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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/10 20060101AFI20230206BHJP
   G10L 21/0208 20130101ALI20230206BHJP
   G10L 25/30 20130101ALI20230206BHJP
   G10L 25/84 20130101ALI20230206BHJP
【FI】
H04B1/10 L
G10L21/0208 100Z
G10L25/30
G10L25/84
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021102426
(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公開番号】P2023001605
(43)【公開日】2023-01-06
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000101662
【氏名又は名称】アルインコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】國分 二郎
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-128836(JP,A)
【文献】特表2000-515987(JP,A)
【文献】特開2002-149200(JP,A)
【文献】特開2003-058197(JP,A)
【文献】特開2020-155866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/10
G10L 21/0208
G10L 25/30
G10L 25/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信された無線信号を音声信号に復調する受信復調部を備える無線通信装置において、
前記復調された音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行うノイズキャンセル部を備え、
前記ノイズキャンセル部は、前記音声信号における時間軸に沿った所定のフレーム数ごとに算出された振動数である人間の音声の特徴パラメータを用いて学習され、前記振動数の総和のデータ分布を表す振動パターンに基づいて、前記復調された音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する深層学習モデル部を用いて、ノイズキャンセル処理を行い、
前記ノイズキャンセル部は、前記深層学習モデル部の前記判定に基づいて、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間を通過させないようにノイズキャンセル処理を行って、前記ノイズキャンセル処理後の音声信号を出力する音声信号処理部を備える、
無線通信装置。
【請求項2】
前記受信された無線信号は、所定の音声信号に従って周波数変調方式又は位相変調方式で変調される、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記ノイズキャンセル部は、
前記音声信号処理部の前段に設けられ、入力される音声信号に対して、人間の音声信号の所定のレベル範囲であって、所定の帯域幅のみを通過させる音声信号前置処理部をさらに備える、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記深層学習モデル部は、人間の音声の特徴パラメータを入力とし、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する判定結果を出力とする、所定のニューラルネットワークにより構成される、請求項1~のうちのいずれか1つに記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記無線通信装置は、特定小電力無線通信システムのための無線通信装置である特定小電力無線局である、請求項1~のうちのいずれか1つに記載の無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばFM変調方式の特定小電力無線通信無線局のための無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1において開示された無線通信機では、ノイズキャンセル機能及びスケルチ機能を有する無線通信機において、ノイズキャンセル機能が働いて聴覚上は受信感度が良いにも関わらず、スケルチ感度付近でスケルチが閉じてしまうことを抑制するために、以下の構成を開示している。
【0003】
無線通信機の復調部は、周波数変換部が周波数変換したIF信号を復調し、復調信号を出力する。ノイズキャンセル部は、復調信号の雑音成分を抑圧したノイズキャンセル信号を出力する。出力部は、ノイズキャンセル機能がオフの場合、復調信号を音声出力し、ノイズキャンセル機能がオンの場合、ノイズキャンセル信号を音声出力する。スケルチ制御部は、雑音信号が示す電圧値が第1のしきい値以上になると出力部の音声出力を停止し、第2のしきい値未満になると出力部の音声出力を許可する。ノイズキャンセル機能がオンの場合の第1のしきい値及び第2のしきい値は、ノイズキャンセル機能がオフの場合よりも大きいように設定されている。
【0004】
図5は従来例に係る無線機100の構成例を示すブロック図である。図5において、無線機100は、制御部10と、受信アンテナ11と、受信復調部12と、ノイズ量及び電界強度検出部16と、ノイズスケルチによる受信音声ミュート部17(ノイズスケルチ回路とも呼ばれる)と、音声信号増幅器14と、スピーカ15とを備えて構成される。
【0005】
図5において、受信アンテナ11により受信された無線信号は受信復調部12に入力される。受信復調部12は入力される無線信号に対して、低雑音増幅、低域周波数変換、中間周波増幅、例えばFM(周波数変調)復調などの信号処理を実行することで、音声信号を復調してノイズスケルチによる受信音声ミュート部17及び音声信号増幅器14を介してスピーカ15に出力する。ノイズ量及び電界強度検出部16は、受信された無線信号のノイズ量及び電界強度を検出して制御部10に出力する。制御部10は、検出されたノイズ量及び電界強度に応じて、ノイズスケルチによる受信音声ミュート部17を動作させて出力する音声信号をミュート(消音)する。具体的には、制御部10は、電界強度が所定のしきい値未満となった場合において、ノイズ量が第1のしきい値以上になるとノイズスケルチによる受信音声ミュート部17を動作させて音声信号の出力を停止し、第2のしきい値未満になるとノイズスケルチによる受信音声ミュート部17を非動作状態にさせて音声信号の出力を許可する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6730591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6図5の複数の無線機100A~100Dを含む無線通信システムの動作例を示すブロック図である。図6において、無線機100の構成をそれぞれ有する無線機100A~100Dが所定の通話限界距離(カバレージエリア)内に配置され、そのうち無線機100A~100Cが所定のノイズスケルチでの通話限界距離内に配置されているものとする。
【0008】
従来技術に係るFM変調方式の特定小電力無線通信機では、通話距離が長くなるにつれて電界強度が低下すると、無信号状態に近くなり、無信号時に出力されるホワイトノイズが受信音声に混ざり、結果としては図6における無線機100Cは通話限界距離に近づくにつれて受信音声はノイズ交じりになり音声の識別が困難になる。
【0009】
これらの従来技術に係る無線通信機に搭載されている一般的なノイズスケルチ回路は、このノイズをフィルタリングして整流することで、ノイズのレベルを受信機で判別して、受信音声を止めている。しかしながら、この方法の場合、ノイズ音と受信音のバランスの関係で本来受信できる音声も止めているため、図6における無線機100Dは通話限界距離をセーブしている状態が従来技術に係る無線通信機の現状となる。
【0010】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、従来技術における通話距離による受信音声の劣化を対策しつつ、通話限界距離を向上させることができる無線通信装置及び無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る無線通信装置は、受信された無線信号を音声信号に復調する受信復調部を備える無線通信装置において、
前記復調された音声信号からノイズをキャンセルするように音声信号処理を行うノイズキャンセル部を備え、
前記ノイズキャンセル部は、人間の音声の特徴パラメータを用いて学習され、前記復調された音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する深層学習モデル部を用いて、ノイズキャンセル処理を行う。
【発明の効果】
【0012】
従って、本発明に係る無線通信装置によれば、従来技術に係るノイズスケルチ回路に代えて、深層学習モデル部を用いてノイズキャンセル処理を行うノイズキャンセル部を備えたので、従来技術における通話距離による受信音声の劣化を対策しつつ、通話限界距離を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る無線機1の構成例を示すブロック図である。
図2図1のノイズキャンセル部13の構成例を示すブロック図である。
図3図2の深層学習モデル部35の構成例を示すブロック図である。
図4図1の複数の無線機1A~1Dを含む無線通信システムの動作例を示すブロック図である。
図5】従来例に係る無線機100の構成例を示すブロック図である。
図6図5の複数の無線機100A~100Dを含む無線通信システムの動作例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態及び変形例について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0015】
図1は実施形態に係る無線機1の構成例を示すブロック図である。図1において、無線機1は無線通信装置の一例であって、受信アンテナ11と、受信復調部12と、ノイズキャンセル部13と、音声信号増幅器14と、スピーカ15と、制御部20と、PTT(Push To Talk)キー21Aを含む操作部21と、マイクロホン22と、音声信号増幅器23と、変調送信部24と、送信アンテナ25とを備えて構成される。
【0016】
ここで、実施形態に係る無線機1は例えば特定小電力無線通信システムのための特定小電力無線局の無線通信装置の一例である。本実施形態では、無線機1はその受信部において、例えばFM(周波数変調)復調又はPM(位相変調)復調においてノイズ軽減で有効である図5のノイズスケルチによる受信音声ミュート部17に代えて、ノイズキャンセル部13を備えたことを特徴としている。また、複数の無線機1により無線通信システムを構成する。
【0017】
図1において、受信アンテナ11により受信された無線信号は受信復調部12に入力される。受信復調部12は、受信された無線信号を低雑音増幅、低域周波数変換、中間周波増幅等を行った後、例えばFM(周波数変調)復調又はPM(位相変調)復調などの所定の復調方式で音声信号に復調してノイズキャンセル部13に出力する。ノイズキャンセル部13は人間の音声により深層学習された深層学習モデル部35(図3)を用いて、復調された音声信号から音声信号期間のみ当該音声信号を通過させることで、ノイズをキャンセルするように音声信号処理を行った後、処理後の音声信号を音声信号増幅器14を介してスピーカ15に出力する。
【0018】
マイクロホン22は入力される音声を音声信号に変換して音声信号増幅器23を介して変調送信部24に出力する。制御部20は、PTTキー21Aがオンされたときに、変調送信部24を動作させ、変調送信部24は入力される音声信号に従って無線搬送波を所定の変調方式で変調した後、変調された無線搬送波である無線信号を、高域周波数変換しかつ電力増幅した後、送信アンテナ25から送信する。
【0019】
なお、本実施形態では、無線機1は送信周波数と受信周波数とが異なる同時通話方式での動作について説明したが、本発明はこれに限られず、無線機1は送信周波数と受信周波数とを同一の周波数を使用する場合は、制御部20は、PTTキー21Aがオンされたときに、受信復調部12の動作を停止させる。
【0020】
次いで、図2を参照して、深層学習モデル部35を用いた図1のノイズキャンセル部13の構成及び動作について以下に説明する。
【0021】
図2図1のノイズキャンセル部13の構成例を示すブロック図である。
【0022】
ここで、「音素」という用語は、特定の言語において1つの単語を他の単語から区別する音の単位を意味し、「振動レート」という用語は、各秒におけるデジタル化された振動データの0と1の間の移動の数を意味し、「振動計数値(VC)」という用語は、各フレーム内のデジタル化された振動データの値の合計を意味する。また、「振動パターン」とは、時間軸に沿った所定のフレーム数ごとに算出された振動数の総和のデータ分布を意味する。深層学習モデル部35では、異なる振動パターン、すなわち異なる振動計数値の総和(VS値)のデータ分布の違いを考慮して、ノイズキャンセル処理を行っており、振動レートは振動計数値に類似しているが、振動レートが大きいほど、振動計数値も大きくなる。
【0023】
音声信号の振幅と振動レートは共に観測可能である。ノイズキャンセル部13の特徴は、音声信号の振幅と振動率に応じて音声イベントを検出することである。また、別の特徴は、デジタル化された振動データの振動計数値の総和を、あらかじめ定義されたフレーム数分だけ計測することで、音声と、非音声/無音を区別することである。もう一つの特徴は、入力される音声信号データのストリームをその振動パターンによって異なる音素に分類することである。別の特徴は、下流の処理部をトリガするように、入力される音声信号データストリームから最初の起動音素を正しく区別することであり、それによって、処理部を含む計算システムの電力消費等の計算コストを節約することである。
【0024】
図2において、ノイズキャンセル部13は音声イベント検出を用いてノイズキャンセル処理を行うものであって、音声信号前置処理部38と、AD変換器39と、音声信号処理部30とを備えて構成される。ここで、音声信号前置処理部38は、アナログ音声信号に対して、ハイパスフィルタリング、ローパスフィルタリング、増幅又はそれらの組み合わせ等を含む、音声信号前置処理を行って、処理後のアナログ音声信号をAD変換器39に出力する。すなわち、音声信号前置処理部38は、マイクロホン22からの音声信号に対して、人間の音声信号の所定のレベル範囲であって、所定の帯域幅のみを通過させる。次いで、AD変換器39は、所定の基準電圧Vref及び許容電圧Vadm(<Vref)に従って、アナログ音声信号をデジタル音声信号にAD変換して音声信号処理部30の入力インターフェース36に出力する。
【0025】
本実施形態において、AD変換器39において、基準電圧Vrefよりも小さい許容電圧Vadmは、基準電圧Vrefと組み合わせて、第1のしきい値電圧Vth1(=Vref+Vadm))及び第2のしきい値電圧Vth2(=Vref-Vadm)を形成するために使用され、AD変換器39は、第1のしきい値電圧Vth1及び第2のしきい値電圧Vth2に基づいて、第1のしきい値電圧Vth1以上又は第2のしきい値電圧Vth2以下のノイズに対してAD変換を実行せず、その間の音声信号に対してAD変換を実行することで、入力されるアナログ音声信号のノイズ及び干渉を除去することができる。ここで、例えばVref=1.0V,Vadm=0.01Vとすると、静かな環境では振動データの振動数が少なく,音声環境では振動データの振動数が多いことが理解できる。なお、本実施形態において、「フレームサイズ」とは、各フレーム内のデジタル化された振動データに対応するサンプリングポイントの数を意味し、「音素ウィンドウTw」とは、各音素の音声特徴量を収集するための時間を意味する。好ましい実施形態では、各フレームの継続時間Tfは例えば0.1~1ミリ秒(ms)であり、音素ウィンドウTwは例えば約0.3秒である。さらに好ましい実施形態では、各フレーム内のデジタル化された振動データに対応するサンプリングポイントの数は例えば1~16の範囲である。
【0026】
音声信号を分析する場合、ほとんどの音声信号は短期間で安定しているので、通常、短期分析の方法が採用される。例えば、AD変換器39で使用されるサンプリング周波数fsが16000であり、各フレームの継続時間Tfが1msであると仮定すると、フレームサイズはfs×1/1000=16サンプルポイントとなる。
【0027】
図2において、音声信号処理部30は例えばコンピュータデバイスで構成され、
(1)ノイズキャンセルなどの所定の音声信号処理を実行するCPU(Central Processing Unit)31と、
(2)CPU31の基本処理を実行するオペレーティングシステム及び前記音声信号処理のプログラム、並びに当該プログラムを実行するために必要なデータ等を格納するROM(Read Only Memory)32と、
(3)CPU31の基本処理を実行するオペレーティングシステム及び前記音声信号処理のプログラムの実行時に、処理中のデータ等を格納するRAM(Read Access Memory)33と、
(4)前記音声信号処理を実行するために必要な後述する設定データ等を格納する不揮発性のEEPROM(Electrically Erasable Programmable Memory)34と、
(5)例えばニューラルネットワークなどで構成され、人間の音声信号データに基づいて深層学習されて入力される音声信号データに対して、ノイズを除去して実質的に音声信号のみを抽出して出力する深層学習モデル部35と、
(6)AD変換器39から入力される音声信号データを、後段の信号仕様値に変換するための所定の信号変換処理を行ってCPU31に出力する入力インターフェース36と、
(7)深層学習モデル部35によりノイズが除去された音声信号データを、後段の信号仕様値に変換するための所定の信号変換処理を行って端子T12、音声ラインL2等を介して無線機1に出力する出力インターフェース37と、
を備えて構成される。
【0028】
ここで、EEPROM34は例えば、一連の振動計数値VC、振動計数値の総和VS、振動計数値の総和VSf、振動計数値の総和VSp(後述する)、及びすべての特徴ベクトルの音声特徴値を記憶する。なお、EEPROM34は外部メモリなどの記憶装置であってもよい。音声信号処理部30に適用される音声イベント検出方法は、音声イベントを捕捉するために、CPU31によってランタイム中に実行される。fs=16000、Tf=1ms、Tw=0.3sと仮定して、音声イベント検出を実行する。
【0029】
CPU31は、具体的には、処理対象である現在のフレーム(すなわち、1ms以内)の振動データ値の総和を計算して、振動計数値VCを取得し、その後、時点Tjにおける現在のフレームのVC値をEEPROM34に格納する。ここで、x個のフレームの振動計数値VCを加算して、時点Tjにおける現在のフレームの振動計数値の総和VSを得る。x個のフレームには現在のフレームが含まれる。一実施形態では、CPU31は、時点Tjにおける現在のフレームの振動計数値VCと、その直前(x-1)個のフレームの振動計数値の総和VSpとを加算して、時点Tjにおけるx個のフレームの振動計数値の総和VS(=VC+VSp)を得る。
【0030】
なお、変形例では、CPU31は、時点Tjにおける現在のフレームの振動計数値VC、その直後のy個のフレームの振動計数値の総和VSf、及びその直前の(x-y-1)個のフレームの振動計数値の総和VSpを加算して、時点Tjにおけるx個のフレームの振動計数値の総和VS(=VC+VSf+VSp)を得るが、yはゼロ以上である。CPU31は、VS、VSf及びVSpの値をEEPROM34に格納する。好ましい実施形態では、x個のフレーム(音素ウィンドウTw)の継続時間(x×Tf)は、約0.3秒である。さらに好ましい実施形態では、x個のフレームのデジタル化された振動データに対応するサンプリングポイントの数は、x~16xの範囲にある。
【0031】
一般的に、音声信号データについては、同じ音素では振動計数値VCの振動パターンが類似しているが、異なる音素ではVS値の振動パターンが全く異なる。従って、振動計数値VCの振動パターンを利用して、音素を区別することができる。特に、例えば鶏又は猫の鳴き声と、人間の音声とは、振動計数値VCの周波数分布に関して全く異なり、人間の音声の振動計数値VCのほとんどは40以下に分布していることが既知である。
【0032】
学習フェーズにおいて、音声信号処理部30のCPU31は、まず、所定の音声信号データ収集方法を複数回実行して、複数の音素に対する複数の特徴ベクトルを収集し、複数の特徴ベクトルに対応するラベルを付加して、複数のラベル付き学習例を形成する。その後、起動音素を含む異なる音素に対する複数のラベル付き学習例を、深層学習モデル部35の学習に適用する。最後に、学習された深層学習モデル部35(音声信号データの予測モデルを構成する)を作成して、入力される音声信号データのストリームが起動音素を含むかどうかを分類する。音声信号処理部30の起動音素として、所定の音素が指定されている場合、深層学習モデル部35は、少なくとも当該指定された音素を含む異なる音素についての複数のラベル付き学習例で学習される。
【0033】
すなわち、学習段階では、ラベル付けされた学習例のセットを使用して深層学習モデル部35を学習し、それによって深層学習モデル部35が、ラベル付けされた学習例の各フレームの3つの音声特徴量(例えば、(VSj,TDj,TGj))に基づいて、j=0~299の間で、所定の起動音素を認識するようにする。学習段階の終わりに、学習された深層学習モデル部35は、当該起動音素に対応する学習されたスコアを提供し、学習されたスコアは、次に、入力される音声信号データのストリームをランタイムで分類するための基準として使用される。なお、VSj,TDj,TGjは以下のように定義される。
(1)VSj:フレームjの振動計数値の総和(VS値);
(2)TDj:フレームjにおいて、ゼロではない振動計数値の総和(VS値)の時間期間;及び
(3)TGj;フレームjにおける、ゼロではない振動計数値の総和(VS値)間の時間ギャップ(時間隙間)。
【0034】
深層学習モデル部35を学習するために、教師付き学習に関連する様々な機械学習技術を使用することができ、例えば、サポートベクターマシン(SVM)法、ランダムフォレスト法、畳み込みニューラルネットワーク法などを利用できる。教師付き学習では、複数のラベル付けされた学習例を使用して関数計算部(すなわち、深層学習モデル部35)が作成され、その各例は、入力特徴ベクトルとラベル付けされた出力からなる。学習されたとき、深層学習モデル部35は、対応するスコア又は予測値を生成するために、新しいラベルのない例に適用することができる。
【0035】
図3図2の深層学習モデル部35の詳細構成例を示すブロック図である。
【0036】
深層学習モデル部35は、例えば、図3に示すように、ニューラルネットワークを用いて実装される。ここで、ニューラルネットワークは、1つの入力層41と、少なくとも1つであり好ましくは複数の中間層42と、1つの出力層43を含む。入力層41には3つの入力ニューロン51,52,53があり、各入力ニューロン51,52,53は、特徴ベクトルの各フレームの3つのオーディオ特徴値(すなわち、VSj,TDj,TGj)に対応する。また、中間層42は、各入力ニューロン51,52,53に関連する重み係数と各ニューロンのバイアス係数を有するニューロン61~74で構成される。学習フェーズのサイクルを通じて中間層42の各ニューロン61~74の重み係数とバイアス係数を変更することにより,ニューラルネットワークを学習して,所定の種類の入力に対する予測値を報告するようにすることができる。さらに、出力層43は、音素に対応する1つの予測値(具体的には、音声期間であるか、ノイズを含む非音声期間であるかを示す)を提供する1つの出力ニューロン81を含む。
【0037】
以上説明したように、前記ノイズキャンセル部において、深層学習モデル部35は、人間の音声の特徴パラメータを用いて学習され、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する。そして、音声信号処理部30のCPU31は、深層学習モデル部35の前記判定に基づいて、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間を通過させないようにノイズキャンセル処理を行って、前記ノイズキャンセル処理後の音声信号を出力する。ここで、深層学習モデル部35は、人間の音声の特徴パラメータを入力とし、入力される音声信号からノイズを含む非音声期間であるか否かを判定する判定結果を出力とする、図3のニューラルネットワークにより構成される。
【0038】
図4図1の複数の無線機1A~1Dを含む無線通信システムの動作例を示すブロック図である。図4において、無線機1の構成をそれぞれ有する無線機1A~1Dが所定の通話限界距離(カバレージエリア)内に配置され、そのうち無線機1A~1Cが所定のノイズスケルチでの通話限界距離内に配置されているものとする。
【0039】
図4に示すように、復調した音声信号をスピーカ15に出力する前段でノイズキャンセル部13に通すことによって、無信号に近くなってきた際のホワイトノイズが無くなり、図4における無線機1Cは通話限界距離に近づいていっても受信音声はクリアな音声を保ち続ける。また、従来のノイズスケルチ回路の代わりに、深層学習モデル部35を利用するノイズキャンセル部13を用いてノイズキャンセルすることで、無信号状態のノイズの出力を停止させる(又は軽減させる)ことにより、本来受信できる音声信号も出力停止させることが無い。従って、図4における無線機1Dは限界通話距離ギリギリまで受信された音声信号を出力でき、ノイズスケルチ回路に比べて通話距離を延ばすことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上詳述したように、本発明に係る無線通信装置によれば、従来のノイズスケルチ回路の代わりに、深層学習モデル部35を利用するノイズキャンセル部13を用いてノイズキャンセルすることで、従来技術における通話距離による受信音声の劣化を対策しつつ、通話限界距離を向上させることができる。
【符号の説明】
【0041】
1,1A~1D 無線機
11 受信アンテナ
12 受信復調部
13 ノイズキャンセル部
14 音声信号増幅器
15 スピーカ
16 ノイズ量及び電界強度検出部
17 ノイズスケルチによる受信音声ミュート部
20 制御部
21 操作部
21A PTTキー
22 マイクロホン
23 音声信号増幅器
24 変調送信部
25 送信アンテナ
30 音声信号処理部
31 CPU
32 ROM
33 RAM
34 EEPROM
35 深層学習モデル部
36 入力インターフェース
37 出力インターフェース
38 音声信号前置処理部
39 AD変換器
41 入力層
42 中間層
43 出力層
51~81 ニューロン
100,100A~100D 無線機
図1
図2
図3
図4
図5
図6