分L1からなる。これらの第1の線分L1はK色のインクを吐出する印刷ヘッド19aの中のヘッドモジュールHMdを前記ヘッドモジュールHMcと同じタイミングで駆動することにより形成される。第1他方側周辺部チャートPCR1の複数の第1の線分L1は均一な中心線間隔d1を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。
【0063】
第2他方側チャートPCR2の第1の線分群L1gは複数の第1の線分L1からなる。これらの第1の線分L1はK色のインクを吐出する印刷ヘッド19aの中のヘッドモジュールHMeを前記ヘッドモジュールHMcおよびHMdと同じタイミングで駆動することにより形成される。第2他方側チャートPCR2の複数の第1の線分L1は均一な中心線間隔d1を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。
【0064】
図8は、中央部チャートCC、第1他方側周辺部チャートPCR1および第2他方側周辺部チャートPCR2を示し、特に第2の線分群L2gを詳細に説明するための図である。
【0065】
中央部チャートCCの複数の第2の線分L2は均一な中心線間隔d2を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。第2の線分群L2gの間隔d2は、前記した第1の線分群L1gの間隔d1と同一長さである。
【0066】
第1他方側周辺部チャートPCR1の第2の線分群L2gは複数の第2の線分L2からなる。これらの第2の線分L2はC色のインクを吐出する印刷ヘッド19cの中のヘッドモジュールHMdにより形成される。第1他方側チャートPCR1の複数の第2の線分L2は均一な中心線間隔d2を空けて互いに搬送方向Xに離隔する。但し、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMdは、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMcよりも遅延時間t3だけ遅らせて駆動され始める。この結果、第1他方側周辺部チャートPCR1の第2の線分群L2gは中央部チャートCCの第2の線分群L2gよりも距離Δd3だけ搬送方向Xの上流側にずれて形成される。
【0067】
第2他方側周辺部チャートPCR2の第2の線分群L2gは複数の第2の線分L2からなる。これらの第2の線分L2はC色のインクを吐出する印刷ヘッド19cの中のヘッドモジュールHMeにより形成される。第2他方側周辺部チャートPCR2の複数の第2の線分L2は均一な中心線間隔d2を空けて互いに離隔する。但し、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMaは、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMbよりも遅延時間t4だけ遅らせて駆動され始める。この結果、第2他方側周辺部チャートPCR2の第2の線分群L2gは第1他方側周辺部チャートPCR1の第2の線分群L2gよりも距離Δd4だけ搬送方向Xの上流側にずれて形成される。
【0068】
なお、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMcに対するヘッドモジュールHMdの遅延時間t3は、印刷ヘッド19cのヘッドモジュールHMdに対するヘッドモジュールHMeの遅延時間t4と、同一である。従って、距離Δd3と距離Δd4とは同一長さである。
【0069】
理想条件の下では、第1他方側周辺部チャートPCR1の各第2の線分L2は主走査方向Yに隣接する第2の線分L2の中央位置よりも距離Δd3だけ搬送方向Xの上流側にずれて形成され、第2他方側周辺部チャートPCR2の各第2の線分L2の線分L2は主走査方向Yに隣接する第2の線分L2の中央位置よりもさらに距離Δd4だけ搬送方向Xの上流側にずれて形成される。
【0070】
ここで、図9を参照する。なお、図9は、理想的な条件が継続する状態の下で連続紙WPに印刷が行われた場合におけるズレ量検出用チャートTCを示す模式図である。
【0071】
連続紙WPを理想的な速度で搬送しつつ、印刷ヘッド19aおよび印刷ヘッド19bの各ヘッドモジュールHMを上述したタイミング制御の下で駆動すると、ズレ量検出用チャートTCは、例えば、図9に示すようなものとなる。つまり、中央部チャートCCは、第1の線分L1と第2の線分L2との重なりがないので、第2の線分L2の色、この例ではシアン(C)の色が最も濃くなる。特に、第2の線分L2の長辺の長さが第1の線分L1の長辺より長く形成されているので、シアン(C)の濃度をより濃く形成できる。その一方、主走査方向Yにおける周辺部に向かうにつれて、シアン(C)の第2の線分L2にブラック(K)の第1の線分L1が重なっていくので、シアン(C)の色が薄くなり、ブラック(K)の色が最も濃くなる。
【0072】
また、搬送方向Xに隣接する一対の第2の線分L2の間の第1の線分L1によって隠されていない領域(以下、「空白領域」という)の面積は、中央部チャートCCが最も小さく、次に第1一方側周辺部チャートPCL1および第1他方側周辺部チャートPCR1、その次に第2一方側周辺部チャートPCL2および第2他方側周辺部チャートPCR2である。したがって、巨視的に見ると、理想条件の下で印刷されたズレ量検出用チャートTCは、中央部チャートCCの濃度が最も高く、第1一方側周辺部チャートPCL1および第1他方側周辺部チャートPCR1の濃度はそれよりも低く、第2一方側周辺部チャートPCL2および第2他方側周辺部チャートPCR2の濃度はさらに低くなる。
【0073】
ここで、印刷ヘッド19aおよび印刷ヘッド19b間のインク吐出タイミングのズレ量が理想条件を継続しつつ、連続紙WPの搬送速度のみが時間的変動を伴っている場合を考える。この場合、例えば、図10に示すようなズレ量検出用チャートTCとなる。この図10では、シアン(C)を表現できないので、シアン(C)が濃くなる領域を黒色で表し、シアン(C)が薄くなる領域を白色で表している。シアン(C)が最も濃くなる濃度ピーク位置は、最も濃い黒色で表している。
【0074】
連続紙WPは種々の原因により搬送速度が変動することがある。連続紙WPの搬送速度が理想条件の搬送速度からずれると印字品質の劣化(具体的には段差ずれ、色ずれと呼ばれる現象)が発生することがあるので、基準となる印刷ヘッド(印刷ヘッド19a)に対する対象印刷ヘッド(印刷ヘッド19b)の吐出タイミングを補正することにより搬送速度の変動を緩和する必要がある。ここでは、図10のようなズレ量検出用チャートTCを読み取り、読み取り画像を分析することにより、印刷ヘッド19bに対する補正値を算出することを考える。
【0075】
さらに言えば、連続紙WPを理想条件の搬送速度の下で搬送し続けるようにすることが望ましい。そのためには、搬送速度の変動原因を特定し、解消する必要がある。しかし、連続紙WPの搬送速度の変動原因を特定することは必ずしも容易ではない。ここでは図10のようなズレ量検出用チャートTCを読み取り、読み取り画像を分析することにより連続紙WPの搬送速度の変動原因を特定することも可能である。
【0076】
図10に示すように、ズレ量検出用チャートTCには複数の高濃度領域r1~r11が発生している。説明のため、ズレ量検出用チャートTCに時間軸TIMEを併記し、各領域r1~r11が印刷された概略時刻を示すことにする。すなわち、時刻time1、2前後に領域r1が、時刻time3前後に領域r2が、時刻time4前後に領域r3が印刷されている。
【0077】
時刻time5前後に領域r4が、時刻time6前後に領域r5が、時刻time7前後に領域r6が、時刻time8前後に領域r7が、時刻time9、10前後に領域r8が、時刻time11、12前後に領域r9が、時刻time13~15前後に領域r10が、時刻time16、17前後に領域r11が印刷されている。
【0078】
ズレ量検出用チャートTCを分析することにより連続紙WPの搬送速度の変動を以下のように推測することができる。例えば、時刻time1から時刻time2の時間区間では、中央部チャートCCの領域r1の濃度が一方側周辺部チャートPCL1、PCL2、および他方側周辺部チャートPCR1、PCR2の濃度よりも高濃度となっている。したがって、この時間区間では連続紙WPが理想条件の搬送速度で搬送されたと考えられる。
【0079】
一方、時刻time2から時刻time3の時間区間では、中央部チャートCCの濃度が低下しつつ、第1一方側PCL1の濃度が上昇している。この時間区間では、連続紙WPの搬送速度が理想的な搬送速度から次第に増加していると考えられる。すなわち、連続紙WPの搬送速度が理想的な搬送速度から次第に増加すると、第2の線分群L2gに対する第1の線分群L1gの相対的な位置が搬送方向Xの下流側にシフトする。その結果、中央部チャートCCの空白領域が次第に拡大する(濃度が低下する)とともに、第1一方側周辺部チャートPCL1の空白領域が次第に縮小していく(濃度が上昇する)からである。
【0080】
時刻time4前後では第2一方側周辺部チャートPCL2の濃度が最も高くなっている(領域r3)。この状態では、第2一方側周辺部チャートPCL2の空白領域のほぼ中間に第1の線分群L1gが位置していると考えられる。
【0081】
時刻time4から時刻time5の時間区間では、第2一方側周辺部チャートPCL2の濃度が低下しつつ、第1一方側周辺部チャートPCL1の濃度が上昇している。この時間区間では、連続紙WPの搬送速度が次第に減少して理想的な搬送速度に向けて回帰していると考えられる。すなわち、この状態では、第2一方側周辺部チャートPCL2の空白領域のほぼ中央に位置していたと思われる第1の線分群L1gの第2の線分群L2gに対する相対的な位置が搬送方向Xの上流側に向けてシフトする(濃度が低下する)とともに、第1一方側周辺部チャートPCL1の第1の線分群L1gが空白領域の中央位置に向けてシフトしていく(濃度が上昇する)からである。
【0082】
理想条件の下での連続紙WPの搬送速度、先行時間t1、t2、および遅延時間t3、t4、距離d1、d2はいずれも既知であるので、ズレ量検出用チャートTCの濃度変化の状態を分析することにより、連続紙WPの搬送速度の変動状態を推測することができる。詳細は後述する。
【0083】
本実施例では、シアン(C)が最も濃くなる濃度ピーク位置が、中央部チャートCC、一方側周辺部チャートPCL1、一方側周辺部チャートPCL2、一方側周辺部チャートPCL1、中央部チャートCC、他方側周辺部チャートPCR1、他方側周辺部チャートPCR2、他方側周辺部チャートPCR1、一方側周辺部チャートPCL1、一方側周辺部チャートPCL2、中央部周辺部チャートCCのように移動したものとする。なお、中央部チャートCCはズレ量=0、一方側周辺部チャートPCL1はズレ量=-1,一方側周辺部チャートPCL2はズレ量=-2と、他方側周辺部チャートPCR1はズレ量=+1と,他方側周辺部チャートPCR2はズレ量=+2と対応づけられ、各ズレ量である-1,-2,+1,+2は、インクジェット印刷装置3ごとの具体的なズレ量単位(例えば、0.25μmなど)と予め対応づけられている。
【0084】
画像処理部27は、図10のズレ量検出用チャートTCに相当する画像データを画像処理する。まず、所定長さLN内での主走査方向Yにおけるシアン(C)が最も濃い濃度ピーク位置の変動軌跡を求める。図11にX印で示すように、搬送方向Xにおける濃度ピーク位置が離散値となるが、例えば、各濃度ピーク位置を結んだ折れ線上のグラフに対して円滑化処理を施して曲線の変動軌跡を生成するのが好ましい。さらに、画像処理部27は、図7に示すような濃度ピーク位置の変動軌跡を表す曲線について、搬送方向Xにおいて所定間隔ごとに区切ってズレ量の度数分布を算出する。
【0085】
ここで、画像処理部27は、図11に基づいて度数分布表を作成する。例えば、図12のような度数分布表が得られたとする。ズレ量±0のときの度数が最も高く、続いて、ズレ量-2、-1、+1、+2の順番で度数が並ぶ。画像処理部27は度数分布表に基づいて、補正値を算出することができる。
【0086】
度数分布表から補正値の算出方法としては、例えば、以下の手法が考えられる。
【0087】
手法1
ズレ量検出チャートにおける絶対値で最大のズレ量よりも小さいよりも小さいズレ量に基づいて補正値を求める手法である。図12の例では、絶対値で最大のズレ量は「-2」および「+2」である。ズレ量「-2」または「+2」に基づいて補正値を算出すると、外れ値に基づいて補正値を設定してしまう恐れがある。したがって、ズレ量「-2」および「+2」以外のズレ量「-1」、「±0」、および「+1」のいずれかのズレ量に基づいて補正値を設置すればよい。ズレ量をこのように算出すれば、外れ値に基づいて補正値を設定することが回避できる。なお、ズレ量「-1」、「±0」、および「+1」の中ではズレ量「±0」の度数が比較的高いため、ズレ量「±0」に基づいて補正値を算出してもよい。
【0088】
手法2
度数が最も高いズレ量に基づいて補正値を求める手法である。図12の例では、ズレ量「±0」の度数が最も高いのでズレ量「±0」に基づいて補正値を算出する。このように補正値を算出すれば、ズレ量の最大値を抑制することが可能になる。
【0089】
手法3
補正後のズレ量の総和が最も小さくなるように補正値を決定する手法である。前述の図10の領域r1~r5を例にとって説明する。領域r1~r5のズレ量は表1のとおりである。なお、表1におけるズレ量とは中央部チャートCCから濃度ピーク位置までの距離をチャートの数を単位に整数で示す量のことである。
【0090】
【表1】
【0091】
上記各領域r1~r5に表2に示す5つの補正値を適用したとする。ここで、負の補正値とは、ズレ量検出チャートTCにおける主走査方向における濃度ピーク位置を右方向に移動させるように印刷ヘッド19bのインク吐出タイミングを調整する(早める)補正値であり、正の補正値とは、ズレ量検出チャートTCにおける主走査方向における濃度ピーク位置を左方向に移動させるように印刷ヘッド19bのインク吐出タイミングを調整する(遅延させる)補正値のことである。
【0092】
【表2】
【0093】
上記5つの補正値で補正した後の領域r1~r5のズレ量および領域r1~r5の補正後のズレ量の総和は表3の通りである。なお、表3におけるズレ量とは中央部チャートCCから濃度ピーク位置までの距離を、チャートの数を単位に絶対値で示す量のことである。
【0094】
【表3】
【0095】
表3から明らかなように、補正値+1に基づいて印刷ヘッド19bのインク吐出タイミングを補正すれば、領域r1~r5の補正後のズレ量の総和が最も小さくなる(ズレ量の総和=3)。したがって、補正値+1を領域r1~r5に適用する補正値に決定する。
【0096】
ここでは簡単のため、領域r1からr5のみについて補正後のズレ量の総和を求めるケースを例示したが、分析対象とする領域rの数はより多くても少なくてもよい。例えば、連続紙WPの所定長さLNに含まれるすべての領域rを分析対象にして補正後のズレ量の総和を求めてもよい。また、隣接する領域r間の搬送方向Xの間隔が均一になるように、分析対象とする領域rを決定しておくことが望ましい。
【0097】
画像処理部27は以上のいずれかの手法により算出された補正値を補正値記憶部37に記憶する。
【0098】
ここで、図13を参照する。なお、図13は、図11のグラフについての周波数対強度を示すグラフである。
【0099】
上述した図11に示すような画像処理部27で得られたズレ量の時間的な変動軌跡は、分析部29に与えられる。分析部29は、濃度ピーク位置の変動軌跡を分析し、その周波数対強度を抽出する。その結果は、例えば、図13に示すようなグラフとなる。このグラフで着目すべき点は、周波数にいくつかのピーク位置が存在することである。インクジェット印刷システムは、駆動ローラ9,11などの駆動部や、駆動基板35が備えているインク滴のミスト吸引用のファン(不図示)などの可動部を含む。これらの駆動部や可動部は、連続紙WPの搬送ムラなどの原因となり画像のズレを生じさせる原因となりうる。これらの原因と周波数対強度における周波数のピーク位置とは、経験的にある程度の相関関係があることがわかっている。上記の原因としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0100】
原因1:駆動ローラ9,11の周長(回転周期)
対策:ローラの加工精度の向上(全ブレ量を10μm以下)、印刷タイミング補正
【0101】
原因2:駆動ローラ9,11アリングにおける転動体通過数
対策:滑り軸受、エアベアリングなど転動体がないベアリングへ変更
【0102】
原因3:給紙部1における原反(巻き出しロール)の周長
対策:張力制御の応答性向上(巻き出しの変動を抑制する張力制御方式の採用)、給紙部1の変動を減衰させる構成の採用、印刷タイミング補正
【0103】
原因4:搬送ローラ9の周長
対策:搬送ローラ9の加工精度の向上(全ブレ量を10μm以下)、印刷タイミング補正
【0104】
原因5:駆動基板35のミスト吸引用ファン、連続紙WPを吸着するファンの回転周期、
対策:ファンの交換、振動が伝達しない部材を介在させる。
【0105】
例えば、上記の原因1~5のうち、原因1,3,4は、低い周波数にピーク位置が存在し、原因2,5は、高い周波数にピーク位置が存在する。
【0106】
したがって、分析部29での分析結果として周波数対強度のグラフを表示部31に表示することにより、インクジェット印刷システムのオペレータがズレ量の時間的変動の原因についてある程度推測できる。その結果、インクジェット印刷システムにおけるズレ量の時間的変動を抑制する等の対策を効率的に行うことができ、より印刷品質を向上できる。
【0107】
次に、上述した構成のインクジェット印刷システムにおける処理について図14を参照して説明する。なお、図14は、実施例における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0108】
ステップS1(ズレ量検出用チャート形成過程)
制御部25は、駆動ローラ7,11や駆動基板35などを操作して、印刷ヘッド19により上述したズレ量検出用チャートTCを連続紙WPの所定長さLN内にわたって印刷する。
【0109】
ステップS2(撮影過程)
制御部25は、撮影部17を操作して、連続紙WPに印刷されたズレ量検出用チャートTCを撮影させ、ズレ量検出用チャートTCに相当する画像データを収集させる。ズレ量検出用チャートTCに相当する画像データは、画像処理部27に与えられる。
【0110】
ステップS3(補正値算出過程)
画像処理部27は、ズレ量検出用チャートTCに相当する画像データに基づいて、濃度ピーク位置の変動軌跡を求める。画像処理部27は、その変動軌跡に基づいて、前述した手法に基づき補正値を算出する。
【0111】
ステップS4(補正値記憶過程)
画像処理部27は、上述したステップS3で算出された補正値を補正値記憶部37に記憶する。
【0112】
ステップS5(抽出過程)
分析部29は、ズレ量検出用チャートTCに相当する画像データに基づいて、所定長さLN内での主走査方向Yにおける濃度ピーク位置の変動軌跡を分析し、周波数対強度を抽出する。
【0113】
ステップS6(出力過程)
分析部29は、ステップS5で抽出された周波数対強度における周波数のピーク位置を含む情報を表示部31に出力して表示する。インクジェット印刷システムのオペレータは、表示部31の表示を見て、ズレ量の時間的変動の原因に対する対策を施すようにしてもよい。
【0114】
ステップS7(補正過程)
上記の一連の処理の後、制御部25は、補正値記憶部37の補正値により印刷タイミングを補正して連続紙WPに製品の印刷を行う。なお、ステップS6の表示を見て対策を施した場合には、ステップS1から再び処理を行って新たな補正値を補正値記憶部37に記憶した後に、ステップS7を実施する。
【0115】
なお、上述した説明においては、発明の理解を容易にするために印刷ヘッド19a(ブラック(K))と印刷ヘッド19b(シアン(C))との補正量だけを求めているが、必要に応じて印刷ヘッド19a(ブラック(K))と印刷ヘッド19c(マゼンタ(M))との補正量、印刷ヘッド19a(ブラック(K))と印刷ヘッド19d(イエロー(Y))との補正量を求めることが好ましい。
【0116】
本実施例によると、駆動ローラ9,11や搬送ローラ9により搬送されている連続紙WPに対してズレ量検出用チャートTCを形成し、撮影部17でズレ量検出用チャートTCを撮影する。画像処理部27は、撮影部17で撮影されたズレ量検出用チャートTCに相当する画像データから濃度ピーク位置の変動軌跡に基づいて、絶対値で最大のズレ量よりも小さいズレ量を補正値として算出し、制御部25がこの補正値により印刷タイミングを補正する。したがって、所定長さLN内においてズレ量に時間的な変動が生じる場合であっても、絶対値で最大のズレ量より小さいズレ量を補正値とするので、過剰な補正が行われることが防止でき、印刷品質を向上できる。
【0117】
また、画像処理部27は、求められたヒストグラムから中央値を補正値とするので、平均値で補正値を求める場合に比較してノイズの影響を受けにくくできる。したがって、ノイズなどに起因する外れ値が存在しても過剰な補正となることを防止でき、より適切な補正値を算出できる。
【0118】
また、一般的にインクジェット印刷装置3の個体ごとにズレ量の時間的変動の大きさやその周期が異なる。そこで、予めズレ量の時間的変動の一周期を測定しておき、その周期に相当する所定長さLNにわたりズレ量検出用チャートTCを連続紙WPに形成することにより、適切に補正値を求めることができる。
【0119】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0120】
(1)上述した実施例では、印刷装置としてインクジェット印刷装置3を例にとって説明したが、本発明は画像のズレ(見当ズレ)が生じるものであって、複数個の印刷ヘッド19を備えている印刷装置であれば他の方式のものにも適用できる。
【0121】
(2)上述した実施例では、上述した実施例では、各チャートCC,PCL1,PCL2,PCR1,PCR2がヘッドモジュールHM(HMa~HMe)ごとに対応して形成されているが、本発明はこのような形態に限定されない。
【0122】
(3)上述した実施例では、ズレ量検出用チャートTCとして図3図8に示したものを例にとって説明したが、本発明はこのような形態に限定されない。ここでズレ量検出用チャートの変形例について、図15及び図16を参照して説明する。なお、図15は、変形例に係るズレ量検出用チャートの中央部チャート及び一方側周辺部チャートの一部を示す模式図であり、図16は、図15において連続紙WPの搬送速度に時間的変動が生じていない場合におけるズレ量検出用チャートを示す模式図である。
【0123】
上述したズレ量検出用チャートTCは、中央部チャートCCにおける第2の線分L2が搬送方向Xにおける第1の線分L1同士の中心に配置されて形成されている。これに代えて、図15に示すように、中央部チャートCCの搬送方向Xにおける第1の線分L1(ブラック(K)による線分)の中心に第2の線分L2(シアン(C)による線分)を形成したズレ量検出用チャートTCaとしてもよい。一方側周辺部チャートPCL(PCL1,PCL2)は、主走査方向Yの端部に向かうにつれて第1の線分L1と第2の線分L2との間隔を広げて形成され、他方側周辺部チャートPCRについては図示を省略するが、主走査方向Yの端部に向かうにつれて第1の線分L1と第2の線分L2との間隔を狭めて形成される構成としてもよい。このように第1の線分L1(ブラック(K)による線分)の中心に第2の線分L2(シアン(C)による線分)を形成したズレ量検出用チャートTCaでは、ズレが生じていない場合には、図16のようになる。つまり、中央部チャートCCが最もブラック(K)の濃度が高く、主走査方向Yにおける端部の一方側周辺部チャートPCL2及び他方側周辺部チャートPCR2が最もシアン(C)の濃度が高くなる。そして、連続紙WPの搬送速度に時間的変動を生じる場合には、ズレ量検出用チャートTCaが、例えば、図10における濃淡を反転させたようになる。なお、上述したズレ量検出用チャートTC、TCaにおいて、一方側周辺部チャートPCLと他方側周辺部チャートPCRにおける間隔の狭めると広げるとの関係を逆に形成してもよい。
【0124】
(4)上述した実施例では、ズレ量検出用チャートTC、TCaの第2の線分L2が第1の線分L1より長辺が長く形成されているが、その長さ関係を逆にしてもよい。
【0125】
(5)ノイズなどの外れ値の影響が少ない場合は、ズレ量の平均値から補正値を求めるようにしてもよい。これによりヒストグラムを生成する処理が不要となるので、演算負荷を軽減できる。
【0126】
(6)上述した実施例では、インクジェット印刷装置3が分析部29と表示部31とを備えているが、本発明はこれらを必須とするものではない。
【0127】
(7)上述した実施例では、カラー印刷が可能な印刷装置を例にとって説明したが、本発明はモノクロ印刷を行う印刷装置であっても適用できる。
【0128】
(8)上述した実施例では、印刷媒体として連続紙WPを例にとって説明したが、本発明はそのような印刷媒体に限定されない。例えば、単票紙(枚葉紙)や、紙以外のフィルムであっても本発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
以上のように、本発明は、印刷媒体の搬送方向に離間して配置された複数個の印刷ヘッドにより印刷を行う印刷装置及び印刷方法に適している。
【符号の説明】
【0130】
1 … 給紙部
3 … インクジェット印刷装置
5 … 排紙部
WP … 連続紙
7,11 … 駆動ローラ
9 … 搬送ローラ
13 … 印刷ユニット
15 … 乾燥部
17 … 撮影部
19(19a~19d) … 印刷ヘッド
HM(HMa~HMe) … ヘッドモジュール
25 … 制御部
27 … 画像処理部
29 … 分析部
31 … 表示部
33 … データ処理部
35 … 駆動基板
37 … 補正値記憶部
TC、TCa … ズレ量検出用チャート
CC … 中央部チャート
PCL(PCL1,PCL2) … 一方側周辺部チャート
PCR(PCR1,PCR2) … 他方側周辺部チャート
L1 … 第1の線分
L1g … 第1の線分群
L2 … 第2の線分
L2g … 第2の線分群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16