(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】CS1特異的キメラ抗原受容体を遺伝子操作した免疫エフェクター細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230206BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230206BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230206BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230206BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20230206BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20230206BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230206BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230206BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230206BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230206BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230206BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230206BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230206BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230206BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
A61K35/17 A
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/04
C07K14/705
C07K16/30 ZNA
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/0783
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021118254
(22)【出願日】2021-07-16
(62)【分割の表示】P 2019079616の分割
【原出願日】2014-05-02
【審査請求日】2021-08-12
(32)【優先日】2013-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514137997
【氏名又は名称】オハイオ・ステイト・イノベーション・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ユー, チァンファ
(72)【発明者】
【氏名】ホフマイスター, クレッグ
(72)【発明者】
【氏名】チュ, チァンホン
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/079000(WO,A1)
【文献】特開2012-121878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
A61K 35/17
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 37/04
C07K 14/705
C07K 16/30
C07K 19/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/0783
C12N 5/10
C12N 15/12
C12N 15/13
C12N 15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CS1抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン及び共刺激シグナル伝達領域を含む、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドであって、前記CS1抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体の、単鎖可変断片(scFv)からなり、
前記ポリペプチドが、配列番号28、又は配列番号28に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体を含む、
ポリペプチド。
【請求項2】
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD28及び4-1BBからなる群から選択される共刺激分子の細胞質ドメインを含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記CARポリペプチドが、式:
SP-CS1-HG-TM-CSR-ISD
(式中、「SP」は、シグナルペプチドを表し、
「CS1」は、CS1抗原結合ドメインを表し、
「HG」は、任意のヒンジドメインを表し、
「TM」は、膜貫通ドメインを表し、
「CSR」は、共刺激シグナル伝達領域を表し、
「ISD」は、細胞内シグナル伝達ドメインを表し、
「-」は、二価のリンカーを表す)
で定義される、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3ゼータ(CD3ζ)シグナル伝達ドメインを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記CS1抗原結合ドメインが、配列番号19を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記CS1抗原結合ドメインが、配列番号17を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
配列番号28を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする単離核酸。
【請求項9】
配列番号18を含む、請求項8に記載の単離核酸。
【請求項10】
配列番号29を含む、請求項8に記載の単離核酸。
【請求項11】
請求項8~
10のいずれか一項に記載の単離核酸を含むベクター。
【請求項12】
請求項
11に記載のベクターを含む単離細胞。
【請求項13】
T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及び細胞傷害性Tリンパ球(CTL)からなる群から選択される、請求項
12に記載の単離細胞。
【請求項14】
前記CARの前記抗原結合ドメインがCS1に結合するとき、抗腫瘍免疫を呈する、請求項
12又は
13に記載の単離細胞。
【請求項15】
多発性骨髄腫(MM)を有する対象において抗腫瘍免疫をもたらすための剤であって、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドを発現するように遺伝子的に改変した免疫エフェクター細胞を有効成分として含有し、前記CARポリペプチドがCS1抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み、前記CS1抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体の単鎖可変断片(scFv)を含み、
前記ポリペプチドが、配列番号28、又は配列番号28に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体を含む、剤。
【請求項16】
前記免疫エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及び細胞傷害性Tリンパ球(CTL)からなる群から選択される、請求項
15に記載の剤。
【請求項17】
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD28及び4-1BBからなる群から選択される共刺激分子の細胞質ドメインを含む、請求項
15又は
16に記載の剤。
【請求項18】
前記共刺激分子がCD28である、請求項
17に記載の剤。
【請求項19】
前記共刺激分子が4-1BBである、請求項
17に記載の剤。
【請求項20】
前記CARポリペプチドが、式:
SP-CS1-HG-TM-CSR-ISD
(式中、「SP」は、シグナルペプチドを表し、
「CS1」は、CS1抗原結合ドメインを表し、
「HG」は、任意のヒンジドメインを表し、
「TM」は、膜貫通ドメインを表し、
「CSR」は、共刺激シグナル伝達領域を表し、
「ISD」は、細胞内シグナル伝達ドメインを表し、
「-」は、二価のリンカーを表す)
で定義される、請求項
15~
19のいずれか一項に記載の剤。
【請求項21】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3ゼータ(CD3ζ)シグナル伝達ドメインを含む、請求項
15~
20のいずれか一項に記載の剤。
【請求項22】
前記CS1抗原結合ドメインが、配列番号19を含む、請求項
15~
21のいずれか一項に記載の剤。
【請求項23】
前記CS1抗原結合ドメインが、配列番号17を含む、請求項
15~
21のいずれか一項に記載の剤。
【請求項24】
前記CARポリペプチドが、配列番号28を含む、請求項
15~23のいずれか一項に記載の剤。
【請求項25】
前記CS1抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体の単鎖可変断片(scFv)からなる、請求項
15~
24のいずれか一項に記載の剤。
【請求項26】
前記CS1抗原結合ドメインが配列番号17からなる、請求項
25に記載の剤。
【請求項27】
前記対象がヒトである、請求項
15~
26のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年5月3日に出願された米国仮出願第61/819,141号及び2013年9月11日に出願された米国仮出願第61/876,492号の利益を主張するものであり、これらの出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
多発性骨髄腫(MM)は、骨髄内の形質細胞(PC)の異常なクローン増殖を特徴とするB細胞の悪性腫瘍であり、2012年に米国内で特定されたMMの新規症例は21,700件、死亡症例は10,710件と推定される(Siegel R,et al.Cancer J Clin 2012 62:10-29)。2013年には、米国で22,350名の個人がMMであると新たに診断され、全血液系腫瘍による死亡の20%を占める10,710名の人々が死亡すると推定されている。プロテアソーム阻害剤及び免疫調節剤の使用は全体的な生存率を改善しているが(Palumbo A,et al.Leukemia 2009 23:449-456)、MMは、依然として不治の悪性腫瘍(Podar K,et al.Leukemia 2009 23:10-24)であり、新規治療法が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
養子細胞移入とともに用いて多発性骨髄腫(MM)細胞を標的にし、殺傷することができるキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドが本明細書にて開示される。細胞表面糖タンパク質であるCS1は、骨髄腫細胞の表面に多量かつ偏在的に発現する一方で、免疫エフェクター細胞の大部分では発現レベルが極めて低い。したがって、本開示のCARポリペプチドは、CS1を発現しているMM細胞に結合できる抗CS1結合要素を細胞外ドメインに含有する。他のCARと同様に、本開示のポリペプチドは、膜貫通ドメインと、免疫エフェクター細胞を活性化できる細胞内ドメインとを含み得る。たとえば、細胞内ドメインは、細胞内シグナル伝達ドメインと、任意で共刺激シグナル伝達領域を含み得る。
【0004】
抗CS1結合要素は、いくつかの実施形態において、CS1に特異的に結合する抗体断片または抗原結合断片である。たとえば、抗原結合ドメインは、CS1に特異的に結合する抗体のFabまたは単鎖可変断片(scFv)であり得る。抗CS1結合要素は、いくつかの実施形態において、CS1に特異的に結合するアプタマーである。たとえば、抗CS1結合要素は、CS1への結合能に基づいてランダム配列プールから選択されるペプチドアプタマーであり得る。抗CS1結合要素はまた、CS1の天然リガンドまたはCS1に結合することができる変異体及び/もしくはそれらの断片であり得る。
【0005】
いくつかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ゼータ(CD3ζ)シグナル伝達ドメインであり、共刺激シグナル伝達領域は、CD28、4-1BBまたはこれらの組み合わせの細胞質ドメインを含む。場合により、共刺激シグナル伝達領域は、1つまたは複数の細胞内シグナル伝達分子及び/または共刺激分子のうちの1、2、3または4つの細胞質ドメインを含有する。
【0006】
本開示のCARポリペプチドをコードする単離核酸配列、これらの単離核酸を含むベクター、及びこれらのベクターを含有する細胞もまた開示される。たとえば、本細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)及び制御性T細胞からなる群から選択される免疫エフェクター細胞であり得る。いくつかの実施形態において、本細胞は、CARの抗原結合ドメインがCS1に結合するとき、抗腫瘍免疫を呈する。
【0007】
多発性骨髄腫(MM)を有する対象に抗腫瘍免疫をもたらすための方法もまた開示される。本方法は、本開示のCS1特異的CARで遺伝子的に改変した有効量の免疫エフェクター細胞を対象に投与することを含む。
【0008】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細について、添付図面及び以下の説明にて記載する。本発明の他の特徴、目的及び利点は、当該説明と図面から、また特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A-1C】CS1特異的CARの作製及びCAR形質導入T細胞におけるその発現を示す。
図1Aは、CD28及びCD3ζ細胞内ドメインに連結した抗CS1 scFvを含有するPinco-CS1-CARレトロウイルス構築物の概略図である。LTRは長末端反復配列、SPはシグナルペプチド、VHは可変H鎖、Lはリンカー、VLは可変L鎖である。
図1Bにおいて、PBMC(末梢血単核細胞)をCD3ビーズ及びCD28ビーズで活性化し、Pinco-CS1-CAR構築物またはPinco構築物を用いて形質導入した。GFP陽性細胞を分取し、細胞溶解物を抗ヒトCD3ζ一次抗体による還元条件下で免疫ブロット分析にかけた。
図1Cにおいて、健常ドナー由来のモック1形質導入T細胞またはCS1-CAR1形質導入T細胞をビオチン標識ヤギ抗マウスFab特異的抗体またはアイソタイプ適合対照抗体で染色し、次いで、ストレプトアビジン及びCD3抗体染色を行った。
【
図2A-2C】CS1発現骨髄腫細胞株に反応して、CS1標的T細胞がモックT細胞よりも多くのIFN-γ及びIL-2を分泌することを示す。
図2Aは、骨髄腫細胞株の表面上におけるCS1発現のフローサイトメトリー分析を示す。示した4つの骨髄腫細胞株をPE標識抗CS1 mAb抗体(実線)またはアイソタイプ適合対照抗体(点線)で染色した。
図2B及び2Cは、モックまたはCS1-CARを形質導入した健常ドナーT細胞(2×10
5)におけるIFN-γ(
図2B、ng/ml)及びIL-2(
図2C、pg/ml)の分泌を示す棒グラフである。各細胞は、24時間、単独培養(標的なし)するか、CS1を異なる量で発現する同数の骨髄腫細胞で刺激した。
【
図3A-3D】CS1標的T細胞が、CS1タンパク質を明確に発現している骨髄腫細胞を優先的に根絶することを示す。
図3Aにおいて、
51Cr標識したNCI-H929、IM9、MM.1S及びRPMI-8226の骨髄腫細胞(5×10
3)をモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞と記載のE/T比で4時間共培養し、標的溶解(
51Cr放出)を測定した。
図3Bにおいて、モック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞における脱顆粒マーカーCD107a及びT細胞活性化マーカーCD69の発現を、NCI-H929細胞と4時間共培養した後、フローサイトメトリーにより評価した。モック形質導入T細胞と比較すると、CS1-CAR形質導入T細胞は、CS1発現NCI-H929細胞に反応して、脱顆粒に優れ、T細胞活性化が高かった。
図3Cにおいて、モック形質導入T細胞及びCS1-CAR形質導入T細胞を透過処理し、グランザイムB及びパーフォリンに特異的なmAbによって細胞内染色し、フローサイトメトリーにより分析した。
【
図4A-4D】MM細胞におけるCS1の異所性過剰発現が、CS1-CAR T細胞による認識後、細胞傷害性及びサイトカイン分泌の増大を誘発することを示す。
図4Aは、CS1を過剰発現するRPMI-8226細胞(RPMI-8226-CS1、太い実線)または空ベクター対照のRPMI-8226細胞(RPMI-8226-PCDH、薄い実線)の表面上のCS1タンパク質またはIgGアイソタイプ対照(点線)に関するフローサイトメトリー染色を示す。
図4Bは、RPMI-8226-CS1細胞及びRPMI-8226-PCDH細胞に対するモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞の細胞傷害性を示すグラフである。RPMI-8226-CS1細胞及びRPMI-8226-PCDH細胞をモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞と表示のE/T比で4時間インキュベートし、標準
51Cr放出アッセイを用いて特異的溶解を特定した。
図4C及び4Dは、単独培養するか、同数のRPMI-8226-CS1細胞もしくはRPMI-8226-PCDH細胞のいずれかで刺激したモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞(1×10
5)におけるIFN-γ(
図4C、pg/ml)及びIL-2(
図4D、pg/ml)の分泌を示す棒グラフである。
【
図5A-5D】CS1-CAR T細胞がCS1発現ヒト初代骨髄腫細胞をエクスビボで特異的に認識し、排除することを示す。
図5Aは、抗CD3ビーズ及び抗CD28ビーズで活性化し、Pinco-CS1-CAR構築物またはPinco構築物(モック)を用いて形質導入し、抗マウスFab抗体及び抗ヒトCD3抗体で染色したMM患者由来PBMCに関するフローサイトメトリーの結果を示す。類似データを有する患者4名のうちの1名の結果を示す。
図5Bは、MM患者から新しく単離したCD138
+骨髄腫細胞におけるCS1タンパク質に関するフローサイトメトリー染色を示す。類似データを有する患者10名のうちの3名の結果を示す。
図5Cは、(A)記載のE/T比で4時間、(B)自己由来性のモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞と共培養したCD138
+骨髄腫細胞の特異的溶解(
51Cr放出アッセイ)を示す一連のグラフである。
図5Dは、(C)E/T比を1:1とし、インキュベーション時間を24時間まで延長したことを除いて同様に処置した細胞によるIFN-γ分泌(pg/ml)を示す棒グラフである。
【
図6A-6B】CS1標的T細胞が、同所性MM.1S異種移植マウスモデルにおいて腫瘍成長を阻害し、マウス生存を延ばすことを示す。
図6Aは、記載の各群から得た代表的なMM.1S腫瘍マウス5匹に関する一連の背面及び腹面の生物発光画像である。NSGマウスにルシフェラーゼを発現するMM.1S細胞8×10
6個を静脈に播種した(0日)。接種から7日及び14日後に、PBS(プラセボ対照群)、10×10
6個のモックT細胞(モック対照群)またはCS1-CAR T細胞(CAR処置群)を各マウスに与えた。
図6Bは、PBS、モックT細胞またはCS1-CAR T細胞で処置したMM.1S保有マウスのカプランマイヤー生存曲線を示す。
【
図7A-7E】CS1を発現する293T形質転換細胞がCS1-CAR T細胞による認識及び溶解の影響を受けたことを示す。
図7Aは、293T親細胞がCS1発現に対して陰性であったことを示す。293T細胞をPE標識抗CS1 mAb抗体(実線)またはアイソタイプ適合対照Ab(点線)で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
図7Bは、CS1を過剰発現する293T細胞(293T-CS1、太く濃い実線)または空ベクターの293T細胞(293T-PCDH、灰色の太い実線)の表面上におけるCS1タンパク質に関するフローサイトメトリー染色を示す。IgGアイソタイプで染色したCS1を発現する293T細胞(点線)を非特異的結合対照とした。
図7Cは、293T-CS1細胞及び293T-PCDH細胞に対するモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞の細胞傷害性を示す。293T-CS1細胞及び293T-PCDH細胞をモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞と表示のE/T比で4時間インキュベートし、標準
51Cr放出アッセイを用いて特異的溶解を特定した。
図7D及び7Eは、単独培養するか、293T-CS1細胞もしくは293T-PCDH細胞で刺激したモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞によるIFN-γ分泌(
図7D、pg/ml)またはIL-2分泌(
図7E、pg/ml)を示す棒グラフである。
【
図8A-8B】CD4
+CS1-CAR T細胞及びCD8
+CS1-CAR T細胞の両方が骨髄腫細胞に反応して活性化したことを示す。
図8Aにおいて、モック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞を12時間、単独培養するか、NCI-H929細胞及びMM.1S細胞で刺激し、次に、CD3及びCD8の表面発現ならびに細胞内IFN-γをフローサイトメトリーによって評価した。プロットはCD3+リンパ球に関してゲーティングした。類似の結果を有する3つの代表的実験のうちの1つを示す。
図8Bにおいて、モック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞を4時間、単独培養するか、NCI-H929細胞及びMM.1S細胞で刺激し、CD3及びCD8の表面発現ならびに脱顆粒マーカーCD107aをフローサイトメトリーによって評価した。プロットは生存CD3
+リンパ球に関してゲーティングした。類似の結果を有する3つの代表的実験のうちの1つを示す。
【
図9A-9B】CS1標的T細胞が、同所性IM-9異種移植マウスモデルにおいて腫瘍成長を阻害し、マウス生存を延ばすことを示す。
図9Aは、記載の各群から得た代表的なIM9腫瘍マウス5匹に関する背面及び腹面の生物発光画像である。NSGマウスにルシフェラーゼを発現するIM9細胞5×10
5個をi.v.播種した(0日)。接種から7日及び21日後に、PBS(プラセボ対照群)、10×10
6個のモックT細胞(モック対照群)またはCS1-CAR T細胞(CAR処置群)を各マウスに与えた。白色の十字形「+」は、撮像時点でMM疾患によって死亡したPBS処置群のマウスを示す。
図9Bは、PBS、モックT細胞またはCS1-CAR T細胞で処置したIM9保有マウスのカプランマイヤー生存曲線を示す。
【
図10A-10C】CS1-CAR T細胞が、MM.1S細胞移植NSGマウスの骨髄(BM)にて存続し、増殖したことを示す。0日目にMM.1S細胞8×10
6個をNSGマウスに播種し、7日目にCS1-CAR T細胞10×10
6個でマウスを処置した。20日目に、DPBS溶液中のBrdu1.5mgをマウスにi.p.注入した。翌日にマウスを屠殺し、製造業者のプロトコールに従って、CD45及びCD3ヒト特異的抗体ならびに/または抗Brdu抗体(BD Biosciences)による表面染色でBM細胞を単離した。
図10Aは、代表マウスのBMにおけるヒトT細胞(CD45
+/CD3
+)のパーセンテージを示す。
図10Bにおいて、ゲートしたヒトT細胞(CD45
+/CD3
+)をIgG(左パネル)または抗Fab Ab(右パネル)で染色してCAR発現を確認した。
図10Cにおいて、ゲートしたヒトT細胞(CD45
+/CD3
+)をIgG(左パネル)または抗Brdu Abで染色し、Brdu組込T細胞のパーセンテージを示した。
【
図11A-11C】CS1-CAR T細胞が、初代NK細胞及びT細胞に対して低い反応性を呈したことを示す。
51Cr標識ヒト初代NK細胞及びT細胞(5×10
3)を、モック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞と記載のエフェクター/標的(E/T)比で4時間共培養し、NK細胞(
図11A)及びT細胞(
図11B)の標的溶解(
51Cr放出)を測定した。
図11Cは、24時間、単独培養するか、初代NK細胞、T細胞もしくは骨髄腫細胞のいずれかで刺激したモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞によるIFN-γ分泌を示す棒グラフである。
【
図12】初代NK細胞またはT細胞が、CS1-CAR T細胞にて明らかな活性化誘導細胞死(AICD)をもたらさなかったことを示す。初代NK細胞及びT細胞を同数の
51Cr標識したモック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞と12時間インキュベートした。次に、特異的溶解を
51Cr放出アッセイを用いて特定した。
【
図13A-13C】CS1特異的CARの作製及びCAR形質導入NK細胞におけるその発現を示す。
図13Aは、CS1-CARレンチウイルス構築物の概略図である。
図13Bは、CD3ζ特異的Abを用いたCS1-CAR発現のウェスタンブロット分析を示す。示したデータは、類似の結果を有する3つの実験の代表である。
図13Cは、CS1-CAR構築物または空ベクター(EV)を用いて形質導入し、抗myc抗体またはIgG1アイソタイプ対照で細胞染色した後にフローサイトメトリーで分析した、FACS分取NK-92細胞及びNKL細胞の表面上におけるキメラCS1 scFv発現を示す。示したデータは、類似の結果を有する3つの実験の代表である。
【
図14A-14D】CS1-CAR NK細胞がCS1
-MM細胞ではなく、CS1
+MM細胞を根絶することを示す。
図14Aは、抗CS1 mAb抗体またはアイソタイプ適合対照抗体で細胞染色した後にフローサイトメトリーを用いた、L363、IM9及びU266のMM細胞株の表面上におけるCS1発現の特定を示す。
図14B~13Dは、標準
51Cr放出アッセイを用いた、IM9(
図14B)、L363(
図14C)及びU266(
図13D)の各細胞に対するモック形質導入またはCS1-CAR形質導入したNK-92細胞またはNKL細胞の細胞傷害活性を示す。NK-92-EV及びNKL-EVはそれぞれ空ベクター(EV)対照を形質導入したNK-92細胞及びNKL細胞を示す。NK-92-CS1-CAR及びNKL-CS1-CARはそれぞれNK-92細胞及びNKL細胞のCS1-CAR構築物による形質導入を示す。*及び**はそれぞれP<0.05及びP<0.01を示す。
【
図15A-15C】CS1
+MM細胞の認識が、対照NK細胞からの反応よりもCS1-CAR NK細胞からの反応をより強く誘導することを示す。
図15A~15Cは、同数のIM9(
図15A)、L363(
図15B)またはU266(
図15C)の各骨髄腫細胞と24時間共培養したモック形質導入またはCS1-CAR形質導入したNK-92エフェクター細胞またはNKLエフェクター細胞によるIFN-γ分泌を示す棒グラフである。NK-92-EV及びNKL-EVはそれぞれ空ベクター(EV)対照を形質導入したNK-92細胞及びNKL細胞を示す。NK-92-CS1-CAR及びNKL-CS1-CARはそれぞれNK-92細胞及びNKL細胞のCS1-CAR構築物による形質導入を示す。
【
図16A-16C】NK-92-CS1-CAR細胞の標的認識向上がMM細胞上のCS1発現に依存することを示す。
図16Aは、CS1を過剰発現するU266細胞(U266-CS1、太い実線)または空ベクター対照のU266細胞(U266-ベクター、薄い実線)の表面上のCS1タンパク質またはIgG対照(点線)に関するフローサイトメトリー染色を示す。
図16Bは、U266-ベクター細胞及びU266-CS1細胞に対するモック形質導入NK-92細胞またはCS1-CAR形質導入NK-92細胞(それぞれNK-92-EV及びNK-92-CS1-CAR)の細胞傷害性を示す。U266-ベクター細胞またはU266-CS1細胞をNK-92-CS1-CAR細胞またはNK-92-EV細胞と異なるエフェクター/標的(E/T)比で4時間インキュベートした。特異的溶解を標準
51Cr放出アッセイを用いて特定した。*はP<0.05を示す。(c)NK-92-CS1-CAR細胞またはNK-92-EV細胞を同数のU266-ベクター骨髄腫細胞またはU266-CS1骨髄腫細胞と24時間共培養した。次に、ELISAを用いたIFN-γ分泌の測定のために、上清を回収した。
【
図17A-17C】CS1-CAR改変NK細胞の表現型の特徴を示す。
図17Aにおいて、モック形質導入NK-92細胞またはCS1-CAR形質導入NK-92細胞(それぞれNK-92-EV及びNK-92-CS1-CAR)を4時間、単独培養するか、IM9MM細胞と培養した。NKp30、NKp46、NKG2C、NKG2D、CD69及びHLA-DRの表面発現を、対応するmAbで染色後、フローサイトメトリーによって評価し、平均蛍光強度(MFI)を記録した。*はP<0.05を示す。
図17Bにおいて、NK-92-EV細胞及びNK-92-CS1-CAR細胞を透過処理し、パーフォリンまたはグランザイムBに特異的なmAbによって細胞内染色し、フローサイトメトリーにより分析した。点線は、対照IgG抗体によるNK-92-EV対照細胞の染色を示し、太い実線はパーフォリン抗体またはグランザイムB抗体のいずれかによるNK-92-CS1-CAR細胞の染色を表し、薄い実線はパーフォリン抗体またはグランザイムB抗体のいずれかによるNK-92-EV対照細胞の染色を示す。
図17Cは、
図17Bに示すヒストグラムのMFIを示す。*はP<0.05を示す。
【
図18A-18C】CS1-CAR形質導入NK-92細胞が初代ヒト骨髄腫細胞の殺傷を促進することを示す。
図18Aは、CS1タンパク質またはIgGアイソタイプ対照のフローサイトメトリー染色を示す。CD138
+初代骨髄腫細胞がCS1を高発現していることが示されている。白抜きのヒストグラムと塗りつぶされたヒストグラムは、それぞれアイソタイプ適合対照抗体及び抗CS1抗体による染色を表す。示したデータは、類似の結果を有する6つの患者試料のうちの代表的な2つである。
図18Bは、標準
51Cr放出アッセイを用いた、類似の結果を有する6名の患者のうち3名のCD138
+初代骨髄腫細胞に対するモック形質導入NK-92細胞またはCS1-CAR形質導入NK-92細胞(それぞれNK-92-EV及びNK-92-CS1-CAR)の細胞傷害活性を示す。E/Tは、エフェクター細胞/標的細胞の比を示す。*はP<0.05を示す。
図18Cは、NK-92-EV細胞またはNK-92-CS1-CAR細胞とE/T比5:1で24時間共培養したCD138
+初代骨髄腫細胞によるIFN-γ分泌を示す。示したデータは、類似の結果を有する3つの患者試料のうちの代表的な1つである。
【
図19A-19D】CS1-CAR NK細胞が、同所性ヒトMM細胞のインビボ成長を抑制し、MM保有マウスの生存を延ばすことを示す。
図19A(左)は、ヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色によって検出した、IM9細胞のi.v.注入後に後肢麻痺を呈した代表マウス1匹の腰椎骨病変におけるヒトIM9細胞の広範な浸潤を示す画像である。
図19A(右)は、抗ヒトCD138 mAbによるマウス腰椎骨病変の免疫組織化学染色を示す。
図19Bは、IM9腫瘍マウスの背面の生物発光イメージングを示す。NSGマウスに5×10
5個のルシフェラーゼ発現IM9細胞を尾静脈注入を介して播種した(0日)。接種から7日後、モック形質導入NK-92細胞(NK-92-EV)、CS1-CAR形質導入NK-92細胞(NK-92-CS1-CAR)またはリン酸塩‐緩衝生理食塩水(陰性対照)でマウスを処置した。
図19Cは、
図19Bのマウス1匹当たり1秒当たりフォトン単位の定量化概要を示す棒グラフである。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を表す。
図19Dは、NK-92-EV細胞で処置したマウスと比較した、NK-92-CS1-CAR細胞で処置したIM9保有マウスのカプランマイヤー生存曲線を示す。*はP<0.05を示す。
【
図20】CS1 CARの導入がNK細胞株における実質的なアポトーシスにつながらないことを示す。モックまたはCS1-CARを形質導入したNK92細胞またはNKL細胞を7AAD及びアネキシンV-V450で染色し、次いでフローサイトメトリー分析を行った。NK-92-EV及びNKL-EVはそれぞれ空ベクター(EV)対照を形質導入したNK-92細胞及びNKL細胞を示す。NK-92-CS1-CAR及びNKL-CS1-CARはそれぞれNK-92細胞及びNKL細胞のCS1-CAR構築物による形質導入を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
多発性骨髄腫(MM)細胞上の腫瘍関連抗原(TAA)を特異的に認識することができるキメラ抗原受容体(CAR)が本明細書にて開示される。また、これらのCARを発現するように遺伝子操作したT細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫エフェクター細胞も開示される。したがって、本開示のCS1特異的CARを発現するように遺伝子操作した本開示の免疫エフェクター細胞の養子移入を含む、MMを有する対象に抗腫瘍免疫をもたらすための方法もまた開示される。
【0011】
CS1特異的キメラ抗原受容体(CAR)
【0012】
CARは、一般に、モノクローナル抗体(mAb)の単鎖可変断片(scFv)に由来する抗原認識ドメインを、リンパ球活性化に関係する膜貫通シグナル伝達モチーフとともに組み込むものである(Sadelain M,et al.Nat Rev Cancer 2003 3:35-45)。細胞表面糖タンパク質であるCS1は、骨髄腫細胞の表面に多量かつ偏在的に発現する(Hsi ED,et al.Clin Cancer Res 2008 14:2775-84)。CS1は、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞の一部の亜集団及び正常B細胞を含む免疫エフェクター細胞の大部分において発現量が極めて低く、骨髄細胞上ではほとんど検出されない(Hsi ED,et al.Clin Cancer Res 2008 14:2775-84)。とりわけ、CS1は、ヒト造血幹細胞においてほとんど発現しないため(Hsi ED,et al.Clin Cancer Res 2008 14:2775-84)、CS1を幹細胞移植に使用してMMを含む血液系腫瘍を治療することができる。MMにおけるCS1の機能は未だ完全に理解されていないが、CS1が骨髄腫細胞の接着、クローン成長及び腫瘍形成性の一因である可能性が実証されている(Benson DM Jr,et al.J Clin Oncol 2012 30:2013-5;Tai YT,et al.Blood 2009 113:4309-18)。ヒト化mAbのエロツズマブを用いたCS1の標的化は、臨床で安全であることが実証されている(Benson DM Jr,et al.J Clin Oncol 2012 30:2013-5;Tai YT,et al.Blood 2009 113:4309-18)。前臨床試験では、この抗体が、骨髄腫細胞の骨髄間質細胞への接着を阻害し、NK細胞を介した抗体依存性細胞傷害を誘導し、ヒト骨髄腫細胞によって惹起された免疫不全マウスの異種移植腫瘍を根絶させることが示されている(Benson DM Jr,et al.J Clin Oncol 2012 30:2013-5;Tai YT,et al.Blood 2009 113:4309-18;Tai YT,et al.Blood 2008 112:1329-37)。したがって、免疫エフェクター細胞上で発現し、ヒト多発性骨髄腫に対する抗腫瘍活性を高めることができるCS1特異的キメラ抗原受容体(CAR)が本明細書にて開示される。
【0013】
本開示のCARは、概して、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインの3つのドメインからなる。細胞外ドメインは、CS1結合領域を含み、抗原認識を担う。また、通常、CARがグリコシル化され、免疫エフェクター細胞の細胞膜に固定されるように、シグナルペプチド(SP)を含む。細胞によって発現された膜貫通ドメイン(TD)は、その名称が示唆するように、細胞外ドメインを細胞内ドメインに連結するものであり、細胞膜内に存在する。細胞内ドメインは、抗原認識後、免疫エフェクター細胞に活性化シグナルを伝達するCARの機能部分である。たとえば、細胞内ドメインは、細胞内シグナル伝達ドメイン(ISD)と、任意で共刺激シグナル伝達領域(CSR)を含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示のCARは、次の式:
SP-CS1-HG-TM-CSR-ISD;または
SP-CS1-HG-TM-ISD-CSR
(式中、「SP」は、シグナルペプチドを表し、
「CS1」は、CS1結合領域を表し、
「HG」は、任意のヒンジドメインを表し、
「TM」は、膜貫通ドメインを表し、
「CSR」は、共刺激シグナル伝達領域を表し、
「ISD」は、細胞内シグナル伝達ドメインを表し、
「-」は、二価のリンカーを表す)
で定義される。
【0015】
本開示のCARの抗原認識ドメインは、通常、scFvである。しかしながら、多くの代替が存在する。単純な細胞外ドメイン(たとえば、HIV感染細胞を認識するためのCD4細胞外ドメイン)及び連鎖的サイトカインなどの外来性認識要素(サイトカイン受容体を有する細胞の認識を導くもの)を有する、天然T細胞受容体(TCR)アルファ及びベータの単鎖に由来する抗原認識ドメインが記載されている。実際、所与の標的に高親和性をもって結合するものであれば、ほぼどんなものでも抗原認識領域に用いることができる。
【0016】
細胞内ドメインは、抗原認識(すなわちCS1)後にシグナルを免疫エフェクター細胞に伝達するCARの機能部分であり、免疫エフェクター細胞の正常なエフェクター機能のうち少なくとも1つを活性化させる。T細胞のエフェクター機能は、たとえば、細胞溶解活性またはサイトカイン分泌などのヘルパー活性であり得る。したがって、細胞内ドメインは、T細胞受容体(TCR)及び任意の補助受容体の「細胞内シグナル伝達ドメイン」を含み得る。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体を用いることができるが、多くの場合、全鎖を用いる必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの短縮部分を用いる場合には、当該短縮部分がエフェクター機能シグナルを伝達するのであれば、そのような短縮部分を完全な鎖の代わりに用いることができる。
【0017】
TCR複合体の一次活性化を調節し、刺激をもたらすように作用する細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含有し得る。細胞質シグナル伝達配列を含有するITAMの例は、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dに由来するものを含む。しかしながら、好ましい実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ゼータ(CD3ζ)由来である。
【0018】
T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ(CD3ζ)鎖は、T細胞受容体T3ゼータ鎖またはCD247(表面抗原分子分類247)としても知られており、ヒトにおいては、CD247遺伝子によってコードされるタンパク質である。
【0019】
第一世代CARは、典型的に、内因性TCRの主要なシグナル伝達分子であるCD3ζ鎖の細胞内ドメインを有していた。第二世代CARは、種々の共刺激タンパク質受容体(たとえば、CD28、41BB、ICOS)由来の細胞内シグナル伝達ドメインをCARの細胞内ドメインに付加したものであり、T細胞へのさらなるシグナルを供給する。前臨床試験では、第二世代CARの設計がT細胞の抗腫瘍活性を改善することが示されている。より最近の第三世代CARは、複数のシグナル伝達ドメインを組み合わせて、さらに効力が増している。これらのCARを導入したT細胞は、共刺激受容体/リガンド相互作用に依存しない、増大、活性化、持続性及び腫瘍根絶効率の改善が実証されている(Imai C,et al.Leukemia 2004 18:676-84;Maher J,et al.Nat Biotechnol 2002 20:70-5)。
【0020】
たとえば、本CARの細胞内ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを単独で含むように、または本発明のCARに関連して有用な任意の他の望ましい細胞質ドメインと組み合わせて含むように設計することができる。たとえば、本CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータ鎖部と、共刺激シグナル領域を含み得る。共刺激シグナル領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの部分を指す。共刺激分子は、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子であり、抗原に対するリンパ球の有効な反応に必要である。このような分子の例には、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3及びCD83と特異的に結合するリガンドなどが含まれる。したがって、本CARは、共刺激シグナル伝達要素としてCD28を有するものを主に例示するが、他の共刺激要素を単独で用いることもできるし、他の共刺激シグナル伝達要素と組み合わせてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、本CARはヒンジ配列を含む。ヒンジ配列は、抗体の柔軟性を高めるアミノ酸の短い配列である(たとえば、Woof et al.,Nat.Rev.Immunol.,4(2):89-99(2004)を参照)。ヒンジ配列は、抗原認識部分(たとえば、抗CS1 scFv)と膜貫通ドメインとの間に位置し得る。ヒンジ配列は、任意の好適な分子に由来するかまたは得られる任意の好適な配列であってよい。いくつかの実施形態において、たとえば、ヒンジ配列は、CD8a分子またはCD28分子に由来する。
【0022】
膜貫通ドメインは、天然源由来または合成源由来のいずれであってもよい。天然源である場合、当該ドメインは、任意の膜結合または膜貫通タンパク質に由来し得る。たとえば、膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137またはCD154に由来し得る(すなわち、少なくともこれらの膜貫通領域を含む)。あるいは、合成の膜貫通ドメインであってもよく、この場合、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を主に含む。場合により、合成膜貫通ドメインの各末端にフェニルアラニン、トリプトファン及びバリンのトリプレットが存在する。長さが2~10個のアミノ酸などの短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーにより、本CARの膜貫通ドメインと細胞内ドメインの間の連結を形成することができる。
【0023】
二価のリンカーは、化合物または核酸をポリヌクレオチド配列に連結するのに好適な任意の分子であってよい。ポリヌクレオチドなどの生体分子を結合させるための方法及び組成物は、G.T.Hermanon,Bioconjugate Techniques(2nd ed.),Academic Press(2008)に開示されており、これらの技術の教示に関して、その全体を参照により組み込む。場合により、二価リンカーは、1つまたは複数のアミノ酸を含む。しかしながら、本開示のドメインに直接連結するペプチド結合も含み得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、本開示のCS1特異的CARは、SP、CS1、HG、TM、CSR、ISD及び/もしくは表1に記載するリンカー要素、または表1に記載の配列に対して少なくとも65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するこれらの変異体のうち1つまたは複数を含む。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0025】
したがって、いくつかの実施形態では、本開示のCS1特異的CARは、アミノ酸配列番号1(以下に示す)、または配列番号28に対して少なくとも65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するこれらの変異体を含む。
【0026】
CS1-CD28-CD3Z構築物:
MGWSSIILFLVATATGVHSQVQLQQPGAELVRPGASVKLSCKASGYSFTTYWMNWVKQRPGQGLEWIGMIHPSDSETRLNQKFKDKATLTVDKSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYCARSTMIATRAMDYWGQGTSVTVSGGGGSGGGGSGGGGSDIVMTQSQKSMSTSVGDRVSITCKASQDVITGVAWYQQKPGQSPKLLIYSASYRYTGVPDRFTGSGSGTDFTFTISNVQAEDLAVYYCQQHYSTPLTFGAGTKLELKLEPKSCDKTHTCPPCPDPKFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号28)。
【0027】
核酸及びベクター
【0028】
本開示の免疫エフェクター細胞にて本開示のCS1特異的CARを発現させる本CS1特異的CARをコードするポリヌクレオチド及びポリヌクレオチドベクターもまた開示される。
【0029】
たとえば、いくつかの実施形態では、本開示のCS1特異的CARは、核酸配列番号28(以下に示す)、または配列番号29に対して少なくとも65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するこれらの変異体によってコードされる。
【0030】
PCDH-CS1-scFv-mycタグ-CD28-CD3ゼータ(PCDH-CS1-CAR)構築物:
【0031】
ATGGGATGGAGCTCTATCATCCTCTTCTTGGTAGCAACAGCTACAGGTGTCCACTCCCAGGTCCAACTGCAGCAGCCTGGGGCTGAGCTGGTGAGGCCTGGAGCTTCAGTGAAGCTGTCCTGCAAGGCTTCGGGGTACTCCTTCACCACCTACTGGATGAACTGGGTGAAGCAGAGGCCTGGACAAGGCCTTGAGTGGATTGGCATGATTCATCCTTCCGATAGTGAAACTAGGTTAAATCAGAAGTTCAAGGACAAGGCCACATTGACTGTAGACAAATCCTCCAGCACAGCCTACATGCAACTCAGCAGCCCGACATCTGAGGACTCTGCGGTCTATTACTGTGCAAGATCTACTATGATTGCGACGAGGGCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACCGTCTCCGGCGGTGGCGGTTCTGGTGGCGGTGGCTCCGGCGGTGGCGGTTCTGACATTGTGATGACCCAGTCTCAGAAATCCATGTCCACATCAGTAGGAGACAGGGTCAGCATCACCTGCAAGGCCAGTCAGGATGTTATTACTGGTGTAGCCTGGTATCAACAGAAACCAGGGCAATCTCCTAAATTACTGATTTACTCGGCATCCTACCGGTACACTGGAGTCCCTGATCGCTTCACTGGCAGTGGATCTGGGACGGATTTCACTTTCACCATCAGCAATGTGCAGGCTGAAGACCTGGCAGTTTATTACTGTCAGCAACATTATAGTACTCCTCTCACTTTCGGTGCTGGGACCAAGCTGGAGCTGAAACTCGAGCCCAAATCTTGTGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCGGATCCCAAATTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAGGAGTAAGAGGAGCAGGCTCCTGCACAGTGACTACATGAACATGACTCCCCGCCGCCCCGGGCCCACCCGCAAGCATTACCAGCCCTATGCCCCACCACGCGACTTCGCAGCCTATCGCTCCAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGCTAA(配列番号29)。
【0032】
本開示のCARをコードする核酸配列及びその領域は、当該技術分野において知られている組換え法、たとえば、標準的な技法を用いて、当該遺伝子を発現している細胞に由来するライブラリーをスクリーニングすること、その遺伝子を含むことがわかっているベクターから当該遺伝子を誘導すること、またはその遺伝子を含む細胞及び組織から直接単離することなどを使用して得ることができる。あるいは、目的の遺伝子をクローニングではなく合成によって作製することもできる。
【0033】
CARをコードする核酸の発現は、通常、CARポリペプチドをコードする核酸をプロモーターに機能的に連結し、その構築物を発現ベクターに組み込むことによって達成される。典型的なクローニングベクターは、所望の核酸配列の発現を調節するのに有用な転写及び翻訳のターミネーター、開始配列、ならびにプロモーターを含む。
【0034】
本開示の核酸は、多数の種類のベクターにクローニングすることができる。たとえば、本核酸を、限定するものではないが、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス及びコスミドなどのベクターにクローニングすることができる。特に利点のあるベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター及びシークエンシングベクターが含まれる。
【0035】
さらに、発現ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に付与されてもよい。ウイルスベクターの技術は、当該技術分野においてよく知られており、たとえば、Sambrookら(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、ならびに他のウイルス学及び分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用であるウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス及びレンチウイルスが含まれるが、これらに限定されない。一般に、好適なベクターは、少なくとも1つの生物における機能的な複製起点、プロモーター配列、簡便な制限エンドヌクレアーゼ部位、及び1つまたは複数の選択マーカーを含有する。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドベクターは、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである。
【0036】
多数のウイルスに基づいた系が哺乳動物細胞への遺伝子導入のために開発されている。たとえば、レトロウイルスは、遺伝子送達系の簡便なプラットフォームを提供する。当該技術分野において知られている技術を用いて、選択された遺伝子をベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージすることができる。次に、組換えウイルスを単離し、対象の細胞にインビボまたはエクスビボのいずれかで送達することができる。
【0037】
好適なプロモーターの一例は、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター配列である。このプロモーター配列は、当該配列と機能的に連結したあらゆるポリヌクレオチド配列の発現を高レベルでもたらすことができる強力な構成性プロモーター配列である。好適なプロモーターの別の例は、伸長因子1α(EF-1α)である。しかしながら、他の構成性プロモーター配列も使用することができ、限定するものではないが、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、MND(骨髄増殖性肉腫ウイルス)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタインバーウイルス前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにヒト遺伝子プロモーター、たとえば、限定するものではないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター及びクレアチンキナーゼプロモーターなどが含まれる。あるいは、プロモーターは、誘導性プロモーターであってもよい。誘導性プロモーターの例には、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター及びテトラサイクリンプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
その他のプロモーター要素、たとえばエンハンサーは、転写開始の頻度を調節する。通常、これらの要素は、開始部位から30~110bpの上流領域に位置するが、多数のプロモーターが開始部位の下流にも機能的要素を含むことが最近示されている。プロモーター要素間の間隔は、多くの場合柔軟性があり、要素が互いに逆転または移動しても、プロモーター機能は保持される。
【0039】
CARポリペプチドまたはその部分の発現を評価する目的で、ウイルスベクターを介してトランスフェクトまたは感染させる細胞集団からの発現細胞の特定及び選択を容易にするために、細胞に導入される発現ベクターには、選択マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子またはその両方を含めることもできる。他の態様では、選択マーカーをDNAの別個の小片上に保有させ、同時トランスフェクション手順に用いることもできる。選択マーカー遺伝子とレポーター遺伝子の両方を適切な調節配列に隣接させて、宿主細胞中での発現を可能にするようにすることができる。有用な選択マーカーには、たとえば、抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0040】
レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞の特定、及び調節配列の機能を評価するために用いられる。一般に、レポーター遺伝子は、受容体生物またはその組織中に存在しないか、発現されない遺伝子であり、その発現がある程度簡単に検出できる特性、たとえば酵素活性によって顕在化されるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、受容体細胞にDNAが導入された後の適切な時点でアッセイされる。好適なレポーター遺伝子には、ルシフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼをコードする遺伝子または緑色蛍光タンパク質遺伝子が含まれ得る。好適な発現系はよく知られており、既知の手法を用いて調製してもよいし、商業的に入手してもよい。一般に、最も高レベルのレポーター遺伝子発現を示す最小5’フランキング領域を有する構築物がプロモーターとして特定される。このようなプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結し、これを用いて作用要素のプロモーターによる転写調節能を評価することができる。
【0041】
遺伝子を細胞に導入して発現させる方法は、当該技術分野にて知られている。発現ベクターに関して、当該ベクターは、当該技術分野における任意の方法によって、宿主細胞、たとえば、哺乳動物、細菌、酵母または昆虫の細胞に容易に導入することができる。たとえば、発現ベクターは、物理的、化学的または生物学的手段によって、宿主細胞に移入することができる。
【0042】
宿主細胞にポリヌクレオチドを導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション、微粒子銃法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれる。ベクター及び/または外因性核酸を含む細胞を作製するための方法は、当該技術分野においてよく知られている。たとえば、Sambrookら(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)を参照されたい。
【0043】
目的のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNAベクター及びRNAベクターの使用が含まれる。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物細胞、たとえばヒト細胞に遺伝子を挿入するために最も広く使用される方法となっている。
【0044】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系、ならびに水中油型エマルション、ミセル、混合ミセル及びリポソームを含む脂質系が含まれる。インビトロ及びインビボで送達担体として用いるための例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜ベシクル)である。
【0045】
非ウイルス性送達系を利用する場合、例示的な送達担体はリポソームである。別の態様では、核酸を脂質と会合させてもよい。脂質に会合した核酸は、リポソームの水性内部に封入すること、リポソームの脂質二重膜内に挿入すること、リポソームとオリゴ核酸の両方と会合する連結分子を介してリポソームに付着させること、リポソーム内に捕捉すること、リポソームと複合体を形成すること、脂質を含有する溶液中に分散させること、脂質と混合すること、脂質と組み合わせること、脂質内に懸濁物として含むこと、ミセルとともに含有させるか、複合体を形成させること、または別の方法で脂質と会合させることができる。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクターの会合組成物は、溶液中のいかなる特定の粒子構造にも限定されない。たとえば、二重膜構造で、ミセルとして、または「崩壊」構造を有して存在し得る。また、溶液中に単に散在していてもよく、大きさも形状も均一でないアグリゲートを場合によって形成する。脂質とは、天然脂質または合成脂質であってよい脂肪性物質のことである。たとえば、脂質には、細胞質内で天然に生じる脂肪滴、ならびに脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール及びアルデヒドなどの長鎖脂肪族炭化水素及びそれらの誘導体を含有する化合物類が含まれる。使用に適した脂質は、民間の供給元から得ることができる。たとえば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)はSigma,St.Louis,Mo.から入手でき、ジセチルホスファート(「DCP」)はK&K Laboratories(Plainview,N.Y.)から入手でき、コレステロール(「Choi」)はCalbiochem-Behringから入手でき、ジミリスチルホスファチジルグリセロールは(「DMPG」)及び他の脂質はAvanti Polar Lipids,Inc(Birmingham,Ala.)から入手することができる。
【0046】
免疫エフェクター細胞
【0047】
本開示のCARを発現するように遺伝子操作した免疫エフェクター細胞もまた開示される。これらの細胞は、好ましくは、治療を受ける対象から取得される(すなわち、自己由来である)。しかしながら、いくつかの実施形態では、免疫エフェクター細胞株またはドナーのエフェクター細胞(同種異系)が用いられる。免疫エフェクター細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位の組織、腹水、胸水、脾臓組織及び腫瘍を含む、多数の供給源から得ることができる。免疫エフェクター細胞は、Ficoll(商標)分離などの当業者に知られている任意の様々な技術を用いて、対象から採取した血液から得ることができる。たとえば、個体の循環血液に由来する細胞をアフェレシスによって取得してよい。いくつかの実施形態において、免疫エフェクター細胞は、赤血球細胞を溶解し、単球を枯渇させることによって、たとえば、PERCOLL(商標)密度勾配による遠心分離または対向流遠心溶出法によって、末梢血リンパ球から単離される。免疫エフェクター細胞の特定の部分集団を、陽性選択法または陰性選択法によって、さらに単離することができる。たとえば、陽性選択細胞に固有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせを用いて、たとえば、所望の免疫エフェクター細胞の陽性選択に十分な時間、抗体標識ビーズとインキュベーションすることによって、免疫エフェクター細胞を単離することができる。あるいは、陰性選択細胞に固有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせを用いる陰性選択によって、免疫エフェクター細胞集合を濃縮することができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、本免疫エフェクター細胞は、感染症及び異物に対する生体防御に関与するあらゆる白血球を含む。たとえば、本免疫エフェクター細胞は、リンパ球、単球、マクロファージ、樹状細胞、マスト細胞、好中球、好塩基球、好酸球またはこれらの任意の組み合わせを含み得る。たとえば、本免疫エフェクター細胞は、Tリンパ球を含み得る。
【0049】
T細胞またはTリンパ球は、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在により、B細胞及びナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球と区別することができる。これらは、胸腺で成熟するためにT細胞と呼ばれる(ただし、扁桃腺で成熟するものもある)。T細胞には、それぞれ異なる機能を持つ複数の亜集団がある。
【0050】
Tヘルパー細胞(TH細胞)は、免疫過程において他の白血球を支援し、B細胞の形質細胞及びメモリーB細胞への成熟、ならびに傷害性T細胞及びマクロファージの活性化などを行う。これらの細胞は、その表面上にCD4糖タンパク質を発現していることから、CD4+T細胞としても知られる。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上に発現される、MHCクラスII分子を介したペプチド抗原が提示されると、活性化する。活性化すると、速やかに分化し、能動免疫応答を調節または支援するサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。これらの細胞は、異なるサイトカインを分泌して異なる種類の免疫応答を促進する、TH1、TH2、TH3、TH17、TH9、またはTFHを含む複数の亜集団の1つに分化することができる。
【0051】
傷害性T細胞(TC細胞またはCTL)は、ウイルス感染細胞及び腫瘍細胞を破壊し、移植拒絶反応にも関与している。これらの細胞は、その表面でCD8糖タンパク質を発現していることから、CD8+T細胞としても知られる。これらの細胞は、すべての有核細胞の表面上に提示されるMHCクラスI分子に関連する抗原に結合することによって、標的を認識する。CD8+細胞は、IL-10、アデノシン及び制御性T細胞によって分泌される他の分子を介して、自己免疫疾患を防止するアネルギー状態へと不活性化する。
【0052】
メモリーT細胞は、感染症が治癒した後も長期間持続する抗原特異的T細胞の亜集団の1つである。再び同種抗原に曝露すると、迅速に大量のエフェクターT細胞に増大し、過去の感染症に対する「記憶」を有する免疫系を提供する。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであってよい。メモリーT細胞は、通常、細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0053】
制御性T細胞(Treg細胞)は、以前はサプレッサーT細胞として知られており、免疫寛容の維持に極めて重要である。主な役割は、T細胞媒介性免疫を遮断して免疫応答を終了に向かわせること、及び胸腺におけるネガティブ選択過程を免れた自己反応性T細胞を抑制することである。CD4+Tregには、内在性Treg細胞と適応性Treg細胞の2つの主要分類が記載されている。
【0054】
ナチュラルキラーT(NKT)細胞(ナチュラルキラー(NK)細胞と混同しないこと)は、適応免疫系と先天性免疫系の橋渡しをする。主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子によって提示されるペプチド抗原を認識する通常のT細胞とは異なり、NKT細胞は、CD1dと呼ばれる分子によって提示される糖脂質抗原を認識する。
【0055】
いくつかの実施形態において、T細胞は、CD4+細胞の混合物を含む。他の実施形態において、T細胞は、細胞表面発現に基づいて、1つまたは複数の部分集合に濃縮される。たとえば、場合により、Tは、細胞傷害性CD8+Tリンパ球を含む。いくつかの実施形態において、T細胞は、α鎖及びβ鎖の代わりに1つのγ鎖と1つのδ鎖とを有する別個のT細胞受容体(TCR)を持つγδT細胞を含む。
【0056】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、CD56+CD3-大形顆粒リンパ球であり、ウイルス感染形質転換細胞を殺傷することができ、先天性免疫系の重要な細胞亜集団を構成する(Godfrey J,et al.Leuk Lymphoma 2012 53:1666-1676)。細胞傷害性CD8+Tリンパ球とは異なり、NK細胞は、事前の感作を必要とせずに腫瘍細胞に対する細胞傷害を開始し、MHC-I陰性細胞も根絶することができる(Narni-Mancinelli E,et al.Int Immunol 2011 23:427-431)。NK細胞は、サイトカインストーム(Morgan RA,et al.Mol Ther 2010 18:843-851)、腫瘍崩壊症候群(Porter DL,et al.N Engl J Med 2011 365:725-733)及び対標的の腫瘍外効果を回避し得るので、より安全なエフェクター細胞である。NK細胞が癌細胞の殺し屋としての周知の役割を有しており、MMの進行にはNK細胞の減少が重大であることが広く実証されていたが(Godfrey J,et al.Leuk Lymphoma 2012 53:1666-1676;Fauriat C,et al.Leukemia 2006 20:732-733)、NK細胞媒介性抗MM活性を高められ得る手段は、本開示のCAR以前では、広く検討されてこなかった。
【0057】
治療方法
【0058】
本開示のCARを発現する免疫エフェクター細胞は、MM細胞に対する抗腫瘍免疫応答を誘発することができる。本開示のCAR改変免疫エフェクター細胞によって誘発された抗腫瘍免疫応答は、能動免疫応答でも受動免疫応答でもあり得る。さらに、CARにより媒介される免疫応答は、CAR改変免疫エフェクター細胞がCS1に特異的な免疫応答を誘導する養子免疫療法アプローチの一部となり得る。
【0059】
キメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞の養子移入は、有望な抗癌治療である。患者の免疫エフェクター細胞の採取後、その細胞を本開示のCS1特異的CARを発現するように遺伝子組み換えし、患者に輸注することができる。
【0060】
本開示のCAR改変免疫エフェクター細胞は、単独で投与してもよいし、希釈剤と組み合わせて、かつ/またはIL-2、IL-15もしくは他のサイトカインなどの他の成分もしくは細胞集団と組み合わせて医薬組成物として投与してもよい。簡潔に述べれば、医薬組成物は、本明細書にて記載される標的細胞集団を、1つまたは複数の薬学的または生理学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含み得る。当該組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝剤、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物、タンパク質、グリシンなどのポリペプチドまたはアミノ酸、酸化防止剤、EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤、補助剤(たとえば、水酸化アルミニウム)、ならびに保存剤を含み得る。本開示の方法に使用される組成物は、いくつかの実施形態では、静脈内投与用に製剤化される。医薬組成物は、MMの治療に適した任意の方法で投与され得る。適切な用量は臨床試験によって決定され得るが、投与量及び投与回数は患者の状態及び患者の疾患の重症度などの因子によって決定される。
【0061】
「免疫学的に有効な量」、「抗腫瘍に有効な量」、「腫瘍抑制に有効な量」または「治療量」が示される場合、本発明の組成物の正確な投与量は、患者(対象)の年齢、体重、腫瘍の大きさ、感染または転移の程度、及び状態の個々の相違を考慮して、医師によって決定され得る。一般には、本明細書に記載されるT細胞を含む医薬組成物は、104~109細胞/kg体重、たとえば105~106細胞/kg体重など(これらの範囲のすべての整数値を含む)の用量で投与することができると言える。T細胞組成物は、これらの投与量で複数回投与することもできる。免疫療法において広く知られている注入技術を用いることによって細胞を投与することができる(たとえば、Rosenberg et al.,New Eng.J.of Med.319:1676,1988参照)。特定の患者に対する最適な用量及び治療レジームは、医学分野の当業者であれば、疾患の徴候について患者を観察し、それに応じて治療を調節することによって、容易に決定することができる。
【0062】
ある実施形態において、活性化T細胞を対象に投与し、その後、再び採血し(またはアフェレシスを行い)、取得したT細胞を本発明に従って活性化させ、これらの活性化させ増大させたT細胞を患者に再輸注することが望ましい場合がある。このプロセスは、数週間毎に複数回実施することができる。ある実施形態において、10cc~400ccの採取血液からT細胞を活性化することができる。ある実施形態において、20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90ccまたは100ccの採取血液からT細胞を活性化する。この複数回の採血/複数回の再輸注プロトコールを用いると、T細胞のある特定の集団の選別に役立ち得る。
【0063】
本開示の組成物の投与は、注入、輸液または移植を含む任意の簡便な方法で実施することができる。本明細書に記載される組成物は、患者に、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注入により、または腹腔内に投与することができる。いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、皮内注入または皮下注入によって患者に投与される。いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、i.v.注入によって投与される。本組成物は、腫瘍、リンパ節、または感染部位に直接注入してもよい。
【0064】
ある実施形態において、本開示のCAR改変免疫エフェクター細胞は、限定するものではないが、サリドマイド、デキサメタゾン、ボルテゾミブ及びレナリドミドを含む、任意の様々な関連治療法とともに(たとえば、その前に、同時にまたはその後に)患者に投与される。さらなる実施形態において、本CAR改変免疫エフェクター細胞は、化学療法、放射線照射、免疫抑制剤、たとえば、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレート及びFK506、抗体、またはCAM PATHなどの他の免疫除去剤、抗CD3抗体または他の抗体治療、サイトキシン、フルダラビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、及び放射線治療と組み合わせて使用してもよい。いくつかの実施形態において、本CAR改変免疫エフェクター細胞は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法薬、外部ビーム照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを用いるT細胞除去療法とともに(たとえば、その前、同時またはその後に)、患者に投与される。別の実施形態において、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、たとえばリツキサンなどのB細胞除去治療の後に投与される。たとえば、いくつかの実施形態において、対象は、高用量の化学療法に続いて末梢血幹細胞移植を行う標準治療を受け得る。ある実施形態において、対象は、移植後、本発明の増大させた免疫細胞の輸注を受ける。さらなる実施形態において、増大させた細胞は、手術の前または後に投与される。
【0065】
定義
【0066】
「アミノ酸配列」という用語は、アミノ酸残基を表す略称、文字、符号または単語の並びを指す。本明細書にて使用するアミノ酸の略称は、従来のアミノ酸に関する1つの文字コードであり、A:アラニン、B:アスパラギンまたはアスパラギン酸、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタメート、グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リシン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:トレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシン、Z:グルタミンまたはグルタミン酸で表される。
【0067】
「抗体」という用語は、標的抗原に選択的に結合する天然または合成の抗体を指す。この用語は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を包含する。完全な免疫グロブリン分子に加えて、「抗体」という用語には、標的抗原に選択的に結合する、これらの免疫グロブリン分子の断片またはポリマー、及び免疫グロブリン分子のヒト型またはヒト化型も包含される。
【0068】
「アプタマー」という用語は、特定の標的分子に結合するオリゴ核酸またはペプチド分子を指す。これらの分子は、一般に、ランダム配列プールから選択される。選択されたアプタマーは、特有の三次構造に適合し、高い親和性及び特異性で標的分子を認識することができる。「核酸アプタマー」は、その立体構造を介して標的分子に結合するDNAまたはRNAのオリゴ核酸であり、これにより、当該分子の機能を阻害または抑制する。核酸アプタマーは、DNA、RNAまたはこれらの組み合わせによって構成され得る。「ペプチドアプタマー」は、一定のスカフォールドタンパク質内に挿入される可変ペプチド配列との組み合わせタンパク質分子である。ペプチドアプタマーの特定は、通常、ストリンジェントな酵母ツーハイブリッド条件下で実施され、選択されたペプチドアプタマーが細胞内環境下で安定して発現し、正確に折りたたまれる確率が高まる。
【0069】
「担体」という用語は、ある化合物または組成物と組み合わせたときに、その化合物または組成物の調製、保管、投与、送達、有効性、選択性または任意の他の特徴を、意図する用途または目的のために、助長または容易にする化合物、組成物、物質または構造体を意味する。たとえば、担体は、活性成分のあらゆる劣化を最小限に抑え、対象におけるあらゆる有害な副作用を最小限に抑えるように選択され得る。
【0070】
「キメラ分子」という用語は、天然状態では別個に存在する2つまたはそれ以上の分子を連結することによって作製された単一分子を指す。単一のキメラ分子は、その構成分子すべての所望の機能性を有する。キメラ分子の1つの種類は、融合タンパク質である。
【0071】
「融合タンパク質」という用語は、1つのポリペプチドのアミノ末端と別のポリペプチドのカルボキシル末端との間に形成されたペプチド結合を介した2以上のポリペプチドの連結によって形成されるポリペプチドを指す。融合タンパク質は、構成要素のポリペプチドの化学的結合によって形成することもできるし、単一の連続した融合タンパク質をコードする核酸配列から単一のポリペプチドとして発現させることもできる。単鎖の融合タンパク質は、単一の連続したポリペプチド骨格を有する融合タンパク質である。融合タンパク質は、2つの遺伝子をインフレームで連結して単一の核酸にし、次いで、適切な宿主細胞中で融合タンパク質が産生される条件下にて核酸を発現させる、分子生物学における従来技術を使用して調製することができる。
【0072】
「同一性」という用語は、2つの核酸分子またはポリペプチドの間の配列同一性を指す。同一性は、比較のためにアライメントされ得る各配列中の位置を比較することによって決定することができる。比較配列中の位置が同一塩基によって占められている場合、当該分子は、その位置において同一である。核酸配列間またはアミノ酸配列間の類似性または同一性の程度は、核酸配列の共有する位置にて、ヌクレオチドが同一である数または一致する数に相関する。2つの配列間の同一性は、GCG配列分析パッケージ(University of Wisconsin,Madison,Wis.)の一部として利用可能であり、たとえばデフォルト設定で使用することができるFASTAまたはBLASTを含めた種々のアライメントアルゴリズム及び/またはプログラムを使用して算出することができる。たとえば、本明細書に記載される特定のポリペプチドに対して、少なくとも70%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有し、好ましくは実質的に同一の機能を呈するポリペプチド及び当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが企図される。特に指示がない限り、類似性スコアは、BLOSUM62の使用に基づく。BLASTPを用いる場合、類似性の割合はBLASTPポジティブスコアに基づき、配列同一性の割合はBLASTP同一性スコアに基づく。BLASTP「同一性」は、同一である高スコア配列ペア中の合計残基の数及び割合を示し、BLASTP「ポジティブ」は、アライメントスコアが正の値であり、互いに類似している残基の数及び割合を示す。本明細書に開示されるアミノ酸配列に対するこうした程度の同一性もしくは類似性、または任意の中間の程度の同一性もしくは類似性を有するアミノ酸配列が企図され、本開示に包含される。類似ポリペプチドのポリヌクレオチド配列は、遺伝コードを用いて推定され、従来の手段、特に、そのアミノ酸配列を遺伝コードを用いて逆翻訳することによって得ることができる。
【0073】
「核酸」という用語は、1つのヌクレオチドの3’位と別のヌクレオチドの5’末端がリン酸基により連結した単一のヌクレオチドまたは2つ以上のヌクレオチドを含む天然または合成の分子を指す。核酸は、長さによって限定されないため、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)を含み得る。
【0074】
「機能的に連結した」という用語は、ある核酸配列と別の核酸配列との機能的関係を指す。プロモーター、エンハンサー、転写部位、翻訳終止部位及び他のシグナル配列が、他の配列に機能的に連結した核酸配列の例である。たとえば、DNAの転写調節要素への機能的な連結は、当該DNAを特異的に認識し、結合し、転写するRNAポリメラーゼによって、当該DNAの転写がそのプロモーターから開始されるようなDNAとプロモーターとの物理的及び機能的関係を指す。
【0075】
「ペプチド」、「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、1つのアミノ酸のカルボキシル基が別のアミノ酸のアルファアミノ基に連結した2以上のアミノ酸を含む天然または合成の分子を指すために同じ意味で用いられる。
【0076】
「薬学的に許容可能な」という用語は、適切な医学的良識の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応または他の問題もしくは合併症を伴うことなく、妥当な利益/リスク比に見合った、ヒト及び動物の組織との接触に使用するのに適した化合物、物質、組成物及び/または剤形を指す。
【0077】
「タンパク質ドメイン」という用語は、構造的完全性を示すタンパク質の一部、タンパク質の複数の部分、またはタンパク質全体を指す。この決定は、タンパク質の一部、タンパク質の複数の部分またはタンパク質全体のアミノ酸組成物に基づき得る。
【0078】
「スペーサー」は、本明細書にて使用する場合、融合タンパク質を含有するタンパク質を連結するペプチドを指す。一般に、スペーサーは、タンパク質を連結すること、またはタンパク質間の最小間隔もしくは他の空間関係を保持すること以外の特定の生物活性を有していない。しかしながら、分子の折り畳み、実効電荷または疎水性などの分子のある特性に影響を与えるように、スペーサーの構成アミノ酸を選択することができる。
【0079】
本明細書にて使用するとき、「特異的に結合する」という用語は、ポリペプチド(抗体を含む)または受容体に関する場合、タンパク質及び他の生物学的製剤の異種集団において、タンパク質またはポリペプチドまたは受容体の存在を決定づける結合反応を指す。したがって、特定のリガンドまたは抗体は、指定条件下(たとえば、抗体の場合のイムノアッセイ条件下)で、その特定の「標的」に「特異的に結合する」(たとえば、抗体は内皮細胞抗原に特異的に結合する)が、試料中に存在する他のタンパク質、またはリガンドもしくは抗体が生物中で接触し得る他のタンパク質に有意な量で結合しない。一般に、第2の分子に「特異的に結合する」第1の分子は、当該第2の分子との親和定数(Ka)が約105M-1よりも大きい(たとえば、106M-1、107M-1、108M-1、109M-1、1010M-1、1011M-1、及び1012M-1以上)。
【0080】
「特異的に送達する」という用語は、本明細書にて使用する場合、ある分子が、特定の標的分子またはマーカーを有する細胞または組織と優先的に会合し、当該標的分子を欠く細胞または組織には会合しないことを指す。当然のことながら、分子と非標的である細胞または組織との間には、ある程度の非特異的相互作用が生じ得ることが認識される。しかしながら、特異的送達は、標的分子の特異的認識によって媒介されるので、区別することができる。通常、特異的送達により、送達した分子と標的分子を有する細胞との間の会合が、送達した分子と標的分子を欠く細胞との会合よりもはるかに強くなる。
【0081】
「対象」という用語は、投与または治療の標的となるあらゆる個体を指す。対象は、脊椎動物、たとえば哺乳動物であり得る。したがって、対象は、ヒト患者または獣医学上の患者であり得る。「患者」という用語は、臨床医、たとえば内科医の治療を受けている対象を指す。
【0082】
「治療的に有効な」という用語は、使用する組成物の量が疾患または障害の1つまたは複数の原因または症状を改善するのに十分な量であることを指す。かかる改善は、低減または変化のみを要し、必ずしも排除を必要としない。
【0083】
「形質転換」及び「トランスフェクション」という用語は、核酸、たとえば発現ベクターを受容細胞に導入することを意味し、核酸を当該細胞の染色体DNAに導入することを含む。
【0084】
「治療」という用語は、疾患、病的状態または障害の治癒、改善、安定化または予防を目的にした患者の医療的管理を指す。本用語は、積極的治療、すなわち、疾患、病的状態または障害を改善することに特化した治療を包含し、また、原因治療、すなわち、関連する疾患、病的状態または障害の原因を除去することを対象にした治療も包含する。加えて、本用語は、緩和治療、すなわち、疾患、病的状態または障害の治癒よりも症状の軽減のために設計された治療、予防的治療、すなわち、関連する疾患、病的状態もしくは障害の発症を最小限に抑えること、または部分的もしくは完全に阻害することを対象にした治療、支持治療、すなわち、関連する疾患、病的状態または障害の改善を対象にした別の特定療法を補完するために採用される治療を包含する。
【0085】
「変異体」という用語は、保存的アミノ酸置換、非保存的アミノ酸置換(すなわち、縮重変異体)、アミノ酸をコードする各コドン(すなわち、DNA及びRNA)のゆらぎ位置内の置換、ペプチドのC末端に付加されたアミノ酸、または参照配列に対して60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するペプチドを有するアミノ酸配列またはペプチド配列を指す。
【0086】
「ベクター」という用語は、ベクター配列が連結した別の核酸を、ある細胞中に輸送できる核酸配列を指す。「発現ベクター」という用語は、細胞による発現に好適な形態(たとえば、転写調節要素に連結した形態)で遺伝子構築物を含有する、あらゆるベクター(たとえば、プラスミド、コスミドまたはファージ染色体)を包含する。
【0087】
本発明の多くの実施形態について説明してきた。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲を逸脱せずに種々の修正を行うことができることは理解されるだろう。したがって、他の実施形態は、以下の請求の範囲内である。
【実施例】
【0088】
実施例1:CS1を標的にしたT細胞の遺伝子組換えは、骨髄腫細胞の根絶を促進する。
【0089】
本研究において、CD28-CD3ζシグナル伝達部分を含有するCS1特異的CARを発現するようにT細胞を操作した。これにより、CS1に依存して生じるCS1発現骨髄腫細胞に対する応答において、CS1特異的CAR T細胞がサイトカイン放出及び細胞傷害性の促進をもたらすことが実証された。さらに、同所性MM異種移植マウスモデルでは、CS1標的T細胞がヒト骨髄腫細胞を効率的に根絶し、マウスの生存率を有意に延ばした。総合すると、これらのデータにより、CS1特異的CARを備えたT細胞を用いる養子療法が再発性MMに対する有望な戦略であることが示唆される。
【0090】
材料及び方法
【0091】
細胞培養
【0092】
ヒト多発性骨髄腫細胞株IM9、NCI-H929、MM.1S及びRPMI-8226を米国培養細胞系統保存機関(ATCC)から取得し、10%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen)を添加したRPMI1640培地(Invitrogen)中に維持した。293T及びフェニックスパッケージング細胞を10%FBS含有DMEM培地(Invitrogen)中で培養した。健常ドナー及び多発性骨髄腫患者から得たヒト末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll-Paque Plus(GE Healthcare Bio-Sciences,Pittsburgh,PA)密度勾配遠心分離によって単離し、プラスチック接着法によって単球を枯渇させた。ヒト抗CD138MicroBeads及び磁気使用細胞分取(MACS,Miltenyi Biotech)を製造業者の説明書に従って用いて、患者の骨髄穿刺液から初代CD138+骨髄腫細胞を陽性選択した。インフォームドコンセントは、オハイオ州立大学治験審査委員会の承認を受けたプロトコールに従って、骨髄腫患者から取得した。
【0093】
マウス
【0094】
6~8週齢のオスのNOD-scid IL-2Rgamma null(NSG)マウスをThe Jackson Laboratoryから取得した。MM疾患進行についてマウスを頻繁に観察し、後肢麻痺、無気力または明らかな体重減少の症状を伴う瀕死状態になったときに屠殺した。すべての動物研究は、オハイオ州立大学動物実験委員会の承認を受けた。
【0095】
CS1特異的CARレトロウイルス構築物の作製
【0096】
ハイブリドーマ細胞株Luc90から抗CS1scFvを得た。重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域のコードドメイン配列を個別に増幅し、リンカーを用いてオーバーラップPCR反応により再結合した。VH-リンカー-VL断片をCD28-CD3ζ部分とインフレームになるよう組み合わせた。次に、抗CS1-scFv-CD28-CD3ζ断片全体をPincoと呼ばれるレトロウイルスベクター(Yu J,et al.Immunity 2006 24:575-90;Becknell B,et al.J Immunol Methods 2005 296:115-23)に連結し、Pinco-CS1-CAR構築物を作製した。
【0097】
Tリンパ球のレトロウイルス形質導入
【0098】
Pinco構築物またはPinco-CS1-CAR構築物と48時間一過性にトランスフェクトしたフェニックスパッケージング細胞からレトロウイルス上清を先に記載された通り採取した(Becknell B,et al.J Immunol Methods.2005 296(1-2):115-123;Yu J,et al.Immunity.2006 24(5):575-590)。PBMCを10% FBS含有RPMI1640培地中で培養し、ヒトT細胞活性剤CD3/CD28 Dynabeads(Invitrogen)及びヒト組換えインターロイキン-2(IL-2、Hoffman-La Roche Inc.)150IU/mLで2日間刺激した。次に、細胞を感染上清液中に再懸濁し、RETRONECTIN(Clontech Laboratories)をコートした非組織培養処理6ウェルプレートに製造業者のプロトコールに従って加えた。この感染工程を2日目にもう1回繰り返した。次に、細胞を組織培養処置フラスコに移し、150IU/mLのIL-2の存在下で維持した。Pincoベクターによってコードされた細胞表面上のGFPマーカーの発現に基づいて、形質導入したT細胞をFACSARIA IIセルソーター(BD Biosciences)を用いて精製した。
【0099】
フローサイトメトリー分析
【0100】
細胞上のCS1-CAR発現を検出するために、形質導入したT細胞を4%ウシ血清アルブミン含有PBSで洗浄し、ビオチン標識ヤギ抗マウス(Fab)2ポリクローナル抗体またはアイソタイプコントロールである正常ポリクローナルヤギ免疫グロブリンG(IgG)抗体(Jackson ImmunoResearch)とインキュベートした。次に、アロフィコシアニン(APC)標識ストレプトアビジン(Jackson ImmunoResearch)及びV450標識抗CD3抗体(BD Biosciences)で細胞を染色した。骨髄腫細胞の表面上のCS1の発現を特定するために、フィコエリトリン(PE)標識マウス抗CS1 mAb(eBiosciences)及びAPC標識マウス抗CD138 mAb(Miltenyi Biotec)で細胞を染色した。抗体染色をBD LSRIIフローサイトメーターを用いてモニターした。データ分析をFLOWJOソフトウェア(Tree Star Inc.)を用いて実施した。
【0101】
免疫ブロット法
【0102】
細胞をレムリ緩衝液中で溶解した。溶解物をSDS-PAGEゲルで分離し、ニトロセルロース膜(Millipore)に転写した。この膜を、マウス抗ヒトCD3ζ mAb(BD Pharmingen)で、次にセイヨウワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体でプローブした。高感度化学発光試薬を用いて、抗体結合を明らかにした(GE Healthcare Biosciences)。
【0103】
CS1を安定的に発現するRPMI-8226細胞の作製
【0104】
完全長ヒトCS1コード配列をIM9 cDNAからPCR増幅し、PCDH-CMV-MCS-EF1-copGFP(PCDH,System Biosciences)と呼ばれるレンチウイルスベクターに挿入して、PCDH-CS1を得た。レンチウイルスを作製するために、293T細胞をPCDH-CS1プラスミドまたはPCDH空ベクタープラスミドと、パッケージングプラスミドpCMV-VSVG及びpCMV-dr9とともにリン酸カルシウムトランスフェクション試薬(Promega)を用いてコトランスフェクトした。次に、レンチウイルス上清を回収し、先に公表されたプロトコールを用いてRPMI-8226細胞を感染させるために使用した(Becknell B,et al.J Immunol Methods.2005 296(1-2):115-123;Yu J,et al.Immunity.2006 24(5):575-590)。
【0105】
細胞傷害性アッセイ
【0106】
標準的な4時間51Cr放出アッセイを先の記載の通りに実施した(Yu J,et al.Blood 2010 115:274-81)。簡潔に述べれば、標的細胞を51Crで標識し、96ウェルV底プレートの各ウェルで37℃にて4時間、様々なエフェクター/標的の比(E/T)で、T細胞と共培養した。上清を回収し、これを液体シンチレーションカクテル(Fisher Scientific)含有シンチレーションバイアルに移し、51Crの放出をTOPCOUNTカウンター(Canberra Packard)上で測定した。完全培地または1%SDS中でインキュベートした標的細胞を用いて、51Crの自然放出または最大放出を特定した。特異的溶解のパーセンテージを次の標準式を用いて算出した。
100×(実験放出cpm-自然放出cpm)/(最大放出cpm-自然放出cpm)
【0107】
サイトカイン放出アッセイ
【0108】
標的細胞と同数のエフェクター細胞とを96ウェルV底プレートで37℃にて24時間共培養した。細胞を含まない上清を回収し、R&D systemの対応するELISAキットを製造業者のプロトコールに従って用いて、IFN-g及びインターロイキン(IL)-2の分泌についてELISAにより評価した。
【0109】
CD107a脱顆粒アッセイ
【0110】
CD107aアッセイをいくつかの修正を加えて先の記載の通りに実施した(He S,et al.Blood 2013 121:4663-71)。簡潔に述べれば、MM標的細胞(2.5×105)と同数のエフェクター細胞とを、96ウェルV底プレートで各ウェル0.2mLで共培養した。対照細胞は、標的細胞なしでインキュベートしたモック形質導入T細胞またはCS1-CAR-形質導入T細胞のいずれかである。モネンシン1mL(BD Biosciences)とともにAPC(BD Biosciences)で標識した抗CD107a抗体またはIgG1アイソタイプ抗体を加え、37℃にて4時間インキュベートした。細胞をPE標識CD69抗体及びV450標識CD3抗体でさらに染色し、LSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences)を使用して分析した。
【0111】
グランザイムB及びパーフォリンの細胞内染色
【0112】
モック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞を洗浄し、V450標識抗ヒトCD3 mAbで染色した。その後、Cytofix/Cytoperm Kit(BD Biosciences)を用いて細胞を固定して透過処理し、APC標識抗グランザイムB(Invitrogen)、APC標識抗パーフォリン抗体(eBiosciences)またはマウスAPC標識アイソタイプ抗体で標識して、BD LSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences)で分析した。
【0113】
MM保有マウスのインビボ処置及び生物発光イメージング
【0114】
発光ルシフェラーゼを発現するPinco-pGL3-luc/GFPウイルスを用いてMM.1S骨髄腫細胞及びIM9骨髄腫細胞にレトロウイルス形質導入を行い、GFP陽性細胞を前述の方法を用いて分取し、MM.1S-GL3細胞とIM9-GL3細胞をそれぞれ得た。オスのNSGマウスにPBS400μL中のMM.1S-GL3細胞8×106個またはIM9-GL3細胞5×105個を0日に尾静脈を介して静脈内注入し、同所性異種移植MMモデルを確立した。7日、14日(MM.1S)または21日(IM-9)目で、PBS400mL中のエフェクター細胞、CS1-CAR形質導入T細胞またはモック形質導入対照細胞10×106個をマウスに尾静脈を介して静脈内投与した。MM細胞接種から5週間後、マウスにDルシフェリン(150mg/kg体重;Gold Biotechnology)を腹腔内注入し、イソフルランで麻酔をかけ、Living Imageソフトウェアを備えるIn Vivo Imaging System(IVIS)(PerkinElmer)を使用して画像化した。
【0115】
統計分析
【0116】
正規分布であれば、独立スチューデントt検定を用いて、一連のエンドポイントについて2つの独立群を比較した。3つ以上の独立群を比較する場合は、一元配置ANOVAを用いた。生存データに関しては、カプランマイヤー曲線をプロットし、ログランク検定を用いて比較した。検定はすべて両側検定とした。多重比較については、P値をボンフェローニ法を用いて調整した。0.05未満のP値を統計的に有意であるとみなす。
【0117】
結果
【0118】
CS1特異的CARを発現する初代T細胞の作製
【0119】
抗CS1 scFv、CD8分子のヒンジ領域及び膜貫通領域、CD28共刺激シグナル伝達部分、ならびにCD3ζ分子の細胞質構成要素からなる、CS1特異的CAR(Pinco-CS1-CAR)をコードするPincoレトロウイルスベクターを構築した(
図1A)。健常ドナー由来の抗CD3/CD28抗体活性化初代T細胞にCS1-CARまたは空ベクター(モック)をコードするレトロウイルス粒子を用いて形質導入し、レトロウイルス構築物によってコードされたGFPの発現について分取した。CS1-CARが問題なく導入されたかどうかを特定するために、分取細胞を溶解し、抗CD3ζ mAbを用いて免疫ブロット法にかけた。
図1Bに示すように、内因性CD3ζタンパク質のみ発現したモック形質導入T細胞とは対照的に、CS1-CAR形質導入T細胞は、天然CD3ζに加えて、キメラCS1-scFv-CD28-CD3ζ融合タンパク質を予想した大きさで発現した。CS1-CARの細胞表面上の発現は、形質導入T細胞を、抗CS1のscFv部分を認識するヤギ抗マウスFab抗体を用いて染色することによって明らかにしたところ、CS1-CAR形質導入T細胞の70.3%にscFVの発現が検出されたのに対し、モック形質導入T細胞上の発現はほとんど検出されなかった(
図1C)。
【0120】
CS1特異的CAR T細胞によるCS1+骨髄腫細胞株の認識
【0121】
CS1の表面発現を、一般に用いられる4つの骨髄腫細胞株であるNCI-H929、IM9、MM.1S及びRPMI-8226でフローサイトメトリーにより評価し、これにより、CS1タンパク質の発現がこれらの細胞株で一様でなく、RPMI-8226細胞のCS1発現が最小であり、RPMI-8226細胞よりもNCI-H929、IM9及びMM.1Sの各細胞における発現のほうがはるかに高いことがわかった(
図2A)。陰性対照に関して、形質転換したヒト腎臓細胞株である293T細胞はCS1をその表面に発現しなかった(
図7A)。CS1を内因的に発現した骨髄腫細胞の認識に関するCS1-CART細胞の機能を特定するために、各骨髄腫細胞株の存在下または非存在下で、モック形質導入T細胞またはCS1-CAR形質導入T細胞から得た上清におけるIFN-γ及びIL-2の分泌をELISAによって測定した。モック形質導入T細胞及びCS1-CAR形質導入T細胞は、それぞれ単独では、IFN-γ及びIL-2をごく少量しか産出しなかったが(
図2B及びC)、CS1を高発現するNCI-H929細胞及びIM9細胞に曝露すると、有意に大きい量のIFN-γ及びIL-2の各タンパク質がCS1-CART細胞によって分泌された一方で、モックT細胞では分泌されなかった。また、CS1を高発現するMM.1S細胞に応答して、CS1-CAR形質導入T細胞がモック形質導入T細胞よりも多くの量のIFN-γを産出したのに対して(
図2B)、CS1-CAR形質導入T細胞は、理由はわからないが、この細胞株による、モック形質導入T細胞よりも多量のIL-2の分泌を誘発しなかった(
図2C)。加えて、対応するモック形質導入T細胞の亜群と比較すると、CD4
+(CD8
-)及びCD8
+CS1-CAR T細胞の両方がNCI-H929細胞またはMM.1S細胞に応答したIFN-gの分泌増加を示した(
図8A)。CS1発現の極めて低いRPMI-8226細胞については、モック形質導入T細胞及びCS1-CAR形質導入T細胞の両方でIFN-g及びIL-2の産生がバックグラウンドに匹敵するほど少量であった。(
図2B及びC)。これらの結果は、モック形質導入T細胞と比較して、CS1-CAR形質導入T細胞が内因性CS1発現の高いMM細胞をより特異的に認識することができ、これらのMM細胞を認識した後、より活性化することを示唆している。
【0122】
CS1特異的CARによって誘発された骨髄腫細胞に対するインビトロ細胞傷害能
【0123】
CS1-CAR T細胞によるCS1
+骨髄腫細胞の認識向上がより効果的な腫瘍細胞の溶解をもたらすことができるかどうかを特定するために、標準4時間クロム51放出アッセイを実施した。CS1を高発現するNCI-H929、IM9及びMM.1Sの各細胞は、20:1というE/T比の高さでも、モック形質導入T細胞を介した殺傷に耐性があったが、これらの細胞は、試験したすべてのE:T比で、CS1-CART細胞によって効果的に溶解された(
図3Aの左3つ)。しかしながら、モック形質導入T細胞と比較すると、CS1の発現量が低いRPMI-8226細胞の細胞溶解活性は、CS1-CAR形質導入T細胞との共培養後、わずかに増大しただけであった(
図3Aの右1つ)。T細胞の脱顆粒及び活性化について、モック形質導入T細胞及びCS1-CAR形質導入T細胞におけるCD107a及びCD69の発現を、前述のように、サイトカイン放出及び細胞溶解活性に関してCS1-CAR T細胞における強い反応を誘発させたNCI-H929骨髄腫細胞と共にまたは含めずにインキュベーションした後に評価することによってさらに特定した。サイトカイン放出及び細胞溶解活性に関する前述のデータと一致して、モックT細胞よりもCS1-CAR T細胞において、可動性CD107a及び活性化マーカーであるCD69の同時表面発現の上方制御によって裏付けされる、NCI-H929細胞に応答したより多くの脱顆粒及び活性化が生じた(
図3B)。
【0124】
さらに、対応するモック形質導入T細胞の亜群と比較すると、CD4
+(CD8
-)CS1-CAR T細胞とCD8
+CS1-CAR T細胞の両方が、NCI-H929細胞またはMM.1S細胞によって刺激した場合、脱顆粒の増加を呈した(
図8B)。加えて、細胞内染色法を用いると、CS1-CAR形質導入T細胞は、モック形質導入T細胞と比較して、標的細胞の不存在下であっても、有意に高い量のグランザイムBを発現したがパーフォリンは発現しなかった(
図3C及びD)。これは、主にグランザイムBがCS1標的T細胞の細胞溶解活性をもたらすことに関与している可能性を示唆している。この結果は複合CD28-CD3ζシグナル伝達部分を含む癌胎児性抗原特異性CARを移植したT細胞が、未改変T細胞と比較して、グランザイムBの上昇をもたらしたとする過去の報告と一致するものである(Koehler H,et al.Cancer Res 2007 67:2265-73)。
【0125】
標的細胞におけるCS1の強制過剰発現は、CS1特異的CAR T細胞による認識及び殺傷を向上させる。
【0126】
CS1を高発現する骨髄腫細胞によって刺激した場合のCS1-CAR T細胞のサイトカイン放出及び細胞傷害活性に関する著しい強力な反応は、CS1発現が内因的に低い骨髄腫細胞におけるCS1の異所発現がサイトカイン放出及び細胞溶解の増加を誘発し得るかどうかという調査を促すものであった。この目的のために、内因性CS1発現量の低いRPMI-8226骨髄腫細胞にヒトCS1またはモック形質導入対照としてPCDH空ベクターをコードするレンチウイルスを用いて形質導入した。形質導入効率をレンチウイルスによってコードされたGFPタンパク質の検出によってモニターしたところ、フローサイトメトリー分析によるGFP陽性細胞のパーセンテージは90%超であった。形質導入細胞の表面をPE標識抗CS1抗体で染色することによって、CS1の過剰発現を確認した(
図4A)。クロム51放出アッセイでは、強制CS1発現により、RPMI-8226細胞がCS1-CAR形質導入T細胞による溶解を受けやすくなる程度がモック形質導入T細胞とは対照的に認識できるほど増大することが示された(
図4B)。次に、IFN-γ及びIL-2の産生をELISAによって評価した場合、CS1-CAR形質導入T細胞は、モック形質導入T細胞と比較すると、CS1を過剰発現するRPMI-8226細胞に反応して、有意に高い量のIFN-γ及びIL-2を産生した。一方、CS1-CAR T細胞を空ベクター改変RPMI-8226細胞と共培養した場合では、IFN-γ分泌の増加はごく普通であり、IL-2分泌に変化はなかった(
図4C及びD)。同様に、形質転換細胞株であるCS1
-293TにおけるCS1の過剰発現でも、CS1-CAR T細胞によるサイトカイン放出及び細胞溶解の上昇が誘発された(
図7B~7D)。これは、他の腫瘍抗原を標的にするCAR T細胞に関する他の報告と一致する(Sanchez C,et al.Prostate Cancer Prostatic Dis 2013 16:123-31;Chinnasamy D,et al.J Clin Invest 2010 120:3953-68)。これらの結果により、CS1-CAR T細胞による標的細胞の認識及び殺傷の増加がCS1依存的に生じたことが裏付けられた。
【0127】
自己由来性CS1特異的CAR T細胞による初代骨髄腫細胞の認識及び殺傷の改善
【0128】
より臨床的な関連においてCS1特異的CAR T細胞の作用を検討するために、CS1-CARを形質導入した自己由来性T細胞が、骨髄腫を有する患者から新しく単離した腫瘍細胞を効果的に認識し、殺傷できるかどうかを調査した。健常ドナー由来のT細胞と同様に、再発性骨髄腫を有する患者のT細胞が良好に増大し、レトロウイルス感染によるCS1-CARを発現するように操作したところ、フローサイトメトリーで特定したT細胞の60.7%が抗マウスFab及び抗ヒトCD3抗体による陽性染色を示した(
図5A)。患者由来の初代CD138
+骨髄腫細胞を陽性磁気選択を用いて単離し、フローサイトメトリーを用いて初代骨髄腫細胞のCS1の表面発現が一様に陽性であることを観察した(
図5B)。クロム51放出アッセイによって、患者由来骨髄腫細胞が、自己由来性モック形質導入T細胞による溶解に高い耐性がある一方で、自己由来性CS1-CAR形質導入T細胞からは、低い(2.5:1)(E/T)比であっても、影響を受けることが認められた(
図5C)。細胞傷害性のこれらの結果と一致して、自己由来性CS1-CAR T細胞は、自己由来性モック形質導入T細胞と比較すると、骨髄腫細胞に反応して、有意に高い量のIFN-γを産生した(
図5D)。これらの結果は、CS1-CARを備えるT細胞が骨髄腫細胞を自己由来性環境のエクスビボで効果的に認識し根絶することができることを裏付けるものである。
【0129】
CS1標的T細胞は、同所性異種移植骨髄腫モデルにおけるインビボ腫瘍成長を抑制し、腫瘍マウスの生存を延ばす。
【0130】
CS1-CAR T細胞の治療可能性をMM.1S移植NSGマウスモデルで評価した。MM.1S細胞の静脈内注入は、骨髄及び骨への移植が可能なため、ヒトMMを近似的に再現する多病巣性骨病変の安定した確立と同じく、MMのマウス異種移植モデルを確立するために広く用いられている(Mitsiades CS,et al.Cancer Cell 2004 5:221-30;Runnels JM,et al.J Biomed Opt 2011 16:011006)。腫瘍成長のモニタリングを容易にするため、MM.1S細胞をレトロウイルス感染によりGFPと発光ルシフェラーゼの両方を発現するように遺伝子操作し、GFP
+細胞を分取し、腫瘍成長を引き起こすためにNSGマウスに静脈移植した。次に、これらのマウスにモック形質導入T細胞、CS1-CAR形質導入T細胞またはPBSを静脈注入した。過去の報告と一致して(Mitsiades CS,et al.Cancer Cell 2004 5:221-30;Runnels JM,et al.J Biomed Opt 2011 16:011006)、IVISを用いた生物発光イメージングでは、PBS処置群のMM.1S保有NSGマウスが頭骨、椎骨、骨盤及び大腿骨に播種性腫瘍病変を発症し(
図6A)、マウスの大部分が腫瘍細胞接種から5週間後に後肢麻痺を呈した。CS1-CAR T細胞の注入により、生物発光イメージングによって決定された通り、腫瘍量が顕著に減少し、MM.1S保有NSGマウスの全体的な生存が伸びたのに対して、モック感染T細胞の注入では、効果的な腫瘍根絶もマウスの生存改善ももたらされなかった(
図6A及びB)。
【0131】
CS1-CAR T細胞のインビボ抗MM能力をさらに確認するために、CS1-CAR T細胞の効果をIM9移植NSGマウスモデルを用いて評価した。MM.1Sを用いて示されたデータと同様のデータが認められた。生物発光イメージングにより、CS1-CAR形質導入T細胞を注入すると、IM9保有マウスで確立された腫瘍を効果的に根絶できたのに対し、モック形質導入T細胞の注入では、腫瘍量が減少しなかったことが示された(
図9A)。最初の処置から44日後、CS1-CAR T細胞注入を受けたIM9保有マウスでは100%の生存率が認められたのに対し、モックT細胞及びPBSを受けた対照マウスではそれぞれ生存率がたったの28.6%及び16.7%であった(
図9B)。
【0132】
実施例2:CS1特異的キメラ抗原受容体(CAR)で遺伝子操作したナチュラルキラー細胞は、ヒト多発性骨髄腫に対する抗腫瘍活性をインビトロ及びインビボで向上させる。
【0133】
本研究では、CS1特異的であり、CD28-CD3ζ共刺激シグナル伝達ドメインを組み込んだCARを発現するようにヒトNK細胞を遺伝子操作した。これらの細胞の抗MM作用をインビトロ及びMMのインビボ同所性異種移植マウスモデルで評価した。この結果から、CS1-CARの発現により、インビトロとインビボの両方で、CS1発現MM細胞を特異的かつ効率的に根絶するようにNK細胞を改変でき、この根絶がCS1依存性であることが示された。このデータは、難治性MMまたは再発性MMを有する患者を治療する手段として、本CAR戦略が効果的なNK細胞免疫療法の開発に適していることを示唆するものである。加えて、CAR NK細胞は、CAR T細胞とは対照的に、同種異系NK細胞源の使用が可能であり、移植片対宿主病を発症する可能性が少なく、またその抑制に役立ち得る(Olson JA,et al.Blood 2010 115:4293-4301)。さらに、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)の不適合により、細胞傷害性の作用も増大する(Ruggeri L,et al.Science 2002 295:2097-2100)。
【0134】
材料及び方法
【0135】
細胞培養
【0136】
ヒト多発性骨髄腫細胞株L363(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures,Braunschweig,Germany)、IM9 [American Type Culture Collection(ATCC),Manassas,VA,USA]及びU266(ATCC)を10%ウシ胎児血清(FBS)含有RPMI1640培地(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)中に維持した。ヒトIL-2依存性NK細胞株NK-92(ATCC)及びNKLを20%FBS及びrhIL-2 150IU/mL(Hoffman-LaRoche Inc.,Nutley,NJ,USA)を添加したRPMI1640培地中に維持した。293T(ATCC)及びフェニックスパッケージング細胞株を10%FBS含有DMEM培地中に維持した。EASYSEPヒト全血及び骨髄CD138陽性選択キット(StemCell Technologies,Vancouver,BC,Canada)を製造業者のプロトコールに従って用いて、MM患者の骨髄穿刺液から初代CD138+MM細胞を単離した。すべてのヒト研究は、オハイオ州立大学治験審査委員会の承認を受けた。
【0137】
マウス
【0138】
6~8週齢のNOD.Cg-prkdcscid IL2rgtm1Wjl/szJ(NSG)マウスをJackson Laboratories(Bar Harbor,ME,USA)から取得した。すべての動物研究は、オハイオ州立大学動物実験委員会の承認を受けた。MM疾患進行に関してマウスを頻繁に観察し、後肢麻痺、無気力及び明らかな体重減少の症状を伴う瀕死状態になったときに屠殺した。
【0139】
抗CS1CARレンチウイルス構築物の作製
【0140】
ハイブリドーマ細胞株Luc90から増幅したCS1-scFv断片にMycタグをコードする配列をCS1-VLコード配列のすぐ後に融合させた。融合したDNA配列をレトロウイルスベクターから切り出したCD28-CD3ζに組み込んだ。CS1-scFv-mycタグ-CD28-CD3ζ断片全体をPCDH-CMV-MCS-EF1-copGFP(PCDH,System Biosciences,Mountain View,CA,USA)と称するレンチウイルスベクターに連結し、PCDH-CS1-scFv-mycタグ-CD28-CD3ζ(PCDH-CS1-CAR)構築物を作製した。
【0141】
レンチウイルス作製及びNK細胞の形質導入
【0142】
VSVG偽型レンチウイルス上清を作製するために、DMEM培地(Invitrogen)中で培養した293T細胞を、PCDH-CS1-scFv-CD28-CD3ζまたはPCDH対照ベクター(空ベクターによるモック感染のウイルスを作製するため)と、パッケージング構築物であるpCMV-VSVG及びpCMV-dr9とともにリン酸カルシウムトランスフェクション試薬(Promega,Madison,WI,USA)を用いてコトランスフェクトした。24時間後、DMEM培地を20%FBS含有RPMI-1640培地と置き換えた。トランスフェクションから48時間後、レンチウイルスを含む馴化培養液を回収し、0.45μmのフィルターユニット(Milliopore,Billerica,MA,USA)で濾過し、細胞片を除去した。ウイルス感染を、ポリブレン8μg/mL(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)及びrhIL-2 450IU/mLを含有するレンチウイルス上清液を総容量2mLで、2×106個のNK-92細胞またはNKL細胞を用いて6ウェルプレートで実施した。細胞を1,800rpm、32℃、45分間遠心分離にかけ、次にプレートを37℃にて2時間インキュベーター内に置いた。同日に2回目の感染を繰返し、翌日さらにもう1回繰り返した。3回目の形質導入後、細胞を20%FBS及びrhIL-2 150IU/mLを添加したRPMI1640培地中に37℃で維持した。FACS Aria IIセルソーター(BD Biosciences,San Jose,CA,USA)を用いた細胞分取を2回行うことにより、形質導入したNK細胞を濃縮した。PCDHベクターにコードされた緑色蛍光タンパク質(GFP)表面マーカーの発現に基づいて陽性細胞を選択した。
【0143】
CS1を安定的に発現するU266細胞株の作製
【0144】
PCRによってIM9細胞から単離したcDNAからヒトCS1コード配列を増幅し、次に、PCDHレンチウイルスベクターにサブクローニングしてPCDH-CS1構築物を作製した。レンチウイルスの作製及びU266細胞の感染は、上記の方法を用いて実施した。次に、FACS Aria IIセルソーター(BD Biosciences,San Jose,CA,USA)を用いて、GFP陽性細胞を分取した。
【0145】
免疫ブロット法分析
【0146】
細胞をPBSで洗浄し、レムリ緩衝液中で直接溶解した。4%~15%密度勾配のSDS-PAGEゲル(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA,USA)上で溶解物を電気泳動的に分離し、ニトロセルロース膜(EMD Millipore,Billerica,MA,USA)に転写した。0.1%Tween20を添加したトリス緩衝生理食塩水(TBS)中5%ミルクでこの膜をブロックした。マウス抗ヒトCD3ζ鎖モノクローナル抗体(BD Pharmingen,San Diego,CA,USA)を0.1%Tween20を添加したTBS中5%ミルクで1:1,000に希釈して、この抗体溶液を加え、膜と一晩反応させた。次に、Tween20を添加したTBS中でこの膜を3回洗浄した。HRP標識二次抗体(GE Healthcare Biosciences,Pittsburgh,PA,USA)を0.1%Tween20を添加したTBS中5%ミルクで1:5,000に希釈し、膜に加え、1時間静置した。再度、Tween20を添加したTBS中でこの膜を4回洗浄し、高感度化学発光試薬(ECL;GE Healthcare Biosciences)を1分間加えた。次に、ブロットを種々の時間でフィルムに露光し、適切な露光画像を作製した。
【0147】
フローサイトメトリー
【0148】
CS1-CARの表面発現を分析するために、形質導入したNK細胞の単一の細胞懸濁液を抗MycタグマウスmAb9E10(Sigma-Aldrich)とともに4℃で1時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、次に、PE標識ラット抗マウスIgG1二次抗体(BD Pharmingen)と4℃で30分間インキュベートした。細胞をPE標識マウス抗CS1 mAb(eBiosciences,San Diego,CA,USA)及びAPC標識マウス抗CD138 mAb(BD Pharmingen)で染色した後、BD LSRIIアナライザーを用いるFACS分析により骨髄腫細胞上のCS1及びCD138の表面発現を調べた。データ分析をFLOWJOソフトウェア(Tree Star Inc.,Ashland,OR,USA)を用いて実施した。
【0149】
細胞傷害性アッセイ
【0150】
NK細胞を介した溶解を検出するために、MM標的細胞を100mCiのクロム51(51Cr)で1.5時間標識し、通常RPMI培地で4回洗浄し、100μl容量の96ウェルV底マイクロタイタープレートで1ウェル当たり5,000細胞の濃度に調節した。FACSで濃縮したモック形質導入NK細胞またはCS1-CAR形質導入NK細胞を様々なエフェクター対標的(E:T)比で各3ウェルに100μl容量で加えた。37℃で4時間のインキュベーション後、51Crの放出をTOPCOUNTカウンター(Canberra Packard,Meriden,CT,USA)で測定できるように、100μlの上清を各ウェルから回収し、液体シンチレーションカクテル(Fisher scientific,Pittsburgh,PA,USA)を含有するシンチレーションバイアルに移した。最大51Cr放出を求めるために、標的細胞上清をSDS100μlとインキュベートした。特異的溶解のパーセンテージを次の標準式を用いて算出した。
100×(実験放出cpm-自然放出cpm)/(最大放出cpm-自然放出cpm)
【0151】
インターフェロン-γ放出アッセイ
【0152】
骨髄腫標的細胞をNKエフェクター細胞と96ウェルV底プレートで24時間共培養した。全部で、2.5×105個の骨髄腫細胞株細胞または1.0×105初代骨髄腫細胞をそれぞれ2.5×105個または5.0×105個のNK細胞とインキュベートした。細胞を含まない上清を、R&D Systems(Minneapolis,MN,USA)のキットを製造業者のプロトコールに従って用いて、インターフェロン-γ(IFN-γ)の分泌について酵素結合免疫吸着法(ELISA)により評価した。各図に示すデータは、類似の結果を有する3つの代表的実験のうちの1つの3ウェルの平均値を表す。
【0153】
同所性MMマウスモデル及びMM保有マウスのインビボ処置及び生物発光イメージング
【0154】
先に記載の通り、発光ルシフェラーゼを発現するPinco-pGL3-luc/GFPウイルスを用いてIM9細胞にレトロウイルス形質導入を行った(He S,et al.Blood 2013 121:4663-4671)。FACS Aria IIセルソーター(BD Biosciences)を用いてGFP陽性細胞を分取し、これを「IM9-Luc」細胞と名付けた。次に、6~8週齢のオスのNSGマウスにリン酸塩‐緩衝生理食塩水400μl中のIM9-Luc MM細胞0.5×106個を0日に尾静脈を介して静脈内(i.v.)注入し、同所性異種移植MMモデルを確立した。7日目から、マウスにリン酸塩‐緩衝生理食塩水400μl中のエフェクター細胞、すなわちCS1-CAR NK-92細胞またはモック形質導入対照細胞5×106個を5日毎に1回i.v.注入した(合計5回)。IM9-Luc接種から4週間後、マウスにDルシフェリン(150mg/kg体重;Gold Biotechnology,St.Louis,MO,USA)を腹腔内(i.p.)注入し、イソフルランで麻酔をかけ、Living Imageソフトウェア(Perkin-Elmer)を備えるIn Vivo Imaging System(IVIS-100,Perkin-Elmer,Waltham,MA,USA)を使用して画像化した。
【0155】
免疫組織化学分析
【0156】
脊椎骨を10%リン酸緩衝ホルマリンで固定し、飽和EDTAで脱灰してから、パラフィンに包埋した。組織学的検査のために、5μ厚の切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。この切片を、マウス抗ヒトCD138 mAb(1:50希釈;Thermo-Scientific,Waltham,MA,USA)でヒトMM細胞を特定するために、通常の免疫組織化学的染色手順に従って免疫染色した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを二次抗体として用い、続いてペルオキシダーゼ酵素反応を行った。
【0157】
統計
【0158】
正規分布であれば、独立スチューデントt検定を使用して、一連のエンドポイントについて2つの独立群を比較した。3つ以上の独立群を比較する場合は、一元配置ANOVAを用いた。インビボ生物発光強度などの非正規分布のエンドポイントについては、Kruskal-Wallis検定を使用して、NK-92-CS1-CAR~NK-92-EV及びリン酸塩‐緩衝生理食塩水の各群の中央値を比較した。生存データに関しては、カプランマイヤー曲線をプロットし、ログランク検定を用いて比較した。検定はすべて両側検定である。多重比較については、P値をボンフェローニ法によって調整した。0.05未満のP値は統計的に有意であるとみなす。
【0159】
結果
【0160】
CS1-CARを発現するNK-92細胞及びNKL NK細胞の作製
【0161】
シグナルペプチド(SP)、重鎖可変領域(VH)、リンカー、軽鎖可変領域(VL)、Mycタグ、ヒンジ、CD28及びCD3ζを順に含有する、PCDHレンチウイルスベクター骨格を有する特異性CS1-CAR構築物を作製した(
図13A)。NK-92細胞株及びNKL NK細胞株にCAR構築物を用いて形質導入し、次に、ベクターによって発現されるマーカーであるGFPの発現によって分取した。分取細胞のウェスタンブロット法により、対照ベクターではなく、CAR構築物を用いて形質導入したNK-92及びNKL細胞株でのCD3ζを含有するキメラCS1-scFv受容体の発現によって裏付けられた通り、CS1-CARが良好に導入され、発現されたことが示された(
図13B)。さらに、抗Myc Abの表面染色後のフローサイトメトリー分析では、CS1-CAR構築物を用いて形質導入したNK-92細胞とNKL細胞の両方の表面上にてCS1-CARが発現されたことが示された(
図13C)。
【0162】
CS1-CAR改変NK細胞は、モック形質導入NK細胞と比較して、インビトロでCS1+MM細胞をより効率的に根絶するが、CS1-は根絶しない。
【0163】
CS1-CAR NK細胞の作製後、この細胞がCS1
-MM細胞よりもCS1
+MM細胞を多く選択的に殺傷するかどうかを決定した。この目的のために、まず、IM9及びL363MMの細胞株がその表面にCS1タンパク質を恒常的に発現していることが確認されたが、U266MM細胞におけるCS1の発現はほとんどなかった(
図14A)。次に、4時間クロム51放出アッセイでは、モック形質導入NK-92細胞と比較すると、CS1-CARを用いて形質導入したNK-92細胞のCS1
+IM9及びL363の各細胞を殺傷する能力が有意に向上したことが示された(
図14B及び14C、左パネル)。CS1-CARを用いて形質導入したNKL細胞を用いて繰り返した実験でも、同様のデータが観察された(
図14B及び14C、右パネル)。しかしながら、CS1-CAR形質導入及びモック形質導入したNK-92細胞またはNKL細胞は両方ともCS1U266骨髄腫細胞に対する細胞傷害性が同様に低かった(
図14D)。加えて、CS1-CARの強制発現は、フローサイトメトリーを使用した7AAD/Annexin V染色の分析によって決定された通り(
図20)、NK-92細胞またはNKL細胞における明確なアポトーシスを誘導しなかった。これは、CS1-CAR発現がNK-92細胞またはNKL細胞自体に対する細胞傷害性をもたらさなかったことを示唆している。同様に、精製した初代ヒトNK細胞におけるCS1-CAR発現は、CS1
+IM9骨髄腫細胞に対する細胞傷害性を増大させた。
【0164】
CS1+MM細胞に曝露した後のCS1-CAR改変NK細胞は、モック形質導入NK細胞よりも多くのIFN-γを分泌する。
【0165】
CAR構築物に含めたCD28共刺激分子のシグナル伝達ドメインは、MM細胞の表面上のCS1抗原によるCS1 scFvの認識後の活性化を促進することができる。したがって、このシグナル伝達ドメインの含有物は、NK細胞を活性化する能力を有し得、より高い細胞傷害性を有するだけでなく、より多くのIFN-γを産生し、後者は、腫瘍監視ならびにCD8
+T細胞及びマクロファージの活性化にとっても重要である(Martin-Fontecha A,et al.Nat Immunol 2004 5:1260-1265;Tu SP,et al.Cancer Res 2011 71:4247-4259;Ma J,et al.Cell Mol Life Sci 2003 60:2334-2346)。この点を試験するために、CS1-CAR改変または対照操作エフェクターNK細胞を、単独で培養するか、IM9及びL363のMM細胞株を含むCS1
+骨髄腫細胞と共培養した。24時間後、IFN-γ産生をELISAで測定した。
図15に示すように、CS1-CAR改変した及びモック形質導入したNK-92細胞またはNKL細胞は両方とも、単独でインキュベートした場合、IFN-γの自然産生が少ないかわずかな量であった。CS1
-MM腫瘍細胞(IM9またはL363)との共培養は、CS1-CAR及びモックを形質導入したNK-92細胞株またはNKL細胞株におけるIFN-γを誘発したが、モック形質導入NK-92(
図15A及び15B、左パネル)またはNKL細胞(
図15A及び15B、右パネル)よりもCAR改変NK-92細胞またはNKL細胞によって産生されたIFN-γのほうが有意に高かった。CS1
-MM細胞株であるU266と共培養した場合、モック形質導入及びCS1-CAR形質導入したNK-92細胞は両方とも、U266細胞と共培養しなかった細胞よりも多くのIFN-γを産生したが、形質導入NKL細胞では認められなかった(
図15C)。これは、NK-92細胞上のNK細胞受容体とU266細胞上のそのリガンドとの間の特有の相互作用がNK-92細胞によるCS1依存性IFN-γ産生を誘導する可能性を示唆している。さらに、CS1-CARを形質導入したNK-92細胞及びNKL細胞は、U266細胞と共培養した場合、モックを形質導入したNK-92細胞及びNKL細胞よりも多くのIFN-γを産生しなかった(
図15C)。これらの結果は、前述の細胞傷害性データと一致するものであり、総合すれば、CS1-CARによる改変が、CS1
-骨髄腫細胞ではなくCS1
+骨髄腫細胞に応答した細胞傷害性及びIFN-γ産生の両方に関してNK細胞のエフェクター機能を劇的に向上することを示している。
【0166】
U266細胞における強制CS1発現により、NK-92-CS1-CAR細胞の細胞傷害性及びIFN-γ産生が増大する。
【0167】
次に、CS1-CAR NK細胞のこの改善活性がMM細胞上のCS1抗原発現に依存するものであるかどうかを調べた。CS1-CAR付与NK-92細胞を導入すると、CS1
-U266骨髄腫細胞ではなく、CS1
+骨髄腫細胞に反応して、細胞傷害活性が増加し、IFN-g産生が増大するという上述の観察結果は、U266細胞上のCS1過剰発現がNK-92-CS1-CAR細胞に対するU266細胞の反応性を変えるのに十分であるかという調査を促すものであった。この目的のために、レンチウイルス感染によりCS1をU266細胞上に異所的に発現させた。フローサイトメトリー分析により、CS1タンパク質がU266-CS1細胞表面上に良好に発現したことが確認された(
図16A)。クロム51放出アッセイでは、モック形質導入NK-92細胞と比較して、CS1を過剰発現するU266細胞に対するCS1-CAR形質導入NK-92細胞の細胞傷害活性が有意に増加したことが示された(
図16B)。同様に、モック形質導入NK-92細胞を含む並行共培養と比較して、CS1を過剰発現するU266細胞と共培養したNK-92-CS1-CAR細胞は、有意に高い量のIFN-gを分泌した(
図16C)。しかしながら、
図14D及び15Cのデータと一致して、空ベクター対照を用いて形質導入したU266細胞とインキュベートした場合、NK-92-CS1-CAR細胞とモック形質導入NK-92細胞との間には、細胞傷害性及びIFN-γ分泌における差はなかった(
図16B及び16C)。これらの結果により、NK-92-CS1-CAR細胞による骨髄腫細胞の認識及び殺傷の向上がCS1依存的に生じることが示唆された。
【0168】
NK-92-CS1-CAR細胞の表現型の特徴
【0169】
次に、CS1特異的CARの発現がNK細胞の表現型を変えることができるかどうかについて調べた。IM9骨髄腫細胞の存在下または非存在下にて培養した後、フローサイトメトリーを用いて、CS1-CAR形質導入及びモック形質導入したNK-92細胞の表面上の抗原発現を比較した。
図17Aに示すように、IM9細胞の存在下または非存在下での培養にかかわらず、NKp30、NKp46、NKG2C及びNKG2Dを含むNK細胞受容体の発現におけるCS1-CAR形質導入NK-92細胞とモック形質導入NK-92細胞では差がなかった。NK細胞活性化マーカーであるCD6928及びHLA-DR(Phillips JH,et al.J Exp Med 1984 159:993-1008;Spits H,et al.Immunity 2007 26:11-16)の発現も評価した。IM9細胞の認識により、モック形質導入NK-92細胞上のCD69発現は誘導されなかったが、CS1-CAR形質導入NK-92細胞の表面上のCD69発現については、多くはないが有意な増加がもたらされた(
図17A)。興味深いことに、IM9細胞と共培養すると、CS1-CAR形質導入NK-92細胞とモック形質導入NK-92細胞の両方に、HLA-DR発現の劇的な増加が生じた。IM9標的細胞の非存在下において、CS1-CAR形質導入NK-92細胞とモック形質導入NK-92細胞との間にHLA-DR発現における明確な差はなかったが、IM9細胞で刺激すると、モック形質導入NK-92細胞よりもNK-92-CS1-CAR細胞において、HLA-DR発現が有意に高くなった。したがって、NK-92-CS1-CAR細胞上に発現した活性化マーカー、特にHLA-DRの増加は、CS1
+MM細胞に曝露した際のこれらの細胞による細胞傷害性及びIFN-γ産生の増加に関連して生じたものと思われる。細胞内染色を使用すると、モック形質導入NK細胞と比較して、NK-92-CS1-CAR細胞は、MM腫瘍細胞が存在しない場合であっても、パーフォリン及びグランザイムBの発現量が有意に高かった(
図17B及び17C)。これは、CAR T細胞におけるグランザイムBの発現増加に関する過去の報告(Koehler H,et al.Cancer Res 2007 67:2265-2273)と一致し、またパーフォリン及びグランザイムBの発現がNK細胞の細胞傷害活性と概して相関関係にあるという事実(Krzewski K,et al.Front Immunol 2012 3:335)とも一致する。
【0170】
CS1-CAR形質導入NK-92細胞は、NK耐性初代MM細胞をエクスビボでより効果的に認識し殺傷する。
【0171】
結果をより臨床的に関連付けるために、CS1-CAR改変NK-92細胞が初代MM細胞をエクスビボで認識したときに細胞溶解活性及びIFN-γ産生を増大させるかどうかについて調べた。フローサイトメトリーを用いて、MM患者に由来する初代CD138
+磁気ビーズ選択MM細胞上のCS1表面発現を評価した(
図18A)。CD138磁気ビーズ精製MM患者細胞上のCS1タンパク質の発現が高かったことが示されている過去の報告と一致して(Hsi ED,et al.Clin Cancer Res 2008 14:2775-2784;Tai YT,et al.Blood 2008 112:1329-1337)、CS1タンパク質は、確かに、初代MM細胞の表面上に一様に発現した(
図18A)。クロム51放出アッセイにより、MM患者から新しく単離した初代骨髄腫細胞は、E:T比が40:1及び20:1という高比率であっても、NK-92細胞を介した溶解に高い耐性を示したが、この耐性は、初代骨髄腫細胞の根絶に劇的な増加をもたらしたNK-92細胞のCS1-CAR発現によって部分的に克服され得る(
図18B)。また、細胞傷害性の結果と一致して、初代骨髄腫細胞と24時間共培養した後のCS1-CAR形質導入NK-92細胞は、モック形質導入NK-92細胞よりも有意に高い量のIFN-γを分泌した(
図18C)。
【0172】
CS1-CAR形質導入NK-92細胞は、同所性異種移植MMモデルにおけるMM腫瘍成長を阻害し、腫瘍マウスの生存を延ばす。
【0173】
NK-92-CS1-CAR細胞の治療適用の可能性をさらに検討するために、IM9異種移植NSGマウスにおける抗腫瘍活性を調べた。IM9細胞に発光ルシフェラーゼを発現するウイルスでレトロウイルス形質導入することにより、発光ルシフェラーゼを発現するIM9細胞株(IM9-Luc)を作製し、GFP細胞分取を行った。完全長の発光ルシフェラーゼmRNAの発現をRT-PCRによって確認した。典型的な骨髄腫細胞と同様に、IM9-Luc細胞はその表面にCD138タンパク質を発現した。過去の報告(Francisco JA,et al.Cancer Res 2000 60:3225-3231)と一致して、IM9-Luc保有NSGマウスは、後肢麻痺及び運動失調によって表される播種性疾患を示した。後肢麻痺を示すマウスの脊椎骨の組織学検査では、骨組織内に多数の腫瘍細胞及び溶骨性病変の存在が認められた(
図19A、左)。ヒト特異的抗CD138抗体を用いた免疫組織化学染色で、腫瘍細胞の存在をさらに確認した(
図19A、右)。生物発光イメージングを用いて、IM9-Lucの腫瘍成長をモニターした。
図19B及び19Cに示す通り、またインビトロ細胞傷害性データと一致して、モック形質導入対照細胞を後に注入したマウスと比較して、NK-92-CS1-CAR細胞を代わりに後に投与したマウスでは、IM9-Luc腫瘍が有意に抑制された。さらに、NK-92-CS1-CAR細胞で処置すると、モック形質導入NK-92対照細胞で処置したマウスと比較して、IM9-Luc腫瘍を有するマウスの生存が有意に伸びた(
図19D)。注目すべき点は、NK-92-CS1-CAR細胞またはモック形質導入NK-92細胞を同様に投与した場合、IM9-Luc細胞のi.v.注入がなくても、マウスは播種性疾患を発症せず、死に至らなかったことである。
【0174】
特段の記載がない限り、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、本開示の発明が属する技術分野の当業者によって共通に解釈されるものと同じ意味を有する。本明細書に引用した刊行物及び当該刊行物が引用した資料を参照により特に組み込む。
【0175】
当業者であれば、通常の実験を用いるだけで、本明細書に記載された本発明の具体的な実施形態の等価物を数多く認識しまたは確認できるであろう。このような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
本願は以下の態様にも関する。
(1) CS1抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン及び共刺激シグナル伝達領域を含む、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチド。
(2) 前記抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体断片または抗原結合断片である、前記(1)に記載のポリペプチド。
(3) 前記抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体のFabまたは単鎖可変断片(scFv)である、前記(2)に記載のポリペプチド。
(4) 前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンド及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される共刺激分子の細胞質ドメインを含む、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(5) 前記CARポリペプチドが、式:
SP-CS1-HG-TM-CSR-ISD;または
SP-CS1-HG-TM-ISD-CSR
(式中、「SP」は、シグナルペプチドを表し、
「CS1」は、CS1結合領域を表し、
「HG」は、任意のヒンジドメインを表し、
「TM」は、膜貫通ドメインを表し、
「CSR」は、共刺激シグナル伝達領域を表し、
「ISD」は、細胞内シグナル伝達ドメインを表し、
「-」は、二価のリンカーを表す)
で定義される、前記(1)~(4)のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(6) 前記CS1結合領域が、CS1に特異的に結合する抗体のFabまたは単鎖可変断片(scFv)である、前記(1)~(5)のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(7) 前記細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3ゼータ(CD3ζ)シグナル伝達ドメインを含む、前記(1)~(6)のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(8) 前記(1)~(7)のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドをコードする単離核酸配列。
(9) 前記(7)または(8)に記載の単離核酸配列を含むベクター。
(10) 前記(9)に記載のベクターを含む細胞。
(11) αβT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、制御性T細胞またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、前記(10)に記載の細胞。
(12) 前記CARの前記抗原結合ドメインがCS1に結合するとき、抗腫瘍免疫を呈する、前記(11)に記載の細胞。
(13) 多発性骨髄腫(MM)を有する対象に抗腫瘍免疫をもたらすための方法であって、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子的に改変した有効量の免疫エフェクター細胞を前記対象に投与することを含み、前記CARがCS1抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域及びCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含み、これにより哺乳動物において抗腫瘍免疫をもたらす、方法。
(14) 前記免疫エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)及び制御性T細胞からなる群から選択される、前記(13)に記載の方法。
(15) 前記抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体断片または抗原結合断片である前記(13)または(14)に記載の方法。
(16) 前記抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体のFabまたは単鎖可変断片(scFv)である、前記(15)に記載の方法。
(17) 前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンド及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される共刺激分子の細胞質ドメインを含む、前記(13)~(16)のいずれか一項に記載の方法。
(18) 前記CARポリペプチドが、式:
SP-CS1-HG-TM-CSR-ISD;または
SP-CS1-HG-TM-ISD-CSR
(式中、「SP」は、シグナルペプチドを表し、
「CS1」は、CS1結合領域を表し、
「HG」は、任意のヒンジドメインを表し、
「TM」は、膜貫通ドメインを表し、
「CSR」は、共刺激シグナル伝達領域を表し、
「ISD」は、細胞内シグナル伝達ドメインを表し、
「-」は、二価のリンカーを表す)
で定義される、前記(13)~(17)のいずれか一項に記載の方法。
(19) 前記抗CS1抗原結合ドメインが、CS1に特異的に結合する抗体のFabまたは単鎖可変断片(scFv)である、前記(13)~(18)のいずれか一項に記載の方法。
(20) 前記細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3ゼータ(CD3ζ)シグナル伝達ドメインを含む、前記(13)~(19)のいずれか一項に記載の方法。
【配列表】