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特許7221562正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法、計算装置、測定装置及びその応用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法、計算装置、測定装置及びその応用
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/16 20130101AFI20230207BHJP
【FI】
G01P15/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022003282
(22)【出願日】2022-01-12
(65)【公開番号】P2022108737
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】202110045157.6
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522015825
【氏名又は名称】徐 培亮
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】徐 培亮
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110703284(CN,A)
【文献】特許第7160210(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置データ又は変位データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した位置データ又は変位データを速度又は加速度の積分方程式で表し、速度又は加速度の積分方程式を離散化して、下記の式(6)に示す速度又は加速度に関する行列形式の線形離散化観測方程式を得る離散化ステップと、
正則化法を利用して、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度βを回復させる回復ステップと
を有することを特徴とする正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法。
y=Aβ+ε (6)
ここで、yは位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行列であり、βは速度又は加速度であり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。
【請求項2】
前記回復ステップにおいて、
下記の式(7)に示す目的関数を作成し、
正則化パラメータκを決定し、位置データ又は変位データyから、下記の式(8)に示す速度及び/又は加速度βを回復させる
ことを特徴とする請求項に記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法。
min:F(β)=(y-Aβ)W(y-Aβ)+κβSβ (7)
β=(AWA+κS)-1Wy (8)
ここで、Wは位置データ又は変位データの重み行列であり、κは正則化パラメータであり、Sは正定値/半正定値行列である。
【請求項3】
前記κは、最小平均二乗誤差法によって決定される
ことを特徴とする請求項に記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法。
【請求項4】
前記回復ステップにおける正則化法は、一般化交差検証法(GCV法)、残差及びパラメータの二乗ノルムのL-カーブ法、赤池ベイジアン情報量規準(ABIC)、一部の最小固有値をとる打ち切り特異値分解法、又はL1・L2ノルム最小化法である
ことを特徴とする請求項に記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法。
【請求項5】
加速度測定装置又はGNSSデバイスによって変位データ又は位置データを取得する
ことを特徴とする請求項に記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法。
【請求項6】
位置データ又は変位データを取得するための取得モジュールと、
前記取得モジュールで取得した位置データ又は変位データを速度又は加速度の積分方程式で表し、速度又は加速度の積分方程式を離散化して、下記の式(6)に示す速度又は加速度に関する行列形式の線形離散化観測方程式を得るための離散化モジュールと、
正則化法を利用して、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度βを回復させるための回復モジュールと
を備えることを特徴とする正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置。
y=Aβ+ε (6)
ここで、yは位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行列であり、βは速度又は加速度であり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。
【請求項7】
前記回復モジュールは、下記の式(7)に示す目的関数を作成し、正則化パラメータκを決定し、位置データ又は変位データyから、下記の式(8)に示す速度及び/又は加速度βを回復させるようにしてある
ことを特徴とする請求項に記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置。
min:F(β)=(y-Aβ)W(y-Aβ)+κβSβ (7)
β=(AWA+κS)-1Wy (8)
ここで、Wは位置データ又は変位データの重み行列であり、κは正則化パラメータであり、Sは正定値/半正定値行列である。
【請求項8】
前記κは、最小平均二乗誤差法によって決定される
ことを特徴とする請求項に記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置。
【請求項9】
前記正則化法は、一般化交差検証法(GCV法)、残差及びパラメータの二乗ノルムのL-カーブ法、赤池ベイジアン情報量規準(ABIC)、一部の最小固有値をとる打ち切り特異値分解法、又はL1・L2ノルム最小化法である
ことを特徴とする請求項に記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置。
【請求項10】
位置データ又は変位データを出力する装置と、
請求項のいずれか1つに記載の計算装置と
を備える正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の測定装置。
【請求項11】
地震計、慣性計測装置、重力計、AED、エアバッグ展開システム、足踏み板又は自由落下センサにおける請求項のいずれか1つに記載の正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法、計算装置、測定装置及びその応用に関し、速度及び/又は加速度を計算する分野に属する。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば、圧電式、圧電抵抗式及び静電容量式などの加速度測定装置や、全球測位衛星システムGNSSに基づく速度及び加速度測定用のハードウェア装置など、様々な速度及び加速度測定用のハードウェア装置が市販されている。このような測定装置は、所定のサンプリングレートで生の測定データを取得して等価な位置データ又は変位データに変換し、そして、速度及び加速度を計算して出力するように動作する。加速度測定用のハードウェア装置では、通常、ハードウェアの機械的フレーム内の試験質量(proof mass)の変位を用いて、変換関数によって応答を計算し、逆変換関数及びフィルタにより速度及び加速度を計算して出力する。GNSSに基づく速度及び加速度測定用のハードウェア装置では、GNSS位置データを直接に用いて一次及び二次差分を行って速度及び加速度を計算する。
【0003】
既存の位置データ又は変位データに基づく差分法や、変換関数を含む逆変換関数及びフィルタによって、速度及び加速度を出力することが可能であるが、これらの方法によって出力された速度及び加速度には、以下の不具合がある。
【0004】
位置データ又は変位データに基づいて速度及び加速度を計算する場合に第一種ヴォルテラ積分方程式に変換することは、典型的な不良設定問題に該当する。図1a、1b、1cの速度図及び図2a、2b、2cの加速度図に示すように、サンプリングレートが高まることに伴い、ノイズが極めて拡大されるため、速度・加速度の信号がすべてノイズに埋もれ、ひいては出力された速度及び加速度がすべてノイズと見られることとなり、位置データ又は変位データから正しい速度及び加速度の信号を取得することは困難であり、ひいては、正しい速度及び加速度の信号は得られないと言える。GNSSデバイスにより得られた位置データを用いて運動体の速度及び加速度を計算する場合には、図示したように、信号はほぼノイズと見られ、信号は完全にノイズに埋もれており、運動体の速度及び加速度はともに平滑また安定的な変化ではなく、瞬間的な乱高下が現れ、速度及び加速度の信号の規則性が現れていない。
【0005】
また、サンプリングレートを低くすると、速度及び加速度のノイズが抑えられるが、図3a、3b、3cの速度図及び図4a、4b、4cの加速度図に示すように、低サンプリングレートの場合には、区間平均するため、速度・加速度の信号の歪みが生じる。
【0006】
さらに、低サンプリングレートの場合には、ユーザは2つのサンプリング間の速度及び加速度の信号、特に瞬間速度及び瞬間加速度の信号値を得ることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
速度及び加速度の測定装置に存在する上記の問題を解決するために、本発明は、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法、計算装置、測定装置及びその応用を提供する。高サンプリングレートの場合にノイズが拡大されるという固有の問題を最大限に抑制して、出力される速度及び/又は加速度の信号の正確性を確保し、瞬間速度及び/又は瞬間加速度の信号の正確性を確保することができ、速度及び/又は加速度の信号が歪むという問題を避けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の解決手段を採用する。
【0009】
本発明は、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法を提供する。該計算方法は、位置データ又は変位データを取得する取得ステップと、位置データ又は変位データを用いて正則化法で速度及び/又は加速度を計算する計算ステップとを有することを特徴とする。
【0010】
さらに、計算ステップは、具体的に、位置データ又は変位データを速度又は加速度の積分方程式で表し、速度又は加速度の積分方程式を離散化して、下記の式(6)に示す速度又は加速度に関する行列形式の線形離散化観測方程式を得る離散化ステップと、正則化法を利用して、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度βを回復させる回復ステップとを有する。
y=Aβ+ε (6)
ここで、yは位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行列であり、βは速度又は加速度であり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。
【0011】
さらに、回復ステップにおいて、具体的に、下記の式(7)に示す目的関数を作成し、正則化パラメータκを決定し、位置データ又は変位データyから、下記の式(8)に示す速度及び/又は加速度βを回復させる。
min:F(β)=(y-Aβ)W(y-Aβ)+κβSβ (7)
β=(AWA+κS)-1Wy (8)
ここで、Wは位置データ又は変位データの重み行列であり、κは正則化パラメータであり、Sは正定値/半正定値行列である。
【0012】
さらに、κは最小平均二乗誤差法によって決定される。
【0013】
さらに、正則化法は、一般化交差検証法(GCV法)、残差及びパラメータの二乗ノルムのL-カーブ法、赤池ベイジアン情報量規準(ABIC)、一部の最小固有値をとる打ち切り特異値分解法、又はL1・L2ノルム最小化法であってもよい。
【0014】
さらに、加速度測定装置又はGNSSデバイスによって変位データ又は位置データを取得する。
【0015】
本発明は正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置を提供する。該計算装置は、位置データ又は変位データを取得するための第1モジュールと、位置データ又は変位データを用いて正則化法で速度及び/又は加速度を計算するための第2モジュールとを備える。
【0016】
さらに、前記第2モジュールは、速度又は加速度の積分方程式を離散化して、下記の式(6)に示す速度又は加速度に関する行列形式の線形離散化観測方程式を得るための離散化モジュールと、正則化法を利用して、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度βを回復させるための回復モジュールとを備える。
y=Aβ+ε (6)
ここで、yは位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行列であり、βは速度又は加速度であり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。
【0017】
さらに、前記回復モジュールは、具体的に、下記の式(7)に示す目的関数を作成し、正則化パラメータκを決定し、位置データ又は変位データyから、下記の式(8)に示す速度及び/又は加速度βを回復させるようにしてある。
min:F(β)=(y-Aβ)W(y-Aβ)+κβSβ (7)
β=(AWA+κS)-1Wy (8)
ここで、Wは位置データ又は変位データの重み行列であり、κは正則化パラメータであり、Sは正定値/半正定値行列である。
【0018】
さらに、κは最小平均二乗誤差法によって決定される。
【0019】
さらに、正則化法は、一般化交差検証法(GCV法)、残差及びパラメータの二乗ノルムのL-カーブ法、赤池ベイジアン情報量規準(ABIC)、一部の最小固有値をとる打ち切り特異値分解法、又はL1・L2ノルム最小化法であってもよい。
【0020】
本発明は、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の測定装置を提供する。該測定装置は、位置データ又は変位データを出力する装置と、上記のいずれか1つの計算装置とを備える。
【0021】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備える地震計を提供する。
【0022】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備える振動・衝撃検知センサを提供する。
【0023】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備える慣性計測装置を提供する。
【0024】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備える重力計を提供する。
【0025】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備えるAED(自動体外式除細動器)を提供する。
【0026】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備えるエアバッグ展開システムを提供する。
【0027】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備える足踏み板を提供する。
【0028】
本発明は、上記の計算装置又は測定装置を備える自由落下センサを提供する。
【発明の効果】
【0029】
差分法や変換関数を含む逆変換法の不良設定性による、観測誤差が極めて拡大される問題を解消し、速度及び加速度の信号が完全にノイズに埋もれることを避けるために、本発明は、位置データ又は変位データに基づいて速度及び/又は加速度を計算する場合に、典型的な第一種ヴォルテラ積分方程式に転換し、正則化法を使用することにより、ノイズの拡大を抑え、速度及び/又は加速度の信号値を正確に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1a】差分法で計算することで得た25Hzにおける速度図である。
図1b】差分法で計算することで得た25Hzにおける速度図である。
図1c】差分法で計算することで得た25Hzにおける速度図である。
図2a】差分法で計算することで得た25Hzにおける加速度図である。
図2b】差分法で計算することで得た25Hzにおける加速度図である。
図2c】差分法で計算することで得た25Hzにおける加速度図である。
図3a】差分法で計算することで得た1Hzにおける速度図である。
図3b】差分法で計算することで得た1Hzにおける速度図である。
図3c】差分法で計算することで得た1Hzにおける速度図である。
図4a】差分法で計算することで得た1Hzにおける加速度図である。
図4b】差分法で計算することで得た1Hzにおける加速度図である。
図4c】差分法で計算することで得た1Hzにおける加速度図である。
図5】正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法を実行する装置の構成を示すブロック図である。
図6】正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法の概略を説明する図である。
図7】正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法のフローチャートである。
図8】正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置を示す機能ブロック図である。
図9a】正則化アルゴリズムで計算することで得た25Hzにおける速度図である。
図9b】正則化アルゴリズムで計算することで得た25Hzにおける速度図である。
図9c】正則化アルゴリズムで計算することで得た25Hzにおける速度図である。
図10a】正則化アルゴリズムで計算することで得た25Hzにおける加速度図である。
図10b】正則化アルゴリズムで計算することで得た25Hzにおける加速度図である。
図10c】正則化アルゴリズムで計算することで得た25Hzにおける加速度図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
具体的に、速度の物理学定義に基づき、下記の微分方程式がある。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、r(t)は時点tにおける位置であり、v(t)は時点tにおける運動物体の速度である。微分方程式(1)は、下記の速度の積分方程式に等価に変換される。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、r(t)は初期時点tにおける位置である。積分方程式(2)は第一種ヴォルテラ積分方程式であり、典型的な不良設定問題に該当し、観測誤差が拡大されるという問題が存在する。加速度測定装置では、時点tにおいて、ハードウェアの機械的フレーム内の試験質量の変位は、r(t)からr(t)を引くことにより得られ、v(τ)は時点τにおける試験質量の速度である。差分法又は変換関数を含む逆変換法を利用した場合には、変位データ又は位置データのノイズが極めて拡大されるため、変位データ又は位置データから正しい速度信号を取得することは困難である。
【0036】
速度の微分方程式(1)と同様に、加速度の微分方程式がある。
【0037】
【数3】
【0038】
ここで、a(t,r(t))は運動物体の時点tにおける加速度である。微分方程式(3)と等価な加速度の積分方程式は下記式(4)で示す。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、v(t)は初期時点tにおける速度である。積分方程式(4)も第一種ヴォルテラ積分方程式に該当し、典型的な不良設定問題に該当し、観測誤差が拡大されるという問題が同様に存在する。サンプリングレートが高ければ高いほど、誤差の拡大が大きくなり、ひいては拡大されたノイズに加速度の信号が完全に埋もれる。
【0041】
正則化法を利用し、位置データ又は変位データのサンプリングから正しい速度及び/又は加速度の信号を回復するために、該当する積分方程式を離散化するとともに、観測誤差を考慮することで、離散化観測方程式(5)を得る。
【0042】
y(t)=Aβ+ε (5)
【0043】
ここで、y(t)は位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行ベクトルであり、βは推定すべき未知のパラメータであり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。離散化方程式が速度の積分方程式(2)に対応する場合に、βは速度の未知数ベクトルである。離散化方程式が加速度の積分方程式(4)に対応する場合に、βは加速度の未知数ベクトルである。yをすべての位置データ又は変位データの列ベクトルとすると、離散化方程式(5)は行列形式の式(6)になる。
【0044】
y=Aβ+ε (6)
【0045】
ここで、yは位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行列であり、βは速度又は加速度であり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。
【0046】
線形観測方程式(6)が第一種ヴォルテラ積分方程式から得られたため、係数行列は悪条件であり、サンプリングレートが高まることに伴い、観測ランダム誤差が極めて拡大される。従って、正則化法を利用することで、ノイズの拡大を抑制して、速度及び/又は加速度の信号値を正確に取得することができる。対応する最適化目的関数は下記の式(7)で示すことができる。
【0047】
min:F(β)=(y-Aβ)W(y-Aβ)+κβSβ (7)
【0048】
ここで、Wは位置データ又は変位データの重み行列であり、κは正則化パラメータであり、Sは正定値/半正定値行列である。最適化目的関数(7)の解は式(8)で示す。
【0049】
β=(AWA+κS)-1Wy (8)
【0050】
適切な正則化パラメータκを選択することにより、ノイズの拡大を抑制して、速度及び/又は加速度の信号値を正確に取得することができる。
【0051】
実施例1:
図5は、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法を実行する装置の構成を示すブロック図である。該計算方法を実行する装置は、コンピュータを用いて構成されており、演算を行うCPU11と、演算に伴って発生する一時的な情報を記憶するRAM12と、演算処理を行うためのコンピュータプログラムを記憶するROM13と、位置データ又は変位データが入力される入力IF14と、計算結果を出力するための出力IF15とを備えており、これらの各ハードウェアがバス16を介して互いに接続されている。CPU11は、ROM13に記憶されているコンピュータプログラムをRAM12にロードし、ロードしたコンピュータプログラムに基づいて本発明の計算方法を実行する装置に必要な処理を実行する。
【0052】
次に、フローチャートを用いて正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法の手順を説明する。図6に示すように、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法は、以下のステップを有する。
【0053】
取得ステップ:CPU11は、入力IF14を介して、位置データ又は変位データを取得する。
【0054】
計算ステップ:CPU11は、位置データ又は変位データを用いて正則化法で速度及び/又は加速度を計算する。
【0055】
実施例2:
図7に示すように、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法は、以下のステップを有する。
【0056】
位置データ又は変位データを取得する取得ステップにおいて、具体的に、加速度測定装置又はGNSSデバイスによって変位データ又は位置データを取得する。
【0057】
位置データ又は変位データを用いて正則化法で速度及び/又は加速度を計算する計算ステップにおいて、具体的に、以下の離散化ステップ及び回復ステップを実行する。
【0058】
離散化ステップ:位置データ又は変位データを速度又は加速度の積分方程式で示し、速度又は加速度の積分方程式を離散化して、速度又は加速度に関する行列形式の線形離散化観測方程式(下記の式(6)で示す)を得る。
【0059】
y=Aβ+ε (6)
【0060】
ここで、yは位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行列であり、βは速度又は加速度であり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。
【0061】
回復ステップ:正則化法を利用して、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度βを回復させる。
【0062】
上記の回復ステップは、目的関数(下記の式(7)で示す)を作成し、正則化パラメータκを決定し、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度β(下記の式(8)で示す)を回復させるように最適化される。
【0063】
min:F(β)=(y-Aβ)W(y-Aβ)+κβSβ (7)
ここで、Wは位置データ又は変位データの重み行列であり、κは正則化パラメータであり、Sは正定値/半正定値行列である。
【0064】
β=(AWA+κS)-1Wy (8)
【0065】
κは、最小平均二乗誤差法によって決定されてもよく、経験又は他の正則化アルゴリズムによって決定されてもよい。
【0066】
正則化法として、一般化交差検証法(GCV法)、残差及びパラメータの二乗ノルムのL-カーブ法、赤池ベイジアン情報量規準(ABIC)、一部の最小固有値をとる打ち切り特異値分解法、又はL1・L2ノルム最小化法を利用してもよい。
【0067】
実施例3:
図8に示すように、正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算装置は、位置データ又は変位データを取得するための第1モジュールと、位置データ又は変位データを用いて正則化法で速度及び/又は加速度を計算するための第2モジュールとを備える。
【0068】
実施例4:
上記の第2モジュールは、離散化モジュールと回復モジュールとを備えるように最適化される。
【0069】
離散化モジュールは、速度又は加速度の積分方程式を離散化して、速度又は加速度に関する線形離散化観測方程式(6)を得るために使用される。
【0070】
y=Aβ+ε (6)
ここで、yは位置データ又は変位データであり、Aは離散化係数行列であり、βは速度又は加速度であり、εは位置データ又は変位データのランダム誤差である。
【0071】
回復モジュールは、正則化法を利用して、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度βを回復させる。
【0072】
上記の回復モジュールは、目的関数(下記の式(7)で示す)を作成し、正則化パラメータκを決定し、位置データ又は変位データyから、速度及び/又は加速度β(下記の式(8)で示す)を回復させるように最適化される。
【0073】
min:F(β)=(y-Aβ)W(y-Aβ)+κβSβ (7)
ここで、Wは位置データ又は変位データの重み行列であり、κは正則化パラメータであり、Sは正定値/半正定値行列である。
【0074】
β=(AWA+κS)-1Wy (8)
【0075】
ここで、κは最小平均二乗誤差法で決定される。
【0076】
前述した正則化法の他に、一般化交差検証法(GCV法)、残差及びパラメータの二乗ノルムのL-カーブ法、赤池ベイジアン情報量規準(ABIC)、一部の最小固有値をとる打ち切り特異値分解法、又はL1・L2ノルム最小化法を利用してもよい。
【0077】
実施例5:
正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の測定装置は、位置データ又は変位データを出力する装置と、前述した計算装置とを備える。位置データ又は変位データを出力する装置は、例えば、圧電式、圧電抵抗式及び静電容量式などの加速度センサを備えてもよく、GNSSデバイスを使用してもよい。該装置から出力された位置データ又は変位データに基づいて、計算装置は正則化法で速度及び/又は加速度を計算する。
【0078】
実施例6:
上記のいずれか1つの計算装置又は測定装置は、地震計、振動・衝撃検知センサ、慣性計測装置、重力計、AED、エアバッグ展開システム、足踏み板、又は自由落下センサに適用される。前述した各装置の他に、速度及び/又は加速度を測定する必要がある他の装置に本発明を応用してもよい。
【0079】
実施例7:
本実施例では、まず、観測点QLAIの50HzでのGNSS擬似距離及び位相の観測データを用いて、GNSS精密単独測位法で計算して、該観測点の50Hzでの位置データを得た。次いで、正則化アルゴリズムを用いて25Hzにおける速度及び加速度の信号を有効に正しく得た。速度及び加速度の信号には、図9a(速度)及び図10a(加速度)に示すように、規則正しい変化がみられる。
【0080】
差分法で計算することで得た速度図1aと、正則化アルゴリズムで計算することで得た速度図9aとを比較した結果、同じサンプリングレートの場合、図1aの差分法によるカオス速度値とは異なり、本発明は、図9aに示すように、安定した正確な速度波形を回復する。差分法によって得られた最大速度は、本発明により得られた最大速度よりも、東西方向、南北方向及び上下方向においてそれぞれに約7.4倍、5.4倍及び9.7倍大きい。差分法で計算することで得た加速度図2aと、正則化アルゴリズムで計算することで得た加速度図10aとを比較すると、図2aの差分法によるカオス加速度値とは異なり、本発明は、図10aに示すように、安定した正確な加速度波形を回復する。差分法によって得られた最大加速度は、本発明により得られた最大加速度よりも、東西方向、南北方向及び上下方向においてそれぞれに約390.4倍、366.4倍及び910.8倍大きい。
【0081】
実施例8:
本実施例では、まず、観測点SCTQの50HzでのGNSS擬似距離及び位相の観測データを用いて、GNSS精密単独測位法で計算して該観測点の50Hzでの位置データを得た。次いで、正則化アルゴリズムを用いて25Hzにおける速度及び加速度の信号を有効に正しく得た。速度及び加速度の信号には、図9b(速度)及び図10b(加速度)それぞれに示すように、規則正しい変化がみられる。
【0082】
差分法で計算することで得た速度図1bと、正則化アルゴリズムで計算することで得た速度図9bとを比較した結果、同じサンプリングレートの場合、図1bの差分法によるカオス速度値とは異なり、本発明は、図9bに示すように、安定した正確な速度波形を回復する。差分法によって得られた最大速度は、本発明により得られた最大速度よりも、東西方向、南北方向及び上下方向においてそれぞれに約7.2倍、3.6倍及び13.4倍大きい。差分法で計算することで得た加速度図2bと、正則化アルゴリズムで計算することで得た加速度図10bとを比較すると、図2bの差分法によるカオス加速度値とは異なり、本発明は、図10bに示すように、安定した正確な加速度波形を回復する。差分法によって得られた最大加速度は、本発明により得られた最大加速度よりも、東西方向、南北方向及び上下方向においてそれぞれに約1977.2倍、2444.4倍及び1606.0倍と大きい。
【0083】
実施例9:
本実施例では、まず、観測点YAANの50HzでのGNSS擬似距離及び位相の観測データを用いて、GNSS精密単独測位法で計算して該観測点の50Hzでの位置データを得た。次いで、正則化アルゴリズムを用いて25Hzにおける速度及び加速度の信号を有効に正しく得た。速度及び加速度の信号には、図9c(速度)及び図10c(加速度)に示すように、規則正しい変化が見られる。
【0084】
差分法で計算することで得た速度図1cと、正則化アルゴリズムで計算することで得た速度図9cとを比較した結果、同じサンプリングレートの場合、図1cの差分法によるカオス速度値とは異なり、本発明は、図9cに示すように、安定した正確な速度波形を回復する。差分法によって得られた最大速度は、本発明により得られた最大速度よりも、東西方向、南北方向及び上下方向においてそれぞれに約9.0倍、7.8倍及び13.6倍大きい。差分法で計算することで得た加速度図2cと、正則化アルゴリズムで計算することで得た加速度図10cとを比較すると、図2cの差分法によるカオス加速度値とは異なり、本発明は、図10cに示すように、安定した正確な加速度波形を回復する。差分法によって得られた最大加速度は、本発明により得られた最大加速度よりも、東西方向、南北方向及び上下方向においてそれぞれに約2095.5倍、1283.1倍及び2122.7倍大きい。
【0085】
このように、本発明に係る正則化アルゴリズムに基づく速度及び/又は加速度の計算方法、計算装置、測定装置及びその応用は、高サンプリングレートの場合にノイズが拡大されるという固有の問題を最大限に抑制して、出力される速度及び/又は加速度の信号の正確性を確保することができ、瞬間速度及び/又は瞬間加速度の信号の正確性を確保することができ、速度及び/又は加速度の信号が歪むという問題を避けることもできる。
【0086】
前述した実施形態についての説明は、解釈及び説明のために提供されており、省略することなく、又は開示内容を制限することを意図するものではない。具体的に示されていない、又は記載されていないが、特定の実施形態の別個の要素又は特徴は、実質的にその特定の実施形態に限定されるものではなく、適用可能な場合には交換可能であり、選択された実施形態で使用することができる。同じ項目には、様々な変形がある。このような変形は、本開示からの逸脱とみなされるべきではなく、このような変更はすべて本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図9c
図10a
図10b
図10c