(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】工具選定方法及び装置、並びに、工具経路生成方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/00 20060101AFI20230207BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20230207BHJP
G05B 19/4097 20060101ALI20230207BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B23Q15/00 301E
B23Q15/00 301C
B23Q15/00 301K
G05B19/4093 F
G05B19/4097 C
G05B19/4155 V
(21)【出願番号】P 2019029786
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174942
【氏名又は名称】平方 伸治
(72)【発明者】
【氏名】中本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】井元 理愛
(72)【発明者】
【氏名】武井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 真二
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-294147(JP,A)
【文献】国際公開第1994/008751(WO,A1)
【文献】特開2017-109277(JP,A)
【文献】特開平07-185997(JP,A)
【文献】特開2001-047340(JP,A)
【文献】特開2018-041208(JP,A)
【文献】特開2018-094673(JP,A)
【文献】米国特許第07933679(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00-17/00
G05B 19/18-19/4155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工面を有する加工物を加工するために使用される工具を選定する工具選定方法において、
複数の既知の加工物の各々について、複数の加工面の形状に基づく1つ又は複数の特徴量を算出するステップであって、前記複数の既知の加工物の各々には、複数の工具を含む工具リストの中から、前記複数の加工面を加工するのに適するとして予め選定された1つの主要工具が割り当てられている、ステップと、
前記複数の既知の
加工物について、前記特徴量を入力とし前記主要工具を出力として機械学習を実行するステップと、
対象加工物に対して、
前記対象加工物の複数の加工面形状に基づく1つ又は複数の特徴量を算出するステップと、
前記対象加工物の前記特徴量を入力として用いて、前記機械学習の結果に基づいて前記工具リストの中から前記対象加工物に対して主要工具を選定するステップと、
を備え
、
前記複数の既知の加工物の特徴量及び前記対象加工物の特徴量は、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において前記工具リストのある工具によって加工可能な又は加工不可能な加工面の合計面積の比率によって表される面積比を少なくとも含み、前記面積比は、前記複数の工具の全て又はいくつかの各工具について算出され、算出された前記複数の既知の加工物の前記面積比が、各工具の別個の特徴量として前記機械学習に用いられることを特徴とする、工具選定方法。
【請求項2】
前記複数の工具は、互いに異なる直径を有する複数のボールエンドミルであり、
前記面積比は、前記複数の加工面の総面積に対する、前記複数の加工面においてあるボールエンドミルの半径以下の又は未満の曲率半径を有する凹面の合計面積の比率によって表される、請求項
1に記載の工具選定方法。
【請求項3】
前記対象加工物に対して、前記主要工具とは異なり且つ前記主要工具では加工できない前記対象加工物の中の最小曲率半径を有する部位を加工可能な二次工具を選定するステップを更に備える、請求項1に記載の工具選定方法。
【請求項4】
複数の加工面を有する加工物に対してNC加工における工具経路を生成するための工具経路生成方法において、
請求項
3に記載の工具選定方法によって選定された対象加工物の主要工具及び二次工具について、工具経路を生成するステップを備える、工具経路生成方法。
【請求項5】
複数の加工面を有する加工物を加工するために使用される工具を選定する工具選定装置であって、
プロセッサと、
複数の工具を含む工具リストを記憶する記憶装置と、
を備え、
前記プロセッサが、
複数の既知の加工物の各々について、複数の加工面の形状に基づく特徴量を算出することであって、前記複数の既知の加工物の各々には、前記工具リストの中から、前記複数の加工面を加工するのに適するとして予め選定された1つの主要工具が割り当てられている、ことと、
前記複数の既知の
加工物について、前記特徴量を入力とし前記主要工具を出力として機械学習を実行することと、
対象加工物に対して、
前記対象加工物の複数の加工面形状に基づく1つ又は複数の特徴量を算出することと、
前記対象加工物の前記特徴量を入力として用いて、前記機械学習の結果に基づいて前記工具リストの中から前記対象加工物に対して主要工具を選定することと、
を実行するように構成され
、
前記複数の既知の加工物の特徴量及び前記対象加工物の特徴量は、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において前記工具リストのある工具によって加工可能な又は加工不可能な加工面の合計面積の比率によって表される面積比を少なくとも含み、前記面積比は、前記複数の工具の全て又はいくつかの各工具について算出され、算出された前記複数の既知の加工物の前記面積比が、各工具の別個の特徴量として前記機械学習に用いられる、工具選定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、工具選定方法及び装置、並びに、工具経路生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の技術分野では、加工に使用される工具を選定するための様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1の加工関連情報生成装置は、ある工程の加工モデルのデータを解析して、相互に交差する2面について交差部のR寸法を抽出する。抽出されたR寸法のうち、最小のR寸法が決定され、決定されたR寸法に基づいて、その工程で使用可能な工具直径(最小のR寸法以下)が決定される。決定された工具直径を含む情報に基づいてデータベースが検索され、その工程で使用可能な工具が抽出される。
【0003】
また、例えば、特許文献2の加工情報作成装置は、L字部又は溝等を有するワークに対して、ある特定の工具を使用したときにL字部又は溝に発生する削り残し量を、CADデータを用いてシミュレーションから得て、さらに、当該削り残し量の数式モデルを作成する。得られた数式モデルの次数及び定数に近い次数及び定数を有する加工事例が、加工事例データベースから検索される。検索された加工事例の工具情報に近い工具が、工具データベースから検索される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-189510号公報
【文献】特許第4272206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、抽出されたR寸法のうち、最小のR寸法に基づいて工具が選定される。この場合、最小のR寸法に対応する小さな直径を有する工具で加工物を加工するため、加工時間が長くなるおそれがある。そのため、いくつかのユーザーにとっては、選定された工具が必ずしもユーザーの意向(例えば、短加工時間、低コスト等)に沿わない可能性がある。また、特許文献1の装置では、交差部毎に、抽出されたR寸法に基づいて工具を選定することも考えられる。この場合、工具本数が増加し、工具交換時間及び工具コストが増加する可能性がある。
【0006】
また、特許文献2の装置では、シミュレーションから得られた削り残し量に基づいて工具が選定される。しかしながら、削り残し量のみを考慮するだけでは、選定された工具が必ずしもユーザーの意向に沿わない可能性がある。また、加工事例データベースの検索に使用されるアルゴリズムが固定的であり、アルゴリズムを変更するには手間及びスキルが必要とされる可能性がある。
【0007】
本発明は、ユーザーの意図に沿った工具を選定することが可能な工具選定方法及び装置を提供することを目的とする。本発明はまた、そのように選定された工具の移動経路を生成するための工具経路生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、複数の加工面を有する加工物を加工するために使用される工具を選定する工具選定方法において、複数の既知の加工物の各々について、複数の加工面の形状に基づく1つ又は複数の特徴量を算出するステップであって、複数の既知の加工物の各々には、複数の工具を含む工具リストの中から、複数の加工面を加工するのに適するとして予め選定された1つの主要工具が割り当てられている、ステップと、複数の既知のワークについて、特徴量を入力とし主要工具を出力として機械学習を実行するステップと、対象加工物に対して、前記対象加工物の複数の加工面形状に基づく1つ又は複数の特徴量を算出するステップと、前記対象加工物の前記特徴量を入力として用いて、前記機械学習の結果に基づいて前記工具リストの中から前記対象加工物に対して主要工具を選定するステップと、を備え、前記複数の既知の加工物の特徴量及び前記対象加工物の特徴量は、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において前記工具リストのある工具によって加工可能な又は加工不可能な加工面の合計面積の比率によって表される面積比を少なくとも含み、前記面積比は、前記複数の工具の全て又はいくつかの各工具について算出され、算出された前記複数の既知の加工物の前記面積比が、各工具の別個の特徴量として前記機械学習に用いられる、工具選定方法である。
【0009】
この工具選定方法では、機械学習に用いられる複数の既知の加工物の各々について、主要工具が割り当てられている。主要工具は、各加工物が有する複数の加工面を加工するのに適しているとして予め選定される。「複数の加工面を加工するのに適している」とは、ユーザーによって、様々な観点から決定されることができる(例えば、加工時間、コスト及び精度のうちの少なくとも1つ)。したがって、本開示の一態様に係る工具選定方法では、ユーザーは、例えば自社の熟練者によって上記のような観点で主要工具が割り当てられた複数の既知の加工物について機械学習を実行することで、対象加工物に対して、ユーザーの意図に沿った主要工具を選定することができる。
【0010】
特徴量は、複数の加工面に関する面積及び面積比のうちの少なくとも1つを含んでもよい。このような特徴量は、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において工具リストのある工具によって加工可能な又は加工不可能な加工面の合計面積の比率によって表される面積比を少なくとも含んでもよく、面積比は、複数の工具の全て又はいくつかについて算出され、算出された面積比が、別個の特徴量として前記機械学習に用いられてもよい。主要工具を選定する場合、熟練者であれば、各工具について、加工物の中のどれだけの領域がその工具によって加工可能か又は加工不可能かを高く考慮すると考えられる。したがって、各工具の面積比を別個に入力として機械学習に用いることによって、高精度な機械学習を実行し得る。
【0011】
例えば、複数の工具は、互いに異なる直径を有する複数のボールエンドミルであってもよく、面積比は、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面においてあるボールエンドミルの半径以下の又は未満の曲率半径を有する凹面の合計面積の比率によって表されてもよい。
【0012】
工具選定方法は、対象加工物に対して、主要工具とは異なり且つ主要工具では加工できない対象加工物の中の最小曲率半径を有する部位を加工可能な二次工具を選定するステップを更に備えてもよい。この場合、ユーザーの意向に沿った主要工具で加工物を加工しつつ、主要工具では加工できない部位を二次工具で加工することができる。したがって、効率よく加工物を加工することができる。
【0013】
本開示の他の態様は、複数の加工面を有する加工物に対してNC加工における工具経路を生成するための工具経路生成方法において、上記の工具選定方法によって選定された対象加工物の主要工具及び二次工具について、工具経路を生成するステップを備える、工具経路生成方法である。この工具経路生成方法では、上記の工具選定方法と同様、効率よく加工物を加工することができる。
【0014】
本開示の更に他の態様は、複数の加工面を有する加工物を加工するために使用される工具を選定する工具選定装置であって、プロセッサと、複数の工具を含む工具リストを記憶する記憶装置と、を備え、プロセッサが、複数の既知の加工物の各々について、複数の加工面の形状に基づく特徴量を算出することであって、複数の既知の加工物の各々には、工具リストの中から、複数の加工面を加工するのに適するとして予め選定された1つの主要工具が割り当てられている、ことと、複数の既知のワークについて、特徴量を入力とし主要工具を出力として機械学習を実行することと、対象加工物に対して、前記対象加工物の複数の加工面形状に基づく1つ又は複数の特徴量を算出することと、前記対象加工物の前記特徴量を入力として用いて、前記機械学習の結果に基づいて前記工具リストの中から前記対象加工物に対して主要工具を選定することと、を実行するように構成され、前記複数の既知の加工物の特徴量及び前記対象加工物の特徴量は、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において前記工具リストのある工具によって加工可能な又は加工不可能な加工面の合計面積の比率によって表される面積比を少なくとも含み、前記面積比は、前記複数の工具の全て又はいくつかの各工具について算出され、算出された前記複数の既知の加工物の前記面積比が、各工具の別個の特徴量として前記機械学習に用いられる、工具選定装置である。
【0015】
この工具経路生成装置では、上記の工具選定方法と同様に、対象加工物に対して、ユーザーの意図に沿った主要工具を選定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一態様によれば、ユーザーの意図に沿った工具を選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】
図2の(a)は加工物の例を示す正面図である。
図2の(b)は加工物の例を示す平面図である。
【
図4】
図4の(a)は大径工具で加工可能な加工面を示している。
図4の(b)は小径工具で加工可能な加工面を示している。
【
図5】対象加工物に対する工具の選定及び工具経路の生成を示すフローチャートである。
【
図6】
図6の(a)は大径工具の工具経路が生成される面を示している。
図6の(b)は小径工具の工具経路が生成される面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工具選定方法及び装置、並びに、工具経路生成方法を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1は、本開示の方法及び装置を示す概略図である。本開示の方法は、CAD(Computer Aided Design)システム50、工具を選定するための装置10、及び、工作機械70を含むシステム100内で実施される。以下で詳述するように、本実施形態では、装置10は、選定された工具に基づいて工具経路も生成する。したがって、装置10は、「工具選定装置」とも「工具経路生成装置」とも称され得ることに留意されたい。システム100は、その他の構成要素を含んでもよい。
【0020】
CADシステム50では、加工物のCADデータが作成される。CADデータで表される加工物は、工具によって加工された後の目標形状を有する。CADシステム50では、装置10が機械学習を行う際に教師データとなる「既知の加工物」(以下では、教師データとも称され得る)のCADデータ51と、機械学習の結果に基づいて主要工具が選定される「対象加工物」のCADデータ52と、が作成される。なお、「既知の加工物(教師データ)」は、ある主要工具を使用して実際に過去に作製された加工物であってもよく、又は、電子データとしてのみ作成され、オペレータ(例えば、熟練者)Pによって主要工具が割り当てられた加工物であってもよい。
【0021】
CADデータは、加工物に含まれる頂点、辺、及び、面などの形状データを含んでいる。CADデータは、例えば、3次元直交座標系であるXYZ軸座標系で定義されることができる。CADデータは、その他の座標系で定義されてもよい。加工物は、キャラクタラインによって囲まれた(又は分割された)複数の加工面を含んでいる。CADデータは、複数の加工面の各々について、様々な幾何情報(例えば、加工面のタイプ(例えば、平面、凸面、及び、凹面 等)、面積、及び、曲率 等)を含んでいる。CADデータは、その他の幾何情報を含んでもよい。
【0022】
図2の(a)は加工物の例を示す正面図であり、
図2の(b)は加工物の例を示す平面図である。加工物40は、様々な物体であり得る。本実施形態では、加工物40は金型であり、加工対象は金型の意匠面である。具体的には、加工物40の面のうち、意匠面は面41,42,43及びコーナ44、45であり、面46,47は加工対象に含まれない。一般的に、金型の意匠面は、それぞれの面が滑らかに連結された複数の面によって表され得る。加工物40は、説明のために単純化された形状であるが、実際の金型の意匠面では、高品位で滑らかな面の加工が要求されるため、細部の形状まで省略されていないCADデータが準備される。特に、工具の刃先先端の最低サイズには物理的な限界があるため、加工物の内側向きの角部は、直角に折れ曲がった形状にされず、工具で実際に加工できるサイズのコーナRが設定され、曲面で滑らかに連結された形状として表される。また、内側向きの角部以外では、様々な曲率の曲面や曲率が変化する曲面を滑らかに連結した形状にすることで、美感を起こさせる意匠形状を表現する。そのため、金型の意匠面の複数の加工面は、例えば、平面、凸面、及び、凹面を含み得る。「凸面」とは、ある曲率半径を有する凸状の曲面を意味することができる。例えば、面42は、
図2の(b)に示されるように、平面視において凸状の曲面である。また、コーナ44は、
図2の(a)(b)に示されるように、正面視及び平面視の双方において凸状の曲面である。したがって、面42及びコーナ44は、「凸面」に分類される。「凹面」とは、ある曲率半径を有する凹状の曲面を意味することができる。例えば、コーナ45は、
図2の(a)に示されるように、正面視において凹状の曲面である。したがって、コーナ45は、「凹面」に分類される。なお、コーナ45は、
図2の(b)に示されるように、平面視においては凸状の曲面であるが、ある面がいずれかの視点において凹状の曲面である場合には、その面は「凹面」に分類され得ることに留意されたい。本実施形態では、鞍点を有する鞍型曲面に代表されるように正の曲率と負の曲率とが共存する曲面は、「凹面」に分類される。面41,43は、「平面」に分類される。
【0023】
図1に戻り、既知の加工物のCADデータ51には、オペレータPによって、工作機械70で使用可能な複数の工具を含む工具リストの中から、1つの主要工具PTが割り当てられる。各既知の加工物のCADデータ51及び主要工具PTに関する情報(例えば、工具番号及び/又は工具の直径等)は、互いに関連付けられ、教師データとして装置10の記憶装置1(詳しくは後述)に保存される。
【0024】
主要工具PTは、ある加工物に含まれる複数の加工面を加工するのに適するとして、工具リストの中から、オペレータPによってその加工物に割り当てられる。主要工具PTを割り当てる際に、オペレータ(特に、熟練者)Pは、ノウハウ、経験及び職場の方針等の様々な要因に基づいて、様々な観点(例えば、加工時間、コスト及び精度のうちの少なくとも1つ)を総合的に考慮して、加工物に対して1つの主要工具を選定することができると考えられ得る。例えば、小径工具は、様々な形状を加工可能であるが、加工に長時間を必要とする可能性がある。したがって、小径工具を主要工具として選定することは、加工時間の増加につながり得る。また、例えば、いくつかの小径工具は、頻繁には使用されず高価であり得る。したがって、このような小径工具を主要工具として選定することは、コスト高に繋がり得る。以上のような工具の様々な特徴を考慮して、ある実施形態では、オペレータは、加工時間に着目して、ある程度の精度を維持しつつ、加工時間の増加を避けることができる主要工具を選定するかもしれない。また、他の実施形態では、オペレータは、コストに着目して、ある程度の精度を維持しつつ、コスト高を避けることができる主要工具を選定するかもしれない。また、更に他の実施形態では、オペレータは、精度に着目して、高精度な加工を実現できる主要工具を選定するかもしれない。
【0025】
対象加工物のCADデータ52は、例えば、装置10のプロセッサ2(詳しくは後述)に入力される。対象加工物のCADデータ52は、記憶装置1に保存されてもよい。
【0026】
装置10は、記憶装置1と、プロセッサ2と、を備えており、これらの構成要素は、バス(不図示)等を介して互いに接続されている。装置10は、ROM(read only memory)、RAM(random access memory)、入力装置及び/又は出力装置(例えば、マウス、キーボード、液晶ディスプレイ、及び/又、タッチパネル等)など、他の構成要素を備えることができる。装置10は、例えば、コンピュータ、サーバー、又は、タブレット等であることができる。
【0027】
記憶装置1は、1つ又は複数のハードディスクドライブ等であり得る。記憶装置1は、CADシステム50から入力された教師データを記憶する。また、記憶装置1は、工作機械70で使用可能な複数の工具を含む工具リストを記憶する。工具リストの各工具の情報は、例えば、工具番号、工具の直径、工具材質、及び、工具の価格等、工具に関する様々な情報を含むことができる。また、記憶装置1は、プロセッサ2で用いられる様々なプログラムを記憶することができる。記憶装置1は、その他のデータを記憶してもよい。
【0028】
プロセッサ2は、例えば、1つ又は複数のCPU(Central Processing unit)等であり得る。プロセッサ2は、以下に示される処理を実行するように構成された処理部を有することができ、各処理部は、例えば記憶装置1に記憶されたプログラムによって実現されることができる。
【0029】
プロセッサ2は、例えば、特徴量算出部21、推論部22、二次工具選定部23、及び、工具経路生成部24を有することができる。プロセッサ2は、他の処理を実行するための他の処理部を更に有していてもよい。特徴量算出部21は、各教師データのCADデータ51及び対象加工物のCADデータ52について、特徴量を算出するように構成されている。推論部22は、複数の教師データについて機械学習を行うように構成されている。機械学習には、例えば、ニューラルネットワークを用いることができる。推論部22はまた、対象加工物について、機械学習の結果に基づいて、対象加工物に対して主要工具を選定するように構成されている。二次工具選定部23は、対象加工物について、二次工具を選定するように構成されている。工具経路生成部24は、選定された主要工具及び二次工具の各々について、工具経路を生成するように構成されている(以上の処理について、詳しくは後述)。工具経路の生成については、CAM(Computer Aided Manufacture)システムが用いられてもよい。
【0030】
装置10で生成された工具経路は、NCデータに変換されて、工作機械70に入力される。工作機械70は、NCデータに基づいてNC加工を行う様々な工作機械であることができる。上記のCADシステム50及び装置10は、別々の装置として構成されてもよいし、同じ装置に組み込まれてもよい(例えば、CADソフトウェア及び/又はCAMソフトウェアが、装置10に組み込まれてもよい)。
【0031】
次に、装置10で実行される動作について説明する。
【0032】
まず、装置10で実行される機械学習について説明する。
図3は、機械学習を示すフローチャートである。
【0033】
プロセッサ2は、記憶装置1から、複数の教師データの各々についてデータを取得する(ステップS100)。取得するデータには、例えば、各教師データの形状データ、複数の加工面の各々の幾何情報、及び、主要工具に関する情報(例えば、工具の直径)が含まれる。続いて、プロセッサ2は、取得したデータを特徴量算出部21に入力して、複数の教師データの各々について1つ又は複数の特徴量を算出する(ステップS102)。
【0034】
ステップS102において算出される特徴量は、複数の加工面の形状に基づく様々な幾何学的情報であることができる。例えば、特徴量は、複数の加工面に関する面積及び面積比のうちの少なくとも1つを含んでもよい。具体的には、特徴量は、
(1)複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において工具リストのある工具によって加工不可能な加工面の合計面積の比率によって表される第1の面積比P1i
を少なくとも含むことができる。添え字i(i=1,2,3・・・)は工具番号を示しており、第1の面積比P1iは、工具リストの中の互いに異なる直径を有する複数の工具の全て又はいくつかについて算出されることができる。別の観点からは、第1の面積比P1iは、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において工具リストのある工具の半径以下(又は未満)の曲率半径を有する凹面の合計面積の比率、とも称され得る。
【0035】
図4の(a)は大径工具で加工可能な加工面を示しており、
図4の(b)は小径工具で加工可能な加工面を示している。本実施形態では、工具は、例えば、ボールエンドミルT1,T2・・・Tiであることができる(
図4の(a)(b)では、ボールエンドミルT1,T2のみが示されている)。工具は、ボールエンドミル以外であってもよい。加工物40は、上記の
図2の加工物40と同じである。
図4の(a)では、大径のボールエンドミルT1で加工可能な面にハッチングが付されており、
図4の(b)では、小径のボールエンドミルT2で加工可能な面にハッチングが付されている。本実施形態では、あるボールエンドミルTの半径D/2以下の曲率半径を有する凹面が、ボールエンドミルTで「加工不可能」であると設定されている。
【0036】
具体的には、
図4の(a)では、意匠面(面41,42,43及びコーナ44、45)のうち、コーナ45の曲率半径がボールエンドミルT1の半径D1/2以下であるため、コーナ45がボールエンドミルT1で加工不可能である。このため、
加工物40の第1の面積比P1
1=(コーナ45の面積)/(面41,42,43及びコーナ44、45の面積の合計)
である。
【0037】
また、
図4の(b)では、コーナ45の曲率半径がボールエンドミルT2の半径D2/2よりも大きいため、全ての加工面がボールエンドミルT2で加工可能である。したがって、加工物40は、ボールエンドミルT2で加工不可能である面を含まない。したがって、加工物40の第1の面積比P1
2=0である。第1の面積比P1
iは、ボールエンドミルT1,T2・・・Tiの全て又はいくつかについて算出される。例えば、最小の半径D/2を有するボールエンドミル、又は、いくつかの小径のボールエンドミルについては、これらは主要工具には適さないかもしれないとして、第1の面積比P1
iが計算されなくてもよい。算出された第1の面積比P1
iは、別個の特徴量として機械学習に用いられる。
【0038】
上記の第1の面積比P11に関して、ボールエンドミルT1で「加工不可能」な凹面が少なければ(すなわち、ボールエンドミルT1で「加工可能」な凹面が多ければ)、加工時間及び/又はコストの観点から、ボールエンドミルT1又はさらに大径のボールエンドミルで加工物40の大部分を加工することが、効率的であり得る。この場合、ボールエンドミルT1又はさらに大径のボールエンドミルが、主要工具に適しているかもしれない。対照的に、ボールエンドミルT1で「加工不可能」な凹面が多ければ(すなわち、ボールエンドミルT1で「加工可能」な凹面が少なければ)、加工時間及び/又はコストの観点から、ボールエンドミルT1で加工物40の大部分を加工することは、非効率的であり得る。この場合、ボールエンドミルT1よりも小径のボールエンドミルが、主要工具に適しているかもしれない。熟練者は、工具を選定する場合、加工物40を観察することによって、ノウハウ及び経験に基づいて上記のような判断を下し得る。したがって、第1の面積比P11を機械学習の入力として用いることによって、熟練者のノウハウ及び経験を考慮することができると考えられる。
【0039】
なお、上記の実施形態では、あるボールエンドミルTの半径D/2「以下」の曲率半径を有する凹面が、ボールエンドミルTで加工不可能であると設定されているが、半径D/2「未満」の曲率半径を有する凹面が、加工不可能であると設定されてもよい。また、上記の実施形態では、第1の面積比P1iは、複数の加工面の総面積に対する、ある工具によって「加工不可能」な面積の比率によって表されているが、第1の面積比P1iは、複数の加工面の総面積に対する、ある工具によって「加工可能」な面積の比率によって表されてもよい。上記のように、加工可能な面積の比率によっても、同様な判断が可能である。
【0040】
ステップS102において算出される特徴量は、他の幾何学的情報を更に含んでもよい。例えば、特徴量は、
(2)複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において工具リストのある工具の半径以下(又は未満)の曲率半径を有する凸面の合計面積の比率によって表される第2の面積比P2i、
(3)複数の加工面の総面積P3
(4)凹面の曲率半径の最小値P4
(5)凸面の曲率半径の最小値P5
を更に含んでもよい。第2の面積比P2iは、工具リストの中の互いに異なる直径を有する複数の工具の全て又はいくつかについて算出される一方で、値P3,P4,P5は、ある加工物に対して1つのみ算出される。熟練者は、工具を選定する場合、上記のような特徴量P2i,P3,P4,P5も考慮し得ると考えられる。特徴量は、上記のP1i,P2i,P3,P4,P5以外の複数の加工面の形状に基づく他の幾何学的情報を含んでもよい。
【0041】
図3に戻り、プロセッサ2は、複数の教師データの算出された特徴量及び主要工具に関する情報(例えば、直径)を推論部22に入力して、特徴量を入力とし主要工具に関する情報を出力として機械学習を実行する(ステップS104)。以上により、一連の動作が終了する。なお、以上のステップは、所望の収束結果が得られるまで繰り返されてもよい。
【0042】
次に、装置10で実行される対象加工物に対する工具の選定について説明する。
図5は、対象加工物に対する工具の選定及び工具経路の生成を示すフローチャートである。
【0043】
プロセッサ2は、CADシステム50で作成された対象加工物のCADデータ52を取得する(ステップS200)。取得されるCADデータには、対象加工物の形状データ及び複数の加工面の各々の幾何情報が含まれる。
【0044】
続いて、プロセッサ2は、取得したCADデータ52を特徴量算出部21に入力して、対象加工物について特徴量を算出する(ステップS202)。ステップS202で算出される特徴量は、上記のステップS102で複数の教師データについて算出されたものと同じであることができる。続いて、プロセッサ2は、算出された対象加工物の特徴量を推論部22に入力して、上記の機械学習の結果に基づいて、工具リストの中から対象加工物に対して主要工具を選定する(ステップS204)。プロセッサ2は、選定された主要工具に関する情報(例えば、工具番号及び/又は工具の直径 等)を表示部に送信する。
【0045】
続いて、表示部は、選定された主要工具に関する情報を表示する(ステップS206)。これによって、オペレータPは、選定された主要工具が対象加工物の加工に適しているか否かを検討することができる。
【0046】
続いて、プロセッサ2は、オペレータPから、主要工具の変更が必要か否かの入力を受け付ける(ステップS208)。具体的には、オペレータPは、選定された主要工具が対象加工物の加工に適していないと判断した場合には、オペレータPは、入力装置を介して変更命令を入力することによって、主要工具を変更することができる。
【0047】
ステップS208において変更が必要ではないことを示す入力があった場合には、プロセッサ2は、選定された対象加工物の主要工具をCADデータ52と共に記憶装置1に保存する(ステップS210)。次回に行われる機械学習では、記憶装置1に新たに保存された対象加工物のCADデータ52及び主要工具が、教師データの1つとして用いられてもよい。
【0048】
ステップS208において変更が必要であることを示す入力があった場合には、プロセッサ2は、オペレータPから入力される変更命令に基づいて主要工具を変更し(ステップS212)、ステップS210に進み、変更された対象加工物の主要工具をCADデータ52と共に記憶装置1に保存する。
【0049】
ステップS210に続いて、プロセッサ2は、取得したCADデータ52を二次工具選定部23に入力して、対象加工物について工具リストの中から二次工具を選定する(ステップS214)。例えば、プロセッサ2は、主要工具では加工できない対象加工物の中の最小曲率半径を有する部位(例えば、凹面)を加工可能な工具を、二次工具として選定することができる。具体的には、プロセッサ2は、対象加工物の中の最小曲率半径よりも小さい半径を有する工具を二次工具として選定してもよい。工具リストが条件を満たす複数の工具を含む場合、プロセッサ2は、条件を満たす複数の工具の中から最大の半径を有する工具を二次工具として選定してもよい。工具リストが条件を満たす工具を含まない場合、プロセッサ2は、対象加工物の中の最小曲率半径を超えない範囲で、工具カタログ等に存在する最大の工具の半径をディスプレイに表示することで、オペレータPに通知し、対象加工物の中の最小曲率半径よりも小さい半径を有する工具の補充を促す。
【0050】
続いて、プロセッサ2は、選定された主要工具及び二次工具を工具経路生成部24に入力して、対象加工物の主要工具及び二次工具について、工具経路を生成する(ステップS216)。例えば、プロセッサ2は、CAMシステムを用いて工具経路を生成することができる。
【0051】
図6の(a)は大径工具の工具経路が生成される面を示しており、
図6の(b)は小径工具の工具経路が生成される面を示している。加工物40及びボールエンドミルT1,T2は、上記の
図4に示されたものと同じである。
図6の(a)(b)の例では、対象加工物40に対して、大径のボールエンドミルT1が主要工具として選定され、小径のボールエンドミルT2が二次工具として選定されている。
図6の(a)では、ボールエンドミルT1の工具経路が生成される面にハッチングが付されており、
図6の(b)では、ボールエンドミルT2の工具経路が生成される面にハッチングが付されている。
【0052】
図6の(a)を参照して、加工物40においては、上記のように、コーナ45はボールエンドミルT1では加工不可能である。このため、コーナ45以外の加工面(すなわち、面41,42,43及びコーナ44)に対して、主要工具として選定されたボールエンドミルT1の工具経路が生成される。例えば、面41,43に対しては、走査線経路(工具Tが、加工面を倣いながら領域を埋めるように加工面を加工するような経路)が生成されてもよい。また、例えば、面42に対しては、等高線経路(工具Tが、加工面を等高線動作で加工するような経路)が生成されてもよい。また、例えば、コーナ44に対しては、面沿い経路(工具Tが、加工面の境界線に沿った動作で加工面を加工するような経路)が生成されてもよい。
【0053】
図6の(b)を参照して、コーナ45に対しては、二次工具として選定されたボールエンドミルT2の工具経路が生成される。例えば、コーナ45に対しては、面沿い経路が生成されてもよい。
【0054】
図5に戻り、以上により一連の動作が終了する。生成された工具経路は、工作機械70のNC装置に送信されることができる。
【0055】
以上のような実施形態に係る工具選定方法では、機械学習に用いられる複数の既知の加工物の各々について、主要工具PTが割り当てられている。主要工具PTは、各加工物が有する複数の加工面を加工するのに適しているとして予め選定される。「複数の加工面を加工するのに適している」とは、ユーザーによって、様々な観点から決定される。したがって、この工具選定方法では、ユーザーは、例えば自社の熟練者によって主要工具PTが割り当てられた複数の既知の加工物について機械学習を実行することで、対象加工物に対して、ユーザーの意図に沿った主要工具PTを選定することができる。
【0056】
また、実施形態に係る工具選定方法では、特徴量は、複数の加工面に関する面積P3及び面積比P1i,P2iのうちの少なくとも1つを含んでいる。具体的には、特徴量は、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面において工具リストのある工具によって加工可能な又は加工不可能な面積の比率によって表される第1の面積比P1iを少なくとも含んでおり、第1の面積比P1iは、複数の工具T1,T2・・・Tiの全て又はいくつかについて算出され、算出された第1の面積比P1iは、別個の特徴量として機械学習に用いられている。主要工具を選定する場合、熟練者であれば、各工具Tiについて、加工物の中のどれだけの領域がその工具Tiによって加工可能か又は加工不可能かを高く考慮すると考えられる。したがって、各工具の第1の面積比P1iを別個に入力として機械学習に用いることによって、高精度な機械学習を実行し得る。
【0057】
一例では、複数の工具は、互いに異なる直径を有する複数のボールエンドミルT1,T2・・・Tiであり、第1の面積比P1iは、複数の加工面の総面積に対する、複数の加工面においてあるボールエンドミルTiの半径以下の曲率半径を有する凹面の面積の比率によって表されている。
【0058】
また、実施形態に係る工具選定方法は、対象加工物40に対して、主要工具T1とは異なり且つ主要工具T1では加工できない対象加工物40中の最小曲率半径を有する部位(コーナ)45を加工可能な二次工具T2を選定するステップを更に備えている。また、実施形態に係る工具経路生成方法は、上記の工具選定方法によって選定された対象加工物40の主要工具T1及び二次工具T2について、工具経路を生成するステップを備える。したがって、ユーザーの意向に沿った主要工具T1で加工物40を加工しつつ、主要工具T1では加工できない部位45を二次工具T2で加工することができる。したがって、効率よく加工物40を加工することができる。
【0059】
工具選定方法及び装置、並びに、工具経路生成方法の実施形態の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解するだろう。また、当業者であれば、上記の方法は、上記の順番で実施される必要はなく、矛盾が生じない限り、他の順番で実施可能であることを理解するだろう。
【0060】
例えば、上記の実施形態では、機械学習にニューラルネットワークが用いられている。しかしながら、他の実施形態では、機械学習に他の方法(例えば、決定木法等)が用いられてもよい。
【0061】
また、例えば、上記の実施形態では、二次工具を選定するステップS214は、主要工具を選定するステップS204よりも後に実行されている(
図5参照)。しかしながら、ステップS214は、ステップS204よりも前に実行されてもよい。
【実施例】
【0062】
上記の装置10と同様な装置を用いて主要工具を推定した。具体的には、本実施例では、機械学習にニューラルネットワークを用い、多層パーセプトロン(MLP)及びバックプロバゲーション(BP)を用いた。
図7に示されるネットワーク構造を使用した。ネットワークに用いた条件を以下の表1に示す。加工物の形状データを作成するのに使用されたCADソフトウェアは、Siemens社のNXであり、システム開発ではNXのAPI(Application Programming Interface)を使用してプログラム言語にC#を用いた。
【0063】
【0064】
教師データとして、
図8~
図11に示される4モデルを含む、過去の工程設計事例の34モデルを用いた。34モデルの各々には、熟練者によって、それぞれ直径D=4mm,6mm,8mm(半径D/2=2mm,3mm,4mm)を有する3つのボールエンドミルT1,T2,T3のうちの1つが割り当てられている(なお、工具リストは、それぞれ直径D=2mm,4mm,6mm,8mmを有する4つのボールエンドミルを含むことが想定されており、直径D=2mmを有するボールエンドミルは、二次工具として選定されたことを付記しておく)。
【0065】
機械学習の入力として算出された特徴量は、以下の9つである。(1)~(6)に関して、例えば、(1)では、曲率半径の2倍が4mm以下である凹面(すなわち、ボールエンドミルT1の半径D/2(2mm)以下の曲率半径を有する凹面)が「D≦4mm(D/2≦2mm)」として表されている。
(1)複数の加工面の総面積に対する、D≦4mm(D/2≦2mm)の凹面(ボールエンドミルT1の半径D/2(2mm)以下の曲率半径を有する凹面)の合計面積の比率P11
(2)複数の加工面の総面積に対する、D≦6mm(D/2≦3mm)の凹面(ボールエンドミルT2の半径D/2(3mm)以下の曲率半径を有する凹面)の合計面積の比率P12
(3)複数の加工面の総面積に対する、D≦8mm(D/2≦4mm)の凹面(ボールエンドミルT3の半径D/2(4mm)以下の曲率半径を有する凹面)の合計面積の比率P13
(4)複数の加工面の総面積に対する、D≦4mm(D/2≦2mm)の凸面(ボールエンドミルT1の半径D/2(2mm)以下の曲率半径を有する凸面)の合計面積の比率P21
(5)複数の加工面の総面積に対する、D≦6mm(D/2≦3mm)の凸面(ボールエンドミルT2の半径D/2(3mm)以下の曲率半径を有する凸面)の合計面積の比率P22
(6)複数の加工面の総面積に対する、D≦8mm(D/2≦4mm)の凸面(ボールエンドミルT3の半径D/2(4mm)以下の曲率半径を有する凸面)の合計面積の比率P23
(7)複数の加工面の総面積P3
(8)凹面の曲率半径の最小値P4
(9)凸面の曲率半径の最小値P5
【0066】
出力は、ボールエンドミルT1が選定される可能性、ボールエンドミルT2が選定される可能性、及び、ボールエンドミルT3が選定される可能性の3つであり、最も高い可能性を有する工具が、主要工具として選定された。
【0067】
上記のようなニューラルネットワークの性能を、Leave-One-Out法を用いて評価した。具体的には、上記の全34モデルのうち、1モデルが評価用モデルとして使用され、残りの33モデルについて機械学習を実行したニューラルネットワークの性能が評価された。これがモデルの数(34回)だけ繰り返された。評価結果を以下の表2に示す。
【0068】
【0069】
表2に示されるように、多くのモデルにおいて、ニューラルネットワークによる推論結果と過去の工程設計事例のデータとが一致した(8モデルにおいて推論結果及び過去の事例データの双方がD=4mm(T1)であり、16モデルにおいて推論結果及び過去の事例データの双方がD=6mm(T2)であり、9モデルにおいて推論結果及び過去の事例データの双方がD=8mm(T3)である)。1モデルにおいてのみ、ニューラルネットワークによる推論結果(D=6mm(T2))と過去の事例データ(D=8mm(T3))とが異なった。したがって、正解率はおよそ97.1%であった。以上の結果から、上記の装置は、熟練者のノウハウ及び経験を考慮した主要工具を選定可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0070】
1 記憶装置
2 プロセッサ
10 工具選定装置
40 加工物
41,42,43,44,45 加工面
D/2 工具の半径
P1i,P2i,P3,P4,P5 特徴量
PT 主要工具
T 工具