(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20230207BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230207BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230207BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C21D8/12 C
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 183
(21)【出願番号】P 2021517640
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 KR2019012472
(87)【国際公開番号】W WO2020067722
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】10-2018-0115271
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャン ス
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ギュ-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ゼ ギョム
(72)【発明者】
【氏名】バク,ユ ジュン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084893(KR,A)
【文献】国際公開第2014/017591(WO,A1)
【文献】特開2004-353036(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094797(WO,A1)
【文献】特開平07-048674(JP,A)
【文献】特開昭63-277712(JP,A)
【文献】国際公開第2014/049770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.01~0.1%、Mn:0.005~0.05%、S:0.005~0.02%、Se:0.0005~0.2%並びに、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して、熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階、
前記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階、および
前記1次再結晶焼鈍された鋼板を2次再結晶焼鈍する段階を含
み、
前記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階の後、前記再結晶焼鈍された鋼板に焼鈍分離剤を塗布する段階をさらに含み、
前記焼鈍分離剤は、Mg酸化物またはMg水酸化物100重量部、および金属硫酸化物または金属硫化物10~40重量部を含み、
前記2次再結晶焼鈍する段階は、昇温段階および均熱段階を含み、
前記昇温段階は、下記式3を満足する雰囲気で行われることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
〔式1〕
3×[Mn]≧[Se]≧1.5×[Mn]
(式1中、[Mn]および[Se]は、それぞれMnおよびSeの含有量(重量%)を示す。)
〔式3〕
[
N
2
]≧3×[H
2
]
(式3中、[N
2
]および[H
2
]は、それぞれ雰囲気中のN
2
およびH
2
の体積%を意味する。)
【請求項2】
前記スラブは、下記式2を満足することを特徴とする請求項
1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
〔式2〕
0.5×[Mn]≧[S]
(式2中、[Mn]および[S]は、それぞれMnおよびSの含有量(重量%)を示す。)
【請求項3】
前記スラブは、SbおよびSnのうちの1種以上をそれぞれ単独または複合で0.005~0.1重量%さらに含むことを特徴とする請求項
1又は2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記スラブは、Alを0.01重量%以下、およびNを0.005重量%以下でさらに含むことを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記熱延板を製造する段階の後、前記熱延板の片側エッジクラックが20mm以下であり、前記エッジクラックの分布が熱延板の長手方向に対して10個/m以下であることを特徴とする請求項
1乃至4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記昇温段階の後、前記鋼板のS含有量は、前記スラブのS含有量の2倍以上であることを特徴とする請求項
1乃至5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記昇温段階の後、前記鋼板は、SおよびSeの複合粒界偏析または(Fe、Mn、Cu)(S、Se)複合析出物を含むことを特徴とする請求項
1乃至6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記昇温段階の後、被膜と鋼板との界面から、鋼板の内部方向に形成された硫黄拡散層が形成され、硫黄拡散層は、Sを0.01~0.05重量%含むことを特徴とする請求項
1乃至7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記均熱段階は、水素75体積%以上を含む雰囲気で行われることを特徴とする請求項
1乃至8のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記均熱段階は、1000~1250℃で行われることを特徴とする請求項
1乃至9のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、AlN、MnS析出物を結晶粒成長抑制剤として用いず、鋼板にMn、Se元素を適正量添加して、磁性および生産性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、変圧器などの電磁製品の鉄心材料として用いられ、機器の電力損失を低減することによってエネルギー変換効率を向上させることができる。このため、鉄心素材の鉄損に優れ、積層および巻取の際に占積率が高い鋼板が要求される。
方向性電磁鋼板は、熱延、冷延および焼鈍工程により2次再結晶された結晶粒が圧延方向に{110}<001>方向に配向された集合組織(「Goss Texture」ともいう)を有する機能性鋼板をいう。
【0003】
方向性電磁鋼板は、鋼板面のすべての結晶粒の方位が{110}面であり、圧延方向の結晶方位は<001>軸に平行な、いわゆるゴス(Goss)集合組織(texture)をなし、鋼板の圧延方向に磁気特性に非常に優れた軟磁性材料である。
一般に、磁気特性は磁束密度と鉄損で表現され、高い磁束密度は結晶粒の方位を{110}<001>方位に正確に配列することによって得られる。磁束密度の高い電磁鋼板は、電気機器の鉄心材料の大きさを小さくできるだけでなく、履歴損失が低くなって電気機器の小型化と同時に高効率化が可能である。
【0004】
鉄損は、鋼板に任意の交流磁場を加えた時に熱エネルギーとして消費される電力損失であって、鋼板の磁束密度と板厚、鋼板中の不純物量、比抵抗、そして2次再結晶粒の大きさなどによって大きく変化し、磁束密度と比抵抗が高いほど、そして板厚と鋼板中の不純物量が低いほど、鉄損が低くなって電気機器の効率が増加する。
現在、全世界的にCO2の発生を低減して地球温暖化に対応するために、エネルギー節約と共に高効率製品化を指向する傾向にあり、電気エネルギー消費を少なくする高効率化された電気機器の拡大普及に対する需要が増加するにつれ、より優れた低鉄損特性を有する方向性電磁鋼板の開発に対する社会的要求が増大している。
【0005】
一方、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板は、鋼板の圧延方向に{110}<001>方位のゴス集合組織(Goss texture)が強く発達しなければならず、このような集合組織を形成させるためには、Goss方位の結晶粒が2次再結晶という異常な結晶粒成長を形成させなければならない。この異常な結晶成長は、通常の結晶粒成長とは異なり、正常な結晶粒成長が析出物や、介在物、あるいは固溶するか粒界に偏析する元素によって正常に成長する結晶粒界の移動が抑制された時に発生する。結晶粒成長を抑制する析出物や介在物などを特に結晶粒成長抑制剤(inhibitor)と称し、{110}<001>Goss方位の2次再結晶による方向性電磁鋼板製造技術に関する研究は、強力な結晶粒成長抑制剤を用いて{110}<001>方位に対する集積度の高い2次再結晶を形成して優れた磁気特性を確保するのに注力してきた。
【0006】
初期に開発された方向性電磁鋼板は、MnSが結晶粒成長抑制剤として用いられ、2回の冷間圧延法で製造された。これによって、2次再結晶は安定的に形成されたが、磁束密度はそれほど高くない水準であり、鉄損も高い方であった。以後、AlN、MnS析出物を複合的に用い、80%以上の冷間圧延率で1回冷間圧延して方向性電磁鋼板を製造する方法が提案された。
最近、MnSを用いず、1回の冷間圧延および脱炭を実施した後に、アンモニアガスを用いた別途の窒化工程により鋼板の内部に窒素を供給して強力な結晶粒成長抑制効果を発揮するAl系の窒化物を用いてGoss方位結晶粒を2次再結晶を得る方向性電磁鋼板の製造方法が提案された。
【0007】
これまで方向性電磁鋼板を生産するほぼすべての製造会社では、主にAlN、MnS[Se]などの析出物を結晶粒成長抑制剤として用いて2次再結晶および磁気特性を確保する製造方法を用いている。このようなAlN、MnS析出物を結晶粒成長抑制剤として用いる方向性電磁鋼板の製造方法は、2次再結晶を安定的に起こすことができるという利点はあるが、強力な結晶粒成長抑制効果を発揮するためには、析出物を非常に微細かつ均一に鋼板に分布させなければならない。このように微細な析出物を均一に分布させるためには、熱間圧延前にスラブを高い温度に長時間加熱して、鋼中に存在する粗大なAlN、MnS析出物を固溶させた後、非常に短い時間内に熱間圧延を実施して、析出が起こらない状態で熱間圧延を終えなければならない。このためには、大規模なスラブ加熱設備を必要とし、熱延過程で析出を最大限に抑制するために、熱間圧延温度および巻取工程を非常に厳格に管理し、熱間圧延後の熱延板焼鈍工程で固溶した析出物が微細に析出するように管理しなければならないという制約を伴う。また、高温にスラブを加熱すれば、融点が低いFe2SiO4が形成されることによって、スラブウォッシング(washing)現象が発生して熱延の実歩留まりが低下する。
【0008】
これとは別に、析出物を用いず、鋼板内に不純物含有量を最小にして結晶方位による結晶粒界の粒界移動度の差を極大化することによって、2次再結晶を形成させる方向性電磁鋼板の製造方法が提案された。この技術では、Al含有量を低減し、B、V、Nb、Se、S、P、Nの含有量を微量に制御することが提案されたが、少量のAlの析出物や介在物が形成されてこそ、2次再結晶が形成され、磁性が確保できることが明らかになっている。
その他にも、TiN、VN、NbN、BNなどの多様な析出物を結晶粒成長抑制剤として活用する試みがなされたものの、熱的不安定と過度に高い析出物の分解温度によって安定した2次再結晶を形成することはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的には、AlN、MnS析出物を結晶粒成長抑制剤として用いず、鋼板にMn、Se元素を適正量添加して、磁性および生産性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.005~0.05%、S:0.005%以下(0%を除く)、Se:0.0005~0.2%並びに、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足することを特徴とする。
〔式1〕 3×[Mn]≧[Se]≧1.5×[Mn]
(式1中、[Mn]および[Se]は、それぞれMnおよびSeの含有量(重量%)を示す。)
【0011】
本発明の方向性電磁鋼板は、下記式2を満足することが好ましい。
〔式2〕 0.5×[Mn]≧[S]
(式2中、[Mn]および[S]は、それぞれMnおよびSの含有量(重量%)を示す。)
方向性電磁鋼板は、SbおよびSnのうちの1種以上をそれぞれ単独または複合で0.005~0.1重量%さらに含むことができる。
方向性電磁鋼板は、Alを0.01重量%以下、およびNを0.005重量%以下でさらに含むことができる。
方向性電磁鋼板は、Al、Mn、Si、Mg、CaまたはTiを含む介在物を200個/mm2以下で含むことがよい。
【0012】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.01~0.1%、Mn:0.005~0.05%、S:0.005~0.02%、Se:0.0005~0.2%並びに、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して、熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階、および1次再結晶焼鈍された鋼板を2次再結晶焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
〔式1〕
3×[Mn]≧[Se]≧1.5×[Mn]
(式1中、[Mn]および[Se]は、それぞれMnおよびSeの含有量(重量%)を示す。)
【0013】
上記スラブは、下記式2を満足することが好ましい。
〔式2〕
0.5×[Mn]≧[S]
(式2中、[Mn]および[S]は、それぞれMnおよびSの含有量(重量%)を示す。)
スラブは、SbおよびSnのうちの1種以上をそれぞれ単独または複合で0.005~0.1重量%さらに含むことができる。
スラブは、Alを0.01重量%以下、およびNを0.005重量%以下でさらに含むことができる。
熱延板を製造する段階の後、熱延板の片側エッジクラックが20mm以下であり、前記エッジクラックの分布は、鋼板の長手方向に10個/mであることがよい。
【0014】
冷延板を1次再結晶焼鈍する段階の後、1次再結晶焼鈍された鋼板に焼鈍分離剤を塗布する段階をさらに含み、焼鈍分離剤は、Mg酸化物またはMg水酸化物、および金属硫酸化物または金属硫化物を含むことができる。
焼鈍分離剤は、Mg酸化物またはMg水酸化物100重量部、および金属硫酸化物または金属硫化物10~40重量部を含むことがよい。
2次再結晶焼鈍する段階は、昇温段階および均熱段階を含み、昇温段階は、下記式3を満足する雰囲気で行われることが好ましい。
〔式3〕
[N2]≧3×[H2]
(式3中、[N2]および[H2]は、それぞれ雰囲気中のN2およびH2の体積%を意味する。)
【0015】
昇温する段階の後、鋼板のS含有量は、前記スラブのS含有量の2倍以上であることがよい。
昇温する段階の後、鋼板は、SおよびSeの複合粒界偏析または(Fe、Mn、Cu)(S、Se)複合析出物を含むことができる。
【0016】
昇温段階の後、被膜と鋼板との界面から、鋼板の内部方向に形成された硫黄拡散層が形成され、硫黄拡散層は、Sを0.01~0.05重量%含むことができる。
均熱段階は、水素75体積%以上含む雰囲気で行われることが好ましい。
均熱段階は、1000~1250℃で行われることがよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、Goss方位の結晶粒を安定的に形成させることによって、磁気的特性に優れる効果がある。
また、製造過程で熱延板の片側エッジクラックを最小化できて、生産性に優れる効果を有する。
さらに、製造過程で2次再結晶焼鈍内の均熱段階を低い温度で短い時間で行うことができて、生産性に優れる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを、他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及されてもよい。
ここで使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文章がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0019】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これはまさに他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
他に定義しないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0020】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施例において、鋼成分に追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ、残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0021】
既存の方向性電磁鋼板技術では、結晶粒成長抑制剤としてAlN、MnSなどのような析出物を用いており、すべての工程が析出物の分布を厳格に制御し、2次再結晶された鋼板内に残留した析出物が除去されるようにするための条件によって工程条件が極めて制約されていた。
これに対し、本発明の一実施例では、結晶粒成長抑制剤としてAlN、MnSなどのような析出物を用いない。本発明では、S、Seの複合粒界偏析および(Fe、Mn、Cu)(S、Se)複合析出物を結晶粒成長抑制剤として用いることによって、Goss結晶粒分率を増加させ、磁性に優れた電磁鋼板を得ることができる。
【0022】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.005~0.05%、S:0.005%以下(0%を除く)、Se:0.0005~0.2%並びに、残部はFeおよび不可避不純物からなる。
まず、方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
【0023】
Si:2.0~4.5重量%
シリコン(Si)は、電磁鋼板の基本組成で鋼板の比抵抗を増加させて変圧器の鉄心損失(core loss)つまり、鉄損を低くする役割を果たす。Si含有量が少なすぎる場合、比抵抗が減少して鉄損特性が劣化し、2次再結晶焼鈍時に相変態区間が存在して2次再結晶が不安定になる虞がある。Siを過剰に含有する時には、鋼の脆性が大きくなって冷間圧延が極めて難しくなる。したがって、Siは2.0~4.5重量%含むことが好ましい。具体的に、Siは2.5~4.0重量%含むことがより好ましい。
【0024】
C:0.005重量%以下
炭素(C)は、オーステナイト安定化元素であって、900℃以上の温度で相変態を起こして連鋳過程にて発生する粗大な柱状晶組織を微細化する効果とともに、SおよびSeのスラブ中心偏析を抑制する。また、冷間圧延中に鋼板の加工硬化を促進して鋼板内に{110}<001>方位の2次再結晶の核生成を促進する。したがって、添加量に大きな制約はないが、スラブ内に0.01重量%未満で含有されると、相変態および加工硬化の効果を得ることができず、一方、0.1重量%超過で添加すると、熱延エッジ-クラック(edge-crack)の発生により作業上の問題点とともに、冷間圧延後、脱炭焼鈍時に脱炭工程の負荷が発生する虞がある。したがって、スラブ内の添加量は0.01~0.1重量%であることが好ましい。具体的には、スラブ内の添加量は0.02~0.07重量%であることがより好ましい。
本発明の一実施例では、製造過程中、1次再結晶焼鈍段階で脱炭焼鈍を経るようになり、脱炭焼鈍後に製造された最終電磁鋼板内のC含有量は0.005重量%以下であることが好ましい。具体的には0.003重量%以下であることがより好ましい。
【0025】
S:0.005重量%以下
硫黄(S)は、鋼中にMnと反応してMnSを形成することによって、結晶粒成長抑制効果を有する元素であるが、本発明の一実施例では、MnSを結晶粒成長抑制剤として用いないため、Sの含有量を最小に管理することによって、MnSの形成を抑制する。これに対し、Sは、Seと同様に、粒界に複合で偏析するか、(Fe、Mn、Cu)(S、Se)複合析出物を形成して、Goss方位の2次再結晶を起こすのに重要な元素である。したがって、スラブ内のSが0.005%未満の場合には、結晶成長抑制効果が低下し、逆に、スラブ製造段階でSの含有量が高ければ、熱延脆性をもたらして、連鋳および熱間圧延過程でエッジクラックの発生が増加して実歩留まりが低下する。したがって、スラブ内の添加量は0.005~0.02重量%であることが好ましい。具体的には、下記式2を満足できることがより好ましい。
〔式2〕
0.5×[Mn]≧[S]
(式2中、[Mn]および[S]は、それぞれMnおよびSの含有量(重量%)を示す。)
【0026】
本発明の一実施例では、1次再結晶焼鈍された鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する時に、焼鈍分離剤に金属硫化物または金属硫酸化物を一定量以上添加することによって、2次再結晶焼鈍の昇温過程でSが鋼中に拡散するように誘導して、Goss方位の2次再結晶を起こすための結晶成長抑制力を補完することができる。ただし、最終方向性電磁鋼板で残留するSは、磁気時効を起こして磁性特性を劣化させるので、Goss結晶粒の2次再結晶の成長後にH2Sガスを生成させて除去することによって、最終電磁鋼板内のS含有量は0.005重量%以下であることが好ましい。具体的には、0.003重量%以下であることがより好ましい。
【0027】
Se:0.0005~0.20重量%
セレン(Se)は、本発明の一実施例では、核心元素として取り扱われる。Seは、Sと共に複合で結晶粒界に偏析すると同時に、結晶粒界において(Fe、Mn、Cu)(S、Se)複合析出物を形成して結晶粒界の移動を強力に抑制することによって、{110}<001>Goss方位の結晶粒の2次再結晶の形成を促進する。
上記したSeは、Sより原子質量が高いので、同一の重量%を含む時、実際の原子の数はSeがより少ない。したがって、十分な結晶成長抑制効果を得るためには、Sよりはより多量のSeを添加しなければならない。また、Seは、Sと同様に、粒界偏析効果は強いが、Sより融点や沸点が高いため、粒界偏析時に高温で比較的安定的に存在可能で熱延脆性を弱化させるので、連鋳およびスラブ加熱後の熱延過程でエッジクラックの発生量を減少させることができる。
【0028】
ただし、Seの含有量は0.2重量%を超えないことが好ましい。Sと複合で添加する本発明の成分系からみると、0.2重量%を超えると、過剰な結晶粒界偏析により連鋳および熱延過程でエッジクラックの発生が増加する。逆に、0.0005重量%未満で添加すると、Seの偏析および(Fe、Mn、Cu)(S、Se)析出物の形成が少なくなって結晶粒成長抑制効果が低下する。したがって、スラブおよび最終方向性電磁鋼板におけるSeの添加量は0.0005~0.2重量%に限定する。具体的には、Seの添加量は0.01~0.1重量%であることが好ましい。さらに具体的には、Seの添加量は0.03~0.06重量%であることがより好ましい。
【0029】
Mn:0.005~0.05重量%
マンガン(Mn)は、Siと同様に、比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果がある。従来技術における添加の主な目的は、鋼中にてSと反応して、MnS析出物を形成して結晶粒成長を抑制することである。しかし、本発明の一実施例では、MnS析出物を結晶粒成長の抑制剤として用いないので、一定の含有量範囲内に制限する必要がある。
【0030】
最も理想的な方法は、Mnを全く添加しないことである。ただし、製銑および製鋼過程でMn含有量が低い溶銑の使用および吹錬を実施しても一定量のMn含有量が残留するが、不可避に残留するならば、その含有量は0.05重量%以下に制限することが好ましい。Mnが多量に添加されると、MnS[Se]が析出するので、SおよびSeの粒界偏析が少なくなって結晶成長の移動を妨げにくく、また、(Fe、Mn、Cu)(S、Se)複合析出物の形成も困難になる。さらに、MnS[Se]析出物は、固溶温度が高くて、実際の鋼板に大きさが非常に大きい析出物として存在し、結晶成長抑制力も低下する。同時に、2次再結晶焼鈍純化工程でMnS[Se]を分解するために、高温で長時間焼鈍しなければならないという欠点がある。その理由から、本発明の一実施例では、Mnの最大含有量は0.05重量%以下に管理する。Mnを添加しないのが最も良いが、0.005重量%未満に下げるためには、製鋼工程の負荷が増加して生産性が低下するので、Mnの下限は0.005重量%に限定する。特に、熱延エッジクラックを減少させ、1次再結晶焼鈍時に適正な結晶成長抑制効果を得るためには、SeとMnの含有量を下記式1の範囲に制限する必要がある。
〔式1〕
3×[Mn]≧[Se]≧1.5×[Mn]
(式1中、[Mn]および[Se]は、それぞれMnおよびSeの含有量(重量%)を示す。)
【0031】
SbおよびSnのうちの1種以上:それぞれ単独または複合で0.005~0.1重量%
スズ(Sn)は、結晶粒界偏析元素であって、熱延過程で{110}<001>Goss方位の核生成を促進して磁束密度を増加させる効果がある。このようなSnを0.1重量%まで添加すると、Goss方位の結晶粒を増加させる効果があるが、これを超えて添加する場合には、結晶粒界の過偏析により冷間圧延板破断の発生および脱炭を遅延させて、不均一な1次再結晶微細組織を形成して磁性を低下させる虞がある。
アンチモン(Sb)は、Snと類似の結晶粒界偏析元素であって、1次再結晶粒の過度の成長を抑制する作用がある。Sbを添加して1次再結晶段階で粒成長を抑制することによって板の厚さ方向による1次再結晶粒の大きさの不均一性を除去し、同時に2次再結晶を安定的に形成させることによって、磁性により優れた方向性電磁鋼板を作ることができる。Sbの含有量が多すぎると、1次再結晶焼鈍時に脱炭を妨げて磁気的特性を劣化させる虞がある。
【0032】
SbおよびSnのうちの1種以上をそれぞれ単独または複合で0.005~0.1重量%含むことがよい。SbまたはSnのみを含む場合、それぞれ単独で0.005~0.1重量%含むことができる。SbおよびSnを同時に含む場合、その合量で0.005~0.1重量%含むことができる。さらに具体的には、Sb0.005~0.05重量%およびSn0.005~0.05重量%含むことがより好ましい。
【0033】
Al:0.010重量%以下
アルミニウム(Al)は、鋼中に窒素と結合してAlN析出物を形成するので、本発明の一実施例では、Al含有量を積極的に抑制してAl系窒化物や酸化物などの介在物の形成を回避する。Alの含有量が多すぎると、AlNおよびAl2O3の形成が促進されて、これを除去するための純化焼鈍時間が増加し、除去されないAlN析出物とAl2O3のような介在物が最終製品に残留して保磁力を増加させて、最終的に鉄損が増加しうるので、製鋼段階でAlの含有量を0.010重量%以下に積極的に抑制する。さらに具体的には、製鋼工程の負荷を考慮して、Alの含有量を0.001~0.010重量%に制御することが好ましい。
【0034】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、AlおよびSiと反応して、AlNとSi3N4析出物を形成する元素である。本発明の一実施例では、結晶粒成長抑制剤としてAlNを用いないため、製鋼段階でAlを添加しないので、Nを特に任意に添加しない。その理由から、Nの上限は最大0.005重量%に制限する。同時に、Nを添加しないか、最小に添加することが好ましいが、製鋼段階でNを0.0005重量%未満に管理するには製鋼工程の脱窒負荷が大きく増加するため、製鋼段階でNは0.0005~0.005重量%に限定する。本発明の一実施例では、窒化工程を省略可能なため、スラブ内のN含有量と最終方向性電磁鋼板内のN含有量が実質的に同一であってもよい。
【0035】
その他の不純物
上記の元素以外にも、不可避に混入する不純物が含まれる。残部は鉄(Fe)であり、上記の元素以外の追加元素が添加される時、残部の鉄(Fe)を代替して添加される。
【0036】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、Al、Mn、Si、Mg、CaまたはTiを含む介在物が200個/mm2以下で含むことができる。この介在物の形成を制限することによって、介在物による磁気特性の劣化を防止することができる。
また、後述のように、2次再結晶焼鈍の昇温段階で、式3のようにN2を多量に含む雰囲気で焼鈍することによって、前記焼鈍分離剤に添加した硫黄化合物S元素が鋼中に拡散して、Goss結晶粒の2次再結晶が安定的に形成させることができる。もし、式3を満足しない雰囲気条件で焼鈍する場合には、Sが鋼中に拡散できず、H2Sガスを形成して除去が可能である。
【0037】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、鉄損および磁束密度特性に特に優れている。本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、磁束密度(B8)が1.895T以上であり、鉄損(W17/50)が1.01W/kg以下である。この時、磁束密度B8は、800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)であり、鉄損W17/50は、1.7Teslaおよび50Hzの条件で誘導される鉄損の大きさ(W/kg)である。
【0038】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.01~0.1%、Mn:0.005~0.05%、S:0.005~0.02%、Se:0.0005~0.2%並びに、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して、熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階、および1次再結晶焼鈍された鋼板を2次再結晶焼鈍する段階を含む。
【0039】
以下、各段階別に方向性電磁鋼板の製造方法を具体的に説明する。
まず、スラブを加熱する。製鋼段階では、Si、C、Al、Mn、S、Seなどの主要元素を適正な含有量で制御し、必要に応じて、Goss集合組織の形成に有利な合金元素を添加することができる。製鋼段階で成分が調整された溶鋼は、連続鋳造によりスラブに製造される。Twin rollの間に溶鋼を投入して直接熱延鋼板を製造するストリップキャスティング方法を使用することができる。
スラブの組成については、電磁鋼板の組成に関連して具体的に説明したので、重複する説明は省略する。
【0040】
スラブの加熱温度は限定されないが、スラブを1300℃以下の温度に加熱すると、スラブの柱状晶組織が粗大に成長することが防止されて、熱間圧延工程で板のクラックが発生するのを防止することができる。したがって、スラブの加熱温度は、1050℃~1300℃であることがよい。特に、本発明の一実施例では、結晶粒成長抑制剤としてAlNおよびMnSを用いないので、1300℃を超える高温にスラブを加熱する必要がない。
【0041】
次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱間圧延温度は限定されず、一実施例として、950℃以下で熱延を終了することができる。以後、水冷して600℃以下で巻取ることができる。熱間圧延によって1.5~4.0mmの厚さの熱延板に製造することができる。この時、本発明の一実施例では、S、SeおよびMnの含有量を適切に制限することによって、片側エッジクラックが低減される。片側エッジクラックとは、鋼板の幅方向において、鋼板の端部から鋼板の内部方向に発生するクラックを意味する。具体的には、本発明の一実施例において、熱延板の片側エッジクラックの長さは、20mm以下になる。また、熱延板の長手方向にエッジクラックの分布は、10個/mであることがよい。片側エッジクラックの長さが長い場合、それだけ切断量が多くなり、実歩留まりの低下が大きく発生する。さらに、エッジクラックの形成量が多い場合にも、同様に実歩留まりの低下が大きく発生する。本発明の一実施例では、熱延板の片側エッジクラックを最大限に低減することによって、実歩留まりの低下を防止し、生産性を向上させることができる。さらに具体的には、熱延板の片側エッジクラックの長さは、11mm以下になる。
【0042】
次に、必要に応じて、熱延板を熱延板焼鈍することができる。熱延板焼鈍を実施する場合、熱延組織を均一にするために、900℃以上の温度に加熱し、均熱した後に冷却することが好ましい。
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。冷間圧延は、リバース(Reverse)圧延機あるいはタンデム(Tandem)圧延機を用いて、1回の冷間圧延、多数回の冷間圧延、または中間焼鈍を含む多数回の冷間圧延法で0.1mm~0.5mmの厚さの冷延板を製造することがよい。
【0043】
また、冷間圧延中に鋼板の温度を100℃以上に維持する温間圧延を実施することができる。
この冷間圧延による最終圧下率は、50~95%になる。
次に、冷間圧延された冷延板を1次再結晶焼鈍する。1次再結晶焼鈍段階でゴス結晶粒の核が生成される1次再結晶が起こる。1次再結晶焼鈍段階で冷延板の脱炭が行われる。脱炭のために、800℃~950℃の温度および50℃~70℃の露点温度で焼鈍することができる。950℃超過で加熱すれば、再結晶粒が粗大に成長して結晶成長の駆動力が低下して安定した2次再結晶が形成されない。そして、焼鈍時間は、本発明の効果を発揮するのに大して問題にならないが、生産性を考慮して、通常5分以内で処理することが好ましい。
【0044】
また、雰囲気は、水素および窒素の混合ガス雰囲気であることがよい。さらに、脱炭が完了すると、冷延板内の炭素含有量は0.005重量%以下になる。具体的には、炭素含有量は0.003重量%以下になる。また、脱炭と同時に、鋼板の表面に適正量の酸化層が形成される。1次再結晶焼鈍過程で成長した再結晶粒の粒径は、5μm以上になる。本発明の一実施例では、AlN結晶粒成長抑制剤を用いないので、窒化工程を省略することも可能である。
次に、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する。この時、1次再結晶焼鈍が完了した鋼板に焼鈍分離剤を塗布することができる。
【0045】
焼鈍分離剤は、Mg酸化物またはMg水酸化物、および金属硫酸化物または金属硫化物を含むことができる。
一般に、方向性電磁鋼板の製造時、1次再結晶焼鈍段階で鋼板内の酸素親和度が最も高い成分であるシリコン(Si)が酸素と反応して、鋼板の表面にSiO2が形成される。また、焼鈍過程で酸素が次第に鋼板内に侵入すれば、鉄(Fe)系酸化物(Fe2SiO4など)がさらに形成される。つまり、1次再結晶焼鈍工程では、必然的に鋼板の表面に前記SiO2および前記鉄(Fe)系酸化物を含む酸化膜が形成される。
【0046】
このような1次再結晶焼鈍工程の後には、主にマグネシウム酸化物またはマグネシウム水酸化物を含む焼鈍分離剤を鋼板の表面に塗布した後、2次再結晶焼鈍する工程を経るが、この時、酸化膜内のSiO2は、前記マグネシウム酸化物またはマグネシウム水酸化物と反応する。このような反応は、下記の化学反応式1、または化学反応式2で表され、これは、フォルステライト(Mg2SiO4)、つまり、被膜層(1次被膜、ベースコーティング)を形成させる反応に相当する。このようなMg酸化物またはMg水酸化物によって生成される被膜層は、2次再結晶焼鈍過程で2次再結晶が安定的に形成させることができる。
【0047】
[化学反応式1]
2Mg(OH)2+SiO2→Mg2SiO4(フォルステライト)+2H2O
[化学反応式2]
2MgO+SiO2→Mg2SiO4(フォルステライト)+2H2O
方向性電磁鋼板の表面には、特殊な場合を除き、フォルステライトを主体とする被膜層が形成されることが一般的である。被膜層は通常、コイルに巻取られた鋼板間の融着を防止し、鋼板との熱膨張の差による張力を付与して鉄損を減少させる効果および絶縁性を付与する効果がある。
【0048】
本発明の一実施例では、これに加えて、金属硫酸化物または金属硫化物を添加して、Sを鋼板内に拡散させることによって、結晶粒成長抑制剤を補強する。
金属硫酸化物または金属硫化物の金属は特に限定されず、Sr、Mg、Ca、Ba、Ti、SbおよびSnの中から選択される1種以上であってもよい。より具体的には、Mgであることがよい。
【0049】
焼鈍分離剤内のマグネシウム酸化物は、溶媒によってマグネシウム水酸化物としても水和可能であり、マグネシウム酸化物およびマグネシウム水酸化物は1つの成分のように取り扱う。また、金属硫酸化物または金属硫化物も、Sを供給する点で役割が同一であるので、1つの成分として取り扱う。
【0050】
焼鈍分離剤は、マグネシウム酸化物およびマグネシウム水酸化物100重量部に対して、金属硫酸化物または金属硫化物を10~40重量部含むことができる。金属硫酸化物または金属硫化物の量が少なすぎる時には、結晶成長抑制力が不足して、Goss方位の2次再結晶の形成が不安定になる虞がある。金属硫酸化物または金属硫化物が多すぎる場合には、2次再結晶形成のための結晶成長の駆動力と抑制力のバランスが崩れ、磁気的特性が劣化し、鋼板の表面に形成される被膜の均一性が低下する。したがって、金属硫酸化物または金属硫化物の含有量は、前記の範囲内に調節することが必要である。より具体的には、金属硫酸化物または金属硫化物の含有量は、15~30重量部であることがよい。この含有量は、金属硫酸化物または金属硫化物が単独で含まれる場合には、その単独での量であり、すべて含む場合には、その合量を意味する。
【0051】
2次再結晶焼鈍する段階は、昇温段階および均熱段階を含む。昇温段階は、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を均熱段階の温度まで昇温する段階であり、{110}<001>Goss方位の2次再結晶を引き起こす。
昇温段階に際して、鋼板に塗布された金属硫酸化物または金属硫化物が分解してSが鋼中に拡散し、粒界偏析および(Fe、Mn、Cu)(S、Se)複合析出物を形成することによって、Goss方位の2次再結晶を起こすための結晶成長抑制剤として作用することができる。
【0052】
また、昇温段階の後、被膜内のS成分が鋼板に拡散して、鋼板のS含有量は、スラブのS含有量の2倍以上になる。
昇温段階の後、被膜と鋼板との界面から、鋼板の内部方向に形成された硫黄拡散層が形成され、硫黄拡散層は、Sを0.01~0.05重量%含むことができる。
【0053】
この時、Sが鋼中に十分に拡散する前に、2次焼鈍炉の雰囲気制御用として使用される水素と反応して、H2Sガスとして放出されるのを抑制するために、昇温段階における水素と窒素ガスとの混合比率は、下記式3を満足することがよい。
〔式3〕
[N2]≧3×[H2]
(式3中、[N2]および[H2]は、それぞれ雰囲気中のN2およびH2の体積%を意味する。)
【0054】
均熱段階は、鋼板に存在する不純物を除去する過程であって、均熱段階の温度は、1000℃~1250℃であり、20時間以下で行われる。1000℃未満であれば、ゴス結晶粒が十分に成長できず磁性が低下し、1250℃超過時、結晶粒が粗大に成長して電磁鋼板の特性が低下する虞がある。昇温段階は水素および窒素の混合ガス雰囲気で、均熱段階は水素雰囲気、具体的には、水素75体積%以上含む雰囲気で行われる。この時、残りは窒素ガスであってもよい
【0055】
本発明の一実施例において、AlN、MnSなどの結晶粒成長抑制剤を用いないので、これを除去するために、高温で長時間焼鈍する必要がなく、それによって生産性が向上する。
以後、必要に応じて、方向性電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成したり、磁区微細化処理を行うことができる。本発明の一実施例において、方向性電磁鋼板の合金成分は、絶縁被膜などのコーティング層を除いた素地鋼板を意味する。
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
【0056】
実施例1
重量%で、C:0.055%、Si:3.2%、Sb:0.02%、Sn:0.04%、Al:0.008%、N:0.002%および下記表1のようにMn、S、Seの含有量を変化させ、残部Feとその他不可避に含まれる不純物からなるスラブを用意した。
スラブを1200℃の温度に加熱した後、厚さ2.6mmとなるように熱間圧延した。熱延板の片側エッジクラックの発生深さを測定した後、熱間圧延された熱延板を950℃の温度に加熱した後、120秒間均熱して熱延板焼鈍を実施した。
次に、焼鈍された熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して厚さ0.30mmの冷延板に製造した。冷間圧延された鋼板は、露点温度65℃の湿った水素と窒素との混合ガス雰囲気中にて850℃の温度に180秒間維持して脱炭および再結晶熱処理した。
【0057】
この鋼板に、MgOを100重量部およびMgSO4を20重量部含む焼鈍分離剤を塗布した後、コイル状に最終2次再結晶焼鈍を実施した。2次再結晶焼鈍は、1050℃までは75体積%の窒素および25体積%の水素の混合雰囲気に昇温し、1050℃到達後には100体積%の水素ガス雰囲気で20時間維持した後に炉冷した。2次再結晶焼鈍後、鋼板のS含有量は0.005重量%以下、Cの含有量は0.005%以下であった。鋼板の磁束密度(B8、800A/m)および鉄損(W17/50)をsingle sheet測定法を利用して測定し、測定結果とMn、S、およびSe含有量の変化による熱延板での片側エッジクラックの発生量を、下記表1に示した。
【0058】
【0059】
表1から確認されるとおり、スラブ内のS、SeおよびMn含有量を本発明の範囲に制御した発明材の場合、磁束密度と鉄損にすべて優れていた。同時に、熱延板のエッジクラックの発生が20mm以下となった。一方、発明材の中でも、式2をさらに満足する発明材が、式2を満足しない場合に比べて片側エッジクラックの発生がさらに低減され、磁性にさらに優れていることを確認できる。
【0060】
実施例2
重量%で、C:0.061%、Si:3.4%、Mn:0.025%、S:0.005%、Se:0.04%、Sb:0.02%、Sn:0.06%、Al:0.006%、N:0.0015%並びに、残部Feとその他不可避に含まれる不純物からなるスラブを用意した。
スラブを1250℃の温度に加熱した後、厚さ2.3mmとなるように熱間圧延した後、熱延板を1000℃の温度に加熱した後、120秒間均熱して熱延板焼鈍を実施した。
次に、焼鈍された熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して厚さ0.23mmの冷延板に製造した。冷間圧延された鋼板は、露点温度60℃の湿った水素と窒素との混合ガス雰囲気中にて820℃の温度に150秒間維持して脱炭および再結晶熱処理した。
【0061】
この鋼板に、MgOを100重量部および下記表2のようにMgSO4を添加した焼鈍分離剤を塗布した後、コイル状に最終2次再結晶焼鈍を実施した。また、2次再結晶焼鈍の昇温過程で窒素および水素の混合雰囲気の比率を変化させて焼鈍し、1100℃到達後には100体積%の水素ガス雰囲気で15時間維持した後に炉冷した。2次再結晶焼鈍後、鋼板の磁束密度(B8、800A/m)および鉄損(W17/50)をsingle sheet測定法を利用して測定した。
【0062】
【0063】
表2から確認できるとおり、焼鈍分離剤中の硫黄化合物の重量比を本発明の範囲に制御した場合、磁束密度と鉄損にすべて優れていた。また、高温焼鈍昇温過程で窒素と水素の体積%が式3の範囲を満足する場合に限って、磁性特性に優れていた。さらに、熱延板の片側エッジクラックの発生が10mm以下で、エッジクラックの発生頻度が低減された。
【0064】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。