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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】匂い探索方法及び匂い探索システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20230207BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N27/12 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020570341
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2019004746
(87)【国際公開番号】W WO2020161917
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】715010521
【氏名又は名称】株式会社アロマビット
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】黒木 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 絵里加
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵
(72)【発明者】
【氏名】相澤 真悟
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-275289(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031080(WO,A1)
【文献】特開2008-308649(JP,A)
【文献】特開2003-315298(JP,A)
【文献】特開2004-205258(JP,A)
【文献】特開2003-270959(JP,A)
【文献】特開2018-109099(JP,A)
【文献】国際公開第2002/032470(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0160789(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0224696(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子と、
(2)前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成する演算装置と、
を用いて生成された前記複数の匂い情報に基づいて、匂いを探索する匂い探索方法であって、
複数の匂い物質を含有する第1ガスを複数の前記センサ素子で検出する検出ステップと、
前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成ステップと、
前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備ステップと、
前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出ステップと、を有し、
前記算出ステップにおいて、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、前記第3匂い情報群が有するすべての匂い情報に当該特定の匂い情報の絶対値を加算する調整ステップ、を更に有する匂い探索方法。
【請求項2】
(1)各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子と、
(2)前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成する演算装置と、
を用いて生成された前記複数の匂い情報に基づいて、匂いを探索する匂い探索方法であって、
複数の匂い物質を含有する第1ガスを複数の前記センサ素子で検出する検出ステップと、
前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成ステップと、
前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備ステップと、
前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出ステップと、を有し、
前記算出ステップにおいて、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、前記特定の匂い情報が0又は正の値となるまで、前記第3匂い情報群に対して前記第2匂い情報群を繰り返し加算する調整ステップ、を更に有する匂い探索方法。
【請求項3】
複数の匂い情報からなる匂い情報群が複数格納されたデータベース内から前記複数の匂い情報群の内の一部又は全部を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップにより抽出された前記複数の匂い情報群の内の一部又は全部の匂い情報群と前記第3匂い情報群との類似度を算出する類似度算出ステップと、
前記類似度算出ステップにより算出された前記類似度に基づき、前記複数の匂い情報群の中から特定の匂い情報群を選択する選択ステップと、を更に有する請求項1又は請求項2に記載の匂い探索方法。
【請求項4】
前記類似度算出ステップにおいて、類似度の算出が、前記匂い情報群を、前記匂い情報群に含まれる各匂い情報を座標とするベクトルとした場合に、2つの匂い情報群の間のコサイン類似度、コサイン類似度における両ベクトルがなす角度θをπで除した値(θ/π)についてのコサイン類似度、ベクトル間距離、ピアソン相関係数、偏差パターン類似度のうちのいずれかを算出することである、請求項3に記載の匂い探索方法。
【請求項5】
前記選択ステップにおいて、前記類似度が所定の閾値よりも高い匂い情報群、又は前記類似度が最も高い匂い方法群を前記特定の匂い情報群として選択する、請求項3又は請求項4に記載の匂い探索方法。
【請求項6】
(1)各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子と、
(2)前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成する演算装置と、
を備え、
前記複数のセンサ素子は、複数の匂い物質を含有する第1ガスを検出可能であり、
前記演算装置は、
前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成し、前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成手段、
前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備手段、
前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出手段、及び、
前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、前記第3匂い情報群が有するすべての匂い情報に当該特定の匂い情報の絶対値を加算する調整手段、
として機能する、匂い探索システム。
【請求項7】
(1)各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子と、
(2)前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成する演算装置と、
を備え、
前記複数のセンサ素子は、複数の匂い物質を含有する第1ガスを検出可能であり、
前記演算装置は、
前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成し、前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成手段、
前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備手段、
前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出手段、及び、
前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、前記特定の匂い情報が0又は正の値となるまで、前記第3匂い情報群に対して前記第2匂い情報群を繰り返し加算する調整手段、
として機能する、匂い探索システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の匂い情報に基づいて匂いを探索する匂い探索方法及び匂い探索システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気の匂いを測定するために、空気中の匂い物質を特異的に吸着する水晶振動子を備えるセンサが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-187986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなセンサを用いることで、空気の匂いを検出し、その検出された信号を数値化して個々の空気の匂い情報が得られる。しかしながら、特定の匂いと、他の匂いを混ぜ合わせた場合にどのような匂いとなるかを求めることは難しい。また、目的の匂いを得るために、特定の匂いにどのような匂いを混ぜ合わせたらよいかを求めることは難しい。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、異なる匂い同士を混ぜ合わせた場合に得られる匂い、又は所望の匂いを得るために特定の匂いと混ぜ合わせる匂いを探索する匂い探索方法及び匂い探索システムを提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
[1](1)各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子と、(2)前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成する演算装置と、を用いて生成された前記複数の匂い情報に基づいて、匂いを探索する匂い探索方法であって、複数の匂い物質を含有する第1ガスを複数の前記センサ素子で検出する検出ステップと、前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成ステップと、前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備ステップと、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出ステップと、を有する匂い探索方法。
【0007】
[2]各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子を備え、複数の匂い物質を含有する第1ガスを複数の前記センサ素子で検出する匂いセンサと、前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成し、前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成手段と、前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備手段と、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出手段と、を有する匂い探索システム。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異なる匂い同士を混ぜ合わせた場合に得られる匂い、又は所望の匂いを得るために特定の匂いと混ぜ合わせる匂いを探索する匂い探索方法及び匂い探索システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る匂い探索方法の各ステップを示すフローチャート
図2】検出ステップS1において検出される検出信号データベースD1
図3】検出ステップS1において検出される検出信号を表すグラフ
図4】実施形態1の生成ステップS2の概要を説明する図
図5】実施形態1の生成ステップS2において生成された指標に基づいて表現された画像の一例
図6】匂い情報データベースD2の一例
図7】匂い探索システム1の概要を示す模式図
図8】匂いセンサ10を模式的に示す平面図
図9図8におけるA-A’断面を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態1]
以下、実施形態1に係る匂い探索方法の各ステップについて、図1を参照しながら順に説明する。図1は、実施形態1に係る匂い探索方法の各ステップを示すフローチャートである。
【0012】
実施形態1において、「匂い」とは、ヒト、又はヒトを含む生物が、嗅覚情報として取得することができるものであり、分子単体、若しくは異なる分子からなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを含む概念とする。
【0013】
実施形態1において、上述の匂いを構成する、分子単体、若しくは異なる分子からなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを「匂い物質」と称する。ただし、匂い物質は、広義において、後述する匂いセンサの物質吸着膜に吸着可能な物質を広く意味する場合があるものとする。すなわち、「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質又は未知の匂い物質も存在し得るため、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれ得るものとする。
【0014】
実施形態1に係る匂い探索方法は、複数のセンサ素子と、演算装置と、を用いて生成された複数の匂い情報に基づいて、検出ステップS1、生成ステップS2、準備ステップS3、算出ステップS4の各ステップを実施するものである。実施形態1に係る匂い探索方法は、更に、調整ステップS5、抽出ステップS6、類似度算出ステップS7、選択ステップを有していてもよい。以下、各ステップについて説明する。
【0015】
<検出ステップS1>
検出ステップS1では、第1ガスを複数のセンサ素子11(図7参照)で検出する(図1のS101)。第1ガスは、その他のガスと同様、複数の匂い物質を含む気体である。検出ステップS1においては、第1ガスに加えて、例えば第2ガス等のその他のガスを検出してもよい(図1のS103)。第1ガスとその他のガスとは、同時に検出せず、それぞれ個別に検出する。
【0016】
センサ素子11は、匂いセンサ10(図7参照)の構成要素であり、各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する。すなわち、センサ素子11は、第1ガスに含まれる多種の匂い物質に対して、各々固有の吸着反応を示す。第1ガスに対して固有の吸着反応を示す複数のセンサ素子を用いて第1ガスを検出することにより、複数のセンサ素子11の各々から固有の検出信号を出力することができる。当然ながら、含まれる匂い物質が異なるガスを検出すると、第1ガスを検出した場合とは異なる検出信号が複数のセンサ素子11の各々から出力される。センサ素子11の具体的な構成については、後述する。
【0017】
図2は、検出ステップS1において検出される検出信号データベースD1である。検出信号データベースD1には、各センサ素子11と、センサ素子11のそれぞれにおいて検出された検出信号と、が相互に関連付けられた状態で示されている。図2に示す検出信号データベースD1では、センサ素子11-01~11-35の計35個のセンサ素子11について、それぞれの検出信号が関連付けられた状態で格納されている。なお、図2においては、センサ素子11-08~11-34については、説明の便宜上、記載が省略されている。
【0018】
検出信号は、具体的には、各センサ素子11が検出した生データである。匂いセンサ10が、例えば、水晶振動子センサ(QCM)である場合、センサ素子11が生成する生データとしては、水晶振動子の共振周波数の経時変化とすることができる。すなわち、センサ素子11による検出信号は、匂いセンサ10の動作開始からの経過時間が異なる複数の時点における共振周波数とすることができる。例えば、図2に示すように、センサ素子11-01において検出された検出信号は、匂いセンサ10の動作開始から0秒後における共振周波数を基準とした場合に、14秒後において検出された共振周波数が「9.3」であり、16秒後において検出された共振周波数が「-11.0」である。また、センサ素子11-02において検出された検出信号は、匂いセンサ10の動作開始から0秒後における共振周波数を基準とした場合に、匂いセンサ10の動作開始から14秒後において検出された共振周波数が「10.7」であり、16秒後において検出された共振周波数が「-11.7」である。なお、検出に際して、検出信号の記録の時間間隔は特に制限されないが、例えば、1秒間隔とすることができる。
【0019】
センサ素子11による検出は、複数回行い、複数回行った検出の生データの平均値を検出信号とすることが好ましい。検出の回数は、特に制限されないが、例えば3回とすることができる。平均値としては、算術平均(相加平均)による平均値を採用することができる。
【0020】
<生成ステップS2>
生成ステップS2では、検出ステップS1において検出された第1ガスの検出信号に基づいて第1匂い情報群を生成する(図1のS102)。第1ガスの検出信号からは、演算装置によって、匂い情報が生成される。すなわち、第1ガスを検出することにより各センサ素子から出力された検出信号は、演算装置によって、各々数値化され、各センサ素子に対応する複数の匂い情報が生成される。所定のセンサ素子によって出力された検出信号からは、演算装置によって、所定のセンサ素子と1対1に対応する匂い情報が生成される。演算装置の具体的な構成については、後述する。
【0021】
匂い情報とは、センサ素子によって出力された検出信号を、演算装置が数値化した数値である。すなわち、匂い情報とは、各センサ素子が検出した匂いを、それぞれ数値化したものである。第1ガスをn個のセンサ素子を用いて検出した場合、n個の匂い情報が得られる。第1ガスの検出によって得られた、このn個の匂い情報をまとめて、第1匂い情報群とする。演算装置による数値化は、数値が0(ゼロ)又は正の値となるような数値化であることが好ましく、匂い情報は0(ゼロ)又は正の値であることが好ましい。匂い情報を負の値ではなく、0(ゼロ)又は正の値とすることにより、匂いをより正確に評価することができる。また、匂い情報を0(ゼロ)又は正の値とすることにより、匂い情報同士の和又は差を求めたり、比較したりする場合に好都合である。
【0022】
生成ステップS2は、例えば、差分値算出サブステップS2-1と、対数演算サブステップS2-2と、値分類サブステップS2-3と、指標生成サブステップS2-4と、の各サブステップにより実行することができる。
【0023】
<差分値算出サブステップS2-1>
差分値算出サブステップS2-1においては、検出ステップS1において検出された検出信号のそれぞれについて、極大値と、当該極大値を経た後の最初の極小値(以下「極大値直後の極小値」ともいう)と、の間の差(差分値)を算出する。そして、差分値(極大値とその直後の極小値)が複数存在する場合は、差分値が最大のものを当該測定結果の差分値とする。このようにして、各測定結果に対して、複数のセンサ素子11のそれぞれに関連付けられた差分値を得る。また、この差分値を極大値から極大値直後の極小値まで変化するまでの時間で除することにより、各検出信号についての傾きを得ることができる。
【0024】
図3は、検出ステップS1において検出される検出信号を表すグラフである。図3において、縦軸は、匂いセンサ10の動作開始から0秒後における共振周波数を基準とした場合の所定時間後において検出された共振周波数の変位量[Hz]であり、横軸は、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間[秒]である。図3においては、検出信号データベースD1に示されている検出信号のうち、センサ素子11-01、11-02、11-03についての検出信号が示されている。図3中、センサ素子11-01の検出信号が実線で、センサ素子11-02の検出信号が破線で、センサ素子11-03の検出信号が一点鎖線で示されている。他のセンサ素子11-04~11-35についても、同様にグラフを作成できることは言うまでもない。図3中、センサ素子11-01について、検出信号の差分値は「22.6Hz」である。すなわち、センサ素子11-01についての検出信号において、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間14秒における極大値「9.3Hz」と、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間17秒における極小値「-13.3Hz」との間の差分値である。
【0025】
差分値の算出に際して、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間の範囲を制限してもよい。例えば、匂いセンサ10の動作開始から15秒経過後にサンプルの匂いの測定を開始し、匂いセンサ10の動作開始から20秒経過後にサンプルの匂いの測定を終了した場合、差分値の算出を行う経過時間の範囲を匂いセンサ10の動作開始からの経過時間が14秒から25秒までの間とすることができる。なお、この経過時間の範囲は、任意に設定することができる。
【0026】
<対数演算サブステップS2-2>
対数演算サブステップS2-2においては、差分値算出サブステップS2-1において算出された差分値のそれぞれについて対数演算を行い、複数のセンサ素子11のそれぞれに関連付けられた対数値を得る。対数演算に際して、底は特に制限されないが、例えば2とすることができる。なお、差分値は、極大値と極小値との間の差であり、正の値(実数)である。差分値と同様にして、傾きについても対数値を得ることができる。
【0027】
<値分類サブステップS2-3>
値分類サブステップS2-3においては、対数演算サブステップS2-2において得た各対数値を値の大きさに応じて複数の領域に分類する。分類する領域の数としては、特に制限されないが、例えば、3~5領域等とすることができる。以下、3領域に分類する場合について説明する。
【0028】
値分類サブステップS2-3においては、まず、対数演算サブステップS2-2において得た各サンプルについての複数の対数値のうち、最大のものと、最小のものと、を特定する。次いで、最大の対数値と最小の対数値との間の差を3で除した場合の商を算出する。このようにして得られた商を用いて最大の対数値と最小の対数値との間の数値範囲を3等分された領域に区分することができる。すなわち、最小の対数値から最小の対数値に商を加算した値までの領域と、最小の対数値に商を加算した値から最小の対数に商の2倍を加算した値までの領域と、最小の対数に商の2倍を加算した値から最大の対数値までの領域と、に3等分することができる。
【0029】
次いで、各センサ素子11に関連付けられた対数値のそれぞれを、3つの領域のうち、いずれかの領域に分類する。各対数値について、分類された領域を識別するためのフラグを設けてもよい。例えば、3等分された3つの領域に対して、値が小さいものから順に(1)、(2)、(3)のようにフラグを設けることができる。これにより、各センサ素子11に関連付けられた検出信号を、その値の大きさに応じて3つの段階に分類することができる。
【0030】
上述の生成ステップS2について、図4を用いて更に具体的に説明する。図4は、実施形態1の生成ステップS2の概要を説明する図である。図4中、表(A)は、あるサンプルについて差分値算出サブステップS2-1において算出された差分値を示す表である。センサ素子11-01~11-35のそれぞれについて、その差分値を示している。例えば、表(A)中、センサ素子11-01において得られた差分値は「38.7」であり、センサ素子11-02において得られた差分値は「27.0」である。なお、説明の便宜上、センサ素子11-11~11-34の値については、表示を省略する(後述する表(B)、表(E)についても同様)。
【0031】
次いで、対数演算サブステップS2-2により、各センサ素子11についての差分値を対数演算処理する。ここでの対数演算は、下記式(1)で表される。すなわち、差分値の絶対値を、底を2として対数演算することで、対数値を求める。
[対数値]=log|[差分値]|・・・式(1)
【0032】
表(B)は、対数演算サブステップS2-2によって求められた、各センサ素子11についての対数値を示す表である。例えば、表(B)中、センサ素子11-01において得られた差分値に基づいて算出された対数値は「5.3」であり、センサ素子11-02において得られた差分値に基づいて算出された対数値は「4.8」である。
【0033】
次いで、値分類サブステップS2-3により、得られた対数値に基づいて、各センサ素子11についての対数値を3つの領域に分類する。具体的には、まず、測定中のサンプルにおいて、各センサ素子11についての対数値のうち、最大のもの(最大値)と、最小のもの(最小値)とを特定する。そして、最大値と最小値との間の差を3で除した場合の商を算出する。これら特定した最大値、最小値、及び算出した商を表(C)に示す。表(C)中、特定された最大値は「6.7」であり、特定された最小値は「3.1」であり、算出された商は「1.2」である。
【0034】
これら特定した最大値、最小値、及び算出した商に基づき、各センサ素子11についての対数値を3段階に分類する。分類に際しては、表(D)に示すような分類規則に基づいて分類する。具体的には、最も小さい対数値の領域(領域1)は、3.1≦[対数値]≦4.3の範囲、次に小さい対数値の領域(領域2)は、4.3<[対数値]≦5.5の範囲、最も大きい対数値の領域(領域3)は、5.5<[対数値]≦6.7の範囲との分類規則に基づいて分類する。
【0035】
次いで、分類した結果に基づいて、各センサ素子11について、フラグを付与する。表(E)に各センサ素子11についてフラグを付与した結果を示す。領域1に該当する対数値が得られたセンサ素子11についてはフラグ(1)を、領域2に該当する対数値が得られたセンサ素子11についてはフラグ(2)を、領域3に該当する対数値が得られたセンサ素子11についてはフラグ(3)を付与する。例えば、表(E)中、センサ素子11-01についてはフラグ(2)が付与され、センサ素子11-03についてはフラグ(1)が付与され、センサ素子11-09についてはフラグ(3)が付与されている。
【0036】
<指標生成サブステップS2-4>
指標生成サブステップS2-4においては、値分類サブステップS2-3において分類された対数値(測定結果)であって、各センサ素子11に対応する対数値(検出結果)に基づき、指標を生成する。指標は、それぞれ、各センサ素子11に対応した値を有する。
【0037】
指標とは、サンプルの匂いを匂い画像5(図5参照)で表現するための画像データの基となるデータである。指標は、匂い画像5を形成する各画素の色や位置等の情報を示すデータ(ピクセルデータ)ではなく、小画像6の位置や大きさ、色、形状等を示すデータである。指標に基づいて作成された匂い画像5は、センサ素子11のそれぞれに対応する指標によって表現される小画像6を複数含むものである。匂い画像5は、それらの複数の小画像6の集合として、所定の表示態様によって表すことができる。小画像6のそれぞれは、対応する指標の値の大きさに応じて変化することができる。具体的には、対応する指標の値の大きさに応じて、小画像6の大きさ、色、形状を変化させることができる。すなわち、指標生成サブステップS2-4においては、所定の表示態様でサンプルの匂いが匂い画像5として表現されるように、指標を生成する。また、指標生成サブステップS2-4においては、小画像6のそれぞれが指標の値の大きさに応じて変化するように、指標を生成する。
【0038】
図5は、実施形態1の生成ステップS2において生成された指標に基づいて表現された画像の一例である。図5に示された匂い画像5は、35個の小画像6で構成されており、各小画像6の形状は円である。各小画像6は、各センサ素子11-01~11-35に対応して、左上から順に整列している。具体的には、図5中、上から1行目の2つの小画像6は、左から順にセンサ素子11-01、11-02に対応しており、上から2行目の5つの小画像6は、左から順にセンサ素子11-03~11-07にそれぞれ対応している。また、センサ素子11-03(フラグ(1))に対応する小画像6は小さな円で、センサ素子11-09(フラグ(3))に対応する小画像6は大きな円で、センサ素子11-01(フラグ(2))に対応する小画像6は上記小さな円と大きな円の間の大きさの円で、表されている。
【0039】
図5においては、すべての小画像6の形状が円で表されているが、各小画像6の形状は円に限定されず、正方形、長方形、ひし形、その他不定形等であってもよい。また、すべての小画像6の形状が一致している必要はなく、各小画像6が異なる形状を有していてもよい。図5においては、各小画像6の色は黒色で表されているが、各小画像6の色は黒色に限定されず、任意の色で表されていてもよい。また、すべての小画像6の色が一致している必要はなく、各小画像6が異なる色で表されていてもよい。
【0040】
図5においては、各小画像6が、対応する指標の値の大きさに応じて、大きさが異なるように表されている。具体的には、指標の値が大きければ、小画像6は大きく表示され、指標の値が小さければ、小画像6は小さく表示されている。ここで、各小画像6を表示する大きさは、値分類サブステップS2-3において分類した段階に応じて、複数の段階に分類されていてもよい。すなわち、値分類サブステップS2-3において、フラグ(1)、(2)、(3)の3段階に分類した場合、小画像6の大きさも3段階に分類して表示させることができる。
【0041】
所定の表示態様において、各小画像6の間の間隔は一定であること(等間隔に並んでいること)が好ましい。また、所定の表示態様において、各小画像6の位置(各小画像6の中心又は重心)は、一定であること(指標の値に応じて動かないこと)が好ましい。このように各小画像6の位置や間隔が一定であることにより、指標の値の大きさに応じて、各小画像6の大きさや形状が変化した場合に、変化の前後の匂い画像5を比較することによって、変化した小画像6を視覚的に把握し易くすることができる。なお、各小画像6の間の間隔は一定(等間隔)に限定されず、匂い画像5は、異なる形状の小画像6が複数組み合わせられたものであってもよい。
【0042】
<準備ステップS3>
準備ステップS3では、第2ガスについて、第1ガスと同様、センサ素子による検出、演算装置による数値化を行い、第2匂い情報群を生成する(図1のS104)。
【0043】
<算出ステップS4>
算出ステップS4では、第1匂い情報群と第2匂い情報群との和又は差を算出し、その結果としての第3匂い情報群を生成する(図1のS105)。第1匂い情報群と第2匂い情報群との和又は差は、同一のセンサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する。
【0044】
匂い情報同士の和を求める場合、一方の匂い情報を、そのまま他方の匂い情報に加算してもよい。また、一方の匂い情報に任意の係数を乗じた上で、他方の匂い情報に加算してもよいし、両方の匂い情報に、それぞれ任意の係数を乗じた上で足し合わせてもよい。匂い情報同士の差を求める場合、一方の匂い情報を、そのまま他方の匂い情報から減算してもよい。また、一方の匂い情報に任意の係数を乗じた上で、他方の匂い情報から減算してもよいし、両方の匂い情報に、それぞれ任意の係数を乗じた上で一方から他方を減算してもよい。匂い情報に乗じる係数は特に制限されないが、匂い物質の物質吸着膜への吸着量の差等による、匂い間での検出強度の違いを考慮して匂い係数を決定することができる。
【0045】
本明細書において、「同一のセンサ素子を用いる」とは、単一のセンサ素子を、第1ガス及び第2ガスの両方の検出に用いることであってもよいし、同一の構成を有する別体のセンサ素子をそれぞれ第1ガス及び第2ガスの検出に用いることであってもよい。なお、同一の構成を有するセンサ素子を用いて固定条件でガスを検出した場合、同一の検出信号が得られることが前提である。
【0046】
第1ガスを検出する複数のセンサ素子と、第2ガスを検出する複数のセンサ素子とは、すべて同一のセンサ素子であってもよく、一部が異なるセンサ素子であってもよい。第1ガスを検出する複数のセンサ素子と、第2ガスを検出する複数のセンサ素子とは、すべて同一のセンサ素子であることが好ましい。検出に用いたセンサ素子が同一であるものが多ければ多いほど、得られる数値の数が増えるため、結果として得られる匂いをより正確に表現することができる。
【0047】
<調整ステップS5>
算出ステップS4において、第2匂い情報群と第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報のうち、一部の匂い情報が負の値となる場合がある。匂い情報は正の値であることが好ましいため、一部の匂い情報が負の値となった場合に、当該一部の匂い情報について調整し、第4匂い情報群を生成することができる(図1のS106)。
【0048】
第3匂い情報群において負の値となった匂い情報を調整する調整ステップS5としては、例えば、以下の調整ステップS5-A~S5-Dを採用することができる。調整ステップS5としては、これら調整ステップS5-A~S5-Dに限定されず、他の方法で負の値となった匂い情報を調整することもできる。
【0049】
(調整ステップS5-A)
調整ステップS5-Aは、第3匂い情報群に含まれる特定の匂い情報が負の値であった場合に、当該特定の匂い情報を第3匂い情報群から除外するステップである。負の値である匂い情報を除外した第3匂い情報群を、第4匂い情報群(1)とすることができる。第4匂い情報群(1)に含まれる匂い情報は、負の値である匂い情報を含まず、0(ゼロ)又は正の値を有する匂い情報のみを含む。
【0050】
(調整ステップS5-B)
調整ステップS5-Bは、第3匂い情報群に含まれる特定の匂い情報が負の値であった場合に、当該特定の匂い情報の数値を0(ゼロ)に置換するステップである。負の値である匂い情報の数値を0(ゼロ)に置換した第3匂い情報群を、第4匂い情報群(2)とすることができる。第4匂い情報群(1)に含まれる匂い情報は、負の値である匂い情報を含まず、0(ゼロ)又は正の値を有する匂い情報のみを含む。
【0051】
(調整ステップS5-C)
調整ステップS5-Cは、第3匂い情報群に含まれる特定の匂い情報が負の値であった場合に、第3匂い情報群が有するすべての匂い情報に特定の匂い情報の絶対値を加算するステップである。負の値である特定の匂い情報が複数存在していた場合には、当該負の値の絶対値が最も大きい特定の匂い情報の絶対値を加算することが好ましい。負の値である特定の匂い情報を有する第3匂い情報群のすべての匂い情報に、特定の匂い情報の絶対値のうち最大のものを加算した第3匂い情報群を、第4匂い情報群(3)とすることができる。第4匂い情報群(3)に含まれる匂い情報は、負の値である匂い情報を含まず、0(ゼロ)又は正の値を有する匂い情報のみを含む。
【0052】
(調整ステップS5-D)
調整ステップS5-Dは、第3匂い情報群に含まれる特定の匂い情報が負の値であった場合に、当該特定の匂い情報が0(ゼロ)又は正の値となるまで、第3匂い情報群に対して第1匂い情報群又は第2匂い情報群を繰り返し加算するステップである。すなわち、第3匂い情報群の各匂い情報に対して、第1匂い情報群又は第2匂い情報群の各匂い情報を繰り返し加算し、負の値であった特定の匂い情報を0(ゼロ)又は正の値とする。このとき、第3匂い情報群が第1匂い情報群から第2匂い情報群を減じた場合の算出結果(差)であった場合、第3匂い情報群に加算するのは第1匂い情報群である。第3匂い情報群が第2匂い情報群から第1匂い情報群を減じた場合の算出結果(差)であった場合、第3匂い情報群に加算するのは第2匂い情報群である。負の値である特定の匂い情報が0(ゼロ)又は正の値となるまで、第3匂い情報群に対して第1匂い情報群又は第2匂い情報群を繰り返し加算した第3匂い情報群を、第4匂い情報群(4)とすることができる。第4匂い情報群(4)に含まれる匂い情報は、負の値である匂い情報を含まず、0(ゼロ)又は正の値を有する匂い情報のみを含む。
【0053】
<抽出ステップS6>
抽出ステップS6では、予め作成された匂い情報データベースD2内から、複数の匂い情報群2のうちの一部又は全部を抽出する(S107)。図6は、匂い情報データベースD2の一例を示している。図6に示すように、匂い情報データベースD2には、特定の匂いに関する複数の匂い情報3が相互に関連付けられて、匂い情報群2として格納されている。匂い情報データベースD2には、複数の匂い情報群2が格納されている。図6においては、匂いa、匂いbに関して、センサ素子11のそれぞれについて算出された差分値が示されている。匂いaに関して、センサ素子11-01を用いて算出された差分値は「38.7」であり、センサ素子11-02を用いて算出された差分値は「27.0」である。これら各センサ素子を用いて算出された差分値(匂い情報)を併せて、匂いaについての匂い情報群2となる。なお、図6においては、便宜上、センサ素子11-01~11-07の差分値(匂い情報)のみを示している。
【0054】
<類似度算出ステップS7>
類似度算出ステップS7では、抽出ステップS6においてデータベースD1内から抽出された匂い情報群2と、第3匂い情報群又は第4匂い情報群との類似度を算出する(S108)。すなわち、抽出ステップS6において匂い情報データベースD2内から抽出された匂い情報群2に含まれる各匂い情報3と、第3匂い情報群又は第4匂い情報群に含まれる各匂い情報3とを、それぞれ対応する匂い情報3同士で比較し、類似度を算出する。第3匂い情報群と比較するのは、調整ステップS5において調整が行われなかった場合である。なお、「それぞれ対応する匂い情報3同士」とは、同一のセンサ素子を用いて検出された匂い情報3同士を意味する。
【0055】
類似度の算出は、匂い情報群2を、匂い情報群2に含まれる各匂い情報3を座標とするベクトルと見たてた場合に、そのベクトル間の類似度として算出することができる。匂い情報群2に、n個の匂い情報3が含まれていた場合、ベクトルはn次元のベクトルとなる。
【0056】
類似度は、具体的には、両ベクトルのコサイン類似度、コサイン類似度における両ベクトルがなす角度θをπで除した値(θ/π)についてのコサイン類似度(スコア値)、ベクトル間距離、ピアソン相関係数、偏差パターン類似度等の各種指標を算出することによって求めることができる。類似度としては、スコア値、コサイン類似度、ピアソン相関係数、偏差パターン類似度は、値が1に近い程類似度が高く、ベクトル間距離は、値が小さい程類似度が高い。
【0057】
<選択ステップ>
選択ステップでは、類似度算出ステップS7により算出された類似度に基づき、抽出ステップS6においてデータベースD1内から抽出された複数の匂い情報群2の中から、特定の匂い情報群2を選択する。例えば、データベースD1内から抽出された複数の匂い情報群2の中から、第3匂い情報群又は第4匂い情報群との類似度が所定の閾値よりも高かった匂い情報群2を選択してもよいし、類似度が最も高かった1つ以上の匂い情報群2を選択してもよい。
【0058】
[実施形態2]
次に、実施形態2に係る匂い探索システム1について、図面を参照しながら説明する。図7は、匂い探索システム1の概要を示す模式図である。匂い探索システム1は、匂いセンサ10と、生成手段と、準備手段と、算出手段とを有する。生成手段は、複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報3を生成し、第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報3からなる第1匂い情報群を生成する。準備手段は、第1ガスと異なる第2ガスを複数のセンサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報3からなる第2匂い情報群を準備する。算出手段は、第2匂い情報群と第1匂い情報群との和又は差を、同一のセンサ素子を用いて生成された匂い情報3同士の和又は差に基づき算出する。
【0059】
匂い探索システム1は、更に、複数の匂い情報3からなる匂い情報群2が複数格納された匂い情報データベースD2内から複数の匂い情報群2のうちの一部又は全部を抽出する抽出手段、抽出手段により抽出された複数の匂い情報群2のうちの一部又は全部の匂い情報群2と第3匂い情報群との類似度を算出する類似度算出手段、類似度算出手段により算出された類似度に基づき、複数の匂い情報群2の中から特定の匂い情報群2を選択する選択手段を有していてもよい。
【0060】
演算装置としての演算処理装置51は、生成手段、準備手段、算出手段、抽出手段、類似度算出手段、選択手段等の各機能を実現することができる。匂い探索システム1は、上述の匂い探索方法を実現することができる。
【0061】
<匂いセンサ10>
図8は、匂いセンサ10を模式的に示す平面図である。図9は、図8におけるA-A’断面を模式的に示す断面図である。匂いセンサ10は、複数のセンサ素子11を備える。センサ素子11は、それぞれ、匂い物質を吸着する物質吸着膜13と、この物質吸着膜13への匂い物質の吸着状態を検出する検出器15と、を有する。
【0062】
図8及び図9に示すように、センサ素子11は、検出器15と、検出器15の表面上に設けられた物質吸着膜13と、で構成されている。物質吸着膜13は、検出器15の表面の全体を覆っていることが好ましい。すなわち、検出器15の大きさは、物質吸着膜13の形成範囲と同じか、又は物質吸着膜13の形成範囲よりも小さいことが好ましい。なお、1つの物質吸着膜13の形成範囲内に複数の検出器15が設けられていてもよい。
【0063】
センサ素子11は、センサ基板17上に、複数配設されており、図8に示すように6個のセンサ素子11が正三角形を描くように整列されていてもよい。このとき、隣り合うセンサ素子11の物質吸着膜13同士が接触していないか、又は絶縁されている。なお、センサ素子11は、センサ基板17上で、必ずしも整列されている必要はなく、ランダムに配設されていたり、任意の形態に整列されていたりしてもよい。なお、1つの匂い情報群2を構成する匂い情報3のすべてに対応するセンサ素子11が1枚のセンサ基板17上に配設される必要はなく、複数枚のセンサ基板17上に、それぞれ異なるセンサ素子11が配設されていてもよい。
【0064】
センサ基板17上に配設される複数のセンサ素子11は、それぞれの物質吸着膜13の性状が互いに異なっていることが好ましい。具体的には、複数のセンサ素子11のすべてがそれぞれ異なる組成の物質吸着膜13で構成されており、同一の性状の物質吸着膜13は存在しないことが好ましい。ここで、物質吸着膜13の性状とは、匂い物質の物質吸着膜13への吸着特性ということもできる。すなわち、同じ匂い物質(又はその集合体)であっても、異なる性状を有する物質吸着膜13には、異なる吸着特性を示すことになる。図8及び図9においては、便宜上、物質吸着膜13をすべて同様に示しているが、実際にはその性状が互いに異なっている。なお、各センサ素子11の物質吸着膜13の吸着特性は、必ずしもすべて異なっている必要はなく、中には、同一の吸着特性を有する物質吸着膜13が配設されたセンサ素子11が設けられていてもよい。
【0065】
物質吸着膜13の材質としては、π電子共役高分子で形成される薄膜を用いることができる。この薄膜には、ドーパントとして、無機酸、有機酸、又はイオン性液体のうち、少なくとも1種を含有させることができる。ドーパントの種類や含有量を変化させることで、物質吸着膜13の性状を変化させることができる。
【0066】
π電子共役高分子としては、特に限定されないが、ポリピロール及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリアズレン及びその誘導体等の、π電子共役高分子を骨格とする高分子が好ましい。
【0067】
π電子共役高分子が酸化状態で骨格高分子自体がカチオンとなる場合、ドーパントとしてアニオンを含有させることによって導電性を発現させることができる。なお、本発明では、ドーパントを含有させていない中性のπ電子共役高分子も物質吸着膜13として採用することができる。
【0068】
ドーパントの具体例としては、塩素イオン、塩素酸化物イオン、臭素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ホウ酸イオン等の無機イオン、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸等の有機酸アニオン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸等の高分子酸アニオン等を挙げることができる。
【0069】
また、中性のπ電子共役高分子に、食塩のような塩や、イオン性液体のような陽イオン、陰イオン両方を含むイオン性化合物を共存させることで化学平衡的にドーピングを行う方法も用いることができる。
【0070】
π電子共役高分子におけるドーパントの含有量は、π電子共役高分子を構成する2つの繰り返し単位あたり1つのドーパント単位(イオン)が入る状態を1とした場合、0.01~5の範囲、好ましくは0.1~2の範囲に調整されればよい。ドーパントの含有量を、この範囲の最低値以上とすることにより、物質吸着膜13としての特性が消失することを抑制することができる。また、ドーパントの含有量を、この範囲の最大値以下とすることにより、π電子共役高分子自体が持つ吸着特性の効果が低下し、望ましい吸着特性を有する物質吸着膜13を作成するのが困難になることを抑制することができる。また、通常は低分子量物質であるドーパントが優勢な膜となるために、物質吸着膜13の耐久性が大幅に低下することを抑制することができる。よって、ドーパントの含有量を上述の範囲とすることにより、匂い物質の検出感度を好適に維持することが可能である。
【0071】
複数のセンサ素子11において、それぞれ物質吸着膜13の吸着特性を変化させるために、異なる種類のπ電子共役高分子を用いることができる。また、同種のπ電子共役高分子を用いて、ドーパントの種類や含有量を変化させることで、異なる吸着特性を発現させてもよい。例えば、π電子共役高分子の種類や、ドーパントの種類、含有量等を変化させることにより、物質吸着膜13の疎水・親水性能を変化させることができる。
【0072】
物質吸着膜13の厚さは、吸着対象となる匂い物質の特性に応じて適宜選択することが可能である。例えば、物質吸着膜13の厚さは10nm~10μmの範囲とすることができ、50nm~800nmとすることが好ましい。物質吸着膜13の厚さが10nm未満となると、十分な感度が得られない場合がある。また、物質吸着膜13の厚さが10μmを越えると、検出器15が検出できる重量の上限を超えてしまう場合がある。
【0073】
検出器15は、物質吸着膜13の表面に吸着した匂い物質による、物質吸着膜13の物理、化学、又は電気的特性の変化を測定し、その測定データを例えば電気信号として出力する信号変換部(トランスデューサ)としての機能を有する。すなわち、検出器15は、匂い物質の物質吸着膜13の表面への吸着状態を検出する。検出器15が測定データとして出力する信号としては、電気信号、発光、電気抵抗の変化、振動周波数の変化等の物理情報が挙げられる。
【0074】
検出器15としては、物質吸着膜13の物理、化学、又は電気的特性の変化を測定するセンサであれば特に制限されず、種々のセンサを適宜用いることができる。検出器15として、具体的には、水晶振動子センサ(QCM)、表面弾性波センサ、電界効果トランジスタ(FET)センサ、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスタセンサ、金属酸化物半導体センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ等を挙げることができる。
【0075】
なお、検出器15として水晶振動子センサを用いる場合には、図示しないが、励振電極として、水晶振動子の両面に電極を設けてもよいし、高いQ値を検出するべく片面に分離電極を設けてもよい。また、励振電極は、水晶振動子のセンサ基板17側に、センサ基板17を挟んで設けられていてもよい。励振電極は、任意の導電性材料で形成することができる。励振電極の材料として、具体的には、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン、カーボン、カーボンナノチューブ等の無機材料、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等の有機材料を挙げることができる。
【0076】
検出器15の形状は、図8図9に示すように、平板形状とすることができる。平板形状の平板面の形状は、図8に示すように、円形とすることができるが、四角形や正方形、楕円形等、種々の形状とすることができる。また、検出器15の形状は、平板形上に限られず、その厚さが変動していてもよく、凹状部や凸状部が形成されていてもよい。
【0077】
検出器15が、上述の水晶振動子センサのように振動子を用いるものである場合、複数のセンサ素子11における各振動子の共振周波数を変化させることで、同一のセンサ基板17上に共存する他の振動子から受ける影響(クロストーク)を低減することが可能である。同一のセンサ基板17上の各振動子が、ある振動数に対して異なる感度を示すよう、共振周波数を任意に設計することが可能である。共振周波数は、例えば、振動子や物質吸着膜13の厚さを調節することで変化させることができる。
【0078】
センサ基板17としては、シリコン基板、水晶結晶からなる基板、プリント配線基板、セラミック基板、樹脂基板等を用いることができる。また、基板は、インターポーザ基板等の多層配線基板であり、水晶基板を振動させるための励振電極と実装配線、通電するための電極が任意の位置に配置されている。
【0079】
上述のような構成とすることにより、匂い物質の吸着特性がそれぞれ異なる物質吸着膜13を有するセンサ素子11を複数有する匂いセンサ10を得ることができる。これにより、ある匂い物質又はその組成を含む空気の匂いを匂いセンサ10で測定した場合、各センサ素子11の物質吸着膜13には、同様に匂い物質又はその組成が接触することになるが、各物質吸着膜13には、匂い物質がそれぞれ異なる態様で吸着される。すなわち、各物質吸着膜13において、匂い物質の吸着量が異なる。そのため、各センサ素子11において検出器15の検出結果が異なることになる。したがって、ある匂い物質又はその組成に対して、匂いセンサ10が備えるセンサ素子11(物質吸着膜13)の数だけ、検出器15による測定データが生成される。
【0080】
ある匂い物質又はその組成について測定することにより匂いセンサ10が生成する測定データのセットは、通常、特定の匂い物質や匂い物質の組成に対して特異的(ユニーク)である。そのため、匂いセンサ10によってデータを測定することにより、匂いを、匂い物質単独で、又は匂い物質の組成(混合物)として識別することが可能である。
【0081】
<演算装置>
匂い探索システム1の生成手段、準備手段、算出手段等の各手段は、演算装置としての演算処理装置51によって実現することができる。図7に示すように、演算処理装置51は、匂いセンサ10のセンサ素子11のそれぞれと通信可能に接続されており、センサ素子11のそれぞれが検出した検出結果を演算処理装置51で読み取り、それを基に演算することができる。演算処理装置51は、記憶装置53と接続されていてもよい。記憶装置53には、生成手段、準備手段、算出手段等の各手段を実現するプログラムP1として格納させておくことができる。また、記憶装置53には、検出信号データベースD1や匂い情報データベースD2を格納させておくことができる。
【実施例
【0082】
(実施例1)
レモンの匂いと、ライムの匂いと、シナモンの匂いと、を合わせると、コーラの匂いとなることが知られている。この知見を基に、実施形態2の匂い探索システム1を用いて検証した。
【0083】
(官能試験)
アロマスター社製のレモン、ライム、及びシナモンの匂いサンプルを用いて、官能試験を行った。各匂いサンプル約10μlを、それぞれ香料試験紙に滴下し、各香料試験紙をサンプル瓶に封入した。10分間放置した後、サンプル瓶を開栓し、試験員による官能試験を行った。官能試験の結果、7人中7人がコーラに近い香りであったと評価した。
【0084】
(実施例1-1)
アロマスター社製のレモンの匂いサンプルとシナモンの匂いサンプルを予め混合し、混合した匂いサンプルについて検出信号の差分値を含む第1匂い情報群を生成した。アロマスター社製のライムの匂いサンプルについて検出信号の差分値を含む第2匂い情報群を生成した。第1匂い情報群と第2匂い情報群との和を算出し、第3匂い情報群を生成した。
【0085】
匂い情報データベースD2から抽出された複数の匂い情報群と、第3匂い情報群との類似度を算出し、抽出された複数の匂い情報群を、類似度が高い順にソートし、上位3つの匂い情報群を選択した。なお、類似度はコサイン類似度を用いて算出し、これに基づいてソートした。実施例1-1の各種条件を表1に示す。また、実施例1-1の選択結果を表2に示す。なお、匂い情報データベースD2には、各種サンプルの匂いについて匂いセンサ10を用いて生成した匂い情報群が、各サンプルのラベルと関連付けられて格納されている。実施例において用いた各サンプルの詳細について、表3に示す。
【0086】
各サンプルの測定方法は、その状態に応じて変えて行った。サンプルの状態が液体であった場合、容量20mLのバイアル瓶に、サンプル10mLを注ぎ入れ、バイアル瓶の開口部を匂いセンサ10に近付けることにより測定した。ただし、サンプルがアロマオイルである場合、アロマオイルの容器の開口部を匂いセンサ10に近付けることにより測定した。また、サンプルの状態が液体であった場合、サンプルをムエット(香水紙)に数滴垂らしたものをサンプル瓶に入れ、サンプル瓶の開口部を匂いセンサ10に近付けることにより測定した。サンプルが固体であった場合、容量20mLのバイアル瓶にサンプルを入れ、バイアル瓶の開口部を匂いセンサ10に近付けることにより測定した。サンプルが容量20mLのバイアル瓶に入らない場合は、適宜バイアル瓶に入る程度に解砕、粉砕した。サンプルの状態が気体であった場合、サンプルに暴露させた布をサンプル瓶に入れ、サンプル瓶の開口部を匂いセンサ10に近付けることにより測定した。サンプルが喫煙者の呼気であった場合、喫煙中の喫煙者の呼気を布に吹き付けることにより布をサンプルに暴露させた。
【0087】
匂い測定に際しては、匂いセンサ10を内部に備えると共に、匂いセンサ10に外部の空気を導入する導入口を備える匂い測定装置を用いた。導入口の近傍約1cmにバイアル瓶又はサンプル瓶の開口部を近付け、バイアル瓶又はサンプル瓶をその位置で約5秒間保持することでサンプルの匂いを測定した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
表2に示すように、実施例1-1において、第3匂い情報群と最も類似度が高い(類似度1位の)匂い情報群は、コーラ飲料A(サントリー食品インターナショナル社製のペプシ(登録商標)コーラ)について生成された匂い情報群であった。類似度2位の匂い情報群は、紅茶A(Janat製のアールグレイ茶葉を用いたもの)について生成された匂い情報群であり、類似度3位の匂い情報群は、アロマオイルD(アロマスター社ワインアロマキット(88種類のアロマ)の中から「トマト」のアロマオイルを使用)について生成された匂い情報群であった。
【0092】
(実施例1-2~1-10)
表1に示した条件としたこと以外は、実施例1-1と同様にして匂い情報群を選択した。なお、実施例1-4~1-10については、第3匂い情報群に含まれる匂い情報が負の値となった場合に、当該負の値となった匂い情報を除外して第4匂い情報群を生成し、第4匂い情報群に基づいて類似度を算出した。実施例1-2~1-10の選択結果を表2に示す。
【0093】
(実施例2)
イソ吉草酸の匂いと、バニリンの匂いと、を合わせると、チョコレートの匂いとなることが知られている。この知見を基に、実施形態2の匂い探索システム1を用いて検証した。
【0094】
(官能試験)
イソ吉草酸の1000倍希釈水溶液と、アロマスター社製のバニリンの匂いサンプルを用いて、官能試験を行った。イソ吉草酸の1000倍希釈水溶液を微量滴下した綿棒、及びバニリンの匂いサンプル約10mgを滴下した綿棒を、サンプル瓶に封入した。10分間放置した後、サンプル瓶を開栓し、試験員による官能試験を行った。官能試験の結果、9人中9人がチョコレートに近い香りであったと評価した。
【0095】
(実施例2-1、3-1~3-3)
表4に示した条件としたこと以外は、実施例1-1と同様にして匂い情報群を選択した。なお、実施例3-1~3-3については、第3匂い情報群に含まれる匂い情報が負の値となった場合に、当該負の値となった匂い情報を除外して第4匂い情報群を生成し、第4匂い情報群に基づいて類似度を算出した。実施例2-1、3-1~3-3の選択結果を表5に示す。実施例において用いた各サンプルの詳細について、表3に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0099】
(趣旨1)(1)各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子と、(2)前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成する演算装置と、を用いて生成された前記複数の匂い情報に基づいて、匂いを探索する匂い探索方法であって、複数の匂い物質を含有する第1ガスを複数の前記センサ素子で検出する検出ステップと、前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成ステップと、前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備ステップと、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出ステップと、を有する匂い探索方法を第1の趣旨とする。
【0100】
これによれば、異なる匂い同士を混ぜ合わせた場合に得られる匂い、又は所望の匂いを得るために特定の匂いと混ぜ合わせる匂いを探索する匂い探索方法及び匂い探索システムを提供することができる。
【0101】
(趣旨2)匂い探索方法は、前記算出ステップにおいて、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、当該特定の匂い情報を前記第3匂い情報群から除外する調整ステップ、を更に有するものであってもよい。
【0102】
(趣旨3)匂い探索方法は、前記算出ステップにおいて、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、当該特定の匂い情報の数値を0に置換する調整ステップ、を更に有するものであってもよい。
【0103】
(趣旨4)匂い探索方法は、前記算出ステップにおいて、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、前記第3匂い情報群が有するすべての匂い情報に当該特定の匂い情報の絶対値を加算する調整ステップ、を更に有するものであってもよい。
【0104】
(趣旨5)匂い探索方法は、前記算出ステップにおいて、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との差の結果としての第3匂い情報群が有する複数の匂い情報の内の特定の匂い情報が負の値である場合に、前記特定の匂い情報が0又は正の値となるまで、前記第3匂い情報群に対して前記第2匂い情報群を繰り返し加算する調整ステップ、を更に有するものであってもよい。
【0105】
(趣旨6)匂い探索方法は、複数の匂い情報からなる匂い情報群が複数格納されたデータベース内から前記複数の匂い情報群の内の一部又は全部を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップにより抽出された前記複数の匂い情報群の内の一部又は全部の匂い情報群と前記第3匂い情報群との類似度を算出する類似度算出ステップと、
前記類似度算出ステップにより算出された前記類似度に基づき、前記複数の匂い情報群の中から特定の匂い情報群を選択する選択ステップと、を更に有するものであってもよい。
【0106】
(趣旨7)匂い探索方法は、前記類似度算出ステップにおいて、類似度の算出が、前記匂い情報群を、前記匂い情報群に含まれる各匂い情報を座標とするベクトルとした場合に、2つの匂い情報群の間のコサイン類似度、コサイン類似度における両ベクトルがなす角度θをπで除した値(θ/π)についてのコサイン類似度、ベクトル間距離、ピアソン相関係数、偏差パターン類似度のうちのいずれかを算出することであるものであってもよい。
【0107】
(趣旨8)匂い探索方法は、前記選択ステップにおいて、前記類似度が所定の閾値よりも高い匂い情報群、又は前記類似度が最も高い匂い方法群を前記特定の匂い情報群として選択するものであってもよい。
【0108】
(趣旨9)各々異なる匂い物質に対して固有の吸着反応を示すことにより、その吸着状況に応じた検出信号を出力する複数のセンサ素子を備え、複数の匂い物質を含有する第1ガスを複数の前記センサ素子で検出する匂いセンサと、前記複数のセンサ素子からの検出信号を各々数値化することにより、数値である複数の匂い情報を生成し、前記第1ガスの検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第1匂い情報群を生成する生成手段と、前記第1ガスと異なる第2ガスを複数の前記センサ素子で検出した検出結果に基づいて生成された複数の匂い情報からなる第2匂い情報群を準備する準備手段と、前記第2匂い情報群と前記第1匂い情報群との和又は差を、同一の前記センサ素子を用いて生成された匂い情報同士の和又は差に基づき算出する算出手段と、を有する匂い探索システムを第2の趣旨とする。
【符号の説明】
【0109】
1:匂い探索システム 2:匂い情報群
3:匂い情報 10:匂いセンサ
11:センサ素子 13:物質吸着膜
15:検出器 17:センサ基板
51:演算処理装置 53:記憶装置
D1:検出信号データベース D2:匂い情報データベース
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9