(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/12 20060101AFI20230207BHJP
B23B 25/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B23Q11/12 E
B23B25/00 Z
(21)【出願番号】P 2019096461
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】野々口 哲輝
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-052189(JP,A)
【文献】特開2001-334442(JP,A)
【文献】特開2009-081972(JP,A)
【文献】特開昭51-140013(JP,A)
【文献】特開2014-058025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00 - 11/14
B23B 25/00
B24B 47/00 - 55/00
F16N 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持したワークを回転させる主軸装置と、
加工工具を移動させる加工軸が2以上である各加工軸のそれぞれに対応した駆動装置と、
オイルタンクの潤滑油をポンプによって上流側の前記駆動装置から下流側の前記駆動装置へと順次送る潤滑油供給装置と、
前記各装置の駆動を制御する制御装置と、
を有
し、
前記潤滑油供給装置は、下流側の前記駆動装置に複数ある潤滑油の下流側供給箇所が、上流側の前記駆動装置に複数ある潤滑油の上流側供給箇所よりも数が多く、複数ある前記下流側供給箇所の一部には前記オイルタンクの潤滑油が直接供給される工作機械。
【請求項2】
前記駆動装置は、前記主軸装置の主軸と平行な水平方向にZ軸スライドを移動させるZ軸駆動装置と、前記Z軸駆動装置を搭載したX軸スライドを鉛直方向に移動させるX軸駆動装置であり、上流側とした前記Z軸駆動装置は、供給された潤滑油が排出される箇所にオイルパンが設けられ、下流側とした前記X軸駆動装置には、前記オイルパンによって回収された潤滑油が前記ポンプによって供給される
請求項1に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油の使用量を抑えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、ミクロン単位の加工を実行するため、工具台を加工軸方向へ移動させる駆動装置に高い精度が要求される。そして、その駆動装置には、スライド部材の安定した摺動が行われるように、摺動部には潤滑油が供給されるようになっている。例えばZ軸とX軸の加工軸を有する2軸旋盤では、各軸方向に工具台を移動させるためのZ軸スライドとX軸スライドがあり、各々スライドの摺動部に潤滑油を供給するための潤滑油供給装置が設けられている。ところで、下記特許文献1には、研削装置に関して同じような構成が開示されている。当該従来例は静圧兼冷却油であり、タンクに貯留されている静圧兼冷却油が静圧用ポンプによって第1及び第2のスライド部へと送られ、また、冷却用ポンプによってワークの加工部分や砥石スピンドルにも送られる。こうして供給された静圧兼冷却油は、ベッドを伝わって回収皿に回収され、そこからフィルタを通して濾過された後、ふたたびタンクに送られて繰り返し使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の従来例は、切削装置の冷却油に関する構成であるため、摺動部に供給される潤滑油とは厳密には異なる。つまり、摺動面へ潤滑油を供給するすべり案内の場合は、潤滑油が繰り返し使用されることなく使い捨てとなる。前述した2軸旋盤では、各軸の駆動装置へ供給された潤滑油は、スライド部材の摺動面から流れ出てベッドなどを伝い、クーラントやワークの切屑とともに貯留槽内に落ちる。貯留槽内のクーラントは、フィルタを通して濾過されて繰り返し使用されるが、そのクーラントに混ざった潤滑油は取り除かれて破棄されることとなる。そのため、これまでの工作機械は、ワークの加工にあたって潤滑油に対するコストが問題になっていた。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、潤滑油の使用量を抑えた工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る工作機械は、把持したワークを回転させる主軸装置と、加工工具を移動させる加工軸が2以上である各加工軸のそれぞれに対応した駆動装置と、オイルタンクの潤滑油をポンプによって上流側の前記駆動装置から下流側の前記駆動装置へと順次送る潤滑油供給装置と、前記各装置の駆動を制御する制御装置とを有し、前記潤滑油供給装置は、下流側の前記駆動装置に複数ある潤滑油の下流側供給箇所が、上流側の前記駆動装置に複数ある潤滑油の上流側供給箇所よりも数が多く、複数ある前記下流側供給箇所の一部には前記オイルタンクの潤滑油が直接供給される。
【発明の効果】
【0007】
前記構成によれば、2以上の加工軸を有する工作機械において、各加工軸のそれぞれに対応した駆動装置が上流側及び下流側として設定され、オイルタンクの潤滑油がポンプによって上流側の駆動装置から下流側の駆動装置へと順次送られるので、従来の工作機械に比べて潤滑油が有効に利用され、全体の使用量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】工作機械の一実施形態について、その内部構造を示した側面図である。
【
図3】潤滑油供給装置の構成をイメージした回路図である。
【
図4】Z軸駆動装置に取り付けられたオイルパンを示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る工作機械の一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本実施形態の工作機械について、その内部構造を示した側面図である。工作機械1は、車輪を備えた可動ベッド2の上に組み付けられ、ベース10の上面に敷設されたレール101に沿った前後方向の移動が可能になっている。移動可能な可動ベッド2は、主軸装置3が搭載され、ワークWを把持する主軸チャック11が回転可能な構造を有している。また、工作機械1は、複数の工具を備えた工具台12を旋回割出しするタレット装置4を有し、可動ベッド2上にはタレット装置4を加工軸方向に移動させる駆動装置が組み付けられている。
【0010】
そうした工作機械1は、ワークWに対して工具を機体前後方向であるZ軸方向に移動させるZ軸駆動装置5と、機体上下方向であるX軸方向に移動させるX軸駆動装置6とを有する2軸旋盤である。Z軸駆動装置5およびX軸駆動装置6は、摺動可能なZ軸スライド13又はX軸スライド14を有し、サーボモータの回転出力をボールネジ機構によって直進運動に変換する構造となっている。そして、工作機械1は、主軸装置3、タレット装置4、Z軸駆動装置5およびX軸駆動装置6などの各駆動部を制御するための制御装置7が搭載されている。
【0011】
本実施形態の工作機械1は、可動ベッド2の移動によって簡単に他の工作機械などとの交換が可能であり、加工機械ラインを構成する工作機械1などは、共通の可動ベッド2上に組み付けられたモジュール構造となっている。モジュール化された工作機械1は、機体の幅方向であるY軸方向の寸法を抑えたコンパクトな構造であり、ワークWの加工を行う加工室20が機体前部に設けられ、その後方に駆動装置が組み付けられている。また、工作機械1の場合には、ベース10内に貯留槽15が設けられ、加工に使用されたクーラントや加工によって発生した切屑などが貯留槽15内に溜められるようになっている。
【0012】
加工室20の後方側に位置する駆動装置は、Z軸とX軸との2方向を加工軸としてタレット装置4を移動させるZ軸駆動装置5およびX軸駆動装置6である。ここで、
図2は、そうした工作機械1の駆動装置部分を示した側面図であり、後述する潤滑油の供給箇所が分かり易いように全体が細線の一点鎖線で示されている。この駆動装置は、可動ベッド2上の主軸装置3の横にコラム16が立設し、そのコラム16に対してZ軸駆動装置5およびX軸駆動装置6が組み付けられている。
【0013】
X軸駆動装置6は、コラム16の鉛直なガイドレール17に対してX軸スライド14が摺動自在に組み付けられている。コラム16の上部にはX軸用サーボモータ21が固定され、その回転がタイミングベルト22を介してボールネジ機構のネジ軸に伝達されるようになっている。ボールネジ機構は、鉛直方向に配置されたネジ軸が軸受によってコラム16に回転支持され、X軸スライド14に固定されたナットを貫通して螺合している。従って、X軸駆動装置6では、X軸用サーボモータ21の出力によりネジ軸が回転し、その回転運動がナットの直線運動に変換され、X軸スライド14がX軸方向に昇降する。
【0014】
一方、Z軸駆動装置5は、Z軸ガイド25がX軸スライド14に固定され、そのZ軸ガイド25に対してZ軸スライド13が摺動自在に嵌め込まれている。そして、Z軸スライド13の一端部にタレット装置4が固定されている。Z軸ガイド25には支持フレーム26が固定され、そこにZ軸用サーボモータ27が取り付けられている。支持フレーム26には水平方向に配置されたネジ軸が軸受によって回転支持され、Z軸スライド13に固定されたナットを貫通して螺合している。従って、Z軸駆動装置5では、Z軸用サーボモータ27の回転がタイミングベルト28を介してネジ軸に伝達され、その回転運動がナットの直線運動に変換され、Z軸スライド13がZ軸方向に水平移動する。
【0015】
Z軸駆動装置5およびX軸駆動装置6は、Z軸スライド13やX軸スライド14の摺動部に潤滑油を供給するすべり案内が設けられ、工作機械1は、そのZ軸スライド13やX軸スライド14へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置が構成されている。特に、本実施形態の潤滑油供給装置は、従来に比べて潤滑油の節約が可能な構成となっている。具体的には、Z軸駆動装置5を上流側とし、X軸駆動装置6を下流側として設定し、潤滑油が上流から下流に向けて複数の装置を通って供給されるようになっている。
【0016】
図3は、潤滑油供給装置の構成をイメージした回路図である。この潤滑油供給装置8は、ベース10内に設置されたオイルタンク31に潤滑油が収納され、その潤滑油がパイプを通して各装置へと送られるようになっている。オイルタンク31には第1ポンプ32が接続され、フィルタ33を介して第1分配器34が接続されている。そして、その第1分配器34がZ軸駆動装置5およびX軸駆動装置6に接続されている。Z軸駆動装置5およびX軸駆動装置6は、潤滑油の供給箇所として、
図2に示す複数の供給ポート41,42が形成され、第1分配器34から延びる複数のパイプがそれぞれに接続されている。
【0017】
潤滑油は、Z軸スライド13やX軸スライド14の摺動部やボールネジ機構の軸受部など複数の個所に供給される。Z軸駆動装置5は、黒塗りにして示した第1供給ポート41が8箇所形成され、X軸駆動装置6には白抜きで示した第2供給ポート42が11箇所形成されている。第1分配器34は、Z軸駆動装置5の8箇所全ての第1供給ポート41と、X軸駆動装置6の6箇所の第2供給ポート42へ潤滑油が供給されるように、合計14本のパイプがそれぞれのポートに接続されている。
【0018】
Z軸駆動装置5は、オイルタンク31の潤滑油が直接供給されるが、X軸駆動装置6には、一部の第2供給ポート42にしか潤滑油が供給されない。X軸駆動装置6の残りの第2供給ポート42は、Z軸駆動装置5で使用された潤滑油が供給されるようになっているからである。そのため、Z軸駆動装置5は、潤滑油を回収するオイルパン35が設けられ、そのオイルパン35は、第2ポンプ36やフィルタ37を介して第2分配器38が接続されている。そして、X軸駆動装置6の残りの第2供給ポート42には、第2分配器38から延びた5本のパイプが接続されている。
【0019】
上流側のZ軸駆動装置5を通り、下流側のX軸駆動装置6へ供給される潤滑油の量は、最初にZ軸駆動装置5へ供給された量よりも少なくなってしまう。そこで、潤滑油供給装置8は、第2分配器38に接続される第2供給ポート42の数を第1供給ポート41の数より少なく設定し、それ以外の第2供給ポート42には第1分配器34が接続されるよう構成されている。
【0020】
ここで、
図4は、Z軸駆動装置5に取り付けられたオイルパン35(35A,35B)を示した斜視図である。オイルパン35A,35Bは、下流側のX軸駆動装置6へ供給する潤滑油をZ軸駆動装置5から回収するためのものである。Z軸駆動装置5では、Z軸スライド13の摺動部などに供給された潤滑油が、そこから流れて垂れ落ちる。オイルパン35は、そうした潤滑油の排出箇所に対応するようにして設けられている。具体的には、Z軸スライド13が摺動するZ軸ガイド25の両端部であって、一方のオイルパン35Aは、潤滑油が伝って流れる支持フレーム26の下側にも延びている。
【0021】
オイルパン35(35A,35B)は、極力コンパクトな構成になるように2分割構造となっている。また、オイルパン35は、飛び散るクーラントなどが潤滑油に混入しないように側壁を高くした比較的深底な形状であり、Z軸ガイド25や支持フレーム26の下に閉じられた空間を作るようにして取り付けられる。更に、オイルパン35は、潤滑油の回収率が高まるように、排出口351に向けて底面が傾斜している。
【0022】
上下動するオイルパン35A,35Bは、それぞれの排出口351にフレキシブルホース43が接続され、回収された潤滑油が合流してX軸駆動装置6へと供給されるようになっている。しかし、その供給量はZ軸駆動装置5に供給された量よりも減少してしまうので、前述したように、Z軸駆動装置5が第1分配器34に対して8箇所の第1供給ポート41が接続され、X軸駆動装置6では、第2分配器38に対してより少ない6箇所の第2供給ポート42が接続されている。
【0023】
続いて、工作機械1の作用効果について説明する。工作機械1は、不図示のワーク自動搬送機によって加工室20内にワークWが搬送され、主軸チャック11との間でワークWの受渡しが行われる。主軸装置3では、主軸チャック11で把持したワークWに回転が与えられ、タレット装置4では、旋回割出しによって工具が選定され、Z軸駆動装置5およびX軸駆動装置6によって工具がZ軸方向とX軸方向に移動する。そのため、回転するワークWに工具が当てられ、ミクロン単位での加工などが行われる。
【0024】
その際、潤滑油供給装置8では、Z軸駆動装置5やX軸駆動装置6に対する潤滑油の供給が行われ、加工における反力を受けながらも滑らかな動きを確保している。潤滑油の供給は、オイルタンク31から第1ポンプ32によって汲み上げられ、その潤滑油が第1分配器34から所定量ずつZ軸駆動装置5およびX軸駆動装置6へと送られる。Z軸駆動装置5は、Z軸スライド13の移動が繰り返されることにより、摺動部などからは潤滑油が流れ出て、オイルパン35A,35Bによって回収される。
【0025】
オイルパン35A,35Bでは、潤滑油が傾斜した底面を流れて排出口351からフレキシブルホース43へと入り込む。そうした潤滑油は、次に第2ポンプ36によって第2分配器38へと汲み上げられ、その第2分配器38からX軸駆動装置6へ所定量ずつ供給される。X軸駆動装置6では、11箇所ある第2供給ポート42に対して第1分配器34と第2分配器38とから潤滑油が供給される。そして、そのX軸駆動装置6では、X軸スライド14の摺動が繰り返えされることにより、摺動部などから潤滑油が流れ出て可動ベッド2などを伝い、貯留槽15内へと垂れて落ちる。
【0026】
よって、本実施形態によれば、Z軸駆動装置5を上流側とし、X軸駆動装置6を下流側とすることにより、一部の潤滑油が両方の装置に使用されるため、従来に比べて潤滑油が有効に利用され、全体の使用量を減らすことができる。また、下流側としたX軸駆動装置6は、その一部にオイルタンク31から潤滑油が直接送られ、Z軸駆動装置5の回収では足りない分が補われている。工作機械1は、オイルパン35A,35BによってZ軸駆動装置5で使用された潤滑油を効率よく回収することができる。そして、潤滑油供給装置8は、従来の工作機械に対してオイルパン35A,35Bの取付けなど比較的簡単な改良によって追加することができる。
【0027】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、2軸旋盤の工作機械1を例に挙げて説明したが、Y軸方向の加工が可能な3軸旋盤や、5軸の加工軸をもったマシニングセンタであってもよい。その場合、全ての駆動装置に対して上流と下流の関係にする必要はなく、一部の駆動装置について上流側と下流側とを設定した潤滑油供給装置を構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…工作機械 3…主軸装置 4…タレット装置 5…Z軸駆動装置 6…X軸駆動装置 7…制御装置 8…潤滑油供給装置 13…Z軸スライド 14…X軸スライド 15…貯留槽 21…X軸用サーボモータ 27…Z軸用サーボモータ 31…オイルタンク 32…第1ポンプ 34…第1分配器 35(35A,35B)…オイルパン 36…第2ポンプ 38…第2分配器 41…第1供給ポート 42…第2供給ポート