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特許7221270ジルコニウムを含む潤滑油組成物および直接噴射火花点火式エンジンにおける低速早期着火を防止または低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】ジルコニウムを含む潤滑油組成物および直接噴射火花点火式エンジンにおける低速早期着火を防止または低減する方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 139/00 20060101AFI20230206BHJP
   C10M 125/10 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 129/26 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 129/04 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 133/56 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 135/30 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 135/18 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 137/10 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 159/18 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 137/06 20060101ALI20230206BHJP
   C10M 133/40 20060101ALI20230206BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230206BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230206BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20230206BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230206BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230206BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230206BHJP
【FI】
C10M139/00 Z
C10M125/10
C10M129/26
C10M129/54
C10M129/04
C10M133/16
C10M133/56
C10M135/10
C10M129/10
C10M135/30
C10M135/18
C10M137/10 A
C10M159/18
C10M137/06
C10M133/40
C10N40:25
C10N30:00 Z
C10N10:08
C10N10:04
C10N10:02
C10N10:12
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020501128
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 IB2018055112
(87)【国際公開番号】W WO2019012447
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】62/532,426
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】501381217
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ.
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリオット、イアン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ホーゲンドールン、リシャール
(72)【発明者】
【氏名】グナワン、テリーサ リャン
(72)【発明者】
【氏名】ツァン、マン ホン
(72)【発明者】
【氏名】チャーペック、リチャード イー.
(72)【発明者】
【氏名】マリア、アミール ガマル
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、アンドリュー マイケル
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-257406(JP,A)
【文献】特開2011-132285(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02251401(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0011719(US,A1)
【文献】米国特許第04171268(US,A)
【文献】特表2018-520246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンの低速早期着火を防止または低減する方法であって、潤滑油組成物の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属を5~3000ppm含む潤滑油組成物で、前記エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む方法。
【請求項2】
前記エンジンが、1~30barの正味平均有効圧力(BMEP)の負荷下で運転される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エンジンが、500~3,000rpmの速度で運転される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ジルコニウム含有化合物が、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニアのコロイド分散液、ジルコニウムアミド化合物、アセチルアセトン酸ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム、サリチル酸ジルコニウム、アリールスルホン酸ジルコニウム、ジルコニウム硫化もしくは非硫化フェネート、ジアルキル、ジハロもしくはチオカルバムト、チオホスファトビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物、ジチオカルバマトジルコニウム錯体、ジチオホスファト錯体、サレンジルコニウム錯体、リン酸エステル、ホスフィネートもしくはホスフィニットジルコニウム錯体、ピリジル、ポリピリジルもしくはキノリノラトジルコニウム錯体、ジルコニウムスクシンイミド錯体、またはジルコニウムコロイド懸濁液である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油が、カルシウム清浄剤、マグネシウム清浄剤、ナトリウム清浄剤、リチウム清浄剤、およびカリウム清浄剤から選択される清浄剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記清浄剤が、カルボキシレート、サリチレート、フェネート、またはスルホネートの清浄剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記潤滑油が、モリブデン含有化合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑剤組成物が、無灰分散剤、無灰酸化防止剤、リン含有耐摩耗添加剤、摩擦調整剤、およびポリマー粘度調整剤から選択される少なくとも1つの他の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
潤滑油組成物の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属を5~3000ppm含む、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンのための潤滑エンジン油組成物。
【請求項10】
前記ジルコニウム含有化合物が、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニアのコロイド分散液、ジルコニウムアミド化合物、アセチルアセトン酸ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム、サリチル酸ジルコニウム、アリールスルホン酸ジルコニウム、ジルコニウム硫化もしくは非硫化フェネート、ジアルキル、ジハロもしくはチオカルバムト、チオホスファトビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物、ジチオカルバマトジルコニウム錯体、ジチオホスファト錯体、サレンジルコニウム錯体、リン酸エステル、ホスフィネートもしくはホスフィニットジルコニウム錯体、ピリジル、ポリピリジルもしくはキノリノラトジルコニウム錯体、ジルコニウムスクシンイミド錯体、またはジルコニウムコロイド懸濁液である、請求項9に記載の潤滑エンジン油。
【請求項11】
前記潤滑油組成物が、カルシウム清浄剤、マグネシウム清浄剤、ナトリウム清浄剤、リチウム清浄剤、およびカリウム清浄剤から選択される清浄剤をさらに含む、請求項9に記載の潤滑エンジン油組成物。
【請求項12】
前記清浄剤が、カルボキシレート、サリチレート、フェネート、またはスルホネートの清浄剤である、請求項11に記載の潤滑エンジン油組成物。
【請求項13】
前記潤滑油組成物が、モリブデン含有化合物をさらに含む、請求項9に記載の潤滑エンジン油組成物。
【請求項14】
前記潤滑油組成物が、無灰分散剤、無灰酸化防止剤、リン含有耐摩耗添加剤、摩擦調整剤、およびポリマー粘度調整剤から選択される少なくとも1つの他の添加剤をさらに含む、請求項9に記載の潤滑エンジン油組成物。
【請求項15】
潤滑エンジン油組成物における少なくとも1つのジルコニウム含有化合物の使用であって、前記潤滑エンジン油組成物が、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンにおける低速早期着火を防止または低減する、使用。
【請求項16】
前記少なくとも1つのジルコニウム含有化合物が、潤滑油組成物の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属5~3000ppm中に存在する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
小型ブーストエンジンにおける潤滑エンジン油組成物の使用であって、前記潤滑エンジン油組成物が、主要成分として潤滑油ベースストックを、微量成分として少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含み、前記小型エンジンの範囲が0.5リットル~3.6リットルである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含む、直接噴射ブースト(boosted)火花点火式内燃エンジンのための潤滑剤組成物に関する。本開示はまた、配合油で潤滑されたエンジンにおける低速早期着火を防止または低減する方法に関する。配合油は、少なくとも1つの油溶性または油分散性ジルコニウム化合物を含む組成を有する。
【背景技術】
【0002】
低速早期着火(LSPI)の原因を取り巻く主要な理論の1つは、少なくとも部分的には、高圧下でピストン隙間からエンジン燃焼室に流入するエンジン油滴の自動着火によるものであり、その間、エンジンは低速で動作しており、圧縮行程時間は最長である(Amannら.SAE 2012-01-1140)。
【0003】
エンジンのノッキングおよび早期着火などのいくつかの問題は、電子制御およびノックセンサなどの新しいエンジン技術の使用、ならびにエンジンの動作条件の最適化によって解決され得るが、潤滑油組成物には、上記問題を軽減または防止できるようにする役割がある。
【0004】
本発明者らは、ジルコニウム含有添加剤の使用によりLSPIの問題に対処するための解決策を見出した。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本開示は、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンの低速早期着火を防止または低減する方法であって、潤滑油の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属を約50~約3000ppm含む潤滑油組成物で、エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む方法を提供する。
【0006】
例えば、ジルコニウム含有化合物は、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニアのコロイド分散液、ジルコニウムアミド化合物、アセチルアセトン酸ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム、サリチル酸ジルコニウム、アリールスルホン酸ジルコニウム、ジルコニウム硫化もしくは非硫化フェネート、ジアルキル、ジハロもしくはチオカルバムト、チオホスファトビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物、ジチオカルバマトジルコニウム錯体、ジチオホスファト錯体、サレンジルコニウム錯体、リン酸エステル、ホスフィネートもしくはホスフィニットジルコニウム錯体、ピリジル、ポリピリジルもしくはキノリノラトジルコニウム錯体、ジルコニウムスクシンイミド錯体、またはジルコニウムコロイド懸濁液である。
【0007】
さらに別の態様では、本開示は、潤滑油の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属を約50~約3000ppm含む、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンのための潤滑エンジン油組成物を提供する。
なお、下記[1]から[17]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンの低速早期着火を防止または低減する方法であって、潤滑油組成物の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属を約50~約3000ppm含む潤滑油組成物で、前記エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む方法。
[2]
前記エンジンが、約12~約30barの正味平均有効圧力(BMEP)の負荷下で運転される、[1]に記載の方法。
[3]
前記エンジンが、500~3,000rpmの速度で運転される、[1]に記載の方法。
[4]
前記ジルコニウム含有化合物が、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニアのコロイド分散液、ジルコニウムアミド化合物、アセチルアセトン酸ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム、サリチル酸ジルコニウム、アリールスルホン酸ジルコニウム、ジルコニウム硫化もしくは非硫化フェネート、ジアルキル、ジハロもしくはチオカルバムト、チオホスファトビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物、ジチオカルバマトジルコニウム錯体、ジチオホスファト錯体、サレンジルコニウム錯体、リン酸エステル、ホスフィネートもしくはホスフィニットジルコニウム錯体、ピリジル、ポリピリジルもしくはキノリノラトジルコニウム錯体、ジルコニウムスクシンイミド錯体、またはジルコニウムコロイド懸濁液である、[1]に記載の方法。
[5]
前記潤滑油が、カルシウム清浄剤、マグネシウム清浄剤、ナトリウム清浄剤、リチウム清浄剤、およびカリウム清浄剤から選択される清浄剤をさらに含む、[1]に記載の方法。
[6]
前記清浄剤が、カルボキシレート、サリチレート、フェネート、またはスルホネートの清浄剤である、[5]に記載の方法。
[7]
前記潤滑油が、モリブデン含有化合物をさらに含む、[1]に記載の方法。
[8]
前記潤滑剤組成物が、無灰分散剤、無灰酸化防止剤、リン含有耐摩耗添加剤、摩擦調整剤、およびポリマー粘度調整剤から選択される少なくとも1つの他の添加剤をさらに含む、[1]に記載の方法。
[9]
潤滑油組成物の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属を約50~約3000ppm含む、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンのための潤滑エンジン油組成物。
[10]
前記ジルコニウム含有化合物が、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニアのコロイド分散液、ジルコニウムアミド化合物、アセチルアセトン酸ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム、サリチル酸ジルコニウム、アリールスルホン酸ジルコニウム、ジルコニウム硫化もしくは非硫化フェネート、ジアルキル、ジハロもしくはチオカルバムト、チオホスファトビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物、ジチオカルバマトジルコニウム錯体、ジチオホスファト錯体、サレンジルコニウム錯体、リン酸エステル、ホスフィネートもしくはホスフィニットジルコニウム錯体、ピリジル、ポリピリジルもしくはキノリノラトジルコニウム錯体、ジルコニウムスクシンイミド錯体、またはジルコニウムコロイド懸濁液である、[9]に記載の潤滑エンジン油。
[11]
前記潤滑油組成物が、カルシウム清浄剤、マグネシウム清浄剤、ナトリウム清浄剤、リチウム清浄剤、およびカリウム清浄剤から選択される清浄剤をさらに含む、[9]に記載の潤滑エンジン油組成物。
[12]
前記清浄剤が、カルボキシレート、サリチレート、フェネート、またはスルホネートの清浄剤である、[11]に記載の潤滑エンジン油組成物。
[13]
前記潤滑油組成物が、モリブデン含有化合物をさらに含む、[9]に記載の潤滑エンジン油組成物。
[14]
前記潤滑油組成物が、無灰分散剤、無灰酸化防止剤、リン含有耐摩耗添加剤、摩擦調整剤、およびポリマー粘度調整剤から選択される少なくとも1つの他の添加剤をさらに含む、[9]に記載の潤滑エンジン油組成物。
[15]
潤滑エンジン油組成物における少なくとも1つのジルコニウム含有化合物の使用であって、前記潤滑エンジン油組成物が、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンにおける低速早期着火を防止または低減する、使用。
[16]
前記少なくとも1つのジルコニウム含有化合物が、潤滑油組成物の総重量を基準にして、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物に由来する金属約50~約3000ppm中に存在する、[15]に記載の使用。
[17]
小型ブーストエンジンにおける潤滑エンジン油組成物の使用であって、前記潤滑エンジン油組成物が、主要成分として潤滑油ベースストックを、微量成分として少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含み、前記小型エンジンの範囲が0.5リットル~3.6リットルである、使用。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
「ブースト」という用語は、本明細書全体で使用される。ブーストとは、自然吸気エンジンよりも高い吸気圧でエンジンを動作させることを指す。ターボチャージャ(排気で駆動)またはスーパーチャージャ(エンジンで駆動)を使用することにより、ブースト状態に到達することができる。より高い出力密度を提供するより小さなエンジンを使用することにより、エンジン製造業者は、摩擦およびポンピング損失を低減しながら優れた性能を提供することが可能になった。これは、ターボチャージャまたは機械式スーパーチャージャを使用してブースト圧力を増加させ、低エンジン速度での高トルク生成によって可能になる高変速比を使用してエンジンを減速することによって実現される。ただし、低エンジン速度での高トルクは、低速度でのエンジンでランダムな早期着火を引き起こすことが判明している。これは、低速早期着火、すなわちLSPIとして知られる現象であり、非常に高いシリンダピーク圧力をもたらし、破滅的なエンジン故障につながる可能性がある。LSPIの可能性により、エンジン製造業者は、このような小型の高出力エンジンで、より低いエンジン速度でエンジントルクを完全に最適化することができない。
【0009】
本明細書および特許請求の範囲全体を通して、油溶性または油分散性という表現が使用される。油溶性または油分散性とは、所望のレベルの活性または性能を提供するのに必要な量を、潤滑粘度の油に溶解、分散、または懸濁させることにより組み込むことができることを意味する。通常、これは、少なくとも約0.001重量%の材料を潤滑油組成物に組み込むことができることを意味する。油溶性および油分散性、特に「安定して分散性」という用語のさらなる議論については、米国特許第4,320,019号を参照されたい。この特許明細書は、この点に関する関連する教示について参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0010】
本明細書で使用される場合、「硫酸灰分」という用語は、潤滑油中の清浄剤および金属添加剤から生じる不燃性残留物を指す。硫酸灰分は、ASTM Test D874を使用して測定することができる。
【0011】
本明細書で使用される場合、「総塩基価(Total Base Number)」または「TBN」という用語は、サンプル1グラム中のKOH(ミリグラム)に相当する塩基の量を指す。したがって、TBNの数値が高いほど、アルカリ性の生成物が多いことを示し、したがってアルカリ度が高い。TBNは、ASTM D 2896試験を使用して測定した。
【0012】
別段の明記がない限り、すべてのパーセンテージは重量パーセントである。
【0013】
一般に、本発明の潤滑油組成物中の硫黄の濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.7重量%以下であり、例えば、硫黄の濃度は、約0.01重量%~約0.70重量%、0.01~0.6重量%、0.01~0.5重量%、0.01~0.4重量%、0.01~0.3重量%、0.01~0.2重量%、0.01重量%~0.10重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中の硫黄の濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.60重量%以下、約0.50重量%以下、約0.40重量%以下、約0.30重量%以下、約0.20重量%以下、約0.10重量%以下である。
【0014】
一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンの濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.12重量%以下、例えば、リンの濃度は、約0.01重量%~約0.12重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンの濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.11重量%以下、例えば、リンの濃度は、約0.01重量%~約0.11重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンの濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.10重量%以下、例えば、リンの濃度は、約0.01重量%~約0.10重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンの濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.09重量%以下、例えば、リンの濃度は、約0.01重量%~約0.09重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンの濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.08重量%以下、例えば、リンの濃度は、約0.01重量%~約0.08重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンの濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.07重量%以下、例えば、リンの濃度は、約0.01重量%~約0.07重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンの濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.05重量%以下、例えば、リンの濃度は、約0.01重量%~約0.05重量%である。
【0015】
一実施形態では、本発明の潤滑油組成物により生成される硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約1.60重量%以下であり、例えば、硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約0.10~約1.60重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物により生成される硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約1.00重量%以下であり、例えば、硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約0.10~約1.00重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物により生成される硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約0.80重量%以下であり、例えば、硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約0.10~約0.80重量%である。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物により生成される硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約0.60重量%以下であり、例えば、硫酸灰分の濃度は、ASTM D 874によって測定されるように約0.10~約0.60重量%である。
【0016】
適切には、本潤滑油組成物は、4~15mg KOH/g(例えば、5~12mg KOH/g、6~12mg KOH/g、または8~12mg KOH/g)の総塩基価数(TBN)を有し得る。
【0017】
低速早期着火は、直接噴射、ブースト(ターボチャージまたはスーパーチャージ)、火花点火式(ガソリン)の内燃エンジンで発生する可能性が最も高く、このエンジンは、動作中に、毎分約1500~約2500回転(rpm)のエンジン速度、例えば約1500~約2000rpmのエンジン速度で、約15bar(ピークトルク)を超える、例えば少なくとも約18bar、特に少なくとも約20barのレベルの正味平均有効圧力を発生させる。本明細書で使用される場合、正味平均有効圧力(BMEP)は、1回のエンジンサイクル中に達成される仕事を、エンジンの総排気量で割ったものとして定義され、エンジントルクは、エンジン排気量によって正規化される。「ブレーキ」という言葉は、動力計で測定された、エンジンのフライホイールで利用可能な実際のトルク/パワーを示す。したがって、BMEPは、エンジンの有効出力の測定値である。
【0018】
本発明の一実施形態では、エンジンは、500rpm~3000rpm、または800rpm~2800rpm、さらには1000rpm~2600rpmの速度で運転される。さらに、エンジンは、10bar~30bar、または12barから24barの正味平均有効圧力で運転することができる。
【0019】
LSPI事象は、比較的まれではあるが、本質的に破滅的な可能性がある。したがって、直接燃料噴射エンジンの通常または持続運転中のLSPI事象の大幅な削減またはさらには排除が望まれる。一実施形態では、本発明の方法は、100,000燃焼事象当たりのLSPI事象が15未満、または100,000燃焼事象当たりのLSPI事象が10未満であるようなものである。一実施形態では、100,000燃焼事象当たりのLSPI事象は5未満、100,000燃焼事象当たりのLSPI事象は4未満、100,000燃焼事象当たりのLSPI事象は3未満、100,000燃焼事象当たりのLSPI事象は2未満、100,000燃焼事象当たりのLSPI事象は1未満、または100,000燃焼事象当たりのLSPI事象は0であり得る。
【0020】
したがって、一態様では、本開示は、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンの低速早期着火を防止または低減する方法であって、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含む潤滑油組成物で、エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、少なくとも1つのジルコニウム化合物に由来する金属の量は、潤滑油組成物中、約50~約3000ppm、約100~約3000ppm、約200~約3000ppm、約250~約2500ppm、約300~約2500ppm、約350~約2500ppm、約400ppm~約2500ppm、約500~約2500ppm、約600~約2500ppm、約700~約2500ppm、約700~約2000ppm、約700~約1500ppmである。一実施形態では、ジルコニウム含有化合物に由来する金属の量は、潤滑油組成物中、約2000ppm以下または1500ppm以下である。
【0021】
一実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含まない油と比較して、LSPI事象の数を少なくとも10パーセント、または少なくとも20パーセント、または少なくとも30パーセント、または少なくとも50パーセント、または少なくとも60パーセント、または少なくとも70パーセント、または少なくとも80パーセント、または少なくとも90パーセント、または少なくとも95パーセント減少させる。
【0022】
別の態様では、本開示は、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンの低速早期着火事象の重度を低減する方法であって、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含む潤滑油組成物で、エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む方法を提供する。LSPI事象は、シリンダ内の燃料供給のピークシリンダ圧力(PP)および燃焼質量割合(MFB)を監視することによって測定される。いずれかまたは両方が基準に達している場合、LSPI事象が発生したと言うことができる。ピークシリンダ圧力のしきい値は、試験によって異なるが、典型的には平均シリンダ圧力を4~5標準偏差上回る。同様に、MFBのしきい値は、典型的には平均MFB(クランク角度で表される)よりも4~5標準偏差早い。LSPI事象は、試験ごとの平均事象、100,000燃焼サイクルごとの事象、サイクルごとの事象、および/または事象ごとの燃焼サイクルとして報告され得る。一実施形態では、MFB02およびピーク圧力(PP)要件の両方が90barの圧力を超える場合、LSPI事象の数は、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、90barを超える場合のLSPI事象の数はゼロ事象であり、言い換えれば、90barを超える場合のLSPI事象は完全に抑制されている。一実施形態では、MFB02およびピーク圧力(PP)要件の両方が100barの圧力を超える場合、LSPI事象の数は、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、100barを超える場合のLSPI事象の数はゼロ事象であり、言い換えれば、100barを超える場合のLSPI事象は完全に抑制されている。一実施形態では、MFB02およびピーク圧力(PP)要件の両方が110barの圧力を超える場合、LSPI事象の数は、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、110barを超える場合のLSPI事象の数はゼロ事象であり、言い換えれば、110barを超える場合のLSPI事象は完全に抑制されている。例えば、MFB02およびピーク圧力(PP)要件の両方が120barの圧力を超える場合、LSPI事象の数は、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、120barを超える場合のLSPI事象の数はゼロ事象であり、言い換えれば、極めて重度のLSPI事象(すなわち120barを超える場合の事象)は完全に抑制されている。
【0023】
LSPIの発生の影響を受けやすいエンジンにおけるLSPIの発生は、そのようなエンジンをジルコニウム含有化合物を含む潤滑油組成物で潤滑することにより低減することができることが今や見出された。
【0024】
本開示は、液体炭化水素燃料、液体非炭化水素燃料、またはそれらの混合物をエンジンに燃料供給する本明細書に記載の方法をさらに提供する。
【0025】
本開示は、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)、またはそれらの混合物をエンジンに燃料供給する本明細書に記載の方法をさらに提供する。
【0026】
乗用車のモーター油として使用するのに適した潤滑油組成物は、従来、主要量の潤滑粘度の油と、灰分含有化合物を含む少量の性能向上添加剤とを含む。好都合なことに、ジルコニウムは、本開示の実施において使用される潤滑油組成物に、1つ以上のジルコニウム含有化合物によって導入される。
【0027】
潤滑粘度の油/基油成分
基油とも呼ばれる、本開示の潤滑油組成物で使用する潤滑粘度の油は、典型的には主要量、例えば、組成物の総重量を基準にして、50重量%を超える、好ましくは約70重量%を超える、より好ましくは約80~約99.5重量%、最も好ましくは約85~約98重量%の量で存在する。本明細書で使用される場合、「基油」という表現は、単一の製造業者によって(供給材料源または製造業者の場所に関わらず)同じ仕様で製造される潤滑油成分、同じ製造業者の仕様を満たす潤滑油成分、および独自の製法、製品識別番号、またはその両方によって識別される潤滑剤成分であるベースストックまたはベースストックのブレンドを意味すると理解される。本明細書で使用する基油は、任意のあらゆる用途、例えばエンジン油、船舶用シリンダ油、作動油、ギア油、トランスミッション液などの機能性流体などに用いる潤滑油組成物の配合に使用される、現在知られているまたは後に発見される潤滑粘度の油であり得る。さらに、本明細書で使用する基油は、任意選択的に、粘度指数向上剤、例えば、高分子アルキルメタクリレート;オレフィン系共重合体、例えば、エチレン-プロピレン共重合体またはスチレン-ジエン共重合体;など、およびそれらの混合物を含むことができる。
【0028】
当業者であれば容易に理解するように、基油の粘度は用途に依存する。したがって、本明細書で使用する基油の粘度は、通常、100℃(摂氏)で約2~約2000センチストークス(cSt)の範囲である。一般に、エンジン油として使用される基油は、個々に、100℃で約2cSt~約30cSt、好ましくは約3cSt~約16cSt、最も好ましくは約4cSt~約12cStの動粘度範囲を有し、所望の最終用途および完成油中の添加剤に応じて選択またはブレンドして、所望のグレードのエンジン油、例えば、SAE粘度グレードが0W、0W-8、0W-12、0W-16、0W-20、0W-26、0W-30、0W-40、0W-50、0W-60、5W、5W-20、5W-30、5W-40、5W-50、5W-60、10W、10W-20、10W-30、10W-40、10W-50、15W、15W-20、15W-30、15W-40、30、40などの潤滑油組成物を得る。
【0029】
グループIの基油とは、一般に、(ASTM D 2007によって測定される)飽和物含有量が90重量%未満、および/または(ASTM D 2622、ASTM D 4294、ASTM D 4297、またはASTM D 3120によって測定される)総硫黄含有量が300ppmを超える石油由来潤滑基油を指し、(ASTM D 2270で測定される)粘度指数(VI)が80以上120未満である。
【0030】
グループIIの基油とは、一般に、(ASTM D 2622、ASTM D 4294、ASTM D 4927またはASTM D 3120によって測定される)総硫黄含有量が300百万分率(ppm)以下、(ASTM D 2007によって測定される)飽和物含有量が90重量パーセント以上、および(ASTM D 2270によって測定される)粘度指数(VI)が80~120の石油由来潤滑基油を指す。
【0031】
グループIIIの基油は、一般に、硫黄が300ppm未満、飽和物含有量が90重量パーセントを超える、VIが120以上の石油由来潤滑基油を指す。
【0032】
グループIVの基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。
【0033】
グループVの基油には、グループI、II、III、またはIVに含まれない他のすべての基油が含まれる。
【0034】
潤滑油組成物は、少量の他の基油成分を含むことができる。例えば、潤滑油組成物は、天然潤滑油、合成潤滑油またはそれらの混合物に由来する少量の基油を含むことができる。適切な基油には、合成ワックスおよびスラックワックスの異性化により得られるベースストック、ならびに原油の芳香族および極性成分の水素化分解(溶媒抽出ではなく)により生成される水素化分解ベースストックが含まれる。
【0035】
適切な天然油としては、鉱物潤滑油、例えば、液体石油、パラフィン系、ナフテン系もしくはパラフィン系ナフテン系混合タイプの溶剤処理または酸処理鉱物潤滑油、石炭またはシェール由来の油、動物油、植物油(例えば、菜種油、ヒマシ油およびラード油)などが挙げられる。
【0036】
適切な合成潤滑油としては、これらに限定されないが、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油、例えば重合および共重合オレフィン、具体的にはポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)など、およびそれらの混合物;アルキルベンゼン、例えばドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)-ベンゼンなど;ポリフェニル、例えばビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニルなど;アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにそれらの誘導体、類似体および同族体などが挙げられる。
【0037】
他の合成潤滑油としては、これらに限定されないが、炭素原子が5個未満のオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、ペンテン、およびそれらの混合物を重合することによって製造される油が挙げられる。そのような重合油を調製する方法は、当業者に周知である。
【0038】
さらなる合成炭化水素油としては、適切な粘度を有するアルファオレフィンの液体重合体が挙げられる。特に有用な合成炭化水素油は、C~C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマー、例えば1-デセン三量体である。
【0039】
別の部類の合成潤滑油としては、これらに限定されないが、アルキレンオキシド重合体、すなわち単独重合体、共重合体、および末端ヒドロキシル基が例えばエステル化またはエーテル化により修飾されたそれらの誘導体が挙げられる。これらの油の例としては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により調製された油、これらのポリオキシアルキレン重合体のアルキルおよびフェニルエーテル(例えば、平均分子量1,000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子重量500~1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1,000~1,500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)またはそれらのモノ-およびポリカルボン酸エステル、例えば酢酸エステル、混合C-C脂肪酸エステル、またはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルがある。
【0040】
合成潤滑油のさらに別の分類としては、これらに限定されないが、ジカルボン酸のエステル、例えばフタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸などに加えて、さまざまなアルコール、例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなどが挙げられる。これらのエステルの具体例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸などと反応させることにより形成される複合エステルが挙げられる。
【0041】
合成油として有用なエステルには、これらに限定されないが、約5~約12個の炭素原子を有するカルボン酸と、アルコール、例えばメタノール、エタノールなど、ポリオールおよびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールなどとから製造されるエステルも挙げられる。
【0042】
シリコン系油、例えばポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-またはポリアリールオキシシロキサン油およびシリケート油は、合成潤滑油の別の有用な分類を構成する。これらの具体例としては、これらに限定されないが、ケイ酸テトラエチル、ケイ酸テトライソプロピル、ケイ酸テトラ-(2-エチルヘキシル)、ケイ酸テトラ-(4-メチル-ヘキシル)、ケイ酸テトラ-(p-tert-ブチルフェニル)、ヘキシル-(4-メチル-2-ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、ポリ(メチルフェニル)シロキサンなどが挙げられる。さらに他の有用な合成潤滑油としては、これらに限定されないが、リン含有酸の液体エステル、例えばリン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、デカンホスフィオン酸のジエチルエステルなど、高分子テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0043】
潤滑油は、未精製、精製、および再精製油の天然油、合成油、または上記で開示されたタイプの潤滑油のいずれかの2つ以上の混合物に由来し得る。未精製油とは、天然または合成原料(例えば、石炭、シェール、またはタールサンドビチューメン)からさらなる精製または処理なしに直接得られる油である。未精製油の例としては、これらに限定されないが、乾留操作から直接得られるシェール油、蒸留から直接得られる石油、またはエステル化工程から直接得られるエステル油が挙げられ、これらはそれぞれさらなる処理なしで使用される。精製油は、1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製ステップでさらに処理されていることを除いて、未精製油に類似している。これらの精製技術は、当業者に周知であり、例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、ろ過、浸出、水素化処理、脱ワックスなどが含まれる。再精製油は、精製油を得るために使用される工程と同様の工程で使用済油を処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生油または再処理油としても知られており、使用済添加剤および油分解生成物の除去に関する技術によってさらに処理されることが多い。
【0044】
ワックスの水素異性化から得られる潤滑油ベースストックも、単独で、または前述の天然および/または合成ベースストックと組み合わせて使用することができる。このようなワックス異性化油は、天然もしくは合成ワックスまたはそれらの混合物を水素異性化触媒上で水素異性化することにより製造される。
【0045】
天然ワックスは、典型的には、鉱油の溶媒脱ワックスによって回収されるスラックワックスであり、合成ワックスは、典型的には、フィッシャー・トロプシュ法で製造されるワックスである。
【0046】
他の有用な潤滑粘度の流体としては、高性能潤滑特性を提供するために、好ましくは触媒的に処理された、または合成された非従来型または独創的なベースストックが挙げられる。
【0047】
ジルコニウム化合物
本明細書の潤滑油組成物は、1つ以上のジルコニウム含有化合物を含むことができる。当業者であれば、参照により本明細書に組み込まれる、Cardinら、“Chemistry of Organo-Zirconium and-Hafnium Compounds”,1st Edition,Chichester,Ellis Horwood Limited,(1986)に、適切な添加剤が記載されていることが認識されよう。本開示に記載されるジルコニウム錯体は、典型的には、当業者に明らかな方法を使用して、四価ジルコニウム反応物を適切な配位子と反応させることにより調製される。典型的には、これらのジルコニウム反応物は、以下の化合物:ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、ジルコニウム(IV)t-ブトキシド、ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、ジルコニウム(IV)i-プロポキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、酸化ジルコニウム(IV)、リン酸水素ジルコニウム(IV)、塩化ジルコニウム(IV)、テトラクロロビス(テトラヒドロフラン)ジルコニウム、二塩化酸化ジルコニウム(IV)水和物、臭化ジルコニウム(IV)、ヨウ化ジルコニウム(IV)、フッ化ジルコニウム(IV)、テトラベンジルジルコニウム、テトラキス(ジエチルアミノ)ジルコニウム、アセチルアセトン酸ジルコニウム(IV)、または同様のジルコニウム化合物に代表される。上述のジルコニウム化合物のいずれか1つを、本開示のジルコニウム化合物として使用することができる。好ましいジルコニウム化合物は、塩化ジルコニウム(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、およびジルコニウム(IV)アルコキシドである。ジルコニウム反応物は、本開示のジルコニウム化合物でもあり得る。本明細書に記載されるジルコニウム錯体は、油溶性または油分散性である。
【0048】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、ジルコニウムアルコキシド化合物であり得る。例えば、ジルコニウムアルコキシドは、Zr(ORの形であることができ、式中、Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、または分岐、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素部分であり、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。例としては、これらに限定されないが、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、ジルコニウム(IV)t-ブトキシド、ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、ジルコニウム(IV)i-プロポキシド、ジルコニウム(IV)エトキシドおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、ジルコニアのコロイド分散液であり得る。例えば、ジルコニアは、正味の分子式ZrOを有するが、[Zr-O-Zr]の繰り返し単位で構成することができる。特定の実施形態において、ジルコニアのコロイド分散液は、TEMによって測定される平均粒径100nm未満のナノ粒子径を含む。コロイド粒子の分散を助けるために、溶媒を加えることができる。いくつかの実施形態において、溶媒は、グリコールエーテル、例えばPropyl CELLOSOLVE(商標)(Dow社)、Butyl CELLOSOLVE(商標)(Dow社)、Hexyl CELLOSOLVE(商標)(Dow社)、CARBITOL(商標)(Dow社)、Methyl CARBITOL(商標)(Dow社)、Butyl CARBITOL(商標)(Dow社)、Hexyl CARBITOL(商標)(Dow社)、メトキシトリグリコール(Dow社)、エトキシトリグリコール(Dow社)、ブトキシトリグリコール(Dow社)、Eastman(商標)DB Solvent、Eastman(商標)DE Solvent、Eastman(商標)DP Solvent、Eastman(商標)EP Solvent、Eastman(商標)EP Solvent、Eastman(商標)EEH Solvent、または関連種であり得る。いくつかの実施形態では、溶媒は、還元もしくは不飽和脂肪酸、例えばオレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸および関連種など、または合成カルボン酸、例えばExxonMobil(商標)ネオペンタン酸、ExxonMobil(商標)ネオデカン酸、Eastman(商標)2-エチルヘキサン酸、または他の関連種であり得る。一般に、ジルコニアのコロイド分散液の量は、溶媒が使用される場合、約0.01重量%~約5重量%であり得る。
【0050】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、ジルコニウムアミド化合物であり得る。例えば、ジルコニウムアミド化合物は、Zr(NRの形であることができ、式中、Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、または分岐、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素部分であり、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0051】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、アセチルアセトン酸ジルコニウム化合物(zirconium acetylacetonate compound)であり得る。例えば、アセチルアセトン酸ジルコニウムは、次式1:
【化1】

で表され、式中、Rは、1~約30個の炭素原子を有する対称もしくは非対称の直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分、または芳香族部分であり得、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0052】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、カルボン酸ジルコニウム(zirconium carboxylate)であり得る。例えば、カルボン酸ジルコニウムは、次式2:
【化2】

で表され、式中、Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分、または1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分であり得るアルキル基を有する芳香族およびアルキル芳香族環であり得、nは0~4の整数、Lはジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは存在しないか、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。例えば、カルボン酸ジルコニウムは、2-エチルヘキサン酸ジルコニウム(IV)またはジルコニウム脂肪酸、例えばステアリン酸ジルコニウム(IV)であり得る。
【0053】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、サリチル酸ジルコニウム(zirconium salicylate)であり得る。例えば、カルボン酸ジルコニウムは、次式3:
【化3】

で表され、式中、Rは水素原子、1~約40個の炭素原子を有する直鎖、環状、または分岐、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素部分であり、pは1~4の整数、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特に、nは0~2の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムなどのアルカリ土類金属が添加されてもよい。アルカリ土類金属は、典型的には、金属酸化物、金属アルコキシド、金属炭酸塩、および金属重炭酸塩を含むがこれらに限定されない塩基性塩である。
【0054】
別の実施形態において、ジルコニウム化合物は、アリールスルホン酸ジルコニウム(zirconium arylsulfonate)であり得る。例えば、アリールスホン酸ジルコニウムは、次式4:
【化4】

で表され、式中、Rは水素原子、1~約40個の炭素原子を有する直鎖、環状、または分岐、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素部分であり、pは1~5の整数、nは0~4の整数、Lはジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特に、nは0~2の整数である。特に、pは1または2である。特定の実施形態では、配位子Lは存在しないか、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムなどのアルカリ土類金属が添加されてもよい。アルカリ土類金属は、典型的には、金属酸化物、金属アルコキシド、金属炭酸塩、および金属重炭酸塩を含むがこれらに限定されない塩基性塩である。
【0055】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、ジルコニウム硫化または非硫化フェネートであり得る。例えば、ジルコニウム硫化または非硫化フェネートは、次式5:
【化5】

で表され、式中、Rは水素原子、1~約40個の炭素原子を有する直鎖、環状、または分岐、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素部分であり、x’は0または1~約8の整数、nは1~約15の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。いくつかの実施形態では、リンは存在しない。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウムが添加されてもよい。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0056】
一実施形態において、ジルコニウム化合物は、ジアルキル、ジハロまたはチオカルバムト、チオホスファトビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物であり得る。他の関連するジルコニウムメタロセン錯体は、当業者に周知であり、本明細書に開示される潤滑油組成物に使用され得る。例えば、ジルコニウムメタロセンは、次式6:
【化6】

で表され、式中、各Rは水素原子、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分、nは0~5の整数、Xは1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の、脂肪族炭化水素部分;フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択されるハロゲン置換基、または式7:
【化7】

のチオカルバムト配位子であり、式中、各Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分、または式8
【化8】

のチオホスファト配位子から独立して選択され、式中、各Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分から独立して選択される。当業者であれば、ジルコニウムメタロセンが適切な数のX配位子を含み、形式的に中性の錯体をもたらすことが理解されよう。
【0057】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、ジチオカルバマトジルコニウム錯体であり得る。例えば、ジチオカルバマトジルコニウムは、式9:
【化9】

で表され、式中、各Rは独立して、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、または分岐、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素部分であり、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0058】
一実施形態において、ジルコニウム化合物は、ジチオホスファトジルコニウム錯体であり得る。例えば、ジルコニウムジチオホスファトは、式10:
【化10】

で表され、式中、各Rは独立して、1~約30の炭素原子を有する直鎖、環状、または分岐、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素部分であり、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
一実施形態において、ジルコニウム化合物は、サレンジルコニウム錯体であり得る。例えば、ジルコニウムサレンは、式11:
【化11】

で表され、式中、各Rは独立して水素原子、または1~約40個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の炭化水素部分であり、各Yは独立して-C(RM”であり、式中、各RM”は、水素原子、1~約20個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分、または芳香族環であり、zは、各Nがそれぞれイミドまたはアミノである場合、1または2であり、RM’は独立して、水素原子、1~約20個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族鎖炭化水素部分であり、またはそれらが結合している原子と一緒になって5-、6-、もしくは7員環(芳香族、完全飽和、もしくはさまざまなレベルの不飽和を含み得る)を形成し、nは0~2の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0060】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、リン酸エステル、ホスフィネート、またはホスフィニットジルコニウム錯体であり得る。例えば、リン酸ジルコニウムエステル、ホスフィット、ホスフィネート、またはホスフィニットは、次式12:
【化12】

で表され、式中、リン原子がそれぞれ+5または+3の酸化状態にある場合、Wはオキソまたは非結合電子対であり、各Rは独立して、1~約30個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分、芳香族環またはアルコキシド部分であり、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。いくつかの実施形態では、リン酸ジルコニウムエステル、ホスフィット、ホスフィネート、およびホスフィニット構造は、架橋配位子基を有する二量体である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0061】
一実施形態では、ジルコニウム化合物は、ピリジル、ポリピリジル、およびキノリノラトジルコニウム錯体であり得る。例えば、ジルコニウムのピリジル、ポリピリジル、およびキノリノラト錯体は、次式13:
【化13】

で表され、式中、各Rは独立して、水素原子、または1~約40個の炭素原子を有する直鎖、環状、もしくは分岐、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素部分、または非官能化され得るか、もしくは他の官能化ピリジル環に接続して、一般に8-ヒドロキシキノリン、キノリン、もしくはフェナントロリンと呼ばれる縮合環系を形成する、典型的に2位で置換されたピリジル環であり、nは0~4の整数、Lは存在しないか、ジルコニウムの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~4の整数である。特定の実施形態では、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスフィット、アンモニア、アミノ、アミド、ハロゲン化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0062】
一実施形態において、ジルコニウム反応物は、塩基性窒素分散剤スクシンイミドと錯体化することができる。ジルコニウム錯体を調製するために使用される塩基性窒素スクシンイミドは、少なくとも1つの塩基性窒素を有し、好ましくは油溶性である。スクシンイミド組成物は、組成物が塩基性窒素を含有し続ける限り、当該分野で周知の手順を使用して、例えばホウ素で後処理され得る。本明細書に記載のジルコニウム錯体を調製するために使用することができるモノおよびポリスクシンイミドは、多数の参考文献に開示されており、当技術分野で周知である。特定の基本的なタイプのスクシンイミドおよび「スクシンイミド」という用語に包含される関連物質が、米国特許第3,219,666号、第3,172,892号、および第3,272,746号に教示されており、それらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。「スクシンイミド」という用語は、当技術分野では、同様に形成される可能性のあるアミド、イミド、およびアミジン種の多くを含むと理解される。しかし、主要な生成物はスクシンイミドであり、この用語は、一般に、アルケニル置換コハク酸または無水物と窒素含有化合物との反応の生成物を意味するものとして受け取られている。好ましいスクシンイミドは、商業的な入手可能性から、ヒドロカルビルコハク酸無水物から調製されるスクシンイミドであり、ヒドロカルビル基は約24~約350個の炭素原子とエチレンアミンとを含み、エチレンアミンはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミンによって特に特徴付けられる。特に好ましいのは、70~128個の炭素原子のポリイソブテニルコハク酸無水物およびテトラエチレンペンタアミンまたはトリエチレンテトラアミンまたはそれらの混合物から調製されるスクシンイミドである。用語「スクシンイミド」には、ヒドロカルビルコハク酸または無水物のコオリゴマー、および2つ以上の2級アミノ基に加えて少なくとも1つの3級アミノ窒素を含むポリ2級アミンも含まれる。通常、この組成物の平均分子量は、1,500~50,000である。典型的な化合物は、ポリイソブテニルコハク酸無水物とエチレンジピペラジンとを反応させることにより調製される化合物であろう。
【0063】
平均分子量が1000または1300または2300のスクシンイミドおよびそれらの混合物が最も好ましい。
【0064】
別の実施形態では、ジルコニウム化合物は、安定なコロイド懸濁液であり得る。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,884,058号は、さまざまな無機酸化物の安定なコロイド懸濁液を開示している。これらは、分散剤を用いて油相の存在下で調製することができ、分散剤にはポリアルキレンコハク酸無水物と、ポリアルキレンコハク酸、ポリアルキレンコハク酸のグループIおよび/またはグループIIモノまたはジ塩、ポリアルキレンコハク酸無水物または酸塩化物とアルコールとの反応により形成されるポリアルキレンコハク酸エステル、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるポリアルキレンコハク酸無水物の窒素非含有誘導体と、それらの混合物と、希釈油とが含まれ、安定なコロイド懸濁液は実質的に明確である。
【0065】
一般に、ジルコニウム含有化合物の量は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.001重量%~約25重量%、約0.05重量%~約20重量%、または約0.1重量%~約15重量%、または約0.5重量%~約5重量%、約1.0重量%~約4.0重量%であり得る。
【0066】
一態様において、本開示は、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含む、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンのための潤滑エンジン油組成物を提供する。一実施形態では、少なくとも1つのジルコニウム化合物に由来する金属の量は、約50~約3000ppm、約100~約3000ppm、約200~約3000ppm、または約250~約2500ppm、約300~約2500ppm、約350~約2500ppm、約400ppm~約2500ppm、約500~約2500ppm、約600~約2500ppm、約700~約2500ppm、約700~約2000ppm、約700~約1500ppmである。一実施形態において、ジルコニウム含有化合物に由来する金属の量は、約2000ppm以下または約1500ppm以下である。
【0067】
一実施形態では、ジルコニウム含有化合物は、マグネシウムおよび/またはカルシウムを含む従来の潤滑油清浄剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、カルシウム清浄剤は、潤滑油組成物中0~約2400ppmの金属カルシウム、0~約2200ppmのカルシウム金属、100~約2000ppmのカルシウム金属、200~約1800ppmのカルシウム金属、または約100~約1800ppm、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのカルシウム金属を潤滑油組成物に提供するのに十分な量で添加することができる。一実施形態では、マグネシウム清浄剤は、潤滑油組成物中約100~約1000ppmのマグネシウム金属、または約100~約600ppm、または約100~約500ppm、または約200~約500ppmのマグネシウム金属を潤滑油組成物に提供するのに十分な量で添加することができる。
【0068】
一実施形態において、ジルコニウム含有化合物は、リチウムを含有する従来の潤滑油清浄剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、リチウム清浄剤は、潤滑油組成物中0~約2400ppmのリチウム金属、0~約2200ppmのリチウム金属、100~約2000ppmのリチウム金属、200~約1800ppmのリチウム金属、または約100~約1800ppm、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのリチウム金属を潤滑油組成物に提供するのに十分な量で添加することができる。
【0069】
一実施形態において、ジルコニウム含有化合物は、ナトリウムを含有する従来の潤滑油清浄剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、ナトリウム清浄剤は、潤滑油組成物中0~約2400ppmのナトリウム金属、0~約2200ppmのナトリウム金属、100~約2000ppmのナトリウム金属、200~約1800ppmのナトリウム金属、または約100~約1800ppm、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのナトリウム金属を潤滑油組成物に提供するのに十分な量で添加することができる。
【0070】
一実施形態において、ジルコニウム含有化合物は、カリウムを含有する従来の潤滑油清浄剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、カリウム清浄剤は、潤滑油組成物中0~約2400ppmのカリウム金属、0~約2200ppmのカリウム金属、100~約2000ppmのカリウム金属、200~約1800ppmのカリウム金属、または約100~約1800ppm、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのカリウム金属を潤滑油組成物に提供するのに十分な量で添加することができる。
【0071】
一実施形態では、本開示は、主要成分として潤滑油ベースストックと、微量成分として少なくとも1つのジルコニウム含有化合物とを含む潤滑エンジン油組成物を提供し、少なくとも1つのジルコニウム含有化合物を含まない潤滑油を使用するエンジンで達成される低速早期着火性能と比較して、エンジンは、100,000エンジンサイクルあたりの正規化された低速早期着火(LSPI)数を基準にして50%を超える低速早期着火の低減、毎分500~3,000回転のエンジン動作、および10~30barの正味平均有効圧力(BMEP)を示す。
【0072】
一態様では、本開示は、主要成分として潤滑油ベースストックと、微量成分として少なくとも1つのジルコニウム含有化合物とを含む小型ブーストエンジンで使用する潤滑エンジン油組成物を提供し、小型エンジンは、約0.5~約3.6リットル、約0.5~約3.0リットル、約0.8~約3.0リットル、約0.5~約2.0リットル、または約1.0~約2.0リットルの範囲である。エンジンは、2、3、4、5、または6個のシリンダを有し得る。
【0073】
一態様では、本開示は、直接噴射ブースト火花点火式内燃エンジンにおける低速早期着火を防止または低減するための少なくとも1つのジルコニウム含有化合物の使用を提供する。
【0074】
潤滑油添加剤
本明細書に記載のジルコニウム化合物に加えて、潤滑油組成物は、追加の潤滑油添加剤を含むことができる。
【0075】
本開示の潤滑油組成物は、これらの添加剤が分散または溶解される潤滑油組成物の任意の望ましい特性を付与または改善することができる他の従来の添加剤を含有してもよい。当業者に周知の任意の添加剤を、本明細書に開示される潤滑油組成物に使用することができる。いくつかの適切な添加剤は、Mortierら、“Chemistry and Technology of Lubricants”,2nd Edition,London,Springer,(1996)、およびLeslie R.Rudnick,“Lubricant Additives:Chemistry and Applications”,New York,Marcel Dekker(2003)、に記載されており、両文献とも参照により本明細書に組み込まれる。例えば、潤滑油組成物は、酸化防止剤、耐摩耗剤、金属清浄剤、防錆剤、脱ヘイズ剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、腐食抑制剤、無灰分散剤、多機能剤、染料、極圧剤などおよびそれらの混合物とブレンドすることができる。さまざまな添加剤が知られており、市販されている。これらの添加剤またはそれらの類似化合物は、通常のブレンド手順により本開示の潤滑油組成物の調製に使用することができる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物は、1つ以上の清浄剤を含有することができる。金属含有または灰形成清浄剤は、堆積物を低減または除去する清浄剤として、かつ酸中和剤または防錆剤として機能し、それにより摩耗および腐食を低減し、エンジンの寿命を延ばす。清浄剤は、一般に、疎水性の長い尾部を持つ極性頭部を有する。極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は、実質的に化学量論的な量の金属を含む場合があり、その場合、通常、正塩または中性塩として記載される。過剰な金属化合物(例えば、酸化物または水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることにより、大量の金属塩基を組み込むことができる。
【0077】
使用できる清浄剤としては、油溶性の中性および過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、およびナフテネート、ならびに金属、特にアルカリまたはアルカリ土類金属、例えばバリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、およびマグネシウムのその他の油溶性カルボキシレートが挙げられる。最も一般的に使用される金属は、カルシウムおよびマグネシウム、ならびにカルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムとの混合物であり、カルシウムおよびマグネシウムは両方とも潤滑剤に使用される清浄剤中に存在し得る。
【0078】
本発明の潤滑油組成物は、摩擦および過度の摩耗を低減することができる1つ以上の耐摩耗剤を含有することができる。当業者に周知の任意の耐摩耗剤を、潤滑油組成物に使用することができる。適切な耐摩耗剤の非限定的な例としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオホスファトの金属(例えば、Pb、Sb、Moなど)塩、ジチオカルバメートの金属(例えば、Zn、Pb、Sb、Moなど)塩、脂肪酸の金属(例えば、Zn、Pb、Sbなど)塩、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルまたはチオリン酸エステルのアミン塩、ジシクロペンタジエンとチオリン酸との反応生成物、およびそれらの組み合わせが挙げられる。耐摩耗剤の量は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.01重量%~約5重量%、約0.05重量%~約3重量%、または約0.1重量%~約1重量%変化し得る。
【0079】
特定の実施形態では、耐摩耗剤は、ジチオリン酸ジアルキル亜鉛化合物などのジチオリン酸ジヒドロカルビル金属塩であるか、またはそれを含む。ジチオリン酸ジヒドロカルビル金属塩の金属は、アルカリもしくはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅であり得る。いくつかの実施形態では、金属は亜鉛である。他の実施形態では、ジチオリン酸ジヒドロカルビル金属塩のアルキル基は、約3~約22個の炭素原子、約3~約18個の炭素原子、約3~約12個の炭素原子、または約3~約8個の炭素原子を有する。さらなる実施形態では、アルキル基は、直鎖または分岐鎖である。
【0080】
本明細書に開示される潤滑油組成物中のジチオリン酸ジアルキル亜鉛塩を含むジチオリン酸ジヒドロカルビル金属塩の量は、そのリン含有量によって決定される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される潤滑油組成物のリン含有量は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.01重量%~約0.14重量%である。
【0081】
本発明の潤滑油組成物は、可動部品間の摩擦を低下させることができる1つ以上の摩擦調整剤を含有することができる。当業者に周知の任意の摩擦調整剤を、潤滑油組成物に使用することができる。適切な摩擦調整剤の非限定的な例としては、脂肪カルボン酸;脂肪カルボン酸の誘導体(例えば、アルコール、エステル、ホウ酸化エステル、アミド、金属塩など);モノ、ジまたはトリアルキル置換リン酸またはホスホン酸;モノ、ジまたはトリアルキル置換リン酸またはホスホン酸の誘導体(例えば、エステル、アミド、金属塩など);モノ、ジまたはトリアルキル置換アミン;モノまたはジアルキル置換アミドおよびそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、摩擦調整剤の例としては、これらに限定されないが、アルコキシル化脂肪アミン;ホウ酸化脂肪エポキシド;脂肪ホスフィット、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセリンエステル、ホウ酸化グリセリンエステル;その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,372,696号に開示されている脂肪イミダゾリン;C~C75、またはC~C24、またはC~C20、脂肪酸エステルと、アンモニア、アルカノールアミンなど、およびそれらの混合物からなる群から選択される窒素含有化合物との反応生成物から得られる摩擦調整剤が挙げられる。摩擦調整剤の量は、潤滑油組成物の総重量を基準にして、約0.01重量%~約10重量%、約0.05重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約3重量%変化し得る。
【0082】
本開示の潤滑油組成物は、モリブデン含有摩擦調整剤を含有することができる。モリブデン含有摩擦調整剤は、既知のモリブデン含有摩擦調整剤または既知のモリブデン含有摩擦調整剤組成物のいずれかであり得る。
【0083】
好ましいモリブデン含有摩擦調整剤は、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジチオホスファト、アミン-モリブデン錯体化合物、オキシモリブデンジエチレートアミド、およびオキシモリブデンモノグリセリドである。最も好ましいのは、モリブデンジチオカルバメート摩擦調整剤である。
【0084】
本発明の潤滑油組成物は、一般に、モリブデン含有量に関して0.01~0.15重量%の量でモリブデン含有摩擦調整剤を含有する。
【0085】
本発明の潤滑油組成物は、好ましくは、有機酸化防止剤を0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%の量で含有する。酸化防止剤は、ヒンダードフェノール酸化防止剤またはジアリールアミン酸化防止剤であり得る。ジアリールアミン酸化防止剤は、窒素原子に由来する塩基価を与える点で有利である。ヒンダードフェノール酸化防止剤は、NOxガスを生成しない点で有利である。
【0086】
ヒンダードフェノール酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、およびこれらに限定されないがオクチル3-(3,54-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオネート、およびIrganoxL135(いずれかの国における登録商標)(BASF社製)、Naugalube531(いずれかの国における登録商標)(Chemtura社製)、Ethanox376(いずれかの国における登録商標)(SI Group社製)などの市販製品が挙げられる。
【0087】
ジアリールアミン酸化防止剤の例としては、炭素原子4~9個のアルキル基の混合物を有するアルキルジフェニルアミン、p、p’-ジオクチルジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、フェニルナフチルアミン、アルキル化ナフチルアミン、およびアルキル化フェニルナフチルアミンが挙げられる。
【0088】
ヒンダードフェノール酸化防止剤およびジアリールアミン酸化防止剤のそれぞれは、単独でまたは組み合わせて使用することができる。必要に応じて、他の油溶性酸化防止剤を上記の酸化防止剤と組み合わせて使用することができる。
【0089】
本発明の潤滑油組成物は、スクシンイミドのオキシモリブデン錯体、特にスクシンイミドの硫黄含有オキシモリブデン錯体をさらに含んでもよい。スクシンイミドの硫黄含有オキシモリブデン錯体は、上記のフェノールまたはアミン系酸化防止剤と組み合わせて使用すると、酸化防止効果を高めることができる。
【0090】
潤滑油配合物の調製では、炭化水素油、例えば鉱物潤滑油、またはその他の適切な溶媒に10~80重量%の活性成分濃縮物の形態で添加剤を導入するのが一般的な慣行である。
【0091】
通常、これらの濃縮物は、完成潤滑剤、例えば、クランクケースモーター油を形成する際に、添加剤パッケージの重量部当たり3~100、例えば5~40重量部の潤滑油で希釈することができる。濃縮物の目的は、もちろん、さまざまな材料の取り扱いの困難および厄介さを低減すること、ならびに最終ブレンド物中の溶解または分散を促進することである。
【0092】
潤滑油組成物の調製手順
本明細書に開示される潤滑油組成物は、潤滑油を製造するための当業者に周知の任意の方法によって調製することができる。いくつかの実施形態では、基油は、本明細書に記載のジルコニウム含有化合物とブレンドまたは混合することができる。任意選択的に、ジルコニウム含有化合物に加えて1つ以上の他の添加剤を加えることができる。ジルコニウム含有化合物および任意の添加剤は、基油に個別にまたは同時に添加することができる。いくつかの実施形態において、ジルコニウム含有化合物および任意の添加剤は、1つ以上の添加の場合、個別に基油に添加され、添加は任意の順序であってよい。他の実施形態では、ジルコニウム含有化合物および添加剤は、任意選択的に添加剤濃縮物の形態で、基油に同時に添加される。いくつかの実施形態では、基油中のジルコニウム含有化合物または任意の固体添加剤の可溶化は、混合物を約25℃~約200℃、約50℃~約150℃または約75℃~約125℃の温度に加熱することによって助けることができる。
【0093】
当業者に周知の任意の混合または分散装置を、成分のブレンド、混合または可溶化に使用することができる。ブレンド、混合、または可溶化は、ブレンダー、撹拌機、分散機、ミキサー(例えば、プラネタリーミキサーおよびダブルプラネタリーミキサー)、ホモジナイザー(例えば、GaulinホモジナイザーおよびRannieホモジナイザー)、ミル(例えば、コロイドミル、ボールミルおよびサンドミル)または当技術分野で知られている他の混合または分散装置を用いて実施することができる。
【0094】
潤滑油組成物の用途
本明細書に開示される潤滑油組成物は、火花点火式内燃エンジン、特に低速早期着火を起こしやすい直接噴射ブーストエンジンのモーター油(すなわち、エンジン油またはクランクケース油)としての使用に適し得る。
【0095】
以下の例は、本発明の実施形態を例示するために提示されているが、本発明を記載の特定の実施形態に限定することを意図するものではない。そうでないと指示しない限り、すべての部およびパーセントは重量による。すべての数値は近似値である。数値範囲が与えられる場合、述べられた範囲外の実施形態は依然として本発明の範囲内に含まれ得ることが理解されるべきである。各例で説明されている特定の詳細は、本発明の必要な特徴として解釈されるべきではない。
【0096】

以下の例は、例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲を決して限定するものではない。
【0097】
ベースライン配合物
ベースライン配合物は、グループ3の基油、潤滑油組成物にリン792ppmを与える量の1級および2級ジチオリン酸ジアルキル亜鉛の混合物、(ホウ酸化および炭酸エチレン後処理)ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤の混合物、潤滑油組成物にモリブデン192ppmを与える量のモリブデンスクシンイミド錯体、アルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤、ホウ酸化摩擦調整剤、抑泡剤、流動点降下剤、ならびにオレフィン共重合体粘度指数向上剤を含有していた。
【0098】
潤滑油組成物を5W-30または10W-30の粘度グレードの油にブレンドした。
【0099】
ジルコニウム化合物A
ジルコニウム化合物Aは、化学式Zr(C15の2-エチルヘキサン酸ジルコニウム(IV)(Zr 6%)である市販のジルコニウム化合物であった。
【0100】
ジルコニウム化合物B
ジルコニウム化合物Bは、市販のジルコニウム化合物であり、化学式Zr(OC(CHのジルコニウム(IV)tert-ブトキシド(Zr 5.89%)であった。
【0101】
ジルコニウム化合物C
ジルコニウム化合物Cは、以下の反応スキーム:
【化14】

のように調製されたサリチル酸ジルコニウム(IV)であった。
【0102】
上記の置換サリチル酸(182.3g、0.405モル、2当量)をトルエン200mLに溶解し、70℃に加熱した。トルエン中のサリチレートの透明な溶液が観察されたら、ジルコニウムプロポキシド94.8g、0.20mol、1.0当量、プロパノール中70%)を反応混合物に加えた。次に、反応混合物を3時間加熱還流した。反応混合物を周囲温度まで冷却し、溶媒を減圧下で除去した。得られた生成物は、ICP-AESにより測定してZr 9.63重量%を含有する褐色の低粘度油化合物として得られた。
【0103】
ジルコニウム化合物D
ジルコニウム化合物Dは、化学式がZr(CHCOCHCOCH(O(CHCHである市販の化合物ジルコニウム(IV)ビス(アセチルアセトナト)ジブトキシドであった。
【0104】
例1
ジルコニウム含有化合物Aからのジルコニウム1049ppmと、過塩基性Caスルホネートおよびフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム2192ppmとをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0105】
例2
ジルコニウム含有化合物Aからのジルコニウム491ppmと、過塩基性Caスルホネートおよびフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム1876ppmとをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0106】
例3
ジルコニウム含有化合物Aからのジルコニウム983ppmと、過塩基性Caスルホネートおよびフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム1924ppmとをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0107】
例4
ジルコニウム含有化合物Bからのジルコニウム894ppmと、過塩基性Caスルホネートおよびフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム2230ppmとをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0108】
例5
ジルコニウム含有化合物Cからのジルコニウム895ppmと、過塩基性Caスルホネートおよびフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム2181ppmとをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0109】
例6
ジルコニウム含有化合物Dからのジルコニウム1000ppmと、過塩基性Caスルホネートおよびフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム2399ppmとをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0110】
例7
ジルコニウム含有化合物Aからのジルコニウム2196ppmと、過塩基性Caスルホネートおよびフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム2155ppmとをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0111】
比較例1
過塩基性Caスルホネートフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム2148ppmをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0112】
比較例2
過塩基性Caスルホネートフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム1858ppmをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0113】
比較例3
過塩基性Caスルホネートフェネート清浄剤の組み合わせからのカルシウム2399ppmをベースライン配合物に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【0114】
LSPI試験
低速早期着火事象は、Ford 2.0L Ecoboostエンジンで測定した。このエンジンは、ターボチャージガソリン直接噴射(GDI)エンジンである。
【0115】
Ford Ecoboostエンジンは、約4時間を4回繰り返して動作される。エンジンは、1750rpmおよび1.7MPaの正味平均有効圧力(BMEP)で動作し、油溜め温度は95℃である。エンジンを各ステージ175,000燃焼サイクルで実行し、LSPI事象をカウントする。
【0116】
LSPI事象は、シリンダ内の燃料供給のピークシリンダ圧力(PP)および燃焼質量割合(MFB)を監視することによって測定される。いずれかまたは両方が基準に達している場合、LSPI事象が発生したと言うことができる。ピークシリンダ圧力のしきい値は、試験によって異なるが、典型的には平均シリンダ圧力を4~5標準偏差上回る。同様に、MFBのしきい値は、典型的には平均MFB(クランク角度で表される)よりも4~5標準偏差早い。LSPI事象は、試験ごとの平均事象、100,000燃焼サイクルごとの事象、サイクルごとの事象、および/または事象ごとの燃焼サイクルとして報告され得る。この試験の結果を以下に示す。
【表1】
【0117】
さらに、GM 2.0L LHU 4気筒ガソリンターボチャージ直接噴射エンジンをLSPI試験に使用した。各シリンダには燃焼圧力センサを装備した。
【0118】
6セグメントの試験手順を使用して、エンジン速度2000rpm、負荷275Nmの条件下で発生したLSPI事象の数を測定した。LSPI試験条件は、各セグメントをアイドル期間で区切って28分間実行する。一時的な部分を除去するために、各セグメントはわずかに切り捨てられる。切り捨てられた各セグメントには、通常、約110,000燃焼サイクル(シリンダあたり27,500燃焼サイクル)がある。合計で、6つの切り捨てられたセグメントの燃焼サイクルは約660,000である(シリンダあたり165,000燃焼サイクル)。
【0119】
LSPIの影響を受けた燃焼サイクルは、ピークシリンダ圧力(PP)と5%の総熱放出(AI5)でのクランク角を監視することにより測定した。LSPIの影響を受けた燃焼サイクルは、(1)所与のシリンダおよび切り捨てられたセグメントの平均PPよりも5標準偏差を超えて大きいPP、および(2)所与のシリンダおよび切り捨てられたセグメントの平均よりも5標準偏差を超えて小さいAI5の両方を有するとして定義される。
【0120】
LSPI頻度は、100万燃焼サイクルあたりのLSPI影響燃焼サイクル数として報告され、次のように計算される。
LSPI周波数=[(6つの切り捨てられたセグメントでのLSPIの影響を受けた燃焼サイクルの総数)/(6つの切り捨てられたセグメントでの燃焼サイクルの総数)]×1,000,000
【0121】
対応するベースライン潤滑剤と比較した場合、LSPIの頻度を低減する試験潤滑剤に関連する添加剤は、LSPIの頻度を軽減する添加剤と見なされる。試験結果を表2に示す。
【表2】
【0122】
データは、ジルコニウムを含む出願人の発明例が、Fordエンジンのジルコニウムを含まない比較例よりも、事象数だけでなく重大なLSPI事象の数においても著しく優れたLSPI性能を提供したことを示している。エンジンに損傷を与える可能性のある高圧事象(すなわち、120barを超える)の数を減少させることにより、重大度は低下する。