(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20230206BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20230206BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C12P13/04 ZNA
C12N9/04 Z
C12N15/53
(21)【出願番号】P 2021150762
(22)【出願日】2021-09-16
(62)【分割の表示】P 2017543644の分割
【原出願日】2016-09-30
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2015197231
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396020464
【氏名又は名称】株式会社エーピーアイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 良磨
(72)【発明者】
【氏名】川端 潤
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6947634(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0205045(US,A1)
【文献】国際公開第2015/115398(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/129459(WO,A1)
【文献】FUJII, Tadashi et al.,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2002年,Vol. 66, No. 9,pp. 1981-1984
【文献】BYUN, Sung Min et al.,Biotechnology and Bioprocess Engineering,2015年05月18日,Vol. 20,pp. 73-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 9/00- 9/99
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質であるL-ピペコリン酸に、2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で、L-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させてヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成させる方法であって、L-ピペコリン酸水酸化酵素が以下のいずれかに示すタンパク質を1以上含むものである、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で
あって、5番目のフェニルアラニン
がチロシンに、23番目のシステイン
がアラニンに、及び/又は282番目のアスパラギン酸が
グルタミン酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク
質
【請求項2】
L-リジン及び/又はDL-リジンに、
(i-1)L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応させて、又は、
(i-2)D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びD-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素とアミノ酸ラセマーゼとを反応させて、
3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、
該3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸に、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを作用させることにより基質のL-ピペコリン酸を生成させる工程を含む、
請求項1に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
【請求項3】
L-リジンに、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ及びL-リジン 6-アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応
させて2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、
該2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸に、ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼを作用させて基質のL-ピペコリン酸を生成させる工程を含む、
請求項1に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
【請求項4】
L-リジンに、リジンシクロデアミナーゼを作用させて基質のL-ピペコリン酸を生成させる工程を含む、請求項1に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
【請求項5】
基質
に混入しているL-プロリンが10%(w/w)以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
【請求項6】
基質であるL-ピペコリン酸に、2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で、L-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させて(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成させる方法であって、L-ピペコリン酸水酸化酵素が以下のいずれかに示すタンパク質を1以上含むものである、(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で
あって、5番目のフェニルアラニン
がチロシンに、23番目のシステイン
がアラニンに、及び/又は282番目のアスパラギン酸が
グルタミン酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
【請求項7】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列であっ
て、5番目のフェニルアラニン
がチロシンに、23番目のシステイン
がアラニンに、及び/又は282番目のアスパラギン酸が
グルタミン酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質を含む、L-ピペコリン酸水酸化酵素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生物学的な方法により製造する方法に関し、具体的には、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生産する能力を有する酵素を用いて、L-ピペコリン酸からヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシ-L-ピペコリン酸は、医薬品を合成するための中間体等として有用な化合物である。例えば、(4S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸は、Rhoキナーゼ阻害剤の前駆体として(特許文献1)、(4R)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸はHIVプロテアーゼ阻害剤palinavirの前駆体として(非特許文献1)、(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸及び(5R)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸は抗菌剤の前駆体として(特許文献2)、利用可能であることが知られている。
【0003】
ヒドロキシ-L-ピペコリン酸は、L-ピペコリン酸から生物学的な方法により製造できることが知られている。例えば、ミヤコグサ根粒菌メソリゾビウム・ロチ(Mesorhizobium loti)MAFF303099由来のBAB52605タンパク質、アルファルファ根粒菌シノリゾビウム・メリロチ(Sinorhizobium meliloti)1021由来のCAC47686タンパク質(以下「SmPH」と称することがある。)及びセグニリパラス・ルゴサス(Segniliparus rugosus)ATCC BAA-974由来のEFV12517タンパク質のアノテーションよりも48塩基(16アミノ酸相当)上流から発現させたポリヌクレオチド(cis遺伝子)にコードされたタンパク質(以下「SruPH」と称することがある。)等が、L-ピペコリン酸を(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換する能力を有することが報告されており(特許文献3)、これらの水酸化酵素を用いてL-ピペコリン酸をヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換することができる。
【0004】
しかしながら、これらの水酸化酵素はいずれも、L-プロリンを水酸化してヒドロキシ-L-プロリンを生成する能力も有している。
【0005】
ここで、酵素・菌体等を用いて生物学的な方法により製造されたL-ピペコリン酸は、例えば、酵素・菌体の調製時に使用した培地等からの持ち込み成分としてL-プロリンが微量混入することがある。
また、純粋なL-ピペコリン酸を原料として、水酸化酵素を用いてヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する場合、使用する水酸化酵素にL-プロリンが混入している場合がある。
さらに、原料であるL-ピペコリン酸、水酸化酵素のいずれにもL-プロリンが含まれていない場合であっても、水酸化酵素を発現する菌体を生育させながら反応させる場合は、その生育過程で菌体がL-プロリンを副生することも考えられる。
【0006】
L-プロリンは、L-ピペコリン酸と物理化学的性質が近いため、L-プロリンを完全に除去して、純粋なL-ピペコリン酸を得ることは難しい。
また、L-プロリンが混入したL-ピペコリン酸を原料として、前記の酵素を用いてL-ピペコリン酸をヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換する場合、L-プロリンがヒドロキシ-L-プロリンに変換されるため、生成物はヒドロキシ-L-ピペコリン酸とヒドロキシ-L-プロリンが混在したものになり、高純度のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を得ることが難しい。また、ヒドロキシ-L-プロリンは、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸と物理化学的性質が近いため、両者を分離することが難しい。
【0007】
したがって、ヒドロキシ-L-プロリンを除去して高純度のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を得るためには、何度も精製を繰り返したり高価な精製手段を用いたりする必要があるため精製の負荷が高く、時間的にもコスト的にも負担が大きいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2010-514720号公報
【文献】特表2004-505088号公報
【文献】WO2013/187438
【非特許文献】
【0009】
【文献】Gillard et al.,The Journal of Organic Chemistry, 1996, Vol. 61, pp.2226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、L-ピペコリン酸から生物学的な方法によりヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する方法は知られているが、従来の方法は、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸だけでなくヒドロキシ-L-プロリンも生成してしまうため、高い純度が要求される医薬品の中間体等に使用するヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法としては満足できるものではなく、より効率的な製造方法が望まれている。
すなわち、本発明は、ヒドロキシ-L-プロリンの生成を抑え、高純度のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を、効率的に且つ低コストで安価に製造する新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のピペコリン酸水酸化酵素が、2-オキソグルタル酸依存的にL-ピペコリン酸をヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換する能力(L-ピペコリン酸水酸化活性)を有し、かつ、L-プロリンをヒドロキシ-L-プロリンに変換する活性(L-プロリン水酸化活性)をほとんど持たないことを見出した。そして、これら特定の酵素をL-ピペコリン酸に作用させることにより、光学純度の高い、種々のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を高効率で得ることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]基質であるL-ピペコリン酸に、2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で、L-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させてヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成させる方法であって、L-ピペコリン酸水酸化酵素が以下の(1)及び(2)の特徴を有するヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
(1)2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で、L-ピペコリン酸に作用して、L-ピペコリン酸の3位、4位及び/又は5位の炭素原子に水酸基を付加することができる。
(2)L-プロリンに対する触媒反応効率(kcat/Km)が、L-ピペコリン酸に対する触媒反応効率(kcat/Km)の7倍以下である。
[2]L-リジン及び/又はDL-リジンに、
(i-1)L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応させて、又は、
(i-2)D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びD-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素とアミノ酸ラセマーゼとを反応させて、
3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、
該3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸に、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを作用させることにより基質のL-ピペコリン酸を生成させる工程を含む、
[1]に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
[3]L-リジンに、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ及びL-リジン 6-アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応させて2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、
該2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸に、ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼを作用させて基質のL-ピペコリン酸を生成させる工程を含む、
[1]に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
[4]L-リジンに、リジンシクロデアミナーゼを作用させて基質のL-ピペコリン酸を生成させる工程を含む、
[1]に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
[5]基質のL-ピペコリン酸に含まれているL-プロリンが10%(w/w)以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
[6]L-ピペコリン酸水酸化酵素が、さらに以下の(3)の特徴を有する、[1]~[5]のいずれかに記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
(3)L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物のヒドロキシ-L-プロリン生成活性が、該L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物のヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性を100%とした場合の55%以下である。
[7]L-ピペコリン酸水酸化酵素が、以下の(A)、(B)又は(C)に示すタンパク質を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法:
(A)配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質;
(B)配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、前記(1)及び(2)の特徴を有するタンパク質;
(C)配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、前記(1)及び(2)の特徴を有するタンパク質。
[8]L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞が、L-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAで形質転換された微生物若しくは細胞である、[1]~[7]のいずれかに記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
[9]L-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAが、以下の(D)、(E)又は(F)に示すDNAを含むものである[8]に記載のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法:
(D)配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列を有するDNA;
(E)配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列を含み、前記(1)及び(2)の特徴を有するタンパク質をコードするDNA;
(F)配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含み、前記(1)及び(2)の特徴を有するタンパク質をコードするDNA。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学純度が高い、高純度のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を高効率で製造することができる。特に、本発明は、基質のL-ピペコリン酸にL-プロリンが含まれている場合であっても、高純度のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造することができる。
さらに、本発明は、ヒドロキシ-L-プロリンの生成を抑えることができるので、医薬品の中間体等に使用できる高純度のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を、低コストで安価に製造することができるため、工業的に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例3において、各L-ピペコリン酸濃度(mmol/L)の逆数をx軸に、各L-ピペコリン酸濃度における各水酸化酵素量(mg)あたりのヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性(U/mg)の逆数をy軸にプロットした図である。
【
図2】実施例4において、L-ピペコリン酸5位水酸化酵素について、L-プロリン及びL-ピペコリン酸に対する反応性を比較した図である。
【
図3】実施例5において、(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の蓄積量の経時変化を示した図である。
【
図4】実施例5において、(4S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の蓄積量の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「L-ピペコリン酸水酸化活性」とは、L-ピペコリン酸の3位、4位及び/又は5位の炭素原子に水酸基を付加する能力を意味する。
「L-ピペコリン酸水酸化活性」を有するか否かは、例えば、L-ピペコリン酸を基質として含有し、さらに2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンを含有する反応系において、測定対象とする酵素をL-ピペコリン酸に対して作用させ、生成したヒドロキシ-L-ピペコリン酸の量を測定することにより確認することができる。
【0016】
本明細書における「酵素」には、精製酵素(部分的に精製した酵素を含む。)や、通常の固定化技術を用いて担体に固定化したもの、例えば、ポリアクリルアミド、カラギーナンゲル等の担体に固定化したもの等も含まれる。
本明細書において、「発現ベクター」とは、所望の機能を有するタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを組み込み宿主生物へ導入することにより、所望の機能を有するタンパク質を前記宿主生物において複製及び発現させるために用いられる遺伝因子である。例えば、プラスミド、ウイルス、ファージ、コスミド等が挙げられるが、これらに限定されず、好ましくはプラスミドである。
本明細書において、「形質転換体」とは、前記発現ベクター等により目的の遺伝子が導入され、所望の機能を有するタンパク質に関連する形質を表すことができるようになった微生物又は細胞を意味する。
【0017】
本発明のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法は、2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で、基質であるL-ピペコリン酸に対して、以下の(1)及び(2)の特徴を有するL-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させることを特徴とする。
(1)2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下、L-ピペコリン酸に作用して、L-ピペコリン酸の3位、4位及び/又は5位の炭素原子に水酸基を付加することができる。
(2)L-プロリンに対する触媒反応効率(kcat/Km)が、L-ピペコリン酸に対する触媒反応効率(kcat/Km)の7倍以下である。
【0018】
本発明で使用するL-ピペコリン酸水酸化酵素(以下、「本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素」と称することがある。)は、2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で、L-ピペコリン酸に作用して、L-ピペコリン酸の3位、4位及び/又は5位の炭素原子に水酸基を付加することができる酵素である。
【0019】
2-オキソグルタル酸の量は、反応を阻害しない量であれば特に限定されないが、通常、反応系中においてL-ピペコリン酸と等モル又はそれ以上、好ましくは等モル~1.2倍モルの範囲である。
2価の鉄イオンの量は、反応を阻害しない量であれば特に限定されないが、通常、反応系中においてL-ピペコリン酸1モルに対し0.0001モル~0.5モル、好ましくは0.001モル~0.1モルである。
2価の鉄イオンは、例えば、硫酸鉄、塩化鉄、クエン酸鉄等を反応系中に添加することにより、存在させることができる。
【0020】
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素は、好ましくは、配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含むものである。
また、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素は、配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列のホモログであって上記(1)及び(2)の特徴を有するL-ピペコリン酸水酸化活性を有するタンパク質を含むものであってもよい。
【0021】
そのような配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列のホモログとしては、配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するものが挙げられる。置換、挿入又は付加の場合は、1又は数個のアミノ酸が保守的に置換、挿入又は付加された、保守的に変異されたものが好ましい。
ここで、「1又は数個のアミノ酸」とは、通常1個~100個、好ましくは1個~50個、より好ましくは1個~20個、さらに好ましくは1個~10個、特に好ましくは1個~5個のアミノ酸である。
【0022】
また、配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列のホモログとしては、配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列全長と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するものが挙げられる。好ましくは、当該アミノ酸配列全長と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
本発明において、配列同一性とは、塩基配列またはアミノ酸配列において、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致したヌクレオチドまたはアミノ酸の個数の百分率を意味する。すなわち、同一性=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出でき、市販されているアルゴリズムを用いて計算することができる。また、このようなアルゴリズムは、Altschul et al., J.Mol.Biol. 215 (1990) pp.403-410に記載されるNBLAST及びXBLASTプログラム中に組込まれている。より詳細には、塩基配列またはアミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズムまたはプログラム(例えば、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法は、当業者に周知の手法である。
【0023】
配列番号2、12、14、16、又は18で表されるアミノ酸配列は、それぞれミクロ
モノスポラ・チョコリエンシス(Micromonospora chokoriensis)、コレトトリカム・グロエオスポリオイデス(Colletotrichum gloeosporioides)Nara qc5 株、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)Wisconsin 54-1255株、ジベレラ・ゼアエ(Gibberella zeae)PH-1株、及びコルディア・チェジュドネンシス(Kordia jejudonensis)株のゲノム情報に基づくものである。
【0024】
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素のうち、配列番号2、18、又は20で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質や、配列番号2、18、又は20で表されるアミノ酸配列のホモログであってL-ピペコリン酸水酸化活性を有するタンパク質は、L-ピペコリン酸の5位の炭素原子を選択的に水酸化するので、高効率で(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成することができる。
【0025】
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素のうち、配列番号12、14又は16で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質や、配列番号12、14又は16で表されるアミノ酸配列のホモログであってL-ピペコリン酸水酸化活性を有するタンパク質は、L-ピペコリン酸の4位の炭素原子を選択的に水酸化するので、高効率で(4S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成することができる。
【0026】
本発明においては、1種又は2種以上のL-ピペコリン酸水酸化酵素を使用することができる。
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素は、ミクロモノスポラ・チョコリエンシス(Micromonospora chokoriensis)、コレトトリカム・グロエオスポリオイデス(Colletotrichum gloeosporioides)Nara qc5 株、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)Wisconsin 54-1255株、ジベレラ・ゼアエ(Gibberella zeae)PH-1株、又はコルディア・チェジュドネンシス(Kordia
jejudonensis)株などから精製して得ることができる。
【0027】
また、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAを、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)やハイブリダイゼーション等の公知の方法でクローン化し、それを適当な宿主で発現させることによって、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素を得ることもできる。
例えば、配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含むL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAとしては、それぞれ、配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列を含むDNAが挙げられる。また、配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列を含むDNAのホモログであって、上記(1)及び(2)の特徴を有するL-ピペコリン酸水酸化活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
【0028】
そのような配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列を含むDNAのホモログとしては、配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列を含むものが挙げられる。置換、挿入又は付加の場合は、1又は数個の塩基が保守的に置換、挿入又は付加された、保守的に変異されたものが好ましい。
ここで、「1又は数個の塩基」とは、通常1個~300個、好ましくは1個~150個、より好ましくは1個~60個、さらに好ましくは1個~30個、より好ましくは1個~15個、特に好ましくは1個~10個、の塩基である。
【0029】
なお、配列番号1、11、13、15、又は17で表される塩基配列は、それぞれ配列番号2、12、14、16、又は18で表されるアミノ酸配列をコードするミクロモノスポラ・チョコリエンシス(Micromonospora chokoriensis)、コレトトリカム・グロエオスポリオイデス(Colletotrichum gloeosporioides)Nara qc5 株、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)Wisconsin 54-1255株、ジベレラ・ゼアエ(Gibberella zeae)PH-1株、又はコルディア・チェジュドネンシス(Kordia jejudonensis)株の遺伝子を大腸菌発現用にコドンを最適化した塩基配列である。このように形質転換対象の宿主に応じてコドンが最適化されたDNAも当然に本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAに包含される。
【0030】
また、配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列を含むDNAのホモログとしては、配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含むDNAであってもよい。
【0031】
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、DNAをプローブとして使用し、ストリンジェントな条件下、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味する。
ストリンジェントな条件としては、例えば、コロニーハイブリダイゼーション法又はプラークハイブリダイゼーション法においては、コロニーあるいはプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7mol/L~1mol/Lの塩化ナトリウム水溶液の存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1×SSC溶液(1×SSCの組成は、150mmol/L塩化ナトリウム水溶液、15mmol/Lクエン酸ナトリウム水溶液)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。該ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0032】
当業者であれば、配列番号1、11、13、15、17、又は19で表される塩基配列を含むDNAに、部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res.10,pp.6487(1982)、Methods in Enzymol.100,pp.448(1983)、Molecular Cloning、PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991))等を用いて、塩基の欠失、置換、挿入及び/又は付加を行い、所望の変異を導入することにより、配列番号1、11、13、15、17、又は19で表される塩基配列を含むDNAの変異体を得ることができる。
また、配列番号2、12、14、16、18又は20で表されるアミノ酸配列又はその一部や、配列番号1、11、13、15、17又は19で表される塩基配又はその一部を基に、例えば、DNA Databank of JAPAN(DDBJ)等のデータベースに対してホモロジー検索を行って、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素のアミノ酸情報又はそれをコードするDNAの塩基配列情報を手に入れることも可能である。
【0033】
また、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素は、L-プロリンに対する触媒反応効率(kcat/Km)が、L-ピペコリン酸に対する触媒反応効率(kcat/Km)の7倍以下、好ましくは2倍以下、より好ましくは1倍以下、さらに好ましくは0.5倍以下、特に好ましくは0.1倍以下である。そして最も好ましくは実質的にヒドロキシ-L-プロリン生成活性が0のL-ピペコリン酸水酸化酵素である。本発明において「実質的にヒドロキシ-L-プロリン生成活性が0」とは、ヒドロキシ-L-プロリンが1分子も生成しないことを意味するものではなく、ヒドロキシ-L-プロリンが検出できないか又は検
出できても微量であって、当業者が技術常識に基づいて無視できる程度であることを意味する。
【0034】
本発明の触媒反応効率(kcat/Km)は、例えば、ミカエリス・メンテンの速度式を用いてkcat/Kmを算出する方法により求めることができる。ここで、kcatは酵素1分子あたりの触媒効率を示し、Kmは基質に対する酵素の親和性の指標である。
【0035】
Km及びkcatの具体的算出方法は以下のとおりである。まず、特定の基質濃度範囲で、各L-ピペコリン酸濃度における各水酸化酵素量(mg)あたりのヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性(U/mg)を測定する。ここで、1ユニット(U)は、1分間に1μmolのヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成する能力を表す。続いて、実施した各L-ピペコリン酸濃度(mmol/L)の逆数をx軸に、各L-ピペコリン酸濃度における各水酸化酵素量(mg)あたりのヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性(U/mg)の逆数をy軸にプロットする。それらの線形プロットにおいて、x軸との切片の逆数に-1を掛けた数値がkm(mmol/L)を示し、y軸との切片の逆数が最大速度であるVmax(U/mg)を示すことが知られている。酵素1分子あたりの触媒能kcatはVmaxと酵素の分子量から算出できる。そうして得られたkcatとkmから、酵素の触媒能の指標となる触媒反応効率(kcat/Km)を算出することができる。
【0036】
触媒効率の算出に用いる酵素としては、当該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を、有機溶媒や界面活性剤等による処理や物理的又は酵素的な処理により破壊したものから、酵素画分を粗精製物あるいは精製物として取り出したものを用いることができる。酵素活性の強さと反応時間は、反応時間に対して酵素活性が比例して増加する範囲で任意に設定することができる。
ミカエリス・メンテンの数式の詳細等に関しては、例えば「生化学実験法21酵素反応速度論実験入門・学会出版センター」等に記述されている。
【0037】
さらに、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素活性は、以下の方法で簡易的に評価することも可能である。
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物をL-ピペコリン酸又はL-プロリンと反応させて、特定の基質濃度において、投入した細胞量(単位:gや濁度)又は総タンパク質量(単位:g)あたりのヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性(U/g)とヒドロキシ-L-プロリン生成活性(U/g)を測定する。そして、特定の基質濃度におけるL-ピペコリン酸からヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成する活性を100%として、同じ基質濃度におけるL-プロリンからヒドロキシ-L-プロリンを生成する活性(相対値)を算出する。
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素は、L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物のヒドロキシ-L-プロリンを生成する活性が、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物のヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成する活性を100%した場合の通常55%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは35%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは0%である。
【0038】
本発明で使用するL-ピペコリン酸水酸化酵素(以下、「本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素」と称することがある。)は、高位置選択性及び高立体選択性で、L-ピペコリン酸を水酸化することができるので、高効率で、光学純度の高いヒドロキシ-L-ピペコリン酸を得ることができる。
【0039】
本発明のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法においては、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素を直接反応に使用してもよいが、該酵素を生産する能力を有する微生物若
しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を反応に使用してもよい。
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞は、内在的に前記生産能力を有する微生物若しくは細胞であってもよいし、育種により前記生産能力を付与した微生物若しくは細胞であってもよい。また、生きている微生物や細胞に限られず、生体としては死んでいるが酵素能力を有するものも含まれる。
また、L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞の種類としては、「宿主微生物」又は「宿主細胞」として後述するものが挙げられる。
【0040】
育種により前記生産能力を付与する手段としては、遺伝子組換え処理(形質転換)や変異処理等、公知の方法を採用することができる。形質転換の方法としては、目的とするDNAを導入する方法、染色体上でプロモーター等の発現調節配列を改変して目的とするDNAの発現を強化する方法等が挙げられる。
これらのうち、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAで形質転換された微生物若しくは細胞を用いることが好ましい。
【0041】
例えば、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAを公知の発現ベクターに発現可能に挿入して、L-ピペコリン酸水酸化酵素発現ベクターを構築し、該発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAが導入された形質転換体を作製することができる。
また、該形質転換体は、宿主細胞の染色体に本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAを相同組み換え等の手法により発現可能に組み込むことによっても作製することができる。
【0042】
形質転換体作製のための手順、宿主に適合した組換えベクターの構築及び宿主の培養方法は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術(例えば、前述のMolecular Cloningに記載の方法)に準じて行うことができる。
【0043】
形質転換体の作製方法としては、例えば、宿主細胞中に安定に存在するプラスミドベクター、ファージベクター又はウイルスベクター中に、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAを導入し、構築された発現ベクターを該宿主細胞中に導入する、又は直接宿主ゲノム中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる方法が挙げられる。
このとき、宿主において、適当なプロモーターをDNAの5'-側上流に連結させることが好ましく、さらに、ターミネーターを3'-側下流に連結させることがより好ましい。このようなプロモーター及びターミネーターとしては、宿主中で機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば使用することができ、特に限定されない。例えば、「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」に記載されている、ベクター、プロモーター及びターミネーターを使用することができる。
【0044】
形質転換の対象となる宿主微生物若しくは宿主細胞としては、宿主自体がL-ピペコリン酸の反応に悪影響を与えない限り特に限定されることはない。
宿主微生物としては、例えば、大腸菌(エシェリヒア属細菌)、バチルス属細菌、シュードモナス属細菌、コリネ型細菌、根粒菌、ラクトバチルス属細菌、ブレビバチルス属細菌、アナエロビオスピリラム属細菌、アクチノバチルス属細菌、放線菌等の原核生物、酵母、糸状菌等の菌類、植物、動物等の真核生物が挙げられる。中でも、好ましくは、大腸菌、酵母、コリネ型細菌であり、特に好ましくは大腸菌である。
【0045】
宿主微生物としては、例えば以下に示すような微生物を挙げることができる。
エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュ
ードモナス(Pseudomonas)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ブレビバチルス(Brevibacillus)属、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属、アクチノバチルス(Actinobacillus)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、等に属する宿主ベクター系の確立されている細菌。
【0046】
ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属等に属する宿主ベクター系の確立されている放線菌。
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属等に属する宿主ベクター系の確立されている酵母。
【0047】
ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する宿主ベクター系の確立されている菌類。
【0048】
以下に、好ましい宿主微生物、該微生物における好ましい形質転換の手法、ベクター、プロモーター、ターミネーターを例示するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0049】
エシェリヒア属、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとしては、pBR、pUC系プラスミド等が挙げられ、lac(β-ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PR、T7ファージ等に由来するプロモーター等が挙げられる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーター等が挙げられる。これらのプロモーターのうち、発現効率を向上させる目的で、遺伝子発現を誘導可能なプロモーターを使用することもできる。例えば、上記lacプロモーターの場合には、ラクトースやイソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)等の誘導発現物質を添加することにより遺伝子発現を誘導することができる。
【0050】
バチルス属においては、ベクターとしては、pUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等を挙げることができ、また、染色体に組み込むこともできる。プロモーター及びターミネーターとしては、アルカリプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、α-アミラーゼ等の酵素遺伝子のプロモーターやターミネーター等が利用できる。
【0051】
シュードモナス属においては、ベクターとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)等で確立されている一般的な宿主ベクター系や、トルエン化合物の分解に関与するプラスミド、TOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240(Gene,26,273-82(1983))等を挙げることができる。
【0052】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevi
bacterium lactofermentum)においては、ベクターとしては、pAJ43(Gene 39,281(1985))等のプラスミドベクターを挙げることができる。プロモーター及びターミネーターとしては、大腸菌で使用されている各種プロモーター及びターミネーターが利用可能である。
【0053】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、ベクターとしては、pCS11(特開昭57-183799号公報)、pCB101(Mol.Gen.Genet.196,175(1984))等のプラスミドベクターが挙げられる。
【0054】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、ベクターとしては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミド等が挙げられる。また、アルコール脱水素酵素、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、酸性フォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、エノラーゼといった各種酵素遺伝子のプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0055】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、ベクターとしては、Mol.Cell.Biol.6,80(1986)に記載のシゾサッカロマイセス・ポンベ由来のプラスミドベクター等を挙げることができる。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0056】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae)等がカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体への組み込みが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trendsin Biotechnology 7,283-287(1989))。
【0057】
また、宿主細胞としては、例えば、昆虫(例えば、蚕)等の動物(Nature 315,592-594(1985));菜種、トウモロコシ、ジャガイモ等の植物が挙げられる。また、大腸菌無細胞抽出液や小麦胚芽等の無細胞タンパク質合成系を用いた系が確立されており、好適に利用できる。
また、前記したもの以外にも、様々な宿主・ベクター系が確立されており、それらを適宜使用することができる。
【0058】
本明細書において、「L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞の処理物」とは、L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を培養し、当該生物若しくは細胞を、1)有機溶媒や界面活性剤等により処理したもの、2)凍結乾燥したもの、3)担体などに固定化したもの、4)物理的又は酵素的に破壊したもの、又は5)前述1)~4)の処理物から酵素画分を粗精製物又は精製物として取り出したものを意味する。
【0059】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤であるTween 20、Triton X-100、Brij 35、Dodecyl-β-D-maltoside、Nonidet P-40、Octyl-β-D-Glucoside、両イオン性界面活性剤である3-(3-Cholamidopropyl) dimethylammon
io-1-propanesulfonate(CHAPS)、陰イオン性界面活性剤であるSodium Dodecyl Sulfate(SDS)等が挙げられる。
【0060】
担体等への固定化の具体例としては、該微生物若しくは細胞中の酵素画分をポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル、イオン交換樹脂等に代表される担体に固定化する手法等が挙げられる。
物理的な破壊方法例としては、超音波処理や、フレンチプレスによる高圧処理、ホモジナイザー、ダイノミル等を用いた機械的摩砕処理等が挙げられる。
酵素的な破壊方法例としては、リゾチウム等の細胞壁溶解活性をもつ酵素によって処理する方法が挙げられる。
【0061】
酵素精製の取出し方法としては通常の酵素の単離精製方法を用いることができる。例えば、前述の手法等により得られた抽出液から、遠心分離、限外濾過、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、各種樹脂を用いたクロマトグラフィー法(陰イオン交換クロマトグラフィー法、陽イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法)、そして等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用いることで精製物を得ることができる。
【0062】
本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液としては、例えば、該微生物若しくは細胞と液体培地との懸濁液、該微生物若しくは細胞が分泌発現型微生物又は細胞である場合は該微生物若しくは細胞を遠心分離等で除去した上清やその濃縮物等が挙げられる。
【0063】
本明細書において、「L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液」とは、1)微生物若しくは細胞の培養液、2)微生物若しくは細胞の培養液を有機溶媒や界面活性剤等により処理した培養液、3)微生物若しくは細胞の細胞膜を物理的に又は酵素的に破砕してある培養液を意味する。
有機溶媒、界面活性剤、物理的又は酵素的な破砕方法としては、前述に記載の資材や手法を用いることができる。
【0064】
本発明のヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法は、2-オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下で、基質であるL-ピペコリン酸に、前記L-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させて、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成させることを特徴とする。
【0065】
本発明においては、基質であるL-ピペコリン酸としては、純粋なL-ピペコリン酸を使用することができるが、L-プロリンを微量含むものであってもよい。L-プロリンの含有量は、通常10%(w/w)以下、好ましくは1%(w/w)以下、特に好ましくは0.1%(w/w)以下である。
【0066】
また、基質であるL-ピペコリン酸としては、市販のL-ピペコリン酸を使用することができるが、酵素・菌体等を用いて生物学的な方法により製造されたものを使用することもできる。生物学的な方法により製造されたL-ピペコリン酸には、例えば、酵素・菌体の調製時に使用した培地等からの持ち込み成分としてL-プロリンが混入する場合があるが、本発明においてはL-ピペコリン酸は上記含有量のL-プロリンが混入しているものでもよい。
【0067】
L-ピペコリン酸を生物学的な方法により製造する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(i)L-リジン及び/又はDL-リジンに、
(i-1)L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応させて、又は
(i-2)D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びD-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素とアミノ酸ラセマーゼとを反応させて、
3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを作用させてL-ピペコリン酸を製造する。
【0068】
(ii)L-リジンに、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ及びL-リジン 6-アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応させて2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼと作用させてL-ピペコリン酸を製造する。
【0069】
(iii)L-リジンに、リジンシクロデアミナーゼを作用させてL-ピペコリン酸を製造する。
【0070】
本発明におけるL-ピペコリン酸を製造する第1の方法は、以下に示すとおりである。(i)L-リジン及び/又はDL-リジンに、
(i-1)L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応させて、又は
(i-2)D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びD-アミノ酸アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素とアミノ酸ラセマーゼとを反応させて、
3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを作用させることを特徴とするL-ピペコリン酸の製造方法。
以下、スキームを例示して説明する。
【0071】
【0072】
スキーム(i-1)は、L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素とN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)を使用する場合である。
【0073】
まず、L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸ト
ランスフェラーゼよりなる群から選ばれる酵素により、化合物(a)(L-リジン)を化合物(b)に変換する。化合物(b)は、自発的に化合物(c)(3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸)に変換される。そして、化合物(c)は、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH、別名DpkA)により、化合物(d)(L-ピペコリン酸)に変換される。
【0074】
ここで、L-アミノ酸オキシダーゼとしては、L-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、J. Biochem., 2015, 157 (4), pp.201に記載されているタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0075】
L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとしては、L-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Nature, 1966, 211,
pp.854に記載されているタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0076】
L-アミノ酸トランスフェラーゼ(L-アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)としてはL-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Eur. J. Biochem., 1998, 254, pp.347に記載されているアミノ酸配列を含むタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0077】
N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとしては、3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸をL-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、J. Biol. Chem. 2005, 280(49), pp.40875に記載されているDpkA、又はDpkAと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0078】
【0079】
スキーム(i-2)は、D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びD-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素、アミノ酸ラセマーゼ、及びN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)を使用する場合である。
【0080】
まず、アミノ酸ラセマーゼにより、化合物(a)(L-リジン)をD体の化合物(a')(D-リジン)に変換し、これをD-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びD-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる酵素により、化合物(b)に変換する。化合物(b)は、自発的に化合物(c)に変換される。そして、化合物(c)は、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)により、化合物(d)(L-ピペコリン酸)に変換される。
【0081】
D-アミノ酸オキシダーゼとしては、D-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Biochemistry, 2005, 70, pp.40に記載されているアミノ酸配列を含むタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0082】
D-アミノ酸デヒドロゲナーゼは、D-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Microbiology, 2010, 156(Pt 1), pp.60及びProc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 2009, 106, pp.906に記載されているDauA、又はDauAと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0083】
D-アミノ酸トランスフェラーゼ(D-アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)は、D-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Protein Eng, 1998, 11, pp.53に記載されているD-AAT、又はD-AATと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0084】
アミノ酸ラセマーゼ(LysR)としては、L-リジンをD-リジンに変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Appl. Microbiol. Biotechnol. 2015, 99, pp.5045に記載されているLysR、又はLysRと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0085】
N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとしては、3,4,5,6-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸をL-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、J. Biol. Chem. 2005, 280(49), pp.40875に記載されているDpkA、又はDpkAと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0086】
スキーム(i-1)及び(i-2)の反応は、各酵素反応を別々に行ってもよいが、同一反応系で連続的に行うことが好ましい。
同一反応系で連続的に行う場合は、L-リジン、並びに各酵素をコードする遺伝子群で形質転換された細胞、該形質転換体の調製物及び/又は該形質転換体を培養して得られた培養液を含有する水性媒体中、あるいは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行うことが好ましい。
なお、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)は、補酵素としてNAD(P)Hが必要であるため、NMAAHの反応で生じるNAD(P)+をNAD(P)Hに再生する系を共存させることが好ましい。
再生方法としては、1)宿主微生物自体のNAD(P)+還元能を利用する方法、2)NAD(P)+からNAD(P)Hを生成する能力を有する微生物やその調製物、又は、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素も
しくは有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などのNAD(P)Hの再生に利用可能な酵素(再生酵素類)を反応系内に添加する方法、3)NAD(P)Hの再生に利用可能な酵素である上記再生酵素類の遺伝子を本発明のDNAとともに宿主に導入する方法等が挙げられる。
このうち、上記1)の再生方法においては、反応系にグルコース、エタノール、ギ酸などの化合物を添加することが好ましい。これにより、これらの化合物を宿主に代謝させ、その過程で生じるNAD(P)Hを反応に使用させることができる。
上記2)の再生方法においては、再生酵素類として、当該再生酵素類を含む微生物、該微生物菌体をアセトン処理したもの、凍結乾燥処理したもの、及び物理的又は酵素的に破砕したもの等の菌体調製物を用いてもよい。また、菌体調製物から該酵素画分を粗精製物あるいは精製物として取り出したものや、それらをポリアクリルアミドゲル又はカラギーナンゲル等の担体に固定化したもの等を用いてもよい。さらに、市販の酵素を用いてもよい。
上記2)及び3)の再生方法においては、補酵素還元能を発揮させるために、再生酵素の基質となる化合物を添加することが好ましい。例えば、グルコースデヒドロゲナーゼを利用する場合はグルコース、ギ酸デヒドロゲナーゼを利用する場合はギ酸、アルコールデヒドロゲナーゼを利用する場合はエタノール又はイソプロパノールなどを添加することが好ましい。
【0087】
各反応を触媒する酵素を含む細胞は、本来的にこれらの酵素を有する微生物を用いてもよいが、各酵素をコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。スキーム(i-1)の場合は、L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素及びN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)をそれぞれコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。また、スキーム(i-2)の場合は、D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ及びD-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素、アミノ酸ラセマーゼ及びN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)をそれぞれコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。
【0088】
また、これらのDNAはそれぞれ染色体に組み込まれてもよいし、単一のベクター中にこれらのDNAを導入して宿主を形質転換してもよいし、これらのDNAをそれぞれ別個にベクターに導入した後に宿主を形質転換してもよい。
なお、微生物等の宿主細胞の形質転換方法、宿主の種類等は、前記したL-ピペコリン酸水酸化酵素の場合と同様である。
【0089】
本発明のL-リジンからL-ピペコリン酸を製造する第2の方法は、以下に示すとおりである。
(ii)L-リジンに、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ及びL-リジン 6-アミノトランスフェラーゼよりなる群から選ばれる1以上の酵素を反応させて、2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸を生成させた後、ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼと作用させることを特徴とするL-ピペコリン酸の製造方法。
以下、スキームを例示して説明する。
【0090】
【0091】
まず、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ及びL-リジン 6-トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素により、化合物(a)(L-リジン)を化合物(b')に変換する。化合物(b')は、自発的に化合物(c') (2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸)に変換される。そして、化合物(c')は、ピロリン-5-カルボン酸(P5c)レダクターゼにより化合物(d)(L-ピペコリン酸)に変換される。
【0092】
L-リジン 6-オキシダーゼは、L-リジンの6位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Biochim. Biophys. Acta.,2006, 1764 pp.1577に記載されているLodA、又はLodAと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0093】
L-リジン 6-デヒドロゲナーゼは、L-リジンの6位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、J. Biochem., 105, pp.1002-1008 (1989)に記載されているアミノ酸配列を含むタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0094】
L-リジン 6-トランスフェラーゼ(リジン-6-アミノトランスフェラーゼ)は、ヒドロキシ-L-リジンの6位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、国際公開公報WO2001/048216号に記載されているアミノ酸配列を含むタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0095】
ピロリン-5-カルボン酸(P5C)レダクターゼは、2,3,4,5-テトラヒドロピリジン-2-カルボン酸をL-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、国際公開公報WO2001/048216号に記載されているアミノ酸配列を含むタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0096】
ピペコリン酸の製造方法(ii)の反応は、各酵素反応を別々に行ってもよいが、同一反応系で連続的に行うことが好ましい。特に、各反応を触媒する酵素を含む細胞をL-リジンと反応させることにより行うことが好ましい。各反応を触媒する酵素を含む細胞は、
本来的にこれらの酵素を有する細胞を用いてもよいが、各酵素をコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましく、具体的には、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ及びL-リジン 6-トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素とピロリン-5-カルボン酸(P5C)レダクターゼをそれぞれコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。
なお、微生物等の宿主細胞の形質転換方法、宿主の種類等は、前記したL-ピペコリン酸水酸化酵素の場合と同様である。
【0097】
第2の方法(ii)を同一反応系で連続的に行う場合は、L-リジン、各酵素をコードする遺伝子群で形質転換された細胞、該形質転換体の調製物及び/又は該形質転換体を培養して得られた培養液を含有する水性媒体中、あるいは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行うことが好ましい。
【0098】
本発明のL-リジンからL-ピペコリン酸を製造する第3の方法は以下に示すとおりである。
(iii)L-リジンに、リジンシクロデアミナーゼを作用させることを特徴とするL-ピペコリン酸の製造方法。
【0099】
リジンシクロデアミナーゼは、L-リジンをL-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Biochimie 2007, 89, pp.591に記載されているアミノ酸配列を含むタンパク質、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0100】
リジンシクロデアミナーゼによる反応は、リジンシクロデアミナーゼを含む細胞をL-リジンと反応させることにより行うことが好ましい。リジンシクロデアミナーゼを含む微生物は本来的にこれらの酵素を有する細胞を用いてもよいが、リジンシクロデアミナーゼをコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。
なお、微生物等の宿主細胞の形質転換方法、宿主の種類等は、前記したL-ピペコリン酸水酸化酵素の場合と同様である。
【0101】
リジンシクロデアミナーゼによるL-リジンのL-ピペコリン酸への変換反応を行う場合は、L-リジン、リジンシクロデアミナーゼをコードするDNAで形質転換された細胞、該形質転換体の調製物及び/又は該形質転換体を培養して得られた培養液を含有する水性媒体中、あるいは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行うことが好ましい。
【0102】
本発明においては、L-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液が、L-プロリンを含有していてもよい。この場合、L-プロリンの含有量は、10%(w/w)以下、好ましくは1%(w/w)以下、特に好ましくは0.1%(w/w)以下である。
【0103】
また、L-ピペコリン酸水酸化酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞が、培養液又は反応系中の成分を原料としてL-プロリンを生産する能力を有する微生物若しくは細胞であってもよい。
【0104】
また、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する際は、溶媒を使用することができる。溶媒としては、特に限定されないが、水性溶媒中、又は水性溶媒と有機溶媒との混合溶媒中で行うことが好ましい。
水性媒体としては、例えば、水又は緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、例えば、リ
ン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が挙げられる。
また、水性溶媒と有機溶媒との混合溶媒に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド等、反応基質の溶解度が高いものを使用することができ、また、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン等、反応副産物の除去等に効果のあるものを使用することもできる。
【0105】
溶媒の量は、特に限定されないが、基質であるL-ピペコリン酸に対して、通常0.01%w/v~90%w/v、好ましくは0.1%w/v~10%w/vである。
【0106】
反応系中における、基質であるL-ピペコリン酸の濃度は、通常0.01%w/v~90%w/v、好ましくは0.1%w/v~30%w/vの範囲である。L-ピペコリン酸は、反応開始時に一括して反応系に添加してもよいが、酵素の基質阻害があった場合の影響を低減する、生成物の蓄積濃度を向上させる等の観点から、反応系に連続的又は間欠的に添加することが望ましい。
【0107】
2-オキソグルタル酸の量は、基質であるL-ピペコリン酸と等モル又はそれ以上、好ましくは等モル~1.2倍モルの範囲で添加する。2-オキソグルタル酸は、反応開始時に一括して反応系添加してもよいが、酵素への阻害作用があった場合の影響を低減する、生成物の蓄積濃度を向上させる等の観点から、反応系に連続的又は間欠的に添加することが望ましい。
【0108】
また、2-オキソグルタル酸の代わりに、宿主が代謝可能なグルコース等の安価な化合物を反応系に添加し、宿主に代謝させ、その過程で生じる2-オキソグルタル酸を反応系に存在させてもよい。
【0109】
反応系中の2価の鉄イオンの濃度は、通常、L-ピペコリン酸1モルに対し0.0001モル~0.5モル、好ましくは0.001モル~0.1モルである。
【0110】
2価の鉄イオンは、通常、硫酸鉄、塩化鉄、クエン酸鉄等として、反応開始時に一括して反応系に添加することができるが、反応中に、添加した2価の鉄イオンが3価に酸化されたり、沈殿を形成して減少してしまったりした場合には、所望の濃度になるように追添加することも効果的である。
【0111】
また、本発明のL-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液自体に既に所望の濃度の2価の鉄イオンが含まれている場合は、必ずしも鉄イオンを添加しなくてもよい。
【0112】
反応は、通常4℃~60℃、好ましくは15℃~45℃、特に好ましくは20℃~40℃の反応温度で、通常pH3~11、好ましくはpH5~8で行われる。反応時間は、通常1時間~150時間程度である。
【0113】
L-ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液の量は、例えば、微生物若しくは細胞を用いる場合は、反応系中の微生物若しくは細胞の濃度が、湿菌体重で、通常、0.1%w/v~50%w/v、好ましくは1%w/v~20%w/vである。また、該処理物や培養液を用いる場合には、酵素の比能力を求め、反応系中の微生物若しくは細胞の濃度が前記濃度になるように使用する。
【0114】
生成したヒドロキシ-L-ピペコリン酸は、反応終了後、反応系中の菌体やタンパク質等を遠心分離、膜処理等により分離した後に、1-ブタノール、tert-ブタノール等の有機溶媒による抽出;蒸留;イオン交換樹脂、シリカゲル等を用いたカラムクロマトグラフィー;等電点における晶析;一塩酸塩、二塩酸塩、カルシウム塩等による晶析等を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0116】
<実施例1>L-ピペコリン酸水酸化酵素遺伝子のクローニング
ミクロモノスポラ・チョコリエンシス(Micromonospora chokoriensis)株由来のアスパルチルベータ水酸化酵素(aspartyl beta-hydroxylase)としてアノテーションされているアミノ酸水酸化酵素McPH(GenBank Accession No. WP_030487089、配列番号2)をコードする遺伝子を、大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列(mcph_OE、配列番号1)として人工合成した。遺伝子はpJExpress411(DNA2.0)に挿入されたプラスミドpJ411McPHとして構築された。
【0117】
同様に、L-ピペコリン酸5位水酸化活性を示す酵素遺伝子4種のクローニングを実施した。
セグニリパラス・ルゴサス(Segniliparus rugosus)ATCC BAA-974 株由来のL-ピペコリン酸 cis‐5-ヒドロキシラーゼSruPH(GenBank Accession No. EFV12517、配列番号4)、カテヌリスポラ・アシジフィラ(Catenulispora acidiphila)NBRC102108株由来のL-プロリン cis-4-ヒドロキシラーゼCaPH(GenBank Accession No. WP_012787640、配列番号6)、及びキセノラブダス・ドーセティエ(Xenorhabdus doucetiae)FRM16株由来のL-プロリン cis-4-ヒドロキシラーゼXdPH(GenBank Accession No. CDG16639、配列番号8)をコードする、大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列であるsruph_OE(配列番号3)、caph_OE(配列番号5)、及びxdph_OE(配列番号7)を人工合成した。
それぞれpJexpress411(DNA2.0社製)に挿入されたプラスミドとして得られ、pJ411SruPH、pJ411CaPH、及びpJ411XdPHと命名した。
【0118】
シノメゾビウム・メリロチ(Sinorhizobium meliloti)1021株由来のL-プロリン cis-4-ヒドロキシラーゼSmPH(GenBank Accession No. CAC47686、配列番号10)をコードする、大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列であるsmph_OE(配列番号9)を人工合成し、pJexpress401に挿入されたプラスミドpJ401SmPHを作製した。smph_OEに対してはプライマーsmph_f(配列番号21)とsmph_r(配列番号22)を合成し、それらを用いてプラスミドDNAを鋳型として常法に従ってPCR反応を行い、約1.0kbpのDNA断片を得た。得られたDNA断片を制限酵素NdeI、HindIIIにより消化し、NdeI、HindIIIにより消化したpET24a(Novagen)に常法に従ってライゲーションすることで、pET24SmPHを得た。
コルディア・チェジュドネンシス(Kordia jejudonensis)株由来の推定上のタンパク質(hypothetical protein)としてアノテーションされているアミノ酸水酸化酵素KjPH(GenBank Accession N
o. WP_046758372、配列番号18)をコードする遺伝子を、大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列(kjph_OE、配列番号17)として人工合成した。遺伝子はpJExpress411(DNA2.0)に挿入されたプラスミドpJ411KjPHとして構築された。
【0119】
また、L-ピペコリン酸4位水酸化活性を示す酵素遺伝子3種のクローニングも実施した。
コレトトリカム・グロエオスポリオイデス(Colletotrichum gloeosporioides)Nara qc5株由来のL-ピペコリン酸 trans-4-ヒドロキシラーゼCgPH(GenBank Accession No. ELA34460、配列番号12)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)Wisconsin 54-1255株由来のL-ピペコリン酸 trans-4-ヒドロキシラーゼPcPH(GenBank Accession No. XP_002558179、配列番号14)、及びジベレラ・ゼアエ(Gibberella zeae)PH-1株由来のL-ピペコリン酸 trans-4-ヒドロキシラーゼGzPH(GenBank Accession No. XP_383389、配列番号16)の遺伝子をコードする大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列である、cgph_OE(配列番号11)、pcph_OE(配列番号13)、及びgzph_OE(配列番号15)を人工合成した。
【0120】
表1に、遺伝子クローニングを実施した上記L-ピペコリン酸水酸化酵素について示した。
【0121】
【0122】
<実施例2>L-ピペコリン酸水酸化酵素遺伝子発現菌体の取得
実施例1で得られた各プラスミドを用いて、大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)(インビトロジェン製)を常法に従い形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pJ411McPH、BL21(DE3)/pJ411SruPH、BL21(DE3)/pJ411CaPH、BL21(DE3)/pJ411XdPH、BL21(DE3)/pET24SmPH、BL21(DE3)/pJ411CgPH、BL21(DE3)/pJ411PcPH、BL21(DE3)/pJ411GzPH、及びBL21(DE3)/pJ411KjPHを得た。
【0123】
導入した遺伝子を発現する菌体を得るために、各組換え大腸菌についてカナマイシン、及びlacプロモーター誘導物質を含む液体LB培地を用いて、30℃で約5時間培養し、その後さらに18℃で約30時間培養した後に集菌した。
得られた組換え大腸菌0.6mLを遠心分離により集菌し、pHが6である50mmol/L MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液0.5mLに懸濁した。懸濁液を入れた容器を氷水中に浸して超音波破砕処理を行った後、12,000rpmの回転数で遠心分離した。得られた上清は、実施例3において、酵素液として用いた。
【0124】
<実施例3>L-ピペコリン酸水酸化酵素のL-ピペコリン酸及びL-プロリンに対する触媒反応効率(kcat/Km)の確認
何種類かのL-ピペコリン酸水酸化酵素について、L-ピペコリン酸及びL-プロリンに対する触媒反応効率の確認を行った。
プラスチックチューブ内に、0.3mmol/L~50mmol/LのL-ピペコリン酸、20mmol/L 2-オキソグルタル酸、1mmol/L L-アスコルビン酸、0.5mmol/L 硫酸鉄(II)、及び実施例2で得られた各酵素液を約2mg/mLのタンパク質濃度になるように添加し、得られた反応液0.2mLを、30℃で25分間振とうさせた。その後、1mol/L塩酸を0.05mL添加して反応を停止させた。
L-プロリンを基質として用いた場合についても、上記L-ピペコリン酸の場合と同じ条件で反応を行った。
【0125】
ついで、反応液を1-fluoro-2,4-dinitrophenyl-5-L-alaninamide(FDAA)(東京化成工業社製)を用いて、以下の方法により、各反応液中に含まれるヒドロキシ-L-ピペコリン酸又はヒドロキシ-L-プロリンをFDAA誘導体化した。
【0126】
反応を停止させた反応液に、1mol/L水酸化ナトリウムを0.05mL添加して中和した。その溶液を12,000rpmの回転数で遠心分離して、得られた上清15μLに、15μLの0.5mol/Lホウ酸緩衝液(pH9)を加えた後、さらに20mmol/LのFDAAアセトン溶液30μLを加え、40℃で1時間保温した。その後、1mol/L塩酸を10μL加えて誘導体化反応を停止させ、メタノール80μLを加えて希釈し、それを12,000rpmの回転数で遠心分離して、得られた上清をFDAA誘導体化液とした。
【0127】
生成したヒドロキシ-L-ピペコリン酸又はヒドロキシ-L-プロリンの量をUPLC-MS(Waters社製)により分析した。分析条件を表2~表4に示す。
各酵素液が示した(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性又は(4R)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性(U/mg)は、各水酸化酵素量(mg)当りのユニット(U)で定義した。ここでの1ユニットは、1分間に1μmolのヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成する能力を表す。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
水酸化酵素量は以下のようにして定量した。
実施例2で得られた各酵素液を、注入する各レーン当りの総タンパク質量が5μgずつになるように調製してポリアクリルアミド電気泳動を行った。得られた泳動図を画像解析ソフトウェアImage Lab3.0(BIO-RAD社製)を用いて解析し、水酸化酵素の含有量を定量した。定量のための標準サンプルとしてCarbonic anhydrase(SIGMA-Aldrich社製)を用い、それを200ng、400ng及び600ng供した際の各バンドのシグナル値を元に、目的の水酸化酵素のシグナル値から目的酵素の含有量を算出した。
【0132】
酵素の触媒反応効率は、ミカエリス-メンテンの速度式に基づいて算出した。
まず、0.3mmol/L~50mmol/Lの範囲で4点~6点実施した各L-ピペコリン酸濃度(mmol/L)の逆数をx軸に、各L-ピペコリン酸濃度における各水酸化酵素量(mg)あたりのヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性(U/mg)の逆数をy軸にプロットした(
図1)。
図1においては、x軸との切片の逆数に-1を掛けた数値がkm(mmol/L)を示し、y軸との切片の逆数が最大速度であるVmax(U/mg)を示すことが知られている。
酵素1分子あたりの触媒能kcatはVmaxと酵素の分子量から算出できる。得られたkcatとkmから酵素の触媒能の指標となる触媒反応効率(kcat/km)を算出した結果を表5に示す。
【0133】
L-プロリンを基質として用いた場合、水酸化酵素CaPHを用いた反応液からは、多量のヒドロキシ-L-プロリンが検出された。また、水酸化酵素SruPH、XdPH、SmPH、及びKjPHの反応液からは、少量のヒドロキシ-L-プロリンが検出された。一方、水酸化酵素McPHの反応液からは、ヒドロキシ-L-プロリンは検出されなかった。このことから、McPHは、プロリンへの反応性が極めて低い5-ヒドロキシピペコリン酸生成活性を持つ新規な酵素であると考えられる。この性質は公知の情報からは推測しがたいものである。
【0134】
また、水酸化酵素CgPH、PcPH、GzPHの反応液からも、ヒドロキシ-L-プロリンは検出されなかった。このことから、これらの水酸化酵素は、プロリンへの反応性が極めて低い4-ヒドロキシピペコリン酸生成活性を持つ新規な酵素であることが分かった。この性質は公知の情報からは推測しがたいものである。
【0135】
【0136】
<実施例4>L-ピペコリン酸5位水酸化酵素の反応性の比較
L-ピペコリン酸5位水酸化酵素について、L-プロリンとL-ピペコリン酸に対する反応性の比較を行った。
プラスチックチューブ内に、10mmol/LのL-ピペコリン酸又は10mmol/LのL-プロリン、20mmol/L 2-オキソグルタル酸、1mmol/L L-アスコルビン酸、0.5mmol/L 硫酸鉄、及び実施例2で得られた各酵素液を約2mg/mLの総タンパク質濃度になるように添加し、得られた反応液0.2mLを、30℃で30分間振とうした。生成したヒドロキシ-L-ピペコリン酸及びヒドロキシ-L-プ
ロリンの量を、実施例3と同様にしてFDAA誘導体化法によって定量した。生成物の検出は、波長340nmの吸収を指標にした。
【0137】
反応液をFDAA誘導体化した溶液をLC分析したクロマトグラムを
図2に示す。活性値は総タンパク質量当りの生成物量(U/g-protein)として評価し、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性を100(%)とした場合の、ヒドロキシ-L-プロリン生成活性(相対活性)を表6に示す。
【0138】
図2及び表6から明らかなように、水酸化酵素CaPHの反応液からは、多量のヒドロキシ-L-プロリンが検出された。また、水酸化酵素SruPH、XdPH及びSmPHの反応液からは、少量のヒドロキシ-L-プロリンが検出された。水酸化酵素McPHの反応液からはヒドロキシ-L-プロリンは検出されなかった。
このことからMcPHはプロリンへの反応性が極めて低く、且つ、高い5-ヒドロキシピペコリン酸生成活性を持つ新規な酵素であると考えられる。この性質は公知の情報からは推測しがたいものである。
【0139】
また、水酸化酵素SruPH、XdPH及びSmPHは、プロリンへの反応性が低く、且つ、高い5-ヒドロキシピペコリン酸生成活性を持つ酵素であることが分かった。この性質は公知の情報からは推測しがたいものである。
【0140】
【0141】
<実施例5>ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造
実施例2で得られた8種の組換え大腸菌BL21(DE3)/pJ411McPH、BL21(DE3)/pJ411SruPH、BL21(DE3)/pJ411CaPH、BL21(DE3)/pJ411XdPH、BL21(DE3)/pET24SmPH、BL21(DE3)/pJ411CgPH、BL21(DE3)/pJ411PcPH及びBL21(DE3)/pJ411GzPHを、カナマイシン硫酸塩(25μg/mL)を含む種培養用M9液体培地(33.9g/L Na2HPO4、15g/L KH2PO4、2.5g/L塩化ナトリウム、5g/L塩化アンモニウム、10g/Lカザミノ酸、0.1mmol/L塩化カルシウム、0.1mmol/L硫酸鉄、4g/Lグルコース、0.001mmol/L塩化マグネシウム)に接種し、30℃で24時間、200rpmの条件で振とう培養した。
【0142】
この培養液40μLをカナマイシン硫酸塩(25μg/mL)とOvernight Express Autoinduction Systems(メルク社)を含む本培
養用M9液体培地(50.9g/L Na2HPO4、22.5g/L KH2PO4、3.8g/L塩化ナトリウム、7.5g/L塩化アンモニウム、10g/Lカザミノ酸、0.1mmol/L塩化カルシウム、0.1mmol/L硫酸鉄、20mmol/L L-ピペコリン酸、12.5g/Lグリセロール)に添加した後、30℃で120時間、200rpmの条件で振とう培養した。
【0143】
培養開始後48時間、64時間及び120時間において、培養液の遠心上清を回収して、分析用サンプルとし、LC分析及びMS分析を行った。
【0144】
分析用サンプルは、FDAA(東京化成工業社製)を用いて以下の方法によりFDAA化した。
分析用サンプル液の遠心上清3μLに、27μLの0.5mol/Lホウ酸緩衝液(pH9)を加えた後、20mmol/LのFDAAアセトン溶液30μLを加え、40℃で1時間保温した。その後、1mol/L塩酸を10μL加えて反応を停止させ、メタノール80μLを加えて希釈し、それを12,000rpmの回転数で遠心分離し、得られた上清をFDAA化液とした。
得られたFDAA化液を、表2に記載のLC/MSの条件で、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸及びヒドロキシ-L-プロリンの量を分析した。得られた結果を
図3及び
図4に示す。
【0145】
図3及び表7は、(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成酵素を用いた場合の生産性に関する結果である。
図3は、(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の蓄積量の経時変化を示した図である。表7は、120時間後の各成分の蓄積量を確認した結果である。120時間の培養により、水酸化酵素SruPHとMcPHはほとんどの基質を(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換できたことが分かる。
【0146】
【0147】
実施例3においてプロリンへの反応性が確認された水酸化酵素SruPH、XdPH及びSmPHは、(4S)-ヒドロキシ-L-プロリンの蓄積が確認された。McPHは、(4S)-ヒドロキシ-L-プロリンの蓄積は確認されなかった。水酸化酵素CaPHについても(4S)-ヒドロキシ-L-プロリンの蓄積が確認されていないが、(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の蓄積量も少ないことから、これは、水酸化酵素CaPHの水酸化酵素としての能力が低いことに起因すると考えられる。
【0148】
これらのことから、水酸化酵素McPHは、(5S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の高い生産能力があり、かつ精製時に除去が困難な(4S)-ヒドロキシ-L-プロリン等の副生成物を蓄積させない特性を持つ、非常に実用的な水酸化酵素であると考えられる。
【0149】
図4及び表8は、(4S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成酵素を用いた場合の生産性に関する結果である。
図4は、(4S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の蓄積量の経時変化を示した図である。表8は、64時間後の各成分の蓄積量を確認した結果である。64時間の培養により、水酸化酵素CgPH、PcPH及びGzPHは大部分の基質を(4S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換できたことが分かる。また、(4R)-ヒドロキシ-L-プロリンの蓄積は確認されなかった。
【0150】
これらのことから、水酸化酵素CgPH、PcPH及びGzPHは、(4S)-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の高い生産能力があり、かつ精製時に除去が困難な(4R)-ヒドロキシ-L-プロリン等の副生成物を蓄積させない特性を持つ、非常に実用的な水酸化酵素であると考えられる。
【0151】
【0152】
<実施例6>変異導入による水酸化酵素McPH遺伝子の改変
実施例1で得たプラスミドpJ411McPHを鋳型として、配列表の配列番号23に示すプライマー(H4Q-f)と配列番号24に示すプライマー(H4Q-r)を用いて、QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit (ストラタジーン社製)によりアミノ酸番号4番目のヒスチジンをグルタミンに置換した変異体(McPHm1)をコードするプラスミドを構築した。
前述と同様に、配列番号25に示すプライマー(F5Y-f)と配列番号26に示すプライマー(F5Y-r)を用いて5番目のフェニルアラニンをチロシンに(McPHm2)、配列番号27に示すプライマー(C23A-f)と配列番号28に示すプライマー(C23A-r)を用いて23番目のシステインをアラニンに(McPHm3)、配列番号29に示すプライマー(C44A-f)と配列番号30に示すプライマー(C44A-r)を用いて44番目のシステインをアラニンに(McPHm4)、配列番号31に示すプライマー(L97R-f)と配列番号32に示すプライマー(L97R-r)を用いて97番目のロイシンをアルギニンに(McPHm5)、配列番号33に示すプライマー(V98A-f)と配列番号34に示すプライマー(V98A-r)を用いて98番目のバリンをアラニンに(McPHm6)、配列番号35に示すプライマー(D116G-f)と配列番号36に示すプライマー(D116G-r)を用いて116番目のアスパラギン酸をグリシンに(McPHm7)、配列番号37に示すプライマー(C137A-f)と配列番号38に示すプライマー(C137A-r)を用いて137番目のシステインをアラニンに(McPHm8)、そして、配列番号39に示すプライマー(D282E-f)と配列番号40に示すプライマー(D282E-r)を用いて282番目のアスパラギン酸をグルタミン酸に(McPHm9)それぞれ置換するように設計したプラスミドを構築した。
得られた各プラスミドを用いて、大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)(インビトロジェン製)を常法に従い形質転換し、各変異体を発現する組換え大腸菌を取得した。得られた組換え大腸菌から、実施例2に記載の方法に従って酵素液を調製し、実施例4に記載の方法に従って、L-ピペコリン酸5位水酸化活性を評価した。活性値は総タンパク質量当りの生成物量(U/g-protein)として評価し、変異を入れていない野生型酵素(McPH)の5-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性
を100(%)とした場合の、各変異体の活性値(相対活性)を表9に示した。
【0153】
【0154】
さらに、活性向上に有効であったMcPHm2、McPHm3、そしてMcPHm9については、各変異箇所を組合せた効果を確認した。5番目のフェニルアラニンをチロシンに、23番目のシステインをアラニンに置換した2重変異体(McPHm10)を発現するプラスミド、さらに282番目のアスパラギン酸をグルタミン酸に置換した3重変異体を発現するプラスミドを構築した。そして、前述の方法に従って組換え大腸菌を作成し、酵素液を用いて5-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸生成活性を評価した。その結果を表10に示した。3重変異体であるMcPHm11(配列番号20、同アミノ酸配列をコードする遺伝子を配列番号19に示す)は、野生型より3倍以上も高い活性を示した。
【0155】
【0156】
McPHm10とMcPHm11に関しては、実施例4に記載の方法に準じて、基質としてL-プロリンを用いた場合の水酸化活性を確認した。その結果、いずれも実質的にプロリンへの活性が0であることを確認した。
【配列表】