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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】光学素子及び光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230206BHJP
   G02B 5/00 20060101ALN20230206BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022015594
(22)【出願日】2022-02-03
【審査請求日】2022-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599045936
【氏名又は名称】株式会社光学技研
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】戸田 伸一郎
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-127649(JP,A)
【文献】特表2010-508511(JP,A)
【文献】特開2001-249348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0153843(US,A1)
【文献】特許第6876188(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 - 5/136
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光学部材と、第2の光学部材と、第3の光学部材と、を備え、
前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材は、第1の等方性材料で形成され、光線が透過する面が多角形であり、
前記第3の光学部材は、第2の等方性材料で形成された板状部材であり、
前記第3の光学部材が、前記第1の光学部材と前記第2の光学部材の間において、前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材とオプティカル・コンタクトで接合された状態であり、
前記オプティカル・コンタクトで接合された面における前記第3の光学部材の外周は、前記多角形の外周の内側に配置されており、かつ、曲線状又は鈍角を備える形状であり、
前記オプティカル・コンタクトで接合された面が、前記光線が透過する面であり、
前記オプティカル・コンタクトで接合された面を透過した前記光線の偏光状態が変化して出射される、偏光を制御する光学素子。
【請求項2】
フレネルロムである請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1の等方性材料と前記第2の等方性材料が同一の材料である請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第3の光学部材が円板形状である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
第1の等方性材料で形成され、光線が透過する面が多角形である第1の光学部材及び第2の光学部材を用意する工程と、
第2の等方性材料で形成された板状部材である第3の光学部材を用意する工程と、
前記第3の光学部材を、前記第1の光学部材と前記第2の光学部材の間において、前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材とオプティカル・コンタクトで接合する工程と、を行い、
前記オプティカル・コンタクトで接合された面における前記第3の光学部材の外周は、前記多角形の外周の内側に配置されており、かつ、曲線状又は鈍角を備える形状であり、
前記オプティカル・コンタクトで接合された面が、前記光線が透過する面であり、
前記オプティカル・コンタクトで接合された面を透過した前記光線の偏光状態が変化して出射される、偏光を制御する光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記光学素子がフレネルロムである請求項5に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の等方性材料と前記第2の等方性材料が同一の材料である請求項5又は6に記載の光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記第3の光学部材が円板形状である請求項5乃至7のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び光学素子の製造方法に係り、特にオプティカル・コンタクトで光学部材を接合した光学素子及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部材の接合方法の1つにオプティカル・コンタクトがある。オプティカル・コンタクトとは、光学部材(例えば、プリズム)の研磨された平面同士を密着させ、接着剤を使わずに接合する技術のことである。
【0003】
オプティカル・コンタクトの利点として、接着剤を用いないため、光学部材を構成する素材の透過波長帯域、透過率を損なわない点や、透過波面精度を損なわない点があげられる。そのため、紫外光領域、赤外光領域の光学部材の接合や、高い透過波面精度が必要な光学部品の接合に、オプティカル・コンタクトは用いられている。
【0004】
特許文献1には、等方性材料で形成された平行四辺形状の第一菱面体及び第二菱面体を備えるフレネルロムに関して、2つの菱面体をオプティカル・コンタクトで接合した技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6876188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学部品には、レンズの様に外形が円形の部材と、プリズムの様に外形が角形状の部材がある。その中でも、角形状の部材同士をオプティカル・コンタクトで接合すると、異方性を持った歪みが発生する課題を本発明者は見出した。異方性歪みは、接合する部材の素材が等方性材料の場合に、特に顕著に発生する。
【0007】
異方性歪みが発生すると、透過光の偏光状態が変化してしまう。そのため、偏光を制御している部品、装置に影響することはもちろん、機器偏光が発生しやすくなり、精密な光学測定器等にとっても問題となる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、オプティカル・コンタクトで光学部材を接合した場合であっても異方性歪みの発生が低減された偏光を制御する光学素子及び偏光を制御する光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、2つの光学部材の間に、外周が曲線状の板状の光学部材を挟みこんでオプティカル・コンタクトで接合することで、異方性歪みを低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題は、本発明の光学素子によれば、第1の光学部材と、第2の光学部材と、第3の光学部材と、を備え、前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材は、第1の等方性材料で形成され、光線が透過する面が多角形であり、前記第3の光学部材は、第2の等方性材料で形成された板状部材であり、前記第3の光学部材が、前記第1の光学部材と前記第2の光学部材の間において、前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材とオプティカル・コンタクトで接合された状態であり、前記オプティカル・コンタクトで接合された面における前記第3の光学部材の外周は、前記多角形の外周の内側に配置されており、かつ、曲線状又は鈍角を備える形状であり、前記オプティカル・コンタクトで接合された面が、前記光線が透過する面であり、前記オプティカル・コンタクトで接合された面を透過した前記光線の偏光状態が変化して出射される、偏光を制御する光学素子により解決される。
このとき、光学素子がフレネルロムであるとよい。
このとき、前記第1の等方性材料と前記第2の等方性材料が同一の材料であるとよい。
このとき、前記第3の光学部材が円板形状であるとよい。
【0011】
また、前記課題は、本発明の光学素子の製造方法によれば、第1の等方性材料で形成され、光線が透過する面が多角形である第1の光学部材及び第2の光学部材を用意する工程と、第2の等方性材料で形成された板状部材である第3の光学部材を用意する工程と、前記第3の光学部材を、前記第1の光学部材と前記第2の光学部材の間において、前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材とオプティカル・コンタクトで接合する工程と、を行い、前記オプティカル・コンタクトで接合された面における前記第3の光学部材の外周は、前記多角形の外周の内側に配置されており、かつ、曲線状又は鈍角を備える形状であり、前記オプティカル・コンタクトで接合された面が、前記光線が透過する面であり、前記オプティカル・コンタクトで接合された面を透過した前記光線の偏光状態が変化して出射される、偏光を制御する光学素子の製造方法により解決される。
このとき、前記光学素子がフレネルロムであるとよい。
このとき、前記第1の等方性材料と前記第2の等方性材料が同一の材料であるとよい。
このとき、前記第3の光学部材が円板形状であるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オプティカル・コンタクトで光学部材を接合した場合であっても異方性歪みの発生が低減された光学素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】通常のフレネルロムにおけるオプティカル・コンタクトでの接合の様子を示す模式図である。
図2】本実施形態に係るフレネルロムのオプティカル・コンタクトでの接合の様子を示す模式図である。
図3】フレネルロムの模式図である。
図4】比較サンプルの形状図である。
図5】オプティカル・コンタクトで接合した従来のフレネルロムの歪みの測定結果である。
図6】本発明の一実施形態に係るフレネルロムの模式図である。
図7】本発明の一実施形態に係るフレネルロムの形状図である。
図8】本発明の一実施形態に係る円板を介したオプティカル・コンタクトで接合したフレネルロムの歪みの測定結果である。
図9】通常のオプティカル・コンタクトで接合したフレネルロムの歪みの様子を示す写真である。
図10】本発明の一実施形態に係る円板を介したオプティカル・コンタクトで接合したフレネルロムの歪みを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1乃至図10を参照しながら、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係る光学素子及び光学素子の製造方法について説明する。本実施形態に係る光学素子は、異方性歪みの発生が低減された偏光制御を行う光学素子である。
【0015】
本明細書において、○~△は、○以上△以下を意味する。
本明細書において、「オプティカル・コンタクト」とは、一対の隣接する光学部材が接着剤や空気層を介在させることなく、相互に接触して直接接合されていることをいう。
【0016】
角形状の光学部材同士を、オプティカル・コンタクトで接合した時に発生する異方性歪みを観察すると、特に、光線が透過する面の四角の角から発生することがわかった。また、光線が透過する面が丸形状の光学部材同士では、異方性歪みは発生し難い。そのため、角形状の光学部材を、円板状の部材を介して、オプティカル・コンタクトで接合することで、異方性歪みを低減する方法を見出した。
【0017】
本実施形態に係る光学素子の構成を、従来の光学素子と比較して説明する。以下の説明では、光学素子としてフレネルロムを例にして説明するが、光学素子はフレネルロムに限定されるものではない。本発明の技術的思想は、接合面が角形状の光学部材を、オプティカル・コンタクトで接合する場合であれば適用できるものであり、異方性歪みを低減することが可能である。
【0018】
図1に、通常のフレネルロムの構造を示す。一般的な、屋根型フレネルロムは、等方性材料で作られた二つの平行四辺形ブロックBを接合面Pで接合した構成をしている。接合面Pを空気間隙とする場合や異方性の歪みが発生しないように選んだ接着剤で接合する場合には、接合により異方性歪みが発生することはないが、オプティカル・コンタクトOCで接合する場合、異方性歪みが発生する。異方性歪みは、図1の場合、主に接合面Pの四隅から発生する。
【0019】
図2に、本実施形態に係るフレネルロムの構成を示す。一般的なフレネルロムの平行四辺形ブロックBの間に、円板Cを挟んだ構造である。円板Cの両面は平行四辺形ブロック同様、光学研磨されている。また、円板Cは、等方性材料で作られている。円板Cの大きさは、平行四辺形ブロックBの接合面Pと同等か、それより小さい必要がある。
【0020】
本実施形態に係るフレネルロムの構造では、接合面に隅が無くなるため、接合時に発生する歪みが低減される。円板Cの材料は、平行四辺形ブロックBと同じ材料が好ましいが、これに限るものではない。円板Cと平行四辺形ブロックBが同一材料で構成されている場合、素子としての温度変化による膨張収縮等による信頼性劣化や接合面での反射等による性能劣化が少なくなる効果がある。また、オプティカル・コンタクトOCで接合する前の各部材の温度管理が容易になる利点もある。円板Cの大きさについて、平行四辺形ブロックBの接合面Pより、同等、または、小さくするのは、オプティカル・コンタクトOCされている面に角(隅)を作らないためである。
【0021】
図3に示すように、通常のフレネルロム1は、平行四辺形状のプリズム素子を2つ組み合わせた構造(屋根型のフレネルロム)である。具体的には、フレネルロム1は、断面(図3の面と平行な断面、つまり、後述する各入射端面、出射端面、全反射面と直交する断面)が平行四辺形状の第一菱面体10及び第二菱面体20を備えている。第一菱面体10及び第二菱面体20は、同一形状であり、等方性材料で形成されている。
【0022】
図3に示すように、第一菱面体10は、第一入射端面11と、第一入射端面11と平行に配置された第一出射端面12と、第一入射端面11及び第一出射端面12と交わる第一全反射面13と、第一全反射面13と平行に配置された第二全反射面14と、を有している。
【0023】
第一菱面体10において、第一入射端面11及び第一出射端面12は互いに平行であり、かつ、第一全反射面13及び第二全反射面14は互いに平行である。また、第一菱面体10において、第一入射端面11と第一全反射面13との間、及び、第一出射端面12と第二全反射面14との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第一菱面体10において、第一入射端面11と第二全反射面14との間、及び、第一出射端面12と第一全反射面13との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0024】
第二菱面体20は、第二入射端面21と、第二入射端面21と平行に配置された第二出射端面22と、第二入射端面21及び第二出射端面22と交わる第三全反射面23と、第三全反射面23と平行に配置された第四全反射面24と、を有している。
【0025】
第二菱面体20において、第二入射端面21及び第二出射端面22は互いに平行であり、かつ、第三全反射面23及び第四全反射面24は互いに平行である。また、第二菱面体20において、第二入射端面21と第三全反射面23との間、及び、第二出射端面22と第四全反射面24との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第二菱面体20において、第二入射端面21と第四全反射面24との間、及び、第二出射端面22と第三全反射面23との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0026】
第一菱面体10及び第二菱面体20は、第一菱面体10の第一出射端面12と、第二菱面体20の第二入射端面21とが互いに平行になるように対向して配置されている。第一出射端面12と第二入射端面21は、オプティカル・コンタクトによる直接接合とされている。
【0027】
上述したように第一菱面体10の第一入射端面11と第一全反射面13(第一出射端面12と第二全反射面14)は楔角αをなしており、同様に、第二菱面体20の第二入射端面21と第三全反射面23(第二出射端面22と第四全反射面24)も楔角αをなしている。ここで、楔角αは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料の種類に応じて適宜設定することが可能である。
【0028】
上記の通り、フレネルロムは、複屈折を持たない等方性の材料で作られるが、全反射時に発生するp波とs波の間の位相差を利用した位相子である。全反射は、光が高屈折材から低屈折材側に、臨界角以上の角度で入射する場合に発生する現象である。
【0029】
フレネルロムは、等方性材料から形成されている。等方性材料としては、真空紫外から近赤外の波長領域を透過する材料であれば良く、入手性の観点から石英(溶融石英:屈折率n=1.46@550nm)、フッ化カルシウム(CaF:屈折率n=1.44@546nm)及びフッ化リチウム(LiF:屈折率n=1.39@600nm)からなる群から選択される少なくとも一種の材料を用いると好適である。なお、用いる等方性材料については、位相差を劣化させてしまうような素材の欠陥や歪などがないことも重要であり、CaFよりも石英(溶融石英)を用いることが好ましい。
【0030】
<本実施形態のフレネルロムの説明>
本実施形態のフレネルロム1(光学素子)は、第一菱面体10(第1の光学部材)と、第二菱面体20(第2の光学部材)と、円板状部材30(第3の光学部材)と、を備えている。第一菱面体10及び第二菱面体20は、第1の等方性材料で形成されている。光線が透過する面である第一入射端面11、第一出射端面12、第二入射端面21及び第二出射端面22が四角形(多角形)である。
【0031】
円板状部材30(第3の光学部材)は、第2の等方性材料で形成された板状部材である。第3の光学部材の外周は、第一入射端面11、第一出射端面12、第二入射端面21及び第二出射端面22の四角形の外周以下の円形状(曲線状)又は鈍角を備える形状である。換言すると、円板状部材30(第3の光学部材)の外周が曲線状であるとは、外周の形状において鋭角となる部分が存在しないことを意味する。円板状部材30は、円板形状であるため、加工が容易である。
【0032】
円板状部材30は、第一菱面体10と第二菱面体20の間において、第一菱面体10及び第二菱面体20とオプティカル・コンタクトOCで接合されている。より詳細には、円板状部材30の入射平面31が、第一菱面体10の第一出射端面12とオプティカル・コンタクトOCで接合されており、円板状部材30の出射平面32が、第二菱面体20の第二入射端面21とオプティカル・コンタクトOCで接合されている。
【0033】
円板状部材30のサイズが、オプティカル・コンタクトOCの面に「角」をなくすため、接合面よりも小さいか接合面以下であるとよい。換言すると、円板状部材30の入射平面31の外周が、第一菱面体10の第一出射端面12の外周の内側に収まり、円板状部材30の出射平面32の外周が、第二菱面体20の第二入射端面21の外周の内側に収まる。本実施形態のフレネルロム1では、オプティカル・コンタクトOCの面に「角」をなくす事で、異方性歪みを低減することができる。
【0034】
第1の等方性材料と第2の等方性材料が同一の材料であると好適である。円板状部材30が、第一菱面体10や第二菱面体20と同一材料で構成されている場合、光学素子としての温度変化による膨張収縮等による信頼性劣化や接合面での反射等による性能劣化が少なくなる。また、オプティカル・コンタクトOCで接合する前の各部材の温度管理が容易になる。
【0035】
(多層膜M)
フレネルロム1は、少なくとも1以上の全反射面に多層膜Mが形成されているとよい。具体的には、第一菱面体10の第一全反射面13、第二全反射面14、第二菱面体20の第三全反射面23、第四全反射面24は、その面上に、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料とは異なる屈折率の多層膜Mがコーティングされていると好適である。
【0036】
ここで、多層膜Mは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成された高屈折率膜Mと、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成された低屈折率膜Mと、が交互に積層されている。高屈折率膜Mと低屈折率膜Mの積層の順序は基板となる等方性材料の上に、高屈折率膜M、低屈折率膜Mの順で積層されていてもよいし、基板となる等方性材料の上に、低屈折率膜M、高屈折率膜Mの順で積層されていてもよい。
【0037】
入射光線Iは、各全反射面で全反射し、同時にp偏光とs偏光に位相差が発生する。通常、全反射に伴って生じる位相差は、波長が短くなるにつれて大きくなってしまう。そこで、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料(石英やCaF)よりも大きい屈折率の高屈折率膜Mと、小さい屈折率の低屈折率膜Mからなる2種類の膜材料が交互に積層された多層膜Mを全反射面に施すとよい。
【0038】
高屈折率膜Mを構成する高屈折率材料としては、フッ化ガドリニウム(GdF:屈折率n=1.59@550nm)、フッ化ランタン(LaF:屈折率n=1.59@550nm)及びフッ化ネオジム(NdF:1.61@550nm)が例示されるが、これらの物質に限定されるものではない。また、低屈折率膜Mを構成する低屈折率材料としては、フッ化マグネシウム(MgF:屈折率n=1.38~1.40@550nm)が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0039】
高屈折率膜M及び低屈折率膜Mは、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の方法により形成することが可能である。高屈折率膜M及び低屈折率膜Mの膜厚は、材料の種類に依存し、例えば、100Å以上650Å以下とすればよいが、この範囲に限定されるものではない。
【0040】
<光学素子の製造方法>
本実施形態の光学素子の製造方法は、第1の等方性材料で形成され、光線が透過する面が多角形である第1の光学部材及び第2の光学部材を用意する工程(ステップ1)と、第2の等方性材料で形成された板状部材であり、外周が前記多角形の外周以下の曲線状又は鈍角を備える形状である第3の光学部材を用意する工程(ステップ2)と、前記第3の光学部材を、前記第1の光学部材と前記第2の光学部材の間において、前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材とオプティカル・コンタクトで接合する工程(ステップ3)と、を行うものである。
【0041】
ステップ1では、第1の等方性材料で形成され、光線が透過する面が多角形である第1の光学部材(第一菱面体10)及び第2の光学部材(第二菱面体20)を用意する。
【0042】
ステップ2では、第2の等方性材料で形成された板状部材であり、外周が前記多角形の外周以下の曲線状又は鈍角を備える形状である第3の光学部材(円板状部材30)を用意する。
【0043】
ステップ3では、第3の光学部材(円板状部材30)を、第1の光学部材(第一菱面体10)と第2の光学部材(第二菱面体20)の間において、第1の光学部材及び第2の光学部材とオプティカル・コンタクトOCで接合する。
【0044】
<本実施形態の光学素子の応用例>
本実施形態の光学素子の応用例について、以下に示す。本実施形態の光学素子は、計測装置に応用可能である。ここで、「計測装置」とは、各種の測定装置、分析装置、検査装置、観察装置を含むものとする。
【0045】
半導体検査装置は、微細領域の検査を行う装置であり、紫外光を積極的に利用するため、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能な本実施形態の広帯域円偏光子(位相差90°のフレネルロム)を用いると好適である。白色光の偏光を利用している半導体検査装置であれば、本実施形態の広帯域円偏光子が利用可能である。
【0046】
本実施形態の光学素子を適用する具体的な対象装置として、分光エリプソメーターが例示される。具体的には、分光エリプソメーターの補償素子として広帯域円偏光子(位相差90°のフレネルロム)を利用することができる。
【0047】
また、本実施形態の光学素子を、微小領域を観察するための観察装置に適用することも可能である。偏光を制御することでコントラストを向上できる場合がある。より微細な観察を行うためには、短い波長も使った観察が必要になるため、本実施形態の広帯域円偏光子(位相差90°のフレネルロム)を使用するメリットがある。
【0048】
さらに、異物検知を行うため、異物からの散乱光の偏光状態が正常な部分と異なる特性を利用した観察装置や検査装置、具体的には、半導体ウエハー上の配線パターンの偏光状態を観察して異物を発見する装置に本実施形態の広帯域円偏光子(位相差90°のフレネルロム)を適用することができる。装置によって、偏光の利用方法は異なるが、偏光情報から半導体の各プロセスで発生した異常(不良)を発見する際に、本実施形態の光学素子(位相差90°のフレネルロム)を位相差180°(λ/2)の位相子と組み合わせることで、様々な偏光計測が可能となる。また、位相差180°(λ/2)の位相子は、本発明を利用した位相差180°のフレネルロムとしても良い。
【0049】
また、膜厚計に本実施形態の光学素子を適用することができる。膜厚計は、主に半導体プロセス中の検査などに用いられるが、フィルム厚、塗装厚等を測定するなど、他の膜状の物の検査にも使われている。膜厚計の測定原理は、様々であるが、エリプソメーター同様の偏光解析で膜厚を測定する装置もある。
【0050】
その他、本実施形態の光学素子は、機器偏光を低減させるための偏光解消素子の代わりに使用することができる。反射光学系では、p偏光とs偏光の反射率が異なるため、入射光線の偏光状態が異なる場合や変動する場合、透過率が異なったり、変動したりする。このことを防止するために、入射光線の偏光状態を一定にしたり、光学系からの出射光線の偏光状態を一定にしたりすることがある。精密な計測を行う装置の場合には、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが必要になる。本実施形態の光学素子(位相差90°のフレネルロム)を位相差180°(λ/2)の位相子と組み合わせることで、いかなる偏光状態も作り出すことができるため、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが可能となる。また、位相差180°(λ/2)の位相子は、本発明を利用した位相差180°のフレネルロムとしても良い。
【0051】
タンパク質、医薬品、食品などの高分子の立体構造を分析するための方法に、高分子の光学異性体を調べる旋光分散測定(ORD)や円偏光二色性(CD)分光測定がある。これら測定は、左右円偏光の屈折率、吸収の違いを測定する方法で、精度が高く、波長帯域の広い円偏光子が望まれている測定である。本実施形態の光学素子は、このような要望に、合致しており、旋光分散測定や円二色性分光測定の精度を高める事が可能である。
【実施例
【0052】
以下、実施例に基づき、本発明の光学素子について更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
本発明の効果は、等方性材料を用いて作られている偏光制御素子であるフレネルロムにおいて特に高い効果を示す。そのため、ここでは、屋根型のフレネルロム1を例として、本発明の効果を示す。屋根型のフレネルロム1は、図3の様な形状をした位相子である。入射端面(第一入射端面11)から入射した光線が、第一全反射面13、第二全反射面14、第三全反射面23、第四全反射面24(斜面1~4)で全反射し出射端面(第二出射端面22)から出射する。フレネルロム1は、斜面1~4で全反射する際に、p波とs波の間に位相差が発生することを利用した広帯域な位相子である。全反射での発生する位相差は、入射角により異なるため、所望の位相差を得るために、素子の材料と全反射角を適宜設定すればよい。
【0054】
図3より、屋根型のフレネルロム1は、2つの平行四辺形のガラスや結晶などでできた部材(第一菱面体10と第二菱面体20)から構成されている。2つの平行四辺形部材は、接着やオプティカル・コンタクトなどの方法で接合するか、空気間隙を設け、接合せずに並べて配置する必要がある。使用波長帯域が紫外光や赤外光の場合、この波長領域で透明な接着剤が存在しないため、オプティカル・コンタクトで接合するか、空気間隙を設ける配置で並べる必要がある。空気間隙を設けると、入出射平面が多くなり、反射による損失が多くなる点と、多重反射により位相性能が劣化する欠点があるため、オプティカル・コンタクトで接合する方法が好ましい。
【0055】
しかし、従来、図3の様な等方性材料で角形状のもの同士をオプティカル・コンタクトすると、歪みが発生する。図5に、図3の形状のフレネルロムを、オプティカル・コンタクトで接合したものの歪みの様子を実測した結果を示す。歪みの状態を定量化するために、p波の直線偏光を入射し、フレネルロムから出射した光の直線偏光の消光比を指標にしている。消光比は、直線偏光の程度を示す量で、以下に計算式で定義される。
消光比[dB]=-10×log(Is/Ip)
ここで、Isはs波の光量、Ipはp波の光量である。消光比が高いほど、良い直線偏光である事を示しており、10dB変化すると、IsとIpの比率が1桁異なる事を示す。
【0056】
サンプルの測定は、波長λ=633nm、消光比約65dBの入射直線偏光光線を用いて行っている。また、ビーム径約Φ1(mm)で縦横1(mm)間隔で入射光線を動かし測定を行った。サンプルのフレネルロムの入射平面(接合面)のサイズは10×10(mm)である。サンプルの詳細を図4、表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
消光比が50dB以上であれば、歪みの影響は非常に少ないと言える。図5に示した測定結果より、消光比が50dBより小さい部分も多く、30~40dBの非常に悪い部分があることも分かる。
【0059】
次に、本実施形態のフレネルロム1の測定結果を示す。製作したフレネルロムの形状を図6及び図7に示す。図3のフレネルロム1の入射側のロム(第一菱面体10)と出射側のロム(第二菱面体20)の間に、円板形状の円板状部材30を配置し、それぞれをオプティカル・コンタクトOCで接合している。円板状部材30は、ロムの接合面(第一出射端面12及び第二入射端面21)のサイズより、小さくし、外周において接点がないようになっている。円板状部材30は、第一菱面体10及び第二菱面体20と同一材料とし、サンプルは石英で製作した。本実施形態のフレネルロム1(サンプル)の詳細を図6図7及び表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
図8に消光比の面内分布の測定結果を示す。消光比の低いところでは、約45dBとなっているが、30~40dBの非常に悪い部分は無くなっていることが分かる。
【0062】
歪の様子を視覚的に示すために、上記測定と同様に、サンプルに直線偏光を入射し、出射光を、入射光を透過しない方向に配置した検光子を通して観察した結果を図9図10に示す。光源には白色光源を使用している。このような配置で透過光を観察する事で、異方性歪が発生している部分は白く見え、異方性歪の様子が観察できた。
【0063】
図9は、図3で示したロム同士を直接オプティカル・コンタクトで接合したサンプルの歪みの様子を、図10は、図6で示した本発明の円板を介してオプティカル・コンタクトしたサンプルの歪みの様子を、それぞれ、視覚的に観察した結果である。
【0064】
図9図10より、ロム同士を直接オプティカル・コンタクトすることで、接合している四角い面の隅を中心に、異方性歪みが発生していることが分かった。また、円板状部材30を介してオプティカル・コンタクトOCで接合することで、顕著な異方性歪が発生していないこともわかった。
【符号の説明】
【0065】
1 フレネルロム
10 第一菱面体(第1の光学部材)
11 第一入射端面
12 第一出射端面
13 第一全反射面
14 第二全反射面
20 第二菱面体(第2の光学部材)
21 第二入射端面
22 第二出射端面
23 第三全反射面
24 第四全反射面
30 円板状部材(第3の光学部材)
31 入射平面
32 出射平面
OC オプティカル・コンタクト
C 円板(第3の光学部材)
B 平行四辺形ブロック(第1の光学部材、第2の光学部材)
P 接合面
M 多層膜
α 楔角
I 入射光線
E 出射光線
【要約】
【課題】オプティカル・コンタクトで光学部材を接合した場合であっても異方性歪みの発生が低減された光学素子を提供する。
【解決手段】フレネルロム1(光学素子)は、第一菱面体10(第1の光学部材)と、第二菱面体20(第2の光学部材)と、円板状部材30(第3の光学部材)と、を備えている。第一菱面体及び第二菱面体は、第1の等方性材料で形成され、光線が透過する面が四角形(多角形)である。円板状部材は、第2の等方性材料で形成された板状部材である。円板状部材の外周は、四角形の外周以下の円形状(曲線状)である。円板状部材が、第一菱面体と第二菱面体の間において、第一菱面体及び第二菱面体とオプティカル・コンタクトOCで接合されている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10