(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】合成皮革の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20230207BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230207BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230207BHJP
D06P 1/44 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
D06N3/14 102
B32B27/12
B32B27/40
D06P1/44 H
(21)【出願番号】P 2021575697
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001769
(87)【国際公開番号】W WO2021157351
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2020019859
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501409740
【氏名又は名称】第一化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517027620
【氏名又は名称】株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】梶原 英俊
(72)【発明者】
【氏名】本多 幸男
(72)【発明者】
【氏名】矢部 智之
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-022803(JP,A)
【文献】特開昭59-100778(JP,A)
【文献】特開昭59-100779(JP,A)
【文献】特開平02-061181(JP,A)
【文献】特開2008-050733(JP,A)
【文献】特開平09-241978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
D06P 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布上に表皮層を有する合成皮革の製造方法であって、
(i)天然染
料である染料と、ポリウレタン樹脂とを含む表皮層組成物を、離型性基材上に塗布して乾燥し、表皮層を形成する工程、
(ii)基布上に表皮層を積層させる工程、
を含
み、
工程(i)において、染料は、染料粉末の形態、または、染料抽出液および染料粉末の両方の形態でポリウレタン樹脂と混合される、製造方法。
【請求項2】
表皮層において、染料はポリウレタン樹脂に均一に分散されている、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
天然染料は、植物由来天然染料、動物由来天然染料、および鉱物由来天然染料から選択さ
れる、請求項1
または2に記載の製造方法。
【請求項4】
染料は、植物由来天然染料を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(i)において、染料は
、染料抽出液および染料粉末の両方の形態でポリウレタン樹脂と混合される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
ポリウレタン樹脂は、水系ポリウレタン樹脂または溶剤系ポリウレタン樹脂である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
基布は、繊維の編布、織布、または不織布である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(ii)の前に、基布上に多孔質層を形成する工程を含み、
工程(ii)において、多孔質層上に表皮層を積層させる、請求項1~
7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(ii)の後に、エンボス加工を施す工程を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(ii)の後に、表皮層上に表面処理層を形成する工程を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(ii)の前または後に、離型性基材を表皮層から剥離する工程を含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
染料粉末の平均粒子径が1~50μmである、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料を用いて染色された合成皮革の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、織物、編物、不織布等に造面加工をしたもので、靴、鞄、衣料、自動車内装材、インテリア、家具等に広く用いられている。合成皮革は、乾式法により製造される乾式合成皮革と、湿式法により製造される湿式合成皮革とに大別される。乾式合成皮革は、基布にポリウレタン樹脂などの合成樹脂製の表皮層を接着させて一体化したものである。一方、湿式合成皮革は、基布と表皮層の間に発泡ポリウレタンなどの多孔質層を介在させたものである。
【0003】
合成皮革は用途に応じて様々な色に着色されて用いられる。合成皮革の着色としては顔料を用いた方法と染料を用いた方法がある。顔料を用いた着色は、一般に顔料が混合された合成樹脂液をコーティングする方法により行われる。このような着色方法は工法的には簡易であるが、発色性や深みに乏しい傾向がある。特に、濃色や鮮明色の合成皮革を製造するために、顔料を大量に樹脂液に配合して使用すると、合成皮革の堅牢度などの物性が著しく低下するという問題があった。一方、染料を用いた着色は、一般に基布上に樹脂製の表皮層が形成された合成皮革を酸性染料や反応染料などで染色する方法(いわゆる後染め方法)により行われる(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3)。染料を用いた着色は顔料着色と比較して透明感や深みのある着色が得られる。しかし、酸性染料を用いた染色物は色移りしやすいという問題があった。また、反応染料を用いる場合には特殊な可染性樹脂や染色性を向上させるための追加の添加物を使用する必要があり、使用する樹脂材料が限定されるという問題があった。さらに、染料により染色された合成皮革は、色落ちしやすく、堅牢度が悪いという問題がある。このような問題から、合成皮革の着色は主に、顔料を用いて行われており、染料を用いた着色は、未だに一般的な方法とはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-251685号公報
【文献】特開平6-235177号公報
【文献】特開平4-41783号
【発明の概要】
【0005】
このような状況の下、染料を用いて着色された合成皮革を製造するための新規な方法が望まれている。
【0006】
本発明は、下記の実施形態を含む。
[1] 基布上に表皮層を有する合成皮革の製造方法であって、
(i)天然染料および化学染料から選択される少なくとも1種の染料と、ポリウレタン樹脂とを含む表皮層組成物を、離型性基材上に塗布して乾燥し、表皮層を形成する工程、
(ii)基布上に表皮層を積層させる工程、
を含む、製造方法。
[2] 工程(i)において、染料は、染料抽出液および染料粉末の少なくとも一つの形態でポリウレタン樹脂と混合される、[1]に記載の製造方法。
[3] 表皮層において、染料はポリウレタン樹脂に均一に分散されている、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 天然染料は、植物由来天然染料、動物由来天然染料、および鉱物由来天然染料から選択され、
化学染料は、分散染料、反応性染料、酸性染料、および建染染料からなる群より選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 染料は、植物由来天然染料を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] ポリウレタン樹脂は、水系ポリウレタン樹脂または溶剤系ポリウレタン樹脂である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 基布は、繊維の編布、織布、または不織布である、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 工程(ii)の前に、基布上に多孔質層を形成する工程を含み、
工程(ii)において、多孔質層上に表皮層を積層させる、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 工程(ii)の後に、エンボス加工を施す工程を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 工程(ii)の後に、表皮層上に表面処理層を形成する工程を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11] 工程(ii)の前または後に、離型性基材を表皮層から剥離する工程を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] 表皮層は、表皮層の全重量に対して、染料を0.1~10重量%含み、ポリウレタン樹脂を90~99.9重量%含む、[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 表皮層の厚みは、0.1~30μmであり、
基布の厚みは、0.2~2mmである、[1]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
【0007】
本発明は以下の一以上の効果を有する。
(1)簡便かつ低コストな方法で、染料により着色した合成皮革が得られる。
(2)本発明の製造方法は、様々な染料に適用可能である。
(3)摩擦堅牢度に優れる(好ましくはJIS L0849に規定の摩擦試験機II形(学振形)法に準じた摩擦堅牢度が乾燥試験及び湿潤試験において3級以上、より好ましくは4級以上の)合成皮革が得られる。
(4)染料が表皮層中のウレタン樹脂に分散されることで、色移りが軽減または抑制された合成皮革が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態の合成皮革の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の合成皮革の概略断面図である。
【
図3】実施例1および2における合成皮革の製造手順の概略を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明に範囲に含まれる。また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は特記されない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0010】
[合成皮革]
合成皮革は、基布上に表皮層を有する。合成皮革は、乾式合成皮革または湿式合成皮革のいずれでもよい。以下、図面を用いて、本実施形態の製造方法で得られる合成皮革の構成について説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係る合成皮革を示す概略断面図である。合成皮革10は、基布11上に表皮層12を備える。表皮層12は、基布11の表面に、接着剤層13を介して接着されている。一実施形態に係る合成皮革は、基布11上に接着剤層13および表皮層12がこの順に積層されており、基布11が接着剤層13に接着され、表皮層12が接着剤層13に接着されている。
接着剤層13を省略し、表皮層12を基布11上に直接接着させてもよい。
合成皮革10は、表皮層12上に、さらに表面処理層14を有している。表面処理層14は任意に配置される層であり、省略することができる。合成皮革10は、上記の他、中間層、中間発泡層などの層を有していてもよい。
【0012】
図2は本発明の一実施形態に係る合成皮革を示す概略断面図である。合成皮革20は、基布21上に、多孔質層25を有し、さらに、多孔質層25上に表皮層22を備える。多孔質層25は基布21上に接着している。多孔質層25を有することにより天然皮革に近い柔軟な風合いとボリューム感を合成皮革に付与することができる。そして、表皮層22は、多孔質層25の表面に、接着剤層23を介して接着されている。なお、合成皮革20においても、接着剤層23を省略することができ、表皮層22を多孔質層25上に直接接着させてもよい。合成皮革20は、表皮層22上に、さらに表面処理層24を有しているが、当該表面処理層24を省略することができる。合成皮革20は、上記の他、中間層、中間発泡層などの層を有していてもよい。
【0013】
図1および
図2において、表皮層12、22は、染料と、ポリウレタン樹脂とを含んで構成され、染料がポリウレタン樹脂に均一に分散された構造を有している。染料が表皮層中のウレタン樹脂に分散されて内包されることで、合成皮革10は堅牢度が向上するとともに色移りが抑制されたものとなる。
【0014】
図1および
図2において、表皮層12,22の接着剤層とは反対面には、所望により、皮革様等の任意の凹凸模様や絞(シボ)模様を設けることができる。
【0015】
本発明の一形態は上記の合成皮革を製造する方法に関する。該製造方法は、基布上に表皮層を有する合成皮革の製造方法であって、以下の工程(i)および(ii)を含む。
(i)天然染料および化学染料から選択される少なくとも1種の染料と、ポリウレタン樹脂とを含む表皮層組成物を、離型性基材上に塗布して乾燥し、表皮層を形成する工程(表皮層形成工程)
(ii)基布上に表皮層を積層させる工程(積層工程)
本実施形態の方法では、上記工程(i)において、染料を含有する表皮層組成物を用いて表皮層が形成されるため、染料成分をポリウレタン樹脂に分散され、かつ、内包された構造とすることができる。これにより、染色むらを抑制できるとともに、堅牢度を向上させることができる。本実施形態の方法によれば、従来行われていた後染めの場合に必要となる追加の染色工程が不要となるため、染色のための追加の設備も必要とされず、簡便かつ低コストに、染色された合成皮革が得られる。さらに、本実施形態の方法は、特殊な可染性樹脂に限定されず、多様なポリウレタン樹脂に対して適用可能であるという利点も有する。
【0016】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、さらに、以下の(iii)、(iv)、(v)、および(vi)の少なくとも1つの工程を含む。
(iii)工程(ii)の前に、基布上に多孔質層を形成する工程(多孔質層形成工程)
(iv)工程(ii)の後に、エンボス加工を施す工程(エンボス加工工程)
(v)工程(ii)の後に、表皮層上に表面処理層を形成する工程(表面処理工程)
(vi)工程(ii)の前または後に、離型性基材を表皮層から剥離する工程(離型性基材剥離工程)
【0017】
以下、合成皮革の製造方法の各工程について順に説明する。
【0018】
(i)表皮層形成工程
本工程では、表皮層組成物を、離型性基材上に塗布して乾燥し、表皮層を形成する。
(a)表皮層組成物の調製
表皮層組成物は、天然染料および化学染料から選択される少なくとも1種の染料と、ポリウレタン樹脂と、必要に応じてその他の樹脂成分および各種添加剤とを含む。
表皮層組成物の調製方法は特に制限されず、例えば、ポリウレタン樹脂と、染料と、必要に応じてその他の樹脂成分および各種添加剤(その他の成分)とを混合することにより形成される。混合条件は特に制限されず、染料成分が樹脂成分に均一に分散または溶解する条件であればよい。
【0019】
(ポリウレタン樹脂)
ポリウレタン樹脂のタイプは、溶剤系または水系など特に限定されないが、溶剤系または水系ポリウレタン樹脂が好ましい。溶剤系または水系ポリウレタン樹脂を用いる場合、有機溶剤または水もしくは水性溶剤によって液状化したポリウレタン樹脂の溶液に、染料、必要に応じてその他の成分を添加し、混合することで、表皮層組成物が得られる。一実施形態において、ポリウレタン樹脂は溶剤系ポリウレタン樹脂である。一実施形態において、ポリウレタン樹脂は水系ポリウレタン樹脂である。水系ポリウレタン樹脂は、安全性などの面から好ましい。
【0020】
ポリウレタン樹脂としては特に制限されず、従来から合成皮革の表皮層に用いられているものを用いることができる。例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、及びこれらの変性物(例えば、シリコーン変性されたポリウレタン樹脂)などが挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、耐摩耗性を向上させたシリコーン変性されたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(高滑性ウレタン樹脂)を用いてもよい。
【0021】
ポリウレタン樹脂は、市販品を用いてもよいし、ポリオール、イソシアネート、及び鎖伸長剤を溶剤中で従来公知の方法により重合反応させることにより合成されたものを用いてもよい。
ポリウレタン樹脂は、単独で用いることも、2種類以上を併用して用いることもできる。
【0022】
(染料)
本発明に用いうる染料には特に制限はなく、天然染料および化学染料から選択される少なくとも1種の染料が用いられる。染料は、染色物が目的とする色相に応じて適宜選択される。染料は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
染料は、染料抽出液および染料粉末の少なくとも一つの形態でポリウレタン樹脂と混合されることが好ましい。
【0024】
本明細書において、染料粉末とは、(1)染料成分が集まってなる粒子状物質または(2)染料成分を含む天然物を粉砕してなる粒子状物質を指す。
【0025】
(1)染料成分が集まってなる粒子状物質の例としては、化学染料が集まって粒子状となったものや天然染料が集まって粒子状となったものが挙げられ、例えば、染料成分を慣用の方法により溶媒で抽出して得た染料抽出液の溶媒を乾燥させることにより得ることができる。このようにして得られる(1)染料成分が集まってなる粒子状物質は、染料を主成分とする粒子であり、通常、粒子(100重量%)の80重量%以上、さらには90重量%以上、さらには95重量%以上、さらには99重量%以上が染料成分(染料化合物)から構成されている。好ましくは、1)染料成分が集まってなる粒子状物質は、染料成分(染料化合物)から実質的になる粒子であり、95重量%以上(さらには99重量%以上、特に100重量%)が染料成分(染料化合物)から構成されている。
【0026】
(2)染料成分を含む天然物を粉砕してなる粒子状物質としては、植物、動物、および鉱物などの染料成分を含有する天然資源を粉砕(微粉化)して粒子状としたものが挙げられる。かかる粒子における染料成分の含有量(含有割合)は特に制限されず、例えば、0.01重量%~100重量%である。
【0027】
一実施形態において、染料粉末は、上記(1)染料成分が集まってなる粒子状物質である。
一実施形態において、染料粉末は、上記(2)染料成分を含む天然物を粉砕してなる粒子状物質である。
【0028】
染料粉末を用いる場合、その平均粒子径は特に制限されないが、一例をあげると10nm~100μmである。粒子径が小さいほど溶媒への溶解性または分散性に優れる一方で、粒子が凝集しやすくなる。かかる観点から、1~50μmが好ましく、10~30μmがより好ましい。本明細書では、「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒子径のことを指すものとする。平均粒子径の測定方法は、JIS Z8825に記載の動的光散乱法やレーザー回折光法で求めることができる。
【0029】
染料抽出液とは、染料成分(染料化合物)が溶媒中に溶解または分散された溶液を意味する。染料抽出液は、染料成分を慣用の方法により溶媒で抽出することにより得られる。
染料抽出液としては、市販品を用いてもよいし、植物、動物、鉱物などの天然資源を抽出溶媒として用いて抽出したものを用いてもよい。
抽出方法としては、慣用の方法、例えば、天然資源に、乾燥、細断、粉砕などから選択された少なくとも1つの処理を施した後、適当な抽出溶媒を用いて、常圧又は加圧下、室温又は加熱下で抽出し、必要に応じて精製・濃縮する方法などが挙げられる。濃縮及び精製方法としては、ろ過、遠心分離、蒸留、クロマトグラフィー、透析などを挙げることができる。抽出効率を高めるために、乾燥、凍結乾燥、細断、粉砕などの処理を施したものを用いるのが好ましい。得られた抽出液は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
抽出溶媒としては、水、親水性溶媒、親油性溶媒、およびこれらの混合物が使用できる。抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、n-オクタノール、シクロヘキサノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;鎖状エーテル(例えば、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ジメトキシエタンなど)、環状エーテル(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、モノ又はジアルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのセロソルブ類、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのカルビトール類など)などのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジn-アルキル(D610A)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチルなどのエステル類;四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロヘプタンなどの脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ギ酸、酢酸などのカルボン酸類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジンなどの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
表皮層組成物のポリウレタン樹脂として、水系ポリウレタン樹脂を用いる場合には、水系ポリウレタン樹脂と抽出溶媒との親和性、および、安全性などの向上の面から、抽出溶媒として水または親水性溶媒を用いることが好ましい。具体的には、上述した抽出溶媒のうち、水;アルコール類;カルボン酸類などが挙げられる。
表皮層組成物のポリウレタン樹脂として、溶剤系ポリウレタン樹脂を用いる場合には、溶剤系ポリウレタン樹脂と抽出溶媒との親和性の面から、抽出溶媒として親油性溶媒を用いることが好ましい。具体的には、上述した抽出溶媒のうち、エーテル類;ケトン類;エステル類;ハロゲン化炭化水素類;脂肪族炭化水素類;脂環式炭化水素類;芳香族炭化水素類;ニトリル類;非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。
【0031】
また、染料抽出液は、上記の染料粉末を溶媒に溶解して、必要に応じて、不純物や不溶成分(溶け切らなかった染料成分)を濾過等の精製処理により取り除いて得られたものであってもよい。
溶媒としては、上記抽出溶媒として例示したものを使用することができる。
【0032】
一実施形態において、染料は、染料抽出液の形態でポリウレタン樹脂と混合される。このような場合には、表皮層の厚みを薄くした場合にも安定して加工できる。
一実施形態において、染料は、染料粉末の形態でポリウレタン樹脂と混合される。このような場合には、色落ちが一層抑制された合成皮革が得られる。
一実施形態において、染料は、染料抽出液および染料粉末の両方の形態でポリウレタン樹脂と混合される。このような場合には、より深みのある濃い色を出すことができる。
【0033】
天然染料としては、植物由来天然染料、動物由来天然染料、および鉱物由来天然染料から選択される少なくとも1種が挙げられる。
植物由来天然染料としては、例えば、植物の葉、茎、樹皮、根、花、および/または実などを粉体化したもの、これらの粉末から抽出した液体若しくは粉末からなる草木染料が代表的なものとして挙げられる。具体的には、草木染料の色素として、インドール誘導体、カロチノイド類、ジケトン類、イソヒノハン誘導体、アントシアン類、クロロフィル(葉緑素)、カルコン誘導体、フラボノイド類、タンニン類、ナフトキノン誘導体、ジヒドロピラン誘導体、アントラキノン誘導体などが挙げられるが、本発明はこれらに制限されない。
動物由来天然染料としては、例えば、イボニシ等から得られる貝紫やエンジムシから得られるコチニールなどが挙げられる。
鉱物由来天然染料としては、例えば、火成岩、変成岩、堆積岩、放射線を放出する放射性岩石から成り、0.01~3μmの粒径に微粉化したものが好適に適用できる。
天然染料は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい
【0034】
化学染料としては、分散染料、反応性染料、酸性染料、および建染染料から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらは市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。
【0035】
一実施形態において、染料は、植物由来天然染料を含む。
【0036】
その他の樹脂成分としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂などの合成樹脂が挙げられる。これらの合成樹脂は、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
表皮層組成物は、必要に応じて、着色剤、充填剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、架橋剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0037】
表皮層における染料およびポリウレタン樹脂の含有量は特に制限されないが、表皮層の全重量に対して、染料を0.1~10重量%含み、ポリウレタン樹脂を90~99.9重量%含むことが好ましい。
その他の樹脂成分および各種添加剤を含む場合、表皮層の全重量に対して、その他の樹脂成分の含有量(複数種類を含む場合には合計含有量)は0~5重量%であることが好ましく、各種添加剤の含有量(複数種類を含む場合には合計含有量)は0~5重量%であることが好ましい。
【0038】
(b)表皮層組成物の塗布、乾燥
次いで、表皮層組成物を、離型性基材上に塗布して乾燥し、表皮層を形成する。
塗布方法は、特に制限されず、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコート等の公知の方法が挙げられる。
乾燥方法としては、特に制限されず、適宜、適切な方法が採用され得る。必要により熱処理を行う。熱処理の条件は特に制限されず、塗膜が乾燥できる温度及び乾燥時間であればよい。熱処理の一例をあげると、例えば40℃~200℃、好ましくは50℃~180℃、より好ましくは70℃~170℃の温度で、例えば、5秒~30分、好ましくは5秒~20分、より好ましくは10秒~10分の乾燥時間である。
塗布厚みも特に制限されず、用途に応じて適宜選択されるが、乾燥後の表皮層の厚みが、好ましくは0.1~30μmとなるように塗布されることが好ましい。表皮層の厚みが上記範囲内であれば、軽量性や耐久性に優れた合成皮革が得られる。
【0039】
離型性基材としては、特に制限されず、ポリウレタン樹脂を含む表皮層組成物に対して離型性を有する基材、あるいは離型処理を施した基材であればよい。例えば、離型紙、離型処理布、撥水処理布、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂などからなるオレフィンシートまたはフィルム、フッ素樹脂シートまたはフィルム、離型紙付きプラスチックフィルムなどを挙げることができる
離型性基材として、表面に凹凸模様や絞模様などの立体形状を有するシートを用いると、凹凸形状や絞形状の表面を有する表皮層を形成することが可能である。
離型性基材は、続く積層工程の前または後に、表皮層表面から剥離される。
【0040】
上記工程により、天然染料および化学染料から選択される少なくとも1種の染料と、ポリウレタン樹脂とを含む表皮層を形成することができる。当該表皮層において、染料は、ポリウレタン樹脂に均一に分散されている。
【0041】
(ii)積層工程
本工程では、基布上に表皮層を積層させる。基布上に他の層(例えば多孔質層)が存在する場合には、他の層上に表皮層を積層させる。表皮層の積層方法は、特に制限されない。
具体的には、離型性基材上に形成された表皮層の表面に接着剤組成物を塗布し、乾燥させて接着層を形成させ、この接着層と基布(または基布上に他の層が設けられた場合には他の層)とを貼り合わせる方法が挙げられる。あるいは、別法としては、基布(または基布上に他の層が設けられた場合には他の層)の表面に接着剤組成物を塗布し、乾燥させて接着層を形成させ、この接着層と表皮層とを貼り合わせる方法を使用してもよい。
【0042】
基布としては特に制限されず、従来合成皮革の基材として使用されているものを使用可能である。基布としては、例えば、繊維の編布、織布、または不織布が挙げられる。基布は単層であってもよいし、多層構造を有していてもよい。
【0043】
編布、織布、または不織布を構成する繊維としては、熱可塑性樹脂からなる合成繊維、天然繊維、再生繊維、半合成繊維(ジアセテート、トリアセテート等)、セルロース系繊維(レーヨン、綿、麻等)、動物性繊維(羊毛、絹、羽毛等)、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)などが挙げられる。
合成繊維を形成する熱可塑性樹脂としては、繊維形成能を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のほか、これらを主体とし、さらにイソフタル酸を共重合成分として用いた低融点ポリエステルなどのポリエステル類;ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、プロピレンと他のα-オレフィンとの二元又は三元共重合体などのポリオレフィン類;ポリアミド6、ポリアミド66などのポリアミド類;もしくはこれらの混合物や共重合体などを用いることができる。
繊維は、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
不織布または織編物の構成繊維には、必要に応じて、難燃剤、つや消し剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、防ダニ剤などの各種添加剤を含有もしくは含浸させることができる。
【0045】
基布として編布または織布を用いる場合、織物の織り方や編物の編み方は特に限定されるものではない。例えば編布であれば、丸編;トリコット編物、ラッセル編物のような経編などの編物が挙げられる。
基布として不織布を用いる場合、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれであってもよい。不織布の製造方法については特に限定されないが、好ましくは、長繊維不織布であればスパンボンド法やメルトブロー法などが、短繊維不織布であればカーディング法やエアレイ法などが挙げられる。不織布としては、特に、上層を構成する繊維構造体と下層を構成する繊維構造体とが機械的交絡により積層された2層構造を有する不織布が好適である。
【0046】
基布の厚みは、特に制限されないが、0.2~2mmが好ましい。基布の厚みが上記範囲内であれば、軽量で、かつ機械的特性に優れた合成皮革が得られる。
【0047】
例えば、表皮層は、接着剤を用いて接着剤層を介して基布上に積層し、接着させることができる。積層の前または後に離型性基材を剥離することにより、
図1に示す乾式合成皮革が得られる。具体的には、表皮層の表面に接着剤をロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコート等により塗布して乾燥することにより接着剤層を形成し、次いで、接着剤層の表面と基布とを、必要に応じて加圧して、密着させる方法が挙げられる。乾燥温度は特に制限されないが、密着性の観点から、完全に乾燥させない条件が好ましく、一例をあげると、50~70℃の温度である。加圧する場合の圧力も特に制限されないが、一例をあげると、0.1~0.5MPaである。
【0048】
接着剤層を形成する接着剤は特に制限されず、従来合成皮革における接着剤として使用されているものを使用可能である。表皮層との接着力の観点からは、表皮層を形成する樹脂と同種の樹脂からなる接着剤であるポリウレタン系接着剤を用いるのが好ましい。ポリウレタン系接着剤としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、ポリエステル系ポリウレタン接着剤、ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤、もしくは、これらの変性物、又はこれらの複合型が挙げられる。接着剤層を形成する接着剤は、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
接着剤層は、接着性を低下させることがない限りにおいて、これに有色ビーズ、顔料、染料などの着色剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0049】
接着剤層の厚みは、特に制限されないが、50~100μmが好ましい。接着剤層の厚みが上記範囲内であれば、軽量性や機械的強度に優れた合成皮革が得られる。
【0050】
(iii)多孔質層形成工程
本実施形態の製造方法は、工程(ii)積層工程の前に、基布上に多孔質層を形成する工程を含んでもよい。多孔質層は、基布と表皮層との間(接着剤層を有する場合には基布と接着剤層との間)に形成することが好ましい。上述した工程(ii)において、基布上に形成された多孔質層上に表皮層を積層させることにより、基布上に、多孔質層と、表皮層と、が順に積層された構造の合成皮革が得られる。
多孔質層を設けることで、柔軟な風合、適度な反発性および弾力性が付与される。多孔質層は気泡が均一に分散した多孔質構造を有するものが好ましい。気泡が均一に分散していることで、合成皮革に良好な耐摩耗性、強度、および平滑性が付与されるとともに、色斑などの発生も抑制される。
【0051】
多孔質層は、多孔質構造を有するものであれば特に制限されず、従来湿式合成皮革の多孔質層として用いられるものを使用できる。例えば、多孔質層は、一般的な基布含浸法により作製することができる。具体的には、基布に樹脂溶液を含浸させて樹脂溶液中の溶剤と水を置換し、乾燥することで、基布上に多孔質層を形成する方法;樹脂溶液を塗布した基材を凝固浴へ浸漬する、または、水蒸気により部分的に凝固させ次いで凝固浴へ浸漬することにより、樹脂溶液中の溶剤と凝固浴の溶剤(樹脂の非溶剤または貧溶剤)を置換し、乾燥することで、基布上に多孔質層を形成する方法などが挙げられる。これらの多孔質層の形成方法については、例えば、特開平7-132573号や特開昭54-38996号などに記載されている。
【0052】
多孔質層を形成する樹脂としては、ポリウレタンが好ましい。ポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン等が挙げられる。中でも、耐加水分解性、耐熱劣化性等の点から、ポリカーボネート系ポリウレタンが好ましい。
多孔質層を形成するための樹脂溶液は、主剤となる樹脂及び溶剤に加え、必要に応じて、各種添加剤などのその他の成分を含有することができる。
【0053】
あるいは、多孔質層は、熱可塑性エラストマーに気泡発生物質(発泡剤)を添加して発泡させることにより形成されたものであってもよい。具体的には、特開2006-307359号に開示されるように、熱可塑性エラストマー(熱可塑性エラストマー組成物)に気泡発生物質を必要に応じて着色剤、酸化防止剤などの他の成分と共に添加し、それを押出成形機などを用いて加熱加圧下に溶融混練して溶融状態で多孔化した膜状に押し出すことにより多孔質層を形成する溶融製膜法などを採用することができる。
【0054】
多孔質層の厚みは、多孔質層を形成する材料の種類や合成皮革の用途などによって適宜調整される。一般に、20~800μm、30~600μm程度にすると、皮革様の風合を積層体に付与し、しかも表面強度や屈曲に対する耐久性などを付与できるので好ましい。
【0055】
(iv)エンボス加工工程
本実施形態の製造方法は、工程(ii)の後に、エンボス加工を施す工程を含んでもよい。
エンボス加工の方法としてはエンボスロールによる転写、ベルト法、金属模様のプレス法等が挙げられる。
【0056】
(v)表面処理工程
本実施形態の製造方法は、工程(ii)の後に、表皮層上に表面処理層を形成する工程を含んでもよい。表面処理層を設けることで、合成皮革の耐摩耗性、高触感、意匠性、防汚性、および摩擦堅牢度が向上し得る。
【0057】
表面処理層は樹脂から構成されることが好ましい。中でも、耐摩耗性の観点から、ポリウレタン系樹脂が好ましい。中でも、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、これらの変性物(特にシリコーン変性されたポリウレタン樹脂)などが好ましく挙げられる。樹脂のタイプは、無溶剤系、溶剤系、水系など特に限定されない。
【0058】
表面処理層は、必要に応じて、公知の添加剤、例えば、平滑剤、架橋剤、艶消し剤、レベリング剤等を含むことができる。
【0059】
表面処理層の形成方法は特に制限されないが、例えば、表皮層上に、表面処理層を形成するための樹脂組成物を塗布し、乾燥して表面処理層を形成することにより行われる。表皮層上へ樹脂組成物を塗布して乾燥する方法は特に制限されず、表皮層組成物と同様の方法を用いることができる。表面処理層は、基布上に表皮層を形成した後、離型性基材を表皮層から剥離して露出した表皮層の表面に表面処理層を形成してもよいし、離型性基材に表面処理層を形成した後に、表面処理層上に表皮層を形成し、その後基布に積層し、接着させてもよい。
上述したエンボス加工を行う場合、エンボス加工は、表面処理層形成後に、表面処理層に対して行ってもよいし、表面処理層形成前に、表皮層に対して行ってもよい。
【0060】
表皮層と表面処理層の厚みの合計は、特に制限されないが、一例をあげると、2~150μmである。
合成皮革の最表面になる層は、多孔質でないこと、すなわち無孔質であることが好ましい。最表面層が無孔質であることにより、耐摩耗性を向上させることができる。
【0061】
さらに、合成皮革に耐久性のある防水性を付与するために、撥水処理を行ってもよい。撥水処理には公知の撥水剤を適宜用いることができる。また、さらに仕上げセットを施して、合成皮革の品質を向上させてもよい。また、必要に応じて、撥水処理後、ペーパー処理等を行ってもよい。
【0062】
(vi)離型性基材剥離工程
本実施形態の製造方法は、工程(ii)の前または後に、離型性基材を表皮層から剥離する工程を含んでもよい。
【0063】
本実施形態の製造方法により製造される合成皮革は、基布と表皮層とを必須の構成部材とし、さらに、接着剤層、多孔質層、および表面処理層を有するものであるが、これらに加えて必要に応じて、各層の間に、1層または2層以上の層(その他の層)を備えていてもよい。その他の層としては、表皮層の表面物性及び外観の少なくともいずれかを制御する機能を有する層、例えば、中間層、中間発泡層等が挙げられる。
合成皮革の最表面になる層は、多孔質でないこと、すなわち無孔質であることが好ましい。最表面層が無孔質であることにより、耐摩耗性を向上させることができる。
【0064】
合成皮革は、JIS L0849に規定の摩擦試験機II形(学振形)法に準じた摩擦堅牢度が乾燥試験及び湿潤試験において3級以上であることが好ましく、4級以上であることがより好ましく、4~5級以上であることが特に好ましい。
【0065】
合成皮革は、特に限定されないが、例えば、靴、鞄、衣料、自動車内装材(例えば、自動車用シート、天井材、ダッシュボード、ドア内張材またはハンドルなど)、インテリア、家具(例えばソファー、椅子など)等の各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を参照して詳述するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。実施例中の「%」および「部」は重量基準であるものとする。また、得られた合成皮革の評価は、以下の方法に従った。
【0067】
(摩擦堅牢度)
摩擦堅牢度の評価は、JIS L0849:2013(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)9.2 摩擦試験機II形(学振形)法の乾燥試験に準じて行った。
学振型染色堅ろう度試験機(安田精機製作所製)を用いて、JIS L0803:2011に規定の白綿布(綿3-1号)で試料へ摩擦処理を施した後、白綿布の汚染の度合いをJIS L0805:2005に規定の汚染用グレースケールを用いて級判定することによって、摩擦堅牢度を評価した。
【0068】
[製造例1]抹茶染料抽出DMFの調製
DMF(ジメチルホルムアミド) 100重量部、抹茶染料粉末(豊島株式会社製「Food Textile」、平均粒子径30μm) 1重量部をビーカーに入れた状態で1時間静置した。その後ろ過し、抹茶染料抽出DMFを得た。
【0069】
[製造例2]分散染料抽出DMFの調製
DMF 100重量部、分散染料粉末(三菱ケミカル株式会社製「Dianix Red AC-E」) 1重量部をビーカーに入れた状態で1時間静置した。その後ろ過し、分散染料抽出DMFを得た。
【0070】
[製造例3]コーヒー染料抽出蒸留水の調製
蒸留水 100重量部、コーヒー染料粉末(豊島株式会社製「Food Textile」、平均粒子径30μm) 1重量部をビーカーに入れた状態で1時間静置した。その後ろ過し、コーヒー染料抽出蒸留水を得た。
【0071】
[製造例4]分散染料抽出蒸留水の調製
蒸留水 100重量部、分散染料粉末(三菱ケミカル株式会社製「Dianix Red AC-E」) 1重量部をビーカーに入れた状態で1時間静置した。その後ろ過し、分散染料抽出蒸留水を得た。
【0072】
[実施例1]
図3に示すフロー図にしたがって、合成皮革を製造した。
(1)表皮層用配合液の調製
溶剤系ポリカーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製「レザミンP-880」)100重量部、抹茶染料粉末(豊島株式会社「Food Textile」)0.1重量部、製造例1で得た抹茶染料抽出DMF 0.1重量部をミキサーにて2000rpmの回転速度で、3分間攪拌し、表皮層用配合液を得た。
(2)接着剤層用配合液の調製
ポリエーテル/カーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製「UD-8373BL」)100重量部、DMF 20重量部、MEK(メチルエチルケトン)30重量部、架橋剤(大日精化工業株式会社製「RESAMINE NE-架橋剤」)8重量部をミキサー(2000rpm)にて、3分間攪拌し、接着剤層用配合液を得た。
(3)合成皮革の製造
離型紙(旭ロール株式会社製「ARX-1 Semi Matte Type」)上に、上記で得た表皮層用配合液をバーコーターにて塗布した(塗布厚25μm)、熱風乾燥機を使用して120℃で5分間乾燥させることにより表皮層(厚さ5μm)を得た。更にこの表皮上に上記で得た接着剤層用配合液をバーコーターにて塗布した後(塗布厚200μm、乾燥後の厚さ100μm)、熱風乾燥機を使用して80℃で1分間乾燥させ、グラビアロール(プレス圧0.35MPa、送り速度1.5m/分)を用いて、基材(ポリエステル100%丸編み布、厚さ0.8mm)と貼り合わせた。その後、熱風乾燥機を使用して120℃で、3分間乾燥させ、さらに同乾燥機にて70℃で、2日間エージングさせることにより合成皮革1を得た。
合成皮革1は、染料成分がポリウレタン樹脂に均一に分散された表皮層を有し、染色むらも確認されず、抹茶色の自然感ある独特の色相を呈した。
合成皮革1の表皮層中に含まれる染料の含有量は、表皮層の全重量に対して、1重量%であり、ポリウレタン樹脂の含有量は99重量%である(仕込み量から算出)。
【0073】
[実施例2]
図3に示すフロー図にしたがって、合成皮革を製造した。
(1)表皮層用配合液の調製
溶剤系ポリカーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製「レザミンP-880」)100重量部、分散染料粉末(三菱ケミカル株式会社「Dianix Red AC-E」)0.1重量部、製造例2で得た分散染料抽出DMF 0.1重量部をミキサーにて2000rpmの回転速度で、3分間攪拌し、表皮層用配合液を得た。
(2)接着剤層用配合液の調製
ポリエーテル/カーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製 「UD-8373BL」)100重量部、DMF 20重量部、MEK(メチルエチルケトン)30重量部、架橋剤(大日精化工業株式会社製「RESAMINE NE-架橋剤」)8重量部をミキサーにて2000rpm、3分間攪拌し接着剤層用配合液を得た。
(3)合成皮革の製造
離型紙(旭ロール株式会社製「ARX-1 Semi Matte Type」)上に、上記で得た表皮層用配合液をバーコーターにて塗布した(塗布厚25μm)、熱風乾燥機を使用して120℃で5分間乾燥させることにより表皮層(厚さ5μm)を得た。更にこの表皮上に上記で得た接着剤層用配合液をバーコーターにて塗布した後(塗布厚200μm、乾燥後の厚さ100μm)、熱風乾燥機を使用して80℃で1分間乾燥させ、グラビアロール(プレス圧0.35MPa、送り速度1.5m/分)を用いて、基材(ポリエステル100%丸編み布、厚さ0.8mm)と貼り合わせた。その後熱風乾燥機を使用して120℃で、3分間乾燥させ、さらに同乾燥機にて70℃、2日間エージングさせることにより合成皮革2を得た。
合成皮革2は、染料成分がポリウレタン樹脂に均一に分散された表皮層を有し、染色むらも確認されず、鮮やかな色彩であった。
合成皮革2の表皮層中に含まれる染料の含有量は、表皮層の全重量に対して、1重量%であり、ポリウレタン樹脂の含有量は99重量%である(仕込み量から算出)。
【0074】
[実施例3]
図3に示すフロー図にしたがって、合成皮革を製造した。
(1)表皮層用配合液の調製
水系ポリカーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製「レザミン D-9087」)100重量部、コーヒー染料粉末(豊島株式会社「Food Textile」)0.1重量部、製造例3で得たコーヒー染料抽出蒸留水 0.1重量部、増粘剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-87 増粘剤」) 0.8重量部、レベリング剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-340 レベリング剤」) 0.8重量部、架橋剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-52 架橋剤」) 1重量部、消泡剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-79 消泡剤」) 0.2重量部をミキサーにて2000rpmの回転速度で、3分間攪拌し、表皮層用配合液を得た。
(2)接着剤層用配合液の調製
ポリエーテル/カーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製「UD-8373BL」)100重量部、DMF 20重量部、MEK(メチルエチルケトン)30重量部、架橋剤(大日精化工業株式会社製「RESAMINE NE-架橋剤」)8重量部をミキサー(2000rpm)にて、3分間攪拌し、接着剤層用配合液を得た。
(3)合成皮革の製造
離型紙(旭ロール株式会社製「ARX-1 Semi Matte Type」)上に、上記で得た表皮層用配合液をバーコーターにて塗布した(塗布厚25μm)、熱風乾燥機を使用して120℃で5分間乾燥させることにより表皮層(厚さ5μm)を得た。更にこの表皮上に上記で得た接着剤層用配合液をバーコーターにて塗布した後(塗布厚200μm、乾燥後の厚さ100μm)、熱風乾燥機を使用して80℃で1分間乾燥させ、グラビアロール(プレス圧0.35MPa、送り速度1.5m/分)を用いて、基材(ポリエステル100%丸編み布、厚さ0.8mm)と貼り合わせた。その後、熱風乾燥機を使用して120℃で、3分間乾燥させ、さらに同乾燥機にて70℃で、2日間エージングさせることにより合成皮革3を得た。
合成皮革3は、染料成分がポリウレタン樹脂に均一に分散された表皮層を有し、染色むらも確認されず、コーヒー色の自然感ある独特の色相を呈した。
合成皮革3の表皮層中に含まれる染料の含有量は、表皮層の全重量に対して、1重量%であり、ポリウレタン樹脂の含有量は99重量%である(仕込み量から算出)。
【0075】
[実施例4]
図3に示すフロー図にしたがって、合成皮革を製造した。
(1)表皮層用配合液の調製
水系ポリカーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製「レザミン D-9087」)100重量部、分散染料粉末(三菱ケミカル株式会社「Dianix Red AC-E」) 0.1重量部、製造例4で得た分散染料抽出蒸留水 0.1重量部、増粘剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-87 増粘剤」) 0.8重量部、レベリング剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-340 レベリング剤」) 0.8重量部、架橋剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-52 架橋剤」) 1重量部、消泡剤(大日精化工業株式会社製「レザミン D-79 消泡剤」) 0.2重量部をミキサーにて2000rpmの回転速度で、3分間攪拌し、表皮層用配合液を得た。
(2)接着剤層用配合液の調製
ポリエーテル/カーボネート系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製「UD-8373BL」)100重量部、DMF 20重量部、MEK(メチルエチルケトン)30重量部、架橋剤(大日精化工業株式会社製「RESAMINE NE-架橋剤」)8重量部をミキサー(2000rpm)にて、3分間攪拌し、接着剤層用配合液を得た。
(3)合成皮革の製造
離型紙(旭ロール株式会社製「ARX-1 Semi Matte Type」)上に、上記で得た表皮層用配合液をバーコーターにて塗布した(塗布厚25μm)、熱風乾燥機を使用して120℃で5分間乾燥させることにより表皮層(厚さ5μm)を得た。更にこの表皮上に上記で得た接着剤層用配合液をバーコーターにて塗布した後(塗布厚200μm、乾燥後の厚さ100μm)、熱風乾燥機を使用して80℃で1分間乾燥させ、グラビアロール(プレス圧0.35MPa、送り速度1.5m/分)を用いて、基材(ポリエステル100%丸編み布、厚さ0.8mm)と貼り合わせた。その後、熱風乾燥機を使用して120℃で、3分間乾燥させ、さらに同乾燥機にて70℃で、2日間エージングさせることにより合成皮革4を得た。
合成皮革4は、染料成分がポリウレタン樹脂に均一に分散された表皮層を有し、染色むらも確認されず、鮮やかな色彩であった。
合成皮革4の表皮層中に含まれる染料の含有量は、表皮層の全重量に対して、1重量%であり、ポリウレタン樹脂の含有量は99重量%である(仕込み量から算出)。
【0076】
得られた合成皮革の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0077】
表1に示すとおり、本発明の製造方法により得られた実施例1~4の合成皮革は、摩擦堅牢度が高く(4~5級)、色落ちおよび外部への色移りのしにくいものであることが確認された。
本発明により、簡便な方法で、染料により染色された合成皮革が得られることが確認された。
【0078】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2020-019859号(2020年2月7日出願)の特許請求の範囲、明細書の開示内容を包含する。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の方法は、染料により着色した合成皮革を製造するものである。得られた合成皮革は、靴、鞄、衣料、自動車内装材(例えば、自動車用シート、天井材、ダッシュボード、ドア内張材またはハンドルなど)、インテリア、家具(例えばソファー、椅子など)等の広範な用途に使用することができる。
【符号の説明】
【0080】
10、20 合成皮革
11、21 基布
12、22 表皮層
13、23 接着剤層
14、24 表面処理層
25 多孔質層