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特許7221691T細胞媒介性同種移植片血管障害の増悪を抑制する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】T細胞媒介性同種移植片血管障害の増悪を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230207BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230207BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230207BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 39/095 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 38/13 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20230207BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61P9/10
A61P9/00
A61P37/06
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61K39/095
A61K45/00
A61K31/56
A61K31/52
A61K31/5377
A61K31/519
A61K31/436
A61K38/13
A61K31/675
C07K16/18
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018542983
(86)(22)【出願日】2016-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 US2016059279
(87)【国際公開番号】W WO2017075325
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-10-24
(31)【優先権主張番号】62/248,873
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/321,632
(32)【優先日】2016-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503102674
【氏名又は名称】アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】515183023
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポバー、ヨルダン
(72)【発明者】
【氏名】ジェーン - ウイット、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シン、リンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、イー
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-508262(JP,A)
【文献】国際公開第2015/023972(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/134894(WO,A1)
【文献】特表2009-528369(JP,A)
【文献】Am. J. Transplant. (2011) vol.11, issue7, p.1397-1406
【文献】Nat. Rev. Immunol. (2012) vol.12, no.6, p.431-442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 37/06
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性新生内膜病変を治療するための医薬組成物であって、
該医薬組成物は、C5に結合しC5が断片C5aおよびC5bに切断されるのを阻害する抗C5抗体またはその抗原結合断片の治療有効量を含み、
該医薬組成物は、ドナーからの同種移植片を移植されたレシピエントに投与され、
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片の投与は
種移植片の微小血管および大口径血管においてIR障害によって誘導される膜侵襲複合体の集合、
IRによって誘導される同種移植片における非標準的NF-κBシグナル伝達の活性化、
IR障害によって誘導されるNIK発現、および/または
同種移植片の血管にT細胞およびマクロファージの内皮下浸潤を伴う平滑筋様細胞から構成されるびまん性に広がった新生内膜を形成すること
うちの一つまたは複数の減少を達成し、それによって哺乳動物移植レシピエントにおけるT細胞媒介性新生内膜病変を治療する、上記医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物の投与前に、抗髄膜炎菌ワクチンおよび/または抗生物質が前記レシピエントに投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
副腎皮質ステロイド、アザチオプリン(AZA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メトトレキサート、タクロリムス、シクロスポリン、およびシクロホスファミドからなる群から選択される1種以上の免疫抑制剤を併用する、請求項1~2のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が、静脈内投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記哺乳動物移植レシピエントは、ヒトレシピエントである、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗C5抗体は、エクリズマブまたはラブリズマブである、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗C5抗体は、BNJ421である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1、2、および3にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7に記載される配列を有するVドメイン、および配列番号8に記載される配列を有するVドメインをそれぞれ含む、請求項1~5及び8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号10および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号19、18、および3にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号8に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含む、請求項1~5及び12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号20および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号21、22、および23にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号24、25、および26にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号27に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号28に記載される配列を有するVLドメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号29、30、および31にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号32、33、および34にそれぞれ記載されるCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号35に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号36に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる配列表を含有する。該ASCIIコピーは、2016年10月28日に作成され、ALXN345PCT_SL.txtという名称であり、40,638バイトの大きさである。
【0002】
本発明は、固形臓器移植の分野に関し、より具体的には、同種移植片血管障害を治療および予防する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
固形臓器同種移植片の寿命は、移植血管の至るところに不可逆的狭窄を形成する状態である同種移植片血管障害(AV)によってたびたび制限される。AV病変は、心臓(Beygui F et al.J Heart Lung Transplant 2010;29:316-322、Lee MS et al.Cardiac allograft vasculopathy Rev Cardiovasc Med 2011;12:143-152、Costello JP et al.Tex Heart Inst J 2013;40:395-399、Hollis IB et al.Pharmacotherapy 2015;35:489-501)、腎臓(Bagnasco SM,Kraus ES,Curr Opin Organ Transplant 2015;20:343-347、Gupta G et al.Transplantation 2014;97:1240-1246)、および複合同種移植片(Mundinger GS,Drachenberg CB.Curr Opin Organ Transplant 2014;19:309-14、Unadkat JV et al.Am J Transplant 2009;10:251-261、Unadkat JV et al.Transplant Proc 2009;41:542-545)に観察されており、それらは後期移植片喪失に実質的に寄与する。AV病変は、2つの異なる形態で生じる。第1の最もよく特徴づけられた形態において、罹患血管は、T細胞およびマクロファージの内皮下浸潤を伴う平滑筋様細胞から構成されるびまん性に広がった新生内膜を含む。Pober JS et al.Arterioscler Thromb Vasc Biol.2014;34:1609-1614。同様の外観の新生内膜病変は、ヒトIFN-γ(Tellides G et al.Nature 2000;403:207-11)またはIFN-γ産生ヒトT細胞(Shiao SL et al,J Immunol 2007;179:4397-404)に応答してヒト動脈セグメントに誘導することができる。より最近認識されたAVの形態では、内腔上皮細胞(EC)が凝固カスケードを局所的に活性化し(Jane-Wit D et al.Circulation 2013;128:2504-2516)、閉塞性血栓を引き起こす(Yi T,et al.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012;32:353-360、Jane-Wit D et al.Proc Natl Acad Sci USA.2015;112:9686-9691)。微小血管および大口径血管に影響を及ぼす血栓性AV病変(Miwa T et al.J Immunol 2013;190:3552-3559)は、長期移植片転帰の悪化と関連している(Elvington A et al.J Immunol 2012;189:4640-4647)。
【0004】
AVの治療または予防を適応とする承認された治療薬が存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法であって、ドナーからの同種移植片をレシピエントに移植することと、治療有効量の抗C5抗体またはその抗原結合断片をレシピエントに投与することとを含み、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する、方法を提供する。
【0006】
本開示はまた、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法であって、哺乳動物同種移植片ドナーおよび同種移植片レシピエントを選択するステップと、ドナーからの同種移植片をレシピエントに移植するステップと、治療有効量の抗C5抗体またはその抗原結合断片をレシピエントに投与するステップとを含み、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する、方法を提供する。
【0007】
別の実施形態において、同種移植片を移植するステップの前に、抗C5抗体またはその抗原結合断片で同種移植片を前処置するステップを含む、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法が提供される。
【0008】
別の実施形態において、抗C5抗体もしくはその抗原結合断片でレシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に対する虚血再灌流(IR)障害の可能性を低減する。
【0009】
別の実施形態において、抗C5抗体もしくはその抗原結合断片でレシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、ドナー特異的抗体(DSA)によって誘導される同種移植損傷の可能性を低減する。
【0010】
別の実施形態において、抗C5抗体もしくはその抗原結合断片でレシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、移植関連IR障害の血栓性合併症の可能性を低減する。
【0011】
別の実施形態において、抗C5抗体もしくはその抗原結合断片でレシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の微小血管および大口径血管においてIR障害によって誘導される膜侵襲複合体の集合の可能性を低減する。
【0012】
別の実施形態において、抗C5抗体もしくはその抗原結合断片でレシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、IRによって誘導される同種移植片における非標準的NF-κBシグナル伝達の活性化の可能性を低減する。
【0013】
別の実施形態において、抗C5抗体もしくはその抗原結合断片でレシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、IR障害によって誘導されるNIK発現の可能性を低減する。
【0014】
別の実施形態において、レシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の血管にT細胞およびマクロファージの内皮下浸潤を伴う平滑筋様細胞から構成されるびまん性に広がった新生内膜を形成する可能性を低減する。
【0015】
別の実施形態において、抗C5抗体もしくはその抗原結合断片でレシピエントを処置すること、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片で同種移植片を処置することは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の血管に塞栓性血栓を形成する可能性を低減する。
【0016】
別の実施形態において、本開示は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を投与する前に、抗髄膜炎菌ワクチンおよび/または抗生物質をレシピエントに投与するステップを含む、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法を提供する。
【0017】
別の実施形態において、本開示は、レシピエントに免疫抑制剤を投与するステップを含み、免疫抑制剤は、併用療法においてまたは単剤療法として、副腎皮質ステロイド、アザチオプリン(AZA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メトトレキサート、タクロリムス、シクロスポリン、またはシクロホスファミドからなる群から選択される、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法を提供する。
【0018】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、静脈内投与される。
【0019】
別の実施形態において、哺乳動物移植レシピエントは、ヒトレシピエントである。
【0020】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、エクリズマブである。
【0021】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、BNJ441である。
【0022】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、BNJ421である。
【0023】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1、2、および3にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む。
【0024】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号8に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含む。
【0025】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を含む。
【0026】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号10および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む。
【0027】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号19、18、および3にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む。
【0028】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号8に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含む。
【0029】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を含む。
【0030】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む。
【0031】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号20および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む。
【0032】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号21、22、および23にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号24、25、および26にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む。
【0033】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号27に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号28に記載される配列を有するVLドメインを含む。
【0034】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号29、30、および31にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号32、33、および34にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む。
【0035】
別の実施形態において、本開示は、抗C5抗体またはその抗原結合断片が、配列番号35に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号36に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含むことを提供する。
【0036】
別の実施形態において、本開示は、哺乳動物移植レシピエントの同種移植片における同種移植片血管障害病変の形成を予防するためのキットであって、キットは、ある用量の抗C5抗体またはその抗原結合断片であって、配列番号1、2、および3にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、ある用量の抗C5抗体またはその抗原結合断片と、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法において抗C5抗体またはその抗原結合断片を使用するための指示と、注射器とを含む、キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、終末補体活性化が起こらない場合、抗C5mAbはT細胞媒介性AVに対して免疫調節作用を発揮しないことを示している。
図2図2は、MAC集合の阻止、および抗C5mAbによってC5aが産生されないことが、DSAに応答するECの活性化を減弱させることを示している。
図3図3は、抗C5抗体が、同種抗体誘導性の補体活性化後の新生内膜病変を縮小させることを示している。
図4図4は、IRIが補体を活性化し、標的細胞を顕著に喪失することなく動脈壁におけるMACの形成を誘導することを示している。
図5図5は、終末補体の阻害が、IRIによって誘導されるMACの形成、非標準的NF-κB、およびECの活性化を抑制することを示している。
図6図6は、抗C5抗体がIRI後の新生内膜病変および血栓性AV病変を軽減することを示す実験の結果を示している。
図7図7は、下行大動脈に移植された冠動脈介在移植片を有するナイーブSCID/bgマウスが、18時間後の移植片採取および免疫蛍光法による分析の前にPRA血清の静脈内注射を受けたことを示す(n=3の処置対)。C5a活性レベルは、抗C5a mAb CLS026またはアイソタイプ対照mAb MOPC1をブロックすることによる処置後、図2gに示すように移植片採取時のマウス血漿において評価した(n=3の処置対)。
図8図8は、外植され、無酸素条件下で図示される期間臓器培養され、低酸素プローブのために染色された冠動脈移植片を示している(各時点でn=5のマウス)。スケールバーは63μmを示す。
図9図9は、外植され、無酸素条件下で12時間臓器培養され、次いで、第2のセットのナイーブSCID/bg宿主に再移植された冠動脈移植片を示している。再移植の18時間後に移植片を採取し、ヒト動脈移植片とマウス下行大動脈組織との境界を示す遠位縫合線に隣接する一連の切片を免疫蛍光分析のために採取した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
定義
【0039】
本明細書で使用される場合、名詞の前の「1つの(a)」または「複数の(plurality)」という語は、1つ以上の特定の名詞を表す。例えば、「1つの哺乳動物細胞(a mammalian cell)」という表現は、「1つ以上の哺乳動物細胞」を表す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「補体媒介性損傷」という用語は、補体活性化が観察可能または測定可能な形で疾患の病理に寄与する病態を指す。例えば、補体媒介性損傷は、補体活性化による細胞の破壊によって特徴づけることができる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「リスクを減少させる」または「可能性を向上させる」という用語は、ある事象の発生率における統計的に有意な量の変化を指す。例えば、一実施形態において、減少させるは、ある事象を部分的にまたは完全に予防することを指す。一実施形態において、「減少させる」は、基準レベルと比較して少なくとも10%の減少、例えば、少なくとも約15%、もしくは少なくとも約20%、もしくは少なくとも約25%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約35%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約45%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約55%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約65%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%の減少、または基準試料と比較して100%以下の減少、または基準レベルと比較して10~100%の任意の減少を意味する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「血管障害」という用語は、血管に影響を及ぼす任意の疾患を指す。「血栓」または「血栓性」という用語は、循環器系を通る血液の流れを妨げる、血管内における血液の凝集またはその形成を指す。「狭窄」または「狭窄の」という用語は、循環器系を通る血液の流れを妨げる、血管内における血液の凝集またはその形成を指す。
【0043】
本明細書で使用される場合、「罹患率を減少させる」および「機能を改善する」という用語は、有益な効果、例えば、ベースラインを上回る寛解または改善を指す。しばしば、ベースラインを上回る改善は、統計的に有意である。例えば、「罹患率を減少させる」および「機能を改善する」は、基準レベルと比較して少なくとも10%の寛解、例えば、少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%の改善、または基準レベルと比較して100%以下の改善、または基準レベルと比較して10~100%の任意の改善、あるいは、少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約6倍、もしくは少なくとも約7倍、もしくは少なくとも約8倍、もしくは少なくとも約9倍、もしくは少なくとも約10倍の改善、または基準レベルと比較して2倍~10倍もしくはそれ以上の任意の改善を指してもよい。
【0044】
本明細書で使用される場合、「移植」という用語は、ヒトまたは非ヒト動物レシピエントにおける臓器、例えば、腎臓の交換を指す。交換の目的は、宿主の罹患臓器または組織を除去し、ドナーからの健康な臓器または組織と交換することである。ドナーとレシピエントが同じ種である場合、その移植は「同種移植」として知られる。ドナーとレシピエントが異なる種である場合、その移植は「異種移植」として知られる。移植に必要な技術は様々であり、移植される臓器の性質に大きく左右される。治療形態としての移植の成功は、多くの考えられる生理学的帰結に依存する。例えば、宿主は、抗体依存性超急性拒絶反応機構、細胞媒介性急性拒絶反応、または慢性変性過程を介して新しい臓器を拒絶する場合がある。
【0045】
本明細書で使用される場合、「再灌流」という用語は、臓器または組織(例えば、腎臓)に血流を回復させる行為を指す。再灌流障害または虚血再灌流障害(「IR障害」)は、虚血または酸素欠乏の期間後に血液供給が組織に戻るときに引き起こされる組織損傷である。虚血期間中に血液からの酸素および栄養が不足することにより、循環の回復が、正常な機能の回復よりもむしろ酸化ストレスの誘導を通して炎症および酸化的損傷をもたらす状態が作り出される。死亡ドナーからの腎臓は、回収前に生体ドナーと比較してはるかに大きな虚血損傷を受けており、適切な初期機能および長期機能の可能性低減を示す。Kosieradzki M et al.Transplant Proc.2008 Dec;40(10):3279-88。臓器および組織の再灌流のための技術は、当該技術分野で既知であり、例えば、国際特許出願第WO2011/002926号、ならびに米国特許第5,723,282号および同第5,699,793号に開示されている。
【0046】
レシピエントに関連して使用される「感作させた」という用語は、提供臓器等の異組織に対して反応する例外的に高い抗体レベルを有するレシピエントを指す。
【0047】
本明細書で使用される「拒絶反応」という用語は、臓器移植レシピエントの免疫応答が、移植された臓器、細胞、または組織に対して、臓器の正常な機能を損なうまたは破壊するのに十分な反応を開始する単数または複数のプロセスを指す。免疫系の応答は、特異的(抗体およびT細胞依存性)または非特異的(食作用性、補体依存性等)機構、またはその両方に関与し得る。
【0048】
「有効量」という用語は、所望の生物学的、治療的、および/または予防的結果を提供する薬剤の量を指す。その結果は、IR障害の徴候もしくは症状のうちの1つ以上の軽減、寛解、緩和、低下、遅延、および/または生物系の任意の他の所望の変化であり得る。
【0049】
「抗体」という用語は、当該技術分野で既知である。端的に述べると、それは、2つの軽鎖ポリペプチドおよび2つの重鎖ポリペプチドを含む全抗体を指す。全抗体は、IgM、IgG、IgA、IgD、およびIgE抗体を含む異なる抗体アイソタイプを含む。「抗体」という用語は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ化またはキメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、脱免疫化抗体、および完全ヒト抗体を含む。抗体は、様々な種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、オランウータン、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ラマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、およびマウス等の哺乳動物のいずれかにおいて作製され得るか、またはそれらに由来し得る。抗体は、精製抗体および/または組換え抗体であってもよい。
【0050】
「ドナー」という用語は、全脳機能を不可逆的に喪失した死亡した個体を指す。これは、落下、交通事故、または脳卒中等の損傷後に起こり得る。不可逆性の確認、および全脳機能が失われたことの確認は、長期間にわたって繰り返し行われる確認試験の後にのみなされる。
【0051】
「ドナー特異的抗体」、DSA、または「同種抗体」という用語は、ドナー細胞に対して特異的に産生される、抗HLA抗体である抗体を指す。
【0052】
「虚血再灌流障害」という用語は、虚血または酸素欠乏(無酸素、低酸素)の期間後に血液供給が組織に戻るときに引き起こされる組織損傷を指す。
【0053】
「例えば」および「等」という用語、ならびにそれらの文法的等価物について、別途明確に記載されない限り、「それらに限定されない」という句が後に続くものと理解されたい。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、実験誤差による変動を説明することが意図される。本明細書において報告される全ての測定値は、別途明示的に記載されない限り、その用語が明示的に用いられているかどうかにかかわらず、「約」という用語によって修飾されていると理解されたい。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上別途明確に示されない限り、複数形の指示対象を含む。
【0054】
別途定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。方法および材料が本明細書において使用するために本明細書に記載されるが、当該技術分野で既知の他の好適な方法および材料も使用され得る。材料、方法、および例は、例示に過ぎず、限定的であることを意図するものではない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および他の参考文献は、その全体が参照によって組み込まれる。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が優先する。
【0055】
補体系
【0056】
補体系は、細胞病原体およびウイルス病原体の侵入に対して防御するために、体の他の免疫系と併せて作用する。少なくとも25の補体タンパク質が存在し、それらは血漿タンパク質および膜補因子の複合体の集合として見出される。血漿タンパク質は、脊椎動物血清中のグロブリンの約10%を構成する。補体成分は、一連の複雑であるが正確な酵素的切断および膜結合事象において相互作用することにより、それらの免疫防御機能を達成する。その結果得られた補体カスケードは、オプソニン機能、免疫調節機能、および溶解機能を有する生成物の生成をもたらす。補体活性化に関連する生物活性の簡潔な概要は、例えば、The Merck Manual,16th Editionに提供される。
【0057】
補体カスケードは、古典的経路(CP)、レクチン経路、または代替経路(AP)を介して進行することができる。レクチン経路は、典型的には、マンノース結合レクチン(MBL)の高マンノース基質への結合によって開始される。APは、抗体非依存性であり得、病原体表面上の特定の分子によって開始され得る。CPは、典型的には、標的細胞上の抗原部位の抗体認識および抗原部位への結合によって開始される。これらの経路は、補体成分C3が活性プロテアーゼによって切断されてC3aおよびC3bを生じる点であるC3転換酵素で合流する。
【0058】
AP C3転換酵素は、血液の血漿分画中に豊富な補体成分C3の自然加水分解によって開始される。「チックオーバー」としても知られるこのプロセスは、C3中のチオエステル結合の自然切断によって起こり、C3iまたはC3(H2O)を形成する。チックオーバーは、活性化されたC3の結合を支持する、および/または中性もしくは陽性電荷特性を有する表面(例えば、細菌細胞表面)の存在によって促進される。このC3(H2O)の形成は、血漿タンパク質B因子の結合を可能にし、それによって今度はD因子がB因子をBaおよびBbに切断することが可能となる。Bb断片は、C3に結合した状態に留まり、C3(H2O)Bbを含有する複合体である「流体相」または「開始」C3転換酵素を形成する。流体相C3転換酵素は、少量しか生成されないが、複数のC3タンパク質をC3aおよびC3bに切断することができ、C3bの産生およびそれに続く表面(例えば、細菌表面)へのC3bの共有結合をもたらす。表面に結合したC3bに結合したB因子はD因子によって切断され、それによってC3b,Bbを含有する表面結合したAP C3転換酵素複合体を形成する。(例えば、Muller-Eberhard(1988)Ann Rev Biochem 57:321-347を参照されたい。)
【0059】
AP C5転換酵素(C3b)2,Bbは、第2のC3bモノマーがAP C3転換酵素に付加されるときに形成される。(例えば、Medicus et al.(1976)J Exp Med 144:1076-1093およびFearon et al.(1975)J Exp Med 142:856-863を参照されたい。)第2のC3b分子の役割は、C5に結合し、Bbによる切断のためにそれを提示することである。(例えば、Isenman et al.(1980)J Immunol 124:326-331を参照されたい。)AP C3およびC5転換酵素は、例えば、上記Medicus et al.(1976)に記載されるように三量体タンパク質プロパージンの付加によって安定化される。しかしながら、プロパージンの結合は、機能的な代替経路C3またはC5転換酵素を形成するために必要ではない。(例えば、Schreiber et al.(1978)Proc Natl Acad Sci USA 75:3948-3952およびSissons et al.(1980)Proc Natl Acad Sci USA 77:559-562を参照されたい)。
【0060】
CP C3転換酵素は、C1q、C1r、およびC1sの複合体である補体成分C1と、標的抗原(例えば、微生物抗原)に結合した抗体とが相互作用するときに形成される。C1のC1q部分の抗体-抗原複合体への結合は、C1rを活性化するC1における立体構造変化を引き起こす。活性なC1rは、次いで、C1に関連するC1sを切断し、それによって活性なセリンプロテアーゼを産生する。活性なC1sは、補体成分C4をC4bおよびC4aに切断する。C3bと同様に、新しく産生されたC4b断片は、標的表面(例えば、微生物細胞表面)上の好適な分子とアミド結合またはエステル結合を容易に形成する高反応性のチオールを含有する。C1sはまた、補体成分C2をC2bおよびC2aに切断する。C4bおよびC2aによって形成された複合体は、CP C3転換酵素であり、C3をC3aおよびC3bにプロセシングすることができる。CP C5転換酵素であるC4b、C2a、C3bは、C3bモノマーがCP C3転換酵素に付加されるときに形成される。(例えば、上記Muller-Eberhard(1988)およびCooper et al.(1970)J Exp Med 132:775-793を参照されたい。)
【0061】
C3およびC5転換酵素におけるその役割に加えて、C3bはまた、マクロファージおよび樹状細胞等の抗原提示細胞の表面上に存在する補体受容体との相互作用によってオプソニンとしても機能する。C3bのオプソニン機能は、一般に、補体系の最も重要な抗感染機能のうちの1つであると考えられる。C3b機能を抑制する遺伝子病変を有する患者は、幅広い病原体に易感染性を示すが、補体カスケードシーケンスのより後の方に病変を有する患者、すなわち、C5機能を抑制する病変を有する患者は、ナイセリア感染症にのみ易感染性を示し、その場合も若干感染しやすいだけであることが分かっている。
【0062】
APおよびCP C5転換酵素は、C5をC5aおよびC5bに切断する。C5の切断は、強力なアナフィラトキシンおよび走化性因子であるC5a、ならびに溶解終末補体複合体C5b-9の形成を可能にするC5bを放出する。C5bは、C6、C7、およびC8と組み合わさって、標的細胞の表面にC5b-8複合体を形成する。いくつかのC9分子が結合すると、膜侵襲複合体(MAC、C5b-9、終末補体複合体TCC)が形成される。十分な数のMACが標的細胞膜に挿入すると、それらが作り出す開口部(MAC孔)が標的細胞の急速な浸透圧溶解を媒介する。
【0063】
抗C5抗体
【0064】
本明細書に記載される抗C5抗体は、補体成分C5(例えば、ヒトC5)に結合し、C5が断片C5aおよびC5bに切断されるのを阻害する。本発明における使用に適した抗C5抗体(またはそれに由来するVH/VLドメイン)は、当該技術分野で周知の方法を用いて産生することができる。代替として、当該技術分野において承認されている抗C5抗体が使用されてもよい。これらの当該技術分野において承認されている抗体のいずれかとC5への結合について競合する抗体もまた、使用され得る。
【0065】
例示的な抗C5抗体は、配列番号10および11にそれぞれ示される配列を有する重鎖および軽鎖を含むエクリズマブ、またはその抗原結合断片および変異体である。エクリズマブ(Soliris(登録商標)としても知られる)は、米国特許第6,355,245号に記載されている。エクリズマブは、終末補体阻害剤であるヒト化モノクローナル抗体である。
【0066】
他の実施形態において、抗体は、エクリズマブの重鎖および軽鎖CDRまたは可変領域を含む。したがって、一実施形態において、抗体は、配列番号7に記載される配列を有するエクリズマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号8に記載される配列を有するエクリズマブのVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号1、2、および3にそれぞれ記載される配列を有する重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号7および配列番号8にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するVHおよびVL領域を含む。
【0067】
別の例示的な抗C5抗体は、配列番号14および11にそれぞれ示される配列番号を有する重鎖および軽鎖を含む抗体BNJ441、またはその抗原結合断片および変異体である。BNJ441(ALXN1210としても知られる)は、PCT/US2015/019225および米国特許第9,079,949号に記載されている。BNJ441は、エクリズマブ(Soliris(登録商標))に構造的に関連するヒト化モノクローナル抗体である。BNJ441は、ヒト補体タンパク質C5に選択的に結合し、補体活性化中にそれがC5aおよびC5bに切断されるのを阻害する。この阻害は、炎症誘発性メディエーターC5aの放出、および細胞溶解性孔を形成する膜侵襲複合体C5b-9の形成を防止する一方で、微生物のオプソニン作用および免疫複合体のクリアランスに必要不可欠な補体活性化の近位または初期成分(例えば、C3およびC3b)を保存する。
【0068】
他の実施形態において、抗体は、BNJ441の重鎖および軽鎖CDRまたは可変領域を含む。したがって、一実施形態において、抗体は、配列番号12に記載される配列を有するBNJ441のVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号8に記載される配列を有するBNJ441のVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号19、18、および3にそれぞれ記載される配列を有する重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号12および配列番号8にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するVHおよびVL領域を含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を有するBNJ441の重鎖定常領域を含んでもよい。
【0069】
別の例示的な抗C5抗体は、配列番号20および11にそれぞれ示される配列を有する重鎖および軽鎖を含む抗体BNJ421、またはその抗原結合断片および変異体である。BNJ421(ALXN1211としても知られる)は、PCT/US2015/019225および米国特許第9,079,949号に記載されており、その教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0070】
他の実施形態において、抗体は、BNJ421の重鎖および軽鎖CDRまたは可変領域を含む。したがって、一実施形態において、抗体は、配列番号12に記載される配列を有するBNJ421のVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号8に記載される配列を有するBNJ421のVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号19、18、および3にそれぞれ記載される配列を有する重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号12および配列番号8にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有するVHおよびVL領域を含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を有するBNJ421の重鎖定常領域を含んでもよい。
【0071】
別の例示的な抗C5抗体は、米国特許第8,241,628号および同第8,883,158号に記載される7086抗体である。一実施形態において、抗体は、7086抗体の重鎖および軽鎖CDRまたは可変領域を含んでもよい。米国特許第8,241,628号および同第8,883,158号を参照されたい。別の実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号21、22、および23にそれぞれ記載される配列を有する重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号24、25、および26にそれぞれ記載される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号27に記載される配列を有する7086抗体のVH領域と、配列番号28に記載される配列を有する7086抗体のVL領域とを含んでもよい。
【0072】
別の例示的な抗C5抗体は、同様に米国特許第8,241,628号および同第8,883,158号に記載される8110抗体である。一実施形態において、抗体は、8110抗体の重鎖および軽鎖CDRまたは可変領域を含む。抗体またはその抗原結合断片は、配列番号29、30、および31にそれぞれ記載される配列を有する重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号32、33、および34にそれぞれ記載される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含んでもよい。別の実施形態において、抗体は、配列番号35に記載される配列を有する8110抗体のVH領域と、配列番号36に記載される配列を有する8110抗体のVL領域とを含む。
【0073】
CDRの正確な境界は、異なる方法に応じて異なって定義されてきた。いくつかの実施形態において、軽鎖または重鎖可変ドメイン内のCDRまたはフレームワーク領域の位置は、Kabat et al.[(1991)“Sequences of Proteins of Immunological Interest.”NIH Publication No.91-3242,U.S.Department of Health and Human Services,Bethesda,MD]によって定義される通りであり得る。そのような場合、CDRは「Kabat CDR」(例えば、「Kabat LCDR2」または「Kabat HCDR1」)と称されてもよい。いくつかの実施形態において、軽鎖および重鎖可変領域のCDRの位置は、Chothia et al.(1989)Nature 342:877-883によって定義される通りであり得る。したがって、これらの領域は、「Chothia CDR」(例えば、「Chothia LCDR2」または「Chothia HCDR3」)と称されてもよい。いくつかの実施形態において、軽鎖および重鎖可変領域のCDRの位置は、Kabat-Chothiaを組み合わせた定義に定義される通りであり得る。そのような実施形態において、これらの領域は、「Kabat-Chothiaの組み合わせCDR」と称されてもよい。Thomas et al.[(1996)Mol Immunol 33(17/18):1389-1401]は、KabatおよびChothiaの定義によるCDR境界の特定を例示している。
【0074】
抗体がタンパク質抗原に結合するかどうか、および/または抗体のタンパク質抗原に対する親和性を決定するための方法は、当該技術分野において既知である。例えば、抗体のタンパク質抗原への結合は、限定されないが、ウェスタンブロット、ドットブロット、表面プラズモン共鳴(SPR)法(例えば、BIAcore system、Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,Sweden and Piscataway,N.J.)、または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)等の様々な技術を用いて検出および/または定量化することができる。例えば、Benny K.C.Lo(2004)“Antibody Engineering:Methods and Protocols,”Humana Press(ISBN:1588290921)、Johne et al.(1993)J Immunol Meth 160:191-198、Jonsson et al.(1993)Ann Biol Clin 51:19-26、およびJonsson et al.(1991)Biotechniques 11:620-627を参照されたい。
【0075】
一実施形態において、抗体は、本明細書に記載される抗体と同じC5上のエピトープとの結合について競合する、かつ/または該エピトープに結合する。2つ以上の抗体に関連して「同じエピトープに結合する」という用語は、所与の方法によって決定されるように、抗体がアミノ酸残基の同じセグメントに結合することを意味する。抗体が本明細書に記載される抗体と「C5上の同じエピトープ」に結合するかどうかを決定するための技術は、例えば、エピトープマッピング法、例えば、エピトープの原子分解を提供する抗原:抗体複合体の結晶のX線分析、および水素/重水素交換質量分析(HDX-MS)を含む。他の方法は、ペプチド抗原フラグメントまたは抗原の突然変異した異形への抗体の結合を監視し、その場合、抗原配列中のアミノ酸残基の修飾による結合の喪失が、しばしばエピトープ成分の指標であると見なされる。さらに、エピトープマッピングのための計算コンビナトリアル法も使用することができる。これらの方法は、対象となる抗体が、コンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーから特異的短ペプチドを親和性単離する能力に依存する。同じVHおよびVLまたは同じCDR1、2、および3配列を有する抗体は、同じエピトープに結合すると予測される。
【0076】
「標的への結合について別の抗体と競合する」抗体は、他の抗体の標的への結合を(部分的にまたは完全に)阻害する抗体を指す。2つの抗体が標的への結合について互いに競合するかどうか、すなわち、一方の抗体が他方の抗体の標的への結合を阻害するかどうか、およびどの程度阻害するかは、既知の競合実験を用いて決定され得る。特定の実施形態において、抗体は、別の抗体の標的への結合を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%競合し、かつ阻害する。阻害または競合のレベルは、どの抗体が「遮断抗体」(すなわち、最初に標的とともにインキュベートされる冷抗体)であるかに応じて異なり得る。競合する抗体は、同じエピトープ、重複するエピトープ、または隣接するエピトープに結合する(例えば、立体障害によって明らかになるように)。本明細書に記載される方法に使用される、本明細書に記載される抗C5抗体またはその抗原結合断片は、様々な当該技術分野において承認されている技術を用いて産生することができる。
【0077】
モノクローナル抗体は、当業者によく知られる種々の技術によって得ることができる。端的に述べると、所望の抗原で免疫した動物の脾臓細胞が、一般的には骨髄腫細胞との融合によって不死化される(Kohler&Milstein,Eur.J.Immunol.6:511-519(1976)を参照されたい)。代替の不死化方法は、エプスタイン・バーウイルス、癌遺伝子、もしくはレトロウイルスによる形質転換、または当該技術分野で周知の他の方法を含む。単一の不死化細胞から生じるコロニーが、抗原に対する所望の特異性および親和性の抗体の産生についてスクリーニングされ、そのような細胞によって産生されるモノクローナル抗体の収率は、脊椎動物宿主の腹膜腔内への注射を含む種々の技術によって高めることができる。代替として、Huse,et al.,Science 246:1275-1281(1989)によって概説される一般的なプロトコルに従ってヒトB細胞からのDNAライブラリをスクリーニングすることにより、モノクローナル抗体またはその結合断片をコードするDNA配列を単離してもよい。
【0078】
組成物および製剤
【0079】
抗C5抗体またはその抗原結合断片を含む組成物もまた、開示される方法に使用するために本明細書に提供される。
【0080】
一般に、抗C5抗体は、薬学的組成物として配合され得る。組成物は、一般に、薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合するあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を指し、また含む。組成物は、薬学的に許容される塩、例えば、酸付加塩または塩基付加塩を含むことができる(例えば、Berge et al.(1977)J.Pharm.Sci.66:1-19を参照されたい)。
【0081】
組成物は、標準的な方法に従って配合され得る。薬学的配合は、十分に確立された技術であり、例えば、Gennaro(2000)“Remington:The Science and Practice of Pharmacy,”20th Edition,Lippincott,Williams&Wilkins(ISBN:0683306472)、Ansel et al.(1999)“Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,”7th Edition,Lippincott Williams&Wilkins Publishers(ISBN:0683305727)、およびKibbe(2000)“Handbook of Pharmaceutical Excipients American Pharmaceutical Association,”3rd Edition(ISBN:091733096X)にさらに記載されている。
【0082】
組成物は、例えば、補体関連疾患の治療または予防のために対象に投与するための、薬学的溶液として配合され得る。薬学的組成物は、一般に、薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合するあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を指し、かつ含む。組成物は、薬学的に許容される塩、例えば、酸付加塩または塩基付加塩、糖、炭水化物、ポリオール、および/または浸透圧調整剤を含むことができる。
【0083】
いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、好適な濃度の、2~8℃(例えば、4℃)での保存に適した緩衝溶液として配合され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、0℃未満の温度(例えば、-20℃または-80℃)での保存のために配合され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、2~8℃(例えば、4℃)で最長2年間(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年、1年半、または2年)の保存のために配合され得る。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に記載される組成物は、2~8℃(例えば、4℃)で少なくとも1年間の保存において安定である。
【0084】
薬学的組成物は、様々な形態であり得る。これらの形態は、例えば、液体、半固体および固体剤形、例えば液体溶液(例えば、注射溶液および注入溶液)、分散液または懸濁液、錠剤、丸薬、散剤、リポソーム、および坐剤を含む。好ましい形態は、意図される投与様式および治療用途に一部依存する。例えば、全身または局所送達を目的とした組成物を含有する組成物は、注射溶液または注入溶液の形態であり得る。したがって、組成物は、非経口様式(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内注射)による投与のために配合され得る。「非経口投与」、「非経口的に投与される」、および他の文法的に等価な表現は、本明細書で使用される場合、通常、注射による経腸および局所投与以外の投与様式を指し、限定されないが、静脈内、鼻腔内、眼内、肺、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、肺内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、脳内、頭蓋内、頸動脈内、ならびに胸骨内注射および注入を含む。
【0085】
治療方法
【0086】
本開示は、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法であって、ドナーからの同種移植片をレシピエントに移植することと、治療有効量の抗C5抗体またはその抗原結合断片をレシピエントに投与することとを含み、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する、方法を提供する。
【0087】
別の実施形態において、本開示は、哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法であって、哺乳動物同種移植片ドナーおよび同種移植片レシピエントを選択するステップと、ドナーからの同種移植片をレシピエントに移植するステップと、治療有効量の抗C5抗体またはその抗原結合断片をレシピエントに投与するステップとを含み、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する、方法を提供する。
【0088】
方法は、同種移植片がIR障害を受けている場合の治療を含む。方法はまた、同種移植片がDSAによる障害に供されている場合の治療も含む。
【0089】
一実施形態において、方法は、同種移植片を移植するステップの前に、ドナー同種移植片を抗C5抗体またはその抗原結合断片で前処置するステップを含む。WO2015/023972を参照されたい。
【0090】
一実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、移植の前(例えば、ドナー哺乳動物から臓器を除去した後、およびレシピエント哺乳動物に臓器を移植する前)に臓器に投与される。一実施形態において、抗C5抗体または抗原結合断片は、臓器調達センターで投与される。別の実施形態において、抗C5抗体または抗原結合断片は、移植の直前に、例えば、移植前の数時間または数分以内の「バックテーブル」での手技において投与される。一実施形態において、抗C5抗体または抗原結合断片は、ドナー哺乳動物からの採取または除去後ではあるが、臓器保存の前に投与される。別の実施形態において、抗体または抗原結合断片は、保存中に臓器に投与される。別の実施形態において、抗C5抗体または抗原結合断片は、保存後ではあるが、移植前に投与される。
【0091】
抗C5抗体または抗原結合断片は、任意の好適な技術によって臓器に投与され得る。一実施形態において、抗C5抗体または抗原結合断片は、抗C5抗体または抗原結合断片を含有する溶液で臓器を灌流することによって臓器に投与されてもよい。別の実施形態において、臓器は、抗C5抗体または抗原結合断片を含有する溶液に含浸される。一実施形態において、臓器は、0.5時間~60時間または1時間~30時間(例えば、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、55分間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、6時間、6.5時間、7時間、7.5時間、8時間、8.5時間、9時間、9.5時間、10時間、10.5時間、11時間、11.5時間、12時間、12.5時間、13時間、13.5時間、14時間、14.5時間、15時間、15.5時間、16時間、16.5時間、17時間、17.5時間、18時間、18.5時間、19時間、19.5時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、25時間、26時間、27時間、28時間、29時間、または30時間)、抗C5抗体または抗原結合断片を含有する溶液で灌流されるか、または該溶液に浸漬される。投与は、2回以上の灌流または浸漬を含み得る。
【0092】
いくつかの実施形態において、溶液中の抗C5抗体または抗原結合断片は、1リットル当たり約10μg~約500mg、例えば、1リットル当たり約10μg~約50μg、約50μg~約100μg、約100μg~約200μg、約200μg~約300μg、約300μg~約500μg、約500μg~約1mg、約1mg~約10mg、約10mg~約50mg、約50mg~約100mg、約100mg~約200mg、約200mg~約300mg、約300mg~約400mg、約400mg~約500mgのいずれかを含む。いくつかの実施形態において、抗C5抗体または抗原結合断片は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、9500、10000、15000、20000、30000、40000、50000、60000、70000、80000、90000、100000μg/mLまたはそれを上回る濃度である。いくつかの実施形態において、抗C5抗体または抗原結合断片の量は、約130μg/mLの濃度である。
【0093】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、静脈内注入によって哺乳動物レシピエントに投与される。抗体またはその抗原結合断片は、しばしば、約25~約45分にわたる静脈内注入によってレシピエントに投与される。
【0094】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片の用量は、哺乳動物レシピエントの体重とは関係なく一定の固定容量としてレシピエントに投与される。特定の実施形態において、投与計画は、最適な所望の反応(例えば、有効な反応)を提供するように調整される。
【0095】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、レシピエントの体重に基づいて1キログラム当たり1ミリグラム(mg/kg)の用量で投与され得る。決して限定的であることを意図するものではないが、例示的な投与範囲は、例えば、1~100mg/kg、0.5~50mg/kg、0.1~100mg/kg、0.5~25mg/kg、1~20mg/kg、および1~10mg/kg、1~100mg/kg、0.5~50mg/kg、0.1~100mg/kg、0.5~25mg/kg、1~20mg/kg、および1~10mg/kgを含む。抗C5抗体またはその抗原結合断片の例示的な投与量は、限定されないが、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、4mg/kg、および8mg/kg、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、4mg/kg、および8mg/kgを含む。
【0096】
しばしば、方法は、抗C5抗体またはその抗原結合断片の血漿レベルがレシピエントへの投与後に約50~約100μg/mLであることを提供する。
【0097】
特定の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、多段階投与計画において投与される。しばしば、投与計画は2つ以上の用量を含む。第1の用量は、移植の前に投与され得る。第2の用量は、移植の約0.5~約48時間後またはそれよりも後に投与され得る。しばしば、第2の用量は、移植の約12~約36時間後に投与される。第2の用量は、移植の約18~約24時間後に投与され得る。特定の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片の第3の用量は、第2の用量の後に投与され得る。第3の用量は、第2の用量の約0.5~約48時間後またはそれよりも後に投与され得る。
【0098】
特定の実施形態において、レシピエントは、移植後に血漿交換を受けてもよい。血漿交換は、移植の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、または30日以内に行われ得る。しばしば、血漿交換は、移植の約5~約10日以内に行われる。通常、血漿交換は、移植後約10日以内に行われる。
【0099】
抗C5抗体またはその抗原結合断片は、任意の好適な手段によって哺乳動物レシピエントに投与することができる。一実施形態において、抗体は、灌流または注射等の静脈内投与によって投与される。
【0100】
抗C5抗体またはその抗原結合断片はまた、DGFの治療に有用な1つ以上の追加の薬物または治療薬とともに投与されてもよく、追加の薬剤は、その意図する目的のために当業者によって選択される。例えば、追加の薬剤は、本明細書に提供される抗体によって治療される疾患または状態を治療するのに有用であることが当該技術分野で認識されている治療薬であってもよい。その組み合わせは、1つより多くの追加の薬剤、例えば、2つまたは3つの追加の薬剤も含み得る。
【0101】
抗C5抗体またはその抗原結合断片は、種々の実施形態において、タンパク質、ペプチド、炭水化物、薬物、小分子、および遺伝子材料(例えば、DNAまたはRNA)である薬剤とともに投与されてもよい。種々の実施形態において、薬剤は、1つ以上のコリンエステラーゼ阻害剤、1つ以上の副腎皮質ステロイド、および/または1つ以上の免疫抑制薬(最も一般的には、アザチオプリン[AZA]、シクロスポリン、および/またはミコフェノール酸モフェチル[MMF]であってもよい。
【0102】
加えて、レシピエントは、抗C5抗体またはその抗原結合断片の投与前に、1つ以上の好適な治療薬を投与されてもよい。例えば、一実施形態において、レシピエントは、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置の前に、抗髄膜炎菌ワクチンを投与されてもよい。別の実施形態において、患者は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置の前に、1つ以上の抗生物質を投与されてもよい。
【0103】
方法は、哺乳動物移植レシピエントがヒトレシピエントであり得ることを提供する。
【0104】
転帰
【0105】
一般に、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、哺乳動物ドナーから哺乳動物レシピエントに移植された同種移植片における同種移植片血管障害病変の可能性の低減またはその形成の予防を提供する。
【0106】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に対する虚血再灌流(IR)障害の可能性の低減を提供する。
【0107】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、ドナー特異的抗体(DSA)によって誘導される同種移植損傷の可能性の低減を提供する。
【0108】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、移植関連IR障害の血栓性合併症の可能性の低減を提供する。
【0109】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の微小血管および大口径血管においてIR障害によって誘導される膜侵襲複合体の集合の可能性の低減を提供する。
【0110】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、IRによって誘導される同種移植片における非標準的NF-κBシグナル伝達の活性化の可能性の低減を提供する。
【0111】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、IR障害によって誘導されるNIK発現の可能性の低減を提供する。
【0112】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の血管にT細胞およびマクロファージの内皮下浸潤を伴う平滑筋様細胞から構成されるびまん性に広がった新生内膜を形成する可能性の低減を提供する。
【0113】
別の実施形態において、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の血管に塞栓性血栓を形成する可能性の低減を提供する。
【0114】
キットおよび単位剤形
【0115】
エクリズマブ等の抗C5抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体とを、前述の方法における使用に適した治療有効量で含有する薬学的組成物を含むキットも本明細書に提供される。キットは、任意選択的に、施術者(例えば、医師、看護師、または患者)が、その中に含まれる組成物を投与して同種移植片血管障害の症状を有する患者に組成物を投与することができるように、例えば、投与スケジュールを含む指示も含むことができる。キットはまた、注射器を含んでもよい。
【0116】
任意選択的に、キットは、上記に提供される方法による単回投与のために、各々が有効量の抗C5抗体またはその抗原結合断片を含有する単回用量の薬学的組成物の複数の包装を含む。薬学的組成物(複数可)を投与するために必要な機器またはデバイスも、キット内に含まれ得る。例えば、キットは、ある量の抗C5抗体またはその抗原結合断片を含む1つ以上の事前充填注射器を提供し得る。
【0117】
一実施形態において、本発明は、レシピエントにおいて同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減するためのキットであって、キットは、(a)ある用量の抗C5抗体またはその抗原結合断片であって、配列番号12に記載される配列を有する重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびに配列番号8に記載される配列を有する軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む、ある用量の抗C5抗体またはその抗原結合断片と、(b)本明細書に記載される方法のいずれかに従って抗C5抗体またはその抗原結合断片を使用するための指示とを含む、キットを提供する。任意選択的に、用量は事前充填注射器内に含まれる。
【0118】
本開示を限定することなく、本開示の多数の実施形態が説明のために以下に記載される。
【0119】
項目1:哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法であって、ドナーからの同種移植片をレシピエントに移植することと、治療有効量の抗C5抗体またはその抗原結合断片をレシピエントに投与することとを含み、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する、方法。
【0120】
項目2:哺乳動物移植レシピエントにおいてT細胞媒介性同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する方法であって、哺乳動物同種移植片ドナーおよび同種移植片レシピエントを選択するステップと、ドナーからの同種移植片をレシピエントに移植するステップと、治療有効量の抗C5抗体またはその抗原結合断片をレシピエントに投与するステップとを含み、抗C5抗体またはその抗原結合断片は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に同種移植片血管障害病変を形成する可能性を低減する、方法。
【0121】
項目3:同種移植片を移植するステップの前に、抗C5抗体またはその抗原結合断片で同種移植片を前処置するステップをさらに含む、項目1または2の方法。
【0122】
項目4:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片に対する虚血再灌流(IR)障害の可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
項目5:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、ドナー特異的抗体(DSA)によって誘導される同種移植損傷の可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
項目6:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、移植関連IR障害の血栓性合併症の可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
項目7:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の微小血管および大口径血管においてIR障害によって誘導される膜侵襲複合体の集合の可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
項目8:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、IRによって誘導される同種移植片における非標準的NF-κBシグナル伝達の活性化の可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0127】
項目9:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、IR障害によって誘導されるNIK発現の可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0128】
項目10:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の血管にT細胞およびマクロファージの内皮下浸潤を伴う平滑筋様細胞から構成されるびまん性に広がった新生内膜を形成する可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0129】
項目11:抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いたレシピエントの処置、および/または抗C5抗体もしくはその抗原結合断片を用いた同種移植片の処置は、抗C5抗体またはその抗原結合断片を用いた処置を行わない場合と比較して、同種移植片の血管に塞栓性血栓を形成する可能性を低減する、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0130】
項目12:抗C5抗体またはその抗原結合断片を投与する前に、抗髄膜炎菌ワクチンおよび/または抗生物質をレシピエントに投与するステップをさらに含む、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0131】
項目13:レシピエントに免疫抑制剤を投与するステップをさらに含み、免疫抑制療法は、併用療法においてまたは単剤療法として、副腎皮質ステロイド、アザチオプリン(AZA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メトトレキサート、タクロリムス、シクロスポリン、またはシクロホスファミドからなる群から選択される、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0132】
項目14:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、静脈内投与される、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0133】
項目15:哺乳動物移植レシピエントは、ヒトレシピエントである、先行する項目のいずれか1つに記載の方法。
【0134】
項目16:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、エクリズマブである、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0135】
項目17:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、BNJ441である、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0136】
項目18:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、BNJ421である、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0137】
項目19:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1、2、および3にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0138】
項目20:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号8に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0139】
項目21:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0140】
項目22:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号10および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0141】
項目23:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号19、18、および3にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0142】
項目24:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号8に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0143】
項目25:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖定常領域を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
項目26:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
項目27:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号20および配列番号11にそれぞれ記載されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖全体を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
項目28:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号21、22、および23にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号24、25、および26にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
項目29:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号27に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号28に記載される配列を有するVLドメインを含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
項目30:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号29、30、および31にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号32、33、および34にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0149】
項目31:抗C5抗体またはその抗原結合断片は、配列番号35に記載される配列を有するVHドメイン、および配列番号36に記載される配列を有するVLドメインをそれぞれ含む、項目1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
項目32:哺乳動物移植レシピエントの同種移植片における同種移植片血管障害病変の形成を予防するためのキットであって、キットは、ある用量の抗C5抗体またはその抗原結合断片であって、配列番号1、2、および3にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3重鎖配列、ならびに配列番号4、5、および6にそれぞれ記載されるようなCDR1、CDR2、およびCDR3軽鎖配列を含む、ある用量の抗C5抗体またはその抗原結合断片と、項目1または2に記載の方法において抗C5抗体またはその抗原結合断片を使用するための指示と、注射器と、を含む、キット。
【0151】
【実施例
【0152】
例1
【0153】
心臓(Beygui F et al.J Heart Lung Transplant 2010;29:316-322、Lee MS et al.Cardiac allograft vasculopathy Rev Cardiovasc Med 2011;12:143-152、Costello JP et al.Tex Heart Inst J 2013;40:395-399、Hollis IB et al.Pharmacotherapy 2015;35:489-501)、腎臓(Bagnasco SM,Kraus ES.Curr Opin Organ Transplant 2015;20:343-347、Gupta G,et al.Transplantation 2014;97:1240-1246)、および複合同種移植片(Mundinger GS,Drachenberg CB.Curr Opin Organ Transplant 2014;19:309-14、Unadkat JV et al.Am J Transplant 2009;10:251-261、Unadkat JV et al.Transplant Proc 2009;41:542-545)の寿命は、移植血管の至るところに発生する不可逆的狭窄および血栓によって特徴づけられる状態である同種移植片血管障害(AV)によってたびたび制限される。最もよく認識されているAVの形態において、罹患血管は、T細胞およびマクロファージの内皮下浸潤を伴う平滑筋様細胞から構成されるびまん性に広がった新生内膜を含む。同様の外観の新生内膜病変は、ヒトIFN-γ(Tellides G et al.Nature.2000;403:207-11)またはIFN-γ産生ヒトT細胞(Shiao SL et al,J Immunol 2007;179:4397-404)に応答してヒト動脈セグメントに誘導することができる。第2のより最近認識されたAVの形態は、特に同種移植片の微小血管系における、血栓の形成を含む。
【0154】
ドナー特異的抗体(DSA)および移植片機能の遅延[虚血再灌流障害(IRI)の兆候]は、AVの危険因子である。我々は、これらの因子が、アロ反応性T細胞によるIFN-γの産生を刺激するECの能力を増加させることによってAVを媒介することを提案する。同種感作させた移植候補からプールした高力価のパネル反応性抗体(PRA)血清を使用して、我々は、同種抗体を結合させて補体を活性化し、膜侵襲複合体(MAC)の沈着および非標準的NF-κBシグナル伝達に応答して媒介されるEC免疫原性の増加をもたらすプロトコルを開発した。in vivoでのPRAを用いたヒト動脈セグメントの処置は、内膜ECへのヒトIgG結合、マウスMACの沈着、および非標準的NF-κBシグナル伝達の活性化をもたらした。Jane-Wit D et al.Circulation.2013;128:2504-2516。これらの作用は、T細胞媒介性AV様病変の形成の増悪を引き起こした。また我々は、同じヒト化マウスモデルにおいて、IRI様病変もT細胞媒介性AVを増悪させることを示した14。我々のより最近の研究は、エンドサイトーシスの阻害がPRA治療の効果を妨げたことを示したが(Yi T,et al.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012;32:353-360)、これは臨床的に許容されない可能性が高く、炎症に関連する誘導可能なプロセスである補体活性化の防止がより魅力的な代替手段であると考えられた。補体活性化はIRIと関連づけられていたが(Miwa T et al.J Immunol 2013;190:3552-3559、Elvington A,et al.J Immunol 2012;189:4640-4647、Atkinson C et al.J Immunol 2010;185:7007-7013)、我々のIRIのヒト化モデルにおいて終末補体活性化が起こるかどうかは確認されていなかった。エクリズマブは、液相アナフィラトキシンであるC5a、ならびにC6、C7、C8、およびC9のポリマーとともに集合して固相MACを形成する終末補体成分であるC5bを含む下流の炎症性メディエーターの産生を抑制するモノクローナル抗ヒトC5抗体である。この報告書では、我々の同種抗体媒介性AVおよびIRI媒介性AVのヒト化マウスモデルを使用して、抗マウスC5mAb(その作用はエクリズマブの作用に匹敵し得る)がECにおける非標準的NF-κBシグナル活性化、およびAV病変の発生に及ぼす影響について調査した。
【0155】
材料および方法
【0156】
PRAがヒト血管移植片に及ぼす影響の調査
【0157】
全てのヒト材料は、Yale Human Investigations CommitteeまたはNew England Organ Bankの治験審査委員会によって承認されたプロトコルの下に得られた。全ての動物実験は、Yale institutional Animal Care and Use Committeeによって承認されたプロトコルの下に実行された。
【0158】
廃棄された高力価のパネル反応性抗体(PRA)血清を、Yale-New Haven Hospitalの組織適合検査室からの非特定化試料として心臓および腎臓移植の候補者から得た。パネル反応性抗体(PRA)の血液検査を受け、HLAクラスIおよび/またはクラスII抗原のいずれかに対して>80%の反応性を有することが分かった患者の血清をプールし、試験を行い、使用前にエンドトキシン活性が陰性であることを明らかにした(Sigma)。ヒト末梢血単核球(PBMC)は、健常な成人のボランティアドナーから採取した。
【0159】
PRA媒介性AVのために、マウス大動脈の径に近似した長さ3~5mmの隣接する三次または四次ヒト冠動脈セグメントを、対になったSCID/bg免疫不全マウス(Taconic)の下行大動脈の腎動脈下位に両端間の介在移植片として外科的に移植した。移植した血管は、200μLの未希釈PRA血清(マウス1匹に)またはmAb Trap血清分画キット(GE HealthCare)を使用してIgGを枯渇させたPRA血清を対になったマウスに尾静脈内注射する前に、約30日間静止状態に維持した。18時間後、移植片を採取し、免疫染色した。他の実験では、対になったヒト動脈異種移植片の各々を両端のマウス大動脈のカフを用いて外植し、次いで、ヒト末梢血単核球(動脈ドナーと同種の100~200×106個の細胞)を接種した第2の対のナイーブSCID/bg宿主の一方のメンバーの腎動脈下大動脈内に介在させた。これらのマウスにおいて、1週間の間隔で試料採取した末梢血のフローサイトメトリーによりT細胞生着の効率を評価したところ、全マウスCD45+細胞に対するCD3+生着のパーセンテージは、動脈異種移植片の移植前の5~15%の範囲であった。再移植した移植片は、移植後14日で採取した。採取した組織をOCT培地ブロック中で凍結させ、5μmの厚さに切片化し、以前に記載されたように、形態学的分析、免疫組織化学的分析、および免疫蛍光分析に供した。Jane-Wit D et al.Circulation.2013;128:2504-2516。
【0160】
虚血-再灌流障害(IRI)の誘導 前述のように、マウス大動脈の径に近似した長さ3~5mmの隣接する三次または四次ヒト冠動脈セグメントを、SCID/bg免疫不全マウス(Taconic)の下行大動脈の腎動脈下位に両端間の介在移植片として外科的に移植した。約1ヶ月の静止期間後、両端のマウス大動脈のカフとともに動脈異種移植片を外植し、第2の対のSCID/bgレシピエントに外科的に再移植する前に、無酸素条件下で12時間ex vivoでインキュベートし、18時間後に分析した。代替として、指示のある場合、無酸素状態に供した動脈異種移植片を、100~200×106個のヒト末梢血単核球を接種したSCID/bg宿主に再移植し、再移植の21日後に、または血栓を示唆する苦痛もしくは後肢麻痺の証拠が認められた場合はそれよりも早く、移植片を採取した。
【0161】
抗C5および抗C5a遮断抗体 抗マウスC5遮断抗体(BB5.1)、対照アイソタイプ抗体(12B4)、抗ヒトC5a遮断抗体(CLS026)、および対照マウスアイソタイプ抗体(MOPC1)は、Alexion Pharmaceuticalsによって提供された。文中および図の凡例中に指定されるように、外科的移植の前に、マウスに0.8mgの各抗体を皮下注射するか、または0.8mgの各抗体を低酸素培地に加えた。
【0162】
統計分析 全ての実験は、異なる操作に供された同じドナー血管の隣接する部分からのヒト動脈セグメントを受容する対になった動物間の比較を含んでいた。統計分析はコンピュータソフトウェア(Origin)を使用して行い、データは両側スチューデントt検定により分析し、P<0.05を有意であると見なした。
【0163】
フローサイトメトリー 0.1%ゼラチンで予めコーティングした24ウェルマイクロタイタープレート内でヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を培養した。加温したゼラチンベロナール緩衝液(Sigma)を用いた洗浄、およびBB5.1または12B4 mAbs(25μg)の添加前に、EGM2培地(Lonza)中のIFN-γ(50ng/mL)でHUVECを72時間処理した。30分後、FACS分析前に、1:10希釈(v/v)のマウス補体(Sigma)またはヒト補体(Sigma)のいずれかとともに、PRA血清のIgG+画分を1:4希釈(v/v)で4時間かけて加えた。全てのウェルの最終体積は200μLであった。FACS Caliberフローサイトメーター(Becton Dickinson)を使用して細胞を分析した。
【0164】
補体のin vitro活性化のための血清分画 PRA血清のIgG+およびIgG-成分への分画を以前に記載されたように行った。Jane-Wit D,et al.Circulation.2013;128:2504-2516。端的に述べると、ELISA(Invitrogen)による分画の前に、インタクトな血清中で全IgG濃度を最初に決定した。次いで、製造者の指示に従ってMAbTrap Kit(GE Healthcare、Piscataway,NJ)を使用して、500μLの未希釈血清を結合緩衝液中に1:1希釈し、結合緩衝液で事前に平衡化した提供されたカラムに通過させた。次いで、IgG-画分を回収した。続いて、カラムを洗浄し、IgG+画分をカラムから溶出させた。20kDalカットオフでAmicon Ultra Centrifugal Filter Devices(EMD Millipore)を使用した複数回の遠心分離(×5)により、溶出緩衝液から滅菌リン酸緩衝生理食塩水(Gibco)への緩衝液交換を行った。全てのIgG+画分を血清分画前の全IgG濃度に等しい最終濃度にした。次いで、単離した全ての画分をゼラチンベロナール緩衝液中1:4希釈(v/v)で使用した。
【0165】
血漿C5aの定量化 ヒト動脈移植片を担持するPRAで処置した動物からの移植片採取時に、ヘパリン処理した試験管にマウス血漿試料を採取し、循環する免疫複合体に結合したC5aをプロテインAアガロースとともにインキュベーションすることにより分離した。ヘパリン処理したマウス血漿を、1.5mL微量遠心管内で、PBS(pH7.4)中に、20mM EDTA二ナトリウムを含有する1%Blocker A(Meso-Scale Discovery、カタログ番号R93AA-1)、および広域スペクトル補体阻害剤である100μg/mLのFUT-175(BD Biosciences、カタログ番号552035)を含有する溶液に加えた。Protein A Plus Agaroseビーズ(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号22812)を加えて約50%のスラリーを得た。混合物を7000gで10秒間、4℃で遠心分離した。上清(約50μL)を除去し、1%Blocker A、20mM EDTA、および100μg/mL FUT-175を含有する120μLのPBS(pH7.4)溶液を、30μLのマウスヘパリンとともに加えた。混合物を4℃で1時間徐々に回転させた。4℃で遠心分離する前に、Protein A Plus Agaroseビーズを用いたインキュベーションを含む上記ステップを2回目に繰り返し、下記のC5aの免疫測定法に使用する前に免疫複合体の完全な除去を確実にした。
【0166】
免疫複合体の除去後、免疫測定法によりマウス血漿C5aレベルを評価した。このアッセイのために、Meso-Scale Discovery(MSD)プレート(カタログ番号L15XB)を、4℃で一晩、PBS中2μg/mLの抗マウスC5a mAb(クローンp5aN195)でコーティングした。プレートをPBSで洗浄し、3% MSD Blocker Aを用いて30分間室温でブロックし、0.05% Tween-20を含有するPBSで洗浄した。20mM EDTAおよび100μg/mL FUT-175(BD Biosciences、カタログ番号552035)を含有する1% MSD Blocker A中で、25μLのC5a(R&D Systems、カタログ番号07-202-503)を75μLのC5欠損マウス血漿に加え、次いで、10,000pg/mLから2.4pg/mLまで段階希釈することにより標準物質を3通り作製した。次いで、試料を20mM EDTAおよび100μg/mL FUT-175を含有する1% MSD Blocker A中に1:100希釈し、室温で1時間、25μL/ウェルで加えた。次いで、プレートをPBSで洗浄し、25μLの2μg/mLビオチン化ラット抗マウスC5a(カタログ番号558028)および1μg/mLストレプトアビジン-SULFO-TAG(Meso-Scale Discovery、カタログ番号R32AD-5)を、1% Blocker Aに室温で1時間、穏やかに振盪しながら加えた。プレートを洗浄し、1X MSD Read Buffer T(カタログ番号R92TC-2)を150μL/ウェルで加えた。Meso-Scale Discovery Sector 600 Imagerを使用してプレートを読み取り、Meso-Scale Discovery Workbench 4.0ソフトウェアを使用して分析した。
【0167】
同種抗体誘導性AVのヒト化モデル
【0168】
in vivoでのPRAの影響を調べるために、マウス大動脈の径に近似した長さ3~5mmの隣接する三次または四次ヒト冠動脈セグメントを、対になった8~12週齢の雌C.B-17 SCID/bg免疫不全マウス(Taconic)の下行大動脈の腎動脈下位に両端間の介在移植片として外科的に移植した。移植した血管は、200μLの無希釈PRA血清の尾静脈内注射の前に約30日間静止状態に維持した。短期間の影響を含む実験において、18時間後に移植片を採取し、免疫染色した。PRAがAVの発生に及ぼす影響を評価する実験のために、対になったヒト動脈異種移植片の各々を両端のマウス大動脈のカフを用いて外植し、次いで、動脈ドナーと同種の100~200×106個のヒトPBMCを接種した第2の対のナイーブSCID/bg宿主の一方のメンバーの腎動脈下大動脈内に介在させた。これらのマウスにおいて、1週間の間隔で試料採取した末梢血のフローサイトメトリーによりT細胞生着の効率を評価したところ、全マウスCD45+細胞に対するCD3+生着のパーセンテージは、動脈異種移植片の移植前の5~15%の範囲であった。再移植した移植片は、移植後14日で採取した。
【0169】
移植血管の分析 採取したヒト動脈移植片をOCT培地ブロック中で瞬間凍結させ、5μmの厚さに切片化し、4℃で15分間、氷冷メタノールで固定および透過処理した。以下の抗体の1:100希釈液を使用して4℃で一晩染色する前に、0.1% Tween-20および5%ウシ胎仔血清を含有するPBSを用いて2時間室温で切片をブロックした:ビオチン化Ulex Europeus Agglutinin I(Vector Labs、Burlingame,VT)、抗ヒトCD31(Dako)、抗平滑筋アクチン(Sigma、クローン1A4)、抗ヒトCD45RO(eBioscience、クローンUCHL1)、抗マウス抗Gr-1(BD Biosciences、カタログ番号550291)、抗C5 Ab(abcam)、抗C5b-9(Dako)、抗ヒトVCAM-1(Novus、クローン6G9)。ポリクローナルウサギ抗マウスC4d(Cleveland ClinicのDr.William Baldwin IIIから贈与された)を1:50希釈で使用し、ストレプトアビジンコンジュゲートAlexa Fluor 488、ヤギ抗マウスAlexa Fluor 488、ロバ抗マウスAlex Fluor 546、またはロバ抗ウサギAlex Fluor 594二次抗体(1:200希釈)(Invitrogen)を室温で1時間使用して検出した。低酸素プローブは、製造者の仕様に従って1:200希釈で使用した。新生内膜面積、内腔サイズ、および中膜の厚さを以前に記載されたように計算した。Yi T,et al.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012;32:353-360。
【0170】
結果
【0171】
図1は、終末補体活性化が起こらない場合、抗C5mAbはT細胞媒介性AVに対して免疫調節作用を発揮しないことを示す実験の結果を示している。PRAのIgG+画分およびマウス補体(C’)またはヒト補体を4時間かけて加える前に、12B4対照mAbまたはBB5.1抗C5mAb(25μg)でHUVECを30分間前処置した。次いで、FACSにより細胞をC5b-9について分析した(a)。免疫不全マウス内で静止状態にあるヒト冠動脈移植片を、0.8mgの12B4またはBB5.1抗体に事前に暴露し、移植片採取時に12B4またはBB5.1 mAbをPBS培地浴に加え、12B4またはBB5.1 mAbで前処置した、動脈ドナーと同種のPBMCの前回の養子移入からの循環するヒトT細胞を含有する第2の宿主に直ちに再移植した。第2の宿主は、図示されるように、継続的な12B4またはBB5.1 Abによる処置を0.8mg/注射/マウスで14日間受けた(b)。動脈移植片をC5b-9(c、上段)の染色およびCD45RO+T細胞浸潤(c、下段)について分析した。EVGおよびMovat染色後に処置群間で新生内膜病変の形成を評価した(d)。全ての実験はn=5の処置対で行った。終末補体活性化刺激が起こらない場合、対照と特異的抗C5抗体との間に有意差は見られなかった(N.S.)。スケールバーは63μmを示す。
【0172】
図2は、MAC集合の阻止、および抗C5mAbによってC5aが産生されないことが、DSAに応答するECの活性化を減弱させることを示す結果を示している。抗C5による処置が同種抗体誘導性の補体活性化に及ぼす影響を評価するために、PRAの尾静脈内注射前に、SCID/bg免疫不全宿主をアイソタイプ対照12B4 mAbまたは抗C5 BB5.1 mAbで処置し、18時間後に移植片を採取した(a)。12B4 Abで処置した宿主と比較して、BB5.1 Abで処置した動物は、等しいC4dの染色を示したが、C5b-9の染色減少を示した(b)。冠動脈異種移植片のBB5.1 mAbによる処置は、12B4 Abで処置した対照と比較して、内膜NIKの染色(c)およびVCAM-1の発現(d)の減少を示した。C4d、C5b-9、NIK、およびVCAM-1の染色の結果を定量化した(e)。CCL5およびVCAM-1の移植片内転写を定量化し、CD31の転写レベルに対して正規化した(f)。上記実験はn=5の処置対で行った。PRAの尾静脈内注射および18時間後の移植片採取の前に、図示されるようにアイソタイプ対照MOPC1または抗C5a CLS026 mAbでSCID/bg宿主を処置した(g)。対照MOPC1 mAbで処置した宿主と比較して、CLS026 mAbで処置した宿主は、同等レベルのC5b-9沈着(h、上段)、NIKの上方制御(h、2段目)、VCAM-1の発現(h、3段目)、およびGr-1+細胞の新生内膜への動員(h、下段の矢印)を呈した。上記実験はn=3の処置対で行った。N.S.は、群間に統計的な差が見られなかったことを示す。アスタリスクはp<0.05を示す。スケールバーは135μmを示す。
【0173】
図3は、抗C5抗体が、同種抗体誘導性の補体活性化後の新生内膜病変を縮小させることを示す実験の結果を示している。12B4アイソタイプ対照またはBB5.1抗C5Abを、同種抗体誘導性の補体活性化および新生内膜形成に及ぼすそれらの影響について調べた。PRAの静脈内注射、およびヒトT細胞を生着させ、12B4またはBB5.1 Abで同様に前処置した第2の免疫不全宿主への再移植の前に、動脈移植片を12B4またはBB5.1 Abで前処置した。これらの宿主はさらに、移植片採取の前に継続的な抗体処置を14日間受けた(a)。12B4 Abで処置した対照と比較して、BB5.1 mAbで処置した宿主は、内膜NIKの染色(b、上段)およびCD45RO+同種免疫T細胞の内膜浸潤(b、下段)の減弱を示した。新生内膜および内腔の面積を12B4-およびBB5.1 mAbで処置した宿主において定量化した(c)。全ての実験はn=6の処置対で行った。IELは内弾性板を示す。アスタリスクはp<0.05を示す。スケールバーは63μmを示す。
【0174】
図4は、IRIが補体を活性化し、標的細胞を顕著に喪失することなく動脈壁におけるMACの形成を誘導することを示す実験の結果を示している。IRIによって誘導される補体活性化のために、免疫不全宿主内に置かれた冠動脈異種移植片を外植し、直ちに第2の免疫不全宿主に外科的に再移植するか[(-)低酸素]、または再移植の前に低酸素条件下で12時間臓器培養した[(+)低酸素](a)。ex vivoで12時間の低酸素状態に供された外植した冠動脈を、免疫蛍光法によりCD31およびC4d(b、上段)またはC5b-9(b、下段)のいずれかについて調べ、染色の結果を図示されるように定量化した。CD31およびSMAの染色は、低酸素状態に供されなかった対照移植片、または12時間の低酸素状態に供された移植片の間で定量化した(c)。NIK(d、上段)、VCAM-1(d、真ん中の段)、およびGr-1+(d、下段)の染色を冠動脈移植片において行い、その結果を図示されるように定量化した。全ての実験はn=6の処置対で行った。N.S.は、群間に統計的な差が見られなかったことを示す。アスタリスクはp<0.05を示す。ダブルアスタリスクはp<0.001を示す。スケールバーは63μmを示す。
【0175】
図5は、終末補体の阻害が、IRIによって誘導されるMACの形成、非標準的NF-κB、およびECの活性化を抑制することを示す実験の結果を示している。冠動脈セグメントを12B4またはBB5.1 mAbに暴露し、18時間後の移植片採取の前に、図示されるようにex vivoで低酸素状態に供した(a)。C4d(b、上段)およびC5b-9(b、下段)それぞれを用いて、外植した冠動脈異種移植片を初期および終末補体活性化について分析した。NIK(c、上段)、VCAM-1(c、真ん中の段)、およびGr-1(c、下段)を用いて、ECの活性化について移植片をさらに分析した。全ての実験はn=4の処置対で行った。N.S.は、群間に統計的な差が見られなかったことを示す。アスタリスクはp<0.05を示す。ダブルアスタリスクはp<0.001を示す。スケールバーは63μmを示す。
【0176】
図6は、抗C5抗体がIRI後の新生内膜病変および血栓性AV病変を軽減することを示す実験の結果を示している。抗C5治療がIRIによって誘導される補体活性化およびAV病変の発生に及ぼす影響について調べた。移植片の外植前に、ヒト動脈異種移植片を12B4またはBB5.1 Abのいずれかで前処置し、低酸素状態に12時間暴露し、12B4またはBB5.1 mAbで前処置した、ヒトT細胞を生着させた第2の免疫不全宿主に再移植した。これらの宿主は、図示されるようにmAb処置を受けた(a)。抗C5Abの影響をIR障害に暴露した冠動脈異種移植片において評価した。12B4 Abで処置した対照と比較して、BB5.1 Abを与えられた宿主は、有意に減少したC5b-9の内膜および中膜の染色(b、上段)、NIKの染色(b、2段目)、ならびにCD45RO+浸潤T細胞の数の有意な減少(b、3段目)を示した。内膜および中膜に浸潤するCD4+およびCD8+T細胞を、12B4またはBB5.1 mAbによる処置後に定量化した(b、下段)。新生内膜の厚さ、内腔面積、および中膜の厚さを、12B4またはBB5.1による処置を受けている宿主において定量化した(c)。12B4 Abで処置した8匹の宿主のうち3匹(d、上段)、およびBB5.1 Abで処置した8匹の宿主のうち0匹(d、下段)において腔内血栓を可視化した。全ての実験はn=8の処置対で行った。N.S.は、群間に統計的な差が見られなかったことを示す。アスタリスクはp<0.05を示す。ダブルアスタリスクはp<0.001を示す。スケールバーは63μmを示す。
【0177】
図7は、下行大動脈に移植された冠動脈介在移植片を有するナイーブSCID/bgマウスが、18時間後の移植片採取および免疫蛍光法による分析の前にPRA血清の静脈内注射を受けた結果を示す(n=3の処置対)。C5a活性レベルは、抗C5a mAb CLS026またはアイソタイプ対照mAb MOPC1をブロックすることによる処置後、図2gに示すように移植片採取時のマウス血漿において評価した(n=3の処置対)。
【0178】
図8は、冠動脈移植片が、外植され、無酸素条件下で図示される期間臓器培養され、低酸素プローブのために染色されたことを示す(各時点でn=5のマウス)。スケールバーは63μmを示す。
【0179】
図9は、冠動脈移植片が、外植され、無酸素条件下で12時間臓器培養され、次いで、第2のセットのナイーブSCID/bg宿主に再移植されたことを示す。再移植の18時間後に移植片を採取し、ヒト動脈移植片とマウス下行大動脈組織との境界を示す遠位縫合線に隣接する一連の切片を免疫蛍光分析のために採取した。
【0180】
終末補体活性化が起こらない場合、抗C5mAbはT細胞媒介性AVに対して免疫調節作用を発揮しない。in vivoでの使用前に、BB5.1 mAbが終末補体活性化を阻害する有効性、およびマウス補体を選択的に阻害するためのその意図される特異性をin vitroで確認した。これを行うために、我々は、同種感作させた移植候補からのパネル反応性抗体(PRA)血清のIgG+画分が、マウスまたはヒト補体の終末活性化を誘発し得るプロセスであるECへのIgG結合を引き起こしたという事実を利用した。Jane-Wit D et al.Circulation.2013;128:2504-2516。したがって、我々は、外因性ヒトまたはマウス補体の存在下でヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をPRA血清のIgG+画分で処理し、フローサイトメトリーによりC5b-9の表面沈着について評価した。我々は、12B4 mAbで処置したECと比較して、BB5.1 mAbが、ヒト補体ではなく(図1a、右側)マウス補体の存在下(図1a、左側)で、PRA血清のIgG+画分がC5b-9の沈着を誘発する能力を妨げたことを発見した。対照的に、C4dの染色は、12B4またはBB5.1 mAbによって変化しなかった(データは図示せず)。これらのデータは、BB5.1 mAbがマウス補体の終末活性化を効率的かつ選択的に阻害できたことを示している。
【0181】
次に、増悪因子、すなわち、補体活性化を引き起こすDSAまたはIRIが存在しない我々のヒト化マウスモデルにおいて、抗マウスC5mAb BB5.1がT細胞媒介性のAV病変の形成に及ぼす影響を評価した。図1bに図示されるように、ヒトT細胞を生着させたマウス宿主に対照12B4または抗C5 BB5.1 mAbsを投与した。このプロトコルでは、MACの主要成分であるC5b-9の染色が見られないことによって示されるように、いずれの処置群においても補体活性化は観察されなかった(図1c、上段)。さらに、抗C5mAbまたはアイソタイプ対照mAbで処置した宿主間に、CD45RO+T細胞浸潤(図1c、下段)または新生内膜病変面積(図1d)の有意な差は認められなかった。
【0182】
これらのデータを併せると、補体活性化が起こらない場合、抗C5 BB5.1 mAbは、移植片の炎症または新生内膜病変の形成を非特異的に減弱させないことが示唆される。
【0183】
MAC集合の阻止、および抗C5mAbによってC5aが産生されないことは、同種抗体に応答するECの活性化を減弱させる。ヒト動脈移植片をin vivoでPRAに暴露することは、ECへのヒトIgG結合をもたらし、結果としてDSAの効果をモデル化する。ECへのIgG結合の後にはマウス補体活性化が続き、SCID/bg宿主のEC13上におけるMAC集合を引き起こす(この系統は、免疫適格性マウス系統に匹敵する補体活性を有する)。Cragg MS,Glennie MJ.Blood.2004;103:2738-2743。PRAによる処置は、ECの活性化を引き起こすMAC依存性エフェクター経路である、NIKの安定化によって検出される非標準的NF-κBシグナル伝達を誘導した。Jane-Wit D et al.Circulation.2013;128:2504-2516。そのため、我々は、初期補体活性化ではなく、抗C5mAbによる終末補体活性化の阻害が、非標準的NF-κBシグナル伝達を通して媒介されるECにおける炎症促進性の変化を反転させるという仮説を立てた。これを調べるために、PRAの静脈内注射の前に、動脈異種移植片を担持する宿主を12B4またはBB5.1 Abで前処置した。注射後、移植片を18時間後に採取した(図2a)。BB5.1 mAbで処置した動物は、C9の染色によって示されるように、終末ではなく初期の補体活性化(C4d)、すなわちMAC集合を示したが、それは内膜に限定されていた(図2b)。MAC集合を確認するために、PRAで処置した移植片をC6と共染色したところ、予想通りに新生内膜におけるC9との高度な共局在を示した(図7a)。これ以降、検出された複合体をC5b-9と称する。BB5.1で処置した動物とは対照的に、12B4対照mAbで処置した動物においてC4dおよびC5b-9の両方の沈着が検出された。BB5.1-mAbで処置した宿主におけるC5b-9染色の減少は、それぞれ、非標準的NF-κB活性化および炎症遺伝子発現のマーカーである、有意に減弱したNIKのEC発現(図2c、図2e)およびVCAM-1(図2d、図2e)と相関している。移植片溶解物のリアルタイムPCRは、NIK依存性の炎症遺伝子CCL5およびVCAM-1の有意な減少を示した(図2f)。
【0184】
これらのデータは、PRAによる終末補体活性化、および非標準的NF-κBシグナル伝達およびECの活性化を含むそれに付随する炎症作用を抑制することにおける抗C5mAbの有効性を示している。
【0185】
BB5.1は、C5aおよびC5bの両方の産生を防止する。我々の以前のin vitro試験により、C5aではなくMAC(C5b-9)が、ECの活性化および免疫原性の増加をもたらしたことが示されたが、C5aがin vivoで何らかの役割を果たしたことも考えられる。これらの因子のうちのどれが抗C5mAbの機能的に関連する標的であったのかを判定するために、我々は、PRAを注射する前に、図2gに示されるように、C5aを特異的に抑制するmAb(CLS026)またはアイソタイプ対照mAb(MOPC1)でヒト動脈移植片を担持する宿主を処置した。C5aの活性を移植片採取時に採取されたマウス血清において評価した。PRAによる処置は、循環するマウスC5aをもたらし、これはCLS026で処置した宿主において、歴史的対照マウス系統に観察されたレベル(データは図示せず)まで有意に阻害された(図7b)。重要なことに、抗C5aの阻害は、対照と比較して壁内MAC集合の程度を減少させず(図2h、上段)、抗C5a mAbで処置した宿主におけるNIKの上方制御、ECの活性化、およびGr-1+好中球のEC媒介性動員の程度を対照mAbと比べて変化させなかった(図2h)。
【0186】
C5aの抑制がEC活性化のパラメータに影響を及ぼさなかったため、我々は、これらのデータから、PRA誘導性のECの活性化にはMACが主に寄与しており、したがって、抗C5mAbがECの活性化を減弱させる能力は、C5aの産生よりもむしろこのmAbがMACの集合を阻止する能力によるものであると結論付けた。
【0187】
抗C5抗体は、DSA誘導性補体活性化後の新生内膜病変を減少させる。PRAで処置した動物において抗C5mAbの補体抑制効果を確立し、次いで、抗C5mAbが新生内膜AV病変における同種抗体媒介性の増加に及ぼす影響を評価した。12B4またはBB5.1のいずれかで前処置した移植片をPRA血清に暴露し、次いで、以前にヒトT細胞を生着させ、12B4またはBB5.1 Abで前処置した第2のセットの免疫不全宿主に再移植した。これらの第2のセットの宿主は、次いで、図3aに示されるように移植片採取の前に継続的な抗体処置を14日間受けた。12B4 mAbを受けた対照宿主と比較して、BB5.1 mAbで処置した宿主は、内膜NIKの染色の有意な減少(図3b、上段)およびCD45RO+同種免疫T細胞の浸潤の減少(図3b、下段)を示した。これらの変化は、12B4 mAbで処置した対照と比較してBB5.1 mAbで処置した宿主における有意に減少した新生内膜面積および増加した内腔面積と関連していた(図3c)。BB5.1処置群または12B4処置群のいずれの宿主も、血栓性AV病変を発生しなかった。これらのデータは、同種抗体誘導性AVの補体依存性モデルにおいて、抗C5遮断抗体が終末補体活性化、ECの活性化、および非標準的NF-κBを阻害したこと、また、これらの変化は、有意に減少した新生内膜AV病変形成と相関していたことを示した。
【0188】
IRIは、補体を活性化し、標的細胞を顕著に喪失することなく動脈壁におけるMACの形成を誘導する。終末補体の活性化がIRIに寄与することは、他のモデルにおいて示されている。Miwa T.et al.,J Immunol 2013;190:3552-3559、Elvington A,Atkinson C et al.,J Immunol 2012;189:4640-4647、Atkinson C,He S,Morris K,Qiao F,Casey S,Goddard M,et al.J Immunol 2010;185:7007-7013。我々は、抗C5mAb治療を用いて、終末補体および非標準的NF-κBの役割が以前に確立されていない我々のIRI14モデルにおける終末補体活性化の寄与について調べた。この実験に着手する前に、ヒト動脈セグメントを用いて低酸素状態に最適な時間を再評価したところ、12時間で低酸素プローブのより顕著な染色が見られ、再移植時に細胞壊死または動脈瘤発症の所見が認められないことを発見した(図8)。後続の全ての実験は、IRIを誘発するために12時間のex vivo低酸素状態を用いた。図4aに示されるように、この適合プロトコルを使用して、第2のレシピエント宿主に直ちに再移植された対照移植片と比較して、12時間のex vivo低酸素状態後に動脈異種移植片において初期(C4d)または終末(C5b-9)補体活性化が起こるかどうかを調べた。補体の染色がECに限定されていた我々のPRA誘導性冠動脈AVモデル(図2b)とは対照的に、低酸素状態に暴露された冠動脈異種移植片は、血管壁の内膜および中膜領域の両方において有意に増加したC4dおよびC5b-9の沈着を示し(図4b)、これは、IRIがマウスの平滑筋細胞および内腔ECに影響を及ぼしたという以前の観察と一致していた。14 次いで、遠位外科縫合線まで続く一連の区間においてC5b-9の染色を評価することにより、IRIがヒト動脈異種移植片の外側のマウスECに対して非特異的補体活性化を引き起こしたかどうかを評価した。IRI処理した移植片において、C5b-9の染色は、縫合線に近位のヒト内膜および中膜では多く見られたのに対して、縫合線に遠位のマウスECには完全に見られないことから、補体活性化は、ヒトIRI処理した組織に対して特異的に起こったことが示唆される(図S3)。MAC集合の領域にさらなるEC(CD31)またはSMC(平滑筋αアクチン)の損失(図4c)は観察されず、非致死性の損傷と一致していた。終末補体活性化の下流作用についても評価した。MACと共局在化し、もはやECに限定されないNIKタンパク質発現の有意な増加が、血管壁の至るところに観察された(図4d、上段)。NIKの発現は、VCAM-1の有意な増加(図4d、2段目)およびマウスGr1+好中球の動員(図4d、下段)と相関していた。
【0189】
これらのデータは、IRIが、ECおよびSMCの両方において、ECの活性化および急性血管壁炎症と相関するプロセスである非標準的NF-κBシグナル伝達を活性化したことを示唆している。我々の以前の研究により、ヒトT細胞を持たないレシピエント動物において、この周術期の急性炎症のエピソードが長期の後遺症なしに回復することが示された。Yi T,et al.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012;32:353-360。
【0190】
終末補体の阻害は、IRIによって誘導されるMACの形成、非標準的NF-κBシグナル伝達、およびECの活性化を抑制する。我々は、IRIによって増悪されるAVのヒト化モデルにおいてBB5.1 mAbの影響を調べた。最初に、図5aに示されるように、このモデルにおいてBB5.1が終末補体活性化を抑制することができるかどうかを調べた。12B4対照mAbで処置した宿主と比較して、BB5.1 mAbで処置した宿主は、IRIの誘導後に初期補体活性化(C4d、図5b、上段)を示したが、終末補体活性化は示さなかった(C5b-9、図5b、下段)。終末補体の抑制は、IRIへの暴露後18時間に見られた有意に減少したNIK(図5c、上段)、VCAM-1の発現(図5c、真ん中の段)、およびマウスGr-1+好中球浸潤の減少(図5c、下段)と関連していた。
【0191】
抗C5mAbは、IRI後のT細胞媒介性の新生内膜病変および血栓性AV病変を軽減する。最終セットの実験において、IRIに供され、次いで以前に動脈ドナーと同種のヒトPBMCを投与された宿主に再移植された動脈におけるAV病変の発生に、抗C5抗体または対照抗体が及ぼす影響を評価した(図6a)。移植片採取の直前に第1の宿主に抗体を導入し、移植片採取および分析の前に、第2の宿主において12B4またはBB5.1 mAbを用いた処置をさらに2週間継続した。免疫蛍光顕微鏡法によると、BB5.1 抗C5mAbで処置した冠動脈移植片は、MAC(C5b-9)形成(図6b、上段)、NIKの発現(図6b、2段目)における有意な減少、および同種免疫CD45RO+T細胞の壁浸潤における約50%の減少を示した(図6b、3段目)。興味深いことに、12B4またはBB5.1 mAbのいずれかで処置した宿主において、内膜に有意により多数のCD4+T細胞(図6b、下段、左側のグラフ)、および中膜に有意により多数のCD8+T細胞(右側のグラフ)が観察された。12B4 mAbで処置した宿主と比較して、CD4+およびCD8+T細胞の両方の全体的な数は有意に減少されたが(アスタリスクおよびダブルアスタリスク)、BB5.1 mAbは、内膜(p=0.76)または中膜(p=0.21)におけるCD4+T細胞対CD8+T細胞の比を大幅に変更しなかったことから、抗C5mAbがCD4+およびCD8+T細胞による浸潤を同程度まで減少させたことが示唆される。上記の変化は、対照と比較してBB5.1 mAbで処置した宿主の内腔面積を有意に変化させることなく、有意に減少した新生内膜面積と関連しており、AV病変形成中の同種移植片血管の初期外側リモデリングが示唆される(図6c)。これらのデータは、抗C5抗体を用いた終末補体の抑制がIRI後の新生内膜AV病変の形成を減弱させたことを示す。
【0192】
IRI処理した移植片を受け、12B4 mAbで処置された8匹の宿主のうち3匹が瀕死となり、実験プロトコルの間に両側性後肢虚血を発症したため、移植後4日、7日、および10日目に早期に屠殺した。採取した移植の壊死から、3匹全ての宿主において流れを制限する血栓の存在が明らかになり(図6d、上段)、それをフィブリノゲン染色により確認した(図6d、上段)。低酸素状態に暴露しなかった移植片を移植され、12B4 mAbで処置された宿主が同様の病変を発生しなかったため、血栓は、12B4 mAb処置の二次的影響によるものではなかった(図1d)。注目すべきなのは、BB5.1で処置した全ての宿主が、処置期間中に血栓性病変を発生しなかったことである(0/8、図6d、下段)。我々は、抗C5抗体が、IRIによって誘導される補体媒介性の新生内膜病変および血栓性AV病変の両方を予防すると結論付けた。
【0193】
考察
【0194】
我々は、抗C5治療が、同種抗体またはIRIへの暴露後に発生する実験的AV病変に及ぼす好ましい影響を実証する。抗C5の反復投与は、ヒト冠動脈組織において初期ではなく終末の補体活性化を抑制し、非標準的NF-κBシグナル伝達の活性化の減弱、ならびにin vivoでの狭窄性AV病変および血栓性AV病変の両方の形成の減少をもたらした。我々の研究は、非標準的NF-κBの活性化を伴う終末補体活性化とIRIとの間の因果関係を証明する。抗C5mAbで処置した宿主は、対照と比較して減弱なNIK発現およびAV病変を示した(図6)。DSAと比較して、IRIは、内膜の内皮細胞(EC)および中膜の平滑筋細胞(SMC)を含む広い分布領域において血管壁の至るところにMAC集合を誘導した。MACおよび/または非標準的NF-κBがこれらの細胞型において異なる機能的影響を誘発するかどうかは分かっておらず、内膜に対する中膜の免疫特権機構を考慮すると(Tellides G,Pober JS Circ.Res 2015;116:312-322)、またIRI後の浸潤性CD4+およびCD8+T細胞の観察された差次的な空間的局在化(図6c)を考慮すると、特に関連性がある。
【0195】
新生内膜の発現に加えて、より最近認識されたAVの形態は、塞栓性血栓凝固を引き起こすカスケードの活性化によって特徴づけられる(Atkinson C et al.J Immunol 2010;185:7007-7013)。Tedesco F,Pausa M et al.J Exp Med.1997;185:1619-1627、Jiang X et al.,J Mol Med.2014;92:797-810。微小血管(Jiang X et al.,J Mol Med.2014;92:797-810、Labarrere CA et al.J Heart Lung Transplant.2006;25:1213-1222)および大口径血管(Fishbein GA,Fishbein MC.Hum Immunol.2012;73:1213-1217)に影響を及ぼす血栓性AV病変は、長期移植片転帰の悪化と関連している。Torres SA et al.Methodist Debakey Cardiovasc J.2012;8:46-48。予想外に、我々は、IRIに供され、次いで循環ヒトT細胞を有する動物に移植された我々の血管のうちのいくつかが血栓を発生したのを観察した(図6d)。抗C5mAbもまた、移植に関連する関連IRIの結果としての血栓性合併症を予防した。
【0196】
本試験は、ヒト動脈、同種抗体、およびPBMCを使用して、げっ歯類におけるモデル化が不十分な疾患であるCAVをモデル化している。Pober JS et al.Arterioscler Thromb Vasc Biol.2014;34:1609-1614。しかしながら、活性化される補体成分および凝固因子は、マウス起源である。
【0197】




【配列表フリーテキスト】
【0198】
配列番号1~6<223>人工配列の記載:合成ペプチド
配列番号7~16<223>人工配列の記載:合成ポリペプチド
配列番号17~19<223>人工配列の記載:合成ペプチド
配列番号20<223>人工配列の記載:合成ポリペプチド
配列番号21~26<223>人工配列の記載:合成ペプチド
配列番号27~28<223>人工配列の記載:合成ポリペプチド
配列番号29~34<223>人工配列の記載:合成ペプチド
配列番号35~36<223>人工配列の記載:合成ポリペプチド
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図8
図9
【配列表】
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