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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】頭部固定具
(51)【国際特許分類】
   A61D 3/00 20060101AFI20230207BHJP
【FI】
A61D3/00 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022142424
(22)【出願日】2022-09-07
【審査請求日】2022-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522313721
【氏名又は名称】山田 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅之
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-264068(JP,A)
【文献】特開2008-054756(JP,A)
【文献】特開2001-252292(JP,A)
【文献】特開2019-037697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0320534(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の頭部を固定するための頭部固定具であって、
前後方向に貫通し円形の内周面にガイド溝を有する胴部を有する筒状部と、
前記胴部に挿入され、後端に動物の前歯を係止するための前歯係止部を有する棒状部と、を備え、
前記棒状部は、外周面に前記ガイド溝に沿って移動可能な突起を有し、
前記ガイド溝は、前記突起を所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分を有する
ことを特徴とする、頭部固定具。
【請求項2】
前記ガイド溝は、
前記突起を所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分である第1中間溝と、
前記突起を所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分である第2中間溝であって前記第1中間溝と回動方向が異なる第2中間溝と、を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【請求項3】
前記ガイド溝は、前後方向に直線状に延びる部分であって前記胴部の後端に開口する部分である始端溝を有する
ことを特徴とする、請求項またはに記載の頭部固定具。
【請求項4】
前記ガイド溝は、前後方向に直線状に延びる部分であって後方に閉塞端を有する部分である終端溝を有する
ことを特徴とする、請求項またはに記載の頭部固定具。
【請求項5】
前記ガイド溝は、後方と少なくとも一側方が塞がっている、前記突起が停留可能な停留部を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【請求項6】
前記ガイド溝は、前記停留部を2以上有し、一の前記停留部に対して、他の一の前記停留部が前後方向に所定距離ずれ且つ周方向に所定角度ずれた位置にある
ことを特徴とする、請求項に記載の頭部固定具。
【請求項7】
前記前歯係止部は左右対称に形成され、前記前歯係止部の左右の中心を通る垂直面を基準面とした場合、前記突起は、前記基準面に対して所定角度を成すように設けられる
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【請求項8】
前記前歯係止部は、後端が上方に反り上がるように設けられる
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【請求項9】
前記棒状部は、前記前歯係止部の前方に、後端が凸状の鼻載置部を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【請求項10】
前記筒状部は、麻酔ガス供給路を備え、
前記麻酔ガス供給路の吸入口は、前記胴部の後端付近に設けられ、
前記棒状部は、前記前歯係止部の前方に、麻酔ガスを誘導するための誘導部が設けられる
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【請求項11】
前記筒状部及び前記棒状部を一体にスライド可能なアニマルベッドを備える
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【請求項12】
イメージング装置に取り付けるための取付具と、
前記取付具とスライド可能に接続するための接続部とを備える
ことを特徴とする、請求項1に記載の頭部固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の頭部を固定するための頭部固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
実験、とりわけ医学的実験にはげっ歯類小動物(ラットやマウス等)を用いることが多い。このような実験において、動物は前歯(切歯)や外耳孔を利用して固定するのが一般的である。
【0003】
そのための動物固定具として、従来、「動物を固定するための動物用保定装置であって、上記動物を固定するための基台と、該基台に取り付けられると共に、上記動物の両耳穴に挿入される第1固定部材と、上該基台に取り付けられると共に、上記動物の前歯に引っ掛けられ、上記第1固定部材と共に動物の頭部を基台に固定するための第2固定部材とを備えていることを特徴とする動物用保定装置」が提案されている(特許文献1の請求項1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-252292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記動物用保定装置は、撮像に至るまでの動物の固定が煩雑である。例えば、前歯に引っ掛けられる第2固定部材の引っ掛けピンの前後方向の位置調整を行うには、固定ネジを弛めたり閉めたりしなければならず、操作が煩雑で、時間がかかる。実験では複数の動物を扱うことも少なくなく、固定に要する時間の短縮が望まれる。
【0006】
また、上記動物用保定装置は、周方向の位置調整、つまり、動物の頭部の回転は考慮されておらず、位置調整のニーズに十分に応えられていない。
【0007】
また、上記動物用保定装置は、第2固定部材の引っ掛けピンのピン部が水平に延びており、動物の前歯や上顎の解剖学的特性が考慮されていない。
【0008】
動物を対象とする医学的実験や動物に対する医学的処置には、より使いやすい頭部固定具が望まれている。
【0009】
本発明は、上記課題の少なくとも一つを解決するためのものであり、より使いやすい頭部固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する本発明の一態様は、動物の頭部を固定するための頭部固定具であって、前後方向に貫通し、略円形の内周面にガイド溝を有する胴部を有する筒状部と、前記胴部に挿入され、後端に動物の前歯を係止するための前歯係止部を有する棒状部と、を備え、前記棒状部は、外周面に前記ガイド溝に沿って移動可能な突起を有し、前記ガイド溝は、前記棒状部が前後移動及び回動が可能に設けられる。
【0011】
好ましくは、前記ガイド溝は、前記突起を所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分を有する。
【0012】
好ましくは、前記ガイド溝は、前記突起を所定角度回動しつつ前後移動可能にする第1部分と、前記突起を所定角度回動しつつ前後移動可能にする第2部分であって前記第1部分と回動方向が異なる第2部分と、を有する。
【0013】
好ましくは、前記ガイド溝は、前後方向に略直線状に延びる部分であって前記胴部の後端に開口する部分である始端溝を有する。
【0014】
好ましくは、前記ガイド溝は、前後方向に略直線状に延びる部分であって後方に閉塞端を有する部分である終端溝を有する。
【0015】
好ましくは、前記ガイド溝は、前記突起が停留可能な停留部を有する。
【0016】
好ましくは、前記ガイド溝は、前記停留部を2以上有し、一の前記停留部に対して、他の一の前記停留部が前後方向に所定距離ずれ且つ周方向に所定角度ずれた位置にある。
【0017】
好ましくは、前記突起は、先端が基端を通る基準面に対して所定角度を成すように設けられる。
【0018】
好ましくは、前記前歯係止部は、後端が上方に反り上がるように設けられる。
【0019】
好ましくは、前記棒状部は、前記前歯係止部の前方に、後端が凸状の鼻載置部を有する。
【0020】
好ましくは、前記筒状部は、麻酔ガス供給路を備え、前記麻酔ガス供給路の吸入口は、前記胴部の後端付近に設けられ、前記棒状部は、前記前歯係止部の前方に、麻酔ガスを誘導するための誘導部が設けられる。
【0021】
好ましくは、前記筒状部及び前記棒状部を一体にスライド可能なアニマルベッドを備える。
【0022】
好ましくは、実験用装置に取り付けるための取付具と、前記取付具とスライド可能に接続するための接続部とを備える。
【0023】
上記の課題を解決する本発明の他の一態様は、動物の頭部を固定するための頭部固定具であって、胴部を有する筒状部と、前記胴部に挿入され、後端に動物の前歯を係止するための前歯係止部を有する棒状部と、を備え、前記前歯係止部は、後端が上方に反り上がるように設けられる。
【0024】
好ましくは、前記棒状部は、前記前歯係止部の前方に、後端が凸状の鼻載置部を有する。
【0025】
好ましくは、前記筒状部は、麻酔ガス供給路を備え、前記麻酔ガス供給路の吸入口は、前記胴部の後端付近に設けられ、前記棒状部は、前記前歯係止部の前方に、麻酔ガスを誘導するための誘導部が設けられる。
【0026】
好ましくは、前記棒状部は、前記前歯係止部の前方に、前後方向に貫通する麻酔ガス流路が設けられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、より使いやすい頭部固定具を提供することができる。
【0028】
上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。
図2】筒状部の一例を示す外観図で、(a)平面図、(b)正面図、(c)左側面図である。
図3】筒状部の一例のガイド溝を説明するための図である。
図4図3のガイド溝の概要図である。
図5】筒状部の他の一例のガイド溝を説明するための図である。
図6図5の筒状部の一例における内筒部の一例を説明するための図である。
図7】棒状部の一例を示す外観図で、(a)平面図、(b)正面図、(c)左側面図(拡大図)、(d)右側面図(拡大図)である。
図8】棒状部の他の一例を示す外観図で、(a)左側面図(拡大図)、(b)右側面図(拡大図)である。
図9】棒状部の一例の斜視図である。
図10】棒状部の一例における係止部を説明するための概要図である。
図11】動物の前歯の係止について説明するための図である。
図12】本発明の一実施形態に係る頭部固定具の一例の動作を説明するための図である。
図13】本発明の他の実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。
図14】本発明の他の実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。
図15】本発明の他の実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。
図16図15のアニマルベッド以外の部分の一例を示す外観図で、(a)平面図、(b)正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態の例について、図面を参照して説明する。なお、下記実施形態(及び変形例)において共通する構成要素については、前出の符号と同様な符号を付し説明を省略することがある。また、構成要素等の形状、位置関係等に言及する場合は、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。
【0031】
<実施形態1>
本実施形態の頭部固定具は、動物の頭部を固定するためのものである。本実施形態の頭部固定具は、実験ないし処置のために、げっ歯類小動物(ラットやマウス等)の頭部を固定するためのものである。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。同図において、Xは前後方向(長手方向、奥行方向)、Yは上下方向(鉛直方向)、Zは横方向(左右方向)を示す(以下各図において同じ)。
【0033】
本実施形態の頭部固定具1は、筒状部2と、棒状部3とを備える。筒状部2は、前後方向に貫通する胴部22を有する。棒状部3は、筒状部2と別体に形成され、筒状部2の胴部22に挿入して使用される。棒状部3は、一端である後端に動物の前歯(上顎の前歯)を係止するための前歯係止部311を有する。
【0034】
本実施形態の頭部固定具1は、前歯係止部311に前歯が係止された動物を移動し位置調整をすることができる。頭部固定具1は、移動機構として、胴部22の略円形(断面視略円形)の内周面に設けられるガイド溝25(後述図3等を参照)と、棒状部3の外周面に設けられ、ガイド溝25に沿って移動可能な突起35(後述図7等を参照)とを有する。この移動機構により、棒状部3は筒状部2に対して相対的に移動でき、位置を調整できる。
【0035】
頭部固定具1のガイド溝25は、棒状部3が前後移動及び回動が可能に設けられる。これにより、頭部固定具1は、前後方向の位置だけでなく、周方向の位置も調整可能となり、位置調整のニーズに応えやすくなる。
【0036】
図2は、筒状部の一例を示す外観図で、(a)平面図、(b)正面図、(c)左側面図である。筒状部2は、胴部22と、胴部22の後端側に連なる頭部載置部21を有する。筒状部2は、好ましくは、更に、胴部22の前端側に連なる補助筒部23を有する。筒状部2は、好ましくは、更に、麻酔ガス供給路24を有する。
【0037】
頭部載置部21は、動物の頭部を載置するための部分である。頭部載置部21は、載置面である上面が、好ましくは左右部分が高く中央部分が低い略曲面状である。
【0038】
図1に示すように、頭部固定具1は、頭部載置部21の後端側に連なる体幹載置部4を備えてもよい。体幹載置部4は、動物の体幹を載置するための部分で、頭部載置部21と一体に形成されてもよいし、別体に形成されて取り付けられてもよい。体幹載置部4は、本体の後端に、載置接続部41を有してもよい。載置接続部41は、必要(やや大きい動物等)に応じて動物の体幹を載置する、及び/又は他の器具ないし装置、取付具(アタッチメント)と接続するための部分である。
【0039】
胴部22は、動物の位置調整をし、棒状部3とともに動物を固定するための部分である。胴部22は、使用時に作業台等に載置しやすいように、外周面の一部に載置しやすい形状のベースを有してもよい。図1に示すように、頭部固定具1は、胴部22に載置用の、及び/又は他の器具ないし装置、取付具等と接続用の足部5が設けられてもよい。
【0040】
胴部22は、好ましくは、後端上部が上方視前方に凹入する凹状(曲線状)に形成される。言い換えれば、胴部22は、好ましくは、後端側に左、右壁及び底壁を有し、上壁の一部を曲線状に欠いている頭部収容部221を有する。このように形成することで、動物の頭部前方をこの部分に収容ないし載置する際に作業が容易に行われるようにする。
【0041】
胴部22は、好ましくは、前端寄りの部分が漸次縮径する形状である。
【0042】
補助筒部23は、補助的に棒状部3の前後移動を案内し、回動を支持する部分である。補助筒部23は、胴部22の縮径した前端と略同径に形成される。補助筒部23は、胴部22と同様に前後方向に貫通し、内周面が略円形(断面視略円形)の筒形状である。補助筒部23には、棒状部3の後述の把持部33が挿通される。
【0043】
麻酔ガス供給路24は、動物に麻酔ガスを吸入させるための部分である。麻酔ガス供給路24は、一例として、胴部22の前端側の縮径部分に管状の供給口241が形成される。麻酔ガス供給装置(気化器等)は、チューブ(以下「供給チューブ」という)を介して供給口241に接続される。麻酔ガス供給路24の吸入口242は、一例として、胴部22の後端付近に形成される。供給口241と吸入口242の間の流路は、一例として、胴部22の内周面と外周面の間に形成され、前方から後方に伸びている。頭部固定具1は、このように胴部22に一体に形成される麻酔ガス供給路24により、イソフルラン等による動物の安定した吸入麻酔が可能となる。好ましくは、供給口241、吸入口242及び両者の間の流路は、胴部22の下部に設けられ、前方の供給口241から注入される麻酔ガスは、後方に流れ、吸入口242から放出される。
【0044】
筒状部2は、一例として、上記構成、例えば頭部載置部21、胴部22、補助筒部23、麻酔ガス供給路24及びガイド溝25が一体に形成される。筒状部2は、非磁性材料、例えば樹脂材料で形成される。筒状部2は、強度等所定の性能が得られるのであれば、ゴムや木材等他の材料で形成されてもよい。筒状部2は、実験や処置等に支障がなければ、金属等で形成されてもよい。
【0045】
図3は、筒状部の一例のガイド溝を説明するための図である。ガイド溝25は胴部22の上部に設けられる。同図では、筒状部2は、胴部22がXZ面に沿って切断され、切断面にガイド溝25が露出した状態にある。ガイド溝25は、本例では、胴部22の内周面側から凹入し、外周面(表面)側が底壁となる有底溝である。
【0046】
ガイド溝25は、棒状部3が前後移動及び回動が可能に設けられる。一例として、ガイド溝25は、突起35を所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分(第1部分)を有する。一例として、ガイド溝25は、更に、突起35を上記部分(第1部分)の回動方向と異なる方向に所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分(第2部分)を有する。
【0047】
頭部固定具1は、このようなガイド溝25を備えることで、前後方向だけでなく、周方向においても簡便に位置調整ができるようになる。
【0048】
図4は、図3のガイド溝の概要図である。以下、ガイド溝25の一例を詳細に説明する。
【0049】
ガイド溝25は、胴部22の後端に開口する部分である始端溝251を有する。始端溝251は、突起35をガイド溝25に挿入し、案内するための部分である。後述のように、棒状部3は突起35の角度も含め、対象動物に応じて様々な態様になり得るが、始端溝251はこのような様々な態様の棒状部3を容易に取り替えるための部分でもある。始端溝251は、一例として、前後方向に略直線状に延びるように設けられ、後述の基準面(係止部の左右の中心を通るXY面)に沿って設けられる。
【0050】
ガイド溝25は、始端溝251と連なる第1中間溝252を有する。第1中間溝252は、突起35を所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分である。例えば、第1中間溝252は、前端が後端に対して周方向(例えば時計方向)に所定角度ずれ且つ前方に所定距離ずれるように設けられる。これにより、突起35は、第1中間溝252の一端から他端に進めば、前方または後方への移動に伴って所定角度回動したことになる。
【0051】
後述の棒状部3に動物の前歯を嵌め込む(係止する)作業(係止作業)は、目視で確認できるように斜位で行うことが好ましい。頭部固定具1は、第1中間溝252を有することで、棒状部3を前後移動に伴って適切に回転するようにし、斜位における係止作業が容易に実現できるようにする。
【0052】
ガイド溝25は、第1中間溝252と連なる第2中間溝253を有する。第2中間溝253は、突起35を所定角度回動しつつ前後移動可能にする部分である。第2中間溝253は、一例として、第1中間溝252と回動方向が異なる。例えば、第2中間溝253は、前端が後端に対して周方向(例えば反時計方向)に所定角度ずれ且つ前方に所定距離ずれるように設けられる。これにより、突起35は、第2中間溝253の一端から他端に進めば、前方または後方への移動に伴って所定角度回動したことになる。
【0053】
動物の撮像ないし観察等の作業(観察作業)は、正中腹臥位(うつ伏せ)で行われることが多い。そのため、第1中間溝252により斜位姿勢に回動した棒状部3を略水平な初期姿勢に戻すことが望ましい。頭部固定具1は、第2中間溝253を有することで、棒状部3を反対方向に回動させ、観察作業に望ましい姿勢に導くことができる。
【0054】
ガイド溝25は、第2中間溝253と連なる終端溝254を有する。終端溝254は、後方に閉塞端を有する部分である。終端溝254は、前端が第2中間溝253と横並びの位置にあり、後端である閉塞端が第2中間溝253の前端よりも後方にある。終端溝254は、一例として前後方向に延びる略直線状に設けられる。
【0055】
ガイド溝25は、突起35が停留可能な停留部を有する。頭部固定具1は、突起35が停留部に停留する際に、所定の作業が行われる。頭部固定具1は、突起35を停留部に停留させるだけで位置決めできるため、工具を必要とせず、操作が簡便である。また、位置変更する場合も、突起35を停留部から移動させるだけでよいので、位置変更も簡便に行える。
【0056】
ガイド溝25は、一例として、停留部を2以上有し、一の停留部に対して、他の一の停留部が、前後方向に所定距離ずれ且つ周方向に所定角度ずれた位置に設けられる。例えば、ガイド溝25は、第1停留部P1及び第2停留部P2の2つの停留部を有する。第1停留部P1に対して、第2停留部P2は、前後方向に所定距離ずれた位置であって、且つ周方向に所定角度ずれた位置にある。このように設けることで、作業内容に応じて動物の前後方向の位置や周方向の位置(体位)を簡便に同時に変えられる。
【0057】
ガイド溝25は、図示例では、第1停留部P1が第1中間溝252と第2中間溝253の間の角部により構成される。この角部は、少なくとも後方と一側方が塞がっており、突起35が停留可能である。動物は棒状部3の後端側に係止されるので、棒状部3は後方に引かれる傾向にあり、塞がっているのは低い位置側の側方であるので、棒状部3はその側方に留まる傾向にあると考えられるからである。図示のように、角部は、上方視略コの字状部分を有するように形成され、他側方も一部塞がるように設けられてもよい。頭部固定具1は、突起35が第1停留部P1に停留する際に、前歯係止作業が行われる。
【0058】
ガイド溝25は、一例として、第2停留部P2が終端溝254の閉塞端により構成される。閉塞端は、後方及び両側方が塞がっており、突起35が停留可能である。頭部固定具1は、突起35が第2停留部P2に停留する際に頭部観察作業が行われる。
【0059】
なお、ガイド溝25は上記例に限定されない。ガイド溝25は、上記の一部の構成のみを有してもよいし、上記一部の構成を複数有してもよい。例えば、停留部の数は1つでもよいし、3つ以上でもよい。ガイド溝25を構成する部分である溝部分も、3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。溝部分は、観察や処置の内容に応じて上記と形状や角度が異なるものでもよい。
【0060】
例えば、第1中間溝252は、前端が後端に対して周方向に所定角度ずれた位置に設けられ、突起35が周方向に回動するものの、前後方向の変位はないように設けられてもよい。
【0061】
例えば、終端溝254は、周方向に延びるように設けられてもよい。言い換えれば、終端溝254は、突起35が周方向に回動するものの、前後方向の変位はないように設けられてもよい。終端溝254と第2中間溝253の間に、第3中間溝が設けられ、この第3中間溝が周方向に延びるものでもよい。このように構成することで、観察や処置の内容に応じて例えば正中腹臥位(うつ伏せ)、左側臥位、右側臥位、正中背臥位(仰臥位、あおむけ)等の動物の体位が容易に得られる。なお、第2中間溝253を図示とは逆方向に回動するように、例えば、前端が後端に対して時計方向に所定角度ずれ且つ前方に所定距離ずれるようにして、正中背臥位(あおむけ)が容易に得られるようにしてもよい。
【0062】
ガイド溝25は、術者の利き手に応じて設けられてもよい。図示は、右手が利き手の術者(右手で小動物を保持)に好適であるが、左手が利き手の術者用に、ガイド溝25を図示と左右対称に設けてもよい。図示のガイド溝25及びこれと左右対称のガイド溝の両方を設けてもよい。上記ガイド溝25の溝部分を変更したり追加したりして、両者に使いやすいガイド溝25としてもよい。
【0063】
図5は、筒状部の他の一例のガイド溝を説明するための図である。同図では、筒状部2は、胴部22がXZ面に沿って切断され、切断面にガイド溝25が露出した状態にある。
【0064】
筒状部2は、別体に形成された2つの部分を内外重ねて構成されてもよい。一例として、筒状部2は、外筒部2a及び内筒部2bが別体に形成され、内筒部2bが外筒部2aの内周部に相対移動不能に取り付けられてもよい。筒状部2は、例えば、後端側で内筒部2bの外周部が外筒部2aの内周部に接続され固定される。
【0065】
筒状部2において、一例として、頭部載置部21は、外筒部2aに形成される。内筒部2bにも頭部載置部21の一部が形成されてもよい。胴部22は、外筒部2a及び内筒部2bが共同して構成される。補助筒部23は、外筒部2a及び内筒部2bが共同して構成されてもよいし、いずれか一方に形成されてもよい。麻酔ガス供給路24は、供給口241が外筒部2a及び内筒部2bにより共同して構成されてもよいし、いずれか一方により形成されてもよい。吸入口242は、内筒部2bに形成される。供給口241と吸入口242の間の流路は、外筒部2aと内筒部2bの間に設けられる。ガイド溝25は、内筒部2bに設けられた貫通溝(内ガイド溝)の両側面を側面とし、外筒部2aの内周面を底面とする有底溝として構成される。なお、筒状部2は、頭部載置部21及び胴部22の後端寄りの部分(例えば頭部収容部221)が、動物の頭部形状に合わせて収容部の断面積が前方に向かって漸次狭くなるテーパー形状に形成されてもよい。筒状部2が外筒部2a及び内筒部2bによって内外重ねて構成される場合は、外筒部2a及び内筒部2b(図6を参照)の一方または双方がこのようなテーパー形状に形成されてもよい。
【0066】
図6は、図5の筒状部の一例における内筒部の一例を説明するための図である。図示では、説明の便宜上、内筒部2bは棒状部3が挿入された状態で示されている。内ガイド溝25bは、内胴部22bに貫通溝として設けられ、例えば、上記ガイド溝25の構成に対応して、後端から順に、内始端溝251b、内第1中間溝252b、内第2中間溝253b及び内終端溝254bを有する。
【0067】
上記のように、ガイド溝25は、終端溝254の前端と連なる回動溝を有してもよい。図示の内ガイド溝25bを例に説明すると、一例として、内終端溝254bの前端及び内第2中間溝253bの前端と連なる内回動溝255bを有する。内回動溝255bは、突起35が、内終端溝254bの前端または内第2中間溝253bの前端から、左又は右に所定角度(例えば50°程度)回動可能に設けられる。
【0068】
頭部固定具1は、このようにガイド溝25を構成することで、動物の体位を、内終端溝254b部分(終端溝254)では正中腹臥位(うつ伏せ)、内回動溝255bの部分(回動溝)では左側臥位又は右側臥位とすることができる。この場合、内回動溝255b(回動溝)の両端部分が左側臥位又は右側臥位の際の停留部となる。また、図示しないが、ガイド溝25(内ガイド溝25b)はさらに動物の体位を正中背臥位(仰臥位、あおむけ)とすることができるように構成されてもよい。
【0069】
図7は、棒状部の一例を示す外観図で、(a)平面図、(b)正面図、(c)左側面図(拡大図)、(d)右側面図(拡大図)である。図8は、棒状部の他の一例を示す外観図で、(a)左側面図(拡大図)、(b)右側面図(拡大図)である。図9は、棒状部の一例の斜視図である。図10は、棒状部の一例における係止部を説明するための概要図である。図11は、動物の前歯の係止について説明するための図である。棒状部3は、対象動物に応じて様々な態様に構成でき、以下ではその一例を説明する。
【0070】
棒状部3は、後端側の係止部31と、係止部31に続く中棒部32と、中棒部32に続く前端側の把持部33とを有する。棒状部3は、好ましくは、麻酔ガスを誘導するための誘導部34を有する。突起35は、中棒部32に配置される。
【0071】
棒状部3は、係止部31、中棒部32、把持部33、誘導部34及び突起35が一体に形成される。棒状部3は、非磁性材料、例えば樹脂材料で形成される。棒状部3は、強度等所定の性能が得られるのであれば、ゴムや木材等他の材料で形成されてもよい。棒状部3は、実験や処置等に支障がなければ、金属等で形成されてもよい。
【0072】
係止部31は、やや扁平な形状に形成され、好ましくは左右対称に形成される。係止部31は、後端に前歯係止部311を有する。前歯係止部311は、上方視帯状に形成され、内側に前歯収容空間Sが形成される。図10に示すように、前歯収容空間Sは、好ましくは、上方視平根矢尻のような形状に形成される。前歯収容空間Sは、動物が大きく前歯が大きい(根本の幅が広い)場合などは、好ましくは、後端(尖端頂点)が、やや幅広に丸みを持つ形状に形成される。
【0073】
前歯係止部311は、図7(b)、(d)、図11に示すように、後端が前端よりも高い位置にある。より具体的には、前歯係止部311は、後端が上方に反り上がる形状で、側方視上面及び下面が曲面状である。前歯係止部311は、このような形状にすることで、動物の前歯への装着が容易になり、上顎に沿って前歯の根本を確実に保持できる。また、前歯を前歯係止部311に引っ掛ければ、動物は適切に固定される。
【0074】
実験研究、とりわけ基礎医学(動物実験)研究では、適切な体位での動物の固定が重要である。ラット等は、首の前後屈や回旋によって頭部の位置や角度が自由に変化するため、標準的な脳アトラス(脳の精密な地図)を使う定位脳手術等では、上顎の前歯と両側外耳孔との3点で頭蓋骨を固定し、さらに頭頂骨が水平になるようにそれらを結ぶ平面の傾きが調整される。頭部固定具1では、筒状部2(外筒部2a)、棒状部3ないし前歯係止部311によって、概ね頭頂骨が水平となる角度で頭部が固定されるため、短時間に頭部の的確なポジショニングを完了できることと同時に、実験研究において求められる適切な固定の両立が可能である。このため、通常の脳イメージングでは頭部固定具1において前歯固定のみで十分であると考えられるが、必要に応じて筒状部2(外筒部2a)に両側外耳孔を保持する機構を設けて、前歯に加えて両側外耳孔を固定してもよいことは言うまでもない。
【0075】
前歯の形状、位置は、ラットの頭部骨格A1で示すと、概ね図11に示す通りである。前歯係止部311は、後端が反り上がるように(船先型の湾曲形状に)なっているため、前歯A2の裏側付け根上部の顎の傾斜にフィットし、ぐらつきが抑止され、前歯A2が前歯収容空間Sから抜けにくくなる。前歯係止部311ないし前歯収容空間Sをこのように形成することで、動物Aの上顎に沿って前歯A2の根本を確実に保持できる。このように、前歯係止部311ないし係止部31は、前歯や上顎の解剖学的特性を考慮した形状になっている。
【0076】
係止部31は、前歯係止部311の前方にこれと相対する鼻載置部312を有する。鼻載置部312は、後端が後方に凸状に形成される。動物の鼻先部は、図11の前歯A2の根本の前方にあるので、頭部固定具1は、鼻載置部312を備えることで、動物の鼻先部を置くスペースを確保し、動物の頭部を安定させる。また、前歯収容空間Sの縁に鼻載置部312があり、そこに動物の鼻尖部が乗るので、意図しない前歯係止部311の抜去を防ぐことができる。
【0077】
鼻載置部312は、好ましくは、XZ面上に水平に設けられ、周囲よりも下方に沈む略円形の島状に形成される。これにより、動物の鼻尖部によりフィットし、動物の頭部をより安定させる。
【0078】
係止部31は、前後端の間の略中間部分に、下方に突出する当接部313を有する。当接部313は、筒状部2の胴部22の内周面と当接するための部分である。係止部31は、やや扁平な形状に形成され、前歯係止部311や鼻載置部312等が胴部22の内周面よりも上方に配置され、胴部22の内周面と接しない。そのため、ここでは、当接部313を設けて、係止部31ないし棒状部3のぐらつきを抑止し、移動をスムーズにさせる。
【0079】
中棒部32は、略円柱状に形成され、筒状部2の胴部22に挿入される。中棒部32は、胴部22の前端側の縮径部分と対応するように前端側の部分が漸次縮径する形状である。
【0080】
把持部33は、頭部固定具1を操作するための部分である。把持部33は、略円柱状に形成され、中棒部32の縮径部分の前端と略同径である。把持部33は、一例として、外周面の少なくとも一部に操作の際の滑りを防止するための滑止部331を有する。滑止部331は、図示のように螺旋状でもよいし、その他の規則的または非規則的な複数の凹部及び/又は凸部で構成されてもよい。把持部33は、筒状部2の補助筒部23に挿通される。
【0081】
誘導部34は、係止部31に係止された動物の鼻先に麻酔ガスを誘導するための部分である。誘導部34は、前歯係止部311の前方、例えば係止部31の前端付近に設けられる誘導孔341を含む。誘導孔341は、係止部31を上下方向に貫通する貫通孔である。誘導部34は、好ましくは、更に、誘導孔341の後端と鼻載置部312の前端との間で前後方向に延びる誘導溝342を含む。誘導溝342は底面が鼻載置部312の上面と略同じ面上にある。
【0082】
頭部固定具1は、胴部22に吸入口が2以上設けられてもよい。一例として、上記吸入口242以外に、更に、その前方(例えば始端溝251の略中間位置と対応する部分)に予備的な吸入口が設けられてもよい。動物の体型(例えばやや大きい動物等)によっては、上記吸入口242が塞がれる場合も考えられるので、その際にも対応できるようにするためである。
【0083】
突起35は、基端が、係止部31の左右の中心を通るXY面(以下「基準面」という)上にあるように中棒部32の外周面に設けられる。突起35は、略円柱状で、先端が丸みを有し、基端が先端よりやや大径である。中棒部32は、突起35が設けられる外周面部分が幅狭のやや平坦な面であってもよい。
【0084】
突起35は、図8に示すように、一例として、基準面に沿って延びるように設けられる。突起35は、好ましくは、図7(c)、(d)に示すように、先端が基端を通る基準面に対して所定角度を成すように、斜めに設けられる。突起35は、図示では、後方視、反時計方向に所定鋭角を成すように設けられる。このように設けることで、上記ガイド溝25における移動がよりスムーズになり、停留部により停留しやすくなる。
【0085】
図12は、本発明の一実施形態に係る頭部固定具の一例の動作を説明するための図である。同図では、筒状部は、胴部がXZ面に沿って切断され、切断面にガイド溝が露出した状態で示されている。説明の便宜上、突起35は黒塗して示されている。以下、下方の(1)から順に頭部固定具1の動作について説明する。
【0086】
(1)では、筒状部2に棒状部3が未だ挿入されていない状態にある。この状態で、後方から前方に向かって、筒状部2に棒状部3が挿入される。
【0087】
(2)では、筒状部2に棒状部3が挿入されているものの、突起35がガイド溝25に未だ挿入されていない状態にある。把持部33の前端は、補助筒部23をすでに挿通し外部に突出している。突起35は、始端溝251の開口と左右方向では一致し、前後方向では後方となる位置にある。以下、(2)の位置、姿勢を初期位置、初期姿勢とする。この状態で、棒状部3が筒状部2内に引き込まれる。
【0088】
(3)では、突起35が、始端溝251をすでに通過し、第1停留部(第1中間溝252と第2中間溝253の間の角部)に停留している状態にある。突起35は、すでに初期状態から右周りに所定角度回動している。前歯係止部311は、右下方に傾斜しており、前歯係止作業に適した斜位姿勢にある。この状態で、動物の前歯が前歯係止部311に係止される。以下、(3)の位置、姿勢を係止位置、係止姿勢とする。動物が係止された状態で、棒状部3は更に筒状部2内に引き込まれ、突起35が第1停留部を離れる。なお、動物の図示は省略されている。
【0089】
(4)では、突起35が第2中間溝253を通過している状態にある。突起35は、係止位置から左周りに回動しつつ前方に進んでいる。前歯係止部311は、係止姿勢から初期姿勢に戻りつつある。なお、動物の図示は省略されている。
【0090】
(5)では、突起35が終端溝254に到達し、第2停留部に停留している状態にある。前歯係止部311は、略初期姿勢に戻っており、係止動物A3は、例えば正中腹臥位(うつ伏せ)にあり、頭部観察体位にある。(5)の位置、姿勢を観察(撮像)位置、観察(撮像)姿勢とする。
【0091】
このように、本実施形態の頭部固定具1は、筒状部2内に棒状部3を引き込む操作だけで、係止した動物の頭部が、回転しながら、適切に固定(位置決め)される。また、2以上の停留部を設ければ、異なる体位での作業が可能となり、簡便な構成で様々なニーズに応えられる。なお、頭部固定具1における係止位置や観察位置(固定位置)は、動物の種類や大きさによって適宜設定できる。すなわち、棒状部3における突起35の前後方向(奥行方向)の位置や筒状部2におけるガイド溝25の各停留部の位置ないし各溝部分の前後方向の長さは、動物の頭部が引き込まれ、観察位置で適切に固定されるように、動物の種類や大きさによって適宜設定できる。
【0092】
なお、上記では、ガイド溝25が有底溝である例を説明したが、無底溝であってもよい。言い換えれば、筒状部2が一体形成の場合、ガイド溝25は外周面を貫通してもよい。筒状部2が別体形成の外筒部2a及び内筒部2bにより構成される場合は、内筒部2bの内ガイド溝に対応して外筒部2aに外貫通溝が設けられてもよい。筒状部2は、上記内筒部2bのみにより構成されてもよい。この場合、他の構成、例えば麻酔ガス供給路24等は適宜修正されてもよい。
【0093】
このような頭部固定具1は、長手方向(奥行方向)の設置スペースに制限がある場合に好適である。ガイド溝が有底溝の場合術者は筒状部2から前方に突出した把持部33を操作するが、ガイド溝25を貫通溝にすれば、突起35自体に取手を付けて操作できるようになる。そうすると、把持部33の筒状部2から突出する部分は不要になるので、棒状部3全体の長さを短縮でき、設置スペースを節約できる。
【0094】
本実施形態の頭部固定具1は、余剰麻酔ガス排出路が設けられてもよい。例えば、胴部22の後端付近の上部に余剰麻酔ガス排出路の入口が設けられ、前端付近の上部に出口が設けられて後方から前方に貫通した排出路により余剰麻酔ガスが排出される。
【0095】
CTやMRI等を用いた実験動物のイメージングでは、長時間に亘って対象動物を適切な位置や体位で保持する必要があり、生体動物では安定した麻酔維持が必須である。本実施形態の頭部固定具1は、頭部の保持を高い再現性で実現できるため、同一動物を経時的に撮像する脳のイメージングに特に有用である。
【0096】
なお、以上では、麻酔下動物を想定して説明したが、頭部固定具1は、イソフルラン等を漸次的に減じて麻酔深度を浅くしていき、最終的に覚醒させる実験(覚醒下動物での実験)等にも適用できる。この場合、より一層強固な固定が求められるため、好ましくは、筒状部2(外筒部2a)に両側外耳孔を保持する機構が設けられる。頭部固定具1は、必要に応じて保持機構を追加する等して様々な実験や処置に適用できる。
【0097】
また、以上では、動物が自然に呼吸することを前提とし、従来の“マスク麻酔”とも称された方法(放出される麻酔ガスを吸気させる麻酔法)に類似の効果を有するように、筒状部2に麻酔ガス供給路24を設けてイソフルラン等の麻酔ガスの安定供給を実現しているが、これに限らない。本実施形態の頭部固定具1は、麻酔ガス供給路24を有しない構成とし、自然呼吸を前提としない麻酔法によって鎮静させた動物の実験に適用してもよい。この場合、棒状部3は、誘導部34を有しない構成でもよい。一例として、動物の気管内にチューブを直接挿入する気管内挿管による麻酔法があるが、本実施形態の頭部固定具1は、麻酔ガス供給路を有しない構成とし、このような手法による実験に適用してもよい。一例として、麻酔薬を腹腔内や静脈内へ投与する注射麻酔法があるが、本実施形態の頭部固定具1は、麻酔ガス供給路を有しない構成とし、このような手法による実験に適用してもよい。なお、麻酔ガス供給路24を設けた共通の頭部固定具1とし、麻酔法に応じて麻酔ガス供給路24を使用したり、使用しなかったりしてもよいことは、言うまでもない。
【0098】
本実施形態の頭部固定具1は、正中背臥位でも適切に前歯の固定ができるため、麻酔ガス供給路24を有しない構成とし、気管内挿管処置そのものの実施に適用してもよい。なお、麻酔ガス供給路24を設けた共通の頭部固定具1とし、処置内容や麻酔法に応じて麻酔ガス供給路24を使用したり、使用しなかったりしてもよいことは、言うまでもない。
【0099】
<実施形態1の変形例1>
本例の頭部固定具1は、筒状部2に麻酔ガス供給路24が設けられておらず、麻酔ガス供給路が棒状部3に設けられる点が、上記実施形態1と異なる。すなわち、本例では、棒状部3の前歯係止部311の前方に、前後方向に延びる麻酔ガス流路が設けられる。図示しないが、棒状部3は、一例として、係止部31以外の部分、即ち把持部33と中棒部32を、軸方向に貫通する貫通孔を有し、供給チューブと接続する供給口を把持部33の前端が兼ねるとともに、麻酔ガスを吸入するための吸入口を中棒部32の後端が兼ねる。これにより、前方の供給口から注入される麻酔ガスは、後方に流れ、吸入口から放出される。本例では、棒状部3は、誘導部34を有しない構成でもよい。
【0100】
<実施形態2>
図13は、本発明の他の実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。本形態の頭部固定具1は、図示のように、アニマルベッド6を備える。本願では、アニマルベッドは、実験や処置のために動物を載置する専用の台を指すものとする。
【0101】
マウスやラットに対して、尾静脈穿刺等の処置が行われることがある。尾静脈は、尾の左右側方にあり、血管確保や薬剤投与のための静脈穿刺時は、動物を側臥位で保持することが求められる。頭部固定具1は、上記のように、棒状部3の回旋・引き込みにより、動物の頭部が筒状部2に適切かつ確実に固定されるため、アニマルベッド6を備えて尾静脈穿刺等の処置台とすることができる。動物の側臥位は、例えば、上記回動溝255ないし内回動溝255bを設けることで容易に得られる。
【0102】
図示のように、アニマルベッド6は、側方視略L字形状に形成され、台部と、台部と略直角を成す後方支持部とを有する。アニマルベッド6は、後方支持部により台部が前傾姿勢に支持される。
【0103】
アニマルベッド6は、台部の後端寄りの部分に、体幹載置部4の載置接続部41と収容可能に接続するスライド部61を有する。筒状部2、棒状部3及び体幹載置部4(以下本形態では「固定具本体」という)は、載置接続部41をスライド部61に挿入してアニマルベッド6に取り付けられる。
【0104】
アニマルベッド6は、一例として、固定具本体を、スライド部61に沿って前後にスライドさせるためのハンドル62を有する。アニマルベッド6は、ハンドル62を操作することで、例えば、図13(a)の状態から、図13(b)の後方にスライドした状態に移行できる。アニマルベッド6は、ハンドル62を設けず、手で筒状部2(外筒部2a)等を移動させたりして、固定具本体をスライド部61に沿って前後にスライドさせてもよい。
【0105】
言い換えれば、アニマルベッド6は、筒状部2及び棒状部3を一体にスライド可能に形成される。このように構成することで、これらの部分により側臥位に保持された動物をそのままの体位で前後移動させて、尾静脈穿刺位置を調整することができる。
【0106】
<実施形態3>
図14は、本発明の他の実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。本形態の頭部固定具1は、図示のように、実験用装置、例えばイメージング装置に取り付けるための取付具8を備え、体幹載置部4の代わりに取付具8とスライド可能に接続する接続部7を備える。
【0107】
接続部7は、2本の棒状の前後方向に延びる部分を有し、筒状部2の後端に連なるように設けられる。接続部7は、頭部載置部21と一体に形成されてもよいし、別体に形成されて取り付けられてもよい。
【0108】
取付具8は、接続部7を挿通させ、スライド可能に保持する保持部81と、左右に一対の取付孔を有する略C字形状の取付部82と、を有する。取付部82は、下方から保持部81を支持するように保持部81の前端側に設けられる。保持部81と取付部82は、一体に形成されてもよいし、別体に形成され篏合して一体になってもよい。
【0109】
動物の頭部に対するイメージングでは、撮像範囲が狭く、イメージング装置に対して頭部の位置をスライド調整できることが望ましい。本形態の頭部固定具1は、接続部7及び取付具8を備えることで、イメージング装置に対する、筒状部2及び棒状部3により適切に保持された動物の頭部の、前後方向の位置をスライドして変更できる。
【0110】
<実施形態4>
図15は、本発明の他の実施形態に係る頭部固定具の一例を示す斜視図である。
【0111】
本形態の頭部固定具1は、移動機構(ガイド溝25及び突起35)を有せず、棒状部3が筒状部2に対して相対的な移動ができない点が、主として、上記実施形態1~3及びその変形例と異なる。頭部固定具1は、移動機構による位置調整機能を有しないが、その他の機能は上記実施形態1と同様に備えられる。以下、上記実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0112】
本形態の頭部固定具1は、棒状部3が筒状部2に挿入され、固定される。頭部固定具1は、筒状部2と棒状部3が一体に形成されてもよい。
【0113】
一例として、頭部固定具1は、筒状部2及び棒状部3におけるガイド溝25及び突起35以外の構成は、上記実施形態1と同様である。
【0114】
他の一例として、頭部固定具1は、図示例のように、筒状部2及び棒状部3が、上記実施形態1よりも前後方向の長さが短く、短縮した形状に構成される。以下、図示例を上記実施形態1との相違点を中心に、詳細に説明する。
【0115】
図16は、図15のアニマルベッド以外の部分の一例を示す外観図で、(a)平面図、(b)正面図である。
【0116】
棒状部3は、上記実施形態1と同様に、一端である後端に係止部31を有するが、上記実施形態1の中棒部32及び把持部33を有せず、上記実施形態1より短く形成される。
【0117】
係止部31は、上記実施形態1と同様に前歯係止部311、鼻載置部312及び当接部313を有する構成でもよいし、前歯係止部311及び鼻載置部312のみを有する構成でもよい。
【0118】
棒状部3は、図示しないが、他端に略円柱状の前棒部を有する。すなわち、本例では、棒状部3は、前棒部と、係止部31とを有する。棒状部3は、上記実施形態1と同様の誘導部34を有してもよい。
【0119】
筒状部2は、動物の顔面ないし頭部を載置ないし挿入し、それらの形状に応じて大部分又は一部を保持ないし内包する機能、且つ、棒状部3が挿入され、固定されて、棒状部3とともに動物の頭部を固定する機能を有するものであればよく、構成は特に限定されない。
【0120】
一例として、筒状部2は、胴部22と、胴部22の後端側に連なる、上記実施形態1と同様の頭部載置部21を有する。筒状部2は、ここでは、一例として、前壁部26を有して前端が塞がっている。筒状部2は、前壁部26を有せず、または前壁部26に貫通孔を有して前後方向に貫通してもよい。筒状部2は、上記実施形態と同様の麻酔ガス供給路24を有してもよい。麻酔ガス供給路24の供給口241の外周面は、供給チューブが外れないように蛇腹形状ないし蛇腹模様を有する。
【0121】
胴部22は、上記実施形態1と同様の頭部収容部221を有する。胴部22は、上記実施形態1より短く形成される。
【0122】
胴部22は、上記実施形態1と同様に前端寄りの部分が漸次縮径する形状で、この縮径部分に麻酔ガス供給路24の供給口241が形成される。麻酔ガス供給路24の吸入口は、上記実施形態1と同様に胴部22の後端付近に形成され、前方の供給口241から注入される麻酔ガスは、胴部22の下部に設けられた流路を通って後方に流れ、吸入口から放出される。
【0123】
筒状部2は、上記実施形態1と同様に、頭部載置部21、胴部22、麻酔ガス供給路24が一体に形成されてもよいし、別体に形成された外筒部及び内筒部が相対移動不能に互いに固定されてもよい。
【0124】
筒状部2及び棒状部3の一方または双方には、棒状部3を筒状部2に取り付けて固定するための取付け部分を有する。取付け部分は、棒状部3が筒状部2に挿入された状態で固定できるものであればよく、特に限定されない。この取付け部分は、筒状部2及び棒状部3と別体に形成された部材とともに用いられてもよい。
【0125】
本形態の頭部固定具1は、上記実施形態1と同様に、前歯や上顎の解剖学的特性を考慮した前歯係止部311を有するため、動物の前歯への装着が容易になり、上顎に沿って前歯の根本を確実に保持できる。前歯係止部311ないし係止部31の機能や効果は、上記実施形態1と同様であり、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0126】
本形態の頭部固定具1は、筒状部2に載置用の、及び/又は他の器具ないし装置、取付具等と接続用の足部5が設けられてもよい。
【0127】
本形態の頭部固定具1は、図15に示すように、アニマルベッド91を備え、アニマルベッド91の前端寄りの部分に取付部92を備え、筒状部2の後端に接続部93を備えてもよい。接続部93は、2本の棒状の前後方向に延びる部分を有し、この部分が取付部92に挿入されて取り付けられる。図示の頭部固定具1は、例えば、動物の頭部イメージング用のものである。
【0128】
<実施形態4の変形例1>
本例の頭部固定具1は、筒状部2に麻酔ガス供給路24が設けられておらず、麻酔ガス供給路が棒状部3に形成される点が、上記実施形態4と異なる。すなわち、本例では、棒状部3の前歯係止部311の前方に、前後方向に延びる麻酔ガス流路が設けられる。
【0129】
図示しないが、一例として、筒状部2の前壁部26に貫通孔が設けられ、棒状部3の前棒部の前端部分が前壁部26の貫通孔を挿通する。棒状部3は、前棒部を軸方向に貫通する貫通孔を有し、供給チューブを接続する供給口を前棒部の前端が兼ねるとともに、麻酔ガスを吸入するための吸入口を前棒部の後端が兼ねる。これにより、前方の供給口から注入される麻酔ガスは、後方に流れ、吸入口から放出される。本例では、棒状部3は、誘導部34を有しない構成でもよい。
【0130】
本例の頭部固定具1も、実施形態4と同様に、イソフルラン等の麻酔ガスを動物の顔面付近に供給、放出し、安定した麻酔効果による適切かつ確実な頭部固定を施すことができる。
【0131】
<実施形態4の変形例2>
本例の頭部固定具1は、主として、ドックアダプタを用いて、麻酔ガスの供給と頭部固定具1全体の保持を行う点が上記実施形態4と異なる。
【0132】
本例の頭部固定具1は、接続用のドックアダプタを備える。図示しないが、一例として、筒状部2の前壁部26に前方に突出する差込部を有し、この差込部がドックアダプタに差し込まれる。他の一例として、筒状部2の前壁部26に貫通孔を有し、この貫通孔を挿通した棒状部3の前棒部の前端部分がドックアダプタに差し込まれる。
【0133】
ドックアダプタには、供給チューブが接続され、筒状部2の差込部または棒状部3の前棒部がドックアダプタに差し込まれる際に、供給口241がこの供給チューブの供給端に差し込まれる。ドックアダプタには、好ましくは、差込時だけ麻酔ガスが流れるようにするための装置(注射液を任意に投入できる医療用の差込バルブ等)が配置される。
【0134】
本例の頭部固定具1の麻酔ガス供給手法は、ドックアダプタを用いるドック接続とも言えるものであり、適切に導入麻酔(比較的高濃度のイソフルラン等による初期段階の麻酔)と保定(固定)がされた対象動物を、アニマルベッドのまま移動できる利点がある。本例の頭部固定具1は、事前準備や処置の実施とともに、アニマルベッドを含む全体を容易に移動でき、イメージング装置等と簡便に接続して麻酔を継続することが可能である。また、複数の動物を一度に撮像するような場合にも、ドックアダプタを許容されるスペースの中で並列して、作業を効率化できる。
【0135】
以上本発明の実施形態の例を説明したが、本発明は、種々の実験動物イメージング装置における撮像用アニマルベッドに組み込むことができる(ドックアダプタを併用した麻酔供給法や複数の動物を同時に撮像するための応用を含む)。本発明は、動物に対する様々な処置(薬剤投与、血管確保、定位的脳手術、気管内挿管等)を実施するための動物を保定(固定)するための装置に適用できる(ドックアダプタを併用した麻酔供給法や複数の動物を同時に処置するための応用を含む)。
【0136】
動物実験では、マウスやラットのように明らかにサイズの異なる別の動物種を対象にする場合のみならず、同じ動物種であっても週齢・月齢が分布するように対象が設定され、それに伴って動物サイズも様々となる場合、あるいは幼若群、または老齢群といった全くサイズの異なる特定の週齢・月齢の動物のみを対象とする場合などがある。本発明の頭部固定具1は、筒状部2及び棒状部3を備えることで、これらを適宜な大きさや形状とすることで、このような実験全般に対応できる。とりわけ、棒状部3の持つ自由度により、例えば、突起35の前後方向の位置や前歯収容空間Sの形状などを適宜設定することで、様々な動物に対応した適切な固定を実現できる。本発明の頭部固定具1は、一の筒状部2と、突起35の位置や前歯収容空間Sの形状が異なる二以上の棒状部3とを備えてもよい。
【0137】
なお、以上の実施形態の説明では、げっ歯類小動物への適用を例に説明したが、それ以外の動物に適用してもよいことは言うまでもない。
【0138】
以上、本発明に係る頭部固定具の実施形態について説明したが、これらは本発明の一例に過ぎず、本発明はこれらに限定されない。本発明には、以上の各実施形態やその変形例を組み合わせた形態や、さらに様々な変形例が含まれる。請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0139】
1…頭部固定具、2…筒状部、21…頭部載置部、22…胴部、23…補助筒部、24…麻酔ガス供給路、25…ガイド溝、251…始端溝、252…第1中間溝、253…第2中間溝、254…終端溝、3…棒状部、31…係止部、311…前歯係止部、312…鼻載置部、313…当接部、32…中棒部、33…把持部、331…滑止部、34…誘導部、341…誘導孔、342…誘導溝、35…突起、4…体幹載置部。
【要約】
【課題】 より使いやすい頭部固定具を提供する。
【解決手段】 動物の頭部を固定するための頭部固定具であって、前後方向に貫通し、略円形の内周面にガイド溝を有する胴部を有する筒状部と、前記胴部に挿入され、後端に動物の前歯を係止するための前歯係止部を有する棒状部と、を備え、前記棒状部は、外周面に前記ガイド溝に沿って移動可能な突起を有し、前記ガイド溝は、前記棒状部が前後移動及び回動が可能に設けられる、頭部固定具。
【選択図】 図1
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