(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】チューブポンプシステムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
F04C 5/00 20060101AFI20230207BHJP
F04B 43/12 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
F04C5/00 341N
F04B43/12 T
(21)【出願番号】P 2019025682
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591257111
【氏名又は名称】サーパス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】今井 幸宣
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0245271(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0128266(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/26
A61M 60/279
F04B 43/00-41/14
F04B 49/00-51/00
F04C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに円弧状に形成される内周面を有する収容部と、
前記内周面に沿って配置されるとともに可撓性を有するチューブと、
前記収容部に収容されるとともに前記軸線回りの閉塞位置から解除位置に至るまで前記チューブを閉塞した状態で前記軸線回りに回転する一対のローラ部と、
前記一対のローラ部のそれぞれを前記軸線回りに同方向に回転させる一対の駆動部と、
前記チューブの一端から流入した液体を前記チューブの他端から吐出させるよう前記一対の駆動部のそれぞれを制御する制御部と、
前記チューブの他端に接続される配管内の液体の圧力を検出する圧力検出部と、を備え、
前記制御部は、前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出部が検出する液体の圧力の変動幅が所定値以内となるように、
前記圧力検出部が検出した液体の圧力に応じて、第1の前記ローラ部が前記閉塞位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第1回転角度と、第2の前記ローラ部が前記解除位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第2回転角度とを制御するチューブポンプシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1回転角度よりも前記第2回転角度が小さくなるように制御する請求項1に記載のチューブポンプシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1のローラ部が前記閉塞位置を通過してから前記第2のローラ部が前記解除位置を通過するまでの期間において、前記第1のローラ部の角速度を第1所定速度から第2所定速度に増加させる請求項2に記載のチューブポンプシステム。
【請求項4】
軸線回りに円弧状に形成される内周面を有する収容部と、
前記内周面に沿って配置されるとともに可撓性を有するチューブと、
前記収容部に収容されるとともに前記軸線回りの閉塞位置から解除位置に至るまで前記チューブを閉塞した状態で前記軸線回りに回転する一対のローラ部と、
前記一対のローラ部のそれぞれを前記軸線回りに同方向に回転させる一対の駆動部と、
前記チューブの一端から流入した液体を前記チューブの他端から吐出させるよう前記一対の駆動部のそれぞれを制御する制御部と、
前記チューブの他端に接続される配管内の液体の圧力を検出する圧力検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出部が検出する液体の圧力の変動幅が所定値以内となるように、第1の前記ローラ部が前記閉塞位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第1回転角度と、第2の前記ローラ部が前記解除位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第2回転角度とを制御し、
前記変動幅が前記所定値以内となったことに応じて、前記第2のローラ部が前記解除位置を通過した後に前記第1のローラ部が前記解除位置へ向かう角速度を漸次減少させるよう前記一対の駆動部を制御す
るチューブポンプシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記チューブの他端から吐出される液体の単位時間当たりの流量が所定流量に維持されるように、前記第1回転角度に応じて、前記一対のローラ部のそれぞれの角速度を調整する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のチューブポンプシステム。
【請求項6】
前記制御部は、前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出部が検出する液体の圧力を記憶部に記憶させ、前記記憶部に記憶された液体の圧力の変動幅が所定値以内であるかどうかを判断し、前記変動幅が前記所定値以内でない場合に前記変動幅が所定値以内となるように、前記記憶部に記憶された液体の圧力に応じて、前記第1回転角度および前記第2回転角度を制御する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のチューブポンプシステム。
【請求項7】
軸線回りに円弧状に形成される内周面を有する収容部と、前記内周面に沿って配置されるとともに可撓性を有するチューブと、前記収容部に収容されるとともに前記軸線回りの閉塞位置から解除位置に至るまで前記チューブを閉塞した状態で前記軸線回りに回転する一対のローラ部と、前記一対のローラ部のそれぞれを前記軸線回りに同方向に回転させる一対の駆動部と、を備えるチューブポンプシステムの制御方法であって、
前記チューブの一端から流入した液体を前記チューブの他端から吐出させるよう前記一対の駆動部のそれぞれを制御する制御工程と、
前記チューブの他端に接続される配管内の液体の圧力を検出する圧力検出工程と、を備え、
前記制御工程は、前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出工程が検出する液体の圧力の変動幅が所定値以内となるように、
前記圧力検出工程が検出した液体の圧力に応じて、第1の前記ローラ部が前記閉塞位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第1回転角度と、第2の前記ローラ部が前記解除位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第2回転角度とを制御するチューブポンプシステムの制御方法。
【請求項8】
前記制御工程は、前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出工程が検出する液体の圧力を記憶部に記憶させ、前記記憶部に記憶された液体の圧力の変動幅が所定値以内であるかどうかを判断し、前記変動幅が前記所定値以内でない場合に前記変動幅が所定値以内となるように、前記記憶部に記憶された液体の圧力に応じて、前記第1回転角度および前記第2回転角度を制御する請求項7に記載のチューブポンプシステムの制御方法。
【請求項9】
軸線回りに円弧状に形成される内周面を有する収容部と、前記内周面に沿って配置されるとともに可撓性を有するチューブと、前記収容部に収容されるとともに前記軸線回りの閉塞位置から解除位置に至るまで前記チューブを閉塞した状態で前記軸線回りに回転する一対のローラ部と、前記一対のローラ部のそれぞれを前記軸線回りに同方向に回転させる一対の駆動部と、を備えるチューブポンプシステムの制御方法であって、
前記チューブの一端から流入した液体を前記チューブの他端から吐出させるよう前記一対の駆動部のそれぞれを制御する制御工程と、
前記チューブの他端に接続される配管内の液体の圧力を検出する圧力検出工程と、を備え、
前記制御工程は、
前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出工程が検出する液体の圧力の変動幅が所定値以内となるように、第1の前記ローラ部が前記閉塞位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第1回転角度と、第2の前記ローラ部が前記解除位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第2回転角度とを制御し、
前記変動幅が前記所定値以内となったことに応じて、前記第2のローラ部が前記解除位置を通過した後に前記第1のローラ部が前記解除位置へ向かう角速度を漸次減少させるよう前記一対の駆動部を制御するチューブポンプシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブポンプシステムおよびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、可撓性を有するチューブを複数のローラによって間欠的に押し潰すことによってチューブ内の液体を圧送するチューブポンプが知られている。チューブポンプは、間欠的に液体を圧送するため、圧送される液体に脈動(流量の増減が繰り返される状態)が生じる。
特許文献1には、ローラにより押しつぶされたチューブが原形に戻る際に、下流側の流路からチューブポンプ側に液体が引き込まれる現象によって脈動が生じるという不具合が開示されている。特許文献1は、このような脈動を抑制するために、一対のローラ部の一方がチューブから離間する離間位置を通過する際に、一対のローラ部との接触により閉塞されたチューブ内の液体の圧力を上昇させることを開示する。特許文献1によれば、チューブ内の液体の圧力を上昇させることにより、チューブポンプ側に液体が引き込まれる現象を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チューブポンプシステムが吐出する液体の流量を操作者等により指示された任意の目標流量とする場合、目標流量の変化に応じてチューブポンプシステムの下流側の配管における液体の圧力が変化し、それに伴って脈動の状態も変化する。また、チューブの継続的な使用によりチューブの硬度等が変化すると、それに伴って脈動の状態も変化する。
しかしながら、特許文献1には、このような脈動の状態の動的な変化に対して、どのようにして脈動を抑制するのかについての具体的な方法が開示されていない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、脈動の状態が動的に変化する場合であってもその変化に応じて適切に脈動を抑制することが可能なチューブポンプシステムおよびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のチューブポンプシステムは以下の手段を採用する。
本発明の一態様に係るチューブポンプシステムは、軸線回りに円弧状に形成される内周面を有する収容部と、前記内周面に沿って配置されるとともに可撓性を有するチューブと、前記収容部に収容されるとともに前記軸線回りの閉塞位置から解除位置に至るまで前記チューブを閉塞した状態で前記軸線回りに回転する一対のローラ部と、前記一対のローラ部のそれぞれを前記軸線回りに同方向に回転させる一対の駆動部と、前記チューブの一端から流入した液体を前記チューブの他端から吐出させるよう前記一対の駆動部のそれぞれを制御する制御部と、前記チューブの他端に接続される配管内の液体の圧力を検出する圧力検出部と、を備え、前記制御部は、前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出部が検出する液体の圧力の変動幅が所定値以内となるように、第1の前記ローラ部が前記閉塞位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第1回転角度と、第2の前記ローラ部が前記解除位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第2回転角度とを制御する。
【0007】
本発明の一態様に係るチューブポンプシステムによれば、一対のローラ部のそれぞれを一対の駆動部により軸線回りに同方向に回転させることにより、一対のローラ部がチューブを押し潰した状態で閉塞位置から解除位置に至る。制御部は、一対の駆動部のそれぞれを制御することにより、チューブの一端から流入した液体をチューブの他端から吐出させる。一対のローラ部が少なくとも一回転する際に圧力検出部が検出する液体の圧力の変動幅は、チューブポンプシステムにより圧送される液体の脈動の大きさを示す。一対のローラ部の一方が解除位置を通過してローラ部により押し潰されたチューブが原形に戻る際に、解除位置の下流側の液体の圧力と解除位置の上流側の液体の圧力との圧力差が大きいほど、圧力の変動幅が大きくなる。
【0008】
解除位置の下流側と上流側の液体の圧力差は、第1回転角度と第2回転角度に応じたものとなる。すなわち、第1回転角度と第2回転角度の差が大きいほど一対のローラ部との接触により閉塞されたチューブ内の液体の圧力が高くなり、第1回転角度と第2回転角度の差が小さいほど一対のローラ部との接触により閉塞されたチューブ内の液体の圧力が低くなる。そこで、本発明の一態様に係るチューブポンプシステムでは、制御部が、圧力検出部が検出する圧力の変動幅が所定値以内となるように、第1のローラ部が閉塞位置を通過する際の一対のローラ部の間の軸線回りの第1回転角度と、第2のローラ部が解除位置を通過する際の一対のローラ部の間の軸線回りの第2回転角度とを制御している。本発明の一態様に係るチューブポンプシステムによれば、脈動の状態が動的に変化する場合であってもその変化に応じて適切に脈動を抑制することが可能となる。
【0009】
本発明の一態様に係るチューブポンプシステムにおいて、前記制御部は、前記第1回転角度よりも前記第2回転角度が小さくなるように制御する構成としてもよい。
本構成に係るチューブポンプシステムによれば、チューブを閉塞する一対のローラ部の間の回転角度を、チューブの閉塞が開始されてからチューブの閉塞が解除されるまでに小さくすることで、チューブ内に液体の圧力を所望の圧力まで上昇させることができる。
【0010】
上記構成に係るチューブポンプシステムにおいて、前記制御部は、前記第1のローラ部が前記閉塞位置を通過してから前記第2のローラ部が前記解除位置を通過するまでの期間において、前記第1のローラ部の角速度を第1所定速度から第2所定速度に増加させる構成としてもよい。
本構成に係るチューブポンプシステムによれば、後続する第1のローラ部の角速度を第1所定速度から第2所定速度に増加させることにより、チューブを閉塞する一対のローラ部の間の回転角度を、チューブの閉塞が開始されてからチューブの閉塞が解除されるまでに小さくなる。これにより、解除位置の下流側の液体の圧力と解除位置の上流側の液体の圧力との圧力差が減少し、液体の脈動が抑制される。
【0011】
上記構成に係るチューブポンプシステムにおいて、前記制御部は、前記変動幅が前記所定値以内となったことに応じて、前記第2のローラ部が前記解除位置を通過した後に前記第1のローラ部が前記解除位置へ向かう角速度を漸次減少させるよう前記一対の駆動部を制御するようにしてもよい。
【0012】
第2のローラ部が解除位置を通過した後に第1のローラ部を一定の角速度で回転させた場合、第1のローラ部がチューブを押し潰す位置から解除位置までの距離が漸次減少する。そのため、第1のローラ部が解除位置に近づくにしたがって解除位置の上流側の液体の圧力が上昇してしまう。そこで、本構成に係るチューブポンプシステムでは、第2のローラ部が解除位置を通過した後に第1のローラ部の解除位置へ向けた角速度を漸次減少させている。
【0013】
そのため、第1のローラ部が解除位置に近づくことによる上流側の液体の圧力上昇を第1のローラ部の角速度の減少による液体の圧力減少で相殺することができる。また、本構成のチューブポンプシステムによれば、液体の圧力の変動幅が所定値以内となった後に第1のローラ部が解除位置へ向かう角速度が漸次減少するように制御される。本構成のチューブポンプシステムによれば、液体の圧力の変動幅が所定値より大きい場合にこのような制御を行う場合に比べ、迅速かつ精度よく脈動の抑制を行うことができる。
【0014】
上記構成に係るチューブポンプシステムにおいて、前記制御部は、前記チューブの他端から吐出される液体の単位時間当たりの流量が所定流量に維持されるように、前記第1回転角度に応じて、前記一対のローラ部のそれぞれの角速度を調整してもよい。
【0015】
本構成のチューブポンプシステムは、制御部が、圧力の変動幅が所定値以内となるように、第1回転角度と第2回転角度を調整することで、脈動を抑制するものである。しかしながら、脈動を抑制するために液体の流量が変化してしまうと、液体の流量の変化に応じてチューブポンプシステムの下流側の配管における液体の圧力が変化する。この液体の圧力の変化に伴って脈動の状態が更に変化するため、流量と脈動の変化が繰り返され、脈動を短時間で適切に抑制することが困難となる。
【0016】
そこで、本構成に係るチューブポンプシステムでは、制御部が、チューブの他端から吐出される液体の単位時間当たりの流量が所定流量に維持されるように、第1回転角度に応じて、一対のローラ部のそれぞれの角速度を調整している。そのため、例えば、脈動を抑制するために、第1回転角度と第2回転角度とを制御する場合であっても、チューブの他端から吐出される液体の単位時間当たりの流量が所定流量に維持される。よって、液体の流量の変化に伴って脈動の状態が変化することが抑制され、脈動を短時間で適切に抑制することが可能となる。
【0017】
本発明の一態様に係るチューブポンプシステムの制御方法は、チューブポンプシステムが、軸線回りに円弧状に形成される内周面を有する収容部と、前記内周面に沿って配置されるとともに可撓性を有するチューブと、前記収容部に収容されるとともに前記軸線回りの閉塞位置から解除位置に至るまで前記チューブを押し潰した状態で前記軸線回りに回転する一対のローラ部と、前記一対のローラ部のそれぞれを前記軸線回りに同方向に回転させる一対の駆動部と、を備え、前記チューブの一端から流入した液体を前記チューブの他端から吐出させるよう前記一対の駆動部のそれぞれを制御する制御工程と、前記チューブの他端に接続される配管内の液体の圧力を検出する圧力検出工程と、を備え、前記制御工程は、前記一対のローラ部が少なくとも一回転する際に前記圧力検出工程が検出する液体の圧力の変動幅が所定値以内となるように、第1の前記ローラ部が前記閉塞位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第1回転角度と、第2の前記ローラ部が前記解除位置を通過する際の前記一対のローラ部の間の前記軸線回りの第2回転角度とを制御する。
【0018】
本発明の一態様に係るチューブポンプシステムの制御方法では、制御工程が、圧力検出工程が検出する圧力の変動幅が所定値以内となるように、第1のローラ部が閉塞位置を通過する際の一対のローラ部の間の軸線回りの第1回転角度と、第2のローラ部が解除位置を通過する際の一対のローラ部の間の軸線回りの第2回転角度とを制御している。本発明の一態様に係るチューブポンプシステムの制御方法によれば、脈動の状態が動的に変化する場合であってもその変化に応じて適切に脈動を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、脈動の状態が動的に変化する場合であってもその変化に応じて適切に脈動を抑制することが可能なチューブポンプシステムおよびその制御方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチューブポンプシステムを示す構成図である。
【
図3】
図2に示すチューブポンプのI-I矢視縦断面図である。
【
図4】
図3に示すチューブポンプの分解斜視図である。
【
図5】
図3に示す第1駆動部が第1ローラ部に駆動力を伝達する構造を示す縦断面図である。
【
図6】
図3に示す第2駆動部が第2ローラ部に駆動力を伝達する構造を示す縦断面図である。
【
図7】第1ローラ部が閉塞位置に到達した状態のチューブポンプを示す正面図である。
【
図8】第2ローラ部が解除位置に到達した状態のチューブポンプを示す正面図である。
【
図9】
図7に示すチューブポンプの第1ローラ部近傍の断面図である。
【
図10】
図8に示すチューブポンプの第2ローラ部近傍の断面図である。
【
図11】ローラ部により閉塞されたチューブを示す横断面図である。
【
図12】ローラ部により閉塞された状態が解除されたチューブを示す横断面図である。
【
図13】制御部が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図14】ローラ部の回転角度とローラ部の角速度の対応関係を示す図である。
【
図15】基準制御波形により駆動部を制御した際に圧力センサが検出する圧力の時間変化の一例を示す図である。
【
図16】ローラ部の回転角度とローラ部の角速度の対応関係を示す図である。
【
図17】目標流量と配管の液体の圧力の関数を示す図である。
【
図18】配管の液体の圧力と第1回転角度および第2回転角度の角度差の関係を示す図である。
【
図19】第1回転角度と第2回転角度を調整した制御波形により駆動部を制御した際に圧力センサが検出する圧力の時間変化の一例を示す図である。
【
図20】ローラ部の回転角度とローラ部の角速度の対応関係を示す図である。
【
図21】液体の圧力と角速度差との関数を示す図である。
【
図22】調整済の制御波形により駆動部を制御した際に圧力センサが検出する圧力の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係るチューブポンプシステムおよびその制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
以下、本発明の一実施形態のチューブポンプシステム700について、図面を参照して説明する。
本実施形態のチューブポンプシステム700は、流入端701から流出端702へ向けて液体を圧送するとともに、チューブポンプ100により圧送される液体の流量を制御する装置である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態のチューブポンプシステム700は、液体を圧送するチューブポンプ100と、チューブポンプ100からニードルバルブ500へ液体を搬送する配管200と、配管200を流通する液体の圧力を検出する圧力センサ(圧力検出部)300と、配管200を流通する液体の流量を計測する流量計400と、上流側に配置される配管200を流通する液体の圧力を調整するニードルバルブ500と、チューブポンプ100が吐出する液体の吐出量を制御する制御部600とを備える。
【0023】
以下、本実施形態のチューブポンプシステム700が備える各構成について説明する。
チューブポンプ100は、流入端701から流出端702へ向けて液体を圧送する装置である。チューブポンプ100は、可撓性を有するチューブをローラで押し潰した状態でローラを移動させる動作を繰り返すことにより液体を圧送する。チューブポンプ100から配管200に吐出された液体は、流量計400およびニードルバルブ500を通過して流出端702へ到達する。チューブポンプ100の詳細については後述する。
【0024】
配管200は、チューブポンプ100からニードルバルブ500へ液体を搬送する配管である。配管200は、チューブポンプ100により圧送される液体の圧力によって弾性変形する可撓性を有する材料(例えば、シリコーンゴム等の樹脂材料)により形成されている。配管200は、後述するニードルバルブ500の開度を調整することにより、内部を流通する液体の圧力を大気圧よりも高い状態に維持することができる。配管200の流路長Lは、例えば、約1000mmとするのが望ましい。
【0025】
圧力センサ300は、配管200の内部を流通する液体の圧力を検出する装置である。圧力センサ300は、チューブポンプ100からニードルバルブ500へ液体を導く配管200において、流量計400の上流側に配置されている。圧力センサ300は、検出した圧力を制御部600へ伝達する。
【0026】
流量計400は、配管200の内部を流通する液体の流量を計測する装置である。流量計400は、チューブポンプ100からニードルバルブ500へ液体を導く配管200において、圧力センサ300の下流側に配置されている。流量計400は、計測した流量を制御部600へ伝達する。
【0027】
ニードルバルブ500は、弁孔(図示略)に対するニードル状の弁体(図示略)の挿入量を調整することにより、配管200の内部を流通する液体の圧力が大気圧よりも高くなるように調整する装置である。ニードルバルブ500は、チューブポンプ100から流出端702へ液体を導く流路において、流路断面積が最小となる領域を形成する。
【0028】
ニードルバルブ500の流路断面積を最小としているのは、ニードルバルブ500の配管抵抗をチューブポンプ100から流出端702へ液体を導く流路において最も高くするためである。そのため、ニードルバルブ500の上流側の配管200の液体の静圧が高い状態に維持される。本実施形態においては、配管200の内部を流通する液体の圧力が大気圧よりも高くなるようにニードルバルブ500の開度が調整される。
【0029】
ここで、第1所定圧力Pr1は、20kPaG以上かつ250kPaG以下の範囲のいずれかの値に設定するのが望ましい。特に、90kPaG以上かつ110kPaG以下の範囲のいずれかの値に設定するのが望ましい。ここで、Gはゲージ圧を意味している。
【0030】
内部の液体の静圧が高い状態に維持される配管200を可撓性の樹脂材料によって形成しているのは、液体の脈動によって配管200内の静圧がさらに上昇した場合に弾性変形することにより、液体の脈動が下流側に伝達されることを抑制するためである。
このように、チューブポンプ100から流出端702へ液体を導く流路において最も配管抵抗の高いニードルバルブ500の上流側に可撓性の樹脂材料によって形成される配管200を配置することにより、チューブポンプ100から圧送される液体の脈動を抑制することができる。
【0031】
制御部600は、チューブポンプ100が備える可撓性のチューブ101の一端から流入した液体をチューブ101の他端から吐出させるよう後述する第1駆動部50および第2駆動部60のそれぞれを制御する装置である。制御部600は、流量計400が計測する流量が予め定めた目標流量となるように第1駆動部50および第2駆動部60のそれぞれを制御する。制御部600による第1駆動部50および第2駆動部60の詳細な制御方法については、後述する。
【0032】
図1に示すように、制御部600は、記憶部610を備えている。記憶部610は、制御部600が実行するプログラムを記憶している。制御部600は、記憶部610に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、後述する各処理を実行する。記憶部610は、例えば、データを書き換え可能な不揮発性メモリにより構成されている。制御部600は、後述するように、第1駆動部50および第2駆動部60を制御するための制御波形を調整し、調整済の制御波形を記憶部610に記憶する。制御部600は、記憶部610に記憶された制御波形を読み出すことにより、調整済みの制御波形を用いて第1駆動部50および第2駆動部60を制御することができる。
【0033】
次に、チューブポンプシステム700が備えるチューブポンプ100について説明する。
図2に示す本実施形態のチューブポンプ100は、軸線X1(第1軸線)回りに第1ローラ部10(第1接触部材)と第2ローラ部20(第2接触部材)とを同方向に回転させることにより、流入側端部101aから流入するチューブ101内の流体を流出側端部101bへ吐出させる装置である。流出側端部101bには、配管200が接続されている。なお、
図2は、
図3に示すカバー83を取り外した状態のチューブポンプ100を示すものである。
【0034】
図2の正面図に示すように、チューブポンプ100には、第1ローラ部10および第2ローラ部20を収容するローラ収容部82の凹所82aの内周面82bに沿って、軸線X1回りに円弧状にチューブ101が配置される。
図2に示すように、ローラ収容部82に収容される第1ローラ部10および第2ローラ部20は、チューブ101に接触しながら反時計回りの回転方向(
図2中に矢印で示す方向)に沿って軸線X1回りに回転する。
【0035】
図3の縦断面図および
図4の分解斜視図に示すように、本実施形態のチューブポンプ100は、チューブ101に接触しながら軸線X1回りに回転する第1ローラ部10および第2ローラ部20と、軸線X1上に配置されるとともに第1ローラ部10に連結される駆動軸30(軸部材)と、第2ローラ部20に連結される駆動筒(筒部材)40と、駆動軸30に駆動力を伝達する第1駆動部50と、第2駆動部60と、第2駆動部60の駆動力を駆動筒40に伝達する伝達機構70(伝達部)と、を備える。
【0036】
第1ローラ部10は、チューブ101と接触しながら軸線X1と平行な軸線回りに回転する第1ローラ11と、軸線X1回りに一体に回転するように駆動軸30に連結された第1ローラ支持部材12と、両端部が第1ローラ支持部材12に支持されるとともに第1ローラ11を回転可能に取り付ける第1ローラシャフト13とを有する。
【0037】
第2ローラ部20は、チューブ101と接触しながら軸線X1と平行な軸線回りに回転する第2ローラ21と、軸線X1回りに一体に回転するように駆動筒40に連結された第2ローラ支持部材22と、両端部が第2ローラ支持部材22に支持されるとともに第2ローラ21を回転可能に取り付ける第2ローラシャフト23とを有する。
【0038】
図3に示すように、第1駆動部50および第2駆動部60は、ケーシング(収容部材)80の内部に収容されている。ケーシング80の内部には、伝達機構70を収容するためのギヤ収容部81と、第1駆動部50および第2駆動部60を支持する支持部材90が取り付けられている。また、ケーシング80の上部には、第1ローラ部10と第2ローラ部20とを収容するためのローラ収容部82が取り付けられている。
【0039】
ローラ収容部82は、第1ローラ部10および第2ローラ部20を収容する凹所82aを有する。凹所82aには、軸線X1回りに円弧状に形成される内周面82bが設けられている。
図3に示すように、チューブ101は、内周面82bに沿って軸線X1回りに円弧状に配置されている。
【0040】
支持部材90には、軸線X1に沿って延びる第1貫通穴91と軸線X2に沿って延びる第2貫通穴92が形成されている。第1駆動部50は、支持部材90に形成された第1貫通穴91に第1駆動軸51を挿入した状態で支持部材90に締結ボルト(図示略)により取り付けられている。同様に、第2駆動部60は、支持部材90に形成された第2貫通穴92に第2駆動軸61を挿入した状態で支持部材90に締結ボルト(図示略)により取り付けられている。このように、第1駆動部50および第2駆動部60のそれぞれは、一体に形成された部材である支持部材90に取り付けられている。
【0041】
ここで、第1駆動部50が第1ローラ部10に駆動力を伝達する構造について、
図5を参照して説明する。
図5において、実線で示す部分が、第1駆動部50の駆動力を第1ローラ部10に伝達する構造を構成する部分である。
図5に示すように、第1駆動部50は、軸線X1上に配置されて駆動軸30に連結される第1駆動軸51を有する。第1駆動軸51は、軸線X1に直交する方向に延びるピン51aを挿入した状態で駆動軸30の下端に取り付けられている。ピン51aにより駆動軸30が第1駆動軸51に対して軸線X1回りに相対的に回転しないように固定されている。そのため、第1駆動部50が第1駆動軸51を軸線X1回りに回転させると、第1駆動軸51の駆動力が駆動軸30に伝達され、駆動軸30が軸線X1回りに回転する。
【0042】
第1駆動部50は、第1駆動軸51と、第1電動モータ52と、第1電動モータ52が回転させる回転軸(図示略)の回転を減速して第1駆動軸51に伝達する第1減速機53とを有する。第1駆動部50は、第1電動モータ52の駆動力を第1駆動軸51に伝達することにより、第1駆動軸51を軸線X1回りに回転させる。
【0043】
第1駆動軸51には、第1駆動軸51とともに軸線X1回りに回転する位置検出用部材51bが取り付けられている。位置検出用部材51bは、円環状に形成される外周縁部に軸線X1回りの周方向に第1ローラ部10の軸線X1回りの回転位置を検出するためのスリット(図示略)が形成されている。
【0044】
図5に示すように、位置検出用部材51bの外周縁部の上面と下面を挟み込むように位置検出センサ54が配置されている。位置検出センサ54は、上面側および下面側の一方に発光素子を配置し、上面側および下面側の他方に受光素子を配置したセンサである。位置検出センサ54は、位置検出用部材51bの軸線X1回りの回転に伴ってスリットにより発光素子が発光する光が通過することを受光素子で検知することにより、第1ローラ部10が軸線X1回りのどの位置に配置されているかを示す回転位置を検出し、制御部600へ送信するものである。
【0045】
駆動軸30は、その下端が第1駆動軸51に連結され、その上端がカバー83に形成された挿入穴に挿入される。カバー83の挿入穴には、第1駆動軸51の先端を軸線X1回りに回転可能に支持する第3軸受部材33が挿入されている。また、駆動軸30は、外周面に沿って挿入された円筒状の第1軸受部材31と、第1軸受部材31とは独立に形成された円筒状の第2軸受部材32とにより、駆動筒40の内周側に軸線X1回りに回転可能に支持されている。
【0046】
このように、駆動軸30は、下端側の外周面が第1軸受部材31により支持され、中央部の外周面が第2軸受部材32により支持され、先端側の外周面が第3軸受部材33により支持されている。そのため、駆動軸30は、中心軸を軸線X1上に保持した状態で軸線X1回りに円滑に回転する。
ここで、
図4に示すように第1軸受部材31と第2軸受部材32とが軸線X1方向に離れた状態で配置されているのは、駆動筒40の内周面に軸線X1回りに延びる無端状の環状突起部40aが形成されているからである。
【0047】
駆動軸30の先端側には、第1ローラ部10の第1ローラ支持部材12が軸線X1回りに一体に回転するように連結されている。以上のように、第1駆動部50が第1駆動軸51を軸線X1回りに回転させる駆動力は、第1駆動軸51から駆動軸30を介して第1ローラ部10に伝達される。
【0048】
次に、第2駆動部60が第1ローラ部10に駆動力を伝達する構造について、
図6を参照して説明する。
図6において、実線で示す部分が、第2駆動部60の駆動力を第2ローラ部20に伝達する構造を構成する部分である。
図6に示す構造は、第2ローラ部20と、駆動筒40と、第2駆動部60と、伝達機構70とを有する。
図6に示す伝達機構70は、軸線X1と平行な軸線X2(第2軸線)回りに回転する第1ギヤ部71と、第1ギヤ部71から第2駆動軸61の駆動力が伝達される第2ギヤ部72とを有する。伝達機構70は、第2駆動軸61の軸線X2回りの駆動力を駆動筒40の外周面に伝達して駆動筒40を軸線X1回りに回転させる。
【0049】
図6に示すように、第2駆動部60は、軸線X2上に配置される第2駆動軸61と、第2電動モータ62と、第2電動モータ62が回転させる回転軸(図示略)の回転を減速して第2駆動軸61に伝達する第2減速機63とを有する。第2駆動部60は、第2電動モータ62の駆動力を第2駆動軸61に伝達することにより、第2駆動軸61を軸線X2回りに回転させる。
【0050】
第2駆動軸61は、軸線X2回りに円筒状に形成される第1ギヤ部71の中心部に形成された挿入穴に挿入されている。第1ギヤ部71は、第2駆動軸61が挿入された状態で固定ネジ71aを締結して固定ネジ71aの先端を第2駆動軸61に突き当てることにより、第2駆動軸61に固定される。このようにして、第1ギヤ部71は、第2駆動軸61に連結されて第2駆動軸61とともに軸線X2回りに回転する。
【0051】
第1ギヤ部71の軸線X2回りに形成された第1ギヤ71bは、第2ギヤ部72の軸線X1回りに形成された第2ギヤ72bと係合している。そのため、第1ギヤ部71の軸線X2回りの回転による駆動力は、第2ギヤ部72を軸線X1回りに回転させる駆動力として伝達される。
【0052】
第1ギヤ部71には、第2駆動軸61とともに軸線X1回りに回転する位置検出用部材71cが形成されている。位置検出用部材71cは、円環状に形成される外周縁部に軸線X2回りの周方向に第2ローラ部20の軸線X1回りの回転位置を検出するためのスリット(図示略)が形成されている。
【0053】
図6に示すように、位置検出用部材71cの外周縁部の上面と下面を挟み込むように位置検出センサ64が配置されている。位置検出センサ64は、上面側および下面側の一方に発光素子を配置し、上面側および下面側の他方に受光素子を配置したセンサである。位置検出センサ64は、位置検出用部材71cの軸線X2回りの回転に伴ってスリットにより発光素子が発光する光が通過することを受光素子で検知することにより、第2ローラ部20が軸線X1回りのどの位置に配置されているかを示す回転位置を検出し、制御部600へ送信するものである。
【0054】
駆動筒40は、軸線X1回りに円筒状に形成される第2ギヤ部72の中心部に形成された挿入穴に挿入されている。挿入穴は、駆動筒40の外周面に連結される内周面を有する穴である。
第2ギヤ部72は、駆動筒40が挿入された状態で固定ネジ72aを締結して固定ネジ72aの先端を駆動筒40に突き当てることにより、駆動筒40に固定される。このようにして、第2ギヤ部72は、駆動筒40に連結されて駆動筒40とともに軸線X1回りに回転する。
【0055】
図6に示すように、駆動筒40は、駆動軸30の外周側に第1軸受部材31および第2軸受部材32を挟んだ状態で配置されている。そのため、駆動筒40は、駆動軸30と独立して軸線X1回りに回転可能となっている。駆動軸30は第1駆動部50による駆動力により軸線X1回りに回転し、駆動筒40は駆動軸30とは独立した状態で、第2駆動部60による駆動力により軸線X1回りに回転する。
【0056】
駆動筒40の先端側には、第2ローラ部20の第2ローラ支持部材22が軸線X1回りに一体に回転するように連結されている。以上のように、第2駆動部60が第2駆動軸61を軸線X2回りに回転させる駆動力は、伝達機構70によって駆動筒40の外周面に伝達され、駆動筒40から第2ローラ部20に伝達される。
【0057】
次に、本実施形態のチューブポンプシステム700により実行される液体の吐出について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のチューブポンプシステム700は、チューブポンプ100から配管200へ吐出される液体の圧力を圧力センサ300で検出し、制御部600へ伝達する。また、チューブポンプシステム700は、配管200を流通する液体の流量を流量計で計測し、制御部600へ伝達する。制御部600は、配管200を流通する液体の流量が目標流量と一致するように、第1ローラ部10および第2ローラ部20の軸線X1回りの角速度を制御する。
【0058】
図1に示すチューブポンプシステム700は、チューブポンプ100の第1駆動部50および第2駆動部60を制御するための制御信号を制御部600からチューブポンプ100へ送信する。
なお、チューブポンプ100を、制御部600が内部に組み込まれた装置として構成するようにしてもよい。この場合、チューブポンプ100の内部に組み込まれた制御部600が第1駆動部50および第2駆動部60を制御するための制御信号を生成し、第1駆動部50および第2駆動部60へ伝達する。
【0059】
図7は、第1ローラ部10が閉塞位置Po1に到達した状態のチューブポンプ100を示す正面図である。
図8は、第2ローラ部20が解除位置Po2に到達した状態のチューブポンプ100を示す正面図である。閉塞位置Po1は、第1ローラ部10および第2ローラ部20がチューブ101を閉塞していない状態から閉塞した状態に切り替わる軸線X1回りの位置を示す。また、解除位置Po2は、第1ローラ部10および第2ローラ部20がチューブ101を閉塞した状態を解除して閉塞していない状態へ切り替わる軸線X1回りの位置を示す。第1ローラ部10および第2ローラ部20は、閉塞位置Po1から解除位置Po2に至るまでチューブ101を内周面82bとの間で閉塞した状態で、それぞれ独立して軸線X1回りを回転する。
【0060】
図7に示す0°,90°,180°270°は、軸線X1回りの回転角度を示し、0°の位置を基準とした反時計回りの角度を示す。閉塞位置Po1は、例えば、50°の回転角度となる。解除位置Po2は、例えば、310°の回転角度となる。
【0061】
図7に示す第1回転角度θ1は、第1ローラ部10が閉塞位置Po1を通過する際の第1ローラ部10及び第2ローラ部20の間の軸線X1回りの回転角度である。
図8に示す第2回転角度θ2は、第2ローラ部20が解除位置Po2を通過する際の第1ローラ部10及び第2ローラ部20の間の軸線X1回りの回転角度である。
【0062】
図9は、
図7に示すチューブポンプ100の第1ローラ部10近傍の断面図である。
図9に示すように、第1ローラ部10が閉塞位置Po1に到達すると、チューブ101が閉塞していない状態から閉塞した状態へ切り替わる。この時点において、チューブ101の流路断面積は0より大きな値から0に切り替わる。
【0063】
図10は、
図9に示すチューブポンプ100の第2ローラ部20近傍の断面図である。
図10に示すように、第2ローラ部20が解除位置Po2に到達すると、チューブ101が閉塞した状態から閉塞していない状態へ切り替わる。この時点において、チューブ101の流路断面積は0から0よりも大きな値に切り替わる。
【0064】
図11は、第1ローラ部10または第2ローラ部20により閉塞された状態のチューブ101を示す横断面図である。
図12は、第1ローラ部10または第2ローラ部20により閉塞された状態が解除されたチューブ101を示す横断面図である。
図11に示すチューブ101の流路断面積は0であり、
図12に示すチューブ101の流路断面積は0よりも大きな値である。
【0065】
次に、制御部600が実行する処理について説明する。
図13は、制御部600が実行する処理を示すフローチャートである。制御部600は、配管200を流通する液体の流量が目標流量と一致するように制御し、かつ、脈動の状態が動的に変化する場合であってもその変化に応じて適切に脈動を抑制するように制御する。
【0066】
制御部600は、電源が投入された場合、あるいは操作者により目標流量Ft[ml/min]が設定され、制御開始が指示された場合に、
図13に示す各処理の実行を開始する。制御部600は、流量計400が計測する液体の流量が目標流量Ft[ml/min]と一致するように第1駆動部50および第2駆動部60を制御する。
【0067】
ステップS1301で、制御部600は、後述する各処理により調整済の制御波形が記憶部610に記憶されているかどうかを判断し、YESであればステップS1302へ処理を進め、NOであればステップS1303へ処理を進める。制御部600は、制御波形に示される回転角度と角速度との対応関係で第1ローラ部10および第2ローラ部20が回転するように、制御波形に基づいて第1駆動部50および第2駆動部60を制御する。
【0068】
ステップS1302で、制御部600は、基準制御波形により第1駆動部50および第2駆動部60を制御し、第1ローラ部10および第2ローラ部20の各回転角度における角速度を制御する。
ステップS1303で、制御部600は、記憶部610から調整済の制御波形を読み出し、調整済の制御波形により第1駆動部50および第2駆動部60を制御する。制御波形の調整方法については後述する。
【0069】
図14は、ローラ部(第1ローラ部10および第2ローラ部20)の回転角度とローラ部の角速度の対応関係を示す図である。
図14の実線は基準制御波形を示し、
図14の破線は基礎制御波形を示す。
図14の横軸に示す回転角度の数値は、
図7および
図8に示す回転角度の数値に対応している。第1ローラ部10および第2ローラ部20は、それぞれ異なる回転角度に配置されるが、各回転角度における角速度は同じものとなる。
【0070】
基礎制御波形は、記憶部610にあらかじめ記憶されており、例えば、圧力センサ300が0kPaGを検出する状態で配管200に吐出される液体に脈動が殆ど生じない状態となる制御波形である。基礎制御波形は、チューブポンプシステム700を製造する際に製造者があらかじめ調整することにより作成され、記憶部610に記憶される。基礎制御波形により第1ローラ部10および第2ローラ部20の回転が制御される場合、チューブポンプシステム700は、所定の基礎流量F0[ml/min]の液体を配管200へ吐出する。
【0071】
図14に示すように、制御部600が基礎制御波形により第1ローラ部10および第2ローラ部20を回転させる場合、各ローラ部の回転角度0°~90°,180°~270°における角速度はVr0となる。一方、制御部600が基準制御波形により第1ローラ部10および第2ローラ部20を回転させる場合、各ローラ部の回転角度0°~90°,180°~270°における角速度はVrt11となる。Vrt11は、以下の式(1)を満たす。
Vrt11=Vr0・Ft/F0 (1)
【0072】
式(1)に示すように、基準制御波形におけるVrt11は、Vr0に対し、基礎流量F0に対する目標流量Ftの比率を乗じた値となる。制御部600は、記憶部610に記憶された基礎制御波形の各回転位置における角速度に対して、Ft/F0を乗じることにより、基準制御波形を生成する。本実施形態では、記憶部610にあらかじめ基礎制御波形と基礎流量F0が記憶されているものとする。
【0073】
制御部600は、操作者により指示された目標流量Ftと記憶部610に記憶された基礎流量F0からFt/F0を算出し、これを基礎制御波形に乗じることにより、基準制御波形を生成する。制御部600は、生成した基準制御波形を用いて第1駆動部50および第2駆動部60を制御することにより、第1ローラ部10および第2ローラ部20を軸線X1回りに回転させる。
【0074】
図15は、制御部600が生成した基準制御波形により第1駆動部50および第2駆動部60を制御した際に圧力センサ300が検出する圧力の時間変化の一例を示す図である。
図15に示す例は、第1ローラ部10および第2ローラ部20が軸線X1回りに3回転した際の圧力の変化を示している。
図15に示すように、圧力センサ300が検出する圧力は、最小値Pminから最大値Pmaxの間で周期的に変動し、圧力の変動幅ΔP=Pmax-Pminとなっている。
図15のPaveは、圧力の平均値を示している。
【0075】
この周期的な圧力の変動は、主に、第1ローラ部10および第2ローラ部20の一方が解除位置Po2を通過してローラ部により押し潰されたチューブ101が原形に戻る際に、解除位置Po2の下流側の液体の圧力と解除位置Po2の上流側の液体の圧力との圧力差により生じている。制御部600は、圧力の変動幅ΔPが所定値Pdif以内となるように後述する制御波形の調整を行う。
【0076】
ステップS1304で、制御部600は、圧力センサ300を用いて配管200を流通する液体の圧力を検出する。制御部600は、第1ローラ部10および第2ローラ部20が軸線X1回りに少なくとも一回転(例えば、一回転、三回転)する際に圧力センサ300が検出する圧力を記憶部610に記憶させる。
【0077】
ステップS1305で、制御部600は、記憶部610に記憶された圧力を参照し、第1ローラ部10および第2ローラ部20が軸線X1回りに少なくとも一回転する際の圧力の変動幅ΔPが所定値Pdif以内であるかどうかを判断する。制御部600は、変動幅ΔPが所定値Pdif以内でなければステップS1306へ処理を進め、変動幅ΔPが所定値Pdif以内であればステップS1308へ処理を進める。
【0078】
ステップS1306で、制御部600は、圧力の変動幅ΔPが所定値Pdifよりも大きいため、圧力の変動幅ΔPを小さくするために、
図7に示す第1回転角度θ1と
図8に示す第2回転角度θ2を調整する。第1回転角度θ1および第2回転角度θ2を調整しているのは、解除位置Po2の下流側と上流側の液体の圧力差が第1回転角度θ1と第2回転角度θ2に応じたものとなるからである。すなわち、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2の差が大きいほど一対のローラ部との接触により閉塞されたチューブ101内の液体の圧力が高くなり、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2の差が小さいほど一対のローラ部との接触により閉塞されたチューブ101内の液体の圧力が低くなる。
【0079】
制御部600は、第1回転角度θ1よりも第2回転角度θ2が小さくなるように第1駆動部50および第2駆動部60を制御する制御波形を調整する。これは、大気圧と略同じ圧力でチューブ101に流入する液体の圧力を大気圧よりも高くした状態で配管200に吐出させるためである。第1回転角度θ1よりも第2回転角度θ2を小さくすることで、配管200に吐出される液体の圧力が大気圧よりも高くなる。
【0080】
図16は、ローラ部の回転角度とローラ部の角速度の対応関係を示し、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2を調整する前の基準制御波形と、調整後の制御波形とを示す図である。制御部600は、具体的には、ステップS1302で生成した基準制御波形において、角速度がVrt11から増加してVrt12へ到達する回転角度R11と、角速度がVrt12からVrt11への減少を開始する回転角度R12を、それぞれ回転角度R21と回転角度R22に変更する。
図16に示す例は、回転角度R11と回転角度R12とが同一角度となる例である。なお、角速度Vrt11および角速度Vrt12は、後述するステップS1307の処理により調整されるため、それぞれ角速度Vrt21および角速度Vrt22となる。
【0081】
図16に示すように、ローラ部が解除位置Po2を通過する前後の回転角度の範囲において、調整後の制御波形は基準制御波形と一致している。そのため、基準制御波形と調整後の制御波形において、解除位置Po2を通過する際のローラ部の動作に変化はない。
【0082】
一方、閉塞位置Po1の回転角度から180°に至るまでの範囲において、調整後の制御波形は基準制御波形とは異なっている。具体的には、角速度の増加が完了してから角速度の減少が開始するまでの回転角度の範囲が、(R12-R11)から(R22-R21)まで増加している。
図16に示す例では、R12=R11であるため、角速度の増加が完了してから角速度の減少が開始するまでの回転角度の範囲の増加量は、(R22-R21)となる。
【0083】
(R22-R21)の値が大きいほどローラ部の角速度がVrt22となる期間が長くなり、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2の差が大きくなる。制御部600は、回転角度R21から回転角度R22までの回転角度の範囲の変更と、ステップS1304で検出する圧力の変動幅ΔPの確認の処理を繰り返すことにより、変動幅ΔPが所定値Pdif以内となるように制御波形を調整する。制御部600は、(R22-R21)の値を増加あるいは減少させて変動幅ΔPが最小となる(R22-R21)の値を特定する。
【0084】
(R22-R21)の値は、変動幅ΔPが所定値Pdif以内となるように増減させながら調整するが、(R22-R21)の初期値を適切に設定することで調整時間が短縮される。本実施形態では、以下の手順により(R22-R21)の初期値を設定する。
【0085】
第1に、制御部600は、操作者により指示された目標流量Ftと、記憶部610に記憶された目標流量と配管200の液体の圧力の関数とに基づいて、目標流量Ftから配管200の液体の圧力Ptを推定する。
図17は、目標流量Ftと配管200の液体の圧力の関数を示す図である。
図17に示す関数(例えば、目標流量を変数とする一次関数)は、記憶部610にあらかじめ記憶されている。
【0086】
第2に、制御部600は、目標流量Ftから推定される配管200の液体の圧力Ptと、記憶部610に記憶された配管200の液体の圧力と第1回転角度θ1と第2回転角度θ2との角度差の関数とに基づいて、圧力Ptから推定される角度差ΔRを推定する。
図18は、配管の液体の圧力と第1回転角度θ1および第2回転角度θ2の角度差ΔRの関係を示す図である。
図18に実線で示される関数(例えば、圧力を変数とする一次関数)は、記憶部610にあらかじめ記憶されている。
【0087】
第3に、制御部600は、目標流量Ftから算出された角度差ΔRから、回転角度R21から回転角度R22までの回転角度の範囲である(R22-R21)の初期値を設定する。記憶部610には、角度差ΔRと(R22-R21)との関係を示す関数があらかじめ記憶されている。制御部600は、目標流量Ftから算出された角度差ΔRを実現するための(R22-R21)の値を初期値として設定する。
【0088】
ステップS1307で、制御部600は、チューブ101の端部から配管200へ吐出される液体の単位時間当たりの流量が目標流量Ft(所定流量)に維持されるように、第1ローラ部10および第2ローラ部20の角速度を調整する。制御部600は、第1回転角度θ1が大きくなるほど平均角速度が低くなり、第1回転角度θ1が小さくなるほど平均角速度が高くなるように、第1ローラ部10および第2ローラ部20の角速度を調整する。このようにしているのは、第1回転角度θ1によって第1ローラ部10および第2ローラ部20によりチューブ101の内部で閉塞される液体の量が決定されるからである。
【0089】
第1回転角度θ1が大きいほどチューブ101により閉塞される液体の量が多くなり、第1回転角度θ1が小さいほどチューブ101により閉塞される液体の量が少なくなる。制御部600は、チューブ101により閉塞される液体の量に応じて第1ローラ部10および第2ローラ部20の角速度を制御することにより、目標流量Ft(所定流量)を維持する。
【0090】
図16に示すように、制御部600による調整済の制御波形は、回転角度R21から回転角度R22に至る角度範囲において、角速度をVrt21(第1所定速度)からVrt22(第2所定速度)まで増加させている。この角度範囲は、第1ローラ部10が閉塞位置Po1を通過してから第2ローラ部20が解除位置Po2を通過するまでの期間に含まれている。このように、制御部600は、第1ローラ部10と第2ローラ部20によりチューブ101を閉塞した状態で、第1ローラ部10と第2ローラ部20との間の回転角度が徐々に小さくなるようにしている。そのため、第1回転角度θ1よりも第2回転角度θ2が小さくなり、配管200に吐出される液体の圧力が大気圧よりも高くなる。
【0091】
図16に示す例は、回転角度R21と閉塞位置Po1が一致する例であるが、回転角度R21が閉塞位置Po1よりも小さい角度(0°に近い角度)となる場合や閉塞位置Po1よりも大きい角度となる場合もある。回転角度R21は、解除位置Po2を通過してチューブ101から離れる際の第1ローラ部10の回転角度と、先行する第2ローラ部20が解除位置Po2を通過する際の第1ローラ部10の回転角度との間のいずれかの回転角度に設定される。
【0092】
制御部600がステップS1305でYESと判定する際に設定している(R22-R21)の値は、初期値として設定した(R22-R21)の値とは異なっている。これは、(R22-R21)の初期値を設定するために用いたチューブ101と実際に(R22-R21)を調整する際のチューブ101の条件(素材、劣化度等)が異なるからである。
【0093】
制御部600は、ステップS1305でYESと判定する際に設定している(R22-R21)の値から導かれる第1回転角度θ1と第2回転角度θ2の角度差ΔR´により、
図18に実線で示す関数を補正し、破線で示す関数として記憶部610に記憶する。ステップS1303で補正された関数を用いることにより、制御部600は、調整済みの制御波形により第1駆動部50および第2駆動部60を制御する。(R22-R21)の初期値が適切に設定されるため、(R22-R21)を調整するための調整時間が短縮される。
【0094】
図19は、制御部600が第1回転角度θ1と第2回転角度θ2を調整した制御波形により第1駆動部50および第2駆動部60を制御した際に圧力センサ300が検出する圧力の時間変化の一例を示す図である。
図19に示す例は、第1ローラ部10および第2ローラ部20が軸線X1回りに3回転した際の圧力の変化を示している。
【0095】
図19に示すように、圧力センサ300が検出する圧力は、最小値Pminから最大値Pmaxの間で周期的に変動し、圧力の変動幅ΔP=Pmax-Pminとなっている。
図17のPaveは、圧力の平均値を示している。
図19の圧力を示す軸の縮尺と
図15の圧力を示す軸の縮尺は同一である。
図19に示す圧力の変動幅ΔPは、所定値Pdif以内であり、
図15に示す圧力の変動幅ΔPよりも小さくなっている。
【0096】
以上のように、制御部600は、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2を調整することにより、圧力の変動幅ΔTが所定値Pdif以下となるように制御する。制御部600は、ステップS1305でYESと判定された場合に、ステップS1308へ処理を進める。
【0097】
ステップS1308~ステップS1311で、制御部600は、圧力の変動幅ΔPが所定値Pdif以下であるため、圧力の変動幅ΔPを更に小さくするために、制御波形を調整する。
図20は、ローラ部の回転角度とローラ部の角速度の対応関係を示し、ステップS1308~ステップS1310による調整前の制御波形を破線で示し、ステップS1308~ステップS1310による調整後の制御波形を実線で示したものである。
【0098】
図20に実線で示すように、第1ローラ部10および第2ローラ部20が閉塞位置Po1を通過した後に先行する他のローラ部との間で閉塞される液体の圧力を高めるために、角速度をVrt31(第1所定速度)からVrt32(第2所定速度)へ増加させている。Vrt31とVrt32との角速度差は、閉塞位置Po1を通過した後に増加させた角速度の増加分に相当する。
【0099】
ステップS1308で、制御部600は、
図20に示す角速度差Dを調整する。
図20に実線で示すように、第1ローラ部10および第2ローラ部20が解除位置Po2を通過する際に、これらのローラ部の角速度をVrt31からVrt33まで一時的に増加させている。これは、ローラ部がチューブ101を押し潰した状態を解除する際に、解除位置Po2の下流側から上流側へ流体が引き込まれる現象を抑制するためである角速度差Dは、Vrt31とVrt33との角速度差である。制御部600は、角速度差Dを増加あるいは減少させて圧力の変動幅ΔPが極小となる角速度差Dを特定する。
【0100】
角速度差Dは、変動幅ΔPが極小となるように増減させながら調整するが、角速度差Dの初期値を適切に設定することで調整時間が短縮される。本実施形態では、以下の手順により角速度差Dの初期値を設定する。
【0101】
制御部600は、
図17に示す目標流量と配管200の液体の圧力の関数から推定された圧力Ptと、記憶部610に記憶された圧力Ptと角速度差Dとの関数とに基づいて、角速度差Dを推定する。
図21は、液体の圧力Ptと角速度差Dとの関数を示す図である。
図21に実線で示される関数は記憶部610にあらかじめ記憶されており、制御部600は、目標流量Ftから算出された角速度差Dを初期値として設定する。
【0102】
制御部600は、ステップS1308を実行して角速度差Dを調整するたびに、調整後の角速度差D´により
図21に実線で示す関数を補正し、破線で示す関数として記憶部610に記憶する。制御部600は、ステップS1303において、この補正された関数を用い、調整済みの制御波形により第1駆動部50および第2駆動部60を制御する。角速度差Dの初期値が適切に設定されるため、角速度差Dを調整するための調整時間が短縮される。
【0103】
ステップS1310で、制御部600は、第2ローラ部20が解除位置Po2を通過した後に後続する第1ローラ部10が解除位置Po2へ向かう角速度を漸次減少させるよう第1駆動部50および第2駆動部60を制御する。同様に、制御部600は、第1ローラ部10が解除位置Po2を通過した後に後続する第2ローラ部20が解除位置Po2へ向かう角速度を漸次減少させるよう第1駆動部50および第2駆動部60を制御する。
【0104】
図20に示すように、制御部600は、回転角度が180°~270°の範囲において、ローラ部の角速度が解除位置Po2へ向かう角速度をVrt34からVrt31まで漸次減少させるようにしている。このようにしているのは、ローラ部が解除位置Po2へ近づくと、ローラ部からニードルバルブ500に至るまでのチューブ101および配管200の容積が減少し、ローラ部の下流側の液体の圧力が上昇してしまうからである。ローラ部が解除位置Po2へ近づくことによるローラ部の下流側の液体の圧力上昇と、ローラ部の角速度の減少による圧力減少とを相殺させることで、脈動を抑制することができる。
【0105】
ステップS1310で、制御部600は、チューブ101の端部から配管200へ吐出される液体の単位時間当たりの流量が目標流量Ft(所定流量)に維持されるように、第1ローラ部10および第2ローラ部20の角速度を調整する。制御部600は、第1回転角度θ1が大きくなるほど平均角速度が低くなり、第1回転角度θ1が小さくなるほど平均角速度が高くなるように、ように、第1ローラ部10および第2ローラ部20の角速度を調整する。このようにしているのは、第1回転角度θ1によって第1ローラ部10および第2ローラ部20によりチューブ101の内部で閉塞される液体の量が決定されるからである。
【0106】
ステップS1311で、制御部600は、操作者により目標流量Ftの変更あるいは制御終了が指示されたかどうかを判定し、YESであれば本フローチャートの処理を終了させる。制御部600は、NOであればステップS1304以降の処理を繰り返す。
【0107】
図22は、ステップS1308からステップS1310による調整済の制御波形により第1駆動部50および第2駆動部60を制御した際に圧力センサ300が検出する圧力の時間変化の一例を示す図である。
図22に示す例は、第1ローラ部10および第2ローラ部20が軸線X1回りに3回転した際の圧力の変化を示している。
【0108】
図22に示すように、圧力センサ300が検出する圧力は、最小値Pminから最大値Pmaxの間で周期的に変動し、圧力の変動幅ΔP=Pmax-Pminとなっている。
図22に示すPaveは、圧力の平均値を示している。
図22に示すPaveは、
図19および
図15に示すPaveと同じ値となっている。
【0109】
図22の圧力を示す軸の縮尺と
図19,
図15の圧力を示す軸の縮尺は同一である。
図22に示す圧力の変動幅ΔPは、所定値Pdif以内であり、
図19に示す圧力の変動幅ΔPよりも小さくなっている。以上のように、制御部600は、ステップS1308からステップS1311の調整を繰り返すことにより、圧力の変動幅ΔTが所定値Pdifよりも更に減少するように制御する。
【0110】
以上説明した本実施形態のチューブポンプシステム700が奏する作用および効果について説明する。
本実施形態のチューブポンプシステム700によれば、一対のローラ部のそれぞれを一対の駆動部により軸線X1回りに同方向に回転させることにより、一対のローラ部がチューブ101を押し潰した状態で閉塞位置Po1から解除位置Po2に至る。制御部600は、一対の駆動部のそれぞれを制御することにより、チューブ101の一端から流入した液体をチューブ101の他端から吐出させる。
【0111】
一対のローラ部が少なくとも一回転する際に圧力センサ300が検出する液体の圧力の変動幅は、チューブポンプシステム700により圧送される液体の脈動の大きさを示す。一対のローラ部の一方が解除位置Po2を通過してローラ部により押し潰されたチューブ101が原形に戻る際に、解除位置Po2の下流側の液体の圧力と解除位置Po2の上流側の液体の圧力との圧力差が大きいほど、圧力の変動幅が大きくなる。
【0112】
解除位置Po2の下流側と上流側の液体の圧力差は、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2に応じたものとなる。すなわち、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2の差が大きいほど一対のローラ部との接触により閉塞されたチューブ101内の液体の圧力が高くなり、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2の差が小さいほど一対のローラ部との接触により閉塞されたチューブ内の液体の圧力が低くなる。
【0113】
そこで、本実施形態のチューブポンプシステム700では、制御部600が、圧力センサ300が検出する圧力の変動幅ΔPが所定値Pdif以内となるように、第1ローラ部10が閉塞位置Po1を通過する際の一対のローラ部の間の軸線X1回りの第1回転角度θ1と、第2ローラ部20が解除位置Po2を通過する際の一対のローラ部の間の軸線X1回りの第2回転角度θ2とを制御している。本実施形態のチューブポンプシステム700によれば、脈動の状態が動的に変化する場合であってもその変化に応じて適切に脈動を抑制することが可能となる。
【0114】
本実施形態のチューブポンプシステム700によれば、チューブ101を閉塞する一対のローラ部の間の回転角度を、チューブ101の閉塞が開始されてからチューブ101の閉塞が解除されるまでに小さくすることで、チューブ101内に液体の圧力を所望の圧力まで上昇させることができる。
本実施形態に係るチューブポンプシステム700によれば、後続する第1ローラ部10の角速度を第1所定速度から第2所定速度に増加させることにより、チューブ101を閉塞する一対のローラ部の間の回転角度を、チューブ101の閉塞が開始されてからチューブ101の閉塞が解除されるまでに小さくすることができる。
【0115】
本実施形態のチューブポンプシステム700では、第2ローラ部20が解除位置Po2を通過した後に第1ローラ部10の解除位置Po2へ向けた角速度を漸次減少させている。そのため、第1ローラ部10が解除位置Po2に近づくことによる上流側の液体の圧力上昇を第1ローラ部10の角速度の減少による液体の圧力減少で相殺することができる。また、本実施形態のチューブポンプシステム700によれば、液体の圧力の変動幅ΔPが所定値Pdif以内となった後に第1ローラ部10が解除位置Po2へ向かう角速度が漸次減少するように制御される。本実施形態のチューブポンプシステム700によれば、液体の圧力の変動幅ΔPが所定値Pdifより大きい場合にこのような制御を行う場合に比べ、迅速かつ精度よく脈動の抑制を行うことができる。
【0116】
本実施形態のチューブポンプシステム700では、制御部600が、チューブ101の他端から吐出される液体の単位時間当たりの流量が目標流量Ftに維持されるように、第1回転角度θ1に応じて、一対のローラ部のそれぞれの角速度を調整している。そのため、例えば、脈動を抑制するために、第1回転角度θ1と第2回転角度θ2とを制御する場合であっても、チューブ101の他端から吐出される液体の単位時間当たりの流量が所定流量に維持される。よって、液体の流量の変化に伴って脈動の状態が変化することが抑制され、脈動を短時間で適切に抑制することが可能となる。
【0117】
〔他の実施形態〕
以上の説明において、チューブポンプシステム700は、チューブポンプ100から流出端702へ液体を導く流路において流路断面積を最小とするニードルバルブ500を設けるものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、チューブポンプ100から流出端702へ液体を導く流路において流路断面積を最小とするオリフィス等をニードルバルブ500の代わりに設けても良い。
【符号の説明】
【0118】
10 第1ローラ部
20 第2ローラ部
50 第1駆動部
60 第2駆動部
82b 内周面
100 チューブポンプ
101 チューブ
200 配管
300 圧力センサ
400 流量計
500 ニードルバルブ
600 制御部
610 記憶部
700 チューブポンプシステム
D 角速度差
Ft 目標流量
Po1 閉塞位置
Po2 解除位置
X1,X2 軸線
θ1 第1回転角度
θ2 第2回転角度