(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230207BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230207BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20230207BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 B
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2021531296
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 KR2019016386
(87)【国際公開番号】W WO2020111741
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】10-2018-0153119
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,デ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュン ス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,イル-ナム
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-193134(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0074455(KR,A)
【文献】特開平05-295447(JP,A)
【文献】特開2012-057190(JP,A)
【文献】特開2017-133080(JP,A)
【文献】特開2007-247022(JP,A)
【文献】特開2017-101311(JP,A)
【文献】特開2014-091855(JP,A)
【文献】特開2006-241503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:
0.21~0.95%、Sb:0.01~0.05%、Sn:0.03~0.08%
、Cr:0.01~0.2%、
Al:0.005~0.04%およびP:0.005~0.045%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記式1を満たすことを特徴とする方向性電磁鋼板。
〔数1〕
4×[Cr]-0.1×[Mn]≧0.5×([Sn]+[Sb])
(式1において、[Cr]、[Mn]、[Sn]および[Sb]はそれぞれCr、Mn、
Sn、Sbの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
Co:0.1重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項
1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
C:0.01重量%以下、N:0.01重量%以下およびS:0.01重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1
または2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
重量%で、Si:2.0~6.0%、C:0.01~0.15%、Mn:
0.21~0.95%、Sb:0.01~0.05%、Sn:0.03~0.08%、Cr:0.01~0.2%、
Al:0.005~0.04%、P:0.005~0.045%、N:0.01%以下およびS:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、下記数1を満たすスラブを加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、
前記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階、および、
前記1次再結晶焼鈍した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階、を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
〔数1〕
4×[Cr]-0.1×[Mn]≧0.5×([Sn]+[Sb])
(数1において、[Cr]、[Mn]、[Sn]および[Sb]はそれぞれCr、Mn、Sn、Sbの含有量(重量%)を示す。)
【請求項5】
前記スラブは下記数2を満たすことを特徴とする請求項
4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
〔数2〕
2×(1.3-[Mn])-2×(3.4-[Si])≦50×[C]≦3×(1.3-[Mn])-2×(3.4-[Si])
(数2において、[Mn]、[Si]および[C]はそれぞれスラブ内のMn、SiおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【請求項6】
前記スラブは下記数3を満たすことを特徴とする請求項
5に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
〔数3〕
5×(1.3-[Mn])-4×(3.4-[Si])-0.5≦100×[C]≦5×(1.3-[Mn])-4×(3.4-[Si])+0.5
(数3において、[Mn]、[Si]および[C]はそれぞれスラブ内のMn、SiおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【請求項7】
前記スラブを加熱する段階で、1250℃以下の温度で加熱することを特徴とする請求項5
または6に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱延板を製造する段階の後、熱延板焼鈍する段階をさらに含み、前記熱延板焼鈍する段階の均熱温度は800~1300℃であることを特徴とする請求項5~請求項
7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷延板を製造する段階は、1回の冷間圧延または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を含むことを特徴とする請求項5~請求項
8のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記1次再結晶焼鈍する段階は脱炭段階および浸窒段階を含み、
前記脱炭段階の後、前記浸窒段階を行うか、
前記浸窒段階の後、前記脱炭段階を行うか、または
前記脱炭段階および前記浸窒段階を同時に行うことを特徴とする請求項5~請求項
9のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記1次再結晶焼鈍する段階の後、焼鈍分離剤を塗布する段階をさらに含むことを特徴とする請求項5~請求項
10のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記2次再結晶焼鈍する段階は、900~1210℃の温度で2次再結晶が完了することを特徴とする請求項5~請求項
11のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法にかかり、より詳しくは、Mn、Cr、Sn、Sbの含有量を適宜制御して磁性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は圧延方向に対して鋼片の集合組織が{110}<001>であるゴス集合組織(Goss texture)を示し、一方向あるいは圧延方向に磁気的特性に優れる軟磁性材料であり、このような集合組織を発現するためには製鋼での成分制御、熱間圧延でのスラブ再加熱および熱間圧延工程因子制御、熱延板焼鈍熱処理、冷間圧延、1次再結晶焼鈍、2次再結晶焼鈍などの複雑な工程が求められ、これらの工程も非常に精密でかつ厳格に管理されなければならない。
前述した手段の他にも板の厚さの減少、Siのような比抵抗増加効果がある合金元素の添加、鋼板での張力付与、鋼板表面の粗度低減、2次再結晶粒大きさの微細化、磁区微細化などが方向性電磁鋼板の鉄損改善に効果的である知られている。
この中で、比抵抗増加による鉄損改善技術としてはSi含有量を増加させる方法が主に知られている。ただし、Si含有量が増大すればするほど素材の脆性が大きく増加して加工性が急激に落ち、これによってSi含有量の増大には限界が存在する。
【0003】
Si含有量が高い方向性電磁鋼板の加工性改善のために表層部にSi含有量が高い別途の層を提供して冷間圧延性を改善できる方法が提案された。しかし、工程が難しく製造原価が高くなるだけでなく表層部の剥離が発生する可能性がある問題がある。
また、Si含有量が高い方向性電磁鋼板を製造する場合、特定の温度および圧下率によって圧延が可能な方法が提案された。しかし、実際の生産では温度および圧下率の制御に製造原価の負担が高まり、商業的生産に適用するには限界がある。
高けい素方向性電磁鋼板の製造方法として、熱間圧延後1次再結晶温度より低い温度領域で温間圧延を実施して集積度に優れるゴス組織を有する技術が提案されたが、温間圧延設備を別に追加しなければならないので製造原価上昇の負担があり、温間圧延中の冷延板の表層部に追加的な酸化が発生して最終的に製造された方向性電磁鋼板の表面特性を劣位させる。
また、方向性電磁鋼板にSn、Sb、Crなどの元素を添加し、脱炭焼鈍板の酸化層を適切に形成する技術が提案された。しかし、この技術はMnが2次再結晶焼鈍工程で集合組織を大きく毀損する原因として説明しており、Mnの含有量を低く制御した。これによって磁性に限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。より具体的には、Mn、Cr、Sn、Sbの含有量を適宜制御して磁性を向上させた方向性電磁鋼板およびこれを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による方向性電磁鋼板は重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.12~1.0%、Sb:0.01~0.05%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、下記数1を満たすことを特徴とする。
〔数1〕
4×[Cr]-0.1×[Mn]≧0.5×([Sn]+[Sb])
(数1において、[Cr]、[Mn]、[Sn]および[Sb]はそれぞれCr、Mn、Sn、Sbの含有量(重量%)を示す。)
【0006】
本発明による方向性電磁鋼板はAl:0.005~0.04重量%およびP:0.005~0.045重量%をさらに含むことを特徴とする。
本発明による方向性電磁鋼板はCo:0.1重量%以下をさらに含むことを特徴とする。
本発明による方向性電磁鋼板はC:0.01重量%以下、N:0.01重量%以下およびS:0.01重量%以下をさらに含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のによる方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~6.0%、C:0.01~0.15%、Mn:0.12~1.0%、Sb:0.01~0.05%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、下記数1を満たすスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階、および1次再結晶焼鈍した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階、を含むことを特徴とする。
〔数1〕
4×[Cr]-0.1×[Mn]≧0.5×([Sn]+[Sb])
(式1において、[Cr]、[Mn]、[Sn]および[Sb]はそれぞれスラブ内のCr、Mn、Sn、Sbの含有量(重量%)を示す。)
【0008】
スラブは下記数2を満たすことを特徴とする。
〔数2〕
2×(1.3-[Mn])-2×(3.4-[Si])≦50×[C]≦3×(1.3-[Mn])-2×(3.4-[Si])
(式2において、[Mn]、[Si]および[C]はそれぞれスラブ内のMn、SiおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【0009】
スラブは下記数3を満たすことを特徴とする。
〔数3〕
5×(1.3-[Mn])-4×(3.4-[Si])-0.5≦100×[C]≦5×(1.3-[Mn])-4×(3.4-[Si])+0.5
(数3において、[Mn]、[Si]および[C]はそれぞれスラブ内のMn、SiおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【0010】
スラブを加熱する段階で、1250℃以下の温度で加熱し、
冷延板を製造する段階は1回の冷間圧延または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を含み、
1次再結晶焼鈍する段階は脱炭段階および浸窒段階を含み、脱炭段階の後、浸窒段階を行うか、浸窒段階の後、脱炭段階を行うか、または脱炭段階および浸窒段階を同時に行い、
1次再結晶焼鈍する段階の後、焼鈍分離剤を塗布する段階をさらに含み、
2次再結晶焼鈍する段階は900~1210℃の温度で2次再結晶が完了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方向性電磁鋼板によれば、Mnを比較的多量含むことによって、比抵抗増加およびMn系硫化物形成による結晶粒成長抑制力の付与とともに鉄損を改善することができる。
また、Cr、Sn、Sbの含有量を適宜制御し、脱炭中の酸化層形成を促進させ、結晶粒成長抑制力を補助することによって、磁性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
本発明の方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.12~1.0%、Sb:0.01~0.05%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる。
以下合金成分の限定理由について説明する。
Si:2.0~6.0重量%
シリコン(Si)は電磁鋼板の基本組成で素材の比抵抗を増加させて鉄損(core loss)を低くする役割をする。Si含有量が過度に少ない場合、比抵抗が減少して渦電流損が増加して鉄損特性が劣化し、1次再結晶焼鈍時フェライトとオーステナイトの間の相変態が活発になって1次再結晶集合組織が大きく毀損される。また、2次再結晶焼鈍時フェライトとオーステナイトの間の相変態が発生して2次再結晶が不安定になるだけでなく{110}ゴス集合組織が大きく毀損される。一方、Si含有量の過剰含有時には1次再結晶焼鈍時SiO2およびFe2SiO4酸化層が過度に緻密に形成されて脱炭挙動を遅延させてフェライトとオーステナイトの間の相変態が1次再結晶焼鈍処理の間持続的に起き、1次再結晶集合組織が大きく毀損される。また、上述した緻密な酸化層の形成による脱炭挙動遅延効果により窒化挙動も遅延して(Al,Si、Mn)NおよびAlNなどの窒化物が十分に形成されず、高温焼鈍時2次再結晶に必要な十分な結晶粒抑制力を確保できなくなる。
また、Siが過量含まれると、機械的特性である脆性が増加して靱性が減少して圧延過程中に板破断発生率が深化され、板間溶接性が劣位になり容易な作業性を確保することができなくなる。結果的にはSi含有量を前記所定の範囲に制御しなければ2次再結晶形成が不安定になって磁気的特性が深刻に毀損され、作業性も悪化する。したがって、Siは2.0~6.0重量%含む。より具体的には3.0~5.0重量%含む。
【0013】
Mn:0.12~1.0重量%
マンガン(Mn)はSiと同様に比抵抗を増加させて渦電流損を減少させることによって全体鉄損を減少させる効果もあり、素鋼状態でSと反応してMn系硫化物を作るだけでなくSiと共に窒化処理によって導入される窒素と反応して(Al,Si、Mn)Nの析出物を形成することによって1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすのに重要な元素である。本発明ではMn含有量の増大による比抵抗の増加により全体鉄損を改善することに目的があるだけでなく、Mn系硫化物による結晶粒成長抑制力の付与にも目的がある。前述したSi含有量範囲内でMnが適切に含まれると、鉄損が改善されることができる。しかし、Mnが過量含まれる場合、鉄損改善効果が奏されなかった。これはオーステナイト相変態量が深化されるだけでなく、脱炭にも長時間が必要とされることにより磁気的特性が劣化する。したがって、Mnを0.12~1.0重量%含む。より具体的にはMnを0.13~1.0重量%含む。より具体的には0.21~0.95重量%含む。さらに、より具体的には0.25~0.95重量%含み、また、具体的には0.3~0.95重量%含む。本発明の一実施例ではMnと共に、Si、Cの適切な添加によってMnを比較的多量添加しても2次再結晶焼鈍工程で集合組織を大きく毀損させない。
【0014】
Sb:0.01~0.05重量%
アンチモン(Sb)は結晶粒界に偏析して結晶粒の成長を抑制する効果があり、2次再結晶を安定化させる効果がある。しかし、融点が低く1次再結晶焼鈍中に表面への拡散が容易であるため、脱炭や酸化層形成および窒化による浸窒を妨げる効果がある。Sbが過度に少なく含まれると、前述した効果を適切に発揮し難い。逆に、Sbを過量添加すると脱炭を妨げてベースコーティングのベースになる酸化層形成を抑制し得る。したがって、Sbを0.01~0.05重量%含む。より具体的には0.01~0.04重量%含む。
Sn:0.03~0.08重量%
スズ(Sn)は結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨げる元素であるため結晶粒成長抑制剤の役割をする。本発明の一実施例では2次再結晶焼鈍時円滑な2次再結晶挙動のための結晶粒成長抑制力が不足するので、結晶粒界に偏析することによって結晶粒界の移動を妨げるSnが必ず必要である。Snが過度に少なく含まれると、前述した効果を適切に発揮し難い。逆に、Snを過量添加する場合は結晶粒成長抑制力が過度に強いため安定した2次再結晶を得ることはできない。したがって、Snの含有量は0.03~0.08重量%含む。より具体的には0.04~0.08重量%含む。
【0015】
Cr:0.01~0.2重量%
クロム(Cr)は熱延板内硬質相の形成を促進して冷間圧延時ゴス集合組織の{110}<001>の形成を促進し、1次再結晶焼鈍過程中に脱炭を促進することによってオーステナイト相変態の維持時間が長くなって集合組織が毀損される現象を防止できるようにオーステナイト相変態の維持時間を減少させる効果を発現する。また、1次再結晶焼鈍過程中に形成される表面の酸化層形成を促進させることによって結晶粒成長補助抑制剤として使用される合金元素のうちSnとSbによって酸化層形成が阻害される短所を解決できる効果がある。Crが少なく含まれる場合、前述した効果を適切に発揮し難い。逆に、Crが過量添加される場合は1次再結晶焼鈍過程中に酸化層形成時より緻密な酸化層が形成されるように助長し、かえって酸化層形成が劣位になり脱炭および浸窒まで妨げ得る。したがって、Crは0.01~0.2重量%含む。より具体的には0.02~0.1重量%含む。
本発明よる方向性電磁鋼板は下記数1を満たす。
〔数1〕
4×[Cr]-0.1×[Mn]≧0.5×([Sn]+[Sb])
(式1において、[Cr]、[Mn]、[Sn]および[Sb]はそれぞれCr、Mn、Sn、Sbの含有量(重量%)を示す。)
数1のようにCr、Mn、Sn、Sbの含有量を適宜制御することによって、1次再結晶焼鈍過程で酸化層の緻密化を防止して脱炭を促進させてオーステナイト相変態によるゴス集合組織の毀損を低減ないし防止することができる。また、1次再結晶焼鈍過程中に形成される酸化層の適切な形成を誘導することによって安定したベースコーティングも作ることができる。
【0016】
本発明による方向性電磁鋼板はAl:0.005~0.04重量%およびP:0.005~0.045重量%をさらに含む。前述したように、追加元素をさらに含む場合、残部であるFeの代わりに添加する。
Al:0.005~0.04重量%
アルミニウム(Al)は熱間圧延と熱延板焼鈍時に微細に析出されたAlNのその他にも冷間圧延以後の焼鈍工程でアンモニアガスによって導入された窒素イオンが鋼中に固溶状態で存在するAl、Si、Mnと結合して(Al,Si,Mn)NおよびAlN形態の窒化物を形成することによって強力な結晶粒成長抑制剤の役割を遂行する。Alが添加される場合、Alの含有量が過度に少ない場合には形成される個数と体積が非常に低い水準であるため抑制剤としての十分な効果を期待することはできない。逆にAlの含有量が過度に高くなると粗大な窒化物を形成することによって結晶粒成長抑制力が落ちる。したがって、Alをさらに含む場合、Alは0.005~0.04重量%をさらに含む。より具体的には0.01~0.035重量%含む。
P:0.005~0.045重量%
リン(P)は結晶粒界に偏析して結晶粒界の移動を妨げて同時に結晶粒成長を抑制する補助的なの役割が可能であり、微細組織の側面から{110}<001>集合組織を改善する効果がある。Pが添加される場合、添加量が過度に小さいと、添加効果がない。逆に添加量が過度に多いと、脆性が増加して圧延性が大きく悪くなる。したがって、Pをさらに含む場合、Pは0.005~0.045重量%をさらに含む。より具体的には0.01~0.04重量%含む。
【0017】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板はCo:0.1重量%以下をさらに含む。
Co:0.1重量%以下
コバルト(Co)は鉄の磁化を増加させて磁束密度を向上させるのに効果的な合金元素であると同時に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる合金元素である。Coを適切に追加する場合、前記効果を追加で得ることができる。Coを過度に多く添加する場合、オーステナイト相変態量が増加して微細組織、析出物および集合組織に否定的な影響を及ぼし得る。したがって、Coを添加する場合、0.1重量%以下とする。より具体的には0.005~0.05重量%含む。
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板はC:0.01重量%以下、N:0.01重量%以下およびS:0.01重量%以下をさらに含む。
C:0.01重量%以下
炭素(C)はフェライトおよびオーステナイトの間の相変態を起こして結晶粒を微細化させて伸び率を向上させるのに寄与する元素として、脆性が強く圧延性が良くない電磁鋼板の圧延性向上のために必須の元素である。ただし、最終的に製造される方向性電磁鋼板に残存する場合、磁気的時効効果によって形成される炭化物を鋼板内に析出させて磁気的特性を悪化させる元素である。したがって、最終的に製造される方向性電磁鋼板ではCを0.01重量%以下含む。より具体的にはCを0.005重量%以下含む。より具体的にはCを0.003重量%以下含む。
【0018】
スラブ内ではCを0.01~0.15重量%含む。スラブ内にCが過度に少なく含有されるとフェライトおよびオーステナイトの間の相変態が十分に起きないためスラブおよび熱間圧延微細組織の不均一化を引き起こし、これによって冷間圧延性まで損なう。一方、熱延板焼鈍熱処理後の鋼板内に存在する残留炭素によって冷間圧延中の転位の固着を活性化させて剪断変形帯を増加させてゴス核の生成場所を増加させて1次再結晶微細組織のゴス結晶粒分率を増加させるのでCが多いほど有利であるように見えるが、スラブ内にCを過度に多く含有すると十分な脱炭を得ることができないだけでなく、これによってゴス集合組織の集積度が低下して2次再結晶集合組織が大きく毀損され、さらに方向性電磁鋼板を電力機器に適用時磁気時効による磁気的特性の劣化現象を招く。したがって、スラブ内ではCを0.01~0.15重量%含む。より具体的にはCを0.02~0.08重量%含む。
【0019】
また、本発明でMnとSi含有量によるC含有量を下記数2を満たす場合、磁性がより向上する。この時、Cの含有量はスラブ内のCの含有量を意味する。
〔数2〕
2×(1.3-[Mn])-2×(3.4-[Si])≦50×[C]≦3×(1.3-[Mn])-2×(3.4-[Si])
(数2において、[Mn]、[Si]および[C]はそれぞれスラブ内のMn、SiおよびCの含有量(重量%)を示す。)
より具体的には下記数3を満たす。
〔数3〕
5×(1.3-[Mn])-4×(3.4-[Si])-0.5≦100×[C]≦5×(1.3-[Mn])-4×(3.4-[Si])+0.5
(数3において、[Mn]、[Si]および[C]はそれぞれスラブ内のMn、SiおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【0020】
N:0.01重量%以下
窒素(N)はAlと反応してAlNを形成する元素である。Nを追加で添加する場合、過度に多く添加すると熱延以後の工程で窒素拡散によるBlisterという表面欠陥を招いて、スラブ状態で窒化物が過度に多く形成されるので圧延が難しくなり、次工程が複雑になる。一方(Al,Si,Mn)N、AlN、(Si,Mn)Nなどの窒化物を形成するために追加で必要なNは冷間圧延以後の焼鈍工程でアンモニアガスを用いて鋼中に窒化処理を実施して補強する。その後、2次再結晶焼鈍工程でNが一部除去されるので、スラブと最終的に製造される方向性電磁鋼板のN含有量が実質的に同一である。Nを追加で添加する場合、Nは0.01重量%以下とする。より具体的には0.005重量%以下、さらに具体的には0.003重量%以下とする。
S:0.01重量%以下
硫黄(S)はMnSの析出物がスラブ内で形成されて結晶粒成長を抑制する役割をする。ただし鋳造時スラブの中心部に偏析して以後工程での微細組織を制御することが難しい。本発明ではMnSを主の結晶粒成長抑制剤として使用しないためSを過量添加する必要はない。ただし一定部分添加する場合、結晶粒成長抑制に役に立つ。Sが添加される場合、Sを0.01重量%以下でさらに含む。具体的にはSを0.005重量%以下さらに含み、より具体的には0.003重量%以下さらに含む。
残部は鉄(Fe)また、不可避不純物からなる。不可避不純物は製鋼および方向性電磁鋼板の製造過程で不可避に混入される不純物を意味する。不可避不純物については広く知られているので、具体的な説明は省略する。
【0021】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階、および1次再結晶焼鈍した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階、を含む。
先ず、スラブを加熱する。スラブの合金組成については方向性電磁鋼板の合金組成と関連して説明したので、重複する説明は省略する。具体的にはスラブは、重量%で、Si:2.0~6.0%、C:0.01~0.15%、Mn:0.12~1.0%、Sb:0.01~0.05%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、下記数1を満たす。
再び製造方法に係る説明に戻ると、スラブを加熱時、1250℃以下で加熱する。これによって固溶されるAlとN、MとSの化学当量的関係によりAl系窒化物やMn系硫化物の析出物が不完全溶体化ないし完全溶体化される。
次に、スラブの加熱が完了すると熱間圧延を行って熱延板を製造する。熱延板の厚さは1.0~3.5mmである。
その後、熱延板焼鈍を実施する。熱延板焼鈍する段階で均熱温度は800~1300℃である。熱延板焼鈍を実施すると、熱延板の不均一な微細組織と析出物を均質化できるが、これを省略することも可能である。
【0022】
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。冷間圧延段階では1回の冷間圧延または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を実施する。冷延板の厚さは0.1~0.5mmである。冷間圧延時の冷間圧下率は87%以上とする。、冷間圧下率が増加するほどゴス集合組織の集積度が増加する。ただしこれより低い冷間圧下率を適用することも可能である。
次に、冷延板を1次再結晶焼鈍する。この時、1次再結晶焼鈍する段階は脱炭段階および浸窒段階を含む。脱炭段階および窒化段階は順序と関係はなく行い得る。すなわち、脱炭段階の後、浸窒段階を行うか、浸窒段階の後、脱炭段階を行うか、または脱炭段階および浸窒段階を同時に行う。脱炭段階でCを0.01重量%以下に、より具体的にはCを0.005重量%以下に脱炭し得る。窒化過程でNを0.01重量%以上に窒化し得る。
1次再結晶焼鈍する段階の均熱温度は840℃~900℃である。
1次再結晶焼鈍する段階の後、鋼板に焼鈍分離剤を塗布する。焼鈍分離剤については広く知られているので、詳しい説明は省略する。一例としてMgOを主成分とする焼鈍分離剤を使用する。
【0023】
次に、1次再結晶焼鈍した冷延板を2次再結晶焼鈍する。
2次再結晶焼鈍の目的は大きは2次再結晶による{110}<001>集合組織の形成、1次再結晶焼鈍時形成された酸化層とMgOの反応によるガラス質被膜の形成による絶縁性付与、磁気特性を損なう不純物の除去である。2次再結晶焼鈍の方法としては2次再結晶が起きる前の昇温区間では窒素と水素の混合ガスで維持して粒子成長抑制剤である窒化物を保護することによって2次再結晶がよく発達できるようにし、2次再結晶が完了した後の均熱段階では100%水素雰囲気で長時間維持して不純物を除去する。
2次再結晶焼鈍する段階は900~1210℃の温度で完了する。
本発明による方向性電磁鋼板は、鉄損および磁束密度の特性に特に優れる。本発明による方向性電磁鋼板は、磁束密度(B8)が1.89T以上で、鉄損(W17/50)が0.85W/kg以下である。この時、磁束密度B8は800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)であり、鉄損W17/50は1.7Teslaおよび50Hz条件で誘導される鉄損の大きさ(W/kg)である。より具体的には本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は磁束密度(B8)が1.895T以上で、鉄損(W17/50)が0.83W/kg以下である。より具体的には方向性電磁鋼板は磁束密度(B8)が1.895~1.92Tで、鉄損(W17/50)が0.8~0.83W/kg以下である。
【0024】
以下、本発明の具体的な実施例を記載する。
実施例1
重量%で、Si:3.4%、S:0.004%、N:0.004%、Al:0.029%、P:0.032%、下記表1のようにMn、C、Sn、Sb、Crを変化させ、残部がFeおよび不可避不純物からなるスラブを1140℃の温度で加熱した後厚さ2.3mmに熱間圧延した。熱延板は1080℃の温度で加熱した後910℃で160秒間維持して水で急冷した。熱延焼鈍板は酸洗した後0.23mm厚さに1回圧延し、冷間圧延された板は850℃の温度で湿水素と窒素およびアンモニア混合ガス雰囲気下で200秒間維持して窒素含有量が190ppm、炭素含有量が30ppmになるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理した。
この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布して最終焼鈍し、最終焼鈍は1200℃までは25体積%窒素+75体積%水素の混合雰囲気で行い、1200℃に到達した後には100体積%水素雰囲気で10時間以上維持後炉冷した。それぞれの条件について磁気的特性を測定した値は表2のとおりである。
【0025】
【表1】
【表2】
表1および表2に示すように、Mn、Cr、Sn、Sb間の関係を適宜制御した発明材は磁性に優れることが確認できる。これに対し、Mn、Cr、Sn、Sb間の関係を満たさない比較材は磁性が劣位であることが確認できる。
【0026】
実施例2
重量%で、Si:3.3%、Mn:0.3%、Al:0.026%、N:0.004%、S:0.004%、Sb:0.03%、Sn:0.06%、P:0.03%、Cr:0.04%、Co:0.02%およびC含有量を表3のように変化させ、残りは残部Feとその他不可避的に含有される不純物からなるスラブを1150℃の温度で加熱した後厚さ2.3mmに熱間圧延した。熱延板は1080℃の温度で加熱した後890℃で160秒間維持して水で急冷した。熱延焼鈍板は酸洗した後0.23mm厚さに1回圧延し、冷間圧延された板は860℃の温度で湿水素と窒素およびアンモニア混合ガス雰囲気下で200秒間維持して窒素含有量が180ppm、炭素含有量が30ppmになるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理した。
この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布して最終焼鈍し、最終焼鈍は1200℃までは25体積%窒素+75体積%水素の混合雰囲気で行い、1200℃に到達した後には100体積%水素雰囲気で10時間以上維持後炉冷した。それぞれの条件について磁気的特性を測定した値は表3のとおりである。
【0027】
【表3】
表3に示すように、発明材の中でも数2を満たす発明材は磁性により優れることが確認できる。また、数2を満たす発明材の中でも数3を同時に満たす発明材は磁性により優れることが確認できる。
【0028】
実施例3
重量%で、Si:3.4%、Al:0.027%、N:0.005%、S:0.004%、Sb:0.02%、Sn:0.07%、P:0.03%、Cr:0.04%、Co:0.03%およびC含有量とMn含有量を表4のように変化させ、残りの成分は残部Feとその他不可避的に含有される不純物からなるスラブを1150℃の温度で加熱した後厚さ2.3mmに熱間圧延した。熱延板は1080℃の温度で加熱した後890℃で160秒間維持して水で急冷した。熱延焼鈍板は酸洗した後0.23mm厚さに1回圧延し、冷間圧延された板は860℃の温度で湿水素と窒素およびアンモニア混合ガス雰囲気下で200秒間維持して窒素含有量が180ppm、炭素含有量が30ppmになるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理した。
この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布して最終焼鈍し、最終焼鈍は1200℃までは25体積%窒素+75体積%水素の混合雰囲気で行い、1200℃に到達した後には100体積%水素雰囲気で10時間以上維持後炉冷した。それぞれの条件について磁気的特性を測定した値は表4のとおりである。
【0029】
【表4】
表4に示すように、発明材の中でも数2および数3を満たす発明材は磁性により優れることが確認できる。