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特許7221511タンパク質標的核酸アプタマー、その製造方法、及び標的タンパク質の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】タンパク質標的核酸アプタマー、その製造方法、及び標的タンパク質の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20230207BHJP
   C12Q 1/6811 20180101ALI20230207BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C12N15/115 Z
C12Q1/6811 Z ZNA
G01N33/532 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018128424
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020005544
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】福田 将虎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎一
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-536018(JP,A)
【文献】特表2004-527220(JP,A)
【文献】Live-Cell Imaging of Endogenous mRNAs with a Small Molecule,Angewandte Chemie International Edition,2015年,Volume 54, Issue 6,pp. 1855-1858
【文献】細胞内エネルギー代謝に関係するタンパク質の細胞内動態観察を可能とする基盤技術の創生,京都大学エネルギー理工学研究所ゼロエミッションエネルギー研究拠点共同利用・共同研究成果報告書平成29年度,2018年03月,pp. 116-117,http://www.iae.kyoto-u.ac.jp/zero_emission/docs/2017ze_houkokusho.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12Q 1/00- 3/00
G01N 33/532
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム-ループ構造を形成して蛍光クエンチャーを認識する第1オリゴヌクレオチドと、該第1オリゴヌクレオチドの5’側に配置される第2オリゴヌクレオチドと、第1オリゴヌクレオチドの3’側に配置される第3オリゴヌクレオチドとを含み、該第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドが協同して標的タンパク質を認識し、
前記第1オリゴヌクレオチドが、前記ループ構造の途中にループ構造から突出する少なくとも1つの第2のステム-ループ構造を形成する塩基配列を有する、タンパク質標的核酸アプタマーを含む標的タンパク質検出剤。
【請求項2】
前記第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドの塩基数は、それぞれ独立して10から30塩基である請求項1に記載のタンパク質標的核酸アプタマーを含む標的タンパク質検出剤。
【請求項3】
リボ核酸からなる請求項1又は請求項2に記載のタンパク質標的核酸アプタマーを含む標的タンパク質検出剤。
【請求項4】
蛍光クエンチャー及び蛍光発色団を含む蛍光プローブと、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタンパク質標的核酸アプタマーを含む標的タンパク質検出剤と、
を含む標的タンパク質検出用キット。
【請求項5】
蛍光クエンチャー及び蛍光発色団を含む蛍光プローブの存在下で、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタンパク質標的核酸アプタマーを含む標的タンパク質検出剤と、標的タンパク質とを接触させることを含む標的タンパク質の検出方法(但し、ヒトの体内で行われる方法を除く)
【請求項6】
前記標的タンパク質は、生細胞に由来するタンパク質である請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
ステム-ループ構造を形成して蛍光クエンチャーを認識する第1オリゴヌクレオチドと、該第1オリゴヌクレオチドの5’側及び3’側のそれぞれに配置され、ランダム配列を有するオリゴヌクレオチドとを含み、
前記第1オリゴヌクレオチドが、前記ループ構造の途中にループ構造から突出する少なくとも1つの第2のステム-ループ構造を形成する塩基配列を有する核酸アプタマー候補群を準備することと、
該核酸アプタマー候補群を、標的タンパク質の存在下に、該蛍光クエンチャーを有する担体と接触させて、該標的タンパク質及び蛍光クエンチャーを認識する核酸アプタマーを選択することと、
を含むタンパク質標的核酸アプタマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質標的核酸アプタマー、その製造方法、及び標的タンパク質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、核酸、タンパク質などの機能性生体分子の時空間的な発現量を調整することで恒常性を保っている。それら生体分子の時空間的な動態や濃度変化を視覚的に捉えることができれば、複雑な生命現象を解明する上で大きな知見を得ることができる。しかしながら、細胞が生産する特定のタンパク質の動態を生細胞内で観察することは極めて困難である。例えば、化学プローブを利用する内在性タンパク質標識法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。当該方法では、タンパク質のリガンド分子を利用することで、標的に対する選択性を担保している。また、RNAアプタマーを用いる内在性mRNAの検出方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Nat.Chem.Biol.,5,341-343(2009)
【文献】Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,1855-1858
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の方法では、リガンドを持たないタンパク質、キナーゼなどの基質特異性が低いタンパク質等を標識化するプローブを設計することは困難である。また、非特許文献2に記載の方法は、標的タンパク質を直接検出するものではない。本発明の一態様は、標的タンパク質を生細胞内で検出可能なタンパク質標的核酸アプタマー及び標的タンパク質の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様は、ステム-ループ構造を形成して蛍光クエンチャーを認識する第1オリゴヌクレオチドと、第1オリゴヌクレオチドの5’側に配置される第2オリゴヌクレオチドと、第1オリゴヌクレオチドの3’側に配置される第3オリゴヌクレオチドと、を含み、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドが協同して標的タンパク質を認識する、タンパク質標的核酸アプタマーである。
【0006】
第2態様は、蛍光クエンチャー及び蛍光発色団を含む蛍光プローブと、前記タンパク質標的核酸アプタマーと、を含む標的タンパク質検出用キットである。
【0007】
第3態様は、蛍光クエンチャー及び蛍光発色団を含む蛍光プローブの存在下で、前記タンパク質標的核酸アプタマーと、標的タンパク質とを、接触させることを含む標的タンパク質の検出方法である。
【0008】
第4態様は、ステム-ループ構造を形成して蛍光クエンチャーを認識する第1オリゴヌクレオチドと、第1オリゴヌクレオチドの5’側及び3’側のそれぞれに配置され、ランダム配列を有するオリゴヌクレオチドとを含む核酸アプタマー候補群を準備することと、核酸アプタマー候補群を、標的タンパク質の存在下に、蛍光クエンチャーを有する担体と接触させて、標的タンパク質及び蛍光クエンチャーを認識する核酸アプタマーを選択することと、を含むタンパク質標的核酸アプタマーの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、標的タンパク質を生細胞内で検出可能なタンパク質標的核酸アプタマー及び標的タンパク質の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】核酸アプタマーによる標的タンパク質の検出方法を説明する模式図である。
図2】インビトロセレクション法を説明する模式図である。
図3】蛍光クエンチャーDNBを認識する配列のステム-ループ構造を例示する模式図である。
図4】タンパク質標的核酸アプタマーと標的タンパク質による蛍光プローブからの蛍光回復を示すスペクトル図である。
図5】タンパク質標的核酸アプタマーとエピトープペプチドによる蛍光プローブからの蛍光強度を示すスペクトル図である。
図6】タンパク質標的核酸アプタマーと標的タンパク質抗体との競合関係を示すスペクトル図である。
図7】タンパク質標的核酸アプタマーと標的タンパク質抗体との競合関係を示すスペクトル図である。
図8】異なるタンパク質標的核酸アプタマーと標的タンパク質抗体との競合関係を示すスペクトル図である。
図9】部分欠損したタンパク質標的核酸アプタマーと標的タンパク質による蛍光プローブからの蛍光回復を示すスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、タンパク質標的核酸アプタマー等を例示するものであって、本発明は、以下に示すタンパク質標的核酸アプタマー等に限定されない。
【0012】
タンパク質標的核酸アプタマーは、ステム-ループ構造を形成して蛍光クエンチャーを認識する第1オリゴヌクレオチドと、第1オリゴヌクレオチドの5’側に配置される第2オリゴヌクレオチドと、第1オリゴヌクレオチドの3’側に配置される第3オリゴヌクレオチドとを含む。第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドは協同して標的タンパク質を認識する。
【0013】
タンパク質標的核酸アプタマーは、蛍光クエンチャー及び蛍光発色団を含む蛍光プローブと組合せて標的タンパク質の検出方法に用いられる。蛍光プローブでは蛍光クエンチャーにより蛍光発色団からの蛍光発光が抑制されて消光している。タンパク質標的核酸アプタマーが、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドによって標的タンパク質を認識してこれに結合すると、第1オリゴヌクレオチドがステム-ループ構造を形成する。このステム-ループ構造が蛍光プローブの蛍光クエンチャーを認識して結合することで、蛍光プローブからの蛍光発光が回復して標的タンパク質が位置特異的に検出される。
【0014】
タンパク質標的核酸アプタマーを用いる標的タンパク質の検出方法の概略を、図面を参照して説明する。図1はタンパク質標的RNAアプタマーを用いる標的タンパク質の検出方法を説明する模式図である。タンパク質標的RNAアプタマー10は、タンパク質結合RNA配列を有する第2オリゴヌクレオチド12及び第3オリゴヌクレオチド13と、第2及び第3オリゴヌクレオチドに挟まれ、プローブ結合配列を有する第1オリゴヌクレオチド11とを有する。タンパク質標的RNAアプタマー10と標的タンパク質23が接触すると、第2及び第3オリゴヌクレオチドが協同して標的タンパク質23を認識してこれに結合して第1複合体20を形成する。このとき第1オリゴヌクレオチド部分は、2塩基対からなるステム構造22と17塩基からなるループ構造21を形成する。蛍光プローブ40の蛍光クエンチャー部分41は、第1オリゴヌクレオチドから形成されるループ構造21に認識され、ループ構造が形成された第1複合体20に結合して第2複合体30が形成される。第2複合体30では、蛍光クエンチャー部分41と蛍光発色団42との相互作用が遮断されるため、蛍光発色団42の蛍光発光が回復して、標的タンパク質を含む第2複合体30から蛍光発光が観察される。
【0015】
第1オリゴヌクレオチドは、ランダムコイル状態では蛍光クエンチャーを認識せず、ステム-ループ構造を形成するときに蛍光クエンチャーを認識するように選択される。ステム-ループ構造におけるステム構造は、例えば1から5塩基対から形成され、好ましくは2から4塩基対、より好ましくは2から3塩基対から形成される。ステム構造を形成する塩基対は、例えば、少なくとも1対のG-C対又はG-U対を含み、好ましくは2対以上のG-C対を含む。ループ構造を構成する塩基数及び配列は、蛍光クエンチャーの構造に応じて選択される。ループ構造を構成する塩基数は、例えば、10から60塩基であり、好ましくは10から40塩基、より好ましくは10から30塩基である。
【0016】
第1オリゴヌクレオチドは、蛍光クエンチャーを認識するループ構造の途中に、ループ構造から突出する少なくとも1つの第2のステム-ループ構造を形成する塩基配列を有していてもよい。第2のステム-ループ構造は、例えば、蛍光クエンチャーを認識するステム-ループ構造の安定化に寄与すると考えられる。第2のステム-ループ構造におけるステム構造は、蛍光クエンチャーを認識するループ構造の安定化の観点から、例えば、2から12塩基対から形成され、好ましくは4から8塩基対から形成される。なお、第2のステム-ループ構造におけるステム構造は、1から3塩基程度のミスマッチ配列を含んでいてもよい。また、第2のステム-ループ構造におけるループ構造は、蛍光クエンチャーを直接認識するものではなく、ステム構造を形成する2つの塩基配列を連結するヘアピン構造を形成していてもよい。第2のステム-ループ構造におけるループ構造を構成する塩基数は、例えば、6から10塩基であり、好ましくは8塩基である。
【0017】
第1オリゴヌクレオチドは、ステム-ループ構造に加えて、ステム構造と第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドとの間に接続配列を有していてもよい。接続配列は、ステム構造を形成する領域の5’側と3’側とにそれぞれ配置され、接続配列間で相補対を形成しない塩基配列を有する。また、接続配列の塩基数はそれぞれ、例えば、1から5塩基であり、好ましくは1から2塩基である。
【0018】
第1オリゴヌクレオチドが認識する蛍光クエンチャーは、蛍光プローブに通常用いられる蛍光クエンチャーから適宜選択される。蛍光クエンチャーとしては、標的タンパク質の検出感度の観点から、BHQ0、BHQ1、BHQ2、BHQ3、TAMRA、DABCYL、DNB、ZEN、IBFQ、IBQR、BBQ等を挙げることができ、好ましくは、これらからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、BHQ0、BHQ1、BHQ2、BHQ3、DABCYL、BBQ等のダーククエンチャー、DNB等からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0019】
蛍光クエンチャーを認識する配列は、例えば、インビトロセレクション(in vitro selection)法(SELEX法ともいう)によって選択することができる。例えば、3’側と5’側にそれぞれプライマー領域を有し、所定の塩基数からなるランダム配列の核酸ライブラリーを準備する工程と、準備した核酸ライブラリーを、蛍光クエンチャーを有する担体に接触させて、蛍光クエンチャーを認識する核酸を選択する工程とを含む方法で、蛍光クエンチャーを認識する核酸配列が選択される。当該方法は、選択された核酸配列が複数有る場合、必要に応じて選択された核酸配列から共通する核酸配列を抽出する工程を含んでいてもよい。抽出される核酸配列を、蛍光クエンチャーを認識する核酸配列として選択することで、高い選択性を有し、より短鎖の核酸配列を得ることができる。
【0020】
核酸ライブラリーにおける3’側と5’側のプライマー領域の塩基数は、例えば10から30塩基であり、好ましくは15から25塩基である。プライマー領域の配列は、選択される核酸をPCRにより増幅することができれば特に限定されない。また、ランダム配列領域の塩基数は、例えば、10から80塩基であり、好ましくは10から30塩基である。蛍光クエンチャーを認識する核酸を選択する工程は、通常は複数回、例えば5から20回にわたって行われて、選択性のより高い配列が選択される。各選択工程の後にはPCRによる選択された核酸の増幅が行われてもよい。
【0021】
蛍光クエンチャーを有する担体は、例えば、担体に蛍光クエンチャー分子を固定化して得られる。担体としては、アガロース、デキストラン、合成ポリマー等から形成され、アミノ基、カルボキシ基、チオール基等の官能基を有する担体が挙げられる。担体は、アフィニティクロマトグラフィー用として市販されている担体から適宜選択すればよい。市販の担体として具体的には、GEヘルスケア社製のEAHセファロース4B、NHS-活性化セファロース4、CNBr-活性化セファロース4等が挙げられる。蛍光クエンチャー分子の固定化は、例えば、カルボキシ基を有する蛍光クエンチャー分子を、カルボジイミド、DMT-MM等の縮合剤を用いて、アミノ基を有する担体と結合させることで行われる。また、アミノ基を有する蛍光クエンチャー分子を、活性化されたカルボキシ基を有する担体と結合させて、蛍光クエンチャーを有する担体を得てもよい。
【0022】
蛍光クエンチャーを認識する配列は、具体的には、Chem.Commun.,2011,47,4712-4714及びその補充情報(ESI;DOI:10.1039/c1cc10393h)に記載されている方法に準じて選択することができる。例えば、3’側と5’側に20塩基のプライマー領域をそれぞれ有する60塩基のランダム配列の核酸ライブラリーを用意し、蛍光クエンチャーを固定化したアガロースゲルを用いてインビトロセレクションを行うことで、所望の蛍光クエンチャーを認識する配列を選択することができる。第1オリゴヌクレオチドと蛍光クエンチャーの解離定数Kdとしては、例えば、20μM以下、好ましくは10μM以下である。蛍光クエンチャーを認識する配列として、具体的には、蛍光クエンチャーがBHQ-1の場合、下表に示す配列を選択することができる。
【0023】
【表1】
【0024】
蛍光クエンチャーを認識する配列は、インビトロセレクション法で選択された複数の配列を比較して、それらが共通して有する配列から選択されてもよい。例えば、上表の配列から、ループ部分の配列として下表に示す配列が選択される。
【0025】
【表2】
【0026】
また、蛍光クエンチャーがDNBの場合、例えば、下表に示す配列を選択することができる。
【0027】
【表3】
【0028】
上表に示す蛍光クエンチャーを認識する配列は、蛍光クエンチャーを認識するループ構造の途中に、ループ構造から突出する第2のステム-ループ構造を形成する。ステム-ループ構造を図3に例示する。また、蛍光クエンチャーを認識する配列は、例えば、上表の配列から、第2のステム-ループ構造を除いたループ部分の配列として下表に示す配列が選択される。
【0029】
【表4】
【0030】
更に、蛍光クエンチャーであるDNBを認識する配列としては、例えば、下表に示す配列を選択することもできる。
【0031】
【表5】
【0032】
第1オリゴヌクレオチドの5’側には第2オリゴヌクレオチドが、3’側には第3オリゴヌクレオチドが連結する。第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドは、協同して標的タンパク質を認識すると共に、第1オリゴヌクレオチドがステム-ループ構造を形成して蛍光クエンチャーを認識できるように選択される。すなわち、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドは、例えば、第1オリゴヌクレオチドがステム-ループ構造を形成し得る状態で標的タンパク質を認識するように選択される。
【0033】
第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドを構成するそれぞれの塩基数は、例えば、10から80塩基であり、好ましくは10から30塩基、より好ましくは20から30塩基である。第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドの塩基数は同じであっても異なっていてもよい。
【0034】
第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドの配列は、標的タンパク質に応じてインビトロセレクション法で選択される核酸アプタマーから決定することができる。標的タンパク質を認識する核酸アプタマーは、例えば、第1オリゴヌクレオチドの5’側と3’側にそれぞれランダム配列領域を有する核酸ライブラリーである核酸アプタマー候補群を準備する第1工程と、核酸アプタマー候補群を、標的タンパク質の存在下に、蛍光クエンチャーを有する担体と接触させて、標的タンパク質及び蛍光クエンチャーを認識する核酸アプタマーを選択する第2工程とを含む方法によって選択される。選択される核酸アプタマーの塩基配列を分析することで、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドの配列が決定される。
【0035】
第1工程で準備される核酸ライブラリーにおける第1オリゴヌクレオチドの5’側と3’側にそれぞれランダム配列領域の塩基数は、例えば、第2オリゴヌクレオチド及び第3オリゴヌクレオチドの塩基数と同じにすることができる。
【0036】
標的タンパク質は、細胞が産生し得るタンパク質であれば特に制限はなく、目的に応じて選択されればよい。標的タンパク質は、細胞質に存在するものであっても、細胞膜等の膜構造中に存在するものであっても、細胞外に存在するものであってもよい。また、標的タンパク質は、単一のタンパク質分子であっても、複数のサブユニットからなる多量体タンパク質であってもよく、糖修飾等を受けた複合タンパク質であってもよい。
【0037】
標的タンパク質として、具体的には、アクチン等の構造タンパク質、アミロイド等の疾患関連タンパク質、各種の酵素タンパク質、RAS等の癌関連タンパク質等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0038】
第2工程では、いわゆるインビトロセレクション法によって核酸アプタマーが選択される。第2工程では、標的タンパク質の存在下に、核酸アプタマー候補群を、蛍光クエンチャーを有する担体と接触させる。ついで、担体に吸着しない核酸を洗浄・除去した後、標的タンパク質に応じて調製される抗体、特異的リガンド、パートナー結合タンパク質等によって競合的に溶出される核酸を回収する。これにより標的タンパク質の存在下に蛍光クエンチャーを認識する核酸アプタマーを含む核酸ライブラリーが得られる。
【0039】
第2工程で、担体との接触に供される核酸アプタマー候補群は、標的タンパク質の非存在下では蛍光クエンチャーに結合しないことが好ましい。すなわち、第2工程は、核酸アプタマー候補群を標的タンパク質の非存在下で蛍光クエンチャーを有する担体と接触させることと、担体に吸着しない核酸を回収することとを含むネガティブセレクションを更に含んでいてもよい。
【0040】
核酸アプタマーが選択される第2工程は、通常は複数回、例えば5から20回にわたって行われて、標的タンパク質に対する選択性がより高い配列を有する核酸アプタマーが選択される。また、第2工程のそれぞれで回収される核酸は、必要に応じてPCRで増幅されてから、次の工程に供されてもよい。
【0041】
第2工程では、溶出に用いる抗体等によって、核酸アプタマーが認識する標的タンパク質の領域を制御することができる。すなわち、目的とする領域を特異的に認識する抗体等を用いることで、当該領域を特異的に認識する核酸アプタマーを選択することができる。具体的には、例えば、標的タンパク質のN末端ペプチド部分を抗原として作製される抗体を用いて、核酸アプタマーを溶出することで、標的タンパク質のN末端領域を認識する核酸アプタマーが選択される。これにより標的タンパク質の高次構造を認識する核酸アプタマーが取得できる。溶出に用いる抗体の抗原は、N末端ペプチド部分に限られるものではなく、C末端ペプチドであっても、標的タンパク質の任意の領域に存在するペプチド部分であってもよい。
【0042】
蛍光クエンチャーと標的タンパク質とを認識する核酸アプタマーは、上述した方法で選択される。当該方法にはインビトロセレクション法で用いられる手法を適宜適用することができる。例えば、Nature,1990,346,818-822、Science,1990,249,505-510、Nature,1990,344,467-468等に記載の手法から必要に応じて選択される手法を適用して、核酸アプタマーを選択することができる。
【0043】
核酸アプタマーが選択されるインビトロセレクション法の一例を、図面を参照して説明する。図2はRNAに対するインビトロセレクション法を説明する概念図である。インビトロセレクション法では、まずRNAライブラリーが準備される。図2では、最初のRNAライブラリーは、蛍光クエンチャーであるBHQ1に結合するループ構造を形成し得る第1オリゴヌクレオチドの5’側と3’側に20塩基からなるランダム配列(N20)をそれぞれ有するRNAから構成される。RNAライブラリーは、BHQ1が固定化された担体(BHQ1レジン)と接触させられ、BHQ1レジンと結合しないRNAが回収される(ネガティブセレクション)。回収されたRNAは標的タンパク質であるβ-アクチンの存在下にBHQ1レジンと接触させられ、非結合のRNAは洗い流される(ポジティブセレクション)。標的タンパク質と共にBHQ1レジンに結合したRNAは、標的タンパク質に対する抗体によって、競合的に溶離させられる。溶離したRNAは、逆転写によってDNAライブラリーを変換される。DNAライブラリーはPCRによって増幅された後、インビトロ転写によって、RNAライブラリーに変換される。得られるRNAライブラリーは、最初のRNAライブラリーに比べてBHQ1と標的タンパク質に対する選択性が向上している。このRNAライブラリーを、再びインビトロセレクション法に供することで、選択性がより向上したRNAライブラリーが選択される。
【0044】
本発明のタンパク質標的核酸アプタマーは、上述したように標的タンパク質及び使用する蛍光プローブに応じてインビトロセレクション法で選択されるものであり、選択された核酸アプタマーの塩基配列を分析することで、その構造が特定される。すなわち、本発明のタンパク質標的核酸アプタマーの塩基配列は、蛍光プローブ及び標的タンパク質に依存するものであり、特定の塩基配列に制限されるものではない。
【0045】
タンパク質標的核酸アプタマーは、デオキシリボ核酸(DNA)塩基から構成されていても、リボ核酸(RNA)塩基から構成されていてもよい。また、化学修飾された修飾核酸塩基を含んでいてもよい。修飾核酸塩基は公知のものから適宜選択される
【0046】
タンパク質標的核酸アプタマーと共に用いられる蛍光プローブは、蛍光クエンチャーと蛍光発色団とを含む。蛍光プローブは、例えば、蛍光クエンチャー分子と蛍光発色団を含む化合物とを連結して構成される。
【0047】
蛍光発色団としては、例えば、Alexa594、Cy3、sulfo-Cy3、Cy5、sulfo-Cy5、ATTO465、BODIPY558/568、TAMRA、NBD-X、DEAC、マリンブルー、フルオレセイン、オレゴングリーン488、ローダミングリーン、DY520、DY510、DY480、OFAM、テキサスレッド等を挙げることができ、好ましくはこれらからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0048】
標的タンパク質が細胞内に存在する場合、蛍光発色団はスルホ基、カルボキシ基、アミノ基、アンモニウム基等の親水性基を有さないことが好ましく、例えば、Cy3、Cy5及びAlexa594からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0049】
蛍光クエンチャーと蛍光発色団とは、直接連結していてもよく、連結基を介して連結されていてもよい。連結基としては、炭素数1から6のアルキレン基、酸素原子、イミノ基、カルボニル基、チオカルボニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んで構成される連結基を挙げることができる。連結基は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール;βアラニン、6-アミノカプロン酸等のアミノ酸;ヒドロキシプロピオン酸等のヒドロキシカルボン酸;エタノールアミン等のアミノアルコールからなる群から選択される少なくとも1種又はこれらの縮合物に由来するものであってもよい。
【0050】
連結基において連結方向に沿って配置される原子数は、例えば、1から60であり、好ましくは、1から40、より好ましくは15から40である。
【0051】
連結基の具体例を以下に例示するが、これらに限定されるものではなく、これらの組合せであってもよい。なお、式中の*は、蛍光クエンチャー、蛍光発色団又は他の連結基との結合位置を示す。m及びnは、それぞれ独立して0から12の整数を表す。
【0052】
【化1】
【0053】
蛍光プローブの具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0054】
【化2】
【0055】
【化3】
【0056】
【化4】
【0057】
【化5】
【0058】
標的タンパク質検出用キットは、蛍光プローブの少なくとも1種と、タンパク質標的核酸アプタマーの少なくとも1種とを含む。キットを構成するタンパク質標的核酸アプタマーは、標的タンパク質に応じて選択される。また、蛍光プローブに含まれる蛍光クエンチャーは、タンパク質標的核酸アプタマーに応じて選択される。
【0059】
標的タンパク質の検出方法は、蛍光クエンチャー及び蛍光発色団を含む蛍光プローブの存在下で、タンパク質標的核酸アプタマーと標的タンパク質とを接触させることとを含む。蛍光プローブは、蛍光クエンチャーと蛍光発色団との相互作用により蛍光消光された状態となっている。タンパク質標的核酸アプタマーが標的タンパク質を認識して結合すると、タンパク質標的核酸アプタマーに蛍光クエンチャーを認識するステム-ループ構造が形成される。このステム-ループ構造が蛍光クエンチャーと相互作用をすることで、蛍光プローブにおける蛍光発光が回復して、標的タンパク質が蛍光発光により検出される。
【0060】
具体的には、標的タンパク質を含む試料に、蛍光プローブとタンパク質標的核酸アプタマーを添加することで、標的タンパク質の存在位置に蛍光発光が観察される。標的タンパク質を含む試料は、インビトロ(in vitro)系であっても、細胞を含むインビボ(in vivo)系であってもよい。標的タンパク質の検出方法をインビボ系に適用することで、生細胞中における標的タンパク質の存在位置を経時的に検出することが可能になる。
【0061】
標的タンパク質を含む試料に、タンパク質標的核酸アプタマーを添加する方法としては、タンパク質標的核酸アプタマーを直接添加してもよく、タンパク質標的核酸アプタマーを発現するベクター等を添加し、試料中でタンパク質標的核酸アプタマーを発現させてもよい。
【0062】
タンパク質標的核酸アプタマーを発現するベクターは、常法により構築することができる。ベクターは例えば、pSuper(OligoEngine社)を利用して構築することができる。またベクターは、必要に応じてU6プロモーター等のプロモーターを含んでいてもよい。
【0063】
標的タンパク質の検出対象となる細胞は、蛍光顕微鏡で観察可能な状態で培養できるものであればよく、単細胞、2次元又は3次元の細胞集合体、組織等のいずれであってもよい。検出対象となる細胞の例としては、HeLa、HEK293、NIH3T3等の哺乳動物細胞株;生体から採取される初代培養細胞;REF等を挙げることができる。また、標的タンパク質の検出持における細胞の培養条件は、細胞種等に応じて選択される通常の培養条件であってもよく、また目的に応じて選択される培養条件としてもよい。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
(合成例1)
Chem.Commun.,2011,47,4712-4714及びその補充情報(ESI;DOI:10.1039/c1cc10393h)に記載された方法に準じて以下に示す蛍光プローブを合成した。合成スキームを以下に示す。
【0066】
【化6】
【0067】
(合成例2)
Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,1855-1858及びそのサポート情報(DOI:10.1002/anie.201410339)に記載された方法に準じて、以下に示す構造の蛍光プローブ(conjugate 1)を合成した。
【0068】
【0069】
(参考例1)
BHQ1固定化アフィニティレジンの調製
EAHセファロース4Bレジン(GEヘルスケア社製;0.5ml,5μモルのアミノ基を含む)に、BHQ-1カルボン酸(LGC Biosearch Technologies社製;0.5mg,1μモル)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM;東京化成社製;29.5mg,0.1mモル)とトリエチルアミン(0.1mモル)をジオキサン-水(3:1,v/v)中で加えた。室温で昼夜振とうした後、レジンを水切りし、ジオキサン-水で洗浄した。レジンの未反応アミノ基をブロックするために、得られたレジンに酢酸(30mg,0.5mモル)とDMT-MM(147.4mg,0.5mモル)を加えて昼夜反応させた後、樹脂を水切りし、含水ジオキサン、含水メタノールで洗浄した。得られたレジンは3倍量のメタノール-水(1:3、v/v)中、-20℃で保存した。
【0070】
(参考例2)
インビトロセレクション法
5’側及び3’側に下表に示すプライマー配列(配列番号17及び18)が付加された60塩基のランダム配列合成オリゴヌクレオチド[5’-GAATTCCGCGTGTGCACACC-N60-GTCCGTTGGGATCCTCATGG-3’]を鋳型として、Platinum Pfx DNAポリメラーゼ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用い、下表に示すプライマー(配列番号19及び20)を用いるPCRにより、二重鎖DNAライブラリーを得た。得られた二重鎖DNAライブラリーを、T7RNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて転写して、最初のRNAライブラリーを得た。転写後にRQ1 DNase I(Promega社製)で処理し、2.5M酢酸アンモニウム/イソプロパノールで沈殿を得た。得られたRNAをNAP-5カラム(GEヘルスケア社製)にかけて未反応NTPを除去し、2.5M酢酸アンモニウム/イソプロパノールで沈殿させ、遠心してペレット化して、次の選択工程に用いた。選択工程のそれぞれでは、RNAは、結合用緩衝液(10mM Tris-HCl,100mM KCl,50mM NaCl,5mM MgCl,pH7.5)中でアニールし、BHQ1固定化アフィニティレジン上、4℃、30分インキュベートした。レジンを水切りし、結合用緩衝液で6回洗浄して非結合物を除去した。結合したRNAを、BHQ-1アミンを飽和させた結合用緩衝液を用いて、それぞれ10分ずつ3回溶離させた。溶離液を集めてエタノールで沈殿させた。選択されたRNAをPrime Script逆転写酵素(タカラバイオ社製)で逆転写して、得られたcDNAを先のプライマーを用いてPCR増幅した。得られたDNAを鋳型としてインビトロ転写して得られたRNAライブラリーを次回の選択工程に供した。13回の選択工程後、得られたRNAを逆転写し、PCRによって二重鎖DNAに変換した。得られたDNAを、EcoRIサイト及びBamHIサイトでpUC19に組み込み、得られたベクターで大腸菌DH5αを形質転換した。28クローンが単離され、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystem社製)を用いて配列決定した。得られたクローンに含まれるBHQ1結合RNAの例を下表に示す。また、Chem.Commun.,2011,47,4712-4714の補充情報(ESI;DOI:10.1039/c1cc10393h)に記載された方法で測定した解離定数Kdを併せて示す。
【0071】
【表6】
【0072】
【表7】
【0073】
クローンA1からA4の塩基配列から共通する配列として、下表に示す第1オリゴヌクレオチドのループ部分の配列が選択された。
【表8】
【0074】
(実施例1)
インビトロセレクション法
蛍光クエンチャーを認識するループ部分の配列として配列番号5(下線部)を含み、ステム部分と接続配列を付加した第1オリゴヌクレオチド[UGGCCUAGAUAAAUUCGGAGCUU](配列番号21)に対応するオリゴデオキシヌクレオチドの5’側と3’側のそれぞれに20塩基のランダム配列及びプライマー領域を付加した合成オリゴヌクレオチド[5’-GGATCCAAGCTTGTTTGGC-N20-TGGCCTAGATAAATTCGGAGCTT-N20-GCTTTCGACGGAGAATTC-3’]を得た。この合成オリゴヌクレオチドを鋳型として、KOD FX Neo(TOYOBO社製)を用い、下表に示すプライマー(配列番号22及び23)を用いたPCRにより、二重鎖DNAライブラリーを得た。得られた二重鎖DNAライブラリーを、T7RNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いてインビトロ転写して、最初のRNAライブラリーを得た。転写後にDNase I(Ambion社製)で処理し、1.25M酢酸アンモニウム/イソプロパノールで沈殿を得た。得られたRNAをNAP-5カラム(GEヘルスケア社製)にかけて未反応NTPを除去し、0.136M酢酸アンモニウム/イソプロパノールで沈殿させ、遠心してペレット化し、70%エタノールで洗浄して、次の選択工程に用いた。
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
選択工程では、RNAを結合用緩衝液(10mM Tris-HCl,100mM KCl,pH7.6)中、85℃で10分間加熱した後、氷浴で10分間冷却した。MgClを10mMまで加えた後、BHQ1固定化アフィニティレジン上、4℃、15分インキュベートした。非結合のRNAを集めて、10μgのヒトβ-アクチンを加え、得られた溶液をBHQ1固定化アフィニティレジンと混合し、4℃、30分間インキュベートした。レジンを水切りし、結合用緩衝液で8回洗浄して非結合物を除去した。結合したRNAを、2μgの溶離用抗体BA3R(Abcam社製;β-アクチンのN末端ペプチドをエピトープペプチドとして作製されたもの)を含む結合用緩衝液を用いて、それぞれ5分ずつ3回溶離させた。溶離液を集めて0.136M酢酸アンモニウム/イソプロパノールで沈殿させた。選択されたRNAをPrime Script 逆転写酵素(タカラバイオ社製)で逆転写して、得られたcDNAを先のプライマーを用いてPCR増幅した。得られたDNAを鋳型としてインビトロで転写して得られたRNAを次回の選択工程に供した。16回の選択工程の繰り返し後、得られたRNAを逆転写し、PCRによって二重鎖DNAに変換した。得られたDNAを、EcoRIサイト及びBamHIサイトでpUC19に組み込んでベクターを得た。得られたベクターで大腸菌DH5αを形質転換した。タンパク質標的RNAアプタマーとして400クローンが単離され、配列決定に供した(Eurofins Genomics)。得られたタンパク質標的RNAアプタマーのうちの1つであるApt311に対応する塩基配列(配列番号24)を以下に示す。
【0078】
【表11】
【0079】
(実施例2)
溶離用抗体BA3Rに代えて、AC40(Abcam社製;β-アクチンのC末端ペプチドをエピトープペプチドとして作製されたもの)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、タンパク質標的RNAアプタマーを得た。得られたタンパク質標的RNAアプタマーのうちの1つであるApt568に対応する塩基配列(配列番号25)を以下に示す。
【0080】
【表12】
【0081】
(実施例3)
標的タンパク質蛍光標識評価(in vitro)
実施例1で得られたRNAアプタマー(Apt311)によるβ-アクチンの蛍光標識能を以下のようにしてin vitroで評価した。RNAアプタマー3μMを85℃で10分間変性させ、氷浴上で10分間冷却した。ついで、50μLの緩衝液(10mM Tris-HCl,100mM KCl,pH7.6)中でβ-アクチン3μMと25℃、30分間混合した。このRNA溶液を50μLの緩衝液(20mM Tris-HCl,100mM KCl,10mM MgCl,pH7.6)中の蛍光プローブ(conjugate 1;終濃度2μM)に加えて室温で10分インキュベートした。蛍光測定は、励起波長620nm、測定波長640nmから800nmで行った。また、競合実験は、β-アクチンのN末端ペプチド(エピトープペプチド)をβ-アクチンの添加時に添加して実施した。このときエピトープペプチドは1%DMSO溶液として0から20μMで添加した。結果を図4及び図5に示す。
【0082】
図4に示すように、RNAアプタマー(Apt311)と蛍光プローブ(Conjugate1)は、βアクチンタンパク質存在下で強い蛍光シグナルを示した。また、図5に示すように、RNAアプタマーと蛍光プローブは、エピトープペプチドの存在下では蛍光シグナルを回復しなかったが、エピトープペプチドにβ-アクチンを共存させると蛍光シグナルの回復が認められた。
【0083】
この結果は、RNAアプタマーがβ-アクチン上で、蛍光プローブとの結合能を発揮していることを示唆する。また、RNAアプタマーがβ-アクチンの抗体に対するエピトープペプチド部位を認識しているのではなく、β-アクチンのタンパク質表面を認識していることを示唆する。すなわち、任意の標的タンパク質の立体構造を高選択的に識別して内在性のタンパク質を標識できる革新的タンパク質イメージング法が確立できたことを意味する。
【0084】
(実施例4)
競合実験を、エピトープペプチドに代えて、実施例1のRNAアプタマーの選択時に使用したβアクチンN末端抗体BA3Rを用い、抗体の終濃度を3μMとしたこと以外は、実施例3と同様にして、蛍光標識能を評価した。結果を図6に示す。
【0085】
図6に示すように、RNAアプタマーのβ-アクチンタンパク質への結合により検出される蛍光シグナルは、β-アクチンN末端抗体BA3Rを加えることで完全に失われることが示された。RNAアプタマーが、先に示したようにβ-アクチン抗体のエピトープペプチドと競合しないにもかかわらず、β-アクチン抗体と競合するという結果は、RNAアプタマーがβ-アクチンの表面を立体的に捕らえていることを示唆しており、細胞内という分子夾雑下での標的タンパク質への高選択的な標識能が期待できる。
【0086】
(実施例5)
実施例2で選択されたRNAアプタマー(Apt568)を用い、競合実験にβ-アクチンC末端抗体AC40を用いたこと以外は実施例3と同様にして、蛍光標識能を評価した。結果を図7に示す。
【0087】
図7に示すように、実施例2で選択されたRNAアプタマーは、β-アクチン存在下で強い蛍光シグナルを示した。また、RNAアプタマーのβ-アクチン対する結合能・蛍光標識能は、β-アクチンC末端抗体AC40を加えることで競合的に失われた。
【0088】
この結果は、実施例2で選択されたRNAアプタマーが、β-アクチンC末端抗体AC40とβ-アクチンとの結合表面を共有していることを意味する。
【0089】
(実施例6)
実施例1で選択されたRNAアプタマー(Apt311)と実施例2で選択されたRNAアプタマー(Apt568)を用い、競合実験にβ-アクチンN末端抗体BA3Rとβ-アクチンC末端抗体AC40を用いて、実施例3と同様にして結合交差実験を行った。結果を図8AからDに示す。
【0090】
RNAアプタマー(Apt311)のβ-アクチン蛍光標識能は、β-アクチンN末端抗体BA3Rで阻害された(図8A)が、β-アクチンC末端抗体AC40では影響を受けなかった(図8B)。一方で、RNAアプタマー(Apt568)のβ-アクチン蛍光標識能は、β-アクチンN末端抗体BA3Rを加えても影響を受けず(図8C)、β-アクチンC末端抗体AC40で阻害された(図8D)。
【0091】
これらの結果は、インビトロセレクションで利用する核酸アプタマー溶出用の抗体を適宜選択することで、標的タンパク質の異なる表面を捕らえる核酸アプタマーを取得できることを意味する。生細胞中で、標的タンパク質を蛍光標識することによりタンパク質機能を可視化する場合、タンパク質の活性を維持したり、他のタンパク質との相互作用を妨害したりしないことが重要となる。標的タンパク質の表面を選んで蛍光標識できる本発明の重要性・有用性は極めて高い。
【0092】
(比較例1)
実施例1で選択されたRNAアプタマー(Apt311)のcDNAを鋳型とし、以下のプライマー(配列番号22と26、27と23)を用いたPCRにより、第1オリゴヌクレオチドの3’側に配置される第3オリゴヌクレオチドが欠損したRNAアプタマー(5’-arm)と、5’側に配置される第2オリゴヌクレオチドが欠損したRNAアプタマー(3’-arm)とを作製した。
【0093】
得られたRNAアプタマーによるβ-アクチンの蛍光標識能を、実施例3に準じてin vitroで評価した。結果を図9に示す。
【0094】
【表13】
【0095】
図9に示すように、ステム-ループ構造を挟んで標的タンパク質を認識する2つのオリゴヌクレオチド部分の一方が欠損することで、蛍光標識能が大きく低下した。
【0096】
(実施例7)
HeLa細胞を、1%ペニシリン、100μg/mL硫酸ストレプトマイシン、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS;Biowest社)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco社製)中、37℃、5%COの加湿インキュベータ内に維持した。上記で得られたRNAアプタマー発現プラスミドとpSuper.gfpをFuGENE(R)HD トランスフェクション試薬(Promega社製)を用い、製造者のプロトコールに従ってHeLa細胞にコトランスフェクトした。これにより、RNAアプタマー配列をpSuperベクターにクローニングした。
【0097】
(実施例8)
固定化細胞でのタンパク質イメージング
HeLa細胞を、ポリ-D-リジンコートされたガラス底ViewPlate(R)-96F マイクロプレート(PerkinElmer社製)に1ウェルあたり7.5×10cellsで播種した。24時間後に4%パラホルムアルデヒド(ムトー純薬社製)を用いて室温10分で細胞を固定し、PBSで2回洗浄し、0.5%トリトン-X100で10分透過処理した。細胞を、10%硫酸デキストラン、2mMバナジル-リボヌクレオシド、0.01%サーモンDNA、30μgイーストtRNA、10mMTris-HCl(pH7.6)、10mM KClを含むアプタマーブロッキング溶液で、室温、1時間インキュベートした。PBSで2回洗浄し、50μLの0.3μM DNase Iで、室温、1時間染色した。過剰な溶液を除去し、ウェルをPBSで2回洗浄した。次いで10μMのRNAaptamerと結合緩衝液(10mM Tris-HClpH7.6,100mM KCl,10mM MgCl)中、4℃、12時間インキュベートし、結合緩衝液を用いて2回洗い流した。細胞を、結合緩衝液50μL中、DAPI(10μg/mL)で、室温、20分間染色し、結合緩衝液30μL中、5μMの蛍光プローブ(conjugate 1)で室温、5分処理した。過剰の蛍光プローブを結合緩衝液で洗い流し、高感度カメラを備えたCellVoyager(TM)CV1000共焦点スキャナーボックス(横川電機社製)で細胞を観察した。
【0098】
その結果、Apt311及びApt568のいずれの場合でも、蛍光プローブに由来するドット状の蛍光シグナルが観察された。このドット状の蛍光シグナルについて、Fアクチンを染色するファロイジンプローブとGアクチンを染色するDNase Iプローブとの共染色により確認したところ、DNase Iプローブでの染色と重なることが明らかとなった。すなわち、RNAアプタマーは、Gアクチンに選択的に結合・蛍光標識することが分かった。
【0099】
(実施例9)
生細胞でのタンパク質イメージング
0日目、HeLa細胞を35mmの4-ウェル Advanced TC glass bottom細胞培養皿(Greiner Bio-One社製)に1ウェル当たり、5.0×10cellsで播種した。1日目、細胞に、それぞれのRNAアプタマー配列が導入されたpSuperベクターとpSuper.gfpをコトランスフェクトした。2日目、細胞を、完全生育培地(500μL)中のHoechst 33342(1mg/mL,同仁堂社製)で染色し、37℃で20分、5%COインキュベータ中で、インキュベートした。完全生育培地(100μL)中の蛍光プローブ(conjugate 1)を終濃度5μMで加えて、37℃で5分、5%COインキュベータ中で、インキュベートした。その後、溶液をフレッシュな培地に置換し、CV1000で細胞を観察して、生細胞のイメージを得た。経時画像を5分から1時間毎に撮影して取得した。
【0100】
また、以下のようにしてβ-アクチン作用薬の影響を観察した。Hoechst 33342と蛍光プローブ(conjugate 2)で染色した後、アクチン重合阻害剤(CytochalasinB;40μM)、アクチン重合阻害剤(Latrunculin B;1μM)、又は脱重合阻害剤(Jasplakinolide;0.140μM)処理した後の画像を、それぞれ10分間隔で2時間まで、5分間隔で1時間まで、3分間隔で30分まで取得した。
【0101】
生細胞においても。蛍光プローブに由来するドット状の蛍光シグナルが観察され、時間と共にその蛍光シグナルが移動する様子が1時間にわたって観察された。また、重合阻害剤Cytochalasin処理後には、細胞内のドット状の蛍光シグナルは増加することが確認された。一方で、脱重合阻害剤Jasplakinolideで処理した後は、細胞内のドット状の蛍光シグナルが減少することが確認された。
【0102】
これまでに、生細胞内でのGアクチンの動態が観察された例は無い。本発明を利用すれば、生細胞内の標的タンパク質をドット状の蛍光シグナルで観察できる。すなわち、細胞内の標的タンパク質量の変化をリアルタイムで観測することが可能になる。また、β-アクチン作用薬を用いた実験から、細胞内の標的タンパク質の濃度変化を視覚的に捉えることが可能であることが示された。このように細胞内の標的タンパク質の濃度変化を視覚的、経時的に捉える方法はなく、本発明の革新性が示されたといえる。
【符号の説明】
【0103】
10 タンパク質標的RNAアプタマー
20 第1複合体
23 標的タンパク質
30 第2複合体
40 蛍光プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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