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特許7221491複数の標的核酸を検出するキットを用いる検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】複数の標的核酸を検出するキットを用いる検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20230207BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20230207BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20230207BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12Q1/689 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018173434
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020043789
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】598034720
【氏名又は名称】株式会社ミズホメディー
(74)【代理人】
【識別番号】100097179
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 一幸
(72)【発明者】
【氏名】長野 隆志
(72)【発明者】
【氏名】蛭子 耕一
(72)【発明者】
【氏名】楢原 謙次
(72)【発明者】
【氏名】市丸 和広
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194552(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101168776(CN,A)
【文献】特開2007-236219(JP,A)
【文献】特開2006-068011(JP,A)
【文献】特開2004-305219(JP,A)
【文献】特開2008-173127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
G01N33/00-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の標的核酸を検出するキットを用いる検出方法であって、
変性温度をT0、アニーリング温度をT1、伸長温度をT2、第2標的検出温度をT3とするとき、
前記キットは、
前記変性温度T0において、2本鎖の水素結合が切断され、それぞれ2本の1本鎖に解離する、第1標的核酸及び第2標的核酸を含み得る溶液と、
前記アニーリング温度T1において、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第1標的用プライマーと、
前記アニーリング温度T1において、前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第2標的用プライマーと、
前記アニーリング温度T1において、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第1標的用プローブであって、結合により蛍光シグナルが変化する第1標識物を有するものと、
DNAポリメラーゼと、
前記伸長温度T2において、前記DNAポリメラーゼの作用により、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖及び前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖に結合するデオキシリボヌクレオチド3リン酸と、
前記アニーリング温度T1においては、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖及び前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれにも結合せず、前記第2標的検出温度T3において、前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第2標的用プローブであって、結合により蛍光シグナルが変化する第2標識物を有するものとを含有するものであり、
増幅反応中の特定のサイクル又は全てのサイクル毎に、次の数式による演算を行うことを特徴とする検出方法。
f1[n]=fhyb.1[n]/fden.1[n] (数1)
f2[n]=fhyb.2[n]/fden.2[n] (数1’)
Fr[n]=(a-f2[n])/(a-f1[n]) (数2)
f1[n]:(数1)により算出されたnサイクル目の第1標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.1[n]:nサイクル目の第1標的核酸検出ステップの伸長ステップにおける蛍光強度値
fden.1[n]:nサイクル目の第1標的核酸検出ステップの変性ステップにおける蛍光強度値
f2[n]:(数1’)により算出されたnサイクル目の第1標的及び第2標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.2[n]:nサイクル目の第1標的及び第2標的核酸検出ステップの伸長ステップにおける蛍光強度値
fden.2[n]:nサイクル目の第1標的及び第2標的核酸検出ステップ変性ステップにおける蛍光強度値
a:Frが0以下にならないような定数である。
Fr[n]:第2標的核酸検出のための演算値
【請求項2】
T0>T2≧T1>T3を満たすように温度設定され
しかも、前記第1標識物は前記第2標識物と等しく、且つ、前記第1標識物による前記蛍光シグナルは、前記第2標識物による前記蛍光シグナルに等しい請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
さらに、以下の数式による演算を行う請求項2記載の検出方法。
F1[n]=f1[n]/f1[X] (数3)
F2[n]=f2[n]/f2[X] (数3’)
Fr’[n]=(a-F2[n])/(a-F1[n]) (数2’)
f1[X]:標的核酸が増幅される前の蛍光強度が安定したXサイクル目の蛍光強度値であり、第1標的核酸検出ステップの蛍光強度値の変化の基準として用いる。
f2[X]標的核酸が増幅される前の蛍光強度が安定したXサイクル目の蛍光強度値であり、第1標的及び第2標的核酸検出ステップの蛍光強度値の変化の基準として用いる。
F1[n]:Xサイクル目の(数1)により得られた蛍光強度値を1とした時のnサイクル目の相対値。
F2[n]:Xサイクル目の(数1’)により得られた蛍光強度値を1とした時のnサイクル目の相対値。
Fr’[n]:第2標的核酸検出のための演算値
【請求項4】
複数の標的核酸を検出するキットを用いる検出方法であって、
変性温度をT0、アニーリング温度をT1、伸長温度をT2、第2標的検出温度をT3とするとき、
前記キットは、
前記変性温度T0において、2本鎖の水素結合が切断され、それぞれ2本の1本鎖に解離する、第1標的核酸及び第2標的核酸を含み得る溶液と、
前記アニーリング温度T1において、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第1標的用プライマーと、
前記アニーリング温度T1において、前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第2標的用プライマーと、
前記アニーリング温度T1において、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第1標的用プローブであって、結合により蛍光シグナルが変化する第1標識物を有するものと、
DNAポリメラーゼと、
前記伸長温度T2において、前記DNAポリメラーゼの作用により、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖及び前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖に結合するデオキシリボヌクレオチド3リン酸と、
前記アニーリング温度T1においては、前記第1標的核酸が解離した2本の1本鎖及び前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれにも結合せず、前記第2標的検出温度T3において、前記第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第2標的用プローブであって、結合により蛍光シグナルが変化する第2標識物を有するものとを含有するものであり、
融解曲線分析に、次の数式による演算を行うことを特徴とする検出方法。
f1m=fhyb.1m/fden.1m (数4)
f2m=fhyb.2m/fden.2m (数4’)
Frm=(a-f2m)/(a-f1m) (数5)
f1m:(数4)により算出された融解曲線の第1標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.1m:融解曲線の第1標的用プローブ結合温度における蛍光強度値
fden.1m:融解曲線の第1標的用プローブ解離温度における蛍光強度値
f2m:(数4’)により算出された融解曲線の第1標的及び第2標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.2m:融解曲線の第2標的用プローブ結合温度における蛍光強度値
fden.2m:融解曲線の第2標的用プローブ解離温度における蛍光強度値であり、fden.1mと同じ温度の蛍光強度値(同じ値)
a:Frmが0以下にならないような定数である。
Frm:第2標的核酸検出のための演算値
【請求項5】
前記蛍光シグナルは、アニールすると消光するか、又は、アニールすると発光する請求項1から4のいずれかに記載の検出方法。
【請求項6】
前記第1標的核酸及び前記第2標的核酸は、マイコプラズマ23S rRNA遺伝子の野生型配列と薬剤耐性変異配列、或いは、クラミジア内在性プラスミド遺伝子と淋菌シトシンメチルトランスフェラーゼCMT遺伝子である請求項1から4のいずれかに記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR法を改善し、複数の標的核酸を測定する検出キットを用いる検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査において、複数の標的遺伝子の測定が必要なことも多い。たとえばインフルエンザのA型とB型、インフルエンザとRSV、さらにはヒトメタニューモウイルス、性感染症のクラミジアと淋菌、マイコプラズマとその耐性因子などである。
【0003】
病状が似ている上に同じ時期に同時に感染が拡大する場合などは、これらを鑑別して診断し、治療方針を立てることも考えられる。また、耐性因子の存在は投薬の選定判断などにも使われる。
【0004】
一方、単独の測定項目においても、その測定が本当にうまく進んだかどうかを確認する手段として内部コントロールを設定することも有用である。これは検出目的である標的遺伝子とは関係ない核酸配列を増幅するようにあらかじめ準備しておき、標的遺伝子の有無にかかわらず反応がうまく進んだかどうかを確認できるものである。このことで測定試薬や装置が有効に作用したかどうかを測定内で確認できる。
【0005】
この様に、複数の標的核酸を検出するには、別々の測定を実施するか、或いは、それぞれの標的核酸の検出に異なる標識色素などを用いて識別する手段が考えられる。
【0006】
または、同時に増幅反応を行った後に、緩やかに温度を上昇(または下降)させて、蛍光シグナルの変化率がピークを示す温度と標的核酸の融解温度から識別判断すること(熱融解曲線分析法)も可能である。
【0007】
しかしながら、別々の測定では時間やコストがかかり、異なる標識物を識別することも、複数の標識試薬の準備のみならず分析装置の波長設定などでコストがかかってしまう。
【0008】
熱融解曲線分析法を用いる場合には、コストは低いが緩やかに温度の変化をさせる必要があるため、正確な分析を行うためには5~10分ほどの時間をかけて温度変化を行わなければならない。
【0009】
特許文献1(特開2002-136300号公報)では、異なる反応液が入った複数の反応容器を用意し、それぞれ増幅検出する。項目ごとに試薬調製、分注作業があり手間がかかるという問題点がある。
【0010】
特許文献2(特開2004-203号公報)では、1種類の反応液が入った1つの反応容器で複数の遺伝子を同時増幅する。遺伝子ごとに標識色素を変えておくことで識別する。用いる標識色素の数だけ、検出する装置の光学系が複数必要になってくるため装置のコストが高くなってしまうという問題点がある。
【0011】
特許文献3(特開2008-173127号公報)では、単一の標識を用いて、1種類の反応液が入った1つの反応容器で複数の遺伝子を同時増幅する。項目ごとに、PCR産物や標識プローブの解離温度を変え、増幅後に低温側から高温側に徐々に温度を上昇させ蛍光値をモニタリングする解離曲線分析(「熱融解曲線分析」と同義。)を行い、塩基配列に依存するそれぞれの解離温度におけるピークの有無をモニタリングすることによって識別する。
【0012】
融解曲線分析時の温度変化の速度を上げると各項目の融解温度を識別するのが困難になるため、PCR反応後5~10分ほど時間が余計にかかってしまうという問題点がある。
【0013】
特許文献4(特表2012-513215号公報)では、単一の標識を用いて、1個の反応液容器で複数の遺伝子を同時増幅する。遺伝子ごとに、PCR産物の解離温度とプライマーの融解温度を変え、それぞれの融解温度で蛍光をモニタリングして識別する。
【0014】
通常のPCRプロファイルは1サイクル中に、変性、アニーリング・伸長ステップを設けるが、特許文献4では、項目ごとにPCR産物の融解温度を変えるため、考慮すべき条件が多く、プロファイルの設計が困難であり、測定時間も長くなる。
【0015】
また、温度変化が激しいため、装置の負担も大きいという問題点がある。
【0016】
前述した、単一の標識を用いて、1種類の反応液が入った1つの反応容器で複数の遺伝子を同時増幅する方法に共通の課題が、標的遺伝子やプローブの塩基配列によっては蛍光シグナルが互いに干渉して識別できない点である。
【文献】特開2002-136300号公報
【文献】特開2004-203号公報
【文献】特開2008-173127号公報
【文献】特表2012-513215号公報
【文献】国際公開第2016/194552号公報
【文献】特許第4724380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで本発明は、1種類の反応液が入った1つの反応容器及び単一の標識を用いて、複数の遺伝子を同時に増幅・検出できる、複数の標的核酸を検出するキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の発明に係る検出方法は、複数の標的核酸を検出するキットを用い、増幅反応中の特定のサイクル又は全てのサイクル毎に、次の数式による演算を行うものである。即ち、
【0019】
f1[n]=fhyb.1[n]/fden.1[n] (数1)
f2[n]=fhyb.2[n]/fden.2[n] (数1’)
Fr[n]=(a-f2[n])/(a-f1[n]) (数2)
f1[n]:(数1)により算出されたnサイクル目の第1標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.1[n]:nサイクル目の第1標的核酸検出ステップの伸長ステップにおける蛍光強度値
fden.1[n]:nサイクル目の第1標的核酸検出ステップの変性ステップにおける蛍光強度値
f2[n]:(数1’)により算出されたnサイクル目の第1標的及び第2標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.2[n]:nサイクル目の第1標的及び第2標的核酸検出ステップの伸長ステップにおける蛍光強度値
fden.2[n]:nサイクル目の第1標的及び第2標的核酸検出ステップ変性ステップにおける蛍光強度値
a:Frが0以下にならないような定数である。
Fr[n]:第2標的核酸検出のための演算値
但し、本発明におけるサイクルは、図2において、連続する第1標的核酸及び第2標的核酸の検出ステップと第1標的核酸検出ステップとを合わせて、1サイクルとする。従って本発明における「1サイクル」とは、通常のPCRにおける2サイクル分に相当することに留意されたい。
【0020】
該複数の標的核酸を検出するキットでは、変性温度をT0、アニーリング温度をT1、伸長温度をT2、第2標的検出温度をT3とすると、T0>T2≧T1>T3を満たすように温度設定される。
【0021】
該キットは、変性温度T0において、2本鎖の水素結合が切断され、それぞれ2本の1本鎖に解離する、第1標的核酸及び第2標的核酸を含み得る溶液を用いる。
【0022】
また、該溶液は、アニーリング温度T1において、第1標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第1標的用プライマーと、アニーリング温度T1において、第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第2標的用プライマーと、アニーリング温度T1において、第1標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第1標的用プローブであって、結合により蛍光シグナルが変化する第1標識物を有するものと、DNAポリメラーゼと、伸長温度T2において、DNAポリメラーゼの作用により、第1標的核酸が解離した2本の1本鎖及び第2標的核酸が解離した2本の1本鎖に結合するデオキシリボヌクレオチド3リン酸と、アニーリング温度T1においては、第1標的核酸が解離した2本の1本鎖及び第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれにも結合せず、第2標的検出温度T3において、第2標的核酸が解離した2本の1本鎖のいずれかに特異的に結合する第2標的用プローブであって、結合により蛍光シグナルが変化する第2標識物を有するものとを含有する。
【0023】
しかも、以上において、第1標識物は第2標識物と等しく、且つ、第1標識物による蛍光シグナルは、第2標識物による蛍光シグナルに等しい。
【0024】
好ましくは、さらに、以下の数式による演算を行う。即ち、
F1[n]=f1[n]/f1[X] (数3)
F2[n]=f2[n]/f2[X] (数3’)
Fr’[n]=(a-F2[n])/(a-F1[n]) (数2’)
f1[X]:標的核酸が増幅される前の蛍光強度が安定したXサイクル目の蛍光強度値であり、第1標的核酸検出ステップの蛍光強度値の変化の基準として用いる。
f2[X]標的核酸が増幅される前の蛍光強度が安定したXサイクル目の蛍光強度値であり、第1標的及び第2標的核酸検出ステップの蛍光強度値の変化の基準として用いる。
F1[n]:Xサイクル目の(数1)により得られた蛍光強度値を1とした時のnサイクル目の相対値。
F2[n]:Xサイクル目の(数1’)により得られた蛍光強度値を1とした時のnサイクル目の相対値。
Fr’[n]:第2標的核酸検出のための演算値
【0025】
また第2の発明に係る検出方法は、上記複数の標的核酸を検出するキットを用いた、融解曲線分析に、次の数式による演算を行う。即ち、
【0026】
f1m=fhyb.1m/fden.1m (数4)
f2m=fhyb.2m/fden.2m (数4’)
Frm=(a-f2m)/(a-f1m) (数5)
f1m:(数4)により算出された融解曲線の第1標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.1m:融解曲線の第1標的用プローブ結合温度における蛍光強度値
fden.1m:融解曲線の第1標的用プローブ解離温度における蛍光強度値
f2m:(数4’)により算出された融解曲線の第1標的及び第2標的核酸検出ステップにおける蛍光強度値
fhyb.2m:融解曲線の第2標的用プローブ結合温度における蛍光強度値
fden.2m:融解曲線の第2標的用プローブ解離温度における蛍光強度値であり、fden.1mと同じ温度の蛍光強度値(同じ値)
a:Frmが0以下にならないような定数である。
Frm:第2標的核酸検出のための演算値
【0027】
好ましくは、第1標識物、第2標識物は、Quenching Probe、Exciton probe、hydrolysis Probe、からなる群から選択される。
【0028】
蛍光シグナルは、アニールすると消光するもの、アニールすると発光するもののいずれであってもよい。
【0029】
第1標的核酸及び第2標的核酸は、好ましくは、マイコプラズマ23S rRNA遺伝子の野生型配列と薬剤耐性変異配列、或いは、クラミジア内在性プラスミド遺伝子と淋菌シトシンメチルトランスフェラーゼCMT遺伝子である。
【0030】
本発明は、インターカレーター法で実施しても差し支えない。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本発明によれば、1種類の標識物を用いて複数の標的核酸を、1種類の混合液で検出できる。複数の標的核酸を識別するプローブ設計に関する制限が大幅に少なく、測定時間や解析時間を短縮でき、実用的効果が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明では、図21に示すように、4つの温度、即ち、変性温度T0(95℃)、アニーリング温度T1(70℃)、伸長温度T2(72℃)及び第2標的核酸検出温度T3(55℃)を使用する。これらの温度は、T0>T2≧T1>T3を満たすように温度設定される。勿論、これらの温度数値は、例示に過ぎず、後述するように、種々変更することができる。
【0033】
複数の標的核酸とは、第1標的核酸及び第2標的核酸であるが、必要とあれば、第3標的検出温度T4(T3>T4)等の設定温度を増やすことにより、第3標的核酸その他の標的核酸を追加することもできる。
【0034】
図22を参照しながら、本発明の内容について説明する。まず、本発明では、第1標的核酸10と、第2標的核酸20とを検出対象とする。以下説明の便宜のため、容器1内の溶液2(詳細は後述する。)には、第1標的核酸10と第2標的核酸20の両方が含まれている場合(つまり、陽性と陽性である場合)のみを説明する。
【0035】
勿論、片方又は両方が陰性である場合には、第1標的核酸10と第2標的核酸20の少なくとも一方又は両方が溶液2に含まれていないことになり、以下の説明において、含まれていない標的核酸に関する、蛍光シグナル及び増幅が行われないことになる。
【0036】
図23(a)に示すように、溶液2の温度を上昇させ変性温度T0になると、第1標的核酸10及び第2標的核酸20は、いずれも2本鎖の水素結合が切断され、それぞれ2本の1本鎖(第1標的核酸10は、第1の1本鎖11と第2の1本鎖12に、第2標的核酸20は、第1の1本鎖21と第2の1本鎖22に)解離する。
【0037】
図23(b)に示すように、変性温度T0から温度を下げてアニーリング温度T1になると、第1標的核酸10について、第1標的用Fプライマー13が第1の1本鎖11の相補的な配列に特異的に結合し、第1標的用Rプライマー14が第2の1本鎖12の相補的な配列に特異的に結合する。同様に、第2標的核酸20について、第2標的用Fプライマー23が第1の1本鎖21の相補的な配列に特異的に結合し、第2標的用Rプライマー24が第2の1本鎖22の相補的な配列に特異的に結合する。
【0038】
また、第1標識物16により標識された第1標的用プローブ15が、図23(b)に示すアニーリング温度T1において、第1標的核酸10由来の第1の1本鎖11の特定部位に特異的に結合し、第1標識物16は蛍光サインを発生する。しかしながら、第2標識物26により標識された第2標的用プローブ25は、アニーリング温度T1では第2標的検出温度T3よりも温度が高いため、第2標的核酸20由来の第1の1本鎖21には結合せず、第2標識物26は蛍光サインを発生しない。
【0039】
図23(c)に示すように、温度をアニーリング温度T1から伸長温度T2に上げると、溶液2に、PCRサイクルを繰り返すために十分な量の、DNAポリメラーゼ30とデオキシリボヌクレオチド3リン酸31とが含まれているため、次のように増幅反応が進行する。
【0040】
即ち、第1標的核酸10について、第1の1本鎖11に結合する第1標的用Fプライマー13から、また、第2の1本鎖12に結合する第1標的用Rプライマー14から、それぞれデオキシリボヌクレオチド3リン酸31が結合し伸長してゆく。
【0041】
また、第2標的核酸20について、第1の1本鎖21に結合する第2標的用Fプライマー23から、また、第2の1本鎖22に結合する第2標的用Rプライマー24から、それぞれデオキシリボヌクレオチド3リン酸31が結合し伸長してゆく。
【0042】
そして、増幅反応が完了すると、図23(d)を図22と比較すると分かるように、第1標的核酸10及び第2標的核酸20の両方が、2倍に増えたことになる。
【0043】
再び、図23(a)に示すステップに戻り、以上のステップ(図23(a)~図23(d))を繰り返すと、第1標的物16による蛍光シグナルの変化と増幅反応を繰り返すことができる。
【0044】
次に、図24を参照しながら、変性温度T0から温度を下げて第2標的検出温度T3となる場合について説明する。
【0045】
変性温度T0では、図24(a)に示すように、図23(a)と同様の状態となる。ところが、温度を第2標的検出温度T3に下げると、図23(b)とは異なり、図24(b)に示す状態となる。
【0046】
即ち、図24(b)に示すように、第1標識物16により標識された第1標的用プローブ15が、第1標的核酸10由来の第1の1本鎖11の特定部位に特異的に結合し、第1標識物16の蛍光シグナルが変化する点では、図23(b)と同様であるが、第2標識物26により標識された第2標的用プローブ25も、第2標的検出温度T3となっているため、第2標的核酸20由来の第1の1本鎖21に結合し、第2標識物26の蛍光シグナルが変化する。なお、第1標識物16と第2標識物26は同一であるのが好ましい。
【0047】
第1標的用プローブ15の結合温度T1では第2標的用プローブ25の結合が起こらないため、第1標識物16の蛍光シグナルの変化を捉えることにより、第1標的核酸10の有無(陽性/陰性)を判定できる。
【0048】
本発明では、T1における第1標識物16の蛍光シグナルの変化とT3における第2標識物26による蛍光シグナルの変化との相対的な変化量を捉えることで第2標的核酸20の有無(陽性/陰性)を判定する。
【0049】
しかも、以上説明したところから明らかなように、1種類の反応液が入った1つの反応容器を用いて一連でとぎれないステップ中に複数の標的核酸を検出できることが理解されよう。
【0050】
以下、さらに具体的に、Quenching Probeの代表例としてQProbe(登録商標)法を用いた複数核酸を検出する実施例を示す。実施するのに必要なプライマー配列及び各プローブの塩基配列、核酸試料の情報もあわせて示す。
【0051】
(実施例1)
<QProbe法におけるクラミジア内在性プラスミド遺伝子と淋菌シトシンメチルトランスフェラーゼCMT遺伝子の検出>
【0052】
QProbe法におけるクラミジア・トラコマチスとナイセリア・ゴノレアの同時検出を行う。実施例1では、クラミジア・トラコマチスの内在性プラスミドを標的配列としたpCT、ナイセリア・ゴノレアのシトシンメチルトランスフェラーゼを標的配列としたpNGを、それぞれ核酸試料に用いてPCRを実施し、前記2種類の標的配列に対応する2種類のQProbeで鑑別を行う。
【0053】
〈材料及び方法〉
実施例1におけるPCR法に用いたプライマー対は、(表1)に示すとおりである。
【0054】
【表1】
【0055】
〔核酸試料〕
実施例1でPCR法に用いた核酸試料を以下に示す。
【0056】
(STD CT1)
性器クラミジア感染症の病原体であるクラミジア・トラコマチス共通の内在性プラスミドの遺伝子断片を人工合成後、pMD20Tベクターに組み込んだプラスミドDNA。プラスミドDNAはタカラバイオ株式会社に合成を委託して作製する。
【0057】
(STD NG1)
淋病の病原体であるナイセリア・ゴノレアのシトシンDNAメチルトランスフェラーゼ(CMT)の遺伝子断片を人工合成後、pMD20Tベクターに組み込んだプラスミドDNA。プラスミドDNAはタカラバイオ株式会社に合成を委託して作製する。
【0058】
(核酸試料の調製)
上記のプラスミドの長さは、STD CT1は122bp、STD NG1は137bpである。各プラスミドの長さとプラスミド溶液の濃度(μg/μl)から1μLあたりのコピー数を計算した後、TE緩衝溶液(10mM Tris-HCl 、1.0mM EDTA pH8.0)を用いて、STD CT1、STD NG1共に4.4×102copies/μl又は1.1×106copies/μlとなるように希釈する。
【0059】
(プローブ)
実施例1におけるPCR法に用いるプローブの情報は、(表2)に示すとおりである。
【0060】
【表2】
【0061】
CT QP1は(表1)の配列番号1と配列番号2のプライマー対で増幅し得るPCR産物の塩基配列からJ-Bio21センターのホームページ上のQProbe設計支援ツールを用い計算したTm値を参考にし、特定領域を選択する。NG QP5は(表1)の配列番号3と配列番号4のプライマー対で増幅し得るPCR産物の塩基配列から、J-Bio21センターのホームページ上のQProbe設計支援ツールを用い計算したTm値を参考にし、特定領域を選択する。
STD CT1に特異的にアニールするQProbeであるCT QP1とSTD NG1に特異的にアニールするQProbeであるNG QP5の蛍光色素にはそれぞれBODIPY(登録商標) FLを使用し、それぞれ3‘末端のCを標識する。QProbeは日鉄住金環境株式会社に合成を委託して作製する。
【0062】
(PCR・蛍光測定条件)
実施例1では、1種類の反応液が入った1つの反応容器中で増幅する2つの標的核酸について、第1標的核酸であるSTD CT1に特異的にアニールするQProbe(CT QP1)のTm値をプライマーのTm値よりも高い温度に設定し、増幅反応中に検出する。
【0063】
次に、第2標的であるSTD NG1に特異的にアニールするQProbe(NG QP5)のTm値をCT QP1のTm値よりも低い温度に設定する。従って、CT QP1がSTD CT1に結合すると期待される温度と、それよりも低い温度とでそれぞれ蛍光強度を測定し、判定に使用する。
【0064】
PCR反応液組成、反応条件を(表3)と(表4)に示し、また、混合液の温度変化をグラフ化したものを図1に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
PCR及び蛍光測定には、株式会社ミズホメディーが作製したPCR装置スマートジーン(登録商標)を使用する。
【0068】
蛍光測定時の励起波長と蛍光波長は中心波長525nmに設定する。増幅反応中に第1標的核酸を検出するためのステップ(95℃と67℃)と第1標的核酸及び第2標的核酸を検出するためのステップ(95℃と60℃)で蛍光値を測定する。
【0069】
増幅反応中の蛍光測定条件を図2に示す。
【0070】
(データの処理方法)
QProbeを用いた際の解析方法は、特許文献6に記載されている方法を参考に、得られた生データに対して補正演算処理を行う。
【0071】
増幅反応中の全てのサイクル毎に、(数1)を用いて、nサイクル目の第1標的検出ステップにおける蛍光強度値f1[n]を算出する。算出のための値として第1標的検出ステップ67℃の蛍光強度値fhyb.1[n]と第1標的検出ステップ95℃の蛍光強度値fden.1[n]とを使用する。同様に、増幅反応中の全てのサイクル毎に、(数1’)を用いて、nサイクル目の第1標的及び第2標的検出ステップにおける蛍光強度値f2[n]を算出する。算出のための値として第1標的及び第2標的検出ステップ60℃の蛍光強度値fhyb.2[n]と第1標的及び第2標的検出ステップ95℃の蛍光強度値fden.2[n]とを使用する。
【0072】
次に、増幅反応中の全てのサイクル毎に、(数3)のXを10として、10サイクル目の(数1)により得られた蛍光強度値f1[10]を1とした時のnサイクル目の相対値F1[n]を算出する。又、(数3’)のXを10として、10サイクル目の(数1’)により得られた蛍光強度値f2[10]を1とした時のnサイクル目の相対値F2[n]を算出する。
【0073】
増幅反応の最終サイクルのF1[n]の値であるF1[23]を、第1標的核酸であるクラミジアの判定に用いる。
【0074】
更に、(数2)の定数aを1.1として演算を行い、Fr[n]を算出する。また、(数2')の定数aを1.05として演算を行い、Fr'[n]を算出する。
【0075】
増幅反応の最終サイクルのFr[n]、Fr’[n]の値であるFr[23]、Fr’[23]を、第2標的核酸である淋菌の判定に用いる。判定のフローチャートは、図3に示すとおりである。
【0076】
CT QP1の配列はTm値を73.4℃に、NG QP5の配列はTm値を57.6℃に設定する。そのため、増幅反応中の第1標的検出ステップ(95℃と67℃)ではCT QP1だけが第1標的核酸にアニールすると推測される。又、第1標的及び第2標的検出ステップ(95℃と60℃)では前述のアニーリングだけでなく第2標的核酸へのNG QP5のアニーリングも起こると推測される。従って、第1標的及び第2標的検出ステップの測定値はCT QP1とNG QP5の消光を同時に検出すると推測される。
【0077】
陰性対照(DNAの代わりにTE緩衝液を添加した試料)の増幅曲線は、PCRが終了する23サイクル目まで消光が見られない。増幅曲線を図4に示す。
【0078】
4.4×102 copies/tubeのSTD CT1は、F1[n]及びF2[n]のどちらも増幅曲線の20サイクル付近からCT QP1のアニーリングに伴う消光が観察される。増幅曲線を図5に示す。
【0079】
1.1×106 copies/tubeのSTD CT1は、F1[n]とF2[n]のどちらも増幅曲線の15サイクル付近からCT QP1のアニーリングに伴う消光が観察される。増幅曲線を図6に示す。
【0080】
4.4×102 copies/tubeのSTD NG1は、増幅曲線の22サイクル付近からNG QP5のアニーリングに伴うF2[n]の消光が観察されたが、PCRが終了する23サイクル目までF1[n]の消光は見られない。増幅曲線を図7に示す。
【0081】
1.1×106 copies/tubeのSTD NG1は、増幅曲線の16サイクル付近からNG QP5のアニーリングに伴うF2[n]の消光が観察されたが、PCRが終了する23サイクル目までF1[n]の消光は見られない。増幅曲線を図8に示す。
【0082】
(第1標的核酸の判定)
第1標的核酸であるSTD CT1の有無の判定は、F1[23]の値を用いる。判定するための閾値として、陰性対照のF1[23]の平均値-標準偏差の3倍の値0.9873(N=5)を閾値1として使用する。F1[23]<閾値1の場合、第1標的核酸陽性(クラミジア陽性)とする。
【0083】
陰性対照のF1[23]の値1.0028は閾値1より大きい値となり、第1標的核酸陰性(クラミジア陰性)となる。4.4×102 copies/tubeのSTD CT1のF1[23]の値0.9255、1.1×106 copies/tubeのSTD CT1のF1[23]の値0.8106は、どちらも閾値1より小さい値となりクラミジア陽性と判定される。又、4.4×102 copies/tubeのSTD NG1のF1[23]の値1.0071と、1.1×106 copies/tubeのSTD NG1のF1[23]の値0.9999とは閾値1より大きい値となりクラミジア陰性と判定される。
【0084】
(第2標的核酸の判定)
次に、本発明を利用した第2標的核酸の判定を、23サイクル目のFr[n]、Fr’[n]であるFr[23]、Fr’[23]を用いて行う。
【0085】
第2標的核酸を判定するための閾値として、陰性試料(N=2)、1.1×106 copies/tubeのSTD CT1(N=2)及び4.4×102 copies/tubeのSTD CT1(N=4)の計8例の演算値Fr[23]の平均値+標準偏差の3倍の値1.2312を閾値2とし、演算値Fr'[23]の平均値+標準偏差の3倍の値1.1278を閾値2'として使用する。Fr[23]>閾値2又はFr'[23]>閾値2'の場合、第2標的核酸陽性(淋菌陽性)とする。
【0086】
4.4×102 copies/tubeのSTD CT1のFr[23]は0.8633、Fr'[23]は0.9433となり、STD CT1の1.1×106 copies/tubeのSTD CT1のFr[23]は1.1020、Fr'[23]は1.0664となり、それぞれの閾値よりも小さい値のため淋菌陰性と判定される。
【0087】
4.4×102 copies/tubeのSTD NG1のFr[23]は1.3472、Fr'[23]は1.2803となり、1.1×102 copies/tubeのSTD NG1のFr[23]は2.2578、Fr'[23]は3.0221となり、それぞれの閾値より大きい値のため淋菌陽性と判定される。Fr[23]の値は、第2標的核酸の濃度が高いほど閾値から離れた大きな値になることが示唆される。
【0088】
(比較例1)
実施例1で得られたデータを用いて、特許文献5で開示した第2標的核酸の判定法を利用し、次の数式を用いて比較例による第2標的核酸の判定を行う。
Fs[23]=F2[23]-F1[23] (数6)
【0089】
演算値Fs[23]を第2標的核酸であるSTD NG1の判定に用いる。第2標的核酸を判定するための閾値として、1.1×106 copies/tubeのSTD CT1(N=6)の演算値Fs[23]の平均値-標準偏差の3倍の値-0.0295を閾値3として使用する。Fs[23]<閾値3の場合、第2標的核酸陽性(淋菌陽性)とする。
【0090】
陰性対照の演算値Fs[23]の値-0.0009は閾値3より大きい値となり第2標的核酸陰性(淋菌陰性)となる。4.4×102 copies/tubeのSTD CT1の演算値Fs[23]の値0.0071、4.4×102 copies/tubeのSTD NG1の演算値Fs[23]の値-0.0120、4.4×102 copies/tubeのSTD NG1の演算値Fs[23]の値-0.0120はいずれも閾値3より大きい値となり淋菌陰性と判定される。1.1×106 copies/tubeのSTD NG1の演算値Fs[23]の値-0.1014は閾値3より小さい値となり淋菌陽性と判定される。
【0091】
23サイクル目の相対蛍光値F1[23]及びクラミジア判定の結果と、比較例1及び実施例1における淋菌の判定結果とを(表5)に示す。
【0092】
以上より、従来例を用いた第2標的の判定法は、低濃度の淋菌を識別できないことが示される。これは、高濃度のSTD CT1で生じるF1[23]の変化量と、低濃度のSTD NG1で生じるF1[23]の変化量を識別できないことが原因である。一方、本発明を用いることで、第1標的核酸の濃度に影響されることなく、単一の標識を用いて、1種類の反応液が入った1つの反応容器で複数の遺伝子を同時増幅して鑑別できることが示される。
【0093】
【表5】
【0094】
(実施例2)
<QProbe法における複数標的の同時検出>
【0095】
クラミジア・トラコマチスとナイセリア・ゴノレアとが混合感染した場合、症状の強い一方の感染だけが診断され、他方が見落とされる可能性がある。クラミジア・トラコマチスとナイセリア・ゴノレアとでは、有効な薬剤が異なるため、遺伝子検査を用いた重複感染の鑑別は臨床的有用性が高いと考えられる。しかし、単一の標識を用いて、1種類の反応液が入った1つの反応容器で複数の遺伝子を同時に増幅・検出する場合、各標識プローブの蛍光変化が互いに干渉する可能性があるため、混合感染の鑑別は比較的、難易度が高いと言える。実施例2は、実施例1の材料と方法を使用し、クラミジア・トラコマチス陽性かつナイセリア・ゴノレア陽性の試料を測定し、鑑別を行う。
【0096】
試料として、STD CT1とSTD NG1とがどちらも低濃度である試料1、STD CT1が高濃度でSTD NG1が低濃度である試料2、STD CT1が低濃度でSTD NG1が高濃度の試料3を用いる。
【0097】
試料1は、F1[n]とF2[n]のどちらの増幅曲線も21サイクル付近から消光が観察される。増幅曲線を図9に示す。
【0098】
試料2は、F1[n]とF2[n]のどちらの増幅曲線も15サイクル付近から消光が観察される。増幅曲線を図10に示す。
【0099】
試料3は、F1[n]の増幅曲線は20サイクル付近から消光が観察され、F2[n]の増幅曲線は16サイクル付近から消光が観察される。増幅曲線を図11に示す。
【0100】
(第1標的核酸の判定)
第1標的核酸であるSTD CT1の有無の判定は、F1[23]の値を用いる。判定するための閾値として、実施例1の閾値1(0.9873)を使用する。試料1~試料3のF23[1]の値はそれぞれ0.9414、0.8174、0.9328となり、閾値1より小さい値のため第1標的核酸陽性(クラミジア陽性)と判定される。
【0101】
(第2標的核酸の判定)
次に、実施例1と同様の手順で、本発明による判定を行う。
【0102】
試料1~3のFr’[23]はそれぞれ1.1378、1.1364、1.8587となり、実施例1の閾値2’(1.1278)より大きい値のため淋菌陽性と判定される。
(比較例2)
比較例1と同様の手順で、次の通り比較例による第2標的核酸の判定を行う。
【0103】
試料1のFs[23]の値は-0.0150となり、実施例1の閾値3(-0.0295)より大きい値のため淋菌陰性と判定される。試料2のFs[23]の値は-0.0317、試料3のFs[23]の値は-0.1006となり、どちらも閾値3より小さい値となり淋菌陽性と判定される。
【0104】
23サイクル目の相対蛍光値F1[23]及びクラミジア判定の結果と、比較例2及び実施例2における淋菌の判定結果とを(表6)に示す。
【0105】
以上の通り、比較例を用いた第2標的核酸の判定方法では低濃度の淋菌を識別できないが、本発明を用いると、混合感染を想定した試料においても、第1標的核酸の濃度に影響されることなく、単一の標識を用いて、1種類の反応液が入った1つの反応容器で複数の遺伝子を同時増幅して鑑別できることが示される。
【0106】
【表6】
【0107】
(実施例3)
<QProbe法におけるマイコプラズマ23S rRNA遺伝子の一塩基変異の検出 1>
【0108】
QProbe法におけるマイコプラズマ23S rRNA遺伝子を検出し、一塩基変異の鑑別を行う。
【0109】
〈材料及び方法〉
〔プライマー〕
実施例3におけるPCR法に用いたプライマー対は、(表7)に示すとおりである。
【0110】
【表7】
【0111】
〔核酸試料〕
実施例3でPCR法に用いた核酸試料を以下に示す。
【0112】
マイコプラズマ・ニューモニエの抗菌薬であるマクロライド系薬剤に耐性を持つ株は、23S rRNA遺伝子の塩基配列に変異を持つことが知られている。23S rRNA遺伝子に変異がない標的配列と2063位のAがGに変異した標的配列とを核酸試料に用い、それぞれPCRを実施する。実施例3でPCR法に用いた核酸試料を以下に示す。
【0113】
(STD MCR1)
マイコプラズマ肺炎の病原体であるマイコプラズマ・ニューモニエ由来のリボソームRNAである23S rRNAの遺伝子断片(配列番号7と8のプライマー対で増幅される配列)を人工合成後、pMD20Tベクターに組み込んだプラスミドDNAであり、実施例3の第1標的核酸とする。
【0114】
前記遺伝子断片は23S rRNAの2063位及び2064位を含む配列であり、GenBank Accession No. CP010546(M. pneumoniae FH株由来)の配列を使用する。FH株はマクロライド感受性株であり、2063位の塩基がAの配列を持つ。プラスミドDNAはタカラバイオ株式会社に合成を委託して作製する。
【0115】
(STD MCR2)
前記遺伝子断片の配列としてGenBank Accession No. CP014267(M. pneumoniae C267株由来)の配列を人工合成後、pMD20Tベクターに組み込んだプラスミドDNAであり、実施例3の第2標的核酸とする。プラスミドDNAはタカラバイオ株式会社に合成を委託して作製する。
【0116】
C267株はマクロライド耐性株であり、23S rRNA遺伝子の2063位のAがGに変異した配列を持つ。
【0117】
(核酸試料の調製)
上記のプラスミドの長さは、STD MCR1は2868bp、STD MCR2は2868bpである。
【0118】
各プラスミドの長さとプラスミド溶液の濃度(μg/μl)から1μLあたりのコピー数を計算した後、TE緩衝溶液(10mM Tris-HCl 、1.0mM EDTA pH8.0)を用いて、STD MCR1及びSTD MCR2はそれぞれ1.1×102copies/μl又は1.1×106copies/μlとなるように希釈する。
【0119】
(プローブ)
STD MCR1及びSTD MCR2の増幅は、1種類のQProbeで識別する。実施例3におけるPCR法に用いるプローブの情報は、(表8)に示すとおりである。
【0120】
【表8】
【0121】
(表8)のプライマー対で増幅し得るSTD MCR1のPCR産物の塩基配列から、配列番号9はJ-Bio21センターのホームページ上のQProbe設計支援ツールを用い計算したTm値を参考にし、特定領域を選択する。
【0122】
STD MCR1に特異的にアニールするQProbeであるMCR QP4の蛍光色素にはBODIPY FLを使用し、3‘末端のCを標識する。QProbeは日鉄住金環境株式会社に合成を委託して作製する。
【0123】
MCR QP4は、STD MCR1に100%相同な配列であるが、MCR QP4のTm値より低い温度域では、MCR QP4はSTD MCR1だけでなく、STD MCR2にも結合すると期待される。
【0124】
(PCR・蛍光測定条件)
実施例3では、第1標的核酸であるSTD MCR1に特異的に結合するQProbe(MCR QP4)のTm値をプライマーのTm値よりも高い温度に設定する。MCR QP4が第2標的核酸であるSTD MCR2に結合する温度は第1標的核酸であるSTD MCR1に結合する温度よりも低い温度である。そこで、第1標的核酸であるSTD MCR1に結合すると期待される温度と、それよりも低い温度とでそれぞれ蛍光強度を測定し、判定に使用する。
【0125】
PCR反応液組成、反応条件を(表9)と(表10)に示し、また、混合液の温度変化をグラフ化したものを図12に示す。
【0126】
PCR及び蛍光測定には株式会社ミズホメディーが作製したPCR装置スマートジーンを使用する。蛍光測定時の励起波長と蛍光波長は中心波長525nmに設定する。増幅反応中に第1標的核酸及び第2標的核酸を検出するためのステップ(95℃と55℃)と第1標的核酸を検出するためのステップ(95℃と66℃)において蛍光値を測定する。
【0127】
【表9】
【0128】
【表10】
【0129】
(データの処理方法)
QProbeを用いた際の解析方法は、実施例1と同様の手順で、得られた生データに対して補正演算処理を行う。
【0130】
増幅反応中の全てのサイクル毎に、(数1)を用いて、nサイクル目の第1標的検出ステップにおける蛍光強度値f1[n]を算出する。算出のための値として第1標的検出ステップ66℃の蛍光強度値fhyb.1[n]と第1標的検出ステップ95℃の蛍光強度値fden.1[n]とを使用する。同様に、増幅反応中の全てのサイクル毎に、(数1’)を用いて、nサイクル目の第1標的及び第2標的検出ステップにおける蛍光強度値f2[n]を算出する。算出のための値として第1標的及び第2標的検出ステップ55℃の蛍光強度値fhyb.2[n]と第1標的及び第2標的検出ステップ95℃の蛍光強度値fden.2[n]とを使用する。
【0131】
次に、増幅反応中の全てのサイクル毎に、(数3)のXを10として、10サイクル目の(数1)により得られた蛍光強度値f1[10]を1とした時のnサイクル目の相対値F1[n]を算出する。又、(数3’)のXを10として、10サイクル目の(数1’)により得られた蛍光強度値f2[10]を1とした時のnサイクル目の相対値F2[n]を算出する。
【0132】
F2[n]の値は第1標的核酸の増幅による蛍光シグナルの変化だけでなく、第2標的核酸の増幅による蛍光シグナルの変化をも反映した値である。従って、実施例3では、増幅反応の最終サイクルのF2[n]の値であるF2[23]を、第1標的核酸及び第2標的核酸の有無の判定(マイコプラズマ感染の判定)に用いる。
【0133】
更に、(数2’)の定数aを1.02として演算を行い、Fr’[n]を算出する。
【0134】
増幅反応の最終サイクルのFr’[n]であるFr’[23]の値を、第2標的核酸の有無の判定に用いる。第2標的核酸が陽性の場合、マイコプラズマ陽性かつ標的核酸が薬剤耐性変異を持つことを示す。
【0135】
MCR QP4の配列はTm値を71℃に設定する。PCR中のプローブMCR QP4は第1検出ステップ(95℃と66℃)ではSTD MCR1だけにアニールし、第2検出ステップ(95℃と55℃)ではSTD MCR1とSTD MCR2の両方にアニールすると推測される。増幅反応中のF1[n]とF2[n]をプロットして増幅曲線を作成する。
【0136】
陰性対照(DNAの代わりにTE緩衝液を添加した試料)の増幅曲線には、PCRが終了する23サイクル目まで消光が見られない。増幅曲線を図13に示す。
【0137】
1.1×102 copies/tubeのSTD MCR1は、F1[n]とF2[n]のどちらも増幅曲線の20サイクル付近からMCR QP4のアニーリングに伴う消光が観察される。増幅曲線を図14に示す。
【0138】
1.1×106 copies/tubeのSTD MCR1は、F1[n]とF2[n]のどちらも増幅曲線の12サイクル付近からMCR QP4のアニーリングに伴う消光が観察される。増幅曲線を図15に示す。
【0139】
1.1×102 copies/tubeのSTD MCR2は、増幅曲線の22サイクル付近からMCR QP4のアニーリングに伴うF2[n]の消光が観察されたが、PCRが終了する23サイクル目までF1[n]の閾値(後述)を超えるような消光は見られない。増幅曲線を図16に示す。
【0140】
1.1×106 copies/tubeのSTD MCR2は、増幅曲線の12サイクル付近からMCR QP4のアニーリングに伴うF2[n]の消光が観察される。又、増幅曲線の15サイクル付近からF1[n]にもMCR QP4のアニーリングに伴う消光が観察される。これは、STD MCR2が高濃度の場合、MCR QP4とSTD MCR2との結合による消光がF1[n]に干渉してしまうことが原因と推測される。増幅曲線を図17に示す。
【0141】
(マイコプラズマの判定)
増幅反応の最終サイクルのF2[n]の値であるF2[23]を、マイコプラズ感染の判定に用いる。判定の閾値として、陰性対照のF2[23]の平均値-3SDの値0.9985(N=24)を閾値4として使用する。F2[23]の値と閾値4を比較して、F2[23]<閾値4の場合、マイコプラズマ陽性とする。
【0142】
陰性対照のF2[23]の値1.0070は閾値4を超えていないためマイコプラズマ陰性と判定される。STD MCR1又はSTD MCR2を添加した試料のF2[23]の値は全て閾値4より小さい値となり、マイコプラズマ陽性と判定される。
【0143】
(第2標的核酸の判定)
次の通り本発明による判定を行う。
【0144】
実施例3では、Fr’[23]=(1.02-F2[23])/(1.02-F1[23])]の演算値を第2標的核酸であるSTD MCR2の判定に用いる。判定のための閾値として、1.1×106copies/tubeのSTD MCR1の演算値Fr’[23]の平均値+3SDの値2.8966(N=10)を閾値5として使用する。Fr’[23]>閾値5の場合、第2標的陽性とする。
【0145】
陰性対照の演算値Fr’[23]の値0.9398、1.1×102 copies/tubeのSTD MCR1の演算値Fr’[23]の値1.6209、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR1の演算値Fr’[23]の値1.6153は、いずれも閾値5より小さい値であり、第2標的陰性と判定される。1.1×102 copies/tubeのSTD MCR2の演算値Fr’[23]の値3.8210、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR2の演算値Fr’[23]の値6.1236は、いずれも閾値5より大きい値であり、第2標的陽性と判定される。
【0146】
(比較例3)
比較例1と同様の手順で、次の通り比較例による第2標的核酸の判定を行う。
【0147】
判定のための閾値として、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR1の演算値Fs[23]の平均値-3SDの値-0.1775(N=10)を閾値6として使用する。Fs[23]<閾値6の場合、第2標的陽性とする。
【0148】
陰性対照の演算値Fs[23]の値0.0008、1.1×102 copies/tubeのSTD MCR1の演算値Fs[23]の値-0.0448、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR1の演算値Fs[23]の値-0.0990、1.1×102 copies/tubeのSTD MCR2の演算値Fs[23]の値-0.0568、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR2の演算値Fs[23]の値-0.1732は、いずれも閾値6より大きい値であり、第2標的陰性と判定される。
【0149】
23サイクル目の相対蛍光値F2[23]及びマイコプラズマ判定の結果と、比較例3及び実施例3におけるマイコプラズマの変異判定の結果とを(表11)に示す。
【0150】
以上の通り、比較例による解析ではマイコプラズマ陽性であっても、変異の有無を識別できないことが示される。これは、濃度によってSTD MCR1で生じるFs[23]の変化量と、STD MCR2で生じるFs[23]の変化量を識別できないことが原因である。一方、本発明を用いることで、第1標的核酸の検出温度と第2標的核酸の検出温度とが近接し、各温度の蛍光シグナルの変化が互いに干渉してしまう場合においても、単一の標識を用いて、1種類の反応液が入った1つの反応容器で複数の遺伝子を同時増幅して鑑別できることが示される。
【0151】
【表11】
【0152】
(実施例4)
<QProbe法におけるマイコプラズマ23S rRNA遺伝子の一塩基変異の検出 2>
【0153】
実施例3において、本発明を用いると第1標的核酸の濃度に影響されることなく、第2標的核酸を識別できることが示唆される。実施例4では、実施例3と同じ条件を使用して、第1標的核酸及び第2標的核酸について、それぞれ3濃度の試料を測定し、比較例による第2標的核酸判定のための演算値Fs[23]と本発明による第2標的核酸判定のための演算値Fr’[23]とを算出し、演算値の挙動を比較する。
【0154】
〔核酸試料〕
実施例4でPCR法に用いた核酸試料を以下に示す。
【0155】
(核酸試料の調製)
TE緩衝溶液(10mM Tris-HCl 、1.0mM EDTA pH8.0)を用いて、STD MCR1及びSTD MCR2をそれぞれ10copies/μl、40copies/μl又は1×106copies/μlとなるように希釈し、各試料10例を測定に用いる。
【0156】
(マイコプラズマの判定)
実施例3と同じ方法を用いて、増幅反応の最終サイクルのF2[n]の値であるF2[23]の値を閾値4と比較してマイコプラズマの有無の判定を行う。データは示さないが、全試料のF2[23]が閾値4より小さい値となり、マイコプラズマ陽性と判定される。
【0157】
(第2標的核酸の判定)
次に、実施例3と同様の手順で、本発明による判定を行う。Fr’[23]の結果を図18に示す。Fr’[23]は、第1標的核酸の濃度に影響されることなく一定の値となり、第2標的核酸の濃度が高いほど大きくなる。
【0158】
これは、第1標的核酸を含む試料を測定した場合、F1[n]及びF2[n]の値は、どちらも第1標的核酸の濃度依存的に一定の割合で増減するため、Fr’[n]は第1標的核酸の濃度に関わらず常に一定の値となり、第2標的核酸を含む試料を測定した場合、F2[n]の値だけが、第2標的核酸の濃度依存的に変化するため、Fr’[n]は第2標的核酸の濃度に依存して変化することを示す。
【0159】
(比較例4)
実施例1と同様の手順で、比較例による第2標的核酸の判定を行う。
【0160】
Fs[23]の結果を図19に示す。STD MCR1及びSTD MCR2の演算値は、どちらも濃度が高いほど小さくなり、第1標的核酸のFs[23]と識別可能な第2標的核酸のFs[23]は、1×106copies/μl STD MCR2だけである。
【0161】
以上より、本発明を用いると第1標的核酸の有無に影響されることなく第2標的核酸の判定を行うことが可能であることが示される。
【0162】
(実施例5)
<Qprobe法における融解曲線分析法>
【0163】
1種類の反応液が入った1つの反応容器で、単一の標識を用いて複数の遺伝子を同時に検出する方法として、融解曲線分析がある。しかし、PCR産物や標識プローブの解離温度を十分に離すことができない場合は、複数の標的の融解温度(融解ピーク)が近接するため識別が困難である。PCR中の蛍光シグナルの変化は融解曲線分析時の蛍光シグナルの変化と類似していると考えられるため、本発明は融解曲線分析にも応用できると期待される。
【0164】
(データの処理方法)
実施例3で示した測定は、PCR終了後に融解曲線分析を行う。実施例5は、実施例3のPCR終了後に実施した融解曲線分析のデータを利用して、本発明の方法で融解曲線分析による第1標的核酸と第2標的核酸とを鑑別可能か検証する。
【0165】
55℃から80℃の範囲で融解曲線分析を行い、蛍光強度の生データを取り出し、(数4)を用いて、融解曲線の第1標的検出ステップにおける蛍光強度値f1mを算出する。算出のための値として融解曲線の第1標的用プローブ結合温度66℃の蛍光強度値fhyb.1mと第1標的用プローブ解離温度80℃の蛍光強度値fden.1mとを使用する。同様に、(数4’)を用いて、融解曲線の第2標的検出ステップにおける蛍光強度値f2mを算出する。算出のための値として融解曲線の第1標的用プローブ及び第2標的用プローブの結合温度66℃の蛍光強度値fhyb.2mと第1標的用プローブ及び第2標的用プローブの解離温度80℃の蛍光強度値fden.2mとを使用する。
【0166】
温度変化中の蛍光強度を80℃の蛍光強度を1とした時の相対値(以下、蛍光相対値)として作図し、図20に示す。
【0167】
STD MCR1を添加した試料では68℃付近から73℃付近にかけて急激に蛍光相対値が高くなっており、この温度帯でMCR QP4がSTD MCR1にアニールして蛍光強度が変化することが示される。又、STD MCR2を添加した試料では62℃付近から69℃付近にかけて急激に蛍光相対値が高くなっており、この温度帯でMCR QP4がSTD MCR2にアニールして蛍光強度が変化することが示される。
【0168】
(マイコプラズマの有無の判定)
55℃の蛍光相対値であるf2mの値が80℃の蛍光相対値1より小さい場合を、マイコプラズマ陽性と判定する。陰性対照のf2mは1.0524となりマイコプラズマ陰性となる。1.1×102 copies/tubeのSTD MCR1のf2mは0.8853、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR1のf2mは0.8417、1.1×102 copies/tubeのSTD MCR2のf2mは0.9251、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR2のf2mは0.8437となり、いずれもマイコプラズマ陽性と判定される。
【0169】
(第2標的核酸の判定)
(数5)の定数aを1.0524として演算を行い、Frmを算出する。
【0170】
1.1×102 copies/tubeのSTD MCR1のFrmは2.5567となり、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR1のFrmは1.9943となる。実施例1から4までと同様に、本実施例においても、Frmの値は第1標的核酸の濃度にあまり影響されずほぼ一定の値になることが示唆される。そこで、第2標的核酸を識別するための閾値を2.5567(閾値7)とし、Frmが閾値7より大きい値の場合を第2標的核酸陽性と判定する。
【0171】
1.1×102 copies/tubeのSTD MCR2のFrmは5.5713であり、1.1×106 copies/tubeのSTD MCR2のFrmは6.7274である。これらの値は閾値7より大きい値のためSTD MCR2陽性と判定される。
【0172】
各試料のf2mの値及びマイコプラズマ判定の結果と、frmの値及び変異判定の結果とを表12に示す。
【0173】
以上の結果より、本発明を使用すると、融解の温度ピークを算出するための微分式や近似式などの複雑な演算を実施することなしに、融解曲線分析の蛍光強度のデータから複数の標的を識別できることが示される。
【0174】
【表12】
【図面の簡単な説明】
【0175】
図1】本発明の実施例1における混合液の温度変化を示すグラフ
図2】本発明の実施例1における蛍光測定のタイミング説明図
図3】本発明の実施例1における判定方法を示すフローチャート
図4】本発明の実施例1における陰性対照の蛍光強度変化を示すグラフ
図5】本発明の実施例1における低濃度の第1標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図6】本発明の実施例1における高濃度の第1標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図7】本発明の実施例1における低濃度の第2標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図8】本発明の実施例1における高濃度の第2標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図9】本発明の実施例2における低濃度の第1標識物、低濃度の第2標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図10】本発明の実施例2における高濃度の第1標識物、低濃度の第2標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図11】本発明の実施例2における低濃度の第1標識物、高濃度の第2標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図12】本発明の実施例3における混合液の温度変化を示すグラフ
図13】本発明の実施例3における陰性対照の蛍光強度変化を示すグラフ
図14】本発明の実施例3における低濃度の第1標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図15】本発明の実施例3における高濃度の第1標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図16】本発明の実施例3における低濃度の第2標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図17】本発明の実施例3における高濃度の第2標的核酸の蛍光強度変化を示すグラフ
図18】本発明の実施例4における第1標識物、第2標的核酸のFr演算値の変化を示すグラフ
図19】比較例4における第1標識物、第2標的核酸のFs演算値の変化を示すグラフ
図20】本発明の実施例5における融解曲線の蛍光強度変化を示すグラフ
図21】本発明における温度変化の拡大図
図22】本発明の実施例1における混合液成分を示す説明図
図23】(a)本発明の実施例1における変性ステップの説明図 (b)本発明の実施例1におけるアニーリングステップの説明図 (c)本発明の実施例1における伸長ステップの説明図 (d)本発明の実施例1における伸長完了ステップの説明図
図24】(a)本発明の実施例1における変性ステップの説明図 (b)本発明の実施例1におけるアニーリングステップの説明図
【符号の説明】
【0176】
1 容器
2 溶液
10 第1標的核酸
13 第1標的用Fプライマー
14 第1標的用Rプライマー
15 第1標的用プローブ
16 第1標識物
20 第2標的核酸
23 第2標的用Fプライマー
24 第2標的用Rプライマー
25 第2標的用プローブ
26 第2標識物
30 DNAポリメラーゼ
31 デオキシリボヌクレオチド3リン酸
T0 変性温度
T1 アニーリング温度
T2 伸長温度
T3 第2標的検出温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
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