(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】抗生物質組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/41 20060101AFI20230206BHJP
A61K 33/38 20060101ALI20230206BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230206BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230206BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
A61K31/41
A61K33/38
A61P31/04
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/10
(21)【出願番号】P 2019549665
(86)(22)【出願日】2017-12-05
(86)【国際出願番号】 IB2017001615
(87)【国際公開番号】W WO2018104777
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-07
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521053145
【氏名又は名称】チオレドキシン・システムズ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】ホルムグレーン,アルネ
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,リリ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1709243(CN,A)
【文献】特表2015-536725(JP,A)
【文献】Appl. Environ. Microbiol. (2009) vol.75,no.11, p.3586-3592
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/41
A61K 33/38
A61K 45/06
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンおよびエブセレンを含む、抗生物質組成物。
【請求項2】
硝酸銀を含む、請求項1に記載の抗生物質組成物。
【請求項3】
クエン酸二水素銀を含む、請求項1に記載の抗生物質組成物。
【請求項4】
前記抗生物質組成物が液体剤形である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗生物質組成物。
【請求項5】
前記抗生物質組成物が溶液または懸濁液の剤形である、請求項4に記載の抗生物質組成物。
【請求項6】
銀イオンの濃度が約0.5~50μM、約1~25μM、または約1~10μMである、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗生物質組成物。
【請求項7】
銀イオンの濃度が5μMである、請求項6に記載の抗生物質組成物。
【請求項8】
エブセレンの濃度が約4~25μM、約30~200μM、約30~150μM、または約30~100μMである、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗生物質組成物。
【請求項9】
エブセレンの濃度が約40μMまたは約80μMである、請求項8に記載の抗生物質組成物。
【請求項10】
銀イオンおよびエブセレンが約1:2~約1:20のモル比である、請求項4~9のいずれか一項に記載の抗生物質組成物。
【請求項11】
銀イオンおよびエブセレンが約1:4、1:8、または1:16のモル比である、請求項10に記載の抗生物質組成物。
【請求項12】
前記抗生物質組成物が1種以上のグラム陰性細菌に対して約10~100nMのIC50値を示す、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗生物質組成物。
【請求項13】
前記抗生物質組成物が1種以上のグラム陰性細菌に対して約50nM~約10nMのIC
50値を示す、請求項12に記載の抗生物質組成物。
【請求項14】
前記1種以上のグラム陰性細菌がK.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)、またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項12または13に記載の抗生物質組成物。
【請求項15】
AgNO
3およびエブセレンを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗生物質組成物。
【請求項16】
前記抗生物質組成物が液体剤形で5μMのAgNO
3および4μMのエブセレンを含む、請求項1に記載の抗生物質組成物。
【請求項17】
前記抗生物質組成物が液体剤形で5μMのAgNO
3および20μMのエブセレンを含む、請求項1に記載の抗生物質組成物。
【請求項18】
前記抗生物質組成物が液体剤形で5μMのAgNO
3および40μMのエブセレンを含む、請求項1に記載の抗生物質組成物。
【請求項19】
前記抗生物質組成物が液体剤形で5μMのAgNO3および80μMのエブセレンを含む、請求項1に記載の抗生物質組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の抗生物質組成物を含む医薬製剤。
【請求項21】
請求項1~19のいずれか一項に記載の抗生物質組成物を1種以上の細菌と接触させることを含む、1種以上の細菌を阻害するかまたは死滅させるインビトロ方法。
【請求項22】
請求項1~19のいずれか一項に記載の抗生物質組成物を活性成分として含む、細菌感染の処置において使用するための医薬組成物。
【請求項23】
前記細菌が1種以上のグラム陰性細菌を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記細菌が1種以上の多剤耐性グラム陰性細菌を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細菌がK.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)、または任意のこれらの組み合わせを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細菌が表面上である、請求項21および23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細菌がグラム陰性細菌である、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記1種以上の細菌が1種以上の多剤耐性グラム陰性細菌を含む、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記細菌がK.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)、または任意のこれらの組み合わせを含む、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記細菌が表面上である、請求項22および27~29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
1種以上の細菌が哺乳動物に存在する、
請求項22および27~30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
1種以上の細菌がヒトに存在する、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
注射のための組成物の形態である、請求項22および27~32のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項34】
静脈内注射または皮下注射のための組成物の形態である、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
局所適用のための組成物の形態である、請求項22および27~32のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項36】
経口投与のための組成物の形態である、請求項22および27~32のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記接触させることが少なくとも約1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、18時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、または1ヵ月間持続する、請求項21および23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記接触させることが毎時間または毎日1、2、3、4、5、6、7、または8回発生する、請求項21および23~26のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項39】
前記接触させることが毎日約3、4、5、6、7、8、9、10、11または12分または時間毎に発生する、請求項21および23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記抗生物質組成物が単一単位用量である、請求項22および27~36のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記細菌感染または前記1種以上の細菌と接触される前記エブセレンの量が用量あたり約10~100mg、約10~50mg、または約20~30mgである、請求項22、27~36および40のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記細菌感染または前記1種以上の細菌と接触される前記エブセレンの量が用量あたり約25mgである、請求項41に記載の医薬組成物。
【請求項43】
前記細菌感染または前記1種以上の細菌と接触される前記銀の量が用量あたり約1~20mg、約1~10mg、または約5~7mgである、請求項22、27~36および40~42のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項44】
前記細菌感染または前記1種以上の細菌と接触される前記銀の量が用量あたり約6mgである、請求項43に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月5日に出願の米国仮出願番号第62/430,101号の利益を主張し、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
抗生物質耐性は、世界中で大きな課題となっている。グラム陰性細菌はヒトの生命および医療への大きな脅威であり、処置のための抗生物質がほとんど残されていないために新規な原理およびメカニズムを発見することが急務となっている。1990年代以降の米国およびヨーロッパのヘルスケアシステム内での増加する多剤耐性(MDR)グラム陽性細菌に対処する協調した取り組みは、近年におけるグラム陽性菌を標的とする比較的多数の製品の実現を促すのに役立っていたようである。MDRグラム陰性菌の出現は、ヒトの生命に対する大きな脅威であり、現代医療に対する課題である。
【発明の概要】
【0003】
場合によっては、本開示は抗生物質組成物を提供し、ここで、当該抗生物質組成物は銀含有剤および有機セレン剤を含む。いくつかの例では、銀含有剤は、銀イオンを含み得る。いくつかの例では、銀含有剤は、硝酸銀を含み得る。いくつかの例では、銀含有剤は、クエン酸二水素銀を含み得る。銀含有剤は、銀イオン、硝酸銀および/またはクエン酸二水素銀として提供されてよい。いくつかの例では、有機セレン剤は、セレナゾール化合物を含み得る。いくつかの例では、有機セレン剤は、ベンゾイソセレナゾール-3(2H)-オン化合物を含み得る。いくつかの例では、有機セレン剤は、エブセレンを含み得る。有機セレン化合物は、セレナゾール化合物、ベンゾイソセレナゾール-3(2H)-オン化合物および/またはエブセレンを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、液体剤形であり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、溶液または懸濁液の剤形であり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の銀含有剤の濃度は、約0.5~50μM、約1~25μMまたは約1~10μMであり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の銀含有剤の濃度は、約5μMであり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の有機セレン剤の濃度は、約4~25μM、約30~200μM、約30~150μMまたは約30~100μMであり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の有機セレン剤の濃度は、約40μMまたは約80μMであり得る。いくつかの例では、有機セレン剤に対する銀含有剤またはその逆は、約1:2~約1:20、例えば、約1:4、1:8または1:16のモル比であり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、1種以上のグラム陰性細菌に対して約10~100nMのIC50値を示す。いくつかの例では、抗生物質組成物は、1種以上のグラム陽性細菌に対して約10~100nMのIC50値を示す。いくつかの例では、抗生物質組成物は、1種以上のグラム陰性細菌に対して約50nM以下のIC50値を示す。いくつかの例では、1種以上のグラム陰性細菌は、K.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)または任意のこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、AgNO3およびエブセレンを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、5μMのAgNO3および4μMのエブセレンを液体剤形で含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、5μMのAgNO3および20μMのエブセレンを液体剤形で含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、5μMのAgNO3および40μMのエブセレンを液体剤形で含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、5μMのAgNO3および80μMのエブセレンを液体剤形で含み得る。
【0004】
場合によっては、本開示は、本明細書において開示される抗生物質組成物を含み得る医薬製剤を提供する。いくつかの例では、当該医薬製剤は、本明細書において開示される賦形剤を更に含み得る。
【0005】
場合によっては、本開示は、本明細書において開示される抗生物質組成物を1種以上の細菌と接触させることを含む、1種以上の細菌を阻害するかまたは死滅させる方法を提供する。場合によっては、本開示は、本明細書において開示される抗生物質組成物を細菌感染と接触させることを含む、細菌感染を処置する方法を提供する。いくつかの例では、1種以上の細菌は、1種以上のグラム陰性細菌を含む。いくつかの例では、1種以上の細菌は、1種以上のグラム陽性細菌を含む。いくつかの例では、1種以上の細菌は、1種以上の多剤耐性細菌を含む。いくつかの例では、1種以上の細菌は、1種以上の多剤耐性グラム陰性細菌を含む。いくつかの例では、1種以上の細菌は、K.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)または任意のこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌は、表面に存在し得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌は、哺乳動物に存在し得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌は、ヒトに存在し得る。いくつかの例では、上記接触は注射、例えば静脈内注射または皮下注射によるものであり得る。いくつかの例では、上記接触は、局所適用によるものであり得る。いくつかの例では、上記接触は、経口投与によるものであり得る。いくつかの例では、上記接触は、少なくとも約1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、18時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間または1ヵ月間持続する。いくつかの例では、上記接触は、1時間あたりまたは1日あたり1、2、3、4、5、6、7または8回発生する。いくつかの例では、上記接触は、毎日約3、4、5、6、7、8、9、10、11または12分または時間毎に発生する。いくつかの例では、抗生物質組成物は、単一単位用量であり得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌と接触される有機セレン剤の量は、用量あたり約10~100mg、約10~50mgまたは約20~30mg、例えば約25mgであり得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌と接触される銀の量は、用量あたり約1~20mg、約1~10mgまたは約5~7mg、例えば約6mgであり得る。
【0006】
場合によっては、本開示は、銀含有剤および有機セレン剤を混合することを含む、抗生物質組成物を製造する方法を提供する。いくつかの例では、上記混合は、液体中で実施されてよい。いくつかの例では、上記混合は、有機セレン剤を含み得る液体に銀含有剤を加えることを含み得る。いくつかの例では、上記混合は、銀含有剤を含み得る液体に有機セレン剤を加えることを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1-1】
図1A-
図1B。大腸菌(E.coli)およびHeLa細胞の増殖に対するエブセレンとの組み合わせでの銀の効果を示す。
図1Aは、大腸菌の増殖に対する硝酸銀(AgNO
3)と組み合わせたエブセレンの相乗効果を示す折れ線グラフである。大腸菌DHB4株の一晩培養物を96マイクロウェルプレート中の100μlのLB培地中に1000倍希釈し、組み合わせでのエブセレンおよびAgNO
3の100μl系列希釈物で16時間処理し、OD
600nmを測定することによって細胞生存率を決定した。Ag
+単独は16時間の処理後に42μMの最小発育阻止濃度(MIC)で大腸菌の増殖を阻害した一方で、2μMのエブセレンはAg
+のMICを4.2μMに劇的に減少させた(p=0.000028<0.001)。
図1Bは、HeLa細胞の増殖に対するAgNO
3と組み合わせたエブセレンの効果を示す折れ線グラフである。HeLa細胞を連続的濃度のエブセレンおよびAgNO
3で24時間処理し、細胞毒性をMTTアッセイによって検出した。組み合わせた5.0μMのAg
+および2.5μMのエブセレンは、ヒトHeLa細胞に対する相乗作用的な毒性を示さなかった(p=0.98>0.05)。
図1Aおよび1Bにおいて、データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
【
図1-2】
図1C。エブセレン単独が大腸菌の増殖に対する効果を有さないことを示す棒グラフである。大腸菌DHB4株の一晩培養物を96マイクロウェルプレート中の100μlのLB培地中に1000倍希釈し、異なる濃度のエブセレンで16時間処理した。細胞生存率を、600nmで吸光度を測定することによって決定した。データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
【
図2】
図2A-
図2D。エブセレンと組み合わせた銀が相乗作用的な殺菌効果を示したことを示す。0.4のOD
600nmがに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせたエブセレンおよびAgNO
3の系列希釈物により処理した。
図2Aは、OD
600nmを測定することによって示された細胞生存率を示す折れ線グラフである。成長曲線は、LB培地中のエブセレンと組み合わせたAg
+の相乗作用的な静菌効果を示した。組み合わせでの5μMのAg
+および40μMのエブセレンは、処理の480分後に大腸菌の増殖を阻害した(p=0.0075<0.01)。
図2Bは、処理の0、10、60、120および240分後でのLBプレート上の大腸菌DHB4株のコロニー形成単位の変化を示す折れ線グラフである。組み合わせでの5μMのAg
+および80μMのエブセレンの相乗作用的な殺菌効果を、LB寒天プレートでのコロニー形成能アッセイによって確認した。組み合わせでの5μMのAg
+および80μMのエブセレンは、処理の60分後に大多数の大腸菌を死滅させた(p=0.00021<0.001)。
図2Cはヨウ化プロピジウム(PI)染色された大腸菌DHB4株のFACSプロットの一群であり、
図2DはPI染色された大腸菌DHB4株の平均値±標準偏差(D)を示す棒グラフである。組み合わせでの5μMのAg
+および20μMのエブセレンは、ヨウ化プロピジウム(PI)染色の頻度を増強した(p=0.00083<0.001)。
図2A~2Cにおいて、データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
【
図3】
図3A-
図3F。エブセレンと組み合わせた銀が細菌のTrx系およびGSH系を直接的に破壊したことを示す。0.4のOD
600nmに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせたエブセレンおよびAgNO
3の系列希釈物により処理した。
図3Aは、100nMの大腸菌TrxRの存在下で、大腸菌抽出物、50mMのTris・HCl(pH 7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNB中Trxの存在下のDTNB還元を利用して分析されたTrxR活性を示す棒グラフである。組み合わせでの5μMのAg
+および20μMのエブセレンは、TrxR活性の劇的な消失をもたらした(p=0.00018<0.001)。
図3Bは、大腸菌抽出物、50mMのTris・HCl(pH 7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNB、5μMの大腸菌Trx中Trxの存在下でDTNBの還元を利用して分析されたTrx活性を示す棒グラフである。組み合わせでの5μMのAg
+および20μMのエブセレンは、Trx活性の劇的な消失をもたらした(p=0.00036<0.001)。
図3Cは、エブセレンおよびAgNO
3での処理による大腸菌でのTrx1酸化還元状態の変化を示す棒グラフである。大腸菌を5%TCA中で沈殿し、15mMのAMSでアルキル化し、還元型Trx1のパーセントをウエスタンブロットにより分析した。
図3Dは、エブセレンおよびAgNO
3による処理による大腸菌でのTrx2酸化還元状態の変化を示す一群のウエスタンブロット画像である。大腸菌を5%TCA中で沈殿し、15mMのAMSでアルキル化し、ジアミドにより酸化されたTrx2をTrx2陽性対照として使用し、還元型Trx2のパーセントをウエスタンブロットにより分析した。
図3Eは、大腸菌抽出物、50mMのTris・HCl(pH 7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNB、50nMのGR中のGRを組み合わせたDTNB還元アッセイによって測定されたGSH量を示す棒グラフである。組み合わせでの5μMのAg
+および20μMのエブセレンによる処理は、10分で対照と比較して機能的GSHを減少させた(p=0.000021<0.001)。
図3Fは、大腸菌におけるタンパク質のS-グルタチオン付加の変化を示すウエスタンブロット画像である。細胞を培養し、洗浄し、30mMのIAMを含有する溶解緩衝液中に再懸濁した。超音波破砕によって溶解した後、ウエスタンブロットアッセイを、グルタチオン-タンパク質複合体に対するマウスIgG2aモノクローナル抗体(VIROGEN、101-A/D8)を用いて実施した。
図3A、3B、および3Eにおいて、データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
【
図4】
図4A-
図4D。試験管内での大腸菌Trx系に対する銀の阻害効果を示す。
図4Aは、AgNO
3による大腸菌TrxRの阻害を示す折れ線グラフである。純粋な100nMの組換え型TrxRおよび5μMのTrx混合物を200μMのNADPH存在下で、AgNO
3溶液とインキュベートし、次いで、それらの活性をDTNB還元アッセイによって検出した。
図4Bは、AgNO
3と10μMの還元型大腸菌Trx1の間の複合体の蛍光スペクトルである。10μMの還元型大腸菌Trx1タンパク質を連続的濃度のAgNO
3溶液とインキュベートし、蛍光スペクトルを280nmでの励起波長によって検出した。酸化型Trx1(Trx-S2)を、対照として使用した。
図4Cは、AgNO
3によるTrxの阻害を示す折れ線グラフである。(B)に記載の処理後、Trx活性を、大腸菌Trx1の存在下でDTNB方法によって分析した。
図4Dは、AgNO
3による大腸菌Trxの阻害の可逆性を示す折れ線グラフである。銀により阻害された大腸菌Trx1を脱塩カラムに通して低分子を取り除き、次いでTrx活性を測定した。阻害されていない大腸菌Trx1を対照として使用した。Trx1の活性が脱塩後に回復しなかったため、Ag
+によるTrx1の阻害は不可逆性であった(p=0.00021<0.001)。データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
【
図5】
図5A-
図5C。ROSが銀およびエブセレンの相乗作用的な殺菌効果の決定因子であったことを示す。
図5Aは、H2DCF-DAで染色した大腸菌のFACSヒストグラムを示す。
図5Bは、H2DCF-DAで染色した大腸菌の平均MFI±標準偏差の棒グラフである。大腸菌DHB4株を0.4のOD
600nmに増殖させ、20μMのエブセレンおよび5μMのAgNO
3により処理した。ROSレベルをフローサイトメトリー(CyAn adp、Beckman coulter)によって検出した。5μMのAg
+または20μMのエブセレン単独による処理は、ROS濃度を変化させなかった一方で、5μMのAg
+および20μMのエブセレンの組み合わせはROSレベルの増加をもたらした(p=0.00012<0.001)。
図5Cは、Amplex(商標) Red過酸化水素/ペルオキシダーゼアッセイキット(Invitrogen)を使用したH
2O
2の検出を示す棒グラフである。50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中に50μMのAmplex(商標) Red試薬、0.1U/mLのHRPおよび示される量のH
2O
2を含む反応物を、室温にて30分間インキュベートし、560nmでの吸光度で検出した。H
2O
2が生じない対照反応について測定したバックグラウンドを各々の値から引いた。5μMのAg
+および20μMのエブセレンにより処理された大腸菌DHB4細胞によって生じたH
2O
2の増加が確認された(p=0.00057<0.0001)。
図5Bおよび5Cにおいて、データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
【
図6】
図6A-
図6B。軽度および急性腹膜炎の生体内マウスモデルにおける銀およびエブセレンの作用様式を示す。
図6Aは、軽度腹膜炎マウスモデルにおける36時間にわたる大腸菌CFU測定値の折れ線グラフである。マウスを100μlの1.7×10
6個の大腸菌ZY-1細胞の腹腔内投与によって感染させた。24時間後に、群あたり12匹のマウスが抗菌処置を受けた(25mgのエブセレン/kg体重および6mgのAgNO
3/kg体重)。処置の12、24および36時間後に、腹膜液を大腸菌CFUの分析のために採取した(各々の群についてn=12匹のマウス)(p=0.0055<0.01)。データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として掲示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
図6Bは、急性腹膜炎マウスモデルにおける96時間にわたる大腸菌CFU測定値の折れ線グラフである。接種を100μlの6.0×10
6CFU/mlの大腸菌ZY-1接種物の腹注によって実施した。1時間の接種後に、群あたり10匹のマウスが抗菌処置を受け、当該マウスを7日間観察して全生存率を評価した(各々の群についてn=10匹のマウス)。この実験を二度繰り返して実施した。
【
図7】相乗効果のBlissモデルが、グラム陰性細菌モデルである大腸菌に対するAg
+と4種の抗生物質の間の相乗効果を裏付けることを示す図である。相乗効果の程度を、以下の抗生物質:80μMのゲンタマイシン、80μMのカナマイシン、80μMのジェネティシン、80μMのテトラサイクリンと組み合わせた5μMのAgNO
3による1および4時間の処理後に、相乗効果のBlissモデルを使用して定量化した。80μMのエブセレンを陽性対照として使用した。
【
図8】
図8A-
図8D。ROSが、組み合わせでの銀および抗生物質の相乗作用的な殺菌効果の決定因子であったことを示す。0.4のOD
600nmに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせた80μMの抗生物質および5μMのAgNO
3で処理し、組み合わせたAg
+およびエブセレンを陽性対照として使用した。
図8Aは、ROSレベルをフローサイトメトリー(CyAnadp、Beckman coulter)によって検出したことを示す棒グラフであり、H2DCF-DAで染色された大腸菌の平均MFI±標準偏差を検出した。
図8Bは、Amplex(商標) Red過酸化水素/ペルオキシダーゼアッセイキット(Invitrogen)を使用したH
2O
2の検出を示す棒グラフである。50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中に50μMのAmplex(商標) Red試薬、0.1U/mLのHRPおよび示される量のH
2O
2を含む反応物を、室温にて30分間インキュベートし、560nmでの吸光度で検出した。H
2O
2が生じない対照反応により測定したバックグラウンドを各々の値から引いた。データを3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示す。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001(t検定)。
【
図9】
図9A-
図9C。抗生物質単独が細菌のTrx系を直接的に破壊できないことを示す。0.4のOD
600nmに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせた抗生物質およびAgNO
3により10分間処理し、組み合わせたエブセレンおよびAgNO
3を陽性対照として使用した。
図9Aは、大腸菌抽出物中のTrxの存在下でのDTNBの還元を利用して分析したTrx活性を示す棒グラフである。
図9Bは、大腸菌抽出物中のTrxRの存在下でのDTNBの還元を利用して分析したTrxR活性を示す棒グラフである。
図9Cは、還元型Trx1のパーセントを示すウエスタンブロット画像である。0.4のOD
600nmに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせた抗生物質およびAgNO
3により60分間処理し、組み合わせたエブセレンおよびAgNO
3を陽性対照として使用した。大腸菌抽出物を5%TCA中で沈殿し、15mMのAMSでアルキル化し、還元型Trx1のパーセントをウエスタンブロットにより分析した。3回の独立した実験の平均値±標準偏差を示す。t検定による有意性を対照と試験群間で算出した。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001。
【
図10】
図10A-
図10B。組み合わせでの銀および従来の抗生物質が10分間で細菌のGSH系を直接的に破壊できないことを示す。0.4のOD
600nmに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせた抗生物質およびAgNO
3により10分間処理し、組み合わせたエブセレンおよびAgNO
3を陽性対照として使用した。
図10Aは、大腸菌抽出物でのGRを組み合わせたDTNB還元アッセイにより測定された総GSH量を示す棒グラフである。
図10Bは、大腸菌におけるタンパク質のS-グルタチオン付加の変化を示すウエスタンブロット画像である。3回の独立した実験の平均値±標準偏差を示す。t検定による有意性を対照と試験群間で算出した。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001。
【
図11】
図11A-
図11B。組み合わせでの銀および従来の抗生物質が60分間で細菌のGSH系を直接的に破壊できないことを示す。0.4のOD
600nmに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせた抗生物質およびAgNO
3により60分間処理し、組み合わせたエブセレンおよびAgNO
3を陽性対照として使用した。
図11Aは、大腸菌抽出物でのGRを組み合わせたDTNB還元アッセイにより測定された総GSH量を示す棒グラフである。
図11Bは、大腸菌におけるタンパク質のS-グルタチオン付加の変化を示すウエスタンブロット画像である。3回の独立した実験の平均値±標準偏差を示す。t検定による有意性を対照と試験群間で算出した。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書の開示は、細菌を死滅させるかまたは細菌の増殖を阻害することによって細菌感染を処置および/または防止する抗微生物治療薬としての組み合わせで有用な複数の薬学的活性薬剤(2種、3種、4種以上)を含む抗生物質組成物を対象とする。例えば、本明細書において開示される相乗作用的な組み合わせで金属含有剤(例えば、銀イオン)および抗微生物剤(例えば、エブセレン)を含み得る組成物は、細菌のチオレドキシンおよびグルタチオン系を標的とし、細菌感染、例えばグラム陰性細菌によって引き起こされるものに対して効力がある。
【0009】
本明細書において開示される組成物または活性薬剤に関して使用される「有効量」は、その必要がある対象において治療成果をもたらすのに十分な量である。例えば、治療成果としては、細菌感染および/またはその任意の症状、例えば、対象における炎症、熱、咳、くしゃみ、鼻詰まり、鼻水、咽頭痛、痛み、悪心、嘔吐または便秘を処置、予防、改善または軽減することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
「約」という用語は、参照される表示値±その参照される表示値の15%を意味する。
【0011】
本開示は、多剤耐性(MDR)グラム陰性細菌が相乗作用的な組み合わせでの銀およびエブセレンに非常に感受性であることを示す。対照的に、銀は、哺乳動物細胞に対してエブセレンとの相乗作用的な毒性を示さない。生化学的実験は、銀およびエブセレンが、細菌において急速なグルタチオンの欠乏およびチオレドキシン系の阻害を引き起こすことを明らかにした。銀イオンは、大腸菌(E.coli)のチオレドキシンおよびチオレドキシン還元酵素の強力な阻害因子として同定され、これらはリボヌクレオチド還元酵素およびDNA合成ならびに酸化ストレスに対する防御に必要とされる。酸化ストレスを引き起こす銀およびエブセレンの殺菌効力は、マウスでの軽度および急性MDR大腸菌腹膜炎の処置において更に確認された。これらの結果は、新規な抗菌剤の設計において細菌のチオール依存性の酸化還元系を標的にできることを実証する。銀およびエブセレンは、MDRグラム陰性細菌感染に対する新規の効果的な処置薬として開発され得る、細菌の必要不可欠な系を標的とする探索子として働く。銀は、セレナゾール薬であるエブセレンと強く相乗作用的に作用して、チオール依存性の抗酸化系を標的とすることによって、臨床において処置が困難なMDRグラム陰性菌に対抗した。この結果は、MDR大腸菌により引き起こされる軽度または急性の腹膜炎を有するマウスを成功裡に処置することによって更に証明された。酸化還元系は、生物に必須の普遍的な抗酸化系であり、酸化還元系の阻害は酸化ストレスをもたらし、このことは、新規な抗生物質をスクリーニングし使用するための新規の抗菌原理を示す。
【0012】
場合によっては、本明細書において開示される抗生物質組成物は、MDRグラム陰性菌を死滅させる。いくつかの例では、抗生物質組成物は、GSH陽性細菌の感染に対する、特にMDRグラム陰性菌に対する相乗作用的な組み合わせでの銀およびエブセレンの強い殺菌効果を介して細菌のチオール依存性酸化還元系を選択的に標的とする。いくつかの例では、銀イオンは大腸菌のTrxおよびTrxRの両方の強力な阻害因子であり、エブセレンとの組み合わせはGSHを減少させ、ROS生成の急激な増加を生じさせた。いくつかの例では、エブセレンの存在は、銀の有効性を改善し、したがって、哺乳動物細胞より細菌に対する高度に有意な選択毒性により、効果を引き出すのに必要とされる銀の抗菌濃度を減少させる。この選択毒性は、MDRグラム陰性細菌の処置における銀の全身での医療適用を容易にする。いくつかの例では、エブセレンとの組み合わせでのAg
+の相乗作用的な殺菌効果は、これらのMDRグラム陰性病原体(表1)に対して効果的である。さらに、動物実験の結果は、この抗生物質の組み合わせが、MDR細菌に対する臨床試験の候補として考えられることを示した(
図6A~6B、表1)。銀およびエブセレンは共に、細菌の必須機能を標的とする探索子とみなすことができる。本明細書で掲示される実験結果は、エブセレンと組み合わせたAg
+の相乗作用的な抗菌効果のメカニズムを提唱した。銀およびエブセレンは、大腸菌のTrxRを直接的に阻害し、GSHを急速に減少させることができ、これはROS生成の増加をもたらして細胞死を決定付ける(概要)。チオール依存性の還元経路は、種々の重要な細胞機能を調節する。したがって、エブセレンとの組み合わせでのAg
+は、GSH、ならびに特にTrxおよびTrxRならびにおそらく多数の他のタンパク質中のSH基と反応でき、このことは、エブセレンと組み合わせたAg
+の阻害効果がいくつかの細胞内標的を含み得ることを示す。加えて、Ag
+およびエブセレンは、他の分子、例えばジグアニル酸シクラーゼおよび結核菌(M. tuberculosis)抗原85を標的としてもよい。これは、細菌における抗生物質耐性の発達を阻害し得る。
【0013】
活性薬剤
金属含有剤および抗微生物剤の組み合わせを、本明細書において開示する。金属含有剤は、本明細書において開示される金属または金属イオンを含んでよい。金属含有剤は、抗生物質活性を有する金属イオン、例えば、銀、銅、亜鉛、水銀、スズ、鉛、ビスマス、カドミウム、セリウム、クロムおよびタリウムイオンを含んでよい。銀、金、銅および亜鉛の抗微生物金属イオンは、生体内で使用しても安全であり身体中に実質的に吸収されないとみなすことができる。抗微生物剤は、ゲンタマイシン、カナマイシン、ジェネティシン、テトラサイクリンなどの抗生物質、非有機セレン剤もしくは有機セレン剤(例えば、エブセレンまたはその類似体)、または本明細書に記載される任意の抗微生物剤であり得る。いくつかの例では、金属含有剤(例えば、銀)は、細菌のチオレドキシン(Trx)系、グルタチオン(GSH)系、または両方を直接的に標的とすることによって、グラム陰性細菌に対する有機セレン剤(例えば、エブセレン)またはある種の抗生物質の抗菌効果を増強する。いくつかの例では、GSH系を標的とすること/攻撃することは、1種以上の細菌の死滅における抗生物質組成物の有効性を増加させる。いくつかの例では、抗生物質組成物は、本明細書において開示される銀剤および抗生物質を含んでよい。
【0014】
場合によっては、本明細書において開示される抗生物質組成物は、共有結合性または非共有結合性(例えば、イオン性)の結合を介して別の分子に結合されるかまたは結合されない金属原子または金属イオン形態のいずれかで、金属含有剤を含んでよい。銀含有剤は、共有結合化合物、例えば、クエン酸二水素銀、スルファジアジン銀および銀塩(例えば、酸化銀、炭酸銀、デオキシコール酸銀、サリチル酸銀、ヨウ化銀、硝酸銀、パラアミノ安息香酸銀、パラアミノサリチル酸銀、アセチルサリチル酸銀、エチレンジアミン四酢酸銀(「Ag EDTA」)、ピクリン酸銀、プロテイン銀、クエン酸銀、乳酸銀およびラウリン酸銀)を含んでよいが、これらに限定されるものではない。銀剤は、共有結合化合物、もしくは例えば、銀塩、銀錯イオン、コロイド銀、銀/ゼオライト複合体、銀/リン酸塩、銀/ガラス粒子(抗微生物性、徐放性)または任意のこれらの混合物であり得る。いくつかの例では、銀塩は、塩化銀、硝酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、臭素酸銀、塩素酸銀、乳酸銀、モリブデン酸銀、亜硝酸銀、酸化銀(I)、過塩素酸銀、過マンガン酸銀、セレン酸銀、亜セレン酸銀、スルファジアジン銀、硫酸銀およびこれらの混合物である。いくつかの例では、銀錯イオンは、銀クロロ錯イオン、銀チオ硫酸錯イオンまたはこれらの混合物である。いくつかの例では、コロイド銀粒子は、銀ナノ粒子である。
【0015】
いくつかの例では、金属含有剤は、金属塩を含んでよい。金属塩は、硝酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、炭酸銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、乳酸銀、ラウリン酸銀、酸化銀、パルミチン酸銀、プロテイン銀、またはスルファジアジン銀のような銀塩であり得る。金属含有剤は、硝酸銅(II)、硫酸銅、過塩素酸銅、酢酸銅、テトラシアン銅カリウムなどの銅イオン源を含んでよい。金属含有剤は、硝酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、酢酸亜鉛およびチオシアン酸亜鉛などの亜鉛イオン供給源;過塩素酸水銀、硝酸水銀および酢酸水銀のような水銀イオン源を含んでよい。金属含有剤は、硫酸スズなどのスズイオン源を含んでよい。金属含有剤は、硫酸鉛および硝酸鉛などの鉛イオン源を含んでよい。金属含有剤は、塩化ビスマスおよびヨウ化ビスマスなどのビスマスイオン源を含んでよい。金属含有剤は、過塩素酸カドミウム、硫酸カドミウム、硝酸カドミウムおよび酢酸カドミウムなどのカドミウムイオン源を含んでよい。金属含有剤は、過塩素酸クロム、硫酸クロム、硫酸アンモニウムクロムおよび酢酸クロムなどのクロムイオン源を含んでよい。金属含有剤は、過塩素酸タリウム、硫酸タリウム、硝酸タリウムまたは酢酸タリウムのようなタリウムイオン源などのタリウムイオン源を含んでよい。銀は、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、シリコン酸化物、酸化カルシウム、酸化バリウム、カルシウムハイドロキシアパタイト、白亜、天然土壌または沈降炭酸カルシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、珪酸塩、層状珪酸塩、ゼオライト、粘土、ベントナイトおよび酸化チタンからなる群から選択される支持体または粒子に吸着された、塩化銀などの可溶性または不溶性の形態で提供されてもよい。支持材上の不溶性銀は、局所適用に有用であり得る。また、本明細書において開示される組成物は、有効量の分散剤、例えばポリナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩またはアルキルスルホコハク酸塩を含んでもよい。
【0016】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物中に含有される抗菌金属(例えば、銀)の1種以上の細菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)は、約50μM、25μM、20μM、10μM、5μM、1μM、0.5μM、0.1μM、50nM、25nM、20nM、10nM、5nMまたは1nM未満であり得る。
【0017】
有機セレン剤は、炭素-セレン化学結合を含む化合物である。セレンは、-2、+2、+4、+6の酸化状態、例えば、Se(II)で存在し得る。有機セレン剤としては、セレノール、ジセレニド、ハロゲン化セレニル、セレン化物(セレノエーテル)、セレン酸化物、セレノン、セレネン酸、セレニン酸、ペルセレニン酸(perseleninic acid)、セレヌラン、セレニラン、セロン(例えば、セレノ尿素)、セレノシステイン、セレノメチオニン、ジフェニルジセレニド、ベンゼンセレノールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの例では、有機セレン剤は、セレナゾールまたはイソセレナゾール化合物、例えば、ベンゾイソセレナゾール-3(2H)-オン化合物(例えば、エブセレン(化学名:2-フェニル-1,2-ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン、IUPAC名:2-フェニル-1,2-ベンゾセレナゾール-3-オン)、エブセレンジセレニドまたは本明細書において開示されるものなどの構造類似体)を含んでよい。
【0018】
いくつかの例では、有機セレン剤は、以下の一般式(1)または(1'):
【化1】
[式中、R
1およびR
2は独立して、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基などを表し;R
3は、アリール基、芳香族複素環基などを表し;R
4は、水素原子、ヒドロキシル基、-S-α-アミノ酸基などを表し;R
5は、水素原子またはC
1-C
6アルキル基を表し;Yは、酸素原子または硫黄原子を表し;nは、0~5の整数を表し;セレン原子は酸化されてよい]で表される化合物を含んでよく、その例は、2-フェニル-1,2-ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オンまたはその開環型を含む。いくつかの例では、有機セレン剤は、2-フェニル-1,2-ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オンまたはその開環型およびそれらの生理学的に許容される塩からなる群から選択される化合物を含んでよい。いくつかの例では、有機セレン剤は、2-フェニル-1,2-ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オンまたはその開環型およびそれらの生理学的に許容される塩からなる群から選択される物質を含んでよい。
【0019】
R1およびR2によって表されるC1-C6アルキル基として、直鎖アルキル基または分枝鎖アルキル基のいずれかを使用してよく、例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基およびn-ヘキシル基が挙げられる。R1およびR2によって表されるC1-C6アルコキシル基として、直鎖アルコキシル基または分枝鎖アルコキシル基のいずれかを使用してよく、例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基およびn-ヘキソキシ基が挙げられる。
【0020】
R3によって表されるアリール基として、例えば、6~14個の炭素原子、好ましくは6~10個の炭素原子を有する単環式から三環式のアリール基、好ましくは、単環式または二環式アリール基を使用できる。より具体的には、フェニル基またはナフチル基などが好ましい。R3によって表される芳香族複素環基として、例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子などの1個以上のヘテロ原子を含有する単環式~三環式の芳香族複素環基、好ましくは単環式または二環式芳香族複素環基を使用できる。2個以上のヘテロ原子が含有される場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。例としては、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、インドリジニル基、イソインドリル基、インドリル基、イソキノリル基、キノリル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基およびフェノチアジニル基が挙げられる。
【0021】
R3によって表されるアリール基、芳香族複素環基、5~7員のシクロアルキル基または5~7員のシクロアルケニル基は、環上に1つ以上の置換基を有してよい。環が2つ以上の置換基によって置換される場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。置換基の位置は特に限定されず、置換基は環上の任意の位置に存在してよい。置換基の種類は特に限定されず、例としては、C1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、C2-C6アルキニル基、C6-C14アリール基、複素環基(本明細書において使用される複素環は芳香族複素環基および部分飽和複素環基または飽和複素環基を含む)、ハロゲン原子(本願明細書において使用されるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれでもよい)、ヒドロキシル基、オキソ基、アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、メルカプト基、チオキソ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、ヒドラジノ基、C1-C6ウレイド基、C1-C6イミド基、イソチオシアン酸基、イソシアン酸基、C1-C6アルコキシル基、C1-C6アルキルチオ基、C6-C14アリールオキシ基、ヘテロサイクリックオキシ基、C6-C14アリールチオ基、複素環チオ基、C7-C15アラルキル基、複素環アルキル基、C7-C15アラルキルオキシ基、複素環アルキルオキシ基、C1-C6アルコキシカルボニル基、C6-C14アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、C2-C7アルキルカルボニル基、C6-C14アリールカルボニル基、複素環カルボニル基、C2-C7アルキルカルボニルオキシ基、C6-C14アリールカルボニルオキシ基、複素環カルボニルオキシ基、C2-C8アルキルカルボニルアミノ基、C1-C6スルホニル基、C1-C6スルフィニル基、C1-C6スルホニルアミノ基、C1-C6カルバモイル基およびC2-C6スルファモイル基が挙げられる。
【0022】
上に例示された置換基は、1種以上の他の置換基によって更に置換されてよい。かかる置換基の例としては、ヒドロキシC1-C6アルキル基、ハロゲン化C1-C6アルキル基、モノまたはジC1-C6アルキルアミノ基、ハロゲン化C1-C6アルキルカルボニル基、ハロゲン化C6-C14アリール基、ヒドロキシC6-C14アリール基およびモノまたはジC1-C6アルキルカルバモイル基が挙げられる。しかし、上で説明された置換基は例示の目的で挙げられたにすぎず、使用される置換基はこれらの例に限定されない。
【0023】
R4によって表される-S-α-アミノ酸基の種類は特に限定されないが、当該基は好ましくはチオール基含有アミノ酸残基であってよい。-S-α-アミノ酸残基は、タンパク質またはペプチド化合物を構成するアミノ酸残基であってよい。タンパク質またはペプチド化合物の種類は、それらが生理学的に許容される限り特に限定されない。例えば、アルブミンおよびグロブリンなどの血清タンパク質が好ましく使用されてよい。血清タンパク質のうち、アルブミンがより好ましく、ヒトアルブミンが特に好ましい。そのアリール部分が1つ以上の置換基によって所望により置換されてよい、R4によって表されるアラルキル基の例としては、ベンジル基、パラヒドロキシベンジル基および2,4-ジヒドロベンジル基が挙げられる。R4およびR5は共に組み合わされて単結合を表してよく、その場合、R5およびセレン原子に結合された窒素原子を含有する五員環が形成される。R5によって表されるC1-C6アルキル基として、上記に例示したものを使用できる。
【0024】
上述の一般式(1)または(1’)によって表される化合物の生理学的に許容される塩を使用してよい。生理学的に許容される塩は、当業者によって適切に選択され得る。遊離型または生理学的に許容される塩としての化合物の水和物もまた使用してよい。上述の一般式(1)または(1')で表される化合物が1つ以上の不斉炭素原子、光学異性体などの立体異性体およびジアステレオアイソマーを有する場合、立体異性体、ラセミ化合物などの任意の混合物を使用してもよい。
【0025】
いくつかの例では、有機セレン剤は、式:
【化2】
[式中、Xは、セレンまたは硫黄であり、
Rは、H、1~14個の炭素原子の炭素鎖(所望によりベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン-2-イル、ベンズイソチアゾール-3(2H)-オン-2-イル、OH、アルコキシル、SH、NH2、N-アルキルアミノ、N,N-ジアルキルアミノ、COOHで置換される分枝または非分枝である)を有するアルキル、所望によりC
1-C
5アルキル、OH、アルコキシル、SH、NH2、N-アルキルアミノ、N,N-ジアルキルアミノ、COOH、CHO、NO2、F、Cl、Br、Iで置換されるアリール、および所望によりC
1-C
5アルキル、OH、アルコキシル、SH、NH2、N-アルキルアミノ、N,N-ジアルキルアミノ、COOH、CHO、NO2、F、Cl、BrおよびIで置換されるヘテロアリールからなる群から選択され、
Aは、飽和、不飽和または多価不飽和の3~6員の炭素鎖を表し、
Nは所望により、1個以上の炭素と置き換わってよく、当該1個以上の炭素は1個以上のOR、SR、およびアルキルアミノ、C
1-C
5アルキル、OH、アルコキシル、SH、NH2、N-アルキルアミノ、N,N-ジアルキルアミノ、COOH、CHO、NO2、F、Cl、Br、およびIで所望により置換される]を有する化合物またはその医薬的に許容される塩などの、エブセレンまたはその類似体を含んでよい。
【0026】
いくつかの例では、有機セレン剤は、以下の化学構造を有するエブセレンを含んでよい:
【化3】
いくつかの例では、有機セレン剤は、例えば、下記の化学構造:
【化4】
を有する、ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン-アリール、ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン-アルキル、2-ピリジルまたは4-ピリジル置換された、ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン類、ビスベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン類、7-アザベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン類、セレンアミド、およびビス(2-カルバモイル)フェニルジセレニドの部類からなどの、エブセレン構造類似体を含んでよい。
【0027】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物中に含有される有機セレン剤(例えば、エブセレン)の1種以上の細菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)は、約100μM、90μM、80μM、70μM、60μM、50μM、40μM、30μM、25μM、20μM、15μM、10μM、5μM、1μM、0.5μMまたは0.1μM未満であり得る。
【0028】
本明細書において掲示される方法および組成物は、遊離塩基、塩、水和物、多形、異性体、ジアステレオマー、プロドラッグ、代謝産物、イオン対錯体、またはキレートの形態で活性薬剤を利用できる。活性薬剤は、無機酸もしくは無機塩基または有機酸もしくは有機塩基を含む、薬理学的に許容される無毒性の酸または塩基を使用して形成され得る。いくつかの例では、本明細書において掲示される方法および組成物に関して利用できる活性薬剤は、以下を含むがそれらに限定されない酸に由来する薬理学的に許容される塩であり得る:酢酸、アルギン酸、アントラニル酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、フロ酸、ガラクツロン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グリコール酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタン硫酸、粘液酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファニル酸、硫酸、酒石酸酸またはp-トルエンスルホン酸。いくつかの例では、活性薬剤は、メタンスルホン酸の塩であり得る。
【0029】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、1種以上の抗菌薬/抗微生物薬、例えばアミカシン、アジスロマイシン、セフィキシム、セホペラゾン、セホタキシム、セフタジジム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クリンダマイシン、コリスチン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、マフェニド、メタサイクリン、ミノサイクリン、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オキシテトラサイクリン、ポリミキシンB、ピリメタミン、スルファセタミド、スルフイソキサゾール、テトラサイクリン、トブラマイシン、トリメトプリム、または任意のこれらの組み合わせを更に含み得るかまたは、それらと同時投与され得る。
【0030】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、オキサゾリジノン抗菌薬、および/またはアセブトロール、アセクリジン、アセチルサリチル酸、N4-アセチルスルフィキサゾール、アルクロフェナック、アルプレノロール、アンフェナク、アミロリド、アミノカプロン酸、アミノクロニジン、アミノゾラミド(aminozolamide)、アニシンジオン、アパファント、アテノロール、バシトラシン、ベノキサプロフェン、ベノキシネート、ベンゾフェナック(benzofenac)、ベパファント、ベタメサゾン、ベタキソロール、ベタネコール、ブリモニジン、ブロムフェナク、ブロムヘキシン、ブクロキシ酸、ブピバカイン、ブチブフェン、カルバコール、カルプロフェン、セレコキシブ、セファレキシン、クロラムフェニコール、クロルジアゼポキシド、クロロプロカイン(chlorprocaine)、クロルプロパミド、クロルテトラサイクリン、シクロプロフェン、シンメタシン、シプロフロキサシン、クリダナク、クリンダマイシン、クロニジン、クロニキシン、クロピラク、コカイン、クロモリン、シクロペントレート、シプロヘプタジン、デメカリウム、デキサメタゾン、ジブカイン、ジクロフェナク、ジフルニサル(diflusinal)、ジピベフリン、ドルゾラミド、エノキサシン、エピネフリン、エリスロマイシン、エゼリン、エストラジオール、エタクリン酸、エチドカイン、エトドラク、フェンブフェン、フェンクロフェナック、フェンクロラク、フェノプロフェン、フェンチアザク、フルフェナム酸、フルフェニサール、フルノキサプロフェン、フルオロキノロン(fluorocinolone)、フルオロメトロン、フルルビプロフェンおよびこれらのエステル、プロピオン酸フルチカゾン、フラプロフェン、フロブフェン、フロフェナック、フロセミド、ガンシクロビル、ゲンタマイシン、グラミシジン、ヘキシルカイン、ホマトロピン、ヒドロコルチゾン、イブフェナック、イブプロフェンおよびこれらのエステル、イドクスウリジン、インドメタシン、インドプロフェン、インターフェロン、イソブチルメチルキサンチン、イソフルオロフェート(isofluorophate)、イソプロテレノール、イソキセパク、ケトプロフェン、ケトロラク、ラベトロール(labetolol)、ラクトロラク(lactorolac)、ラタノプロスト、レボブノロール、リドカイン、ロナゾラク、ロテプレドノール、メクロフェナム酸、メドリゾン、メフェナム酸、メピバカイン、メタプロテレノール、メタンアミン、メチルプレドニゾロン、メチアジン酸、メトプロロール、メトロニダゾール、ミノパファント、ミロプロフェン、MK-663、モジパファント、ナブメトン(nabumetome)、ナドロール、ナモキシラート、ナファゾリン、ナプロキセンおよびこれらのエステル、ネオマイシン、ネパフェナク、ニトログリセリン、ノルエピネフリン、ノルフロキサシン、ヌパファント、オルフロキサシン(olfloxacin)、オロパタジン、オキサプロジン、オキセピナク、オキシフェンブタゾン、オキシプレノロール(oxyprenolol)、オキシテトラサイクリン、パレコキシブ、ペニシリン、ペルフロキサシン(perfloxacin)、フェナセチン、フェナゾピリジン、フェニラミン、フェニルブタゾン、フェニルエフリン、フェニルプロパノラミン、ホスホリン、ピロカルピン、ピンドロール、ピラゾラク、ピロキシカム、ピルプロフェン、ポリミキシン、ポリミキシンB、プレドニソロン、プリロカイン、プロベネシド、プロカイン、プロパラカイン、プロチジン酸、リメキソロン、ロフェコキシブ、サルブタモール、スコポラミン、ソタロール、スルファセタミド、スルファニル酸、スリンダク、スプロフェン、テノキシカム、テルブタリン、テトラカイン、テトラサイクリン、テオフィラミン(theophyllamine)、チモロール、トブラマイシン、トルメチン、トリアムシノロン、トリメトプリム、トロスペクトマイシン、バルデコキシブ、バンコマイシン、ビダラビン、ビタミンA、ワルファリン、ゾメピラクおよびこれらの薬理学的に許容される塩から選択される1つまたは複数の薬剤を更に含み得るかまたは、それらと同時投与され得る。
【0031】
製剤化
場合によっては、本開示は抗生物質組成物を提供し、ここで、当該抗生物質組成物は銀含有剤および有機セレン剤を含む。いくつかの例では、銀含有剤は、銀イオンを含み得る。いくつかの例では、銀含有剤は、硝酸銀を含み得る。いくつかの例では、銀含有剤は、クエン酸二水素銀を含み得る。いくつかの例では、有機セレン剤は、セレナゾール化合物を含み得る。いくつかの例では、有機セレン剤は、ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン化合物を含み得る。いくつかの例では、有機セレン剤は、エブセレンを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、液体剤形であり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、溶液または懸濁液の剤形であり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の銀含有剤の濃度は、約0.5~50μM、約1~25μMまたは約1~10μMであり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の銀含有剤の濃度は、約5μMであり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の有機セレン剤の濃度は、約4~25μM、約30~200μM、約30~150μMまたは約30~100μMであり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物中の有機セレン剤の濃度は、約40μMまたは約80μMであり得る。いくつかの例では、銀含有剤および有機セレン剤は、約1:2~約1:20のモル比であり得る。いくつかの例では、銀含有剤および有機セレン剤は、約1:4、1:8または1:16のモル比であり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、1種以上のグラム陰性細菌またはグラム陽性細菌に対して約10~100nMのIC50値を示す。いくつかの例では、抗生物質組成物は、1種以上のグラム陰性細菌またはグラム陽性細菌に対して約50nM以下のIC50値を示す。いくつかの例では、1種以上のグラム陰性細菌は、K.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)または任意のこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、AgNO3およびエブセレンを含み得る。いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、液体剤形であり得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、液体剤形で5μMのAgNO3および4μMのエブセレンを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、液体剤形で5μMのAgNO3および20μMのエブセレンを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、液体剤形で5μMのAgNO3および40μMのエブセレンを含み得る。いくつかの例では、抗生物質組成物は、液体剤形で5μMのAgNO3および80μMのエブセレンを含み得る。
【0032】
場合によっては、本開示は、本明細書において開示される抗生物質組成物を含み得る医薬製剤を提供する。いくつかの例では、当該医薬製剤は、本明細書において開示される賦形剤を更に含み得る。
【0033】
場合によっては、本開示は、銀含有剤および有機セレン剤を混合することを含む、抗生物質組成物を製造する方法を提供する。いくつかの例では、当該混合することは、本明細書において開示される液体、例えば、懸濁液、コロイドまたは溶液中で実施できる。いくつかの例では、当該液体は、本明細書において開示される1種以上の活性薬剤または賦形剤を含む。いくつかの例では、上記混合することは、有機セレン剤を含み得る液体に銀含有剤を加えることを含み得る。いくつかの例では、上記混合することは、銀含有剤を含み得る液体に有機セレン剤を加えることを含み得る。
【0034】
いくつかの例では、本明細書において開示される活性薬剤は、約0.01~0.1、0.1~1、1~10、1~20、5~30、5~40、5~50、10~20、10~25、10~30、10~40、10~50、15~20、15~25、15~30、15~40、15~50、20~30、20~40、20~50、20~100、30~40、30~50、30~60、30~70、30~80、30~90、30~100、40~50、40~60、40~70、40~80、40~90、40~100、50~60、50~70、50~80、50~90、50~100、50~150、50~200、50~300、100~300、100~400、100~500、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950または1000μM、または任意のこれらの組み合わせで存在し得る。いくつかの例では、本明細書において開示される活性薬剤は、約1mg~2.5mg、2.5~25mg、2.5~30mg、5~20mg、5~15mg、5~10mg、10~15mg、10~20mg、10~25mg、11.5~13mg、5mg、5.5mg、6mg、6.5mg、7mg、7.5mg、8mg、8.5mg、9mg、9.5mg、10mg、10.5mg、11mg、11.5mg、12mg、12.5mg、13mg、13.5mg、14mg、14.5mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mgまたは20mgで存在し得る。いくつかの例では、本明細書において開示される活性薬剤は、約5~50mg、5~40mg、5~30mg、10~25mg、15~20mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mgまたは50mgまたは任意のこれらの組み合わせで存在し得る。いくつかの例では、2種の活性薬剤は、約1:10~1:30、1:20~1:30、1:10~1:20、1:1~1:15または1:1~1:0、1:1~1:5、1:1~1:4、1:1~1:3もしくは1:1~1:2の重量モル比または重量比で存在する。いくつかの例では、2種の活性薬剤は、約1:30、1:29、1:28、1:27、1:26、1:25、1:24、1:23、1:22、1:21、1:20、1:19、1:18、1:17、1:16、1:15、1:14、1:13、1:12、1:11、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、または1:1の重量モル比または重量比で存在する。
【0035】
場合によっては、抗生物質組成物は、その必要がある対象のkg体重あたり少なくとも約0.001mg、例えば、少なくとも約0.01mg、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、4.5mg、5mg、5.5mg、6mg、6.5mg、7mg、7.5mg、8mg、8.5mg、9mg、9.5mgまたは10mgの投与される複数の活性薬剤を含み得る。粉末組成物は、その必要がある対象のkg体重あたり約0.1~約10.0mg、例えば、約0.1~10.0mg、約0.1~9.0mg、約0.1~8.0mg、約0.1~7.0mg、約0.1~6.0mg、約0.1~5.0mg、約0.1~4.0mg、約0.1~3.0mg、約0.1~2.0mg、約0.1~1.0mg、約0.1~0.5mg、約0.2~10.0mg、約0.2~9.0mg、約0.2~8.0mg、約0.2~7.0mg、約0.2~6.0mg、約0.2~5.0mg、約0.2~4.0mg、約0.2~3.0mg、約0.2~2.0mg、約0.2~1.0mg、約0.2~0.5mg、約0.5~10.0mg、約0.5~9.0mg、約0.5~8.0mg、約0.5~7.0mg、約0.5~6.0mg、約0.5~5.0mg、約0.5~4.0mg、約0.5~3.0mg、約0.5~2.0mg、約0.5~1.0mg、約1.0~10.0mg、約1.0~5.0mg、約1.0~4.0mg、約1.0~3.0mg、約1.0~2.0mg、約2.0~10.0mg、約2.0~9.0mg、約2.0~8.0mg、約2.0~7.0mg、約2.0~6.0mg、約2.0~5.0mg、約2.0~4.0mg、約2.0~3.0mg、約5.0~10.0mg、約5.0~9.0mg、約5.0~8.0mg、約5.0~7.0mg、約5.0~6.0mg、約6.0~10.0mg、約6.0~9.0mg、約6.0~8.0mg、約6.0~7.0mg、約7.0~10.0mg、約7.0~9.0mg、約7.0~8.0mg、約8.0~10.0mg、約8.0~9.0mg、または約9.0~10.0mgで投与される活性薬剤の全量を含んでよい。
【0036】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、2種以上の活性薬剤(例えば、金属化合物、エブセレンまたはその誘導体)を含んでよく、それらの各々は独立して、約1.0mg、1.5mg、2.5mg、3.0mg、4.0mg、5.0mg、6.0mg、6.5mg、7.0mg、7.5mg、8.0mg、8.5mg、9.0mg、9.5mg、10.0、10.5mg、11.0mg、12.0mg、12.5mg、13.0mg、13.5mg、14.0mg、14.5mg、15.0mg、15.5mg、16mg、16.5mg、17mg、17.5mg、18mg、18.5mg、19mg、19.5mg、20mg、20.5mg、21mg、21.5mg、22mg、22.5mg、23mg、23.5mg、24mg、24.5mg、25mg、25.5mg、26mg、26.5mg、27mg、27.5mg、28mg、28.5mg、29mg、29.5mg、30mg、30.5mg、31mg、31.5mg、32mg、32.5mg、33mg、33.5mg、36mg、36.5mg、37mg、37.5mg、38mg、38.5mg、39mg、39.5mg、40mg、40.5mg、41mg、41.5mg、42mg、42.5mg、43mg、43.5mg、44mg、44.5mg、45mg、45.5mg、46mg、46.5mg、47mg、47.5mg、48mg、48.5mg、49mg、49.5mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mgまたは100mgを含むがこれらに限定されない、約1~10mg、2.5~30mg、2.5~20mg、1~20mg、1~30mg、5~30mg、10~40mg、20~50mg、30~60mg、40~70mg、50~80mg、60~90mgまたは1~100mgの投与量で存在し得る。
【0037】
賦形剤
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、1種以上の賦形剤、例えば、異なる物質、またはサイズが異なる以外は同一の物質を更に含み得る。いくつかの例では賦形剤は、担体、例えば、水不溶性多糖類またはオリゴ糖類を含み得る。いくつかの例では、担体は、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、キトサン、β-シクロデキストリン、エチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、微結晶性セルロース、デンプン、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択できる。いくつかの例では賦形剤は、増粘剤、例えば水溶性多糖類を含み得る。いくつかの例では、増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、アカシア、アルギン酸、コロイド状二酸化珪素、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシルプロピルセルロース(ヒプロメロース)、メチルセルロース、スクロース、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択できる。いくつかの例では、賦形剤は、第1の賦形剤(本明細書において開示される任意の賦形剤)および第2の賦形剤(本明細書において開示される任意の賦形剤)を含み得る。いくつかの例では、賦形剤は、担体(例えば、微結晶性セルロース)および増粘剤(例えば、HPMC)を含み得る。
【0038】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、1種以上の医薬品賦形剤、例えばアスコルビン酸、EDTA二水和物、グリセリン、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、70%ソルビトール液、スクラロース、FD&C Yellow#6、人工オレンジ香料、人工ペパーミント香料、精製水または任意のこれらの組み合わせを更に含み得る。いくつかの例では、1種以上の医薬品賦形剤は、アスコルビン酸、EDTA二水和物、グリセリン、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、プロピルパラベン、メチルパラベン、プロピレングリコール、70%ソルビトール液、スクラロース、FD&C Yellow#6、人工オレンジ香料、人工ペパーミント香料、精製水または任意のこれらの組み合わせを含む。
【0039】
適切な防腐剤は、フェニル水銀塩(例えば、酢酸フェニル水銀、ホウ酸フェニル水銀および硝酸フェニル水銀)およびチメロサールなどの水銀含有物質;安定化二酸化塩素;塩化ベンザルコニウム、臭化セトリモニウムおよび塩化セチルピリジニウムなどの第四アンモニウム化合物;イミダゾリジニル尿素;メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベン、およびこれらの塩などのパラベン;フェノキシエタノール;クロロフェノキシエタノール;フェノキシプロパノール;クロロブタノール;クロロクレソール;フェニルエチルアルコール;EDTA二ナトリウム;ならびにソルビン酸およびその塩を非制限的に含む。
【0040】
酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸および塩酸などの酸;水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタンなどの塩基;およびクエン酸塩/ブドウ糖、重炭酸ナトリウムおよび塩化アンモニウムなどの緩衝剤を含む、1種以上の許容可能なpH調整剤および/または緩衝剤が、本明細書において開示される組成物中に含まれ得る。このような酸、塩基および緩衝剤は、組成物のpHを維持するために必要とされる薬理学的に許容される範囲の量で含まれる。
【0041】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、pH調整剤を含み得る。いくつかの例では、pH調整剤は、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カルシウム、酒石酸リチウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸リチウム、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、マレイン酸、マレイン酸リチウム、マレイン酸ナトリウム、マレイン酸カリウム、マレイン酸カルシウム、コハク酸、コハク酸リチウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸カルシウム、フマル酸、グルタミン酸、ギ酸、リンゴ酸、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、アンモニア溶液、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メグルミン、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択できる。いくつかの例では、本明細書において開示されるpH調整剤は、酢酸;アジピン酸;硫酸アルミニウムアンモニウム;炭酸水素アンモニウム;炭酸アンモニウム;クエン酸アンモニウム(二塩基性);クエン酸アンモニウム(一塩基性);水酸化アンモニウム;リン酸アンモニウム(二塩基性);リン酸アンモニウム(一塩基性);酢酸カルシウム;ピロリン酸二水素カルシウム;炭酸カルシウム;塩化カルシウム;クエン酸カルシウム;フマル酸カルシウム;グルコン酸カルシウム;水酸化カルシウム;乳酸カルシウム;酸化カルシウム;リン酸カルシウム(二塩基性);リン酸カルシウム(一塩基性);リン酸カルシウム(三塩基性);硫酸カルシウム;二酸化炭素;クエン酸;酒石酸水素カリウム;フマル酸;グルコン酸;グルコノデルタラクトン;塩酸;乳酸;炭酸マグネシウム;クエン酸マグネシウム;フマル酸マグネシウム;水酸化マグネシウム;酸化マグネシウム;リン酸マグネシウム;硫酸マグネシウム;リンゴ酸;硫酸マンガン;メタ酒石酸;リン酸;酒石酸水素カリウム;硫酸アルミニウムカリウム;炭酸水素カリウム;炭酸カリウム;塩化カリウム;クエン酸カリウム;フマル酸カリウム;水酸化カリウム;乳酸カリウム;リン酸カリウム(二塩基性);リン酸カリウム(三塩基性);硫酸カリウム;酒石酸カリウム;トリポリリン酸カリウム;酢酸ナトリウム;酸性ピロリン酸ナトリウム;酸性酒石酸ナトリウム;リン酸ナトリウムアルミニウム;硫酸アルミニウムナトリウム;炭酸水素ナトリウム;硫酸水素ナトリウム;炭酸ナトリウム;クエン酸ナトリウム;フマル酸ナトリウム;ナトリウムグルコネート;ヘキサメタリン酸ナトリウム;水酸化ナトリウム;乳酸ナトリウム;リン酸ナトリウム(二塩基性);リン酸ナトリウム(一塩基性);リン酸ナトリウム(三塩基性);ヘキサメタリン酸ナトリウムカリウム;酒石酸ナトリウムカリウム;トリポリリン酸ナトリウムカリウム;ピロリン酸ナトリウム(四塩基性);トリポリリン酸ナトリウム;硫酸;亜硫酸;酒石酸;または任意のこれらの組み合わせであり得る。
【0042】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、糖アルコールを含み得る。いくつかの例では、糖アルコールは、マンニトール、グリセリン、ガラクチトール、フシトール、イノシトール、ボレミトール、マルトトリイトール、マルトエテトレイトール(maltoetetraitol)、ポリグリシトール、エリトリトール、トレイトール、リビトール、アラビトール、キシリトール、アリトール、ズルシトール、グルシトール、ソルビトール、アルトリトール、イジトール、マルチトール、ラクチトール、イソマルト、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択できる。いくつかの例では、糖アルコールは、3、4、5、6、7、12、18または24個の炭素を有する。
【0043】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、希釈剤、結合剤、界面活性剤、潤滑剤、グリダント、コーティング材料、可塑剤、着色剤、香味剤、または薬学的不活性材料を含むがこれらに限定されない、適切な添加剤を含み得る。希釈剤の例としては、例えば、セルロース;微結晶性セルロース、例えばセルロース誘導体など;デンプン;デンプン誘導体、例えばトウモロコシデンプン、シクロデキストリンなど;糖;糖アルコール、例えばラクトース、D-マンニトールなど;無機希釈剤、例えば乾燥水酸化アルミニウムゲル、沈降炭酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。結合剤の例としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポビドン、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルデンプン、ポリビニルアルコール、アカシア、寒天、ゼラチン、トラガカンタ、マクロゴールなどが挙げられる。界面活性剤の例としては、例えば、脂肪酸のショ糖エステル類、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルビン酸、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴール、第四級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム水和物、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンジルセチルジメチルアンモニウム水和物、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム水和物、塩化ベンジルドデシルジメチルアンモニウム二水和物、臭化ベンジルドデシルジメチルアンモニウム)などが挙げられる。潤滑剤の例としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどが挙げられる。グリダントの例としては、例えば、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。コーティング材料の例としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、アミノアルキルメタクリル酸コポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノ酢酸、マクロゴール6000、酸化チタンなどが挙げられる。可塑剤の例としては、例えば、クエン酸トリエチル、トリアセチン、マクロゴール6000などが挙げられる。
【0044】
剤形
いくつかの例では、本明細書において開示される活性薬剤は、錠剤、カプセル、ゲル、ロリポップ、非経口注入 、脊髄内注入、吸入、スプレー、エアロゾル、経皮パッチ、イオントフォレーゼ輸送、吸収ゲル、液体、液体タンニン酸塩、坐薬、注入、静脈内点滴の剤形、または対象を処理するためのこれらの組み合わせとして製剤化される。いくつかの例では、薬剤は、錠剤、カプセル、カシェ剤、軟ゼラチンカプセル剤、硬ゼラチンカプセル剤、徐放性カプセル、タンニン酸錠剤、口腔崩壊錠剤、多層錠剤、発泡錠剤、ビーズ、液体、経口懸濁液、咀嚼錠剤、経口液剤、舐剤、ロリポップ、経口シロップ、薬学的に許容される賦形剤を含む無菌包装粉末、他の経口剤形などの単一の経口剤形またはそれらの組み合わせとして製剤化される。いくつかの例では、本明細書の開示の組成物は、本明細書において更に開示される1種以上の異なる剤形を使用して投与できる。例えば、複数の活性薬剤を含む組成物は、固体形態、半固体形態、マイクロエマルジョン形態、ゲル形態、パッチ形態または液体形態で投与できる。このような剤形は、本明細書において更に開示される。いくつかの例では、本明細書の開示は、必要とする対象への経口送達のための方法および経口送達のために製剤化される組成物に関する。いくつかの例では、口腔または食道の粘膜層を通して対象に1種以上の薬学的活性薬剤を送達するように組成物を製剤化できる。いくつかの例では、胃および/または腸管の粘膜層を通して対象に1種以上の薬学的活性薬剤を送達するために組成物を製剤化できる。
【0045】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、調節された放出剤形(例えば即時放出、徐放または両方)で提供され、それは有効量の活性薬剤;および本明細書において開示される1種以上の放出制御賦形剤を含む。適切な調節された放出の投与媒体としては、親水性または疎水性マトリックスデバイス、水溶性分離層コーティング、腸溶コーティング、浸透デバイス、多粒子デバイスおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、組成物は、非放出制御賦形剤を含む。いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、腸溶剤形で提供される。いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、非放出制御賦形剤を含む。いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、発泡剤形で提供される。いくつかの例では、組成物は、非放出制御賦形剤を含む。
【0046】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、活性薬剤の即時放出を促進する少なくとも1つの成分、および活性薬剤の徐放を促進できる少なくとも1つの成分を有する剤形で提供できる。いくつかの例では、当該剤形は、0.1~最大で24時間の時間で隔てられる少なくとも2つの連続的なパルスの形態で化合物の不連続な放出を生じさせることができる。組成物は、破壊性半透膜に適切な賦形剤および膨潤性物質として適切な賦形剤などの、1種以上の放出制御賦形剤および非放出制御賦形剤を含んでよい。本明細書において開示される組成物は、対象への経口投与のための剤形で提供でき、それはアルカリによって部分的に中和された胃液耐性高分子層状材料を含み陽イオン交換能および胃液耐性外層を有する中間反応層に封入される、1種以上の薬理学的に許容される賦形剤または担体を含む。いくつかの例では、組成物は、セルロース、リン酸一水素二ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ラクトース、マンニトールまたはラウリル硫酸ナトリウムを更に含む。いくつかの例では、組成物は、モノステアリン酸グリセリン40-50(glyceryl monostearate 40-50)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、メタクリル酸コポリマーC型、ポリソルベート80、粒状糖、タルクまたはクエン酸トリエチルを更に含む。いくつかの例では、組成物は、カルナウバ蝋、クロスポビドン、ジアセチル化モノグリセリド、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、水酸化ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、二酸化チタン、または黄色酸化鉄を更に含む。いくつかの例では、組成物は、ステアリン酸カルシウム、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酸化鉄、マンニトール、メタクリル酸コポリマー、ポリソルベート80、ポビドン、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、およびクエン酸トリエチルを更に含む。
【0047】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、単位剤形または複数回剤形である。本明細書で使用する場合、単位剤形は、ヒトまたは非ヒト動物対象に投与するのに適切であり、かつ個別に包装された物理的に分離した単位を指す。各単位投与量は、必要とされる薬学的担体または賦形剤と共同して、所望の治療効果をもたらすのに十分な1つまたは複数の所定量の有効成分を含有する。単位剤形の例としては、アンプル、シリンジならびに個別に包装された錠剤およびカプセルが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、単位剤形は、分割量でまたはその複数で投与される。複数回剤形は、単一の容器に包装された複数の同一の単位剤形であってよく、それは分離された単位剤形で投与されてよい。複数回剤形の例としては、バイアル、錠剤またはカプセルのボトル、またはパイントボトルもしくはガロンボトルが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、複数回剤形は、異なる薬学的活性薬剤を含む。
【0048】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物を含むキットが提供され得る。いくつかの例では、キットは、一組の使用説明書を更に含み得る。
【0049】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、経口投与、非経口投与、または局所投与のための剤形で製剤化できる。いくつかの例では、組成物は、即時放出、遅延放出、長期放出、延長放出、徐放、パルス状放出、制御放出、長期放出、加速放出、急速放出、標的化放出、プログラム化放出、および胃内保持剤形を含む、調節された放出剤形として製剤化できる。いくつかの例では、組成物は、1種以上の剤形であり得る。例えば、組成物は、固体または液体の形態で投与できる。固体剤形の例としては、粉末または顆粒としてカプセルまたは錠剤中に存在するかまたは、圧縮成形によって従来通り形成された錠剤中に存在する個別の単位が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、このような圧縮錠剤は、適切な機械において3種以上の薬剤および薬学的に許容されるキャリアを圧縮することによって調製される。成形された錠剤を、その上に刻印して所望によりコーティングするか溝を入れてよく、本明細書において開示される活性薬剤を即時放出、実質的な即時放出、遅延放出、制御放出、または徐放させるように製剤化できる。いくつかの例では、本明細書において開示される剤形は、Handbook of Pharmaceutical Excipients,American Pharmaceutical Association(1986)(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載のものなどの当該技術分野において公知の許容可能な担体または塩を含む。いくつかの例では、1種以上の薬学的活性薬剤を医薬品賦形剤と混合して、本明細書において開示される化合物の均一混合物を含む固体の予備製剤組成物を形成する。本明細書において開示される組成物を「均一」という場合、組成物を錠剤またはカプセルなどの単位剤形に再分割できるように組成物全体に薬剤が均一に分散されることを意味する。いくつかの例では、この固体の予備製剤組成物を次いで、例えば、本明細書において開示される活性薬剤の約1.0mg~約15mgを含む上記の単位剤形型に再分割できる。
【0050】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物を、カプセルまたは錠剤の場合、例えば、水で全体が嚥下されるように製剤化できる。悪心および嘔吐の一般的な症状を弱めるための抗ヒスタミンまたは制吐剤などの副作用軽減剤を含有することは、プロメタジンまたはその塩などが不快感を除去するまたは最小限にするという点で有益と考えられる。軽減または除去される副作用としては、悪心、嘔吐、他の急性胃蠕動、便秘、皮疹、アレルギー性反応、例えば腫脹、呼吸困難、咽頭閉塞、腹痛、異常出血または紫斑、CNS抑圧、および呼吸抑圧が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
いくつかの例では、本明細書において開示される剤形は、当業者に周知のプロセスを使用して製造できる。例えば、錠剤(単層錠剤、二層錠剤、コーティングされた錠剤、または多層錠剤を含むが、これらに限定されない)またはカプセルの製造のために、薬剤を、例えば、高剪断造粒、低剪断造粒、流動層造粒を使用するか、直接圧縮のために混合することによって、1種以上の賦形剤中に均一に分散させることができる。賦形剤としては、希釈剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、潤滑剤、グリダント、安定剤、界面活性剤および着色剤が挙げられる。「充填剤」とも呼ばれる希釈剤を使用して、圧縮のための実用的サイズが得られるように錠剤の嵩を増大させることができる。希釈剤の非限定的な例としては、ラクトース、セルロース、微結晶性セルロース、マンニトール、乾燥デンプン、加水分解デンプン、粉砂糖、タルク、塩化ナトリウム、二酸化ケイ素、酸化チタン、リン酸二カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミナおよびカオリンが挙げられる。いくつかの例では、結合剤は、錠剤製剤またはカプセル中の粒子製剤に凝集特性を付与し、錠剤が圧縮後に無傷のままであるのを促進するために使用される。適切な結合剤の非限定的な例としては、デンプン(トウモロコシデンプンおよびアルファ化デンプンを含む)、ゼラチン、糖(例えば、グルコース、ブドウ糖、スクロース、ラクトースおよびソルビトール)、セルロース、ポリエチレングリコール、ワックス、天然および合成ガム、例えば、アカシア、トラガカンタ、アルギン酸ナトリウム、ならびにポリメタクリレートおよびポリビニルピロリドンなどの合成ポリマーが挙げられる。いくつかの例では、潤滑剤は、錠剤製造を容易にし、その非限定的な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、およびポリエチレングリコールが挙げられる。いくつかの例では、崩壊剤は投与後の錠剤崩壊を容易にし、その非限定的な例としては、デンプン、アルギン酸、例えば架橋ポリビニルピロリドンなどの架橋ポリマー、クロスカルメロースナトリウム、グリコール酸デンプンカリウムまたはグリコール酸デンプンナトリウム、粘土、セルロース類、デンプン、ゴムなどが挙げられる。適切なグリダントの非限定的な例としては、二酸化ケイ素、タルクなどが挙げられる。いくつかの例では、安定剤は、酸化反応を含む薬物分解反応を阻害するまたは遅延させる。いくつかの例では、界面活性剤は、陰イオン、陽イオン、両性または非イオン性であり得る。いくつかの例では、錠剤(または粒子)は、無毒性補助剤、例えば、pH緩衝剤、防腐剤(例えば、抗酸化剤、湿潤剤または乳化剤)、溶解剤、コーティング剤、香味剤などを含む。いくつかの例では、例示的な賦形剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えば、Methocel K4M)またはケイ化微結晶性セルロースなどのセルロースエーテル;例えば、Kollidon SRなどのポリ酢酸ビニルベースの賦形剤、ならびにメタクリラートおよびメタクリル酸ベースのポリマーおよびコポリマー、例えば、Eudragit NE 30Dなど;微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリコール酸デンプンナトリウム、トウモロコシデンプン、コロイド状シリカ、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、Prosolve SMCC(HD90)、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンNF、Avicel PH200、およびこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、活性薬剤をコーティングすること、もしくは一時的に結合すること、またはその溶解性を減少させることによって薬剤の放出を遅延させる賦形剤の1つ以上の組み合わせを含む。これらの賦形剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えば、Methocel K4M)またはケイ化微結晶性セルロースなどのセルロースエーテル、例えばKollidon SRなどのポリ酢酸ビニルベースの賦形剤、ならびにメタクリラートおよびメタクリル酸ベースのポリマーおよびコポリマー、例えば、Eudragit NE 30Dなどが挙げられる。
【0052】
いくつかの例では、組成物は、身体からの迅速な排出から薬剤を保護する1種以上の担体(持効性製剤またはコーティングなど)を含む。このような担体としては、例えば、マイクロカプセル化送達系を含む、放出制御製剤が挙げられる。いくつかの例では、活性薬剤は、減少された副作用を伴い、対象の痛みを処置するのに十分な量で薬学的に許容される担体中に含まれる。いくつかの例では、組成物は経口剤型であり、例えば、放出制御のために製剤化された活性薬剤を含むマトリックスを含む。いくつかの例では、マトリックスは錠剤へと圧縮可能であり、所望により、組成物からの活性薬剤の放出を制御するコーティングでオーバーコーティングできる。いくつかの例では、鎮痛薬の血中濃度は長期間にわたって治療域内に維持される。あるいくつかの例では、マトリックスはカプセル化できる。本明細書において開示される組成物を含有する錠剤またはカプセルは、コーティングまたはコンパウンド化されて、持続性作用の利点をもたらす剤型を提供できる。例えば、錠剤またはカプセルは、内側投与成分および外側投与成分を含有し、後者は前者を覆う膜の形態である。2つの成分を、胃での崩壊に抵抗するのに役立ちかつ内部成分が無傷で十二指腸へと通過するまたは放出制御されるのを可能にする腸溶層によって分離できる。いくつかの例では、徐放の制御のために、カプセルはマイクロドリルホールを有する。いくつかの例では、副作用軽減化合物を含むコーティングを、プロメタジンのような化合物とポリビニルピロリドン(PVP)29/32またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)および水/イソプロピルアルコールおよび酢酸トリエチルの混合によって調製できる。このようなコーティングを、錠剤コア上に噴霧コーティングできる。いくつかの例では、上記コーティングを、80重量%プロメタジンおよび20重量%のラクトースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースタイプ2910からなるブレンドでのプレスコーティングプロセスを使用して適用できる。プレスコーティング技術は当該分野で公知であり、米国特許第6,372,254号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0053】
いくつかの例では、本明細書において開示される剤形は、発泡剤形であり得る。発泡性は、水および唾液を含む液体と混合された場合に、剤型が気体を放出することを意味する。いくつかの発泡剤(または発泡性カップル)は、水および/または口内の唾液への発泡性崩壊剤の曝露の際に起こる化学反応によって気体を発生する。この反応は、可溶性酸供給源とアルカリ性のモノカーボネートまたは炭酸塩の供給源の反応の結果であり得る。これら2つの一般的な化合物の反応は、水または唾液との接触の際に二酸化炭素ガスを発生する。発泡性カップル(または個別の酸および塩基)を溶媒防御コーティングまたは腸溶コーティングでコーティングして、早発性の反応を防止できる。いくつかの例では、このようなカップルを、予め凍結乾燥させた粒子(溶媒防御コーティングまたは腸溶コーティングでコーティングした1種以上の薬学的活性薬剤など)と混合できる。
【0054】
いくつかの例では、酸供給源は、ヒトが摂取するのに安全である任意の酸供給源であってよく、例えば、クエン酸、酒石酸、アマリン酸、フマル酸、アジピン酸、およびコハク酸などの食品の酸、酸およびハイドライト酸中和物(hydrite antacid)を含む。炭酸塩供給源としては、乾燥固体炭酸塩および炭酸水素塩、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウム、および炭酸マグネシウムなどが挙げられる。酸素または他の気体を発生しかつヒトが摂取しても安全な反応物も含まれる。いくつかの例では、クエン酸および炭酸水素ナトリウムを使用できる。
【0055】
いくつかの例では、本明細書において開示される剤形は、ロリポップまたは舐剤などのキャンディー形態(例えば、マトリックス)であり得る。いくつかの例では、1種以上の薬学的活性薬剤は、キャンディーマトリックス内で分散される。いくつかの例では、キャンディーマトリックスは、1種以上の糖(デキストロースまたはスクロースなど)を含み得る。いくつかの例では、キャンディーマトリックスは、糖を含まないマトリックスであり得る。特定のキャンディーマトリックスの選択は、広範に変動する。いくつかの例では、スクロースなどの従来の甘味料が使用され、または糖尿病患者に使用するのに適切な糖アルコール、例えばソルビトールまたはマンニトールが使用される可能性がある。いくつかの例では、アスパルテームなどの他の甘味剤が、本明細書において開示される組成物に従う組成物中に容易に組み込まれる。キャンディーベースは、非常に軟らかくかつ迅速に溶解し得るか、硬くかつよりゆっくり溶解し得る。種々の形態は、異なる状況で有利であろう。いくつかの例では、少なくとも1種の薬学的活性薬剤を含むキャンディー塊を、キャンディー塊が溶解するにつれて対象の口内に当該薬剤が放出されるように、その必要がある対象に経口投与できる。当該薬剤は対象の血流に迅速に侵入し、重要なことに、口腔ならびに咽頭および食道領域から排出される静脈中の血液が、肝臓(そこで当該薬剤が不活化され得る)を通過する前に身体の大部分を通過する(薬物を吸収できるように)。いくつかの例では、その必要がある対象は、咳および/または痛みに苦しんでいる成人または小児であり得る。いくつかの例では、本明細書において開示されるキャンディーマトリックス(例えば、ロリポップまたは舐剤)は、刺激物質を欠く組成物を含み得る。いくつかの例では、組成物は、その必要がある対象に咳止めおよび/または鎮痛を提供することに加えて、鎮静作用を有する。いくつかの例では、キャンディーマトリックス(ロリポップまたは舐剤)は、刺激物質を含み得る組成物を含み得る。いくつかの例では、組成物は、その必要がある対象に咳止めおよび/または鎮痛を提供することに加えて、抗鎮静作用を提供する。いくつかの例では、本明細書において開示するキャンディー塊は、異なる薬学的活性薬剤および/または溶解速度を含む1つ以上の層を含み得る。いくつかの例では、多層キャンディー塊(ロリポップなど)は、1つ以上の内層のものと異なる濃度の1種以上の薬学的活性薬剤を有する外層を含み得る。このような薬物送達系は、多様な適用を有する。一例として、所望の効果を得るために所定用量の第1の薬学的活性薬剤を血流に迅速に侵入させ、次いで、1種以上の他の薬剤を送達させるために異なる内層を使用することが望ましい場合がある。マトリックスおよびマトリックス中の薬剤濃度の選択は、薬剤の取り込み率に関する重要な要因である。いくつかの例では、迅速に溶解するマトリックスは、ゆっくり溶解し得るマトリックスよりも迅速に、薬物を吸収のために患者の口内に送達する。いくつかの例では、1種以上の薬学的活性薬剤を高濃度で含有するキャンディーマトリックスは、低濃度のキャンディーよりも所与の時間中に多くの1種以上の薬学的に活性な薬剤を放出する。
【0056】
いくつかの例では、本明細書において開示される剤形は、高圧ホモジナイゼーション、湿式または乾式ボールミル粉砕、または小粒子沈殿(例えば、nGimatナノスプレー)を含むがこれらに限定されない種々の方法によって製造される医薬品粒子の形態を取る。適切な粉末製剤の製造に有用な他の方法は、有効成分および賦形剤の溶液の調製、その後の沈殿、濾過、および微粉化、またはその後の凍結乾燥による溶剤除去、その後の所望の粒径への粉末の微粉化である。いくつかの例では、医薬品粒子は、3~1000μm、例えば、最大で3、4、5、6、7、8、9,10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000μmの最終サイズを有する。いくつかの例では、医薬品粒子の最終サイズは、10~500μMである。いくつかの例では、医薬品粒子は、50~600μMの最終サイズを有する。いくつかの例では、医薬品粒子は、100~800μMの最終サイズを有する。いくつかの例では、これらの剤形は、所望の用量の活性薬剤を送達するのに十分有用な比率で制御放出粒子と組み合わせた即効性粒子を含む。
【0057】
液状組成物
いくつかの態様では、本明細書において開示される液状組成物は、貯蔵安定性があり、例えば、当該液状組成物は、貯蔵中に分離しない(浮遊および沈殿の両方)かまたは、激しい振盪(それは投与の一貫性に大きく影響を及ぼす)を必要としない。いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物中の1種以上の活性薬剤は、調節放出、例えば、徐放、即時放出、または混合でのように提供される。いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物中の1種以上の活性薬剤は、調節放出のために製剤化されるマトリックス中に、充血除去剤、去痰剤、去痰剤または鎮痛剤を含んでよい。例示的な去痰剤は、塩化アンモニウム、N-アセチルシステイン、アンブロキソール、グアイフェネシン(例えば、グリセロール、グアヤコール酸塩)、テルピン水和物、グリセリルグアヤコール塩、ヨウ化カリウム、クエン酸カリウム、グアイヤコールスルホン酸カリウム、オレガノ葉抽出物25~500mg(液状抽出物であり得る)、レッドクローバー25~500mg、クロウメモドキ根25~500mg、コロハ25~500mgまたは任意のこれらの混合物を含む。本発明の活性物質のための担体の例は、分解性、部分分解性または非分解性でかつ一般的に生体適合性の任意のポリマー、例えば、液体、マトリックスまたはビーズの形態のポリスチレクス、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポラクリレックス、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)および/またはポリ乳酸ポリグリコール酸(PGLA)を含む。
【0058】
いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物は、50RPMで約150~約1000センチポアズ、例えば、50RPMで約200~約1000センチポアズまたは50RPMで約400~約700センチポアズ;または10RPMで測定される約150~約1200センチポアズ粘性(スピンドルによる粘度)を有する。粘性は、<911>Viscosity-Capillary Viscometer Methods、<912>Rotational Rheometer Methods、および/または<913>Rolling Ball Viscometer Methodから選択される、USP(米国薬局方)における方法で測定できる。いくつかの例では、使用される粘度調整剤の量は、組成物の所望の「とろみ」および使用される粘度調整剤の種類に依存する。いくつかの例では、粘度調整剤の組み合わせが使用される。例えば、約1500~約4500cpsの粘性を有する例示的な実施形態では、最大約1.0w/vのキサンタンガムを最大約3.0w/vの微結晶性セルロースと共に粘度調整剤として使用できる。いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物のpHは、約:2.5~5、6~8、5~9、4~10、7~8、7~9、7~10、6~7、5~7、または4~7であり得る。いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物のpHは、約:2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12であり得る。いくつかの例では、pHは、約6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.8、7.9、7.10、例えば約6.8~約7.4の範囲であり得る。
【0059】
1つの態様では、本明細書において開示される液状組成物はビーズ(例えば、マイクロビーズ)を含む懸濁液であってよく、ここで、1種以上の当該ビーズの一部は即時放出性プロフィールを有し、別の一部は徐放性プロフィールを有する。いくつかの例では、1種以上のビーズは、腸溶コーティング、樹脂コーティング、ラッカーコーティング、pH感受性コーティング、生分解性ポリマーマトリックス、水溶性マトリックス、イオンマトリックスまたは任意のこれらの組み合わせを含む。いくつかの例では、1種以上のビーズは、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、プロピルセルロース、メトキシプロピルセルロース、硝酸セルロース、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシバレリアン酸-co-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(ε-カプロラクトン-co-DL-乳酸)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリアミド、ゼラチン、キトサン、コラーゲン、ポリ(ヒドロキシアルキル)-L-グルタミン、ポリ(γ-エチル-L-グルタミン酸-co-グルタミン酸)、ポリ(L-ロイシン-co-L-アスパラギン酸)、ポリ(プロリン-co-グルタミン酸)、ポリ(2-シアノアクリル酸アルキル)、ポリウレタン類、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸メチル-co-メタクリル酸)およびポリ(メタクリル酸-co-メタクリル酸ヒドロキシプロピル)、ポリスチレン、ポリスチレクス、ポラクリレックス、これらの塩、およびこれらの任意の組み合わせから選択される1種以上のポリマーを含む。
【0060】
いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物は、例えば、水で戻す乾燥粉末、希釈用の液状濃縮物、分散性の錠剤またはカプセルなどのシロップ、すぐ使用できる懸濁液または用時調製が可能な液体シロップまたは懸濁液であり得る。用時調製が可能なシロップまたは懸濁液の場合、成分の濃度は、水で戻した産物を基準にできる。いくつかの例では、液体投与形態は、経口投与、静脈内注射、筋肉内注射のため、または局所投与(例えば、クリーム、ゲル、軟膏、または包帯として)のためであり得る。経口投与の液体投与形態は、嚥下障害または嚥下困難を有する対象に有益であり得る。いくつかの例では、液体剤形は、1種以上の薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤を含む。いくつかの例では、液状医薬組成物は、例えば剤形中に治療的有効量で存在する、1種以上の活性薬剤を含有する。これらの量は、薬剤および所定の投与計画に応じて異なる。例えば、乳児を対象とする液状製剤は、少ない投与量および投与頻度の減少を可能にする高い薬剤濃度を有する。いくつかの例では、組成物中の薬剤の量は、組成物全体の約0.02~約15重量パーセント、例えば、約0.1~約10重量パーセントであり得る。水で戻す乾燥粉末の場合、薬剤は、コーティングされないまたはコーティングされた粒子として存在し得る。
【0061】
いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物は、不快な味の医薬品の投与のための風味マスキング液状賦形剤ベースを含み得る。いくつかの例では、当該賦形剤ベースは、例えば、ポリエチレングリコールおよび/またはカルボキシメチルセルロースナトリウムの存在により、標準より高い粘度を有する。いくつかの例では、高粘性液状賦形剤ベースは、不快な味の医薬組成物の増加した濃度を有する強力な組成物を調製できる程度に風味マスキングの利点を提供する。例えば、通常は5ミリリットルの液体中100ミリグラム以下の投与量で投与される活性薬剤を、患者に過度に不快な味を経験させることなく同じ液量中200ミリグラムの投与量で投与できる。
【0062】
別の態様では、本明細書において開示される方法は、例えば、泡形成を減少させるかまたはなくすための手段を講じることにより成分の分離を防止することによって、活性薬剤の貯蔵寿命および安定性を増加させる。いくつかの例では、泡形成を最小限にする、減少させるおよび/またはなくす手段としては、単独であるいは併用で以下の手段を使用することが挙げられるが、それらに限定されない:ダイアフラムポンプを使用して、例えば、水およびチキソトロープ剤ならびに1種以上の防腐剤、着色剤および風味剤を混合する工程;液体表面下に再循環チューブを配置する工程;液体を保持する容器の側面に沿って液体を加える工程;液体表面上にビーズ(例えば、1種以上の活性薬剤を含む1種以上のビーズ)を散らす工程;容器をこする1種以上のパドルがない状態で溶液を混合する工程;プロペラミキサーで溶液を混合する工程;キャビテーションを減少させるかまたは最小限にする速度にてプロペラミキサーで溶液を混合する工程、および二つ以上のこれらの工程の組み合わせ。
【0063】
いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物は、本明細書において開示される疾患または状態、例えば、咳、アレルギー、寒さまたは随伴症状を処置するのに使用できる。いくつかの例では、かぜまたはかぜ様症状に罹患している対象(例えば、人間)は、上記のような液状組成物の安全でかつ有効な量を経口摂取することによって苦痛が和らぐ。液状組成物の安全でかつ有効な量は、当該液状組成物中に存在する治療成分の濃度に依存し得る。いくつかの例では、液状組成物の安全でかつ有効な量は、当該液状組成物の投与量あたり、1~30mlの範囲、例えば1~10mlであり得る。いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物は、小児によって問題なく消費され得る。いくつかの例では、対象(例えば、人間)は、1日あたり複数用量(1、2、3、4、5、6、7または8用量)の液状組成物を服用できる。いくつかの例では、本明細書の液状組成物は、2~4時間、4~6時間、6~8時間、12時間または24時間の間1種以上の活性薬剤の有効量を提供する。いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物は、液体状態(例えば、匙などの用量カップまたはリザーバーによって)で対象(例えば、人間)に投与できるか、または当該組成物は、個体が噛めるかまたは飲み込める軟ゼラチンカプセル中に封入できる。いくつかの例では、当該液状組成物は、氷、乳、ソーダ、ジュースなどの組成物またはいくつかの他の食用組成物と混ぜ合わせ、個体に投与できる。
【0064】
いくつかの例では、本明細書において開示される液体剤形は、経口投与、静脈内注射、筋肉内注射用または局所投与(例えば、クリームまたはゲルとして)用であり得る。経口投与される液体投与形態は、嚥下障害または嚥下困難を有する対象に有益であり得る。経口投与される液体投与形態の単一用量は、1mL~約500mLの容量またはそれより多くてよい。例えば、経口投与される液体投与形態の単一用量は、約1~500mL、1~250mL、1~100mL、1~50mL、1~30mL、1~20mL、1~15mL、1~10mL、1~5mL、1~2.5mL、2.5~50mL、2.5~30mL、2.5~20mL、2.5~15mL、2.5~10mL、2.5~5mL、5~50mL、5~30mL、5~20mL、5~15mL、5~10mL、10~50mL、10~30mL、10~20mL、10~15mL、15~50mL、15~30mL、15~20mL、20~50mL、20~30mL、30~50mL、1mL、1.5mL、2mL、2.5mL、3mL、3.5mL、4mL、4.5mL、5mL、5.5mL、6mL、6.5mL、7mL、7.5mL、8mL、8.5mL、9mL、9.5mL、10mL、11mL、12mL、13mL、14mL、15mL、16mL、17mL、18mL、19mL、20mL、21mL、22mL、23mL、24mL、25mL、30mL、35mL、40mL、45mL、50mL、60mL、70mL、80mL、90mL、100mL、110mL、120mL、130mL、140mL、150mL、160mL、170mL、180mL、190mL、200mL、250mL、300mL、350mL、400mL、450mLまたは500mLであり得る。
【0065】
いくつかの例では、本明細書において開示される薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤は、1つまたは複数のpH調整剤(例えば、1つまたは複数の緩衝剤)、1つまたは複数の安定化剤、1つまたは複数の増粘剤、1つまたは複数の甘味剤 、1つまたは複数の香味剤、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の保存剤、1つまたは複数の乳化剤、1つまたは複数の溶解剤、1つまたは複数の抗酸化剤、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0066】
いくつかの例では、本明細書において開示される安定化剤は、任意の適切なモノヒドロキシフェノール成分または多価フェノール成分またはこれらの組み合わせを含む。いくつかの例では、このような安定化剤は、抗酸化剤または抗微生物剤としても機能する。いくつかの例では、本明細書において開示される増粘剤または粘性増強剤は、液体経口剤形の口触りを改善し、かつ/または消化管の内層をコーティングするのを助ける。例示的な増粘剤としては、アカシア、アルギン酸ベントナイト、カーボマー、カルボキシメチルセルロースカルシウムまたはカルボキシメチルセルロースナトリウム、セトステアリルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、グリセリン、ゼラチングアーガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「HPMC」)、任意の他の適切なセルロースベースの成分、マルトデキストリン、ポリビニルアルコール、ポビドン、プロピレンカーボネート、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプントラガカント、およびキサンタンガム、またはこれらの組み合わせが挙げられる。増粘剤は、含まれる場合、溶液の全容量に基づいて、約0.1容量パーセント~20容量パーセント(v/v)の量で存在し得る。1つの例では、グリセリンは、溶液の全容量に基づいて、約1容量パーセント~10容量パーセント(v/v)の量で存在し得る。増粘剤の例示的な量は、溶液の全容量に基づいて、約1容量パーセント~12容量パーセント(v/v)および好ましくは約4容量パーセント~10容量パーセント(v/v)の量を含む。例示的な量は、約6~10容量パーセント(v/v)を含む。いくつかの例では、甘味剤が、所望により経口液体剤形中に含まれ得る。例示的な甘味剤としては、ソルビトール、サッカリン、アセスルファム、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、キシリトール、マルチトール、スクロース、アスパルテーム、フラクトース、ネオテーム、グリセリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アセスルファムK、マンニトール、転化糖およびこれらの組み合わせが挙げられ、または1種以上のスクラロース含有成分またはサッカリン含有成分などの甘味剤含有成分を、組成物の味を調整するために加えることができる。あるいは、または加えて、ソルビトール液、シロップ(ショ糖液)または高果糖コーンシロップの1つ以上などの粘性甘味剤を使用でき、甘くする効果に加えて、粘性を増加させるために、および沈降を遅延させるために有用であり得る。いくつかの例では、甘味剤は、アセスルファム含有成分、スクラロース含有成分、サッカリン含有成分を含む。いくつかの例では、甘味剤は、グリセリン、サッカリン、液糖(ショ糖液)、またはこれらの組み合わせを含む。このような甘味剤は、存在する場合、活性薬剤の味の任意の異臭を最小限にするかまたはマスクし、また必要に応じて製剤に含まれる任意の他の異臭成分を最小限にするかまたはマスクするのに十分な量で存在し得る。甘味剤は、含まれる場合、溶液の全容量に基づいて、約0.1容量パーセント~85容量パーセント(v/v)の量で存在し得る。1つの例では、甘味剤は、溶液の全容量に基づいて、約5容量パーセント~70容量パーセント(v/v)の量で存在し得る。例示的な量のグリセリンは、約2容量パーセント~18容量パーセント(v/v)、好ましくは約5容量パーセント~10容量パーセント(v/v)を含む。いくつかの例では、例示的な量の液糖は、溶液の全容量に基づいて、約40容量パーセント~75容量パーセント(v/v)、好ましくは約60容量パーセント~70容量パーセント(v/v)を含む。いくつかの例では、ある種の増粘剤または甘味剤は、薬学的に許容されるキャリアの成分として含まれる場合、溶解剤もしくは安定化剤またはその両方として作用するかまたは、他の特性を有する。例えば、グリセリンなどの甘味剤は、増粘剤として作用する。いくつかの例では、経口液体剤形は、甘味剤に加えて、香味剤、例えば、1種以上の天然および人工の果物、人工バナナ、人工イチゴ、および人工パイナップルを含有する。いくつかの例では、着色剤は、液体剤形中に含まれる場合、より審美的かつ/または特徴的な外観を有する組成物を提供するのに十分な量で提供され得る。例示的な着色剤は、1種以上の人工有機食品添加物(例えば、食用赤色色素2号および3号、食用黄色色素4号および5号ならびに食用青色色素1号および2号などの食用色素)、水不溶性レーキ色素(例えば、上記の人工有機食品添加物のアルミニウム塩など)、および天然色素(例えば、βカロチン、クロロフィル、赤色酸化鉄など)を含む。他の適切な着色剤は、D&C赤色33号、FD&C赤色3号、FD&C赤色40号、D&C黄色10号、およびC黄色6号、またはこれらまたは上記の着色剤の任意の組み合わせを含む。いくつかの例では、1つまたは複数の適切な保存剤が所望により液体剤形中に含まれる。当該保存剤は、貯蔵寿命もしくは保存安定性またはその両方を拡張するのに十分な量で液体剤形中に存在し得る。例示的な保存剤としては、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベンおよびプロピルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、塩化ベンザルコニウム(BKC)、塩化ベンゼトニウム、石炭酸、硝酸フェニル水銀、チメロサール、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの例では、液体剤形のpHは、緩衝剤によって調整できる。緩衝剤は、溶液のpHを緩衝し有効成分の劣化を最小限にするのに十分な量で存在し得る。いくつかの例では、いくつかの緩衝剤は、液体剤形中の有効成分の溶解性も調節する。例示的な緩衝剤としては、1種以上のグルコン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩、安息香酸塩、および/または炭酸塩が挙げられる。pHは、二つ以上のこれらの緩衝剤の組み合わせ、例えば、クエン酸および安息香酸ナトリウムによって調整できる。緩衝剤は、緩衝液として存在し得る。他の例では、緩衝剤は、リン酸塩、例えばリン酸カリウムもしくはリン酸ナトリウム、またはこれらの組み合わせを含む。いくつかの例では、乳化剤は、液体に通常は可溶でありえない1種以上の有効成分または他の薬理学的に許容される賦形剤のより均一な分散を促進するのに十分な量で液体剤形中に含まれ得る。例示的な乳化剤としては、ゼラチン、卵黄、カゼイン、コレステロール、アカシア、トラガカンタ、ツノマタ、ペクチン、メチルセルロース、カーボマー、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、またはこれらの組み合わせが挙げられる。溶解剤は、例えば、1種以上の有効成分または他の賦形剤がより多くまたはより急速に溶解するのを促進するのに十分な量で液体剤形中に含まれ得る。例示的な溶解剤としては、アルコール、例えば、95%エチルアルコール、グリコール、グリセリン、D-マンニトール、トレハロース、ベンジル安息香酸、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびこれらの組み合わせが挙げられる。例示的なアルコール類としては、エタノール、イソプロパノール、第三級ブタノール、石炭酸、クレゾール、ベンジルアルコール、またはこれらの組み合わせが挙げられる。例示的なグリコールとしては、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを含む、グリコールによって官能化されたC2-20アルケンまたはこれらの組み合わせが挙げられる。溶解剤は、溶液の全容量に基づいて、約1容量パーセント~20容量パーセント(v/v)、または約4容量パーセント~15容量パーセント(v/v)の量で含まれ得る。溶解剤の例示的な量は、溶液の全容量に基づいて、約7容量パーセント~12容量パーセント(v/v)を含む。いくつかの例では、安定化剤は、液体剤形中に含まれ得る。例示的な安定化剤としては、例えば、エタノール、グリセリンなどの1種以上の液状賦形剤;ポリエチレングリコール、例えば、PEG-400、プロピレングリコールまたはポリプロピレングリコールなどの1種以上のグリコール;セルロースベースの成分、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)またはヒドロキシメチルセルロース(HMC);またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの例では、ある種の溶解剤は、安定化剤として効率的に作用する。例えば、プロピレングリコールは、溶解剤および安定化剤の両方として作用する。いくつかの例では、抗酸化剤が液体剤形中に含まれ得る。例示的な抗酸化剤としては、1種以上のフラボノイド、アントシアニジン、アントシアニン、プロアントシアニジン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。抗酸化剤は、使用される場合、使用される抗酸化剤の種類および濃度および保管微小環境の他の構成要素、例えばpH、緩衝剤などに応じて、例えば、周囲条件で少なくとも約1ヵ月間の、好ましくは少なくとも約3ヵ月間の、少なくとも約24ヵ月間の、またはより長い、長期安定性を液状組成物に与えるのに役立ち得る。
【0067】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、薬剤の濃度、溶解、分散、安定性、安全性、乳化、有効性、味、患者コンプライアンス、生物学的利用能、および/またはその他の薬物動態学的特性、化学的特性および/または物性に関して改善した性能またはより望ましい性能を示す。いくつかの例では、1種以上の有効量の活性薬剤を溶解して本明細書において開示される1種以上の薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤を含む、実質的に安定な溶液または安定な溶液を生成できる。いくつかの例では、本明細書において開示される経口液体剤形は、徐放性経口液体剤形であり得る。徐放性経口液体剤形は、ゲル、マトリックス、カプセルまたは樹脂材料からの、または徐放または持続放出技術の任意の組み合わせからの、液状組成物中にて懸濁または溶解させることができる1種以上の有効成分の徐放または持続放出を提供できる。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、1種以上の賦形剤、例えばキサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチンまたは他のポリマーおよびカラゲナンなどの複合コアセルベートぺア、および熱ゲル化性メチルセルロース製剤を含み得る。このような賦形剤は、従来の経口液体剤形と比較して有効成分の吸収特性を調整するように、懸濁された有効成分の溶解速度および/または拡散速度に影響を与えることができる。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、通常は液状である組成物として投与でき、その後に初めて胃の環境中で半固体またはゲル状の持続性マトリックスを形成できる。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、またはLVアルギン酸ナトリウム(低粘性、カルシウム減少)、ゼラチンおよびカラゲナン、メチルセルロース、またはこれらの組み合わせの水性 、部分的に水性の、または非水性の溶液または懸濁液を含み得る。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、キサンタンガム(例えば、Kelco SS-4749および他の市販されているタイプのもの)を約0.3~約3.0重量パーセントの量で含み得る。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、約1.0重量パーセントの量でキサンタンガムを含み得る。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、アルギン酸ナトリウムをそれぞれゼラチンおよびカラゲナンの約0.5~約3.0重量パーセントまたは約0.3~約1.5重量パーセントの量で含み得る。いくつかの例では、イオタ型のカラゲナンおよびB型ゼラチンは、それぞれ少なくとも約0.5重量パーセントのレベルで存在し得る。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、少なくとも約1重量パーセントのアルギン酸ナトリウムを含み得る。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、メチルセルロース(例えば、Type A15C、Dow Chemical Co.)を約1.0~約3.0重量パーセントの量で含み得る。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、メチルセルロース(例えば、Type A15C、Dow Chemical Co.)を約2.0重量パーセントの量で含み得る。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、例えば、ローカストビーンガムなどの他の賦形剤、NaClなどの塩、ソルビトールなどの糖、Na3PO4、CaCO3、Ca2HPO4などを含む。徐放性経口液体剤形は、炭酸カルシウムなどの炭酸塩化合物を含み得る。炭酸カルシウムは、胃内容排出の遅延によりゼラチン状マトリックスが長時間最も適切なpH環境と接触できるように、胃の所定領域でゼラチン状マトリックスを「浮遊させる」ことができる。いくつかの例では、徐放性経口液体剤形は、例えば、高分子量または低分子量のグリセリン、アルコール類およびグリコール類などの水性の溶液または懸濁液、部分的に水性の溶液または懸濁液、あるいは例えば、高分子量または低分子量のグリセリン、アルコール類およびグリコール類などの非水性の溶液または懸濁液を含む。
【0068】
いくつかの例では、本明細書において開示される液状組成物は、以下の1種以上の賦形剤を更に含み得る:アスコルビン酸、EDTA二水和物、グリセリン、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、ソルビトール液(例えば、70%)、スクラロース、食用色素(例えば、FD&C黄色6号)、食品香料または果実香料(例えば、人工または天然のオレンジ香料)、ミント香料(例えば、人工または天然のペパーミント香料)または水。いくつかの例では、液状組成物は、安息香酸ナトリウムおよびプロピオン酸ナトリウムの一方または両方を更に含み得る。いくつかの例では、液状組成物は、プロピルパラベン、メチルパラベンまたはプロピレングリコールの1つ以上を更に含み得る。いくつかの例では、液状組成物は、プソイドエフェドリンまたはその薬学的に許容される塩(例えば、塩酸プソイドエフェドリン)を更に含み得る。
【0069】
液状組成物の製造方法
一態様では、本明細書において開示される液状組成物を調製するための方法は、1種以上の活性薬剤を有する1種上のビーズを、泡形成を減少させる条件下で、当該1種以上のビーズの密度またはそれとほぼ同じであり得る密度および、チキソトロープ剤、水および1種以上の防腐剤を有する高密度チキソトロピー溶液と混合することを含む。別の態様では、液状組成物を調製するための方法は、低キャビテーション型プロペラを用いて混合することにより1種以上の活性薬剤を含む1種以上のビーズ、増粘剤および界面活性剤を含む混合物を混ぜること、および泡形成を最小限にするように当該混合物の表面下で当該混合物を再循環させることを含む。別の態様では、液状組成物を調製するための方法は、空気の導入を最小限にする条件下で、担体上またはその周囲の1種以上の活性薬剤および増粘剤を含む混合物を混ぜることを含む。空気および/または気泡の導入を最小限にする、減少させるおよび/またはなくす条件は、単独で、組合わされてかつ/または任意の順序で使用される以下の工程の1つ以上を含む:ダイアフラムポンプを使用して、例えば、水およびチキソトロープ剤ならびに1種以上の防腐剤、着色剤および風味剤を混合する工程;液体表面下に再循環チューブを配置する工程;液体を保持する容器の側面に沿って液体を加える工程;液体表面上にビーズ(例えば、1種以上の活性薬剤を含む1種以上のビーズ)を散らす工程;容器をこする1種以上のパドルがない状態で溶液を混合する工程;プロペラミキサーで溶液を混合する工程;溶液を、キャビテーションを減少させるかまたは最小限にする速度にてプロペラミキサーで混ぜ合わせる工程、および二つ以上のこれらの工程の組み合わせ。別の態様では、液状組成物を調製するための方法は、気泡の導入を最小限にする条件下で、低イオン濃度およびチキソトロープ剤を有する溶液中で1種以上の徐放性ビーズの混合物と担体上の1種以上の活性薬剤を混ぜ合わせることを含む。
【0070】
本明細書で使用する場合、用語「チキソトロピー」は、単純な振盪のような振動力を受けた場合に液化し、次いで静置された場合に再び凝固する、1種以上の薬剤、例えば、ある種のゲル類を表現するために使用できる。チキソトロピー挙動は、長鎖分子が流れの方向に配向する傾向がある場合に観察でき、すなわち加えた力が増加するにつれて、流れに対する抵抗が減少する。更に、高い剪断応力が取り除かれた場合、溶液はその元の粘性状態に素早く戻る。いくつかのセルロース類は、溶液が一定時間かけてその粘性状態に戻るチキソトロピー挙動を示す。チキソトロープ剤の例としては、セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)、ゴム(例えば、キサンタン)、コラーゲン、ゼラチンおよびエーロゲルが挙げられる。
【0071】
いくつかの例では、粒子、例えば微粒子またはナノ粒子を用いて製剤化される場合、1種以上の活性薬剤の放出プロフィールは、コーティング、例えば、ハードまたはソフトゼラチンカプセルコーティング、デンプンコーティング、樹脂またはポリマーコーティングおよび/またはセルロースコーティングを付加することによって容易に調整される。微粒子またはナノ粒子(例えば、マイクロカプセルまたはナノカプセルでのような)に限定されないが、このような剤形は、例えば、封止コーティング、腸溶コーティング、徐放性コーティングまたは標的化遅延放出コーティングによって更にコーティングできる。コーティングは、圧縮、成形または押出加工できる活性物質に適用できる。コーティングは、水性分散体を通してまたは適切な溶媒に溶解した後に適用できる。
【0072】
いくつかの例では、本明細書において開示される担体は、完全にまたは部分的に生分解性であり得る。例示的な担体としては、製剤の放出特性を制御する、透過性かつ半透性のマトリックスまたはポリマーが挙げられる。このようなポリマーとしては、例えば、アクリル酸セルロース類および酢酸セルロース類ならびに、ポリカチオンおよびポリアニオンの共沈によって形成した選択的透過性ポリマー類が挙げられる。他の担体としては、例えば、デンプン、加工デンプンおよびデンプン誘導体、キサンタンガム、アルギン酸、他のアルギン酸塩、ベニトアイト、ビーガム、寒天、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、マルメロ種子、オオバコ種子、タマリンド種子、オクラ・ゴム、アラビノガラクタン、ペクチン、トラガカンタ、スクレログルカン、デキストラン、アミロース、アミロペクチン、デキストリンなどを含むがこれらに限定されないゴム、架橋型ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸カリウムなどのイオン交換樹脂、カラゲナン(および誘導体)、カラヤゴム、生合成ガムなどが挙げられる。
【0073】
他の有用なポリマーとしては、以下が挙げられる:ポリカーボネート類(炭酸の線状ポリエステル);微孔性材料(ビスフェノール、微孔性ポリ(塩化ビニル)、微孔性ポリアミド、微孔性モドアクリルコポリマー、微孔性スチレン-アクリル樹脂およびそのコポリマー);多孔性ポリスルホン、ハロゲン化ポリ(ビニリデン)、ポリクロロエーテル、アセタールポリマー、ジカルボン酸または無水物とアルキレンポリオールのエステル化によって製造されたポリエステル、ポリ(アルキレンスルフィド)、フェノール樹脂、ポリエステル、不斉多孔性ポリマー、架橋オレフィンポリマー、親水性微孔性ホモポリマー、嵩密度の低いコポリマーまたはインターポリマー、およびその他の類似材料、ポリ(ウレタン)、架橋鎖延長ポリ(ウレタン)、ポリ(イミド)、ポリ(ベンズイミダゾール)、コロジオン、再生タンパク質、半固体架橋ポリ(ビニルピロリドン)。追加の添加剤およびそれらの量、および一次コーティング材料(1つまたは複数)の選択は、以下の特性:胃での溶解および崩壊に対する抵抗性;胃にある間の胃液および薬物/担体/酵素に対する不透過性;標的腸部位で迅速に溶解または崩壊する能力;貯蔵中の物理的および化学的安定性;無毒性;コーティングとしての適用容易性(基質親和性);および経済的実用性、に依存する。
【0074】
処置および使用
場合によっては、本開示は、本明細書において開示される抗生物質組成物を1種以上の細菌と接触させることを含む、1種以上の細菌を阻害するかまたは死滅させる方法を提供する。場合によっては、本開示は、本明細書において開示される抗生物質組成物を細菌感染と接触させることを含む、細菌感染を処置する方法を提供する。いくつかの例では、1種以上の細菌は、1種以上のグラム陰性細菌を含む。いくつかの例では、1種以上の細菌は、1種以上の多剤耐性グラム陰性細菌を含む。いくつかの例では、1種以上の細菌は、K.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)または任意のこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌は、表面に存在し得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌は、哺乳動物に存在し得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌は、ヒトに存在し得る。いくつかの例では、上記接触は注射、例えば静脈内注射または皮下注射によるものであり得る。いくつかの例では、上記接触は、局所適用によるものであり得る。いくつかの例では、上記接触は、経口であり得る。いくつかの例では、上記接触は、少なくとも約1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、18時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間または1ヵ月の間持続する。いくつかの例では、上記接触は、1時間につきまたは毎日、1、2、3、4、5、6、7または8回発生する。いくつかの例では、上記接触は、毎日約3、4、5、6、7、8、9、10、11または12分または時間毎に発生する。いくつかの例では、抗生物質組成物は、単一単位用量であり得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌と接触される有機セレン剤の量は、用量あたり約10~100mg、約10~50mgまたは約20~30mg、例えば約25mgであり得る。いくつかの例では、細菌感染または1種以上の細菌と接触される銀の量は、用量あたり約1~20mg、約1~10mgまたは約5~7mg、例えば約6mgであり得る。
【0075】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、細菌感染またはウイルス感染を、およびいくつかの例では、原虫感染を処置または防止するために使用できる。いくつかの例では、当該処置は、1種以上の細菌を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、抗生物質組成物は、免疫系が弱まった患者(特にHIV症例において肺炎を予防するために)、免疫抑制剤を服用している患者、癌患者および手術を受けている患者などのリスク集団への予防措置(予防薬)として提供できる。いくつかの例では、抗生物質組成物を外科的処置において使用して、施された切開部の感染を防止するのを補助できる。いくつかの例では、抗生物質組成物を歯科における抗生物質予防投与で使用して、菌血症およびそれに伴う感染性心内膜炎を防止できる。いくつかの例では、抗生物質組成物を使用して、特に癌に関連した好中球減少の場合に感染を防止できる。
【0076】
いくつかの例では、抗生物質組成物を、経口適用、局所適用、または注射によって例えば、静脈内適用、皮下適用、もしくは筋肉内適用できる。いくつかの例では、抗生物質組成物を、例えば、ざ瘡および蜂巣炎を含むいくつかの皮膚症状に対し局所的に、または結膜炎に対し結膜上に点眼形態で、または耳感染および水泳者耳の急性症例に対し点耳液形態で投与できる。いくつかの例では、局所適用の利点は、感染部位での高濃度かつ持続する濃度の抗生物質を達成すること;全身性吸収および全身毒性の可能性を低下させること、および必要とされる抗生物質の全容量が減少し、これによって抗生物質の誤用のリスクも低下することを含む。いくつかの例では、抗生物質組成物をある種の外科的創傷に局所的に適用して手術部位の感染のリスクを低下させることができる。
【0077】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、表面を殺菌するために、例えばコーティングの形態で使用される。例えば、抗生物質組成物は、手術前に、外科用器具および外科用器具と接触している任意の表面に適用できる。実験用器具もまたこのような抗生物質組成物によってコーティングされて、当該器具を用いて行われる測定に干渉し得る特定の微生物の相互汚染を防止できる。場合によっては、抗生物質組成物を、膜、シート、液体、エアロゾルまたはコーティング形態で生物学的または非生物学的表面に適用できる。更なる適用としては、移植臓器上に抗生物質組成物を付着させて移植プロセスの間の病原菌による感染を防止することを含んでよい。
【0078】
いくつかの例では、処置の適切な対象は、表面であり得る。いくつかの例では、処置の適切な対象は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、または非ヒト霊長類、例えばサル、チンパンジーまたはヒヒであり得る。いくつかの例では、対象は、ヒトであり得る。いくつかの例では、対象は、成体であり得る。いくつかの例では、対象は、小児であり得る。いくつかの例では、対象は、2歳以上、4歳以上、6歳以上、12歳以上または18歳以上であり得る。いくつかの例では、処置の適切な対象は、18歳、12歳または6歳より若い場合がある。
【0079】
いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、約4~約6時間毎、約12時間毎、約24時間毎、約48時間毎に、またはより頻繁に対象に投与される。いくつかの例では、本明細書において開示される組成物は、1日に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、またはより頻繁に投与できる。いくつかの例では、本明細書において開示される剤形は、投与の約1分~約20分後に、例えば、約2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分、15分、16分、17分、18分、19分、20分、21分、22分、23分、24分、25分後に活性薬剤の効果的な血漿濃度を提供する。いくつかの例では、本明細書の開示の剤形は、投与の約20分~約24時間後で、例えば、投与の約20分、30分、40分、50分、1時間、1.2時間、1.4時間、1.6時間、1.8時間、2時間、2.2時間、2.4時間、2.6時間、2.8時間、3時間、3.2時間、3.4時間、3.6時間、3.8時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間または24時間後に活性薬剤の効果的な血漿濃度を提供する。いくつかの例では、活性薬剤は、対象において約4~約6時間、約12時間、約24時間、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30日間を含むが、これらに限定されない1日~30日の間、効果的な血漿濃度で存在し得る。
【0080】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、1種以上の多剤耐性細菌を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、1種以上のグラム陽性細菌またはグラム陰性細菌を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、1種以上の多剤耐性グラム陽性細菌を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、3つ以上の抗菌薬分類において少なくとも1種の薬剤に対して非感受性である、1種以上の多剤耐性グラム陰性細菌を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、根状菌(Bacillus cereus var mycoides)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大便連鎖球菌(Streptococcus faecalis)、黒色麹菌(Aspergillus niger)、黒酵母菌(Aureobasiduimpullulans)、シェトミウム・グロボサム(Chaetomium globosum)、ミルク腐敗菌(Gliocladium virens)、アオカビ(Penicillumfuniculosum)、カンジダアルビカンス(Candida albicans)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、腸内細菌科、球菌、細菌、バンコマイシン耐性腸球菌、または出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を含む、1種以上の細菌を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、K.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)、大腸菌(E.coli)または任意のこれらの組み合わせを含む、1種以上のグラム陰性細菌を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、大腸菌(Escherichia coli、E.coli)、サルモネラ属(Salmonella)、赤痢菌属(Shigella)および他の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス属(Pseudomonas)、モラクセラ属(Moraxella)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、ブデロビブリオ属(Bdellovibrio)、酢酸菌属、レジオネラ属(Legionella)、シアノバクテリア、スピロヘータ、緑色硫黄細菌ならびに緑色非硫黄細菌の1種以上を阻害するかまたは死滅させる。いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、1種以上の細菌に対して約:50μM、25μM、20μM、10μM、5μM、1μM、0.5μM、0.1μM、50nM、25nM、20nM、10nM、5nMまたは1nM未満の50%抑制濃度(IC50)を示す。
【0081】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、ブドウ球菌属(Staphylococcus)(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis))、連鎖球菌属(Streptococcus)(例えば、緑色連鎖球菌(Streptococcus viridans)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae))、エンテロコッカス属(Enterococcus)、バシラス属(Bacillus)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、プロピオン酸菌属(Propionibacterium)、クラミジア属(Chlamydia)、モラクセラ属(Moraxella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)およびナイセリア属(Neisseria)の種である1種以上の生物によって引き起こされる感染を処置する。いくつかの例では、当該種は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、緑色連鎖球菌(Streptococcus viridans)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium sp.)、プロピオン酸菌属菌(Propionibacterium sp.)、モラキセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)である。
【0082】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、点眼または眼クリームの形態などの眼への局所投与に適切である場合があり、当該組成物は、少なくとも1つの眼組織のグラム陽性細菌感染またはグラム陰性細菌感染を処置および/または予防するのに有効な濃度の活性薬剤、および流涙によって眼から組成物が除去される速度を低下させる少なくとも1種の眼科的に許容可能な賦形剤の組み合わせを含む。
【0083】
いくつかの例では、本明細書において開示される抗生物質組成物は、微生物バイオフィルムを透過するかまたは溶解する。生物学的バイオフィルムとも称される微生物バイオフィルムは、高分子物質の細胞外マトリックス中に埋め込まれ生物表面または非生物表面に付着する微生物細胞の共同体である場合がある。広範な微生物(関連するバクテリオファージおよび他のウイルスを有する細菌、真菌および/または原生動物)が、これらのバイオフィルム中に見出される。バイオフィルムは、自然界に遍在し、幅広い環境中で一般的に見出される。バイオフィルムは、多数の感染症に関係付けられるとして、および特に感染症処置に対する抵抗性へのそれらの寄与が科学界および医学界によってますます認識されている。バイオフィルムは、哺乳動物における多数の病態の原因物質となる場合があり、ヒトの感染症の80%に関与している。例としては、皮膚感染および創傷感染、中耳感染、消化管感染、腹膜感染、尿生殖路感染、口腔軟組織感染、歯垢形成、眼感染(コンタクトレンズ汚染を含む)、心内膜炎、嚢胞性線維症における感染、ならびに留置用医療用具、例えば人工関節、歯科用インプラント、カテーテルおよび心臓移植組織の感染が挙げられる。バイオフィルム中の微生物は、その浮遊性対応物より抗微生物処置に対して著しく抵抗性であり得る。バイオフィルム形成は、微生物が表面に付着する能力のみに限定されない。バイオフィルム中で増殖している微生物は、バイオフィルムが最初に発生した実際の物理的な基層とよりも、各々の間で相互作用し得る。
【実施例】
【0084】
実施例1 試験管内実験
1.1 結果
銀とエブセレンの組み合わせは細菌に対する選択的で相乗作用的な毒性を示した
グラム陰性モデル細菌である大腸菌(E.coli)の増殖に対するエブセレンとの組み合わせでの硝酸銀の効果をマイクロプレートにおいて調べた。DHB4株の一晩培養物をルリア・ベルターニ(LB)培地で1000倍希釈し、硝酸塩(AgNO
3)としてイオン性銀(Ag
+)で16時間処理した。Ag
+単独は16時間の処理後に42μMの最小発育阻止濃度(MIC)で大腸菌(E.coli)の増殖を阻害し、一方で2μMのエブセレン追加はAg
+のMICを4.2μMへと劇的に減少させた(p=0.000028<0.001)(
図1A)。一方、組み合わせた5μMのAg
+および2.5μMのエブセレンは、ヒトHeLa細胞に対する相乗作用的な毒性を示さなかった(p=0.98>0.05)(
図1B)。加えて、細菌細胞および哺乳動物細胞に対するエブセレン自体(2、4、8μM)の毒性は、同程度であり(
図1Aおよび1B)、細菌増殖に対する効果を有しなかった(
図1C)。これらの結果は、エブセレンと組み合わせたAg
+による処置は、哺乳動物細胞より細菌に対する有意な選択的で相乗作用的な毒性を示すことを示唆し、エブセレンの存在下での細菌に対する銀のMICの劇的な減少は、銀の全身での医学的利用を可能にする。
【0085】
エブセレンとの組み合わせでのAg
+による大腸菌の大規模な増殖阻害も、振盪中の15ml試験管において観察された。大腸菌DHB4株細胞を、0.4のOD
600nmに増殖させ、5μMのAg
+およびの連続的濃度のエブセレン(0、20、40、80μM)で処理した。成長曲線は、LB培地におけるエブセレンとの組み合わせたAg
+の相乗作用的な静菌効果を示し(
図2A)、5μMのAg
+および80μMのエブセレンの組み合わせでの相乗作用的な殺菌効果がLB寒天平板でのコロニー形成能アッセイによって更に確認された(
図2B)。一方、80μMのエブセレンのみが最初の8時間で大腸菌の増殖を阻害でき、処置の12時間後に増加し正常に戻る。40μMのエブセレンまたは5μMのAg
+単独では細菌増殖を阻害しなかったが、エブセレンと組み合わせたAg
+は大腸菌増殖の強い阻害をもたらした(
図2Aおよび2B)。これに一致して、組み合わせでの5μMのAg
+および20μMのエブセレンは、ヨウ化プロピジウム(PI)染色の頻度を増強した(p=0.00083<0.001)(
図2Cおよび2D)。PIは、細胞膜の透過性および死細胞を検出するために幅広く使用される膜不透過性蛍光色素である。とりわけ、これらの結果は、組み合わせたAg
+およびエブセレンが菌に対する選択的な相乗効果を示したことを示唆する。
【0086】
臨床的に単離された最も処置が困難な5種のMDRグラム陰性病原体は、エブセレンと組み合わせたAg+に感受性であった
臨床において最も処置が困難な以下の5種のMDRグラム陰性病原体種が存在し、それらは典型的なGSH陽性の細菌でもある:クレブシェラ肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)および大腸菌(Escherichia coli)。各々の種から2株を単離し、一晩培養物をLB培地で1000倍希釈し、連続的濃度のエブセレンと組み合わせたAg+で16時間処理した。試験された10株全てに対するエブセレンと組み合わせたAg+の相乗作用的な殺菌効果が観察された(表1)。これらの5つの種の中で、A.バウマンニおよびE.クロアカは非常に容易に形成される薬剤耐性株であり、それらは臨床において、イミペネム、セフェピムおよびセホタキシムなどを含む第四世代セファロスポリンによって処置される必要がある。単離されたイミペネム、セフェピムおよびセホタキシム耐性のA.バウマンニ(AB-1/2)およびE.クロアカ(ECL-1)株が同定され(表2および3)、それらはエブセレンと組み合わせたAg+に感受性であった(表1)。これらの結果は、既存の耐性を有する広範な細菌に対して活性である、エブセレンと組み合わせたAg+が『救命への一縷の望み』であるかもしれないことを示し、このことは、従来の抗生物質に耐性がある感染に対してさえ、正しい経験的治療の的確な機会を増加させるであろう。
【0087】
エブセレンとの組み合わせでのAg
+は、細菌のTrx系およびGSH系を直接的に破壊した
Ag
+およびエブセレンは一般にチオールを標的とする薬剤であると考えられているため、細胞における細菌のTrxRまたはTrxの活性を、エブセレンと組み合わせたAg
+で処理した(
図3Aおよび3B)。細胞抽出物中のTrxRおよびTrx活性は、Ag
+またはエブセレン単独のいずれによっても影響を受けなかったが、組み合わせた5μMのAg
+および20μMのエブセレンは、TrxR(p=0.00018<0.001)およびTrx(p=0.0036<0.01)活性の劇的な消失をもたらした(
図3Aおよび3B)。この観察と一致して、レドックスウエスタンブロット(Redox Western Blot)で測定されたTrx1の酸化還元状態も、エブセレンと組み合わせたAg
+の処置によって影響を受けた。Trx1は未処理の細菌においては主に還元型であり、組み合わせた薬剤による処理によって酸化された(
図3C)。Trxの酸化還元状態に対する上記処理の効果を調べるために、Trx2抗体を本実験で使用して酸化型Trx2を検出した。還元型Trx2は、おそらく認識部位の遮断のために、この抗体により検出できなかった。酸化型Trx2は、上記処理で観察されなかったが、陽性対照であるジアミドにより酸化されたTrx2は検出された(
図3D)。これらの結果は、Trx2がTrx1と比較して上記処理に対してそれほど感受性でないことを示した。加えて、Trx1および2のタンパク質レベルは、Ag
+およびエブセレンの組み合わせによる10分の処理により影響を受けなかった(
図3Cおよび3D)。
【0088】
また5μMのAg
+および20、40または80μMエブセレンの添加は、GSHレベルを低下させた。組み合わせでの5μMのAg
+および20μMのエブセレンによる処理は、対照と比較して10分で機能的GSHを減少させた(p=0.000021<0.001)(
図3E)。80および40μMのエブセレン単独もGSHレベルも低下させたが、同一濃度での組み合わせた対応する薬剤ほど効果的でなかった(p=0.000076<0.01および0.000029<0.01)。代わりに、5μMのAg
+および20μMのエブセレンのいずれも、対照と比較して試験した条件でGSHレベルを調節しなかった(p=0.081>0.05および0.712>0.05)(
図3E)。
【0089】
エブセレンと組み合わせたAg
+により減少または欠乏したGSHが、タンパク質のS-グルタチオン付加に影響を及ぼし得るかどうかを更に調査した(
図3F)。タンパク質のS-グルタチオン付加は、エブセレンと共にAg
+で処理された細菌において減少したが、5μMのAg
+または20μMのエブセレン単独のみとインキュベートされた細菌では減少しなかった。したがって、5μMのAg
+の存在は、20μMのエブセレンと組み合わせた場合にタンパク質のS-グルタチオン付加を減少させ、GSHの欠失を反映した(
図3F)。
【0090】
TrxおよびGSH/Grxが主要なチオール依存性の系であるため、TrxまたはGSH系を欠損する大腸菌レドックス変異体に対するエブセレンと組み合わせたAg+の効果を調べた。GSH系の構成要素(gshA)を欠きTrxおよびTrxRに依存して生存する大腸菌変異体は、野生型(WT)と比較して、Ag+およびエブセレンによる処理に対してより感受性であった(表4~6)。全ての結果はエブセレンと組み合わせたAg+が細菌のTrxおよびGSH系に対して強い相乗効果を有し、新規の抗生物質戦略としてチオール依存性の系を標的とすることを示した。
【0091】
銀は細菌のTrxおよびTrxR活性を不可逆的に阻害する
細胞内TrxRおよびTrx1酵素活性は減少した一方で対応するタンパク質のレベルはエブセレンと組み合わせたAg
+による処理によって変化せず、TrxRおよびTrxが阻害されたことを示唆した。エブセレンは細菌TrxRの既知の可逆的競合阻害剤であるため、大腸菌のTrxRおよびTrx活性に対するAg
+の効果を調べた。事前にNADPHとインキュベートした100nMの大腸菌TrxRをAg
+とインキュベートした場合、IC
50は、金化合物であるオーラノフィンと同程度の約50nMであった(
図4A)。大腸菌TrxRがAg
+によって特異的に阻害され得るかどうかを検出するために、還元型大腸菌Trx1の存在下でこの酵素をAg
+とインキュベートした。するとTrxRに対する阻害効率が減少した(
図4A)。これは、TrxがAg
+とも反応し、TrxRに対し保護的役割を果たすことを示唆した。蛍光分光学法は、Ag
+が還元型Trx1と相互作用しその蛍光スペクトルを変化させることを更に確認した(
図4B)。1~10μMのAg
+とのインキュベーションは、10μMのTrx1のトリプトファン蛍光強度を増加させた。一方、10μMのTrx1の蛍光強度は、20~100μMのAg
+で処理した場合減少した(
図4B)。これに一致して、Trx活性は、Ag
+濃度の増加と共に減少した(
図4C)。Trx1活性は脱塩後に回復しなかったため、Ag
+によるTrx1の阻害は不可逆的であった(p=0.00021<0.001)(
図4D)。このことは、Ag
+が還元型の大腸菌Trx1のスルフヒドリル基と堅固な複合体を形成することを示唆した。これら全ての結果は、銀が細菌のTrxおよびTrxR活性を不可逆的に阻害することを示す。
【0092】
ROSは、Ag
+およびエブセレンの相乗作用的な殺菌効果の決定因子である
GSH系およびTrx系の1つの主な機能は、ROSを除去して細胞内酸化還元バランスを保ち酸化ストレスから守ることである。Trx系の阻害およびGSHの欠乏が、ROS増加の原因である可能性がある。ROSレベルの増加が殺菌効果を説明するかどうか決定するために、ROSレベルをAg
+およびエブセレンで処理した細胞で測定した。5μMのAg
+または20μMのエブセレン単独による処理は、ROS濃度を変化させなかった一方で、5μMのAg
+および20μMのエブセレンの組み合わせはROSレベルの増加をもたらした(p=0.00012<0.001)。更に、組み合わせた5μMのAg
+および20μMのエブセレンによる処理によって引き起こされたH2O2レベルの増大が、アンプレックスレッド法によっても確認された(p=0.00057<0.0001)(
図5C)。さらに、H
2O
2による傷害からの大腸菌デヒドラターゼクラスターを障害するOxyRコンポーネントを欠く大腸菌変異体(OxyR
-)は、野生型(WT)と比較してAg
+およびエブセレンによる処理に対してより感受性であった(表4~6)。全ての結果は、細菌に対するAg
+とエブセレンの致死性はROS生成を伴うことを示した。
【0093】
1.2 材料および方法
菌株
全ての試験管内実験は、大腸菌(Escherichia coli、E.coli)のDHB4株およびそれに由来する酸化還元表現型株(表6)および臨床的に単離された多剤耐性(MDR)グラム陰性菌(表2、3、7)を用いて実施した。全ての生体内実験は、中国湖北省の三峡大学附属第一医院(First Affiliated Hospital of Three Gorges University)において臨床患者の尿から単離された大腸菌ZY-1株(表7)を、三峡大学附属第一医院の倫理委員会からの研究の承認および当該患者のインフォームドコンセントを得たうえで使用して実施した。当該株を完全に同定し、保存した。他の臨床分離MDRグラム陰性菌(表2、3)は、中国湖北省の三峡大学の人民医院(Renmin Hospital of Three Gorges University in Hubei Province,PRC)において、全ての承認およびインフォームドコンセントを得て臨床患者から得られた。
【0094】
抗生物質および化学物質
全ての実験は、ルリア・ベルターニ(LB)培地(EMD millipore)で実施された。特に明記しない限り、大腸菌株および臨床病原体の抗菌実験について以下の濃度が使用された:0、1、2、4、5、20、40、80μMの2-フェニル-1,2-ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン(エブセレン)(Daiichi)、および0、0.625、1.25、2.5、5、10、20、40、80μMの硝酸銀(Sigma-Aldrich)。4-アセタミド-4 '-マレイミジルスチルベン-2,2'-二スルホン酸(AMS)(Invitrogen)、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)、DCTM protein assay(Bio-RAD)、ヨウ化プロピジウム(PI)(BD Biosciences)、大腸菌DHB4株のTrxR、ヒツジ抗大腸菌Trx1抗体およびラビット抗大腸菌Trx2抗体はIMCO社(ストックホルム市、スウェーデン国)から購入、ヤギ抗ラビットIgG-HRP(Santa Cruz、ロット番号:H1015)、ラビット抗ヤギIgG-HRP(Southern Biotech、ロット番号:12011-PG56)、グルタチオン-タンパク質複合体に対するIgG2aマウスモノクローナル抗体(VIROGEN、ロット番号:101-A、クローン番号:D8)、4-12%のBolt Bis-Trisゲル(VWR)、全ての他の試薬は、シグマアルドリッチから購入した。
【0095】
大腸菌の増殖に対するエブセレンとの組み合わせでの銀の相乗効果
大腸菌DHB4株細胞の一晩培養物を、ルリア・ベルターニ(LB)培地で1000倍に希釈し、連続的濃度のAgNO3および/またはエブセレンで16時間処理した。細胞生存率を、600nmで吸光度を測定することによって決定した。0.8%(v/v)のDMSOで処理した培養物を、対照として使用した。
【0096】
哺乳動物細胞に対するエブセレンとの組み合わせでの銀の毒性分析
HeLa細胞をATCCから購入し、マイコプラズマ検出およびSTR分析(ATCC、アメリカ合衆国)によるヒト細胞株認証を行った。HeLa細胞を、5%CO2インキュベーターで37℃にて10%のFCS、100単位/mlのペニシリンおよび100g/mlのストレプトマイシンを補充したDMEM培地中で培養した。当該細胞を、96マイクロウェルプレートに播種し、70~80%の培養密度まで増殖させた。当該細胞を、エブセレンおよびAgNO3の連続的組み合わせで24時間処理した。細胞毒性を、MTTアッセイによって検出した。
【0097】
臨床分離MDRグラム陰性菌の増殖に対するエブセレンとの相乗作用的な組み合わせでの銀の抗菌効果
10の臨床分離MDRグラム陰性(GSH陽性)株を0.4のOD600nmに増殖させ、96マイクロウェルプレート中の100μlのLB培地に100倍希釈した。100μlのエブセレンおよびAgNO3の系列希釈物を、個々のウェルに加えた。最小阻止濃度(MIC)を、37℃での16時間培養の後測定した。0.8%(v/v)のDMSOで処理した培養物を、対照として使用した。
【0098】
大腸菌株に対するエブセレンとの組み合わせでの銀の殺菌効果の検出
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmに15ml試験管中で増殖させ、組合みわせでの5μMのAgNO3および連続的濃度のエブセレン(0、20、40、80μM)で処理した。未処理の大腸菌の生存を、OD600nmの測定およびコロニーの計数によって、抗生物質処理した細胞と比較した。コロニー形成能アッセイのために、細胞を6,000rpmで5分間遠心分離することによって10分、1時間、2時間および4時間の時点で収集し、PBSで3回完全に洗浄した。当該細胞をPBSで連続希釈し、100μl培養物をLBプレートに蒔いた。コロニーを終夜培養後に計数し、CFU/mlを以下の公式を使用して算出した:[(コロニー数)*(希釈倍率)]/(蒔いた量)。
【0099】
さらに、上記のように培養し洗浄した細胞を、6,000rpmで5分間遠心分離することによって10分の時点で収集し、PBSで3回完全に洗浄した。核を細胞透過物の非存在下で5μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)で20分間染色し、フローサイトメトリー(CyAn ADP、Beckman coulter)によって分析した。
【0100】
銀およびエブセレンで処理した大腸菌の細胞可溶化物中のTrx/TrxR活性およびGSH量の測定
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmにLB培地で増殖させ、当該細菌細胞を異なる希釈度のエブセレンおよびAgNO3で10分間処理した。細胞を、6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、次いで細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する溶解緩衝液(25mMのTris・HCl(pH7.5)、100mMのNaCl、2.5mMのEDTA、2.5mMのEGTA、20mMのNaF、1mMのNa3VO4、20mMのβ-グリセロリン酸ナトリウム、10mMのピロリン酸ナトリウム、0.5%のTriton X-100)中に再懸濁し、超音波破砕によって溶解した。細胞可溶化物を、13,000rpmで20分間遠心分離することによって得て、タンパク質濃度を、ローリータンパク質分析(Bio-Rad DCTM)によって測定した。
【0101】
細胞抽出物中の大腸菌DHB4株のTrxR活性を、DTNB還元活性アッセイで測定した。当該実験は、5μMの大腸菌Trx存在下で、50mMのTris・HCl(pH7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNBを含有する溶液中で、96マイクロウェルプレートを用いて実行した。412nmでの吸光度を、VERSAマイクロウェルプレートリーダーを用いて5分間測定し、最初の2分の傾斜をTrxR活性を表現するために使用した。Trx活性を、反応混合物中の5μMの大腸菌Trxの代わりに100nMの大腸菌TrxRを組み合わせたこの方法により検出した。
【0102】
GSHレベルを測定するために、25μgの細胞可溶化物を、50nMのGR、50mMのTris・HCl(pH 7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNBを含有する溶液に加えた。412nmでの吸光度を5分間測定した。
【0103】
組み合わせでの銀およびエブセレンで処理された大腸菌におけるTrxの酸化還元状態
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmにLB培地で増殖させ、当該細菌細胞を異なる希釈度のエブセレンおよびAgNO3で10分間処理した。ウエスタンブロット法を、エブセレンおよびAgNO3で処理された大腸菌細胞のTrx1およびTrx2の酸化還元状態を検出するために実行した。上記細胞を6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、1.0ml中の5%TCAを用いてタンパク質を沈殿させた。沈殿物を1mlの事前に氷冷したアセトンで3回洗浄し、15mMのAMSを含有する0.5%のSDSを加えた50mMのTris・HCl(pH 8.5)中で37℃にて2時間溶解した。タンパク質を、13,000rpmで20分間遠心分離してペレットを除去することにより得て、タンパク質濃度を、ローリータンパク質分析(Bio-Rad DCTM)により測定した。Trx1およびTrx2の酸化還元状態を、ヒツジ抗大腸菌Trx1抗体(ウサギ抗大腸菌Trx2抗体)を1000倍希釈で用いて検出し、続いてChemiluminescence Reagent Plusの検出を行った。
【0104】
組み合わせでの銀およびエブセレンで処理された大腸菌におけるタンパク質のS-グルタチオン付加
AgNO3との組み合わせでのエブセレンにより処理された大腸菌細胞のS-グルタチオン付加タンパク質の総量を、ウエスタンブロット法によって検出した。細胞を上記の通り培養および洗浄し、30mMのIAMを含有する溶解緩衝液(25mMのTris・HCl(pH7.5)、100mMのNaCl、2.5mMのEDTA、2.5mMのEGTA、20mMのNaF、1mMのNa3VO4、20mMのβ-グリセロリン酸ナトリウム、10mMのピロリン酸ナトリウム、0.5%のTriton X-100、プロテアーゼ阻害剤カクテル)中に再懸濁した。超音波破砕による溶解後、細胞可溶化物を、13,000rpmで20分間遠心分離することによって得た。タンパク質濃度をローリータンパク質分析(Bio-Rad DCTM)によって測定した。試料を90℃にて10分間SDSローディングバッファーとインキュベートし、次いで、MESランニングバッファーを用いて4~12%Bolt Bis-Trisゲル上で分離した(150V、40分)。ウエスタンブロットアッセイを、グルタチオン-タンパク質複合体に対するIgG2aマウスモノクローナル抗体(VIROGEN、101-A/D8)を用いて実行した。
【0105】
大腸菌DHB4株の酸化還元表現型株の増殖に対する銀およびエブセレンの相乗効果
11の大腸菌DHB4酸化還元表現型株を、0.4のOD600nmに増殖させ、96マイクロウェルプレート中の100μlのLB培地に100倍希釈した。エブセレンおよびAgNO3の系列希釈物を、個々のウェルに加えた。最小阻止濃度(MIC)を、37℃での24時間培養後に測定した。0.8%(v/v)のDMSOで処理した培養物を対照として使用した。
【0106】
銀による組換え型細菌Trx/TrxRの阻害
銀による組換え型細菌TrxRの阻害を、大腸菌酵素を使用して実行した。実験は、5μMの大腸菌Trx存在下で、50mMのTris・HCl(pH7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNBを含有する溶液中で、96マイクロウェルプレートを用いて実行した。412nmでの吸光度を、VERSAマイクロウェルプレートリーダーを用いて5分間測定し、最初の2分の傾斜を、TrxR活性を表現するために使用した。Trx活性を、反応混合物中の5μMの大腸菌Trxの代わりに100nMの大腸菌TrxRを組み合わせたこの方法により検出した。
【0107】
蛍光スペクトルの分析
銀を有する還元型大腸菌Trxの蛍光スペクトルを、280nmでの励起を使用するPerkinElmer Enspire Multilabel Readerで10μMにおいて記録した。
【0108】
ROS生成の測定
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmでの吸光度にLB培地で増殖させ、当該細菌細胞を異なる組み合わせのエブセレンおよびAgNO3で10分間処理した。細菌におけるROS生成量を分析するために、細胞を6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、5μMのH2DCF-DAで20分間染色した。インキュベーション後に、細胞を遠心沈殿しPBSに再懸濁し、ROS生成をフローサイトメトリー(CyAn ADP、Beckman coulter)によって定量化した。
【0109】
H2O2生成
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmでの吸光度にLB培地で増殖させ、当該細菌細胞を20μMのエブセレンおよび5μMのAgNO3で10分間処理した。細胞を、6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、10秒間超音波処理した。50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中の50μMのAmplex(商標) Red試薬(Molecular Probes社、オレゴン州ユージーン)、0.1U/mLのHRPの存在下で、50μlの試料を光から保護して室温にて30分間インキュベートし、560nmでの吸光度で検出した。
【0110】
大腸菌の増殖に対するエブセレンの効果
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmに増殖させ、エブセレンの系列希釈物(0、2、4、8μM)で16時間処理した。細胞生存率を、600nmで吸光度を測定することによって決定された。0.8%(v/v)のDMSOで処理した培養物を、対照として使用した。
【0111】
直接生存率アッセイ
直接生存率アッセイを実施して、エブセレンおよびAgNO3で処理した大腸菌DHB4株の健康なマウスの血液中での生存能力を評価した。リン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.6)で処理した細胞を陽性対照として使用し、この実験を二度繰り返して実施した。要約すると、血液を3匹のマウスから抽出し、ヘパリンで凝血防止されたチューブに採取した。約100個の大腸菌DHB4細胞を対数増殖期中に収集し、殺菌したPBSで洗浄し、100μlの血液に加えた。37℃にて6時間のインキュベーション後に、各々の血液試料からの二連の100μlアリコートをLB寒天上に広げ、生存しているコロニーを終夜培養後に数えた。結果は、エブセレンおよびAgNO3は自然免疫が大腸菌を除去するのを促進できることを示した。
【0112】
銀による組換え型哺乳動物TrxRの阻害
本実験は、10nM大腸菌TrxRの存在下で、50mMのTris・HCl(pH 7.5)、250μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNBを含有する溶液中で、96マイクロウェルプレートを用いて実施した。412nmでの吸光度を、VERSAマイクロウェルプレートリーダーを用いて5分間測定し、最初の2分の傾斜を、TrxR活性を表現するために使用した。
【0113】
統計解析
平均値、標準偏差(SD)およびt検定(両側、対応なし)による有意性を、GraphPad Prismソフトウエアで算出した。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001。
実施例2 生体内実験
2.1 結果
【0114】
エブセレンと組み合わせたAg
+の殺菌効果は、ヘパリンで凝血防止されたマウス血液を含有するLB培地でも観察された。エブセレンと組み合わせたAg
+の殺菌活性が生体内でも有効かどうか調査するために、マウスを6.0×10
7または1.7×10
6個のMDR大腸菌株ZY-1(表7)で腹腔内感染させ、急性および軽度の腹膜炎をそれぞれモデル化した。腹腔内投与された大腸菌株ZY-1の50%致死量は、1.3×10
7CFU/mlであった。感染の1時間後(急性モデル)または24時間後(軽度モデル)に、マウスをエブセレン、Ag
+または組み合わせた薬剤の腹腔内投与で処置するか、または未処置のままにした。Ag
+およびエブセレンの組み合わせは、軽度腹膜炎モデルにおいて対照と比較して、細菌負荷の有意な減少をもたらした。エブセレンを単独で処置されたマウスまたは未処置のままにしたマウスは、6.0×10
7個の大腸菌による感染の36時間後に同程度のレベルの細菌負荷を示したのに対して、エブセレンと組み合わせたAg
+の投与は、対照と比較して100倍の減少を達成した(p=0.0055<0.01)(
図6A)。更に、急性腹膜炎マウスモデルにおいて、対照群における30%と比較して、エブセレンと組み合わせてAg
+を投与されたマウスの80%が生存した(
図6B)これらの発見は、生体内でのMDRグラム陰性病原体に対するAg
+およびエブセレンの効果的な抗菌効果を実証した。
【0115】
Ag+またはエブセレン単独は、以前の研究において安全であることが証明されている。組み合わせの毒性を試験するために、マウスを群あたり5匹に分割し、これらに連続的濃度のエブセレン(10、15、20および25mgのエブセレン/kg体重)と組み合わせて6mgのAgNO3/kg体重で処置した。マウスは7日間観察され、死亡することなく生存可能なままであった。組み合わせた25mgのエブセレン/kg体重および6mgのAgNO3/kg体重の効果を、6、24および48時間の処置後に血液化学分析装置を使用して重要な代謝産物濃度および酵素濃度を測定することによりマウスで評価した。エブセレンと組み合わせてAg+を投与したマウスにおいて、リンパ球および単球ならびにアラニントランスアミナーゼなどのいくつかの酵素の密度が初期の時点(6時間)で低下した;しかし、それらの値は処置の24時間後に上昇して正常に戻り(表8)、最初の処置によるストレス応答があることを示した。これらの結果は、Ag+およびエブセレンは、試験した条件ではマウスに対して有毒でなかったことを実証した。
2.2 材料および方法
軽度腹膜炎マウスモデルによるアッセイ
【0116】
動物を研究に使用する前に中国三峡大学(China Three Gorges University)の動物実験委員会(the Medical Animal Care & Welfare Committee)からの承認を得た。健常な6週齢の雄性昆明マウス(体重:18±2g)を中国三峡大学の実験動物センター(Laboratory Animal Center of China,Three Gorges University)から購入した。全てのマウスは、従来のSPF動物施設で恒常的な暗(12時間)-明(12時間)周期下にて個別換気ケージ内で飼育され(ケージあたり5匹のマウス)、餌料および水を自由に摂取した。実験操作の前の大腸菌感染を除外するために、5匹のマウスをランダムにサンプリングして脳、肝臓、脾臓および腎臓からの菌回収を調べた。細菌は検出されなかった。
【0117】
実験は、乱塊法および単盲検試験で実行した。サンプルサイズを検定力分析によって算出し、以下のように見積った:補正サンプルサイズ=サンプルサイズ/(1-[%自然減/100])。48匹のマウスを4つの群、12匹のマウス/群に分けた。接種を、26ゲージのシリンジを使用して100μl中1.7×106個の大腸菌ZY-1株細胞を腹注することにより実施した。接種物を、無菌生理食塩水中に8%(w/v)のムチンを含む懸濁液で送達した。接種物の導入の24時間後に、群あたり12匹のマウスが抗菌処置を受けた。感染の0、12、24および36時間後に、腹膜洗浄を、腹膜内腔に1.0mlの無菌生理食塩水を注入し続いて腹部をマッサージすること(100回/マウス)によって実施した。その後に、大腸菌のCFU/mlの分析のために腹部を切開し、200μlの腹膜液(PF)を腹膜から回収し、CFU/mlを計数した。CFU/ml測定のために、腹膜液をPBS(pH7.6)で連続希釈した。実験を三度繰り返して実施した。
【0118】
急性腹膜炎マウスモデルによるアッセイ
本実験は乱塊法および単盲検試験で設計され、40匹のマウスを4つの群、10匹のマウス/群に分けた。接種を、26ゲージのシリンジを使用して100μlの6.0×106CFU/mlの大腸菌ZY-1株接種物を腹注することにより実施した。接種物を、無菌生理食塩水中8%(w/v)のムチンを含む懸濁液で送達した。接種物の導入の1時間後に、群あたり10匹のマウスを抗菌処置し、当該マウスを7日間観察して全生存率を評価した。実験を二度繰り返して実施した。
【0119】
エブセレンとの組み合わせでの銀の生体内毒性分析
群あたり5匹のマウスに6mgのAgNO3/kg体重および連続的濃度のエブセレン(10、15、20、25mgのAgNO3/kg体重)を腹腔内投与した。マウスを7日間観察して全生存率を算出した。
【0120】
血液試料分析
群あたり3匹のマウスを、PBS、6mgのAgNO3/kg体重と組み合わされた25mgのエブセレン/kg体重および媒体を非経口投与することによって処置した。当該動物を2日間観察し、後眼窩血液試料の採取を処置の6、24および48時間後に実施した。血液をヘパリンで凝血防止された全血試験管に採取し、血液化学分析装置(SYSMEX XE5000)により更に分析した。
【0121】
統計解析
平均値、標準偏差(SD)およびt検定(両側、対応なし)による有意性を、GrapPad Prismソフトウエアで算出した。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001。
実施例3 従来の抗生物質との比較
3.1.大腸菌に対する結果
【0122】
ある種の抗生物質との銀の組み合わせは、大腸菌に対して相乗作用的な毒性を示した
グラム陰性細菌モデルである大腸菌の増殖に対する硝酸銀(AgNO
3)および5つの異なる機能的分類(βラクタム系、アミノグリコシド系、合成、テトラサイクリンおよびマクロライド系)を代表する9種の抗生物質の抗菌効果を96ウェルマイクロプレートで調べた。大腸菌DHB4株の一晩培養物をルリア・ベルターニ(LB)培地で1000倍希釈し、組み合わせた硝酸塩としてのイオン性銀(Ag
+)の系列希釈物および9種の抗生物質でそれぞれ24時間処理した。エブセレンを陽性対照として使用し、それはグラム陰性細菌に対して銀と共に相乗作用的に作用した。ここで結果は、9種の抗生物質のうちの4種(ゲンタマイシン、カナマイシン、ジェネティシン、テトラサイクリン)が大腸菌DHB4株の増殖に対して相乗作用的な活性を有することを示した(表9)。さらに、Blissモデルを使用して組み合わせた銀および抗生物質によって示された治療効果の性質を決定した。相乗効果の程度を、組み合わせたAg
+および4種の抗生物質(ゲンタマイシン、カナマイシン、ジェネティシンおよびテトラサイクリン)の間で1および4時間の時点で定量化し、結果は、Ag
+および4種の抗生物質が大腸菌に対する相乗作用的な組み合わせを実際に有することを示した(
図7)。全ての結果は、銀がグラム陰性細菌に対するある種の抗生物質の抗菌効果を増強できることを指摘した。
【0123】
ROSは、Ag
+および抗生物質の相乗作用的な殺菌効果の致死因子であった
組み合わせでのAg
+およびエブセレンは、高レベルのROSを生じさせることができ、組み合わせでのAg
+および抗生物質の効果は、更なる研究を必要とする。したがって、本発明者らは、組み合わせたAg
+および4種の抗生物質で処理した細胞におけるROSレベルを測定し、組み合わせたAg
+およびエブセレンを陽性対照として使用した。結果は、組み合わせた5μMのAg
+および80μMの抗生物質による処置がROSレベルの増加をもたらすことを示した(p<0.0001)(
図8A)。更に、組み合わせた5μMのAg
+および80μMの抗生物質による処置によって引き起こされるH
2O
2レベルの増大は、アンプレックスレッド法によっても確認された(p<0.0001)(
図8B)。結果は、ROSが大腸菌に対する組み合わせたAg
+および抗生物質の相乗作用的な殺菌効果の決定因子の1つであることを実証した。
【0124】
Ag
+および抗生物質は、細菌のTrx系を破壊できた
チオール依存性抗酸化系の1つの主な機能は、ROSを除去して細胞内酸化還元バランスを保ち酸化ストレスから守ることである。Trx系の阻害およびGSHの欠乏が、ROS増加の原因である可能性がある。組み合わせでのAg
+およびエブセレンは、細菌のTrxおよびGSH系を標的とすることが証明されているが、組み合わせでのAg
+および抗生物質の効果は、更なる研究を必要とする。0.4のOD
600nmに増殖させた大腸菌DHB4株を、組み合わせた5μMのAg
+および80μMの抗生物質で処理し、組み合わせたAg
+およびエブセレンを陽性対照として使用した。ここで結果は、処置の10分後に、組み合わせたAg
+および抗生物質によって処理された細胞抽出物におけるTrx活性は、抗生物質または対照群と比較して劇的に阻害され(
図9A、p<0.001)、同時に、組み合わせたAg
+および抗生物質によって処理された細胞抽出物中のTrxR活性も抗生物質または対照群と比較した場合に統計学的に低下した(
図9B、p<0.05)ことを示した。同一の結果が、処理時間を60分まで延長した場合に得られた。
【0125】
これらの結果は、組み合わせた銀および抗生物質がTrx1に対する直接的な影響を有することを示唆した。
【0126】
この観察と一致して、レドックスウエスタンブロット(Redox Western Blot)で測定されるTrx1の酸化還元状態も、組み合わせたAg
+および抗生物質による60分の処理後に影響を受けた。Trx1は、未処理の細菌において還元型であり、組み合わせたAg
+および抗生物質による処理によって酸化した(
図9C)。対照的に、組み合わせたAg
+および抗生物質による10分間のみの処理は、Trx1の酸化を引き起こすことができなかった。また同時に、Trx1の総タンパク質レベルは、組み合わせたAg
+および抗生物質による10分または60分の処理後に影響を受けなかった。これらの結果は、Trx系を標的とした場合、組み合わせた銀および抗生物質は、銀およびエブセレンほど急速に作用していなかったことを示した。
全ての結果は、組み合わせた銀および抗生物質がTrx系に対する直接的な影響を有することを示した。
【0127】
Ag
+および従来の抗生物質は、細菌のGSH系を直接的に破壊できなかった
組み合わせでの5μMのAg
+および80μMのエブセレンは、10分の処理後にGSHを減少させることも証明された。その実験において、組み合わせた5μMのAg
+および80μMのゲンタマイシンまたはカナマイシンのみが、抗生物質それ自体と比較した場合に細胞抽出物中の総GSH量をわずかに減少させることができ(p<0.05)(
図10A)、一方、他の組み合わせは、差を示さなかった(
図10B)(p>0.05)。同一の結果が、処理時間を60分まで延長した場合に得られた(
図11Aおよび11B)。更に、タンパク質のS-グルタチオン付加は、組み合わせたAg
+およびエブセレンにより処理された細菌において減少したが、10分(
図10B)または60分(
図11B)の処理について組み合わせた5μMのAg
+および抗生物質とインキュベートされた細菌では減少しなかった。
【0128】
上の全ての結果は、銀および従来の抗生物質は、グラム陰性細菌に対して作用する場合、細菌のGSH系に対する直接的な効果を有しないことを示唆した。9種の従来の抗生物質のうちの4種が、グラム陰性細菌モデルである大腸菌に対して銀と相乗作用的に作用し(表9)、これはTrxおよびTrxRを直接的に標的とすることおよびROS生成を引き起こすことによって発生する可能性がある(
図8A~8B、および9A~9C)が、GSH含量に対しては作用しなかった(
図10A~10Bおよび11A~11B)。この相乗効果は、活性酸素種の生成を伴った。
【0129】
3.2 5種のMDRグラム陰性菌病原体に対する結果
3.1において同定された4種の従来の抗生物質を、銀と組み合わせたエブセレンと比較して更に研究した。臨床的に単離された株であるK.ニューモニエ(K.pneumoniae)、A.バウマンニ(A.baumannii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、E.クロアカ(E.cloacae)および大腸菌(E.coli)を使用すると、5種の抗生物質のうちの4μMのエブセレンのみが、銀のMICを劇的に低下させた。
【0130】
臨床的に単離された5種の最も処置が困難なMDRグラム陰性病原体は、組み合わせでのAg+およびエブセレンのみに非常に感受性であった
5つの臨床的に最も処置が困難なMDRグラム陰性病原体種が存在する:クレブシェラ肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)および大腸菌(Escherichia coli)。各々の種から1株を単離し、一晩培養物をLB培地で1000倍希釈し、組み合わせた連続的濃度のAg+および抗生物質により24時間処理した(表10)。結果は、組み合わせたAg+および抗生物質がこれらのMDRグラム陰性細菌に対する弱い抗菌効果を示し、同時に、組み合わせたAg+およびエブセレンが、広範な耐性菌に対する唯一有効な抗生物質であるかもしれないことを示した。本結果は、組み合わせた銀および抗生物質はTrx系およびGSH系の両方ではなくTrx系を直接的に破壊できるのみであるという事実によって説明される可能性がある。
【0131】
組み合わせでの銀および4種の異なる抗生物質はTrxおよびTrxRを直接的に阻害できるが、それでもGSH系を標的とする直接的な効果は普遍的ではない。大腸菌におけるGSH-Grx系の存在は、Trx系のバックアップと考えることができる。大腸菌でのGSH/Grxsは、脱グルタチオン化によって抗酸化プロセスに関与し、リボヌクレオチド還元酵素に電子を伝達する。組み合わせた銀および4種の従来の抗生物質はGSH量に対する効果を示さず、S-グルタチオン化タンパク質は、対照群におけるものとそれほど差がない(
図10)。したがって、このことは、組み合わせた銀および抗生物質の抗MDRグラム陰性菌活性が組み合わせた銀およびエブセレンよりかなり弱かったことを説明するかもしれない。
【0132】
3.3 材料および方法
菌株
全ての試験管内実験は、大腸菌(Escherichia coli、E.coli)DHB4株および下記に示す臨床的に単離された多剤耐性(MDR)グラム陰性菌を用いて実施した。臨床分離MDRグラム陰性菌は、中国湖北省の三峡大学の人民医院(Renmin Hospital of Three Gorges University in Hubei Province,PRC)において、全ての承認およびインフォームドコンセントを得て臨床患者から得られた。
【表1】
【表2】
【0133】
抗生物質および化学物質
全ての実験は、ルリア・ベルターニ(LB)培地(EMD millipore)で実施した。2-フェニル-1,2-ベンズイソセレナゾール-3(2H)-オン(エブセレン)(Daiichi)、9種の抗生物質:アンピシリン、カルベニシリン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ジェネティシン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、エリスロマイシン、硝酸銀(Sigma-Aldrich)、メトキシポリエチレングリコールマレイミド(MeO-PEG-Mal)(Sigma-Aldrich)、ヨードアセトアミド(IAM)(Sigma-Aldrich)、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)、N-アセチルシステイン(NAC)(Sigma-Aldrich)、DCTMタンパク質アッセイ(Bio-RAD)、大腸菌DHB4株TrxR、ヒツジ抗大腸菌Trx1抗体はIMCO社(スウェーデン国ストックホルム市;http://www.imcocorp.se)から購入、ウサギ抗ヒツジIgG-HRP(Santa Cruz)、グルタチオン-タンパク質複合体に対するマウスIgG2aモノクローナル抗体(VIROGEN)、4~12%のBolt Bis-Trisゲル(VWR)。他の全ての試薬はSigma-Aldrichから購入した。
【表3】
【0134】
大腸菌DHB4株の増殖に対する組み合わせでの銀および抗生物質の相乗作用的な抗菌効果
凍結保存からの大腸菌DHB4株を、37℃、400rpmにて一晩増殖させた。一晩培養物を、15mlチューブにて5mlのLB培地で100倍希釈し、400rpm、37℃でインキュベートした。細胞を0.4のOD600nmに増殖させ、抗生物質処理に使用した。要約すると、細胞を、96マイクロウェルプレート中の100μlのLB培地に1000倍希釈した。抗生物質100μl(0、1、2、4μM)および硝酸銀(AgNO3、0、1.25、2.5、5、10、20、40、80μM)の系列希釈物を個々のウェルに加えた。最小阻害濃度(MIC)を、37℃での24時間培養後の未処理の細胞と比較して増殖の90%を阻害した薬剤の最も低い濃度として決定した。100μlのエブセレンおよび硝酸銀の同じ系列希釈物で処理した培養物を、陽性対照として使用した。
【0135】
Blissモデルを使用するエブセレンおよび銀の相乗効果の定量化
薬剤相乗作用を、Bliss独立性モデルを使用して決定し、それは以下の公式:S=(fX0/f00)(f0Y/f00)-(fXY/f00)[式中、fXYは、一方の薬剤について濃度X、かつ他方の薬剤について濃度Yで組み合わせた薬剤の存在下での野生型増殖速度を指す;fX0およびf0Yは、それぞれXおよびYの濃度での個々の薬剤の存在下での野生型増殖速度を指す;f00は、薬剤の非存在下での野生型増殖速度を指す;およびSは、正の値についての相乗作用的な相互作用及び負の値についての拮抗的な相互作用を決定するパラメータである、相乗効果の程度に相当する]を使用して相乗効果の程度を算出する。異なる時点での増殖速度を、分析されている増殖曲線または死滅曲線の傾きを算出することによって決定する。
【0136】
ROS生成の測定
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmでの吸光度にLB培地で増殖させ、当該細菌細胞を組み合わせでの銀および抗生物質で10分間処理した。細菌におけるROS生成量を分析するために、細胞を6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、5μMのH2DCF-DAで20分間染色した。インキュベーション後に、細胞を遠心沈殿し、PBSに再懸濁し、ROS生成をフローサイトメトリー(CyAn ADP、Beckman coulter)によって定量化した。
【0137】
H2O2生成の測定
大腸菌DHB4株細胞を0.4のOD600nmでの吸光度にLB培地で増殖させ、当該細菌細胞を組み合わせでの銀および抗生物質で10分間処理した。細胞を、6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、10秒間超音波処理した。50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中の50μMのAmplex(商標) Red試薬、0.1U/mLのHRPの存在下で、50μlの試料を、光から保護して室温にて30分間インキュベートし、560nmでの吸光度で検出した(Molecular Probes社、オレゴン州ユージーン)。
【0138】
抗生物質および銀で処理された大腸菌細胞可溶化物におけるTrx/TrxR活性およびGSH量の測定
大腸菌DHB4株細胞を、LB培地で0.4のOD600nmでの吸光度に増殖させ、当該細菌細胞を80μMの抗生物質および5μMのAgNO3でそれぞれ10および60分間処理した。80μMのエブセレンおよび5μMのAgNO3で処理した培養物を、陽性対照として使用した。細胞を、6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、次いで細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する溶解緩衝液(25mMのTris・HCl(pH7.5)、100mMのNaCl、2.5mMのEDTA、2.5mMのEGTA、20mMのNaF、1mMのNa3VO4、20mMのβ-グリセロリン酸ナトリウム、10mMのピロリン酸ナトリウム、0.5%のTriton X-100)中に再懸濁し、超音波破砕によって溶解した。細胞可溶化物を、13,000rpmで20分間遠心分離することによって得て、タンパク質濃度を、ローリータンパク質分析によって測定した。
【0139】
細胞抽出物中の大腸菌DHB4株のTrxR活性を、DTNB還元活性アッセイにより測定した。実験は、5μMの大腸菌Trx1存在下で、50mMのTris・HCl(pH7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNBを含有する溶液中で、96マイクロウェルプレートを用いて実行した。412nmでの吸光度を、VERSAマイクロウェルプレートリーダーを用いて5分間測定し、最初の2分の傾斜を、TrxR活性を表現するために使用した。Trx活性を、反応混合物中の5μMの大腸菌Trxの代わりに100nMの大腸菌TrxRを組み合わせたこの方法によって検出した。GSHレベルを測定するために、25μgの細胞可溶化物を、50nMのGR、50mMのTris・HCl(pH 7.5)、200μMのNADPH、1mMのEDTA、1mMのDTNBを含有する溶液に加えた。412nmでの吸光度を5分間測定した。
【0140】
組み合わせでの銀および抗生物質によって処理された大腸菌におけるTrx1の酸化還元状態
大腸菌DHB4株細胞を、LB培地で0.4のOD600nmでの吸光度に増殖させ、当該細菌細胞を80μMの抗生物質および5μMのAgNO3でそれぞれ10および60分間処理した。80μMのエブセレンおよび5μMのAgNO3で処理した培養物を、陽性対照として使用した。ウエスタンブロット法を、処理された大腸菌細胞のTrx1の酸化還元状態を検出するために実施した。細胞を6,000rpmで5分間遠心分離することによって収集し、PBSで3回完全に洗浄し、1.0ml中の5%TCAでタンパク質を沈殿させた。沈殿物を1mlの事前に氷冷したアセトンで3回洗浄し、15mMのMeO-PEG-Malを含有する0.5%のSDSを加えた50mMのTris・HCl(pH 8.5)中で37℃にて2時間溶解した。タンパク質を、13,000rpmで20分間遠心分離してペレットを除去することによって得て、タンパク質濃度をローリータンパク質分析により測定した。タンパク質を90℃にて10分間SDSローディングバッファーとインキュベートし、次いで、MESランニングバッファーを用いる4~12%Bolt Bis-Trisゲル上で分離した(150V、40分)。Trx1の酸化還元状態を、ヒツジ抗大腸菌Trx1抗体を1000倍希釈で用いて検出し、続いてChemiluminescence Reagent Plusの検出を行った。
【0141】
組み合わせでの銀および抗生物質によって処理された大腸菌におけるタンパク質のS-グルタチオン付加
組み合わせでの抗生物質およびAgNO3により処理された大腸菌細胞のS-グルタチオン付加タンパク質の総量も、ウエスタンブロット法によって検出した。大腸菌DHB4株細胞を、LB培地で0.4のOD600nmでの吸光度に増殖させ、当該細菌細胞を80μMの抗生物質および5μMのAgNO3でそれぞれ10および60分間処理した。80μMのエブセレンおよび5μMのAgNO3で処理した培養物を、陽性対照として使用した。細胞を3回洗浄し、50mMのIAMを含有する溶解緩衝液(25mMのTris・HCl(pH7.5)、100mMのNaCl、2.5mMのEDTA、2.5mMのEGTA、20mMのNaF、1mMのNa3VO4、20mMのβ-グリセロリン酸ナトリウム、10mMのピロリン酸ナトリウム、0.5%のTriton X-100、プロテアーゼ阻害剤カクテル)中に再懸濁した。超音波破砕によって溶解した後に、細胞可溶化物を、13,000rpmで20分間遠心分離することによって得た。
タンパク質濃度をローリータンパク質分析により測定し、ウエスタンブロットアッセイを、S-グルタチオン-タンパク質複合体に対するマウスIgG2aモノクローナル抗体(VIROGEN、101-A/D8)を用いて上記の通り実施した。
【0142】
臨床分離MDRグラム陰性細菌の増殖に対する抗生物質および銀の抗菌効果
5株の臨床分離MDRグラム陰性菌を、0.4のOD600nmに増殖させ、96マイクロウェルプレート中の100μlのLB培地に1000倍希釈した。組み合わせた100μlの抗生物質(0、1、2、4μM)およびAgNO3(0、1.25、2.5、5、10、20、40、80、160μM)の系列希釈物を、個々のウェルに加えた。MICを、37℃での16時間培養の後に測定した。100μlのエブセレンおよび硝酸銀の同じ系列希釈物で処理した培養物を、陽性対照として使用した。
【0143】
統計解析
平均値、標準偏差(SD)およびt検定(両側、対応なし)による有意性を、GraphPad Prismソフトウエアで算出した。*:p=0.05、**:p=0.01、***:p=0.001。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】