(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】ホームドア構造
(51)【国際特許分類】
B61B 1/02 20060101AFI20230207BHJP
E01F 1/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B61B1/02
E01F1/00
(21)【出願番号】P 2018173600
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591065848
【氏名又は名称】名工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 秀麿
(72)【発明者】
【氏名】大木 基裕
(72)【発明者】
【氏名】峯沢 勝志
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-017801(JP,A)
【文献】特開平08-068015(JP,A)
【文献】特開2013-237403(JP,A)
【文献】立花 信雄,渡辺 拡,可動式ホーム柵新設のための盛土式ホーム部改良方法の検討について,第37回土木学会関東支部技術研究発表会,土木学会関東支部,2010年03月13日,VI-23,http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00061/2010/37-06-0023.pdf,本願引用文献
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 1/02
E01F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両のプラットホームにおけるホームドア構造であって、
鉄道車両のレールに沿って設置されたホームドアと、
前記ホームドアに固定されると共に、前記レールの延伸方向と交差する向きに延伸する少なくとも1つの梁と、
前記少なくとも1つの梁に1つずつ連結されると共に、プラットホームの基礎部に埋設された少なくとも1つの杭と、
を備え、
前記少なくとも1つの梁は、前記ホームドアに水平方向の力が加わった際に、前記基礎部に対しスライド可能に配置され
、
前記基礎部は、地盤の上に設置され、
前記少なくとも1つの杭は、前記地盤まで到達する、ホームドア構造。
【請求項2】
請求項1に記載のホームドア構造であって、
前記少なくとも1つの杭は、連結された前記少なくとも1つの梁のスライドに伴って前記基礎部の内部で撓む、ホームドア構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のホームドア構造であって、
前記基礎部には、前記レールに向き合う壁面を構成するL字型の土留が埋設される、ホームドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ホームドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のプラットホームに設置されるホームドアの構造において、ホームドアの下部から梁(つまり横桁)を延伸させ、プラットホームの基礎部に埋設された1本の杭の先端にこの梁を連結する構造が提案されている(非特許文献1参照)。このホームドア構造は、例えば、自然風、利用客による押圧、鉄道車両の走行時に発生する風等に基づく水平方向の力に対するホームドアの耐性を、杭によって高めている。
【0003】
上記ホームドア構造では、
図3Aに示すように、ホームドア102の下部(具体的には、梁103との連結部分)が基礎部110の上面に固定される。そのため、
図3Bに示すように、ホームドア102に水平方向の力F1が加わった際に、ホームドア102の下部を支点Pとした回転モーメントが発生する。その結果、杭104に引き抜き力F2が作用する。
【0004】
このような引き抜き力による杭の引き抜きを抑制するために、上記ホームドア構造では、引き抜き抵抗の高い、小口径かつ翼を有する鋼管(以下、「小口径回転鋼管」ともいう。)が杭として用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】立花 信雄、渡辺 拡、「可動式ホーム柵新設のための盛土式ホーム部改良方法の検討について」、第37回土木学会関東支部技術研究発表会、2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の小口径回転鋼管を埋設するには、専用の施工機械が必要となるため、施工可能なプラットホームが限定される。また、小口径回転鋼管の単価及び施工機械のランニングコストが高価である。
【0007】
本開示の一局面は、様々な構造のプラットホームに適用でき、かつ、低コストで設置できるホームドア構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、鉄道車両のプラットホームにおけるホームドア構造である。ホームドア構造は、鉄道車両のレールに沿って設置されたホームドアと、ホームドアに固定されると共に、レールの延伸方向と交差する向きに延伸する少なくとも1つの梁と、少なくとも1つの梁に1つずつ連結されると共に、プラットホームの基礎部に埋設された少なくとも1つの杭と、を備える。少なくとも1つの梁は、ホームドアに水平方向の力が加わった際に、基礎部に対しスライド可能に配置される。
【0009】
このような構成によれば、ホームドアに水平方向の力が加わった際に、梁がスライドすることで梁に連結された杭の上端部が水平方向に移動する。これにより、ホームドアに加わった力は、杭に径方向の力として伝達され、杭が埋設された基礎部の受動抵抗力によって相殺されるため、杭に高い引き抜き抵抗が求められない。そのため、杭として外周面が平滑な通常の鋼管を使用できるので、専用の施工機械が不要となる。その結果、様々な構造のプラットホームに適用でき、かつ、低コストでホームドア構造を設置できる。
【0010】
本開示の一態様では、少なくとも1つの杭は、連結された少なくとも1つの梁のスライドに伴って基礎部の内部で撓んでもよい。このような構成によれば、杭の撓みによってホームドアに加わった力の一部が吸収されるため、水平方向の力に対するホームドアの強度を高めることができる。
【0011】
本開示の一態様では、基礎部には、レールに向き合う壁面を構成するL字型の土留が埋設されてもよい。L字型の土留を用いたプラットホームは、ホームドアの下方に荷重を加えられないため、水平方向の力に対するホームドアの耐性を高める構造として本開示のホームドア構造が好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態におけるホームドア構造の模式的な斜視図である。
【
図2】
図2Aは、
図1のホームドア構造の模式的な断面図であり、
図2Bは、
図2Aにおいてホームドアに水平方向の力が加わった状態を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図3Aは、従来技術におけるホームドア構造の模式的な断面図であり、
図3Bは、
図3Aにおいてホームドアに水平方向の力が加わった状態を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示すホームドア構造1は、鉄道車両のプラットホーム(つまり乗降場)に設置されている。
【0014】
ホームドア構造1は、
図2Aに示すように、ホームドア2と、複数の梁3と、複数の杭4と、カバー層5とを備える。なお、
図2Aでは、1つの梁3及び1つの杭4のみが図示されているが、実際には、後述するホームドア2の延伸方向(
図2Aにおける紙面と垂直な方向)に間隔を開けて複数の梁3及び複数の杭4が配置されている。
【0015】
<プラットホーム>
ホームドア構造1が設置されているプラットホームは、基礎部10と、地盤20とを備える。
【0016】
基礎部10は、地盤20の上に、盛り土、石積み、ブロック積み等によって形成された層である。基礎部10は、レールの側方に設けられており、鉄道車両のレールに沿って延伸している。基礎部10の厚みは、鉄道車両の乗降口の高さに合わせて設計され、例えば1m以上2m以下である。
【0017】
本実施形態では、基礎部10には、レールに向き合う壁面を構成するL字型の土留(つまり擁壁)11が埋設されている。土留11は、底面が地盤20の上に設置され、レールに沿って延伸している。
【0018】
<ホームドア>
ホームドア2は、鉄道車両のレール上への乗客の進入、転落等を防止するための構造物である。
【0019】
ホームドア2は、プラットホームのレール側(
図2A中左側)の端部近くに、レールの長手方向(つまりプラットホームの長手方向)に沿って設置されている。ホームドア2は、鉄道車両への乗降に合わせて開閉する可動部分2A(
図1参照)を有している。
【0020】
本実施形態では、ホームドア2は、鉛直方向において土留11と重なる位置に(つまり土留11の直上に)設置されている。また、ホームドア2は、後述する複数の梁3を介して、プラットホームの基礎部10上に設置されている。
【0021】
なお、ホームドア2の可動部分2Aの機構は特に限定されない。つまり、可動部分2Aは、左右方向に移動可能なものであってもよいし、上下方向に移動可能なものであってもよい。
【0022】
<梁>
複数の梁3は、ホームドア2の下部に固定されている。複数の梁3は、レールの延伸方向と交差する向きに延伸している。なお、複数の梁3は、ホームドア2のレールとは反対側の側面に固定されてもよい。
【0023】
具体的には、複数の梁3は、プラットホームの基礎部10の上に配置されると共に、レールの延伸方向と垂直な方向(つまり、ホームドア2の開閉方向と垂直な方向)に延伸している。
【0024】
複数の梁3は、ホームドア2に水平方向の力が加わった際に、基礎部10に対しスライド可能に配置されている。例えば、
図2Bに示すように、ホームドア2をレール側に押す水平方向の力F1が加わった際に、複数の梁3は、ホームドア2と共にレール側にスライドする。
【0025】
各梁3としては、例えば、H型鋼が使用できる。また、各梁3は、例えば、ボルト等の締結構造によってホームドア2に固定されている。なお、ホームドア2と各梁3との間に、電線等を敷設するための空間を有する枠体が配置されてもよい。
【0026】
各梁3は、ホームドア2に水平方向の力が加わった際に、基礎部10に対しスライド可能な範囲で、基礎部10に直接的に、又はホームドア2等の部材を介して間接的に固定されている。梁3と基礎部10との固定強度は、梁3と杭4との固定強度よりも低くされる。また、ホームドア2が基礎部10に固定されているのであれば、各梁3は基礎部10に固定されなくてもよい。
【0027】
<杭>
複数の杭4は、各梁3のホームドア2とは反対側の端部に1つずつ連結されている。封数の杭4は、基礎部10に埋設されている。
【0028】
各杭4は、
図2Bに示すように、連結された梁3のスライドに伴って基礎部10の内部で撓む。この撓みによって、ホームドア2に加わる水平方向の力F1を吸収する。一方、各杭4は、力F1によって塑性変形しない剛性を有する。各杭4は、例えば、コンクリート等の接合材によって梁3に連結されている。
【0029】
杭4に径方向の力が加わると、杭4の変位によって基礎部10における杭4の周囲の部分には、基礎部10の弾性力によって生じる受動抵抗力(つまり、変形を抑制する抵抗力)が発生する。
【0030】
各杭4としては、外周面が平滑な円筒状の鋼管を使用することができる。具体的には、例えばJIS-G-3444:2010に規定される一般構造用炭素鋼管が使用できる。鋼管の肉厚と外径とは、求められる剛性(つまり断面二次モーメント)に合わせて適宜設計されるが、施工コストを低減する観点から小径化して肉厚を大きくするとよい。
【0031】
このような鋼管を杭4として用いることで、杭4の埋設に従来型の鋼管圧入装置を使用することができる。鋼管圧入装置として、分割可能なものを用いることで、施工現場への搬入が容易になる。また、水平方向に倒した状態で装着した鋼管を、鉛直方向と平行になるように回転させてから打ち込む装置を用いることで、鋼管の吊上げを不要とできる。その結果、埋設する鋼管を長尺化できる。すなわち、杭4として用いる鋼管の継手部材の数と、継手作業の工数とを低減できる。
【0032】
各杭4の埋設長さは、周囲の基礎部10がホームドア2に加わる水平方向の力F1に対する受動抵抗力を発揮できるように設計される。具体的には、杭4の埋設長さをL、杭4の特性値をβとしたとき、下記式(1)が満たされるように埋設長さLを設計する。
π/2<β・L<π ・・・(1)
【0033】
なお、杭4の特性値βは、基礎部10の土質(つまり水平地盤反力係数kh)、杭4の径D、及び杭4の曲げ剛性EIによって決まる値であり、下記式(2)で求められる。
β={(kh・D)/4EI}1/4 ・・・(2)
【0034】
具体的な杭4の埋設長さとしては、例えば3.5m以上とすることができる。
また、基礎部10のレール側の壁面から杭4の埋設位置までの水平方向の距離Hは、例えば1m以上2m以下である。
【0035】
なお、本実施形態では、各杭4は、基礎部10を貫通して地盤20内にまで到達しているが、必ずしも地盤20内にまで到達する必要はない。例えば、地盤20が固い場合、地盤20の表面に先端が到達する位置まで各杭4を埋設してもよい。また、回転トルクが一定量以上となった時点で杭4の埋設を終えるようにしてもよい。
【0036】
各杭4の先端部には、縁切りによるフリクションカットを設けないとよい。これにより、基礎部10のうち杭4の周囲の構造が、杭4の打ち込みによって乱れることが抑制される。その結果、水平方向の力に対向する受動抵抗力が確実に発揮される。
【0037】
<カバー層>
カバー層5は、複数の杭4及びホームドア2の下部を被覆する層である。カバー層5は、例えば、盛り土等によって形成される。カバー層5の上面には、鉄道車両の利用客が踏み歩く床面が形成される。
【0038】
<ホームドア構造の設置方法>
ホームドア構造1は、杭埋設工程、梁配置工程、及び杭連結工程を備える設置方法によって、プラットホームに設置される。
【0039】
杭埋設工程では、複数の杭4を基礎部10に打ち込みによって埋設する。梁配置工程では、ホームドア2に連結された複数の梁3をホームドア2と共に基礎部10の上に配置する。このとき、埋設された各杭4の上端部に梁3が1つずつ重なるように配置する。
【0040】
杭連結工程では、杭4と梁3とを接合材によって連結する。杭4と梁3との連結後、梁3を被覆するように、基礎部10の上にカバー層5を形成する。
【0041】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)ホームドア2に水平方向の力F1が加わった際に、梁3がスライドすることで梁3に連結された杭4の上端部が水平方向に移動する。これにより、ホームドア2に加わった力F1は、杭4に径方向の力として伝達され、杭4が埋設された基礎部10の受動抵抗力によって相殺されるため、杭4に高い引き抜き抵抗が求められない。そのため、杭4として外周面が平滑な通常の鋼管を使用できるので、専用の施工機械が不要となる。その結果、様々な構造のプラットホームに適用でき、かつ、低コストでホームドア構造1を設置できる。
【0042】
(1b)杭4の撓みによってホームドア2に加わった力の一部が吸収されるため、水平方向の力F1に対するホームドア2の強度を高めることができる。
【0043】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0044】
(2a)上記実施形態のホームドア構造1において、プラットホームの基礎部10には、必ずしも土留11が埋設されなくてもよい。例えば、基礎部10が石積みで構成されている場合は、土留11は不要である。
【0045】
(2b)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0046】
1…ホームドア構造、2…ホームドア、2A…可動部分、3…梁、4…杭、
5…カバー層、10…基礎部、11…土留、20…地盤。